JP4278387B2 - エマルジョン及びそれを用いた塗工液及び記録媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インク組成物を記録媒体に付着させる方法により行う印刷、記録に使用される紙、シート、フィルム、布等の記録媒体、その製造に使用される記録媒体用塗工液、記録媒体の効率的な製造方法、及び該記録媒体の製造に有用な高分子エマルジョンと該高分子エマルジョンの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方式は、記録時の騒音が少なく、カラー化が容易であること、高速記録が可能であることから広い分野で利用が進められている。しかし、一般の印刷に使用される上質紙等はインク吸収性、乾燥性が劣り、解像度などの画質も劣るために、これらを改善した専用紙の提案がなされている。例えば、インクの発色性や再現性を高めるために無定形シリカを始めとする種々の無機顔料類を塗布した記録用紙が開示されている(特開昭55−51583、特開昭56−148585等)。
しかし、インクジェットプリンター性能の進歩に伴い記録媒体側にも更なる性能の向上が要求され、前記の技術のみでは必ずしも満足のゆく性能が得られなくなった。特に、銀塩写真並の高画質を得るために記録媒体への単位面積当たりのインク吐出量を増加することが必要であり、そのためにこれら記録媒体のインク吸収性の不足、滲みの発生の問題が挙げられ、さらには、銀塩写真に匹敵する高画質、表面光沢、色濃度発現のために、インク吸収層の透明性、及び印刷後の印刷部の耐水性も要求されている。
【0003】
近年、銀塩写真並の高画質を得るためのインクジェット記録媒体の技術開発が進み、ポリオレフィンで被覆した紙やポリマーフィルムなどの平滑性の高い支持体上に、無機微粒子により形成される微小空隙を有するインク吸収層を設けた記録媒体が、写真画質に迫るものとして市販されている。ところが、インク吸収性の無い支持体上で、十分なインク吸収容量を該インク吸収層だけで確保しようとすれば、35μm以上の非常に厚いインク吸収層を形成しなければならない。このような厚みを持つインク吸収層を得るためには、その数倍の厚みの塗工液を均質な厚みで塗布することが必要となるが、乾燥工程においても膜厚の均質性を保ちながら、かつ、効率良く該記録媒体を製造するのは困難であり問題となる。さらに、近年の地球環境保護のため塗工液の溶媒として水を用いることが要求されており、水は有機溶剤と比較して一般的に乾燥するまでに長時間を要し、該問題はより顕著となり、効果的な解決手段が求められている。
【0004】
その解決手段の一つとして、無機微粒子とともに、ポリビニルアルコールとホウ酸及び/又はホウ砂を含む塗工液を用いた記録用紙の製造方法が開示されている(特開2000−218927)。該塗工液は、比較的高い温度領域(おおよそ40℃以上)では低粘度水溶液の状態を保つが、15℃程度の低温領域では増粘する(ゲル状になる)。また、該塗工液は無機微粒子とともに、ゼラチンを含む塗工液を用いた場合にも同様の温度変化による増粘性を示す。該性質を利用することによって厚膜の塗工層を均質に保つことが可能である。しかしながら、該ポリビニルアルコールやゼラチンなどの水溶性ポリマーを使用する場合、無機微粒子によって形成された微小空隙を塞ぐという問題があり、特にゼラチンを使用した場合にこの問題は顕著である。また、近年、ホウ素に関して、水質汚濁に係わる環境基準が厳しくなっており、ポリビニルアルコールとホウ酸及び/又はホウ砂を用いる場合には、ホウ素による水質汚濁が懸念される。また、乾燥時間の短縮及び乾燥にかかるエネルギー費用の軽減のため、塗工液の固形分濃度を向上させ、蒸発させるべき水の量を減らそうとする場合、ポリビニルアルコールやゼラチンなどの水溶性ポリマーを含有する塗工液においては、高濃度化によって塗工液粘度が急激に増加してしまい、塗工液の取扱いが困難になる、塗工液を支持体上に均質に塗工することが困難となる等の問題が発生する。
【0005】
さらに、一定の温度(感温点)を境界にして親水性と疎水性が可逆的に変化する高分子
化合物を利用したバインダー組成物(特開2001−253996)や該高分子化合物を用いた記録媒体の製造方法(特開2001−180105)などが開示されているが、これらはいずれも該高分子化合物が親水性を示す温度領域(感温点以下の温度)にて調製した低粘度のバインダー組成物又は塗工液を感温点以上の温度に加熱することによって増粘させるものである。該バインダー組成物又は該塗工液を用いることによって得られる塗工層は透明性が低く、かつ、表面平滑性、表面光沢が低く、例えば、銀塩写真並の高画質が得られるようなインクジェット記録媒体を得ることができない。
【0006】
即ち、高画質、地球環境保全や省エネルギーなどの見地から十分に満足し得るインクジェット記録媒体、その製造に使用される記録媒体用塗工液、記録媒体の効率的な製造方法、及び該記録媒体の製造に有用な高分子エマルジョンと該高分子エマルジョンの製造方法の開発が求められている。
さらに、加熱によりインク組成物を発色させることによって印刷を行う感熱記録、グラビア印刷、オフセット印刷、その他各種方式による印刷、ペンなどの筆記用具による記録などに用いる記録媒体においても、表面光沢、表面光沢性、高画質、地球環境保全や省エネルギーなどの見地から十分に満足し得る記録媒体、その製造に使用される記録媒体用塗工液、記録媒体の効率的な製造方法、及び該記録媒体の製造に有用な高分子エマルジョンと該高分子エマルジョンの製造方法の開発が求められている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、インク吸収性、成膜性、表面光沢、透明性に優れた記録媒体、記録媒体用塗工液、該塗工液に用いる高分子エマルジョンとその製造法方法、更には記録媒体の効率的な製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、前記課題を解決するため種々検討を行った結果、記録媒体製造において使用される高分子エマルジョンであって、一定の温度(感温点)以下の温度領域では親水性を示し、感温点を超える温度領域では疎水性を示す高分子化合物(A)を少なくとも含有することを特徴とする高分子エマルジョン、該高分子エマルジョンの製造方法、該エマルジョンを含有することを特徴とする記録媒体用塗工液、該塗工液によって塗工層の少なくとも1層が形成されることを特徴とする記録媒体及び該記録媒体の製造方法をも見出し、本発明をなすに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
1.一定の温度(感温点)以下の温度領域では親水性を示し、感温点を超える温度領域では疎水性を示す高分子化合物(A)を含有する高分子エマルジョン、および動的光散乱法により測定される数平均粒子径DLが3〜200nmである微粒子(C)を含有する、感温点以下まで温度を下げた場合に増粘又はゲル化を生じる、支持体上に1層以上の塗工層を設けたインクジェット記録媒体用塗工液であって、前記塗工液が該感温点を超える温度に保持されたものであって、支持体上の前記塗工層の少なくとも一層が前記塗工液により形成されたものであって、上記高分子化合物(A)がN−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルピロリジン、N−(メタ)アクリロイルピペリジン、N−テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジメトキシエチル)−N−メチルアクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルホリンから選択される一種以上の主モノマー(M)の(共)重合体、又は該主モノマー(M)とメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、エチレン、イソプレン、ブタジエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、2−メチル−5−ビニルピリジン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−アクリロイルピロリジン、アクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートから選択される一種以上の副モノマー(N)の0.01質量%以上50質量%以下との共重合体であることを特徴とするインクジェット記録媒体用塗工液。
【0009】
2.カルボニル基を含有する前記高分子エマルジョンと、少なくとも2個の、ヒドラジン基、セミカルバジド基、又はヒドラジン基およびセミカルバジド基を有するヒドラジン誘導体を含有する、1.に記載のインクジェット記録媒体用塗工液。
3.微粒子(C)の、BET法による窒素吸着比表面積SBと動的光散乱法により測定される数平均粒子径DLから求めた換算比表面積SLとの差(SB−SL)が100m2 /g以上である1.または2.に記載のインクジェット記録媒体用塗工液。
4.微粒子(C)が、金属源として金属酸化物及び/又はその前駆体を用い、(i)金属源とテンプレートと水を混合反応させ複合体を製造する工程と、(ii)該複合体からテンプレートを除去する工程とを経て製造されたものであり、動的光散乱法によって測定される数平均粒子径DLが10〜300nmで、DLから求めた換算比表面積SLとBET法による窒素吸着比表面積SBとの差(SB−SL)が250m2 /g以上であることを特徴とする1から3のいずれかに記載のインクジェット記録媒体用塗工液。
【0010】
5.支持体上に1層以上の塗工層を設けたインクジェット記録媒体の製造方法であって、該塗工層の少なくとも1層の形成方法が、1.から4.のいずれかに記載の塗工液を、高分子化合物(A)の感温点を超える温度で支持体上に塗工後、感温点以下の温度まで冷却する工程を含む上記方法。
6.支持体上に1層以上の塗工層を設けたインクジェット記録媒体において、該塗工層の少なくとも1層が、1.から4.のいずれかに記載の塗工液によって形成されたものである上記インクジェッ記録媒体。
7.支持体上に1層以上の塗工層を設けたインクジェット記録媒体において、該塗工層の少なくとも1層が、5.に記載の製造方法によって製造されたものである上記インクジェット記録媒体。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明について、以下に具体的に説明する。
本発明に用いる、一定の温度(感温点)以下の温度領域では親水性を示し、感温点を超える温度領域では疎水性を示す高分子化合物(A)は、単独重合することによって該温度応答性(親水性−疎水性の変化)を呈する高分子化合物が得られるモノマー(主モノマー(M))の単独重合高分子化合物、又は二種類以上の主モノマー(M)の共重合高分子化合物、さらには、該主モノマー(M)と反応して高分子化合物を作ることができ且つ単独重合によっては該温度応答性を呈する高分子化合物が得られないモノマー(副モノマー(N))と主モノマー(M)との共重合高分子化合物である。主モノマー(M)と副モノマー(N)は各々1種又は2種以上のものを組み合わせて用いることもできる。
単独重合により高い温度応答性を有する高分子化合物が得られるが、該共重合を行うことによって、単独重合高分子化合物とは異なる感温点を持つ高分子化合物が得られたり、単独重合高分子化合物とは異なる成膜性が得られたりする。
【0012】
主モノマー(M)としてはN−アルキル又はN−アルキレン置換(メタ)アクリルアミド誘導体(ここで、(メタ)アクリルとはメタアクリル(あるいはメタクリル)又はアクリルを簡便に表記したものである)、ビニルメチルエーテルなどが挙げられ、具体的には例えば、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルピロリジン、N−(メタ)アクリロイルピペリジン、N−テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジメトキシエチル)−N−メチルアクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。成膜性の観点から、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルモルホリンが好ましい副モノマー(N)としては親油性ビニル化合物、親水性ビニル化合物、イオン性ビニル化合物などが挙げられ、具体的には、親油性ビニル化合物としてはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、エチレン、イソプレン、ブタジエン、酢酸ビニル、塩化ビニルなどが挙げられ、親水性ビニル化合物としては2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、2−メチル−5−ビニルピリジン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−アクリロイルピロリジン、アクリロニトリル、などが挙げられ、イオン性ビニル化合物としてはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル等のカルボン酸基含有モノマー、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマーなどが挙げられる。特に、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メタアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミドが好ましく用いられる。また、本発明の高分子エマルジョンを用いて得られる塗工層の成膜性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル等のカルボン酸基含有モノマー、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマーなどのアニオン基含有モノマーを用いることは好ましく、特にアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボン酸基含有モノマーを用いることは好ましい。
【0013】
主モノマー(M)と副モノマー(N)の共重合割合は、得られる共重合高分子化合物が一定の温度を境界にして親水性と疎水性が可逆的に変化する温度応答性を呈する範囲の中で決められる。つまり、副モノマー(N)の割合が多すぎれば、得られる共重合高分子化合物が該温度応答性を示さなくなる。
即ち、主モノマー(M)と副モノマー(N)の共重合割合は用いるモノマー種の組み合わせに依存するが、生成する高分子化合物中における副モノマー(N)の割合は50質量%以下が好ましい。更に好ましくは、30質量%以下である。また、副モノマー(N)の添加効果がより良く発現されるためには、その割合は0.01質量%以上が好ましい。
【0014】
本発明において、高分子化合物(A)の「感温点」とは、その親水性−疎水性が変化する温度であり、「温度応答性」とは、該親水性−疎水性の変化を示す性質を意味する。また、本発明において、「親水性」とは高分子化合物(A)と水とが共存する系において高分子化合物(A)は水と相溶した状態の方が、相分離した状態よりも安定であることを意味し、「疎水性」とは高分子化合物(A)と水とが共存する系において高分子化合物(A)は水と相分離した状態の方が、相溶した状態よりも安定であることを意味する。親水性−疎水性の変化は例えば、高分子化合物(A)と水とが共存する系の温度変化に伴う急激な粘度変化、又は高分子化合物(A)と水とが共存する系の透明性の急激な変化、又は高分子化合物(A)の水に対する溶解性の急激な変化として現れる。即ち、高分子化合物(A)と水とが共存する系の温度を、高分子化合物(A)が疎水性を示す温度領域(感温点を超える温度)から徐々に低下させたときの粘度を測定して得られる温度−粘度曲線が急激に変化する転移点として、あるいは高分子化合物(A)が疎水性を示す温度領域(感温点を超える温度)において得られる高分子化合物(A)の水分散液を徐々に冷却した時に該分散液が透明化又はゲル化し始める温度として、高分子化合物(A)の感温点を求めることができる。
【0015】
本発明の高分子エマルジョンは、含有する高分子化合物(A)の温度変化による親水性−疎水性の変化の影響によって急激に粘度変化を生じる温度(感温点)を有する。即ち、本発明の高分子エマルジョンの温度を該エマルジョンに含有される高分子化合物(A)が疎水性を示す温度領域(感温点を超える温度)から徐々に低下させたときの粘度を測定して得られる温度−粘度曲線が急激に変化する転移点として、あるいは本発明の高分子エマルジョンの温度を該高分子エマルジョンに含有される高分子化合物(A)が疎水性を示す温度領域(感温点を超える温度)から徐々に低下させたときに該高分子エマルジョンが透明化又はゲル化し始める温度として高分子化合物(A)の感温点を求めることができる。
【0016】
本発明の高分子エマルジョンをインクジェット記録媒体製造において使用する場合、インクジェット記録ではアニオン基を有する染料インクを用いることは、多くの場合、カチオン基を有する染料インクと比較して光耐久性が高いため好ましい。そのため当該アニオン基を有する染料インクを記録媒体に定着させる目的で、カチオン性高分子やカチオン性粒子などカチオン性の化合物をインクジェット記録媒体用塗工液に添加することが好ましい。該塗工液調製の容易さの観点から高分子化合物(A)がカチオン性又は非イオン性であることはより好ましい。カチオン性の高分子化合物(A)は例えば、重合に使用する副モノマー(N)として、カチオン基を持つエチレン性不飽和モノマーを含めることによって得ることができ、その観点から少なくとも一種類以上の、カチオン基を持つエチレン性不飽和モノマーを副モノマー(N)として使用することは好ましい。該カチオン基を持つエチレン性不飽和モノマーは各々1種又は2種以上のものを組み合わせて用いることもできる。特に、太陽光又は蛍光灯の光に、得られる記録媒体にインクジェットプリンターを用いて印刷を行った印刷物を曝しておいた場合に生じる退色の度合いの観点及び得られる高分子エマルジョンのコロイド安定性の観点から、該カチオン基を持つエチレン性不飽和モノマーとしては3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム塩基を含有することがより好ましい。
3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム塩基を含有する高分子化合物(A)は、例えば主モノマー(M)と、副モノマー(N)として3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム塩基を含有するモノマーとを共重合させて得られる。主モノマー(M)、副モノマー(N)(3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム塩基を含有するモノマーを含む)は各々1種又は2種以上のものを組み合わせて用いることもできる。
【0017】
