JP4885352B2 - 研磨材スラリー及び研磨微粉 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、光学レンズ用、光ディスク用、磁気ディスク用、プラズマディスプレー用、液晶用又はLSIフォトマスク用等のガラス基板を始めとする光学、エレクトロニクス関連基板の精密研磨に用いる研磨材に関するものであり、特に、研磨レート(研磨速度)等の研磨特性に優れており、かつ、スクラッチ等の表面欠陥をほとんど生じさせずに研磨することができる研磨材スラリー及び研磨微粉に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、磁気ディスク用ガラス基板、薄膜トランジスタ(TFT)型LCDやねじれネマチック(TN)型LCDなどの液晶用ガラス基板、液晶テレビ用カラーフィルター、LSIフォトマスク用ガラス基板等のエレクトロニクス関連基板分野において、研磨技術は益々重要な地位を占めつつある。
【0003】
特に磁気ディスク用基板分野においては、軽量化に伴う薄型化や高速回転時のディスクのうねりに耐えうる高い剛性等の機械的特性が要求されるとともに、高記録密度化への要求が非常に高まっている。高記録密度化を達成する目的で磁気ヘッドの磁気ディスク基板に対する浮上高さは非常に小さくなりつつあり、それを達成するために、磁気ディスク基板は鏡面のような平坦性や小さい表面粗さが要求され、かつ表面の微小スクラッチ、微小ピットなどの欠陥が極力無いことが要求される。そのため、高精度に表面研磨することが必要とされる。薄型化、高い機械的特性あるいは高い記録密度を満足させるために、ガラスの化学組成や製法についても種々の改良がなされている。例えば、ガラス基板としては従来から用いられている化学強化ガラス以外にリチウムシリケートを主成分とする結晶化ガラス基板やクオーツ結晶が大半を占める結晶化ガラス基板も開発されてきているが、これらのガラス基板は非常に加工性が悪く、従来の研磨材による研磨では加工速度が遅く、生産性が悪化する。
【0004】
ガラス基板の表面研磨に用いられる研磨材としては、酸化鉄や酸化ジルコニウムあるいは二酸化珪素に比べて研磨速度が数倍優れているとの理由から、希土類酸化物、特に酸化セリウムを主成分とする研磨材が用いられており、一般的には砥粒を水等の液体に分散させて使用する。研磨材を用いて表面研磨を行う際には、前述の高精度な表面研磨性能と共に高い研磨速度を両立させることが要求されている。
【0005】
研磨材として酸化セリウムを用いた場合に、研磨速度を速くするための方策が種々開示されており、例えば特公昭38−3643号公報においては、酸化セリウム等にコロイド状シリカやアルミナ等を添加する研磨方法が示されており、特開平3−146585号公報においては、酸化セリウムを主成分とする研磨材に塩化マグネシウムを含有させた研磨材が開示されている。しかし、このような異粒子ゾルを添加すると表面スクラッチあるいはピットの増加につながり、高い表面精度を達成することができない。
【0006】
また、高い表面精度を達成するために、例えば特開平8−3541号公報においては、2以上のカルボキシル基を有する有機酸を含有したアルカリ性酸化第二セリウムゾルからなる研磨材が示されており、また、特開平8−41443号公報においては、平均粒径が0.1〜10μmの研磨材を2〜30質量部、アルキル硫酸塩及び/又はポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステルを1〜20質量部含む研磨組成物を開示している。こうした方法により、ある程度の高精度の達成と研磨力の両立は可能であるが、研磨粒子とは別に有機物を相当量添加しなくてはならないので、コストの増加につながるだけでなく安定した品質の達成が困難であるという問題点があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題点を解決すべくなされたものであり、本発明の目的は、エレクトロニクス関連の基板等の精密研磨において、表面平坦性が高く、表面粗さが小さく、表面の微小スクラッチや微小ピット等をほとんど生じさせないような精度の高い表面研磨を達成しつつ、かつ、速い研磨速度を達成することができる研磨材スラリー及び研磨微粉を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、以下の発明からなる。
(1)体積換算の95%累積平均径(D95)と体積換算の50%累積平均径(D50)の比(D95/D50)の値が、1.2から3.0の範囲にあることを特徴とする研磨材スラリー。
【0009】
(2)体積換算の95%累積平均径(D95)と体積換算の50%累積平均径(D50)の比D95/D50の値が、1.2から3.0の範囲にあり、かつスラリーのpHが10より大きいことを特徴とする研磨材スラリー。
【0010】
