JP2005022891A - 誘電体磁器および積層型電子部品 - Google Patents
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Abstract
【課題】結晶粒子を微粒子化した場合でも比誘電率が大きく、かつ比誘電率の温度特性が良好な誘電体磁器を提供し、それにより高電圧が印加されても静電容量の低下率が小さい積層型電子部品を提供する。
【解決手段】Bサイトの一部がZrで置換されたペロブスカイト型チタン酸バリウム系結晶粒子(BTZ型系結晶粒子)と、Aサイトの一部がSrで置換されたペロブスカイト型チタン酸ビスマスナトリウム系結晶粒子(BNST型系結晶粒子)と、Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素を含有し、前記Mg、Mn又は希土類元素の少なくとも一つ以上の元素は前記BTZ型系結晶粒子及びBNST型系結晶粒子間の粒界相に存在すると共にその一部は、それぞれ、前記BTZ型系結晶粒子及びBNST型系結晶粒子中に固溶して存在し、かつ前記BTZ型系結晶粒子及びBNST型系結晶粒子の何れもが、0.3〜1.0μmの平均粒径を有していることを特徴とする誘電体磁器。
【選択図】 なし
【解決手段】Bサイトの一部がZrで置換されたペロブスカイト型チタン酸バリウム系結晶粒子(BTZ型系結晶粒子)と、Aサイトの一部がSrで置換されたペロブスカイト型チタン酸ビスマスナトリウム系結晶粒子(BNST型系結晶粒子)と、Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素を含有し、前記Mg、Mn又は希土類元素の少なくとも一つ以上の元素は前記BTZ型系結晶粒子及びBNST型系結晶粒子間の粒界相に存在すると共にその一部は、それぞれ、前記BTZ型系結晶粒子及びBNST型系結晶粒子中に固溶して存在し、かつ前記BTZ型系結晶粒子及びBNST型系結晶粒子の何れもが、0.3〜1.0μmの平均粒径を有していることを特徴とする誘電体磁器。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘電体磁器および積層型電子部品に関するものであり、より詳細には、例えば誘電体層に印加される直流電圧が2V/μm以上であるような高電圧用の積層セラミックコンデンサ等の形成に特に有用な誘電体磁器、及び該磁器を用いて形成された積層型電子部品に関する。
【0002】
【従来技術】
近年、電子機器の小型化、高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化の要求が高まってきている。このような要求に応えるために、積層セラミックコンデンサ(MLC)においては、誘電体層を薄層化することにより静電容量を高めると共に、誘電体層の積層数を増やすことにより、小型・高容量化を図っている。
誘電体層の形成に使用される誘電体材料には、小型・高容量化の為に、高い比誘電率が要求されることはもちろんのこと、誘電損失が小さく、誘電特性の温度に対する依存性(温度依存性)や直流電圧に対する依存性(DCバイアス依存性)が小さい等の種々の特性が要求される。
また、誘電体層の薄層化に伴い、積層セラミックコンデンサに印加する電界の増大による信頼性低下を抑制する為に、粒子径のより小さい誘電体材料が使用されるようになってきた。
また、近年の環境保護、環境安全に対する要求から鉛を含有しない電子部品が求められ、電子部品を構成する磁器材料においても鉛を含有しない材料が要求されている。
【0003】
従来、積層セラミックコンデンサを構成する誘電体材料としては、ペロブスカイト型(ABO3型)酸化物であるチタン酸バリウム(BaTiO3)(例えば特許文献1参照)や、チタン酸ジルコン酸バリウム(BaTiZrO3)、又は鉛元素を含有するマグネシウム酸ニオブ酸鉛(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3)や、SrTiO3−PbTiO3材料等が知られている。
現在、小型・高容量で温度特性に優れた積層セラミックコンデンサ(MLC)用の誘電体材料としては、BT系材料が主流であり、大きな比誘電率を示すサブミクロン粒径のBT焼結体が使用されている。また、BT系材料の中でも、ジルコニア等が添加され、添加成分の元素が固溶し、焼結粒子表面に偏在する(粒子中心部よりも表面部分に多く存在する)コアシェル構造を有するものは、添加物による粒成長抑制効果とコアシェル構造により、誘電特性の温度依存性が改善され、温度特性の良好な誘電体磁器として知られており、MLC用の誘電体材料として注目されている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
ところで、上述した公知のBT系材料には、DCバイアス依存性が高く、直流電圧印加による比誘電率の減少が大きいという欠点がある。即ち、小型化の為に誘電体層の薄層化を推し進めると、誘電体層に印加される電界が増大する為、このようなBT系材料で形成された誘電体層から成るコンデンサでは、静電容量の減少が大きく、実効的静電容量が小さくなるという問題があった。
また、BT焼結粒子の粒径をサブミクロンよりさらに小さくしていくと、DCバイアス依存性を改善できるが、この場合には、比誘電率が減少してしまう為、小型で高容量かつDCバイアス特性を同時に満足する事はできなかった。
大きな比誘電率を示し、DCバイアス依存性を小さくする為に、前記マグネシウム酸ニオブ酸鉛(PMN)等の緩和型強誘電体を用いる事が有効である事が知られている。緩和型強誘電体は比誘電率のピークにおいてマクロな分極を持たないため、マクロな分極の揺らぎに起因した大きなDCバイアス依存性を示す強誘電体に比べ、小さなDCバイアス依存性を示す。
【0005】
緩和型強誘電体であるPMNや、温度特性が類似のBTZ等は、10000を越す非常に大きな比誘電率を示す一方で、比誘電率のピークが使用温度範囲近傍において単一でまた温度変化率が非常に大きく、またDCバイアス印加時の比誘電率ピークの減少率も非常に大きい。しかしながら、緩和型強誘電体はBT等の通常の強誘電体に比べ、同じ比誘電率で比較すると、DCバイアス依存性は小さい。
チタン酸ジルコン酸バリウム(BTZ)、PMNとも粒子サイズを1μmより小さくしていくと、比誘電率はピークのみが低下し、温度変化率、DC電圧印加時の比誘電率の低下率も小さくなり、DCバイアス依存性が小さな高誘電率材料を実現できる。
【0006】
一般に、BTZ型結晶は、逐次相転移に伴う原子の揺らぎに起因して4000を越す大きな比誘電率を示すBTのBサイト元素Tiの一部をZrにより置換する事により、逐次相転移の転移点が一点に集約され、常誘電相―強誘電相相転移温度が低下するとともに、比誘電率が増大する。粒子サイズが小さくなると、比誘電率ピークが小さくなり、温度特性が平坦化するとともに、誘電的基底状態に近づく為、DCバイアス依存性は小さくなり、薄層化に対応した誘電特性を示す。しかしながら、逐次相転移点が収束する為、逐次相転移の存在により平坦であった温度特性がBTに比べ悪くなる。BTZ型結晶は、−25℃〜85℃においては平坦な温度特性を実現できるが、X7R規格である−55℃〜125℃の広い温度範囲では当該規格を満足する事は困難である。
【0007】
また、BTZのZr濃度を変える事により、比誘電率のピークを示す温度を変える事ができる為、2種類以上のZr濃度の異なるBTZ結晶の共存する複合材料を形成することにより、温度特性に優れ、高誘電率でDCバイアス依存性に優れた薄層対応誘電体材料を実現できる(例えば特許文献3参照)。しかしながら、Zr置換したBTZは、BTの常誘電相−強誘電相相転移温度(〜125℃)以上の転移温度を示す事は出来ない事と、大きな比誘電率を示す為にはZrで5%以上置換されなければならない為、BTZの比誘電率のピーク温度は100℃以下となる。
この為、2種類以上のZr濃度の異なるBTZを用いたコンポジット材料では、−25℃〜85℃においては平坦な温度特性を実現できるが、X7R規格である−55℃〜125℃の広い温度範囲では当該規格を満足する事は非常に困難である。
例えば、特許文献1等には、平均粒径が0.1〜0.3μmであり、温度特性の異なる2種類以上の微粒子結晶により構成された誘電体磁器が提案されており、この誘電体磁器は、平坦な温度特性(誘電特性の温度依存性が小さい)と、優れたDCバイアス特性を有していることが記載されている。即ち、0.1〜0.3μmの様な微粒子化を行い、誘電体磁器の誘電的活性を小さくすることにより、平坦な温度特性と優れたDCバイアス特性を得ているが、BT系材料においては、比誘電率が粒子サイズと共に単調に減少する為、0.1〜0.3μmの様な粒子サイズでは、最大でも2100程度の比誘電率しか得られず、高容量化に限界があった。