3級アミノ基又は4級アンモニウム塩基含有モノマーとしては、モノマー中に3級アミノ基又は4級アンモニウム塩基を含む構造を有するものであれば特に制限されないが、ビニロキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、2,3−ジメチル−1−ビニルイミダゾリニウムクロリド、トリメチル−(3−(メタ)アクリルアミド−3,3−ジメチルプロピル)アンモニウムクロリド、トリメチル−(3−メタクリルアミドプロピル)アンモニウムクロリド、トリメチル−(3−アクリルアミドプロピル)アンモニウムクロリド、N−(1,1−ジメチル−3−ジメチルアミノプロピル)(メタ)アクリルアミド及びその4級アンモニウム塩、トリメチル−(3−(メタ)アクリルアミド)アンモニウムクロリド、1−ビニル−2−メチル−イミダゾール、1−ビニル−2−エチル−イミダゾール、1−ビニル−2−フェニル−イミダゾール、1−ビニル−2,4,5−トリメチル−イミダゾール、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート及びその4級アンモニウム塩、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びその4級アンモニウム塩、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びその4級アンモニウム塩、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びその4級アンモニウム塩、N−(3−ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド及びその4級アンモニウム塩、N−(3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド及びその4級アンモニウム塩、N−(3−ジエチルアミノプロピル)メタクリルアミド及びその4級アンモニウム塩、N−(3−ジエチルアミノプロピル)アクリルアミド及びその4級アンモニウム塩、o−,m−,p−アミノスチレン及びその4級アンモニウム塩、o−,m−,p−ビニルベンジルアミン及びその4級アンモニウム塩、N−(ビニルベンジル)ピロリドン、N−(ビニルベンジル)ピペリジン、N−ビニルイミダゾール及びその4級アンモニウム塩、2−メチル−1−ビニルイミダゾール及びその4級アンモニウム塩、N−ビニルピロリドン及びその4級アンモニウム塩、N,N’−ジビニルエチレン尿素及びその4級アンモニウム塩、α−又はβ−ビニルピリジン及びその4級アンモニウム塩、α−又はβ−ビニルピペリジン及びその4級アンモニウム塩、2−又は4−ビニルキノリン及びその4級アンモニウム塩等が例示される。特に、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドのメチルクロリド4級化合物が好ましく用いられる。
【0018】
主モノマー(M)と3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム塩基含有モノマーを含む副モノマー(N)の共重合割合は、得られる共重合高分子化合物が感温点を境にして親水性と疎水性が可逆的に変化する温度応答性を呈する範囲の中で決められる。
本発明に用いる、高分子化合物(A)中の3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム塩基含有モノマー単位の含有率は、上記条件の範囲の中においては特に制限されないが、塗工液調製の容易さの観点から0.01質量%以上が好ましく、成膜性の観点から50質量%以下が好ましい。更に好ましくは0.1〜30質量%である。
さらに、太陽光又は蛍光灯の光に印刷物を曝しておいた場合に生じる退色の度合いの観点から、3級アミノ基含有モノマーよりも4級アンモニウム塩基含有モノマーを使用する方がより好ましい。
【0019】
さらに、3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム塩基含有モノマー及び、前記アニオン基含有モノマーを共に含有することは、前述の該塗工液調製の容易さ、及び本発明の高分子エマルジョンを用いて得られる塗工層の成膜性、の両方の観点から好ましく、特に該アニオン基含有モノマーがアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボン酸基含有モノマーを用いることは好ましい。
本発明に用いる、高分子化合物(A)のガラス転移点は特に限定されないが、成膜性及び得られる記録媒体の柔軟性などの観点からガラス転移点は−50〜150℃が好ましく、一般的には得られる記録媒体への柔軟性付与の観点から−50〜30℃が好ましい。
【0020】
ただし、本発明の高分子エマルジョンをインクジェット記録媒体製造に使用する場合は、得られるインクジェット記録媒体のインク吸収性を重視する場合には30〜130℃が好ましく、得られるインクジェット記録媒体の柔軟性とインク吸収層の透明性を重視する場合にはガラス転移点は−50〜30℃が好ましい。また、本発明の高分子エマルジョンを感熱記録媒体製造に使用する場合は、熱記録ヘッドへの融着等の観点からガラス転移点は80〜150℃が好ましい。
本発明に用いる、高分子化合物(A)の感温点は特に限定されないが、塗工作業性及び成膜性などの観点から5〜100℃が好ましく、5〜50℃が更に好ましく、10〜40℃が最も好ましい。
本発明においては、11)〜15)の発明の高分子エマルジョンの製造方法をも提供する。
【0021】
本発明の高分子エマルジョンを製造するに際しては、高分子化合物(A)の感温点を超える温度領域において重合反応を行うことが好ましい。該温度領域において高分子化合物(A)は疎水性を示しエマルジョンを形成することから、該温度領域において、広く知られている高分子エマルジョンの製造技術を用いることによって本発明の高分子エマルジョンが得られる。具体的には、水に界面活性剤を溶解し、前記主モノマー(M)、副モノマー(N)等共重合モノマー成分を加えて乳化させ、ラジカル重合開始剤を加えて一括仕込みによる反応により乳化重合を行う方法のほか、連続滴下、分割添加などの方法により反応系に上記共重合成分や、ラジカル重合開始剤を反応系に供給する方法が挙げられる。
本発明に用いる高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンを製造するに際しては、界面活性剤を利用することが好ましい。
【0022】
本発明の高分子エマルジョンは、アニオン性、カチオン性、非イオン性、両性の何れであってもよい。
高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンがアニオン性の場合には、アニオン性界面活性剤及び/又は非イオン性界面活性剤を使用する。例えば、脂肪酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸塩、p−スチレンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ホルマリン重縮合物、高級脂肪酸とアミノ酸の縮合物、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、ナフテン酸塩等、アルキルエーテルカルボン酸塩、アシル化ペプチド、α−オレフィンスルホン酸塩、N−アシルメチルタウリン、アルキルエーテル硫酸塩、第二級高級アルコールエトキシスルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩、モノグリスルフェート、アルキルエーテル燐酸エステル塩、アルキル燐酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤としてはポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0023】
また高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンがカチオン性の場合には、カチオン性界面活性剤及び/又は非イオン性界面活性剤を使用する。例えば、カチオン性界面活性剤としては、ラウリルアミン塩酸塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロリド、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、アルキルアンモニウムヒドロキシド、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられ、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンが非イオン性である場合には、非イオン性界面活性剤を使用する。非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、オキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
両性界面活性剤としてはカルボキシベタイン型、アミノカルボン酸塩、レシチン等が挙げられる。
【0024】
高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンが両性の場合には、両性界面活性剤を使用することが高分子エマルジョンのpHの変化に対する安定性の観点から好ましいが、本発明の塗工液中で該高分子エマルジョンがカチオン性を示す場合にはカチオン性界面活性剤を使用することができ、本発明の塗工液中で該高分子エマルジョンがアニオン性を示す場合にはカチオン性界面活性剤を使用することができる。両性界面活性剤としてはカルボキシベタイン型、アミノカルボン酸塩、レシチン等が挙げられる。
これらの界面活性剤の使用量としては、高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンの脂固形分100質量部に対して0.05〜50質量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜30質量部である。
【0025】
本発明においては、前記界面活性剤を1種単独で使用することもできるし、またその2種以上を併用することもできる。
本発明の高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョン重合時に「反応性基を有する界面活性剤」を使用することによって非反応性の界面活性剤の使用量を減らすことは、得られる記録媒体に印刷した画像の耐水性の観点から好ましい。反応性基を有する界面活性剤は、一般に反応性界面活性剤と称され、分子中に疎水基、親水基及び反応性基を有する化合物を挙げることができる。該反応性基としては、例えば、(メタ)アリル基、1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、イソプロペニル基、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等の炭素−炭素二重結合を有する官能基が挙げられる。
【0026】
アニオン性を有する反応性界面活性剤としては、スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、カルボン酸塩基、燐酸塩基等の構造を含有するものが挙げられ、スルホン酸塩基を有するビニルモノマーとして、例えばアリルスルホン酸、2−メチルアリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、4−ビニルベンゼンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエタンスルホン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の各種のスルホン酸基含有ビニルモノマー類を各種の塩基性化合物により中和することにより得られるもの等が挙げられる。該塩基性化合物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、n−ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジエタノールアミン、2−ジメチルアミノエチルアルコール、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラ−n−ブチルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。硫酸エステル塩基を含有するビニルモノマーとして、例えばアリルアルコールの硫酸エステル等の硫酸エステル基を含有するビニルモノマー類を、前記各種塩基性化合物により中和することにより得られるもの等が挙げられる。燐酸塩基を含有するビニルモノマーとして、例えばモノ{2−(メタ)アクリロイルオキシエチル}アシッドホスフェート等のリン酸基含有ビニルモノマー類を、前記各種塩基性化合物により中和することにより得られるものなどが挙げられる。アリル基(CH2=C(−R)−CH2−)(ただしRはアルキル基)を含有するアニオン性を有する反応性界面活性剤としては例えば、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテルの硫酸エステル塩等が挙げられ、市販品としては、「アデカリアソープSE−10N」シリーズ(商標:旭電化工業(株)製)、「エレミノールJS−2」(商標:三洋化成工業(株)製)、「ラテムルS−180もしくはS−180A」(商標:花王(株)製)、「H3390A」及び「H3390B」(商標:第一工業製薬(株)製)等がある。(メタ)アクリロイル基(CH2=C(−R)−C(=O)−O−)(ただしRはアルキル基)を含有するアニオン性を有する反応性界面活性剤としては例えば、市販品として、「エレミノールRS−30」シリーズ(商標:三洋化成工業(株)製)、「AntoxMS−60」シリーズ(商標:日本乳化剤(株)製)等が挙げられる。プロペニル基(CH3−CH=CH−)を含有するアニオン性を有する反応性界面活性剤としては例えば、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテルの硫酸エステルアンモニウム塩等が挙げられ、市販品としては「アクアロンHS−10」シリーズ及び「アクアロンBC」シリーズ(商標:第一工業製薬(株)製)等がある。
【0027】
カチオン性を有する反応性界面活性剤としては、アミン塩基等カチオン性を有する構造を含有するカチオン性ビニルモノマー類等が挙げられる。アミン塩基を有するビニルモノマーとしては、例えばアリルアミン、N,N−ジメチルアリルアミン、N,N−ジエチルアリルアミン、N,N−ジエチルアミノプロピルビニルエーテルのアミノ基含有ビニルモノマー類を、各種酸性化合物により中和することによりえられるもの等が挙げられる。該酸性化合物としては、塩酸、蟻酸、酢酸、ラウリル酸等が挙げられる。カチオン性を有する反応性界面活性剤の市販品として、「RF−751」(商標:日本乳化剤(株)製)や「ブレンマーQA」(商標:日本油脂(株)製)等が挙げられる。
【0028】
非イオン性の反応性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体のような各種のポリエーテル鎖を側鎖に有するビニルエーテル類、アリルエーテル類又は(メタ)アクリル酸エステル類のモノマー類などが挙げられる。アリル基(CH2=C(−R)−CH2−)(ただしRはアルキル基)を含有する非イオン性の反応性界面活性剤としては例えば、ポリオキシエチレンアリルグリシジルノニルフェニルエーテルが挙げられ、市販品としては、「アデカリアソープNE」シリーズ(旭電化社製)等がある。(メタ)アクリロイル基(CH2=C(−R)−C(=O)−O−)(ただしRはアルキル基)を含有する非イオン性の反応性界面活性剤としては市販品として、「RMA−560」シリーズ(日本乳化剤社製)、「ブレンマーPE」シリーズ(日本油脂社製)等が挙げられる。プロペニル基(CH3−CH=CH−)を含有する非イオン性の反応性界面活性剤としては例えば、ポリオキシエチレンノニルプロペニルフェニルエーテルが挙げられ、市販品としては、「アクアロンRNシリーズ」(第一工業製薬社製)等がある。
【0029】
これらの反応性界面活性剤の使用量としては、高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョン樹脂固形分100質量部に対して0.05〜100質量部であることが好ましく、さらに好ましくは1〜50質量部である。
本発明においては、前記反応性界面活性剤を1種単独で使用することもできるし、またその2種以上を併用することもでき、さらには、前記反応性を有しない界面活性剤と併用することもできる。
本発明の高分子エマルジョンをインクジェット記録媒体製造において使用する場合、インクジェット記録ではアニオン基を有する染料インクを用いることは、多くの場合、カチオン基を有する染料インクと比較して光耐久性が高いため好ましい。そのため当該アニオン基を有する染料インクを定着させる目的でカチオン性高分子やカチオン性粒子などカチオン性の化合物をインクジェット記録媒体用塗工液に添加することが好ましく、該塗工液調製の容易さの観点から高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンにカチオン性界面活性剤又は非イオン性界面活性剤を使用することはより好ましい。特に、塗工液に、後述する微粒子(C)として乾式シリカなどのシリカ(酸化ケイ素)を主成分とする粒子を用いた場合には、該塗工液調製の容易さの観点から高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンがカチオン性界面活性剤を含有することが好ましい。この理由は明らかではないが、本発明の高分子エマルジョンが非イオン性界面活性剤のみを含有する場合にはシリカを主成分とする微粒子が凝集を生じ塗工液の調製が容易ではないが、カチオン性界面活性剤を含有させると凝集物を生じにくくなることがわかっている。
【0030】
本発明の高分子エマルジョン粒子の平均粒子径は特に限定されないが、塗工層の成膜性と高分子エマルジョンの製造効率などの観点から、10〜200nmのものが好ましく、さらに好ましくは10〜100nmである。本発明の高分子エマルジョンをインクジェット記録媒体製造において使用する場合には、塗工層の透明性、発色性の観点から該平均粒子径は100nm以下であることがとくに好ましい。ここで言う平均粒子径とは、高分子化合物(A)が疎水性を示す温度領域において動的光散乱法により測定される高分子エマルジョンの数平均粒子径である。
塗工前の塗工液中において、粒子(B)からなるコア部と、該コア部の周囲に高分子化合物(A)を含有するシェル部とによって形成された粒子を含有することは、成膜性の観点から好ましい。コア部を形成する粒子(B)は有機高分子化合物であってもよいし、無機微粒子であってもよいが、最終的に得られる塗工膜の柔軟性の観点からは有機高分子化合物がより好ましく、最終的に得られる塗工膜の空隙容量の大きさ、インク吸収性等の観点からは無機微粒子がより好ましい。ここで、コア部の周囲とは、コア部と一緒に媒体中を移動する範囲の周辺部を意味する。
【0031】
粒子(B)からなるコア部と、該コア部の周囲に高分子化合物(A)を含有するシェル部とによって形成された高分子エマルジョンは、コア部となる粒子(B)を第一段階の反応で合成した後、あるいは別途用意されたコア部となる粒子(B)を反応系に仕込むなどの後、前述の高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンの合成方法と同様の反応によって製造することができる。本発明において、粒子(B)は、アニオン性、カチオン性、非イオン性、両性の何れであってもよいが、前述の様に高分子化合物(A)がカチオン性で有ることはより好ましいことから、該高分子化合物(A)をシェル部に含有する高分子エマルジョンを重合する場合には、重合安定性の観点から粒子(B)はカチオン性であることがより好ましい。
粒子(B)からなるコア部と、該コア部の周囲の高分子化合物(A)を含有するシェル部との比率(コア/シェル比(質量比))は特に制限はないが、成膜性、得られる塗工層の塗膜強度とインク吸収性などの観点から1/10〜10/1の範囲が好ましい。
【0032】