(3)研磨材の主成分が、酸化セリウム、酸化珪素、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化クロム、酸化マンガン、炭化珪素、ダイヤモンドからなる群のうち少なくとも一つであることを特徴とする上記(1)または(2)の研磨材スラリー。
【0011】
(4)研磨材の主成分が、酸化セリウム、酸化珪素、酸化鉄、酸化アルミニウムおよび酸化チタンからなる群のうち少なくとも一つであることを特徴とする上記(1)または(2)の研磨材スラリー。
【0012】
(5)研磨材の主成分が、炭酸希土塩を出発原料として製造された酸化セリウムであることを特徴とする上記(1)または(2)の研磨材スラリー。
【0013】
(6)研磨材の主成分が、研磨材中、50質量%以上含有することを特徴とする上記(1)〜(5)の研磨材スラリー。
【0014】
(7)スラリー濃度が、1〜50質量%であることを特徴とする上記(1)〜(6)の研磨材スラリー。
【0015】
(8)体積換算の50%累積平均径(D50)が、0.01から10μmの範囲にあることを特徴とする上記(1)〜(7)の研磨材スラリー。
【0016】
(9)20質量%における研磨材スラリーの20℃における電気伝導度が、3mS/cm以上であることを特徴とする上記(1)〜(8)の研磨材スラリー。
【0017】
(10)研磨材スラリー中に界面活性剤を含むことを特徴とする上記(1)〜(9)の研磨材スラリー。
【0018】
(11)界面活性剤が、アニオン系界面活性剤およびノニオン系界面活性剤からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする上記(10)の研磨材スラリー。
【0019】
(12)アニオン系界面活性剤が、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、燐酸エステル塩の低分子の化合物および高分子型化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする上記(11)の研磨材スラリー。
【0020】
(13)ノニオン系界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする上記(11)の研磨材スラリー。
【0021】
(14)研磨材の焼成粉の比表面積が1〜50m2/gの範囲であることを特徴とする上記(1)〜(13)の研磨材スラリー。
【0022】
(15)溶媒が水、炭素数1〜10の1価アルコール類、グリコール類、炭素数1〜10の多価アルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランおよびジオキサンからなる群から選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする上記(1)〜(14)の研磨材スラリー。
【0023】
(16)さらに、リン酸塩、セルロースエーテル類および水溶性高分子からなる群のうち少なくとも1つを添加することを特徴とする上記(1)〜(15)の研磨材スラリー。
【0024】
(17)上記(1)から(16)のいずれかに記載の研磨材スラリーを乾燥させて形成することを特徴とする研磨微粉。
【0025】
(18)研磨材スラリーを乾燥するにあたり、媒体流動乾燥機または噴霧乾燥機を用いることを特徴とする上記(17)の研磨微粉。
【0026】
(19)上記(1)から(16)のいずれかに記載の研磨材スラリーを媒体流動乾燥機の媒体流動層中に供給するか、または噴霧乾燥機の熱風中に噴霧して乾燥することにより形成されることを特徴とする研磨微粉の製造方法。
【0027】
(20)上記(1)から(16)のいずれかに記載の研磨材スラリーを用いて研磨されたことを特徴とする基板。
【0028】
(21)前記基板が、光学レンズ用ガラス基板、光ディスク用ガラス基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板、液晶用ガラス基板、液晶テレビ用からフィルターおよびLSIフォトマスク用ガラス基板からなる群から選ばれた1つであることを特徴とする上記(20)の基板。
【0029】
(22)前記基板が磁気ディスク用ガラス基板であることを特徴とする上記(20)の基板。
【0030】
【発明の実施の形態】
本発明の研磨材スラリーで用いられる研磨材粒子は、体積換算の95%累積平均径(D95)と体積換算の50%累積平均径(D50)の比の値が、D95/D50=1.2〜3.0の範囲内であることが必要であり、好ましくは1.3〜2.6、さらに好ましくは1.5〜2.3の範囲内であることがよい。D95/D50が1.2未満になると、望ましい研磨レートを発揮することができなくなり、粉砕技術上の困難さが増大して安定した製造が期待できなくなる。一方、D95/D50が3.0より大きいと、表面欠陥のほとんどない被研磨体を得ることが困難になるからである。すなわち、被研磨体の表面が極めて平坦であることや表面粗さが非常に小さいこと、また、表面に微小スクラッチや微小ピットがほとんど発生しない表面状態を満足することができなくなる。
