JP4576802B2 - アダマンタノール類の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高機能性ポリマー、合成潤滑油や可塑剤などの原料、あるいは医農薬等の有機薬品の中間体として有用なアダマンタノール類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
本発明者らは、アダマンタン類を水/有機溶媒2相系中、ルテニウム化合物と次亜塩素酸又はその塩により反応させる方法を提案した(特許文献1参照)。ルテニウム化合物は次亜塩素酸塩類により酸化され有機溶媒と親和性の高い高酸化状態のルテニウム化合物となり、有機相中でアダマンタン類を酸化する。アダマンタン類を酸化した後のルテニウム化合物は低酸化状態となり水相中に懸濁状態となるが、次亜塩素酸塩類を追加することにより再び高酸化状態とし、反応をさらに進行させることができる。この方法によりアダマンタノール類を選択的かつ高収率で得ることができる。
【0003】
この方法に用いるルテニウム化合物は、高価であるため、工業的に実施するためには、回収し再利用する必要がある。ルテニウム化合物は、反応後次亜塩素酸塩類などの酸化剤が消費された段階では水相中に懸濁状態で存在するため、回収および再利用するためには濾過装置が必要となり労力も必要であった。そこで本発明者らは、アダマンタン類を水/有機溶媒2相系中、ルテニウム化合物と次亜塩素酸塩により反応させてアダマンタノール類を製造させる方法において、反応後の混合液に酸化剤を添加してルテニウム化合物を有機相に抽出する方法を提案した(特許文献2参照)。
【0004】
この方法により触媒であるルテニウム化合物を基本的には液の移送・攪拌のみで分離回収することができる。しかしながら、生成したアダマンタノール類が有機相に溶解する場合は、▲1▼反応後の混合液に酸化剤を添加してルテニウム化合物を有機相に抽出する工程に加え、▲2▼ルテニウム化合物を抽出した有機相にアルカリ水を添加してルテニウム化合物を水相に再抽出する工程、▲3▼ルテニウム化合物を再抽出した水相に還元剤を加えてルテニウム化合物を沈殿化し濾過する工程などを実施することにより生成したアダマンタノール類と分離して回収する必要があった。また、有機相中にも微量のルテニウム化合物が高酸化状態で溶解しているため、これを除去するためには還元剤を添加することにより微粉化させ濾過するなどの処置が必要であった。
【0005】
【特許文献1】
特開2000−219646号公報
【特許文献2】
特開2001−31603号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記アダマンタノール類の製造において、より簡便にルテニウム化合物を分離回収することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、ルテニウム化合物の分離回収について鋭意検討した結果、▲1▼反応後の混合液を有機相と水相に分離する工程、▲2▼水相に酸化剤および有機溶媒を添加してルテニウム化合物を有機相に抽出する工程により簡便にルテニウム化合物を分離回収できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、アダマンタン類を水/有機溶媒2相系でルテニウム化合物および次亜塩素酸塩類により反応させてアダマンタノール類を製造する方法において、反応後の混合液を有機相と水相に分離した後、水相に酸化剤および有機溶媒を添加してルテニウム化合物を有機相に抽出することを特徴とするアダマンタノール類の製造方法に関するものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明において原料として用いられるアダマンタン類は、下記一般式で表されるものである。
【0010】
【化1】
(式中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基を示す)
【0011】
ここでアルキル基には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル基などの炭素数1〜10アルキル基、好ましくは炭素数1〜6アルキル基、特に炭素数1〜4アルキル基が含まれる。アリール基には、フェニル基、ナフチル基等が含まれ、シクロアルキル基には、シクロヘキシル、シクロオクチル基等が含まれる。アルコキシ基には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜10アルコキシ基が含まれる。アリールオキシ基には、例えば、フェノキシ基等が含まれる。アシルオキシ基には、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ基等の炭素数2〜6アシルオキシ基等が含まれる。ハロゲン基には、クロル基、ブロム基、ヨード基等が含まれる。
