JP4069578B2 - 圧電体膜及びこれを備えた圧電体素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット式記録ヘッド等に用いられる圧電体膜および圧電体素子に係る。特に、多結晶体の圧電体膜において粒界及びこれにより生ずる空隙を減少させ、密度の向上した圧電体膜、およびこれを用いた圧電体素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット式記録ヘッドのようなアクチュエータとして用いられる圧電体素子は、電気機械変換機能を呈する圧電体膜を2つの電極で挟んだ素子であり、圧電体膜は結晶化した圧電性セラミックスにより構成されている。この圧電性セラミックスとしては、ペロブスカイト型結晶構造を有し、化学式ABO3で示すことのできる複合酸化物が知られている。例えばAには鉛(Pb),Bにジルコニウム(Zr)とチタン(Ti)の混合を適用したチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)は、非常に優れた圧電特性を示す。
【0003】
この圧電体素子を構成する圧電体膜は、よりよい圧電特性を得るためには結晶性の優れたものが好ましく、結晶粒の大きな圧電体膜を得るための工夫が種々なされている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、結晶粒の大きな圧電体膜を得ることはできても、かえってその粒界に空隙が生じ、膜の絶縁性や圧電特性は不十分であった。
【0005】
ところで、特開平11−26833号には、粒径の異なる強誘電体微粒子を同一膜内に成長させることにより、膜密度の高い強誘電体膜を提供することが記載されている。しかし、これによって成膜される強誘電体膜の結晶粒は球状であるため、電界方向を横切る向きに粒界が存在することとなり、十分な圧電特性が得られない。
【0006】
そこで、本発明は、圧電体素子中の圧電体膜において、粒径の大きな結晶粒を得ると共に、粒界に空隙が生じることを防止して膜の絶縁性および圧電特性を向上させた圧電体膜及びこれを用いた圧電体素子を提供することを目的とする。また、かかる圧電体膜及び圧電体素子の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明による圧電体膜は、多結晶体で構成される圧電体膜において、粒径分布のピークを少なくとも2つ有し、前記2つのピークのうち大粒径側の結晶粒の粒径が1000nm以上であることを特徴とする。
【0008】
前記2つのピークのうち小粒径側の結晶粒の粒径は10nm以上500nm以下であることが望ましい。
【0009】
また、多結晶体で構成され、粒径分布のピークを少なくとも2つ有し、前記2つのピークのうち少なくとも大粒径側の結晶粒は柱状結晶であること、多結晶体で構成され、膜厚方向の電気抵抗が1.0MΩ以上であることが望ましい。
【0010】
本発明による圧電体素子は、上記の圧電体膜と、この圧電体膜を挟んで配置される下部電極および上部電極とを備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明のインクジェット式記録ヘッドは、圧力室が形成された圧力室基板と、前記圧力室の一方の面に設けられた振動板と、前記振動板の前記圧力室に対応する位置に設けられ、当該圧力室に体積変化を及ぼすことが可能に構成された前記圧電体素子と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明の圧電体膜の製造方法は、基板上に圧電体前駆体膜を形成し、この圧電体前駆体膜を結晶化させる工程を複数回繰り返すことによる圧電体膜の製造方法であって、前記圧電体前駆体膜の形成時の前記工程1回あたりの膜厚は、結晶化後に基板全面を被覆しない厚さとすることを特徴とする。
【0013】
前記圧電体前駆体膜の形成時の前記工程1回あたりの膜厚は、当該1回の工程により得られる結晶化後の膜厚が100nm以下となるようにすることが望ましい。
【0014】
また、前記複数回の工程のうち2回目以降の工程における前記圧電体前駆体膜の形成時の前記工程1回あたりの膜厚は、当該1回の工程により得られる結晶化後の膜厚が20nm以下となるようにすることが望ましい。
【0015】
