JP3686107B2 - 空気入りタイヤの設計方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は空気入りタイヤの設計方法に関するもので、特に、タイヤの単一目的性能、二律背反性能等を達成するタイヤの構造、形状等の設計開発を効率的にかつ容易にし、しかもタイヤのベストな構造、形状を求めかつコスト・パーフォーマンスの高いタイヤを設計することができる空気入りタイヤの設計方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、物性を考慮したタイヤ設計方法としては、物性が既知の複数のゴム部材を予め設定し、各ゴム部材毎に物性を変更して変更した物性によるタイヤを試作・試験し、転がり抵抗やバネ定数等について目標性能が得られるまで試作・試験を繰り返して、設計開発するのが従来の通常の方法であった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の設計方法を用いたタイヤの設計開発はある性能について目標値を定め、この目標値をクリアすれば一応終了とされ、与えられた資源でベスト、言いかえるならばその最良の性能を得ると言う考え方のものではなかった。また、二律背反する性能を設計するものでなく、そのベストな形状、構造を決定するものでもなかった。その上いずれの設計法も開発が試作・試験の試行錯誤の繰返しで行われるため、非常に非効率でコスト高になる等の問題があった。
【0004】
従って本発明は、ある単一の性能または二律背反する複数の性能を得ようとするとき、与えられた条件でタイヤのベストモードを設計することができると共に、タイヤの設計・開発を高効率化し、低コストでタイヤを提供することができる空気入りタイヤの設計方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明者等は種々検討を加えた結果、異分野に利用されている「最適化設計手法」をタイヤと言う特殊分野に応用することに着目し、検討を試み、具体的に物性を考慮したタイヤ設計方法として確立したものである。具体的には、本発明の空気入りタイヤの設計方法は、(a)内部構造を含むタイヤ断面形状を表すタイヤ基本モデルを定めかつ、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数を定めると共に、転がり抵抗を低減させるためのゴム部材及び補強材の物性を決定する設計変数を定めかつ、ゴム部材及び補強材の物性、性能評価用物理量及びタイヤ寸度の少なくとも1つを制約する制約条件を定めるステップ、(b)制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求めるステップ、(c)目的関数の最適値を与える設計変数に基づいてタイヤを設計するステップを含んでいる。
【0006】
このステップ(b)では、設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数の感度及び設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件の感度に基づいて制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の変化量を予測すると共に、設計変数を予測量に相当する量変化させたときの目的関数の値及び設計変数を予測量に相当する量変化させたときの制約条件の値を演算し、予測値と演算値とに基づいて、制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求めることができる。
【0007】
また、本発明者等は種々検討を加えた結果、異分野に利用されている「遺伝的アルゴリズム手法」をタイヤと言う特殊分野に応用することに着目し、あらゆる検討を試み、具体的にそれをタイヤ設計方法として確立したものである。具体的には、前記ステップ(a)では、内部構造を含むタイヤ断面形状を表す複数個のタイヤ基本モデルからなる選択対象集団を定め、該選択対象集団の各タイヤ基本モデルについて、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数、ゴム部材及び補強材の物性を決定する設計変数、ゴム部材及び補強材の物性、性能評価用物理量及びタイヤ寸度の少なくとも1つを制約する制約条件、及び目的関数及び制約条件から評価できる適応関数を定め、前記ステップ(b)では、適応関数に基づいて前記選択対象集団から2つのタイヤ基本モデルを選択し、所定の確率で各タイヤ基本モデルの設計変数を交叉させて新規のタイヤ基本モデルを生成すること及び少なくとも一方のタイヤ基本モデルの設計変数の一部を変更(突然変異)させて新規のタイヤ基本モデルを生成することの少なくとも一方を行い、設計変数を変化させたタイヤ基本モデルの目的関数、制約条件及び適応関数を求めて該タイヤ基本モデル及び設計変数を変化させなかったタイヤ基本モデルを保存しかつ保存したタイヤ基本モデルが所定数になるまで繰り返し、保存した所定数のタイヤ基本モデルからなる新規集団が所定の収束条件を満たすか否かを判断し、収束条件を満たさないときには該新規集団を前記選択対象集団として該選択対象集団が所定の収束条件を満たすまで繰り返すと共に、該所定の収束条件を満たしたときに保存した所定数のタイヤ基本モデルのなかで制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求める。
【0008】
このステップ(b)では、設計変数を変化させたタイヤ基本モデルについて、設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数の感度及び設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件の感度に基づいて制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の変化量を予測すると共に、設計変数を予測量に相当する量変化させたときの目的関数の値及び設計変数を予測量に相当する量変化させたときの制約条件の値を演算し、目的関数の値及び制約条件の値から適応関数を求めて該タイヤ基本モデル及び設計変数を変化させなかったタイヤ基本モデルを保存しかつ保存したタイヤ基本モデルが所定数になるまで繰り返すことができる。
【0009】
また、設計変数は、ゴムのヤング率、ポアソン比、及び異方性補強材の各方向のヤング率またはポアソン比の少なくとも1つを用いることができる。
【0010】
【作用】
