JP4171879B2 - アダマンタンジオール類の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高機能性ポリマー、合成潤滑油や可塑剤などの原料、あるいは医農薬等の有機薬品の中間体として有用なアダマンタンジオール類の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
本発明者らは、特開2000−219646号公報において、アダマンタン類を水/有機溶媒2相系中、ルテニウム化合物と次亜塩素酸又はその塩により反応させる方法を提案した。この方法によりアダマンタンジオール類を選択的かつ高収率で得ることができる。
【0003】
さらに、特開2000−344696号公報において、アダマンタン類を水/有機溶媒2相系中、ルテニウム化合物と次亜塩素酸又はその塩により反応させた後、抽出溶媒として炭素数4〜8のアルコールを添加し、生成したアダマンタンジオール類を抽出する方法を提案した。この方法によりアダマンタンジオール類の単離操作が簡便となり、より効率的にアダマンタンジオール類を製造することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記アダマンタンジオール類の製造において、有機溶媒を回収し再利用することにより、さらに効率よくアダマンタンジオール類を製造する方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、有機溶媒の再利用について鋭意検討した結果、有機溶媒中のアルコール含有量を一定の割合以下にすることにより有機溶媒を再利用できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、アダマンタン類を水/有機溶媒2相系でルテニウム化合物および次亜塩素酸塩類により反応させて、反応後の混合液に炭素数4〜8のアルコールを添加してアダマンタンジオール類を抽出してアダマンタンジオール類を製造する方法において、反応後の混合液から有機溶媒を回収して、回収した有機溶媒を反応に再利用するとき、再利用する有機溶媒中のアルコール含有率が0.5重量%以下であることを特徴とするアダマンタンジオール類の製造方法に関するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明において原料として用いられるアダマンタン類は、下記一般式で表されるものである。
【0008】
【化1】
(式中、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、ハロゲン基を示す)
【0009】
ここでアルキル基には、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル基などの炭素数1〜10アルキル基、好ましくは炭素数1〜6アルキル基、特に炭素数1〜4アルキル基が含まれる。アリール基には、フェニル基、ナフチル基等が含まれ、シクロアルキル基には、シクロヘキシル、シクロオクチル基等が含まれる。アルコキシ基には、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜10アルコキシ基が含まれる。アリールオキシ基には、例えば、フェノキシ基等が含まれる。アシルオキシ基には、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチリルオキシ基等の炭素数2〜6アシルオキシ基等が含まれる。ハロゲン基には、クロル基、ブロム基、ヨード基等が含まれる。
【0010】
本発明のアダマンタンジオール類は、1,3−アダマンタンジオール、1,2−アダマンタンジオール、1,4−アダマンタンジオールが挙げられ、これらは置換基を有していてもよい。
【0011】
本発明のルテニウム化合物は、ルテニウム金属、二酸化ルテニウム、四酸化ルテニウム、水酸化ルテニウム、塩化ルテニウム、臭化ルテニウム、ヨウ化ルテニウム、硫酸ルテニウムまたはそれらの水和物等を単独または混合物で用いることができる。ルテニウム化合物は、原料のアダマンタン1モルに対して0.005〜2.0モル、より好ましくは0.01〜0.2の割合で使用する。使用量がこの範囲より少ないと反応速度が低下し、多いと高価なルテニウム化合物を多量に使用することになり、共に工業的見地から好ましくない。
【0012】
本発明に用いる次亜塩素酸塩類としては、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。次亜塩素酸塩類は、6〜35重量%の水溶液として使用する。次亜塩素酸塩類の濃度がこの範囲より低いと水相の量が多くなり、生成物の水相からの抽出効率が低下し、廃液処理にも負担をかける。一方、次亜塩素酸塩類の濃度がこの範囲より高いと副反応が起こりやすくなりアダマンタンジオール類の収率が低下する。
