JP4393589B2 - 空気入りタイヤの設計方法 - Google Patents
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Description
本発明は、空気入りタイヤの設計方法にかかり、特に、タイヤの単一目的性能、二律背反性能等を達成するタイヤの構造、形状等の設計開発を効率的にかつ容易に設計することができる空気入りタイヤの設計方法に関する。
背景技術
従来のタイヤ設計方法は、実験及び計算機を用いた数値実験の繰り返しによる経験則から成り立っていた。このため、開発に必要な試作・試験の件数が膨大なものとなり、開発コストがアップし、開発期間もなかなか短縮できなかった。
例えば、タイヤのクラウン部形状は、タイヤの回転軸を含む断面において、数個の円弧によって設計されている。円弧の値は、数個のモールドを作成し、このモールドによるタイヤを試作・評価したデータから決定したり、数値実験を数多く行い決定したりしていたため、開発効率が良くなかった。
また、パターン設計は、自由度が大きいので、基本パターン案をタイヤにグルービングしたり実際にモールドを作成した後にタイヤを試作して実車評価し、実車で生じた問題は基本パターン案を微修正することによって解決して最終的パターンに仕上げていた。このため、パターン設計は、タイヤ形状、構造設計に比較して最も工数を要する分野となっていた。
ところで、空気入りタイヤは、雨天走行時に発生するハイドロプレーニング現象の防止や、ブレーキ及びトラクション性能を確保するために、一般的にはタイヤ周方向のリブ溝とタイヤ径方向のラグ溝が配置されており、これらリブ溝とラグ溝に囲まれた島状陸部を有する、所謂ブロック・パターンが一般的である。
このようなブロックパターンでは、タイヤの運動性能、一般的には直進性能と、コーナリング性能との両者の性能が必要である。直進性能はタイヤ周方向のグリップ力が要求され、比較的固いゴムが適している。ところが、コーナリング性能は、タイヤ幅方向のグリップ力が要求され、コーナリング時のグリップ力を高めるために、比較的柔らかいゴムが適しており、柔らかいゴムによってエネルギーロスを大きくすることが必要であり、二律背反している。
このため、二律背反する複数の性能を得ようとするものとして、トレッドを幅方向に分割し、コーナリング時の寄与が大きいトレッド両端部付近には柔らかいトレッドゴムを使用し、かつ、直進時に寄与が大きいトレッド中央域には固いトレッドゴムを使用する、所謂幅方向分割トレッドが提案されている(特公昭58−50883号、特公昭63−23925号公報参照)。
しかしながら、従来のように、幅方向分割トレッドを備えたタイヤは、タイヤの生産性が劣ると共に、分割境界面での偏磨耗やセパレーションが発生するという問題がある。
また、上記のように、タイヤトレッド部の接地面におけるブロック形状は、ハイドロプレーニング現象の防止や、ブレーキ及びトラクション性能、及び消費者の美的外観にマッチさせたデザイン的な要求から決定されることが多く、設計時の自由度は非常に少ない。
本発明は、上記事実を考慮して、ある単一の性能または二律背反する複数の性能を得ようとするとき、与えられた条件でタイヤのベストモードを設計することができると共に、タイヤの設計・開発を高効率化することができる空気入りタイヤの設計方法を提供することを目的である。
発明の開示
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明の空気入りタイヤの設計方法は、(a)内部構造を含むブロック単体の形状、内部構造を含むタイヤクラウン部のうちの1部のパターン形状、及び内部構造を含むタイヤ周方向に連続する陸部の形状のうち選択された1つの形状を表す形状基本モデルと、前記形状基本モデルに関連すると共に剛性に関係するタイヤ性能評価用物理量を表す目的関数と、前記選択された1つの形状を決定するためのタイヤ陸部の面に連結された面の角度またはサイプ形状を表す変数を含む設計変数と、前記選択された1つの形状、タイヤ断面形状及びタイヤ性能評価用物理量の少なくとも1つを制約する制約条件とを定めるステップ、(b)前記制約条件を考慮しながら、前記タイヤ陸部の面に連結された面の角度またはサイプ形状を変化させたときに関係する剛性についての前記目的関数の最適値が与えられるまで設計変数の値を変化させながら演算することにより設計変数の値を求めるステップ、(c)前記ステップ(b)で求めた設計変数の値に基づいて前記選択された1つの形状によりタイヤを設計するステップ、を含んでいる。
また、前記目的関数は、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向の剛性に関係する。
また、前記サイプ形状は、サイプの位置、本数、幅、深さ、傾き、形状及び長さの少なくとも1つを表す。
また、前記ステップ(b)は、予め定めたサイプの本数に対して異なるサイプの本数でサイプ形状を変化させたときの剛性について前記目的関数の最適値が与えられるまで設計変数の値を変化させる。
また、前記ステップ(b)は、前記目的関数の最小値が与えられるまで設計変数の値を変化させる。
請求項6に記載の発明は、請求項1の空気入りタイヤの設計方法であって、前記ステップ(b)では、設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数の感度及び設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件の感度に基づいて制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の変化量を予測すると共に、設計変数を予測量に相当する量変化させたときの目的関数の値及び設計変数を予測量に相当する量変化させたときの制約条件の値を演算し、予測値と演算値とに基づいて、制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求めることを特徴としている。
