JP4519342B2 - 誘電体磁器および積層型電子部品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘電体磁器および積層型電子部品に関するものであり、より詳細には、例えば誘電体層に印加される直流電圧が2V/μm以上であるような高電圧用の積層セラミックコンデンサ等の形成に特に有用な誘電体磁器及び該磁器を用いて形成された積層型電子部品に関する。
【0002】
【従来技術】
近年、電子機器の小型化、高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化の要求が高まってきている。このような要求に応えるために、積層セラミックコンデンサ(MLC)においては、誘電体層を薄層化することにより静電容量を高めると共に、誘電体層の積層数を増やすことにより、小型・高容量化を図っている。
誘電体層の形成に使用される誘電体材料には、小型・高容量化の為に、高い比誘電率が要求されることはもちろんのこと、誘電損失が小さく、誘電特性の温度に対する依存性(温度依存性)や直流電圧に対する依存性(DCバイアス依存性)が小さい等の種々の特性が要求される。
また、誘電体層の薄層化に伴い、積層セラミックコンデンサに印加する電界の増大による信頼性低下を抑制する為に、粒子径のより小さい誘電体材料が使用されるようになってきた。
【0003】
ペロブスカイト型(ABO3型)酸化物であるチタン酸バリウム(BaTiO3)は、コンデンサ等の電子部品に用いる誘電体材料として広く使用されており、この比誘電率が粒子径に依存する事も知られている。例えば、BaTiO3(以下、BTと呼ぶことがある)の比誘電率は、0.5〜1μmの粒子サイズで最大値を示し、さらに粒径を小さくすると、比誘電率は単調に減少する。現在、小型・高容量で温度特性に優れた積層セラミックコンデンサ(MLC)用の誘電体材料としては、BT系材料が主流であり、大きな比誘電率を示すサブミクロン粒径のBT焼結体が使用されている。
また、BT系材料の中でも、ジルコニア等が添加され、添加成分の元素が固溶し、焼結粒子表面に偏在する(粒子中心部よりも表面部分に多く存在する)コアシェル構造を有するものは、添加物による粒成長抑制効果とコアシェル構造により、誘電特性の温度依存性が改善され、温度特性の良好な誘電体磁器として知られており、MLC用の誘電体材料として注目されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述した公知のBT系材料には、DCバイアス依存性が高く、直流電圧印加による比誘電率の減少が大きいという欠点がある。即ち、小型化の為に誘電体層の薄層化を推し進めると、誘電体層に印加される電界が増大する為、このようなBT系材料で形成された誘電体層から成るコンデンサでは、静電容量の減少が大きく、実効的静電容量が小さくなるという問題があった。
また、BT焼結粒子の粒径をサブミクロンよりさらに小さくしていくと、DCバイアス依存性を改善できるが、この場合には、比誘電率も減少してしまう為、小型・高容量・DCバイアス特性を同時に満足する事はできなかった。
【0005】
例えば、特開平9−241075号公報には、平均粒径が0.1〜0.3μmであり、温度特性の異なる2種類以上の微粒子結晶により構成された誘電体磁器が提案されており、この誘電体磁器は、平坦な温度特性(誘電特性の温度依存性が小さい)と、優れたDCバイアス特性を有していることが記載されている。即ち、1μm以下の粒子サイズでは、平坦な温度特性と優れたDCバイアス特性を実現するコアシェル構造の形成が困難であるため、この先行技術では、1μm以下の粒子サイズで、同様な効果を得る為に、さらなる微粒子化を行い、誘電体磁器の誘電的活性を小さくすることにより、平坦な温度特性と優れたDCバイアス特性を得ている。
しかるに、上述した様に、BT系材料においては、比誘電率が粒子サイズと共に単調に減少する。この結果、0.1〜0.3μmの様な粒子サイズでは、最大でも2100程度の比誘電率しか得られず、高容量化に限界があった。
また、原料の粒子サイズが0.3μm以下になると、焼結時に容易に固溶体を形成し粒成長してしまうため、原料粒子サイズを維持したまま緻密な焼結体を作製するには種々の条件が必要であり、上記先行技術の誘電体磁器は作製が困難であった。
【0006】
更に特開平2000−58378号公報には、BaTiO3のBaを一部Caで置換した(Ba1−xCax)TiO3(以下、BCTと呼ぶことがある)を用い、コアシェル構造を形成する事により、平坦な温度特性と、優れたDCバイアス特性を実現できることが記載されている。