【0012】
本発明のアダマンタノール類は、アダマンタノール、アダマンタンジオール、アダマンタントリオール等が含まれ、例えば、1−アダマンタノール、1,3−アダマンタンジオール等が挙げられる。これらは置換基を有していてもよい。
【0013】
本発明のルテニウム化合物は、ルテニウム金属、二酸化ルテニウム、四酸化ルテニウム、水酸化ルテニウム、塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、ヨウ化ルテニウム、硫酸ルテニウムまたはそれらの水和物等を単独または混合物で用いることができる。ルテニウム化合物は、原料のアダマンタン1モルに対して0.005〜2.0モル、より好ましくは0.01〜0.2の割合で使用する。使用量がこの範囲より少ないと反応速度が低下し、多いと高価なルテニウム化合物を多量に使用することになり、共に工業的見地から好ましくない。
【0014】
本発明に用いる次亜塩素酸塩類としては、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。
次亜塩素酸塩類は、6〜35重量%の水溶液として使用する。次亜塩素酸塩類の濃度がこの範囲より低いと水相の量が多くなり、生成物の水相からの抽出効率が低下し、廃液処理にも負担をかける。一方、次亜塩素酸塩類の濃度がこの範囲より高いと副反応が起こりやすくなりアダマンタノール類の収率が低下する。
【0015】
次亜塩素酸塩類の添加量は、アダマンタン類1モルに対し、0.5〜4.0モル、好ましくは1.0〜3.0モルの範囲とする。
【0016】
反応中のpHは3〜10の範囲で任意に選ぶことができる。pHが10を超えると触媒活性の低い過ルテニウムイオンが生成するため好ましくない。また、pHが3を下回ると塩素が発生し、反応に悪影響を及ぼす。
【0017】
反応中のpHを調整するために酸を添加することができる。添加する酸としては、水溶性の酸である蟻酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸のいずれでも良いが、生成物の精製から考えると無機酸が好ましく、反応に影響を与える可能性が低い塩酸および硫酸が更に好ましい。用いる酸の濃度に特に制限はない。
【0018】
本発明において反応に使用する有機溶媒としては、水との相溶性が低く、高酸化状態のルテニウムの溶解性が高く、本発明の反応に対し不活性な溶媒を選択する。相溶性が高いと溶媒回収コストが上昇し、高酸化状態のルテニウムの溶解性が低いと反応が進行しにくくなる。そのような有機溶媒の例としては、ハロゲン化アルキル類[例えばジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素など]、エステル類[例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなど]、炭化水素類[例えばヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなど]の溶媒を挙げることができる。この中で特に1,2−ジクロロエタン、酢酸エチルが好ましい。これらの溶媒は、単独でも2種以上の溶媒を混合した系でも使用できる。溶媒は、原料として用いるアダマンタン1重量部に対して、1〜50重量部、好ましくは3〜10重量部の割合で使用する。
【0019】
反応温度は10〜100℃、好ましくは30〜70℃の範囲である。反応温度がこの範囲よりも低い場合は反応速度が著しく低下し、逆に高い場合は、次亜塩素酸塩の分解や副反応の増加による選択率の低下が起こり、いずれも不利になる場合が多い。使用する反応器は、特に制限はなく公知の攪拌機付き反応器で行うことができる。
【0020】
本発明では、反応後の混合液にアルカリを添加し、反応水相のpHを7以上にすることによりルテニウム化合物を水相側に分離後、生成したアダマンタノール類を有機相として分離する。添加するアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムもしくは水酸化バリウム等の金属水酸化物、またはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシドもしくはテトラブチルアンモニウムヒドロキシド等のテトラアルキルアンモニウムヒドロキシドが挙げられる。