請求項7に記載の発明は、請求項1の空気入りタイヤの設計方法であって、前記ステップ(a)では、内部構造を含むブロック単体の形状、内部構造を含むタイヤクラウン部のうちの1部のパターン形状、及び内部構造を含むタイヤ周方向に連続する陸部の形状のうち選択された1つの形状を表す複数個の形状基本モデルからなる選択対象集団を定め、該選択対象集団の各形状基本モデルについて、前記目的関数、前記設計変数、前記制約条件、及び目的関数と制約条件とから評価できる適応関数を定め、前記ステップ(b)では、適応関数に基づいて前記選択対象集団から2つの形状基本モデルを選択し、所定の確率で各形状基本モデルの設計変数を交叉させて新規の形状基本モデルを生成すること及び少なくとも一方の形状基本モデルの設計変数の一部を変更させて新規の形状基本モデルを生成することの少なくとも一方を行い、設計変数を変化させた形状基本モデルの目的関数、制約条件及び適応関数を求めて該形状基本モデル及び設計変数を変化させなかった形状基本モデルを保存しかつ保存した形状基本モデルが所定数になるまで繰り返し、保存した所定数の形状基本モデルからなる新規集団が所定の収束条件を満たすか否かを判断し、収束条件を満たさないときには該新規集団を前記選択対象集団として該選択対象集団が所定の収束条件を満たすまで繰り返すと共に、該所定の収束条件を満たしたときに保存した所定数の形状基本モデルのなかで制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求めることを特徴としている。
請求項8に記載の発明は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の空気入りタイヤの設計方法であって、前記設計変数は、ブロック単体の形状、パターン形状及び陸部の形状のうち選択された1つの形状によって形成されるべきタイヤ陸部の面に連結された面の角度、前記タイヤ陸部の面までの高さ、前記タイヤ陸部の面の形状、前記タイヤ陸部の面に連結された面の形状、サイプの位置、本数、幅、深さ、傾き、形状及び長さのサイプ形状、の少なくとも1つを表す変数を含んでいることを特徴する。
請求項1の発明のステップ(a)では、内部構造を含むブロック単体の形状、内部構造を含むタイヤクラウン部のうちの1部のパターン形状、及び内部構造を含むタイヤ周方向に連続する陸部の形状のうち選択された1つの形状を表す形状基本モデルと、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数と、ブロック単体の形状またはパターン形状もしくは陸部の形状を決定する設計変数と、ブロック単体の形状、パターン形状及び陸部の形状のうち選択された1つの形状、タイヤ断面形状及びタイヤ性能評価用物理量の少なくとも1つを制約する制約条件とを定める。
ブロック単体の形状を表す形状基本モデルとしては、ブロック単体の外面形状を特定するためのラインを表す関数や変曲点の座標値を表す変数から構成することができる。また、内部構造を含むタイヤクラウン部のうちの1部のパターン形状を表す形状基本モデルとしては、タイヤクラウン部のうちの1つの陸部の路面接地側のパターン形状を幾何学的に解析可能な関数、例えば長方形や菱形等の多角形を定めるための関数で構成できる。また、内部構造を含むタイヤ周方向に連続する陸部の形状を表す形状基本モデルとしては、タイヤ断面形状を表すラインを表す関数や変曲点の座標値を表す変数から構成することができる。
これら各形状基本モデルには、パターン形状及び陸部の形状のうち選択された1つの形状によって形成されるべきタイヤ陸部の面に連結された面の角度、タイヤ陸部の面までの高さ、タイヤ陸部の面の形状、タイヤ陸部の面に連結された面の形状、サイプの位置、本数、幅、深さ、傾き、形状及び長さのサイプ形状、の少なくとも1つを含ませることができる。さらに、形状基本モデルは、複数の要素に分割する有限要素法と呼ばれる手法によるモデルを用いても良く解析的手法によるモデルを用いても良い。
性能評価用物理量を表す目的関数としては、ブロック剛性等のタイヤの運動性能の優劣を支配する物理量を使用することができる。ブロック単体の形状またはパターン形状もしくは陸部の形状を決定する設計変数は、請求項8にも記載したように、パターンを決定するものとして、ブロック単体の形状、パターン形状及び陸部の形状のうち選択された1つの形状によって形成されるべきタイヤ陸部の面に連結された面の角度(すなわちブロック単体ならブロック溝壁角度)、前記タイヤ陸部の面までの高さ(すなわち溝が形成されるなら溝深さ)、前記タイヤ陸部の面の形状、前記タイヤ陸部の面に連結された面の形状、サイプの位置、本数、幅、深さ、傾き、形状及び長さのサイプ形状、の少なくとも1つを表す変数を用いることができる。制約条件としては、トレッド厚の制約、ブロック剛性の制約、タイヤに形成される陸部の側面の角度(例えばブロック単体ならブロック溝壁角度)の制約等がある。なお、目的関数、設計変数及び制約条件は、上記の例に限られるものではなく、タイヤ設計目的に応じて種々のものを定めることができる。
次のステップ(b)では、制約条件を考慮しながら、目的関数の最適値が与えられるまで設計変数の値を変化させながら演算することにより設計変数の値を求める。この場合には、請求項6にも記載したように、設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数の感度及び設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件の感度に基づいて制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の変化量を予測すると共に、設計変数を予測量に相当する量変化させたときの目的関数の値及び設計変数を予測量に相当する量変化させたときの制約条件の値を演算し、予測値と演算値とに基づいて制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求めると効果的である。これによって、制約条件を考慮し目的関数の値が最適になるときの設計変数の値が求められる。
そしてステップ(c)では、目的関数の最適値を与える設計変数に基づいて形状基本モデル等を変更することによりタイヤを設計する。
請求項7では、前記ステップ(a)において、内部構造を含むブロック単体の形状、内部構造を含むタイヤクラウン部のうちの1部のパターン形状、及び内部構造を含むタイヤ周方向に連続する陸部の形状のうち選択された1つの形状を表す複数個の形状基本モデルからなる選択対象集団を定め、該選択対象集団の各形状基本モデルについて、前記目的関数、前記設計変数、前記制約条件、及び目的関数と制約条件とから評価できる適応関数を定める。
