JP4354224B2 - 誘電体磁器および積層型電子部品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘電体磁器および積層型電子部品に関するものであり、より詳細には、例えば誘電体層に印加される直流電圧が2V/μm以上であるような高電圧用の積層セラミックコンデンサ等の形成に特に有用な誘電体磁器、及び該磁器を用いて形成された積層型電子部品に関する。
【0002】
【従来技術】
近年、電子機器の小型化、高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサの小型化、大容量化の要求が高まってきている。このような要求に応えるために、積層セラミックコンデンサ(MLC)においては、誘電体層を薄層化することにより静電容量を高めると共に、誘電体層の積層数を増やすことにより、小型・高容量化を図っている。
誘電体層の形成に使用される誘電体材料には、小型・高容量化の為に、高い比誘電率が要求されることはもちろんのこと、誘電損失が小さく、誘電特性の温度に対する依存性(以下、温度依存性ということがある。)や誘電特性の直流電圧に対する依存性(以下、DCバイアス依存性ということがある。)が小さい等の種々の特性が要求される。
また、誘電体層の薄層化に伴い、積層セラミックコンデンサに印加する電界の増大による信頼性低下を抑制する為に、粒子径のより小さい誘電体材料が使用されるようになってきた。
【0003】
また、近年の環境保護、環境安全に対する要求から鉛を含有しない電子部品が求められ、電子部品を構成する磁器材料において鉛を含有しない材料が要求されている。
従来、積層セラミックコンデンサを構成する誘電体材料としては、ペロブスカイト型(ABO3型)酸化物であるチタン酸バリウム(BaTiO3)(例えば特許文献1参照)や、チタン酸ジルコン酸バリウム(BaTiZrO3)、もしくは鉛元素を含有するマグネシウム酸ニオブ酸鉛(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3)や、SrTiO3−PbTiO3材料等が知られている。
現在、小型・高容量で温度特性に優れた積層セラミックコンデンサ(MLC)用の誘電体材料としては、チタン酸バリウム(BT)系材料が主流であり、大きな比誘電率を示すサブミクロンオーダーの粒径のBT焼結体が使用されている。また、BT系材料の中でも、ジルコニア等が添加され、添加成分の元素が固溶し、焼結粒子表面に偏在する(粒子中心部よりも表面部分に多く存在する)コアシェル構造を有するものは、添加物による粒成長抑制効果とコアシェル構造により、誘電特性の温度依存性が改善され、温度特性の良好な誘電体磁器として知られており、MLC用の誘電体材料として注目されている(例えば特許文献2参照)。
ところで、上述した公知のBT系材料には、DCバイアス依存性が高く、直流電圧印加による比誘電率の減少が大きいという欠点がある。即ち、小型化の為に誘電体層の薄層化を推し進めると、誘電体層に印加される電界が増大する為、このようなBT系材料で形成された誘電体層から成るコンデンサでは、静電容量の減少が大きく、実効的静電容量が小さくなるという問題があった。
【0004】
また、BT焼結粒子の粒径をサブミクロンオーダーよりさらに小さくしていくと、DCバイアス依存性を改善できるが、この場合には、比誘電率も減少してしまう為、小型で高容量、かつDCバイアス特性(誘電特性の直流電圧に対する依存性の少ない性質)を同時に満足する事はできなかった。
大きな比誘電率を示し、DCバイアス依存性を小さくする為に、マグネシウム酸ニオブ酸鉛(PMN)等の緩和型強誘電体を用いる事が有効である事が知られている。
これらの公知緩和型強誘電体は、常誘電相−強誘電相相転移に現れる比誘電率のピークが非常にブロードでかつ大きい。BT等の通常の誘電体において見られる相転移によるマクロな自発分極の発現が見られず、局所的な分極が温度低下に伴い発展していく為、BT等に見られるソフトモードの発現を伴う相転移に起因した分極率の増大による大きな誘電率と、大きなDCバイアス依存性を示さない。かわりに、局所的化学組成不均一性に起因した局所分極域の相互作用に起因した高誘電率を示し、かつ急峻な相転移を示さない為に比誘電率のDCバイアス印加による低下率も通常の強誘電体に比べ小さくなる。
緩和型強誘電体であるPMNは、10000を越す非常に大きな比誘電率を示し、BT等の通常の強誘電体に比べると、同じ比誘電率で比較すると、PMNはDCバイアス依存性は小さく、また、粒子サイズを1μmより小さくしていくと、比誘電率はピークのみが低下し、温度変化率、DC電圧印加時の比誘電率の低下率も小さくなり、DCバイアス依存性がさらに小さな、かつ高誘電率な特性を実現できる。