しかしながら、BaTiO3のBaの一部をCaで置換した場合には、Ca置換量が少量であっても、比誘電率が大きく減少する事が知られている。即ち、BCT焼結粒子の粒径をサブミクロンオーダーとすることにより、温度特性やDCバイアス特性を著しく向上させることはできても、比誘電率を2000よりも高めることは困難である。
また、BCTは、原料微結晶の粒成長を抑制し微粒子焼結体を作製する上で必要不可欠であるMg、希土類元素と混合し、焼成すると、Caの拡散にともなって、粒成長が起こり易く、コアシェル構造を作製する為には、厳しい条件制御が必要であった。特に、サブミクロン以下の粒径を有する原料を用いた場合、コアシェル構造を形成する上で不可欠である1200〜1300℃で焼成すると、容易に粒成長を起こしてしまう。また、BCTに含まれるCa量が多いほど原子拡散による粒成長が起こりやすく、BCTのCa置換量が数%以上の場合、1200℃〜1300℃の焼成では、Mgや希土類元素化合物を助剤として用いたとしても、微粒子焼結体を作製する事は容易ではなかった。更に、1200℃よりも低い低温で焼成した場合、Mg、希土類元素の拡散が不十分となり易く、コアシェル構造の形成が容易でない問題があった。
【0007】
従って、本発明の目的は、比誘電率が大きく、かつ比誘電率の温度特性、DCバイアス特性が良好な誘電体磁器を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記の誘電体磁器から形成された誘電体層を備え、高電圧が印加されても静電容量の低下率が小さい積層型電子部品を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、Aサイトの一部がCaで置換されたペロブスカイト型チタン酸バリウム結晶粒子(BCT型結晶粒子)と、置換Caを含有していないペロブスカイト型チタン酸バリウム結晶粒子(BT型結晶粒子)と、Mg及び希土類元素とを含有し、
前記Mg及び希土類元素の少なくとも一部は、それぞれ、前記BCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子中に固溶しており、
前記BCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子は、何れも前記Mg及び希土類元素が粒子中心よりも粒子表面側に偏在したコアシェル型構造を有しているとともに、
前記BCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子の何れもが、0.2〜0.8μmの平均粒径を有していることを特徴とする誘電体磁器が提供される。
本発明によれば更に、誘電体層と卑金属からなる内部電極層とを交互に積層してなる積層型電子部品であって、前記誘電体層が、前記誘電体磁器から形成されていることを特徴とする積層型電子部品が提供される。
【0009】
本発明において、前記希土類元素としては、Y、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbから成る群より選択された少なくとも1種であることが好ましく、BCT型結晶粒子は、Aサイトの2〜22モル%がCaで置換されていることが好ましい。
また、本発明の誘電体磁器は、前記BCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子を、合計で、92重量%以上含有していることが好ましく、前記BCT型結晶粒子とBT型結晶粒子とを、BCT/BT=0.05乃至20のモル比で含有していることが好適である。
更に、本発明の誘電体磁器は、Mnを、MnCO3換算で、0.4重量%以下の量で含有しているこが望ましい。
【0010】
本発明の誘電体磁器においては、BCT型結晶粒子とBT型結晶粒子とが共存していることが重要な特徴であり、このような共存系において、BCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子は、粒子中心よりも粒子表面側に焼結助剤に由来するMg及び希土類元素が偏在したコアシェル型構造を形成し、この結果、高誘電率であり、比誘電率の温度依存性やDCバイアス依存性が極めて小さいという特性を有している。
【0011】
一般に、BTは、逐次相転移に伴う原子の揺らぎに起因して4000を越す大きな比誘電率を示すが、逐次相転移の前駆現象である原子の揺らぎに起因した高比誘電率の為、DCバイアスの印加による比誘電率の減少が大きい。