【0031】
ここで、体積換算の95%累積平均径(D95)とは、体積換算で示された粒度分布において、粒度の小さい方から積算して95%となるまでに含まれる粒子の平均粒径の値である。また、体積換算の50%累積平均径(D50)とは、粒度の小さい方から積算して50%となるまでに含まれる粒子の平均粒径である。
【0032】
本発明において、100%累積平均径(D100)ではなく、前記体積換算の95%累積平均径(D95)を採用するのは、100%累積には長時間を要するが、95%累積ならば簡便に測定できること、また、実際上、D100の代わりにD95を採用しても問題がないこと等の理由から、理想上の100%累積平均径(D100)の代替としてD95を採用するものである。
【0033】
D95/D50の比が1に近い値である場合には、研磨材粒子はより単一分散性が高いと言える。本発明の研磨材スラリーで用いられる研磨材粒子は、D95/D50の比が1.2〜3.0の範囲内であり、より単一分散性が高い研磨材粒子と言える。なお、体積換算で示された粒度分布は、例えばレーザー回折方式の粒度分布測定装置、動的光散乱方式や光子相関法等を用いた粒度分布測定装置を使用して体積換算の粒度分布を求めることができる。
【0034】
本発明の研磨材スラリーは、好ましくはpHが10を越えることが必要であり、さらに望ましくはpHが11を越えることが必要である。pHが10以下であると、望ましい研磨レートを発揮することができなくなる。
【0035】
本発明の構成を採用することによって、本発明の優れた効果が何故達成されるのか、その理由は明らかではないが、研磨材スラリー中の粒径の大きい粒子の粒径と量、すなわち粒度分布の粒径の大きい側の分布が研磨速度及び研磨精度を大きく支配しており、かつ、スラリーのpHが研磨粒子表面の水酸基と研磨ガラス表面の水酸基とが反応する上で重要な因子となっているものと考えられる。
【0036】
本発明の研磨材スラリーを構成する研磨材は、その主成分が酸化セリウム、酸化珪素、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マンガン、酸化クロム、炭化珪素、ダイヤモンドのうちから選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。
【0037】
さらに望ましくは、本発明の研磨材スラリーを構成する研磨材は、その主成分が酸化セリウム、酸化珪素、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化チタンのうちから選ばれた少なくとも一種であることが好ましい。
【0038】
これらのうち少なくとも一種の主成分の含有量は好ましくは50質量%以上、さらには70質量%がより好ましい。この場合、残量成分には特に制限はない。
【0039】
また、本発明においては、前記研磨材成分の中から、特に酸化セリウムを主成分とすることが好ましく、さらには炭酸希土塩を出発原料として製造された酸化セリウムを主成分とすることが望ましい。この製造方法から製造された酸化セリウムを主成分とする研磨材には、好ましくは酸化セリウム含量が50質量%以上、さらには70質量%以上含有しているのがより好ましい。炭酸希土塩は、アルカリ金属等の希土類以外の成分の含有量が低減された、セリウムを主成分とする軽希土類化合物の一種として利用される。
【0040】
出発原料として用いられる炭酸希土塩は、天然に存在する、セリウム、ランタン、プラセオジム及びネオジム等を多く含む希土精鉱を粉砕した後、アルカリ金属及びアルカリ土類金属、放射性物質等の希土類以外の成分を化学的に分離除去した後、重炭酸アンモニウムやシュウ酸などで炭酸塩とすることで得られる。
【0041】
炭酸希土を電気炉等で約500℃〜約1200℃で焼成した後、焼成粉を粉砕することにより、酸化セリウムを主成分とする研磨材を製造することができる。焼成の状態は比表面積の数値で判断することができるが、比表面積が1〜50m2/gの範囲であることが好ましく、さらには2〜20m2/gの範囲であることが特に好ましい。
【0042】
本発明において、研磨材の平均粒径(D50)は0.01μm〜10μm、好ましくは0.05μm〜5μm、さらに好ましくは0.1μm〜2μmの範囲内であることが望ましい。平均粒径が0.01μm未満であると十分な速度の研磨レートを得ることが難しくなり、10μmを越えると被研磨体の表面にスクラッチが発生しやすくなったり、スラリー沈降の問題が生じやすくなる。
【0043】
本発明においては、焼成条件、粉砕条件等を適宜選択して製造することにより、本発明の効果を発揮しうる特定の粒度分布を有する研磨材を得ることができる。
【0044】