【0005】
しかしながら、PMNは鉛を含有する為、近年環境保護の上で重要視されている非鉛化に対応しない問題がある。また、10000を越す非常に大きな比誘電率を示す一方で、比誘電率のピークが使用温度範囲近傍において単一でまた温度変化率が非常に大きく、またDCバイアス印加時の比誘電率ピークの減少率も該ピークの低温側、特に明確な自発分極が現れた温度領域では大きい問題があった。
非鉛化を実現する上で、PMNに類似の散漫な比誘電率の温度特性(誘電特性の温度に対する依存性の少ない性質)を示すチタン酸ジルコン酸バリウム(BTZ)が有望であると考えられる。
【0006】
しかしながら、BTZは、PMNと同様比誘電率のピークが使用温度範囲近傍において単一でまた温度変化率が非常に大きく、またDCバイアス印加時の比誘電率ピークの減少率も該ピークの低温側、特に明確な自発分極が現れる低温度領域では大きい問題があった。解決手段として、Zr濃度の異なる2種類以上のBTZの共存構造を実現することが有効であると考えられる(例えば特許文献3参照)。
しかしながら、Zr濃度が異なり比誘電率ピーク温度の異なるBTZのコンポジットを用いた場合、(i)Zr濃度の低い、高温側に比誘電率ピーク温度を示すBTZにおいて、明確な自発分極の発現に起因して室温近傍のDCバイアス依存性が、比誘電率ピークの高温側のDCバイアス依存性に比べ大きい。また、(ii)Zr濃度が高い、室温より低温側に比誘電率ピークを示すBTZにおいて、比誘電率の温度依存性が比誘電率ピーク前後で非常に非対称で、高温側の比誘電率が小さくなる為、室温以上でのコンポジットの比誘電率が小さくなってしまうのと、氷点下でのDCバイアス依存性が大きくなってしまう問題があった。
以上の様に、Zr濃度の高い、低温側で比誘電率のピークを示すBTZの特性が、BTZコンポジットの比誘電率に制限を与え、DCバイアス依存性においても制限を与えていた。
【0007】
【特許文献1】
特開平9−241075号公報
【特許文献2】
特開2002−226263号公報
【特許文献3】
特開2002−274937号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明においては、BTZコンポジットの優れた特性をさらに向上する為に、サブミクロンオーダーの粒子サイズであって、0℃〜20℃の領域に比誘電率のピークを示すBTZを、そのAサイトの一部をCaで置換したBCTZ型の非鉛リラクサ材料とすることにより、より高比誘電率で、DCバイアス依存性に優れた誘電体磁器およびそれを用いた積層型電子部品を提供する事を目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、Aサイトの一部がCaで置換され、Bサイトの一部がZrで置換された少なくとも2種類のペロブスカイト型チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム結晶粒子(BCTZ型結晶粒子)を含有する焼結体であって、そのうちの1種のBCTZ型結晶粒子(1)[(Ba1−xCax)m(Ti1−yZry)O3]のx、y、mがそれぞれ0.15≦x≦0.25、0.15≦y≦0.20、1.000<mであり、
また、他のBCTZ型結晶粒子(2)[(Ba1−zCaz)n(Ti1−sZrs)O3]のz、s、nがそれぞれ0≦z≦0.08、0.01≦s≦0.10、1.000<nであり、
かつ前記BCTZ型結晶粒子(1)及びBCTZ型結晶粒子(2)のいずれもが0.15乃至0.7μmの平均粒径を有することを特徴とする誘電体磁器が提供される。
【0010】
本発明においては更に
(i)前記BCTZ型結晶粒子(1)及びBCTZ型結晶粒子(2)を焼結体中に92質量%以上含有していること、
(ii)前記BCTZ型結晶粒子(1)及びBCTZ型結晶粒子(2)に更にMg、Mn、及び希土類元素を含有させた焼結体であって、前記Mg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一部は前記2種類のBCTZ型結晶粒子中にそれぞれ粒子中心部よりも粒子表面側に偏在するように固溶して、前記2種類のBCTZ型結晶粒子がコアシェル型構造を有していること、
(iii)前記希土類元素が、Y、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbから成る群より選択された少なくとも1種であること、
