JP2006089763A - 銅合金およびその製造法 - Google Patents

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Abstract

【課題】導電率、強度、加工性を同時に改善した通電部品に好適な銅合金材料を提供する。
【解決手段】導電率50%IACS以上、引張強さ700MPa以上、伸び5%以上の銅合金が提供される。その金属組織は平均粒径が1μm以下で、3μm未満の結晶粒が面積率で90%以上を占めるものである。このような組織状態は、時効処理した銅合金に対し、[1] 温間加工して平均結晶粒径1μm以下の微細結晶粒組織とする工程、[2] 再結晶温度未満の温度域で加熱処理する工程、を施すことによって得られる。好ましい合金組成としては、質量%で、Ni:0.4〜4.8%、Si:0.1〜1.2%であり、あるいは更にMg:0.01〜0.3%であり、上記元素とCuを除く元素の合計が0〜3%、残部Cuからなる組成が挙げられる。
【選択図】図1

Description

本発明は、コネクター、リードフレーム、リレー、スイッチなど、電気・電子機器の通電部品に適した銅合金であって、導電性、強度、加工性を同時に改善したものに関する。
電気・電子部品を構成するコネクター、リードフレーム、リレー、スイッチ等の通電部品には、通電によるジュール熱の発生を抑制するために良好な「導電性」が要求されると同時に、電気・電子機器の組立時や作動時に付与される応力に耐え得る「強度」が要求される。また、これらの通電部品は通常、板素材に曲げ加工等の成形加工を施して作製されるので、十分な「加工性」をも具備する必要がある。
導電性に関しては、40〜45%IACS、あるいはそれ以上の良好な導電率が望まれ、そのような材料も実用化されているが、近年、電気・電子部品の高集積化が進み、電気信号の大電流化、高周波化に対応するために、導電率向上への要求がますます高まっている。具体的には50%IACS以上の優れた導電性の実現が強く望まれている。
また、電気・電子部品の小型化、薄肉化に伴い、強度向上についての要求も一層厳しくなっている。具体的には引張強さ700MPaを十分クリアする高レベルの強度が望まれている。
さらに、電気・電子部品の小型化に対応するには当該部品の設計自由度を拡大することが極めて有利であり、そのためには加工性の向上が不可欠である。破断伸びの値で少なくとも5%をクリアすることが望まれ、特に8%以上、あるいは10%以上の伸びを呈するものが特に好ましい。リードフレームの材料では曲げ加工性に優れることも重要となる。
しかし、「強度」と「加工性」、あるいは「強度」と「導電性」の間にはトレードオフ関係があり、通常、これらの特性を同時に高めることは容易ではない。
銅合金の導電性を高レベルに維持しながら高強度化するには、析出強化を利用することが有利であり、従来からCu−Cr(−Zr)系、Cu−Fe−P系、Cu−Mg−P系、Cu−Ni−Si系などの析出強化型合金が実用化されている。中でも、Cu−Ni−Si合金(いわゆるコルソン合金)は強度と導電率のバランスに優れた合金として近年来注目されており、Cu−Ni−Si合金にSn、Zn、Mg、P、B、Fe、Mn、Cr、Co、Ti、Alなどを単独または複合で添加した改良合金が種々提案されている。
しかしながら、Cu−Ni−Si合金は、通常の溶体化処理、冷間圧延、時効処理による製造工程をとった場合、700MPa程度の高い引張強さを得ようとすると導電率は30〜40%IACSのレベルに落ち、逆に、導電率を50%IACS以上に引き上げようとすると引張強さは650MPa以下に落ちてしまう。時効処理後に更に冷間圧延と低温焼鈍を施すと、引張強さは向上できるものの、加工性(特に圧延方向に対し直角方向の曲げ加工性)が悪くなるのが一般である。
Cu−Ni−Si系合金の導電性と強度を同時に改善する手法として、特許文献1には多回時効処理法が、また特許文献2には冷間圧延と時効処理を繰り返す方法が開示されている。ただし、加工性をも同時に改善することについては配慮されていない。
