JP4200644B2 - 食品加工用塩漬剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ハム、ベーコン、焼き豚等の食肉加工品に使用する塩漬剤およびそれを原料としたピックルに関するものである。より詳しくは、本発明はトランスグルタミナーゼを蛋白質を含むピックルに添加したときにその粘度が上昇することなく、従ってピックルの粘度上昇に伴う使用上の問題がなくなり、かつそのピックルを原料に浸漬もしくはインジェクションして製造したハム、ベーコン、焼き豚等の食肉加工製品の品質が改善されるものである。
【0002】
【従来の技術】
通常食肉加工品であるハム、ベーコン等は原料肉に塩漬剤の溶液を浸透拡散させる工程である塩漬が義務づけられている。その方法として、乾塩法や、漬け込み法、注入法(インジェクション法)があるが、最近ではその殆どが漬け込み法およびインジェクション法で行われている。
その際に使用される塩漬剤の溶液であるピックルは食塩、発色剤が中心成分であるが、そのほかに歩留まり、保水力、結着力、発色性等を改善することを目的に重合リン酸塩、アスコルビン酸等が配合されると共に調味料、保存料、着色料等が配合される。
【0003】
また、製品の保水性、乳化性、硬さや弾力といった食感、あるいは結着性の改良等を目的に、卵白、ホエー蛋白、カゼインナトリウムなどのカゼイン類あるいは大豆蛋白等の異種蛋白とよばれる各種タンパク素材を配合したピックルが現在では主流となっている。
【0004】
更に、最近ではさらなる食感の改善や、スライス歩留まりの改善等を目的としてトランスグルタミナーゼ(以下、TGaseと略記する)が配合されることがある。TGaseは原料肉の蛋白質だけでなく、ピックルを介して食肉に浸透もしくは注入された異種蛋白にも作用して、製品の物性を大幅に向上させる。異種蛋白を多く含むピックルほどTGaseによる効果が大きいため、特に異種蛋白質を多く含むピックルへのTGaseの使用が切望されている。しかし、蛋白質を多く含むピックルにTGaseを使用した場合、ピックルの粘度上昇という問題が発生する。
【0005】
すなわち、一般的にピックルは異種蛋白などをはじめとする粉末原料の完全溶解、又は脱気消泡のため、調製後一夜ないし場合により2〜4日程度、低温庫に静置された後に使用される。TGaseも一般的に粉末で供給されるため異種蛋白などと同時に溶解する必要があるが、その後の静置中にピックル中の異種蛋白、特に大豆蛋白及びカゼインナトリウム等がTGaseにより架橋重合され、ピックルの粘度が著しく上昇し機械的なインジェクションが不可能になるという欠点がある。従ってTGaseをピックルに添加する場合には、静置中にピックルの粘度が上昇しないようにする工夫が必要であった。
【0006】
TGaseによるピックルの粘度上昇を抑制する技術として、特開平7−255426、特開平11−56303が報告されている。それらはピックルに配合される異種蛋白のうち、TGaseとの反応性が高いカゼイン類や大豆蛋白の量を制限したり、それらの部分加水分解物を使用する方法である。これらの方法は、TGase活性には何ら影響を及ぼさず、TGaseの基質となる原料を減らすなり物性変化の少ないものに置き換えることにより、粘度上昇を抑制するものである。しかし、ピックル中の蛋白質の量を制限すると、蛋白質に期待される機能である、食肉加工品に対する物性付与、保水性付与などの機能が不十分となり、硬さが不十分であったり、製品からの離水が著しくなるなどの問題が発生する。また、蛋白質の部分分解物を使用すると、1日以内の粘度上昇は抑えられるが、それより長い保存においては十分に粘度を抑制することは不可能である。また当然ながら、使用できるカゼイン等や大豆蛋白がそれらの部分分解物に限定されるため、蛋白質の配合を工夫することによる多様な食感・品種の創出に制限を与えてしまう。そのため、依然としてピックルに対するTGaseの使用は、異種蛋白の配合量が少ないピックルや、一日以内で使い切る、もしくは残りを廃棄するピックルなど、使用が限定されているのが現状である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