次に、ステップ(b)において、適応関数に基づいて前記選択対象集団から2つの形状基本モデルを選択し、所定の確率で各形状基本モデルの設計変数を交叉させて新規の形状基本モデルを生成すること及び少なくとも一方の形状基本モデルの設計変数の一部を変更させて新規の形状基本モデルを生成することの少なくとも一方を行い、設計変数を変化させた形状基本モデルの目的関数、制約条件及び適応関数を求めて該形状基本モデル及び設計変数を変化させなかった形状基本モデルを保存しかつ保存した形状基本モデルが所定数になるまで繰り返し、保存した所定数の形状基本モデルからなる新規集団が所定の収束条件を満たすか否かを判断し、収束条件を満たさないときには該新規集団を前記選択対象集団として該選択対象集団が所定の収束条件を満たすまで繰り返すと共に、該所定の収束条件を満たしたときに保存した所定数の形状基本モデルのなかで制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求める。この目的関数の最適値を与える設計変数の値に基づいて、ステップ(c)で形状基本モデル等を変更することによりタイヤを設計する。
この場合、ステップ(b)において、設計変数を変化させたタイヤ基本モデルについて、設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数の感度及び設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件の感度に基づいて制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の変化量を予測すると共に、設計変数を予測量に相当する量変化させたときの目的関数の値及び設計変数を予測量に相当する量変化させたときの制約条件の値を演算し、目的関数の値及び制約条件の値から適応関数を求めて該形状基本モデル及び設計変数を変化させなかった形状基本モデルを保存しかつ保存した形状基本モデルが所定数になるまで繰り返すことが更に効果的である。これによっても、制約条件を考慮し目的関数の値が最適になるときの設計変数の値が求められる。なお、目的関数及び制約条件から評価できる適応関数は、目的関数及び制約条件から形状基本モデルに対する適応度を求める関数を使用することができる。また、目的関数、設計変数、制約条件及び適応関数は、上記の例に限られるものではなく、タイヤ設計目的に応じて種々のものを定めることができる。さらに、前記の形状基本モデルの設計変数の交叉には、選択した2つの形状モデルの設計変数についてその一部または所定部位以降の設計変数を交換する方法がある。さらにまた、形状モデルの設計変数の一部の変更には、予め定めた確率等で定まる位置の設計変数を変更(突然変異)する方法がある。
以上説明したように本発明によれば、制約条件を考慮した目的関数の最適値を与える設計変数を求め、この設計変数からブロック形状やパターン等を用いてタイヤを設計できるので、従来の試行錯誤を基本として設計・開発と異なり、コンピューター計算を主体にしてベストモードの設計から設計されたタイヤの性能評価までがある程度可能となり、著しい効率化を達成でき、開発にかかる費用が削減され、使用用途に応じたタイヤを構成するブロック形状やパターンを設計することができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の実施の形態に使用されるパーソナルコンピュータの概略図である。
図2は、本発明の第1実施の形態にかかる、形状設計処理ルーチンの流れを示すフローチャートである。
図3は、設計変数を決定する角度演算ルーチンの流れを示すフローチャートである。
図4は、形状基本モデルを示す線図である。
図5は、壁面角度を説明するための説明図である。
図6は、図5の断面図である。
図7は、多数の壁面による設計変数を説明するための踏面形状を示す線図である。
図8は、面取りされたブロックの踏面形状を示す線図である。
図9は、曲面による壁面を有するブロックの踏面形状を示す線図である。
図10は、図9と異なる方向の曲面による壁面を有するブロックの断面形状を示す線図である。
図11は、第2実施の形態の設計変数決定の処理の流れを示すフローチャートである。
図12は、第2実施の形態の設計変数を説明するための説明図である。
図13は、ブロックに形成されるサイプの諸形状を示す線図である。
図14は、図13のI−I断面図である。
図15は、ブロックの中途までに形成されるサイプの長さを示す線図である。
図16は、本発明の第3実施の形態にかかる、形状設計処理ルーチンの流れを示すフローチャートである。
図17は、交叉処理の流れを示すフローチャートである。
図18は、突然変異処理の流れを示すフローチャートである。
図19Aは、連続的な山型写像関数を示す線図であり、図19Bは、線型的な山型写像関数を示す線図である。
図20Aは、連続的な谷型写像関数を示す線図であり、図20Bは、線型的な谷型写像関数を示す線図である。
図21は、第1実施例のブロック形状を示す線図である。
図22Aは、第1実施例の周方向及び幅方向に対するブロック剛性の関係を示す線図であり、図22Bは最適化後の関係を示す線図である。
図23Aは、第2実施例の3本サイプのブロック形状を示す線図であり、図23Bは、4本サイプのブロック形状を示す線図である。
図24は、第2実施例の周方向及び幅方向に対するブロック剛性の関係を示す線図である。
図25は、第3実施例のブロック形状を示す線図である。
発明を実施するための最良の形態
以下、図面を参照して本発明の実施の形態の一例を詳細に説明する。
図1には本発明の空気入りタイヤの設計方法を実施するためのパーソナルコンピュータの概略が示されている。
このパーソナルコンピュータは、データ等を入力するためのキーボード10、予め記憶されたプログラムに従って制約条件を満たしかつ目的関数を最適、例えば最大または最小にする設計変数を演算するコンピュータ本体12、及びコンピュータ本体12の演算結果等を表示するCRT14から構成されている。
〔第1実施の形態〕
次に、耐偏磨耗性と操縦安定性を向上させるために、全ての方向についてブロック剛性を均一化するブロックの形状を設計する第1実施の形態について説明する。
図2は、第1実施の形態のプログラムの処理ルーチンを示すものである。ステップ100では、タイヤ形状の1ブロックを基準形状とし、この基準形状を有限要素法等のようにブロック剛性を数値的・解析的に求めることができる手法によりモデル化し、内部構造を含むタイヤ形状を表すと共にメッシュ分割によって複数の要素に分割された形状基本モデルを求める。なお、基準形状は、タイヤ形状の1ブロックに限らず任意の形状でよい。ここで、モデル化とは、タイヤ形状、構造、材料、パターンを、数値的・解析的手法に基づいて作成されたコンピュータプログラムへのインプットデータ形式に数値化することをいう。