銅合金の強化機構として、固溶強化、析出強化、加工硬化、細粒強化(粒界強化)が挙げられる。固溶強化と加工硬化はそれぞれ導電性と加工性の低下を招いやすい。析出強化では時効時間の経過に伴って強度が増大し、あるピーク点を過ぎたのち単調に低下する(すなわち過時効状態になる)。Cu−Ni−Si系合金の場合、ピーク強度時の導電率は、ほかの添加元素の影響もあるが、通常30〜40%IACS程度である。すなわち、析出強化によって、高い導電率(例えば50%IACS以上)を保ちながら高強度化(例えば700MPa以上)を達成するのは実際上不可能である。
これに対し、結晶粒微細化による細粒強化(粒界強化)を利用すれば、導電率を損なうことなく強度向上でき、かつ加工性の向上にもつながることが期待される。しかし、通常の加工熱処理法(冷間圧延+再結晶焼鈍)による結晶粒微細化手法では、銅および銅合金の場合、一般に数μm程度の結晶粒径に微細化するのが限界である。これでは強度の改善、あるいは加工性の改善が不十分となる。
近年来、強加工による結晶粒微細化の研究は極めて精力的に行われる一分野となった。強加工により結晶粒径を1μm以下、すなわちナノメートルオーダーまで微細化(超微細化)することにより、金属材料の強度・靱性・耐食性などが飛躍的に向上することは、既に知られている(例えば非特許文献1参照)。
強加工により結晶粒径を1μm以下に超微細化する基本メカニズムは以下のように説明される。すなわち、強変形により大量転位を導入し、転位の相互もつれによって転位セルを形成させる。導入された転位の密度が高いほど、転位セルのサイズは小さくなる。動的回復によって転位セルが亜結晶粒(subgrain)へと変化しながら、亜結晶粒間の方位差が増大する。方位差が約15°以上になったら、亜結晶粒はその場(in site)で結晶粒になる。
この場合、再結晶粒は亜結晶粒の方位差の連続増加によって生成するので、このような再結晶の現象は「連続再結晶」と呼ばれる。この再結晶粒は亜結晶粒と同等なサイズを有し、1μm以下の微細化が可能となる。
これに対し、冷間圧延後の再結晶焼鈍などで生じる通常の再結晶のメカニズムでは、亜結晶粒がそれ自体を核として成長し、成長に伴って方位差を有する再結晶粒になるので、この再結晶の現象は「不連続再結晶」と呼ばれる。この場合、再結晶粒は亜結晶粒の少なくとも数倍以上のサイズを有し、実質的には2〜3μm程度まで細粒化するのが限界とされる。
なお、本明細書では単に「再結晶」というときは通常の「不連続再結晶」のことを意味する。
特許文献3には、95%以上の圧下率での冷間強圧延によって1μm以下の微細結晶粒径とし、強度を向上させる方法が提案されている。この方法に従うと、Cu−Ni−Si系合金の場合、導電率50%IACS弱のもので引張強さ800MPa以上の強度が得られている。
特開平10−152737号公報 特開平7−41887号公報 特開2002−356728号公報 「塑性と加工」、44(2003)、18
前述のように、導電性、強度、加工性を同時に改善するには、結晶粒の超微細化を利用することが有効であると考えられる。しかし、今まで提案された強加工による結晶粒微細化方法(例えば非特許文献1)は主に強度向上を目的としており、導電性と加工性の改善については配慮されていない。特許文献3の冷間強加工による超微細化手法では、強度、導電性と曲げ加工性を同時に高レベルに改善することが出来ていない。具体的には、Cu−Ni−Si系合金の場合、引張強さが700MPa以上のものでは、導電率が50%IACSを超えておらず、曲げ加工性も十分に改善されていない。
冷間強圧延過程中には、大量の転位と空孔が導入され、導電率の低下を招いてしまう。また、冷間強圧延後の材料は動的回復が不十分なので、超微細粒が形成してもその粒界に多くのひずみを有する未整理な構造となる。すなわち、冷間強圧延を受けたままの材料は(曲げ)加工性が十分に改善されず、また、高度の非平衡状態である粒界をもつため、熱的安定性が低い。このため、延性付与のための焼鈍を施す場合、焼鈍温度が低いと粒界の回復が不十分で良好な延性が得られず、逆に焼鈍温度が高いと通常の不連続再結晶が発生しやすく、一部の結晶粒が急激に粗大化して強度低下を招いてしまう。つまり、焼鈍条件の管理が非常に厳しく、少しでも適正範囲から逸脱すると結晶粒が混粒となって特性が劣化する。
さらに、このような冷間での強加工を必要とする微細化手法には種々の問題が付随する。例えば、冷間圧延変形で1μm以下に超微細化する場合、少なくとも95%以上の圧下率は必要であると思われ、設備の負荷および材料の冷間加工性の面での制約が大きい。