本発明のステップ(a)では、内部構造を含むタイヤ断面形状を表すタイヤ基本モデルを定めかつ、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数を定めると共に、ゴム部材及び補強材の物性を決定する設計変数を定めかつ、ゴム部材及び補強材の物性、性能評価用物理量及びタイヤ寸度の少なくとも1つを制約する制約条件を定める。また、タイヤ基本モデルは、複数の要素に分割するのが良い。タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数としては、転がり抵抗や横バネ定数等のタイヤの優劣を支配する物理量を使用することができる。タイヤのゴム部材の物性を決定する設計変数としては、各ゴム部材毎のヤング率及びポアソン比を用いることができる。タイヤのゴム部材やゴム部材の配置を制約する制約条件としては、ゴム部材のヤング率及びポアソン比の値の制約、タイヤの縦バネ定数の制約、上下一次固有振動数の制約等がある。なお、目的関数、設計変数及び制約条件は、上記の例に限られるものではなく、タイヤ設計目的に応じて種々のものを定めることができる。
【0011】
次のステップ(b)では、制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求める。この設計変数の値を求めるときには、制約条件を満たしながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求めることが含まれる。この場合には、設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数の感度及び設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件の感度に基づいて制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の変化量を予測すると共に、設計変数を予測量に相当する量変化させたときの目的関数の値及び設計変数を予測量に相当する量変化させたときの制約条件の値を演算し、予測値と演算値とに基づいて制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求めると効果的である。これによって、制約条件を考慮し目的関数の値が最適になるときの設計変数の値が求められる。
【0012】
そしてステップ(c)では、目的関数の最適値を与える設計変数に基づいてタイヤ基本モデル等を変更することによりタイヤを設計する。
【0013】
また、前記ステップ(a)では、内部構造を含むタイヤ断面形状を表す複数個のタイヤ基本モデルからなる選択対象集団を定め、該選択対象集団の各タイヤ基本モデルについて、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数、ゴム部材及び補強材の物性を決定する設計変数、ゴム部材及び補強材の物性、性能評価用物理量及びタイヤ寸度の少なくとも1つを制約する制約条件、及び目的関数及び制約条件から評価できる適応関数を定め、前記ステップ(b)では、適応関数に基づいて前記選択対象集団から2つのタイヤ基本モデルを選択し、所定の確率で各タイヤ基本モデルの設計変数を交叉させて新規のタイヤ基本モデルを生成すること及び少なくとも一方のタイヤ基本モデルの設計変数の一部を変更させて新規のタイヤ基本モデルを生成することの少なくとも一方を行い、設計変数を変化させたタイヤ基本モデルの目的関数、制約条件及び適応関数を求めて該タイヤ基本モデル及び設計変数を変化させなかったタイヤ基本モデルを保存しかつ保存したタイヤ基本モデルが所定数になるまで繰り返し、保存した所定数のタイヤ基本モデルからなる新規集団が所定の収束条件を満たすか否かを判断し、収束条件を満たさないときには該新規集団を前記選択対象集団として該選択対象集団が所定の収束条件を満たすまで繰り返すと共に、該所定の収束条件を満たしたときに保存した所定数のタイヤ基本モデルのなかで制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求めることも効果的である。この場合、ステップ(b)において、設計変数を変化させたタイヤ基本モデルについて、設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数の感度及び設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件の感度に基づいて制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の変化量を予測すると共に、設計変数を予測量に相当する量変化させたときの目的関数の値及び設計変数を予測量に相当する量変化させたときの制約条件の値を演算し、目的関数の値及び制約条件の値から適応関数を求めて該タイヤ基本モデル及び設計変数を変化させなかったタイヤ基本モデルを保存しかつ保存したタイヤ基本モデルが所定数になるまで繰り返すことが更に効果的である。これによっても、制約条件を考慮し目的関数の値が最適になるときの設計変数の値が求められる。なお、目的関数及び制約条件から評価できる適応関数は、目的関数及び制約条件からタイヤモデルに対する適応度を求める関数を使用することができる。また、目的関数、設計変数、制約条件及び適応関数は、上記の例に限られるものではなく、タイヤ設計目的に応じて種々のものを定めることができる。さらに、前記のタイヤ基本モデルの設計変数の交叉には、選択した2つのタイヤモデルの設計変数についてその一部または所定部位以降の設計変数を交換する方法がある。さらにまた、タイヤモデルの設計変数の一部の変更には、予め定めた確率等で定まる位置の設計変数を変更(突然変異)する方法がある。
【0014】
そしてステップ(c)では、目的関数の最適値を与える設計変数に基づいてタイヤ基本モデル等を変更することによりタイヤを設計する。
【0015】
