JP3656094B2 - 食肉加工用ピックル - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハム、ベーコン、焼豚等の食肉加工品の製造に使用する塩漬剤およびピックルに関するものである。より詳しくは、本発明はトランスグルタミナーゼをピックルに使用したときにその粘度が上昇することがなく、従ってそのようなピックルの使用上の問題がなくなりかつそのピックルをインジェクションしたときにハム、ベーコン、焼豚等の食肉加工製品の品質が改善されるものである。
【0002】
【従来の技術】
通常、食肉加工品であるハム、ベーコン等は塩漬する事が法令上(JAS上)義務づけられている。その方法として、乾塩法や、漬け込み法が行われて来たが、最近ではその殆どがピックルインジェクション法で行われている実態がある。その時使用されるピックルは、食塩および発色剤が中心成分であるが、そのほかに歩留まり、保水力、結着力等を改善することを目的に重合リン酸塩、異種蛋白類等が配合されると共に調味料、保存料、着色料等も配合される。
【0003】
また、最近では、食感の改善や、スライス歩留まりの改善等を目的としてピックルにトランスグルタミナーゼ(以下、TGaseと略記することがある。)が配合されることがある。この場合の大きな問題として、次の問題がある。すなわち、通常、ピックルは異種蛋白の完全溶解または脱気消泡のため作成後一夜低温庫に静置された後に使用されるケースが殆どである。しかし、このピックル作成時にTGaseを同時に添加溶解させてしまうとその静置中に両者が反応してしまい、ピックルの粘度が著しく上昇してインジェクションができなくなってしまうという欠点(問題)がある。従って、TGaseの機能を十分に発現させるためには、ピックルの粘度をコントロール(換言すれば、TGaseの反応をコントロール)する必要がある。即ち、ピックル作成時にTGaseを添加溶解してもその反応をコントロールすることによって粘度を上昇させることなく、且つそのピックルをインジェクションした食肉加工品に対してはTGase使用の十分な効果が発現できるように工夫する必要がある。
【0004】
従来のピックルは、比較的高加水の場合、そのピックル中にトータル10%程度の異種蛋白を配合する必要がある。その配合比率は求める食肉加工製品の品質により異なるが、大まかに大豆蛋白は1〜8%、カゼインナトリウムなどのカゼイン類は0.5〜3%、卵白は2〜5%、ホエー蛋白は2〜5%程度が代表的である。
【0005】
このようなピックル100gに対して、そのまま、例えばTGaseを2〜50ユニット程度添加すると時間とともにTGaseによる蛋白の架橋高分子化反応が進行し、ピックルの粘度が上昇してインジェクションができなくなる欠点が生じる。この為にTGaseのピックルへの使用が大きく限定されているのが現状である。これに対応する方法としてピックルにおける大豆蛋白やカゼインナトリウム等のカゼイン類の配合量を低下せしめた状態でTGaseを使用する方法(特開平7−255426)が知られている。しかし、この方法では蛋白の量が制限されるため十分に蛋白の機能が活かせないことや、やはり時間の経過が長くなると粘度上昇を起こすのでピックルの使用時期に制約がある等の欠点がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
前項記載の従来技術の背景下に、本発明は、TGaseを配合してもなお上記の欠点を免れた優れたピックルの提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述のような課題を解決すべく鋭意研究の結果、蛋白部分加水分解物を使用することによって上記の課題に対応できることを発見し、このような知見に基づいて本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、トランスグルタミナーゼおよび特定の加水分解率の大豆蛋白部分加水分解物を含有することを特徴とする食肉加工用塩漬剤、およびこれを水に溶解した形態の経時的粘度上昇が抑制されたピックルに関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明において使用される蛋白部分加水分解物としては、一般にピックルに使用される蛋白の部分加水分解物を用いることができる。例えば、カゼイン類(遊離のカゼイン以外にも、カゼインナトリウム、カゼインカルシウムなどの塩類を含む)、大豆蛋白、卵白、ホエー蛋白、プラズマなどの部分加水分解物である。
【0011】
このうち、TGaseの添加により特に粘度を上昇させるものは大豆蛋白であり、また、他の蛋白部分加水分解物に比して大豆蛋白部分加水分解物は最終製品の食肉加工品に優れた食感を付与する。従って、大豆蛋白部分加水分解物、とりわけ3〜20%程度の加水分解率の大豆蛋白部分加水分解物の使用が他の蛋白部分加水分解物の使用に比して極めて有効である。
【0012】
TGaseを配合したピックルについては、粘度の上昇が小さくなることが必要条件であるが、実用上差し支えのない範囲で上昇することは問題がない。一方、TGaseの機能及び蛋白の機能が損なわれてしまっては全く意味がない。この粘度をコントロールされたピックルをインジェクションして作成したハム、ベーコン、焼豚等の食肉加工品にTGaseの機能、及び蛋白使用の所期の目的である機能を十分に発現させることが必須である。