本発明は、以上のような問題に鑑み、今後更なる小型化、薄肉化の進展が予想されるコネクター、リードフレーム、リレー、スイッチ等の導電部品に好適な、導電性、強度、加工性を同時に安定的に改善した銅合金を開発し提供しようというものである。
発明者らは、種々の銅合金を用い、より熱的に安定な超微細結晶粒組織をできるだけ小さい圧延率で達成する効率的な手法について、詳細な検討を重ねてきた。その結果、析出型銅合金を用いて、その析出温度域で温間加工を行うことにより、非常に均質な超微細結晶粒組織が比較的容易に実現できることを見出した。析出物の生成する環境で温間加工すると、不連続再結晶が生じない状況下で、転位の導入と動的連続再結晶を同時に起こすことが可能になる。このとき、ひずみが均一に分布しやすいので、超微細結晶粒が非常に均一に形成されるのである。また、時効析出温度で加工することにより、析出が促進されながら析出物の成長が抑制され、これが導電率と強度の同時向上に有利に働く。さらに、次工程で、この超微細結晶粒組織を再結晶温度未満の温度域に加熱すると、超微細粒界の形成に寄与しない残留転位を除去することができ、また析出が更に進み、結果的に導電性、強度、加工性の3者がともに改善された組織状態が実現される。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明では、平均結晶粒径が1μm以下、かつ粒径3μm未満の結晶粒が占める面積率が90%以上の銅合金を提供する。特にCuマトリックス中に析出物が存在する金属組織が好適である。この金属組織は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することによって確認できる。
導電率50%IACS以上、引張強さ700MPa以上、伸び5%以上を呈する新規な銅合金が提供され、特に圧延を経た板材が好適な対象となる。中でも、導電率52%IACS以上、引張強さ700MPa以上、伸び8%以上あるいは更に10%以上といった優れた特性を具備するものが提供可能である。
ここで、引張強さと伸びは、圧延方向に対し平行方向の試験片を用いた引張試験で求まる値が採用される。伸びは「破断伸び」である。
また当該金属組織は、温間加工を施すことによって得られた組織状態、あるいは温間圧延と更に再結晶温度未満の温度域での加熱処理によって得られた組織状態を呈する。この組織状態は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)または電子後方散乱回折像(EBSP)で確認できる。
温間加工は、再結晶温度未満の温度域に加熱して行う加工であり、冷間加工より高温、熱間加工より低温である点でそれらの加工と区別される。
本発明の対象となる好ましい合金系として、Cu−Ni−Si系合金(すなわち、NiとSiを添加した時効析出型のCu基合金)が挙げられる。具体的な組成としては、質量%で、Ni:0.4〜4.8%、Si:0.1〜1.2%であり、あるいは更にMg:0.01〜0.3%であり、上記元素(Ni、Siあるいは更にMg)とCuを除く元素の合計が0〜3%、残部Cuからなる組成が挙げられる。Sn、Zn、Co、Cr、P、B、Al、Fe、Zr、Ti、Mnの1種以上を合計3%以下の範囲で含有してもよい。
前記の「0〜3%」における「0%」は、上記元素の合計含有量が一般的な銅合金の分析手法で測定限界以下となる場合である。
以上の銅合金は、導電性、強度、加工性を一挙に改善したものであるが、これは例えば次のような方法で製造できる。すなわち、時効処理した銅合金であって、好ましくは平均結晶粒径が15μm以下に調整された銅合金に対し、
[1] 温間加工して平均結晶粒径1μm以下の結晶粒組織とする工程、
あるいは更に、
[2] 次いで、再結晶温度未満の温度域で加熱処理する工程、
を施す製造法が提供される。
前記[1]の温間加工は、当該合金の析出物生成温度域での加工を含むものであることが好ましい。
具体的な合金組成との組み合わせでは、例えば、質量%で、Ni:0.4〜4.8%、Si:0.1〜1.2%であり、あるいは更にMg:0.01〜0.3%であり、上記元素(Ni、Siあるいは更にMg)とCuを除く元素の合計が0〜3%、残部Cuからなる組成の場合、前記[1]の温間加工は温度80〜600℃、加工率70〜95%(温間圧延の場合は圧延率70〜95%)とし、前記[2]の加熱処理は温度300〜500℃、保持時間30秒〜8時間とする条件が採用できる。
