JP5867859B2 - 銅合金 - Google Patents

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Description

本発明は高強度、高導電性であり、更に曲げ加工性にも優れた銅合金に関し、詳細には電気・電子部品を構成するコネクター、リードフレーム、リレー、スイッチ、配線、端子などに用いられる各種電気・電子部品用材料として好適な銅合金に関するものである。
近年、電子機器の小型化、及び軽量化の要請に伴い、電気・電子部品の電気系統の複雑化、高集積化が進み、各種電気・電子部品用材料には、薄肉化や複雑な形状の加工に耐え得る特性が求められている。
例えば、電気・電子部品を構成するコネクター、リードフレーム、リレー、スイッチなどの通電部品に使用される電気・電子部品用材料は、小型・薄肉化によって同一の荷重を受ける材料の断面積が小さくなり、通電量に対する材料の断面積も小さくなるため、通電によるジュール熱の発生を抑制するために良好な導電性が要求されると共に、電気・電子機器の組立時や作動時に付与される応力に耐え得る高い強度や、電気・電子部品を曲げ加工しても、破断等が生じない曲げ加工性が要求されている。
電気・電子部品用材料としてCu−Fe−P合金が汎用されているが、高強度化を図るためにSnなどの合金成分を添加すると、導電性が低下して強度と導電性のバランス(強度−導電性バランス)を図ることが難しかった。
また高強度材料として析出硬化型の合金(Cu−Ni−Si合金)が提案されているが、導電性を高めるためにNiやSiの含有量を低減させると、引張強度が低下して強度−導電性バランスを図ることが難しかった。
従来のCu−Fe−P合金やCu−Ni−Si合金よりも強度−導電性バランスに優れた材料として、Cu−Cr系合金が提案されている(特許文献1)。しかしながら熱間圧延時に粗大な晶出物が生成してしまい、高強度化と高導電性化のいずれにも限界があった。
また強度−導電性バランスと加工性に優れた銅合金として、Cu−Cr−Sn系合金が提案されている(特許文献2)。しかしながらCu−Cr−Sn系合金では、高温での溶体化処理が必要であり、製造工程が煩雑になるなど、製造面に問題があった。
更に強度と導電性に優れた銅合金として、Cu―Cr−Ti−Zr合金が提案されている(特許文献3)。しかしながらこの銅合金では強度と導電性を向上できるものの、曲げ加工性については不十分であった。
また高強度、高導電性を有し、曲げ加工性を向上させた銅合金として、Cu−Cr−Ti−Si合金が提案されている(特許文献4)。しかしながらこの銅合金では曲げ加工性を向上できるものの、後記するように従来よりも厳しい条件の曲げ加工を加えると、割れが生じるなどの問題があった。
特開2005−29857号公報 特開平6−081090号公報 特許第3731600号公報 特許第2515127号公報
近年の電気、電子機器の軽量・小型化などに伴い薄肉化した材料を曲げ加工したり、配線を微細幅にノッチング(切欠き加工)した後に曲げ加工が施されるなど、電気・電子部品用材料には、今まで以上に複雑な加工が行われるため、強度向上だけでなく曲げ加工性に対する要求も一段と高いものとなっている。よって導電性、強度、曲げ加工性の個々の特性が良好なだけでなく、所定以上の高強度下においても導電性及び曲げ加工性の夫々が高められたもの、すなわち強度−導電性バランスだけでなく、強度−曲げ加工性バランスにも優れた材料が求められていた。
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、強度(引張強さと0.2%耐力を指す、以下同じ)、導電性、及び曲げ加工性のバランスに優れた銅合金を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明の銅合金は、Cr:0.10〜0.50%(質量%の意味、以下同じ)、Ti:0.010〜0.30%、Si:0.01〜0.10%、前記Crと前記Tiの質量比:1.0≦(Cr/Ti)≦30、前記Crと前記Siの質量比:3.0≦(Cr/Si)≦30、となるように含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金であって、前記銅合金破断面厚み(t)方向の表面の金属組織をFESEM−EBSP法により測定したとき、結晶粒の長軸の平均長さが6.0μm以下、短軸の平均長さが1.0μm以下であることに要旨を有する。
