JP3581605B2 - インクセット、インクジェット記録方法、記録ユニット、インクカートリッジ、インクジェット記録装置および共通化回復系ユニット内の固形物の生成を緩和する方法 - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明はインクセット、インクジェット記録方法、記録ユニット、インクカートリッジ、インクジェット記録装置および共通化回復系ユニット内の固形物の生成を緩和する方法に関する。更に詳しくは、夫々、黒色顔料インクと他の色相のインク（以下、カラーインクという）とを用い、例えば、インクジェット式プリンタ等のインク記録装置において、耐水性の優れた黒色印字を行い、また、記録上必要とする予備吐出、吸引回復、加圧回復等の回復手段により発生する廃インクを、装置内を汚さずに確実に回収することを可能とするインクセット、インクジェット記録方法、記録ユニット、インクカートリッジ、インクジェット記録装置およびそれの共通化回復系ユニット内の固形物の生成を緩和する方法に関する。
【０００２】
【従来の技術】
従来より、インクジェット方式の記録において、特に普通紙に対して、印字濃度、印字品位、耐水性及び耐光性等の堅牢性に優れた黒色画像を形成し、更に、吐出安定性や分散安定性をも満足させるために、自己分散型のカーボンブラックを用いた黒色インク、また、黒色インクで印字された画像とカラーインクで印字された画像との境界部の滲みを生じることのないインクセット、及びそれを用いたインクジェット記録方法及びインクジェット機器類が報告されている。
【０００３】
例えば、特開平８−３４９８号公報には、カーボンの表面に水溶性基を導入することによって、分散剤を使用することなく安定に分散させることができる自己分散型カーボンブラックが記載されている。また、特開平１０−１８３０４６号公報には、カチオン性基を表面に有する自己分散型カーボンブラックを用いた黒色インクとアニオン性染料を用いたカラーインクとのインクセットが報告されている。
【０００４】
また、インクジェットプリンタ等のこの種のインク記録装置においては、記録ヘッドでの印字に際して、気泡の混入、ごみ、ノズル先端でのインク吐出口メニスカスの後退等により吐出不良を生じ、鮮明な印字が得られなくなることがある。このような事態を未然に防ぐために、ノズルからのインクの吐出を正常な状態に回復させる動作や、ノズルからのインクの吐出特性を予め安定化させるためのインクの予備的な排出動作等が行われている。
【０００５】
このような本来の目的である印刷のためではない、ノズルからインクを正常に吐出させる為の動作をインクジェット記録装置に行なわせる場合には、各インク吐出口領域をキャップでキヤッピングした後、ポンプ等の吸引手段で該キヤップを介してノズル内等に存在するインクを吸引する動作を行わせるのが一般的である。そして吸引したインクは、例えば、吸引回復用のチューブ等を経てインク溜め等に廃インクとして溜ておく。
【０００６】
インク溜めは、インク溜めへの供給口からインクが外部へ漏れないようにするために、廃インク収容カートリッジ内に吸水力の高い部材を収容した構成を採るのが一般的である（以降「廃インク吸収体」）と称する）。ここで廃インク吸収体として用い得る、吸水力の高い部材としては、例えば、吸水紙、フェルト等の高密度繊維構造体、ポリウレタン、ＰＶＡ（ポリビニルアルコール）等による発泡成形材料、あるいは吸水性高分子ポリマーを包含する前記吸収部材等から構成されたものが用いられている。また、記録ヘッドの吐出面をキャッピングするためのキャップ内に収容される部材（以下、キャップ内吸収体と呼ぶ）に関しても同様である。
【０００７】
【発明が解決しようとする課題】
上記したような状況の下で、自己分散型カーボンブラックを含む黒色インクをインクジェットプリンタに装着して種々の評価を行なう過程において、このインクが廃インク吸収体に徐々に吸収されなくなってしまう場合があることを見出した。また、特開平１０−１８３０４６号公報に記載されているような、カチオン性基を表面に有する自己分散型カーボンブラックを用いた黒色インクとアニオン性染料を用いたカラーインクとのインクセットを用い、且つ記録ヘッドの吐出口面をキャッピングするキャップ、キャップ内に連通してインク吸引可能なポンプ部、あるいは、ポンプ部から排出される廃インクを吸収保持する廃インク吸収体、更には廃インク操作を行う経路等を黒色インクとカラーインクとで共用した場合にも、キャップ、ポンプ部、廃インク吸収体等（以下、回復系ユニットと呼ぶ）の内部において凝集物や堆積物等の固形物を生じ、廃インクを装置内を汚さずに確実に回収することができなくなってしまう場合があった。このようなことから、回復系ユニットを黒色インクとカラーインクとで共通化することはインクジェット記録装置を小型化する為には極めて有効な手段の一つであるものの、この構成を採用するためには廃インクを長期に亘り確実に回収可能とする為の技術開発が必要であるとの結論に至った。
【０００８】
そこで、本発明の目的は、インクジェット記録装置の回復系ユニット内で固形物が生成することを防ぎ、廃インクが長期に亘って確実に回収され、高品位な印刷物を安定して形成可能にするインクセットを提供する点にある。また、本発明の他の目的は、高品位なカラー印刷物を安定して形成することのできるインクジェット記録方法を提供する点にある。
【０００９】
また、本発明の更に他の目的は、インクジェット記録装置の回復系ユニット内で固形物が生成することを防ぎ、廃インクが長期に亘って確実に回収され、高品位な記録を長期間安定して行なうことを可能とする記録ユニットおよびインクカートリッジを提供することを目的とする。更にまた、本発明の他の目的は、高品位な印刷物を安定的に形成することのできるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。更にまた、本発明の他の目的は、ブリーディングが少なく、且つ廃インク等による汚れの付着も殆ど無い、極めて高品位なカラー画像を安定して形成することのできるインクジェット記録装置を提供する点にある。更にまた、本発明の他の目的は、インクジェット記録装置の回復系ユニット内での凝集物や堆積物の生成を緩和する方法を提供する点にある。
【００１０】
【課題を解決するための手段】
上記の目的に対し、本発明者らは種々検討を重ね、自己分散型カーボンブラック顔料粒子を含む黒色インクを用いた場合における廃インク吸収体内で固形物の生成が該インク中の自己分散型カーボンブラックの分散破壊に起因すると考えられる、との結論に至った。即ち、例えば、自己分散型カーボンブラックの表面には親水性基が結合しているが、該親水性基の対イオン（例えば、アンモニウムイオン等）が、回復系ユニット内で該インクが保存されている過程において徐々に揮発し、その結果、自己分散型カーボンブラックの水系媒体への分散性が低下し、固形物がより生成しやすい状態に変化し、徐々に廃インク吸収体を初めとする回復系ユニットに固形物として付着する。
【００１１】
一方、本発明者らは、アニオン性自己分散型カーボンブラック顔料粒子を含む黒色インクの粘度とｐＨとの関係を検討したところ、図７の（ａ）に示したような関係を示すことを見出した。即ち、ｐＨが低くなるに連れて当該黒色インクの粘度が急激に上昇し、ｐＨが高くなるにつれて粘度が低下する。
【００１２】
従って、回復系内で該黒色インクのｐＨが何らかの理由で低くなり、その粘度が急激に高まると、インクの溶媒のみが廃インク吸収体に吸収されてしまい、自己分散型カーボンブラックが吸収体表面に残留し、それが徐々に堆積していき、その結果、廃インクの吸収が妨げられるようになると推測される。そこで、本発明者らは、回復系内での該黒色インクの分散破壊を防止することが回復系への固形物の付着の防止に有効であると推測し、該回復系内における該黒色インクのｐＨが固形物を生成することのないようなｐＨに調整したところ、生成物の付着が極めて有効に抑えられるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【００１３】
即ち、上記の目的を達成することのできる本発明のインクセットの一実施態様は、少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを個別に吐出させるインクジェットヘッドと、該ヘッドの該カラーインクの吐出口および該黒色インクの吐出口の回復手段が共通であるインクジェット記録装置の為のインクセットであって、
前記黒色インクが水性媒体中に、少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラック粒子を含有し、
かつ、前記カラーインクのｐＨが該黒色顔料インクのｐＨよりも高いことを特徴とするものである。
【００１４】
また、上記の目的を達成することのできる本発明のインクジェット記録方法の一実施態様は、例えば、少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを備え、該カラーインクの吐出口と該黒色インクの吐出口とで共通の回復手段を有するインクジェット記録装置を用いて、該黒色インクおよび該カラーインクの少なくとも一方にエネルギーを与えて、該インクを吐出させて被記録材に付与する工程を有し、該黒色インクとして水性媒体中に少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラック粒子を含有し、所定のｐＨを有する黒色インクを用い、該カラーインクとして該黒色インクよりもｐＨの高いカラーインクを用いることを特徴とするものである。
【００１５】
また、上記の目的を達成することのできる本発明の記録ユニットの一実施態様は、例えば、少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを個別に吐出させるインクジェットヘッドの該黒色インクの吐出口の回復手段及び該カラーインクの吐出口の回復手段が共通であるインクジェット記録装置に用いられる記録ユニットであって、これらの２色以上のインクを各々独立して収容している複数のインク収容部と、各々のインク収容部から該インクを吐出させるためのヘッド部とを備え、該黒色インクが水性媒体中に少なく１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラック粒子を含有するとともに所定のｐＨを有し、該カラーインクが該黒色インクよりも高いｐＨを有することを特徴とするものである。
【００１６】
また、上記の目的を達成することのできる本発明のインクカートリッジの一実施態様は、例えば、少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを個別に吐出させるインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドの該カラーインクの吐出口の回復手段と該黒色インクの吐出口の回復手段とが共通であるインクジェット記録装置に用いられるインクジェット記録装置に用いられるインクカートリッジであって、該インクカートリッジは少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを個別に収納している複数のインク収容部を有し、該黒色インクが水性媒体中に少なく１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラック粒子を含有するとともに所定のｐＨを有し、該カラーインクが該黒色インクよりも高いｐＨを有することを特徴とするものである。
【００１７】
また、上記の目的を達成することのできるインクジェット記録装置の一実施態様は、少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを個別に収容した複数のインク収容部、各々のインク収容部から供給されるインクを吐出させるインクジェットヘッド、該インクジェットヘッドが有する黒色インクの吐出口およびカラーインクの吐出口を共にキヤッピングするキヤップ、該キャップを介して該吐出口のインクを吸引するポンプおよび吸引したインクを保持するインク吸収体を備えたインクジェット記録装置であって、該黒色インクは水性媒体中に少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラックを含み、また、該カラーインクは該黒色インクよりも高いｐＨを有することを特徴とする。
【００１８】
また、上記の目的を達成することのできるインクジェット記録装置の他の実施態様は少なくとも２つの異なるインクを各々収容している複数のインク収容部と各々のインク収容部から該インクを吐出させるためのヘッド部とを備えた記録ユニット、該ヘッド部にある少なくとも２つの異なるインクの各々の吐出口面を共にキヤッピングするキヤップ、該キャップを介して該ヘッド部のインクを吸引するポンプおよび該ポンプによって吸引された少なくとも２つのインクを共に保持するインク吸収体を有するインクジェット記録装置において、該少なくとも２つの異なるインクが、水性媒体中に少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラックを含む黒色インクおよび該黒色インクよりも高いｐＨを有するカラーインクとを含むことを特徴とする。
【００１９】
また、上記の目的を達成することのできるインクジェット記録装置の更に他の実施態様は、少なくとも２つの異なるインクを各々収容している複数のインクカートリッジ、該インクカートリッジが着脱可能に構成されてなり、各々のインクカートリッジのインク収容部の該インクを吐出させるヘッド部、および該ヘッド部にある少なくとも２つの異なるインクの各々の吐出口面を共にキヤッピングするキヤップ、該キャップを介して該ヘッド部のインクを吸引するポンプおよび該ポンプによって吸引された少なくとも２つのインクを共に保持するインク吸収体を有するインクジェット記録装置において、該少なくとも２つの異なるインクが、水性媒体中に少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラックを含む黒色インクおよび該黒色インクよりも高いｐＨを有するカラーインクとを含むことを特徴とする。
【００２０】
また、上記の目的を達成することのできる共通化回復ユニット内の固形物の生成を緩和する方法は、少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型カーボンブラックを含む黒色インクとカラーインクとを備え、該黒色インクの吐出口とカラーインクの吐出口との回復系ユニットを共通化したインクジェット記録装置の共通化回復系ユニット内での固形物の生成を緩和する方法であって、該カラーインクとして、そのｐＨが該黒色インクのｐＨよりも高いカラーインクを用いることを特徴とする。
【００２１】
上記した実施態様によって、複数のインクに関して回復系を共通化した場合にも、回復系内への固形物の生成を抑制することができる。その結果、耐水性の優れた黒色のプリントを行うことができる。また、インクジェット記録装置を用いた印刷を行なう際に必要なインクの予備吐出、吸引回復、更には加圧回復等の回復手段によって発生する廃インクを、長期間安定して装置内を汚すことなく、確実に回収できるという効果を奏するものである。更に、黒色インクとカラーインクの回復系を一体化することによってインクジェット記録装置の小型化を図ることができるという効果も奏するものである。