【0013】
さて、次に大豆蛋白部分加水分解物について詳述する。一般的に大豆蛋白はソイフラワー系、抽出蛋白系、分離蛋白系、濃縮蛋白系等に分類されるが、ピックルに使用される蛋白は濃縮系および分離蛋白系を中心にして抽出系等も使用されるが、いずれもよりネイティブなものが使用される。しかし、これらネイティブな蛋白はよりTGaseにたいする反応性が高いため、ピックルの粘度の上昇をより起こしやすい傾向にある。従って、ピックルにおいてこれらネイティブな蛋白の機能を保持しながら、且つTGaseの添加によりピックルが粘度上昇を起こしにくい蛋白を検討した結果、部分加水分解された大豆蛋白の使用に至ったのである。
【0014】
ここでいう蛋白部分加水分解物とは、大豆蛋白を蛋白加水分解酵素(プロテアーゼ)で部分的に加水分解したものである。プロテアーゼには蛋白分子の端末から順次切断するプロテアーゼのタイプ(エンド型)と分子中の特定場所のみ切断するタイプ(エキソ型)が知られているが、粘度上昇のコントロールという観点からはどちらのプロテアーゼで処理しても問題はない。また、塩酸、硫酸などの鉱酸により部分加水分解したものでもよい。
【0015】
ここでの肝要な点はその加水分解率である。全く分解していないものは、これをピックルに配合した場合、当然ながらピックルの粘度上昇を招き、反対に分解率が極めて高すぎると粘度の上昇もない代わりに製品に対して蛋白使用の効果を発現しなくなる。従って、このような見地から、本発明の目的に合致する分解率は2〜30%、好ましくは3〜20%程度である。因みに、ここでいう分解率は、次のようにして求められるものである。すなわち、固形分濃度を調整した蛋白溶液に最終濃度0.2Mになるようにトリクロロ酢酸(TCA)溶液を添加、撹拌後40℃に20分保持後遠心分離し、上清部分の全窒素量を測定する。この窒素量に6.25を乗じて上清部分の蛋白量を算出し、溶液全体の当初の蛋白量で除した値を分解率とする。
【0016】
本発明において使用する蛋白部分加水分解物の大豆蛋白の量は特に限定するものではない。一般的にピックルとして使用される大豆蛋白の量に従うことができる。即ち、一般的にピックルとして使用する大豆蛋白の量は、先に説明したように、ピックルに占める割合が1〜8%程度である。この量をそのまま蛋白部分加水分解物に置き換えることができる。
【0017】
本発明において、ピックルの作成に使用するTGaseとしてはカルシウム非依存性のものと、カルシウム依存性のものがあるがいずれも使用することができる。前者の例としては微生物由来のもの(例えば特開昭64−27471参照)をあげることができる。後者の例としてはモルモット肝臓由来のもの(特公平1−50382参照)、魚由来のもの(例えば関信夫ら「日本水産学会誌「VOL. 56,125−132(1990)」及び「平成2年度日本水産学会春季大会講演要旨集219頁参照)、血液等に存在するFACTOR XIII(第13因子)といわれるもの(WO93/15234)等をあげることができる。この他遺伝子組み換えにより製造されるもの(特開平1−300889、特開平6−225775、欧州特許出願公開EP−0693556A)等、いずれのTGaseでも用いることができる。その起源及び製法に限定されることはない。
【0018】
TGaseの使用量としては、単味品といわれるハムやベーコンの作成に通常使用される量と同程度であるが(前掲特開平7−255426など参照)、当然ながら、ピックルの打ち込み率との関係でピックルに対する添加量は変わってくる。通常ハムに対しては製品ハム100g当たり5〜15ユニット程度が適正使用量と考えられる。従って、例えば豚肉に対して50%打ち込みの場合では計算上ピックル100gに対して10〜30ユニット添加することが必要になるが、一般的にはピックル100gに対して2〜30ユニット程度配合すればよい。添加量がこれより少ないとTGaseによるハムの物性改良(食感の改良、結着力の向上、スライス適性の向上等)の効果が得られなくなり、またこれよりも多すぎると食感が著しく硬くなりすぎる等の不都合があり、いずれもこの範囲を逸脱すると所期の目的が得られなくなる。
【0019】
因みに、本発明でいうトランスグルタミナーゼの活性単位は、ベンジルオキシカルボニル−L−グルタミニルグリシンとヒドロキシルアミンを基質として反応を行い、生成したヒドロキサム酸をトリクロロ酢酸存在下で鉄錯体を形成させた後、525nmの吸光度を測定し、その量を検量線により求める方法により測定されかつ定義される(前掲特開昭64−27471公報参照)。
【0020】
本発明の塩漬剤およびピックルの調製は、その製造工程でTGaseを所定量添加(溶解)するとともに大豆蛋白部分加水分解物を初めとする各種蛋白部分加水分解物を使用することを除いては、通常の塩漬剤およびピックルの調製法にそれぞれ準ずることができ、特別な手順や配合は全く必要がない。また、これらの、食肉加工品の製造法における使用法も、従来の使用法に準ずることのできることは云うまでもない。また、本発明の塩漬剤およびピックルは、それぞれ、そのものとして流通に置くことのできることはもちろんである。
【0021】
【実施例】