本発明では、更に、他の元素として、Fe、Ni、およびCoよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下含有すること、Zn:0.5%以下を含有すること、Sn、Mg、Alよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下を含有することも好ましい実施態様である。
本発明の銅合金は、引張強さ470MPa以上、0.2%耐力450MPa以上の高強度、導電率70%IACS以上の高導電性を有すると共に、W曲げ加工した際に、R(最小曲げ半径)/t(板厚)=1.0のときに、日本伸銅境界技術標準JBMA−T307:2007年に記載の「しわ」「割れ」の最大幅(μm)の評価基準に準拠した後記実施例で示す9段階の評価において、D評価よりもより優れた曲げ加工性を有する。したがって本発明の銅合金は、強度と導電性のバランスがよく、また高強度を有しつつも厳しい曲げ加工条件でも割れが発生しない。本発明の銅合金は、特に電気・電子部品用材料として好適である。
本発明者らは、強度と導電性のバランスに優れると共に、W曲げ加工のような厳しい加工条件でも割れが発生することがない、曲げ加工性向上のための条件について検討を重ねた。その結果、Cr−Ti−Si系銅合金において、成分組成を制御すると共に、その少なくとも一部を析出させること、更に析出した結晶粒のサイズを制御することによって、強度−導電性バランスを維持しつつ、曲げ加工性を向上できることを見出し、本発明に至った。
本発明に係る銅合金は、微細化された結晶粒に最大の特徴があるので、まず、この点について詳述する。
一般に銅合金においては、平均結晶粒径が小さいほど、曲げ加工性が向上することが知られている。しかしながらこれは曲げ加工性のみを考慮し、銅合金を高温で熱処理を行い、再結晶した結晶粒に関する知見である。一方、本発明者らは、製造条件から検討を行い、強度−導電性バランスを維持しつつ、曲げ加工性を向上させた銅合金について研究を重ねた。その結果、最終焼鈍温度が低く、十分再結晶していない場合は、銅合金の組織(結晶形状)は、圧延方向に伸張した楕円状の結晶粒をしているものの、このような十分に再結晶していない銅合金が上記課題達成において有効であるとの知見を得た。しかしながら銅合金の組織(結晶粒)が小さすぎて、光学顕微鏡などでは、結晶粒と銅合金特性との関係を適切に評価するとこが困難であったため、具体的な結晶粒の形状やサイズと加工性などの銅合金特性との関係について更なる検討が必要であった。
そこで本発明者らがFESEM−EBSPを用いて銅合金の結晶粒について詳細に検討した結果、結晶粒の長軸(最大長さ)と短軸(最小長さ)の夫々の長さを適切に制御すれば、強度、導電性、及び曲げ加工性をバランスよく維持できることを見出した。
本発明の銅合金は、破断面厚み(t)方向の表面の金属組織をFESEM−EBSPにより測定したとき、結晶粒の長軸の平均長さが6.0μm以下、短軸の平均長さが1.0μm以下である。
結晶粒の長軸の平均長さが6.0μm超となると、曲げ加工性が悪くなる。したがって結晶粒の長軸の平均長さは6.0μm以下、好ましくは5.0μm以下である。長軸の平均長さの下限は特に限定されない。
また結晶粒の短軸の平均長さが1.0μm超となると、曲げ加工性が不十分であり、また強度が低くなる。したがって結晶粒の短軸の平均長さは1.0μm以下、好ましくは0.5μm以下である。短軸の平均長さの下限は特に限定されない。
本発明の結晶粒のサイズは上記範囲内であればよく、その形状については特に限定されない。すなわち、長軸と短軸の長さが異なっている楕円形状に限られず、長軸と短軸の長さがほぼ同一の円形状であってもよい。したがって短軸/長軸の平均長さのアスペクト比は特に限定されないが、好ましくは0.11以下であり、圧延方向に伸張した結晶粒の形状をしていることが望ましい。
上記結晶粒の長軸と短軸の夫々の平均長さは、FESEM−EBSP法によって測定・算出する。具体的には、電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FESEM)に後方散乱電子回折像(EBSP:Electron Backscatter Diffraction Pattern)システムを搭載した結晶方位回折法を用いて測定する。EBSP法では、FESEMの鏡筒内にセットした試料に、電子線を照射してスクリーン上にEBSPを投影する。これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込む。コンピュータでは、この画像を解析して、各結晶粒の最大長さ(長軸の長さ)、および最小長さ(短軸の長さ)を測定し、撮影視野中の全結晶粒における平均長さを夫々測定する。