(iv)Mg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が前記BCTZ型結晶粒子(1)及びBCTZ型結晶粒子(2)中に固溶してコアシェル型構造を形成し、かつMg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素の酸化物及び/又は複合酸化物が前記BCTZ型結晶粒子(1)及びBCTZ型結晶粒子(2)の粒界に存在していること、
(v)前記BCTZ型結晶粒子(1)とBCTZ型結晶粒子(2)とを[BCTZ型結晶粒子(1)/BCTZ型結晶粒子(2)]モル比で0.66乃至1.5の割合で含有していること、
(vi)Mgが酸化物換算で0.05乃至0.5質量%、且つ希土類元素が酸化物換算で0.1乃至1.7質量%の割合で前記焼結体中に含有していること、
(vii)Mnが前記焼結体中にMnCO3換算で0.05ないし0.4質量%含有していること、
(viii)前記BCTZ型結晶粒子(1)およびBCTZ型結晶粒子(2)間の粒界に、Mn、Ca、Mg、及びBaの内少なくとも1つ以上の元素と、希土類元素、並びにSiを含有する、層厚が1nm以下のアモルファス層を含むこと
が望ましい。
【0011】
本発明によれば更に、誘電体層と金属からなる内部電極層とを交互に積層してなる積層型電子部品であって、前記誘電体層が、前記誘電体磁器から形成されていることを特徴とする積層型電子部品が提供される。
この場合、前記内部電極が、NiもしくはNi合金などの卑金属を含有する積層型電子部品であることが望ましい。
【0012】
本発明の誘電体磁器においては、比誘電率ピーク温度の異なる2種類以上のBCTZ型結晶粒子が共存し低温側の比誘電率ピークに寄与するBCTZ型結晶粒子が、緩和型強誘電体であることが重要な特徴である。
更にこのような共存系において、2種類以上のBCTZ型結晶粒子は、粒子中心よりも粒子表面側に焼結助剤としての機能も有するMg、Mn、及び希土類元素が偏在したコアシェル型構造を形成するのが望ましく、これにより高誘電率で、比誘電率の温度依存性やDCバイアス依存性が極めて小さいという特性を発現できることになる。
【0013】
一般に、BCTZのベースとなるBTZ型結晶は、逐次相転移に伴う原子の揺らぎに起因して4000を越す大きな比誘電率を示すBTのBサイト元素Tiの一部をZrにより置換したものであり、BTZとすることにより逐次相転移の転移点が一点に集約され、常誘電相―強誘電相相転移温度が低下するとともに、比誘電率が増大する。
また、BTZの粒子サイズが小さくなると、比誘電率ピークが小さくなり、温度依存性が平坦化するとともに、誘電的基底状態に近づく為、DCバイアス依存性は小さくなり、薄層化に対応した誘電特性を示す。
コンデンサは一般に回路に並列に接続され、電圧負荷下で使用されるが、誘電体層の薄層化が進むと、負荷電界が大きくなる。積層セラミックコンデンサは誘電体として高誘電率な強誘電体を用いるがDCバイアス依存性が大きい。即ち、直流電圧印加による比誘電率の減少が大きく、電圧負荷下での実行容量が小さくなる。このため、DCバイアス依存性の小さい材料が薄層化に必要である。
【0014】
一方、BTZのBサイトのZr置換濃度を変える事により、比誘電率のピークを示す温度を変える事ができる為、2種類以上のZr濃度の異なるBTZ結晶の共存する複合材料を形成することにより、高誘電率で温度特性、及び比較的DCバイアス特性に優れた薄層対応誘電体材料を実現できる。
BCTZ型結晶粒子はBaTiO3のBaサイトをイオン半径の小さいCaで、前述した通りTiサイトをイオン半径の大きいZrで置換したものであり、Ca量が小さいBCTZ型結晶粒子はBTZと同様な誘電特性を示す事が知られている。CaとZr置換量を15モル%以上としたBCTZ型結晶粒子においては緩和型強誘電体の特性を示す。これは、イオン半径の小さいCaとイオン半径の大きいZrをBaTiO3の格子に強制的に入れる為に、局所的な歪がPMNに見られるような局所分極マイクロドメインを発生させる為ではないかと考えられる。
この様に、イオン半径の小さいCaとイオン半径の大きいZrをBaTiO3の格子に強制的に入れたBCTZ型結晶粒子をコンポジットの構成粒子のひとつとして用いる事により、優れた誘電特性を示す誘電体磁器の実現が可能となった。
【0015】