粒子(B)が有機高分子化合物である場合、その例として例えば、水性媒体中でのラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などによって得られる従来公知のポリ(メタ)アクリレート系、ポリビニルアセテート系、酢酸ビニル−アクリル系、エチレン酢酸ビニル系、シリコーン系、ポリブタジエン系、スチレンブタジエン系、NBR系、ポリ塩化ビニル系、塩素化ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリスチレン系、塩化ビニリデン系、ポリスチレン−(メタ)アクリレート系、スチレン−無水マレイン酸系等の共重合体、三次元架橋樹脂などが挙げられ、シリコーン変性アクリル系、フッソ−アクリル系、アクリルシリコン、エポキシ−アクリル系等の変性共重合体も含まれる。粒子(B)はこれらの一種又は二種以上を含有することができる。ここで、(メタ)アクリレート系とはメタアクリレート系(あるいはメタクリレート系)又はアクリレート系を簡便に表記したものである。特に、ポリ(メタ)アクリレート系(アクリル系高分子化合物)及び/又はポリスチレン−(メタ)アクリレート系(スチレン−アクリル系高分子化合物)に分類される有機高分子化合物が、最終的に得られる塗工層の透明性や耐光黄変性、得られる記録媒体の保存性などの観点から、好ましく用いられる。
【0033】
有機高分子化合物である場合の粒子(B)は高分子エマルジョンとして得られることが好ましく、広く知られている高分子エマルジョンの製造技術を用いることによって得られ、具体的には、水性溶媒に前述の界面活性剤を溶解し、後述するモノマー成分を加えて乳化させ、ラジカル重合開始剤を加えて一括仕込みによる反応により乳化重合を行う方法のほか、連続滴下、分割添加などの方法により反応系に上記共重合成分や、ラジカル重合開始剤を反応系に供給する方法が挙げられる。
有機高分子化合物である場合の粒子(B)を得るためのモノマー(モノマー(L))としてはエチレン性不飽和モノマーの1種又は2種以上のものを組み合わせて用いることができ、具体的には、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド系モノマー、シアン化ビニル類等が挙げられ、(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、エチレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレン(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレン(メタ)アクリレート、エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0034】
アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレン(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール等が挙げられる。プロピレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレン(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール等が挙げられる。エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートの具体例としては、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド系モノマー類としては、例えば(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミドなどがあり、シアン化ビニル類としては、例えば(メタ)アクリロニトリルなどがある。また上記以外の具体例としては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類、ブタジエン等のジエン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、安息香酸ビニル、p−t−ブチル安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸イソプロペニル等のカルボン酸イソプロペニルエステル類、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類、スチレン、メチルスチレンなどのスチレン誘導体、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物、酢酸アリル、安息香酸アリル等のアリルエステル類、アリルエチルエーテル、アリルグリシジルエーテル、アリルフェニルエーテル等のアリルエーテル類、さらにγ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、パーフルオロメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピロメチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、トリメチロルプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2,3−シクロヘキセンオキシド、(メタ)アクリル酸アリル、メタクリル酸アシッドホスホオキシエチル、メタクリル酸3−クロロ−2−アシッドホスホオキシプロピル、メチルプロパンスルホン酸アクリルアミド、ジビニルベンゼン、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル等のカルボン酸基含有モノマー、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基含有モノマー等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリルとはメタアクリル(あるいはメタクリル)又はアクリルを簡便に表記したものである。
【0035】
本発明の高分子エマルジョンを用いて得られる塗工層の成膜性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル等のカルボン酸基含有モノマー、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマーなどのアニオン基含有モノマーを用いることは好ましく、特にアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボン酸基含有モノマーを用いることは好ましい。
【0036】
有機高分子化合物である場合の粒子(B)のガラス転移点は特に制限はないが、成膜性の観点からガラス転移点は−50〜150℃が好ましく、一般的には得られる記録媒体への柔軟性付与の観点から−50〜30℃が好ましい。ただし、本発明の高分子エマルジョンをインクジェット記録媒体製造に使用する場合に、得られるインクジェット記録媒体のインク吸収性を重視する場合には30〜130℃が好ましく、得られるインクジェット記録媒体の柔軟性とインク吸収層の透明性を重視する場合にはガラス転移点は−50〜30℃が好ましい。
有機高分子化合物である場合の粒子(B)の数平均粒径は特に限定されないが、塗工層の成膜性と高分子エマルジョンの製造効率などの観点から3〜150nmのものが好ましく用いられ、10〜100nmのものがさらに好ましい。ただし、本発明の高分子エマルジョンをインクジェット記録媒体製造に使用する場合には、インク吸収層の透明性、発色性と高分子エマルジョンの製造効率などの観点から、3〜100nmのものが好ましく用いられ、さらに好ましくは5〜70nmであり、最も好ましくは10〜50nmである。ここで言う数平均粒子径とは、動的光散乱法により測定される数平均粒子径である。
【0037】
コア部を形成する粒子(B)が無機微粒子である場合、粒子(B)としては例えば軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、珪藻土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、乾式シリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト系アルミナ、水酸化アルミニウム、ゼオライト、水酸化マグネシウム、その他にジルコニウム、チタン、タンタル、ニオブ、スズ、タングステンなどの金属酸化物、アルミニウム、バナジウム、ジルコニウム、タングステンなどの金属リン酸塩などが挙げられ、該無機質の一部を他の元素に置換した物や、有機物で修飾することにより表面を改質した物も用いることができる。これら無機微粒子のうち1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を使用することもできるが、特に、粒子(B)としてコロイダルシリカ、乾式シリカを使用することは好ましい。コロイダルシリカ、乾式シリカを使用することにより、得られる記録媒体に印刷したとき良好な画質が得られることから好ましい。コロイダルシリカとしては特に限定されず、通常のアニオン性のコロイダルシリカ、アルミニウムイオン等の多価金属化合物を反応するなどの方法で得られるカチオン性コロイダルシリカが用いられる。乾式シリカとしては特に限定されないが、四塩化ケイ素を水素及び酸素で燃焼して合成される気相法シリカが好ましく用いられる。乾式法シリカはそのまま用いてもよいし、表面をシランカップリング剤他で修飾した物でもよい。
【0038】
また、本発明の高分子エマルジョンをインクジェット記録媒体製造に使用する場合、粒子(B)としてアルミナゾル、擬ベーマイト系アルミナ微粒子を使用することは好ましい。アルミナゾル、擬ベーマイト系アルミナ微粒子を使用することにより、容易にカチオン性の高分子エマルジョンを得ることができ、得られるインクジェット記録媒体に印刷したときの画質が向上し、画像の耐水性を付与することができる。
該コア部を形成する粒子(B)は、一次粒子のまま用いてもよいし、二次粒子を形成した状態で用いることもできる。また、コア部を形成する粒子(B)の粒径はいかなるものも用いることができるが、平滑な表面を持つ記録媒体を得るため、好ましくは、数平均粒径が10μm以下のものが用いられ、より好ましくは1μm以下のものが用いられ、更に好ましくは200nm以下のものが用いられる。さらには、本発明のエマルジョンをインクジェット記録媒体製造に使用する場合、印刷後の印刷部の光学濃度(色濃度)を高くし、銀塩写真にも似た光沢を得る目的においては一次粒子の数平均粒径が100nm以下のコア部を形成する粒子(B)が好ましく用いられ、より好ましくは50nm以下のものが用いられる。コア部を形成する粒子(B)の粒径の下限は特に限定されないが、生産性の観点からおよそ3nm以上の数平均粒径であることが望ましい。
【0039】
本発明の高分子エマルジョンは溶媒の温度変化によって親水性、疎水性の変化を示さない高分子化合物(D)を含有することもできる。高分子化合物(D)は例えば、先述の副モノマー(N)あるいは有機高分子化合物である場合の粒子(B)を得るためのモノマー(モノマー(L))の1種又は2種以上のものを組み合わせて重合することにより得られる。さらに、溶媒の温度変化によって親水性−疎水性の変化を示さない組成の範囲内で主モノマー(M)の1種又は2種以上のものを含有することもできる。得られる高分子化合物(D)の親水性、疎水性の変化の有無は、水媒体中の高分子化合物(D)の温度を徐々に変化させた場合にその液の状態が透明化若しくはゲル化、又は白濁などの変化を目視にて確認される。副モノマー(N)と主モノマー(M)との共重合で高分子化合物(D)を得る場合、副モノマー(N)と主モノマー(M)との共重合割合は、用いるモノマー種の組み合わせに依存するが、主モノマー(M)の割合は50質量%以下が好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。高分子化合物(D)は高分子化合物(A)又は有機高分子からなる粒子(B)と同様の重合方法を用いて高分子エマルジョンに含有させることができる。高分子化合物(D)は親水性であってもよく、疎水性であってもよい。親水性の高分子化合物(D)を含有する高分子エマルジョンを記録媒体製造に使用した場合、より良好な成膜性が得られ好ましい。疎水性の高分子化合物(D)を含有する高分子エマルジョンを記録媒体製造に使用した場合、より高い固形分濃度の塗工液を低粘度で得ることができ、塗工層の乾燥をより効率的かつ経済的に行うことができ好ましい。高分子化合物(D)を得るため用いられるモノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、メチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなどが好ましい例として挙げられる。また、本発明の高分子エマルジョンを用いて得られる塗工層の成膜性の観点から、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル等のカルボン酸基含有モノマー、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマーなどのアニオン基含有モノマーを用いることは好ましく、特にアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボン酸基含有モノマーを用いることは好ましい。
【0040】
本発明の高分子エマルジョンをインクジェット記録媒体製造において使用する場合、インクジェット記録媒体用塗工液には、アニオン基を有する染料インクを定着させる目的でカチオン性高分子やカチオン性粒子などカチオン性の化合物を添加することが好ましく、該塗工液調製の容易さの観点から高分子化合物(D)がカチオン性又は非イオン性であることはより好ましい。カチオン性の高分子化合物(D)は例えば、重合に使用する副モノマー(N)の一部として、カチオン基を持つエチレン性不飽和モノマーを含めることによって得ることができる。該カチオン基を持つエチレン性不飽和モノマーは各々1種又は2種以上のものを組み合わせて用いることもできる。特に、太陽光又は蛍光灯の光に、得られる記録媒体にインクジェットプリンターを用いて印刷を行った印刷物を曝しておいた場合に生じる退色の度合いの観点及び得られる高分子エマルジョンのコロイド安定性の観点から、該カチオン基を持つエチレン性不飽和モノマーとしては、3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム塩基を含有することが好ましい。
【0041】
3級アミノ基又は4級アンモニウム塩基含有モノマーの例示及び好ましい例は、高分子化合物(A)と同様である。
さらに、3級アミノ基及び/又は4級アンモニウム塩基含有モノマー及び、前記アニオン基含有モノマーを共に含有することは、前述の塗工液調製の容易さ、および本発明の高分子エマルジョンを用いて得られる塗工層の成膜性、の両方の観点から好ましく、特に該アニオン基含有モノマーがアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボン酸基含有モノマーを用いることは好ましい。
本発明に用いる、高分子化合物(D)のガラス転移点は特に限定されないが、成膜性及び得られる記録媒体の柔軟性などの観点からガラス転移点は−50〜150℃が好ましく、一般的には得られる記録媒体への柔軟性付与の観点から−50〜30℃が好ましい。ただし、本発明の高分子エマルジョンをインクジェット記録媒体製造に使用する場合は、得られるインクジェット記録媒体のインク吸収性を重視する場合には30〜130℃が好ましく、得られるインクジェット記録媒体の柔軟性とインク吸収層の透明性を重視する場合にはガラス転移点は−50〜30℃が好ましい。また、本発明の高分子エマルジョンを感熱記録媒体製造に使用する場合は、熱記録ヘッドへの融着等の観点からガラス転移点は80〜150℃が好ましい。
【0042】
本発明の高分子エマルジョン固形分中に高分子化合物(D)が含まれる割合は特に制限はないが、高分子化合物(A)の親水性、疎水性の変化によって生じる粘度変化効果発現の観点から70質量%以下が好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
高分子化合物(A)を重合する際、ポリビニルアルコール又はポリビニルアルコール誘導体の共存下に重合することは、最終的に得られる記録媒体の塗工層の成膜性、成膜強度の観点から好ましい。
本発明に用いるポリビニルアルコール及び/又はポリビニルアルコール誘導体は特に限定されないが、ポリビニルアルコールとしては一般に完全ケン化型ポリビニルアルコールと呼ばれるケン化度96%〜100%のポリビニルアルコール、一般に部分ケン化型ポリビニルアルコールと呼ばれるケン化度76%〜95%のポリビニルアルコール等が挙げられ、ポリビニルアルコール誘導体としてはシラノール変性ポリビニルアルコール、カチオン変成ポリビニルアルコール、メルカプト基含有ポリビニルアルコール、ケト基含有ポリビニルアルコール等が挙げられる。ポリビニルアルコール及び/又はポリビニルアルコール誘導体は1種でもよいし複数の種類を混合して用いてもよい。該ポリビニルアルコール及びポリビニルアルコール誘導体の重合度は特に限定されないが、重合度300〜4000のものが好ましく用いられる。
【0043】
主モノマー(M)と副モノマー(N)、ポリビニルアルコール及び/又はポリビニルアルコール誘導体の使用割合は、得られる高分子化合物(A)が温度応答性を呈する範囲の中で決められ、高分子化合物(A)中のポリビニルアルコール又はポリビニルアルコール誘導体の含有率は、該条件の範囲の中においては特に制限されないが、最終的に得られる記録媒体の塗工膜の耐水性の観点から、0.1〜50wt%が好ましく用いられ、更に好ましくは0.5〜20wt%である。
本発明の高分子エマルジョンがカルボニル基を含有することは、得られる記録媒体の塗工層の塗膜強度及び耐水性の観点から好ましい。カルボニル基は高分子化合物(A)に含有させることもでき、粒子(B)に含有させることもでき、さらには、高分子化合物(D)に含有させることもできる。カルボニル基を含有する高分子化合物(A)は例えば、主モノマー(M)と、カルボニル基を含有するモノマーを含む副モノマー(N)とを共重合させて得られる。主モノマー(M)、カルボニル基を含有するモノマーを含む副モノマー(N)は各々1種又は2種以上のものを組み合わせて用いることもできる。主モノマー(M)とカルボニル基含有モノマーを含む副モノマー(N)との共重合割合は、得られる共重合高分子化合物が感温点を境にして親水性と疎水性が可逆的に変化する温度応答性を呈する範囲の中で決められる。
【0044】
高分子化合物(A)中のカルボニル基含有モノマー単位の含有率は特に制限されないが、製膜性の観点から0.01〜50質量%が好ましく、更に好ましくは0.1〜20質量%である。
カルボニル基を含有する粒子(B)は例えば、粒子(B)が有機高分子化合物よりなる場合には、前述の有機高分子化合物である場合の粒子(B)を得るためのモノマーとカルボニル基を含有するモノマーとを共重合して得られる。前述の有機高分子化合物である場合の粒子(B)を得るためのモノマーとカルボニル基を含有するモノマーは、各々1種又は2種以上のものを組み合わせて用いることもできる。粒子(B)中のカルボニル基含有モノマー単位の含有率は特に制限されないが、製膜性の観点から0.01〜50質量%が好ましく、更に好ましくは0.1〜20質量%である。
【0045】
カルボニル基を含有する高分子化合物(D)は例えば、前述の高分子化合物(D)を得るためのモノマーとカルボニル基を含有するモノマーとを共重合して得られる。前述の高分子化合物(D)を得るためのモノマーとカルボニル基を含有するモノマーは各々1種又は2種以上のものを組み合わせて用いることもできる。高分子化合物(D)中のカルボニル基含有モノマー単位の含有率は特に制限されないが、製膜性の観点から0.01〜50質量%が好ましく、更に好ましくは0.1〜20質量%である。