図4は1ブロックを用いた形状基本モデルの一例を示すもので、1ブロックは8つの点D1,D2,D3,D4,D11,D12,D13,D14で定めることができる。図中、矢印Aはタイヤ周方向を、矢印Bはタイヤ幅方向を、矢印Cはタイヤ半径方向を、示す。また、PPは1ブロックの踏面を表し、PL1,PL2,PL3,PL4は踏面形状を表すライン、D1,D2,D3,D4は踏面形状を表すラインの交点である踏面の頂点を各々示している。このモデルでは踏面PPが四角形であるため、踏面PPには壁面HP1,HP2,HP3,HP4が連結される。また、踏面PPと略平行に底面BPが形成され、壁面と底面とにより底点D11,D12,D13,D14が形成される。
なお、壁面と底面との間の間隔は所謂溝深さに対応させることもできる。また、形状基本モデルは、複数の要素に分割可能になっており、タイヤ表面の複数の法線によって複数の要素に分割してもよく、また設計目的によって3角形等の任意の形状に分割してもよい。
次のステップ102では、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数、タイヤ形状を制約する制約条件及びタイヤ形状を決定する、すなわちブロック形状を決定する設計変数を決定する。本実施の形態では、耐偏磨耗性と操縦安定性を向上させるために、目的関数OBJ及び制約条件Gを次のように定めている。
目的関数OBJ:全方向についてブロック剛性を均一にする
制約条件G :タイヤ形状を制約するトレッド厚を均一にする
なお、上記目的関数OBJとして定めた全方向についてのブロック剛性は、タイヤ上に設けられるブロックの位置を定め、タイヤ周方向の剛性からタイヤ幅方向の剛性までを周知の剛性方程式で所定角度毎に求めることができる。例えば代表的には、タイヤ周方向、幅方向、及び斜め方向の各剛性がある。それらの値とばらつき、例えば平均値と偏差から、全方向についてのブロック剛性の均一性を計算することができる。この剛性を求める方向の範囲や角度差分値を予め定めることによって、ブロック剛性について方向性を有するブロックを設計することができる。例えば、タイヤ中央部のブロックでは周方向の剛性を高くし、タイヤ側縁部のブロックでは幅方向の剛性を高くする等の方向性を有するブロックを配置に合わせて設計することができる。
また、制約条件Gとして定めたトレッド厚は、タイヤ上に設けられるブロックを有するタイヤを形成するときに、ブロックが必要とする体積以外の体積、すなわち、溝の体積から求めることができる。つまり、溝の体積に応じてタイヤ半径方向のゴム等の材料の流出量が定まり、この値からトレッド厚を推定できる。
さらに、設計変数は、本実施の形態では、壁面角度を採用しており、図3の角度演算ルーチンによって設定される。この角度演算ルーチンのステップ130では、図5に示すようにタイヤ内部の所定点(例えばタイヤ中心点)に基準点Pを設定する。次のステップ132では、ブロックの壁面を傾斜させることが可能な範囲をブロック形状を変化させる範囲として指定する。ステップ134では、踏面の頂点から隣り合う1組の点を選択することによってブロックの壁面を選択する。図5の例では点D1,D2を選択することによって壁面HP1が選択されている。次のステップ138では、選択した壁面の稜線、図5の例ではラインPL1を通過する基準点Pからの直線、すなわちタイヤ半径方向の直線を基準線として、図5及び図6に示すように、基準線と、選択した壁面HP1との成す角度θ1を演算する。
次のステップ140では、残存する踏面の頂点からの隣り合う1組の点が有るか否かを判断することで他に壁面が有るか否かを判断し、残存しステップ140で肯定判断されたときはステップ134へ戻り上記処理を繰り返す。これによって、各壁面毎に角度θ1,θ2,θ3,・・・(以下一般式でθiと表す。ただし、i=1,2,・・・壁面の最大数)が演算される。全ての壁面について角度θiが演算されると(ステップ140で否定判断)、次のステップ142において壁面角度θiを設計変数riとして設定する。
このようにして目的関数OBJ、制約条件G及び設計変数riを決定した後、図2のステップ104において、設計変数riの初期値roにおける目的関数OBJの初期値OBJo及び制約条件Gの初期値Goを演算する。
次に、図2のステップ106では、形状基本モデルを変化させるために設計変数riを各々Δriずつ変化させる。なお、この設計変数riの変化は、全設計変数riを同時に変化させてもよく、また設計変数riのうちの1つ、もしくは設計変数riのうちの複数の設計変数を同時にΔri変化させてもよい。次のステップ108では、Δri変化させた壁面の角度によって形成されるブロックの形状、すなわち壁面の角度が変化したことによる各点D1,D2,D3,D4,D11,D12,D13,D14の座標を求め、設計変数をΔri変化させた後のブロック形状、すなわち形状修正モデルを決定する。
ステップ110では、ステップ108で求めた形状修正モデルについて設計変数をΔri変化させた後の目的関数の値OBJi、制約条件の値Giを演算し、ステップ112で以下の式に従って、設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数の感度dOBJ/dri及び設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件の感度dG/driを各設計変数毎に演算する。
この感度によって、設計変数をΔri変化させたときに目的関数の値及び制約条件の値がどの程度変化するか予測することができる。なお、この感度は、タイヤのモデル化に用いた手法や設計変数の性質によっては、解析的に求められる場合があるので、その際にはステップ110の演算は不要になる。
次のステップ114では、目的関数の初期値OBJo、制約条件の初期値Go、設計変数の初期値ro及び感度を用いて、数理計画法により制約条件を満たしながら目的関数を最小にする、すなわち全方向についてブロック剛性の標準偏差を最小にする設計変数の変化量を予測する。この設計変数の予測値を用いて、ステップ115でステップ108と同様の方法により形状修正モデルを決定すると共に、目的関数値を演算する。ステップ116において、ステップ115で演算した目的関数値OBJとステップ104で演算した目的関数の初期値OBJoとの差と、予めインプットされたしきい値とを比較することで目的関数の値が収束したか否かを判断し、目的関数の値が収束していない場合にはステップ114で求められた設計変数値を初期値として、ステップ104からステップ116を繰り返し実行する。目的関数の値が収束したと判断されたときには、このときの設計変数の値をもって制約条件を満たしながら目的関数を最小にする設計変数の値とし、ステップ120においてこの設計変数の値を用いてタイヤを構成するブロック形状を決定する。
