WO2013062093A1 - 食感を改良した魚介類加工品の製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
(ii) テンダライズ処理した魚介類原料に対して減圧処理する工程、
(iii) 減圧処理した魚介類原料を、トランスグルタミナーゼを含む乳化溶液に浸漬し、魚介類原料に乳化溶液を含浸させる工程であって、乳化溶液のエマルションがナノサイズである工程を含む、食感を改良した魚介類加工品の製造方法。
(i) 焼成後に式 ドリップ率(%)=100×(1-焼成後重量(g)/焼成前重量(g))により算出されるドリップ率が17%以下である;及び
(ii) 焼成後に式 製品歩留(%)=100×焼成後重量(g)/原料(g)により算出される製品歩留りが80%以上である。
処理対象となる魚介類原料は、魚類、イカタコ類、貝類等を含み、生鮮原料でも凍結解凍原料でも良い。また、本発明の方法により処理した魚介類原料の加工形態は特に制限されず、加熱調理等により加工した加工形態が挙げられ、例えば、焼き魚、缶詰等が考えられるが、これに限定されるものではない。
本発明では、乳化溶液に漬け込む前の原料に対してテンダライズ処理を行う。テンダライズ処理とは、針状の器具を刺し通し、原形を保ったまま魚介類の硬い筋や繊維を切断する等の物理的加工を加える処理をいう。本発明において、テンダライズ処理は、筋繊維を切断することで、その孔より、乳化溶液を原料内部へ効率良く導入する目的で行うものであり、テンダライズ処理に用いる器具は、先の尖った細い針状のものであれば何でも用いることができる。例えば、ようじ、ドライバー、錐、千枚通し等を用いることができる。また、一度に複数の孔をあけるために、食器として用いられる家庭用フォークや生け花用の剣山、及びテンダライザー等も用い得る。さらに、カッター、ドリル、ミシン等を含む自動穴あけ機、ナイフなどの刃物類、レーザー、超音波、風圧及び水圧等を利用した傷つけ処理も含む。テンダライズ処理は、孔1個/7.5mm×7.5mm以上、好ましくは孔1個/5.0mm×5.0mm以上の、例えば孔1個/4.5mm×4.5mmの穿孔密度で行うことが好ましい。なお、テンダライズするときの孔の密度を穿孔密度の他に用いた器具の針密度で表すこともある。この場合、数値は上記の穿孔密度と同じであるが、例えば「1本/4.5mm×4.5mm」のように表すことができる。また、テンダライズ処理する場合の孔の深さは、原料の片側から孔をあけ、原料の厚さの3/4に達する程度の孔が望ましく、また、片側に皮がついているような原料の場合、皮目に傷がつき、焼成後の見た目が悪くなるのを防ぐため、皮がついていない面から孔をあけるのが良い。
本発明で用いる乳化溶液(エマルション)は水中油型乳化溶液である。本発明で用いる水中油型乳化溶液に制限はないが、例えば、以下の乳化溶液を用いることができる。
(1) 水相成分(上記の例の場合、トレハロース、緩衝液及びカゼインナトリウム)を室温(10~30℃)で攪拌して溶解する。また、油相成分(上記の例の場合、油脂及び大豆レシチン)は攪拌して均一化する;
(2) 上記調製した水相と油相を混ぜ合わせ、TKホモミキサー(プライミクス社製)などの高速回転式分散・乳化機で予備乳化する;及び
(3) 予備乳化した溶液を超高圧式ホモジナイザー処理に供し、乳化溶液中のエマルションサイズをナノレベルまで微粒化しナノサイズとする。
上記2のテンダライズ処理を行った魚介類原料を上記3の乳化溶液へ入れた状態で、減圧処理及び常圧下での浸漬処理を行う。減圧処理は、残存圧100mmHg以下、好ましくは40mmHg以下とした状態で、1~30分間、好ましくは1~15分間、さらに好ましくは1~10分間、特に好ましくは5分間減圧下に保持し、その後常圧に戻す操作を行うことにより行う。ここで、残存圧とは、真空デシケーター内を減圧した際の絶対圧力を指す。減圧し、常圧に戻す減圧処理操作は好ましくは2回以上行う。この処理により、減圧から常圧とした際に、乳化溶液が魚介類原料中に含浸する。減圧処理は真空処理も含み、例えば、残存圧40mmHg以下での処理を真空処理ということがある。