カルボニル基含有モノマーとしては、モノマー中にケト基又はアルド基を含む構造を有するものであれば特に制限されないが、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、ホルミルスチロール、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン、アクリルオキシアルキルプロパナール類、メタクリルオキシアルキルプロパナール類、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート、アセトニトリルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレートアセチルアセテート、ブタンジオールアクリレートアセチルアセテート等が例示される。
【0046】
本発明の高分子エマルジョンがカルボニル基を含有する場合、記録紙製造に使用する塗工液に、架橋剤として少なくとも2個のヒドラジン基及び/又はセミカルバジド基を有するヒドラジン誘導体を用いることが、得られる塗膜の耐水性や強度などの観点から好ましい。該ヒドラジン誘導体を、本発明の高分子エマルジョンを含有する塗工液に添加、混合し、塗布、乾燥することによりカルボニル基部位がヒドラジン誘導体によって架橋された分子構造を持つ化合物を含有する塗工層を得ることができる。ヒドラジン誘導体としては少なくとも2個のヒドラジン基及び/又はセミカルバジド基を有する化合物で有れば特に限定されないが、これらの内、ヒドラジン基を有する化合物としてはカルボヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、こはく酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド、ポリアクリル酸ヒドラジド、エチレン−1,2−ジヒドラジン、プロピレン−1,3−ジヒドラジン、ブチレン−1,4−ジヒドラジン、水加ヒドラジンなどが例示され、セミカルバジド基を有する化合物としてはポリイソシアネート化合物と該ヒドラジン化合物の反応により得られる生成物が例示される。該ヒドラジン誘導体としては、セミカルバジド基を有する化合物が、得られる記録媒体の耐水性が高く好ましい。該ヒドラジン誘導体の含有量は特に限定されないが、得られた高分子エマルジョン中のカルボニル基含有モノマー単位に対して0.01〜10倍モル量が好ましい。
【0047】
本発明の高分子エマルジョンにエチルアルコールなどのアルコール類を添加することで感温点を低下させることができる。即ち、感温点が室温以上である場合、アルコール類を添加し、室温付近の温度で高分子化合物(A)をエマルジョンの状態に保つことができ、高分子化合物(A)を含む高分子エマルジョンの輸送を極めて容易に且つ経済的に行うことができるので好ましい。アルコール類としては特に制限はないが、エチルアルコール、メチルアルコール、n−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコール等が挙げられるが、効果の面からメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましく用いられる。これらアルコール類は単独で用いることもでき、二種類以上を組み合わせて用いることもできる。アルコール類の添加量はエタノールの場合、高分子エマルジョン中の水100質量部に対し、通常5質量部〜200質量部添加することが好ましい。
【0048】
本発明においては、記録媒体用塗工液(前記16)〜23)の発明)をも提供する。
本発明の塗工液は、高分子化合物(A)又は本発明の高分子エマルジョンの感温点を超える温度にて調製、使用することが好ましい。即ち、本発明の塗工液は、該感温点を超える温度では、比較的低粘度であるが、該塗工液を該感温点以下の温度に冷却することによって該塗工液は急激に増粘(あるいはゲル化)する。該増粘は高分子化合物(A)が疎水性から親水性に変化することによって生じる。即ち、本発明の塗工液を該感温点を超える温度で支持体上に塗工後、速やかに感温点以下の温度まで冷却することによって、比較的低粘度の塗工液によって形成される極めて平滑かつ均質な塗工膜を、その後の増粘(あるいはゲル化)によってそのまま固定することが可能で、乾燥工程においても良好な表面状態と塗膜の均質性を保持でき、良質な塗工層を得ることができる。
本発明の塗工液において微粒子(C)を含有させることは、得られる記録媒体のインク吸収性の観点から好ましい。微粒子(C)は有機化合物であってもよく、無機化合物であってもよい。
【0049】
微粒子(C)が有機化合物である場合、例えば、水性媒体中でのラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などによって得られる従来公知のポリ(メタ)アクリレート系、ポリビニルアセテート系、酢酸ビニル−アクリル系、エチレン酢ビ系、シリコーン系、ポリブタジエン系、スチレンブタジエン系、NBR系、ポリ塩化ビニル系、塩素化ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリスチレン系、塩化ビニリデン系、ポリスチレン−(メタ)アクリレート系、スチレン−無水マレイン酸系等の共重合体、三次元架橋樹脂などが挙げられ、シリコーン変性アクリル系、フッ素−アクリル系、アクリルシリコン、エポキシ−アクリル系等の変性共重合体も含まれ、これらの一種又は二種以上を含有することができる。ここで、(メタ)アクリレート系とはメタアクリレート系(あるいはメタクリレート系)又はアクリレート系を簡便に表記したものである。特に、ポリ(メタ)アクリレート系(アクリル系高分子化合物)あるいは/及びポリスチレン−(メタ)アクリレート系(スチレン−アクリル系高分子化合物)に分類される有機高分子化合物が、最終的に得られるインク吸収層の透明性や耐光黄変性、得られる記録媒体の保存性などの観点から、好ましく用いられる。
有機高分子化合物である場合の微粒子(C)は高分子エマルジョンとして得られることが好ましく、広く知られている高分子エマルジョンの製造技術を用いることによって得られ、具体的には、水性溶媒に前述の界面活性剤を溶解し、後述するモノマー成分を加えて乳化させ、ラジカル重合開始剤を加えて一括仕込みによる反応により乳化重合を行う方法のほか、連続滴下、分割添加などの方法により反応系に上記共重合成分や、ラジカル重合開始剤を反応系に供給する方法が挙げられる。
【0050】
有機高分子化合物である場合の微粒子(C)を得るためのモノマーとしては、エチレン性不飽和モノマーの1種又は2種以上のものを組み合わせて用いることができ、具体的には、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド系モノマー、シアン化ビニル類等が挙げられ、(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレン(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレン(メタ)アクリレート、エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。アルキル部の炭素数が1〜18の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレン(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸エチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール等が挙げられる。プロピレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレン(メタ)アクリレートの具体例としては、(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸テトラプロピレングリコール等が挙げられる。エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートの具体例としては、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド系モノマー類としては、例えば(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミドなどがあり、シアン化ビニル類としては、例えば(メタ)アクリロニトリルなどがある。また上記以外の具体例としては、例えばエチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類、ブタジエン等のジエン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロオレフィン類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、n−酪酸ビニル、安息香酸ビニル、p−t−ブチル安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ラウリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類、酢酸イソプロペニル、プロピオン酸イソプロペニル等のカルボン酸イソプロペニルエステル類、エチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル等のビニルエーテル類、スチレン、メチルスチレンなどのスチレン誘導体、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物、酢酸アリル、安息香酸アリル等のアリルエステル類、アリルエチルエーテル、アリルグリシジルエーテル、アリルフェニルエーテル等のアリルエーテル類、さらにγ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−(メタ)アクリロイルオキシ−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン、パーフルオロメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピロメチル(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、トリメチロルプロパントリ(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2,3−シクロヘキセンオキサイド、(メタ)アクリル酸アリル、メタクリル酸アシッドホスホオキシエチル、メタクリル酸3−クロロ−2−アシッドホスホオキシプロピル、メチルプロパンスルホン酸アクリルアミド、ジビニルベンゼン等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリルとはメタアクリル(あるいはメタクリル)又はアクリルを簡便に表記したものである。
【0051】
有機高分子化合物である場合の微粒子(C)のガラス転移点は特に制限はないが、成膜性の観点からガラス転移点は−50〜150℃が好ましく、一般的には得られる記録媒体への柔軟性付与の観点から−50〜30℃が好ましい。ただし、本発明の高分子エマルジョンをインクジェット記録媒体製造に使用する場合は、得られるインクジェット記録媒体のインク吸収性を重視する場合には30〜130℃が好ましく、得られるインクジェット記録媒体の柔軟性とインク吸収層の透明性を重視する場合にはガラス転移点は−50〜30℃が好ましい。
微粒子(C)が無機化合物である場合、例えば軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイト、珪酸アルミニウム、珪藻土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、乾式シリカ、アルミナ、コロイダルアルミナ、擬ベーマイト系アルミナ、水酸化アルミニウム、ゼオライト、水酸化マグネシウム、その他にジルコニウム、チタン、タンタル、ニオブ、スズ、タングステンなどの金属酸化物、アルミニウム、バナジウム、ジルコニウム、タングステンなどの金属リン酸塩などが挙げられ、該無機化合物の一部を他の元素に置換した物や、有機物で修飾することにより表面を改質した物も用いることができる。これら無機微粒子のうち1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を使用することもできる。
【0052】
特に微粒子(C)としてコロイダルシリカ、乾式シリカを使用することは好ましい。コロイダルシリカ、乾式シリカを使用することにより、得られる記録媒体に印刷したときの画質が向上し、光沢を付与することができる。コロイダルシリカとしては特に限定されず、通常のアニオン性のコロイダルシリカ、アルミニウムイオン等の多価金属化合物を反応するなどの方法で得られるカチオン性コロイダルシリカが用いられる。乾式シリカとしては特に限定されないが、四塩化ケイ素を水素及び酸素で燃焼して合成される気相法シリカが好ましく用いられる。乾式法シリカはそのまま用いてもよいし、表面をシランカップリング剤他で修飾した物でもよい。
また、インクジェット記録媒体製造においては、微粒子(C)としてアルミナゾル、擬ベーマイト系アルミナ微粒子を使用することは好ましい。アルミナゾル、擬ベーマイト系アルミナ微粒子を使用することにより、得られるインクジェット記録媒体に印刷したときの画質が向上し、画像の耐水性を付与することができる。
【0053】
本発明に用いる微粒子(C)は、一次粒子のまま用いてもよいし、二次粒子を形成した状態で用いることもできる。また、微粒子(C)の粒径はいかなるものも用いることができるが、平滑な表面を持つ記録媒体を得るため、通常、数平均粒径が10μm以下のものが用いられ、好ましくは1μm以下のものが用いられる。さらには、インクジェット記録媒体の製造に際しては、印刷後の印刷部の光学濃度(色濃度)を高くし、銀塩写真にも似た光沢を得る目的においては一次粒子の数平均粒径が200nm以下の微粒子(C)が好ましく用いられ、より好ましくは数平均粒径が100nm以下のものが用いられ、さらに好ましくは50nm以下のものが用いられる。
微粒子(C)の粒径の下限は特に限定されないが、微粒子(C)の製造効率の観点からおよそ3nm以上の数平均粒径であることが望ましい。ここで言う数平均粒子径とは、動的光散乱法により測定される数平均粒子径である。
【0054】
さらに、微粒子(C)として、金属源として金属酸化物及び/又はその前駆体を用い、(ア)金属源とテンプレートと水を混合反応させ複合体を製造する工程と、(イ)該複合体からテンプレートを除去する工程と、を経て製造され、動的光散乱法によって測定される数平均粒子径DLから求めた換算比表面積SLとBET法による窒素吸着比表面積SBとの差(SB−SL)が250m2/g以上の多孔性物質を使用することは、得られる塗工層のインク吸収性の観点から特に好ましい。ここで「多孔性」とは、窒素吸着法で求めた細孔分布において細孔を示すことを意味する。ここでは、動的光散乱法によって測定される平均粒子径DLから計算される換算比表面積SL(m2/g)は、粒子が球状であると仮定し、SL=6×103/密度(g/cm3)×DL(nm)により求められる。この値と、BET法による窒素吸着比表面積SBとの差(SB−SL)が250m2/g以上であるということは、粒子がきわめて多孔性であることを示しており、該多孔性物質をインクジェット記録媒体製造に使用することはインク吸収性の観点から特に好ましい。
該多孔性物質の粒径はいかなるものも用いることができるが、平滑な表面を持つ記録媒体を得るため、通常、DLが10μm以下のものが用いられ、好ましくは1μm以下のものが用いられる。さらには、インクジェット記録媒体の製造に際しては、印刷後の印刷部の光学濃度(色濃度)を高くし、銀塩写真にも似た光沢を得る目的においてはDLが300nm以下の微粒子(C)が好ましく用いられ、より好ましくは150nm以下のものが用いられる。
【0055】
該多孔性物質の粒径の下限は特に限定されないが、該多孔性物質の製造効率の観点からおよそ10nm以上の数平均粒径であることが望ましい。
該多孔性物質の合成で用いられる金属源は金属酸化物及び/又はその前駆体であり、金属種としては、ケイ素、2族のマグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属、亜鉛、3族のアルミニウム、ガリウム、希土類等、4族のチタン、ジルコニウム等、5族のリン、バナジウム、7族のマンガン、テルル等、8族の鉄、コバルト等が挙げられる。前駆体としては、これら金属の硝酸塩、塩酸塩等の無機塩、酢酸塩、ナフテン酸塩等の有機酸塩、アルキルアルミニウム等の有機金属塩、アルコキシド、水酸化物が挙げられるが、後述する合成方法によって合成できるものであればこれに限定されるものではない。
金属としてケイ素を選んだ場合、金属源として好ましくはテトラエトキシシラン等のアルコキシドや活性シリカを用いることができる。該活性シリカは、水ガラスから有機溶剤で抽出したり、水ガラスをイオン交換したりするなどして調製することができる。原料として安価な水ガラスを使用することは工業的利用の観点から好ましい。特に、水ガラスをH+型カチオン交換体と接触させて調製する場合、Na含有量が少なく、安価である3号水ガラスを用いるのが工業的に好ましい。カチオン交換体としては、たとえばスルホン化ポリスチレンジビニルベンゼン系の強酸性交換樹脂(例えばローム&ハース社製、アンバーライトIR−120B:商品名)等が好ましいが、特にこれに限定されるものではない。
【0056】
金属としてアルミニウムを選んだ場合、金属源として好ましくはアルミン酸アルカリ、具体的にはアルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸リチウム、アルミン酸第一アンモニウム、アルミン酸グアニジンなどを用いることができる。
該テンプレートとしては、金属源となる化合物と相互作用を持つものであれば特に制限はないが、非イオン性界面活性剤を用いる場合、該多孔性物質を製造する上で、後述するテンプレート除去工程において水あるいは水と有機溶剤の混合溶媒を用い容易にテンプレートを除去でき好ましい。
非イオン性界面活性剤としては、構造式HO(C2H4O)a−(C3H6O)b−(C2H4O)cH(但し、a、cは10〜110を、bは30〜70をしめす)で示されるもの、あるいは構造式R(OCH2CH2)nOH(但し、Rは炭素数12〜20のアルキル基を、nは2〜30を示す)で示されるものが好ましい。具体的には、「プルロニックP103」、「プルロニックP123」、「プルロニックP85」(旭電化工業(株)製、界面活性剤:商品名)等やポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル等を挙げることができる。該多孔性物質の細孔径を変化させるために、有機助剤として、炭素数6〜20の芳香族炭化水素、炭素数5〜20の脂環式炭化水素、炭素数3〜16の脂肪族炭化水素及びこれらのアミンならびにハロゲン置換体、例えば、トルエン、トリメチルベンゼン、トリイソプロピルベンゼン等を加えることができる。
【0057】
以下に、該多孔性物質の製造方法を説明する。
金属源とテンプレートの反応は、たとえば、金属源を溶媒に溶解又は分散したものと、テンプレートを溶媒に溶解又は分散したものを撹拌混合した後行わせることができるが、これに限定されるものではない。溶媒としては、水又は水と有機溶剤の混合溶媒のいずれを用いてもよいが、有機溶剤としては、アルコール類が好ましい。アルコール類としては、エタノールやメタノール等の低級アルコールが好ましい。
これらの反応に用いられる組成は、テンプレートと金属源、溶媒により異なるが、凝集や沈殿等が生じ、粒子径が大きくならない範囲を選ぶことが必要である。また、粒子の凝集や沈殿を防ぐためにNaOH等のアルカリや低分子PVA等の安定化剤を加えてもよい。
【0058】
