JP4284771B2 - 金属研磨用αアルミナ研磨材およびその製法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は金属研磨用のαアルミナ研磨材およびその製造方法に関する。詳しくはステンレス等の難研磨性の金属研磨に適した研磨材であり、研磨速度、研磨持続性に優れ、さらには特に表面平滑性に優れるαアルミナ研磨材およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属表面の加工・研磨には主としてセラミック粉末が用いられている。特にステンレス類は難研磨性であり、優れた研磨能力を有するαアルミナ(α−Al2O3)やクロミア(Cr2O3)が用いられている。
クロミアは表面平滑性に優れることから最終仕上(鏡面仕上)に用いられるが、近年環境問題から使用が制限される方向にあり、最終仕上まで可能な微粒αアルミナ研磨材の要求が高まっている。
【0003】
微粒αアルミナを製造する方法としては、たとえば特開平3−83813号公報や特開平5−238726号公報に示されるようにアルミナにシリカ(SiO2)等を添加して焼成する方法、特開平6−321534号公報に示されるようにNH4AlCO3(OH)2を熱分解して得られるαアルミナを粒成長抑制剤の存在下で焼成する方法、特開平6−115932号公報に示されるようにゾル−ゲル法で製造したαアルミナをボラックスとともに焼成する方法等が開示されている。これらの方法はサブミクロン級の微細なアルミナ粒子のみを製造する方法として開示されており、ハードディスクのアルミ基板のような軟質材料の研磨に適している。
【0004】
しかし、難研磨性材料であるステンレス等では、このような微細粒子のみを用いた場合には切削力が不足するために満足な研磨速度が得られないことが多い。ステンレス等の研磨では研磨中に研磨材粒子が破砕され、その際に生じる新生エッジが研磨を促進するとされている。このため、上記公報においては、ハードディスク研磨材として好適との表現はあるものの、ステンレス用途についての記述はない。
【0005】
すなわち、従来の技術においてαアルミナの精密研磨材は単分散かつ微粒であるものが開発されてきたが、一方ステンレスなどの研磨に適し、かつ従来以上の表面平滑度を有する精密研磨材の開発は充分にはなされていなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ステンレス等の難研磨性金属材料の研磨において研磨速度、研磨持続性に優れ、さらには特に表面平滑性に優れるαアルミナ研磨材およびその製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の粒度分布の水酸化アルミニウムを特定のBET値(BET比表面積)となるように焼成し、粉砕すると、粒度分布が2つのピーク径を有し、粒度分布が特定の累積体積分布を示すαアルミナ粉末が得られ、このαアルミナ粉末が目的の優れた研磨特性を示すことを見出し本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は下記の(1)〜(2)を提供する。
(1)一次粒子とその凝集粒である二次粒子よりなり、一次粒子の粒度分布が0.3〜0.5μmおよび二次粒子の粒度分布が0.9〜1.2μmの2つのピーク径を有し、粒度分布が累積体積分布の小径側から累積10%、累積50%、累積90%に相当する粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、D90/D10比が5以下であり、D50/D10が2〜3、D90/D50が1.5〜2であるステンレス用αアルミナ研磨材。
(2)D50が0.5〜3μm、D90/D50が3以下である水酸化アルミニウムを、BET比表面積が4〜6m2/gであるαアルミナ凝集粒となるように焼成せしめ、さらに得られたαアルミナ凝集粒を粉砕することを特徴とする請求項1記載のステンレス用αアルミナ研磨材の製造方法。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳述する。
本発明で得られるαアルミナ粉末は、比較的均一な一次粒子径を有し、粒度分布におけるピーク径は0.3−0.5μmである。さらに本発明で得られるαアルミナ粉末は一次粒子同士が凝集した二次粒子を有し、その二次粒子の粒度分布におけるピーク径は0.9−1.2μmである。本発明では一次粒子径ならびに二次粒子の凝集程度が制御されているために粉末の粒度分布は明確な2ピークを有している。