上記した通り、BTZにおいては、大きな比誘電率と、小さなDCバイアス依存性を実現できるが、比誘電率のピークが使用温度近傍において単一の為、比誘電率を比較的大きく維持したまま平坦な温度依存性を得る事は困難であった。
【0008】
【特許文献1】
特開平9−241075号公報
【特許文献2】
特開2002−226263号公報
【特許文献3】
特開2002−274937号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、比誘電率が高くて、比誘電率の温度依存性が小さく、かつ印加される電圧が高電圧でもDCバイアス印加による比誘電率の変化率が小さく、高電圧が印加されても静電容量の低下率が小さい誘電体磁器を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、Bサイトの一部がZrで置換されたペロブスカイト型チタン酸バリウム結晶粒子(BTZ型結晶粒子)と、Aサイトの一部がSrで置換されたペロブスカイト型チタン酸ビスマスナトリウム結晶粒子(BNST型結晶粒子)と、Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素とを含有する焼結体であって、前記Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素の一部は、それぞれ前記BTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子中に固溶し、かつ前記BTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子の何れもが0.3〜1.0μmの平均粒径を有していることを特徴とする誘電体磁器が提供される。
【0011】
本発明においては更に
(1)前記BTZ型(Ba(Ti1−xZrx)O3)結晶粒子中のBサイトがxが0.20ないし0.30になるようにZrで置換されていること、
(2)前記BNST型((Bi0.5Na0.5)1 − ySryTiO3)結晶粒子中のAサイトがyが0.40ないし0.45になるようにSrで置換されていること、
(3)Mg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が前記BTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子の中心部よりも結晶粒子表面側に多く偏在するように固溶して、前記BTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子がコアシェル型構造を有していること、
(4)前記Mg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素の一部が前記BTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子の粒界に、その酸化物及び/又は複合酸化物として存在すること、
(5)前記希土類元素が、Y、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbからなる群より選択された少なくとも1種であること、
(6)前記焼結体中に前記BTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子とをBTZ型結晶粒子/BNST型結晶粒子(モル比)で0.40ないし1.5の割合で含有していること、
(7)Mgが前記焼結体中に酸化物換算で0.1乃至0.5質量%含有していること、
(8)希土類元素が前記焼結体中に酸化物換算で0.1乃至1.7質量%含有していること、
(9)Mnが前記焼結体中にMnCO3換算で0.05乃至0.4質量%含有していること、
(10)焼結体中のBTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子の含有割合が92質量%以上であることが望ましい。
本発明によれば更に、前記誘電体磁器からなる層と金属からなる内部電極層とを交互に積層してなることを特徴とする積層型電子部品が提供される。
【0012】
本発明の誘電体磁器においては、BTZ型系結晶粒子とBNST型系結晶粒子とが共存していることが重要な特徴であり、更にこのような共存系において、BTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子は、粒子中心部よりも粒子表面側に焼結助剤としての機能も有するMg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が偏在したコアシェル型構造を形成するのが望ましく、この結果、高誘電率であり、比誘電率の温度依存性やDCバイアス依存性が極めて小さいという特性を有することになる。
【0013】
サイトの一部がSrで置換されたペロブスカイト型チタン酸ビスマスナトリウム((Bi0.5Na0.5)1−ySryTiO3)結晶粒子(BNST型結晶粒子)は、Aサイトが1価と3価の元素で構成されるペロブスカイト型チタン酸ビスマスナトリウム((Bi0.5Na0.5)TiO3)結晶粒子(BNT型結晶粒子)に、常誘電体ペロブスカイトSrTiO3結晶を固溶させたものである。BNT結晶は、室温以上において強誘電相−反強誘電相−常誘電相の相関係を持ち、特筆すべきは常誘電及び反強誘電相においても非常に大きな比誘電率を示す事である。また、常誘電相、強誘電相においては、分極−電界履歴曲線から明らかな様に、電界印加に対し、分極レスポンスは線形であり、分極−電界曲線の傾きが誘電率を表す事から、誘電率の電界依存性は、一定の電界強度まで基本的に殆どゼロである。このため、常誘電体、反強誘電体はDCバイアス依存性に非常に優れた材料である。
【0014】
本発明においては、高誘電率でDCバイアス依存性に非常に優れたBNTのAサイトの一部をSrで置換してBNSTとする事により、比誘電率を大きく低下する事無く、BNTにおいて200℃乃至300℃に存在していた常誘電相、反強誘電相の温度領域を100℃近傍の低温に移動できる。
即ち、本発明においては、BTZ型(Ba(Ti1−xZrx)O3)系結晶粒子中のBサイトをxが0.20ないし0.30になるようにZrで置換する事により、高誘電率を維持したまま単一ピークを示す比誘電率のピーク温度を室温以下とすることができるとともに、BTZにおいては強誘電性が小さいため、DCバイアス依存性の少ない誘電体磁器を実現できる。
また、BNST型((Bi0.5Na0.5)1−ySryTiO3)結晶粒子中のAサイトをyが0.40ないし0.45になるようにSrで置換して、比誘電率のピークを100℃以上とした高誘電率BNSTと、前記比誘電率のピークを室温以下としたBTZとを共存させた複合構造とする事により、比誘電率が大きく、温度特性が平坦で、かつ、DCバイアス依存性、特にマイクロプロセッサ等で重要となる80℃近傍の高温でのDCバイアス特性に非常に優れた誘電体磁器を実現できる。
本発明では、Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素の一部が、それぞれ0.3〜1.0μmの平均粒径を有したBTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子中に固溶して存在していることが望ましく、更にこれらのMg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が粒子中央部よりも粒子表面側に偏在したコアシェル型構造を有している事が望ましい。
本発明の焼結体粒子において、前記BTZ型系結晶粒子とBNST型系結晶粒子の粒界に、Mg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素の一部がその酸化物及び/又は複合酸化物として存在することが望ましい。
希土類元素としては、Y、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbから成る群より選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が粒子中央部よりも粒子表面に偏在しているコアシェル型粒子構造を形成させることが温度特性やDCバイアス特性に有利であり、また、微粒子BTZおよびBNST結晶粒子の共存構造を形成する為に、各粒子にコアシェル構造を形成して、粒子間固溶を抑制する事が望ましい。
