JP5750070B2 - 銅合金 - Google Patents

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Description

本発明は高強度、高導電性であり、更に曲げ加工性にも優れた銅合金に関し、詳細には電気・電子部品を構成するコネクター、リードフレーム、リレー、スイッチ、配線、端子などに用いられる各種電気・電子部品用材料として好適な銅合金に関するものである。
近年、電子機器の小型化、及び軽量化の要請に伴い、電気・電子部品の電気系統の複雑化、高集積化が進み、各種電気・電子部品用材料には、薄肉化や複雑な形状の加工に耐え得る特性が求められている。
例えば、電気・電子部品を構成するコネクター、リードフレーム、リレー、スイッチなどの通電部品に使用される電気・電子部品用材料は、小型・薄肉化によって同一の荷重を受ける材料の断面積が小さくなり、通電量に対する材料の断面積も小さくなるため、通電によるジュール熱の発生を抑制するために良好な導電性が要求されるとともに、電気・電子機器の組立時や作動時に付与される応力に耐え得る高い強度や、電気・電子部品を曲げ加工しても、破断等が生じない曲げ加工性が要求されている。
電気・電子部品用材料としてCu−Fe−P合金が汎用されているが、高強度化を図るためにSnなどの合金成分を添加すると、導電性が低下して強度と導電性のバランス(強度−導電性バランス)を図ることが難しかった。
また高強度材料として析出硬化型の合金(Cu−Ni−Si合金)が提案されているが、導電性を高めるためにNiやSiの含有量を低減させると、引張強度が低下して強度−導電性バランスを図ることが難しかった。
従来のCu−Fe−P合金やCu−Ni−Si合金よりも強度−導電性バランスに優れた材料として、Cu−Cr系合金が提案されている(特許文献1)。しかしながら熱間圧延時に粗大な晶出物が生成してしまい、高強度化と高導電性化のいずれにも限界があった。
また強度−導電性バランスと加工性に優れた銅合金として、Cu−Cr−Sn系合金が提案されている(特許文献2)。しかしながらCu−Cr−Sn系合金では、高温での溶体化処理が必要であり、製造工程が煩雑になるなど、製造面に問題があった。
更に強度と導電性に優れた銅合金として、Cu―Cr−Ti−Zr合金が提案されている(特許文献3)。しかしながらこの銅合金では強度と導電性を向上できるものの、曲げ加工性については不十分であった。
また高強度、高導電性を有し、曲げ加工性を向上させた銅合金として、Cu−Cr−Ti−Si合金が提案されている(特許文献4)。しかしながらこの銅合金では曲げ加工性を向上できるものの、後記するように従来よりも厳しい条件の曲げ加工を加えると、割れが生じるなどの問題があった。
特開2005−29857号公報 特開平6−081090号公報 特許第3731600号公報 特許第2515127号公報
近年の電気、電子機器の軽量・小型化などに伴い薄肉化した材料を曲げ加工したり、配線を微細幅にノッチング(切欠き加工)した後に曲げ加工が施されるなど、電気・電子部品用材料には、今まで以上に複雑な加工が行われるため、強度向上だけでなく曲げ加工性に対する要求も一段と高いものとなっている。よって導電性、強度、曲げ加工性の個々の特性が良好なだけでなく、所定以上の高強度下においても導電性及び曲げ加工性の夫々が高められたもの、すなわち強度−導電性バランスだけでなく、強度−曲げ加工性バランスにも優れた材料が求められていた。
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、強度(引張強さと0.2%耐力を指す、以下同じ)、導電性、及び曲げ加工性のバランスに優れた銅合金を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明の銅合金は、Cr:0.10〜0.50%(質量%の意味、以下同じ)、Ti:0.010〜0.30%、Si:0.01〜0.10%、前記Crと前記Tiの質量比:1.0≦(Cr/Ti)≦30、前記Crと前記Siの質量比:3.0≦(Cr/Si)≦30、となるように含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金であって、前記銅合金の結晶方位をFESEM−EBSP法により測定したとき、Brass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、及びCopper方位{112}<111>の合計平均面積率が40%〜70%である集合組織を有することに要旨を有する。