本発明の圧電体素子の製造方法は、基板上に下部電極を形成する工程と、前記下部電極上に前記圧電体膜を成膜する工程と、前記圧電体膜上に上部電極を形成する工程と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明のインクジェット式記録ヘッドの製造方法は、基板の一面に振動板を形成する工程と、前記振動板に前記圧電体素子を形成する工程と、前記基板をエッチングし圧力室を形成する工程と、を備えている。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0018】
(インクジェットプリンタの全体構成)
図1は、本実施形態の圧電体素子を有するインクジェット式記録ヘッドが使用されるプリンタの構造を説明する斜視図である。このプリンタには、本体2に、トレイ3、排出口4および操作ボタン9が設けられている。さらに本体2の内部には、インクジェット式記録ヘッド1、供給機構6、制御回路8が備えられている。
【0019】
インクジェット式記録ヘッド1は、本発明の製造方法で製造された圧電体素子を備えている。インクジェット式記録ヘッド1は、制御回路8から供給される吐出信号に対応して、ノズルからインクを吐出可能に構成されている。
【0020】
本体2は、プリンタの筐体であって、用紙5をトレイ3から供給可能な位置に供給機構6を配置し、用紙5に印字可能なようにインクジェット式記録ヘッド1を配置している。トレイ3は、印字前の用紙5を供給機構6に供給可能に構成され、排出口4は、印刷が終了した用紙5を排出する出口である。
【0021】
供給機構6は、モータ600、ローラ601・602、その他の図示しない機械構造を備えている。モータ600は、制御回路8から供給される駆動信号に対応して回転可能になっている。機械構造は、モータ600の回転力をローラ601・602に伝達可能に構成されている。ローラ601および602は、モータ600の回転力が伝達されると回転するようになっており、回転によりトレイ3に載置された用紙5を引き込み、ヘッド1によって印刷可能に供給するようになっている。
【0022】
制御回路8は、図示しないCPU、ROM、RAM、インターフェース回路などを備え、図示しないコネクタを介してコンピュータから供給される印字情報に対応させて、駆動信号を供給機構6に供給したり、吐出信号をインクジェット式記録ヘッド1に供給したりできるようになっている。また、制御回路8は操作パネル9からの操作信号に対応させて動作モードの設定、リセット処理などが行えるようになっている。
【0023】
(インクジェット式記録ヘッドの構成)
図2は、本実施形態の圧電体素子を備えたインクジェット式記録ヘッドの構造の説明図である。インクジェット式記録ヘッド1は、図に示すように、ノズル板10、圧力室基板20および振動板30を備えて構成されている。このヘッドは、オンデマンド形のピエゾジェット式ヘッドを構成している。
【0024】
圧力室基板20は、キャビティ(圧力室)21、側壁(隔壁)22、リザーバ23および供給口24を備えている。キャビティ21は、シリコン等の基板をエッチングすることにより形成されたインクなどを吐出するために貯蔵する空間となっている。側壁22はキャビティ21間を仕切るよう形成されている。リザーバ23は、インクを共通して各キャビティ21に充たすための流路となっている。供給口24は、リザーバ23から各キャビティ21にインクを導入可能に形成されている。なおキャビティ21などの形状はインクジェット方式によって種々に変形可能である。例えば平面的な形状のカイザー(Kyser)形であっても円筒形のゾルタン(Zoltan)形でもよい。またキャビティが1室形用に構成されていても2室形に構成されていてもよい。
【0025】
ノズル板10は、圧力室基板20に設けられたキャビティ21の各々に対応する位置にそのノズル穴11が配置されるよう、圧力室基板20の一方の面に貼り合わせられている。ノズル板10を貼り合わせた圧力室基板20は、さらに筐体25に納められて、インクジェット式記録ヘッド1を構成している。
【0026】
振動板30は圧力室基板20の他方の面に貼り合わせられている。振動板30には圧電体素子(図示しない)が設けられている。振動板30には、インクタンク口(図示せず)が設けられて、図示しないインクタンクに貯蔵されているインクを圧力室基板20内部に供給可能になっている。
【0027】
(層構造)