BTZ型系結晶粒子とBNST型系結晶粒子の粒子サイズを微小化することは、DCバイアス特性を向上させる上で有利であり、また、温度特性を平坦化する上で重要である。また、積層電子部品の薄層化に対応する為、誘電体粒子の粒子サイズは1μm以下とするのが重要である。このため、BTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子をサブミクロンオーダーの平均粒径0.3〜1.0μmで共存させる必要がある。
【0016】
前記焼結体中において、BTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子とをBTZ型結晶粒子/BNST型結晶粒子(モル比)で好ましくは0.40乃至1.5の割合で、特に好ましくは0.67乃至1.2の割合で含有している。
BTZ型結晶粒子/BNST型結晶粒子(モル比)が0.40未満の場合はBNST型結晶の誘電特性が支配的になって、100℃近傍においてピークとなる比誘電率は温度と共に単調減少となるため、低温で高誘電率化に寄与するBTZの誘電特性が充分に発揮されず、室温より低温での高い比誘電率を実現することができないおそれがある。一方、BTZ型結晶粒子/BNST型結晶粒子(モル比)が1.5を超える場合は、BTZの誘電特性が支配的になり、高温領域での高誘電率を実現することができないおそれがある。
また、前記焼結体中のBTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子の含有割合が好ましくは92質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。
即ち、これらの結晶粒子の含有割合を92質量%以上とすることにより、これらの結晶粒子の優れた特性を充分に維持することができる。
【0017】
前記焼結体中にMgが酸化物換算で0.05乃至0.5質量%含有していることが望ましい。
Mgが酸化物換算で0.05質量%以上含有している場合に結晶の粒成長を充分に抑制して所望の微構造を実現し、一方、前記0.5質量%以下の場合に、低誘電率相の増加による比誘電率の低下を抑制するという効果を発揮できる。
前記焼結体中に希土類元素が酸化物換算で0.1乃至1.7質量%含有していることが望ましい。
希土類元素が酸化物換算で0.1質量%以上含有しているとき還元雰囲気焼成により発生する酸素空孔の電荷を十分補償して、温度、電圧負荷に対する絶縁的寿命が短くなるのを抑制し、一方、希土類元素が酸化物換算で1.7質量%以下のときに電荷中性のバランスのくずれによる絶縁抵抗の低下を抑制するという効果を発揮できる。
また、前記焼結体中にMnがMnCO3換算で0.05乃至0.4質量%含有していることが望ましい。
MnがMnCO3換算で0.05質量%以上含有しているときに、還元雰囲気焼成時の磁器の半導体化を抑制し、一方、0.4質量%以下のときに低誘電率相の形成による磁器の比誘電率の低下を抑制するという効果を発揮できる。
【0018】
かくして本発明の誘電体磁器は、サブミクロンオーダーの平均粒径(0.3〜1.0μm)でBTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子が共存し、更に好ましくは各結晶粒子は、Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が結晶粒子中心部よりも粒子表面に偏在したコアシェル型構造を有することにより、高誘電率を有し、しかも、誘電特性の温度依存性やDCバイアス依存性も極めて小さいという極めて優れた特性を発現することが可能となる。
【0019】
また、上述した誘電体磁器により形成された誘電体からなる層と金属からなる内部電極層とを交互に積層してなる本発明の積層型電子部品は、誘電体磁器が上記特性を有していることから、誘電体層の薄層化により、積層数を増やすことなく、静電容量の大容量化を図ることができ、積層コンデンサとして極めて有用である。また、上記誘電体磁器の結晶粒径が小さいため、該誘電体磁器により形成される誘電体層の薄層化も極めて容易であり、さらなる静電容量の向上、さらなる小型化が実現できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の誘電体磁器を製造するには、例えばゾルゲル法、蓚酸法、水熱合成法により生成された、所定の組成を有するBTZ粉末と、固相法により生成されたBNST粉末を用いる。これらBTZ粉末及びBNST粉末は、MgやMn、希土類元素が固溶していないものである。
尚、Aサイトの一部がSrで置換されたBNST粉末は、Bi2O3、Na2CO3、SrCO3、及びTiO2を所定量秤量混合し、850℃以上の温度で大気中で熱処理を行うことによって得られる。
また、焼成によって僅かであるが平均粒径の変動を生じることがあるため、前述したサブミクロンオーダーの平均粒径を有するBTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子を析出させるために、用いるBTZ粉末及びBNST粉末の平均粒径は0.3〜1μmの範囲にあるのがよい。
上記のBTZ粉末とBNST粉末との混合粉末に、所定量のMg及び希土類元素の酸化物あるいは炭酸塩、更に必要により、Mnの炭酸塩やガラス等の任意成分を加えて回転ミルなどで10〜30時間湿式混合し、乾燥する。次いで、ポリビニルアルコール等の有機バインダーや有機溶媒を所定量添加して成形用スラリーを調製する。
【0021】
このスラリーを、引き上げ法、ドクターブレード法、リバースロールコータ法、グラビアコータ法、スクリーン印刷法、グラビア印刷等の周知の成形法を用いて所定形状に成形し、成形体を、大気中、真空中または窒素中で脱脂した後、大気中または還元雰囲気中で、1150〜1300℃、特に1200〜1300℃の焼成温度で1〜10時間焼成することにより、本発明の誘電体磁器を得ることができる。
かくして得られる本発明の誘電体磁器は、高誘電率を有し、しかも、誘電特性の温度依存性やDCバイアス依存性も極めて小さいという極めて優れた特性を有している。例えば、20℃での比誘電率εr(20℃)が2750以上、特に3000以上であり、温度変化率TCCは、±15%以内であり、比誘電率のDCバイアス依存性Δε/εは、−20%以内である。
【0022】
(積層型電子部品)
上記のような特性を有する本発明の誘電体磁器は、例えば誘電体層に印加される直流電圧が2V/μm以上であるような高電圧用の積層セラミックコンデンサとして有効に適用される。
この積層型電子部品は、上述した誘電体磁器から形成された誘電体層と、金属からなる内部電極層とを交互に積層して構成され、通常、この積層体の側面には、内部電極層と電気的に接続された外部電極が設けられており、この外部電極を通じて静電容量が取り出されるようになっている。
また、内部電極層を形成する金属としては、Ag/PdもしくはNi、Cu等卑金属であっても良い。卑金属においては、特に安価という点からNiが好適に使用される。
かかる積層型電子部品は、先に述べた誘電体磁器の製造方法に準拠して製造される。
【0023】
即ち、先に述べた方法にしたがって、本発明の誘電体磁器を製造するための成形用スラリーを調製し、前記成形法により、誘電体層を形成するセラミックグリーンシート(誘電体シート)を成形する。この誘電体シートの厚みは、電子部品の小型、大容量化という見地から、1〜10μm、特に1〜5μmであることが望ましい。
次に、この誘電体シートの表面に、Ag/PdもしくはNi等の卑金属を含有する導電性ペーストを、スクリーン印刷法、グラビア印刷、オフセット印刷法等の周知の印刷方法により塗布し内部電極パターンを形成する。内部電極パターンの厚みは、コンデンサの小型、高信頼性化という点から2μm以下、特に1μm以下であることが望ましい。
このようにして表面に内部電極パターンが塗布された誘電体シートを複数枚積層圧着し、この積層成形体を、大気中250〜300℃、または酸素分圧0.1〜1Paの低酸素雰囲気中500〜800℃で脱脂した後、大気中もしくは非酸化性雰囲気で1150〜1300℃で2〜3時間焼成する。非酸化性雰囲気で焼成する場合、さらに所望により、酸素分圧が0.1〜10−4Pa程度の低酸素分圧下、900〜1100℃で5〜15時間再酸化処理を施すことにより、還元された誘電体層が酸化され、良好な絶縁特性を有する誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層体が得られる。
【0024】
最後に、得られた積層焼結体に対し、各端面にCuペーストを塗布して焼き付け、Ni/Snメッキを施し、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成して積層セラミックコンデンサが得られる。