【0010】
本発明のαアルミナ粉末の一次粒子径は、表面平滑性に関与するため均一かつ微粒であることが好ましいが、一次粒子のピーク径が0.3μm以下になると十分な研磨速度が得られず、作業効率が大きく低下する。一方0.5μm以上では必要な表面平滑性が得られない。該一次粒子が凝集した二次粒子は研磨中に破砕されることにより新生エッジを提供し、研磨速度を向上・維持する効果を有するが、該二次粒子のピーク径が0.9μm以下では十分な凝集度がなく研磨速度が不足する。一方1.2μm以上となると二次粒子自身による研磨傷(スクラッチ)の原因となり研磨品質を著しく損ねる。本発明では二次粒子の凝集程度が制御されているため、研磨傷の原因となる5μm以上の粗粒が実質上存在しない。
【0011】
すなわち、本発明で得られるαアルミナ粉末は一次粒子径ならびにその凝集体である二次粒子径が制御された範囲にあることが特徴となっている。一次粒子径は研磨の特性に直接影響し、また二次粒子径は破砕による研磨速度の向上に寄与するので、これらの物性を最適な範囲に制御する必要がある。
D90/D10は粒度分布の幅広さを表し、この値が大きいと一次粒子径のばらつきが大きく微粒が存在すること、あるいは/かつ、二次粒子径のばらつきが大きく粗粒が存在することを示す。したがってD90/D10は小さい方が研磨特性が良く、5以下であることが好ましい。
【0012】
D50/D10、D90/D50はそれぞれ一次粒子径、二次粒子径の各々のばらつきを示すとともに、一次粒子径のピークと二次粒子径のピークの高さの比率も間接的に制御する。本発明において得られるαアルミナ粉末では二次粒子径のピークの方が大きいことが好ましく、この条件を満たす値としては、D50/D10が2〜3、D90/D50が1.5〜2であることが好適である。
【0013】
このような範囲に制御されたαアルミナ研磨材は、均質な一次粒子に起因する優れた表面平滑性と、制御された二次粒子に起因する高速な研磨速度を両立することができ、特にステンレス等の金属研磨において好適である。
【0014】
上記のαアルミナ粉末は、粒径が制御された水酸化アルミニウムを所定の条件で焼成することにより目的とする一次粒子径を有するαアルミナの凝集粒を製造し、その後凝集粒を一次粒子と二次粒子が所望の粒度分布となるように粉砕することによって得ることができる。原料の水酸化アルミニウムの製造方法や純度は、目的とする粒径や研磨特性に悪影響を与えない限り特に限定はされないが、コストの点から通常バイヤー法で得られた水酸化アルミニウム(ギブサイト)が好適である。
【0015】
水酸化アルミニウムの粒径は均一かつ微粒であることが望ましいが、焼成や粉砕によってある程度の調整は可能である。具体的にはD50が0.5〜3μm、D90/D50が3以下であるような水酸化アルミニウムを用いることが好適である。水酸化アルミニウムを大気雰囲気で、1250〜1400℃、好ましくは1300〜1350℃で2〜6時間焼成することにより、BET比表面積が4〜6m2/gであるαアルミナの凝集粒を得ることができる。ただしこれらの条件は水酸化アルミニウムの性状によって異なるので、原料に応じた最適条件を使用する必要がある。
【0016】
続いてこのαアルミナの凝集粒を粉砕し、粉砕された一次粒子と二次粒子が混合した目的の粉末を得ることができる。粉砕に用いる機器は特に限定されず、ボールミル、振動ミル等を用いることができる。本発明においてはαアルミナの凝集粒は目的とする一次粒子径を有する一次粒子からなっているため、粉砕によって所望の一次粒子と二次粒子が混合したαアルミナ粉末を容易に得ることができる。粉砕条件は粉砕機器やαアルミナの凝集粒によって異なるが、粒度分布を測定しながら粉砕することにより最適な条件を得ることができる。
【0017】
【実施例】
以下、実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例の物性測定は以下の方法により行なった。
粒度分布:LEED&NORTHRUP社製レーザー回折式粒度分布測定装置「Microtorac HRA」を用い、0.01重量%のピロリン酸ソーダ水溶液を分散媒とし、5分間の超音波分散を施した後に測定を行った。