研磨材スラリーの製造方法は、焼成粉の粉砕を行う際に、あらかじめ焼成して得られた焼成粉を水や水溶性有機溶媒等に分散させ、次いで湿式粉砕を行う方法でもよいし、あるいは、焼成粉を乾式粉砕した後、得られた粉末を水に湿式分散させる方法でもよい。ただし本発明においては、例えばボールミルを用いた湿式粉砕プロセスを経ることが望ましい。水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数が1乃至10の1価アルコール類、エチレングリコール、グリセリン等の炭素数3乃至10の多価アルコール、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン、ジオキサン等が挙げられる。
【0045】
本発明において、研磨材スラリーの研磨材濃度(スラリー濃度)は1〜50質量%、好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは10〜30質量%であることが望ましい。研磨材の量がスラリー中、1質量%を下回ると十分な研磨性能を発揮させることが難しくなり、50質量%を越えるとスラリーの粘度が上昇して流動性が悪くなるので製造上の問題が発生しやすくなり、かつ過剰な研磨材を使用することになるので不経済でもある。
【0046】
本発明において、研磨材スラリーの溶媒には、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数が1乃至10の1価アルコール類、エチレングリコールやポリエチレングリコール等のグリコール類、グリセリン等の炭素数が3乃至10の多価アルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン、ジオキサンからなる群から選ばれた少なくとも1種の溶媒系が好ましく使用される。中でも、水、アルコール又はグリコール類が好ましく使用される。
【0047】
本発明においては、研磨材スラリーの20℃における電気伝導度が3mS/cm以上であることが望ましい。電気伝導度が3mS/cm以上であれば、所望の研磨性能(基板の表面粗さ、スクラッチ、表面欠陥等)を得ることができる。
【0048】
本発明においては、研磨材スラリー中に分散剤として界面活性剤が含まれていることが望ましい。本発明に好ましく用いられる界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤等や両性イオン界面活性剤が挙げられ、これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。中でも、本発明においては、アニオン系界面活性剤やノニオン系界面活性剤等が好ましい。
【0049】
アニオン系界面活性剤としては、公知のカルボン酸塩(石鹸、N−アシルアミノ酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド等)、スルホン酸塩(アルカンスルホン酸塩(アルキルベンゼンスルホン酸塩も含む)およびアルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルスルホン酸塩等)、硫酸エステル塩(硫酸化油、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルアリルエーテル硫酸塩、アルキルアミド硫酸塩等)、燐酸エステル塩(アルキル燐酸塩、アルキルエーテル燐酸塩、アルキルアリルエーテル燐酸塩等)から選ばれ、低分子の化合物や高分子型化合物も含まれる。ここで、塩とはLi塩、Na塩、K塩、Rb塩、Cs塩、アンモニウム塩及びH型の少なくとも1種から選ばれる。
【0050】
例えば、石鹸としては、炭素数がC12〜C18の脂肪酸塩であり、一般には脂肪酸基としては、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が挙げられ、N−アシルアミノ酸塩としては、炭素数がC12〜C18のN−アシル−N−メチルグリシン塩やN−アシルグルタミン酸塩が挙げられる。アルキルエーテルカルボン酸塩としては、炭素数がC6〜C18の化合物が挙げられ、アシル化ペプチドとしては、炭素数がC12〜C18の化合物が挙げられる。スルホン酸塩としては、炭素数がC6〜C18の前記化合物が挙げられ、例えばアルカンスルホン酸では、ラウリルスルホン酸、ジオクチルサクシンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ミリスチルスルホン酸、ケリルベンゼンスルホン酸、ステアリルスルホン酸等が挙げられる。硫酸エステル塩としては、炭素数がC6〜C18の前記化合物が挙げられ、例えばラウリル硫酸、ジオクチルサクシン硫酸、ミリスチル硫酸、ステアリル硫酸等のアルキル硫酸塩、燐酸エステル塩としては、炭素数がC8〜C18の前記化合物が挙げられる。また、ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。さらには前記アニオン系界面活性剤やノニオン系界面活性剤以外に公知のフッ素系界面活性剤が使用できる。