一方、BTに見られる3つの逐次相転移点の内、最も高温(125℃程度)にある相転移温度は、Aサイトの一部がCaで置換されても殆ど変わることがないが、室温近傍とそれよりさらに低温の構造相転移点は、置換Ca量の増大に比例して低温にシフトする。即ち、BTが高誘電率を示す大きな要因は、室温近傍とさらに低温の構造相転移の前駆現象である原子の揺らぎの増大である為、Aサイトの一部がCaで置換されたBCTでは、室温近傍及びさらに低温での転移点が低温側にシフトしており、比誘電率は減少するものの、DCバイアス特性は大きく向上する。
即ち、本発明の誘電体磁器では、高比誘電率を示し、温度特性に優れたBT結晶粒子と、DCバイアス特性に優れたBCT結晶粒子との共存構造を実現する事により、BT結晶に比べDCバイアス特性に優れ、また、BCT結晶に比べ高誘電率であり、且つ誘電特性の温度依存性、DCバイアス依存性が小さいという特性を示すものである。
【0012】
更に、本発明では、BCT型結晶粒子とBT型結晶粒子がサブミクロンオーダーの平均粒径(0.2〜0.8μm)で共存していることも重要な特徴である。
先にも説明した通り、結晶粒子サイズを微小化することは、DCバイアス特性を向上させる上で有利であるが、BCTを単独で用いた場合には、サブミクロンオーダーの粒径では、温度特性やDCバイアス特性に有利なコアシェル型粒子構造(Mgや希土類元素が粒子表面に偏在している)を形成させることが困難である。即ち、BCTを、Mg化合物や希土類元素化合物と混合し焼成すると、Mg、希土類元素がまず液相を形成しBCT結晶への拡散が起こるが、BCT中のCaは、Mg、希土類元素より早い拡散速度で動き、特にCa濃度が大きい場合には容易に粒子間を移動し、粒成長を引き起こす。Caの拡散を抑制し、粒成長を抑えるためには、焼成温度を低くし、焼成条件を厳密に制御すればよいが、Caの拡散を抑制する事は、Caより拡散速度の遅いMg、希土類元素の拡散をさらに抑制することになってしまう。従って、BCTの単独使用では、例えば1200℃以上の温度での高温焼成が困難であり、Mg及び希土類元素がBCT結晶粒子表面に偏在するコアシェル構造を得難い。
しかるに本発明においては、BCTに加えてBTが使用されているため、BCT結晶単体では容易でなかった高温焼成による微粒子焼結体を実現できる。即ち、焼成に際してのCaの拡散が、BCT粒子と共存するBT粒子によって抑制され、1200℃以上での高温焼成が可能となり、焼結性が向上し、原料粒子サイズが実質上そのまま維持されるばかりか、焼結助剤に由来するMgや希土類元素のBT及びBCT結晶粒子中への拡散が促進され、これら結晶粒子のコアシェル構造の形成も促進される。
かくして本発明の誘電体磁器は、サブミクロンオーダーの平均粒径(0.2〜0.8μm)でBCT型結晶粒子とBT型結晶粒子が共存し、しかも各結晶粒子は、粒子表面にMgや希土類元素が偏在したコアシェル型構造を有しており、この結果、高誘電率を有し、しかも、誘電特性の温度依存性やDCバイアス依存性も極めて小さいという極めて優れた特性を有している。
【0013】
例えば、本発明の誘電体磁器は、後述する実験例に示されている様に、20℃での比誘電率ε(20℃)が2000以上、特に2500以上であり、また、下記式:
TCC(%)={ε(T)−ε(20℃)}×100/ε(20℃)
式中、ε(T)は、任意の温度T(℃)での比誘電率を示し、
ε(20℃)は、20℃での比誘電率を示す、
で表される温度変化率TCCは、±10%以内であり、且つヒステレシス曲線から下記式:
Δε/ε(%)={ε(800V)−ε(0V)}×100/ε(0V)
式中、ε(800V)は、800Vの直流電圧を印加した時の比誘電率、
ε(0V)は、直流電圧を印加しない時の比誘電率である、
で算出される比誘電率のDCバイアス依存性Δε/εは、−20%以内である。また、上述した誘電体磁器により形成された誘電体層と卑金属からなる内部電極層とを交互に積層してなる本発明の積層型電子部品は、誘電体磁器が上記特性を有していることから、誘電体層の薄層化により、積層数を増やすことなく、静電容量の大容量化を図ることができ、積層コンデンサとして極めて有用である。また、上記誘電体磁器の結晶粒径が小さいため、該誘電体磁器により形成される誘電体層の薄層化も極めて容易であり、さらなる静電容量の向上、さらなる小型化が実現できる。さらに卑金属を内部電極として用いることにより、安価な積層型電子部品が得られる。
【0014】
【発明の実施の形態】
(結晶粒子)