本発明では、更に、他の元素として、Fe、Ni、およびCoよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下含有すること、Zn:0.5%以下を含有すること、Sn、Mg、Alよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下を含有することも好ましい実施態様である。
本発明の銅合金は、引張強さ470MPa以上、0.2%耐力450MPa以上の高強度、導電率70%IACS以上の高導電性を有すると共に、W曲げ加工した際に、R(最小曲げ半径)/t(板厚)=1.0のときに、日本伸銅境界技術標準JBMA−T307:2007年に記載の「しわ」「割れ」の最大幅(μm)の評価基準に準拠した後記実施例で示す9段階の評価において、D評価よりもより優れた曲げ加工性を有する。したがって本発明の銅合金は、強度と導電性のバランスがよく、また高強度を有しつつも曲げ時の拘束力が大きく厳しい曲げ加工条件でも割れが発生しない。本発明の銅合金は、特に電気・電子部品用材料として好適である。
本発明者らは、強度と導電性のバランスに優れると共に、W曲げ加工のような厳しい加工条件でも割れが発生することがない、強度と曲げ加工性のバランス向上のための条件について検討を重ねた。その結果、Cr−Ti−Si系銅合金において、成分組成を制御すると共に、集合組織を制御することによって、強度、導電性、及び曲げ加工性をバランス良く向上できることを見出し、本発明に至った。
本発明に係る銅合金は、集合組織を適切に制御する点に最大の特徴があるので、まず、この点について詳述する。
銅合金の集合組織は、主としてCube方位、Brass方位、S方位、Copper方位、Goss方位などから形成され、それらに応じた結晶面が存在することが知られている(長島晋一編著、「集合組織」(丸善株式会社刊)や軽金属学会「軽金属」解説Vol.43、1993、P285−293など)。これらの集合組織の形成は同じ結晶系の場合でも加工、熱処理方法によって異なる。圧延による板材の集合組織の場合は、面と方向で表されており、(圧延面に平行な)面の結晶面指数(等価な面も含む)は{ABC}で表現され、(圧延)方向(等価な方向も含む)は<DEF>で表現される(ABCDEFは整数を示す)。かかる表現に基づき、各方位は例えば以下のように表記される。
Cube方位{001}<100>
Goss方位{011}<100>
Rotated−Goss方位{011}<011>
Brass方位{011}<211>
Copper方位{112}<111>
(若しくはD方位{4411}<11118>
S方位{123}<634>
B/G方位{011}<511>
B/S方位{168}<211>
P方位{011}<111>
本発明ではこれらの方位から±10°以内の方位のずれは同一の方位因子に属するものと定義する。また隣接する結晶粒の方位差が5°以上の結晶粒の境界を結晶粒界と定義する。
銅合金の集合組織は、これらの結晶面の構成割合が変動すると、弾性挙動や塑性異方性などが変化し、曲げ加工性などの特性に影響を与えることが知られているが、集合組織は製造条件とも密接に関連し、また集合組織によって得られる効果も異なることから、上記強度等の特性向上との関係で、有利な集合組織は知られていなかった。本発明者らは、製造条件から検討を行い、強度−導電性バランスを維持しつつ、曲げ加工性を向上させた銅合金の集合組織について研究を重ねた。その結果、集合組織のうち、Brass方位、S方位、及びCopper方位を適切に制御することによって、強度、及び曲げ加工性をバランスよく向上できることを見出した。
具体的には、FESEM−EBSP法により結晶方位を測定したとき、Brass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、及びCopper方位{112}<111>の合計平均面積率が40%〜70%であることが上記課題達成に有効である。Brass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、及びCopper方位{112}<111>は特に強度と曲げ加工性に影響を与える集合組織であって、これらの合計平均面積率が高くなると強度と曲げ加工性のバランスが劣化する。