【0051】
高分子型界面活性剤には、特殊ポリカルボン酸型化合物(花王(株)製、商品名:ポイズ530)も例示できる。
【0052】
さらに本発明の研磨材スラリーには、上記界面活性剤以外に、スラリーの沈降防止あるいは安定性向上を図るために、必要に応じてトリポリリン酸塩のような高分子分散剤、ヘキサメタリン酸塩等のリン酸塩、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロースエーテル類、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子などの添加剤を添加することもできる。これらの添加剤の添加量は、研磨材に対して、0.05〜20質量%の範囲内であることが一般的に好ましく、特に好ましくは0.1〜10質量%の範囲である。
【0053】
本発明の研磨微粉は、本発明の研磨材スラリーを乾燥することにより得ることができる。乾燥方法としては、スラリー中に含まれる研磨材が乾燥過程で二次凝集を起こさないような手段であれば特に限定されるものではないが、研磨材が二次凝集を起こしにくい型式の乾燥機を用いることが好ましく、例えば、媒体流動型乾燥機または噴霧乾燥機を用いることが望ましい。ここで、媒体流動型乾燥機とはアルミナ製あるいはジルコニア製の媒体球を熱風で流動化して得られる媒体流動層中に研磨材スラリーを供給し、乾燥を行う型式の乾燥機であり、噴霧乾燥機とは二流体ノズル等を用いて熱風中に研磨材スラリーを噴霧することで乾燥を行う型式のものである。こうした乾燥手段を経ることで、再分散性に優れ良好な研磨性能を発揮する研磨微粉を得ることができる。
【0054】
本発明の研磨微粉は、前記スラリー用の溶媒系に所望の濃度で分散して本発明の研磨材スラリーを作製することができる。
【0055】
本発明の研磨材スラリーは、一般に使用する基板には制限されないが、好ましくは、光学レンズ用ガラス基板、光ディスクや磁気ディスク用ガラス基板、プラズマディスプレー用ガラス基板、薄膜トランジスタ(TFT)型LCDやねじれネマチック(TN)型LCDなどの液晶用ガラス基板、液晶テレビ用カラーフィルター、LSIフォトマスク用等のガラス基板などの、各種光学、エレクトロニクス関連ガラス材料や一般のガラス製品等の仕上げ研磨に用いられる。
【0056】
本発明の研磨材スラリーは、特に磁気ディスク用ガラス基板に好ましく使用できる。磁気ディスク用ガラス基板は、高剛性で薄型化に対応できる上に耐衝撃性が高い等のメリットを生かした基板として注目されており、その基板のガラス材料は、化学強化ガラスと結晶化ガラスに大別されている。これらの材料はいずれもガラス本来の脆いという欠点を克服するために強化処理を施したものである。通常、ガラス表面の傷の存在は機械的強度を大きく損なうため、ディスク信頼性向上の点からイオン交換による化学強化処理が施されている。すなわち、ガラス基板(原板)をアルカリ溶融塩中に浸し、ガラス表面のアルカリイオンと溶融塩中のより大きなイオンとを交換することで、ガラスの表面層に圧縮応力歪み層を形成して、破壊強度を大幅に増加させたものである。このような化学強化されたガラス基板は、ガラス内部からのアルカリ溶出が抑えられており、このように化学強化されたHD向け基板材料に対しても、本発明の研磨材スラリーは高い研磨性能(基板の表面粗さ、スクラッチ、表面欠陥等)を得ることができる。好ましく使用されるHD用ガラス基板としては、Li+とNa+を含むアルミノシリケートガラス基板、K+とNa+を含むソーダライムガラス基板や結晶化ガラスが挙げられる。
【0057】
【実施例】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
市販の粗炭酸希土粉末(灼熱減量:55.8%)を4kg用い、箱形電気炉で焼成を行った。焼成条件は昇温速度を1.7℃/分とし、焼成温度が900℃で保持時間を2時間とした。焼成後の粉末中に含まれる元素を分析したところ、希土類元素の含有率が99質量%であり、希土類元素のうちに含まれる酸化セリウム濃度は60質量%であった。また、得られた焼成粉の比表面積をBET法の比表面積測定装置で求めたところ、10m2/gであった。
【0059】
焼成して得られた焼成粉1.7kgを純水2.5kg中に投入して攪拌し、次いで、分散剤としてアニオン系界面活性剤(ポリカルボン酸型界面活性剤、商品名「花王ポイズ530」、花王(株)製)を34g(焼成粉に対して2質量%に該当)添加して攪拌を行い、スラリーを作製した。得られたスラリーを湿式粉砕機に通して循環しながら2.5時間湿式粉砕処理を行った後、スラリーに純水を添加して濃度が20質量%の研磨材スラリーを8kg得た。得られた研磨材スラリーの20.5℃における電気伝導度は3.5mS/cmであった。
【0060】