例えば、金属源として活性シリカを、テンプレートとして「プルロニックP103」を、溶媒として水を用いる場合は、次のような組成を用いることができる。P103/SiO2の質量比として、好ましくは0.01〜30、より好ましくは0.1〜5の範囲が用いられる。有機助剤/P103の質量比は、好ましくは0.02〜100、より好ましくは0.05〜35である。反応時の水/P103の質量比としては、好ましくは10〜1000、より好ましくは20〜500の範囲が用いられる。安定化剤として、NaOHをNaOH/SiO2の質量比として1×10−4〜0.15の範囲で加えてもよい。
該多孔性物質が、ケイ素とアルミニウムを含む場合、Al/Siの元素比として好ましくは0.003〜0.1であり、より好ましくは0.005〜0.05である。
反応は常温でも容易に進行するが、必要に応じて100℃までの加温下で行うこともできる。反応時間としては0.5〜100時間、好ましくは3〜50時間の範囲が用いられる。反応時のpHは好ましくは2〜13、より好ましくは4〜12の範囲で、pHの制御のためにNaOHなどのアルカリや塩酸、硫酸などの酸を加えてもよい。
【0059】
該複合体を製造した後にアルミン酸アルカリ共存下で40〜95℃に加熱し、変性する工程を行うこともできる。複合体がケイ素を含む場合、この工程を行うことで、酸性にしたりカチオン性物質を添加しても安定で、長期間の保存にも耐えるゾルを製造することができる。用いるアルミン酸アルカリとしては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸リチウム、アルミン酸第一アンモニウム、アルミン酸グアニジンなどを用いることができるが、アルミン酸ナトリウムが好ましい。該変性工程は、複合体からテンプレートを除去する前でも後でもかまわない。
以下に、テンプレート除去前の場合を例に変性方法を説明する。複合体を製造した後、その反応溶液にアルミン酸アルカリ溶液を添加する。添加は、0〜80℃、好ましくは5〜40℃で撹拌しながら行う。添加するアルミン酸アルカリの濃度は特に限定されないが、1〜20質量%が好ましい。添加する量は、Al/Siの元素比として好ましくは0.003〜0.1であり、より好ましくは0.005〜0.05である。添加後、40〜95℃で加熱するのが好ましく、60〜80℃で加熱するのがより好ましい。40℃以下の加熱は、ゾルを作成した際に、酸性にしたときにゲル化しやすく、十分な安定性が得られない。
【0060】
次に、テンプレートの除去方法について説明する。得られた反応溶液にアルコール等の溶剤を加え、限外ろ過装置などを用いて複合体からテンプレートを除去する事により多孔性物質が得られる。この際、粒子の凝集を防ぐためにNaOH等のアルカリや低分子PVA等の安定化剤を加えてもよい。除去に用いる溶剤は、テンプレートを溶解するものであればよく、取り扱いが簡単で溶解力の高いアルコール類が好ましい。アルコール類としては、メタノール、エタノール等の低級アルコールが好ましい。除去温度は、用いる溶剤やテンプレートにより異なるが、20〜80℃が好ましい。除去されたテンプレートは溶剤を除くことで再利用することができる。また、得られた複合体を、ろ過等により濾別し、水洗、乾燥し、次いで含有しているテンプレートを超臨界流体やアルコール等の溶剤と接触させる、あるいは焼成等の方法で除去することにより、多孔性物質を得てもよい。焼成温度は、テンプレートが消失する温度以上、概ね500℃以上である。焼成時間は、温度との関係で適宜設定されるが、30分〜6時間程度である。除去方法としては、溶剤と複合体を撹拌混合する方法や、複合体をカラム等に詰め溶剤を流通させる等の方法を採ることができる。
【0061】
本発明は、記録媒体の製造方法(前記24)及び25)の発明)をも提供する。
本発明の塗工液を、高分子化合物(A)又は本発明の高分子化合物の感温点を超える温度(即ち、高分子化合物(A)が疎水性の温度)で支持体に塗工する場合には、該塗工液が該感温点以下の温度(即ち、高分子化合物(A)が親水性の温度)で支持体に塗工する場合や本発明の高分子エマルジョンの代わりにポリビニルアルコールなどの他の水溶性高分子を用いた場合と比較して、該塗工液はより低粘度であり、より高濃度の塗工液を得ることができる。即ち、乾燥に必要な時間やエネルギーを節約でき、より経済的に記録媒体を得ることが可能である。さらに、高分子化合物(A)の感温点を超える温度の塗工液を支持体に塗工する場合には、得られる塗工層の空隙率が高く、インク吸収性が良好となり、インクジェット記録媒体として用いる場合に特に有用である。この理由は明確ではないが、塗工液中で高分子化合物(A)が疎水化されていることで高分子エマルジョンを形成し、インク吸収に有効な微小空隙中に侵入し空隙を埋めることが少ないため、良好なインク吸収性を発現できるのであろうと推測している。
【0062】
本発明の塗工液は、高分子化合物(A)又は本発明の高分子エマルジョンの感温点を超える温度では、比較的低粘度であるが、該塗工液を該感温点以下の温度に冷却することによって該塗工液は急激に増粘(あるいはゲル化)する。該増粘は高分子化合物(A)が疎水性から親水性に変化することによって生じる。即ち、本発明の塗工液を該感温点を超える温度で支持体上に塗工後、速やかに該感温点以下の温度まで冷却することによって、比較的低粘度の塗工液によって形成される極めて平滑かつ均質な塗工膜を、その後の増粘(あるいはゲル化)によってそのまま固定することが可能で、乾燥工程においても良好な表面状態と塗膜の均質性を保持でき、良質な塗工層を得ることができる。
また、塗工後の冷却温度は、得られる塗工層の成膜性、透明性の観点から、該感温点よりも5℃以上下げることが好ましく、さらには10℃以上下げることがより好ましい。
【0063】
該塗工液を該感温点を超える温度で支持体上に塗工後、該感温点以下の温度まで冷却する工程の後に、温風による乾燥を行うことは好ましい。温風を塗工面に強く吹き付けることによって効率的に乾燥を行うことができる。原因は不明であるが、乾燥速度が速いほど得られる塗工層の成膜性が良好であり、かつ微小なクラックなどが入りにくくなることが見出された。特に、該塗工液を感温点を超える温度で支持体上に塗工後、感温点以下の温度まで冷却する工程の後、5分以内に実質的に乾燥が終了するような条件で上記の効果が好ましく発現する。インクジェット記録媒体製造においてはより良好なインク吸収性を有する塗工層が得られる。ここで、「実質的に乾燥が終了する」とは、一般的な室内で該記録媒体を取り扱う際に含水量が平衡状態で保持する程度の含水量以下になることをいう。
さらに、本発明に用いる高分子化合物(A)が塗工前の塗工液中において高分子エマルジョンを形成している場合、該記録媒体塗工液を使用して得られる記録媒体は、エマルジョン化していない場合、即ち、高分子化合物(A)が記録媒体塗工液中において凝集又は粗大な塊を形成している場合に得られる記録媒体と比較して、より均質で良好な塗工層の塗膜を得ることができるので好ましい。
【0064】
高分子化合物(A)が塗工前の塗工液中においてエマルジョンを形成している場合、該塗工液を使用して得られる記録媒体は、高分子化合物(A)を含む該エマルジョンの代わりに、温度応答性を有しない(親水性と疎水性が変化しない)高分子化合物からなるエマルジョンを含有する塗工液を使用して得られる記録媒体と比較して、記録媒体表面のクラックが入りにくく、かつ表面平滑性などに優れた良好な記録媒体が得られる。
本発明の記録媒体用塗工液に使用する溶剤は特に限定されないが、アルコール、ケトン、エステル等の水溶性溶剤、及び/又は水が好ましく使用される。更に、該塗工液中には必要に応じて顔料分散剤、増粘剤、流動調整剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、着色剤等を配合することができる。
本発明の記録媒体用塗工液が、本発明の高分子エマルジョンと少なくとも2種以上の微粒子(C)を含み、そのうちの1種がコロイダルシリカであることも好ましい。コロイダルシリカを含有することにより成膜性が向上する。コロイダルシリカとしては、通常の球状コロイダルシリカ、数珠状に連結及び/又は分岐した形状のコロイダルシリカなどが例示され、数珠状に連結及び/又は分岐した形状のコロイダルシリカが好ましく用いられる。
【0065】
本発明において微粒子(C)として数珠状に連結及び/又は分岐した形状のコロイダルシリカを用いた場合は成膜性のみならず、インク吸収性も向上するため好ましい。数珠状に連結及び/又は分岐した形状のコロイダルシリカとは、球状のコロイダルシリカが数珠状に連結した長鎖の構造を有するもの、及び連結したシリカが分岐したもの、又は屈曲したものであり、例えば、球状シリカの一次粒子を2価以上の金属イオンを介在させ、粒子一粒子間を結合させて得ることができる。該コロイダルシリカの大きさは特に限定されないが、動的光散乱法により測定される数平均粒子径が20〜400nmであるものが好ましく、20〜200nmであるものがより好ましく用いられる。具体的には「スノーテックスUP」、「スノーテックスOUP」、「スノーテックスPS−M」、「スノーテックスPSL」、「スノーテックスPS−S」、「スノーテックスPS−SO」(日産化学工業(株)製)などが例示される。
【0066】
本発明に用いるコロイダルシリカの一次粒子径は特に限定されないが、BET法により測定される平均粒子径が4〜100nmであるものが好ましく用いられる。本発明のコロイダルシリカの使用量は特に限定されないが、コロイダルシリカ以外の微粒子(C)100質量部に対して、1〜900質量部が好ましく用いられ、5〜200質量部がより好ましく用いられる。
本発明の記録媒体用塗工液が、本発明の高分子エマルジョンと少なくとも2種以上の微粒子(C)を含み、そのうちの1種が乾式シリカであることも好ましい。乾式シリカを含有することによりインク吸収性が向上する。本発明に用いる乾式シリカとしては特に限定されないが、四塩化ケイ素、メチルトリクロロシラン、トリクロロシラン等を水素及び酸素で燃焼して合成される気相法シリカが好ましく用いられる。具体的には「アエロジル」(日本アエロジル(株)製:商品名)、「レオロシール」((株)トクヤマ製:商品名)などが例示される。乾式法シリカはそのまま用いてもよいし、表面をシランカップリング剤等で修飾したもの、酸化アルミ等を一部含有させたものを用いてもよい。
【0067】
本発明に用いる乾式シリカの一次粒子径は特に限定されないが、BET法により測定される平均粒子径が4〜50nmであるものが好ましく用いられる。本発明の乾式シリカの使用量は特に限定されないが、乾式シリカ以外の微粒子(C)100質量部に対して、1〜900質量部が好ましく用いられ、5〜200質量部がより好ましく用いられる。
本発明の高分子エマルジョンの、塗工層中の含有量は特に限定されないが、本発明の高分子エマルジョンが含有される各々の塗工層において、製膜性の観点から、該塗工層の全固形分の5質量%以上が好ましく、インクジェット記録媒体においては、インク吸収性の観点から60質量%以下含有することが好ましく、5〜40質量%含有することが特に好ましい。
【0068】
本発明において更に良好な成膜性を付与するため、塗工層に水溶性樹脂(E)を、本発明の高分子エマルジョンと併用することができる。水溶性樹脂(E)としては特に限定されないが、ポリビニルアルコール、カチオン変成ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド類、デンプン及びデンプン誘導体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、カゼイン、ゼラチンなどが例示され、ポリビニルアルコール、カチオン変成ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール誘導体がより好ましく用いられる。該水溶性樹脂(E)の含有量は、本発明の高分子エマルジョン100質量部に対して、本発明の効果及びインク吸収性の観点から1〜400質量部含有することが好ましく、5〜100質量部含有することが特に好ましい。
【0069】
本発明においてはその他の有機バインダーを併用することもできる。例えば、ポリ酢酸ビニル類、ポリアセタール類、ポリウレタン類、ポリビニルブチラール類、ポリ(メタ)アクリル酸(エステル)類、ポリアミド類、ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。
本発明において、インクジェット記録媒体製造に際しては、インク吸収層の少なくとも1層がカチオン性ポリマー(F)を含有することが好ましい。カチオン性ポリマー(F)を含有することにより印字部の耐水性が向上する。該カチオン性ポリマー(F)としてはカチオン性を示すものであれば特に限定されないが、第一アミン、第二アミン、第三アミン置換基及びこれらの塩、第4級アンモニウム塩置換基の少なくとも1種を含むものが好ましく用いられる。例えばジメチルジアリルアンモニウムクロリド重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロリド−アクリルアミド共重合物、アルキルアミン重合物、ポリアミンジシアン重合物、ポリアリルアミン塩酸塩などが挙げられる。該カチオン性ポリマー(F)の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量1,000〜200,000の物が好ましく用いられる。カチオン性ポリマー(F)の使用量は特に限定されないが、高分子エマルジョン100質量部に対して、塗膜の耐水性の観点から0.1〜200質量部が好ましく、10〜100質量部がより好ましく用いられる。さらに、太陽光又は蛍光灯の光に印刷物を曝しておいた場合に生じる退色の度合いの観点から、4級アンモニウム置換基のみを持つカチオン性ポリマー(F)の使用が好ましい。
【0070】
本発明において、インクジェット記録媒体製造に際しては、塗工層の少なくとも1層が紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤、一重項酸素クエンチャー、酸化防止剤を含有することが好ましい。該物質を含有することにより印字部の耐光性が向上する。紫外線吸収剤としては特に限定されないが、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、酸化チタン、酸化セリウム、酸化亜鉛等が好ましく用いられる。ヒンダードアミン系光安定剤としては特に限定されないが、ピペリジン環のN原子がN−R(Rは水素原子、アルキル基、ベンジル基、アリル基、アセチル基、アルコキシル基、シクロヘキシル基、ベンジルオキシ基等)であるものが好ましく用いられる。一重項酸素クエンチャーとしては特に限定されないが、アニリン誘導体、有機ニッケル系、スピロクロマン系、スピロインダン系が好ましく用いられる。酸化防止剤としては特に限定されないが、フェノール系、ヒドロキノン系、有機イオウ系、リン系、アミン系が好ましく用いられる。該物質の使用量は、該物質を含有するインク吸収層において、該インク吸収層100質量部に対して0.0001〜20質量部が好ましい。
【0071】
本発明において、インクジェット記録媒体製造に際しては、インク吸収層の少なくとも1層がアルカリ土類金属化合物を含有することが好ましい。アルカリ土類金属化合物を含有することにより耐光性が向上する。アルカリ土類金属化合物としてはマグネシウム、カルシウム、バリウムの酸化物、ハロゲン化物、水酸化物が好ましく用いられる。アルカリ土類金属化合物をインク吸収層に含有させる方法は特に限定されない。塗工液に添加してもよいし、インク吸収層を形成後、該インク吸収層にアルカリ土類金属化合物の水溶液を含侵させてもよい。アルカリ土類金属化合物の含有量は、アルカリ土類金属化合物を含有するインク吸収層において、該インク吸収層中の固形分100質量部に対して酸化物換算で0.5〜20質量部が好ましい。
本発明において最表層に光沢層を設けることができる。光沢層を設ける手段としては特に限定されないが、コロイダルシリカ及び/又は乾式シリカ等の超微粒径顔料を含有させる方法、スーパーカレンダー法、グロスカレンダー法、キャスト法などが用いられる。
本発明においては、26)〜28)の発明の記録媒体をも提供する。
【0072】
本発明において記録用媒体を製造する場合に、用いられる支持体としては、例えばポリエステルフィルム、樹脂被覆紙、コート紙、紙等が好ましく用いられるが、ガラス、アルミニウム箔、布、不織布、蒸着紙、蒸着フィルム等塗工層を設けることができる支持体であれば特に限定されるものではない。本発明においては、ポリエステルフィルム、樹脂被覆紙が特に好ましく用いられる。
ポリエステルフィルムとは、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸又はそのエステルと、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール等の多価アルコールとを重縮合させて得られるポリエステルをフィルム化したものであり、通常はロール延伸、テンター延伸、インフレーション延伸等の処理により、配向処理されることが多い。ポリエステルの具体例としてはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートおよびこれらに他成分を共重合したもの等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0073】
樹脂被覆紙に用いる被覆樹脂としては、ポリオレフィン樹脂が好ましく、特にポリエチレン樹脂が好ましい。被覆樹脂層を形成する方法としては、走行する原紙上に、加熱溶融したポリオレフィン樹脂を流延する、いわゆる溶融押出コーティング法あるいは樹脂被覆紙の樹脂層は膜形成能のあるエマルジョンをコーティングする方法などによって形成することができる。また、最低成膜温度(MFT)が室温よりも高いエマルジョンを、樹脂被覆紙用の原紙にコーティングした後、最低成膜温度以上の温度に過熱することによっても形成することができる。
支持体の塗工層が塗布される面(表面)は、その用途に応じて、光沢面、マット面等を有し、特に光沢面が好ましく用いられる。必ずしも裏面に樹脂を被覆する必要はないが、カール防止の点から樹脂被覆したほうが好ましい。
樹脂被覆紙の樹脂中には、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、炭酸カルシウム等の白色顔料、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド等の脂肪酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩、イルガノックス1010、イルガノックス1076等の酸化防止剤、コバルトブルー、群青、セシリアンブルー、フタロシアニンブルー等のブルーの顔料や染料、コバルトバイオレット、ファストバイオレット、マンガン紫等のマゼンタの顔料や染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤等の各種の添加剤を適宜組み合わせて加えることができる。
【0074】
樹脂被覆紙に用いる原紙は、特に制限はなく、一般に用いられている紙が使用できる。原紙を構成するパルプとしては、天然パルプ、再生パルプ、合成パルプ等を1種もしくは2種以上混合して用いられる。この原紙には、一般に製紙で用いられているサイズ剤、紙力増強剤、填料、帯電防止剤、蛍光増白剤、染料等の添加剤が配合される。更に、表面サイズ剤、表面紙力剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、染料、アンカー剤等が表面塗布されていてもよい。
また、樹脂被覆紙用の原紙は、抄造中又は抄造後、カレンダー等にて圧力を印加して圧縮する等した表面平滑性の良いものが好ましく、JIS−P−8119で測定したベックの平滑度が200秒以上のものが特に好ましい。また、その坪量は30〜250g/m2が好ましい。
【0075】
本発明の塗工液は、OHPフィルム等の光透光性を要求される記録媒体として使用可能な、透明性の高い塗工層を形成可能である。OHPフィルム等の光透光性を要求される記録媒体においては、塗工層の組成、光透過性だけでなく、支持体の光学特性も重要である。光透明性の高い記録媒体を得る為には、JIS−K−7105によるヘーズ(曇価)が3.0以下の透明支持体を用いることが好ましく、1.0以下の透明支持体がより好ましい。
