明 細 書
高強度、高導電率および曲げ加工性に優れた銅合金
技術分野
[0001] 本発明は、高強度、高導電率であり、かつ曲げ加工性に優れた、コルソン系銅合金 に関し、例えば、家電、半導体装置用リードフレーム等の半導体部品、プリント配線 板等の電気'電子部品材料、開閉器部品、ブスバー、端子'コネクタ等の機構部品や 産業用機器などに用いられる銅合金板条として好適な銅合金に関する。
背景技術
[0002] 電子機器の小型化及び軽量化の要請に伴い、電気'電子部品の小型化及び軽量 化が進んでいる。そして、この電気'電子部品の小型化及び軽量ィ匕が端子部品の小 型化及び軽量化のために、これらに使用される銅合金材料も板厚及び幅が小さくな り、 ICにおいては、板厚が 0.1〜0.15mmと薄い銅合金板も使用されるようになってき ている。
[0003] その結果、これらの電気 ·電子部品に使用される銅合金材料には、より一層高い強 度が求められるようになつている。例えば、自動車用コネクタなどでは、 800MPa以上 の高強度銅合金板が求められるようになって 、る。
[0004] また、電気'電子部品の前記薄板化及び幅狭化の傾向は、銅合金材料の導電性 部分の断面積を減少させる。この断面積の減少による導電性の低下を補うためには 、銅合金材料自体に、導電率が 40%IACS以上の良好な導電率が求められるようにな つている。
[0005] さらに、これらコネクタ、端子、スィッチ、リレー、リードフレームなどに用いられる銅 合金板は、前記高強度および高導電率はもちろんのこと、ノッチング後の 90° 曲げ など、厳しい曲げカ卩ェ性が要求されることが多くなつてきて 、る。
[0006] 従来から、高強度な銅合金材料としては、 42ァロイ (Fe-42質量 %Ni合金)が知られ ている。この 42ァロイは約 580MPa程度の引張強さを有し、異方性も少なぐまた曲げ 加工性も良好である。しかしながら、この 42ァロイは 800MPa以上の高強度化の要求 には応えられない。また、 42ァロイは Niを多量に含有するため、価格が高い
という問題点もある。
[0007] このため、前記種々の特性に優れ、且つ安価なコルソン合金(Cu— Ni— Si系合金 )が電気'電子部品用に使用されるようになった。このコルソン合金は、ケィ化-ッケ ル化合物 (Ni Si)の銅に対する固溶限が温度によって著しく変化する合金で、焼入
2
•焼戻によって硬化する析出硬化型合金であり、耐熱性や高温強度も良好で、これま でも、導電用各種パネゃ高抗張力用電線などに広く使用されている。
[0008] しかし、このコルソン合金においても、銅合金材料の強度を向上させると、導電性や 曲げ加工性は低下する。即ち、高強度のコルソン合金において、良好な導電率及び 曲げ加工性とすることは非常に困難な課題であり、更なる強度、導電性及び曲げカロ ェ性の向上が求められている。
[0009] このコルソン合金の強度、導電性及び曲げ加工性の向上の方策は従来カゝら提案さ れている。 ί列えば、特許文献 1によれば、 Ni, Siにカロえて、 Sn、 Zn、 Feゝ Pゝ Mgゝ Pb 量などを規定し、導電性に加え、曲げ部の耐はんだ剥離性、耐熱クリープ特性、耐マ ィグレーシヨン特性、熱間加工性を維持しつつ強度及び打抜き加工性を向上させて いる。
[0010] 特許文献 2によれば、 Ni、 Siに加えて Mg量と合金中に存在する析出物及び介在 物のうち粒径が 10 m以上のものの単位面積あたりの個数を規定し、導電率、強度 及び高温強度を向上させている。
[0011] 特許文献 3によれば、 Ni、 Siにカ卩えて Mgを含有し、同時に Sの含有量を制限して 好適な強度、導電性、曲げ加工性、応力緩和特性、メツキ密着性を向上させている。
[0012] 特許文献 4によれば、 Fe量を 0. 1%以下に制限し、強度、導電率、曲げ加工性及 びを向上させている。
[0013] 特許文献 5によれば、介在物の大きさが 10 μ m以下であり、かつ、 5〜10 μ mの大 きさの介在物個数を制限し、強度、導電率、曲げ加工性、エッチング性、メツキ性を向 上させている。
[0014] 特許文献 6によれば、 Ni Si析出物の分散状態を制御し、強度、導電率、曲げ加工
2
'性を向上させている。
[0015] 特許文献 7によれば、銅板表面組織の結晶粒の延伸形状を規定する事で、耐磨耗
'性を向上させている。
特許文献 1:特開平 9 - 209061号公報
特許文献 2:特開平 8 - 225869号公報
特許文献 3:特開 2002— 180161号公報
特許文献 4:特開 2001— 207229号公報
特許文献 5:特開 2001—49369号公報
特許文献 6:特開 2005— 89843号公報
特許文献 7:特開平 5 - 279825号公報
発明の開示
[0016] しかし、特許文献 1はコルソン合金の各成分含有量を規定したのみであり、成分組 成のみの制御では十分な強度が得られないし、実際にも、十分な強度が得られてい ない。
[0017] 特許文献 2は、コルソン合金の組織に注目し、存在する析出物及び介在物の大きさ
、個数を規定しているものの、それ以上に組織には踏み込んでおらず、また、溶体ィ匕 工程も規定して 、な 、ために、十分な強度が得られて 、な 、。
[0018] 特許文献 3は、導電率が低く要求に達せず (実施例では 29〜33%IACS)また、規 定される量まで Sを減らすことによる製造コストの増大が懸念され、実用的では無い。
[0019] 特許文献 4のように Fe量を 0. 1%以下に制限するだけでは、十分な導電率、強度 及び曲げ性は得られない。
[0020] 特許文献 5は、コルソン合金の組織に注目し、存在する介在物の大きさ、個数を規 定しているものの、それ以上に組織には踏み込んでおらず、また、溶体化工程の制 御も不十分であり、十分な強度が得られていない。
[0021] 特許文献 6は、コルソン合金の組織に注目し、 100万倍の透過型電子顕微鏡で組 織観察される、ケィ化ニッケル析出物 (Ni Si)の平均粒径を 3〜: LOnmにするとともに
2
、間隔を 25nm以下として、析出物の分散状態を制御している。しかし、基本的に、 N i、 Siの含有量が多すぎるため、導電率が十分高くない。
[0022] 特許文献 7は、銅板表面組織の結晶粒の延伸形状を規定して!/、るものの、結晶粒 の形状だけでは十分な強度が得られず、溶体化工程の制御も不十分であり、導電率
が十分高くない。
[0023] 本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、高強度、高導電 率であり、かつ優れた曲げ加工性を兼備したコルソン系銅合金を提供することである
[0024] すなわち、本発明は以下の(1)〜(9)に関する。
(1) 質量0 /0で、 Ni: 0. 4〜4. 0%、 Si: 0. 05〜: L 0%を含有し、更に、元素 Mとし て、
P : 0. 005〜0. 5%、
Cr: 0. 005〜1. 0%、
Ti: 0. 005〜1. 0%、
から選択される 1種の元素を含有し、
残部銅および不可避的不純物からなる銅合金であって、
この銅合金組織の、倍率 30000倍の電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散 型分析装置とにより測定した、 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる元素 Mと Si との原子数比 MZSiが平均で 0. 01〜: LOであることを特徴とする高強度、高導電率 および曲げ加工性に優れた銅合金。
(2) 前記元素 Mが Pであって、
前記銅合金組織の、前記電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装 置とにより測定した、 50〜200nmのサイズの析出物の数密度が平均で 0. 2〜7. 0 個/ / z m2であり、この範囲のサイズの析出物に含まれる Pの平均原子濃度が 0. 1〜 50at%であるとともに、電界放出型走査電子顕微鏡に後方散乱電子回折像システ ムを搭載した結晶方位解析法により測定した、結晶粒の数を n、それぞれの測定した 結晶粒径を Xとした時、(Σ χ) Ζηで表される平均結晶粒径が 10 m以下であることを 特徴とする(1)に記載の銅合金。(以下、本発明の第 1の態様ともいう。 )
(3) 前記銅合金が、更に、質量%で、 Cr、 Ti、 Fe、 Mg、 Co、 Zrのうち一種または 二種以上を合計で 0. 01〜3. 0%を含有する(2)に記載の銅合金。
(4) 前記元素 Mが Crであって、
前記銅合金組織の、前記電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装
置とにより測定した、 50〜200nmのサイズの析出物の数密度が平均で 0. 2〜20個 Z m2であり、この範囲のサイズの析出物に含まれる Crの平均原子濃度が 0. 1〜8 0^%であるとともに、電界放出型走査電子顕微鏡に後方散乱電子回折像システム を搭載した結晶方位解析法により測定した、結晶粒の数を n、それぞれの測定した結 晶粒径を Xとした時、(∑ X) Znで表される平均結晶粒径が 30 μ m以下であることを特 徴とする(1)に記載の銅合金。(以下、本発明の第 2の態様ともいう。 )
(5) 前記銅合金が、更に、質量%で、 Ti、 Fe、 Mg、 Co、 Zrのうち一種または二種 以上を合計で 0. 01〜3. 0%を含有する (4)に記載の銅合金。
(6) 前記元素 Mが Tiであって、
前記銅合金組織の、前記電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装 置とにより測定した、 50〜200nmのサイズの析出物の数密度が平均で 0. 2〜20個 Z m2であり、この範囲のサイズの析出物に含まれる Tiの平均原子濃度が 0. 1〜5 0^%であるとともに、電界放出型走査電子顕微鏡に後方散乱電子回折像システム を搭載した結晶方位解析法により測定した、結晶粒の数を n、それぞれの測定した結 晶粒径を Xとした時、(∑ X) Znで表される平均結晶粒径が 20 μ m以下であることを 特徴とする(1)に記載の銅合金。(以下、本発明の第 3の態様ともいう。 )
(7) 前記銅合金が、更に、質量%で、 Fe、 Mg、 Co、 Zrのうち一種または二種以 上を合計で 0. 01〜3. 0%を含有する(6)に記載の銅合金。
(8) 前記銅合金が、更に、質量%で、 Zn: 0. 005〜3. 0%を含有する(1)〜(7) のいずれか 1つに記載の銅合金。
(9) 前記銅合金が、更に、質量%で、 Sn: 0. 01〜5. 0%を含有する(1)〜(8)の V、ずれか 1つに記載の銅合金。
[0025] 本発明の第 1の態様では、コルソン系銅合金組織における平均結晶粒径を 10 μ m 以下に微細化させて、銅合金の曲げ力卩ェ性を向上させる。そして、組織におけるこの 結晶粒微細化を、 Ni— Si— P、 Fe— P、 Fe— Ni— P、 Ni— Si— Fe— P等の P含有析 出物(以下、リン化物、リンィ匕合物とも言う)の結晶粒成長抑制のピン止め効果によつ て達成することを特徴とする。
[0026] 本発明者らは、上記 P含有析出物の結晶粒成長抑制のピン止め効果は、 Pを含有
しな 、通常の Ni S係析出物のピン止め効果に比して著しく大き 、ことを知見した。
2
そして、同時に、このピン止め効果の大きさは、 P含有析出物における Pの含有量 (原 子濃度)によって左右されることも知見した。
[0027] 言い換えると、従来のコルソン系銅合金組織において、平均結晶粒径を 10 μ m以 下に微細化させることが、実質的に困難であった理由は、 Pを含有しない通常の Ni
2
S係析出物だけでは、ピン止め効果には大きな限界があつたためと推考される。
[0028] ここで、合金成分として Pを含有しても、銅合金組織にお!ヽて存在する析出物全て 力 SP含有析出物となる訳ではない。即ち、実際の銅合金組織においては、 P含有析 出物の他に、他の Pを含有しない Ni Si系などの析出物が混在する。言い換えると、
2
結晶粒成長抑制のピン止め効果が大きい P含有析出物と、結晶粒成長抑制のピン 止め効果が小さい、 Pを含有しない他の Ni Si系などの析出物が混在することとなる。
2
[0029] このため、実際の結晶粒成長抑制のピン止め効果は、銅合金組織における P含有 析出物の量に依存する。言い換えると、銅合金組織の平均結晶粒径を 10 m以下 に微細化させるためには、銅合金組織中に一定量以上の P含有析出物を存在させる ことが必要である。
[0030] この点、本発明では、銅合金組織中に存在する P含有析出物の量を直接規定する のではなぐ銅合金組織中に存在する上記特定サイズ (50〜200nm)の全析出物 中の Pの原子濃度によって、 P含有析出物の量を制御する。銅合金組織中に混在す る P含有析出物と Pを含有しな 、他の析出物の中から、 P含有析出物だけをピックアツ プして分析、測定することは非効率で、かつ測定が不正確となるからである。