本発明において、BCTZ型結晶粒子(1)[(Ba1−xCax)m(Ti1−yZry)O3]のx、y、mは、それぞれ0.15≦x≦0.25、0.15≦y≦0.20、1.000<m、好ましくは0.18≦x≦0.22、0.18≦y≦0.20、1.000<m である。
リラクサ特性を発現するためには、0.15≦x、0.15≦yとする必要がある。x<0.15、又はy<0.15の場合リラクサ特性は発現せず、比誘電率のピーク比は大きいが、平坦な温度特性と優れたDCバイアス特性を実現できない。また、x>0.25もしくはy>0.20の場合、リラクサ特性の発現による平坦な温度特性と優れたDCバイアス特性を示すが、比誘電率の低下が大きくなり、また最大の比誘電率を示す温度は低下する。更に、前記領域では、Ca及びZrの完全固溶が困難となり、CaTiO3の生成により比誘電率の低下を生じる。
mは還元焼成における半導体化を抑制するために、m>1.000とする必要がある。
【0016】
また、BCTZ型結晶粒子(2)[(Ba1−zCaz)n(Ti1−sZrs)O3]のz、s、nは、それぞれ0≦z≦0.08、0.01≦s≦0.10、1.000<n、好ましくは0.01≦z≦0.05、0.01≦s≦0.10、1.000<nである。
本発明においては、zは、上記0≦z≦0.08である。
z>0.03の場合、比誘電率の低下を生じるためz≦0.03が好ましい。また、Caを含まないz=0の場合、耐還元性において、Caを含有するBCTZより劣るが、BCTZとの複合構造を形成するため、BCTZにより酸素空孔等のキャリアーの移動を制限し、高い高温負荷寿命を実現できる。
本発明においては、sは、上記0.01≦s≦0.10である。
比誘電率のピーク温度が0℃乃至室温にあるBCTZ型結晶粒子(1)との共存構造により平坦な温度特性を実現する為に前記範囲のZr濃度が必要である。比誘電率のピーク温度はZr量でほぼ決定される。s>0.10の場合、誘電率ピークの低下が大きく、またs<0.01ではBTの逐次相転移を大きく反映する為に平坦な温度特性を実現できない。
また、nは還元焼成における半導体化を抑制するために、n>1.000とする必要がある。
【0017】
また、結晶粒子サイズを微小化することは、DCバイアス特性を向上させる上で有利であり、また、温度依存性を平坦化する上で重要である。
また、積層電子部品の薄層化に対応する為、誘電体粒子の粒子サイズは少なくとも1μm以下でなければならない。このため、BCTZ型結晶粒子(1)およびBCTZ型結晶粒子(2)がサブミクロンオーダーの平均粒径0.15乃至0.7μm、好ましくは0.3乃至0.5μmで共存していることが重要な特徴である。
本発明の誘電体磁器は、前記BCTZ型結晶粒子(1)およびBCTZ型結晶粒子(2)を好ましくは92質量%以上、特に好ましくは95質量%以上含有している。
誘電体磁器中の前記2種類のBCTZ型結晶粒子の含有量が前記92質量%以上で、高い比誘電率を維持することができる。
また、本発明の誘電体磁器は、前記BCTZ型結晶粒子(1)とBCTZ型結晶粒子(2)とをBCTZ型結晶粒子(1)/BCTZ型結晶粒子(2)(モル比)で0.66乃至1.5の割合で含有していることが望ましい。
Zrによる置換割合が異なるBCTZ型結晶においては同一粒子サイズであれば、比誘電率はほぼ同程度であり、粒子サイズと含有比率の選択により目的とする温度特性を得ることが可能となる。従って、本発明においては前記した置換の範囲内であれば、粒子サイズとの組み合わせで、平坦な温度依存性が実現可能となる。
【0018】
本発明で使用する希土類元素としては、Y、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbから成る群より選択された少なくとも1種であることが好ましい。
本発明の誘電体磁器は、Mgが酸化物換算で0.05乃至0.5質量%、且つ希土類元素が酸化物換算で0.1乃至1.7質量%の割合で前記焼結体中に含有していることが望ましい。
Mg含有量を酸化物換算で前記0.05質量%以上とすることにより粒成長を抑制して所望の微構造及び特性を実現し、一方、前記0.5質量%以下とすることにより比誘電率の低下を抑制するという効果を得ることができる。
希土類元素の含有量を酸化物換算で前記0.1質量%以上とすることにより粒成長を抑制して所望の微構造を実現し、更に電荷のバランスのくずれと高温負荷寿命の短縮化を抑制し、一方、前記1.7質量%以下とすることにより比誘電率の低下と、更に絶縁抵抗の低下を抑制するという効果を得ることができる。