本実施の形態では、ブロックの壁面を4つの場合を例にしたが、多数の壁面が形成されたブロックへの適用も可能である。この多数の壁面が形成されたブロックは、その踏面が多角形状を形成した踏面形状を表す複数ラインを有していると考えることができる。例えば、図7に示すように、1ブロックの踏面PPaは4つの点D1,D2,D3,D4を基本として、点D2と点D3との間に点D21,D22,D23,D24を形成し、点D2と点D3とを結ぶラインPL2(図4)に代えて、ラインPL21,PL22,PL23,PL24,PL25が形成される。同様に、点D1と点D4との間に点D41,D42,D43,D44を形成し、ラインPL4に代えて、ラインPL41,PL42,PL43,PL44,PL45が形成される。従って、踏面PPaには各ラインから連続する壁面HP1,HP21,HP22,HP23,HP24,HP25,HP3,HP41,HP42,HP43,HP44,HP45が連結される。これらの壁面HP1〜HP45の少なくとも1つを設計変数に定めることができる。
また、図8に示すように、1ブロックの角を所定量だけ削った、所謂面取りしたブロック形状への適用も容易である。図8の例では、1ブロックの踏面PPbは4つの点D1,D2,D3,D4を基本として、点D1側と点D4側を面取りする場合の例である。面取り量は、ブロックの点D1側の角が削られて形成されるべき点D1A,D1B,及び点D4側の角が削られて形成されるべき点D3A,D3Bの座標を定めることで求めることができる。従って、予め面取り量を定めておけば、各削りとるべき位置、すなわち点を定めることができ、この面取りにより形成されるべき壁面を含めた壁面の少なくとも1つを設計変数に定めることができる。
なお、上記では、ブロックの壁面を形成するラインが直線の場合を説明したが、ラインは直線に限定されるものではなく、図9に示すように、所定関数で表された曲線であってもよい。図9の例では、1ブロックの踏面PPcは4つの点D1,D2,D3,D4を有するが、点D1と点D2とを結ぶラインPL1Cが所定の関数(例えば、多次元曲線や双曲線)で表され、点D3と点D4とを結ぶラインPL3Cも所定の関数(例えば、多次元曲線や双曲線)で表される。この場合、ラインPL1C,PL3Cをラグランジェ補間によって曲線形状を定めてもよく、曲線自体を設計変数として変化させてもよい。また、踏面PPcの各ラインから連続する壁面は曲面となるが、1つの壁面を微小領域(微小平面)に分割して考えて、ラグランジェ補間等を用いて壁面を定めればよい。また、図10に示すように踏面PPdに連続する壁面そのものの形状を曲面にしてもよい。
このように、本実施の形態では、ブロック単体での全方向について剛性を均一化できるので、幅方向分割トレッドを適用せずに、かつ、タイヤトレッド部の接地面におけるブロック形状に影響されることなく、コーナリング時や直進時の使用頻度や要求性能に応じて、タイヤのラグ溝形状やリブ溝形状等の適正化、及びタイヤ幅方向位置での適正化を図ることができ、タイヤの耐磨耗性と運動性能を高度に両立することができる。
〔第2実施の形態〕
次に、第2実施の形態を説明する。本実施の形態は上記実施の形態と異なる設計変数を用いたものである。なお、本実施の形態は上記実施の形態と略同様の構成のため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
本実施の形態では、設計変数は、斜角度を採用しており、図11の斜角度演算ルーチンによって設定される。この斜角度演算ルーチンのステップ150では、図12に示すようにタイヤの踏面の所定点(図12の例では頂点D1)に基準点Qを設定する。次のステップ152では、ブロックの踏面のラインを傾斜させることが可能な範囲をブロック形状(踏面形状)を変化させる範囲として指定する。ステップ154では、踏面の指定された頂点に隣り合う点のうちラインを傾斜させるための点を選択することによってブロックの壁面を選択する。図12の例では点D4を選択することによって壁面HP4に連続するラインPL4が選択される。なお、ブロック形状として対向するラインを平行に維持させるため、ラインPL4の選択に合わせて対応するラインPL2も選択することが好ましい。次のステップ156では、選択したラインPL4と基準線(タイヤ幅方向と平行な方向の直線)との成す角度δを演算する。この角度δが斜角度である。
次のステップ158では、斜角度を変化させるための変数として、ラインPL2,PL4を規定する点D3,D4の座標点を求める。この踏面形状はタイヤ幅方向の長さL1とタイヤ周方向の長さL2が予め定められているので、この各長さを変化させることなく斜角度δを変化させなければならない。このためには、点D3,D4は、タイヤ周方向に移動させればよい。この移動量Siを設計変数riとして設定する。
このようにして目的関数OBJ、制約条件G及び設計変数riを決定した後、設計変数riの初期値roにおける目的関数OBJの初期値OBJo及び制約条件Gの初期値Goを演算する(図2のステップ104)。次に、上記実施の形態と同様に、設計変数riを各々Δriずつ変化させて、ブロック形状、すなわち形状修正モデルを決定する(ステップ106、108)。この形状修正モデルについて設計変数をΔri変化させた後の目的関数の値OBJi、制約条件の値Giを演算し、目的関数の感度dOBJ/dri及び制約条件の感度dG/driを各設計変数毎に演算する(ステップ110、112)。次に全方向についてのブロック剛性の標準偏差を最小にする設計変数の変化量を予測して、形状修正モデルを決定すると共に、目的関数値を演算し設計変数の値を用いてタイヤを構成するブロック形状を決定する(ステップ114〜120)。
なお、設計変数の他の例としては、ブロックに形成させるサイプの数があり、このサイプには、図13に示すように、サイプの幅wa及び傾きγaがある。また、図14に示すように、サイプの深さwb及びブロック内の傾きγbがある。さらに、サイプはブロックを通過するのに限定されず、図15に示すように、ブロックの中途までに形成するときのサイプの長さwcがある。
〔第3実施の形態〕
次に、第3実施の形態を説明する。本実施の形態は遺伝的アルゴリズムによってタイヤのブロック形状を設計するものである。上記実施の形態と異なる設計変数を用いたものである。なお、本実施の形態は上記実施の形態と略同様の構成のため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