得られた研磨材スラリーの一部を用い、レーザー回折式粒度分布測定器(CILAS社製、「HR850」)で測定したところ、体積換算の50%累積平均粒径(D50)は0.55μmであり、かつ体積換算の95%累積平均径(D95)は0.8μmであり、D95/D50比は1.5であった。
【0061】
次いで、得られた研磨材スラリーを用いて、下記に示す被加工物の研磨を行った。ただし、研磨機は4ウエイタイプ両面研磨機(不二越機械工業(株)製「5B型」)を用い、研磨パッドはスウエードタイプのパッド(ロデール製、「ポリテックスDG」)を用いた。また、スラリー供給速度は60ml/min、下定盤回転数は90rpm、加工圧力は75g/cm2、研磨時間は10minで研磨を実施した。研磨後、強化ガラス基板を研磨機より取り出し、純水を用いて超音波洗浄を行い、その後、乾燥させて以下の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0062】
なお、被加工物(被研磨体)としては、あらかじめ市販の酸化セリウム系研磨材(東北金属化学(株)製、「ROX H−1」)で研磨しておいた、磁気デイスク用の2.5インチのアルミノシリケートを主成分とする強化ガラス基板(表面粗さRa=9Å)を用いた。
【0063】
被加工物の評価:
(1)表面粗さ(Ra)
【0064】
ランクテーラーホブソン社製の接触式表面粗さ計「タリステップ」又は「タリデータ2000」を用いて、ガラス基板表面の表面粗さ(Ra)を測定した。
【0065】
(2)表面欠陥
微分干渉顕微鏡を用いてガラス基板表面を観察し、表面の付着状態、ピット、スクラッチの発生の有無等を調べた。スクラッチの評価はガラス基板表面に発生したスクラッチの本数で示し、表面欠陥の評価は3段階の相対的な評価で行い、ピットの発生がほとんどなく表面状態が良好である場合には「○」、ややピットの発生があり、実用上問題である場合を「△」、表面状態が非常に悪い場合を「×」で示した。
【0066】
(3)研磨レート
研磨前後におけるガラス基板の重量変化から研磨レート(μm/min)を求めた。
【0067】
(実施例2〜7)
実施例1において、焼成条件及び湿式粉砕機の運転条件を適宜調節することにより、それぞれ表1に示すD50及びD95となるように変更した以外は実施例1と同様にして、研磨材スラリーを製造し、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0068】
(実施例8〜9)
実施例1において、スラリー濃度を表1に示すように10質量%(表中では質量%をwt%と記す)又は40質量%にそれぞれ変更した以外は実施例1と同様にして、研磨材スラリーを製造し、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0069】
(実施例10〜11)
実施例1において、分散剤の添加量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、研磨材スラリーを製造し、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0070】
(比較例1)
実施例1において、湿式粉砕における粉砕時間を1時間で停止した以外は、実施例1と同様にして、研磨材スラリーを製造した。得られた焼成粉のD50は0.55μm、D95は1.8μm、粉砕後20質量%に濃度調整したうえでのpHは11.9であった。
【0071】
得られた研磨材スラリーを用いて、実施例1と同様にして評価を行った。その結果を表2に示す。
【0072】
(比較例2〜6)
実施例1において、焼成条件及び湿式粉砕条件を適宜調節して、それぞれ表1に示すBET比表面積、D50及びD95となるように変更した以外は実施例1と同様にして、研磨材スラリーを製造し、評価を行った。その結果を表2に示す。
【0073】
(実施例12)
実施例1において、炭酸希土の代わりに市販の高純度酸化セリウムを用い、実施例1と同様にして焼成を行ってセリア純度97%の高純度酸化セリウムを得た。得られた焼成粉の比表面積は12m2/gであった。
【0074】
この粉末1.7kgを純水2.5kg中に投入し、さらに分散剤34g(商品名「花王ポイズ530」)と10%アンモニア水10gを投入して攪拌を行いスラリーを作製した。得られたスラリーから実施例1と同様にして研磨材スラリーを作製し、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0075】
(実施例13,14)
実施例12において、表1に示すように、高純度炭酸セリウムの代わりに酸化鉄(Fe2O3)、酸化珪素(SiO2)をそれぞれ用いて研磨材スラリーを作製した。pHはカセイソーダを添加して調製し、BET比表面積、D95/D50等は表1に示す値であった。また、実施例12と同様に評価を行った。その結果を表2に示す。
【0076】
(実施例15)