Mnの含有量も前記焼結体中にMnCO3換算で0.05ないし0.4質量%含有していることが望ましい。Mnの含有量がMnCO3換算で前記0.05質量%以上の場合に粒成長を抑制して所望の微構造及び特性を実現し、一方、前記0.4質量%以下の場合に比誘電率の低下を抑制するという効果を得ることができる。
Mg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が前記BCTZ型結晶粒子(1)及びBCTZ型結晶粒子(2)中に固溶してコアシェル型構造を形成し、かつMg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素の酸化物及び/又は複合酸化物が前記BCTZ型結晶粒子(1)及びBCTZ型結晶粒子(2)の粒界に存在していることが望ましい。粒界に酸化物及び/又は複合酸化物として存在することにより、絶縁抵抗の低下を抑制することができる。
【0019】
本発明の誘電体磁器は、前記BCTZ型結晶粒子間の粒界が、Mn、Ca、Mg、及びBaの内少なくとも1つ以上の元素と、希土類元素、並びにSiを含有する、層厚が1nm以下のサイズのアモルファス層を含むことが望ましい。
粒界は比誘電率が本発明の結晶粒子に比べ1桁以上小さい為、1nmを越える粒界は比誘電率の大きな低下を生じるので、大きな比誘電率を得る為に1nm以下の層厚であることが望ましい。また、Mn、Ca、Mg、及びBaのうち少なくとも1つ以上の元素と希土類元素並びにSiを含有するアモルファス層を粒界に形成することで、焼結により生じた粒子に作用する応力を緩和し、応力による比誘電率の低下を抑制できる。
【0020】
かくして本発明の誘電体磁器は、サブミクロンオーダーの平均粒径(0.15乃至0.7μm)で2種類以上のBCTZ型結晶粒子が共存した各結晶粒子は、高誘電率を有し、しかも、誘電特性の温度依存性やDCバイアス依存性も極めて小さいという極めて優れた特性を有し、更に2種類以上のBCTZ型結晶粒子が粒子表面にMg、Mn及び希土類元素が偏在したコアシェル型構造である場合にはこの特性が一層顕著になる。
また、上述した誘電体磁器により形成された誘電体層と金属からなる内部電極層とを交互に積層してなる本発明の積層型電子部品は、誘電体磁器が上記特性を有していることから、誘電体層の薄層化により、積層数を増やすことなく、静電容量の大容量化を図ることができ、積層コンデンサとして極めて有用である。また、上記誘電体磁器の結晶粒径が小さいため、該誘電体磁器により形成される誘電体層の薄層化も極めて容易であり、さらなる静電容量の向上、さらなる小型化が実現できる。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の誘電体磁器を製造するには、例えばゾルゲル法、蓚酸法、水熱合成法により生成された、所定の組成を有するBCTZ粉末を用いる。これらBCTZ粉末は、Mg、Mn、及び希土類元素が固溶していないものである。
また、焼成によって僅かであるが平均粒径の変動を生じることがあるため、前述したサブミクロンオーダーの平均粒径を有するBCTZ型結晶粒子を析出させるために用いるBCTZ粉末の平均粒径は0.1〜1μmの範囲にあるのがよい。
上記のZr濃度およびCa濃度の異なる2種類以上のBCTZ粉末の混合粉末に、所定量のMg及び希土類元素の酸化物あるいは炭酸塩、更に必要により、Mnの炭酸塩やガラス等の任意成分を加えて回転ミルなどで10〜30時間湿式混合し、乾燥する。次いで、ポリビニルアルコール等の有機バインダや有機溶媒を所定量添加して成形用スラリーを調製する。
【0022】
このスラリーを、引き上げ法、ドクターブレード法、リバースロールコータ法、グラビアコータ法、スクリーン印刷法、グラビア印刷等の周知の成形法を用いて所定形状に成形し、成形体を、大気中、真空中または窒素中で脱脂した後、大気中または還元雰囲気中で、1150〜1300℃、特に1200〜1300℃の焼成温度で1〜10時間焼成することにより、本発明の誘電体磁器を得ることができる。
かくして得られる本発明の誘電体磁器は、高誘電率を有し、しかも、誘電特性の温度依存性やDCバイアス依存性も極めて小さいという極めて優れた特性を有している。例えば、20℃での比誘電率εr(20℃)が3000以上、特に3500以上であり、温度変化率TCCは、±10%以内(−25℃〜85℃)であり、比誘電率のDCバイアス依存性Δε/εは、2V/μmの電界印加時に−20%以内である。
【0023】
(積層型電子部品)
上記のような特性を有する本発明の誘電体磁器は、例えば誘電体層に印加される直流電圧が2V/μm以上であるような高電圧用の積層セラミックコンデンサとして有効に適用される。