本発明によれば、導電率50%IACS以上、引張強さ700MPa以上、伸び5%以上を呈する銅合金が提供可能になった。特に、導電率52%IACS以上、引張強さ700MPa以上、伸び8%以上あるいは更に10%以上といった優れた特性を呈するものも提供できる。このような特性を兼ね備えた銅合金は従来実現困難であった新規なものである。しかも、この銅合金は冷間強圧延に頼ることなく、温間圧延を利用して製造できるので、設備負担が軽減されて実施化が比較的容易である。また、得られた銅合金材料は、熱的に安定なものとなる。
したがって本発明は、コネクター、リードフレーム、リレー、スイッチなどの通電部品材料として、今後ますます進展が予想される小型化、薄肉化のニーズに対応し得るものである。
本発明では、前述のように平均結晶粒径1μm以下の超微細結晶粒組織を実現することにより、銅合金の導電性、強度、加工性を一挙に改善する。従来から結晶粒径を1μm以下に調整した銅合金は存在していた(特許文献3)。しかし、本発明の銅合金が有する金属組織は、熱的により安定で、整粒化の度合い(均一性)に優れるものである。結晶粒を均一化することにより、優れた強度と導電性に加えて、曲げ加工性の改善を行うことができる。その好ましい例として、平均結晶粒径が1μm以下、かつ粒径3μm未満の結晶粒が面積率で90%以上好ましくは95%以上を占める金属組織が挙げられる。また、Cuマトリックス中に析出物が分散して存在する組織状態であることが望ましい。
本発明の銅合金の場合、従来の超微細結晶粒の銅合金では両立できなかった高レベルの「強度」と「加工性」が現実に得られている(後述実施例参照)。したがって、本発明の銅合金は前記従来の銅合金と明らかに異なる組織状態を有するものである。
このような本発明合金の金属組織状態は、温間圧延とその後の低温熱処理によって得ることができるものであり、冷間強圧延による従来のものとは微細化の機構が大きく相違する。すなわち本発明の超微細結晶粒組織は、析出型銅合金を用いて、その結晶粒径を15μm以下好ましくは5〜10μm程度に微細に調整した後、時効処理を施し、次いで析出温度域で温間圧延を行う方法で形成される。析出物などの第2相粒子が存在する状態で加工すると転位の導入が容易になり、より低い加工率で高い転位密度が得られる。そして、冷間ではなく温間で加工することにより転位の導入と動的回復が同時に起きること、および、第2相粒子の周囲で母相の回転が起きること、に起因して粒界が形成されやすくなり、超微細結晶粒の生成が容易になる。また微細な析出物は粒界の熱的不安定の防止にも寄与すると考えられる。
また、温間圧延に供する出発材料の結晶粒径が小さいほど、同等変形量で導入される転位の密度が高くなり、ひずみが均一分布しやすいので、超微細結晶粒組織の均一化に有利となる。
さらに、時効析出温度域で加工することにより析出が促進されながら析出物の成長が抑制され、導電率と強度の同時向上に有利に働く。
このような微細化の機構を利用して平均結晶粒径1μm以下の超微細結晶粒組織を得ると、導電率50%IACS以上、引張強さ700MPa以上、伸び5%以上を呈する銅合金が安定して実現できる。特に、導電率52.5%IACS以上あるいは更に55%IACS以上、引張強さ700MPa以上あるいは更に750MPa以上、伸び8%以上あるいは更に10%以上といった高レベルの特性を具備するものも実現可能である。このような優れた特性は、従来よりも更に小型化、薄肉化を狙った通電部品に極めて好適である。
本発明に適した銅合金の例としてCu−Ni−Si系が挙げられる。その成分元素について説明する。
NiとSiを複合添加すると、NiとSiの化合物を主体とする析出物(以下「Ni−Si系析出物」という)の析出に伴ってNiとSiの固溶量が減少し、高導電率を保ちながら強度を向上する上で有利となる。特に、Ni−Si系析出物の析出温度域での温間加工と、Ni−Si系析出物(温間加工前に析出したものおよび温間加工中に新たに析出したものを含む)との相互作用の結果、析出物は温間加工によって導入される転位の密度を増大させ、超微細結晶粒の形成を促進させる一方で、析出過程における加工は析出物を更に十分生成させながら粗大化を防止する効果を発揮する。すなわちNiとSiの複合添加は、温間加工との組み合わせによって、強度および導電率の一層の向上と、結晶粒の超微細化による加工性(例えば曲げ加工性)の向上をもたらす。