図3に、本実施形態の方法により製造されるインクジェット式記録ヘッドおよび圧電体素子のさらに具体的な構造を説明する断面図を示す。この断面図は、一つの圧電体素子の断面を拡大したものである。図に示すように、振動板30は、絶縁膜31および下部電極32を積層して構成され、圧電体素子40は圧電体薄膜層41および上部電極42を積層して構成されている。特にこのインクジェット式記録ヘッド1は、圧電体素子40、キャビティ21およびノズル穴11が一定のピッチで連設されて構成されている。このノズル間のピッチは、印刷精度に応じて適時設計変更が可能である。例えば400dpi(dot per inch)になるように配置される。
【0028】
絶縁膜31は、導電性でない材料、例えばシリコン基板を熱酸化等して形成された二酸化珪素(SiO2)により構成され、圧電体層の変形により変形し、キャビティ21の内部の圧力を瞬間的に高めることが可能に構成されている。
【0029】
絶縁膜31上には下部電極32を形成するが、絶縁膜31と下部電極32との間に、20nm程度のチタン又は酸化チタンの膜(密着層)を形成しても良い。
【0030】
下部電極32は、圧電体層に電圧を印加するための一方の電極であり、導電性を有する材料、例えば、白金(Pt)などにより構成されている。なお、下部電極32はこれに限らず、白金と同じFCC構造を有する金属であるイリジウム(Ir)で構成しても良い。下部電極32は、圧力室基板20上に形成される複数の圧電体素子に共通な電極として機能するように絶縁膜31と同じ領域に形成される。ただし、圧電体薄膜層41と同様の大きさに、すなわち上部電極と同じ形状に形成することも可能である。
【0031】
上部電極42は、圧電体層に電圧を印加するための他方の電極となり、導電性を有する材料、例えば膜厚0.1μmの白金(Pt)で構成されている。
【0032】
圧電体薄膜層41は、本発明の製造方法で製造された例えばペロブスカイト構造を持つ圧電性セラミックスの結晶であり、振動板30上に所定の形状で形成されて構成されている。
【0033】
圧電体薄膜層41の組成は、例えばジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(Zr0 . 56、Ti0 . 44)O3:PZT)等の圧電性セラミックスを用いる。その他、チタン酸鉛ランタン((Pb,La)TiO3)、ジルコニウム酸鉛ランタン((Pb,La)ZrO3)またはマグネシウムニオブ酸ジルコニウム酸チタン酸鉛(Pb(Mg、Nb)(Zr、Ti)O3:PMN−PZT)、ジルコニウム酸チタン酸バリウム(Ba(Zr、Ti)O3:BZT)などでもよい。
【0034】
この圧電体薄膜層41は、多結晶体で構成され、粒径分布は少なくとも2つのピークを有する。これら2つのピークのうち大粒径側の結晶粒の粒径は1000nm以上の良好な結晶性を有しているので、良好な圧電特性を示すことができる。また、粒径分布が小粒径側にもピークを有することにより、粒界に間隙が形成されることを防止することができる。この小粒径側のピークは、10nm以上500nm以下であることが望ましい。さらには150nm以上がより好ましく、200nm以下がより好ましい。
【0035】
この実施形態では粒界の間隙が著しく軽減されているので、絶縁性に優れ、電気抵抗は1.0MΩ以上の値を示すことができる。
【0036】
また、上記2つのピークのうち少なくとも大粒径側の結晶粒は、柱状結晶である。これにより、膜厚方向に粒界がないので圧電特性が良好になる。また、上記2つのピークのうち小粒径側の結晶粒も、柱状結晶であることが望ましい。
【0037】
(印刷動作)
上記インクジェット式記録ヘッド1の構成において、印刷動作を説明する。制御回路8から駆動信号が出力されると、供給機構6が動作し用紙5がヘッド1によって印刷可能な位置まで搬送される。制御回路8から吐出信号が供給されず圧電体素子40の下部電極32と上部電極42との間に電圧が印加されていない場合、圧電体薄膜層41には変形を生じない。吐出信号が供給されていない圧電体素子40が設けられているキャビティ21には、圧力変化が生じず、そのノズル穴11からインク滴は吐出されない。
【0038】