また、OHPフィルムとして使用する際の記録媒体のヘーズは、支持体上に塗工層を設けた記録媒体において、該記録媒体のJIS−K−7105によるヘーズ(曇価)が5.0以下であることが好ましい。OHPフィルムに用いる支持体の厚さは特に制限されないが、プリンターの通紙適性から30〜200μm程度のものが好ましい。
本発明において、支持体としてフィルムや樹脂被覆紙を使用する場合には、塗工に先立って、塗工を行う該支持体表面をコロナ放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、プラズマ処理等を行うことは好ましい。
【0076】
支持体上には、気相法シリカ含有層と支持体との間の接着性を高めたり、電気抵抗を調整したりする等の目的で、下塗り層を設けてもよい。特に支持体としてフィルムや樹脂被覆紙を使用する場合には、塗工層を設ける面上に下塗り層を設けるのが好ましい。下塗り層としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニリデン、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ゼラチン等の高分子化合物が挙げられ、架橋剤、顔料、界面活性剤等を適宜組み合わせて添加せしめることができる。また、下塗り層の塗工に際しては、該高分子化合物を水や有機溶媒などの溶媒に溶かして用いることもでき、また、エマルジョンの形態で用いるもできる。下塗り層の膜厚は、好ましくは支持体上に0.01〜5μmの(乾燥膜厚)である。
本発明における支持体には、帯電防止性、搬送性、カール防止性、筆記性、糊付け性等のために、各種のバックコート層を塗設することができる。バックコート層には、無機帯電防止剤、有機帯電防止剤、親水性バインダー、ラテックス、架橋剤、顔料、滑剤、界面活性剤等を適宜組み合わせて添加せしめることができる。
OHP等で用いる場合であって、記録層を支持体の片面のみに設ける場合は、その反対側の表面、あるいはその両面に、光透過性を高める目的で反射防止膜を設けることもできる。
【0077】
本発明の塗工層は、支持体の片面のみに設けてもよいし、両面記録あるいはカール等の変形を抑制する等の目的で、支持体の両面に設けてもよい。
本発明による製造装置は、本発明の高分子エマルジョンを少なくとも含有する塗工液を、該高分子エマルジョンの感温点以上の温度で支持体上に塗工させる手段と、塗工後速やかに塗工層を感温点以下の温度まで冷却する手段と、塗工層を乾燥する手段を含んでなる製造装置であることが好ましい。
支持体上に塗工させる手段としては各種ブレードコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター、カーテンフローコーター、ゲートロールコーター、ショートドウェルコーター、エクストルージョンダイコーター、サイズプレス、スプレーなどの各種装置をオンマシンあるいはオフマシンで用いることができる。
【0078】
支持体上に複数の塗工層を形成させるにおいて、同時多層塗工を行うことは可能である。同時多層塗工は、例えば、エクストルージョンダイコーター、カーテンフローコーターを用いた塗工方法により行うことができる。複数の塗工層が混合ないし合一することを避ける目的ではエクストルージョンダイコーターがより好ましい。エクストルージョンダイコーターを用いる場合、同時に吐出される複数の塗布液は、エクストルージョンダイコーターの吐出口附近、即ち、支持体上に移る直前に積層形成され、その状態で支持体上に多層塗工される。該同時多層塗工を行う際、複数の塗工液の混合を回避するために、バリアー層液(中間層液)を塗工層と塗工層の間に介在させて同時塗工することもできる。該バリアー層液は、上下の塗工層と混合しにくいものであれば特に制限なく選択できるが、チキソトロピー性を有する液体か好ましく用いられる。好ましく用いられる液体としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ゼラチン等のポリマーの水溶液が挙げられる。
【0079】
塗工層を冷却させる手段としては、冷風機、送風機、冷凍機等の公知の手段を用いることができる。冷風機が好ましく用いられ、冷風の温度は本発明の高分子エマルジョンの感温点によって様々に変化し、該感温点以下の温度が好ましく、感温点よりも5℃以上低い温度がより好ましく、感温点よりも10℃以上低い温度がさらに好ましい。
塗工層を乾燥させる手段としては、熱風乾燥機、蒸気加熱乾燥機、遠赤外線乾燥機等の公知の乾燥手段を用いることができる。熱風乾燥機が好ましく用いられ、ドラムドライヤー、エアキャップドライヤー、エアホイルドライヤー、エアコンベアドライヤーおよびこれらの組み合わせが挙げられる。乾燥温度はドライヤーの種類によって様々に変化するが、ドライヤー内部の温度は50〜200℃、好ましくは100〜150℃である。
このようにして製造された本発明の記録媒体は、前記インク受容層の塗工量が、固形分換算で5〜50g/m2であることが好ましく、10〜40g/m2であることが更に好ましい。塗工量が10g/m2未満では、インク受容層を設けなかった場合に比して染料の発色性の点で効果がなく、40g/m2超では、インク受容層の粉落ちが発生するおそれがある。尚、塗工層全体の厚みとしては、5〜50μmが好ましく、10〜40μmが更に好ましい。
【0080】
本発明の記録媒体は、水溶性染料、油溶性染料、水性顔料、油性顔料などを含有するインク組成物を用いた記録に有用である。該記録の方式としては、例えばインク組成物の微小液滴を吐出して記録媒体表面にインク組成物を付着させて印刷を行うインクジェット記録方式、加熱によりインク組成物を発色させることによって印刷を行う感熱記録、グラビア印刷、オフセット印刷その他各種印刷方式、ペンなどの筆記用具による記録などが挙げられ、特に本発明の記録媒体はインクジェット記録方式による印刷に好ましく用いられる。即ち、本発明の高分子エマルジョン、本発明の高分子エマルジョンの製造方法、及び本発明の記録媒体用塗工液、本発明の記録媒体の製造方法も上記記録方式による記録、印刷に好ましい記録媒体を製造する際に有用であり、特にインクジェット記録媒体の製造に有用である。
更には、本発明の高分子エマルジョンは、高分子化合物(A)の感温点を超える温度で低粘度であり、感温点以下に冷却時極めて優れた増粘性を示すことから、温度制御による粘度制御剤、水性増粘剤、各種紙塗工用途、塗装用塗料等に有用であり、特にスプレー塗装用塗料に有用である。
【0081】
【実施例】
以下に、実施例などを用いて本発明を更に具体的に発明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
実施例中の部及び%は特に記載したもの以外は、それぞれ質量部及び質量%を意味する。実施例中に用いられる各種物性の測定方法は、下記の通りである。
動的光散乱法による数平均粒子径は大塚電子(株)製ELS−800を用い測定した。細孔分布、細孔容積、及び比表面積は、カンタクロム社製オートソーブ−1を用い、窒素により測定した。細孔径分布はBJH法により算出した。比表面積はBET法により求めた。粉末X線解析図は理学製RINT2500を用いて測定を行った。
【0082】
本発明の高分子エマルジョン中の高分子化合物(A)の感温点は、重合温度以上の温度を保ちながら水溶媒にて高分子化合物(A)の濃度を5質量%に調整した該高分子エマルジョンの温度を、徐々に低下させた時、該液が透明化又はゲル化する温度を測定することによって求めた。
印字特性の評価は市販インクジェットプリンター(セイコー・エプソン製PM−800C)を用いてイエロー、マゼンタ、シアン、ブラック、グリーン、レッド、ブルーのベタ印字を行ったものを用いた。
評価項目は下記に示した通りであり、その評価結果は10段階評価で行い、極めて良好
な結果を10、良好な結果を8、やや良好な結果を6、やや劣る結果を4、劣る結果を2、極めて劣る結果を1とした。さらに、インク吸収性評価においては成膜性が悪く、印刷を行うことができなかった結果を測定不可と記した。
(1)インク吸収性:印字後の滲み、及び印字直後に印字部を白紙で押さえインク転写の程度により判定した。
(2)成膜性:塗工膜のひび割れ、表面の平滑性、付着状態を目視判定した。
(3)透明性:塗工膜の透明性を目視判定した。
(4)塗工膜耐水性:塗工膜に水滴をたらし、その耐水性を官能的に判定した。
【0083】
[参考例1]
攪拌器、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、水45部を投入し反応容器内を80℃にした。次に「アデカリアソープSE1025N」(旭電化工業(株)製、界面活性剤:商品名)の25%水溶液0.3部と過硫酸アンモニウムの2%水溶液0.5部を添加した。その5分後に、メタクリル酸メチル5部、アクリル酸ブチル5部、「アデカリアソープSE1025N」の25%水溶液0.8部、過硫酸アンモニウムの2%水溶液1部と水10部をホモジナイザーによりプレ乳化液としたものと、N−イソプロピルアクリルアミド35部、ダイアセトンアクリルアミド2部を水185部に溶解した液とを反応容器に各々添加し始め、4時間かけて添加を終了させた。添加中及び添加終了後1時間、反応容器内液温を80℃に保った後、50℃まで冷却し、エタノールの60%水溶液130部を徐々に添加した。エタノール水溶液の添加終了後室温まで冷却することによって樹脂固形分11%、数平均粒径が100nmのエマルジョンを形成したバインダー(a)を得た。その感温点を測定したところ22℃であった。
【0084】
[参考例2]
攪拌器、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取り付けた反応容器に、水360部を投入し反応容器内を80℃にした。次に「コータミン86W」(花王(株)製、カチオン性界面活性剤:商品名)の25%水溶液25部、「エマルゲン1135S−70」(花王(株)製、非イオン性界面活性剤:商品名)の70%水溶液7.5部及びN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液4部を該反応器内に添加した。さらに該反応器内に2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ニ塩基酸塩の5%水溶液8部を投入し、その5分後に、メタクリル酸メチル9部、アクリル酸ブチル9部、スチレン9部、ダイアセトンアクリルアミド2部及び2−ヒドロキシメタクリル酸エチル2部を混合した液を該反応器内に30分かけて連続的に添加した。添加は反応容器内を80℃に保ちながら行った。この段階でのエマルジョンの数平均粒径は11nmであった。引き続き、水1254部にN−イソプロピルアクリルアミド290部、ダイアセトンアクリルアミド10部、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液5部、「コータミン86W」の25%水溶液10部、「ブレンマーQA」(日本油脂(株)製、カチオン性反応型界面活性剤:商品名)の25%水溶液15部及び2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸塩の5%水溶液11部を溶解した液を該反応容器内に添加し始め、4時間かけて添加を終了させた。添加中及び添加終了後1時間、反応容器内液温を80℃に保った後、50℃まで冷却し、エタノールの60%水溶液1000部を徐々に該反応容器内に添加した。エタノール水溶液の添加終了後室温まで冷却することによって樹脂固形分11%、数平均粒径が100nmのエマルジョンを形成したバインダー(b)を得た。その感温点を測定したところ30℃であった。
【0085】
[参考例3]
かくはん機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、水212部及び「アデカリアソープSE1025N」の25%水溶液1部を投入し、反応容器内を80℃とした。次に、アクリル酸2部、ダイアセトンアクリルアミド2部、メタクリル酸メチル51部、アクリル酸ブチル5部、2−ヒドロキシメタクリル酸エチル1部を混合し、該モノマー混合液に、「アデカリアソープSE1025N」の25%水溶液10部、過硫酸アンモニウムの2%水溶液10部の混合液とをホモジナイザーによりプレ乳化液とし、滴下槽より反応容器中へ2時間かけて添加した。添加中及び添加が終了してからさらに1時間、反応容器中の温度を80℃に保った。この段階でのエマルジョンの数平均粒径は10nmであった。引き続き、過硫酸アンモニウムの2%水溶液10部、N−イソプロピルアクリルアミド140部、水600部の混合液を滴下槽より該反応容器内に添加し始め、2.5時間かけて添加を終了させた。添加中及び添加終了後1時間、反応容器内液温を80℃に保った後、50℃まで冷却し、エタノールの60%水溶液780部を徐々に該反応容器内に添加した。エタノール水溶液の添加終了後室温まで冷却することによって樹脂固形分11%、数平均粒径が100nmのエマルジョンを形成したバインダー(c)を得た。その感温点を測定したところ31℃であった。
【0086】
[参考例4]
攪拌器、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、水200部を投入し反応容器内を80℃にした。次に「コータミン86W」(花王(株)製、カチオン性界面活性剤:商品名)の25%水溶液20部、「エマルゲン1135S−70」(花王(株)製、非イオン性界面活性剤:商品名)の70%水溶液10部、「ブレンマーQA」(日本油脂(株)製、カチオン性反応型界面活性剤:商品名)の25%水溶液15部及びN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液2部を該反応器内に添加した。さらに該反応器内に2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸塩の5%水溶液15部を投入し、その5分後に、メタクリル酸メチル15部、アクリル酸ブチル20部、スチレン10部、ダイアセトンアクリルアミド2部を混合した液を該反応器内に1時間かけて連続的に添加した。添加は反応容器内を80℃に保ちながら行った。この段階でのエマルジョンの数平均粒径は40nmであった。引き続き、水380部にN−イソプロピルアクリルアミド90部、ダイアセトンアクリルアミド4部、2−ヒドロキシメタクリル酸エチル5部、「ブレンマーQA」(日本油脂(株)製、カチオン性反応型界面活性剤:商品名)の25%水溶液15部及び2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸塩の5%水溶液11部を溶解した液を該反応容器内に添加し始め、4時間かけて添加を終了させた。添加中及び添加終了後1時間、反応容器内液温を80℃に保った後、50℃まで冷却し、エタノールの60%水溶液500部を徐々に該反応容器内に添加した。エタノール水溶液の添加終了後室温まで冷却することによって樹脂固形分11%、数平均粒径が80nmのエマルジョンを形成したバインダー(d)を得た。その感温点を測定したところ29℃であった。
【0087】
[参考例5]
かくはん機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、「スノーテックPS−SO」(日産化学工業(株)製、数珠状コロイダルシリカ:商品名)の12%水分散液500部及び「アデカリアソープSE1025N」の25%水溶液4部を投入し、反応容器内を80℃とした。過硫酸アンモニウムの2%水溶液10部、N−イソプロピルアクリルアミド140部、ダイアセトンアクリルアミド4部、水600部の混合液を滴下槽から該反応容器内に添加し始め、4時間かけて添加を終了させた。添加中及び添加終了後1時間、反応容器内液温を80℃に保った後、50℃で保存することによって樹脂固形分16%、数平均粒径が130nmのエマルジョンを形成したバインダー(e)を得た。その感温点を測定したところ32℃であった。
【0088】
[参考例6]
攪拌器、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、水45部を投入し反応容器内を80℃にした。次に「アデカリアソープSE1025N」(旭電化工業(株)製、界面活性剤:商品名)の25%水溶液0.3部と過硫酸アンモニウムの2%水溶液0.5部を添加した。その5分後に、メタクリル酸メチル5部、アクリル酸ブチル5部、「アデカリアソープSE1025N」の25%水溶液0.8部、過硫酸アンモニウムの2%水溶液1部と水10部をホモジナイザーによりプレ乳化液としたものと、N−イソプロピルアクリルアミド35部を水160部に溶解した液とを反応容器に各々添加し始め、4時間かけて添加を終了させた。添加中及び添加終了後1時間、反応容器内液温を80℃に保った後、50℃で保存することによって樹脂固形分20%、50℃における数平均粒径が250nmのエマルジョンを形成したバインダー(f)を得た。その感温点を測定したところ23℃であった。
【0089】
[参考例7]
攪拌器、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、水200部を投入し反応容器内を80℃にした。次に「コータミン86W」(花王(株)製、カチオン性界面活性剤:商品名)の25%水溶液20部、「エマルゲン1135S−70」(花王(株)製、非イオン性界面活性剤:商品名)の70%水溶液15部及びN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液3部を該反応器内に添加した。さらに該反応器内に2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸塩の5%水溶液15部を投入し、その5分後に、メタクリル酸メチル25部、アクリル酸ブチル25部、スチレン15部、2−ヒドロキシメタクリル酸エチル1部を混合した液を該反応器内に1時間かけて連続的に添加した。添加は反応容器内を80℃に保ちながら行った。この段階でのエマルジョンの数平均粒径は62nmであった。引き続き、水380部にN−イソプロピルアクリルアミド70部、ダイアセトンアクリルアミド4部、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液5部、「ブレンマーQA」(日本油脂(株)製、カチオン性反応型界面活性剤:商品名)の25%水溶液15部及び2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸塩の5%水溶液11部を溶解した液を該反応容器内に添加し始め、4時間かけて添加を終了させた。添加中及び添加終了後1時間、反応容器内液温を80℃に保った後、50℃まで冷却し、エタノールの60%水溶液500部を徐々に該反応容器内に添加した。エタノール水溶液の添加終了後室温まで冷却することによって樹脂固形分11%、数平均粒径が110nmのエマルジョンを形成したバインダー(g)を得た。その感温点を測定したところ34℃であった。
【0090】
[参考例8]