本発明では、銅合金表面の金属組織をFESEM−EBSP法により測定しているが、銅合金の破断面厚み(t)方向の表面とは、銅合金(製造後の最終板)の圧延方向に平行断面(測定面)をいう。また測定視野(測定位置、測定サイズ)は測定面の板厚方向最表面から厚み方向10μm×圧延方向に30μmの範囲を測定視野とし、測定ステップ間隔を0.05μmとして任意の5点を測定し、その平均値を算出する。
次に、本発明の銅合金の成分組成について説明する。本発明の銅合金は、上記所望の効果を得るためには、銅合金の成分組成を適切に制御することも重要である。
Cr:0.10〜0.50%
Crは、単体の金属CrまたはSiとの化合物として析出することにより、銅合金の強度向上に寄与する作用を有する。Cr含有量が0.10%を下回ると、所望の強度を確保することが困難となる。またCr含有量が少ないと析出するTi量が減少してTi固溶量が多くなり、導電性が悪化することがある。一方、Cr含有量が0.50%を超えると、粗大な結晶粒が多量に生成してしまい、曲げ加工性に悪影響を及ぼすことがある。したがってCr含有量は、0.10%以上、好ましくは0.2%以上であって、0.50%以下、好ましくは0.40%以下である。
Ti:0.010〜0.30%
Tiは、Siとの化合物として析出することにより、銅合金の強度向上に寄与する作用を有する。またTiは、CrやSiの固溶限を低下させ、これらの析出を促進させる効果がある。Tiの含有量が0.010%を下回ると、十分な量の結晶粒を生成できないため、所望の強度を確保することが困難となる。一方、Ti含有量が0.30%を超えると、粗大な結晶粒が多量に生成してしまい、曲げ加工性に悪影響を及ぼす。したがってTi含有量は、0.010%以上、好ましくは0.02%以上であって、0.30%以下、好ましくは0.15%以下である。
Si:0.01〜0.10%
Siは、CrやTiとの前記化合物を析出させて銅合金の強度向上に寄与する作用を有する。Si含有量が0.01%を下回ると、結晶粒の生成が不十分となり、所望の強度を確保することが困難となる。一方、Si含有量が0.10%を超えると、導電性が悪くなったり、粗大な結晶粒が多量に生成してしまい、強度−曲げ加工性バランスに悪影響を及ぼすことがある。したがってSi含有量は、0.01%以上、好ましくは0.02%以上であって、0.10%以下、好ましくは0.08%以下とする。
本発明においては、強度、導電性、及び曲げ加工性をバランスよく一層向上させるために、添加元素(Cr、Ti、Si)の含有比率を以下範囲内となるように調整する。
Cr/Ti(質量比、以下同じ):1.0〜30
銅合金に含まれるCrとTiの質量比(Cr/Ti)のバランスは強度と導電性に影響する。すなわち、Cr/Tiが小さい方が高い強度が得られる。したがって、Cr/Tiは30以下、好ましくは15以下となるように調整することが望ましい。またCr/Tiが1.0よりも小さいと時効処理後の銅合金中のTi固溶量が多くなりすぎ、導電性が低下する。また曲げ加工性も悪化することがある。したがってCr/Tiは1.0以上、好ましくは3.0以上となるように調整することが望ましい。
Cr/Si(質量比、以下同じ):3.0〜30
銅合金に含まれるCrとSiの質量比(Cr/Si)のバランスは曲げ加工性と導電性に影響する。すなわち、Cr/Siが大きくなりすぎると、導電性が低下する。したがってCr/Siは30以下、好ましくは20以下となるように調整することが望ましい。またCr/Siが3.0よりも小さいとCrとSiの化合物が粗大な結晶粒として生成され、強度−曲げ加工性バランスに悪影響を及ぼす。また他の元素の固溶量が増加して導電性が悪化することがある。したがってCr/Siは3.0以上、好ましくは10以上となるように調整することが望ましい。
本発明は上記成分組成、及びCr/Ti、Cr/Siを満足し、残部は銅、及び不可避的不純物である。不可避的不純物としては例えばV、Nb、Mo、Wなどの元素が例示される。不可避的不純物の含有量が多くなると強度、導電性、曲げ加工性などを低下させることがあるため、総量で、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下とすることが望ましい。
本発明では上記銅合金に更に以下の元素を添加してもよい。
Fe、Ni、およびCoよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下(Fe、Ni、Coを単独で含むときは単独の含有量であり、複数を含む場合は合計量である。)