一方、制御回路8から吐出信号が供給され圧電体素子40の下部電極32と上部電極42との間に一定電圧が印加された場合、圧電体薄膜層41に変形を生じる。吐出信号が供給された圧電体素子40が設けられているキャビティ21ではその振動板30が大きくたわむ。このためキャビティ21内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル穴11からインク滴が吐出される。ヘッド中で印刷させたい位置の圧電体素子に吐出信号を個別に供給することで、任意の文字や図形を印刷させることができる。
【0039】
(製造方法)
次に、この実施形態による圧電体素子の製造方法を、インクジェット式記録ヘッドの製造方法と併せて説明する。図4及び図5は、本実施形態による圧電体素子及びインクジェット式記録ヘッドの製造工程断面図である。
【0040】
絶縁膜形成工程(S1)
絶縁膜形成工程は、シリコン基板20に絶縁膜31を形成する工程である。シリコン基板20の厚みは、側壁の高さが高くなりすぎないように、例えば200μm程度のものを使用する。絶縁膜31は例えば1μm程度の厚みに形成する。絶縁膜の製造には公知の熱酸化法等を用い、二酸化珪素の膜を形成する。なお、絶縁膜31の上に、好ましくは厚さ5nm〜40nm、更に好ましくは20nm程度のチタン膜又は酸化チタン膜(密着層:図示せず)を更に形成しても良い。この密着層は、絶縁膜31と下部電極32との密着性を向上させる。
【0041】
下部電極形成工程(S2)
この下部電極形成工程は、絶縁膜31又は密着層の上に下部電極32を形成する工程である。下部電極32は、例えば白金層を200nmの厚みで積層する。これらの層の製造は公知の電子ビーム蒸着法、スパッタ法等を用いる。
【0042】
更に、白金膜上に、チタン(Ti)の種層を好ましくは3nm〜25nm、更に好ましくは5nmの厚みで形成する。このチタン種層の形成には、例えば公知の直流スパッタ法等を用いる。この種層は一様の厚みで形成するが、場合によって島状となっても構わない。
【0043】
圧電体前駆体膜第1層の形成(S3)
次に、下部電極32上に圧電体前駆体膜の第1層411’を成膜する。圧電体前駆体膜は、後述の処理で結晶化されて圧電体薄膜41となる以前の、非晶質膜として構成される。本実施例ではPZT前駆体膜をゾル・ゲル法で成膜する。なお、PZTの成膜方法はゾル・ゲル法に限定されるわけではなく、MOD(Metal-Organic Decomposition)法等の溶液塗布法であれば良い。
【0044】
ゾル・ゲル法とは、金属アルコキシド等の金属有機化合物を溶液系で加水分解、重縮合させるものである。具体的には、まず、基板上に金属有機化合物を含む溶液(ゾル)を塗布し、乾燥させる(S3)。用いられる金属有機化合物としては、無機酸化物を構成する金属のメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等のアルコキシドやアセテート化合物等が挙げられる。硝酸塩、しゅう酸塩、過塩素酸塩等の無機塩でも良い。
【0045】
本実施形態においては、PZT膜の出発原料として、Pb(CH3COO)2・3H2O、Zr(t−OCH4H9)4、Ti(i−OC3H7)4の混合溶液(ゾル)を用意する。
【0046】
この混合溶液を、結晶化後に基板全面を被覆しない程度の厚さに下部電極上に塗布する。すなわち、結晶化後に塗布面である下部電極の上面の一部が露出する程度の厚さに塗布する。結晶化後に基板全面を被覆しない厚さは、具体的には、結晶化後の膜厚が100nm以下になるようにする。結晶化後の膜厚は、ゾルの濃度と塗布膜厚によってほぼ決まる。ここではゾルの濃度を0.3M(モル/リットル)とし、塗布膜厚を300nmとする。塗布した段階では、PZTを構成する各金属原子は有機金属錯体として分散している。
【0047】
塗布後、一定温度で一定時間乾燥させ、ゾルの溶媒を蒸発させる。例えば、乾燥温度は例えば150℃以上200℃以下に設定する。好ましくは、180℃で乾燥させる。乾燥時間は例えば5分以上15分以下にする。好ましくは10分程度乾燥させる。
【0048】
乾燥後、さらに大気雰囲気下において一定の脱脂温度で一定時間脱脂する。脱脂温度は、300℃以上500℃以下の範囲が好ましい。この範囲より高い温度では結晶化が始まってしまい、この範囲より低い温度では、十分な脱脂が行えないからである。好ましくは360℃〜400℃程度に設定する。脱脂時間は、例えば5分以上90分以下にする。この範囲より長い時間では結晶化が始まってしまい、この範囲より短い時間では十分に脱脂されないからである。好ましくは10分程度脱脂させる。脱脂により金属に配位している有機物が金属から解離し酸化燃焼反応を生じ、大気中に飛散する。以上の塗布・乾燥・脱脂の工程により、圧電体前駆体膜の第1層411’が形成される。