このような積層セラミックコンデンサからなる積層型電子部品では、高誘電率で、優れたDCバイアス特性を有する本発明の誘電体磁器により形成された誘電層を備えているため、印加直流電圧が2V/μm以上であるような高電圧用に極めて有用であり、また、高容量化・小型化をさらに推し進めることができる。更に、平均粒径の小さい誘電体磁器を用いていることにより、誘電体層厚みを容易に薄層化することができ、静電容量の向上、小型化が可能になる。
また、Ni、Cu等の卑金属を導体として用いることにより、安価な積層セラミックコンデンサが得られる。
【0025】
【実施例】
実施例1
水熱合成法により得られた表1に示すBa(Ti1−xZrx)O3粉末を準備した。
次にBi2O3粉末、Na2CO3粉末、SrCO3粉末、及びTiO2粉末を混合し、900℃で2時間大気中で仮焼を行い、仮焼体をボールミル粉砕により表1に示すようなSr置換量及び平均粒径を有するBNST粉末を調製した。
上記のBNST粉末と、表1に示す平均粒径を有するBTZ粉末とを、表1に示す割合で混合し、更にMgO、Y2O3、MnCO3、BaCO3を表1に記載する量だけ添加した。更にSi、Li、Ba及びCaを含有するガラスフィラーを、全量中で1.2質量%になるように添加し、イソプロパノール(IPA)を溶媒として3mmφのZrO2ボールを用いて回転ミルで12時間湿式混合した。
【0026】
得られたスラリーを乾燥した後、該乾燥物に対しバインダーを約2質量%に相当する量添加して造粒し、これを厚さ約1mm、直径16mmに成形した。この成形体を脱脂した後、大気中にて1200℃で2時間焼成し、誘電体磁器(試料No.1〜16)を得た。
この焼結体の断面を、マイクロオージェ電子分光法により観察し、Bi元素を含有する粒子と含有しない粒子を、それぞれBNST及びBTZと同定し、インターセプト法により、BNST結晶粒子及びBTZ結晶粒子の平均粒径を求めた。
さらに、上記誘電体磁器を厚さ400μmに研磨加工し、試料上下面にIn−Gaを塗布して電極を形成した。
【0027】
電気特性は、LCRメータを用いて−55℃〜125℃の温度範囲で、AC1V、測定周波数:1kHzの条件で静電容量を測定し、比誘電率を算出した。比誘電率の温度変化率TCCを20℃を基準温度として、下記式より求めた。
TCC(%)={ε(T)−ε(20℃)}×100/ε(20℃)
また、分極−電界ヒステレシス特性測定装置を用いて、DCオフセット電圧(1200V)を30秒印加後、DCオフセット電圧を印加したままで、微小電圧(100V,100Hz)によるヒステレシス曲線を測定し、その傾きからDCバイアス印加時の比誘電率ε(1200V)を算出し、下記式:
△ε/ε={ε(1200V)−ε(0V)}×100/ε(0V)
により、20℃での比誘電率のDCバイアス依存性△ε/εを求めた。
上記結果を表2に示す。
尚、表1、2中の試料Noに*印を付したものは本発明の範囲外の実験条件およびそれによって得られた結果である。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
表2から、BTZ及びBNSTの平均粒径が各々0.2μmからなる試料No.14はTCC、DCバイアス特性に優れてはいるが比誘電率が2250と低い。また、BTZ及びBNSTの一方の平均粒径が0.2μmである試料No.15、16でも比誘電率がそれぞれ2450、2300と低かった。
一方、BTZとBNSTの各組成を指定し共存構造を実現した本発明の試料では、比誘電率2750以上、特には3000以上、比誘電率の変化率も±15%以内であり、かつDCバイアス依存性も−20%以内と優れている。
また、酢酸溶液を用いて、BTZ及びBNST型結晶以外の含有物を流出させ、溶出後の磁器の重量より求めた焼結体中におけるBTZとBNSTの含有割合は92質量%以上であった。
更に、本発明の試料では、マイクロオージェ電子分光法及び透過型電子顕微鏡により誘電体磁器の粒子の結晶構造、組成を分析したところ、BTZ、BNST結晶粒子が存在しており、各BTZ、BNST結晶粒子内において、中心部と周辺部において組成の相違が確認でき、Ba、Ti、Zr、Bi、Na、Srは均一に存在し、周辺部においてはMgと、Yが検出されたが、中心部においては検出されず、いわゆるコアシェル構造を呈していた。また、透過型電子顕微鏡によりBTZ、BNST結晶粒子の粒界にYを含む酸化物の存在が確認された。
【0031】
実施例2(MLCC)
まず、実施例1と同様にして、BTZ粉末、BNST粉末、MgO、MnCO3、Y2O3、BaCO3を表1のNo.17に示す割合で混合し、更に、ブチラール樹脂およびトルエンを加えてセラミックスラリーを調製した。このスラリーを、ドクターブレード法によりPETフィルム上に塗布し、乾燥機内で60℃で15秒間乾燥後、これを剥離して厚み9μmのセラミックグリーンシートを形成し、これを10枚積層して端面セラミックグリーンシート層を形成した。そして、これらの端面セラミックグリーンシート層を、90℃で30分の条件で乾燥させた。
この端面セラミックグリーンシート層を台板上に配置し、プレス機により圧着して台板上にはりつけた。
一方、PETフィルム上に、上記と同一のセラミックスラリーをドクターブレード法により塗布し、60℃で15秒間乾燥後、厚み5.5μmのセラミックグリーンシートを多数作製した。
次に、平均粒径0.2μmのNi粉末の合量45質量%に対して、エチルセルロース5.5質量%とオクチルアルコール94.5質量%からなるビヒクル55質量%を3本ロールで混練して内部電極ペーストを作製した。
この後、得られたセラミックグリーンシートの一方の表面に、スクリーン印刷装置を用いて、上記した内部電極ペーストを内部電極パターン状に印刷し、グリーンシート上に長辺と短辺を有する長方形状の内部電極パターンを複数形成し、乾燥後、剥離した。
この後、端面セラミックグリーンシート層の上に、内部電極パターンが形成されたグリーンシートを150枚積層し、この後、端面セラミックグリーンシートを積層し、コンデンサ本体成形体を作製した。
次に、コンデンサ本体成形体を金型上に載置し、積層方向からプレス機の加圧板により圧力を段階的に増加して圧着し、この後さらにコンデンサ本体成形体の上部にゴム型を配置し、静水圧成形した。
【0032】
この後、このコンデンサ本体成形体を所定のチップ形状にカットし、大気中300℃または0.1Paの酸素/窒素雰囲気中500℃に加熱し、脱バインダーを行った。さらに、10−7Paの酸素/窒素雰囲気中、1200〜1250℃で2時間焼成し、さらに、10−2Paの酸素/窒素雰囲気中にて1000℃で再酸化処理を行い、電子部品本体を得た。焼成後、電子部品本体の端面にCuペーストを900℃で焼き付け、さらにNi/Snメッキを施し、内部電極と接続する外部端子を形成した。
このようにして得られた積層セラミックコンデンサの内部電極間に介在する誘電体層の厚みは4.5μmであった。また誘電体層の有効積層数は150層であった。
表2に測定結果を示す。
尚、DCバイアス依存性△ε/εは、下記式:
{ε(13.5V)−ε(0V)}×100/ε(0V)
より求め、その他の特性は実施例1と同様にして求めた。
表2のNo.17の結果から、比誘電率は3000以上を示し、温度変化率、DCバイアスとも優れた特性を示した。
【0033】
【発明の効果】
本発明の誘電体磁器では、比誘電率が2750以上で、比誘電率の温度特性が±15%以内で、かつ3V/μmのDCバイアス印加による比誘電率の変化率が20%以内の特性を有し、それにより高電圧が印加されても静電容量の低下率が小さい小型・高容量の積層セラミックコンデンサを実現することが可能となる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘電体磁器および積層型電子部品に関するものであり、より詳細には、例えば誘電体層に印加される直流電圧が2V/μm以上であるような高電圧用の積層セラミックコンデンサ等の形成に特に有用な誘電体磁器、及び該磁器を用いて形成された積層型電子部品に関する。
【0002】
【従来技術】
近年、電子機器の小型化、高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化の要求が高まってきている。このような要求に応えるために、積層セラミックコンデンサ(MLC)においては、誘電体層を薄層化することにより静電容量を高めると共に、誘電体層の積層数を増やすことにより、小型・高容量化を図っている。