Fe、Ni、Coは、Siとの化合物を析出させて銅合金の強度及び導電性を向上させる作用を有する。含有量(合計)が多くなりすぎると固溶量が多くなって導電性が悪化するため、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.2%以下である。一方、含有量(合計)が少なすぎると、上記強度及び導電性向上効果が十分に得られないため、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.03%以上である。
Zn:0.5%以下
Znは、電気部品の接合に用いるSnめっきやはんだの耐熱剥離性を改善し、熱剥離を抑制する効果を有する。このような効果を有効に発揮させるためには0.005%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.01%以上である。しかし、過剰に含有させると、却って溶融Snやはんだの濡れ広がり性が劣化し、また導電性が悪化することから、好ましくは0.5%以下である。
Sn、Mg、Alよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下(Sn、Mg、Alを単独で含むときは単独の含有量であり、複数含む場合は合計量である。)
Sn、Mg、Alは、固溶することによって銅合金の強度を向上させる効果を有する。このような効果を十分に発揮させるためには、合計量で0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.03%以上である。一方、過剰に含有させると導電性が悪化して所望の特性が得られなくなることから、好ましくは0.3%以下である。
次に、上記本発明に係る銅合金の好ましい製造条件について説明する。本発明では長軸と短軸を上記特定の範囲内に制御された結晶粒を分散析出するために、特に熱間圧延と冷間圧延の圧下率を夫々高くするところに特徴を有する。
まず、成分組成を調整した銅合金を溶解、鋳造して得られた鋳塊を加熱(均質化熱処理を含む)した後、熱間圧延を行い、続いて冷間圧延を行い、その後、時効処理を行うことにより、本発明の銅合金(最終板)が製造される。
銅合金の溶解、鋳造、その後の加熱処理は通常の方法によって行うことができる。例えば所定の化学成分組成に調整した銅合金を電気炉で溶解した後、連続鋳造などにより銅合金鋳塊を鋳造する。その後、鋳塊をおおむね800〜1000℃程度に加熱し、必要に応じて一定時間保持(例えば10〜120分)する。
本発明では熱間圧延の圧下率を好ましくは70%以上とする必要がある。即ち、70%未満の圧下率で熱間圧延を行うと、その後に行われる冷間圧延の圧下率を高くしても結晶粒の長軸と短軸の平均長さを所定の範囲に制御することが困難となる。より好ましい圧下率は90%以上である。なお、熱間圧延の圧下率の上限は特に限定されず、目的とする板厚、及び後記冷間圧延率との関係で決定すればよい。なお、上記圧下率は、1回の熱間圧延で達成する必要はなく、複数回の熱間圧延を行った場合は、その合計圧下率が70%以上であればよい。
熱間圧延後は室温まで急冷することが望ましい。熱間圧延後の冷却速度が小さいと、熱間圧延後の結晶粒が大きくなり、結果最終板の結晶粒が大きくなり、曲げ加工性が悪くなる。したがって平均冷却速度は、空冷を超える速度とし、好ましくは50℃/秒以上とすることが望ましい。冷却速度の上限は特に限定されない。急冷手段としては、例えば水冷が例示される。
熱間圧延後、時効処理前の冷間圧延における冷延率を90%以上とする。冷延率が高いと伸張した結晶粒が分断され、特に長軸方向の結晶粒径が微細となる。冷延率が90%未満だと、ひずみが不十分であり結晶粒の分断が生じず、長軸方向の結晶粒が大きくなりすぎ、曲げ加工性が劣化する。好ましい冷延率は93%以上である。一方、圧延率の上限は特に限定されず、所望の製品板厚となるように適宜調整すればよい。なお、本発明では、上記所望の結晶粒を得るために、1回の冷間圧延を高い圧下率で行うものとし、また上記冷間圧延前は焼き戻し焼鈍を行わない。冷間圧延を複数回行ったり、冷間圧延前に焼き戻し焼鈍を行うと、結晶粒の長軸ないし短軸の長さを上記所定の範囲内にできないからである。
冷間圧延後、時効処理を行う。時効処理を適切に行うことによって、上記所定の微細な結晶粒を確保して銅合金の強度、導電性、及び曲げ加工性を向上させることができる。
時効処理は、350℃〜650℃の温度にて30分〜10時間程度行い、時効後は水冷または放冷により冷却することが望ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