Ni含有量が0.4質量%未満、またはSi含有量が0.1質量%未満では、上記効果を有効に引き出すことが難しい。他方、Ni含有量が4.8質量%を超えるか、またはSi含有量が1.2質量%を超えると、導電率が低下するとともに(析出物が粗大化しやすいので)強度も低下しやすく、また、温間加工性が低下する。このため、Ni含有量は0.4〜4.8質量%、Si含有量は0.1〜1.2質量%とすることが望ましい。より好ましいNi含有量は1.0〜3.5質量%、より好ましいSi含有量は0.2〜0.8質量%である。
また、NiとSiの質量比(Ni/Si)は3.5〜6.0の範囲内とすることが望ましい。この範囲を外れると、Ni−Si系析出物の形成に利用されなかったNiあるいはSiの固溶量が多くなり、導電率が低下することがある。
Mgは、Ni−Si系析出物の粗大化を防止する作用を有する。また、耐応力緩和性を向上させる作用も有する。これらの作用を十分に発揮させるには、0.01質量%以上のMg含有量を確保することが望ましい。ただし、Mg含有量が0.3質量%を超えると、鋳造性、熱間加工性が著しく低下し、また、コスト的にも不利である。このため、Mgを添加する場合は0.3質量%以下の範囲で行うべきである。
Ni、Si以外の残部、あるいはNi、Si、Mg以外の残部はCuと不可避的不純物で構成すればよい。ただし、必要に応じてその他の合金元素を添加してもよい。例えば、Sn、Zn、Co、Cr、P、B、Al、Fe、Zr、Ti、Mnは、合金強度をさらに高め、かつ応力緩和を小さくする作用を有する。また、温間加工性を向上させ、超微細粒の形成を一層促進させる。Co、Cr、B、Zr、Ti、Mnは不可避的不純物として存在するS、Pbなどと高融点化合物を形成しやすく、熱間加工性の改善に寄与しうる。SnとZnは冷間加工性を向上する作用を有する。
これらの元素の1種または2種以上を添加する場合は、その作用を十分に得るために総量が0.01質量%以上となるように添加することが望ましい。ただし、総量が3質量%を超えると、熱間、温間または冷間加工性が低下する場合がある。また、経済的にも不利になる。したがって、その総量は3質量%以下の範囲とすることが望ましく、2質量%以下の範囲がより好ましく、1質量%以下の範囲がより一層好ましく、0.5質量%以下の範囲がさらに一層好ましい。
次に、本発明の銅合金の製造方法を例示する。
銅合金の溶製は常法で行うことができる。例えば、原料溶解時の雰囲気は大気雰囲気でよい。ただし不活性ガスでシ−ルした方が酸化防止の面から好ましい。鋳造は、連続鋳造で行うことができ、その連鋳方式は縦型でも横型でも構わない。Cu−Ni−Si系合金の場合、液相線温度から300℃まで温度域を50℃/分以上の冷却速度で冷却することが望ましい。冷却速度が50℃/分未満では、NiとSiの化合物が生じて粗大化し易く、その後の熱間加工性を悪化させ、歩留まりの低下を引き起こす。300℃未満の温度域では、前記化合物の粗大化はほとんど問題にならないので、特に冷却速度を制限する必要はない。
得られた鋳片は熱間加工に供する。熱間加工後の結晶粒径が35μm以下、好ましくは15μm以下になるように、加工条件を設定することが好ましい。熱間加工後の結晶粒径が大きくなると、その後の冷間加工率や熱処理条件の管理幅が狭くなり、少しでも逸脱すると結晶粒が混粒になり易く、特性が劣化するからである。以下、Cu−Ni−Si系合金を熱間圧延する場合を例にとると、700未満の温度域では粗大なNiとSiの化合物の生成による熱間割れが生じやすくなるので、950℃〜700℃の温度範囲で熱間圧延を行い、最終パス終了後に水冷することが好ましい。熱延パススケジュールを設定する際、2〜3パス目で十分に動的再結晶が生じるように配慮することが望ましい。これにより、鋳造時のミクロな偏析および鋳造組織の消失が促進され、最終的により均質な組織状態を得ることができる。熱延1パス目の圧下率は5〜30%とするのがよい。30%を超えると鋳造結晶粒界に沿って割れが発生し易い。5%未満であると動的再結晶またはパス間での静的再結晶が発生し難く、2パス目の圧延時に熱間割れが発生し易くなる。特に、1パス目の圧下率を10〜20%とし、2パス目を5〜40%とすることが好ましい。また、最終パスの圧下率はできるだけ大きくとることが好ましく、例えば25%以上とするのが良い。このような圧下配分により、熱間圧延後の結晶粒径を35μm以下、あるいは更に15μm以下に制御することができる。