本発明の誘電体磁器は、BCT型結晶粒子とBT型結晶粒子とを含有するものであり、上述した様に、このような2種の結晶粒子が共存していることにより、優れた特性を示す。
BCT型結晶粒子は、Aサイト(Baサイト)の一部がCaで置換されたペロブスカイト型チタン酸バリウムであり、理想的には、下記式:
(Ba1−xCax)TiO3
で表されるが、本発明においては、Mg及び希土類元素が、通常、このBサイトに固溶している(Aサイトに固溶していることもある)。
一方、BT型結晶粒子は、Ca非置換型のペロブスカイト型チタン酸バリウムであり、理想的には、下記式:
BaTiO3
で表されるが、上記のBCT型結晶粒子と同様、このBT型結晶粒子においても、このBサイトに、通常、Mg及び希土類元素が固溶している。
【0015】
本発明において、上記BCT型結晶粒子におけるAサイト中のCa置換量は、2〜22モル%、特に5〜15モル%であることが好ましい。Ca置換量がこの範囲内であれば、室温付近の相転移点が十分低温にシフトし、BT型結晶粒子との共存構造により、コンデンサとして使用する温度範囲において優れたDCバイアス特性を確保できるからである。
例えば、Ca置換量が上記範囲よりも少量の時は、その誘電特性は、BT型結晶粒子と大きな差異がなく、BCT型結晶粒子を用いる有効性が小さくなってしまう。一方、Ca置換量が上記範囲よりも多くなると、CaTiO3が容易に析出してしまい、誘電率の低下を生じるおそれがある。
【0016】
また、BCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子は、何れも、0.2〜0.8μmを有しており、特に比誘電率を高め、且つ比誘電率の温度依存性を抑制するためには、0.3〜0.7μmの平均粒径を有していることが好ましい。例えば、これら結晶粒子の平均粒径が0.2μmよりも小さいと、これら結晶粒子の比誘電率は何れも低く、誘電体磁器の比誘電率を高めることが困難となってしまう。また、焼成に際して、両者の間で容易に固溶が生じ、共存構造の実現が困難となるからである。更に、これら結晶粒子の平均粒径が0.8μmよりも大きくなると、その粒子サイズの増大に伴って、比誘電率が単調に減少してしまい、やはり高誘電率の誘電体磁器を得ることができなくなってしまう。
【0017】
本発明においては、既に述べた通り、BCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子の何れにも、Mg及び希土類元素が固溶している。これらの元素成分は、原料粒子の焼結性を高め、粒成長を抑制し、前述した平均粒径の結晶粒子を形成させるための焼結助剤として使用されるMg化合物及び希土類元素化合物に由来するものであり、希土類元素としては、特に制限されるものではないが、特にY、Tb、Dy、Ho、Er及びYbを例示することができ、これら希土類元素は、一種単独でも2種以上であってもよい。
また、Mg及び希土類元素は、焼結助剤に由来するものであることから、用いたMg及び希土類元素の殆どがBCT結晶粒子中及びBT結晶粒子中固溶するが、一部が、これら結晶粒子の粒界に存在する場合がある。粒界に存在する場合は主として非晶質として存在する。
【0018】
上述したBCT結晶粒子及びBT結晶粒子内に固溶したMg及び希土類元素は、何れの結晶粒子においても、粒子の中心部に比して粒子表面に多く分布している。即ち、BCT結晶粒子及びBT結晶粒子の何れも、粒子表面にMg及び希土類元素が偏在したコアシェル構造を有している。このようなコアシェル構造が形成される理由は以下の通りである。
BT及びBCT結晶粒子は、何れも、焼結時に原子拡散による粒成長を起こしやすく、微小粒径の緻密焼結体を得にくい。特に、用いた原料粒子サイズがサブミクロンより小さい場合、粒子体積に対し、表面積が大きな割合を占め、表面エネルギーが大きいことによって、エネルギー的に不安定な状態になってしまう。このため、焼成に際して、原子拡散による粒成長を生じ、表面積が小さくなって表面エネルギーの低下による安定化が生じる。従って、粒成長が起こりやすく、微小サイズの粒子からなる緻密焼結体は得にくいものとなっている。具体的には、0.2μmより小さい微小粒子サイズのBTおよびBCTの焼結体は、容易に固溶・粒成長を生じ、粒子間の原子の移動を抑制するものを粒子間に導入しなければ1μmを越える大きな粒子サイズからなる焼結体が形成されてしまい、サブミクロン以下の微小粒子サイズからなる緻密な焼結体を得るのは困難である。