前記のようにステップ(a)において、内部構造を含むタイヤ断面形状を表す複数個のタイヤ基本モデルからなる選択対象集団を定めると共に、該選択対象集団の各タイヤ基本モデルについて、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数、ゴム部材及び補強材の物性を決定する設計変数、ゴム部材及び補強材の物性、性能評価用物理量及びタイヤ寸度の少なくとも1つを制約する制約条件、及び目的関数及び制約条件から評価できる適応関数を定めたときには、ステップ(b)は次のステップ▲1▼乃至ステップ▲4▼から構成できる。▲1▼適応関数に基づいて選択対象集団から2つのタイヤ基本モデルを選択するステップ、▲2▼所定の確率で各タイヤモデルの設計変数を交叉させて新規のタイヤ基本モデルを生成すること及び少なくとも一方のタイヤ基本モデルの設計変数の一部を変更させて新規のタイヤ基本モデルを生成することの少なくとも一方を行うステップ、▲3▼交叉や変更により設計変数を変化させたタイヤ基本モデルの目的関数、制約条件及び適応関数を求めて該タイヤ基本モデル及び設計変数を変化させなかったタイヤ基本モデルを保存しかつ保存したタイヤ基本モデルが所定数になるまでステップ▲1▼乃至ステップ▲3▼を繰り返すステップ、▲4▼保存した所定数のタイヤ基本モデルからなる新規集団が所定の収束条件を満たすか否かを判断し、収束条件を満たさないときには該新規集団を選択対象集団として該選択対象集団が所定の収束条件を満たすまで前記ステップ▲1▼乃至ステップ▲4▼を繰り返すと共に、該所定の収束条件を満たしたときに保存した所定数のタイヤ基本モデルのなかで制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求めるステップ。
【0016】
このステップ▲3▼では、設計変数を変化させたタイヤ基本モデルについて、設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数の感度及び設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件の感度に基づいて制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の変化量を予測すると共に、設計変数を予測量に相当する量変化させたときの目的関数の値及び設計変数を予測量に相当する量変化させたときの制約条件の値を演算し、目的関数の値及び制約条件の値から適応関数を演算し、該設計変数が変化された新規なタイヤ基本モデル及び設計変数を変化させなかったタイヤ基本モデルを保存しかつ保存したタイヤ基本モデルが所定数になるまで前記ステップ▲1▼乃至ステップ▲3▼を繰り返して実行することが効果的である。これによっても、制約条件を考慮し目的関数の値が最適になるときの設計変数の値が求められる。
【0017】
本発明の設計法に基づき設計・開発した場合従来の試行錯誤を基本とした設計・開発と異なり、コンピューター計算を主体にしてベストモードの設計から設計されたタイヤの性能評価までがある程度可能となり、著しい効率化を達成でき、開発にかかる費用が削減可能となるものである。
【0018】
【実施例】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。図1は本発明の空気入りタイヤの設計方法を実施するためのパーソナルコンピュータの概略を示すものである。このパーソナルコンピュータは、データ等を入力するためのキーボード10、予め記憶されたプログラムに従って制約条件を満たしかつ目的関数を最適、例えば、最大または最小にする設計変数を演算するコンピュータ本体12、及びコンピュータ本体12の演算結果等を表示するCRT14から構成されている。
【0019】
先ず、ビード部分の耐久性を損ねることなく転がり抵抗を低減させる各ゴム部材の物性であるヤング率を求める第1実施例を説明する。
【0020】
なお、このヤング率を求めるに際しては、転がり抵抗を低減させるために、タイヤの歪みエネルギーロス(ヒステリシス損失)を最適値である最小値にする各ゴム部材の物性であるヤング率を求めてもよい。
【0021】
図2は、この第1実施例のプログラムの処理ルーチンを示すものある。ステップ100では、自然平衡状態のタイヤ断面形状を基準形状とし、この基準形状を、有限要素法等のように荷重転動時の転がり抵抗値を数値的・解析的に求めることができる手法によりモデル化し、内部構造を含むタイヤ断面形状を表すと共にメッシュ分割によって複数の要素に分割されたタイヤ基本モデルを求める。なお、基準形状は、自然平衡状態のタイヤ断面形状に限らず任意の形状でよい。ここで、モデル化とは、タイヤ形状、構造、材料、パターンを、数値的・解析的手法に基づいて作成されたコンピュータプログラムへのインプットデータ形式に数値化することをいう。
【0022】
図3はこのタイヤ基本モデルを示すもので、複数のゴム部材毎に分割されたカーカス22を有する空気入りタイヤ20を示している。このカーカス22はビード26により折り返されている。このカーカス22の内側はインナーライナー24とされ、インナーライナー24に延長上にはビードゴム36が配置している。また、折り返されたカーカス22により形成される略三角形状の領域はビードフィラー28とされている。カーカス22の上方には、ベルト30が配置しており、このベルト30の半径方向外側には溝が形成されたトレッドゴム32が配置し、カーカス22の軸方向外側にはサイドゴム34が配置している。なお、タイヤ基本モデルをゴム部材毎に複数分割した例を挙げたが、設計目的によって3角形等の任意の形状に分割してもよい。
【0023】
次のステップ102では、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数、ゴム部材の物性を制約する制約条件及びゴム部材の物性を決定する設計変数を決定する。本実施例では、ビード部分の耐久性を損ねることなくタイヤの転がり抵抗を低減させるヤング率を設計するため、目的関数OBJ及び制約条件Gを次のように定めている。
【0024】
目的関数OBJ:転がり抵抗値
制約条件G :プライ端部の荷重時主歪が初期構造の+3%以内
【0025】
なお、本実施例では、タイヤ性能に関する物理量、例えばコーナリングにおいて横剛性を増大させながら縦バネ(弾性)を一定に確保する等で定めてもよい。
【0026】
また、ゴム部材の物性を決定する設計変数は、タイヤ基本モデルにおけるゴム部材のヤング率から予め定められた範囲を変化可能なように、以下の式(1)で示したヤング率を定める係数が対応される。このヤング率を定める係数は、係数r1 ,r2 ,r3 ,・・・(以下、一般式ri と表す。但し、i=1,2,・・・,予め定めた自然数)と順に予め定めた所定増分量で増加または減少してヤング率が変動するように設定され、ゴム部材のヤング率を得るためタイヤ基本モデルにおけるゴム部材のヤング率に係数を乗算するときの係数ri を設計変数として設定する。
【0027】
i =ri ・eo −−−(1)
但し、ei :ヤング率
i :係数
eo:タイヤ基本モデルにおけるゴム部材のヤング率
【0028】