【００２２】
本発明によれば、廃インク回収部における目詰りなどの発生を防止して、良好なインクジェット記録を行うことが可能となる。なお、本発明において、カラーインクのｐＨが黒色顔料インクのｐＨよりも高いことが有利である理由は以下のことによると考えられる。すなわち、記録装置自体の大きさが大きくなってしまう、記録装置の製造コストが高くなってしまう等の弊害を生じることなくコンパクトに装置設計を行うためには、上記したような回復系ユニットを１つに限定するのが好ましい。
【００２３】
【発明の実施の形態】
次に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【００２４】
本発明にかかるブラックインクである水性の黒色顔料インクは、少なくとも特定のカーボンブラックを含んでおり、顔料を分散させるための分散剤を含まない態様の水系インクである。
【００２５】
以下、本発明にかかるブラック顔料インク及びカラーインクを構成する材料について夫々説明する。
【００２６】
本発明にかかるブラックインクである水性顔料インクにおいては、まず、色材として、少なくとも一種の親水性基がカーボンブラック表面に直接、もしくはより好ましくは、原子団を介して結合している自己分散型カーボンブラック粒子を用いる。この結果、従来のインクのように、カーボンブラックを分散させるための分散剤が不要となる。本発明で使用するアニオン性の自己分散型カーボンブラックとしては、表面に結合されている親水性基が、例えば、−ＣＯＯＭ、−ＳＯ３Ｍ、−ＰＯ３ＨＭ（ただし、式中のＭはそれぞれ独立して水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウム表す。）である場合が挙げられる。本発明においては、これらの中で、特に−ＣＯＯＭ、−ＳＯ３Ｍがカーボンブラック表面に結合してアニオン性に帯電しているものを用いることが好ましく、より好ましくは、−ＣＯＯＭが結合しているものである。また、上記親水性基中の「Ｍ」は、例えば、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムから選ばれるものである。なお、アルカリ金属としては、例えばＬｉ、Ｎａ、Ｋ、Ｒｂ、Ｃｓ等が挙げられ、また、有機アンモニウムの具体例としては、例えばメチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メタノールアンモニウム、ジメタノールアンモニウム、トリメタノールアンモニウム、エタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム及びトリエタノールアンモニウム等が挙げられる。そして、「Ｍ」としては特にアンモニウムであることが好ましい。
【００２７】
対イオンをアンモニウムとすることで、黒色インクの記録部での耐水性の発現時間を短縮可能である。このように、自己分散型カーボンブラック粒子を色材とした黒色顔料インクの耐水性発現に要する時間を短縮できる理由としては、印字物の記録部においてカーボンブラック粒子表面からアンモニアが揮発し、遊離酸となるためであると考えられる。
【００２８】
アニオン性に帯電している自己分散型カーボンブラック粒子の製造は、例えば、カーボンブラックを次亜塩素酸ソーダで酸化処理して得られた−ＣＯＯＮａ基が結合された自己分散型カーボンブラックのＮａをイオン交換法によりアンモニウムに置換する方法等により、カーボンブラック粒子表面に−ＣＯＯＮＨ４基を結合させることによって行うことができる。勿論、本発明はこれに限定されるわけではなく、従来公知のいかなる製法であっても構わない。
【００２９】
本発明においては、親水性基が原子団を介してカーボンブラック粒子を構成している重合体鎖に結合しているものが好ましい。原子団としては炭素原子数１〜１２のアルキレン基、置換基を有してもよいフェニレン基または置換基を有してもよいナフチレン基が挙げられる。ここでフェニレン基やナフチレン基の置換基として、例えば炭素数１〜６の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基等が挙げられる。そして、原子団を介してカーボンブラックの表面に結合した親水性基の具体例としては、上記に挙げたもののほか、例えば、−Ｃ２Ｈ４ＣＯＯＭ、−ＰｈＳＯ３Ｍ、−ＰｈＣＯＯＭ等（ただし、Ｐｈはフェニル基を表す）が挙げられるが、勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。
【００３０】
本発明にかかる水性の黒色インクに用いる自己分散型カーボンブラック粒子は、カーボンブラック粒子の表面の親水性基によってアニオン性に帯電しており、そのイオンの反発によって水分散性を有し、また、その親水性基により親水性も向上している。
【００３１】
また、本発明において、上記した自己分散型カーボンブラックは、１種類に限定されるものではなく、２種以上を混合して使用して色調を調製してもよい。また、本発明にかかる顔料インク中の自己分散型カーボンブラックの添加量としては、インク全重量に対して、好ましくは０．１〜１５重量％、より好ましくは１〜１０重量％の範囲とする。更に、自己分散型カーボンブラックに加えて染料を使用してインクの色調を調製してもよい。
【００３２】
また、該黒色インクには塩を添加してもよい。自己分散型カーボンブラックを含むインク中に上記したような塩を共存させることによって、記録媒体の種類によって画像品質が大きく変化することのない、安定的に高品位の画像を形成することのできるインクを得ることができる。この実施態様にかかるインクが上記した様な特性を発揮する詳細なメカニズムは現時点においては明らかでない。しかし、インクの記録媒体への浸透性を表わす尺度として知られているブリストウ法によって求められるＫａ値に関して、本態様のインクは、塩を添加しない以外は同一の組成を有するインクと比較して大きなＫａ値を示すとの知見を本発明者らは得ている。Ｋａ値の増加は、インクの記録媒体への浸透性の向上したことを示すものであり、これまでの当業者の常識としてインクの浸透性の向上は、画像濃度の低下を意味するものであった。即ち、インクの浸透と共に色材も記録媒体内部に浸透してしまう結果として画像濃度が低下してしまうというのがこれまでの当業者の認識である。そしてこのような本態様のインクに関する種々の知見から総合的に判断すると、本態様のインク中の塩は、紙面上に付与した後のインク中の溶剤と固形分との分離（固液分離）を極めて速やかに引き起こすという特異的な作用を生じさせていると考えられる。つまりインクが記録媒体に付与されたときの、固液分離が遅ければ、Ｋａの値の大きいインク、あるいはインクの浸透性の大きな紙上ではインクは色材とともに等方的に紙中に拡散し、その結果文字のシャープネス（文字品位）が損なわれると同時に紙の奥まで色材が浸透するために画像濃度も低下することが予測される。しかし、本態様のインクはその様な現象が観察されないことから、記録媒体に付与されたときの固液分離が速やかに起こり、その結果、インクのＫａ値の増加にも関わらず、高品位な画像を与えるものと推察される。また、浸透性が比較的高い紙であっても本態様のインクの場合には、文字品位の低下や画像濃度の低下といった現象は起こりづらい理由もこれと同じと考えられる。該塩の含有量は、インク全重量に対して０．０５〜１０重量（ｗｔ）％、特には０．１〜５重量％の範囲とする事が好ましい。
【００３３】
塩としては、（Ｍ１）２ＳＯ４、ＣＨ３ ＯＯ（Ｍ１）、Ｐｈ−ＣＯＯ（Ｍ１）、（Ｍ１）ＮＯ３、（Ｍ１）Ｃｌ、（Ｍ１）Ｂｒ、（Ｍ１）Ｉ、（Ｍ１）２ＳＯ３および（Ｍ１）２ＣＯ３から選ばれる少なくとも一つを用いることが好ましい。ここでＭ１はアルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表し、Ｐｈはフェニル基を表す。そして、アルカリ金属の具体例としては、例えば、Ｌｉ、Ｎａ、Ｋ、Ｒｂ、Ｃｓ等が挙げられ、また、有機アンモニウムの具体例としては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メタノールアンモニウム、ジメタノールアンモニウム、トリメタノールアンモニウム、エタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウムおよびトリエタノールアンモニウム等が挙げられる。
【００３４】
そしてこのように塩を添加した黒色インクを用いる態様においては、カラーインクのｐＨを黒色インクよりも高くするとともに、黒色インクとカラーインクとの回復系ユニットを共通化することの効果をより有効に活用することができる。即ち、塩を添加した黒色インクが回復系ユニット内に保持されている状態でｐＨが酸性側にシフトすると、塩を含まない黒色インクよりも粘度がより高くなるという傾向がある（図７の（ｂ）参照）。つまり回復系ユニットに固形物が生成しやすいということができる。しかし、本発明によれば、回復系ユニット内のｐＨの低下を有効に抑えることができる。その結果、画像品位がより一層優れたインクジェット記録を行なうことができる。 また、この実施態様にかかるインクの他の具体例として、−ＣＯＯＭ、−ＳＯ３Ｍ２、および−ＰＯ３ＨＭから選ばれる少なくとも１つをカーボンブラック表面に直接、若しくは他の原子団を介して結合させた自己分散型カーボンブラックと、Ｍ１がＭと同一である塩を含有させたインクが挙げられる。このインクはその安定性がより一層向上するために、特に好適な態様の一つである。例えば、Ｍがアンモニウム（ＮＨ４）であれば、塩としてアンモニウム塩、例えば、安息香酸アンモニウム等を添加すると、このインクを用いて得られるインクジェット記録画像の耐水性等をより一層改善することができる。更に、このようなインクセットを用いてカラー画像を形成した場合、カーボンブラックを含むインクによって形成された画像と他の色材を含むインクによって形成された画像との境界領域におけるブリーディングを有効に抑えることができる。本実施態様によって上記した様な効果が得られる理由は明らかではないが、記録媒体表面における固液分離の早さが関与しているものと考えられる。
【００３５】
本発明のインクセットを構成するカラーインクに用いられる色材としては、通常の染料や顔料が用いられるが、発色性の点で染料を使用することが好ましい。染料としては、例えば、酸性染料、直接染料等、その殆ど全てが使用できる。該色材の含有量について、特に制限はないが、インク全重量に対して０．１〜２０重量％の範囲が好ましい。
【００３６】
本発明のインクセットを構成するカラーインクの成分として用いられるアニオン性染料としては、既存のものでも、また、新規に合成したものでも適度な色調と濃度とを有するものであれば、大抵のものを使用することができる。また、これらのうちいずれかを混合して用いることもできる。アニオン性染料の具体的なものとしては、例えば、下記のようなものが挙げられる。
【００３７】
Ｃ．Ｉ．ダイレクトイエロー ８，１１，１２，２７，２８，３３，３９，４４，５０，５８，８５，８６，８７，８８，８９，９８，１００，１１０，１３２，１４２
Ｃ．Ｉ．ダイレクトレッド ２，４，９，１１，２０，２３，２４，３１，３９，４６，６２，７５，７９，８０，８３，８９，９５，１９７，２０１，２１８，２２０，２２４，２２５，２２６，２２７，２２８，２３９，
Ｃ．Ｉ．ダイレクトブルー １，１５，２２，２５，４１，７６，７７，８０，８６，９０，９８，１０６，１０８，１２０，１５８，１６３，１６８，１９９，２２６，
Ｃ．Ｉ．ダイレクトブラック １７，１９，２２，３１，３２，５１，６２，７１，７４，１１２，１１３，１５４，１６８，１９５，
Ｃ．Ｉ．アシッドイエロー１，３，７，１１，１７，２３，２５，２９，３６，３８，４０，４２，４４，７６，９８，９９，
Ｃ．Ｉ．アシッドレッド６，８，９，１３，１４，１８，２６，２７，３２，３５，４２，５１，５２，８０，８３，８７，８９，９２，１０６，１１４，１１５，１３３，１３４，１４５，１５８，１９８，２４９，２６５，２８９，
Ｃ．Ｉ．アシッドブルー１，７，９，１５，２２，２３，２５，２９，４０，４３，５９，６２，７４，７８，８０，９０，１００，１０２，１０４，１１７，１２７，１３８，１５８，１６１，
Ｃ．Ｉ．アシッドブラック２，４８，５１，５２，１１０，１１５，１５６，
Ｃ．Ｉ．リィアクティブイエロー ２，３，１７，２５，３７，４２
Ｃ．Ｉ．リィアクティブレッド ７，１２，１５，１７，２０，２３，２４，３１，４２，４５，４６，５９，
Ｃ．Ｉ．リィアクティブブルー ４，５，７，１３，１４，１５，１８，１９，２１，２６，２７，２９，３２，３８，４０，４４，１００，
Ｃ．Ｉ．フードイエロー ３，
Ｃ．Ｉ．フードレッド ８７，９２，９４，
Ｃ．Ｉ．フードブラック １，２
また、下記に挙げる構造式を有する染料の使用も好ましい。
【００３８】
【化１】
【００３９】
【化２】
【００４０】
【化３】
【００４１】
【化４】
【００４２】
【化５】
【００４３】
【化６】
【００４４】
【化７】
【００４５】
【化８】
【００４６】
【化９】
【００４７】
【化１０】
【００４８】
【化１１】
ところで、上記水性黒色顔料インクのｐＨは特に調整しなければ通常７〜８の範囲である。そしてこの黒色インクは先にのべた様に、回復系ユニット、例えば、廃インク吸収体等に長期間の放置されることによりｐＨが酸性方向にシフトし、それに伴いインクの粘度が上昇してしまう場合がある。このときに、回復系ユニット内の黒色インクの粘度が上昇しすぎてしまうと、回復吸引にも悪影響を及ぼしてしまうことも考えられる。こうした場合においても、カラーインクのｐＨを黒色インクのｐＨよりも高くしておき、また、回復系ユニットにおいて黒色インクとカラーインクとが混合される様に構成することにより、回復系ユニット内での廃インクのｐＨの低下を防ぐことができる。カラーインクのｐＨは、黒色インクのｐＨよりも１以上、より好ましくは２以上高いことが望ましい。この場合、色インクの吐出口に隣接するカラーインクのｐＨほど高い方が好ましい。また、例えば、カラーインク中にアルカリ金属塩を含ませた場合には、カラーインク中のアルカリ金属イオンが、カーボンブラック表面の親水性基の対イオンとなり、回復系ユニット内における廃インクの分散破壊や不溶化を防ぐことができるのである。この態様においてもカラーインクのｐＨが黒色インクのｐＨよりも１以上、より好ましくは２以上高く調製することが望ましい。
【００４９】
本発明にかかるカラーインクに含まれる水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【００５０】
該水酸化物の含有量としては、特に制限はないがインク全重量に対して、０．０１〜１０％の範囲が好ましい。より好ましくは０．０１〜５．０％の範囲である。
【００５１】
本発明にかかるカラーインクに含まれるアルカリ金属塩としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ベリリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ベリリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸ベリリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ベリリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、シュウ酸リチウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸ベリリウム、シュウ酸マグネシウム、シュウ酸カルシウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【００５２】