図16は、本実施の形態のプログラムの処理ルーチンを示すものである。ステップ200では、N個のブロック形状を有限要素法等のようにタイヤのブロック剛性を数値的・解析的に求めることができる手法によりモデル化し、内部構造を含む形状基本モデルを求める。なお、Nは予め使用者がインプットする。本実施の形態で用いる形状基本モデルは、第1実施の形態の図4に示したものと同一である。
次のステップ202では、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数、タイヤ形状を制約する制約条件及びN個の形状モデルのブロック形状を決定する設計変数を決定する。本実施の形態では、耐偏磨耗性と操縦安定性を向上させるために、目的関数OBJ及び制約条件Gを次のように定めている。
目的関数OBJ:全方向についてブロック剛性を均一にする
制約条件G :タイヤ形状を制約するトレッド厚を均一にする
また、設計変数である壁面角度は、第1実施の形態で述べた、図3の角度演算ルーチンによって、N個の形状モデル各々について決定される。この処理は、第1実施の形態と同一のため、説明を省略する。
角度演算ルーチンをN回繰り返すことにより、目的関数OBJ、制約条件G及びN個の形状モデルの各々の設計変数riJ(J=1,2,・・・,N)を決定した後、図16のステップ204において、N個の形状モデルの各々の設計変数riJの各々の目的関数OBJJ及び制約条件GJを演算する。
次のステップ206では、ステップ204で求めたN個の形状モデルの各々の目的関数OBJJ及び制約条件GJを用いて、N個の形状モデルの各々の適応関数FJを以下の式(4)に従って演算する。本実施の形態では、例えば全方向についてブロック剛性を均一にするため、適応関数による値(適応度)は、全方向についてブロック剛性の標準偏差が小さくなると大きくなる。
次のステップ208では、N個の形状モデルの中から交叉させる形状モデルを2個選択する。選択方法としては、一般に知られている適応度比例戦略を用い、N個の形状モデルのある個体eが各々選択で選ばれる確率Peは以下の式で表わされる。
本実施の形態では、選択方法として適応度比例戦略を用いたが、この他、遺伝的アルゴリズム(北野宏明 編)に示されている様な、期待値戦略、ランク戦略、エリート保存戦略、トーナメント選択戦略、あるいはGENITORアルゴリズム等を用いてもよい。
次のステップ210では、選択された2個の形状モデルを、使用者が予め入力した確率Tによって交叉させるか否かを決定する。ここでいう、交叉とは、後述するように、2個の形状モデルの要素の一部を交換することをいう。否定判定で交叉させない場合は、そのままステップ216へ進む。一方、肯定判定で交叉させる場合には、ステップ214において後述するように2個の形状モデルを交叉させる。
2個の形状モデルの交叉は、図17に示す交叉ルーチンによって行われる。先ず、ステップ208において選択された2個の形状モデルを形状モデルa及び形状モデルbとすると共に、各々の形状モデルa,bの設計変数について並びを含む設計変数ベクトルで表し、形状モデルaの設計変数ベクトルをVra=(r1 a、r2 a、・・・、ri a、・・・、rn-1 a)、形状モデルbの設計変数ベクトルをVrb=(r1 b,r2 b、・・・ri b、・・・rn-1 b)とする。図17のステップ250では、予め定めた乱数を生成し、この乱数に応じて形状モデルa,bの設計変数ベクトルに関する交叉場所iを決定する。
次のステップ252では、交叉すると決定された形状モデルa,bの設計変数ri a,ri bに対して、以下の式に従って距離dを求める。
d=|ri a−ri b|
次のステップ254では、ri a、ri bの取り得る範囲の最小値BL及び最大値Buを用いて、以下の式に従って正規化距離d’を求める。
ステップ256では、正規化距離d’の値を適度に分散させるために、図19A,図19Bに示すような山型の写像関数Z(x)(0≦x≦1,0≦Z(x)≦0.5)を用いて、以下の式に従って関数値Zabを求める。
Zab=Z(d’)
このようにして、関数値Zabを求めた後、ステップ258において新しい設計変数ri’a、ri’bを次の式に従って求める。
このようにして、ri’a、ri’bを求めた後、ステップ260で新しい設計変数の並びである設計変数ベクトルVr’a、Vr’bは以下のように求められる。
Vr’a=(r1 a、r2 a、・・・ri’a、ri+1 b、・・・、rn-1 b)
Vr’b=(r1 b、r2 b、・・・ri’b、ri+1 a、・・・、rn-1 a)
なお、riの取り得る範囲の最小値BL及び最大値Buは、使用者が予め入力しておく。また、写像関数Z(x)は図20A,図20Bに示すような、谷型の関数でもよい。また、上記の例では交叉場所iは1ヶ所であるが、この他に遺伝的アルゴリズム(北野 宏明 編)に示されているような、複数点交叉または一様交叉等を用いてもよい。
このような交叉によって新規な2個の形状モデルを生成した後、図16のステップ216では、使用者が予め入力した確率Sで、突然変異させるか否かを決定する。この突然変異は、後述するように、設計変数の一部を微小に変更することをいい、最適な設計変数となりうる母集団を含む確度を高くするためである。ステップ216で、否定判定で突然変異させない場合には、ステップ226では現在の2個の形状モデルのまま、次のステップ222へ進む。肯定判定で突然変異させる場合には、次のステップ220で以下のようにして突然変異させる。
この突然変異は、図18に示す突然変異ルーチンによって行われる。先ず、ステップ262では乱数を生成し、乱数によって突然変異の場所iを決定する。次のステップ264では、距離d’を
0≦d’≦1
の範囲で乱数により決定する。
次のステップ266では、図19A,図19Bに示すような山型の写像関数Z(x)(0≦x≦1で、0≦Z(x)≦0.5)あるいは図20A,図20Bに示すような谷型の写像関数Z(x)を用いて、以下の式に従って、関数値Zdを求める。
Zd=Z(d’)
このようにして、関数値Zdを求めた後、ステップ268において新しい設計変数ri’を以下の式に従って求める。
このようにして、設計変数ri’を求めた後、ステップ270で求められる、新しい設計変数の並びである設計変数ベクトルVr’は以下のようになる。
Vr’=(r1、r2、・・・ri’、ri+1、・・・、rn-1)