しかるに、微小結晶原料とともに、MgとYの様な希土類元素を添加剤として導入し、さらに焼成条件を調整する事により、原料結晶粒子のサイズを反映した微小粒子焼結体を得る事ができる。これらの添加物は、粒子表面に拡散し液相を形成する事により、焼結を促進するとともに、粒界近傍及び粒界に存在して母相であるBT、BCT結晶粒子間におけるBa、Ca、Ti原子の移動を抑制し、粒成長を抑制する。この結果、結晶粒子表面に、Mg及び希土類元素が拡散固溶した結晶相が形成されることになる。即ち、Mg及び希土類元素が粒子表面に偏在したコアシェル構造が形成される。
尚、このようなコアシェル構造の形成は、これらの結晶粒子を透過型電子顕微鏡で観察することにより確認することができる。
【0019】
上述したBCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子は、合計で92重量%以上の割合で誘電体磁器中に含まれていることが好ましい。即ち、その合計量が92重量%よりも少ないと、これら結晶粒子の優れた特性が損なわれてしまうおそれがある。
また、BCT型結晶粒子とBT型結晶粒子とは、BCT/BT=0.05乃至20、特に、0.25乃至4のモル比で存在していることが好ましい。即ち、BCT型結晶粒子の割合が上記範囲よりも少ないか或いはBT型結晶粒子の割合が上記範囲よりも多いと、BCT型結晶粒子の優れた特性、例えば温度特性やDCバイアス特性が損なわれてしまうおそれがある。また、BCT型結晶粒子の割合が上記範囲よりも多いか或いはBT型結晶粒子の割合が上記範囲よりも少ないと、BT型結晶粒子を共存させた技術的意義が失われ、例えば誘電率の低下を生じたり、BCT結晶粒子における焼成時のCa拡散を有効に抑制することが困難となり、焼結性の低下や粒成長を生じ、BT及びBCT結晶粒子のコアシェル構造の形成が抑制され、温度特性やDCバイアス特性の低下を生じるおそれがある。
【0020】
また本発明の誘電体磁器においては、それぞれ酸化物換算で、0.05乃至0.5重量%、特に0.1乃至0.5重量%のMgと、0.1乃至1.7重量%、特に0.1乃至1.5重量%の希土類元素とを含有していることが好ましい。これらは、前記の如く、焼結助剤に由来する元素成分であり、少なくとも一部はBCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子中に固溶している。これら元素成分の量が上記範囲よりも少ないと、緻密な焼結体を得ることが困難となるばかりか、コアシェル構造も有効に形成されず、誘電体磁器の温度特性やDCバイアス特性も低下する傾向がある。また、これらの元素成分の量が上記範囲よりも多いと、上記結晶粒子の粒界への析出量が増大する結果、誘電体磁器の優れた特性が全般的に低下する傾向がある。
【0021】
(他の成分)
さらに、本発明の誘電体磁器は、上述した結晶粒子やMg、希土類元素成分以外の他の成分を含有していてもよく、例えば、Mnを、MnCO3換算で0.4重量%以下、特に0.05乃至0.4重量%の割合で含有していることができる。Mnは、還元雰囲気における焼成によって生成するBT、BCT結晶中の酸素欠陥を補償し、絶縁的信頼性を向上させるために使用される助剤に由来するものであり、このようなMn成分を含有させることにより、誘電体磁器の電気的絶縁性が増大し、また高温負荷寿命を大きくし、コンデンサ等の電子部品としての信頼性が高められる。尚、Mn含量が上記範囲よりも多量となると、誘電体磁器の絶縁性が低下するおそれがある。このようなMnは、主として非晶質でBT結晶粒子やBCT結晶粒子の粒界に存在するが、その一部は、結晶粒子内に拡散固溶し(やはり表面に偏在する)、コアシェル構造を形成することもある。
また耐還元性を向上するとともに、異常粒成長を抑制するために少量のBaCO3を含有していてもよい。
また、結晶粒子の焼結性を高めるために、少量のガラス成分を含有していてもよいし、更に少量のフィラー等を含有していてもよい。
【0022】
(誘電体磁器の製造)
本発明の誘電体磁器を製造するには、例えばゾルゲル法、蓚酸法、水熱合成法により生成された、所定の組成を有するBCT粉末及びBT粉末を用いる。これらBCT粉末及びBT粉末は、Mgや希土類元素が固溶していないものである。尚、Aサイトの一部がCaで置換されたBCT粉末は、CaCO3とTiO2とCa非置換のBTとを混合し、1000℃以上の温度で大気中で熱処理を行うことによって得られる。
また、焼成によって僅かであるが平均粒径の変動を生じることがあるため、前述したサブミクロンオーダーの平均粒径を有するBCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子を析出させるために、用いるBCT粉末及びBT粉末の平均粒径は0.1〜1μmの範囲にあるのがよい。