該アルカリ金属塩の含有量としては、特に制限はないがインク全重量に対して、０．０１〜１０％の範囲が好ましい。より好ましくは、０．０１〜５．０％の範囲である。
【００５３】
本発明にかかる黒色インクである水性顔料インク及びカラーインクに含まれる水性媒体は、水単独または水と水溶性有機溶剤との混合溶媒からなるが、水溶性有機溶媒としては、インクの乾燥防止効果を有するものが特に好ましく、また、水は、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、脱イオン水を使用することが望ましい。
【００５４】
本発明で使用する水溶性有機溶剤としては、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、ｎ−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ｎ−ブチルアルコール、ｓｅｃ−ブチルアルコール、ｔｅｒｔ−ブチルアルコール等の炭素数１〜４のアルキルアルコール類；ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類；アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類；テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類；ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類；エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、１，２，６−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が２〜６個の炭素原子を含むアルキレングリコール類；ポリエチレングリコールモノメチルエーテルセテート等の低級アルキルエーテルアセテート；グリセリン、エチレングリコールモノメチル（またはエチル）エーテル、ジエチレングリコールメチル（またはエチル）エーテル、トリエチレングリコールモノメチル（またはエチル）エーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテル類；トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール；Ｎ−メチル−２−ピロリドン、２−ピロリドン、１，３ジメチル−２−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記のごとき水溶性有機溶剤は、単独でもあるいは混合物としても使用することができる。本発明にかかる黒色インクである水性顔料インク及びカラーインク中に含有される上記したような水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、インク全重量に対して、好ましくは３〜５０重量％の範囲である。また、インクに含有される水の含有量は、インク全重量に対して、好ましくは５０〜９５重量％の範囲である。
【００５５】
また、本発明にかかる黒色インクである水性顔料インク及びカラーインクは、上記の成分のほかに必要に応じて所望の物性値を持つインクとするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤等を添加することができ、更に、市販の水溶性染料等を添加することもできる。
【００５６】
以上のように本発明のインクセットは、インクジェット記録で用いられる際に特に効果的である。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出する記録方法があり、それらの記録方法に本発明のインクセットは特に好適である。
【００５７】
（インクジェット記録装置）
図４及び図５は、本発明にかかるインクジェット記録装置の一態様の概略説明図である。このインクジェット記録装置において、インクジェット記録ヘッド９０１は、ガイドシャフト９０３とガイドレール９０７に摺動自在なキャリッジ９０５に搭載され、該キャリッジ９０５の移動はシャーシ９０９に保持されたキャリッジモータ９１１によりプーリー９１３に巻回されたタイミングベルト９１５の一部をキャリッジ９０５に固定させることで（不図示）行われ、前記キャリッジモータ９１１の回転方向を変えることで、往復駆動される。なお、ガイドシャフト９０３及びガイドレール９０７はシャーシ９０９に保持されている。記録ヘッド９０１としては、例えば、図１の１００に示した様に各色のインクを収納してなるインク収容部（１０１Ｂｋ、１０１Ｃ、１０１Ｍ、１０１Ｙ）が記録ヘッド１０３として一体化され記録ユニットを構成している形態や、図２に示した様に、各色のインクを収納してなるインクカートリッジ（４０１Ｂｋ、４０１Ｃ）が記録ヘッド部４０３に対して着脱可能に構成されている形態などを挙げることができる。そしてこの様な記録ヘッドは、図６に示した様にオリフィスが列状に配置され、各色のインクを各々のオリフィス（１１０１〜１１０４）から個別に吐出させることがきる様にインク流路を分けて構成されており、制御回路からの信号に基づいて列状に配置された複数個の吐出口から各々のインクを記録媒体であるシート状の記録紙９１７に向けて吐出させるものである。
【００５８】
記録紙９１７は圧板９１９の上面にセットされ、圧板９１９の右端部に一体的に形成された解除レバー９１９Ａの左側壁に記録紙９１７の右端を合わせて積載される。ここで図５に示すように、セットされた記録紙９１７の先端はベース９２１に下部を固定された弾性体９２３の下方に突き当って保持される。従って、給紙スタック部がベース９２１及び下部をベースに固定された弾性体９２３によって形成されていることになる。ここで、不図示のコントローラの給送命令により不図示の紙送りモータが回転すると、図示しないギア列により回転が伝達されピックアップゴム９２５が矢印Ａ方向に回転してカム部が外れ、圧板バネ（不図示）により圧板９１９が引き上げられて圧板９１９に積載された記録紙９１７が給送ローラ軸９２７に設けられたピックアップゴム９２５に圧接される。なお、給送ローラ軸９２７に摩擦係数の大きいピックアップゴム９２５がその外径が給送ローラ軸９２７の最大外径より大きくなるように嵌着されており、圧板９１９上のピックアップゴム９２５に対向する位置には記録紙９１７のスリップを防ぐ摩擦部材である分離パッドが固定されている。従って、更に、給送ローラ軸９２７が回転するとピックアップゴム９２５の摩擦力により前方に押し出された記録紙９１７はベース９２１に下部を固定された弾性体９２３を撓ませこの弾性体９２３の抵抗力の作用により、最上位の記録紙９１７が一枚ずつ分離されて、送り出されることになる。従って、この弾性体９２３が分離手段となり、ベース９２１に保持されることになる。更に、分離給送された記録紙９１７はシャーシ９０９に両端部が支持された搬送ローラ９２９及びベース９２１に設けられたピンチローラ５７に挟持されながらキャリッジ９０５下方、すなわちベース９２１の上方に搬送される。ここは一般的にはプラテン部と呼ばれ、記録紙をガイドするリブや、記録紙が撓んだときに下側から支持するリブ等が設けられる。なお、記録紙９１７はキャリッジ９０５の下方に搬送される前に逆回転している搬送ローラ９２９及びピンチローラ５７に突き当って先端を整列させた後、搬送ローラ９２９を正転させてキャリッジ９０５の下方まで搬送される。この状態で、キャリッジモータ９１１を駆動させることでキャリッジ９０５が記録紙９１７の搬送方向と直交する方向に走査するとともに記録命令によりキャリッジ９０５上の記録ヘッド９０１からインクを吐出することで記録紙９１７に印字が実行される。
【００５９】
（キャップ機構／ポンプ機構）
記録ヘッド９０１の全面をキャップするキャップ部材９３３は、例えば、記録ヘッド９０１を密閉し得る弾性材料、例えば、塩素化ブチルゴム等の弾性を有する適宜な材料で形成される。前記キャップ部材９３３はキャップホルダー９３５に一体的に保持されている。そして前記キャップホルダー９３５はシリンダ（不図示）から一体的に伸びた腕部９３７に回転自在に保持される。シリンダは内部に不図示のピストンを有しておりピストン軸を駆動するとで、シリンダ内に負圧を発生することが可能となっている。また、キャップ９３３にはキャップ９３３と一体的に形成された柔軟性を有するジョイント部を有しており、このジョイント部をシリンダに設けたジョイント部に締め代をもって圧入することで、シリンダとキャップ９３３はシールされた状態で接合される。次に、記録ヘッド９０１に対するキャップ９３３の圧接、解除方法について説明する。前述のようにキャップホルダ９３５に一体的に保持されたキャップ９３３はシリンダと密閉をもって結合されており、更に、キャップホルダー９３５はシリンダに対してシリンダ腕部９３７に回転自在に保持されている。また、シリンダはシリンダ制御部９３９が一体的に形成されており、シリンダ制御部９３９の先端はベース９２１に回転自在に保持されたポンプカムギア９４１のカム部９４３に当接している。
【００６０】
従って、シリンダの回転はシリンダ制御部９３９を介してポンプカムギア９４１のカム部に９４３によって制御されることになる。すなわち、ポンプカムギア９４１のカム部９４３に沿ってシリンダ制御部９３９が上下動することによってシリンダを介してキャップ９３９が記録ヘッド９０１に対してキャッピング及びキャッピング解除が可能となる。なお、ベース９２１により保持されているポンプカムギア９４１及び駆動伝達部はベース９２１の記録紙搬送経路を避けた右端部に設けられ、ポンプカムギア９４１は搬送ローラ９２９に圧入軸着されたＬＦギア９４５と選択的に接続可能になっており、付図示の紙送りモータの駆動を不図示のギア列を介してＬＦギア９４５に伝え、キャリッジ９０５の動きでクラッチ動作（不図示）を行うことで、紙送りローラの駆動をポンプカムギア９４１に伝えることが可能となる。以上説明したようにポンプ機構部においては、ベース９２１によって保持され、かつベース９２１とキャップホルダ９３５間にキャップバネを介在させることでキャップ９３３を記録ヘッド９０１に圧接することが可能となる。従って、非記録時に記録ヘッド９０１をキャッピングし、ノズルの乾燥を防ぐとともに、ノズル内に発生した泡やノズル部に付着したゴミによる吐出不良時にキャッピング動作中にポンプ部を作動させ、記録ヘッド９０１のノズル部よりインクを吸引することで、吐出を正常化させることができる。
【００６１】
図３は、キャップ９３３の断面詳細図である。図において７１はキャップゴムであり、図における上端部が複数種のインクジェットヘッドの吐出口面に接合する。同図において吸引口部がキャップゴム７１の中央部に位置していることで、キャップゴム７１内に吸引されたインクの滞留がなく、中央部または両端部のノズルから均等にインクを吸引することができる。７２はキャップゴム７１を保持するキャップカバー、７３はキャップゴム７１と接続するポンプ吸引チューブであり、不図示の吸引ポンプを連通する。７４は、キャップ内吸収部材である。
【００６２】
（廃インク吸収体）
次に、廃インク吸収体について図５を用いて説明する。前述のポンプ機構部により、キャップ９３３を介して記録ヘッド９０１より吸引された廃インクは、シリンダ内に入り、不図示のピストンの動きによりシリンダ端部よりインクが排出される。シリンダ端部はベース９２１内に差し込まれており、ベース９２１により回転自在に保持されている。シリンダの他端は前述したようにシリンダキャップギア（不図示）を介してベース９２１に回転自在に保持されているため、ポンプ機構部全体がベース９２１に回転自在に保持されているとになる。廃インクが排出されるシリンダ端部にはシリンダ吸収体９４７が差し込まれている。シリンダ吸収体９４７にはシリンダ内にある廃インクを効率良く外部に排出する性能が要求されるため、インクの伝達性の良い材料が選ばれ、例えば、発泡スポンジにより形成される。シリンダ吸収体９４７はベース９２１内部の廃インク吸収体９４９、９５１、９５３に挟まれており、圧接状態にある。従って、シリンダ内の廃インクはシリンダ吸収体９４７から廃インク吸収体９４９、９５１、９５５へと伝播される。ここで廃インク吸収体９４９、９５１、９５３及び９５５は図５に示すようにベース内部に保持されるが、ベース９２１はピンチローラ部及び排紙ローラ部を有しており、その断面は一様でない。従って、ベース９２１内に効率良く配置し廃インク容量を多く確保するために複数の廃インク吸収体をベース９２１内に収められることが好ましい。
【００６３】
廃インク吸収体９４９、９５１、９５３及び９５５には、インク保持能力の高い材料を用いることが好ましい。インク吸収体の材料としては、例えば、紙の積層シート、高分子吸収体を含んだ吸収体、更にはフェルト等の高密度繊維構造体ポリウレタン、セルローズ、ＰＶＡ、ＥＶＡ等による発泡形成材料、あるいはアクリル酸グラフトでんぷん、アクリル塩グラフトでんぷん、ビニルアルコールアクリル酸ブロックコポリマー、ビニルアルコールアクリル塩ブロックコポリマー、架橋ポリアクリル酸、架橋ポリアクリル塩、変成ＰＶＡ、ポリスチレンスルホン酸、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロース等の吸水性高分子ポリマーを含有する前述の吸水性材料等が挙げられる。また、これらの材料からなる廃インク吸収体は、例えば、抜き型によって作られる。
【００６４】
本実施態様において、廃インク吸収体は４枚構成（９４９、９５１、９５３及び９５５）とし、また、廃インク吸収体９４９、９５１及び９５３に挟まれる形でシリンダ吸収体９４７が圧接され配置される構成としたが、廃インク吸収体の構成や配置はこれに限定されない。
【００６５】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を用いて更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、以下の記載で部、％とあるものは特に断わらない限り重量基準である。
【００６６】
製造例１
（顔料分散体１）
５．３％の水に５ｇの濃塩酸を溶かした溶液に５℃においてアントラニル酸１．５８ｇを加えた。これに、アイスバスで攪拌することにより常に１０℃以下に保たれた状態で、５℃の８．７ｇの水に１．７８ｇの亜硝酸ナトリウムを加えた溶液を加えた。これに更に、１５分攪拌後、表面積が３２０ｍ２／ｇでＤＢＰ吸油量が１２０ｍｌ／１００ｇのカーボンブラック２０ｇを混合した状態のまま加えた。その後、更に１５分攪拌した。得られたスラリーを東洋濾紙Ｎｏ．２（アドバンティス社製）で濾過し、顔料粒子を十分に水洗し、１１０℃のオーブンで乾燥させ、更に、この顔料に水を足して顔料濃度１０重量％の顔料水溶液を作製した。以上の方法によりカーボンブラックの表面に、−Ｐｈ−ＣＯＯＮａ基を導入した。
（顔料分散体２）
上記顔料分散体１中のカーボンブラックの表面の−Ｐｈ−ＣＯＯＮａ基の末端を、イオン交換法により変換して−ＣＯＯＮＨ４にした形で、顔料濃度１０重量％の顔料水溶液を作製した。