【0049】
結晶化工程(S4)
上記の工程によって得られた圧電体前駆体膜の第1層411’を加熱処理することによって結晶化させ、圧電体薄膜の第1層411を形成する。焼結温度は材料により異なるが、本実施形態では650℃で5分から30分間加熱を行う。その際の昇温レートは、毎分1000℃以下の比較的ゆっくりとしたペースとする。加熱装置としては、拡散炉等を使用することができる。
【0050】
この結晶化により、圧電体薄膜の第1層411が形成される。圧電体薄膜の第1層411は、基板全面を被覆しておらず、結晶粒の間に空隙が生じるが、各結晶粒の粒径は0.5μm程度のかなり大きいものが得られる。
【0051】
圧電体薄膜の積層(S5〜S7)
次に、1回の塗布、乾燥、脱脂、結晶化で得られる膜厚を20nm以下として、上記の塗布、乾燥、脱脂、結晶化という工程を、例えば5回繰り返す。すなわち、圧電体前駆体膜の第2層412’を成膜し(S5)、上記と同様に結晶化させる(S6)。これを5回繰り返した場合、圧電体膜41全体の膜厚は200nmとなる。
【0052】
このようにして形成される圧電体膜41は、上記の第1層の上に結晶成長するために大粒径でかつ柱状の結晶粒を備える。また、結晶成長は第1層411から膜厚方向のみならず膜面方向にも行なわれるので、粒径は1000nm以上に成長する。第1層411の形成時に形成された結晶粒間の空隙は、第2層412以降の成膜によって、比較的結晶粒の小さい柱状結晶によって埋められる(S7)。その粒径は10nmから500nmの間にあり、粒界に空隙が生じないようになっている。
【0053】
上部電極形成工程(図5:S8)
以上により形成された圧電体薄膜41上に上部電極42を形成する。具体的には、上部電極42として白金(Pt)を100nmの膜厚にDCスパッタ法で成膜する。
【0054】
圧電体素子の形成(S9)
次に、上部電極42上にレジストをスピンコートした後、インク室が形成されるべき位置に合わせて露光・現像してパターニングする。残ったレジストをマスクとして上部電極42、圧電体薄膜41をイオンミリング等でエッチングする。以上の工程により、圧電体素子の一例である圧電アクチュエータが形成される。
【0055】
インクジェット式記録ヘッドの形成(S10、S11)
更に、インク室基板20にインク室21を形成し、ノズル板10を形成する。具体的には、インク室基板20に、インク室が形成されるべき位置に合わせてエッチングマスクを施し、例えば平行平板型反応性イオンエッチング等の活性気体を用いたドライエッチングにより、予め定められた深さまでインク室基板20をエッチングし、インク室21を形成する。エッチングされずに残った部分は側壁22となる。
【0056】
最後に、樹脂等を用いてノズル板10をインク室基板20に接合する。ノズル板10をインク室基板20に接合する際には、ノズル11がインク室21の各々の空間に対応して配置されるよう位置合せする。以上の工程により、インクジェット式記録ヘッドが形成される。
【0057】
(実施例)
上記製造方法の実施例として、ジルコン酸チタン酸鉛(Pbx(ZryTi1 −y)O3)からなる圧電体薄膜を製造した。
【0058】
図6は、上記実施形態による製造方法において圧電体膜の第1層411を成膜したときの表面SEM写真およびその模写図である。図に示されるように、圧電体膜第1層411は基板全面を被覆しておらず、下部電極32が表面に露出している。圧電体膜第1層411の結晶粒の粒径は、約0.5μmとなっている。
【0059】
図7は、上記実施形態による製造方法によって製造された圧電体膜41の表面SEM写真およびその模写図である。図に示されるように、圧電体膜41の粒径分布は1000nmから2000nmの範囲にある大粒径群と、150nmから500nmの範囲にある小粒径群からなっている。しかも、粒界には空隙がみられない。
【0060】
この実施例による圧電体膜の膜厚方向の絶縁性を測定したところ、1.0MΩ以上の高い絶縁性を有することがわかった。また、粒径の大きな柱状結晶が得られたため、圧電特性に優れ、例えば圧電体素子として用いた場合に低電圧でも駆動できる。
【0061】
更に、圧電体膜の第1層の成膜工程において、結晶化後に基板の全面が被覆されないようにしたので、結晶化段階における内部応力の発生を少なくすることができる。