この中で水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。添加するアルカリの濃度は特に制限はなくそのまま添加しても、予めアルカリの水溶液を調製し、この水溶液を滴下してもよい。アルカリの量は反応水相のpHが7以上になるように添加する。
【0021】
アダマンタノール類がアダマンタンジオール類、アダマンタントリオール類など、反応に使用した溶媒に対する溶解度が低い場合や、水に対する溶解度が高い場合は、抽出溶媒を添加して有機相に抽出することができる。抽出溶媒としては、炭素数4〜8のアルコールが好ましい。炭素数4〜8のアルコールとしては1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、3−メチル−1−ブタノールまたはベンジルアルコールなどが挙げられる。有機相からは、濾過、濃縮、蒸留、晶析、再結晶等の公知方法でアダマンタノール類が分離される。添加する抽出溶媒量は反応水相に対して重量比で0.1〜10倍、好ましくは0.2〜5倍であり、反応水相から繰り返し抽出することもできる。
【0022】
本発明では、生成したアダマンタノール類を分離後の水相に酸化剤と有機溶媒を添加する。酸化剤を添加することにより水相中に懸濁状態で存在していたルテニウム化合物が有機溶媒と親和性の高い高酸化状態のルテニウム化合物となり有機相に抽出回収される。
【0023】
酸化剤としては、ハロゲン、ハロゲン酸、及びその塩類、酸素、過酸、過硫酸及びその塩、並びにフェリシアン化塩からなる群から選ばれる少なくとも一種が用いられる。具体的には、塩素、臭素等のハロゲン分子;一酸化二塩素、二酸化塩素、一酸化二臭素等の酸化ハロゲン;過ヨウ素酸、過塩素酸等の過ハロゲン酸及びその塩;臭素酸、塩素酸等のハロゲン酸及びその塩;亜臭素酸、亜塩素酸等の亜ハロゲン酸及びその塩;次亜臭素酸、次亜塩素酸、次亜塩素酸ナトリウム等の次亜ハロゲン酸及びその塩;分子状酸素;過酸化水素;過蟻酸、過酢酸、過安息香酸等の過酸;クメンヒドロペルオキシド、ベンジルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド;tert−ブチルベンジルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド等のペルオキシド;ペルオキシ二硫酸、カロー酸等の過硫酸及びその塩;フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウム等のフェリシアン化塩が挙げられる。これらの酸化剤のうち、入手の容易さ、価格及び反応の後処理等を考慮すると、反応と同一の酸化剤である次亜塩素酸塩類を用いるのが好ましい。
【0024】
酸化剤の添加量は、ルテニウム化合物1モルに対し、0.01〜50モル、好ましくは0.05〜30モルの範囲である。添加量がこの範囲より少ない場合は、酸化剤および有機溶媒を添加後の混合液を分液している間にルテニウム化合物が高酸化状態を維持できなくなり、ルテニウム化合物が水相に移ってしまう。一方、この範囲より多い場合は水相中の酸化剤濃度が高くなり、廃水処理コストが上昇する。
【0025】
有機溶媒としては、前に記載した反応に使用できる有機溶媒であれば特に制限はないが、反応溶媒と同一の溶媒を使用して、触媒を有機溶液のまま次の反応に再利用することが好ましい。触媒回収に用いる有機溶剤の量は水相に対し重量比で0.05〜10倍、好ましくは0.1〜5倍であり、水相から繰り返し抽出することもできる。
【0026】
抽出温度は、高温なほど抽出速度が高くなるが、高酸化状態のルテニウム化合物の揮発性から、適用する温度は常圧において0〜100℃、好ましくは10〜80℃である。
【0027】
抽出する際の水相のpHは3〜10、好ましくは3〜7に調節する。pHが10を超えると水溶性の過ルテニウムイオン(RuO4 -)が生成し抽出効率が低下する。また、pHが3を下回ると塩素が発生する。
【0028】
水相のpHを調整するために酸を添加することができる。添加する酸としては、水溶性の酸である蟻酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸のいずれでも良いが、有機相への混入を考えると無機酸が好ましい。用いる酸の濃度に特に制限はない。
【0029】
有機相と水相の混合・分液には、攪拌機付きの反応槽の他、単段又は多段のミキサーセトラー、抽出塔等の公知の抽出装置を使用することができる。
【0030】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0031】