【００６７】
製造例２
（黒色インク１）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ３．０μｍのミクロフィルター（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００６８】
・上記の顔料分散体１ ３０部
・グリセリン ７．５部
・エチレングリコール ７．５部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
（商品名：アセチレノールＥＨ） ０．２部
・水 ５４．８部
（ｐＨ７．５）
（イエローインク１）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ０．２μｍのミクロフィルタ（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００６９】
・尿素 ７．５部
・アセチレノールＥＨ １部
・ジエチレングリコール ７．５部
・グリセリン ７．５部
・１０％水酸化ナトリウム水溶液 ０．０４部
・Ｃ．Ｉ．ダイレクトイエロー８６ ３部
・水 ７３．４６部
（ｐＨ１０．１）
（マゼンタインク１）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ０．２μｍのミクロフィルタ（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００７０】
・尿素 ７．５部
・アセチレノールＥＨ １部
・ジエチレングリコール ７．５部
・グリセリン ７．５部
・１０％水酸化ナトリウム水溶液 ２部
・上記例示化合物１６ ３部
・水 ７１．５部
（ｐＨ９．７）
（シアンインク１）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ０．２μｍのミクロフィルタ（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００７１】
・尿素 ７．５部
・アセチレノールＥＨ １部
・ジエチレングリコール ７．５部
・グリセリン ７．５部
・１０％水酸化ナトリウム水溶液 ０．０４部
・Ｃ．Ｉ．ダイレクトブルー１９９ ３部
・水 ７３．４６部
（ｐＨ１０．２）
（黒色インク２）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ３．０μｍのミクロフィルタ（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００７２】
・上記の顔料分散体２ ３０部
・グリセリン ７．５部
・エチレングリコール ７．５部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
（商品名：アセチレノーリＥＨ） ０．２部
・水 ５４．８部
（ｐＨ７．５）
（イエローインク２）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ０．２μｍのミクロフィルタ（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００７３】
・尿素 ７．５部
・アセチレノールＥＨ １部
・ジエチレングリコール ７．５部
・グリセリン ７．５部
・Ｃ．Ｉ．ダイレクトイエロー８６ ３部
・水 ７３．５部
（ｐＨ７．５）
（マゼンタインク２）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ０．２μｍのミクロフィルタ（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００７４】
・尿素 ７．５部
・アセチレノールＥＨ １部
・ジエチレングリコール ７．５部
・グリセリン ７．５部
・上記例示化合物１６ ３部
・水 ７３．５部
（ｐＨ７．０）
（シアンインク２）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ０．２μｍのミクロフィルタ（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００７５】
・尿素 ７．５部
・アセチレノールＥＨ １部
・ジエチレングリコール ７．５部
・グリセリン ７．５部
・Ｃ．Ｉ．ダイレクトブルー１９９ ３部
・水 ７３．５部
（ｐＨ７．５）
実施例１
以下の組み合わせでインクのセットを作成した。
【００７６】
・上記黒色インク１
・上記イエローインク１
・上記マゼンタインク１
・上記シアンインク１
実施例２
以下の組み合わせでインクのセットを作成した。
【００７７】
・上記黒色インク２
・上記イエロ−インク１
・上記マゼンタインク１
・上記シアンインク１
比較例１
以下の組み合わせでインクのセットを作成した。
【００７８】
・上記ブラックインク１
・上記イエローインク２
・上記マゼンタインク２
・上記シアンインク２
比較例２
以下の組み合わせでインクのセットを作成した。
【００７９】
・上記黒色インク２
・上記イエローインク２
・上記マゼンタインク２
・上記シアンインク２
上記実施例１，２及び比較例１、２の各インクセットを、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置ＢＪＣ−４０００（キャノン株式会社製）に各々搭載して印字を行い、黒色インクの耐水性の評価、及び、ＢＪＣ−４０００のキャップを用いて下記評価を行った。なお、ＢＪＣ−４０００は、黒色インク、イエローインク、マゼンタインクおよびシアンインクの全ての吐出口を１つのキヤップでキヤッピングし、４色のインクの全てを一体吸引し、４色の廃インクを共通の廃インク吸収体に保持する構成を有する。その結果を表１に示す。
（評価方法）
キャップ内における廃インク吸収性
上記キャップを用い、温度３５℃、湿度１０％環境下で、３０分間隔でキャップから５ｃｍの高さからＢｋ→Ｙ→Ｍ→Ｃの順に各０．３ｃｃキャップ内のキャップ内吸収体の同一個所に添加し、各計６０ｃｃまで添加した。
【００８０】
これを以下の評価基準によって評価した。
Ａ：キャップ内吸収体上に残カーボンが見られない。
Ｂ：キャップ内吸収体上にわずかに残カーボンが見られる。
Ｃ：キャップ内吸収体上に残カーボンが見られる。
Ｄ：キャップ内吸収体上に残カーボンが見られ、固まりになっている。
【００８１】
【表１】
次に、実施例２のインクセットの黒色インクを用いて、普通紙であるキャノン製ＰＢ ＰＡＰＥＲに１９０ｍｍ×３ｍｍの黒色の１００％ベタによる線を印字し、印字４５分後に、紙を４５度の角度に傾けて０．７５ｍｌの水道水をピペッターで紙の上部からたらし、黒色の線の上に水が流れるようにした。そのときの黒色の線の様子を目視にて観察して耐水性の評価を行った。その結果、水道水が流れ落ちて行った部分に多少の汚れにじみが認められるものの、実用上問題にならないレベルであった。
【００８２】
実施例３
（ブラックインク３）
以下の成分を用いてブラックインク１と同様にしてブラックインク３を調製した。
以下の組み合わせでインクのセットを作成した。
・上記黒色インク３
・前記イエローインク１
・前記マゼンタインク１
・前記シアンインク１
このインクセットを用いて上記実施例１および２と同様にして廃インク吸収性を評価したところ、Ａに相当する結果が認められた。また、このインクセットを用いて下記の評価を行なった。
▲１▼上記インクセット中の黒色インクで下記の５種類の紙に文字の印字を行ない、そのときの文字のにじみを目視似て観察したところ、５紙ともに文字のにじみが殆どないという優れた結果が得られた。
ａ：キヤノン（株）社製 ＰＰＣ用紙ＮＳＫ
ｂ：キヤノン（株）社製 ＰＰＣ用紙ＮＤＫ
ｃ：ゼロックス（株）社製 ＰＰＣ用紙４０２４
ｄ：フォックスリバー社製ＰＰＣ用紙プロバーボンド
ｅ：ノイジドラ社製キヤノンＰＰＣ用紙
▲２▼上記インクセットのブラックインクを用いて上記５種の紙の３０ｍｍ×３０ｍｍの領域に黒色の１００％ベタの画像を印字し、その時の各々の紙上の画像の印字濃度をマクベス社製印字濃度測定器で測定したところ、５紙の間での画像濃度の差は０．１未満であった。
▲３▼上記インクセットを用いて、上記５種の紙の１辺の長さが１０ｃｍの正方形の領域を５個×５個のマス目に仕切り、各々のマス目に黒色インクとカラーインクを交互に印字し、黒色インク付与部とカラーインク付与部との境界で黒色インクとカラーインクとのブリーディングを目視にて観察したところ、各紙とも境界線は鮮明で、にじみや混色は殆ど認められなかった。
【００８３】
【発明の効果】
以上説明した様に、本発明によれば、耐水性に優れた高品位な黒色印字を行うことができる。また、記録上に必要とされる予備吐出、吸引回復、加圧回復等の回復手段によって発生する廃インクを、装置内を汚さずに確実に回収でき、長期に亘って安定して高い品質の記録を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明のインクセットの一実施態様にかかる記録ユニットの概略斜視図である。
【図２】黒インク及びカラーインクを各々収納したインクカートリッジが１つの記録ヘッドに装着された状態を示す概略平面図である。
【図３】キャップの断面詳細図である。
【図４】インクジェットプリンタの概略斜視図である。
【図５】図４のインクジェットプリンタの概略断面図である。
【図６】図４のインクジェットプリンタの記録ヘッド部の一態様のオリフィス部の拡大図である。
【図７】アニオン性自己分散型カーボンブラック顔料粒子を含む黒色インクの粘度とｐＨとの関係を示す該略図である。
【符号の説明】
５７ ピンチローラ
７１ キャップゴム
７２ キャップカバー
７３ ポンプ吸引チューブ
７４ キャップ内吸収体
１００ 記録ユニット
１０３ 記録ヘッド
４０１ インクカートリッジ
４０３ 記録ヘッド
９０１ 記録ヘッド
９０３ ガイドシャフト
９０５ キャリッジ
９０７ ガイドレール
９０９ シャーシ
９１１ キャリッジモータ
９１３ プーリ
９１５ タイミングベルト
９１７ 記録紙
９１９ 圧板
９２１ ベース
９２３ 弾性体
９２５ ピックアップラバー
９２７ 給送ローラ軸
９２９ 搬送ローラ
９３３ キャップ部材
９３５ キャップホルダー
９３７ 腕部
９３９ シリンダ制御部
９４１ ボンプギア
９４３ カム
９４５ ＬＦギア
９４７ シリンダ吸収体
９４９、９５１、９５３、９５５ 廃インク吸収体
１１０１、１１０２、１１０３、１１０４ 吐出オリフィス
【発明の属する技術分野】
本発明はインクセット、インクジェット記録方法、記録ユニット、インクカートリッジ、インクジェット記録装置および共通化回復系ユニット内の固形物の生成を緩和する方法に関する。更に詳しくは、夫々、黒色顔料インクと他の色相のインク（以下、カラーインクという）とを用い、例えば、インクジェット式プリンタ等のインク記録装置において、耐水性の優れた黒色印字を行い、また、記録上必要とする予備吐出、吸引回復、加圧回復等の回復手段により発生する廃インクを、装置内を汚さずに確実に回収することを可能とするインクセット、インクジェット記録方法、記録ユニット、インクカートリッジ、インクジェット記録装置およびそれの共通化回復系ユニット内の固形物の生成を緩和する方法に関する。
【０００２】
【従来の技術】
従来より、インクジェット方式の記録において、特に普通紙に対して、印字濃度、印字品位、耐水性及び耐光性等の堅牢性に優れた黒色画像を形成し、更に、吐出安定性や分散安定性をも満足させるために、自己分散型のカーボンブラックを用いた黒色インク、また、黒色インクで印字された画像とカラーインクで印字された画像との境界部の滲みを生じることのないインクセット、及びそれを用いたインクジェット記録方法及びインクジェット機器類が報告されている。
【０００３】
例えば、特開平８−３４９８号公報には、カーボンの表面に水溶性基を導入することによって、分散剤を使用することなく安定に分散させることができる自己分散型カーボンブラックが記載されている。また、特開平１０−１８３０４６号公報には、カチオン性基を表面に有する自己分散型カーボンブラックを用いた黒色インクとアニオン性染料を用いたカラーインクとのインクセットが報告されている。
【０００４】
また、インクジェットプリンタ等のこの種のインク記録装置においては、記録ヘッドでの印字に際して、気泡の混入、ごみ、ノズル先端でのインク吐出口メニスカスの後退等により吐出不良を生じ、鮮明な印字が得られなくなることがある。このような事態を未然に防ぐために、ノズルからのインクの吐出を正常な状態に回復させる動作や、ノズルからのインクの吐出特性を予め安定化させるためのインクの予備的な排出動作等が行われている。
【０００５】
このような本来の目的である印刷のためではない、ノズルからインクを正常に吐出させる為の動作をインクジェット記録装置に行なわせる場合には、各インク吐出口領域をキャップでキヤッピングした後、ポンプ等の吸引手段で該キヤップを介してノズル内等に存在するインクを吸引する動作を行わせるのが一般的である。そして吸引したインクは、例えば、吸引回復用のチューブ等を経てインク溜め等に廃インクとして溜ておく。
【０００６】
インク溜めは、インク溜めへの供給口からインクが外部へ漏れないようにするために、廃インク収容カートリッジ内に吸水力の高い部材を収容した構成を採るのが一般的である（以降「廃インク吸収体」）と称する）。ここで廃インク吸収体として用い得る、吸水力の高い部材としては、例えば、吸水紙、フェルト等の高密度繊維構造体、ポリウレタン、ＰＶＡ（ポリビニルアルコール）等による発泡成形材料、あるいは吸水性高分子ポリマーを包含する前記吸収部材等から構成されたものが用いられている。また、記録ヘッドの吐出面をキャッピングするためのキャップ内に収容される部材（以下、キャップ内吸収体と呼ぶ）に関しても同様である。
【０００７】
【発明が解決しようとする課題】
上記したような状況の下で、自己分散型カーボンブラックを含む黒色インクをインクジェットプリンタに装着して種々の評価を行なう過程において、このインクが廃インク吸収体に徐々に吸収されなくなってしまう場合があることを見出した。また、特開平１０−１８３０４６号公報に記載されているような、カチオン性基を表面に有する自己分散型カーボンブラックを用いた黒色インクとアニオン性染料を用いたカラーインクとのインクセットを用い、且つ記録ヘッドの吐出口面をキャッピングするキャップ、キャップ内に連通してインク吸引可能なポンプ部、あるいは、ポンプ部から排出される廃インクを吸収保持する廃インク吸収体、更には廃インク操作を行う経路等を黒色インクとカラーインクとで共用した場合にも、キャップ、ポンプ部、廃インク吸収体等（以下、回復系ユニットと呼ぶ）の内部において凝集物や堆積物等の固形物を生じ、廃インクを装置内を汚さずに確実に回収することができなくなってしまう場合があった。このようなことから、回復系ユニットを黒色インクとカラーインクとで共通化することはインクジェット記録装置を小型化する為には極めて有効な手段の一つであるものの、この構成を採用するためには廃インクを長期に亘り確実に回収可能とする為の技術開発が必要であるとの結論に至った。
【０００８】
そこで、本発明の目的は、インクジェット記録装置の回復系ユニット内で固形物が生成することを防ぎ、廃インクが長期に亘って確実に回収され、高品位な印刷物を安定して形成可能にするインクセットを提供する点にある。また、本発明の他の目的は、高品位なカラー印刷物を安定して形成することのできるインクジェット記録方法を提供する点にある。