この積層型電子部品は、上述した誘電体磁器から形成された誘電体層と、金属からなる内部電極層とを交互に積層して構成され、通常、この積層体の側面には、内部電極層と電気的に接続された外部電極が設けられており、この外部電極を通じて静電容量が取り出されるようになっている。また、内部電極層を形成する金属としては、卑金属、特に安価という点からNiが好適に使用される。
かかる積層型電子部品は、先に述べた誘電体磁器の製造方法に準拠して製造される。
【0024】
即ち、先に述べた方法にしたがって、本発明の誘電体磁器を製造するための成形用スラリーを調製し、前記成形法により、誘電体層を形成するセラミックグリーンシート(誘電体シート)を成形する。この誘電体シートの厚みは、電子部品の小型、大容量化という見地から、1〜10μm、特に1〜5μmであることが望ましい。
次に、この誘電体シートの表面に、Ni等の卑金属を含有する導電性ペーストを、スクリーン印刷法、グラビア印刷、オフセット印刷法等の周知の印刷方法により塗布し内部電極パターンを形成する。内部電極パターンの厚みは、コンデンサの小型、高信頼性化という点から2μm以下、特に1μm以下であることが望ましい。
このようにして表面に内部電極パターンが塗布された誘電体シートを複数枚積層圧着し、この積層成形体を、大気中250〜300℃、または酸素分圧0.1〜1Paの低酸素雰囲気中500〜800℃で脱脂した後、大気中もしくは非酸化性雰囲気で1150〜1300℃で2〜3時間焼成する。非酸化性雰囲気で焼成する場合、さらに所望により、酸素分圧が0.1〜10−4Pa程度の低酸素分圧下、900〜1100℃で5〜15時間再酸化処理を施すことにより、還元された誘電体層が酸化され、良好な絶縁特性を有する誘電体層と内部電極層とが交互に積層された積層体が得られる。
【0025】
最後に、得られた積層焼結体に対し、各端面にCuペーストを塗布して焼き付け、Ni/Snメッキを施し、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成して積層セラミックコンデンサが得られる。
このような積層セラミックコンデンサからなる積層型電子部品では、高誘電率で、優れたDCバイアス特性を有する本発明の誘電体磁器により形成された誘電層を備えているため、印加直流電圧が2V/μm以上であるような高電圧用に極めて有用であり、また、高容量化・小型化をさらに推し進めることができる。更に、平均粒径の小さい誘電体磁器を用いていることにより、誘電体層厚みを容易に薄層化することができ、静電容量の向上、小型化が可能になる。
また、Ni等の卑金属を導体として用いることにより、安価な積層セラミックコンデンサが得られる。
【0026】
【実施例】
実施例1
水熱合成法および固相法により得られたBCTZ粉末(BCTZ−1、及びBCTZ−2)を準備した。
表1に示す組成および平均粒径を有するBCTZ粉末を、表1に示す割合で混合し、更にMgO、Y2O3、MnCO3、BaCO3を表1に記載する量だけ添加した。更にSi、Li、Ba及びCaを含有するガラスフィラーを、全量に対し1.2質量%に相当する量添加し、イソプロパノール(IPA)を溶媒として3mmφのZrO2ボールを用いて回転ミルで12時間湿式混合した。
得られたスラリーを乾燥した後、該乾燥物に対し有機バインダーを約2質量%に相当する量添加して造粒し、これを厚さ約1mm、直径16mmに成形した。この成形体を脱脂した後、大気中にて1230℃で2時間焼成し、誘電体磁器(試料No.1〜20)を得た。
尚、表1、2中の試料Noに*印を付したものは本発明の範囲外の実験条件およびそれによって得られた結果である。
【0027】
(1)BCTZ結晶粒子(焼結体中)の平均粒径の測定
この焼結体の断面を、マイクロオージェ電子分光法により観察し、Zr元素の多い粒子と少ない粒子を、それぞれBCTZ−1及びBCTZ−2と同定し、インターセプト法により、BCTZ結晶粒子の平均粒径を求めた。
(2)比誘電率の温度変化率TCCの測定
さらに、上記誘電体磁器を厚さ400μmに研磨加工し、試料上下面にIn−Gaを塗布して電極を形成した。
電気特性は、LCRメータを用いて−25℃〜85℃の温度範囲で、AC1V、測定周波数:1kHzの条件で静電容量を測定し、比誘電率を算出した。比誘電率の温度変化率TCCを、20℃を基準温度として下記式より求めた。
TCC(%)={ε(T)−ε(20℃)}×100/ε(20℃)
(3)比誘電率εとDCバイアス依存性△ε/εの測定