このようにして目的関数OBJ、制約条件G及び設計変数ri を決定した後、図2のステップ104において、設計変数ri の初期値ro(例えば、タイヤ基本モデルにおけるゴム部材のヤング率を得るための値、1)における目的関数OBJの初期値OBJo及び制約条件Gの初期値Goを演算する。
【0029】
次のステップ106では、タイヤ基本モデルの物性を変化させるために所定のゴム部材の設計変数ri を各々Δri ずつ変化させる。
【0030】
ステップ108では、設計変数をΔri 変化させた後の目的関数の値OBJi 及び制約条件の値Gi を演算し、ステップ112で以下の式(2)、(3)に従って、設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数の感度dOBJ/dri 及び設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件の感度dG/dri を各設計変数毎に演算する。
【0031】
【数1】
Figure 0003686107
【0032】
この感度によって、設計変数をΔri 変化させたときに目的関数の値がどの程度変化するか予測することができる。
【0033】
次のステップ112では、全ゴム部材について演算が終了したか否かを判断し、全てのゴム部材について演算が終了していない場合には、ステップ106からステップ112を繰り返し実行する。
【0034】
次のステップ114では、目的関数の初期値OBJo、制約条件の初期値Go、設計変数の初期値ro及び感度を用いて、数理計画法により制約条件を満たしながら目的関数を最小にする設計変数の変化量を予測する。この設計変数の予測値を用いて、ステップ116でタイヤを構成するゴム部材の構造は変化することはないが各ゴム部材のヤング率が修正されたヤング率修正モデルを決定すると共に、目的関数値を演算する。ステップ118において、ステップ116で演算した目的関数値OBJとステップ104で演算した目的関数の初期値OBJoとの差と、予めインプットされたしきい値とを比較することで目的関数の値が収束したか否かを判断し、目的関数の値が収束していない場合にはステップ114で求められた設計変数値を初期値として、ステップ104からステップ118を繰り返し実行する。目的関数の値が収束したと判断されたときには、このときの設計変数の値をもって制約条件を満たしながら目的関数を最小にする設計変数の値とし、ステップ120においてこの設計変数の値を用いてタイヤを構成する各ゴム部材のヤング率を決定する。
【0035】
次に、本発明の第2実施例を説明する。本実施例では、ヤング率を求めるに際しては、ベルト耐久性を損ねることなくビード部分の耐久性を向上させるために、ゴム部材の配置を含めてゴム要素毎のヤング率を求めるものであり、次のように、目的関数OBJ及び制約条件Gを定めている。
【0036】
目的関数OBJ:プライ端部の荷重時主歪
制約条件G :ベルト端部の荷重時層間せん断歪値が初期構造の+3%以内
【0037】
本実施例では、感度として、上記実施例のように感度として差分値を用いるものではなく、以下に説明する微分値により解析的に感度を演算している。すなわち、タイヤである連続体を有限要素法等によって、この連続体(タイヤ)の挙動を決定するには、以下に示す周知の剛性方程式(4)を用いており、この剛性方程式(4)をヤング率で偏微分(以下の式(5)参照)することから、以下に示すように、歪みに対する感度を求めることができる。
【0038】
F=K・U −−−(4)
但し、F:外力ベクトル
K:剛性マトリクス
U:変位ベクトル
【0039】
【数2】
Figure 0003686107
【0040】
但し、eij:i番目のゴム部材のj番目のゴム要素のヤング率
ここで、ヤング率eijが変化しても外力Fは変化ないので、∂F/∂eij=0と定義すると、上記式は、以下の式(6)で表せる。
【0041】
【数3】
Figure 0003686107
【0042】
この式は、変位に対する感度を表している。周知のように、歪みベクトルεは、 ε=B・Uと表せる。従って、歪みに対する感度は、以下の式(7)で表せる。
【0043】
【数4】
Figure 0003686107
【0044】
但し、B:変位・歪みマトリクス
【0045】
なお、タイヤを構成するゴム部材を複数のゴム要素に分割した場合の例を説明したが、単にタイヤ全体を分割したゴム要素で演算してもよい。
【0046】
図4のステップ200では、自然平衡状態のタイヤ断面形状を基準形状とし、この基準形状を、有限要素法等のように荷重時のタイヤを構成するゴム部材等による歪みを数値的・解析的に求めることができる手法によりモデル化し、内部構造を含むタイヤ断面形状を表すと共にメッシュ分割によって各ゴム部材についても複数の要素に分割されたタイヤ基本モデルを求める。図5に示すタイヤ基本モデルでは、例としてベルト30の上方に配置するトレッドゴム32が複数のゴム要素毎に分割されている(図5の符号Tにより一部を示した)。
【0047】
なお、タイヤ基本モデルを各ゴム部材について複数分割した例を挙げたが、分割要素はゴム部材に限定されずにカーカスやビードワイヤを含んでもよい。
【0048】
次のステップ202では、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数、制約条件、及びゴム部材の各ゴム要素の物性を決定する設計変数を決定する。本実施例では、上記のように目的関数OBJ及び制約条件Gを定めている。
【0049】
なお、ゴム部材の各ゴム要素の物性を決定する設計変数は、タイヤ基本モデルにおけるゴム部材のヤング率から予め定められた範囲を変化可能なように、以下の式(8)で示したヤング率を定める係数が対応される。このヤング率を定める係数は、係数ri1,ri2,ri3,・・・(以下、一般式rijと表す。但し、i=ゴム部材を表す数値,j=1,2,・・・,予め定めた自然数)と順に予め定めた所定増分量で増加または減少してヤング率が変動するように設定され、ゴム部材のヤング率を得るためタイヤ基本モデルにおけるゴム要素のヤング率に係数を乗算するときの係数rijを設計変数として設定する。
【0050】
ij=rij・eio −−−(8)
但し、eij:i番目のゴム部材のj番目のゴム要素のヤング率
ij:係数
io:タイヤ基本モデルにおけるi番目のゴム部材のヤング率
【0051】
このようにして目的関数OBJ、制約条件G及び設計変数rijを決定した後に、図4のステップ204において、設計変数rijの初期値ro(例えば、1)における目的関数OBJの初期値OBJo及び制約条件Gの初期値Goを演算する。
【0052】