このようにして、新たに生成された2個の形状モデルについて、目的関数の値と制約条件の値を第29図のステップ222で演算する。次のステップ224では、得られた目的関数の値と制約条件の値から前記実施の形態例と同様に式(4)を用いて適応関数を演算する。
次のステップ226では、上記2個の形状モデルを保存する。次のステップ228では、ステップ226で保存した形状モデルの数が、N個に達したか否かを判断し、N個に達していない場合は、N個になるまでステップ208からステップ228を繰り返し実行する。一方、形状モデルの数がN個に達した場合には、ステップ230で収束判定をし、収束していない場合には、N個の形状モデルをステップ226で保存された形状モデルに更新し、ステップ208からステップ230を繰り返し実行する。一方、ステップ230で収束したと判断された場合には、N個の形状モデルの中で制約条件を略満たしながら目的関数の値が最大となる形状モデルの設計変数の値をもって制約条件を略満たしながら目的関数を最大にする設計変数の値とし、ステップ232においてこの設計変数の値を用いてダイヤの形状を決定する。
なお、ステップ230の収束判定は以下の条件のいずれかを満足したら収束とみなす。
1)世代数がM個に達した
2)一番目的関数の値が大きい線列の数が全体のq%以上になった
3)最大の目的関数の値が、続くp回の世代で更新されない。
なお、M、q、pは使用者が予め入力しておく。
また、上記実施の形態を、第1、または第2実施の形態の設計変数に適用してもよい。
本実施の形態では、第1実施の形態に対して若干計算量が増加するため、設計開発に要した時間は若干増加するが、より良い性能のタイヤ設計を行うことができる、という効果がある。
このように、本実施の形態では、ブロック単体での全方向について剛性を均一化できるので、幅方向分割トレッドを適用せずに、かつ、タイヤトレッド部の接地面におけるブロック形状に影響されることなく、コーナリング時や直進時の使用頻度や要求性能に応じて、タイヤのラグ溝形状やリブ溝形状やサイプ形状等の適正化、及びタイヤ幅方向位置での適正化を図り、タイヤの耐磨耗性と運動性能を高度に両立することができる。
以下、図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。
〔第1実施例〕
次に第1実施例を説明する。本実施例は、直方体ブロックの最適化に本発明を適用したものである。
図21に示すように、直方体ブロックは、20mm×27mm×8mmの形状で形成されることを想定する。この直方体ブロックは、タイヤ周方向に27mmの長さLBの長辺を有すると共に、タイヤ周方向と交差するタイヤ幅方向に20mmの長さLAの短辺を有しかつ8mmの高さDPを有している。長さLAの短辺に連続する溝壁HP1,HP3は、同一の溝壁角度εと設定され、長さLBの長辺に連続する溝壁HP2,HP4は、同一の溝壁角度φと設定される。
この直方体ブロックを上記実施の形態で説明したように、最適化する。すなわち、周方向と幅方向のブロック剛性を等しくする溝壁角度を設定する。これにより、全ての方向からの入力に対してブロックが同様の挙動をするので、摩耗や操縦安定性の向上が期待できる。
本実施例では、目的関数、制約条件及び設計変数を、以下のように定める。
目的関数:幅方向と周方向のブロック剛性を等しくする
これを数式を用いて言い換えれば、
(周方向剛性−幅方向剛性)2を最小化すること、である。
設計変数:長さ20mmの辺に連続する溝壁角度εと、長さ27mmの辺に連続する溝壁角度φの2変数を採用し、初期値は双方とも3度に設定する
制約条件:釜抜けを考慮し、溝壁角度ε,φを共に1度以上にする
上記の目的関数、制約条件及び設計変数により、直方体ブロックを最適化した結果、溝壁角度ε=1度、溝壁角度φ=13度の各角度が得られた。図22A,図22Bは、周方向及び幅方向に対するブロック剛性を示すものであり、図22Aは最適化前の初期値におけるブロック剛性、図22Bは最適化後のブロック剛性を示した。図22A,図22Bから理解されるように、周方向と幅方向の剛性は、最適化後には等しくなった。
〔第2実施例〕
次に第2実施例を説明する。本実施例はサイプの数及び深さの決定に本発明を適用したものである。
本実施例では、スタッドレスタイヤにサイプを1本追加した場合のブロック形状の最適化を実施する。
図23Aに示すように、1ブロックには、深さDPaのサイプが3本、タイヤ幅方向に沿って設けられている。このブロックに、図23Bに示すように、サイプを1本追加した場合を上記実施の形態で説明したように、最適化する。すなわち、サイプ本数を変更した場合であってもブロック剛性を等しくするサイプ深さを設定する。
ここで、本発明者は、サイプの深さを変化させずにサイプを3本から4本にする実験を行い、サイプに直角方向(周方向)のブロック剛性は、9.6から7.3に落ちる(27%減少)という結果を得た。これは、サイプを1本追加すると、エッヂ長さが増えるため、氷上走行性能が向上すると考えられるが、ブロック剛性が24%も落ちるため、に逆に性能の低下が懸念される。そこで、3本と同等またはそれ以上のブロック剛性を有する4本のサイプとなる最適化を実施した。
本実施例では、目的関数及び設計変数を、以下のように定める。
目的関数:4本サイプブロックの剛性と3本サイプブロックの剛性を一致する
これを数式を用いて言い換えれば、
(4本サイプ剛性−3本サイプ剛性)2を最小化すること、である。
設計変数:4本サイプの深さ
初期値は7mm(3本サイプは7mmで固定、4本のみを変化)
上記の目的関数及び設計変数により、サイプを最適化した結果、4本サイプの深さが5.9mmと得られ、3本サイプのブロックと同等のブロック剛性が得られた。図24は、サイプに対するブロック剛性を示すものである。図24から理解されるように、深さが同一のサイプで3本のときのブロック剛性は9.6で4本ときのブロック剛性は7.3であるが、本実施例による最適化後には4本サイプであっても3本サイプと等しいブロック剛性となった。
なお、本発明者は、上記各サイプで実際にタイヤを製作し実車に搭載して実験し、以下の結果を得た。
▲1▼ドライ路面(乾燥路面)
操縦安定性は、6.0から6.0で変化がなかった。これは、ブロック剛性が変化していないためと考えられる。
▲2▼アイス路面(氷上路面)
操縦安定性は、5.5→6.5と増加した。
▲3▼ウェットブレーキ性能は8%向上した
〔第3実施例〕
次に第3実施例を説明する。本実施例はサイプの数及び長さの決定に本発明を適用したものである。すなわち、第2実施例で設定した設計変数のサイプの深さに代えてサイプの長さを設計変数にしたものである。