攪拌器、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、水300部を投入し反応容器内を80℃にした。次に「コータミン24W」(花王(株)製、カチオン性界面活性剤:商品名)の25%水溶液25部、「エマルゲン1135S−70」(花王(株)製、非イオン性界面活性剤:商品名)の70%水溶液7部及びN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液4部を該反応器内に添加した。さらに該反応器内に2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸塩の5%水溶液8部を投入し、その5分後に、メタクリル酸メチル10部、メタクリル酸ブチル10部、スチレン10部及び2−ヒドロキシメタクリル酸エチル2部を混合した液を該反応器内に30分かけて連続的に添加した。添加は反応容器内を80℃に保ちながら行った。この段階でのエマルジョンの数平均粒径は16nmであった。引き続き、水200部にN−イソプロピルアクリルアミド40部、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液1部、2−ヒドロキシメタクリル酸エチル2部、ダイアセトンアクリルアミド2部、メチレンビスアクリルアミド0.1部、「コータミン86W」の25%水溶液3部及び2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸塩の5%水溶液4部を溶解した液を該反応容器内に添加し始め、4時間かけて添加を終了させた。さらに引き続き、水200部にアクリルアミド38部、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液1部、2−ヒドロキシメタクリル酸エチル4部、ダイアセトンアクリルアミド2部、メチレンビスアクリルアミド0.1部、「コータミン86W」の25%水溶液3部及び2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸塩の5%水溶液4部を溶解した液を該反応容器内に添加し始め、4時間かけて添加を終了させた。添加中及び添加終了後1時間、反応容器内液温を80℃に保った後、50℃で保存することによって樹脂固形分14%、数平均粒径が120nmのエマルジョンを形成したバインダー(h)を得た。その感温点を測定したところ30℃であった。
【0091】
[参考例9]
攪拌器、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、水45部を投入し反応容器内を80℃にした。次に「アデカリアソープSE1025N」(旭電化工業(株)製、界面活性剤:商品名)の25%水溶液0.3部と過硫酸アンモニウムの2%水溶液0.5部を添加した。その5分後に、メタクリル酸メチル2部、アクリル酸ブチル2部、「アデカリアソープSE1025N」の25%水溶液0.8部、過硫酸アンモニウムの2%水溶液1部と水10部をホモジナイザーによりプレ乳化液としたものと、N−イソプロピルアクリルアミド40部、ポリビニルアルコール(ケン化度99モル%、重合度1700、(株)クラレ製、クラレポバールPVA117:商品名)1.5部を水160部に溶解した液とを反応容器に各々添加し始め、4時間かけて添加を終了させた。添加中及び添加終了後1時間、反応容器内液温を80℃に保った後、50℃で保存することによって樹脂固形分16%、50℃における数平均粒径が150nmのエマルジョンを形成したバインダー(i)を得た。その感温点を測定したところ30℃であった。
【0092】
[参考例10]
攪拌器、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、水360部を投入し反応容器内を80℃にした。次に「コータミン86W」(花王(株)製、カチオン性界面活性剤:商品名)の25%水溶液25部、「エマルゲン1135S−70」(花王(株)製、非イオン性界面活性剤:商品名)の70%水溶液7.5部およびN,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液4部を該反応器内に添加した。さらに該反応器内に2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸塩の5%水溶液8部を投入し、その5分後に、メタクリル酸メチル9部、アクリル酸ブチル9部、スチレン9部、ダイアセトンアクリルアミド2部及び2−ヒドロキシメタクリル酸エチル2部を混合した液を該反応器内に30分かけて連続的に添加した。添加は反応容器内を80℃に保ちながら行った。この段階でのエマルジョンの数平均粒径は11nmであった。引き続き、水1254部にN−イソプロピルアクリルアミド290部、ダイアセトンアクリルアミド10部、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液10部、メタクリル酸0.5部、「コータミン86W」の25%水溶液10部、「ブレンマーQA」(日本油脂(株)製、カチオン性反応型界面活性剤:商品名)の25%水溶液15部および2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸塩の5%水溶液11部を溶解した液を該反応容器内に添加開始し、4時間かけて添加を終了させた。添加中及び添加終了後1時間、反応容器内液温を80℃に保った後、50℃まで冷却し、エタノールの60%水溶液1000部を徐々に該反応容器内に添加した。エタノール水溶液の添加終了後室温まで冷却することによって樹脂固形分11%、数平均粒径が100nmのエマルジョンを形成したバインダー(j)を得た。その感温点を測定したところ30℃であった。
【0093】
[参考例11]
攪拌器、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、ベンゼン100部、N−イソプロピルアクリルアミド10部、ダイアセトンアクリルアミド1部、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸塩の5%水溶液1部、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液0.1部を混合し室温で窒素置換した後、50℃で8時間反応し、その後、減圧することによってベンゼンを蒸発させた。得られた反応物をアセトンに溶解した後、多量のn−ヘキサン中に投入し、沈殿物を回収した。この沈殿物を減圧してアセトン、n−ヘキサンを除去したのち、固形分濃度が10%となるように20℃の水で溶解させ、バインダー(k)を得た。その感温点を測定したところ31℃であった。
【0094】
[参考例12]
攪拌器、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、水650部を投入し反応容器内を80℃にした。次に「アデカリアソープSE1025N」の25%水溶液7部と過硫酸アンモニウムの2%水溶液14部を添加した。その5分後に、メタクリル酸メチル360部、アクリル酸ブチル540部、メタクリル酸18部、「アデカリアソープSE1025N」の25%水溶液40部、過硫酸アンモニウムの2%水溶液45部と水450部をホモジナイザーによりプレ乳化液としたものを反応容器に添加し始め、4時間かけて添加を終了させた。添加中及び添加終了後1時間、反応容器内液温を80℃に保った後、室温まで冷却を行った。樹脂固形分43%、数平均粒径が100nmのエマルジョンを形成したバインダー(l)を得た。その感温点の測定を試みたが、感温点と判断される変化は生じなかった。
【0095】
[参考例13]
かくはん機、還流冷却器、滴下槽及び温度計を取りつけた反応容器に、水600部及び「コータミン86W」の28%水溶液40部、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩の70%水溶液6部を投入し、反応容器内を70℃とした。次に、ダイアセトンアクリルアミド4部、スチレン128部、メタクリル酸メチル80部、メタクリル酸ブチル66部を混合した添加液(1)と、水100部に「コータミン86W」の28%水溶液9部、「エマルゲン1135S−70」の70%水溶液1部、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩基酸塩の5%水溶液45部、アミノエチルメタクリレート塩化メチル4級塩の70%水溶液6部を溶解した添加液(2)とを各々滴下槽より反応容器中へ4時間かけて添加した。添加中及び添加が終了してからさらに2時間、反応容器中の温度を70℃に保った後、室温まで冷却した。樹脂固形分30%、数平均粒子径40nmのエマルジョンを形成したバインダー(m)を得た。その感温点の測定を試みたが、感温点と判断される変化は生じなかった。
【0096】
[参考例14]
<ポリセミカルバジド化合物(PSC)の合成例>
ヘキサメチレンジイソシアネート168部、ビュレット化剤としての水1.5部を、エチレングリコールメチルエーテルアセテートとリン酸トリメチルの1:1(質量比)の混合溶媒130部に溶解し、反応温度160℃にて1時間反応させた。得られた反応液を薄膜蒸留缶を用いて、1回目は133Pa/160℃の条件下、2回目は13.3Pa/200℃の条件下にて2段階の処理により余剰のヘキサメチレンジイソシアネート、及び溶媒を留去回収し、残留物を得た。得られた残留物は、99.9質量%のポリイソシアネート(ヘキサメチレンジイソシアネートのビュウレット型ポリイソシアネート)及び0.1質量%の残存ヘキサメチレンジイソシアネートを含んでいた。得られた残留物の粘度は1900(±200)mPa.s/25℃、数平均分子量は約600(±100)であり、平均−NCO官能基数は約3.3、−NCO基含有量は23.3質量%であった。
【0097】
還流冷却器、温度計及び撹拌装置を有する反応器にイソプロピルアルコール1000部にヒドラジン1水和物80部を撹拌しながら約30分かけて室温で添加した後、上記ポリイソシアネート(NCO基含量23.3質量%)144部をテトラヒドロフラン576部に溶解した溶液を10℃にて約1時間かけて添加し、さらに40℃にて3時間撹拌を続け、1000部の水を添加した。続いて得られた反応液中のイソプロピルアルコール、ヒドラジン、テトラヒドロフラン、水等を加熱減圧下に留去することにより168部のビウレット構造を有するポリセミカルバジド化合物(PSC)を得た。平均セミカルバジド残基数を測定したところ、4.6meq/gであった。
【0098】
[参考例15]
あらかじめH+型にしておいたカチオン交換樹脂(ローム&ハース社製、アンバーライトIR−120B:商品名)100gを水100gに分散した中に、3号水ガラス(SiO2=29質量%、Na2O=9.5質量%)33.3gを水66.7gで希釈した溶液を加えた。これを、十分撹拌した後、カチオン交換樹脂を濾別し、活性シリカ水溶液200gを得た。この活性シリカ水溶液のSiO2は5.0質量%であった。
5gの旭電化社製プルロニックP103を水1360gに溶解させ、35℃湯浴中で撹拌しながら、上記の活性シリカ水溶液60gを添加した。さらに、0.015mol/lのNaOH水溶液を20ml加えた。この混合物のpHは7.5であった。この混合物を35℃で15分撹拌後、80℃で静置し24時間反応させた。この溶液から限外ろ過装置を用いて非イオン界面活性剤を除去し、シリカ濃度4質量%の透明な多孔性物質(I)の分散液を得た。この分散液の動的光散乱法によって測定される平均粒子径は60nmで換算比表面積は45m2/gであった。該分散液を、105℃で乾燥した試料のBJH法による平均細孔直径は8nm、細孔容積は1.21ml/g、BET法による窒素吸着比表面積は720m2/gであり、換算比表面積との差は675m2/gであった。この試料のX線回折図には、ピークが見られなかった。
【0099】
[参考例16]
あらかじめH+型にしておいたカチオン交換樹脂(ローム&ハース社製、アンバーライトIR−120B:商品名)300gを水300gに分散した中に、3号水ガラス(シリカ=30質量%、Na2O=9.5質量%)100gを水200gで希釈した溶液を加えた。これを、十分撹拌した後、カチオン交換樹脂を濾別し活性シリカ水溶液600gを得た。この溶液中のシリカ濃度は5%であった。これを精製水1675gで希釈した(A液と呼ぶ)。これとは別に、50gのプルロニックP123を溶解させた水溶液500g、0.015mol/lの水酸化ナトリウム水溶液200g、トリメチルベンゼン25gを混合後、60℃で1時間加熱撹拌し、透明液を得た(これをB液と呼ぶ)。B液をA液に滴下混合した後、80℃24時間加熱して複合体溶液を得た。この溶液から限外ろ過装置を使用してP123を取り除き、約7.5質量%の多孔性物質の分散液を得た。該ゾル液にアルミン酸ナトリウム1質量%水溶液をAl/Siを元素比として0.01になるように加え、80℃で24時間加熱し、アルミニウムで変性した多孔性物質(II)の分散液を得た。
該分散液の平均粒子径を動的光散乱法により求めたところ、195nmで換算比表面積は15m2/gであった。該分散液を105℃で乾燥した試料のBJH法による平均細孔直径は18nm、細孔容積は1.67ml/g、BET法による窒素吸着比表面積は413m2/gであり、換算比表面積との差は398m2/gであった。この試料のX線回折図には、ピークが見られなかった。
【0100】
[実施例1]
参考例16で得られた多孔性物質(II)分散液を60℃に加熱し、これに参考例1で得られたバインダー(a)を、多孔性物質(II)/バインダー(a)=100/25(乾燥質量比)となる割合で添加、混合した後、これにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)5質量%水溶液を、ADH/バインダー(a)=2/100(乾燥質量比)となる割合で60℃にて混合し塗工液を作成した。表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、60℃に加温したバーコーターで前記60℃の塗工液を塗布した後、速やかに10℃の冷風を塗工膜表面に送風を開始した。このとき塗工膜は冷風を送風開始後速やかにゲル化し均質な膜厚と平滑な表面を保持できた。冷風を1分送風した後、60℃の温風を塗工膜表面に送風した。塗工膜は温風送風開始からおよそ8分間で実質的に乾燥し、厚さ約25μmのインク吸収層を設けた記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0101】
[実施例2]
参考例16で得られた多孔性物質(II)分散液に、カチオン性ポリマー(旭電化工業(株)製、ポリマーアデカチオエースDM−20A:商品名)20質量%水溶液を、多孔性物質(II)/カチオン性ポリマー=100/8(乾燥質量比)となるよう添加した後、超音波分散機を使用して分散させた。該分散液を60℃に加熱し、これに参考例2で得られたバインダー(b)を、多孔性物質(II)/バインダー(b)=100/25(乾燥質量比)となる割合で添加、混合した後、これにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)5質量%水溶液を、ADH/バインダー(b)=2/100(乾燥質量比)となる割合で60℃にて混合し塗工液を作成した。表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、60℃に加温したバーコーターで前記60℃の塗工液を塗布した後、速やかに10℃の冷風を塗工膜表面に送風を開始した。このとき塗工膜は冷風を送風開始後速やかにゲル化し均質な膜厚と平滑な表面を保持できた。冷風を1分送風した後、60℃の温風を塗工膜表面に送風した。塗工膜は温風送風開始からおよそ8分間で実質的に乾燥し、厚さ約25μmのインク吸収層を設けた記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0102】
[実施例3]
参考例16で得られた多孔性物質(II)分散液を60℃に加熱し、これに参考例3で得られたバインダー(c)を、多孔性物質(II)/バインダー(c)=100/25(乾燥質量比)となる割合で添加した後、60℃にて混合し塗工液を作成した。表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、60℃に加温したバーコーターで前記60℃の塗工液を塗布した後、速やかに10℃の冷風を塗工膜表面に送風を開始した。このとき塗工膜は冷風を送風開始後速やかにゲル化し、均質な膜厚と平滑な表面を保持できた。冷風を1分送風した後、60℃の温風を塗工膜表面に送風した。塗工膜は温風送風開始からおよそ8分間で実質的に乾燥し、厚さ約25μmのインク吸収層を設けた記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0103】
[実施例4]
実施例2のバインダー(b)の代わりに参考例4で得られたバインダー(d)を用いる以外は実施例2と同様の方法で記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
[実施例5]
実施例1のバインダー(a)の代わりに参考例5で得られたバインダー(e)を用いる以外は実施例1と同様の方法で記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
[実施例6]
実施例3のバインダー(c)の代わりに参考例6で得られたバインダー(f)を用いる以外は実施例3と同様の方法で記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0104】
[実施例7]
実施例2のバインダー(b)の代わりに参考例7で得られたバインダー(g)を用いる以外は実施例2と同様の方法で記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
[実施例8]
実施例2のバインダー(b)の代わりに参考例8で得られたバインダー(h)を用いる以外は実施例2と同様の方法で記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
[実施例9]
実施例3のバインダー(c)の代わりに参考例9で得られたバインダー(i)を用いる以外は実施例3と同様の方法で記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0105】
[実施例10]
実施例2のバインダー(b)の代わりに参考例10で得られたバインダー(j)を用いる以外は実施例2と同様の方法で記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
[実施例11]
実施例3の多孔性物質(II)分散液の代わりに参考例15で得られた多孔性物質(I)分散液を用いる以外は実施例3と同様の方法で記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
[実施例12]
実施例2の多孔性物質(II)分散液の代わりに参考例15で得られた多孔性物質(I)分散液を用いる以外は実施例2と同様の方法で記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0106】
[実施例13]
参考例16で得られた多孔性物質(II)分散液に、カチオン性ポリマー(旭電化工業(株)製、ポリマーアデカチオエースDM−20A:商品名)20質量%水溶液を、多孔性物質(II)/カチオン性ポリマー=100/8(乾燥質量比)となるよう添加した後、超音波分散機を使用して分散させた。該分散液を60℃に加熱し、これに参考例2で得られたバインダー(b)を、多孔性物質(II)/バインダー(b)=100/25(乾燥質量比)となる割合で添加、混合した後、これにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)5質量%水溶液を、ADH/バインダー(b)=2/100(乾燥質量比)となる割合で60℃にて混合し塗工液を作成した。表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、60℃に加温したバーコーターで前記60℃の塗工液を塗布した後、速やかに10℃の冷風を塗工膜表面に送風を開始した。このとき塗工膜は冷風を送風開始後速やかにゲル化し均質な膜厚と平滑な表面を保持できた。冷風を1分送風した後、60℃の温風を塗工膜表面におよそ1分間送風した後、続けて90℃の温風を塗工膜表面に送風した。塗工膜は温風送風開始からおよそ4分間で実質的に乾燥し、厚さ約25μmのインク吸収層を設けた記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0107】
[実施例14]