[0031] したがって、本発明では、これら特定サイズの全析出物(Pを含有する力否かにかか わらない全析出物)を対象として、 Pの原子濃度を測定し、この析出物中の Pの平均 原子濃度によって、銅合金組織中における P含有析出物の量を制御する。また、この 前提として、本発明では、上記特定サイズの全析出物 (化合物)の数密度を保証 (規 定)する。
[0032] これによつて、本発明では、結晶粒成長抑制の大きなピン止め効果を発揮させ、コ ルソン系銅合金組織における平均結晶粒径を 10 m以下に微細化させて、銅合金 の曲げ力卩ェ性を向上させる。
[0033] これら特定サイズの析出物 (化合物)の数密度の保証と、析出物中の Pの平均原子 濃度の制御は、前提として、 Pなどの本発明範囲での含有量の制御と、溶体化処理 時における昇温速度と溶体ィ匕処理後の冷却速度の制御によって可能となる。そして 、この析出物に含まれる Pの平均原子濃度の制御(P含有析出物量の制御)によらな ければ、コルソン系銅合金組織における平均結晶粒径を 10 m以下に微細化させる ことは難しい。
[0034] この他、本発明では、導電率を高めに維持するために、基本合金成分である Ni、 S iの含有量を比較的低く制御する。そして、前記した P含有析出物や Ni Siを含めた
2
他の析出物を微細に析出させて強度を向上させ、 Ni、 Siの含有量を比較的低く制御 しても高強度とする。
[0035] 本発明の第 2の態様は、コルソン系銅合金組織中に含有させる Cr含有析出物が、 溶体化処理温度が高温化しても、固溶しきらずに、組織中に析出物として存在 (残存 )し、結晶粒成長抑制のピン止め効果を発揮する特異な性質を利用することを特徴と する。
[0036] 即ち、 Crを含有させた場合に、コルソン系銅合金組織中には、 Ni—Si—Cr、 Si— Cr等の Cr含有析出物(Crィ匕物、 Crィ匕合物とも言う)が形成される。これらの Cr含有 析出物は、溶体ィ匕処理温度が例えば 900°C程度の高温になっても、固溶しきらずに 、組織中に析出物として存在 (残存)し、結晶粒成長抑制のピン止め効果を発揮する 特異な性質を有する。しかも、この Cr含有析出物の結晶粒成長抑制のピン止め効果 は、 Cr乃至 Cr含有析出物を含有しない、通常の(従来の) Ni Si系析出物のみのピ
2
ン止め効果に比して著しく大き!/、。
[0037] 勿論、溶体化処理温度の高温化により、 Cr含有析出物もある程度は固溶し、結晶 粒の成長自体も避けられない。し力しながら、 Cr乃至 Cr含有析出物を含有しない通 常 (従来)に比べれば、その結晶粒成長の程度は、平均結晶粒径で上記 30 m以下 程度に、力なり抑制される。このため、溶体ィ匕処理温度のかなりの高温ィ匕が可能とな つて、 Ni、 Siの固溶量を大幅に増すことができ、後の時効硬化処理において、 Ni- Siの微細な析出物量を大幅に増すことができる。この結果、平均結晶粒径の粗大化 によって曲げ加工性などを低下させることなぐ銅合金のより高強度化を図ることが可
能となる。
[0038] この Cr含有析出物のピン止め効果の大きさは、 Cr含有析出物における Crの含有 量 (原子濃度)によっても大きく左右される。言い換えると、従来のコルソン系銅合金 組織において、平均結晶粒径を微細化させることが、実質的に困難であった理由は 、 Crを含有しない通常の Ni Si系析出物だけでは、ピン止め効果には大きな限界が
2
あつたためと推考される。
[0039] ここで、合金成分として Crを含有しても、銅合金組織にお!ヽて存在する析出物全て が Cr含有析出物となる訳ではない。即ち、実際の銅合金組織においては、 Cr含有 析出物の他に、他の Crを含有しない Ni Si系などの析出物が混在する。言い換える
2
と、結晶粒成長抑制のピン止め効果が大きい Cr含有析出物と、結晶粒成長抑制の ピン止め効果が小さい、 Crを含有しない他の Ni Si系などの析出物が混在することと
2
なる。
[0040] このため、実際の結晶粒成長抑制のピン止め効果は、銅合金組織における Cr含有 析出物の量に依存する。言い換えると、銅合金組織の平均結晶粒径を 30 m以下 に微細化させるためには、銅合金組織中に一定量以上の Cr含有析出物を存在させ ることが必要である。
[0041] この点、本発明では、銅合金組織中に存在する Cr含有析出物の量を直接規定す るのではなぐ銅合金組織中に存在する上記特定サイズ (50〜200nm)の全析出物 中の Crの原子濃度によって、 Cr含有析出物の量を制御する。銅合金組織中に混在 する Cr含有析出物と Crを含有しない他の析出物の中から、 Cr含有析出物だけをピ ックアップして分析、測定することは非効率で、かつ測定が不正確となるからである。
[0042] したがって、本発明では、これら特定サイズの全析出物(Crを含有する力否かにか かわらない全析出物)を対象として、 Crの原子濃度を測定し、この析出物中の Crの 平均原子濃度によって、銅合金組織中における Cr含有析出物の量を制御する。ま た、この前提として、本発明では、上記特定サイズの全析出物 (化合物)の数密度を 保証 (規定)する。
[0043] これによつて、本発明では、結晶粒成長抑制の大きなピン止め効果を発揮させ、コ ルソン系銅合金組織における平均結晶粒径を 30 m以下に微細化させて、銅合金
の曲げ力卩ェ性を向上させる。
[0044] これら特定サイズの析出物 (化合物)の数密度の保証と、析出物中の Crの平均原 子濃度の制御は、前提として、 Crなどの本発明範囲での含有量の制御と、溶体化処 理時における昇温速度と溶体ィ匕処理後の冷却速度の制御によって可能となる。そし て、この析出物に含まれる Crの平均原子濃度の制御(Cr含有析出物量の制御)によ らなければ、コルソン系銅合金組織における平均結晶粒径を 30 m以下、特に 10 m以下に微細化させることは難 、。
[0045] この他、本発明では、導電率を高めに維持するために、基本合金成分である Ni、 S iの含有量を比較的低く制御する。そして、前記した Cr含有析出物や Ni Siを含めた
2 他の析出物を微細に析出させて強度を向上させ、 Ni、 Siの含有量を比較的低く制御 しても高強度とする。
[0046] 本発明の第 3の態様は、コルソン系銅合金組織中に含有させる Ti含有析出物が、 溶体化処理温度が高温化しても、固溶しきらずに、組織中に析出物として存在 (残存 )し、結晶粒成長抑制のピン止め効果を発揮する特異な性質を利用することを特徴と する。
[0047] 即ち、 Tiを含有させた場合に、コルソン系銅合金組織中には、 Ni— Si— Ti等の Ti 含有析出物 (Ti化物、 Ti化合物とも言う)が形成される。これらの Ti含有析出物は、 溶体ィ匕処理温度が例えば 900°C程度の高温になっても、固溶しきらずに、組織中に 析出物として存在 (残存)し、結晶粒成長抑制のピン止め効果を発揮する特異な性 質を有する。し力も、この Ti含有析出物の結晶粒成長抑制のピン止め効果は、 Ti乃 至 Ti含有析出物を含有しない、通常の(従来の) Ni Si系析出物のみのピン止め効
2
果に比して著しく大きい。
[0048] 勿論、溶体化処理温度の高温化により、 Ti含有析出物もある程度は固溶し、結晶 粒の成長自体も避けられない。しカゝしながら、 Ti乃至 Ti含有析出物を含有しない通 常 (従来)に比べれば、その結晶粒成長の程度は、平均結晶粒径で上記 20 m以下 程度に、力なり抑制される。このため、溶体ィ匕処理温度のかなりの高温ィ匕が可能とな つて、 Ni、 Siの固溶量を大幅に増すことができ、後の時効硬化処理において、 Ni- Siの微細な析出物量を大幅に増すことができる。この結果、平均結晶粒径の粗大化
によって曲げ加工性などを低下させることなぐ銅合金のより高強度化を図ることが可 能となる。
[0049] この Ti含有析出物のピン止め効果の大きさは、 Ti含有析出物における Tiの含有量
(原子濃度)によっても大きく左右される。言い換えると、従来のコルソン系銅合金組 織において、平均結晶粒径を微細化させることが、実質的に困難であった理由は、 T iを含有しない通常の Ni Si系析出物だけでは、ピン止め効果には大きな限界があつ
2
たためと推考される。
[0050] ここで、合金成分として Tiを含有しても、銅合金組織にお!ヽて存在する析出物全て が Ti含有析出物となる訳ではない。即ち、実際の銅合金組織においては、 Ti含有析 出物の他に、他の Tiを含有しない Ni Si系などの析出物が混在する。言い換えると、
2
結晶粒成長抑制のピン止め効果が大きい Ti含有析出物と、結晶粒成長抑制のピン 止め効果が小さい、 Tiを含有しない他の Ni S係などの析出物が混在することとなる
2
[0051] このため、実際の結晶粒成長抑制のピン止め効果は、銅合金組織における Ti含有 析出物の量に依存する。言い換えると、銅合金組織の平均結晶粒径を 20 m以下 に微細化させるためには、銅合金組織中に一定量以上の Ti含有析出物を存在させ ることが必要である。
[0052] この点、本発明では、銅合金組織中に存在する Ti含有析出物の量を直接規定する のではなぐ銅合金組織中に存在する上記特定サイズ (50〜200nm)の全析出物 中の Tiの原子濃度によって、 Ti含有析出物の量を制御する。銅合金組織中に混在 する Ti含有析出物と Tiを含有しな ヽ他の析出物の中から、 Ti含有析出物だけをピッ クアップして分析、測定することは非効率で、かつ測定が不正確となるからである。
[0053] したがって、本発明では、これら特定サイズの全析出物 (Tiを含有するか否かにか 力わらない全析出物)を対象として、 Tiの原子濃度を測定し、この析出物中の Tiの平 均原子濃度によって、銅合金組織中における Ti含有析出物の量を制御する。また、 この前提として、本発明では、上記特定サイズの全析出物 (ィ匕合物)の数密度を保証 (規定)する。
[0054] これによつて、本発明では、結晶粒成長抑制の大きなピン止め効果を発揮させ、コ
ルソン系銅合金組織における平均結晶粒径を 20 m以下に微細化させて、銅合金 の曲げ力卩ェ性を向上させる。
[0055] これら特定サイズの析出物 (化合物)の数密度の保証と、析出物中の Tiの平均原子 濃度の制御は、前提として、 Tiなどの本発明範囲での含有量の制御と、溶体化処理 時における昇温速度と溶体ィ匕処理後の冷却速度の制御によって可能となる。そして 、この析出物に含まれる Tiの平均原子濃度の制御 (Ti含有析出物量の制御)によら なければ、コルソン系銅合金組織における平均結晶粒径を 20 m以下、特に 10 m 以下に微細化させることは難 U、。
[0056] この他、本発明では、導電率を高めに維持するために、基本合金成分である Ni、 S iの含有量を比較的低く制御する。そして、前記した Ti含有析出物や Ni Siを含めた
2
他の析出物を微細に析出させて強度を向上させ、 Ni、 Siの含有量を比較的低く制御 しても高強度とする。
[0057] これによつて、本発明は、高強度、高導電率および優れた曲げ加工性をバランスよ く備えた銅合金を得る。
図面の簡単な説明
[0058] [図 1]本発明銅合金板の組織を示す図面代用 TEM写真である。
[図 2]比較例銅合金板の組織を示す図面代用 TEM写真である。
[図 3]本発明銅合金板の組織を示す図面代用 TEM写真である。
[図 4]比較例銅合金板の組織を示す図面代用 TEM写真である。
発明を実施するための最良の形態
[0059] 本発明は、質量%で、 Ni: 0. 4〜4. 0%、 Si: 0. 05〜: L 0%を含有し、更に、元素 Mとして、
P : 0. 005〜0. 5%、
Cr: 0. 005〜1. 0%、
Ti: 0. 005〜1. 0%、
から選択される 1種の元素を含有し、
残部銅および不可避的不純物からなる銅合金であって、
この銅合金組織の、倍率 30000倍の電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散
型分析装置とにより測定した、 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる元素 Mと Si との原子数比 MZSiが平均で 0. 01〜: LOであることを特徴とする高強度、高導電率 および曲げカ卩ェ性に優れた銅合金を提供するものである。
以下、本明細書において、 Mは P、 Cr及び Tiから選択される一つの元素を表すこと とする。
[0060] (析出物に含まれる Mと Siとの原子数比)
本発明では、銅合金の結晶粒径の微細化を保証するために、倍率 30000倍の銅 合金組織の前記電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより 測定した、 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる Mと Siとの原子数比 MZSiが 平均で 0. 01〜10であることが好ましい。
[0061] 析出物に含まれる Mと Siとの原子数比 MZSiが平均で 0. 01よりも小さいと、結晶 粒が粗大化し、曲げ加工性が低下する可能性が高くなる。一方、析出物に含まれる Mと Siとの原子数比 MZSiが平均で 10より大きいと、固溶 Si量が多くなりすぎ、導電 率が低下する可能性が高くなる。したがって、析出物に含まれる Mと Siとの原子数比 MZSiは平均で、好ましくは 0. 01〜10、より好ましくは 0. 10〜5. 0とする。