また、分極−電界ヒステレシス特性測定装置を用いて、DCオフセット電圧(800V)を30秒印加後、DCオフセット電圧を印加したままで、微小電圧(100V,100Hz)によるヒステレシス曲線を測定し、その傾きからDCバイアス印加時の比誘電率ε(800V)を算出し、下記式:
△ε/ε={ε(800V)−ε(0V)}×100/ε(0V)
により、20℃での比誘電率のDCバイアス依存性△ε/εを求めた。
上記結果を表2に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
表2から、BCTZの粒径が1μmである試料No.8は誘電率は約4350と大きいが、TCCは−15%と大きく、DCバイアス依存性も−26%と大きい。また、一方のBCTZの粒径が1μmである試料No.19、20でもTCCはそれぞれ−12%、13%と大きかった。
また、2種類のBCTZのZr濃度が近い試料No.16においては、2つのBCTZの誘電率ピークの重なりが大きい為、誘電率の値は大きいが、温度特性が悪く、また、DCバイアス依存性も−28%と悪い。
また、ペロブスカイトABO3構造であるBCTZ型結晶粒子の(Aサイト/Bサイト)比、m=0.998と1より小さい試料No.13は、添加物固溶と粒成長が進み、比誘電率が3000未満、温度特性TCCが−16%と−10%を超えてしまう。
一方、2種類のBCTZの共存構造の実現した本発明の試料では、比誘電率3000以上、特には3500以上、比誘電率の変化率も±10%以内であり、かつDCバイアス依存性も−20%以内と優れている。
【0031】
また、本発明の試料では、マイクロオージェ電子分光法及び透過型電子顕微鏡により誘電体磁器の粒子の結晶構造、組成を分析したところ、ZrおよびCa濃度の異なる2種類のBCTZ結晶粒子が存在しており、BCTZ結晶粒子内において、中心部と周辺部において組成の相違が確認でき、Ba、Ca、Ti、Zrは均一に存在し、周辺部においてはMgと、Yが検出されたが、中心部においては検出されず、いわゆるコアシェル構造を呈していた。また、粒界相は、層厚が1nm以下のアモルファス層であり、蛍光X線分析より、Y、Si、Caが検出された。
【0032】
実施例2(MLCC)
まず、実験例1と同様にして、Ca、Zr濃度の異なるBCTZ粉末、MgO、MnCO3、Y2O3、BaCO3を表1に示す割合で混合し、更に、ブチラール樹脂およびトルエンを加えてセラミックスラリーを調製した。このスラリーを、ドクターブレード法によりPETフィルム上に塗布し、乾燥機内で60℃で15秒間乾燥後、これを剥離して厚み9μmのセラミックグリーンシートを形成し、これを10枚積層して端面セラミックグリーンシート層を形成した。そして、これらの端面セラミックグリーンシート層を、90℃で30分の条件で乾燥させた。
この端面セラミックグリーンシート層を台板上に配置し、プレス機により圧着して台板上にはりつけた。
【0033】
一方、PETフィルム上に、上記と同一のセラミックスラリーをドクターブレード法により塗布し、60℃で15秒間乾燥後、厚み5.5μmのセラミックグリーンシートを多数作製した。
次に、平均粒径0.2μmのNi粉末の合量45質量%に対して、エチルセルロース5.5質量%とオクチルアルコール94.5質量%からなるビヒクル55質量%を3本ロールで混練して内部電極ペーストを作製した。
この後、得られたセラミックグリーンシートの一方の表面に、スクリーン印刷装置を用いて、上記した内部電極ペーストを内部電極パターン状に印刷し、グリーンシート上に長辺と短辺を有する長方形状の内部電極パターンを複数形成し、乾燥後、剥離した。
この後、端面セラミックグリーンシート層の上に、内部電極パターンが形成されたグリーンシートを300枚積層し、この後、端面セラミックグリーンシートを積層し、コンデンサ本体成形体を作製した。
【0034】
次に、コンデンサ本体成形体を金型上に載置し、積層方向からプレス機の加圧板により圧力を段階的に増加して圧着し、この後さらにコンデンサ本体成形体の上部にゴム型を配置し、静水圧成形した。
この後、このコンデンサ本体成形体を所定のチップ形状にカットし、大気中300℃または0.1Paの酸素/窒素雰囲気中500℃に加熱し、脱バインダーを行った。さらに、10−7Paの酸素/窒素雰囲気中、1200〜1250℃で2時間焼成し、さらに、10−2Paの酸素/窒素雰囲気中にて1000℃で再酸化処理を行い、電子部品本体を得た。焼成後、電子部品本体の端面にCuペーストを900℃で焼き付け、さらにNi/Snメッキを施し、内部電極と接続する外部端子を形成した。