次のステップ206では、タイヤ基本モデルの物性を変化させるために所定のゴム部材におけるゴム要素の感度∂ε/∂eijを上記の式(7)を用いて解析的に求める。すなわち、この感度演算は、図6のステップ230であるゴム部材が選択され、ステップ232においてこのゴム部材におけるゴム要素が選択される。次に、ステップ234では、選択されたゴム要素の感度∂ε/∂eijを上記の式(7)を用いて解析的に求める。次のステップ236では、同一ゴム部材において、全てのゴム要素の感度演算が終了したか否かを判断し、全ゴム要素について終了していないときはステップ232からステップ236を繰り返し実行する。この同一ゴム部材についての各ゴム要素の感度演算において、上記の式(6)からも理解されるように、有限要素方による演算において演算負荷が大きなK-1の演算は1度求めればよいため演算負荷は軽減される。次のステップ238では、全ゴム要素の感度演算が終了したか否かを判断し、全ゴム要素について終了していないときはステップ230からステップ238を繰り返し実行する。
【0053】
この感度によって、設計変数を変化させたときに目的関数の値がどの程度変化するか予測することができる。
【0054】
次のステップ208では、目的関数の初期値OBJo、制約条件の初期値Go、設計変数の初期値ro及び感度を用いて、数理計画法により制約条件を満たしながら目的関数を最大にする設計変数の変化量を予測する。この設計変数の予測値を用いて、ステップ210でタイヤの外部構造は変化することはないが各ゴム部材を構成する各ゴム要素のヤング率が修正されたヤング率修正モデルを決定すると共に、目的関数値を演算する。次のステップ212において、ステップ210で演算した目的関数値OBJとステップ204で演算した目的関数の初期値OBJoとの差と、予めインプットされたしきい値とを比較することで目的関数の値が収束したか否かを判断し、目的関数の値が収束していない場合にはステップ210で求められた設計変数値を初期値として、ステップ204からステップ212を繰り返し実行する。目的関数の値が収束したと判断されたときには、このときの設計変数の値をもって制約条件を満たしながら目的関数を最小にする設計変数の値とし、ステップ214においてこの設計変数の値を用いてタイヤを構成する各ゴム部材のゴム要素のヤング率を決定する。
【0055】
上記第1実施例及び第2実施例で得られたタイヤを実際に試作し試験を行った結果は、以下の表1の通りであった。
【0056】
【表1】
Figure 0003686107
【0057】
但し、タイヤサイズ、TBR295/75R22.5
内圧 、7.15kg/cm2
荷重 、2500kgf
なお、上記実施例では、転がり抵抗を低減させるためにゴム部材の物性としてヤング率を定めたが、本発明はこれに限定されるものではなく、ポアソン比を定めるようにしてもよい。また、ゴム部材の物性に限定されるものでもなく、スチールコード等のヤング率やポアソン比が最適になるように本発明を適用させてもよい。さらに、本発明を振動系に適用させる場合には、バネ定数を定めるようにすればよい。
【0058】
次に、ビード耐久性を向上させるために、複数種類の使用が可能なゴムの中からゴム部材の配置を遺伝的にアルゴリズムによって設計する第3実施例について説明する。なお、本実施例は、上記実施例と略同様の構成であるため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0059】
図7は、第3実施例のプログラムの処理ルーチンを示すものである。ステップ300では、N個の異なる内部構造を有するタイヤ断面形状を有限要素法等のように荷重時のプライ端部の歪を数値的・解析的に求めることができる手法によりモデル化し、内部構造を含むタイヤ基本モデルを求める。ここで、モデル化とは、タイヤ形状、構造、材料、パターンを数値的・解析的手法に基づいて作成されたコンピュータプログラムへのインプットデータ形式に数値化することを言う。なお、Nは予め使用者がインプットする。
【0060】
また、本実施例では、図8に示すようなタイヤ基本モデルが作成されたとき、ゴムのヤング率が変更される可能性がある部位b1 ,b2 ,・・・,bi ,・・・,bn を設計変数とする。なお、本実施例では、以下の説明を簡単にするため、4種類の異なるヤング率のゴムが使用可能であるものとし、以下に示す[関係]があるものとしている。この関係を以下の表2に纏めて表記した。
【0061】
[関係]
設計変数bi =1(10)=00(2) ならば、ヤング率e=0.15である。
設計変数bi =2(10)=01(2) ならば、ヤング率e=0.18である。
設計変数bi =3(10)=10(2) ならば、ヤング率e=0.22である。
設計変数bi =4(10)=11(2) ならば、ヤング率e=0.31である。
【0062】
【表2】
Figure 0003686107
【0063】
次のステップ302では、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数、ゴム部材の各ゴム要素の物性を制約する制約条件及びN個のタイヤモデルの内部構造を決定する設計変数を決定する。本実施例では、ビード耐久性を向上させるために、目的関数OBJ及び制約条件Gを次のように定めている。
【0064】
目的関数OBJ:プライ端部の荷重時主歪
制約条件G :ゴム部材数が5つ以下
【0065】
なお、上記のゴム部材数とは、隣り合う要素の材料が同一であれば1つの部材という。
【0066】
次に、ステップ304において、N個のタイヤモデルの各々の設計変数biJ(J=1,2,・・・,N)の各々の目的関数OBJJ 及び制約条件GJ を演算する。
【0067】
次のステップ306では、ステップ304で求めたN個のタイヤモデルの各々の目的関数OBJJ 及び制約条件GJ を用いて、N個のタイヤモデルの各々の適応関数FJ を以下の式(9)に従って演算する。本実施例では、例えばプライ端部主歪を最小にするため、適応関数による値(適応度)は、プライ端部主歪が小さくなると大きくなる。
【0068】
ΦJ =OBJJ +γ・max(GJ 、O)
J =1/ΦJ ・・・(9)
または、
J =−ΦJ
または、
J =−a・ΦJ +b
【0069】
【数5】
Figure 0003686107
【0070】
次のステップ308では、N個のモデルの中から交叉させるモデルを2個選択する。選択方法としては、一般に知られている適応度比例戦略を用い、N個のタイヤモデルのある個体uが各々選択で選ばれる確率Pu は以下の式(10)で表わされる。
【0071】
【数6】
Figure 0003686107