したがって本発明ではBrass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、及びCopper方位{112}<111>の合計平均面積率を70%以下、好ましくは65%以下、より好ましくは60%以下とする。一方、Brass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、及びCopper方位{112}<111>の合計平均面積率が低くなりすぎると、強度が低くなる。したがって本発明ではBrass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、及びCopper方位{112}<111>の合計平均面積率を40%以上、好ましくは45%以上、より好ましくは50%以上とする。
なお、上記以外にも様々な結晶方位が混在しているが、曲げ加工性や強度に影響を与えるような結晶方位は、高い面積率(例えば20面積%超)で存在していない。したがって本発明では上記以外の結晶方位の面積率については、特に限定されない。
上記集合組織の面積率は、FESEM−EBSP法によって測定・算出する。具体的には、電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FESEM)に後方散乱電子回折像(EBSP:Electron Backscatter Diffraction Pattern)システムを搭載した結晶方位回折法を用いて測定する。EBSP法では、FESEMの鏡筒内にセットした試料に、電子線を照射してスクリーン上にEBSPを投影する。これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込む。コンピュータでは、この画像を解析して、各方位の面積を測定し、測定エリアにおける面積率を算出する。
本発明では、測定視野(測定位置、測定サイズ)は測定面の板厚方向最表面から厚み方向10μm×圧延方向に30μmの範囲を測定視野とし、測定ステップ間隔を0.05μmとして任意の5点を測定し、その平均値を求める。
次に、本発明の銅合金の成分組成について説明する。本発明の銅合金は、上記所望の効果を得るためには、銅合金の成分組成を適切に制御することも重要である。
Cr:0.10〜0.50%
Crは、単体の金属CrまたはSiとの化合物として析出することにより、銅合金の強度向上に寄与する作用を有する。Cr含有量が0.10%を下回ると、析出物量が少なくなりすぎて所望の強度を確保することが困難となる。またCr含有量が少ないと析出するTi量が減少してTi固溶量が多くなり、導電性が悪化することがある。一方、Cr含有量が0.50%を超えると、粗大な結晶粒が多量に生成してしまい、曲げ加工性に悪影響を及ぼすことがある。したがってCr含有量は、0.10%以上、好ましくは0.2%以上であって、0.50%以下、好ましくは0.4%以下である。
Ti:0.010〜0.30%
Tiは、Siとの化合物として析出することにより、銅合金の強度向上に寄与する作用を有する。またTiは、CrやSiの固溶限を低下させ、これらの析出を促進させる効果がある。Tiの含有量が0.010%を下回ると、十分な量の結晶粒を生成できないため、所望の強度を確保することが困難となる。一方、Ti含有量が0.30%を超えると、粗大な結晶粒が多量に生成してしまい、強度や曲げ加工性に悪影響を及ぼす。従ってTi含有量は、0.010%以上、好ましくは0.02%以上であって、0.30%以下、好ましくは0.15%以下である。
Si:0.01〜0.10%
Siは、CrやTiとの前記化合物を析出させて銅合金の強度向上に寄与する作用を有する。Si含有量が0.01%を下回ると、析出物量が少なくなり、所望の強度を確保することが困難となる。一方、Si含有量が0.10%を超えると、導電性が悪くなったり、粗大な析出物が多量に生成してしまい、曲げ加工性に悪影響を及ぼすことがある。従ってSi含有量は、0.01%以上、好ましくは0.02%以上であって、0.10%以下、好ましくは0.08%以下とする。
本発明においては、強度、導電性、及び曲げ加工性をバランスよく一層向上させるために、添加元素(Cr、Ti、Si)の含有比率を以下範囲内となるように調整する。
Cr/Ti(質量比、以下同じ):1.0〜30
銅合金に含まれるCrとTiの質量比(Cr/Ti)のバランスは強度と導電性に影響する。すなわち、Cr/Tiが小さい方が高い強度が得られる。したがって、Cr/Tiは30以下、好ましくは15以下となるように調整することが望ましい。またCr/Tiが1.0よりも小さいと時効処理後の銅合金中のTi固溶量が多くなりすぎ、導電性が低下する。また曲げ加工性も悪化する。したがってCr/Tiは1.0以上、好ましくは3.0以上となるように調整することが望ましい。
