JP3857799B2 - ガラス研磨用研磨材組成物およびその研磨方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ガラス研磨用研磨材組成物に関し、詳しくは欠陥のない優れた研磨面を形成することができるガラス研磨用研磨材組成物であり、特に低浮上量で磁気ヘッドが飛行するのに適した高精度鏡面に研磨できる磁気ディスク用ガラス研磨用研磨材組成物およびその研磨方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
パソコン等の記憶媒体として、ドライブ装置に組み込まれて使用される磁気ディスク用基板として、アルミニウム基板に比べて衝撃性に強く、かつ平滑度を高くすることが可能という利点から、ガラス基板が利用されている。最近、高記録密度化への要求から、磁気ヘッドと磁気ディスク基板の間隔がますます小さくなる傾向にあり、磁気ディスク用ガラス基板はより高精度な平坦度、より小さい表面粗さおよび欠陥の少ないものが強く求められている。
各種ガラス研磨には、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、二酸化ケイ素等の材料が古くから使用されている。現在、研磨能率が高いことから酸化セリウムを主成分とする研磨材組成物(以下、「酸化セリウム系研磨材組成物」という)が主に用いられている。
【0003】
磁気ディスク用ガラス基板の研磨材組成物は、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウムを主成分とする研磨材に添加剤を加えスラリー特性を調整することによって、研磨能率、研磨精度を向上させることを目的とした以下のような技術がある。
▲1▼特開平3−146584「ガラス研磨用研磨材」
酸化ジルコニウムを主成分とするものにアルミン酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムを含有させるもの
▲2▼特開平3−146585「ガラス研磨用研磨材」
酸化セリウムを主成分とするものに塩化マグネシウムを含有させるもの
▲3▼特開平9−109020「磁気ディスク研磨用組成物及びそれを用いた研磨液」
酸化アルミニウムを主成分とするものにギブサイト及び分散剤を含有させるもの
磁気ディスク用ガラス基板は日進月歩で表面精度を益々高めている。磁気ディスク用ガラス基板の特性として要求されている低浮上量を安定的に確保するためには、従来の研磨材組成物ではそれに必要な表面粗さと付着物のない清浄なガラス表面を確保することができない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前述のように、磁気ディスクの高記録密度化のためには、磁気ヘッド浮上高さを小さくすることが必須となり、そのために磁気ディスク面精度の高精度化への要求が一段と厳しくなりつつある。磁気ディスク用ガラス基板に使用される結晶化ガラスや強化ガラス基板において、従来より用いられている酸化セリウム系研磨材組成物を用いて研磨しても、磁気ヘッドの浮上高さを要求されるレベルまで低くするために必要な面粗さが得られないという問題が生じている。また、酸化セリウム系研磨材組成物は、ガラスとの化学的反応性が高いことから、磁気ディスク用ガラス基板表面に付着物が残留し、超音波洗浄やスクラブ洗浄等の機械的エネルギーを加えても付着物を完全に除去することが難しく、残留付着物に磁気ヘッドが接触するため実質的に磁気ヘッドの浮上高さを低下するのに適した高精度の磁気ディスク表面を得るには難点がある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、磁気ディスク用ガラス基板に対して高精度な研磨面を得るため最適な研磨材の研究を鋭意重ねた結果、マグネシウムの塩基性塩、なかでも特に水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、各種リン酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種からなるガラス研磨用研磨材組成物を使用することにより、従来の酸化セリウム系研磨材組成物では到達できなかった高精度な研磨面が得られることを見い出した。また、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、二酸化ケイ素の少なくとも1種を主成分とする研磨材を用いて研磨することにより得られるガラス研磨面を、マグネシウムの塩基性塩、なかでも特に、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、各種リン酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種以上を含有する研磨材組成物を用いて研磨をすることにより、酸化セリウム系研磨材等の残留付着物の除去が可能となり、同時に高精度のガラス研磨面を得ることができる。その結果、従来達成できなかった磁気ヘッド浮上高さの低下が可能となる。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられるマグネシウムの塩基性塩の具体例としては、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム(3MgCO3 ・Mg(OH)2 )およびリン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム等の各種リン酸マグネシウムなどを挙げることができるが、これらに本発明は限定されるものではない。