【0018】
BET比表面積:湯浅アイオニクス社製「マルチソーブ12」を用い、試料を200℃で前処理してから測定を行った。
研磨特性(Ra):SUS316製の円筒(直径25mm、高さ30mm)もしくは銅製の円筒(直径25mm、高さ30mm)を試験片とし、丸本工業社製試料琢磨機5627型とリファインテック社製研磨バフ「スエードクロス52−208型」を用い、アルミナ粉末を5wt%含む水スラリー(添加物なし)を20ml/分で供給し、研磨圧力86g/cm2で5分間研磨した。研磨面の表面粗さを小坂技研社製「サーフコーダーET−30HK」ならびに「解析装置AY−31」を用いてレーザー式非接触法により測定した。測定は10回行ない、その平均を研磨特性とした。
研磨速度:SUS316製の円筒(直径25mm、高さ30mm)の質量を精密天秤で測定後、上述の手法で15分間研磨し、研磨後の質量差から研磨速度を算出した。測定は2回行い、その平均を研磨速度とした。
【0019】
実施例1
住友化学工業社製微粒水酸化アルミニウム(商品名C−301、D50:1.0μm、D90:1.6μm)を電気炉中で1300℃で焼成し、BET比表面積5.7m2/gのαアルミナ凝集粒を得た。この凝集粒をアルミナボールミルで粉砕し、平均粒径(D50)0.75μmの粉末を得た。この粉末の粒度分布は2つの明確なピークを有し、それぞれのピーク径は0.38μmと1.06μmであった。この粉末を用いてステンレス(SUS316)を研磨した結果、平均表面粗さ(Ra)は6.1nm、標準偏差は2.3nmであった。また研磨速度は0.236μm/分であった。これらの結果を表1に示す。
【0020】
実施例2
実施例1と同じ水酸化アルミニウムを電気炉中で1350℃で焼成し、BET比表面積4.4m2/gのαアルミナ凝集粒を得た。この凝集粒をアルミナ振動ミルで粉砕し、平均粒径(D50)0.80μmの粉末を得た。この粉末の粒度分布は2つの明確なピークを有し、それぞれのピーク径は0.41μmと1.06μmであった。この粉末を用いてステンレス(SUS316)を研磨した結果、平均表面粗さ(Ra)は8.3nm、標準偏差は3.6nmであった。また研磨速度は0.254μm/分であった。これらの結果を表1に示す。
【0021】
実施例3
実施例1と同じ水酸化アルミニウムを電気炉中で1350℃で焼成し、BET比表面積4.2m2/gのαアルミナ凝集粒を得た。この凝集粒をアルミナボールミルで粉砕し、平均粒径(D50)0.87μmの粉末を得た。この粉末の粒度分布は2つの明確なピークを有し、それぞれのピーク径は0.41μmと1.16μmであった。この粉末を用いてステンレス(SUS316)を研磨した結果、平均表面粗さ(Ra)は10.1nm、標準偏差は3.6nmであった。また研磨速度は0.233μm/分であった。これらの結果を表1に示し,得られたαアルミナの粒度分布を図1に示す。
【0022】
実施例4
実施例1のαアルミナ粉末を用いて銅を研磨した結果、平均表面粗さ(Ra)は8.9nm、標準偏差は1.6nmであった。
【0023】
比較例1
実施例1と同条件でαアルミナ凝集粒を製造し、粉砕時間を短縮することにより平均粒径(D50)0.93μmの粉末を得た。この粉末の粒度分布は1.16μmに二次粒子のピークが見られるものの、一次粒子径のピークは明確ではなく、テーリングの形状を呈していた。この粉末を用いてステンレス(SUS316)を研磨した結果、平均表面粗さ(Ra)は13.0nm、標準偏差は4.9nmであった。また研磨速度は0.225μm/分であった。これらの結果を表1に示す。
この結果は一次粒子への解砕が不足し、二次粒子の比率が多いために研磨特性が悪化したものである。
【0024】
比較例2
実施例1と同じ水酸化アルミニウムを電気炉中で1250℃で焼成し、BET比表面積8.0m2/gのαアルミナ凝集粒を得た。この凝集粒をアルミナボールミルで粉砕し、平均粒径(D50)1.00μmの粉末を得た。この粉末の粒度分布は1.16μmに二次粒子のピークが見られるものの、一次粒子径のピークは明確ではなく、テーリングの形状を呈していた。この粉末を用いてステンレス(SUS316)を研磨した結果、平均表面粗さ(Ra)は23.6nm、標準偏差は8.7nmであった。また研磨速度は0.153μm/分であった。これらの結果を表1に示す。