[0062] 以下、本発明の好ましい態様について、詳細に説明する。
まず、本発明の好ましい態様の一つである、本発明の第 1の態様について説明す る。
[0063] (銅合金の成分組成)
先ず、前記各種用途用として、必要強度や導電率、更には、高い曲げ加工性ゃ耐応 力緩和特性を満たすための、本発明の第 1の態様のコルソン系合金における化学成 分組成を、以下に説明する。
[0064] 本発明の第 1の態様では、高強度、高導電率、また、高い曲げ加工性を達成する ために、質量0 /0で、 Ni:0. 4〜4. 0%、 Si:0. 05~1. 0%、 P:0. 005〜0. 5%を各 々含有し、残部銅および不可避的不純物からなる銅合金からなる基本組成とする。こ の組成は、銅合金組織の結晶粒を微細化するとともに、析出物 (Ni Si)に含まれる P
2
の平均原子濃度を制御するための、成分組成側からの重要な前提条件となる。なお 、以下の各元素の説明にお 、て記載する%表示は全て質量%である。
[0065] この基本組成に対し、更に、 Cr、 Ti、 Fe、 Mg、 Co、 Zrのうち一種または二種以上 を合計で 0. 01-3. 0%を含有しても良い。また、 Zn: 0. 005-3. 0%を含有しても 良い。また、 Sn: 0. 01-5. 0%を含有しても良い。
[0066] Ni: 0. 4〜4. 0%
Niは、 Siとの化合物 (Ni Siなど)を晶出または析出させることにより、銅合金の強度
2
および導電率を確保する作用がある。また、 Pとの化合物も形成する。 Niの含有量が 0. 4%未満と少な過ぎると、晶*析出物の生成量が不十分であるため所望の強度が 得られないばかりか、銅合金組織の結晶粒が粗大化する。また、偏析しゃすい晶出 物の割合が高くなつて最終製品の特性のばらつきが大きくなる。一方、 Niの含有量 が 4. 0%を越えて多過ぎると、導電率が低下するのに加えて、析出物数密度が大き くなりすぎ、曲げカ卩工性が低下する。したがって、 Ni量は 0. 4〜4. 0%の範囲とする
[0067] Si: 0. 05〜: L 0%
Siは、 Niとの化合物 (Ni Si)を晶*析出させて銅合金の強度および導電率を向上
2
させる。また、 Pとの化合物も形成する。 Siの含有量が 0. 05%未満と少な過ぎる場合 は、晶'析出物の生成が不十分であるため所望の強度が得られないばかりか、結晶 粒が粗大化する。また、偏析しゃすい晶出物の割合が高くなつて、最終製品の特性 のばらつきが大きくなる。一方、 Siの含有量が 1. 0%を越えて多過ぎると、析出物の 数が多くなりすぎ、曲げ加工性が低下すると同時に、析出物に含まれる Pと Siの原子 数比 PZSiが低くなりすぎる。したがって、 Si含有量は 0. 05〜: L 0%の範囲とする。
[0068] P : 0. 005〜0. 5%
Pは、 P含有析出物を生成させるとともに、 P含有析出物中の Pの原子濃度を上記し た特定範囲に制御するための重要元素である。 P含有析出物(リン化物、リン化合物 )を形成することで、強度、導電率が向上するとともに、リン化物の形成により結晶粒 が微細化し、曲げカ卩ェ性が向上する。但し、これらの効果の内、特に曲げカ卩ェ性向 上効果は、 P含有析出物の Pの原子濃度を上記した特定範囲に制御することによつ て発揮される。
[0069] Pの含有量が 0. 005%未満と少な過ぎる場合には、これらの作用、効果が有効に
発揮されない。一方、 Pの含有量が 0. 5%を超えて多過ぎると、析出物が粗大になり 、曲げ加工性を損なうとともに、析出物に含まれる Pの原子濃度が高くなりすぎる。し たがって、 Pの含有量は 0. 005-0. 5%の範囲とする。
[0070] ここで本発明で言う P含有析出物とは、 Ni— Si— Pの基本組成では、 Ni— Si— Pの P含有析出物である。これに Feや Mgなどを含有すると、 Ni— Si— Pの P含有析出物 とともに、あるいはこれに代わって、(Fe、 Mg)— P、(Fe、 Mg)— Ni— P、 Ni— Si— ( Fe、 Mg)—P等の P含有析出物が生成する。また、 Cr、 Ti、 Co、 Zrなどを含有すると 、これら Feや Mgなどの部分力 一部乃至全部置換した P含有析出物が生成する。
[0071] Crゝ Ti、 Feゝ Mgゝ Co、 Zr:合計で 0. 01〜3. 0%
これらの元素は、上記した通り、リン化物を形成することで、強度、導電率を向上さ せるとともに、結晶粒微細化にも効果がある。これらの効果を発揮させる場合には、 選択的に、 Cr、 Ti、 Fe、 Mg、 Co、 Zrのうち一種または二種以上を合計で 0. 01%以 上含有させる。しかし、これらの元素の合計含有量 (総量)が 3. 0%を超えると、析出 物が粗大になり、曲げ加工性を損なうとともに、析出物に含まれる Pの原子濃度が低く なりすぎる。したがって、選択的に含有させる場合の Cr、 Ti、 Fe、 Mg、 Co、 Zrの含 有量は、合計で (総量で) 0. 01〜3. 0%の範囲とする。
[0072] Zn: 0. 005〜3. 0%
Znは電子部品の接合に用いる Snめっきやはんだの耐熱剥離性を改善し、熱剥離 を抑制するのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させる場合には、選 択的に 0. 005%以上含有させる。しかし、 3. 0%を越えて過剰に含有すると、却って 溶融 Snやはんだの濡れ広がり性を劣化させ、また、含有量が多くなると、導電率も大 きく低下させる。したがって、 Znは、耐熱剥離性向上効果と導電率低下作用とを考慮 した上で、選択的に含有させ、その場合の Zn含有量は 0. 005-3. 0%の範囲、好 ましくは 0. 005〜1. 5%の範囲とする。
[0073] Sn: 0. 01〜5. 0%
Snは、銅合金中に固溶して強度向上に寄与する。このような効果を有効に発揮さ せる場合には、選択的に 0. 01%以上含有させる。しかし、 5. 0%を越えて過剰に含 有すると、その効果が飽和し、また、含有量が多くなると導電率を大きく低下させる。
したがって、 Snは、強度向上効果と導電率低下作用とを考慮した上で、選択的に含 有させ、その場合の Sn含有量は 0. 01-5. 0%の範囲、好ましくは 0. 01-1. 0% の範囲とする。
[0074] その他の元素含有量:
その他の元素は、基本的に不純物であって、できるだけ少ないほうが好ましい。例 えば、 Al、 Be、 V、 Nb、 Mo、 Wなどの不純物元素は、粗大な晶 '析出物を生成しやす くなり、曲げ加工性が劣化するばかりか、導電率の低下も引き起こしやすくなる。した がって、これらの元素は総量で 0. 5%以下の極力少ない含有量にすることが好まし い。この他、銅合金中に微量に含まれる B、 C、 Na、 S、 Ca、 As、 Se、 Cd、 In、 Sb、 Bi、 MM (ミシュメタル)等の元素も、導電率の低下を引き起こしやすくなるので、これらの 総量で 0. 1%以下の極力少ない含有量に抑えることが望ましい。但し、これらの元素 を低減するためには、地金使用ゃ精鍊などの製造コストが上昇しがちであり、製造コ ストの上昇を抑制するためには、これら元素の総量の各々上記した上限までの含有 は許容する。
[0075] (銅合金組織)
本発明では、以上の Cu— Ni— Si— P系合金組成を前提に、この銅合金の組織を 設計して、平均結晶粒径を 10 m以下に微細化させて、銅合金の曲げ加工性を向 上させる。
[0076] そして、この組織設計を、銅合金組織中に存在する析出物に含まれる Pの平均原 子濃度の制御(P含有析出物量の制御)によって達成する。この析出物に含まれる P の平均原子濃度の制御によらなければ、結晶粒成長抑制のピン止め効果が大きい P 含有析出物を銅合金組織中に適正量確保できない。この結果、銅合金組織におけ る平均結晶粒径を 10 m以下に微細化させることは難しい。
[0077] (析出物の数密度)
但し、この前提として、銅合金組織に存在する析出物の数密度を保証することが必 要である。銅合金組織に存在する析出物の数密度が少な過ぎる、あるいは多過ぎる と、これら析出物に含まれる Pの平均原子濃度、あるいは Pと Siとの平均原子濃度を 制御したとしても、曲げ性の向上効果が十分に発揮できない場合も当然起こり得る。
したがって、本発明では、析出物による結晶粒径微細化効果を保証するために、特 定サイズの析出物の数密度を一定範囲とする。
[0078] 即ち、前記銅合金組織の、前記電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型 分析装置とにより測定した、 50〜200nmのサイズの析出物の数密度が 0. 2〜7. 0 個 Z m2であることとする。ここで規定する特定サイズの析出物は、 Pを含有するか 否かにかかわりなぐ各析出物のサイズ (最大径)のみを選別基準としている。
[0079] この析出物の数密度が 0. 2個 Z μ mより小さ 、と、析出物が少な過ぎる。このため 、この析出物に含まれる Pあるいは Pと Siとの平均原子濃度を制御しても、結晶粒径 微細化効果が十分に発揮できず、結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が低下する可能 '性がある。
[0080] 一方、この析出物の数密度が 7. 0個 Z m2よりも大きいと、析出物が多過ぎ、曲げ 加工時に、せん断帯の形成が促進され、却って曲げ加工性が低下する。したがって 、 50〜200nmのサイズの析出物の数密度は、 0. 2〜7. 0個 m2、好ましくは。. 5〜5. 0個 Z w m2の範囲とする。
[0081] (析出物に含まれる Pの平均原子濃度)
析出物の数密度を保証した上で、本発明では、銅合金組織における平均結晶粒 径を 10 m以下に微細化させるために、銅合金組織の、倍率 30000倍の電界放出 型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより測定した、 50〜200nmの サイズのケィ化ニッケルなどの析出物に含まれる Pの平均原子濃度を 0. l〜50at% の範囲に制御する。
[0082] 前記した通り、本発明では、銅合金組織中に存在する P含有析出物の量を直接規 定するのではなぐ銅合金組織中に存在する上記特定サイズ (50〜200nm)の全析 出物中の Pの平均原子濃度によって、 P含有析出物の量を制御する。したがって、本 発明では、これら特定サイズの全析出物 (Pを含有する力否かにかかわらな 、析出物 )を対象として Pの原子濃度を測定し、これらの析出物中の Pの平均原子濃度によつ て、銅合金組織中における P含有析出物の量を制御する。
[0083] 前記析出物内に含まれる Pの平均原子濃度が低過ぎて、 0. lat%未満となると、銅 合金組織の結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が低下する。一方、前記析出物内に含
まれる Pの平均原子濃度が高過ぎて、 50at%を越えると、銅合金組織への P以外の 固溶元素が多くなりすぎて、導電率が低下する。したがって、析出物に含まれる Pの 平均原子濃度は 0. l〜50at%の範囲、好ましくは 0. 5〜40at%の範囲とする。
[0084] (平均結晶粒径)
本発明では、これら銅合金組織の析出物制御によって微細化させた、銅合金組織 の結晶粒径が、曲げ加工性を実質的に向上させる目安として、銅合金組織の平均結 晶粒径を規定する。即ち、倍率 350倍の電界放出型走査電子顕微鏡に後方散乱電 子回折像システムを搭載した結晶方位解析法により測定した、結晶粒の数を n、それ ぞれの測定した結晶粒径を Xとした時、(∑ X) Znで表される平均結晶粒径が 10 μ m 以下であることとする。
[0085] 平均結晶粒径が 10 mを越えて大きくなると、本発明が得ようとする曲げ加工性が 得られない。したがって、平均結晶粒径は 10 m以下、好ましくは 7 m以下とする。
[0086] つづいて、本発明の別の好ましい態様の一つである、本発明の第 2の態様につい て説明する。
[0087] (銅合金の成分組成)
先ず、前記各種用途用として、必要強度や導電率、更には、高い曲げ加工性ゃ耐 応力緩和特性を満たすための、本発明の第 2の態様のコルソン系合金における化学 成分組成を、以下に説明する。
[0088] 本発明の第 2の態様では、高強度、高導電率、また、高い曲げ加工性を達成する ために、質量0 /0で、 Ni: 0. 4〜4. 0%、 Si: 0. 05~1. 0%、 Cr: 0. 005〜1. 0%を 各々含有し、残部銅および不可避的不純物力 なる銅合金力 なる基本組成とする 。この組成は、銅合金組織の結晶粒を微細化するとともに、析出物 (Ni Si)に含まれ
2
る Crの平均原子濃度を制御するための、成分組成側からの重要な前提条件となる。 なお、以下の各元素の説明にお 、て記載する%表示は全て質量%である。
[0089] この基本組成に対し、更に、 Zn: 0. 005〜3. 0%を含有しても良い。また、 Sn: 0.