BCT粉末とBT粉末との混合比は、例えば、モル比が前述した範囲となるように設定される。
【0023】
上記のBCT粉末とBT粉末との混合粉末に、所定量のMg及び希土類元素の酸化物あるいは炭酸塩、更に必要により、Mnの炭酸塩やガラス等の任意成分を加えて回転ミルなどで10〜30時間湿式混合し、乾燥する。次いで、ポリビニルアルコール等の有機バインダや有機溶媒を所定量添加して成形用スラリーを調製する。
このスラリーを、引き上げ法、ドクターブレード法、リバースロールコータ法、グラビアコータ法、スクリーン印刷法、グラビア印刷等の周知の成形法を用いて所定形状に成形し、成形体を、大気中、真空中または窒素中で脱脂した後、大気中または還元雰囲気中で、1150〜1350℃、特に1200〜1300℃の焼成温度で1〜10時間焼成することにより、本発明の誘電体磁器を得ることができる。
かくして得られる本発明の誘電体磁器は、高誘電率を有し、しかも、誘電特性の温度依存性やDCバイアス依存性も極めて小さいという極めて優れた特性を有している。例えば、20℃での比誘電率ε(20℃)が2000以上、特に2500以上であり、温度変化率TCCは、±10%以内であり、比誘電率のDCバイアス依存性Δε/εは、−20%以内である。
【0024】
(積層型電子部品)
上記のような特性を有する本発明の誘電体磁器は、例えば誘電体層に印加される直流電圧が2V/μm以上であるような高電圧用の積層セラミックコンデンサとして有効に適用される。
この積層型電子部品は、上述した誘電体磁器から形成された誘電体層と、卑金属からなる内部電極層とを交互に積層して構成され、通常、この積層体の側面には、内部電極層と電気的に接続された外部電極が設けられており、この外部電極を通じて静電容量が取り出されるようになっている。
また、内部電極層を形成する卑金属としては、Ni、Cu等があるが、特に安価という点からNiが好適に使用される。
【0025】
かかる積層型電子部品は、先に述べた誘電体磁器の製造方法に準拠して製造される。
即ち、先に述べた方法にしたがって、本発明の誘電体磁器を製造するための成形用スラリーを調製し、前記成形法により、誘電体層を形成するセラミックグリーンシート(誘電体シート)を成形する。この誘電体シートの厚みは、電子部品の小型、大容量化という見地から、1〜10μm、特に1〜5μmであることが望ましい。
次に、この誘電体シートの表面に、Ni等の卑金属を含有する導電性ペーストを、スクリーン印刷法、グラビア印刷、オフセット印刷法等の周知の印刷方法により塗布し内部電極パターンを形成する。内部電極パターンの厚みは、コンデンサの小型、高信頼性化という点から2μm以下、特に1μm以下であることが望ましい。
このようにして表面に内部電極パターンが塗布された誘電体シートを複数枚積層圧着し、この積層成形体を、大気中250〜300℃、または酸素分圧0.1〜1Paの低酸素雰囲気中500〜800℃で脱脂した後、非酸化性雰囲気で1150〜1350℃で2〜3時間焼成する。さらに、所望により、酸素分圧が0.1〜10−4Pa程度の低酸素分圧下、900〜1100℃で5〜15時間再酸化処理を施すことにより、還元された誘電体層が酸化され、良好な絶縁特性を有する誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層体が得られる。
最後に、得られた積層焼結体に対し、各端面にCuペーストを塗布して焼き付け、Ni/Snメッキを施し、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成して積層セラミックコンデンサが得られる。
【0026】
このような積層セラミックコンデンサからなる積層型電子部品では、高誘電率で、優れたDCバイアス特性を有する本発明の誘電体磁器により形成された誘電層を備えているため、印加直流電圧が2V/μm以上であるような高電圧用に極めて有用であり、また、高容量化・小型化をさらに推し進めることができる。更に、平均粒径の小さい誘電体磁器を用いていることにより、誘電体層厚みを容易に薄層化することができ、静電容量の向上、小型化が可能になると共に、Ni、Cu等の卑金属を導体として用いることにより、安価な積層セラミックコンデンサが得られる。
【0027】
【実施例】
実験例1