【0062】
(比較例)
図8は、本発明に対する比較例による方法で成膜されたPZT膜の平面SEM写真及びその模写図である。このPZT膜の粒径は60nmから230nmの間にあり、比較的小さい。図に示されるように、このPZT膜の結晶粒の粒界には、明らかな空隙は見られない。
【0063】
図9は、本発明に対する他の比較例による方法で成膜されたPZT膜の平面SEM写真及びその模写図である。このPZT膜の粒径は1200nmから4000nmの間にあり、かなり大きな結晶粒となっている。図に示されるように、このPZT膜の結晶粒の粒界には、黒く太い線のような空隙が形成されているのがわかる。一般に大粒径の結晶粒からなる圧電体膜の方が結晶性が優れているため、良好な圧電特性が期待できるが、粒界に空隙が存在すると、膜の絶縁性や圧電特性が不十分となる。
【0064】
(その他の変形例)
本発明で製造した圧電体素子は上記インクジェット式記録ヘッドの圧力発生源のみならず、圧電ファン、超音波モータ、超音波振動子のような圧電体素子装置及びこの様な装置の製造に適応することができる。
【0065】
【発明の効果】
本発明によれば、粒径の大きな結晶粒を得ると共に、粒界に空隙が生じることを防止して膜の絶縁性および圧電特性を向上させた圧電体膜及びこれを用いた圧電体素子を提供することができる。
【0066】
また、本発明によれば、上記のような圧電体膜及び圧電体素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態の圧電体素子を有するインクジェット式記録ヘッドが使用されるプリンタの構造を説明する斜視図である。
【図2】本実施形態の圧電体素子を有するインクジェット式記録ヘッドの構造の説明図である。
【図3】本発明のインクジェット式記録ヘッドおよび圧電体素子の具体的な構造を説明する断面図である。
【図4】本実施形態による圧電体素子の製造工程断面図である。
【図5】本実施形態による圧電体素子及びインクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明する製造工程断面図である。
【図6】上記実施形態による製造方法において圧電体膜の第1層411を成膜したときの表面SEM写真およびその模写図である。
【図7】上記実施形態による製造方法によって製造された圧電体膜41の表面SEM写真およびその模写図である。
【図8】本発明に対する比較例による方法で成膜されたPZT膜の平面SEM写真及びその模写図である。
【図9】本発明に対する他の比較例による方法で成膜されたPZT膜の平面SEM写真及びその模写図である。
【符号の説明】
10…ノズル板、 20…圧力室基板、 30…振動板、 31…絶縁膜、 32…下部電極、 40…圧電体素子、 41…圧電体薄膜層、 42…上部電極、 21…キャビティ
Claims (4)
- 多結晶体で構成される圧電体膜において、粒径分布のピークを2つ有し、前記2つのピークのうち大粒径側の結晶粒及び小粒径側の結晶粒は柱状結晶であると共に、大粒径側の結晶粒の粒径が1000nm以上であり、小粒径側の結晶粒の粒径が10nm以上500nm以下であることを特徴とする圧電体膜。
- 請求項1において、
多結晶体で構成される圧電体膜において、膜厚方向の電気抵抗が1.0MΩ以上であることを特徴とする圧電体膜。 - 請求項1又は請求項2に記載の圧電体膜と、この圧電体膜を挟んで配置される下部電極および上部電極とを備えたことを特徴とする圧電体素子。
- 請求項3に記載の圧電体素子を備えたインクジェット式記録ヘッドにおいて、圧力室が形成された圧力室基板と、前記圧力室の一方の面に設けられた振動板と、前記振動板の前記圧力室に対応する位置に設けられ、当該圧力室に体積変化を及ぼすことが可能に構成された前記圧電体素子と、を備えたことを特徴とするインクジェット式記録ヘッド。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2000273454A JP4069578B2 (ja) | 2000-09-08 | 2000-09-08 | 圧電体膜及びこれを備えた圧電体素子 |
Applications Claiming Priority (1)
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