01〜5. 0%を含有しても良い。また、更に、 Ti、 Fe、 Mg、 Co、 Zrのうち一種または 二種以上を合計で 0. 01〜3. 0%を含有しても良い。
[0090] Ni: 0. 4〜4. 0%
Niは、 Siとの化合物 (Ni Siなど)を晶出または析出させることにより、銅合金の強度
2
および導電率を確保する作用がある。また、 Crとの化合物も形成する。 Niの含有量 が 0. 4%未満と少な過ぎると、析出物の生成量が不十分であるため、所望の強度が 得られないばかりか、銅合金組織の結晶粒が粗大化する。また、偏析しゃすい晶出 物の割合が高くなつて最終製品の特性のばらつきが大きくなる。一方、 Niの含有量 が 4. 0%を越えて多過ぎると、導電率が低下するのに加えて、粗大な析出物の数が 多くなりすぎ、曲げカ卩工性が低下する。したがって、 Ni量は 0. 4〜4. 0%の範囲とす る。
[0091] Si: 0. 05〜: L 0%
Siは、 Niとの化合物 (Ni Siなど)を晶'析出させて銅合金の強度および導電率を
2
向上させる。また、 Crとの化合物も形成する。 Siの含有量が 0. 05%未満と少な過ぎ る場合は、析出物の生成が不十分であるため、所望の強度が得られないばかりか、 結晶粒が粗大化する。また、偏析しゃすい晶出物の割合が高くなつて、最終製品の 特性のばらつきが大きくなる。一方、 Siの含有量が 1. 0%を越えて多過ぎると、粗大 な析出物の数が多くなりすぎ、曲げ加工性が低下すると同時に、析出物に含まれる C rと Siの原子数比 CrZSiが低くなりすぎる。したがって、 Si含有量は 0. 05-1. 0% の範囲とする。
[0092] Cr: 0. 005〜1. 0%
Crは、 Cr含有析出物を生成させるとともに、 Cr含有析出物中の Crの原子濃度を上 記した特定範囲に制御するための重要元素である。 Cr含有析出物を形成することで 、強度、導電率が向上するとともに、 Cr含有析出物の形成により結晶粒が微細化し、 曲げカ卩ェ性が向上する。但し、これらの効果の内、特に曲げカ卩ェ性向上効果は、 Cr 含有析出物の Crの原子濃度を上記した特定範囲に制御することによって発揮される
[0093] Crの含有量が 0. 005%未満と少な過ぎる場合には、これらの作用、効果が有効に 発揮されない。一方、 Crの含有量が 1. 0%、より厳しくは 0. 6%を超えて多過ぎると 、析出物が粗大になり、曲げ加工性を損なうとともに、析出物に含まれる Crの原子濃 度力 S高くなりすぎる。した力つて、 Crの含有量 ίま 0. 005-1. 00/0、好ましく ίま 0. 005
〜0. 6%の範囲とする。
[0094] ここで本発明で言う Cr含有析出物とは、 Ni—Si—Crの基本組成では、 Ni—Si—C r等の Cr含有析出物である。これに Feや Mgなどを含有すると、 Ni— Si— Cr等の Cr 含有析出物とともに、あるいはこれに代わって、(Fe、 Mg)—Si— Cr、 Ni—Si— (Fe 、 Mg)—Cr等の Cr含有析出物が生成する。また、 Ti、 Co、 Zrなどを含有すると、こ れら Feや Mgなどの部分力 一部乃至全部置換した Cr含有析出物が生成する。
[0095] Ti、 Fe、 Mg、 Co、 Zr:合計で 0. 01〜3. 0%
これらの元素は、上記した通り、 Cr含有析出物を形成することで、強度、導電率を 向上させるとともに、結晶粒微細化にも効果がある。これらの効果を発揮させる場合 には、選択的に、 Ti、 Fe、 Mg、 Co、 Zrのうち一種または二種以上を合計で 0. 01% 以上含有させる。しかし、これらの元素の合計含有量 (総量)が 3. 0%を超えると、析 出物が粗大になり、曲げ加工性を損なうとともに、析出物に含まれる Crの原子濃度が 低くなりすぎる。したがって、選択的に含有させる場合の Ti、 Fe、 Mg、 Co、 Zrの含有 量は、合計で (総量で) 0. 01〜3. 0%の範囲とする。
[0096] Zn: 0. 005〜3. 0%
Znは電子部品の接合に用いる Snめっきやはんだの耐熱剥離性を改善し、熱剥離 を抑制するのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させる場合には、選 択的に 0. 005%以上含有させる。しかし、 3. 0%を越えて過剰に含有すると、却って 溶融 Snやはんだの濡れ広がり性を劣化させ、また、含有量が多くなると、導電率も大 きく低下させる。したがって、 Znは、耐熱剥離性向上効果と導電率低下作用とを考慮 した上で、選択的に含有させ、その場合の Zn含有量は 0. 005-3. 0%の範囲、好 ましくは 0. 005〜1. 5%の範囲とする。
[0097] Sn: 0. 01〜5. 0%
Snは、銅合金中に固溶して強度向上に寄与する。このような効果を有効に発揮さ せる場合には、選択的に 0. 01%以上含有させる。しかし、 5. 0%を越えて過剰に含 有すると、その効果が飽和し、また、含有量が多くなると導電率を大きく低下させる。 したがって、 Snは、強度向上効果と導電率低下作用とを考慮した上で、選択的に含 有させ、その場合の Sn含有量は 0. 01-5. 0%の範囲、好ましくは 0. 01-1. 0%
の範囲とする。
[0098] その他の元素含有量:
その他の元素は、基本的に不純物であって、できるだけ少ないほうが好ましい。例 えば、 Mn、 Ca、 Ag、 Cd、 Be、 Au、 Pt、 S、 Pb、 Pなどの不純物元素は、粗大な晶' 析出物を生成しやすくなり、曲げ加工性が劣化するばかりか、導電率の低下も引き起 こしゃすくなる。したがって、これらの元素は総量で 0. 5%以下の極力少ない含有量 にすることが好ましい。この他、銅合金中に微量に含まれる Hf、 Th、 Li、 Na、 K、 Sr 、 Pd、 W、 Nb、 Al、 V、 Y、 Mo、 In、 Ga、 Ge、 As、 Sb、 Bi、 Te、 B、 C、ミッシュメタル 等の元素も、導電率の低下を引き起こしやすくなるので、これらの総量で 0. 1%以下 の極力少ない含有量に抑えることが望ましい。但し、これらの元素を低減するために は、地金使用ゃ精鍊などの製造コストが上昇しがちであり、製造コストの上昇を抑制 するためには、これら元素の総量の各々上記した上限までの含有は許容する。
[0099] (銅合金組織)
本発明では、以上の Cu— Ni— Si— Cr系合金組成を前提に、この銅合金の組織を 設計して、平均結晶粒径を 30 m以下、好ましくは 10 m以下に微細化させて、銅 合金の曲げ加工性を向上させる。本発明では、この組織設計を Cr含有析出物量の 制御によって達成する。より具体的には、銅合金組織中に一定サイズの析出物の数 密度を一定量以上確保するとともに、このサイズの析出物に含まれる Crの平均原子 濃度を一定量確保する、制御によって達成する。
[0100] このような制御によらなければ、結晶粒成長抑制のピン止め効果が大きい Cr含有 析出物を銅合金組織中に適正量確保できない。この結果、銅合金組織における平 均結晶粒径を 30 m以下、好ましくは 10 m以下に微細化させることが困難となる 。本発明における Cr含有析出物は、前記した通り、溶体化処理温度が高温になって も、 Cr含有析出物は、固溶しきらずに、組織中に析出物として存在 (残存)し、結晶粒 成長抑制の大きなピン止め効果を発揮する。しかし、この Cr含有析出物のピン止め 効果の大きさは、前記した通り、 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる Crの平均 原子濃度や、このサイズの析出物の数密度によって大きく左右される。
[0101] (析出物の数密度)
但し、この前提として、銅合金組織に存在する析出物の数密度を保証することが必 要である。銅合金組織に存在する析出物の数密度が少な過ぎる、あるいは多過ぎる と、これら析出物に含まれる Crの平均原子濃度、あるいは Crと Siとの平均原子濃度 を制御したとしても、曲げ性の向上効果が十分に発揮できない場合も当然起こり得る 。したがって、本発明では、析出物による結晶粒径微細化効果を保証するために、特 定サイズの析出物の数密度を一定範囲とする。
[0102] 即ち、前記銅合金組織の、前記電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型 分析装置とにより測定した、 50〜200nmのサイズの析出物の数密度が 0. 2〜20個 Z m2であることとする。ここで規定する特定サイズの析出物は、 Crを含有するか否 かにかかわりなぐ各析出物のサイズ (最大径)のみを選別基準としている。
[0103] この析出物の数密度が 0. 2個 Z μ mより小さ 、と、析出物が少な過ぎる。このため 、この析出物に含まれる Crあるいは Crと Siとの平均原子濃度を制御しても、結晶粒 径微細化効果が十分に発揮できず、結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が低下する可 能性がある。
[0104] 一方、この析出物の数密度が 20個 Z m2よりも大きいと、析出物が多過ぎ、曲げ 加工時に、せん断帯の形成が促進され、却って曲げ加工性が低下する。したがって 、 50〜200nmのサイズの析出物の数密度は、 0. 2〜20個 m2、好ましくは。. 5 〜15個7 μ m2の範囲とする。
[0105] (析出物に含まれる Crの平均原子濃度)
析出物の数密度を保証した上で、本発明では、銅合金組織における平均結晶粒 径を 30 m以下に微細化させるために、銅合金組織の、倍率 30000倍の電界放出 型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより測定した、 50〜200nmの サイズの Ni— Si— Crなどの析出物に含まれる Crの平均原子濃度を 0. l〜80at% の範囲に制御する。
[0106] 前記した通り、本発明では、銅合金組織中に存在する Cr含有析出物の量を直接規 定するのではなぐ銅合金組織中に存在する上記特定サイズ (50〜200nm)の全析 出物中の Crの平均原子濃度によって、 Cr含有析出物の量を制御する。したがって、 本発明では、これら特定サイズの全析出物(Crを含有するカゝ否かにかかわらない析
出物)を対象として Crの原子濃度を測定し、これらの析出物中の Crの平均原子濃度 によって、銅合金組織中における Cr含有析出物の量を制御する。
[0107] 前記析出物内に含まれる Crの平均原子濃度が低過ぎて、 0. lat%未満となると、 銅合金組織の結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が低下する。一方、前記析出物内に 含まれる Crの平均原子濃度が高過ぎて、 80at%を越えると、銅合金組織への Cr以 外の固溶元素が多くなりすぎて、導電率が低下する。したがって、析出物に含まれる Crの平均原子濃度は 0. l〜80at%の範囲、好ましくは 0. 5〜50at%の範囲とする
[0108] (平均結晶粒径)
本発明では、これら銅合金組織の析出物制御によって微細化させた、銅合金組織 の結晶粒径が、曲げ加工性を実質的に向上させる目安として、銅合金組織の平均結 晶粒径を規定する。即ち、倍率 10000倍の電界放出型走査電子顕微鏡に後方散乱 電子回折像システムを搭載した結晶方位解析法により測定した、結晶粒の数を n、そ れぞれの測定した結晶粒径を Xとした時、(∑ X) Znで表される平均結晶粒径が 30 μ m以下、好ましくは 10 μ m以下であることとする。
[0109] 平均結晶粒径が 30 mを越えて大きくなると、本発明が得ようとする曲げ加工性が 得られない。したがって、平均結晶粒径は 30 m以下、好ましくは 10 m以下と、平 均結晶粒径を小さくし、結晶粒径を微細化させる。
[0110] つづいて、本発明のさらに別の好ましい態様の一つである、本発明の第 3の態様に ついて説明する。
[0111] (銅合金の成分組成)
先ず、前記各種用途用として、必要強度や導電率、更には、高い曲げ加工性ゃ耐 応力緩和特性を満たすための、本発明の第 3の態様のコルソン系合金における化学 成分組成を、以下に説明する。
[0112] 本発明の第 3の態様では、高強度、高導電率、また、高い曲げ加工性を達成する ために、質量0 /0で、 Ni: 0. 4〜4. 0%、 Si: 0. 05~1. 0%、 Ti: 0. 005〜1. 0%を 各々含有し、残部銅および不可避的不純物力 なる銅合金力 なる基本組成とする 。この組成は、銅合金組織の結晶粒を微細化するとともに、析出物 (Ni Si)に含まれ
る Tiの平均原子濃度を制御するための、成分組成側からの重要な前提条件となる。 なお、以下の各元素の説明にお 、て記載する%表示は全て質量%である。
[0113] この基本組成に対し、更に、 Zn: 0. 005〜3. 0%を含有しても良い。また、 Sn: 0.
01〜5. 0%を含有しても良い。また、更に、 Fe、 Mg、 Co、 Zrのうち一種または二種 以上を合計で 0. 01〜3. 0%を含有しても良い。
[0114] Ni: 0. 4〜4. 0%
Niは、 Siとの化合物 (Ni Siなど)を晶出または析出させることにより、銅合金の強度
2
および導電率を確保する作用がある。また、 Tiとの化合物も形成する。 Niの含有量 が 0. 4%未満と少な過ぎると、析出物の生成量が不十分であるため、所望の強度が 得られないばかりか、銅合金組織の結晶粒が粗大化する。また、偏析しゃすい晶出 物の割合が高くなつて最終製品の特性のばらつきが大きくなる。一方、 Niの含有量 が 4. 0%を越えて多過ぎると、導電率が低下するのに加えて、粗大な析出物の数が 多くなりすぎ、曲げカ卩工性が低下する。したがって、 Ni量は 0. 4〜4. 0%の範囲とす る。
[0115] Si: 0. 05〜: L 0%
Siは、 Niとの化合物 (Ni Siなど)を晶'析出させて銅合金の強度および導電率を
2
向上させる。また、 Tiとの化合物も形成する。 Siの含有量が 0. 05%未満と少な過ぎ る場合は、析出物の生成が不十分であるため、所望の強度が得られないばかりか、 結晶粒が粗大化する。また、偏析しゃすい晶出物の割合が高くなつて、最終製品の 特性のばらつきが大きくなる。一方、 Siの含有量が 1. 0%を越えて多過ぎると、粗大 な析出物の数が多くなりすぎ、曲げ加工性が低下すると同時に、析出物に含まれる T iと Siの原子数比 TiZSiが低くなりすぎる。したがって、 Si含有量は 0. 05-1. 0%の 範囲とする。
[0116] Ti: 0. 005〜1. 0%
Tiは、 Ti含有析出物を生成させるとともに、 Ti含有析出物中の Tiの原子濃度を上 記した特定範囲に制御するための重要元素である。 Ti含有析出物を形成することで 、強度、導電率が向上するとともに、 Ti含有析出物の形成により結晶粒が微細化し、 曲げカ卩ェ性が向上する。但し、これらの効果の内、特に曲げカ卩ェ性向上効果は、 Ti
含有析出物の Tiの原子濃度を上記した特定範囲に制御することによって発揮される
[0117] Tiの含有量が 0. 005%未満と少な過ぎる場合には、これらの作用、効果が有効に 発揮されない。一方、 Tiの含有量が 1. 0%、より厳しくは 0. 6%を超えて多過ぎると、 析出物が粗大になり、曲げ加工性を損なうとともに、析出物に含まれる Tiの原子濃度 力 s高くなりすぎる。した力つて、 Tiの含有量 ίま 0. 005-1. 00/0、好ましく ίま 0. 005〜 0. 6%の範囲とする。