熱間加工後には必要に応じて表面を面削する。その後、40%以上好ましくは80%以上の加工率で冷間加工する。対象が板材の場合は冷間圧延率を40%以上好ましくは80%以上とする。冷間加工率が低いと次工程の溶体化処理後に15μm以下の微細結晶粒を得ることが難しくなる。
次いで、溶体化処理に供し、平均結晶粒径15μm以下、好ましくは10μm以下の組織状態とする。溶体化処理後の結晶粒径は、後工程の時効処理終了までほとんど変わらないので、この段階でできるだけ微細化を図っておくことが最終的に超微細粒を得る上で有利となる。溶体化処理温度が低すぎると再結晶が発生しないか、部分的な発生となるので、均一な再結晶組織が得られない。一方、溶体化温度が高すぎると短時間で結晶粒が粗大化してしまうので注意を要する。Cu−Ni−Si系合金の場合、650〜950℃の温度域で30秒〜1時間の溶体化処理を行い、その後水冷することが好ましい。650℃未満では、均一な再結晶組織が得られない不都合の他、Cuマトリックス中へのNiとSiの固溶量が少なくなり、次の時効処理で微細なNi−Si系析出物を十分生成させることが難しくなる。
溶体化処理後、10〜50%加工率での冷間加工を行う。これにより、次工程の時効処理で析出物の生成が促進される。対象が板材の場合は冷間圧延率を10〜50%とする。加工率が10%未満では析出の促進効果が少なく、50%を超えると析出物は変形帯、せん断帯などで優先的に生成するため、不均一に分布しやすい。
次いで、時効処理を行う。時効処理後に導電率が35%IACS〜50%IACSの範囲になるように、時効条件を設定することが好ましい。導電率が35%IACS未満では析出物の生成量が不十分であり、次工程の温間加工で超微細粒組織の形成が十分促進されない場合がある。逆に50%IACSを超えると析出物の粗大化によって温間加工中に割れが発生しやすい。Cu−Ni−Si系合金の場合、時効温度は350〜550℃、時効時間は0.5〜12時間程度とするのがよい。
続いて、温間加工を行う。温間加工は、再結晶温度未満の温度範囲に加熱して行う加工である。本発明においては、特に、時効析出物の生成温度域を含んだ温度範囲で温間加工することが効果的である。この過程で、熱的に安定な超微細粒組織を得るわけであるが、その組織形成の機構およびその組織の作用効果については先に説明した通りである。温間加工率は70〜95%とすることが好ましい。対象が板材の場合は70〜95%の圧下率で温間圧延すればよい。温間加工率が70%未満では超微細粒の形成が不十分となりやすく、良好な加工性(例えば曲げ加工性)が得られにくい。逆に95%を超えると設備の負荷が厳しく、生産性は低下する。
Cu−Ni−Si系合金を温間圧延する場合は、80〜600℃の温度範囲で行うのがよい。80℃未満では圧延中の動的回復が不十分であり、超微細粒形成の促進効果が小さくなる。一方、600℃を超えると、通常の不連続再結晶の発生により結晶粒が粗大化しやすく、また、粗大なNiとSiの化合物の生成による割れが生じやすい。なかでも300〜550℃の時効析出温度域での圧下を全圧延パス中に含めると効果的である。それにより動的回復が十分に発生することで超微細粒の形成が促進されるとともに、析出物の形成も促進され、導電率と強度の同時向上に有利に働く。全ての温間圧延パスを300〜550℃で行うことが一層好ましい。
最後に、再結晶温度未満の温度域で加熱処理(低温焼鈍)を実施する。この加熱処理によって超微細粒界の形成に寄与しない残留転位を除去することができ、導電性、強度および加工性を更に向上させることができる。Cu−Ni−Si系合金の場合、300〜500℃の温度範囲で加熱すればよい。300℃未満では結晶粒界の制御に要する時間が長くなって不経済であり、500℃を超えると短時間で軟化し、バッチ式でも連続式でも特性のバラツキが発生し易くなる。加熱時間は少なくとも30秒以上を確保すべきであるが、あまり長時間の加熱は不経済であり、通常8時間以内で十分である。
表1に示す銅合金を溶製し、縦型の小型連続鋳造機を用いて鋳造した。鋳片の断面寸法は35×70mmである。