実施例1
攪拌機、温度計、ジムロート冷却器、pH電極をつけた3lの5つ口ジャケット付きフラスコにアダマンタン65.5g(482mmol)、酢酸エチル434g、塩化ルテニウム・n水和物3.18g(ルテニウム含有量1.37g)、水77gを仕込んだ後、46℃に加温した。pHコントローラーに次亜塩素酸ナトリウム注入用定量ポンプ及び硫酸注入用ポンプを接続し、pH5を維持するように両者を滴下していき、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を376g(627mmol)添加した。
【0032】
次亜塩素酸ナトリウムの添加終了後、25重量%NaOH13gを加えることにより、ルテニウム触媒をスラリーとして水相側に移動させた。有機相および水相をガスクロマトグラフィーで分析した結果 、アダマンタンの転化率は83%、1−アダマンタノール収率は52%、1,3−アダマンタンジオール収率は20%であった。
【0033】
アダマンタノール類を含む有機相を分液後、ルテニウム触媒を含む水相に酢酸エチル200g、次亜塩素酸ナトリウム水溶液30gを加えて攪拌し、酢酸エチル相と水相に分液した。ルテニウムは酢酸エチル相に1.29g、水相に0.08g含まれていた。
【0034】
実施例2
攪拌機、温度計、ジムロート冷却器、pH電極をつけた3lの5つ口ジャケット付きフラスコにアダマンタン65.5g(482mmol)、酢酸エチル434g、塩化ルテニウム・n水和物3.18g(ルテニウム含有量1.37g)、水77gを仕込んだ後、46℃に加温した。pHコントローラーに次亜塩素酸ナトリウム注入用定量ポンプ及び硫酸注入用ポンプを接続し、pH5を維持するように両者を滴下していき、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を720g(1.2mol)添加した。
【0035】
次亜塩素酸ナトリウムの添加終了後、25重量%NaOH13gを加えることにより、ルテニウム触媒をスラリーとして水相側に移動させた。ヘキサノール540gを添加してアダマンタンジオール類を溶解し、有機相と水相を分離した。
ガスクロマトグラフィーで分析した結果 、アダマンタンの転化率は100%、1−アダマンタノール収率は7%、1,3−アダマンタンジオール収率は70%、1,3,5−アダマンタントリオール収率は16%であった。
【0036】
ルテニウム触媒を含む水相に酢酸エチル200g、次亜塩素酸ナトリウム水溶液30gを加えて攪拌後、酢酸エチル相と水相に分液した。ルテニウムは酢酸エチル相に1.29g、水相に0.08g含まれていた。さらに水相に酢酸エチル200g、次亜塩素酸ナトリウム水溶液3.0gを加えて攪拌後、酢酸エチル相と水相に分液したところ、ルテニウムは酢酸エチル相に0.073g、水相に0.007g含まれていた。
【0037】
実施例3
実施例2で分離回収した酢酸エチル相に塩化ルテニウム・n水和物0.016g補充し、アダマンタン65.5g(482mmol)、水77gを仕込んだ後、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を720g(1.2mol)添加することにより実施例2と同様に反応を行い、有機相と水相をガスクロマトグラフィーで分析した結果、アダマンタンの転化率は100%、1−アダマンタノール収率は7%、1,3−アダマンタンジオール収率は70%、1,3,5−アダマンタントリオール収率は16%であった。
【0038】
【発明の効果】
本発明により、触媒であるルテニウム化合物を簡便に再利用可能であり、アダマンタノール類を効率的に製造することができる。
Claims (4)
- アダマンタン類を水/有機溶媒2相系でルテニウム化合物および次亜塩素酸塩類により反応させてアダマンタノール類を製造する方法において、反応後の混合液にアルカリを添加しルテニウム化合物を水相側に分離させ、その後、有機相と水相に分離した後、水相に酸化剤および有機溶媒を添加してルテニウム化合物を有機相に抽出することを特徴とするアダマンタノール類の製造方法。
- 反応後の混合液に抽出溶媒を添加して生成したアダマンタノール類を有機相に抽出する請求項1記載のアダマンタノール類の製造方法。
- 抽出溶媒が炭素数4〜8のアルコールである請求項3記載のアダマンタノール類の製造方法。
- 抽出した触媒を有機溶液のまま次の反応に再利用する請求項1記載のアダマンタノール類の製造方法。
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