前記記載の従来技術の背景下に、本発明は、TGaseを配合してもなお上記の欠点を免れた、ピックルの蛋白質原料についてなんら変更や工夫を施す必要のない塩漬剤及びそれを用いたピックルの提供を目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上述のような問題点を解決すべく鋭意研究を行った結果、TGaseを含むピックルにTGaseの反応抑制物質を加え、TGaseの活性を制御することでピックルの粘度上昇を抑えるとともに、最終製品においてはTGase活性を回復せしめ従来と同様のTGaseの効果を与える方法を見いだし、本発明を完成するに至った。つまり、本発明を用いることにより、従来では粘度が上昇してしまうためTGaseを添加できなかった組成のピックルに対してピックルの組成に何ら手を加えることなくTGaseを添加できるようになる。本発明は、TGaseの活性を制御するという点で、前述の先行技術とは根本的に異なる。
【0009】
すなわち、本発明はTGaseおよびTGaseの反応抑制物質を含有することを特徴とする食肉加工用塩漬剤、この塩漬剤を使用したピックル、およびこのようなピックルを使用して製造した食肉加工品に関する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0011】
TGaseにはカルシウム非依存性のものと、カルシウム依存性のものがあるが、本発明においてはいずれも使用することができる。前者の例としては放線菌、枯草菌などの微生物由来のもの(例えば特開昭64−27471参照)をあげることができる。後者の例としてはモルモット肝臓由来のもの(特公平1−50382参照)、卵菌などの微生物由来のもの、牛血液、豚血液など動物由来のもの、鮭、マダイなどの魚由来のもの(例えば関信夫ら「日本水産学会誌「VOL56、125−132(1990)」及び「平成2年度日本水産学会春季大会講演要旨集219頁参照)、血液等に存在するファクターXIII(第13因子)といわれるもの(WO93/15234)、カキ由来のもの等をあげることができる。この他遺伝子組み替えにより製造されるもの(特開平1−300889号公報、特開平6−225775公報、特開平7−23737公報、欧州特許公開EP−0693556A)等、いずれのTGaseでも用いることができ、その起源及び製法に限定されることはない。中でも食品用途としての機能性及び経済性の面からカルシウム非依存性のものが好ましい。例えば上述の微生物由来のTGase(特開昭64−27471)はいずれの条件も満足するものであり現時点では最適といえる。
【0012】
本発明において使用できる反応抑制物質としては、TGaseの可逆的反応阻害物質が挙げられる。代表例としては、無機または有機のアンモニウム塩が挙げられる。実用的には無機アンモニウム塩を用いることが簡便であり、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、過硫酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム等があり、有機アンモニウムとしてはクエン酸アンモニウム等が挙げられる。これらはいずれも単独又は2種以上組み合わせて使用することができる。また、反応抑制物質として、水練り製品の物性コントロール剤としての機能が認められているアンセリン、カルノシン、バレニンなども使用することができる。
【0013】
これらの反応抑制物質は、それぞれ重量あたりの反応抑制能力は異なるので、ピックルに使用する蛋白質、酵素添加量を考慮して選定することが出来るが、これらの中で、塩化アンモニウムは調味料として、またプレミックス等のふくらし粉として一般的に使用されており、酵素の安定剤としても認められており、非常に安価であるため、本発明における反応抑制物質としては最も優れている。
【0014】
ピックルに反応抑制物質を使用する場合、重要な点はその添加量である。ピックルにおいては十分に粘度上昇が抑制される程度にTGase活性を阻害するとともに、原料肉に打ち込まれてその濃度が低下した際に、TGaseの最終製品への効果を実質的に低下させない程度にまでその阻害能が低下する添加量でなければならない。反応抑制物質の最適な添加量は、TGaseの添加量、反応抑制物質の重量当たりの反応抑制能力と、使用されるピックルの蛋白質組成、求められる粘度抑制効果の大きさ、ハムの製造条件によって異なる。
【0015】
本発明によれば、一般的にTGaseの添加によって粘度が上昇する組成のピックルに対しては、0.001モル/l以上、望ましくは0.002モル/l以上のアンモニウム塩で粘度抑制効果を得ることができる。また、アンモニウム塩の濃度が0.2モル/l以上ではTGaseの添加量に見合う最終製品への十分な効果が得られなくなる。望ましくは、アンモニウム塩の濃度は0.1モル/l以下がよい。