実施例1と同様な方法で得られた酸化セリウムの研磨材スラリー(アニオン系界面活性剤入り)を、媒体流動型乾燥機で乾燥して研磨微粉を得た。即ち、研磨材スラリーを、φ2mmジルコニアボールを20kg投入したスラリードライヤ(株式会社大川原製作所製、SFD−05型機)にその供給量を制御しながら投入して、乾燥させ、研磨微粉を得た。この研磨微粉を水中に10質量%の濃度で分散させ、1時間撹拌後、さらに超音波を10分照射した後、20μmマイクロシーブを通過させ、その篩上に残存した粒子の重量を測定して、凝集状態を調査した。その結果、篩上には投入した研磨微粉の5質量%の微粉体しか残らず、再現性よく酸化セリウムの研磨材スラリーを得た。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表1及び表2から明らかなように、実施例1〜14の研磨材スラリーを用いて研磨した場合には、研磨レートが速く、かつ、表面粗さが小さく、スクラッチや表面欠陥のない良好な研磨表面を実現することができた。
【0080】
一方、比較例1〜6の研磨材スラリーを用いて研磨した場合には、表面粗さ、スクラッチの発生または表面欠陥のいずれかが良好でなく、精度の高い研磨表面を実現することはできなかった。また、比較例2及び3の研磨材スラリーを用いて研磨した場合には、研磨レートが遅いことが分かった。
【0081】
【発明の効果】
以上詳しく説明したように、本発明によれば、エレクトロニクス関連の基板、特に磁気デイスク用のガラス基板等の精密研磨において、表面平坦性が高く、表面粗さが小さく、表面の微小スクラッチや微小ピット等をほとんど生じさせないような精度の高い表面研磨を達成しつつ、かつ、速い研磨速度を達成することができる研磨材スラリー及び研磨微粉を提供することができる。
Claims (10)
- 酸化セリウムを主成分とする研磨材粒子を水および/または水溶性有機溶媒に分散させた研磨材スラリーの製造方法において、炭酸希土塩を焼成、粉砕することにより、体積換算の95%累積平均径(D95)と体積換算の50%累積平均径(D50)の比D95/D50の値が1.2から3.0の範囲にあり、且つ50%累積平均径(D50)の値が0.01から10μmの範囲にある酸化セリウムを主成分とする研磨材粒子を得、該研磨材粒子と界面活性剤を水および/または水溶性有機溶媒に分散させてスラリーとし、該スラリーのpHを10より大きくすることを特徴とする研磨材スラリーの製造方法。
- 酸化セリウムを主成分とする研磨材粒子が、酸化セリウムを50質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載の研磨材スラリーの製造方法。
- 研磨材スラリー中の研磨材濃度が、1〜50質量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の研磨材スラリーの製造方法。
- 界面活性剤が、アニオン系界面活性剤およびノニオン系界面活性剤からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の研磨材スラリーの製造方法。
- アニオン系界面活性剤が、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、燐酸エステル塩の低分子の化合物および高分子型化合物からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項4に記載の研磨材スラリーの製造方法。
- ノニオン系界面活性剤が、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルおよびポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項4に記載の研磨材スラリーの製造方法。
- 研磨材粒子の比表面積が1〜50m2/gの範囲であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の研磨材スラリーの製造方法。
- 水溶性有機溶媒が、炭素数1〜10の1価アルコール類、グリコール類、炭素数1〜10の多価アルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフランおよびジオキサンからなる群から選ばれた少なくとも1つであることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の研磨材スラリーの製造方法。
- 研磨材スラリーに、さらにリン酸塩、セルロースエーテル類および水溶性高分子からなる群のうち少なくとも1つを添加することを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の研磨材スラリーの製造方法。
- 請求項1〜9の製造方法により、研磨材スラリーを製造し、得られた研磨材スラリーを用いてガラス基板を研磨することを特徴とするガラス基板の研磨方法。
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