[0118] ここで本発明で言う Ti含有析出物とは、 Ni—Si—Tiの基本組成では、 Ni—Si—Ti 等の Ti含有析出物である。これに Feや Mgなどを含有すると、 Ni— Si—Ti等の Ti含 有析出物とともに、あるいはこれに代わって、 Ni— Si— (Fe、 Mg)— Ti等の Ti含有析 出物が生成する。また、 Co、 Zrなどを含有すると、これら Feや Mgなどの部分力 一 部乃至全部置換した Ti含有析出物が生成する。
[0119] Fe、 Mg、 Co、 Zr:合計で 0. 01〜3. 0%
これらの元素は、上記した通り、 Ti含有析出物を形成することで、強度、導電率を 向上させるとともに、結晶粒微細化にも効果がある。これらの効果を発揮させる場合 には、選択的に、 Fe、 Mg、 Co、 Zrのうち一種または二種以上を合計で 0. 01%以上 含有させる。しかし、これらの元素の合計含有量 (総量)が 3. 0%を超えると、析出物 が粗大になり、曲げ加工性を損なうとともに、析出物に含まれる Tiの原子濃度が低く なりすぎる。したがって、選択的に含有させる場合の Fe、 Mg、 Co、 Zrの含有量は、 合計で(総量で) 0. 01〜3. 0%の範囲とする。
[0120] Zn: 0. 005〜3. 0%
Znは電子部品の接合に用いる Snめっきやはんだの耐熱剥離性を改善し、熱剥離 を抑制するのに有効な元素である。このような効果を有効に発揮させる場合には、選 択的に 0. 005%以上含有させる。しかし、 3. 0%を越えて過剰に含有すると、却って 溶融 Snやはんだの濡れ広がり性を劣化させ、また、含有量が多くなると、導電率も大 きく低下させる。したがって、 Znは、耐熱剥離性向上効果と導電率低下作用とを考慮 した上で、選択的に含有させ、その場合の Zn含有量は 0. 005-3. 0%の範囲、好 ましくは 0. 005〜1. 5%の範囲とする。
[0121] Sn: 0. 01〜5. 0%
Snは、銅合金中に固溶して強度向上に寄与する。このような効果を有効に発揮さ せる場合には、選択的に 0. 01%以上含有させる。しかし、 5. 0%を越えて過剰に含 有すると、その効果が飽和し、また、含有量が多くなると導電率を大きく低下させる。 したがって、 Snは、強度向上効果と導電率低下作用とを考慮した上で、選択的に含 有させ、その場合の Sn含有量は 0. 01-5. 0%の範囲、好ましくは 0. 01-1. 0% の範囲とする。
[0122] その他の元素含有量:
その他の元素は、基本的に不純物であって、できるだけ少ないほうが好ましい。例 えば、 Mn、 Ca、 Ag、 Cd、 Be、 Au、 Pt、 S、 Pb、 Pなどの不純物元素は、粗大な晶' 析出物を生成しやすくなり、曲げ加工性が劣化するばかりか、導電率の低下も引き起 こしゃすくなる。したがって、これらの元素は総量で 0. 5%以下の極力少ない含有量 にすることが好ましい。この他、銅合金中に微量に含まれる Hf、 Th、 Li、 Na、 K、 Sr 、 Pd、 W、 Nb、 Al、 V、 Y、 Mo、 In、 Ga、 Ge、 As、 Sb、 Bi、 Te、 B、 C、ミッシュメタル 等の元素も、導電率の低下を引き起こしやすくなるので、これらの総量で 0. 1%以下 の極力少ない含有量に抑えることが望ましい。但し、これらの元素を低減するために は、地金使用ゃ精鍊などの製造コストが上昇しがちであり、製造コストの上昇を抑制 するためには、これら元素の総量の各々上記した上限までの含有は許容する。
[0123] (銅合金組織)
本発明では、以上の Cu— Ni— Si— Ti系合金組成を前提に、この銅合金の組織を 設計して、平均結晶粒径を 20 m以下、好ましくは 10 m以下に微細化させて、銅 合金の曲げ加工性を向上させる。本発明では、この組織設計を Ti含有析出物量の 制御によって達成する。より具体的には、銅合金組織中に一定サイズの析出物の数 密度を一定量以上確保するとともに、このサイズの析出物に含まれる Tiの平均原子 濃度を一定量確保する、制御によって達成する。
[0124] このような制御によらなければ、結晶粒成長抑制のピン止め効果が大きい Ti含有析 出物を銅合金組織中に適正量確保できない。この結果、銅合金組織における平均 結晶粒径を 20 m以下、好ましくは 10 m以下に微細化させることが困難となる。本
発明における Ti含有析出物は、前記した通り、溶体化処理温度が高温になっても、 Ti含有析出物は、固溶しきらずに、組織中に析出物として存在 (残存)し、結晶粒成 長抑制の大きなピン止め効果を発揮する。しかし、この Ti含有析出物のピン止め効 果の大きさは、前記した通り、 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる Tiの平均原 子濃度や、このサイズの析出物の数密度によって大きく左右される。
[0125] (析出物の数密度)
但し、この前提として、銅合金組織に存在する析出物の数密度を保証することが必 要である。銅合金組織に存在する析出物の数密度が少な過ぎる、あるいは多過ぎる と、これら析出物に含まれる Tiの平均原子濃度、あるいは Tiと Siとの平均原子濃度を 制御したとしても、曲げ性の向上効果が十分に発揮できない場合も当然起こり得る。 したがって、本発明では、析出物による結晶粒径微細化効果を保証するために、特 定サイズの析出物の数密度を一定範囲とする。
[0126] 即ち、前記銅合金組織の、前記電界放出型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型 分析装置とにより測定した、 50〜200nmのサイズの析出物の数密度が 0. 2〜20個 Z m2であることとする。ここで規定する特定サイズの析出物は、 Tiを含有するか否 かにかかわりなぐ各析出物のサイズ (最大径)のみを選別基準としている。
[0127] この析出物の数密度が 0. 2個 Z μ mより小さ 、と、析出物が少な過ぎる。このため 、この析出物に含まれる Tiあるいは Tiと Siとの平均原子濃度を制御しても、結晶粒径 微細化効果が十分に発揮できず、結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が低下する可能 '性がある。
[0128] 一方、この析出物の数密度が 20個 Z m2よりも大きいと、析出物が多過ぎ、曲げ 加工時に、せん断帯の形成が促進され、却って曲げ加工性が低下する。したがって 、 50〜200nmのサイズの析出物の数密度は、 0. 2〜20個 m2、好ましくは。. 5 〜15個7 μ m2の範囲とする。
[0129] (析出物に含まれる Tiの平均原子濃度)
析出物の数密度を保証した上で、本発明では、銅合金組織における平均結晶粒 径を 20 m以下に微細化させるために、銅合金組織の、倍率 30000倍の電界放出 型透過電子顕微鏡とエネルギー分散型分析装置とにより測定した、 50〜200nmの
サイズの Ni— Si— Tiなどの析出物に含まれる Tiの平均原子濃度を 0. l〜50at%の 範囲に制御する。
[0130] 前記した通り、本発明では、銅合金組織中に存在する Ti含有析出物の量を直接規 定するのではなぐ銅合金組織中に存在する上記特定サイズ (50〜200nm)の全析 出物中の Tiの平均原子濃度によって、 Ti含有析出物の量を制御する。したがって、 本発明では、これら特定サイズの全析出物 (Tiを含有するか否かにかかわらない析 出物)を対象として Tiの原子濃度を測定し、これらの析出物中の Tiの平均原子濃度 によって、銅合金組織中における Ti含有析出物の量を制御する。
[0131] 前記析出物内に含まれる Tiの平均原子濃度が低過ぎて、 0. lat%未満となると、 銅合金組織の結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が低下する。一方、前記析出物内に 含まれる Tiの平均原子濃度が高過ぎて、 50at%を越えると、銅合金組織への Ti以 外の固溶元素が多くなりすぎて、導電率が低下する。したがって、析出物に含まれる Tiの平均原子濃度は 0. l〜50at%の範囲、好ましくは 0. 5〜40at%の範囲とする
[0132] (平均結晶粒径)
本発明では、これら銅合金組織の析出物制御によって微細化させた、銅合金組織 の結晶粒径が、曲げ加工性を実質的に向上させる目安として、銅合金組織の平均結 晶粒径を規定する。即ち、倍率 10000倍の電界放出型走査電子顕微鏡に後方散乱 電子回折像システムを搭載した結晶方位解析法により測定した、結晶粒の数を n、そ れぞれの測定した結晶粒径を Xとした時、(∑ X) Znで表される平均結晶粒径が 20 μ m以下、好ましくは 10 μ m以下であることとする。
[0133] 平均結晶粒径が 20 mを越えて大きくなると、本発明が得ようとする曲げ加工性が 得られない。したがって、平均結晶粒径は 20 /z m以下、好ましくは 10 /z m以下と、平 均結晶粒径を小さくし、結晶粒径を微細化させる。
[0134] (析出物の数密度測定方法)
析出物の数密度測定方法は、後述する、析出物に含まれる Mの平均原子濃度測 定の前段となる。具体的には、製造された最終の銅合金 (板など)カゝら試料を採取し て、電解研磨により TEM観察用薄膜サンプルを作製する。そして、このサンプルを例
えば日立製作所製: HF— 2200電界放出型透過電子顕微鏡 (FE-TEM)により、倍率 X 30000倍で明視野像を得る。この明視野像を焼付、現像し、その写真より析出物 の直径及び数を測定し、各析出物の最大の径が 50〜200nmの範囲にあるサイズの 析出物を特定する。この測定から 50〜200nmの範囲にあるサイズの析出物の数密 度 (個/; z m2 )を算出できる。
[0135] (析出物内に含まれる Mの平均原子濃度測定方法)
前記析出物の数密度を測定した、倍率 30000倍の電界放出型透過電子顕微鏡に よる、同一の明視野像(同一の観察像)の各析出物に対して、例えば Nomn社製 NS Sエネルギー分散型分析装置 (EDX)により、各析出物の成分定量分析を実施する 。この分析の際のビーム径は 5nm以下で実施する。この分析を、前記最大の径が 50 〜200nmのサイズの各析出物(全析出物)に対してのみ実施し (これ以外のサイズ の析出物に対しては実施せず)、視野内の各析出物(全析出物)内の M及び Siの原 子濃度 (at%)をそれぞれ測定する。そして、明視野像内の、析出物内に含まれる M 及び Siの平均原子濃度を算出する。
[0136] (析出物内に含まれる Mと Siとの原子数比測定方法)
この析出物内(析出物中)に含まれる M及び Siの平均原子濃度の測定から、 50〜 200nmの範囲にあるサイズの析出物に含まれる Mと Siとの原子数比 MZSiの平均 も算出できる。
[0137] これらの測定乃至算出の再現性と精度向上のために、銅合金から採取する測定用 試料は任意の 10箇所からの 10個とし、上記析出物内に含まれる M及び Siの平均原 子濃度、 Mと Siとの原子数比 MZSi、析出物の数密度などの各数値は、これら 10個 の平均とする。
[0138] (平均結晶粒径測定方法)
本発明で、これら平均結晶粒径の測定方法を、電界放出型走査電子顕微鏡 (Field Emission Scanning Electron Microscope:FESEM )に、後方散乱電子回折像 [EBSP: Electron Back Scattering (Scattered) Pattern]システムを搭載した結晶方位解析法と 規定するのは、この測定方法が、高分解能ゆえに高精度であるためである。
[0139] EBSP法は、 FESEMの鏡筒内にセットした試料に電子線を照射してスクリーン上に E
BSPを投影する。これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込む。 コンピュータでは、この画像を解析して、既知の結晶系を用いたシミュレーションによ るパターンとの比較によって、結晶の方位が決定される。算出された結晶の方位は 3 次元オイラー角として、位置座標 (x、 y)などとともに記録される。このプロセスが全測 定点に対して自動的に行なわれるので、測定終了時には数万〜数十万点の結晶方 位データが得られる。
[0140] このように、 EBSP法には、 X線回折法や透過電子顕微鏡を用いた電子線回折法よ りも、観察視野が広ぐ数百個以上の多数の結晶粒に対する、平均結晶粒径、平均 結晶粒径の標準偏差、あるいは方位解析の情報を、数時間以内で得られる利点が ある。また、結晶粒毎の測定ではなぐ指定した領域を任意の一定間隔で走査して測 定するために、測定領域全体を網羅した上記多数の測定ポイントに関する、上記各 情報を得ることができる利点もある。なお、これら FESEMに EBSPシステムを搭載した 結晶方位解析法の詳細は、神戸製鋼技報/ Vol.52 No.2(Sep.2002)P66-70などに詳 細に記載されている。
[0141] これら FESEMに EBSPシステムを搭載した結晶方位解析法を用いて、本発明では、 製品銅合金の板厚方向の表面部の集合組織を測定し、平均結晶粒径の測定を行な
[0142] ここで、通常の銅合金板の場合、主に、以下に示す如き Cube方位、 Goss方位、 Bra ss方位 (以下、 B方位ともいう)、 Copper方位 (以下、 Cu方位ともいう)、 S方位等と呼 ばれる多くの方位因子カゝらなる集合組織を形成し、それらに応じた結晶面が存在す る。これらの事実は、例えば、長島晋ー編著、「集合組織」(丸善株式会社刊)や軽金 属学会「軽金属」解説 Vol.43、 1993、 P285-293などの記載されている。
[0143] これらの集合組織の形成は同じ結晶系の場合でも加工、熱処理方法によって異な る。圧延による板材の集合組織の場合は、圧延面と圧延方向で表されており、圧延 面は {ABC }で表現され、圧延方向はく DEF >で表現される(ABCDEFは整数を 示す)。力かる表現に基づき、各方位は下記の如く表現される。
[0144] Cube方位 {001 }く 100 >
Goss方位 {011 } < 100 >
Rotated- Goss方位 {011}く 011>
Brass方位(B方位) {011}<211>
Copper方位(Cu方位) {112}<111>
(若しくは D方位 {4411} < 11118 >
S方位 {123}<634>
BZG方位 {011}く 511 >
BZS方位 { 168}く 211 >
P方位 {011}<111>
[0145] 本発明においては、基本的に、これらの結晶面から ±15° 以内の方位のずれのも のは同一の結晶面 (方位因子)に属するものとする。また、隣り合う結晶粒の方位差 が 5° 以上の結晶粒の境界を結晶粒界と定義する。
[0146] その上で、本発明においては、測定エリア 300X300 μ mに対して 0.5 μ mのピッチで 電子線を照射し、上記結晶方位解析法により測定した結晶粒の数を n、それぞれの 測定した結晶粒径を Xとした時、上記平均結晶粒径を(∑ X) Znで算出する。
[0147] (製造条件)
次に、銅合金の組織を上記本発明規定の組織とするための、好ましい製造条件に ついて以下に説明する。本発明銅合金は基本的に銅合金板であり、これを幅方向に スリットした条ゃ、これら板条をコイルィ匕したものが本発明銅合金の範囲に含まれる。
[0148] 本発明でも、一般的な製造工程と同様に、特定成分組成に調整した銅合金溶湯の 铸造、铸塊面削、均熱、熱間圧延、そして冷間圧延と、溶体化処理 (再結晶焼鈍)、 時効硬化処理 (析出焼鈍)、歪取り焼鈍などを含む工程により最終 (製品)板が得ら れる。但し、上記製造工程の内でも、以下に説明する好ましい各製造条件を組み合 わせて実施することで、本発明規定の組織、強度 '高導電率及び曲げ加工性を得る ことが可能となる。