【0016】
一方、TGaseのピックルへの添加量は、ピックルの打ち込み率や、TGaseに望まれる効果の大きさや機能によってさまざまであるが、一般的にピックル中の濃度で20U〜1000U/lの範囲で使用される。
【0017】
なお、本発明でいうTGaseの活性単位は、次に示すヒドロキサメート法で測定され、かつ定義される。すなわち、温度37℃、pH6.0のトリス緩衝液中、ベンジルオキシカルボニル−L−グルタミルグリシン及びヒドロキシルアミンを基質とする反応系で、TGaseを作用せしめ、生成したヒドロキサム酸をトリクロロ酢酸存在下で鉄錯体にする。次に、反応系の525nmにおける吸光度を測定し、生成したヒドロキサム酸量を検量線により求める。そして、1分間に1μモルのヒドロキサム酸を生成せしめる酵素量をTGaseの活性単位、即ち1ユニット(1U)と定義する(特開昭64−27471号、米国特許5156956号参照)。
【0018】
本発明の塩漬剤は、TGaseとアンモニウム塩を混合した酵素製剤であるため、この酵素製剤におけるアンモニウム塩とTGaseの配合比は、ピックル中に添加されたときに上記に示されたそれぞれの濃度を同時に満足する範囲である。詳細を示すと、TGaseが20U/lに対し、アンモニウム塩が0.2モル/l配合する場合はTGase1000Uあたりアンモニウム塩が10モルとなる。また、TGaseが1000U/l,アンモニウム塩が0.001モル/l配合されたときTGase1000Uあたりアンモニウム塩が0.001モルとなる。従って、本発明の塩漬剤とは、少なくとも両成分がTGase1000Uあたりアンモニウム塩が0.001モル〜10モル、望ましくは0.002モル〜5モルの範囲で配合されたものである。また、TGaseの酵素蛋白質重量部あたりで示すと、少なくとも両成分が純酵素蛋白質重量1gあたりアンモニウム塩が0.02モル〜200モル、望ましくは0.04モル〜100モルの範囲で配合されたものである。
【0019】
本発明の塩漬剤を用いてピックルを調製する際の蛋白質の種類は、ピックルでの粘度上昇を気にすることなく通常使用されるもの、すなわち、大豆蛋白、カゼイン類、卵白、乳清蛋白質、ゼラチン、コラーゲン、プラズマ蛋白等が定法通り使用できる。
【0020】
本発明の塩漬剤は、一般的に用いられる塩漬剤や異種蛋白や食塩と同じく、冷水に溶解し、ピックルとして用いられる。調製直後のピックルは泡を含んでおり、泡は最終製品の品質を低下させる。そのため、真空にするか、もしくは冷蔵下で一晩以上静置して、泡を消す。ピックルは、インジェクターを用いて原料肉に注入される。その後、肉はタンブリングされ、ピックルを原料肉内に均一に拡散させる。
【0021】
なお、本発明の塩漬剤の用途は、食肉製品の製造に限定されない。本発明の塩漬剤は、TGaseと蛋白質を含む溶液を食品原料に注入する用途全般に使用できる。
【0022】
【実施例】
本発明を実施例で詳しく説明する。本発明の技術的範囲はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、実施例で使用したTGaseは、ストレプトベルチシリウム属(Streptoverticillium mobaraense IFO 13819)起源のTGaseを主成分とする「アクティバTG」(味の素株式会社製1000U/g)を用いた。
【0023】
実施例1(反応抑制物質によるピックルの粘度上昇抑制とモデルハムの硬さ向上効果)
表1に示す配合に従い、以下に説明する方法でピックルを調製した。ミキサーを備えたチャンバーに、5℃に冷却した水を入れ、異種蛋白を溶解混合し、続いてその他の原料を溶解した。続いて、表2に従って、「アクティバTG」を(1)0%、(2)0.005%、(3)0.010%、(4)0.015%、(5)0.020%となるように添加し、30分間撹拌し完全に溶解させた。一方は「アクティバTG」の添加量を0.020%に固定し、それに対して塩化アンモニウムを(6)0.002モル/l、(7)0.02モル/l、(8)0.2モル/lそれぞれ添加した。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
このピックルを、5℃の低温室の中に静置し、経時的にその粘度を測定した。一方、1日後の各ピックル100部を、豚ロース肉を5mm目皿で細切した挽肉100部に加え、ステファンカッターで3分間混合した後、ファイブラスケーシング(φ90mm)に充填し、スモークチャンバーで60℃、120分乾燥・熟成させ、60℃、60分間燻煙し、75℃、120分蒸煮してモデルハムを作成した。ピックル粘度(B型粘度計、No.2ローター、30rpm)の経時変化とモデルハムの破断応力(φ5mmプランジャー、6cm/分)および品質評価結果を併せて表3に示す。