誘電体層の形成に使用される誘電体材料には、小型・高容量化の為に、高い比誘電率が要求されることはもちろんのこと、誘電損失が小さく、誘電特性の温度に対する依存性(温度依存性)や直流電圧に対する依存性(DCバイアス依存性)が小さい等の種々の特性が要求される。
また、誘電体層の薄層化に伴い、積層セラミックコンデンサに印加する電界の増大による信頼性低下を抑制する為に、粒子径のより小さい誘電体材料が使用されるようになってきた。
また、近年の環境保護、環境安全に対する要求から鉛を含有しない電子部品が求められ、電子部品を構成する磁器材料においても鉛を含有しない材料が要求されている。
【0003】
従来、積層セラミックコンデンサを構成する誘電体材料としては、ペロブスカイト型(ABO3型)酸化物であるチタン酸バリウム(BaTiO3)(例えば特許文献1参照)や、チタン酸ジルコン酸バリウム(BaTiZrO3)、又は鉛元素を含有するマグネシウム酸ニオブ酸鉛(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3)や、SrTiO3−PbTiO3材料等が知られている。
現在、小型・高容量で温度特性に優れた積層セラミックコンデンサ(MLC)用の誘電体材料としては、BT系材料が主流であり、大きな比誘電率を示すサブミクロン粒径のBT焼結体が使用されている。また、BT系材料の中でも、ジルコニア等が添加され、添加成分の元素が固溶し、焼結粒子表面に偏在する(粒子中心部よりも表面部分に多く存在する)コアシェル構造を有するものは、添加物による粒成長抑制効果とコアシェル構造により、誘電特性の温度依存性が改善され、温度特性の良好な誘電体磁器として知られており、MLC用の誘電体材料として注目されている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
ところで、上述した公知のBT系材料には、DCバイアス依存性が高く、直流電圧印加による比誘電率の減少が大きいという欠点がある。即ち、小型化の為に誘電体層の薄層化を推し進めると、誘電体層に印加される電界が増大する為、このようなBT系材料で形成された誘電体層から成るコンデンサでは、静電容量の減少が大きく、実効的静電容量が小さくなるという問題があった。
また、BT焼結粒子の粒径をサブミクロンよりさらに小さくしていくと、DCバイアス依存性を改善できるが、この場合には、比誘電率が減少してしまう為、小型で高容量かつDCバイアス特性を同時に満足する事はできなかった。
大きな比誘電率を示し、DCバイアス依存性を小さくする為に、前記マグネシウム酸ニオブ酸鉛(PMN)等の緩和型強誘電体を用いる事が有効である事が知られている。緩和型強誘電体は比誘電率のピークにおいてマクロな分極を持たないため、マクロな分極の揺らぎに起因した大きなDCバイアス依存性を示す強誘電体に比べ、小さなDCバイアス依存性を示す。
【0005】
緩和型強誘電体であるPMNや、温度特性が類似のBTZ等は、10000を越す非常に大きな比誘電率を示す一方で、比誘電率のピークが使用温度範囲近傍において単一でまた温度変化率が非常に大きく、またDCバイアス印加時の比誘電率ピークの減少率も非常に大きい。しかしながら、緩和型強誘電体はBT等の通常の強誘電体に比べ、同じ比誘電率で比較すると、DCバイアス依存性は小さい。
チタン酸ジルコン酸バリウム(BTZ)、PMNとも粒子サイズを1μmより小さくしていくと、比誘電率はピークのみが低下し、温度変化率、DC電圧印加時の比誘電率の低下率も小さくなり、DCバイアス依存性が小さな高誘電率材料を実現できる。
【0006】
一般に、BTZ型結晶は、逐次相転移に伴う原子の揺らぎに起因して4000を越す大きな比誘電率を示すBTのBサイト元素Tiの一部をZrにより置換する事により、逐次相転移の転移点が一点に集約され、常誘電相―強誘電相相転移温度が低下するとともに、比誘電率が増大する。粒子サイズが小さくなると、比誘電率ピークが小さくなり、温度特性が平坦化するとともに、誘電的基底状態に近づく為、DCバイアス依存性は小さくなり、薄層化に対応した誘電特性を示す。しかしながら、逐次相転移点が収束する為、逐次相転移の存在により平坦であった温度特性がBTに比べ悪くなる。BTZ型結晶は、−25℃〜85℃においては平坦な温度特性を実現できるが、X7R規格である−55℃〜125℃の広い温度範囲では当該規格を満足する事は困難である。
【0007】
また、BTZのZr濃度を変える事により、比誘電率のピークを示す温度を変える事ができる為、2種類以上のZr濃度の異なるBTZ結晶の共存する複合材料を形成することにより、温度特性に優れ、高誘電率でDCバイアス依存性に優れた薄層対応誘電体材料を実現できる(例えば特許文献3参照)。しかしながら、Zr置換したBTZは、BTの常誘電相−強誘電相相転移温度(〜125℃)以上の転移温度を示す事は出来ない事と、大きな比誘電率を示す為にはZrで5%以上置換されなければならない為、BTZの比誘電率のピーク温度は100℃以下となる。
この為、2種類以上のZr濃度の異なるBTZを用いたコンポジット材料では、−25℃〜85℃においては平坦な温度特性を実現できるが、X7R規格である−55℃〜125℃の広い温度範囲では当該規格を満足する事は非常に困難である。
例えば、特許文献1等には、平均粒径が0.1〜0.3μmであり、温度特性の異なる2種類以上の微粒子結晶により構成された誘電体磁器が提案されており、この誘電体磁器は、平坦な温度特性(誘電特性の温度依存性が小さい)と、優れたDCバイアス特性を有していることが記載されている。即ち、0.1〜0.3μmの様な微粒子化を行い、誘電体磁器の誘電的活性を小さくすることにより、平坦な温度特性と優れたDCバイアス特性を得ているが、BT系材料においては、比誘電率が粒子サイズと共に単調に減少する為、0.1〜0.3μmの様な粒子サイズでは、最大でも2100程度の比誘電率しか得られず、高容量化に限界があった。
上記した通り、BTZにおいては、大きな比誘電率と、小さなDCバイアス依存性を実現できるが、比誘電率のピークが使用温度近傍において単一の為、比誘電率を比較的大きく維持したまま平坦な温度依存性を得る事は困難であった。
【0008】
【特許文献1】
特開平9−241075号公報
【特許文献2】
特開2002−226263号公報
【特許文献3】
特開2002−274937号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、比誘電率が高くて、比誘電率の温度依存性が小さく、かつ印加される電圧が高電圧でもDCバイアス印加による比誘電率の変化率が小さく、高電圧が印加されても静電容量の低下率が小さい誘電体磁器を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、Bサイトの一部がZrで置換されたペロブスカイト型チタン酸バリウム結晶粒子(BTZ型結晶粒子)と、Aサイトの一部がSrで置換されたペロブスカイト型チタン酸ビスマスナトリウム結晶粒子(BNST型結晶粒子)と、Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素とを含有する焼結体であって、前記Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素の一部は、それぞれ前記BTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子中に固溶し、かつ前記BTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子の何れもが0.3〜1.0μmの平均粒径を有していることを特徴とする誘電体磁器が提供される。
【0011】
本発明においては更に
(1)前記BTZ型(Ba(Ti1−xZrx)O3)結晶粒子中のBサイトがxが0.20ないし0.30になるようにZrで置換されていること、
(2)前記BNST型((Bi0.5Na0.5)1 − ySryTiO3)結晶粒子中のAサイトがyが0.40ないし0.45になるようにSrで置換されていること、
(3)Mg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が前記BTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子の中心部よりも結晶粒子表面側に多く偏在するように固溶して、前記BTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子がコアシェル型構造を有していること、
(4)前記Mg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素の一部が前記BTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子の粒界に、その酸化物及び/又は複合酸化物として存在すること、