[0149] 先ず、熱間圧延の終了温度は 550〜850°Cとすることが好ましい。この温度が 550 °Cより低い温度域で熱間圧延を行うと、再結晶が不完全なため不均一組織となり、曲 げ加工性が劣化する。熱間圧延の終了温度が 850°Cより高いと、結晶粒が粗大化し 、曲げ加工性が劣化する。この熱間圧延後は水冷することが好ましい。
[0150] 次に、この熱間圧延後で、溶体化処理 (再結晶焼鈍)前の、冷間圧延における冷延 率を 70〜98%とすることが好ましい。冷延率が 70%より低いと、再結晶核となるサイ トが少なすぎる為に、本発明が得ようとする平均結晶粒径よりも必然的に大きくなり、 曲げ加工性が劣化する可能性がある。一方、冷延率が 98%より高いと、歪み量の分 布ばらつきが大きくなるために、その後の再結晶後の結晶粒径が不均一となり、本発 明が得ようとする曲げ加工性が劣化する可能性がある。
[0151] (溶体化処理)
溶体化処理は、本発明における銅合金組織の析出物制御によって、結晶粒径を微 細化させ、銅合金の曲げ力卩ェ性を向上させるために重要な工程である。特に、溶体 化処理開始時における昇温速度と、溶体化処理後の溶体化処理温度からの冷却速 度との制御は、銅合金組織の析出物制御のために重要となる。
[0152] この点、本発明の第 1の態様では、溶体ィ匕処理における 400°Cまでの平均昇温速 度を 5〜100°CZhの範囲、 400°C力も溶体化処理温度までの平均昇温速度を 100 °CZs以上、溶体化処理温度を 700°C以上、 900°C未満とし、溶体化処理後の平均 冷却速度を 50°CZs以上と各々する。
[0153] 溶体化処理工程における昇温、冷却過程では、まず、室温力 約 600°C以下の比 較的低温の領域では、ケィ化ニッケル析出物 (Ni Si)などの析出が起こり、約 600
2 °C 以上の高温の領域では、これら析出物が再固溶する。また、本発明銅合金の再結晶 温度範囲は約 500〜700°Cであり、銅合金の結晶粒径はこの再結晶時の析出物の 分散状態に大きく影響を受ける。
[0154] 溶体化昇温開始時より 400°C到達までの平均昇温速度は、比較的小さくし、 5〜1 00°CZhとする。但し、平均昇温速度がこの 5°CZhより小さいと、析出した析出物が 粗大化してしまい、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低下する。一方、平均 昇温速度が 100°CZhより大きいと、析出物の生成量が少なくなる。このため、析出 物の数密度が不足して、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低下する。
[0155] 次に、上記 400°Cから溶体化温度までの平均昇温速度は、比較的大きくし、 100°C Zs以上とする。昇温速度が 100°CZs未満と、 100°CZsより小さいと、再結晶粒の 成長が促進され、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低下する。
[0156] 溶体化処理温度は 700°C以上、 900°C未満とする。溶体化処理温度は 700°Cより 低いと、溶体ィ匕が不十分となり、本発明が得ようとする高強度が得られないばかりか、 曲げ性が低下する。一方、溶体化処理温度が 900°C以上と、 900°Cよりも高いと、析 出物の数密度が小さくなりすぎるとともに、析出物に含まれる Pの原子濃度が低くなり すぎ、本発明が得ようとする曲げ加工性及び高導電率が得られな ヽ。
[0157] 溶体化処理後の平均冷却速度は 50°CZs以上とする。冷却速度が 50°CZsより小 さいと、結晶粒の成長が促進され、本発明が得ようとする平均結晶粒径より大きくなる ととも〖こ、曲げ加工性が低下する。
[0158] また、本発明の第 2の態様では、溶体ィ匕処理における 400°Cまでの平均昇温速度 を 5〜100°CZhの範囲、 400°C力も溶体化処理温度までの平均昇温速度を 100°C Zs以上、溶体化処理温度を 700°C以上、 950°C未満とし、溶体化処理後の平均冷 却速度を 50°CZs以上と各々する。
[0159] 溶体化処理工程における昇温、冷却過程では、まず、室温力 約 600°C以下の比 較的低温の領域では、 Ni Siなどの析出が起こり、約
2 600°C以上の高温の領域では
、これら析出物が再固溶する。また、本発明銅合金の再結晶温度範囲は約 500〜7 00°Cであり、銅合金の結晶粒径はこの再結晶時の析出物の分散状態に大きく影響 を受ける。
[0160] 溶体化昇温開始時より 400°C到達までの平均昇温速度は、比較的小さくし、 5〜1 00°CZhとする。但し、平均昇温速度がこの 5°CZhより小さいと、析出した析出物が 粗大化してしまい、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低下する。一方、平均 昇温速度が 100°CZhより大きいと、析出物の生成量が少なくなる。このため、析出 物の数密度が不足して、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低下する。
[0161] 次に、上記 400°Cから溶体化温度までの平均昇温速度は、比較的大きくし、 100°C Zs以上とする。この昇温速度が 100°CZs未満であると、本発明で規定する析出物 の如何にかかわらず、再結晶粒の成長が促進され、平均結晶粒径が大きくなり、曲 げ加工性が低下する。
[0162] 溶体化処理温度は 700°C以上、 950°C未満の比較的高温とする。溶体化処理温 度は 700°Cより低いと、溶体ィ匕が不十分となり、本発明が得ようとする高強度が得ら
れないばかりか、曲げ性が低下する。一方、溶体化処理温度が 950°C以上となると、 Cr含有析出物の多くが固溶してしまい、析出物の数密度が小さくなりすぎるとともに、 析出物に含まれる Crの原子濃度が低くなりすぎる。このため、 Cr含有析出物による 結晶粒成長抑制のピン止め効果が発揮されず、結晶粒が粗大化する。このため、本 発明が得ようとする高強度で曲げ加工性及び高導電率が得られない。
[0163] 溶体化処理温度は上記比較的高温とする。前記した通り、溶体化処理温度が高温 になっても、 Cr含有析出物は、固溶しきらずに、組織中に析出物として存在 (残存)し 、結晶粒成長抑制の大きなピン止め効果を発揮する。しかも、前記した通り、溶体ィ匕 処理温度の高温化によって、 Ni、 Siの固溶量を大幅に増すことができ、後の時効硬 化処理において、 Ni— Siの微細な析出物量を大幅に増すことができる。この結果、 平均結晶粒径の粗大化によって曲げ加工性などを低下させることなぐ銅合金のより 高強度化を図ることが可能となる。
[0164] 溶体化処理後の平均冷却速度は 50°CZs以上とする。この冷却速度が 50°CZsよ り小さいと、本発明で規定する析出物の如何にかかわらず、結晶粒の成長が促進さ れ、本発明が得ようとする平均結晶粒径より大きくなるとともに、曲げ加工性が低下す る。
[0165] また、本発明の第 3の態様では、溶体ィ匕処理における 400°Cまでの平均昇温速度 を 5〜100°CZhの範囲、 400°C力も溶体化処理温度までの平均昇温速度を 100°C Zs以上、溶体化処理温度を 700°C以上、 950°C未満とし、溶体化処理後の平均冷 却速度を 50°CZs以上と各々する。
[0166] 溶体化処理工程における昇温、冷却過程では、まず、室温力 約 600°C以下の比 較的低温の領域では、 Ni Siなどの析出が起こり、約 600
2 °C以上の高温の領域では
、これら析出物が再固溶する。また、本発明銅合金の再結晶温度範囲は約 500〜7 00°Cであり、銅合金の結晶粒径はこの再結晶時の析出物の分散状態に大きく影響 を受ける。
[0167] 溶体化昇温開始時より 400°C到達までの平均昇温速度は、比較的小さくし、 5〜1 00°CZhとする。但し、平均昇温速度がこの 5°CZhより小さいと、析出した析出物が 粗大化してしまい、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低下する。一方、平均
昇温速度が 100°CZhより大きいと、析出物の生成量が少なくなる。このため、析出 物の数密度が不足して、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低下する。
[0168] 次に、上記 400°Cから溶体化温度までの平均昇温速度は、比較的大きくし、 100°C Zs以上とする。この昇温速度が 100°CZs未満であると、本発明で規定する析出物 の如何にかかわらず、再結晶粒の成長が促進され、平均結晶粒径が大きくなり、曲 げ加工性が低下する。
[0169] 溶体化処理温度は 700°C以上、 950°C未満の比較的高温とする。溶体化処理温 度は 700°Cより低いと、溶体ィ匕が不十分となり、本発明が得ようとする高強度が得ら れないばかりか、曲げ性が低下する。一方、溶体ィ匕処理温度が 950°C以上となると、 Ti含有析出物の多くが固溶してしまい、析出物の数密度が小さくなりすぎるとともに、 析出物に含まれる Tiの原子濃度が低くなりすぎる。このため、 Ti含有析出物による結 晶粒成長抑制のピン止め効果が発揮されず、結晶粒が粗大化する。このため、本発 明が得ようとする高強度で曲げ加工性及び高導電率が得られない。
[0170] 溶体化処理温度は上記比較的高温とする。前記した通り、溶体化処理温度が高温 になっても、 Ti含有析出物は、固溶しきらずに、組織中に析出物として存在 (残存)し 、結晶粒成長抑制の大きなピン止め効果を発揮する。しかも、前記した通り、溶体ィ匕 処理温度の高温化によって、 Ni、 Siの固溶量を大幅に増すことができ、後の時効硬 化処理において、 Ni— Siの微細な析出物量を大幅に増すことができる。この結果、 平均結晶粒径の粗大化によって曲げ加工性などを低下させることなぐ銅合金のより 高強度化を図ることが可能となる。
[0171] 溶体化処理後の平均冷却速度は 50°CZs以上とする。この冷却速度が 50°CZsよ り小さいと、本発明で規定する析出物の如何にかかわらず、結晶粒の成長が促進さ れ、本発明が得ようとする平均結晶粒径より大きくなるとともに、曲げ加工性が低下す る。
[0172] (溶体化処理後の処理)
この溶体化処理後(再結晶焼鈍後)に、約 300〜450°Cの範囲の温度で析出焼鈍 (中間焼鈍、二次焼鈍)を行ない、微細な析出物を形成させ、銅合金板の強度と導電 率を向上(回復)させても良い。また、溶体化処理と析出焼鈍の間に、 10〜50%の
範囲で最終の冷間圧延を行なっても良 、。
[0173] 以上説明した、これらの製造条件を適切に組み合わせて実施することで、本発明の 前記要件を満たす高強度 ·高導電率及び曲げ加工性に優れた銅合金を得ることが 可能となる。力べして得られる本発明の銅合金は高強度 '高導電率及び曲げ加工性 が優れているので、家電、半導体部品、産業用機器並びに、自動車用電機電子部 品に幅広く有効に活用できる。
[0174] 以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実 施例によって制限を受けるものではなぐ前 ·後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に 変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範 囲に包含される。
実施例
[0175] 以下に、本発明の実施例 1を説明する。 Cu合金組成と製造方法、特に溶体化処理 条件を変えて、 Cu合金組織中の析出物内の P平均原子濃度などを種々変えて、得 られた Cu合金薄板の平均結晶粒径を変化させ、強度、導電率、曲げ性などの特性 を各々評価した。
[0176] 具体的には、下記表 1、 2に示す化学成分組成の銅合金を、それぞれクリプトル炉 において大気中で木炭被覆下で溶解し、铸鉄製ブックモールドに铸造し、厚さが 50 mm、幅が 75mm、長さ力 l80mmの铸塊を得た。そして、铸塊の表面を面削した後、 95 0°Cの温度で厚さが 20mmになるまで熱間圧延し、 750°C以上の熱間圧延終了温度か ら水中に急冷した。次に、酸化スケールを除去した後、一次冷間圧延を行い、厚さが 0.25mmの板を得た。
[0177] 続いて、塩浴炉を使用し、表 2、 3に示すように、昇温、冷却条件を種々変えて溶体 化処理を行なった。なお、溶体ィ匕温度における板の保持時間は共通して 3 0秒間とし た。次に、仕上げ冷間圧延により、各々厚さが 0.20mmの冷延板にした。この冷延板を 450 °C X 4hの人工時効硬化処理して最終の銅合金板を得た。
[0178] このようにして製造した銅合金板に対して、各例とも、上記最終銅合金板から切り出 した試料を使用して、組織調査と、引張試験による強度 (0. 2%耐カ)測定、導電率 測定、曲げ試験及び評価を実施した。これらの結果を表 3、 4に示す。
[0179] ここで、表 1、 2に示す各銅合金とも、記載元素量を除いた残部組成は Cuであり、表 1、 2に記載以外の他の元素として、 Al、 Be、 V、 Nb、 Mo、 Wなどの不純物元素は総 量で 0. 5%以下であった。この他、 B、 C、 Na、 S、 Ca、 As、 Se、 Cd、 In、 Sb、 Biゝ MM ( ミシュメタル)等の元素もこれらの総量で 0. 1 %以下であった。なお、表 1、 2の各元素 含有量にぉ 、て示す「 」は検出限界以下であることを示す。
[0180] これら銅合金試料組織の調査は、 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる Pの 平均原子濃度(at%)、同じく 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる Pと Siとの平 均原子数比 PZSi、同じく 50〜200nmのサイズの析出物の平均数密度(個 Zw m2) を、各々前記した方法により測定した。
[0181] また、銅合金試料組織の、結晶粒の数を n、それぞれの測定した結晶粒径を Xとし た時に、(Σ χ) Ζηで表される平均結晶粒径(/z m)を、前記した電界放出型走査電 子顕微鏡に後方散乱電子回折像システムを搭載した結晶方位解析法により測定し た。具体的には、製品銅合金の圧延面表面を機械研磨し、更に、パフ研磨に次いで 電解研磨して、表面を調整した試料を用意した。その後、日本電子社製 FESEM0EO L JSM 5410)を用いて、 EBSPによる結晶方位測定並びに結晶粒径測定を行った。測 定領域は 300 m X 300 mの領域であり、測定ステップ間隔 0.5 mとした。 EBSP 測定'解析システムは、 EBSP : TSL社製(OIM)を用いた。
[0182] (引張試験)
引張試験は、試験片の長手方向を圧延方向とし^ JIS 13号 B試験片を用いて、 58 82型インストロン社製万能試験機により、室温、試験速度 10. Omm/min, GL = 5 Ommの条件で、 0. 2%耐カ (MPa)を測定した。同一条件の試験片を 3本試験し、そ れらの平均値を採用した。
[0183] (導電率測定)
導電率は、試験片の長手方向を圧延方向として、ミーリングにより、幅 10mm X長さ 3 00mmの短冊状の試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗 を測定して、平均断面積法により算出した。同一条件の試験片を 3本試験し、それら の平均値を採用した。