銅合金をクリプトル炉において、大気中、木炭被覆下で溶解し、鋳鉄製ブックモールドに鋳造し、表1に記載する化学組成(残部銅及び不可避的不純物)を有する100mmt(t=厚さ)または40mmt(No.18、29)の鋳塊を得た。該鋳塊の表面を面削した後、加熱して950℃に到達後、1時間保持した後、表2記載(「熱延の圧下率」参照)の所定の圧下率で熱間圧延し15mmt(No.29)または10mmtの板とし、700℃以上の温度から水冷(平均冷却速度:100℃/s)した。なお、No.29については、冷却方法を空冷(平均冷却速度:0.5℃/s)に変更して行った。
その後、一部の試料では熱間圧延後の冷間圧延率を変更するため、冷間圧延を行う前に、面削により、7mmt(No.22)、または4mmt(No.27、28)の板に切り出した。またNo.29は熱間圧延後の15mmtから面削により10mmtとした。
冷間圧延を行って(表中、「冷延の圧下率」参照)、最終的に冷延後の厚さが0.64mmの銅合金板を得た。その後、バッチ焼鈍炉にて、450℃にて2時間の時効処理を行った。
得られた銅合金板(最終板)から試料を切り出し、結晶粒の測定、及び引張強度、0.2%耐力、導電性、曲げ加工性を下記要領で行った。これらの結果を表2に示す。
(結晶粒のサイズ)
以下の要領で破断面厚み(t)方向の表面の結晶粒の長軸および短軸の平均直径を求めた。試料の圧延方向に平行な断面の組織を観察するため、試料を樹脂埋めし、圧延方向に平行断面を機械研磨した後、更に、バフ研磨に次いで電解研磨を行い、試料を調製した。その後、電界放出型走査電子顕微鏡(日本電子社製FESEM:JEOL JSM 5410)を用いてEBSPによる結晶粒の測定を行った。測定箇所は試料の最表面から板厚方向に10μm(任意の5箇所)について行い、その平均を求めた。また測定領域は板厚方向に10μm×圧延方向に平行方向に30μm(測定サイズ)とした。
EBSP測定・解析システムは、EBSP:TSL社製(OIM)を用いた。EBSP法では、FESEMの鏡筒内にセットした上記各試料に、電子線を照射してスクリーン上にEBSPを投影し、これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込んだ。コンピュータでは、この画像を解析して、結晶粒の最大長さ(長軸)と最小長さ(短軸)を測定し、撮影視野中の全結晶粒における夫々の平均長さを測定した。
(引張強度・耐力)
圧延方向に平行に切り出した試験片(サイズ:JIS5号)を作製し、5882型インストロン社製万能試験機により、室温、試験速度10.0mm/min、GL=50mmの条件で、引張強度、0.2%耐力を測定した。本発明では引張強度470MPa以上、且つ0.2%耐力450MPa以上を高強度と評価した。
(導電性)
導電性は、ミーリングにより、幅10mm×長さ300mmの短冊状の試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定して、平均断面積法により算出した。本発明では導電性70%(IACS)以上を良好と評価した。
(曲げ加工性)
銅合金板試料の曲げ試験は、日本伸銅協会技術標準に従って行った。板材を幅10mm×長さ30mmに切り出した試料を用いてW曲げ試験を行った。最小曲げ半径Rと、銅合金板の板厚tとの比R/tが、1.0となるように曲げ加工を実施した。W曲げ加工を行いながら、曲げ部における割れの有無を10倍の光学顕微鏡で観察した。割れの評価は日本伸銅境界技術標準(JBMA−T307:2007年)に準拠して評価した。具体的には伸銅境界技術標準では評価が5段階であるが、本発明では詳細に曲げ加工性を評価するために、「しわ」「われ」の最大幅(μm)をA(10以下)、A〜B(10超〜15以下)、B(15超〜20以下)、B〜C(20超〜25以下)、C(25超〜30以下)、C〜D(30超〜35以下)、D(35超〜40以下)、D〜E(40超〜45以下)、E(45超)の9段階で評価し、本発明ではD評価より優れているもの(すなわち、C〜D評価以上)を曲げ加工性が優れている(○)と評価した。結果を表2に記載する。
Figure 0005867859
Figure 0005867859
No.1〜19は、本発明の上記規定を満足する化学組成、及び製造条件の例であり、いずれも十分な強度(引張強度、0.2%耐力)、導電率、および曲げ加工性が得られた。
No.20〜26は、本発明で規定する成分組成を満足せず、所望の特性が得られなかった例である。