また、本発明においては、これらの化合物の純度は特に限定されるものではない。
本発明に用いられるマグネシウムの塩基性塩は、それ自身粉末状態で研磨に寄与するため、その好ましい粒度は平均粒子径として0.1〜10μmである。10μmを越えるとスラリーでの沈降が著しくなり作業的に問題となるだけでなく、場合により必要とされる研磨面粗さが得られなくなり、一方0.1μm未満では研磨能率が低下し過ぎ好ましくない。
【0007】
本発明に用いられるマグネシウムの塩基性塩の添加量は、スラリー中の固形分濃度として(2種以上のマグネシウムの塩基性塩を使用する場合はその総量として)、1〜40wt.%が好ましく、より好ましくは、5〜30wt.%である。1wt.%未満では高精度表面が得難く、表面欠陥も発生し易い。また、40wt.%を越えると増量による更なる向上効果が得難く好ましくない。
マグネシウムの塩基性塩を1種以上混合する場合には、それらの混合比率は任意に選択し得る。
また、本発明に用いられるマグネシウムの塩基性塩は、結晶水を除いた化学式が同じで、結晶水の数が異なったり、結晶系が異なったり、外観的形状、形態の異なるものもあるが、特にそれらに限定されるものではない。
本発明の研磨材組成物の溶媒は水に限定されるものではないが、多くの場合水系が種々の点で好ましい。
【0008】
本発明の研磨材組成物には更に分散性向上、沈降防止、安定性向上および作業性向上のため、必要によりエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール類、トリポリリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩等のリン酸塩、ポリアクリル酸塩のような高分子分散剤、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロースエーテル類、ポリビニルアルコール等の水溶性高分子を添加してもよい。これらの研磨材に対する添加量は0.05〜20wt.%の範囲が通常であり、好ましくは0.1〜15wt.%、より好ましくは0.1〜10wt.%である。
【0009】
また、本発明の研磨材組成物の研磨能率を向上させるため、ガラスに対し研磨促進効果を有する物質、例えばアルギニンなどのアミノ酸系、メラミン、トリエタノールアミンなどのアミン系、フッ化セリウムなどのフッ化希土化合物、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸等の有機酸を添加してもよい。
本発明の研磨材組成物の造り方は、種々原材料を混合すればよく、特に限定されるものではなく、好ましくは、ボールミル、高速ミキサー等により、上記混合割合にて機械的に混合調製すればよい。
本発明の研磨材組成物を使用する方法は、通常の研磨材組成物と同様に行えることができるが、更によい研磨方法としては、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、二酸化ケイ素の少なくとも1種を主成分とする研磨材により粗研磨した後、マグネシウムの塩基性塩、なかでも特に、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム等の各種リン酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種以上のマグネシウムの塩基性塩を含有する研磨材組成物を用いて研磨することであり、このことにより従来にはない高精度の研磨を効率的に行なうことができる。
【0010】
研磨後の被研磨物は、純水中にて、場合により界面活性剤を添加し、超音波洗浄するのが通常である。更に、容易に洗浄するためには、塩酸、硫酸、硝酸等の強酸の場合は希釈した水溶液、弱酸の場合はそのままか、多少希釈した水溶液を、水酸化マグネシウムの場合には更にアンモニウム塩の水溶液を使用するとよい。
本発明の研磨材組成物による研磨では、上記のような洗浄後ガラス表面に残留付着物は、従来品に比べて皆無であり、磁気ヘッドの浮上高さを0.25マイクロインチ程度に下げることができ、磁気ディスク用ガラス基板の高密度化に対して多大な効果が得られる。
【0011】
【実施例】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を詳細に説明する。
マグネシウムの塩基性塩の具体例として水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムについて、実施例を記載するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0012】
実施例1〜14