Cr/Si(質量比、以下同じ):3.0〜30
銅合金に含まれるCrとSiの質量比(Cr/Si)のバランスは曲げ加工性と導電性に影響する。すなわち、Cr/Siが大きくなりすぎると、導電性が低下する。したがってCr/Siは30以下、好ましくは20以下となるように調整することが望ましい。またCr/Siが3.0よりも小さいとCrとSiの化合物が粗大な結晶粒として生成され、強度が低下すると共に、強度−曲げ加工性バランスに悪影響を及ぼす。また他の元素の固溶量が増加して導電性が悪化することがある。したがってCr/Siは3.0以上、好ましくは10以上となるように調整することが望ましい。
本発明は上記成分組成、及びCr/Ti、Cr/Siを満足し、残部は銅、及び不可避的不純物である。不可避的不純物としては例えばV、Nb、Mo、Wなどの元素が例示される。不可避的不純物の含有量が多くなると強度、導電性、曲げ加工性などを低下させることがあるため、総量で、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下とすることが望ましい。
本発明では上記銅合金に更に以下の元素を有効成分として添加してもよい。
Fe、Ni、およびCoよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下(Fe、Ni、Coを単独で含むときは単独の含有量であり、複数を含む場合は合計量である。)
Fe、Ni、Coは、Siとの化合物を析出させて銅合金の強度及び導電性を向上させる作用を有する。含有量(合計量)が多くなり過ぎると固溶量が多くなって強度及び導電性が悪化するため、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.2%以下である。一方、含有量(合計量)が少なすぎると、上記強度及び導電性向上効果が十分に得られないため、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.03%以上である。
Zn:0.5%以下
Znは、電気部品の接合に用いるSnめっきやはんだの耐熱剥離性を改善し、熱剥離を抑制する効果を有する。このような効果を有効に発揮させるためには0.005%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.01%以上である。しかし、過剰に含有させると、却って溶融Snやはんだの濡れ広がり性が劣化し、また導電性が悪化することから、好ましくは0.5%以下である。
Sn、Mg、Alよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下(Sn、Mg、Alを単独で含むときは単独の含有量であり、複数含む場合は合計量である。)
Sn、Mg、Alは、固溶することによって銅合金の強度を向上させる効果を有する。このような効果を十分に発揮させるためには、含有量(合計量)で0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.03%以上である。一方、過剰に含有させると逆に強度が低下する他、導電性や曲げ加工性が悪化して所望の特性が得られなくなることから、好ましくは0.3%以下である。
次に、上記本発明に係る銅合金の好ましい製造条件について説明する。本発明ではBrass方位、S方位、及びCopper方位の集合組織の面積率を所定の範囲内とするために、特に熱間圧延と冷間圧延の圧下率を夫々高くするところに特徴を有する。
まず、成分組成を調整した銅合金を溶解、鋳造して得られた鋳塊を加熱(均質化熱処理を含む)した後、熱間圧延を行い、続いて冷間圧延を行い、その後、時効処理を行うことにより、本発明の銅合金(最終板)が製造される。
銅合金の溶解、鋳造、その後の加熱処理は通常の方法によって行うことができる。例えば所定の化学成分組成に調整した銅合金を電気炉で溶解した後、連続鋳造などにより銅合金鋳塊を鋳造する。その後、鋳塊をおおむね800〜1000℃程度に加熱し、必要に応じて一定時間保持(例えば10〜120分)する。
なお、本発明では熱間圧延前の銅合金の板厚は、熱間圧延と冷間圧延の圧下率、及び最終製品の板厚を加味して決定することが望ましい。後記するように本発明では熱間圧延と冷間圧延の圧下率を高くしているため、所定の圧下率を確保しつつ、予定する最終板厚とするためには、予め板厚を厚くしておく必要がある。