(5)前記希土類元素が、Y、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbからなる群より選択された少なくとも1種であること、
(6)前記焼結体中に前記BTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子とをBTZ型結晶粒子/BNST型結晶粒子(モル比)で0.40ないし1.5の割合で含有していること、
(7)Mgが前記焼結体中に酸化物換算で0.1乃至0.5質量%含有していること、
(8)希土類元素が前記焼結体中に酸化物換算で0.1乃至1.7質量%含有していること、
(9)Mnが前記焼結体中にMnCO3換算で0.05乃至0.4質量%含有していること、
(10)焼結体中のBTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子の含有割合が92質量%以上であることが望ましい。
本発明によれば更に、前記誘電体磁器からなる層と金属からなる内部電極層とを交互に積層してなることを特徴とする積層型電子部品が提供される。
【0012】
本発明の誘電体磁器においては、BTZ型系結晶粒子とBNST型系結晶粒子とが共存していることが重要な特徴であり、更にこのような共存系において、BTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子は、粒子中心部よりも粒子表面側に焼結助剤としての機能も有するMg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が偏在したコアシェル型構造を形成するのが望ましく、この結果、高誘電率であり、比誘電率の温度依存性やDCバイアス依存性が極めて小さいという特性を有することになる。
【0013】
サイトの一部がSrで置換されたペロブスカイト型チタン酸ビスマスナトリウム((Bi0.5Na0.5)1−ySryTiO3)結晶粒子(BNST型結晶粒子)は、Aサイトが1価と3価の元素で構成されるペロブスカイト型チタン酸ビスマスナトリウム((Bi0.5Na0.5)TiO3)結晶粒子(BNT型結晶粒子)に、常誘電体ペロブスカイトSrTiO3結晶を固溶させたものである。BNT結晶は、室温以上において強誘電相−反強誘電相−常誘電相の相関係を持ち、特筆すべきは常誘電及び反強誘電相においても非常に大きな比誘電率を示す事である。また、常誘電相、強誘電相においては、分極−電界履歴曲線から明らかな様に、電界印加に対し、分極レスポンスは線形であり、分極−電界曲線の傾きが誘電率を表す事から、誘電率の電界依存性は、一定の電界強度まで基本的に殆どゼロである。このため、常誘電体、反強誘電体はDCバイアス依存性に非常に優れた材料である。
【0014】
本発明においては、高誘電率でDCバイアス依存性に非常に優れたBNTのAサイトの一部をSrで置換してBNSTとする事により、比誘電率を大きく低下する事無く、BNTにおいて200℃乃至300℃に存在していた常誘電相、反強誘電相の温度領域を100℃近傍の低温に移動できる。
即ち、本発明においては、BTZ型(Ba(Ti1−xZrx)O3)系結晶粒子中のBサイトをxが0.20ないし0.30になるようにZrで置換する事により、高誘電率を維持したまま単一ピークを示す比誘電率のピーク温度を室温以下とすることができるとともに、BTZにおいては強誘電性が小さいため、DCバイアス依存性の少ない誘電体磁器を実現できる。
また、BNST型((Bi0.5Na0.5)1−ySryTiO3)結晶粒子中のAサイトをyが0.40ないし0.45になるようにSrで置換して、比誘電率のピークを100℃以上とした高誘電率BNSTと、前記比誘電率のピークを室温以下としたBTZとを共存させた複合構造とする事により、比誘電率が大きく、温度特性が平坦で、かつ、DCバイアス依存性、特にマイクロプロセッサ等で重要となる80℃近傍の高温でのDCバイアス特性に非常に優れた誘電体磁器を実現できる。
本発明では、Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素の一部が、それぞれ0.3〜1.0μmの平均粒径を有したBTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子中に固溶して存在していることが望ましく、更にこれらのMg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が粒子中央部よりも粒子表面側に偏在したコアシェル型構造を有している事が望ましい。
本発明の焼結体粒子において、前記BTZ型系結晶粒子とBNST型系結晶粒子の粒界に、Mg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素の一部がその酸化物及び/又は複合酸化物として存在することが望ましい。
希土類元素としては、Y、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbから成る群より選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0015】
Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が粒子中央部よりも粒子表面に偏在しているコアシェル型粒子構造を形成させることが温度特性やDCバイアス特性に有利であり、また、微粒子BTZおよびBNST結晶粒子の共存構造を形成する為に、各粒子にコアシェル構造を形成して、粒子間固溶を抑制する事が望ましい。
BTZ型系結晶粒子とBNST型系結晶粒子の粒子サイズを微小化することは、DCバイアス特性を向上させる上で有利であり、また、温度特性を平坦化する上で重要である。また、積層電子部品の薄層化に対応する為、誘電体粒子の粒子サイズは1μm以下とするのが重要である。このため、BTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子をサブミクロンオーダーの平均粒径0.3〜1.0μmで共存させる必要がある。
【0016】
前記焼結体中において、BTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子とをBTZ型結晶粒子/BNST型結晶粒子(モル比)で好ましくは0.40乃至1.5の割合で、特に好ましくは0.67乃至1.2の割合で含有している。
BTZ型結晶粒子/BNST型結晶粒子(モル比)が0.40未満の場合はBNST型結晶の誘電特性が支配的になって、100℃近傍においてピークとなる比誘電率は温度と共に単調減少となるため、低温で高誘電率化に寄与するBTZの誘電特性が充分に発揮されず、室温より低温での高い比誘電率を実現することができないおそれがある。一方、BTZ型結晶粒子/BNST型結晶粒子(モル比)が1.5を超える場合は、BTZの誘電特性が支配的になり、高温領域での高誘電率を実現することができないおそれがある。
また、前記焼結体中のBTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子の含有割合が好ましくは92質量%以上、より好ましくは95質量%以上である。
即ち、これらの結晶粒子の含有割合を92質量%以上とすることにより、これらの結晶粒子の優れた特性を充分に維持することができる。
【0017】
前記焼結体中にMgが酸化物換算で0.05乃至0.5質量%含有していることが望ましい。
Mgが酸化物換算で0.05質量%以上含有している場合に結晶の粒成長を充分に抑制して所望の微構造を実現し、一方、前記0.5質量%以下の場合に、低誘電率相の増加による比誘電率の低下を抑制するという効果を発揮できる。
前記焼結体中に希土類元素が酸化物換算で0.1乃至1.7質量%含有していることが望ましい。
希土類元素が酸化物換算で0.1質量%以上含有しているとき還元雰囲気焼成により発生する酸素空孔の電荷を十分補償して、温度、電圧負荷に対する絶縁的寿命が短くなるのを抑制し、一方、希土類元素が酸化物換算で1.7質量%以下のときに電荷中性のバランスのくずれによる絶縁抵抗の低下を抑制するという効果を発揮できる。
また、前記焼結体中にMnがMnCO3換算で0.05乃至0.4質量%含有していることが望ましい。
MnがMnCO3換算で0.05質量%以上含有しているときに、還元雰囲気焼成時の磁器の半導体化を抑制し、一方、0.4質量%以下のときに低誘電率相の形成による磁器の比誘電率の低下を抑制するという効果を発揮できる。