【０００９】
また、本発明の更に他の目的は、インクジェット記録装置の回復系ユニット内で固形物が生成することを防ぎ、廃インクが長期に亘って確実に回収され、高品位な記録を長期間安定して行なうことを可能とする記録ユニットおよびインクカートリッジを提供することを目的とする。更にまた、本発明の他の目的は、高品位な印刷物を安定的に形成することのできるインクジェット記録装置を提供することを目的とする。更にまた、本発明の他の目的は、ブリーディングが少なく、且つ廃インク等による汚れの付着も殆ど無い、極めて高品位なカラー画像を安定して形成することのできるインクジェット記録装置を提供する点にある。更にまた、本発明の他の目的は、インクジェット記録装置の回復系ユニット内での凝集物や堆積物の生成を緩和する方法を提供する点にある。
【００１０】
【課題を解決するための手段】
上記の目的に対し、本発明者らは種々検討を重ね、自己分散型カーボンブラック顔料粒子を含む黒色インクを用いた場合における廃インク吸収体内で固形物の生成が該インク中の自己分散型カーボンブラックの分散破壊に起因すると考えられる、との結論に至った。即ち、例えば、自己分散型カーボンブラックの表面には親水性基が結合しているが、該親水性基の対イオン（例えば、アンモニウムイオン等）が、回復系ユニット内で該インクが保存されている過程において徐々に揮発し、その結果、自己分散型カーボンブラックの水系媒体への分散性が低下し、固形物がより生成しやすい状態に変化し、徐々に廃インク吸収体を初めとする回復系ユニットに固形物として付着する。
【００１１】
一方、本発明者らは、アニオン性自己分散型カーボンブラック顔料粒子を含む黒色インクの粘度とｐＨとの関係を検討したところ、図７の（ａ）に示したような関係を示すことを見出した。即ち、ｐＨが低くなるに連れて当該黒色インクの粘度が急激に上昇し、ｐＨが高くなるにつれて粘度が低下する。
【００１２】
従って、回復系内で該黒色インクのｐＨが何らかの理由で低くなり、その粘度が急激に高まると、インクの溶媒のみが廃インク吸収体に吸収されてしまい、自己分散型カーボンブラックが吸収体表面に残留し、それが徐々に堆積していき、その結果、廃インクの吸収が妨げられるようになると推測される。そこで、本発明者らは、回復系内での該黒色インクの分散破壊を防止することが回復系への固形物の付着の防止に有効であると推測し、該回復系内における該黒色インクのｐＨが固形物を生成することのないようなｐＨに調整したところ、生成物の付着が極めて有効に抑えられるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づくものである。
【００１３】
即ち、上記の目的を達成することのできる本発明のインクセットの一実施態様は、少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを個別に吐出させるインクジェットヘッドと、該ヘッドの該カラーインクの吐出口および該黒色インクの吐出口の回復手段が共通であるインクジェット記録装置の為のインクセットであって、
前記黒色インクが水性媒体中に、少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラック粒子を含有し、
かつ、前記カラーインクのｐＨが該黒色顔料インクのｐＨよりも高いことを特徴とするものである。
【００１４】
また、上記の目的を達成することのできる本発明のインクジェット記録方法の一実施態様は、例えば、少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを備え、該カラーインクの吐出口と該黒色インクの吐出口とで共通の回復手段を有するインクジェット記録装置を用いて、該黒色インクおよび該カラーインクの少なくとも一方にエネルギーを与えて、該インクを吐出させて被記録材に付与する工程を有し、該黒色インクとして水性媒体中に少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラック粒子を含有し、所定のｐＨを有する黒色インクを用い、該カラーインクとして該黒色インクよりもｐＨの高いカラーインクを用いることを特徴とするものである。
【００１５】
また、上記の目的を達成することのできる本発明の記録ユニットの一実施態様は、例えば、少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを個別に吐出させるインクジェットヘッドの該黒色インクの吐出口の回復手段及び該カラーインクの吐出口の回復手段が共通であるインクジェット記録装置に用いられる記録ユニットであって、これらの２色以上のインクを各々独立して収容している複数のインク収容部と、各々のインク収容部から該インクを吐出させるためのヘッド部とを備え、該黒色インクが水性媒体中に少なく１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラック粒子を含有するとともに所定のｐＨを有し、該カラーインクが該黒色インクよりも高いｐＨを有することを特徴とするものである。
【００１６】
また、上記の目的を達成することのできる本発明のインクカートリッジの一実施態様は、例えば、少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを個別に吐出させるインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドの該カラーインクの吐出口の回復手段と該黒色インクの吐出口の回復手段とが共通であるインクジェット記録装置に用いられるインクジェット記録装置に用いられるインクカートリッジであって、該インクカートリッジは少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを個別に収納している複数のインク収容部を有し、該黒色インクが水性媒体中に少なく１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラック粒子を含有するとともに所定のｐＨを有し、該カラーインクが該黒色インクよりも高いｐＨを有することを特徴とするものである。
【００１７】
また、上記の目的を達成することのできるインクジェット記録装置の一実施態様は、少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを個別に収容した複数のインク収容部、各々のインク収容部から供給されるインクを吐出させるインクジェットヘッド、該インクジェットヘッドが有する黒色インクの吐出口およびカラーインクの吐出口を共にキヤッピングするキヤップ、該キャップを介して該吐出口のインクを吸引するポンプおよび吸引したインクを保持するインク吸収体を備えたインクジェット記録装置であって、該黒色インクは水性媒体中に少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラックを含み、また、該カラーインクは該黒色インクよりも高いｐＨを有することを特徴とする。
【００１８】
また、上記の目的を達成することのできるインクジェット記録装置の他の実施態様は少なくとも２つの異なるインクを各々収容している複数のインク収容部と各々のインク収容部から該インクを吐出させるためのヘッド部とを備えた記録ユニット、該ヘッド部にある少なくとも２つの異なるインクの各々の吐出口面を共にキヤッピングするキヤップ、該キャップを介して該ヘッド部のインクを吸引するポンプおよび該ポンプによって吸引された少なくとも２つのインクを共に保持するインク吸収体を有するインクジェット記録装置において、該少なくとも２つの異なるインクが、水性媒体中に少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラックを含む黒色インクおよび該黒色インクよりも高いｐＨを有するカラーインクとを含むことを特徴とする。
【００１９】
また、上記の目的を達成することのできるインクジェット記録装置の更に他の実施態様は、少なくとも２つの異なるインクを各々収容している複数のインクカートリッジ、該インクカートリッジが着脱可能に構成されてなり、各々のインクカートリッジのインク収容部の該インクを吐出させるヘッド部、および該ヘッド部にある少なくとも２つの異なるインクの各々の吐出口面を共にキヤッピングするキヤップ、該キャップを介して該ヘッド部のインクを吸引するポンプおよび該ポンプによって吸引された少なくとも２つのインクを共に保持するインク吸収体を有するインクジェット記録装置において、該少なくとも２つの異なるインクが、水性媒体中に少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラックを含む黒色インクおよび該黒色インクよりも高いｐＨを有するカラーインクとを含むことを特徴とする。
【００２０】
また、上記の目的を達成することのできる共通化回復ユニット内の固形物の生成を緩和する方法は、少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型カーボンブラックを含む黒色インクとカラーインクとを備え、該黒色インクの吐出口とカラーインクの吐出口との回復系ユニットを共通化したインクジェット記録装置の共通化回復系ユニット内での固形物の生成を緩和する方法であって、該カラーインクとして、そのｐＨが該黒色インクのｐＨよりも高いカラーインクを用いることを特徴とする。
【００２１】
上記した実施態様によって、複数のインクに関して回復系を共通化した場合にも、回復系内への固形物の生成を抑制することができる。その結果、耐水性の優れた黒色のプリントを行うことができる。また、インクジェット記録装置を用いた印刷を行なう際に必要なインクの予備吐出、吸引回復、更には加圧回復等の回復手段によって発生する廃インクを、長期間安定して装置内を汚すことなく、確実に回収できるという効果を奏するものである。更に、黒色インクとカラーインクの回復系を一体化することによってインクジェット記録装置の小型化を図ることができるという効果も奏するものである。
【００２２】
本発明によれば、廃インク回収部における目詰りなどの発生を防止して、良好なインクジェット記録を行うことが可能となる。なお、本発明において、カラーインクのｐＨが黒色顔料インクのｐＨよりも高いことが有利である理由は以下のことによると考えられる。すなわち、記録装置自体の大きさが大きくなってしまう、記録装置の製造コストが高くなってしまう等の弊害を生じることなくコンパクトに装置設計を行うためには、上記したような回復系ユニットを１つに限定するのが好ましい。
【００２３】
【発明の実施の形態】
次に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をより詳細に説明する。
【００２４】
本発明にかかるブラックインクである水性の黒色顔料インクは、少なくとも特定のカーボンブラックを含んでおり、顔料を分散させるための分散剤を含まない態様の水系インクである。
【００２５】
以下、本発明にかかるブラック顔料インク及びカラーインクを構成する材料について夫々説明する。
【００２６】
本発明にかかるブラックインクである水性顔料インクにおいては、まず、色材として、少なくとも一種の親水性基がカーボンブラック表面に直接、もしくはより好ましくは、原子団を介して結合している自己分散型カーボンブラック粒子を用いる。この結果、従来のインクのように、カーボンブラックを分散させるための分散剤が不要となる。本発明で使用するアニオン性の自己分散型カーボンブラックとしては、表面に結合されている親水性基が、例えば、−ＣＯＯＭ、−ＳＯ３Ｍ、−ＰＯ３ＨＭ（ただし、式中のＭはそれぞれ独立して水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウム表す。）である場合が挙げられる。本発明においては、これらの中で、特に−ＣＯＯＭ、−ＳＯ３Ｍがカーボンブラック表面に結合してアニオン性に帯電しているものを用いることが好ましく、より好ましくは、−ＣＯＯＭが結合しているものである。また、上記親水性基中の「Ｍ」は、例えば、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムから選ばれるものである。なお、アルカリ金属としては、例えばＬｉ、Ｎａ、Ｋ、Ｒｂ、Ｃｓ等が挙げられ、また、有機アンモニウムの具体例としては、例えばメチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メタノールアンモニウム、ジメタノールアンモニウム、トリメタノールアンモニウム、エタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム及びトリエタノールアンモニウム等が挙げられる。そして、「Ｍ」としては特にアンモニウムであることが好ましい。
【００２７】
対イオンをアンモニウムとすることで、黒色インクの記録部での耐水性の発現時間を短縮可能である。このように、自己分散型カーボンブラック粒子を色材とした黒色顔料インクの耐水性発現に要する時間を短縮できる理由としては、印字物の記録部においてカーボンブラック粒子表面からアンモニアが揮発し、遊離酸となるためであると考えられる。
【００２８】
アニオン性に帯電している自己分散型カーボンブラック粒子の製造は、例えば、カーボンブラックを次亜塩素酸ソーダで酸化処理して得られた−ＣＯＯＮａ基が結合された自己分散型カーボンブラックのＮａをイオン交換法によりアンモニウムに置換する方法等により、カーボンブラック粒子表面に−ＣＯＯＮＨ４基を結合させることによって行うことができる。勿論、本発明はこれに限定されるわけではなく、従来公知のいかなる製法であっても構わない。
【００２９】
本発明においては、親水性基が原子団を介してカーボンブラック粒子を構成している重合体鎖に結合しているものが好ましい。原子団としては炭素原子数１〜１２のアルキレン基、置換基を有してもよいフェニレン基または置換基を有してもよいナフチレン基が挙げられる。ここでフェニレン基やナフチレン基の置換基として、例えば炭素数１〜６の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基等が挙げられる。そして、原子団を介してカーボンブラックの表面に結合した親水性基の具体例としては、上記に挙げたもののほか、例えば、−Ｃ２Ｈ４ＣＯＯＭ、−ＰｈＳＯ３Ｍ、−ＰｈＣＯＯＭ等（ただし、Ｐｈはフェニル基を表す）が挙げられるが、勿論、本発明はこれらに限定されるものではない。
【００３０】
本発明にかかる水性の黒色インクに用いる自己分散型カーボンブラック粒子は、カーボンブラック粒子の表面の親水性基によってアニオン性に帯電しており、そのイオンの反発によって水分散性を有し、また、その親水性基により親水性も向上している。
【００３１】
また、本発明において、上記した自己分散型カーボンブラックは、１種類に限定されるものではなく、２種以上を混合して使用して色調を調製してもよい。また、本発明にかかる顔料インク中の自己分散型カーボンブラックの添加量としては、インク全重量に対して、好ましくは０．１〜１５重量％、より好ましくは１〜１０重量％の範囲とする。更に、自己分散型カーボンブラックに加えて染料を使用してインクの色調を調製してもよい。