各鋳片を900℃に加熱し、900〜700℃の温度範囲で厚さ8〜12mmに熱間圧延し、その後急冷した。熱延後の結晶粒径はいずれも35μm以下であった。
次いで、冷間圧延にて板厚3.0〜4.3mmとし、一部の比較例を除き700〜850℃×10分の溶体化処理を施した後急冷して、平均結晶粒径が約10μm前後のほぼ均一な組織を有する材料を得た。この溶体化処理後の材料から金属組織観察用試料を採取した。
続いて、冷間圧延にて板厚2.0〜3.0mmとし、その後、450℃で時効処理を行った。各組成の合金で時効処理後の導電率が40〜45%IACSになるように時効時間を調整した。この時効処理後の材料から導電率測定用の試料を採取した。
次いで、一部の比較例を除き、350〜500℃の範囲で厚さ0.25mmまで温間圧延を行った。
最後に400℃×1時間の加熱処理(低温焼鈍)を行った。このようにして得られた低温焼鈍材から、金属組織観察用試料、導電率測定用試料、引張試験片、硬度測定用試料、曲げ加工性試験片を採取した。
金属組織観察は、圧延板の板厚方向に垂直な断面について、結晶粒の大きさに応じて光学顕微鏡(倍率100〜400倍)または走査型電子顕微鏡(倍率500〜10000倍)を用いて行った。平均結晶粒径は観察視野でJIS H0501の切断法によって求めた。超微細粒が部分的に形成している場合は、粒径が3μm以上の結晶粒の面積を定量金属組織学の点算法(例えば、「金属便覧」改訂6版、p.264)によって計算して、3μm未満の結晶粒の面積率を下記の式により求めた。
3μm未満の結晶粒の面積率(%)=(観察視野の面積−3μm以上の結晶粒の面積)/(観察視野の面積)×100
導電率の測定は、JIS H0505に従って行った。
引張試験は、圧延方向に対し平行方向の試験片を用いてJIS Z2241に従って行い、引張強さおよび破断伸びを求めた。
硬さの測定は、圧延板表面について、JIS Z2244に従って行い、ビッカース硬さを求めた。
曲げ加工性は、曲げ軸が圧延方向に対し直角方向(G.W.)および平行方向(B.W.)の90°W曲げ試験(JIS H3110に準拠、板厚t=0.25mm、幅W=10mm)を実施し、曲げ部表面および断面を光学顕微鏡にて100倍の倍率で観察することにより、割れが発生しない最小のR/tを求めて評価した。ここでRは内曲げ半径、tは板厚である。この最小のR/tが小さい程、曲げ加工性は良好である。
溶体化処理条件、時効条件、温間圧延条件を表2に示す。また、上記試験結果を表2、表3に示す。
表1〜3から判るように、本発明例の銅合金は導電率50%IACS以上、引張強さ700MPa以上、伸び5%以上を十分にクリアし、曲げ加工性も最小R/tが2.0以下と良好であった。
一方、比較例のNo.21、22はCu−Ni−Si系においてNi含有量が低すぎたため、析出物の量が少なく、温間圧延で超微細化を図ることができなかった。その結果、引張強さ、伸び、曲げ加工性に劣った。No.23はCu−Ni−Si系において逆にNiおよびSi含有量が高すぎたため、析出物の粗大化が起こり、それに伴って一旦生成した超微細粒が成長して通常の不連続再結晶が生じた。その結果、強度および曲げ加工性が悪かった。No.24はNiおよびSi含有量がさらに高すぎたため、温間圧延途中に激しい割れが発生して最終特性の評価ができなかった。
No.25〜27は本発明例No.8の時効処理材を温間圧延しない通常の工程(すなわち時効処理のまま、または時効処理後冷間仕上圧延と歪取焼鈍)で製造したものである。このうちNo.25は時効処理のままの材料であり、導電率が低かった。No.26、27は仕上圧延を温間ではなく冷間で行ったものであり、加工性が悪かった。
No.28〜30は仕上圧延を冷間強圧延で行ったものであるが、3μm未満の結晶粒の占める面積率が約30〜75%程度しかなかった。すなわち、超微細粒が部分的に生成した混粒組織となり、加工性に劣った。また、導電性も低下した。
No.31〜33は本発明例No.8の時効処理材を用いたものであるが、温間圧延率が低かったため、超微細粒の生成が少なく混粒組織となり、加工性あるいはさらに導電性に劣った。