【0018】
かくして本発明の誘電体磁器は、サブミクロンオーダーの平均粒径(0.3〜1.0μm)でBTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子が共存し、更に好ましくは各結晶粒子は、Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が結晶粒子中心部よりも粒子表面に偏在したコアシェル型構造を有することにより、高誘電率を有し、しかも、誘電特性の温度依存性やDCバイアス依存性も極めて小さいという極めて優れた特性を発現することが可能となる。
【0019】
また、上述した誘電体磁器により形成された誘電体からなる層と金属からなる内部電極層とを交互に積層してなる本発明の積層型電子部品は、誘電体磁器が上記特性を有していることから、誘電体層の薄層化により、積層数を増やすことなく、静電容量の大容量化を図ることができ、積層コンデンサとして極めて有用である。また、上記誘電体磁器の結晶粒径が小さいため、該誘電体磁器により形成される誘電体層の薄層化も極めて容易であり、さらなる静電容量の向上、さらなる小型化が実現できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の誘電体磁器を製造するには、例えばゾルゲル法、蓚酸法、水熱合成法により生成された、所定の組成を有するBTZ粉末と、固相法により生成されたBNST粉末を用いる。これらBTZ粉末及びBNST粉末は、MgやMn、希土類元素が固溶していないものである。
尚、Aサイトの一部がSrで置換されたBNST粉末は、Bi2O3、Na2CO3、SrCO3、及びTiO2を所定量秤量混合し、850℃以上の温度で大気中で熱処理を行うことによって得られる。
また、焼成によって僅かであるが平均粒径の変動を生じることがあるため、前述したサブミクロンオーダーの平均粒径を有するBTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子を析出させるために、用いるBTZ粉末及びBNST粉末の平均粒径は0.3〜1μmの範囲にあるのがよい。
上記のBTZ粉末とBNST粉末との混合粉末に、所定量のMg及び希土類元素の酸化物あるいは炭酸塩、更に必要により、Mnの炭酸塩やガラス等の任意成分を加えて回転ミルなどで10〜30時間湿式混合し、乾燥する。次いで、ポリビニルアルコール等の有機バインダーや有機溶媒を所定量添加して成形用スラリーを調製する。
【0021】
このスラリーを、引き上げ法、ドクターブレード法、リバースロールコータ法、グラビアコータ法、スクリーン印刷法、グラビア印刷等の周知の成形法を用いて所定形状に成形し、成形体を、大気中、真空中または窒素中で脱脂した後、大気中または還元雰囲気中で、1150〜1300℃、特に1200〜1300℃の焼成温度で1〜10時間焼成することにより、本発明の誘電体磁器を得ることができる。
かくして得られる本発明の誘電体磁器は、高誘電率を有し、しかも、誘電特性の温度依存性やDCバイアス依存性も極めて小さいという極めて優れた特性を有している。例えば、20℃での比誘電率εr(20℃)が2750以上、特に3000以上であり、温度変化率TCCは、±15%以内であり、比誘電率のDCバイアス依存性Δε/εは、−20%以内である。
【0022】
(積層型電子部品)
上記のような特性を有する本発明の誘電体磁器は、例えば誘電体層に印加される直流電圧が2V/μm以上であるような高電圧用の積層セラミックコンデンサとして有効に適用される。
この積層型電子部品は、上述した誘電体磁器から形成された誘電体層と、金属からなる内部電極層とを交互に積層して構成され、通常、この積層体の側面には、内部電極層と電気的に接続された外部電極が設けられており、この外部電極を通じて静電容量が取り出されるようになっている。
また、内部電極層を形成する金属としては、Ag/PdもしくはNi、Cu等卑金属であっても良い。卑金属においては、特に安価という点からNiが好適に使用される。
かかる積層型電子部品は、先に述べた誘電体磁器の製造方法に準拠して製造される。
【0023】
即ち、先に述べた方法にしたがって、本発明の誘電体磁器を製造するための成形用スラリーを調製し、前記成形法により、誘電体層を形成するセラミックグリーンシート(誘電体シート)を成形する。この誘電体シートの厚みは、電子部品の小型、大容量化という見地から、1〜10μm、特に1〜5μmであることが望ましい。
次に、この誘電体シートの表面に、Ag/PdもしくはNi等の卑金属を含有する導電性ペーストを、スクリーン印刷法、グラビア印刷、オフセット印刷法等の周知の印刷方法により塗布し内部電極パターンを形成する。内部電極パターンの厚みは、コンデンサの小型、高信頼性化という点から2μm以下、特に1μm以下であることが望ましい。
このようにして表面に内部電極パターンが塗布された誘電体シートを複数枚積層圧着し、この積層成形体を、大気中250〜300℃、または酸素分圧0.1〜1Paの低酸素雰囲気中500〜800℃で脱脂した後、大気中もしくは非酸化性雰囲気で1150〜1300℃で2〜3時間焼成する。非酸化性雰囲気で焼成する場合、さらに所望により、酸素分圧が0.1〜10−4Pa程度の低酸素分圧下、900〜1100℃で5〜15時間再酸化処理を施すことにより、還元された誘電体層が酸化され、良好な絶縁特性を有する誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層体が得られる。
【0024】
最後に、得られた積層焼結体に対し、各端面にCuペーストを塗布して焼き付け、Ni/Snメッキを施し、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成して積層セラミックコンデンサが得られる。
このような積層セラミックコンデンサからなる積層型電子部品では、高誘電率で、優れたDCバイアス特性を有する本発明の誘電体磁器により形成された誘電層を備えているため、印加直流電圧が2V/μm以上であるような高電圧用に極めて有用であり、また、高容量化・小型化をさらに推し進めることができる。更に、平均粒径の小さい誘電体磁器を用いていることにより、誘電体層厚みを容易に薄層化することができ、静電容量の向上、小型化が可能になる。
また、Ni、Cu等の卑金属を導体として用いることにより、安価な積層セラミックコンデンサが得られる。
【0025】
【実施例】
実施例1
水熱合成法により得られた表1に示すBa(Ti1−xZrx)O3粉末を準備した。
次にBi2O3粉末、Na2CO3粉末、SrCO3粉末、及びTiO2粉末を混合し、900℃で2時間大気中で仮焼を行い、仮焼体をボールミル粉砕により表1に示すようなSr置換量及び平均粒径を有するBNST粉末を調製した。
上記のBNST粉末と、表1に示す平均粒径を有するBTZ粉末とを、表1に示す割合で混合し、更にMgO、Y2O3、MnCO3、BaCO3を表1に記載する量だけ添加した。更にSi、Li、Ba及びCaを含有するガラスフィラーを、全量中で1.2質量%になるように添加し、イソプロパノール(IPA)を溶媒として3mmφのZrO2ボールを用いて回転ミルで12時間湿式混合した。
【0026】
得られたスラリーを乾燥した後、該乾燥物に対しバインダーを約2質量%に相当する量添加して造粒し、これを厚さ約1mm、直径16mmに成形した。この成形体を脱脂した後、大気中にて1200℃で2時間焼成し、誘電体磁器(試料No.1〜16)を得た。
この焼結体の断面を、マイクロオージェ電子分光法により観察し、Bi元素を含有する粒子と含有しない粒子を、それぞれBNST及びBTZと同定し、インターセプト法により、BNST結晶粒子及びBTZ結晶粒子の平均粒径を求めた。
さらに、上記誘電体磁器を厚さ400μmに研磨加工し、試料上下面にIn−Gaを塗布して電極を形成した。
【0027】
電気特性は、LCRメータを用いて−55℃〜125℃の温度範囲で、AC1V、測定周波数:1kHzの条件で静電容量を測定し、比誘電率を算出した。比誘電率の温度変化率TCCを20℃を基準温度として、下記式より求めた。
TCC(%)={ε(T)−ε(20℃)}×100/ε(20℃)
また、分極−電界ヒステレシス特性測定装置を用いて、DCオフセット電圧(1200V)を30秒印加後、DCオフセット電圧を印加したままで、微小電圧(100V,100Hz)によるヒステレシス曲線を測定し、その傾きからDCバイアス印加時の比誘電率ε(1200V)を算出し、下記式:
△ε/ε={ε(1200V)−ε(0V)}×100/ε(0V)
により、20℃での比誘電率のDCバイアス依存性△ε/εを求めた。
上記結果を表2に示す。