製品歩留(%)=100×焼成後重量(g)/原料(g)
乳化溶液に原料を投入する際にトランスグルタミナーゼを添加し、減圧処理の後の浸漬処理中にエマルション及び魚介類タンパク質に対して作用させる。トランスグルタミナーゼは、用いる乳化溶液に添加すればよい。添加するトランスグルタミナーゼの濃度は、浸漬可能な時間内で効果が得られる濃度を設定すれば良い。例えば、乳化溶液中のトランスグルタミナーゼが0.001~0.05%(w/w)、好ましくは0.003~0.03%(w/w)、さらに好ましくは0.006~0.02%(w/w)になるように添加すればよい。
(1) 乳化溶液に対して、設定した濃度でトランスグルタミナーゼを添加し、所定の温度下で一定時間反応させる;
(2) 反応させた乳化溶液をアルミカップに取り、105℃30分の加熱処理に供する。液量は液面からアルミカップ底面までの深さが0.5~1.0cmとなる程度とする;及び
(3) 加熱後の乳化溶液液面から、トランスグルタミナーゼの反応度合いを判断する。その条件で反応が十分であった場合、液面は薄い膜が張ったようになる。反応が十分でなかった場合、水相と油相の分離が認められる。
ドリップ率(%)=100×(1-焼成後重量(g)/焼成前重量(g))
浸漬に用いる乳化溶液の調製は、ハンドミキサー(Braun Turbo)、ホモミキサー(TKホモミキサー、プライミクス社製)、超高圧式ホモジナイザー(LAB 2000、SMT社製)のいずれかを用いて行った。得られたエマルション粒径(平均粒径)は、ハンドミキサーを用いた場合2.388μm、ホモミキサーを用いた場合1.747μm、超高圧式ホモジナイザーを用いた場合357nmであった。乳化溶液組成は、以下の組成で調製した。得られた乳化溶液のpHは8.0であった。
以下に示す式より、製品歩留を算出し、乳化溶液の魚肉への含浸度合いを評価した。
製品歩留(%)=100×焼成後重量(g)/原料(g)
表1に各処理で調製した焼きサバの製品歩留を示した(n=4)。テンダライズあり+高圧ホモ(超高圧式ホモジナイザー)区の製品歩留が最も高く、テンダライズ処理を行った原料をエマルション粒径の小さい乳化溶液に漬け込みことは、乳化溶液を魚肉内部に含浸するために有効であることが示された。
<処理>
サバ切り身は、30~60gとした。処理工程は、原料解凍→切り身加工→テンダライズ処理(針密度:1本/4.5×4.5mm)→減圧処理→浸漬処理→焼成(中心温度70℃以上)とした。原料およそ200gと乳化溶液300gが入ったプラスチック容器を真空デシケーター(VLH型 アズワン株式会社製)に入れた。減圧処理は残存圧40mmHg下で5分間保持し、常圧に戻す操作を4回繰り返した。その後、常圧下での浸漬処理時間は2時間とした。乳化溶液組成は、以下の組成で調製した。得られた乳化溶液のpHは8.0であった。
TGを添加しない対照区とTG添加区を設け、TG添加区には、乳化溶液にTG製剤(味の素、KS-CT)が0.6%(TG濃度としては0.006%)となるように添加した。浸漬時間は、4時間又は8時間とした。
以下に示す式よりドリップ率を算出し、焼成工程において流出するドリップ量を評価した。
ドリップ率(%)=100×(1-焼成後重量(g)/焼成前重量(g))
表2に対照区、TG添加区サンプルのドリップ率を示した(n=3)。浸漬時間4時間、8時間の場合いずれも、TG添加区のドリップ率が対照区よりも低い結果となり、TG添加の効果が認められた。浸漬時間で比較すると、TG添加区のドリップ率は4時間<8時間となり、TGの反応が十分に進行した後は、それ以上浸漬時間を延長しても効果は大きくないと考えられた。