水熱合成法により得られたBaTiO3(平均粒径0.1μm)粉末と、CaCO3粉末(平均粒径0.3μm)と、TiO2粉末(平均粒径0.1μm)を混合し、1000℃以上の温度で大気中熱処理を行い、表1に示すようなCa置換量及び平均粒径を有するBCT粉末を調製した。尚、表1において、Ca置換量は、式:(Ba1−xCax)TiO3におけるxの値で示した。
上記のBCT粉末と、表1に示す平均粒径を有するBT粉末とを、表1に示す割合で混合し、更にMgCO3、Y2O3、Tb2O3、Dy2O3、Ho2O3、Er2O3、Yb2O3、MnCO3、BaCO3を表1に記載する量だけ添加した。(尚、表1において、Mg量は酸化物換算での値で示した。)更にSi、Li、Ba及びCaを含有するガラスフィラーを、全量中1.2重量%添加し、イソプロパノール(IPA)を溶媒として3mmφのZrO2ボールを用いて回転ミルで12時間湿式混合した。
得られたスラリーを乾燥した後、有機バインダを約2重量%添加して造粒し、これを厚さ約1mm、直径16mmに成形した。この成形体を脱脂した後、大気中にて表1に示す温度で2時間焼成し、誘電体磁器(試料No.1〜32)を得た。
【0028】
この焼結体の断面を、マイクロオージェ電子分光法により観察し、Ca元素を含有する粒子と含有しない粒子を、それぞれBCT及びBTと同定し、インターセプト法により、BCT結晶粒子及びBT結晶粒子の平均粒径を求めた。
さらに、上記誘電体磁器を厚さ400μmに研磨加工し、試料上下面にIn−Gaを塗布して電極を形成した。
電気特性は、LCRメータを用いて−25℃〜85℃の温度範囲で、AC1V、測定周波数:1kHzの条件で静電容量を測定し、比誘電率を算出した。比誘電率の温度変化率TCCを、下記式:
TCC(%)={ε(T)−ε(20℃)}×100/ε(20℃)
より求めた。20℃を基準温度としている。
また、分極−電界ヒステレシス特性測定装置を用いて、DCオフセット電圧(800V)を30秒印加後、DCオフセット電圧を印加したままで、微小電圧(100V,100Hz)によるヒステレシス曲線を測定し、その傾きからDCバイアス印加時の比誘電率ε(800V)を算出し、下記式:
△ε/ε={ε(800V)−ε(0V)}×100/ε(0V)
により、20℃での比誘電率のDCバイアス依存性△ε/εを求めた。
上記結果を表2に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
この表3から、BCTを含まない試料No.1は、比誘電率は約3340と大きいが、DCバイアス依存性が−34%と大きい。一方、BTとBCTの共存構造の実現した本発明の試料では、比誘電率2000以上、特には2500以上、比誘電率の変化率も±10%以内であり、かつDCバイアス依存性も−20%以内と優れている。
また、本発明の試料では、マイクロオージェ電子分光法及び透過型電子顕微鏡により誘電体磁器の粒子の結晶構造、組成を分析したところ、BT、BCT結晶粒子が存在しており、各BT、BCT結晶粒子内において、中心部と周辺部において組成の相違が確認でき、Ba、Ca、Tiは均一に存在し、周辺部においてはMgと、Y、Tb、Dy、Ho、Er、Ybが検出されたが、中心部においては検出されず、いわゆるコアシェル構造を呈していた。一方、試料No.29においては、BTとBCT及び添加物が完全固溶し、所望の構造が得られなかった。また、原料粒径が1μmであり、焼結体平均粒子径が1μmであるNo.30、31、32についても良好なDCバイアス特性が得られなかった。
【0033】
実験例2
まず、実験例1と同様にして、BCT粉末、BT粉末、MgCO3、MnCO3、Y2O3、BaCO3を表1、2に示す割合で混合し、更に、ブチラール樹脂およびトルエンを加えてセラミックスラリーを調製した。このスラリーを、ドクターブレード法によりPETフィルム上に塗布し、乾燥機内で60℃で15秒間乾燥後、これを剥離して厚み9μmのセラミックグリーンシートを形成し、これを10枚積層して端面セラミックグリーンシート層を形成した。そして、これらの端面セラミックグリーンシート層を、90℃で30分の条件で乾燥させた。
この端面セラミックグリーンシート層を台板上に配置し、プレス機により圧着して台板上にはりつけた。
一方、PETフィルム上に、上記と同一のセラミックスラリーをドクターブレード法により塗布し、60℃で15秒間乾燥後、厚み5.5μmのセラミックグリーンシートを多数作製した。
次に、平均粒径0.2μmのNi粉末の合量45重量%に対して、エチルセルロース5.5重量%とオクチルアルコール94.5重量%からなるビヒクル55重量%を3本ロールで混練して内部電極ペーストを作製した。