【００３２】
また、該黒色インクには塩を添加してもよい。自己分散型カーボンブラックを含むインク中に上記したような塩を共存させることによって、記録媒体の種類によって画像品質が大きく変化することのない、安定的に高品位の画像を形成することのできるインクを得ることができる。この実施態様にかかるインクが上記した様な特性を発揮する詳細なメカニズムは現時点においては明らかでない。しかし、インクの記録媒体への浸透性を表わす尺度として知られているブリストウ法によって求められるＫａ値に関して、本態様のインクは、塩を添加しない以外は同一の組成を有するインクと比較して大きなＫａ値を示すとの知見を本発明者らは得ている。Ｋａ値の増加は、インクの記録媒体への浸透性の向上したことを示すものであり、これまでの当業者の常識としてインクの浸透性の向上は、画像濃度の低下を意味するものであった。即ち、インクの浸透と共に色材も記録媒体内部に浸透してしまう結果として画像濃度が低下してしまうというのがこれまでの当業者の認識である。そしてこのような本態様のインクに関する種々の知見から総合的に判断すると、本態様のインク中の塩は、紙面上に付与した後のインク中の溶剤と固形分との分離（固液分離）を極めて速やかに引き起こすという特異的な作用を生じさせていると考えられる。つまりインクが記録媒体に付与されたときの、固液分離が遅ければ、Ｋａの値の大きいインク、あるいはインクの浸透性の大きな紙上ではインクは色材とともに等方的に紙中に拡散し、その結果文字のシャープネス（文字品位）が損なわれると同時に紙の奥まで色材が浸透するために画像濃度も低下することが予測される。しかし、本態様のインクはその様な現象が観察されないことから、記録媒体に付与されたときの固液分離が速やかに起こり、その結果、インクのＫａ値の増加にも関わらず、高品位な画像を与えるものと推察される。また、浸透性が比較的高い紙であっても本態様のインクの場合には、文字品位の低下や画像濃度の低下といった現象は起こりづらい理由もこれと同じと考えられる。該塩の含有量は、インク全重量に対して０．０５〜１０重量（ｗｔ）％、特には０．１〜５重量％の範囲とする事が好ましい。
【００３３】
塩としては、（Ｍ１）２ＳＯ４、ＣＨ３ ＯＯ（Ｍ１）、Ｐｈ−ＣＯＯ（Ｍ１）、（Ｍ１）ＮＯ３、（Ｍ１）Ｃｌ、（Ｍ１）Ｂｒ、（Ｍ１）Ｉ、（Ｍ１）２ＳＯ３および（Ｍ１）２ＣＯ３から選ばれる少なくとも一つを用いることが好ましい。ここでＭ１はアルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表し、Ｐｈはフェニル基を表す。そして、アルカリ金属の具体例としては、例えば、Ｌｉ、Ｎａ、Ｋ、Ｒｂ、Ｃｓ等が挙げられ、また、有機アンモニウムの具体例としては、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、メタノールアンモニウム、ジメタノールアンモニウム、トリメタノールアンモニウム、エタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウムおよびトリエタノールアンモニウム等が挙げられる。
【００３４】
そしてこのように塩を添加した黒色インクを用いる態様においては、カラーインクのｐＨを黒色インクよりも高くするとともに、黒色インクとカラーインクとの回復系ユニットを共通化することの効果をより有効に活用することができる。即ち、塩を添加した黒色インクが回復系ユニット内に保持されている状態でｐＨが酸性側にシフトすると、塩を含まない黒色インクよりも粘度がより高くなるという傾向がある（図７の（ｂ）参照）。つまり回復系ユニットに固形物が生成しやすいということができる。しかし、本発明によれば、回復系ユニット内のｐＨの低下を有効に抑えることができる。その結果、画像品位がより一層優れたインクジェット記録を行なうことができる。 また、この実施態様にかかるインクの他の具体例として、−ＣＯＯＭ、−ＳＯ３Ｍ２、および−ＰＯ３ＨＭから選ばれる少なくとも１つをカーボンブラック表面に直接、若しくは他の原子団を介して結合させた自己分散型カーボンブラックと、Ｍ１がＭと同一である塩を含有させたインクが挙げられる。このインクはその安定性がより一層向上するために、特に好適な態様の一つである。例えば、Ｍがアンモニウム（ＮＨ４）であれば、塩としてアンモニウム塩、例えば、安息香酸アンモニウム等を添加すると、このインクを用いて得られるインクジェット記録画像の耐水性等をより一層改善することができる。更に、このようなインクセットを用いてカラー画像を形成した場合、カーボンブラックを含むインクによって形成された画像と他の色材を含むインクによって形成された画像との境界領域におけるブリーディングを有効に抑えることができる。本実施態様によって上記した様な効果が得られる理由は明らかではないが、記録媒体表面における固液分離の早さが関与しているものと考えられる。
【００３５】
本発明のインクセットを構成するカラーインクに用いられる色材としては、通常の染料や顔料が用いられるが、発色性の点で染料を使用することが好ましい。染料としては、例えば、酸性染料、直接染料等、その殆ど全てが使用できる。該色材の含有量について、特に制限はないが、インク全重量に対して０．１〜２０重量％の範囲が好ましい。
【００３６】
本発明のインクセットを構成するカラーインクの成分として用いられるアニオン性染料としては、既存のものでも、また、新規に合成したものでも適度な色調と濃度とを有するものであれば、大抵のものを使用することができる。また、これらのうちいずれかを混合して用いることもできる。アニオン性染料の具体的なものとしては、例えば、下記のようなものが挙げられる。
【００３７】
Ｃ．Ｉ．ダイレクトイエロー ８，１１，１２，２７，２８，３３，３９，４４，５０，５８，８５，８６，８７，８８，８９，９８，１００，１１０，１３２，１４２
Ｃ．Ｉ．ダイレクトレッド ２，４，９，１１，２０，２３，２４，３１，３９，４６，６２，７５，７９，８０，８３，８９，９５，１９７，２０１，２１８，２２０，２２４，２２５，２２６，２２７，２２８，２３９，
Ｃ．Ｉ．ダイレクトブルー １，１５，２２，２５，４１，７６，７７，８０，８６，９０，９８，１０６，１０８，１２０，１５８，１６３，１６８，１９９，２２６，
Ｃ．Ｉ．ダイレクトブラック １７，１９，２２，３１，３２，５１，６２，７１，７４，１１２，１１３，１５４，１６８，１９５，
Ｃ．Ｉ．アシッドイエロー１，３，７，１１，１７，２３，２５，２９，３６，３８，４０，４２，４４，７６，９８，９９，
Ｃ．Ｉ．アシッドレッド６，８，９，１３，１４，１８，２６，２７，３２，３５，４２，５１，５２，８０，８３，８７，８９，９２，１０６，１１４，１１５，１３３，１３４，１４５，１５８，１９８，２４９，２６５，２８９，
Ｃ．Ｉ．アシッドブルー１，７，９，１５，２２，２３，２５，２９，４０，４３，５９，６２，７４，７８，８０，９０，１００，１０２，１０４，１１７，１２７，１３８，１５８，１６１，
Ｃ．Ｉ．アシッドブラック２，４８，５１，５２，１１０，１１５，１５６，
Ｃ．Ｉ．リィアクティブイエロー ２，３，１７，２５，３７，４２
Ｃ．Ｉ．リィアクティブレッド ７，１２，１５，１７，２０，２３，２４，３１，４２，４５，４６，５９，
Ｃ．Ｉ．リィアクティブブルー ４，５，７，１３，１４，１５，１８，１９，２１，２６，２７，２９，３２，３８，４０，４４，１００，
Ｃ．Ｉ．フードイエロー ３，
Ｃ．Ｉ．フードレッド ８７，９２，９４，
Ｃ．Ｉ．フードブラック １，２
また、下記に挙げる構造式を有する染料の使用も好ましい。
【００３８】
【化１】
【化２】
【化３】
【化４】
【化５】
【化６】
【化７】
【化８】
【化９】
【化１０】
【化１１】
【００４９】
本発明にかかるカラーインクに含まれる水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【００５０】
該水酸化物の含有量としては、特に制限はないがインク全重量に対して、０．０１〜１０％の範囲が好ましい。より好ましくは０．０１〜５．０％の範囲である。
【００５１】
本発明にかかるカラーインクに含まれるアルカリ金属塩としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸ベリリウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、硝酸リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ベリリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、リン酸リチウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸ベリリウム、リン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ベリリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、シュウ酸リチウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸ベリリウム、シュウ酸マグネシウム、シュウ酸カルシウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【００５２】
該アルカリ金属塩の含有量としては、特に制限はないがインク全重量に対して、０．０１〜１０％の範囲が好ましい。より好ましくは、０．０１〜５．０％の範囲である。
【００５３】
本発明にかかる黒色インクである水性顔料インク及びカラーインクに含まれる水性媒体は、水単独または水と水溶性有機溶剤との混合溶媒からなるが、水溶性有機溶媒としては、インクの乾燥防止効果を有するものが特に好ましく、また、水は、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、脱イオン水を使用することが望ましい。
【００５４】
本発明で使用する水溶性有機溶剤としては、具体的には、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、ｎ−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ｎ−ブチルアルコール、ｓｅｃ−ブチルアルコール、ｔｅｒｔ−ブチルアルコール等の炭素数１〜４のアルキルアルコール類；ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類；アセトン、ジアセトンアルコール等のケトンまたはケトアルコール類；テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類；ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類；エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、１，２，６−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレン基が２〜６個の炭素原子を含むアルキレングリコール類；ポリエチレングリコールモノメチルエーテルセテート等の低級アルキルエーテルアセテート；グリセリン、エチレングリコールモノメチル（またはエチル）エーテル、ジエチレングリコールメチル（またはエチル）エーテル、トリエチレングリコールモノメチル（またはエチル）エーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテル類；トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール；Ｎ−メチル−２−ピロリドン、２−ピロリドン、１，３ジメチル−２−イミダゾリジノン等が挙げられる。上記のごとき水溶性有機溶剤は、単独でもあるいは混合物としても使用することができる。本発明にかかる黒色インクである水性顔料インク及びカラーインク中に含有される上記したような水溶性有機溶剤の含有量は特に限定されないが、インク全重量に対して、好ましくは３〜５０重量％の範囲である。また、インクに含有される水の含有量は、インク全重量に対して、好ましくは５０〜９５重量％の範囲である。
【００５５】
また、本発明にかかる黒色インクである水性顔料インク及びカラーインクは、上記の成分のほかに必要に応じて所望の物性値を持つインクとするために、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、防黴剤等を添加することができ、更に、市販の水溶性染料等を添加することもできる。
【００５６】
以上のように本発明のインクセットは、インクジェット記録で用いられる際に特に効果的である。インクジェット記録方法としては、インクに力学的エネルギーを作用させ、液滴を吐出する記録方法、及びインクに熱エネルギーを加えてインクの発泡により液滴を吐出する記録方法があり、それらの記録方法に本発明のインクセットは特に好適である。
【００５７】
（インクジェット記録装置）
図４及び図５は、本発明にかかるインクジェット記録装置の一態様の概略説明図である。このインクジェット記録装置において、インクジェット記録ヘッド９０１は、ガイドシャフト９０３とガイドレール９０７に摺動自在なキャリッジ９０５に搭載され、該キャリッジ９０５の移動はシャーシ９０９に保持されたキャリッジモータ９１１によりプーリー９１３に巻回されたタイミングベルト９１５の一部をキャリッジ９０５に固定させることで（不図示）行われ、前記キャリッジモータ９１１の回転方向を変えることで、往復駆動される。なお、ガイドシャフト９０３及びガイドレール９０７はシャーシ９０９に保持されている。記録ヘッド９０１としては、例えば、図１の１００に示した様に各色のインクを収納してなるインク収容部（１０１Ｂｋ、１０１Ｃ、１０１Ｍ、１０１Ｙ）が記録ヘッド１０３として一体化され記録ユニットを構成している形態や、図２に示した様に、各色のインクを収納してなるインクカートリッジ（４０１Ｂｋ、４０１Ｃ）が記録ヘッド部４０３に対して着脱可能に構成されている形態などを挙げることができる。そしてこの様な記録ヘッドは、図６に示した様にオリフィスが列状に配置され、各色のインクを各々のオリフィス（１１０１〜１１０４）から個別に吐出させることがきる様にインク流路を分けて構成されており、制御回路からの信号に基づいて列状に配置された複数個の吐出口から各々のインクを記録媒体であるシート状の記録紙９１７に向けて吐出させるものである。
【００５８】