【0072】
但し、 Fu :N個のタイヤモデルの中のある個体uの適応関数
J :N個のタイヤモデルのJ番目の適応関数
J=1、2、3、・・・N
上記実施例では、選択方法として適応度比例戦略を用いたが、この他、遺伝的アルゴリズム(北野宏明 編)に示されている様な、期待値戦略、ランク戦略、エリート保存戦略、トーナメント選択戦略、あるいはGENITORアルゴリズム等を用いてもよい。
【0073】
次のステップ310では、選択された2個のタイヤモデルを、使用者が予め入力した確率Tによって交叉させるか否かを決定する。ここでいう、交叉とは、後述するように、2個のタイヤモデルの要素の一部を交換することをいう。否定判定で交叉させない場合は、ステップ312において現在の2個のタイヤモデルをそのままの状態でステップ316へ進む。一方、肯定判定で交叉させる場合には、ステップ314において後述するように2個のタイヤモデルを交叉させる。
【0074】
2個のタイヤモデルの交叉は、図9に示す交叉ルーチンによって行われる。先ず、この交叉ルーチンを実行するにあたり、上記のステップ308において選択された2個のタイヤモデルをタイヤモデルa及びタイヤモデルbとすると共に、各々のタイヤモデルa,bの設計変数について並びを含む設計変数ベクトルで表し、次に示すように、タイヤモデルaの設計変数ベクトルをVba とし、タイヤモデルbの設計変数ベクトルをVbb とする。
【0075】
Vba =(b1 a , b2 a ,---,bi-1 a ,bi a ,bi+1 a ,---,bn-1 a ,bn a
Vbb =(b1 b , b2 b ,---,bi-1 b ,bi b ,bi+1 b ,---,bn-1 b ,bn b
【0076】
[2進数で表現]
Vba =(01, 00, --- ,01,00,11,--- , --- ,11)
Vbb =(11, 00, --- ,11,11,10,--- , --- ,10)
【0077】
[10進数で表現]
Vba =( 2, 1, --- , 2, 1, 4,--- , --- , 4)
Vbb =( 4, 1, --- , 4, 4, 3,--- , --- , 3)
【0078】
図9のステップ372では乱数を生成し、生成された乱数に応じて交叉場所iを決定する。次のステップ374では以下のように設計変数ベクトルである設計変数の並びを変更し、新しい設計変数の並びとして設計変数ベクトルVba ’、Vbb ’を求める。
【0079】
【数7】
Figure 0003686107
【0080】
【数8】
Figure 0003686107
【0081】
次のステップ376では、求めた設計変数ベクトルVba ’、Vbb ’に応じて、2個の新しいタイヤモデルを生成する。
【0082】
なお、本実施例では交叉場所iは1ヶ所であるが、この他遺伝的アルゴリズム(北野宏明 編)に示されている様な、複数点交叉、一様交叉等を用いてもよい。
【0083】
次に、突然変異は図10に示す処理ルーチンに基づいて実施される。タイヤ基本モデルの設計変数の並びを設計変数ベクトル
Vb=(b1 、b2 、・・・bi-1 、bi 、bi+1 、・・・bn
とする。
【0084】
ステップ378では乱数を生成し、乱数に応じて突然変異の場所iを決定する。次のステップ380では突然変異の場所iの設計変数bi を以下のように変化させて新しい設計変数の並びとして設計変数ベクトルVb’を生成する。
【0085】
i =0ならばbi ’=1
i =1ならばbi ’=0
Vb’=(b1 、b2 、・・・bi-1 、bi ’、bi+1 、・・・bn
次のステップ382では、求めた設計変数ベクトルVb’から、新しいタイヤモデルを生成する。
【0086】
このようにして、新たに生成された2個のダイヤモデルについて、目的関数の値と制約条件の値を図7のステップ322で演算する。次のステップ324では、得られた目的関数の値と制約条件の値から前記実施例と同様に式(9)を用いて適応関数を演算する。
【0087】
次のステップ326では、上記2個のタイヤモデルを保存する。次のステップ328では、ステップ326で保存したタイヤモデルの数が、N個に達したか否かを判断し、N個に達していない場合は、N個になるまでステップ308からステップ328を繰り返し実行する。一方、タイヤモデルの数がN個に達した場合には、ステップ330で収束判定をし、収束していない場合には、N個のタイヤモデルをステップ326で保存されたタイヤモデルに更新し、ステップ308からステップ330を繰り返し実行する。一方、ステップ330で収束したと判断された場合には、N個のタイヤモデルの中で制約条件を略満たしながら目的関数の値が最大となるタイヤモデルの設計変数の値をもって制約条件を略満たしながら目的関数を最小にする設計変数の値とし、ステップ332においてこの設計変数の値を用いてタイヤを構成する各ゴム部材のヤング率を決定する。
【0088】
なお、ステップ330の収束判定は以下の条件のいずれかを満足したら収束とみなす。
【0089】
1)世代数がM個に達した
2)一番目的関数の値が小さい線列の数が全体のq%以上になった
3)最大の目的関数の値が、続くp回の世代で更新されない。
【0090】
なお、M、q、pは使用者が予め入力しておく。
本実施例で得られたタイヤを実際に試作し試験を行った結果は、以下の表3のとおりであった。
【0091】
【表3】
Figure 0003686107
【0092】
タイヤサイズ:TBR 295/75R225
内圧:7.15kg/cm2
荷重 、2500kgf
試験法:実車走行試験によるフィーリング評価
【0093】
このように、第3実施例では、より良い性能のタイヤ設計を、より短時間で行うことができるという効果がある。
【0094】
次に、第4実施例を説明する。本実施例では、ビード部分の耐久性を損ねることなく転がり抵抗を軽減する各ゴム部材の物性であるヤング率を、遺伝的にアルゴリズムによって求めている。なお、本実施例は、上記実施例と略同様の構成であるため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0095】
上記の第3実施例では、複数種類の使用可能なゴムの中から、最適なゴムを見いだしたが、本実施例では、上記第1実施例と同様に、連続的に変化可能な予め定められた範囲の中の最適なヤング率を求めている。
【0096】
本実施例の処理は、図7に示す第3実施例の処理と略同様であるが、上記で説明した交叉処理及び突然変異処理が異なる。本実施例の交叉は、図11に示す処理ルーチンに基づいて実施される。
【0097】