<処理>
シルバーワレフ切り身は厚さ1.5~2.0cm(40g~70g)に切り分けた。処理工程は、原料解凍→切り身加工→テンダライズ処理(針密度:1本/4.5×4.5mm)→減圧処理→浸漬処理→焼成(中心温度70℃以上)とした。減圧処理は残存圧40mmHg下で5分間保持し、常圧に戻す操作を4回繰り返した。その後の常圧下での浸漬処理時間は5時間とした。試験区は、(1)調味溶液を用い減圧下で浸漬処理を行う(調味溶液+減圧下浸漬)、(2)乳化溶液を用い常圧下し浸漬処理を行う(乳化溶液+常圧下浸漬)、(3)乳化溶液を用い減圧下で浸漬処理を行う(乳化溶液+減圧下浸漬)、とした。焼成処理に供した後、凍結したものを後日、室温下(約20℃)で解凍し、分析を行った。水分含量及び脂質含量は、実施例4に記載の方法で測定し、製品歩留りは以下の式により算出した。
製品歩留(%)=100×焼成後重量(g)/原料(g)
乳化溶液は以下の組成で調製した。得られた乳化溶液のpHは8.0であった。調製した乳化溶液97.0部に対して、3.0部の食塩を添加した。トランスグルタミナーゼ(TG)製剤(味の素、KS-CT)は切り身を乳化溶液に投入する直前に溶液中の濃度が0.6%(TG濃度としては0.006%)となるように溶解した。
調味溶液は以下の組成で調製し、溶液のpHは8.0であった。調製した調味溶液97.0部に対して、3.0部の食塩を添加した。
(1)調味溶液+減圧下浸漬、(2)乳化溶液+常圧下浸漬、(3)乳化溶液+減圧下浸漬の製品歩留まりと、製品の水分含量及び乾燥重量に対する脂質含量を示した。製品歩留まりは(1)調味溶液+減圧下浸漬で最も高くなった。これは、調味溶液に浸漬したことで水分が多く含浸されたためであるが、脂質は含浸されていない。(2)乳化溶液+常圧下浸漬は、製品歩留まり、水分含量、脂質含量のいずれも3試験区のうち最も低く、よって、常圧下浸漬では、魚肉中に水分、脂質を含浸するのが難しいことが分かる。(3)乳化溶液+減圧下浸漬のように、乳化溶液と減圧下浸漬処理を組み合わせることで、魚肉中に脂質をより多く導入できることが示された。
<処理>
サケ切り身は厚さ1.5~2.0cm(50g~100g)に切り分けた。処理工程は、原料解凍→切り身加工→テンダライズ処理(針密度:1本/4.5×4.5mm)→減圧処理、または減圧処理なし→浸漬処理→焼成とした。なお、サケは身質がかたいため、テンダライズ処理は3回、減圧処理は残存圧40mmHg下で5分間保持し、常圧に戻す操作を6回繰り返した。テンダライズ処理の有無、漬け込み溶液を変え、全部で4試験区を設けた。浸漬時間は、2時間とした。
浸漬処理には、乳化溶液だけでなく調味溶液をも用いた。乳化溶液は、以下の組成で調製したものに、食塩、グルタミン酸ナトリウムを加え、味を整えるとともに、リン酸三ナトリウムでpH8.3に調整した。調味溶液は、水に、乳化溶液に添加したのと同量の食塩、グルタミン酸ナトリウムとリン酸三ナトリウムを溶解したものとし、溶液のpHは8.9とした。
物性測定には、テクスチャーアナライザー(TA XT plus,英弘精機社製)を用いた。φ12mm円柱プランジャーを1mm/secでサンプル厚みの80%まで押し込んだ際の荷重値を記録した。
焼き魚のかたさは、テンダライズ処理に供したもので、調味溶液よりも乳化溶液を用いて浸漬処理したもののほうがやわらかい結果となった。テンダライズ処理によって、切り身に物理的加工が加えられたことに加えて、乳化溶液による浸漬処理では、油脂がサケ繊維間を滑りやすくしたものと考えられた。
<処理>