【0013】
次亜塩素酸塩類の添加量は、アダマンタン類1モルに対し、1.5〜4.0モル、好ましくは2.0〜3.0モルの範囲とする。次亜塩素酸塩類の添加量がこの範囲より少ない場合は未反応の基質あるいはアダマンタンモノオール類が大量に残り、アダマンタンジオール類の選択率が低い。一方、添加量がこの範囲より多い場合は、アダマンタントリオール類生成などの副反応の割合が増え、やはりアダマンタンジオール類の選択率が低下する。
【0014】
本発明の方法において、効率的かつ高収率でアダマンタンジオール類を得るためには、次亜塩素酸塩は一度に添加せずに滴下しながら反応することが好ましい。一度に添加すると副反応の割合が増え、アダマンタン類およびアダマンタンモノオール類の転化率が低下する。
【0015】
反応中のpHは3〜10の範囲で任意に選ぶことができる。pHが10を超えると触媒活性の低い過ルテニウムイオンが生成するため好ましくない。また、pHが3を下回ると塩素が発生し、反応に悪影響を及ぼす。
【0016】
反応中のpHを調整するために酸を添加することができる。添加する酸としては、水溶性の酸である蟻酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸のいずれでも良いが、生成物の精製から考えると無機酸が好ましく、反応に影響を与える可能性が低い塩酸および硫酸が更に好ましい。用いる酸の濃度に特に制限はない。
【0017】
本発明において使用する有機溶媒としては、水との相溶性が低く、高酸化状態のルテニウムの溶解性が高く、本発明の反応に対し不活性な溶媒を選択する。相溶性が高いと溶媒回収コストが上昇し、高酸化状態のルテニウムの溶解性が低いと反応が進行しにくくなる。そのような有機溶媒の例としては、ハロゲン化アルキル類[例えばジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素など]、エステル類[例えば酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなど]、炭化水素類[例えばヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタンなど]の溶媒を挙げることができる。この中で特に1,2−ジクロロエタン、酢酸エチルが好ましい。これらの溶媒は、単独でも2種以上の溶媒を混合した系でも使用できる。溶媒は、原料として用いるアダマンタン1重量部に対して、1〜50重量部、好ましくは3〜10重量部の割合で使用する。
【0018】
反応温度は10〜100℃、好ましくは30〜70℃の範囲である。反応温度がこの範囲よりも低い場合は反応速度が著しく低下し、逆に高い場合は、次亜塩素酸塩の分解や副反応の増加によるアダマンタンジオール類選択率の低下が起こり、いずれも不利になる場合が多い。反応時間は、100〜600分が好ましい。使用する反応器は、特に制限はなく公知の攪拌機付き反応器で行うことができる。
【0019】
反応後の混合液にアルカリを添加し、ルテニウム化合物を水相に分離後、炭素数4〜8のアルコールを添加して抽出することにより、アダマンタンジオール類とルテニウム化合物がそれぞれ有機相と水相に分離され、アダマンタンジオール類が有機相から得られる。炭素数4〜8のアルコールとしては1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、3−メチル−1−ブタノールまたはベンジルアルコールが好ましい。有機相からは、濾過、濃縮、蒸留、晶析、再結晶等の公知方法でアダマンタンジオール類が分離される。また、水相のルテニウム化合物は濾過もしくは酸化状態にして有機溶媒で抽出することにより、反応に再利用することができる。
【0020】
有機溶媒の回収方法について、抽出溶媒として用いたアルコールの含有率を0.5重量%以下にする必要がある。アルコールの含有率が0.5重量%を超えると反応収率が低下してしまう。具体的な回収方法として、前記のアルコール抽出後の有機相から蒸留により回収することが挙げられる。また、別法として、反応混合液へのアルコールの添加前に蒸留により回収することが挙げられる。
【0021】
一方、抽出溶媒の再利用に関しては、有機溶媒の混入量に関係なく次反応に再利用可能である。
【0022】
【実施例】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0023】