No.34、35は本発明例No.9の素材を用いたものであるが、このうちNo.34は溶体化処理温度が低すぎたため、粗大な析出物を含む圧延組織が残り、その後の温間圧延および低温焼鈍では、析出物の更なる粗大化によって通常の不連続再結晶が発生した。その結果、強度が低かった。No.35は溶体化処理温度が逆に高すぎたため、溶体化処理中に再結晶粒が粗大化し、その後の温間圧延では超微細粒が初期粒界付近のみで生じて混粒組織になった。その結果、導電性と加工性が劣化した。
図1には本発明例No.7と比較例No.29についての金属組織写真(SEM写真)を例示する。これらの写真は、超微細結晶粒をはっきり出現させるために、バフ研磨後に軽い腐食を行った表面を撮影したものである。図1(a)と(b)を対比すると、冷間強圧延により微細化を図った比較例では、温間圧延による本発明例に比べ超微細結晶粒の面積率が低く、組織の均一性に劣ることが判る。
図2には、図1と同じ試料について更に拡大した金属組織写真(SEM写真)を例示する。これらの写真は、析出物をはっきり出現させるために、電解研磨した表面を撮影したものである。図2中、白っぽく見える粒子が析出物である。図2(a)と(b)を対比すると、本発明例のものは、比較例のものより析出物が微細化していることが判る。
本発明例No.7と比較例No.29についての、板厚方向に垂直な断面の金属組織写真(SEM写真)。 図1の試料についての、更に拡大した金属組織写真(SEM写真)。

Claims (14)

  1. 平均結晶粒径が1μm以下であり、かつ粒径3μm未満の結晶粒が占める面積率が90%以上である銅合金。
  2. マトリックス中に析出物が存在する請求項1に記載の銅合金。
  3. 導電率50%IACS以上、引張強さ700MPa以上、伸び5%以上である請求項1または2に記載の銅合金。
  4. 質量%で、Ni:0.4〜4.8%、Si:0.1〜1.2%であり、Ni、Si、Cuを除く元素の合計が0〜3%、残部Cuからなる組成を有する請求項1〜3に記載の銅合金。
  5. 質量%で、Ni:0.4〜4.8%、Si:0.1〜1.2%、Mg:0.01〜0.3%であり、Ni、Si、Mg、Cuを除く元素の合計が0〜3%、残部Cuからなる組成を有する請求項1〜3に記載の銅合金。
  6. Sn、Zn、Co、Cr、P、B、Al、Fe、Zr、Ti、Mnの1種以上を合計3%以下の範囲で含有する請求項5または6に記載の銅合金。
  7. 温間加工して得られた金属組織をもつ請求項1〜6のいずれかに記載の銅合金。
  8. 温間加工した後、再結晶温度未満の温度域で加熱処理してなる金属組織をもつ請求項1〜6のいずれかに記載の銅合金。
  9. 時効処理した銅合金に対し、
    [1] 温間加工して平均結晶粒径1μm以下の結晶粒組織とする工程、
    を施す、導電性、強度、加工性を改善した銅合金の製造法。
  10. 時効処理した銅合金に対し、
    [1] 温間加工して平均結晶粒径1μm以下の結晶粒組織とする工程、
    [2] 再結晶温度未満の温度域で加熱処理する工程、
    を施す、導電性、強度、加工性を改善した銅合金の製造法。
  11. 前記[1]の温間加工が、当該合金の析出物生成温度域での加工を含むものである、請求項9または10に記載の銅合金の製造法。
  12. 前記[1]の工程に供する銅合金の平均結晶粒径が15μm以下である請求項9または10に記載の銅合金の製造法。
  13. 前記時効処理した銅合金が、質量%で、Ni:0.4〜4.8%、Si:0.1〜1.2%であり、Ni、Si、Cuを除く元素の合計が0〜3%、残部Cuからなる組成を有するものであり、前記[1]の温間加工が、80〜600℃で70〜95%の加工を施すものであり、前記[2]の加熱処理が、300〜500℃で30秒〜8時間保持するものである請求項9または10に記載の導電性、強度、加工性を改善した銅合金の製造法。
  14. 前記時効処理した銅合金が、質量%で、Ni:0.4〜4.8%、Si:0.1〜1.2%、Mg:0.01〜0.3%であり、Ni、Si、Mg、Cuを除く元素の合計が0〜3%、残部Cuからなる組成を有するものであり、前記[1]の温間加工が、80〜600℃で70〜95%の加工を施すものであり、前記[2]の加熱処理が、300〜500℃で30秒〜8時間保持するものである請求項9または10に記載の導電性、強度、加工性を改善した銅合金の製造法。
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