この結果は焼成が不足し、αアルミナの結晶化が不足したため、必要な研磨特性ならびに研磨速度が得られなかったものである。
【0025】
比較例3
実施例1と同じ水酸化アルミニウムを電気炉中で1350℃で焼成し、BET比表面積3.6m2/gのαアルミナ凝集粒を得た。この凝集粒をアルミナボールミルで粉砕し、平均粒径(D50)0.98μmの粉末を得た。この粉末の粒度分布は0.344μmと1.16μmにピークを持つものの、D90/D10等の粒度分布のばらつきが大きかった。この粉末を用いてステンレス(SUS316)を研磨した結果、平均表面粗さ(Ra)は14.4nm、標準偏差は3.5nmであった。また研磨速度は0.264μm/分であった。これらの結果を表1に示す。
この結果は焼成が過剰でαアルミナの結晶化が進行しすぎ、それを粉砕で微粒化したために粒度分布のばらつきが大きくなり、その結果研磨特性が悪化したものである。
【0026】
比較例4
微粒アルミナである住友化学工業(株)製AES−12を用いた。この粉末は一次粒子の割合が大きく、0.34μmに一次粒子のピークが見られるものの、二次粒子径のピークは明確ではなく、テーリングの形状を呈していた。
この粉末を用いてステンレス(SUS316)を研磨した結果、平均表面粗さ(Ra)は12.8nm、標準偏差は6.6nmであった。また研磨速度は0.150μm/分であった。これらの結果を表1に示し,得られたαアルミナの粒度分布を図2に示す。
この結果は二次粒子が少ないαアルミナ粉末において研磨速度が不足したものである。
【0027】
比較例5
ステンレス精密研磨用アルミナとして広く用いられている昭和電工(株)製A−50Nを用いた。この粉末は比較例1、2と近似した粒度分布を有し、二次粒子径のピーク径が1.26μmとわずかに大きいものの、D10、D50、D90のそれぞれの比率は請求項1、2の範囲内であった。この粉末を用いてステンレス(SUS316)を研磨した結果、平均表面粗さ(Ra)は13.6nm、標準偏差は6.0nmであった。また研磨速度は0.290μm/分であった。これらの結果を表1に示す。
この結果は二次粒子の比率が多く、一次粒子が少ないために研磨特性が悪化したものである。
【0028】
比較例6
ステンレス精密研磨用アルミナとして広く用いられている昭和電工(株)製A−50Eを用いた。一次粒子のピークは0.344μmであるが、二次粒子の粒径は1.38μmと大きく、また二次粒子の比率も大きいものであった。この粉末を用いてステンレス(SUS316)を研磨した結果、平均表面粗さ(Ra)は12.7nm、標準偏差は3.0nmであった。
この結果は二次粒子の比率が多く、一次粒子が少ないために研磨特性が悪化したものである。
【0029】
比較例7
昭和電工(株)製A−50Kを用いて銅を研磨した結果、平均表面粗さ(Ra)は11.6nm、標準偏差は4.1nmであった。
【0030】
【表1】
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、比較的高い研磨速度を有したまま、より良好な表面粗さを得ることができるため、高精度かつ効率的な研磨が可能となり、ステンレス等の難研磨性の金属研磨を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例3の方法で製造したαアルミナ粉末の粒度分布図である。
【図2】比較例4の方法で製造したαアルミナ粉末の粒度分布図である。
Claims (2)
- 一次粒子とその凝集粒である二次粒子よりなり、一次粒子の粒度分布が0.3〜0.5μmおよび二次粒子の粒度分布が0.9〜1.2μmの2つのピーク径を有し、粒度分布が累積体積分布の小径側から累積10%、累積50%、累積90%に相当する粒子径をそれぞれD10、D50、D90としたとき、D90/D10比が5以下であり、D50/D10が2〜3、D90/D50が1.5〜2であるステンレス用αアルミナ研磨材。
- D50が0.5〜3μm、D90/D50が3以下である水酸化アルミニウムを、BET比表面積が4〜6m2/gであるαアルミナ凝集粒となるように焼成せしめ、さらに得られたαアルミナ凝集粒を粉砕することを特徴とする請求項1記載のステンレス用αアルミナ研磨材の製造方法。
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