[0184] (曲げ加工性の評価試験)
銅合金板試料の曲げ試験は、日本伸銅協会技術標準に従って行った。板材を幅 1 Omm、長さ 30mm〖こ切出し、 lOOOkgfの荷重をかけて曲げ半径 0. 15mmで Good Way (曲げ軸が圧延方向に直角)の曲げを行 、、曲げ部における割れの有無を 50倍 の光学顕微鏡で目視観察した。この際に、割れの無いものを〇、割れが生じたものを Xと評価した。この曲げ試験に優れていれば、前記密着曲げあるいはノッチング後の 90° 曲げなどの厳し ヽ曲げカ卩ェ性にも優れて 、ると言える。
[0185] 表 1、 3から明らかな通り、本発明組成内の銅合金である発明例 1〜18は、溶体ィ匕 処理が好ましい条件範囲内で行なわれて、製品銅合金板を得ている。
[0186] このため、発明例 1〜18の組織は、前記各測定方法による、 50〜200nmのサイズ の析出物の数密度が平均で 0. 2〜7. 0個 Z m2の範囲であり、この範囲のサイズ の析出物に含まれる Pの平均原子濃度が 0. l〜50at%の範囲であり、平均結晶粒 径が 10 /z m以下である。また、 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる Pと Siとの 原子数比 PZSiが平均で 0. 01〜10である。
[0187] この結果、発明例 1〜18は、 0. 2%耐力が 800MPa以上、導電率が 40%IACS以 上の高強度、高導電率であって、かつ、曲げカ卩工性に優れている。
[0188] これに対して、比較例 19〜27、 33〜35の銅合金は成分組成が本発明範囲力 外 れている。このため、溶体化処理 (製造方法)は好ましい条件範囲内で行なわれてい るにもかかわらず、曲げ加工性が共通して劣り、強度や導電率も低くなつている。
[0189] 比較例 19の銅合金は Pを含有していない。このため、析出物に含まれる Pの平均原 子濃度が 0であり、平均結晶粒径が 10 /z mを越えて粗大化している。このため、曲げ 加工性とともに、強度が低い。
[0190] 比較例 20の銅合金は、 Niの含有量が上限を高めに外れている。このため、曲げカロ ェ性とともに、導電率が著しく低い。
[0191] 比較例 21の銅合金は、 Niの含有量が下限を低めに外れている。このため、 50〜2 OOnmのサイズの析出物に含まれる Pの平均原子濃度力 at%であるにもかかわらず 、平均結晶粒径が 10 /z mを越えて粗大化している。この結果、曲げカ卩ェ性とともに、 強度が著しく低い。
[0192] 比較例 22の銅合金は、 Siの含有量が上限を高めに外れている。このため、 50〜2
OOnmのサイズの析出物に含まれる Pの平均原子濃度が 1. 5at%であるにもかかわ らず、平均結晶粒径が 10 mを越えて粗大化している。この結果、曲げカ卩ェ性ととも に、導電率が著しく低い。
[0193] 比較例 23の銅合金は、 Siの含有量が下限を低めに外れている。このため、 50〜2 OOnmのサイズの析出物の数密度が少な過ぎ、このサイズの析出物に含まれる Pの 平均原子濃度が 20at%であるにもかかわらず、平均結晶粒径が 10 mを越えて粗 大化している。この結果、曲げ加工性とともに、強度、導電率が著しく低い。
[0194] 比較例 24の銅合金は、 Pの含有量が上限を高めに外れている。このため、曲げカロ ェ性とともに、導電率が著しく低い。
[0195] 比較例 25の銅合金は、 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる Pの平均原子濃 度が少な過ぎ、また、 Feの含有量が上限 3. 0%を高めに外れている。このため、平 均結晶粒径が 10 mを越えて粗大化している。この結果、曲げカ卩ェ性とともに、導 電率が著しく低い。
[0196] 比較例 26の銅合金は、 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる Pの平均原子濃 度が少な過ぎ、また、 Cr、 Coの含有量が上限 3. 0%を高めに外れている。このため 、平均結晶粒径が 10 /z mを越えて粗大化している。この結果、曲げカ卩ェ性とともに、 強度、導電率が著しく低い。
[0197] また、比較例 27〜35の銅合金は成分組成は本発明範囲内であるにもかかわらず 、溶体化処理条件 (製造方法)が好ましい条件範囲から外れている。この結果、曲げ 加工性が共通して劣り、強度や導電率も低くなつている。
[0198] 比較例 27は溶体化処理における 400°Cまでの平均昇温速度が小さ過ぎる。このた め、 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる Pの平均原子濃度が 3. 7at%で、平 均結晶粒径が 6 mであるにもかかわらず、曲げ加工性とともに、強度が著しく低い。
[0199] 比較例 28は溶体ィ匕処理における 400°Cまでの平均昇温速度が大き過ぎる。このた め、析出物の数密度が不足して、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低い。
[0200] 比較例 29は 400°Cから溶体化温度までの平均昇温速度が小さ過ぎる。このため、 平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低い。
[0201] 比較例 30は、溶体化処理温度が低過ぎる。このため、溶体ィ匕が不十分となり、強度
が低ぐ曲げ性が低い。
[0202] 比較例 31は、溶体化処理温度が高過ぎる。このため、 50〜200nmのサイズの析 出物の数密度が少な過ぎ、このサイズの析出物に含まれる Pの平均原子濃度も 0. 2 at%と小さく、平均結晶粒径が 10 /z mを越えて粗大化している。この結果、曲げカロ ェ性及び導電率が低い。
[0203] 比較例 32は、溶体化処理後の平均冷却速度が小さ過ぎる。このため、 50〜200n mのサイズの析出物の数密度や、これに含まれる Pの平均原子濃度は範囲内である ものの、結晶粒の成長が促進され、平均結晶粒径が大きぐ曲げ加工性が低い。また 、強度も低い。
[0204] 比較例 33、 35の銅合金は Pを含有していない。また、 Cr、 Coの含有量が上限 3. 0 %を高めに外れている。更に、溶体化処理温度が高過ぎ、 50〜200nmのサイズの 析出物の数密度が少な過ぎる。このため、平均結晶粒径が 10 mを越えて粗大化 し、曲げ加工性が低い。また導電率も著しく低い。
[0205] 比較例 34は、 50〜200nmのサイズの析出物の数密度が少な過ぎ、このサイズの 析出物に含まれる Pの平均原子濃度が範囲内であるにもかかわらず、平均結晶粒径 が 10 mを越えて粗大化している。この結果、曲げ力卩ェ性及び強度が低い。
[0206] 以上の結果から、高強度、高導電率化させた上で、曲げ加工性にも優れさせるため の、本発明銅合金板の成分組成、組織、更には、組織を得るための好ましい製造条 件の意義が裏付けられる。
[0207] [表 1]
i¾
一は検出限界以下を示す。
区 銅合金板の化学成分組成 (残部 Cuおよび不純物) 考 号
分
N S P C T i F e g C o Z Z n S n
19 3. 2 0. 7
20 4. 3 0. 8 0. 05
21 0. 3 0. 5 0. 05
比 22 3. 5 1. 2 0. 05
23 3. 2 0. 01 0. 05
24 3. 2 0. 8 0. 8
25 3. 2 0. 7 0. 1 4
較 26 3. 2 0. 7 0. 1
27 3. 2 0. 7 0. 05 0. 1
28 3. 2 0. 7 0. 05
29 3. 2 0. 7 0. 05
例 30 3. 2 0. 7 0. 05
31 3. 2 0. 7 0. 05
32 3. 2 0. 7 0. 05 0. 05 0. 05 0. 05
33 4 0. 9
34 2. 5 0. 5 0. 03
35 3. 7 0. 96
* 一は検出限界以下を示す。
^範範範範範範範NN P PSPF PS
3無 ,無無囲囲囲囲囲囲囲 e iー i1. 過過過過過過過内内内內内内内ししし 少少多多多多多
[0211] つづいて、本発明の実施例 2を説明する。 Cu合金組成と製造方法、特に溶体化処 理条件を変えて、 Cu合金組織中の析出物内の Cr平均原子濃度などを種々変えて、 得られた Cu合金薄板の平均結晶粒径を変化させ、強度、導電率、曲げ性などの特 性を各々評価した。
[0212] 具体的には、下記表 5に示す化学成分組成の銅合金を、それぞれクリプトル炉にお いて大気中で木炭被覆下で溶解し、铸鉄製ブックモールドに铸造し、厚さが 50mm 、幅が 75mm、長さが 180mmの铸塊を得た。そして、铸塊の表面を面削した後、 95 0°Cの温度で厚さが 20mmになるまで熱間圧延し、 750°C以上の熱間圧延終了温度 力も水中に急冷した。次に、酸化スケールを除去した後、一次冷間圧延を行い、厚さ が 0. 25mmの板を得た。
[0213] 続いて、塩浴炉を使用し、表 6に示すように、昇温、冷却条件を種々変えて溶体ィ匕 処理を行なった。なお、溶体ィ匕温度における板の保持時間は共通して 30秒間とした 。次に、仕上げ冷間圧延により、各々厚さが 0. 20mmの冷延板にした。この冷延板 を 450°C X 4hの人工時効硬化処理して最終の銅合金板を得た。
[0214] このようにして製造した銅合金板に対して、各例とも、上記最終銅合金板から切り出 した試料を使用して、組織調査と、引張試験による強度 (0. 2%耐カ)測定、導電率 測定、曲げ性試験及び評価を実施した。これらの結果を表 6に示す。
[0215] ここで、表 5に示す各銅合金とも、記載元素量を除いた残部組成は Cuであり、表 5 に記載以外の他の元素として、 Mn、 Ca、 Ag、 Cd、 Be、 Au、 Pt、 S、 Pb、 Pなどの不 純物元素は総量で 0. 5%以下であった。この他、 Hf、 Th、 Li、 Na、 K、 Sr、 Pd、 W、 Nb、 Al、 V、 Y、 Mo、 In、 Ga、 Ge、 As、 Sb、 Biゝ Te、 B、 C、ミッシュメタル等の元素 もこれらの総量で 0. 1%以下であった。
[0216] (組織調査)
銅合金板試料の組織調査は、 50〜 200nmのサイズの析出物に含まれる の平 均原子濃度(at%)、同じく 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる Crと Siとの平 均原子数比 CrZSi、同じく 50〜200nmのサイズの析出物の平均数密度(個 Z m 2)を、各々前記した方法により測定した。
[0217] また、銅合金試料組織の、結晶粒の数を n、それぞれの測定した結晶粒径を Xとし
た時に、(Σ χ) Ζηで表される平均結晶粒径(/z m)を、前記した電界放出型走査電 子顕微鏡に後方散乱電子回折像システムを搭載した結晶方位解析法により測定し た。具体的には、製品銅合金の圧延面表面を機械研磨し、更に、パフ研磨に次いで 電解研磨して、表面を調整した試料を用意した。その後、日本電子社製 FESEM0EO L JSM 5410)を用いて、 EBSPによる結晶方位測定並びに結晶粒径測定を行った。 測定領域は 300 m X 300 mの領域であり、測定ステップ間隔 0.5 μ mとした。 EB SP測定'解析システムは、 EBSP :TSL社製(OIM)を用いた。
[0218] (引張試験)
引張試験は、試験片の長手方向を圧延方向とし^ JIS13号 B試験片を用いて、 58 82型インストロン社製万能試験機により、室温、試験速度 10. Omm/min, GL = 5 Ommの条件で、 0. 2%耐カ (MPa)を測定した。同一条件の試験片を 3本試験し、そ れらの平均値を採用した。
[0219] (導電率測定)
導電率は、試験片の長手方向を圧延方向として、ミーリングにより、幅 10mm X長さ 3 00mmの短冊状の試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗 を測定して、平均断面積法により算出した。同一条件の試験片を 3本試験し、それら の平均値を採用した。
[0220] (曲げ加工性の評価試験)
銅合金板試料の曲げ試験は、日本伸銅協会技術標準に従って行った。板材を幅 1 Omm、長さ 30mm〖こ切出し、 lOOOkgfの荷重をかけて曲げ半径 0. 15mmで Good Way (曲げ軸が圧延方向に直角)の曲げを行 、、曲げ部における割れの有無を 50倍 の光学顕微鏡で目視観察した。この際に、割れの無いものを〇、割れが生じたものを Xと評価した。この曲げ試験に優れていれば、前記密着曲げあるいはノッチング後の 90° 曲げなどの厳し ヽ曲げカ卩ェ性にも優れて 、ると言える。
[0221] 表 6から明らかな通り、本発明組成内の銅合金である発明例 36〜47は、溶体化処 理が好ましい条件範囲内で行なわれて、製品銅合金板を得ている。
[0222] このため、発明例 36〜47の組織は、前記各測定方法による、 50〜200nmのサイ ズの析出物の数密度が平均で 0. 2〜20個 Z w m2の範囲であり、この範囲のサイズ
の析出物に含まれる Crの平均原子濃度が 0. l〜80at%の範囲であり、平均結晶粒 径が 30 m以下である。また、 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる Crと Siと の原子数比 CrZSiが平均で 0. 01〜10である。
[0223] この結果、発明例 36〜47は、 0. 2%耐力が 800MPa以上、導電率力 0%IACS 以上の高強度、高導電率であって、かつ、曲げカ卩工性に優れている。
[0224] これに対して、比較例 48〜55の銅合金は、表 5の通り、成分組成が本発明範囲か ら外れている。このため、溶体化処理 (製造方法)は好ましい条件範囲内で行なわれ ているにもかかわらず、曲げカ卩ェ性が共通して劣り、強度や導電率も低くなつている
[0225] 比較例 48の銅合金は Crを含有していない。このため、 50〜200nmのサイズの析 出物 (数密度)が少なぐ平均結晶粒径が 30 /z mを越えて粗大化している。このため 、曲げ加工性とともに、強度が低い。
[0226] 比較例 49の銅合金は、 Crの含有量が上限を高めに外れている。このため、析出物 が粗大になり、曲げ加工性が劣るとともに、析出物に含まれる Crの原子濃度や CrZ Siが高くなりすぎ、導電率が低い。
[0227] 比較例 50の銅合金は、 Niの含有量が上限を高めに外れている。このため、曲げカロ ェ性とともに、導電率が著しく低い。
[0228] 比較例 51の銅合金は、 Niの含有量が下限を低めに外れている。このため、 50〜2 OOnmのサイズの析出物 (数密度)が少なぐ平均結晶粒径が 30 mを越えて粗大 化している。この結果、曲げカ卩ェ性とともに、強度が著しく低い。
[0229] 比較例 52の銅合金は、 Siの含有量が上限を高めに外れている。このため、 50〜2 OOnmのサイズの析出物に含まれる CrZSiが低くなりすぎ、平均結晶粒径が 30 μ m を越えて粗大化している。この結果、曲げ加工性とともに、導電率が著しく低い。
[0230] 比較例 53の銅合金は、 Siの含有量が下限を低めに外れている。このため、 50〜2 OOnmのサイズの析出物の数密度が少な過ぎ、このサイズの析出物に含まれる CrZ Siが高くなりすぎ、平均結晶粒径が 30 mを越えて粗大化している。この結果、曲げ 加工性とともに、強度が低い。