本発明では熱間圧延の圧下率を好ましくは70%以上とする必要がある。即ち、70%未満の圧下率で熱間圧延を行うと、その後に行われる冷間圧延の圧下率を高くしても集合組織の合計面積率を所定の範囲に制御することが困難となる。より好ましい圧下率は90%以上である。なお、熱間圧延の圧下率の上限は特に限定されず、目的とする板厚、及び後記冷間圧延率との関係で決定すればよい。上記圧下率は、1回の熱間圧延で達成する必要はなく、複数回の熱間圧延を行った場合は、その合計圧下率が70%以上であればよい。
熱間圧延後は室温まで急冷することが望ましい。熱間圧延後の冷却速度が小さいと、結晶粒が粗大化して曲げ加工性が悪くなる。したがって平均冷却速度は、空冷を超える速度とし、好ましくは50℃/秒以上とすることが望ましい。冷却速度の上限は特に限定されないが、実操業などを考慮すると、おおむね500℃/秒以下が好ましい。急冷手段としては、例えば水冷が挙げられる。
熱間圧延後、時効処理前の冷間圧延における冷延率を95%以上とする。冷延率が高いと、上記所定のBrass方位、S方位、及びCopper方位の合計面積率を低減することができる。一方、冷延率が95%より低いと上記所定の方位の合計面積率が大きくなり過ぎて、曲げ加工性などが劣化する。好ましい冷延率は97%以上である。なお、本発明では、上記集合組織を所定の範囲で得るために、1回の冷間圧延を高い圧下率で行うものとし、また上記冷間圧延前は焼き戻し焼鈍を行わない。冷間圧延を複数回行ったり、冷間圧延前に焼き戻し焼鈍を行うと、Brass方位、S方位、及びCopper方位の合計面積率を上記所定の範囲内にできないからである。
冷間圧延後、時効処理を行う。時効処理を適切に行うことによって、上記所定の集合組織の面積率に制御され、銅合金の強度、導電性、及び曲げ加工性に優れた銅合金を得ることができる。
時効処理は、400℃〜550℃の温度にて30分〜10時間程度行い、時効後は水冷または放冷により冷却することが望ましい。時効温度が高すぎると、上記集合組織の合計面積率が低くなりすぎると共に、強度が低下して、強度−曲げ加工性のバランスが悪くなる。また時効温度が低すぎると、上記集合組織の合計面積率が高くなりすぎると共に、導電性及び曲げ加工性が悪くなる。したがって時効温度は、好ましくは550℃以下、より好ましくは500℃以下であって、好ましくは400℃以上、更に好ましくは450℃以上である。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
銅合金をクリプトル炉において、大気中、木炭被覆下で溶解し、鋳鉄製ブックモールドに鋳造し、表1に記載する成分組成(残部銅及び不可避的不純物)を有する200mmt(t=厚さ)の鋳塊を得た。なお、No.18は200mmtの鋳塊から66mmt、No.29、31は200mmtの鋳塊から50mmtを切り出したものを使用した。該鋳塊の表面を面削した後、加熱して950℃に到達後、1時間保持した後、表2記載(「熱延の圧下率」参照)の所定の圧下率で熱間圧延して20mmtの板とし、圧延後(750℃以上の温度)、水冷(平均冷却速度:100℃/s)した。なお、No.29については、冷却方法を空冷(平均冷却速度:0.5℃/s)に変更して行った。
冷却後、一部の試料の冷間圧延率を変更するため、冷間圧延を行う前に、面削により、6.0mmt(No.3)、4.0mmt(No.No.31)、2.0mmt(No.30)、1.2mmt(No.29)の板に切り出した。
その後、酸化スケールを除去してから冷間圧延を1回行って(表中、「冷延の圧下率」参照)、最終的に冷延後の厚さが0.2mmの銅合金板を得た。その後、バッチ焼鈍炉にて、表2記載の所定の温度にて2時間の時効処理を行った(表中、「時効温度」参照)。
得られた銅合金板(最終板)から試料を切り出し、結晶方位の面積率、及び引張強度、0.2%耐力、導電性、曲げ加工性を下記要領で評価した。これらの結果を表3に示す。
(集合組織)
結晶方位の面積率:
得られた各試料から組織観察片を採取し、上述した要領で、各方位の平均面積率を、電界放出型走査電子顕微鏡に後方散乱電子回折像システムを搭載した結晶方位解析法により測定した。具体的には、組織観察片の圧延面断面を機械研磨し、更に、バフ研磨に次いで電解研磨して、表面を調整した試料を準備した。その後、日本電子社製FESEM(JEOL JSM 5410)を用いて、EBSPによる結晶方位測定を行った。測定領域は圧延平行方向30μm×板厚方向10μmの断面領域であり、測定ステップ間隔を0.05μmとした。任意の5箇所で測定し、平均値を算出した。