2個のタイヤモデルの交叉は、先ず、上記説明したステップ308において選択された2個のタイヤモデルをタイヤモデルa及びタイヤモデルbとすると共に、各々のタイヤモデルa,bの設計変数について並びを含む設計変数ベクトルで表し、タイヤモデルaの設計変数ベクトルをVra =(r1 a 、r2 a 、・・・、ri a 、・・・、rn a )、タイヤモデルbの設計変数ベクトルをVrb =(r1 b ,r2 b 、・・・、ri b 、・・・、rn b )とする。図11のステップ350では、予め定めた乱数を生成し、この乱数に応じてタイヤモデルa,bの設計変数ベクトルに関する交叉場所iを決定する。
【0098】
次のステップ352では、交叉すると決定されたタイヤモデルa,bの設計変数ri a ,ri b に対して、以下の式(11)に従って距離dを求める。
【0099】
d=|ri a −ri b | ・・・(11)
【0100】
次のステップ354では、ri a 、ri b の取り得る範囲の最小値BL 及び最大値Bu を用いて、以下の式に従って正規化距離d’を求める。
【0101】
【数9】
Figure 0003686107
【0102】
ステップ356では、正規化距離d’の値を適度に分散させるために、図12(a),(b)に示すような山型の写像関数Z(x)(0≦x≦1,0≦Z(x)≦0.5)を用いて、以下の式(13)に従って関数値Zabを求める。
【0103】
ab=Z(d’) ・・・(13)
【0104】
このようにして、関数値Zabを求めた後、ステップ358において新しい設計変数ri a 、ri b を次の式(14)に従って求める。
【0105】
【数10】
Figure 0003686107
【0106】
このようにして、設計変数ri a 、ri b を求めた後、ステップ360で新しい設計変数の並びである設計変数ベクトルVr’a 、Vr’b は以下のように求められる。
Vr’a =(r1 a 、r2 a 、・・・ri ' a 、ri+1 b 、・・・、rn b
Vr’b =(r1 b 、r2 b 、・・・ri b 、ri+1 a 、・・・、rn a
【0107】
なお、設計変数ri の取り得る範囲の最小値BL 及び最大値Buは、使用者が予め入力しておく。また、写像関数Z(x)は図13(a),(b)に示すような、谷型の関数でもよい。また、上記例では交叉場所iは1ヶ所であるが、この他に遺伝的アルゴリズム(北野 宏明 編)に示されているような、複数点交叉または一様交叉等を用いてもよい。
【0108】
このような交叉によって新規な2個のタイヤモデルを生成した後、図7のステップ316では、使用者が予め入力した確率Sで、突然変異させるか否かを決定する。この突然変異は、後述するように、設計変数の一部を微小に変更することをいい、最適な設計変数となりうる母集団を含む確度を高くするためである。ステップ316で、否定判定で突然変異させない場合には、ステップ326では現在の2個のタイヤモデルのまま、次のステップ322へ進む。肯定判定で突然変異させる場合には、次のステップ320で以下のようにして突然変異処理を行う。
【0109】
この突然変異は、図14に示す突然変異ルーチンによって行われる。先ず、ステップ362では乱数を生成し、乱数によって突然変異の場所iを決定する。次のステップ364では、距離d’を所定(0≦d’≦1)の範囲で乱数により決定する。
【0110】
次のステップ366では、図12(a),(b)に示すような山型の写像関数Z(x)(0≦x≦1で、0≦Z(x)≦0.5)あるいは図13(a),(b)に示すような谷型の写像関数Z(x)を用いて、以下の式(15)に従って、関数値Zdを求める。
【0111】
Zd=Z(d’) ・・・(15)
このようにして、関数値Zdを求めた後、ステップ368において新しい設計変数ri ’を以下の式(16)に従って求める。
【0112】
【数11】
Figure 0003686107
【0113】
このようにして、設計変数ri ’を求めた後、ステップ370で求められる、新しい設計変数の並びである設計変数ベクトルVr’は以下のようになる。
【0114】
Vr’=(r1 、r2 、・・・ri ’、ri+1 、・・・、rn
このステップ370では、求めた設計変数ベクトルVr’から新しいタイヤモデルを生成する。
【0115】
本実施例で得られたタイヤを実際に試作し試験を行った結果は、以下の表4のとおりであった。
【0116】
【表4】
Figure 0003686107
【0117】
タイヤサイズ:TBR 295/75R22.5
内圧:7.15kg/cm2
荷重 、2500kgf
試験法:実車走行試験によるフィーリング評価
【0118】
このように、第4実施例では、従来のタイヤに比較して、より良い性能のタイヤ設計を、より短時間で行うことができるという効果がある。
【0119】
次に、第5実施例を説明する。本実施例は、第1実施例と第4実施例を組合わせたものである。なお、本実施例は、上記実施例と略同様の構成であるため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0120】
上記で説明した第4実施例では、ステップ322において交叉、突然変異によって得られた設計案をもとに目的関数、制約条件を演算していた。この場合には、Goldberg,D.E.,"Genetic Algorithms in Search,Optimization and Machine イ Learning",Addison-Wesley(1989)に記載されているように局所的な最適解に落ち込まないものの、真の最適解を求めることが難しいという問題点がある。そこで、第4実施例のステップ322の演算処理として、第1実施例のステップ104〜118の処理を用いて、第1実施例と第4実施例の方法を組み合わせれば、上記問題点を解決できる。
【0121】
図15には、本実施例のプログラム処理ルーチンを示した。ステップ300〜320は第4実施例と同一であるため説明を省略する。
【0122】
ステップ440では、上記のようにして得られた2個の設計案を初期設計案として目的関数及び制約条件の演算をする。次のステップ106〜118は上記第1実施例の処理と同様にして、目的関数の値が収束するまで繰り返し実行する。目的関数の値が収束したと判断されたときには、次のステップ324において得られた目的関数の値と制約条件の値から適応関数を演算し、次のステップ326で上記2個のタイヤモデルを保存する。このステップ326で保存したタイヤモデルの数が、N個に達するまでステップ308からステップ328を繰り返し実行し、N個に達した場合には、ステップ330で上記と同様にして収束判定をし、収束した場合に、N個のタイヤモデルの中で制約条件を略満たしながら目的関数の値が最小となるタイヤモデルの設計変数の値をもって制約条件を略満たしながら目的関数を最小にする設計変数の値とし、ステップ332においてこの設計変数の値を用いてタイヤを構成する各ゴム部材のヤング率を決定する。