参考例1
攪拌機、温度計、ジムロート冷却器、pH電極をつけた3lの5つ口ジャケット付きフラスコにアダマンタン65.5g(482mmol)、酢酸エチル434g、塩化ルテニウム・n水和物3.18g、水77gを仕込んだ後、46℃に加温した。pHコントローラーに次亜塩素酸ナトリウム注入用定量ポンプ及び硫酸注入用ポンプを接続し、pH5を維持するように両者を滴下していき、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を720g(1.2mol)添加した。
【0024】
次亜塩素酸ナトリウムの添加終了後、25重量%NaOH13gを加えて水相を中和した。ヘキサノール540gを添加してアダマンタンジオール類を溶解し、有機相と水相を分離した。ガスクロマトグラフィーで分析した結果 、アダマンタンの転化率は100%、1−アダマンタノール収率は7%、1,3−アダマンタンジオール収率は70%、1,3,5−アダマンタントリオール収率は16%であった。有機相を濃縮し、ヘキサノールを8%含む酢酸エチルを留分として420g得た。これをさらに段数20の精留塔により精製しヘキサノールを0.12%含む酢酸エチル380gを回収した。
【0025】
回収した酢酸エチルを用いた以外は、上記と同様に再度反応および後処理を行い有機相および水相をガスクロマトグラフィーで分析した結果 、アダマンタンの転化率は100%、1−アダマンタノール収率は9%、1,3−アダマンタンジオール収率は70%、1,3,5−アダマンタントリオール収率は14%であった。
【0026】
参考例2
参考例1と同様に反応、抽出および濃縮後、濃縮の際に得られた留分を段数20の精留塔により精製しヘキサノールを0.46%含む酢酸エチル380gを回収した。回収した酢酸エチルを用いた以外は、上記と同様に再度反応および後処理を行い有機相および水相をガスクロマトグラフィーで分析した結果、アダマンタンの転化率は100%、1−アダマンタノール収率は13%、1,3−アダマンタンジオール収率は59%、1,3,5−アダマンタントリオール収率は14%であった。
【0027】
比較例1
参考例1と同様に反応、抽出および濃縮後、濃縮の際に得られた留分を段数10の精留塔により精製しヘキサノールを0.9%含む酢酸エチル380gを回収した。回収した酢酸エチルを用いた以外は、上記と同様に再度反応および後処理を行い有機相および水相をガスクロマトグラフィーで分析した結果、アダマンタンの転化率は100%、1−アダマンタノール収率は49%、1,3−アダマンタンジオール収率は35%、1,3,5−アダマンタントリオール収率は6%であった。
【0028】
比較例2
参考例1と同様に反応、抽出および濃縮後、濃縮の際得られたヘキサノールを8%含む酢酸エチル420gを用いた以外は参考例1と同様に再度反応を行ったが、アダマンタンジオールの生成は確認できなかった。
【0029】
実施例1
参考例1と同様に反応を行い、25重量%NaOH13gを加えて水相の中和を行った。次に混合液を50℃に加熱し常圧から徐々に200torrまで減圧することにより酢酸エチル420gおよび水30gを留去した。ヘキサノール540gを添加してアダマンタンジオール類を溶解し、有機相と水相を分離した。ガスクロマトグラフィーで分析した結果、アダマンタンの転化率は100%、1−アダマンタノール収率は7%、1,3−アダマンタンジオール収率は70%、1,3,5−アダマンタントリオール収率は16%であった。
【0030】
留去した酢酸エチルを用いた以外は、参考例1と同様に再度反応および後処理を行い有機相および水相をガスクロマトグラフィーで分析した結果、アダマンタンの転化率は100%、1−アダマンタノール収率は9%、1,3−アダマンタンジオール収率は70%、1,3,5−アダマンタントリオール収率は14%であった。
【0031】
【発明の効果】
本発明により、有機溶媒を簡便に回収、再利用が可能であり、アダマンタンジオール類を効率的に製造することができる。
Claims (1)
- (1)アダマンタン類を水/有機溶媒2相系でルテニウム化合物および次亜塩素酸塩類により反応させる工程、
(2)反応後の混合液にアルカリを添加する工程、
(3)アルカリ添加後の反応混合液を蒸留して有機溶媒を留去する工程、
(4)有機溶媒を留去した反応混合液に炭素数4〜8のアルコールを添加してアダマンタンジオール類を抽出する工程、
(5)留去した有機溶媒を反応に再利用する工程からなるアダマンタンジオール類の製造方法。
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