EBSP測定・解析システムは、EBSP:TSL社製(OIM)を用いた。EBSP法では、FESEMの鏡筒内にセットした上記各試料に、電子線を照射してスクリーン上にEBSPを投影し、これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込んだ。コンピュータでは、この画像を解析して、Brass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、及びCopper方位{112}<111>の面積を測定し、測定エリアにおける面積率から合計平均面積率を計算により求めた。
(引張強度・耐力)
圧延方向に平行に切り出した試験片(サイズ:JIS5号)を作製し、5882型インストロン社製万能試験機により、室温、試験速度10.0mm/min、GL=50mmの条件で、引張強度、0.2%耐力を測定した。本発明では引張強度470MPa以上、且つ0.2%耐力450MPa以上を高強度と評価した。
(導電性)
導電性は、ミーリングにより、幅10mm×長さ300mmの短冊状の試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定して、平均断面積法により算出した。本発明では導電性70%(IACS)以上を良好と評価した。
(曲げ加工性)
銅合金板試料の曲げ試験は、日本伸銅協会技術標準に従って行った。板材を幅10mm×長さ30mmに切出した試料を用いてW曲げ試験を行った。最小曲げ半径Rと、銅合金板の板厚tとの比R/tが、1.0となるように曲げ加工を実施した。W曲げ加工を行いながら、曲げ部における割れの有無を10倍の光学顕微鏡で観察した。割れの評価は日本伸銅境界技術標準(JBMA−T307:2007年)に準拠して評価した。具体的には伸銅境界技術標準では評価がA〜E5段階であるが、本発明では詳細に曲げ加工性を評価するために、「しわ」「われ」の最大幅(μm)をA(10以下)、A〜B(10超〜15以下)、B(15超〜20以下)、B〜C(20超〜25以下)、C(25超〜30以下)、C〜D(30超〜35以下)、D(35超〜40以下)、D〜E(40超〜45以下)、E(45超)の9段階で評価し、本発明ではD評価より優れているもの(すなわち、C〜D評価以上)を曲げ加工性が優れている(○)と評価した。結果を表3に記載する。
Figure 0005750070
Figure 0005750070
Figure 0005750070
No.1〜19は、本発明の上記規定を満足する成分組成、及び製造条件の例であり、いずれも十分な強度(引張強度、0.2%耐力)、導電率、および曲げ加工性が得られた。
No.20〜28は、本発明で規定する成分組成を満足せず、所望の特性が得られなかった例である。
No.20は、Cr含有量が本発明の規定よりも多く、またCr/Si比が規定を上回る例である。No.20ではCr含有量が多く、またCr/Si比も規定を上回るため、十分な曲げ加工性が得られず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。
No.21は、Cr含有量が本発明の規定よりも少ない例である。No.21ではCr含有量が少ないため、析出せずに固溶しているTi量が多くなって導電性が悪化すると共に、強度が低いため曲げ加工性はよかったが、所定の強度を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。
No.22は、Ti含有量が本発明の規定よりも多く、またCr/Ti比が本発明の規定を下回る例である。No.22では、強度、曲げ加工性、及び導電性が悪かった。
No.23は、Ti含有量が本発明の規定よりも少なく、またCr/Ti比が本発明の規定を上回る例である。No.23では強度が低いため曲げ加工性はよかったが、所定の強度を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。
No.24は、Si含有量が本発明の規定よりも多く、またCr/Si比が本発明の規定を下回る例である。No.24では導電性が悪く、また強度が低いため曲げ加工性はよかったが、所定の強度を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。