尚、表1、2中の試料Noに*印を付したものは本発明の範囲外の実験条件およびそれによって得られた結果である。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
表2から、BTZ及びBNSTの平均粒径が各々0.2μmからなる試料No.14はTCC、DCバイアス特性に優れてはいるが比誘電率が2250と低い。また、BTZ及びBNSTの一方の平均粒径が0.2μmである試料No.15、16でも比誘電率がそれぞれ2450、2300と低かった。
一方、BTZとBNSTの各組成を指定し共存構造を実現した本発明の試料では、比誘電率2750以上、特には3000以上、比誘電率の変化率も±15%以内であり、かつDCバイアス依存性も−20%以内と優れている。
また、酢酸溶液を用いて、BTZ及びBNST型結晶以外の含有物を流出させ、溶出後の磁器の重量より求めた焼結体中におけるBTZとBNSTの含有割合は92質量%以上であった。
更に、本発明の試料では、マイクロオージェ電子分光法及び透過型電子顕微鏡により誘電体磁器の粒子の結晶構造、組成を分析したところ、BTZ、BNST結晶粒子が存在しており、各BTZ、BNST結晶粒子内において、中心部と周辺部において組成の相違が確認でき、Ba、Ti、Zr、Bi、Na、Srは均一に存在し、周辺部においてはMgと、Yが検出されたが、中心部においては検出されず、いわゆるコアシェル構造を呈していた。また、透過型電子顕微鏡によりBTZ、BNST結晶粒子の粒界にYを含む酸化物の存在が確認された。
【0031】
実施例2(MLCC)
まず、実施例1と同様にして、BTZ粉末、BNST粉末、MgO、MnCO3、Y2O3、BaCO3を表1のNo.17に示す割合で混合し、更に、ブチラール樹脂およびトルエンを加えてセラミックスラリーを調製した。このスラリーを、ドクターブレード法によりPETフィルム上に塗布し、乾燥機内で60℃で15秒間乾燥後、これを剥離して厚み9μmのセラミックグリーンシートを形成し、これを10枚積層して端面セラミックグリーンシート層を形成した。そして、これらの端面セラミックグリーンシート層を、90℃で30分の条件で乾燥させた。
この端面セラミックグリーンシート層を台板上に配置し、プレス機により圧着して台板上にはりつけた。
一方、PETフィルム上に、上記と同一のセラミックスラリーをドクターブレード法により塗布し、60℃で15秒間乾燥後、厚み5.5μmのセラミックグリーンシートを多数作製した。
次に、平均粒径0.2μmのNi粉末の合量45質量%に対して、エチルセルロース5.5質量%とオクチルアルコール94.5質量%からなるビヒクル55質量%を3本ロールで混練して内部電極ペーストを作製した。
この後、得られたセラミックグリーンシートの一方の表面に、スクリーン印刷装置を用いて、上記した内部電極ペーストを内部電極パターン状に印刷し、グリーンシート上に長辺と短辺を有する長方形状の内部電極パターンを複数形成し、乾燥後、剥離した。
この後、端面セラミックグリーンシート層の上に、内部電極パターンが形成されたグリーンシートを150枚積層し、この後、端面セラミックグリーンシートを積層し、コンデンサ本体成形体を作製した。
次に、コンデンサ本体成形体を金型上に載置し、積層方向からプレス機の加圧板により圧力を段階的に増加して圧着し、この後さらにコンデンサ本体成形体の上部にゴム型を配置し、静水圧成形した。
【0032】
この後、このコンデンサ本体成形体を所定のチップ形状にカットし、大気中300℃または0.1Paの酸素/窒素雰囲気中500℃に加熱し、脱バインダーを行った。さらに、10−7Paの酸素/窒素雰囲気中、1200〜1250℃で2時間焼成し、さらに、10−2Paの酸素/窒素雰囲気中にて1000℃で再酸化処理を行い、電子部品本体を得た。焼成後、電子部品本体の端面にCuペーストを900℃で焼き付け、さらにNi/Snメッキを施し、内部電極と接続する外部端子を形成した。
このようにして得られた積層セラミックコンデンサの内部電極間に介在する誘電体層の厚みは4.5μmであった。また誘電体層の有効積層数は150層であった。
表2に測定結果を示す。
尚、DCバイアス依存性△ε/εは、下記式:
{ε(13.5V)−ε(0V)}×100/ε(0V)
より求め、その他の特性は実施例1と同様にして求めた。
表2のNo.17の結果から、比誘電率は3000以上を示し、温度変化率、DCバイアスとも優れた特性を示した。
【0033】
【発明の効果】
本発明の誘電体磁器では、比誘電率が2750以上で、比誘電率の温度特性が±15%以内で、かつ3V/μmのDCバイアス印加による比誘電率の変化率が20%以内の特性を有し、それにより高電圧が印加されても静電容量の低下率が小さい小型・高容量の積層セラミックコンデンサを実現することが可能となる。
Claims (12)
- Bサイトの一部がZrで置換されたペロブスカイト型チタン酸バリウム結晶粒子(BTZ型結晶粒子)と、Aサイトの一部がSrで置換されたペロブスカイト型チタン酸ビスマスナトリウム結晶粒子(BNST型結晶粒子)と、Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素とを含有する焼結体であって、前記Mg、Mn及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素の一部は、それぞれ前記BTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子中に固溶し、かつ前記BTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子の何れもが0.3〜1.0μmの平均粒径を有していることを特徴とする誘電体磁器。
- 前記BTZ型(Ba(Ti1−xZrx)O3)結晶粒子中のBサイトがxが0.20ないし0.30になるようにZrで置換されている請求項1に記載の誘電体磁器。
- 前記BNST型((Bi0.5Na0.5)1 − ySryTiO3)結晶粒子中のAサイトがyが0.40ないし0.45になるようにSrで置換されている請求項1に記載の誘電体磁器。
- 前記Mg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が前記BTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子の中心部よりも結晶粒子表面側に多く偏在するように固溶して、前記BTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子がコアシェル型構造を有していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の誘電体磁器。
- 前記Mg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素の一部が前記BTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子の粒界に、その酸化物及び/又は複合酸化物として存在することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の誘電体磁器。
- 前記希土類元素が、Y、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbからなる群より選択された少なくとも1種である請求項5に記載の誘電体磁器。
- 前記焼結体中に、前記BTZ型結晶粒子とBNST型結晶粒子とをBTZ型結晶粒子/BNST型結晶粒子(モル比)で0.40ないし1.5の割合で含有している請求項1乃至5のいずれかに記載の誘電体磁器。
- Mgが前記焼結体中に酸化物換算で0.1乃至0.5質量%含有していることを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載の誘電体磁器。
- 希土類元素が前記焼結体中に酸化物換算で0.1乃至1.7質量%含有していることを特徴とする請求項5乃至8のいずれかに記載の誘電体磁器。
- Mnが前記焼結体中にMnCO3換算で0.05乃至0.4質量%含有していることを特徴とする請求項5乃至9のいずれかに記載の誘電体磁器。
- 前記焼結体中のBTZ型結晶粒子及びBNST型結晶粒子の含有割合が92質量%以上である請求項1乃至10のいずれかに記載の誘電体磁器。
- 請求項1ないし11のいずれかに記載の誘電体磁器からなる層と金属からなる内部電極層とを交互に積層してなることを特徴とする積層型電子部品。
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