実施例12のアジピン酸ジヒドラジド(ADH)の代わりに参考例14で得られたポリセミカルバジド化合物(PSC)を用いる以外は実施例12と同様の方法で記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
[実施例15]
乾式シリカ(日本アエロジル(株)製、A300:商品名)に固形分18質量%となるように水を加え、超音波分散機を使用して分散させた後、カチオン性ポリマー(旭電化工業(株)製、ポリマーアデカチオエースDM−20A:商品名)20質量%水溶液を、乾式シリカ/カチオン性ポリマー=100/5(乾燥質量比)となるよう添加した後、再度超音波分散機を使用して分散させた。該分散液を60℃に加熱し、これに参考例2で得られたバインダー(b)を、乾式シリカ/バインダー(b)=100/25(乾燥質量比)となる割合で添加、混合した後、これにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)5質量%水溶液を、ADH/バインダー(b)=2/100(乾燥質量比)となる割合で60℃にて混合し塗工液を作成した。表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、60℃に加温したバーコーターで前記60℃の塗工液を塗布した後、速やかに10℃の冷風を塗工膜表面に送風を開始した。このとき塗工膜は冷風を送風開始後速やかにゲル化し、均質な膜厚と平滑な表面を保持できた。冷風を1分送風した後、続けて60℃の温風を塗工膜表面に送風した。塗工膜は温風送風開始からおよそ8分間で実質的に乾燥し、厚さ約25μmのインク吸収層を設けた記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0108】
[実施例16]
乾式シリカ(日本アエロジル(株)製、A300:商品名)に固形分18質量%となるように水を加え、超音波分散機を使用して分散させた後、カチオン性ポリマー(旭電化工業(株)製、ポリマーアデカチオエースDM−20A:商品名)20質量%水溶液を、乾式シリカ/カチオン性ポリマー=100/5(乾燥質量比)となるよう添加した後、再度超音波分散機を使用して分散させた。一方で別途、参考例15で得られた多孔性物質(I)分散液に、カチオン性ポリマー(旭電化工業(株)製、ポリマーアデカチオエースDM−20A:商品名)20質量%水溶液を、多孔性物質(I)/カチオン性ポリマー=100/8(乾燥質量比)となるよう添加した後、超音波分散機を使用して分散させた。カチオン性ポリマーにて処理された該乾式シリカ分散液とカチオン性ポリマーにて処理された該多孔性物質(I)分散液とを、乾式シリカ/多孔性物質(I)=50/50(乾燥質量比)となる割合で混合した後、該混合液を60℃に加熱し、これに参考例2で得られたバインダー(b)を、(乾式シリカ+多孔性物質(I))/バインダー(b)=100/25(乾燥質量比)となる割合で添加、混合した後、これにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)5質量%水溶液を、ADH/バインダー(b)=2/100(乾燥質量比)となる割合で60℃にて混合し塗工液を作成した。表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、60℃に加温したバーコーターで前記60℃の塗工液を塗布した後、速やかに10℃の冷風を塗工膜表面に送風を開始した。このとき塗工膜は冷風を送風開始後速やかにゲル化し、均質な膜厚と平滑な表面を保持できた。冷風を1分送風した後、60℃の温風を塗工膜表面に送風した。塗工膜は温風送風開始からおよそ8分間で実質的に乾燥し、厚さ約25μmのインク吸収層を設けた記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0109】
[実施例17]
参考例15で得られた多孔性物質(I)分散液に、カチオン性ポリマー(旭電化工業(株)製、ポリマーアデカチオエースDM−20A:商品名)20質量%水溶液を、多孔性物質(I)/カチオン性ポリマー=100/8(乾燥質量比)となるよう添加した後、超音波分散機を使用して分散させた。該分散液を60℃に加熱し、これに参考例2で得られたバインダー(b)を、乾式シリカ/バインダー(b)=100/20(乾燥質量比)となる割合で添加、混合し、ポリビニルアルコール((株)クラレ製、クラレポバールPVA235:商品名)を、乾式シリカ/ポリビニルアルコール=100/10となる割合で添加、混合した後、これにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)5質量%水溶液を、ADH/バインダー(b)=2/100(乾燥質量比)となる割合で60℃にて混合し塗工液を作成した。表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、60℃に加温したバーコーターで前記60℃の塗工液を塗布した後、速やかに10℃の冷風を塗工膜表面に送風を開始した。このとき塗工膜は冷風を送風開始後速やかにゲル化し、均質な膜厚と平滑な表面を保持できた。冷風を1分送風した後、60℃の温風を塗工膜表面に送風した。塗工膜は温風送風開始からおよそ8分間で実質的に乾燥し、厚さ約25μmのインク吸収層を設けた記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0110】
[実施例18]
乾式シリカ(日本アエロジル(株)製、A300:商品名)に固形分18質量%となるように水を加え、超音波分散機を使用して分散させた後、カチオン性ポリマー(旭電化工業(株)製、ポリマーアデカチオエースDM−20A:商品名)20質量%水溶液を、乾式シリカ/カチオン性ポリマー=100/5(乾燥質量比)となるよう添加した後、再度超音波分散機を使用して分散させた。該分散液を60℃に加熱し、これに参考例4で得られたバインダー(b)を、乾式シリカ/バインダー(b)=100/25(乾燥質量比)となる割合で添加、混合した後、これにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)5質量%水溶液を、ADH/バインダー(b)=2/100(乾燥質量比)となる割合で60℃にて混合し塗工液を作成した。表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、60℃に加温したバーコーターで前記60℃の塗工液を塗布した後、速やかに10℃の冷風を塗工膜表面に送風を開始した。このとき塗工膜は冷風を送風開始後速やかにゲル化し、均質な膜厚と平滑な表面を保持できた。塗工膜は冷風送風開始からおよそ20分間で実質的に乾燥し、厚さ約25μmのインク吸収層を設けた記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0111】
[実施例19]
乾式シリカ(日本アエロジル(株)製、A300:商品名)に固形分18質量%となるように水を加え、超音波分散機を使用して分散させた後、カチオン性ポリマー(旭電化工業(株)製、ポリマーアデカチオエースDM−20A:商品名)20質量%水溶液を、乾式シリカ/カチオン性ポリマー=100/5(乾燥質量比)となるよう添加した後、再度超音波分散機を使用して分散させた。該分散液を60℃に加熱し、これに参考例2で得られたバインダー(b)を、乾式シリカ/バインダー(b)=100/25(乾燥質量比)となる割合で添加、混合した後、これにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)5質量%水溶液を、ADH/バインダー(b)=2/100(乾燥質量比)となる割合で60℃にて混合し塗工液を作成した。表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、60℃に加温したバーコーターで前記60℃の塗工液を塗布した後、速やかに60℃の温風を塗工膜表面に送風開始した。このとき塗工膜は送風後速やかな増粘はなく、液ヨリと呼ばれる塗工膜の不均一化が観測された。続けて60℃の温風を塗工膜表面に送風し、塗工膜は温風送風開始からおよそ10分間で実質的に乾燥し、約10〜15μmの不均一な厚さのインク吸収層の記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0112】
[実施例20]
コロイダルシリカ(日産化学工業(株)製、PS−S:商品名)に固形分12質量%となるように水を加えた後、60℃に加熱し、これに参考例1で得られたバインダー(a)を、シリカ/バインダー(a)=100/25(乾燥質量比)となる割合で添加、混合した後、これにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)5質量%水溶液を、ADH/バインダー(a)=2/100(乾燥質量比)となる割合で60℃にて混合し塗工液を作成した。表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、60℃に加温したバーコーターで前記60℃の塗工液を塗布した後、速やかに10℃の冷風を塗工膜表面に送風を開始した。このとき塗工膜は冷風を送風開始後速やかにゲル化し、均質な膜厚と平滑な表面を保持できた。冷風を1分送風した後、60℃の温風を塗工膜表面に送風した。塗工膜は温風送風開始からおよそ8分間で実質的に乾燥し、厚さ約25μmのインク吸収層を設けた記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0113】
[比較例1]
参考例15で得られた多孔性物質(I)分散液を60℃に加熱し、これにポリビニルアルコール((株)クラレ製、クラレポバールPVA235:商品名)を、多孔性物質(I)/ポリビニルアルコール=100/25(乾燥質量比)となる割合で添加、混合した後、該混合液に、ホウ酸/ホウ砂/水=1/1/18の質量比で溶解させた水溶液を、ポリビニルアルコール/(ホウ酸+ホウ砂)=20/1(乾燥質量比)となる割合で60℃にて添加、混合し塗工液を作成した。表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、60℃に加温したバーコーターで前記60℃の塗工液を塗布した後、速やかに10℃の冷風を塗工膜表面に送風を開始した。このとき塗工膜は冷風を送風開始後速やかに増粘する現象が観察された。冷風を30秒送風した後、続けて60℃の温風を塗工膜表面に送風した。塗工膜は温風送風開始からおよそ8分間で実質的に乾燥し、厚さ約25μmのインク吸収層を設けた記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0114】
[比較例2]
参考例15で得られた多孔性物質(I)分散液に、カチオン性ポリマー(旭電化工業(株)製、ポリマーアデカチオエースDM−20A:商品名)20質量%水溶液を、多孔性物質(I)/カチオン性ポリマー=100/8(乾燥質量比)となるよう添加した後、超音波分散機を使用して分散させた。該分散液を20℃に調製し、これに参考例11で得られたバインダー(k)を、乾式シリカ/バインダー(k)=100/30(乾燥質量比)となる割合で添加した後、再度、超音波分散機を使用して分散させた。これにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)5質量%水溶液を、ADH/バインダー(k)=2/100(乾燥質量比)となる割合で20℃にて混合し塗工液を作成した。表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、バーコーターを用いて前記20℃の塗工液を塗布した後、速やかに60℃の温風で塗工膜表面への送風を開始した。このとき塗工膜は温風を送風開始後、微小なゲル状凝集物が発生し、平滑な表面を保持できなかった。塗工膜は温風送風開始からおよそ8分間で実質的に乾燥し、厚さ約25μmのインク吸収層を設けた記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0115】
[比較例3]
参考例15で得られた多孔性物質(I)分散液を60℃に加熱し、これに参考例12で得られたバインダー(l)を、多孔性物質(I)/バインダー(l)=100/25(乾燥質量比)となる割合で添加した後、60℃にて混合し塗工液を作成した。表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、60℃に加温したバーコーターで前記60℃の塗工液を塗布した後、速やかに10℃の冷風を塗工膜表面に送風を開始した。このとき塗工膜は冷風を送風後も増粘せず、液ヨリと呼ばれる塗工膜の不均一化が観測された。冷風を1分送風した後、続けて60℃の温風を塗工膜表面に送風した。塗工膜は温風送風開始からおよそ8分間で実質的に乾燥し、約10〜15μmの不均一な厚さのインク吸収層の記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0116】
[比較例4]
乾式シリカ(日本アエロジル(株)製、A300:商品名)に固形分18質量%となるように水を加え、超音波分散機を使用して分散させた後、カチオン性ポリマー(旭電化工業(株)製、ポリマーアデカチオエースDM−20A:商品名)20質量%水溶液を、乾式シリカ/カチオン性ポリマー=100/5(乾燥質量比)となるよう添加した後、再度超音波分散機を使用して分散させた。該分散液を60℃に加熱し、これに参考例13で得られたバインダー(m)を、乾式シリカ/バインダー(m)=100/25(乾燥質量比)となる割合で添加、混合した後、これにアジピン酸ジヒドラジド(ADH)5質量%水溶液を、ADH/バインダー(m)=2/100(乾燥質量比)となる割合で60℃にて混合し塗工液を作成した。表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、60℃に加温したバーコーターで前記60℃の塗工液を塗布した後、速やかに10℃の冷風で塗工膜表面への送風を開始した。このとき塗工膜は冷風を送風後も増粘せず、液ヨリと呼ばれる塗工膜の不均一化が観測された。冷風を1分送風した後、続けて60℃の温風を塗工膜表面に送風した。塗工膜は温風送風開始からおよそ8分間で実質的に乾燥し、約10〜15μmの不均一な厚さのインク吸収層の記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0117】
[比較例5]
参考例16で得られた多孔性物質(II)分散液に、参考例3で得られたバインダー(c)をどちらの液とも20℃にした後、多孔性物質(II)/バインダー(c)=100/25(乾燥質量比)となる割合で添加、混合した後、表面に親水化処理を施したポリエチレンテレフタレート製シート(厚さ100μm)に、バーコーターで前記20℃の塗工液の塗布を試みたが、塗工液はゲル化しており均質な塗工膜を得ることができなかった。塗工膜に60℃の温風を送風し、温風送風開始からおよそ20分間で実質的に乾燥し、約10〜25μmの不均一な厚さのインク吸収層の記録シートを得た。このシートの評価結果を表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
【表2】
【0120】
【発明の効果】
本発明により、インク吸収性、成膜性、表面光沢、透明性に優れた記録媒体、記録媒体用塗工液、該塗工液に用いる高分子エマルジョンとその製造方法、更には記録媒体の効率的な製造方法が提供される。
Claims (7)
- 一定の温度(感温点)以下の温度領域では親水性を示し、感温点を超える温度領域では疎水性を示す高分子化合物(A)を含有する高分子エマルジョン、および動的光散乱法により測定される数平均粒子径DLが3〜200nmである微粒子(C)を含有する、感温点以下まで温度を下げた場合に増粘又はゲル化を生じる、支持体上に1層以上の塗工層を設けたインクジェット記録媒体用塗工液であって、前記塗工液が該感温点を超える温度に保持されたものであって、支持体上の前記塗工層の少なくとも一層が前記塗工液により形成されたものであって、上記高分子化合物(A)がN−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−シクロプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルピロリジン、N−(メタ)アクリロイルピペリジン、N−テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシプロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(2,2−ジメトキシエチル)−N−メチルアクリルアミド、N−メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルホリンから選択される一種以上の主モノマー(M)の(共)重合体、又は該主モノマー(M)とメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、エチレン、イソプレン、ブタジエン、酢酸ビニル、塩化ビニル、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミド、2−メチル−5−ビニルピリジン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−アクリロイルピロリジン、アクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、ブテントリカルボン酸、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、2−アクリルアミド−2−メチル−プロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アクリルスルホン酸、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレートから選択される一種以上の副モノマー(N)の0.01質量%以上50質量%以下との共重合体であることを特徴とするインクジェット記録媒体用塗工液。
- カルボニル基を含有する前記高分子エマルジョンと、少なくとも2個の、ヒドラジン基、セミカルバジド基、又はヒドラジン基およびセミカルバジド基を有するヒドラジン誘導体を含有する、請求項1に記載のインクジェット記録媒体用塗工液。
- 微粒子(C)の、BET法による窒素吸着比表面積SBと動的光散乱法により測定される数平均粒子径DLから求めた換算比表面積SLとの差(SB−SL)が100m2 /g以上である請求項1または請求項2に記載のインクジェット記録媒体用塗工液。
- 微粒子(C)が、金属源として金属酸化物及び/又はその前駆体を用い、(i)金属源とテンプレートと水を混合反応させ複合体を製造する工程と、(ii)該複合体からテンプレートを除去する工程とを経て製造されたものであり、動的光散乱法によって測定される数平均粒子径DLが10〜300nmで、DLから求めた換算比表面積SLとBET法による窒素吸着比表面積SBとの差(SB−SL)が250m2 /g以上であることを特徴とする1から3のいずれかに記載のインクジェット記録媒体用塗工液。
- 支持体上に1層以上の塗工層を設けたインクジェット記録媒体の製造方法であって、該塗工層の少なくとも1層の形成方法が、請求項1から4のいずれかに記載の塗工液を、高分子化合物(A)の感温点を超える温度で支持体上に塗工後、感温点以下の温度まで冷却する工程を含む上記方法。
- 支持体上に1層以上の塗工層を設けたインクジェット記録媒体において、該塗工層の少なくとも1層が、請求項1から4のいずれかに記載の塗工液によって形成されたものである上記インクジェッ記録媒体。
- 支持体上に1層以上の塗工層を設けたインクジェット記録媒体において、該塗工層の少なくとも1層が、請求項5に記載の製造方法によって製造されたものである上記インクジェット記録媒体。
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