[0231] 比較例 54の銅合金は、 Zr含有量が多すぎる。このため、平均結晶粒径が 30 μ m
を越えて粗大化している。この結果、曲げ加工性とともに、導電率が著しく低い。
[0232] 比較例 55の銅合金は、 Fe、 Mg含有量の合計量が多すぎる。このため、平均結晶 粒径が 30 /z mを越えて粗大化している。この結果、曲げカ卩ェ性とともに、導電率が 著しく低い。
[0233] 比較例 56〜61の銅合金は、表 5の例 56〜61の通り、成分組成は本発明範囲内で ある。にもかかわらず、溶体化処理条件 (製造方法)が好ましい条件範囲から外れて いる。この結果、曲げ加工性が共通して劣り、強度や導電率も低くなつている。
[0234] 比較例 56は溶体ィ匕処理における 400°Cまでの平均昇温速度が小さ過ぎる。このた め、結晶粒の成長が促進され、平均結晶粒径が 30 mを越えて粗大化している。こ の結果、曲げ加工性とともに、強度が著しく低い。
[0235] 比較例 57は溶体ィ匕処理における 400°Cまでの平均昇温速度が大き過ぎる。このた め、析出物の数密度が不足して、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低い。
[0236] 比較例 58は 400°Cから溶体化温度までの平均昇温速度が小さ過ぎる。このため、 平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低い。
[0237] 比較例 59は溶体化処理温度が低過ぎる。このため、溶体化が不十分となり、強度 が低ぐ曲げ性が低い。
[0238] 比較例 60は溶体化処理温度が高過ぎる。このため、 50〜200nmのサイズの析出 物の数密度が少な過ぎ、平均結晶粒径が 30 /z mを越えて粗大化している。この結 果、曲げ加工性及び強度が低い。
[0239] 比較例 61は、溶体化処理後の平均冷却速度が小さ過ぎる。このため、結晶粒の成 長が促進され、平均結晶粒径が大きぐ曲げ加工性が低い。また、強度も低い。
[0240] 図 1に発明例 36、図 2に比較例 48の各銅合金板であって、前記各 900°Cの溶体ィ匕 処理後で、前記各仕上げ冷間圧延前の板の組織の 50000倍の TEM (走査型電子 顕微鏡)写真を示す。図 1の発明例 36には、前記 EDXにより、 Cr含有析出物と特定 された(同定された)、 1の矢印で示す黒い点々が存在する。一方、 Crを含まない図 2 の比較例 48には、このような析出物が一切存在して ヽな 、。
[0241] これらの事実から、前記した、本発明における、 Cr含有析出物の作用、効果が裏付 けられる。即ち、溶体化処理温度が高温になっても、 Cr含有析出物は、固溶しきらず
に、組織中に析出物として存在 (残存)し、結晶粒成長抑制のピン止め効果を発揮す る特異な性質を有する。し力も、この Cr含有析出物の結晶粒成長抑制のピン止め効 果は、 Cr乃至 Cr含有析出物を含有しない、通常の(従来の) Ni Si系析出物のみの
2
ピン止め効果に比して著しく大き!/、。
[0242] また、この Cr含有析出物のピン止め効果の大きさ力 50〜200nmのサイズの析出 物に含まれる Crの平均原子濃度や、このサイズの析出物の数密度によって大きく左 右されることも裏付けられる。
[0243] したがって、以上の結果から、高強度、高導電率化させた上で、曲げ加工性にも優 れさせるための、本発明銅合金板の成分組成、組織、更には、組織を得るための好 ま 、製造条件の意義が裏付けられる。
[0244] [表 5]
〔0245
[0246] つづ ヽて、本発明の実施例 3を説明する。 Cu合金組成と製造方法、特に溶体化処 理条件を変えて、 Cu合金組織中の析出物内の Ti平均原子濃度などを種々変えて、 得られた Cu合金薄板の平均結晶粒径を変化させ、強度、導電率、曲げ性などの特 性を各々評価した。
[0247] 具体的には、下記表 7に示す化学成分組成の銅合金を、それぞれクリプトル炉にお いて大気中で木炭被覆下で溶解し、铸鉄製ブックモールドに铸造し、厚さが 50mm
、幅が 75mm、長さが 180mmの铸塊を得た。そして、铸塊の表面を面削した後、 95 0°Cの温度で厚さが 20mmになるまで熱間圧延し、 750°C以上の熱間圧延終了温度 力も水中に急冷した。次に、酸化スケールを除去した後、一次冷間圧延を行い、厚さ が 0. 25mmの板を得た。
[0248] 続いて、塩浴炉を使用し、表 8に示すように、昇温、冷却条件を種々変えて溶体ィ匕 処理を行なった。なお、溶体ィ匕温度における板の保持時間は共通して 30秒間とした 。次に、仕上げ冷間圧延により、各々厚さが 0. 20mmの冷延板にした。この冷延板 を 450°C X 4hの人工時効硬化処理して最終の銅合金板を得た。
[0249] このようにして製造した銅合金板に対して、各例とも、上記最終銅合金板から切り出 した試料を使用して、組織調査と、引張試験による強度 (0. 2%耐カ)測定、導電率 測定、曲げ性試験及び評価を実施した。これらの結果を表 8に示す。
[0250] ここで、表 7に示す各銅合金とも、記載元素量を除!、た残部組成は Cuであり、表 7 に記載以外の他の元素として、 Mn、 Ca、 Ag、 Cd、 Be、 Au、 Pt、 S、 Pb、 Pなどの不 純物元素は総量で 0. 5%以下であった。この他、 Hf、 Th、 Li、 Na、 K、 Sr、 Pd、 W、 Nb、 Al、 V、 Y、 Mo、 In、 Ga、 Ge、 As、 Sb、 Biゝ Te、 B、 C、ミッシュメタル等の元素 もこれらの総量で 0. 1%以下であった。
[0251] (組織調査)
銅合金板試料の組織調査は、 50〜 200nmのサイズの析出物に含まれる Tiの平均 原子濃度(at%)、同じく 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる Tiと Siとの平均 原子数比 TiZSi、同じく 50〜200nmのサイズの析出物の平均数密度(個 Z w m2)を 、各々前記した方法により測定した。
[0252] また、銅合金試料組織の、結晶粒の数を n、それぞれの測定した結晶粒径を Xとし た時に、(Σ χ) Ζηで表される平均結晶粒径(/z m)を、前記した電界放出型走査電 子顕微鏡に後方散乱電子回折像システムを搭載した結晶方位解析法により測定し た。具体的には、製品銅合金の圧延面表面を機械研磨し、更に、パフ研磨に次いで 電解研磨して、表面を調整した試料を用意した。その後、日本電子社製 FESEM0EO L JSM 5410)を用いて、 EBSPによる結晶方位測定並びに結晶粒径測定を行った。 測定領域は 300 m X 300 mの領域であり、測定ステップ間隔 0.5 μ mとした。 EB
SP測定'解析システムは、 EBSP :TSL社製(OIM)を用いた。
[0253] (引張試験)
引張試験は、試験片の長手方向を圧延方向とし^ JIS13号 B試験片を用いて、 58 82型インストロン社製万能試験機により、室温、試験速度 10. Omm/min, GL = 5 Ommの条件で、 0. 2%耐カ (MPa)を測定した。同一条件の試験片を 3本試験し、そ れらの平均値を採用した。
[0254] (導電率測定)
導電率は、試験片の長手方向を圧延方向として、ミーリングにより、幅 10mm X長さ 3 00mmの短冊状の試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗 を測定して、平均断面積法により算出した。同一条件の試験片を 3本試験し、それら の平均値を採用した。
[0255] (曲げ加工性の評価試験)
銅合金板試料の曲げ試験は、日本伸銅協会技術標準に従って行った。板材を幅 1 Omm、長さ 30mm〖こ切出し、 lOOOkgfの荷重をかけて曲げ半径 0. 15mmで Good Way (曲げ軸が圧延方向に直角)の曲げを行 、、曲げ部における割れの有無を 50倍 の光学顕微鏡で目視観察した。この際に、割れの無いものを〇、割れが生じたものを Xと評価した。この曲げ試験に優れていれば、前記密着曲げあるいはノッチング後の 90° 曲げなどの厳し ヽ曲げカ卩ェ性にも優れて 、ると言える。
[0256] 表 8から明らかな通り、本発明組成内の銅合金である発明例 62〜72は、溶体化処理 が好まし!/、条件範囲内で行なわれて、製品銅合金板を得て ヽる。
[0257] このため、発明例 62〜72の組織は、前記各測定方法による、 50〜200nmのサイ ズの析出物の数密度が平均で 0. 2〜20個 Z w m2の範囲であり、この範囲のサイズ の析出物に含まれる Tiの平均原子濃度が 0. l〜50at%の範囲であり、平均結晶粒 径が 20 m以下である。また、 50〜200nmのサイズの析出物に含まれる Tiと Siとの 原子数比 TiZSiが平均で 0. 01〜10である。
[0258] この結果、発明例 62〜72は、 0. 2%耐力が 800MPa以上、導電率力 0%IACS 以上の高強度、高導電率であって、かつ、曲げカ卩工性に優れている。
[0259] これに対して、比較例 73〜80の銅合金は、表 7の通り、成分組成が本発明範囲か
ら外れている。このため、溶体化処理 (製造方法)は好ましい条件範囲内で行なわれ ているにもかかわらず、曲げカ卩ェ性が共通して劣り、強度や導電率も低くなつている
[0260] 比較例 73の銅合金は Tiを含有していない。このため、 50〜200nmのサイズの析 出物 (数密度)が少なぐ平均結晶粒径が 20 /z mを越えて粗大化している。このため
、曲げ加工性とともに、強度が低い。
[0261] 比較例 74の銅合金は、 Tiの含有量が上限を高めに外れている。このため、析出物 が粗大になり、曲げ加工性が劣るとともに、析出物に含まれる Tiの原子濃度や TiZS iが高くなりすぎ、導電率が低い。
[0262] 比較例 75の銅合金は、 Niの含有量が上限を高めに外れている。このため、曲げカロ ェ性とともに、導電率が著しく低い。
[0263] 比較例 76の銅合金は、 Niの含有量が下限を低めに外れている。このため、 50〜2
OOnmのサイズの析出物 (数密度)が少なぐ平均結晶粒径が 20 mを越えて粗大 化している。この結果、曲げカ卩ェ性とともに、強度が著しく低い。
[0264] 比較例 77の銅合金は、 Siの含有量が上限を高めに外れている。このため、 50〜2
OOnmのサイズの析出物に含まれる TiZSiが低くなりすぎ、平均結晶粒径が 20 μ m を越えて粗大化している。この結果、曲げ加工性とともに、導電率が著しく低い。
[0265] 比較例 78の銅合金は、 Siの含有量が下限を低めに外れている。このため、 50〜2
OOnmのサイズの析出物の数密度が少な過ぎ、このサイズの析出物に含まれる TiZ
Siが高くなりすぎ、平均結晶粒径が 20 mを越えて粗大化している。この結果、曲げ 加工性とともに、強度が低い。
[0266] 比較例 79の銅合金は、 Zr含有量が多すぎる。このため、平均結晶粒径が 20 μ m を越えて粗大化している。この結果、曲げ加工性とともに、導電率が著しく低い。
[0267] 比較例 80の銅合金は、 Fe、 Co含有量の合計量が多すぎる。このため、平均結晶 粒径が 20 /z mを越えて粗大化している。この結果、曲げカ卩ェ性とともに、導電率が 著しく低い。
[0268] 比較例 81〜86の銅合金は、表 7の例 81〜86の通り、成分組成は本発明範囲内で ある。にもかかわらず、溶体化処理条件 (製造方法)が好ましい条件範囲から外れて
いる。この結果、曲げ加工性が共通して劣り、強度や導電率も低くなつている。
[0269] 比較例 81は溶体化処理における 400°Cまでの平均昇温速度が小さ過ぎる。このた め、結晶粒の成長が促進され、平均結晶粒径が 20 mを越えて粗大化している。こ の結果、曲げ加工性とともに、強度が著しく低い。
[0270] 比較例 82は溶体ィ匕処理における 400°Cまでの平均昇温速度が大き過ぎる。このた め、析出物の数密度が不足して、平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低い。
[0271] 比較例 83は 400°Cから溶体ィ匕温度までの平均昇温速度が小さ過ぎる。このため、 平均結晶粒径が大きくなり、曲げ加工性が低い。
[0272] 比較例 84は溶体化処理温度が低過ぎる。このため、溶体化が不十分となり、強度 が低ぐ曲げ性が低い。
[0273] 比較例 85は溶体化処理温度が高過ぎる。このため、 50〜200nmのサイズの析出 物の数密度が少な過ぎ、平均結晶粒径が 20 /z mを越えて粗大化している。この結 果、曲げ加工性及び強度が低い。
[0274] 比較例 86は、溶体化処理後の平均冷却速度が小さ過ぎる。このため、結晶粒の成 長が促進され、平均結晶粒径が大きぐ曲げ加工性が低い。また、強度も低い。
[0275] 図 3に発明例 62、図 4に比較例 73の各銅合金板であって、前記各 900°Cの溶体ィ匕 処理後で、前記各仕上げ冷間圧延前の板の組織の 50000倍の TEM (走査型電子 顕微鏡)写真を示す。図 3の発明例 62には、前記 EDXにより、 Ti含有析出物と特定 された(同定された)黒い点々が存在する。一方、 Tiを含まない図 4の比較例 73には 、このような析出物が一切存在していない。
[0276] これらの事実から、前記した、本発明における、 Ti含有析出物の作用、効果が裏付 けられる。即ち、溶体化処理温度が高温になっても、 Ti含有析出物は、固溶しきらず に、組織中に析出物として存在 (残存)し、結晶粒成長抑制のピン止め効果を発揮す る特異な性質を有する。し力も、この Ti含有析出物の結晶粒成長抑制のピン止め効 果は、 Ti乃至 Ti含有析出物を含有しない、通常の(従来の) Ni Si系析出物のみの
2
ピン止め効果に比して著しく大き!/、。
[0277] また、この Ti含有析出物のピン止め効果の大きさ力 50〜200nmのサイズの析出 物に含まれる Tiの平均原子濃度や、このサイズの析出物の数密度によって大きく左
右されることも裏付けられる。
[0278] したがって、以上の結果から、高強度、高導電率ィ匕させた上で、曲げ加工性にも優 れさせるための、本発明銅合金板の成分組成、組織、更には、組織を得るための好 まし 、製造条件の意義が裏付けられる。
[0279] [表 7]
[0280] [表 8]
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れる ことなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。 なお、本出顔は、 2006年 5月 26曰付けで出願された日本特許出願 (特願 2006— 147088) 2006年 9月 22曰付けで出願された曰本特許出願(特願 2006— 25753
4)及び 2006年 9月 22日付けで出願された日本特許出願 (特願 2006— 257535) に基づいており、その全体が引用により援用される。
また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
産業上の利用可能性
以上説明したように、本発明によれば、高強度化、高導電率化とともに、優れた曲 げ加工性を兼備した銅合金を提供することができる。この結果、小型化及び軽量化し た電気電子部品用として、半導体装置用リードフレーム以外にも、リードフレーム、コ ネクタ、端子、スィッチ、リレーなどの、高強度高導電率化と、厳しい曲げ加工性が要 求される用途に適用することができる。