JP5867861B2 - 銅合金 - Google Patents

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Description

本発明は高強度、高導電性であり、更に曲げ加工性にも優れた銅合金に関し、詳細には電気・電子部品を構成するコネクター、リードフレーム、リレー、スイッチ、配線、端子などに用いられる各種電気・電子部品用材料として好適な銅合金に関するものである。
近年、電子機器の小型化、及び軽量化の要請に伴い、電気・電子部品の電気系統の複雑化、高集積化が進み、各種電気・電子部品用材料には、薄肉化や複雑な形状の加工に耐え得る特性が求められている。
例えば、電気・電子部品を構成するコネクター、リードフレーム、リレー、スイッチなどの通電部品に使用される電気・電子部品用材料は、小型・薄肉化によって同一の荷重を受ける材料の断面積が小さくなり、通電量に対する材料の断面積も小さくなるため、通電によるジュール熱の発生を抑制するために良好な導電性が要求されると共に、電気・電子機器の組立時や作動時に付与される応力に耐え得る高い強度や、電気・電子部品を曲げ加工しても、破断等が生じない曲げ加工性が要求されている。
電気・電子部品用材料としてCu−Fe−P合金が汎用されているが、高強度化を図るためにSnなどの合金成分を添加すると、導電性が低下して強度と導電性のバランス(強度−導電性バランス)を図ることが難しかった。
また高強度材料として析出硬化型の合金(Cu−Ni−Si合金)が提案されているが、導電性を高めるためにNiやSiの含有量を低減させると、引張強度が低下して強度−導電性バランスを図ることが難しかった。
従来のCu−Fe−P合金やCu−Ni−Si合金よりも強度−導電性バランスに優れた材料として、Cu−Cr系合金が提案されている(特許文献1)。しかしながら熱間圧延時に粗大な晶出物が生成してしまい、高強度化と高導電性化のいずれにも限界があった。
また強度−導電性バランスと加工性に優れた銅合金として、Cu−Cr−Sn系合金が提案されている(特許文献2)。しかしながらCu−Cr−Sn系合金では、高温での溶体化処理が必要であり、製造工程が煩雑になるなど、製造面に問題があった。
更に強度と導電性に優れた銅合金として、Cu―Cr−Ti−Zr合金が提案されている(特許文献3)。しかしながらこの銅合金では強度と導電性を向上できるものの、曲げ加工性については不十分であった。
また高強度、高導電性を有し、曲げ加工性を向上させた銅合金として、Cu−Cr−Ti−Si合金が提案されている(特許文献4)。しかしながらこの銅合金では曲げ加工性を向上できるものの、後記するように従来よりも厳しい条件の曲げ加工を加えると、割れが生じるなどの問題があった。
特開2005−29857号公報 特開平6−081090号公報 特許第3731600号公報 特許第2515127号公報
近年の電気、電子機器の軽量・小型化などに伴ってより一層薄肉化した材料を曲げ加工したり、配線を微細幅にノッチング(切欠き加工)した後に曲げ加工が施されるなど、電気・電子部品用材料には、今まで以上に複雑な加工が行われるため、強度向上だけでなく曲げ加工性に対する要求も一段と高いものとなっている。よって導電性、強度、曲げ加工性の個々の特性が良好なだけでなく、所定以上の高強度下においても導電性及び曲げ加工性の夫々が高められたもの、すなわち強度−導電性バランスだけでなく、特に強度−曲げ加工性バランスにも優れた材料が求められていた。
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、強度(引張強さと0.2%耐力を指す、以下同じ)、導電性、及び曲げ加工性のバランスに優れた銅合金を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明の銅合金は、Cr:0.10〜0.50%(質量%の意味、以下同じ)、Ti:0.010〜0.30%、Si:0.01〜0.10%、前記Crと前記Tiの質量比:1.0≦(Cr/Ti)≦30、前記Crと前記Siの質量比:3.0≦(Cr/Si)≦30、となるように含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金であって、前記銅合金の幅方向に垂直な面の表面の金属組織をFESEM−EBSP法により測定したとき、結晶粒の長軸の平均長さが5.0μm以下、短軸の平均長さが0.40μm以下であり、且つ結晶粒の平均アスペクト比(短軸/長軸)が0.115〜0.300であることに要旨を有する。