この後、得られたセラミックグリーンシートの一方の表面に、スクリーン印刷装置を用いて、上記した内部電極ペーストを内部電極パターン状に印刷し、グリーンシート上に長辺と短辺を有する長方形状の内部電極パターンを複数形成し、乾燥後、剥離した。この後、端面セラミックグリーンシート層の上に、内部電極パターンが形成されたグリーンシートを300枚積層し、この後、端面セラミックグリーンシートを積層し、コンデンサ本体成形体を作製した。
【0034】
次に、コンデンサ本体成形体を金型上に載置し、積層方向からプレス機の加圧板により圧力を段階的に増加して圧着し、この後さらにコンデンサ本体成形体の上部にゴム型を配置し、静水圧成形した。
この後、このコンデンサ本体成形体を所定のチップ形状にカットし、大気中300℃または0.1Paの酸素/窒素雰囲気中500℃に加熱し、脱バインダーを行った。さらに、10−7Paの酸素/窒素雰囲気中、1200〜1250℃で2時間焼成し、さらに、10−2Paの酸素/窒素雰囲気中にて1000℃で再酸化処理を行い、電子部品本体を得た。焼成後、電子部品本体の端面にCuペーストを900℃で焼き付け、さらにNi/Snメッキを施し、内部電極と接続する外部端子を形成した。
このようにして得られた積層セラミックコンデンサの内部電極間に介在する誘電体層(試料No.33、34)の厚みは4μmであった。また誘電体層の有効積層数は300層であった。
表3に測定結果を示す。
尚、DCバイアス依存性△ε/εは、下記式:
{ε(8V)−ε(0V)}×100/ε(0V)
より求め、その他の特性は実験例1と同様にして求めた。
表3の結果から、比誘電率は3000以上を示し、温度変化率、DCバイアスとも優れた特性を示した。
【0035】
【発明の効果】
本発明の誘電体磁器では、比誘電率が2000以上で、比誘電率の温度特性が±10%以内で、かつ2V/μmのDCバイアス印加による比誘電率の変化率が20%以内の特性を有し、それにより高電圧が印加されても静電容量の低下率が小さい小型・高容量の積層セラミックコンデンサを実現することが可能となる。
Claims (9)
- Aサイトの一部がCaで置換されたペロブスカイト型チタン酸バリウム結晶粒子(BCT型結晶粒子)と、置換Caを含有していないペロブスカイト型チタン酸バリウム結晶粒子(BT型結晶粒子)と、Mg及び希土類元素とを含有し、
前記Mg及び希土類元素の少なくとも一部は、それぞれ、前記BCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子中に固溶しており、
前記BCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子は、何れも前記Mg及び希土類元素が粒子中心よりも粒子表面側に偏在したコアシェル型構造を有しているとともに、
前記BCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子の何れもが、0.2〜0.8μmの平均粒径を有していることを特徴とする誘電体磁器。 - 前記希土類元素が、Y、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbから成る群より選択された少なくとも1種である請求項1に記載の誘電体磁器。
- 前記BCT型結晶粒子は、Aサイトの2〜22モル%がCaで置換されている請求項1または2に記載の誘電体磁器。
- 前記BCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子を、合計で92重量%以上含有している請求項1乃至3のうちいずれかに記載の誘電体磁器。
- 前記BCT型結晶粒子とBT型結晶粒子とを、BCT/BT=0.05乃至20のモル比で含有している請求項4に記載の誘電体磁器。
- 酸化物換算で、0.05乃至0.5重量%のMgを含み、且つ酸化物換算で0.1乃至1.7重量%の希土類元素を含有している請求項4または5に記載の誘電体磁器。
- 前記Mg及び希土類元素の一部は、前記BCT型結晶粒子及びBT型結晶粒子の粒界に非晶質の形で存在している請求項1乃至6のうちいずれかに記載の誘電体磁器。
- マンガンをMnCO3換算で0.4重量%以下の量で含有している請求項1乃至7のうちいずれかに記載の誘電体磁器。
- 誘電体層と卑金属からなる内部電極層とを交互に積層してなる積層型電子部品であって、前記誘電体層が、請求項1乃至8のうちいずれかに記載の誘電体磁器から形成されていることを特徴とする積層型電子部品。
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