シルバーワレフ切り身は厚さ1.5~2.0cm(40g~70g)に切り分けた。試験区は未処理区と処理区とし、未処理区は調製した切り身をそのまま焼成(中心温度70℃以上)した。処理区の処理工程は、原料解凍→切り身加工→テンダライズ処理(針密度:1本/4.5×4.5mm)→減圧処理→浸漬処理→焼成(中心温度70℃以上)とした。減圧処理は残存圧40mmHg下で5分間保持し、常圧に戻す操作を4回繰り返した。その後の常圧下での浸漬処理時間は5時間とした。未処理区、処理区とも、焼成後に凍結し、後日、室温下(約20℃)で解凍し、官能評価試験および分析を行った。また、水分含量と油脂含量を測定した。水分含量は常圧加熱乾燥法、油脂含量はソックスレー抽出法によって求めた。
乳化溶液は以下の組成で調製した。乳化溶液のpHは8.0であった。トランスグルタミナーゼ(TG)製剤(味の素、KS-CT)は切り身を乳化溶液に投入する直前に溶液中の濃度が0.6%(TG濃度としては0.006%)となるように溶解した。
官能評価は二点識別法にて行った。処理区の製品と未処理区の製品の2品を盲検、無作為化して同時にパネルに提供し、それら食感について、それぞれ「やわらかい」、「ふっくらしている」、又は「脂のりが良い」のコメントが当てはまるほうの食品サンプルを選択してもらった。
過半数以上のパネルが、乳化溶液を含浸した処理区製品を「やわらかい」「ふっくらしている」「脂のりが良い」と評価した。製品歩留まりは未処理区製品で82.9%、処理区製品で88.0%であり、歩留まりの違いを補正するため、原料100gに対する脂質、水分含量を算出したところ、脂質、水分ともに、処理区製品が未処理区製品よりも多い結果となった。油脂又は水分のみを魚肉に含浸させるのではなく、乳化溶液の形態で含浸させたことで、このような食感の改善が認められたと考えられた。
Claims (9)
- (i) 魚介類原料に対してテンダライズ処理する工程、
(ii) テンダライズ処理した魚介類原料に対して減圧処理する工程、
(iii) 減圧処理した魚介類原料を、トランスグルタミナーゼを含む乳化溶液に浸漬し、魚介類原料に乳化溶液を含浸させる工程であって、乳化溶液のエマルションがナノサイズである工程を含む、食感を改良した魚介類加工品の製造方法。 - テンダライズ処理が、針密度が、1本/7.5mm×7.5mm以上である器具を用いて魚介類原料に穿孔をあける処理である、請求項1に記載の製造方法。
- 減圧処理を、常圧下から残存圧が100mmHg以下となるように減圧し、1~30分間の条件で行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
- 浸漬に使用する乳化溶液のエマルションサイズが1μm未満である、請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
- 浸漬に使用する乳化溶液のpHが8.0以上である、請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
- 浸漬の際に使用する乳化溶液中のトランスグルタミナーゼ濃度が0.001~0.05%(w/w)の範囲である、請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
- 乳化溶液の油脂含量が10~40%(w/w)である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
- 請求項1~7のいずれかに記載の製造方法により製造された、内部に乳化溶液及びトランスグルタミナーゼが含浸した魚介類加工品。
- 以下の特性を有する、請求項8記載の魚介類加工品:
(i) 焼成後に式 ドリップ率(%)=100×(1-焼成後重量(g)/焼成前重量(g))により算出されるドリップ率が17%以下である;及び
(ii) 焼成後に式 製品歩留(%)=100×焼成後重量(g)/原料(g)により算出される製品歩留りが80%以上である。
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