No.25は、Cr/Ti比が本発明の規定を下回る例である。No.25では十分な強度を確保できず、また導電性、曲げ加工性も悪かった。
No.26は、Si含有量が本発明の規定よりも多く、またCr/Si比が本発明の規定を下回る例である。No.26は強度が低いため曲げ加工性はよかったが、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。また所定の条件を満たしていないため導電性が悪かった。
No.27は、Fe含有量が本発明の規定よりも多い例である。No.27は強度が低いため曲げ加工性はよかったが、所定の強度を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。また導電性も悪かった。
No.28は、Sn含有量が本発明の規定よりも多い例である。No.28では導電性が悪く、また曲げ加工性も悪かった。
No.29〜33は、成分組成は本発明で規定する条件を満たすが、本発明で規定する製造条件を満足せず、所定の範囲に集合組織を制御できなかったため、所望の特性が得られなかった例である。
No.29は、熱間圧延の圧下率が低く、また熱間圧延後の冷却速度が遅く(空冷)、冷間圧延の圧下率が低い例である。No.29では冷却速度と圧下率が本発明の規定を満たさないため、Brass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、及びCopper方位{112}<111>の合計平均面積率が高くなり、曲げ加工性を確保できなかった。
No.30、31は、冷間圧延の圧下率が低い例である(No.31は熱間圧延の圧下率も低い)。No.30、31では圧下率が低かったため、Brass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、及びCopper方位{112}<111>の合計平均面積率が高くなり、曲げ加工性が悪かった。
No.32は、時効温度が高い例である。時効温度が高かったため、Brass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、及びCopper方位{112}<111>の合計平均面積率が低かった。この例では、強度が低いため曲げ加工性はよかったが、所定の強度を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。
No.33は、時効温度が低い例である。時効温度が低かったため、Brass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、及びCopper方位{112}<111>の合計平均面積率が高かった。この例では、時効温度が低すぎるため導電性が低く、また上記所定の集合組織の面積率が高かったため、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。

Claims (4)

  1. Cr:0.10〜0.50%(質量%の意味、以下同じ)、
    Ti:0.010〜0.30%、
    Si:0.01〜0.10%、
    前記Crと前記Tiの質量比:1.0≦(Cr/Ti)≦30、
    前記Crと前記Siの質量比:3.0≦(Cr/Si)≦30、
    となるように含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金であって、
    前記銅合金の結晶方位をFESEM−EBSP法により測定したとき、Brass方位{011}<211>、S方位{123}<634>、及びCopper方位{112}<111>の合計平均面積率が40%〜70%である集合組織を有することを特徴とする銅合金。
  2. 更に、他の元素として、
    Fe、Ni、およびCoよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下含有するものである請求項1に記載の銅合金。
  3. 更に、他の元素として、
    Zn:0.5%以下を含有するものである請求項1または2に記載の銅合金。
  4. 更に、他の元素として、
    Sn、Mg、Alよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金。
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