協和化学工業社製水酸化マグネシウム(キョーワスイマグF、平均粒子径d50=4μm)を原料として分級し、粗大粒子を除去し、平均粒子径d50=3.5μmのものを造った(「水酸化マグネシウムA」とする)。上記原料の水酸化マグネシウムを粉砕した後、分級し、細粒(平均粒子径d50=0.5μm)を造った(「水酸化マグネシウムB」とする)。
また、炭酸マグネシウムは、協和化学工業社製のもの(平均粒子径d50=1.0μm、フィラー用)を粉砕後、分級し、平均粒子径d50=0.5μmの細粒を造った。
【0013】
表1に示す条件で高速ミキサーを用い、純水分散系の研磨材組成物実施例1〜14を造った。この際、総てのものにつきポリアクリル酸系分散剤(花王(株)社製、ポイズ530)を上記粉末に対し、1wt.%を添加した。
被加工物として、予め酸化セリウム系研磨材(東北金属化学(株)製ROX H−1)で研磨した2.5インチリチウムシリケートを主成分とする結晶化ガラス基板((リチウムシリケートとクリストバライトの結晶相とアモルファス相を含んでいる)Ra =10Å、Rmax =250Å)(表1において「ワーク甲」とする。)又は、アルミノシリケートを主成分とする強化ガラス基板(Ra =9Å、Rmax =180Å)(表1において「ワーク乙」とする。)を用いて下記の条件で研磨した。
【0014】
研磨機:4ウェイタイプ両面研磨機(不二越機械工業(株)製、5B型)
研磨パッド:スウェードタイプ(千代田(株)製、シガール1900W)
スラリー供給速度:60ml/min
下定盤回転数:45rpm
加工圧力:75g/cm2
研磨時間:7min
【0015】
研磨後のガラスディスクを研磨機より取り出し、純水による超音波洗浄を行ない、次いで希硝酸水溶液(1wt.%濃度)浴中での超音波洗浄を行なった。その後、純水により洗浄を行ない、乾燥し下記の評価を行なった。
(i)ディスク表面粗さ:Ra 、Rmax
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて表面粗さRa 及びRmax を測定した。
(ii)ディスク表面欠陥
表面欠陥は微分干渉顕微鏡を用いて付着、ピット、スクラッチについて観察し、○:良好、△:普通、×:不良の3段階方式で評価した。
(iii)ヘッド浮上高さ:GA(グライドアバランチ)
研磨したディスクに磁性膜を塗布し、ヘッド浮上高さGAを測定した。具体的には、スパッタリング法により、基板温度200℃にて、下地層としてCr60nm、磁性層としてCo13Cr6 Pt3 Ta合金20nm、保護層としてカーボン10nmを逐次成膜し、更にPFPE系潤滑剤を塗布して作成した磁性記録媒体をグライドハイトテスター(ソニーテクトロニクス社製)を用いてGAの測定を行なった。
これらの結果を表1に示す。
なお、研磨材の平均粒子径はCilas社製Granulometer HR850により測定したものである。
【0016】
比較例1〜2
比較例として、本発明に用いられるマグネシウムの塩基性塩にかえて、予め研磨した前述ガラス基板を仕上げ研磨用酸化セリウム研磨材(東北金属化学(株)製、ROX F620)の10wt.%水分散スラリーを用いて研磨し、評価した。これらの条件等は、上記の実施例に記した条件等と同じである。
【0017】
実施例、比較例の結果からわかるように、表面粗さ・表面欠陥・グライドアバランチのいずれでも、実施例では優れた結果を得た。ここで得られたグライドアバランチは従来の研磨材では得られない低い数値である。
【0018】
【表1】
【0019】
【発明の効果】
本発明によると、従来の研磨材組成物では得られなかった面精度が得られ、磁気ディスク用ガラス基板の場合には、磁気ヘッドの浮上高さをより下げることができ、ハードディスクの高密度化に大きく寄与し、本発明は極めて有用な研磨材組成物である。
Claims (8)
- 研磨材としてマグネシウムの塩基性塩のみを含有することを特徴とするガラス研磨用研磨材組成物。
- マグネシウムの塩基性塩が水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、各種リン酸マグネシウムから選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
- マグネシウムの塩基性塩の粒子の平均粒子径が0.1〜10μmである請求項1又は2に記載のガラス研磨用研磨材組成物。
- 研磨材組成物がスラリー状である請求項1〜3のいずれかに記載のガラス研磨用研磨材組成物。
- スラリー中のマグネシウムの塩基性塩の濃度が1〜40wt.%である請求項4に記載のガラス研磨用研磨材組成物。
- ガラスに対し研磨促進効果を有する物質を含有する請求項1〜5のいずれかに記載のガラス研磨用研磨材組成物。
- ガラスが磁気ディスク用ガラス基板である請求項1〜6のいずれかに記載のガラス研磨用研磨材組成物。
- 酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化鉄、二酸化ケイ素の少なくとも1種を主成分とする研磨材により研磨されたガラスを、請求項1〜7のいずれかに記載のガラス研磨用研磨材組成物を用いて研磨を行うことを特徴とするガラス研磨方法。
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