以下、実例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。もちろん、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1
大豆蛋白の単品ゲルにおける評価として、下記第1表に示すNSI(水溶性窒素指数)の大小を基準として選択した3品とプロテアーゼで部分加水分解した1品のそれぞれ7.5%溶液を作り、それに対してTGaseの製剤「アクティバTGS」(味の素(株)製、比活性100ユニット/g)をピックル100g当たり7.5ユニット相当となるように添加後、25℃で24時間インキュベートし、下記第2表に示す時間の経過に応じてその粘度を芝浦製作所製のB型粘度計「ビスメトロン」のローターNo.2で測定した。
【0023】
その結果も第2表に示す。なお、プロテアーゼで部分加水分解して調製して得た大豆蛋白部分加水分解物「アジプロン」−HOの分解率は約7.5%である。
【0024】
【表1】
Figure 0003656094
【0025】
【表2】
Figure 0003656094
【0026】
上記第2表から容易に分かるとおり、酵素処理をしていない3品はNSIの大小に関わらず急激な粘度上昇を示すが、酵素処理蛋白である「アジプロン」−HO(味の素(株)製)は24時間後においても僅かな上昇しか示さない。因みに、酵素処理をしてない3品も味の素(株)製で、いずれも、分離大豆蛋白である。
【0027】
実施例2
下記第3表に示すレシピーによるピックルを作成し、それに対してTGase製剤「アクティバ」TGS(味の素(株)製、比活性100ユニット/g)を0.0%(ピックル100g当たり0ユニット)、0.15%(同15ユニット)、0.20%(同20ユニット)、0.40%(同40ユニット)となるように添加して5℃の室温の中に静置し、下記第4表に示す時間の経過毎にその粘度を測定した。
【0028】
その結果をも第4表に示す。TGase無添加においては当然ながら粘度の変化は起こらない。しかし、適正添加量と推定される0.2%添加でも24時間後でも僅かな粘度上昇しか示さず、48時間後には初めて100CPを越える程度の粘度になることから十分に実用の範囲であると考えられる。また、0.4%添加では粘度上昇が急激であり実用はむずかしいことが分かる。また、このことはTGaseの添加量を選択することによって最適粘度が選択できることを示しており、非常に示唆に富む結果である。
【0029】
【表3】
Figure 0003656094
【0030】
【表4】
Figure 0003656094
【0031】
実施例3
実施例2における第3表のレシピー(c)を基準にして、実施例1で選択した「アジプロン」−HS2をコントロールとして本発明品の「アジプロン」−HOとの比較実験を行った結果、下記第5表に示す結果を得た。
【0032】
【表5】
Figure 0003656094
【0033】
第5表から分かるように、通常品(非加水分解蛋白)である「アジプロン」−HS2にTGaseを添加すると100CPを越える粘度になるが、部分加水分解物である「アジプロン」−HOを用いるとTGaseを添加しても殆ど粘度上昇がない。
【0034】
また、24時間経過したピックルを実際に豚ロースにインジェクションし常法によりハムを試作し評価した結果、大豆蛋白部分加水分解物とTGaseを併用して作成したハムの品質が著しく良好であった。また、大豆蛋白部分加水分解物とTGaseを組合わせたピックルは粘度上昇が少なく、極めて作業性が良好であった。
【0035】
【発明の効果】
従来TGaseをピックルを介してハム等の単味品に使用するときは、予めピックル中に配合されている異種蛋白、特に大豆蛋白などの植物蛋白とTGaseが反応することによりピックルの粘度が著しく上昇してしまい、それによりTGaseの使用が大きく制約されていた。
【0036】
しかし、本発明によれば、蛋白部分加水分解物、好ましくは大豆蛋白部分加水分解物、更に詳細には特定の分解率を持った大豆蛋白部分加水分解物とTGaseを組み合わせることによってピックルの粘度が上昇することなく、TGaseの使用制限が非常に小さくなった。また、このピックルを使用することでTGaseの機能および大豆蛋白の機能がロースハムやベーコンなどの単味品に対しては十分に発現し、その本来の機能を満たすことができる。換言すれば、本発明によれば、大豆蛋白等の蛋白部分加水分解物を選択使用することによりTGaseを配合したピックルの粘度をコントロールすることが可能になったことからTGaseを単味品に使用できる可能性が大きく広がった。また、TGaseを単味品に使用することにより、安価で、食感の改良された、また製造工程中のスライス歩留まりの向上や、結着力の優れた製品を製造することができ、単味品の製造に非常に大きな貢献をすることができる。

Claims (3)

  1. トランスグルタミナーゼおよび加水分解率が2〜30%の大豆蛋白部分加水分解物を含有することを特徴とする食肉加工用塩漬剤。
  2. トランスグルタミナーゼおよび加水分解率が2〜30%の大豆蛋白部分加水分解物を含有することを特徴とする経時的粘度上昇が抑制されたピックル。
  3. トランスグルタミナーゼをピックル100g当たり2〜30ユニット含有することを特徴とする請求項に記載のピックル。
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