図25に示すように、1ブロックには、サイプを1本追加して4本、各々のサイプを一辺から対峙する辺に到達する以前でその長さを規定し、4本について交互になるよう、タイヤ幅方向に沿って設けることとする。このサイプは、長さLAaの未形成距離を有している。従って、4本サイプのブロックを片閉じのクランクにすることに相当する。このブロックに、上記実施の形態で説明したように、最適化する。
本実施例では、設計変数を、次のように定める。
設計変数:片閉じの幅LAa
初期値は0mmでこれはオープンサイプに相当
サイプの深さは7mmで固定
上記設計変数により、サイプを最適化した結果、片閉じの幅LAaが3.5mmと得られ、3本サイプのブロックと同等のブロック剛性が得られた。
なお、本発明者は、上記各サイプで実際にタイヤを製作し実車に搭載して実験し、次の結果を得た。アイス路面(氷上路面)での操縦安定性が、5.5から6.5と増加した。エッヂ長さは80mmから86mmに向上した。
〔符号の説明〕
10 キーボード
12 コンピュータ本体
14 CRT
産業上の利用可能性
以上のように、本発明にかかる空気入りタイヤの設計方法は、空気入りタイヤのブロック形状を最適化する設計に用いて好適であり、特に、溝壁角度やサイプの数や形状が性能に寄与する設計に用いるのに適している。
Claims (8)
- 次の各ステップを含む空気入りタイヤの設計方法。
(a)内部構造を含むブロック単体の形状、内部構造を含むタイヤクラウン部のうちの1部のパターン形状、及び内部構造を含むタイヤ周方向に連続する陸部の形状のうち選択された1つの形状を表す形状基本モデルと、
前記形状基本モデルに関連すると共に剛性に関係するタイヤ性能評価用物理量を表す目的関数と、
前記選択された1つの形状を決定するためのタイヤ陸部の面に連結された面の角度またはサイプ形状を表す変数を含む設計変数と、
前記選択された1つの形状、タイヤ断面形状及びタイヤ性能評価用物理量の少なくとも1つを制約する制約条件と
を定めるステップ。
(b)前記制約条件を考慮しながら、前記タイヤ陸部の面に連結された面の角度またはサイプ形状を変化させたときに関係する剛性についての前記目的関数の最適値が与えられるまで設計変数の値を変化させながら演算することにより設計変数の値を求めるステップ。
(c)前記ステップ(b)で求めた設計変数の値に基づいて前記選択された1つの形状によりタイヤを設計するステップ。 - 前記目的関数は、タイヤ周方向及びタイヤ幅方向の剛性に関係する請求項1の空気入りタイヤの設計方法。
- 前記サイプ形状は、サイプの位置、本数、幅、深さ、傾き、形状及び長さの少なくとも1つを表す請求項1または請求項2に記載の空気入りタイヤの設計方法。
- 前記ステップ(b)は、予め定めたサイプの本数に対して異なるサイプの本数でサイプ形状を変化させたときの剛性について前記目的関数の最適値が与えられるまで設計変数の値を変化させる請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の空気入りタイヤの設計方法。
- 前記ステップ(b)は、前記目的関数の最小値が与えられるまで設計変数の値を変化させる請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の空気入りタイヤの設計方法。
- 前記ステップ(b)では、設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数の感度及び設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件の感度に基づいて制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の変化量を予測すると共に、設計変数を予測量に相当する量変化させたときの目的関数の値及び設計変数を予測量に相当する量変化させたときの制約条件の値を演算し、予測値と演算値とに基づいて、制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求める請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の空気入りタイヤの設計方法。
- 前記ステップ(a)では、内部構造を含むブロック単体の形状、内部構造を含むタイヤクラウン部のうちの1部のパターン形状、及び内部構造を含むタイヤ周方向に連続する陸部の形状のうち選択された1つの形状を表す複数個の形状基本モデルからなる選択対象集団を定め、該選択対象集団の各形状基本モデルについて、前記目的関数、前記設計変数、前記制約条件、及び目的関数と制約条件とから評価できる適応関数を定め、
前記ステップ(b)では、適応関数に基づいて前記選択対象集団から2つの形状基本モデルを選択し、所定の確率で各形状基本モデルの設計変数を交叉させて新規の形状基本モデルを生成すること及び少なくとも一方の形状基本モデルの設計変数の一部を変更させて新規の形状基本モデルを生成することの少なくとも一方を行い、設計変数を変化させた形状基本モデルの目的関数、制約条件及び適応関数を求めて該形状基本モデル及び設計変数を変化させなかった形状基本モデルを保存しかつ保存した形状基本モデルが所定数になるまで繰り返し、保存した所定数の形状基本モデルからなる新規集団が所定の収束条件を満たすか否かを判断し、収束条件を満たさないときには該新規集団を前記選択対象集団として該選択対象集団が所定の収束条件を満たすまで繰り返すと共に、該所定の収束条件を満たしたときに保存した所定数の形状基本モデルのなかで制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求める請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の空気入りタイヤの設計方法。 - 前記設計変数は、ブロック単体の形状、パターン形状及び陸部の形状のうち選択された1つの形状によって形成されるべきタイヤ陸部の面に連結された面の角度、前記タイヤ陸部の面までの高さ、前記タイヤ陸部の面の形状、前記タイヤ陸部の面に連結された面の形状、サイプの位置、本数、幅、深さ、傾き、形状及び長さのサイプ形状、の少なくとも1つを表す変数を含む請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載の空気入りタイヤの設計方法。
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