記録紙９１７は圧板９１９の上面にセットされ、圧板９１９の右端部に一体的に形成された解除レバー９１９Ａの左側壁に記録紙９１７の右端を合わせて積載される。ここで図５に示すように、セットされた記録紙９１７の先端はベース９２１に下部を固定された弾性体９２３の下方に突き当って保持される。従って、給紙スタック部がベース９２１及び下部をベースに固定された弾性体９２３によって形成されていることになる。ここで、不図示のコントローラの給送命令により不図示の紙送りモータが回転すると、図示しないギア列により回転が伝達されピックアップゴム９２５が矢印Ａ方向に回転してカム部が外れ、圧板バネ（不図示）により圧板９１９が引き上げられて圧板９１９に積載された記録紙９１７が給送ローラ軸９２７に設けられたピックアップゴム９２５に圧接される。なお、給送ローラ軸９２７に摩擦係数の大きいピックアップゴム９２５がその外径が給送ローラ軸９２７の最大外径より大きくなるように嵌着されており、圧板９１９上のピックアップゴム９２５に対向する位置には記録紙９１７のスリップを防ぐ摩擦部材である分離パッドが固定されている。従って、更に、給送ローラ軸９２７が回転するとピックアップゴム９２５の摩擦力により前方に押し出された記録紙９１７はベース９２１に下部を固定された弾性体９２３を撓ませこの弾性体９２３の抵抗力の作用により、最上位の記録紙９１７が一枚ずつ分離されて、送り出されることになる。従って、この弾性体９２３が分離手段となり、ベース９２１に保持されることになる。更に、分離給送された記録紙９１７はシャーシ９０９に両端部が支持された搬送ローラ９２９及びベース９２１に設けられたピンチローラ５７に挟持されながらキャリッジ９０５下方、すなわちベース９２１の上方に搬送される。ここは一般的にはプラテン部と呼ばれ、記録紙をガイドするリブや、記録紙が撓んだときに下側から支持するリブ等が設けられる。なお、記録紙９１７はキャリッジ９０５の下方に搬送される前に逆回転している搬送ローラ９２９及びピンチローラ５７に突き当って先端を整列させた後、搬送ローラ９２９を正転させてキャリッジ９０５の下方まで搬送される。この状態で、キャリッジモータ９１１を駆動させることでキャリッジ９０５が記録紙９１７の搬送方向と直交する方向に走査するとともに記録命令によりキャリッジ９０５上の記録ヘッド９０１からインクを吐出することで記録紙９１７に印字が実行される。
【００５９】
（キャップ機構／ポンプ機構）
記録ヘッド９０１の全面をキャップするキャップ部材９３３は、例えば、記録ヘッド９０１を密閉し得る弾性材料、例えば、塩素化ブチルゴム等の弾性を有する適宜な材料で形成される。前記キャップ部材９３３はキャップホルダー９３５に一体的に保持されている。そして前記キャップホルダー９３５はシリンダ（不図示）から一体的に伸びた腕部９３７に回転自在に保持される。シリンダは内部に不図示のピストンを有しておりピストン軸を駆動するとで、シリンダ内に負圧を発生することが可能となっている。また、キャップ９３３にはキャップ９３３と一体的に形成された柔軟性を有するジョイント部を有しており、このジョイント部をシリンダに設けたジョイント部に締め代をもって圧入することで、シリンダとキャップ９３３はシールされた状態で接合される。次に、記録ヘッド９０１に対するキャップ９３３の圧接、解除方法について説明する。前述のようにキャップホルダ９３５に一体的に保持されたキャップ９３３はシリンダと密閉をもって結合されており、更に、キャップホルダー９３５はシリンダに対してシリンダ腕部９３７に回転自在に保持されている。また、シリンダはシリンダ制御部９３９が一体的に形成されており、シリンダ制御部９３９の先端はベース９２１に回転自在に保持されたポンプカムギア９４１のカム部９４３に当接している。
【００６０】
従って、シリンダの回転はシリンダ制御部９３９を介してポンプカムギア９４１のカム部に９４３によって制御されることになる。すなわち、ポンプカムギア９４１のカム部９４３に沿ってシリンダ制御部９３９が上下動することによってシリンダを介してキャップ９３９が記録ヘッド９０１に対してキャッピング及びキャッピング解除が可能となる。なお、ベース９２１により保持されているポンプカムギア９４１及び駆動伝達部はベース９２１の記録紙搬送経路を避けた右端部に設けられ、ポンプカムギア９４１は搬送ローラ９２９に圧入軸着されたＬＦギア９４５と選択的に接続可能になっており、付図示の紙送りモータの駆動を不図示のギア列を介してＬＦギア９４５に伝え、キャリッジ９０５の動きでクラッチ動作（不図示）を行うことで、紙送りローラの駆動をポンプカムギア９４１に伝えることが可能となる。以上説明したようにポンプ機構部においては、ベース９２１によって保持され、かつベース９２１とキャップホルダ９３５間にキャップバネを介在させることでキャップ９３３を記録ヘッド９０１に圧接することが可能となる。従って、非記録時に記録ヘッド９０１をキャッピングし、ノズルの乾燥を防ぐとともに、ノズル内に発生した泡やノズル部に付着したゴミによる吐出不良時にキャッピング動作中にポンプ部を作動させ、記録ヘッド９０１のノズル部よりインクを吸引することで、吐出を正常化させることができる。
【００６１】
図３は、キャップ９３３の断面詳細図である。図において７１はキャップゴムであり、図における上端部が複数種のインクジェットヘッドの吐出口面に接合する。同図において吸引口部がキャップゴム７１の中央部に位置していることで、キャップゴム７１内に吸引されたインクの滞留がなく、中央部または両端部のノズルから均等にインクを吸引することができる。７２はキャップゴム７１を保持するキャップカバー、７３はキャップゴム７１と接続するポンプ吸引チューブであり、不図示の吸引ポンプを連通する。７４は、キャップ内吸収部材である。
【００６２】
（廃インク吸収体）
次に、廃インク吸収体について図５を用いて説明する。前述のポンプ機構部により、キャップ９３３を介して記録ヘッド９０１より吸引された廃インクは、シリンダ内に入り、不図示のピストンの動きによりシリンダ端部よりインクが排出される。シリンダ端部はベース９２１内に差し込まれており、ベース９２１により回転自在に保持されている。シリンダの他端は前述したようにシリンダキャップギア（不図示）を介してベース９２１に回転自在に保持されているため、ポンプ機構部全体がベース９２１に回転自在に保持されているとになる。廃インクが排出されるシリンダ端部にはシリンダ吸収体９４７が差し込まれている。シリンダ吸収体９４７にはシリンダ内にある廃インクを効率良く外部に排出する性能が要求されるため、インクの伝達性の良い材料が選ばれ、例えば、発泡スポンジにより形成される。シリンダ吸収体９４７はベース９２１内部の廃インク吸収体９４９、９５１、９５３に挟まれており、圧接状態にある。従って、シリンダ内の廃インクはシリンダ吸収体９４７から廃インク吸収体９４９、９５１、９５５へと伝播される。ここで廃インク吸収体９４９、９５１、９５３及び９５５は図５に示すようにベース内部に保持されるが、ベース９２１はピンチローラ部及び排紙ローラ部を有しており、その断面は一様でない。従って、ベース９２１内に効率良く配置し廃インク容量を多く確保するために複数の廃インク吸収体をベース９２１内に収められることが好ましい。
【００６３】
廃インク吸収体９４９、９５１、９５３及び９５５には、インク保持能力の高い材料を用いることが好ましい。インク吸収体の材料としては、例えば、紙の積層シート、高分子吸収体を含んだ吸収体、更にはフェルト等の高密度繊維構造体ポリウレタン、セルローズ、ＰＶＡ、ＥＶＡ等による発泡形成材料、あるいはアクリル酸グラフトでんぷん、アクリル塩グラフトでんぷん、ビニルアルコールアクリル酸ブロックコポリマー、ビニルアルコールアクリル塩ブロックコポリマー、架橋ポリアクリル酸、架橋ポリアクリル塩、変成ＰＶＡ、ポリスチレンスルホン酸、セルロースエーテル、カルボキシメチルセルロース等の吸水性高分子ポリマーを含有する前述の吸水性材料等が挙げられる。また、これらの材料からなる廃インク吸収体は、例えば、抜き型によって作られる。
【００６４】
本実施態様において、廃インク吸収体は４枚構成（９４９、９５１、９５３及び９５５）とし、また、廃インク吸収体９４９、９５１及び９５３に挟まれる形でシリンダ吸収体９４７が圧接され配置される構成としたが、廃インク吸収体の構成や配置はこれに限定されない。
【００６５】
【実施例】
以下、実施例及び比較例を用いて更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、下記実施例により限定されるものではない。なお、以下の記載で部、％とあるものは特に断わらない限り重量基準である。
【００６６】
製造例１
（顔料分散体１）
５．３％の水に５ｇの濃塩酸を溶かした溶液に５℃においてアントラニル酸１．５８ｇを加えた。これに、アイスバスで攪拌することにより常に１０℃以下に保たれた状態で、５℃の８．７ｇの水に１．７８ｇの亜硝酸ナトリウムを加えた溶液を加えた。これに更に、１５分攪拌後、表面積が３２０ｍ２／ｇでＤＢＰ吸油量が１２０ｍｌ／１００ｇのカーボンブラック２０ｇを混合した状態のまま加えた。その後、更に１５分攪拌した。得られたスラリーを東洋濾紙Ｎｏ．２（アドバンティス社製）で濾過し、顔料粒子を十分に水洗し、１１０℃のオーブンで乾燥させ、更に、この顔料に水を足して顔料濃度１０重量％の顔料水溶液を作製した。以上の方法によりカーボンブラックの表面に、−Ｐｈ−ＣＯＯＮａ基を導入した。
（顔料分散体２）
上記顔料分散体１中のカーボンブラックの表面の−Ｐｈ−ＣＯＯＮａ基の末端を、イオン交換法により変換して−ＣＯＯＮＨ４にした形で、顔料濃度１０重量％の顔料水溶液を作製した。
【００６７】
製造例２
（黒色インク１）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ３．０μｍのミクロフィルター（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００６８】
・上記の顔料分散体１ ３０部
・グリセリン ７．５部
・エチレングリコール ７．５部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
（商品名：アセチレノールＥＨ） ０．２部
・水 ５４．８部
（ｐＨ７．５）
（イエローインク１）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ０．２μｍのミクロフィルタ（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００６９】
・尿素 ７．５部
・アセチレノールＥＨ １部
・ジエチレングリコール ７．５部
・グリセリン ７．５部
・１０％水酸化ナトリウム水溶液 ０．０４部
・Ｃ．Ｉ．ダイレクトイエロー８６ ３部
・水 ７３．４６部
（ｐＨ１０．１）
（マゼンタインク１）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ０．２μｍのミクロフィルタ（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００７０】
・尿素 ７．５部
・アセチレノールＥＨ １部
・ジエチレングリコール ７．５部
・グリセリン ７．５部
・１０％水酸化ナトリウム水溶液 ２部
・上記例示化合物１６ ３部
・水 ７１．５部
（ｐＨ９．７）
（シアンインク１）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ０．２μｍのミクロフィルタ（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００７１】
・尿素 ７．５部
・アセチレノールＥＨ １部
・ジエチレングリコール ７．５部
・グリセリン ７．５部
・１０％水酸化ナトリウム水溶液 ０．０４部
・Ｃ．Ｉ．ダイレクトブルー１９９ ３部
・水 ７３．４６部
（ｐＨ１０．２）
（黒色インク２）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ３．０μｍのミクロフィルタ（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００７２】
・上記の顔料分散体２ ３０部
・グリセリン ７．５部
・エチレングリコール ７．５部
・アセチレングリコールエチレンオキサイド付加物
（商品名：アセチレノーリＥＨ） ０．２部
・水 ５４．８部
（ｐＨ７．５）
（イエローインク２）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ０．２μｍのミクロフィルタ（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００７３】
・尿素 ７．５部
・アセチレノールＥＨ １部
・ジエチレングリコール ７．５部
・グリセリン ７．５部
・Ｃ．Ｉ．ダイレクトイエロー８６ ３部
・水 ７３．５部
（ｐＨ７．５）
（マゼンタインク２）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ０．２μｍのミクロフィルタ（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００７４】
・尿素 ７．５部
・アセチレノールＥＨ １部
・ジエチレングリコール ７．５部
・グリセリン ７．５部
・上記例示化合物１６ ３部
・水 ７３．５部
（ｐＨ７．０）
（シアンインク２）
以下の成分を混合し、十分攪拌して溶解後、ポアサイズ０．２μｍのミクロフィルタ（富士フィルム製）にて加圧濾過し、インクを調製した。
【００７５】
・尿素 ７．５部
・アセチレノールＥＨ １部
・ジエチレングリコール ７．５部
・グリセリン ７．５部
・Ｃ．Ｉ．ダイレクトブルー１９９ ３部
・水 ７３．５部
（ｐＨ７．５）
実施例１
以下の組み合わせでインクのセットを作成した。
【００７６】
・上記黒色インク１
・上記イエローインク１
・上記マゼンタインク１
・上記シアンインク１
実施例２
以下の組み合わせでインクのセットを作成した。
【００７７】
・上記黒色インク２
・上記イエロ−インク１
・上記マゼンタインク１
・上記シアンインク１
比較例１
以下の組み合わせでインクのセットを作成した。
【００７８】
・上記ブラックインク１
・上記イエローインク２
・上記マゼンタインク２
・上記シアンインク２
比較例２
以下の組み合わせでインクのセットを作成した。
【００７９】
・上記黒色インク２
・上記イエローインク２
・上記マゼンタインク２
・上記シアンインク２
上記実施例１，２及び比較例１、２の各インクセットを、記録信号に応じた熱エネルギーをインクに付与することによりインクを吐出させるオンデマンド型マルチ記録ヘッドを有するインクジェット記録装置ＢＪＣ−４０００（キャノン株式会社製）に各々搭載して印字を行い、黒色インクの耐水性の評価、及び、ＢＪＣ−４０００のキャップを用いて下記評価を行った。なお、ＢＪＣ−４０００は、黒色インク、イエローインク、マゼンタインクおよびシアンインクの全ての吐出口を１つのキヤップでキヤッピングし、４色のインクの全てを一体吸引し、４色の廃インクを共通の廃インク吸収体に保持する構成を有する。その結果を表１に示す。
（評価方法）
キャップ内における廃インク吸収性
上記キャップを用い、温度３５℃、湿度１０％環境下で、３０分間隔でキャップから５ｃｍの高さからＢｋ→Ｙ→Ｍ→Ｃの順に各０．３ｃｃキャップ内のキャップ内吸収体の同一個所に添加し、各計６０ｃｃまで添加した。
【００８０】
これを以下の評価基準によって評価した。
Ａ：キャップ内吸収体上に残カーボンが見られない。
Ｂ：キャップ内吸収体上にわずかに残カーボンが見られる。
Ｃ：キャップ内吸収体上に残カーボンが見られる。
Ｄ：キャップ内吸収体上に残カーボンが見られ、固まりになっている。
【００８１】
【表１】
【００８２】
実施例３
（ブラックインク３）
以下の成分を用いてブラックインク１と同様にしてブラックインク３を調製した。
・上記黒色インク３
・前記イエローインク１
・前記マゼンタインク１
・前記シアンインク１