No.20は、Cr含有量が本発明の規定よりも多い例である。No.20ではCr含有量が多いため、結晶粒の長軸が粗大化してしまい、十分な曲げ加工性が得られなかった。
No.21は、Cr含有量が本発明の規定よりも少ない例である。No.21ではCr含有量が少ないため、析出せずに固溶しているTi量が多くなって導電性が悪化すると共に、強度が低いため曲げ加工性はよかったが、所定の強度を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。
No.22は、Ti含有量が本発明の規定よりも多く、またCr/Ti比が本発明の規定を下回る例である。No.22では、結晶粒の長軸が粗大化すると共にTi固溶量も多くなって、強度、曲げ加工性、及び導電性が悪かった。
No.23は、Ti含有量が本発明の規定よりも少なく、またCr/Ti比が本発明の規定を上回る例である。No.23では強度が低いため曲げ加工性はよかったが、所定の強度を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。
No.24は、Si含有量が本発明の規定よりも多く、またCr/Si比が本発明の規定を下回る例である。No.24では導電性が悪く、また強度が低いため曲げ加工性はよかったが、所定の強度を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。
No.25は、Cr/Ti比が本発明の規定を下回る例である。No.25では十分な強度を確保できず、また導電性、曲げ加工性も悪かった。
No.26は、Si含有量が本発明の規定よりも多く、またCr/Si比が本発明の規定を下回る例である。No.26は強度が低いため曲げ加工性はよかったが所定の強度を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。また所定の条件を満たしていないため導電性が悪かった。
No.27〜31は、成分組成は本発明で規定する条件を満たすが、本発明で規定する製造条件を満足せず、所定の範囲に結晶粒の長軸の平均長さを制御できなかったため、所望の特性が得られなかった例である。
No.27は、Fe含有量が本発明の規定よりも多い例である。No.27は強度が低いため曲げ加工性はよかったが、所定の強度を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。また導電性も悪かった。
No.28は、Sn含有量が本発明の規定よりも多い例である。No.28では導電性が悪く、また曲げ加工性も悪かった。
No.29は、熱間圧延後の冷却を空冷にすると共に、冷間圧延の圧下率が低い例である。No.29では冷却速度と圧下率が本発明の規定を満たさないため、結晶粒の長軸が粗大化してしまい十分な曲げ加工性を確保できなかった。
No.30は、冷間圧延の圧下率が低い例である。No.30では圧下率が低かったため、結晶粒を微細化できず、超軸方向の結晶粒が粗大化して曲げ加工性が悪かった。
No.31は、熱間圧延の圧下率が低い例である。圧下率が低かったため、結晶粒(長軸)を所定のサイズに調整することができず、曲げ加工性が悪かった。

Claims (4)

  1. Cr:0.10〜0.50%(質量%の意味、以下同じ)、
    Ti:0.010〜0.30%、
    Si:0.01〜0.10%、
    前記Crと前記Tiの質量比:1.0≦(Cr/Ti)≦30、
    前記Crと前記Siの質量比:3.0≦(Cr/Si)≦30、
    となるように含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金であって、
    前記銅合金の圧延方向と板厚方向に平行な断面の金属組織をFESEM−EBSP法により測定したとき、結晶粒の長軸の平均長さが6.0μm以下、短軸の平均長さが1.0μm以下であることを特徴とする銅合金。
  2. 更に、他の元素として、
    Fe、Ni、およびCoよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下含有するものである請求項1に記載の銅合金。
  3. 更に、他の元素として、
    Zn:0.5%以下を含有するものである請求項1または2に記載の銅合金。
  4. 更に、他の元素として、
    Sn、Mg、Alよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金。
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