このようにして得られた積層セラミックコンデンサの内部電極間に介在する誘電体層(試料No.21、22)の厚みは4μmであった。また誘電体層の有効積層数は300層であった。
表2に測定結果を示す。
尚、DCバイアス依存性△ε/εは、下記式より求め、その他の特性は実験例1と同様にして求めた。
{ε(8V)−ε(0V)}×100/ε(0V)
表2の結果から、比誘電率は3500以上を示し、温度変化率、DCバイアスとも優れた特性を示した。
【0035】
【発明の効果】
本発明の誘電体磁器では、比誘電率が3000以上で、比誘電率の温度特性が±10%以内で、かつ2V/μmのDCバイアス印加による比誘電率の変化率が20%以内の特性を有し、それにより高電圧が印加されても静電容量の低下率が小さい小型・高容量の積層セラミックコンデンサを実現することが可能となる。
Claims (11)
- Aサイトの一部がCaで置換され、Bサイトの一部がZrで置換された少なくとも2種類のペロブスカイト型チタン酸ジルコン酸バリウムカルシウム結晶粒子(BCTZ型結晶粒子)を含有する焼結体であって、そのうちの1種のBCTZ型結晶粒子(1)[(Ba1−xCax)m(Ti1−yZry)O3]のx、y、mがそれぞれ0.15≦x≦0.25、0.15≦y≦0.20、1.000<mであり、
また、他のBCTZ型結晶粒子(2)[(Ba1−zCaz)n(Ti1−sZrs)O3]のz、s、nがそれぞれ0≦z≦0.08、0.01≦s≦0.10、1.000<nであり、
かつ前記BCTZ型結晶粒子(1)及びBCTZ型結晶粒子(2)のいずれもが0.15乃至0.7μmの平均粒径を有することを特徴とする誘電体磁器。 - 前記BCTZ型結晶粒子(1)及びBCTZ型結晶粒子(2)を焼結体中に92質量%以上含有している請求項1に記載の誘電体磁器。
- 前記BCTZ型結晶粒子(1)及びBCTZ型結晶粒子(2)に更にMg、Mn、及び希土類元素を含有させた焼結体であって、前記Mg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一部は前記2種類のBCTZ型結晶粒子中にそれぞれ粒子中心部よりも粒子表面側に偏在するように固溶して、前記2種類のBCTZ型結晶粒子がコアシェル型構造を有していることを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器。
- 前記希土類元素が、Y、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbから成る群より選択された少なくとも1種である請求項1に記載の誘電体磁器。
- Mg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素が前記BCTZ型結晶粒子(1)及びBCTZ型結晶粒子(2)中に固溶してコアシェル型構造を形成し、かつMg、Mn、及び希土類元素の少なくとも一つ以上の元素の酸化物及び/又は複合酸化物が前記BCTZ型結晶粒子(1)及びBCTZ型結晶粒子(2)の粒界に存在していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の誘電体磁器。
- 前記BCTZ型結晶粒子(1)とBCTZ型結晶粒子(2)とを[BCTZ型結晶粒子(1)/BCTZ型結晶粒子(2)]モル比で0.66乃至1.5の割合で含有している請求項1に記載の誘電体磁器。
- Mgが酸化物換算で、0.05乃至0.5質量%、且つ希土類元素が酸化物換算で0.1乃至1.7質量%の割合で前記焼結体中に含有している請求項3に記載の誘電体磁器。
- Mnが前記焼結体中にMnCO3換算で0.05乃至0.4質量%含有している請求項3に記載の誘電体磁器。
- 前記BCTZ型結晶粒子(1)およびBCTZ型結晶粒子(2)間の粒界に、Mn、Ca、Mg、及びBaの内少なくとも1つ以上の元素と、希土類元素、並びにSiを含有する、層厚が1nm以下のアモルファス層を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の誘電体磁器。
- 誘電体層と金属からなる内部電極層とを交互に積層してなる積層型電子部品であって、該誘電体層が、請求項1乃至9のいずれかに記載の誘電体磁器から形成されていることを特徴とする積層型電子部品。
- 前記内部電極が、Ni又はNi合金などの卑金属を含有することを特徴とする請求項10に記載の積層型電子部品。
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