【0123】
このような、局所的な最適解に落ち込まず、真の最適解を得る方法は、ここで述べた手法以外に、第4実施例の方法に前記参考文献に記載されてある焼きなまし法(Simulated Annealing)と呼ばれる方法を組み合わせることもできる。
【0124】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、制約条件を考慮し目的関数の最適値を与える設計変数を求め、この設計変数から最適なゴム部材及び補強材の物性となるタイヤを設計しているので、設計・開発が高効率化し、低コストでベストな構造のタイヤを設計することができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例に使用されるパーソナルコンピュータの概略図である。
【図2】本発明の第1実施例の処理ルーチンを示す流れ図である。
【図3】第1実施例のタイヤ基本モデルを示す線図である。
【図4】本発明の第2実施例の処理ルーチンを示す流れ図である。
【図5】第2実施例のタイヤ基本モデルを示す線図である。
【図6】第2実施例の感度を求めるルーチンを示す流れ図である。
【図7】第3実施例の処理ルーチンを示す流れ図である。
【図8】第3実施例のタイヤ基本モデルを示す線図である。
【図9】第3実施例の交叉処理ルーチンを示す流れ図である。
【図10】第3実施例の突然変異処理ルーチンを示す流れ図である。
【図11】第4実施例の交叉処理ルーチンを示す流れ図である。
【図12】山型写像関数を示す線図であり、(a)は連続的な山型写像関数を示す線図、(b)は線型的な山型写像関数を示す線図である。
【図13】谷型写像関数を示す線図であり、(a)は連続的な谷型写像関数を示す線図、(b)は線型的な谷型写像関数を示す線図である。
【図14】第4実施例の突然変異処理ルーチンを示す流れ図である。
【図15】第5実施例の処理ルーチンを示す流れ図である。
【符号の説明】
10 キーボード
12 コンピュータ本体
14 CRT

Claims (5)

  1. 次の各ステップを含む空気入りタイヤの設計方法。
    (a)内部構造を含むタイヤ断面形状を表すタイヤ基本モデルを定めかつ、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数を定めると共に、転がり抵抗を低減させるためのゴム部材及び補強材の物性を決定する設計変数を定めかつ、ゴム部材及び補強材の物性、性能評価用物理量及びタイヤ寸度の少なくとも1つを制約する制約条件を定めるステップ。
    (b)制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求めるステップ。
    (c)目的関数の最適値を与える設計変数に基づいてタイヤを設計するステップ。
  2. 前記ステップ(b)では、設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数の感度及び設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件の感度に基づいて制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の変化量を予測すると共に、設計変数を予測量に相当する量変化させたときの目的関数の値及び設計変数を予測量に相当する量変化させたときの制約条件の値を演算し、予測値と演算値とに基づいて、制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求める請求項1の空気入りタイヤの設計方法。
  3. 前記ステップ(a)では、内部構造を含むタイヤ断面形状を表す複数個のタイヤ基本モデルからなる選択対象集団を定め、該選択対象集団の各タイヤ基本モデルについて、タイヤ性能評価用物理量を表す目的関数、ゴム部材及び補強材の物性を決定する設計変数、ゴム部材及び補強材の物性、性能評価用物理量及びタイヤ寸度の少なくとも1つを制約する制約条件、及び目的関数及び制約条件から評価できる適応関数を定め、
    前記ステップ(b)では、適応関数に基づいて前記選択対象集団から2つのタイヤ基本モデルを選択し、所定の確率で各タイヤ基本モデルの設計変数を交叉させて新規のタイヤ基本モデルを生成すること及び少なくとも一方のタイヤ基本モデルの設計変数の一部を変更させて新規のタイヤ基本モデルを生成することの少なくとも一方を行い、設計変数を変化させたタイヤ基本モデルの目的関数、制約条件及び適応関数を求めて該タイヤ基本モデル及び設計変数を変化させなかったタイヤ基本モデルを保存しかつ保存したタイヤ基本モデルが所定数になるまで繰り返し、保存した所定数のタイヤ基本モデルからなる新規集団が所定の収束条件を満たすか否かを判断し、収束条件を満たさないときには該新規集団を前記選択対象集団として該選択対象集団が所定の収束条件を満たすまで繰り返すと共に、該所定の収束条件を満たしたときに保存した所定数のタイヤ基本モデルのなかで制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の値を求める請求項1の空気入りタイヤの設計方法。
  4. 前記ステップ(b)において、設計変数を変化させたタイヤ基本モデルについて、設計変数の単位変化量に対する目的関数の変化量の割合である目的関数の感度及び設計変数の単位変化量に対する制約条件の変化量の割合である制約条件の感度に基づいて制約条件を考慮しながら目的関数の最適値を与える設計変数の変化量を予測すると共に、設計変数を予測量に相当する量変化させたときの目的関数の値及び設計変数を予測量に相当する量変化させたときの制約条件の値を演算し、目的関数の値及び制約条件の値から適応関数を求めて該タイヤ基本モデル及び設計変数を変化させなかったタイヤ基本モデルを保存しかつ保存したタイヤ基本モデルが所定数になるまで繰り返す請求項3に記載の空気入りタイヤの設計方法。
  5. 前記設計変数は、ゴムのヤング率、ポアソン比、及び異方性補強材の各方向のヤング率またはポアソン比の少なくとも1つである請求項1の空気入りタイヤの設計方法。
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