【0027】
【表3】
【0028】
ピックルの粘度について:TGase無添加区(1)では粘度はほとんど変化しないが、「アクティバTG」の添加量が増加するとともにピックルの粘度が上がりやすくなり(実験区(2)〜(5))、「アクティバTG」0.02%添加区では3日目で3000CPを越える粘度を示し、完全に使用不可能となる。それに対して塩化アンモニウム添加区(実験区(6)〜(8))は、粘度の上昇が著しく抑制されている。また、塩化アンモニウムの添加量が多いほど粘度が上がりにくい。また、アンセリン(実験区(9))、カルノシン(実験区(10))を添加したピックルも、粘度の上昇が抑制された。
【0029】
モデルハムの破断強度について:「アクティバTG」の添加量の増加と共にその破断強度は大きくなり、食感としての固さ、弾力が増強されていることが示されている。これに対し、塩化アンモニウム添加区はその添加量が多くなると破断強度はわずかに低下する傾向にあるが、ピックル粘度への影響と比較すると、その低下はわずかである。アンセリン、カルノシン添加区も同様の性質を示した。すなわち、ピックル中ではTGase活性が阻害されているが、ハム中では回復していることがわかる。
【0030】
実施例2(食肉製品用塩漬剤の調製)
既存の酵素製剤と、本発明の食肉製品用酵素製剤3種を表4に示すレシピー(A)(B)(C)(D)で調製した。TGaseとしては「アクティバTG」を、塩化アンモニウムとしては食品添加物として一般に市販されているものを使用した。
【0031】
【表4】
【0032】
表1に示す組成のピックルに対して(1) 無添加、(2)製剤A;0.2%、(3)製剤B;0.2%、(4)製剤C;0.2%、(5)製剤D;2.0%を添加した。なお、実験区(2)〜(5)におけるTGase濃度はすべて同一である。このピックルの粘度変化を経日的に測定した結果を表5に示す。
【0033】
【表5】
【0034】
同時に、1日後のこれらのピックルを使用してロースハムを試作した。ロースハムは豚ロース肉を原料肉として常法により試作した。ピックルインジェクターを用い、ピックルを豚ロースに注入した。ピックルの注入率は、原料肉に対して100%重量とし、続いて、タンプリングを5℃で一晩行った。タンプリングされた肉を、ケーシング(折幅11cm)に充填し、加熱した。加熱条件は、乾燥を60℃で2時間、燻煙を60℃で1時間、蒸煮を75℃で2時間とした。ハムは2mm厚にスライスし、食感を官能的に評価した。その結果を表6に示す。
【0035】
【表6】
【0036】
ピックルの粘度について:塩化アンモニウムを含まない製剤Aを添加したピックル(2)は粘度上昇が非常に速い。これに対し、塩化アンモニウムを含む製剤B、C、Dを添加したピックル(3)、(4)、(5)では粘度上昇が顕著に抑制されている。また、塩化アンモニウムをより多く含む製剤Cのほうが粘度抑制効果が高い。一方、ハムの物性へのTGの効果は、無添加区(1)と比べると(2)、(3)、(4)の3製剤はほぼ同水準であった。(5)は(2)にくらべ、若干硬さが不足していたが、ピックルの粘度上昇が全く許されないケースなど場合によっては有効な配合である。
【0037】
【発明の効果】
TGaseにその反応抑制物質を添加した食品加工用塩漬剤をピックルに使用すれば、製品の食感に対するTGaseの効果へはほどんど影響することなしに、ピックルの粘度上昇を大幅に抑制することを可能にする。
Claims (2)
- 放線菌由来のトランスグルタミナーゼおよび塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、クエン酸鉄アンモニウム、過硫酸アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム又はリン酸2水素アンモニウムから選ばれる1種以上のアンモニウム塩を含有し、トランスグルタミナーゼ1000Uあたりのアンモニウム塩が0.001〜10モルであり、ピックル中のアンモニウム塩の濃度が0.001モル/l以上0.1モル/l以下である食肉加工品用ピックル。
- アンモニウム塩が塩化アンモニウムである請求項1記載のピックル。
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