このインクセットを用いて上記実施例１および２と同様にして廃インク吸収性を評価したところ、Ａに相当する結果が認められた。また、このインクセットを用いて下記の評価を行なった。
▲１▼上記インクセット中の黒色インクで下記の５種類の紙に文字の印字を行ない、そのときの文字のにじみを目視似て観察したところ、５紙ともに文字のにじみが殆どないという優れた結果が得られた。
ａ：キヤノン（株）社製 ＰＰＣ用紙ＮＳＫ
ｂ：キヤノン（株）社製 ＰＰＣ用紙ＮＤＫ
ｃ：ゼロックス（株）社製 ＰＰＣ用紙４０２４
ｄ：フォックスリバー社製ＰＰＣ用紙プロバーボンド
ｅ：ノイジドラ社製キヤノンＰＰＣ用紙
▲２▼上記インクセットのブラックインクを用いて上記５種の紙の３０ｍｍ×３０ｍｍの領域に黒色の１００％ベタの画像を印字し、その時の各々の紙上の画像の印字濃度をマクベス社製印字濃度測定器で測定したところ、５紙の間での画像濃度の差は０．１未満であった。
▲３▼上記インクセットを用いて、上記５種の紙の１辺の長さが１０ｃｍの正方形の領域を５個×５個のマス目に仕切り、各々のマス目に黒色インクとカラーインクを交互に印字し、黒色インク付与部とカラーインク付与部との境界で黒色インクとカラーインクとのブリーディングを目視にて観察したところ、各紙とも境界線は鮮明で、にじみや混色は殆ど認められなかった。
【００８３】
【発明の効果】
以上説明した様に、本発明によれば、耐水性に優れた高品位な黒色印字を行うことができる。また、記録上に必要とされる予備吐出、吸引回復、加圧回復等の回復手段によって発生する廃インクを、装置内を汚さずに確実に回収でき、長期に亘って安定して高い品質の記録を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図１】本発明のインクセットの一実施態様にかかる記録ユニットの概略斜視図である。
【図２】黒インク及びカラーインクを各々収納したインクカートリッジが１つの記録ヘッドに装着された状態を示す概略平面図である。
【図３】キャップの断面詳細図である。
【図４】インクジェットプリンタの概略斜視図である。
【図５】図４のインクジェットプリンタの概略断面図である。
【図６】図４のインクジェットプリンタの記録ヘッド部の一態様のオリフィス部の拡大図である。
【図７】アニオン性自己分散型カーボンブラック顔料粒子を含む黒色インクの粘度とｐＨとの関係を示す該略図である。
【符号の説明】
５７ ピンチローラ
７１ キャップゴム
７２ キャップカバー
７３ ポンプ吸引チューブ
７４ キャップ内吸収体
１００ 記録ユニット
１０３ 記録ヘッド
４０１ インクカートリッジ
４０３ 記録ヘッド
９０１ 記録ヘッド
９０３ ガイドシャフト
９０５ キャリッジ
９０７ ガイドレール
９０９ シャーシ
９１１ キャリッジモータ
９１３ プーリ
９１５ タイミングベルト
９１７ 記録紙
９１９ 圧板
９２１ ベース
９２３ 弾性体
９２５ ピックアップラバー
９２７ 給送ローラ軸
９２９ 搬送ローラ
９３３ キャップ部材
９３５ キャップホルダー
９３７ 腕部
９３９ シリンダ制御部
９４１ ボンプギア
９４３ カム
９４５ ＬＦギア
９４７ シリンダ吸収体
９４９、９５１、９５３、９５５ 廃インク吸収体
１１０１、１１０２、１１０３、１１０４ 吐出オリフィス
Claims (36)
- 少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクとを備え、該カラーインクの吐出口と該黒色インクの吐出口とで共通の回復手段を有するインクジェット記録装置の為のインクセットであって、
前記黒色インクが水性媒体中に、少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラック粒子を含有し、
かつ、前記カラーインクのｐＨが該黒色顔料インクのｐＨよりも高いことを特徴とするインクセット。 - 前記黒色インクが水性媒体中に、少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型カーボンブラック粒子と、（Ｍ１）2ＳＯ4、ＣＨ3ＣＯＯ（Ｍ１）、Ｐｈ−（Ｍ１）、（Ｍ１）ＮＯ3、（Ｍ１）Ｃｌ、（Ｍ１）Ｂｒ、（Ｍ１）Ｉ、（Ｍ１）2ＳＯ3および（Ｍ１）2ＣＯ3から選ばれる少なくとも１つの塩を含有する請求項１に記載のインクセット（但し、Ｍ１はアルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表わし、また、Ｐｈはフェニル基を表わす）。
- 前記塩を、インク全重量に対して０．０５〜１０重量（ｗｔ）％含む請求項２記載のインクセット。
- 前記塩を、インク全重量に対して０．０５〜５ｗｔ％含む請求項３記載のインクセット。
- 前記アニオン性の親水性基が、−ＣＯＯＭ、−ＳＯ3Ｍ、−ＰＯ3ＨＭ、−ＰＯ3Ｍ2（ただし、式中のＭはそれぞれ独立して水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表す。）からなる群から選択された１つ以上である請求項１〜４の何れかに記載のインクセット。
- 前記アニオン性の親水性基が前記カーボンブラック粒子の表面に直接結合している請求項１〜５の何れかに記載のインクセット。
- 前記アニオン性の親水性基が前記カーボンブラック粒子の表面に原子団を介して結合している請求項１〜５の何れかに記載のインクセット。
- 前記原子団が、炭素原子数１〜１２のアルキレン基、置換基を有してもよいフェニレン基または置換基を有してもよいナフチレン基から選択された１種以上である請求項７に記載のインクセット。
- 前記アニオン性の親水性基が対イオンとしてアンモニウムを有する請求項１〜５の何れかに記載のインクセット。
- 前記カラーインクが色材として酸性染料または直接染料を含む請求項１〜９のいずれかに記載のインクセット。
- 前記カラーインクが色材として顔料を含む請求項１〜１０のいずれかに記載のインクセット。
- 前記カラーインクが、水酸化物、アルカリ金属塩のうち少なくとも１つの化合物を含有する請求項１〜１１のいずれかに記載のインクセット。
- 少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクとを備え、該カラーインクの吐出口と該黒色インクの吐出口とで共通の回復手段を有するインクジェット記録装置を用いて、該黒色インクおよび該カラーインクの少なくとも一方にエネルギーを与えて、該インクを吐出させて被記録材に付与する工程を有し、該黒色インクとして水性媒体中に少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラック粒子を含有し、所定のｐＨを有する黒色インクを用い、該カラーインクとして該黒色インクよりもｐＨの高いカラーインクを用いることを特徴とするインクジェット記録方法。
- 前記エネルギーが、熱エネルギーである請求項１３に記載のインクジェット記録方法。
- 前記エネルギーが、力学的エネルギーである請求項１３に記載のインクジェット記録方法。
- 少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを個別に吐出させるインクジェットヘッドの該黒色インクの吐出口の回復手段及び該カラーインクの吐出口の回復手段が共通であるインクジェット記録装置に用いられる記録ユニットであって、これらの２色以上のインクを各々独立して収容している複数のインク収容部と、各々のインク収容部から該インクを吐出させるためのヘッド部とを備え、該黒色インクが水性媒体中に少なく１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラック粒子を含有するとともに所定のｐＨを有し、該カラーインクが該黒色インクよりも高いｐＨを有することを特徴とする記録ユニット。
- 少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを個別に吐出させるインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッドの該カラーインクの吐出口の回復手段と該黒色インクの吐出口の回復手段とが共通であるインクジェット記録装置に用いられるインクカートリッジであって、該インクカートリッジは少なくとも黒色インクとカラーインクとを含む２色以上のインクを個別に収納している複数のインク収容部を有し、該黒色インクが水性媒体中に少なく１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラック粒子を含有するとともに所定のｐＨを有し、該カラーインクが該黒色インクよりも高いｐＨを有することを特徴とするインクカートリッジ。
- インクを収容したインク収容部の２以上と、該インク収容部から供給されるインクを熱エネルギーの作用によりインク滴として吐出させるためのヘッド部と、を有する記録ユニットを備え、更に、該記録ヘッドの吐出口面をキャッピングする１つのキャップと、該キャップ内に連通しインク吸引可能なポンプ部と、該ポンプ部から排出された廃インクを吸収保存する廃インク吸収体を有するインクジェット記録装置において、請求項１〜１２のいずれかに記載のインクセットを構成する２色以上のインクを前記インク収容部のそれぞれに収容したことを特徴とするインクジェット記録装置。
- 前記吸引可能なポンプ部に連通するキャップが、前記インクセットを構成する２色以上のインクのうちの黒色顔料インクと少なくとも１色のカラーインクとを同時に吸引する構成を有する請求項１８に記載のインクジェット記録装置。
- インクを収容したインク収容部の２以上を備えたインクカートリッジと、該インク収容部から供給されるインクを熱エネルギーの作用によりインク滴として吐出させるためのヘッド部と、を有する記録ユニットを備え、更に、該記録ヘッドの吐出口面をキャッピングする１つのキャップと、該キャップ内に連通しインク吸引可能なポンプ部と、該ポンプ部から排出された廃インクを吸収保存する廃インク吸収体を有するインクジェット記録装置において、請求項１〜１２のいずれかに記載のインクセットを構成する２色以上のインクを前記インク収容部のそれぞれに収容したことを特徴とするインクジェット記録装置。
- 前記吸引可能なポンプ部に連通するキャップが、前記インクセットを構成する２色以上のインクのうちの黒色顔料インクと少なくとも１色のカラーインクとを同時に吸引する構成を有する請求項２０に記載のインクジェット記録装置。
- 前記インクカートリッジのインク収容部に収容したインクを、前記記録ヘッドに対して供給するインク供給部を有する請求項２０または２１に記載のインクジェット記録装置。
- 少なくとも２つの異なるインクを各々収容している複数のインク収容部と各々のインク収容部から該インクを吐出させるためのヘッド部とを備えた記録ユニット、該ヘッド部にある少なくとも２つの異なるインクの各々の吐出口面を共にキヤッピングするキヤップ、該キャップを介して該ヘッド部のインクを吸引するポンプおよび該ポンプによって吸引された少なくとも２つのインクを共に保持するインク吸収体を有するインクジェット記録装置において、
該少なくとも２つの異なるインクが、水性媒体中に少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラックを含む黒色インクおよび該黒色インクよりも高いｐＨを有するカラーインクとを含むことを特徴とするインクジェット記録装置。 - 少なくとも２つの異なるインクを各々収容している複数のインクカートリッジ、該インクカートリッジが着脱可能に構成されてなり、各々のインクカートリッジのインク収容部の該インクを吐出させるヘッド部、および該ヘッド部にある少なくとも２つの異なるインクの各々の吐出口面を共にキヤッピングするキヤップ、該キャップを介して該ヘッド部のインクを吸引するポンプおよび該ポンプによって吸引された少なくとも２つのインクを共に保持するインク吸収体を有するインクジェット記録装置において、
該少なくとも２つの異なるインクが、水性媒体中に少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型のカーボンブラックを含む黒色インクおよび該黒色インクよりも高いｐＨを有するカラーインクとを含むことを特徴とするインクジェット記録装置。 - 前記黒色インクが水性媒体中に、少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型カーボンブラック粒子と、（Ｍ１）2ＳＯ4、ＣＨ3ＣＯＯ（Ｍ１）、Ｐｈ−（Ｍ１）、（Ｍ１）ＮＯ3、（Ｍ１）Ｃｌ、（Ｍ１）Ｂｒ、（Ｍ１）Ｉ、（Ｍ１）2ＳＯ3および（Ｍ１）2ＣＯ3から選ばれる少なくとも１つの塩を含有する黒色インクである請求項２３または２４に記載のインクジェット記録装置（但し、Ｍ１はアルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表わし、また、Ｐｈはフェニル基を表わす）。
- 前記塩を、黒色インク全重量に対して０．０５〜１０ｗｔ％含む請求項２５記載のインクジェット記録装置。
- 前記塩を、黒色インク全重量に対して０．０５〜５ｗｔ％含む請求項２６記載のインクジェット記録装置。
- 前記アニオン性の親水性基が、−ＣＯＯＭ、−ＳＯ3Ｍ、−ＰＯ3ＨＭ、−ＰＯ3Ｍ2（ただし、式中のＭはそれぞれ独立して水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表す。）からなる群から選択された１つ以上である請求項２３〜２７の何れかに記載のインクジェット記録装置。
- 前記アニオン性の親水性基が前記カーボンブラック粒子の表面に直接結合している請求項２３〜２８の何れかに記載のインクジェット記録装置。
- 前記アニオン性の親水性基が前記カーボンブラック粒子の表面に原子団を介して結合している請求項２３〜２８の何れかに記載のインクジェット記録装置。
- 前記原子団が、炭素原子数１〜１２のアルキレン基、置換基を有してもよいフェニレン基または置換基を有してもよいナフチレン基から選択された１種以上である請求項３０に記載のインクジェット記録装置。
- 前記アニオン性の親水性基が対イオンとしてアンモニウムを有する請求項２３〜２８の何れかに記載のインクジェット記録装置。
- 前記カラーインクが色材として酸性染料または直接染料を含む請求項２３〜３２のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
- 前記カラーインクが色材として顔料を含む請求項２３〜３２のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
- 前記カラーインクが、水酸化物、アルカリ金属塩のうち少なくとも１つの化合物を含有する請求項２３〜３４のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
- 少なくとも１種のアニオン性の親水性基を表面に有する自己分散型カーボンブラックを含む黒色インクとカラーインクとを備え、該黒色インクの吐出口とカラーインクの吐出口との回復系ユニットを共通化したインクジェット記録装置の共通化回復系ユニット内での固形物の生成を緩和する方法であって、該カラーインクとして、そのｐＨが該黒色インクのｐＨよりも高いカラーインクを用いることを特徴とする共通化回復系ユニット内の固形物の生成を緩和する方法。
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