本発明では、更に、他の元素として、Fe、Ni、およびCoよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下含有することも好ましい実施形態である。
また本発明では更に、他の元素として、Zn:0.5%以下を含有することも好ましい実施形態であり、更に、他の元素として、Sn、Mg、およびAlよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下を含有することも好ましい実施形態である。
本発明の銅合金は、引張強さ470MPa以上、0.2%耐力450MPa以上の高強度、導電率70%IACS以上の高導電性を有すると共に、W曲げ加工した際に、R(曲げ半径)/t(板厚)=0.5のときに、日本伸銅協会技術標準JBMA−T307:2007年に記載の「しわ」「割れ」の最大幅(μm)の評価基準に準拠した後記実施例で示す9段階の評価において、D評価よりもより優れた曲げ加工性を有する。したがって本発明の銅合金は、強度と導電性のバランスがよく、また高強度を有しつつも厳しい曲げ加工条件でも割れが発生しない。特に本発明の銅合金は、0.1〜1.0mm程度の厚み(t)を有する電気・電子部品用材料として好適である。
本発明者らは、強度と導電性のバランスに優れると共に、特に高強度を維持しつつ、W曲げ加工(R/t=0.5)のような厳しい加工条件でも割れが発生することがない、強度−曲げ加工性のバランス向上のための条件について検討を重ねた。その結果、Cr−Ti−Si系銅合金において、成分組成を制御すると共に、結晶粒のサイズと形状を制御することによって、強度−導電性バランスを維持しつつ、強度−曲げ加工性バランスをより一層向上できることを見出し、本発明に至った。
本発明に係る銅合金は、微細化された結晶粒に最大の特徴があるので、まず、この点について詳述する。
一般に銅合金においては、平均結晶粒径が小さいほど、曲げ加工性が向上することが知られている。しかしながらこれは曲げ加工性のみを考慮し、銅合金を高温で熱処理を行い、再結晶した結晶粒に関する知見である。一方、本発明者らは、製造条件から検討を行い、強度−導電性バランスを維持しつつ、強度−曲げ加工性バランスを向上させた銅合金について研究を重ねた。その結果、焼鈍温度を低くして、再結晶を抑制した場合、このような十分に再結晶していない銅合金が上記課題達成において有効であるとの知見を得た。しかしながら銅合金の組織(結晶粒)が小さすぎて、光学顕微鏡などでは、結晶粒と銅合金特性との関係を適切に評価するとこが困難であったため、具体的な結晶粒の形状やサイズと加工性などの銅合金特性との関係について更なる検討が必要であった。
そこで本発明者らがFESEM−EBSPを用いて銅合金の結晶粒について詳細に検討した結果、結晶粒の長軸(最大長さ)と短軸(最小長さ)の夫々の長さを適切に制御すれば、強度、導電性、及び曲げ加工性をバランスよく維持できること、また結晶粒の長軸と短軸の夫々の長さを制御するだけでなく、結晶粒のアスペクト比も適切に制御すれば、粒界の間隔が最適化されて粒界すべりが生じやすくなるため、曲げ加工した際の強度−曲げ加工性のバランスを一層向上できることが分かった。
このように結晶粒の長軸や短軸だけでなく、結晶粒のアスペクト比まで制御することによって、従来よりもより厳しい曲げ加工条件においても、強度、導電性、及び曲げ加工性をバランスよく維持できる。
本発明の銅合金の結晶粒の長軸と短軸は、幅方向に垂直な面の表面の金属組織をFESEM−EBSPにより測定したとき、結晶粒の長軸の平均長さが5.0μm以下、短軸の平均長さが0.40μm以下である。
結晶粒の長軸の平均長さが5.0μm超となると、長軸方向の粒界間隔が長くなって曲げ加工性が不十分となる。したがって結晶粒の長軸の平均長さは5.0μm以下、好ましくは3.8μm以下である。長軸の平均長さの下限は特に限定されない。
また結晶粒の短軸の平均長さが0.40μm超となると、短軸方向の粒界間隔が長くなって曲げ加工性が不十分となる。したがって結晶粒の短軸の平均長さは0.40μm以下、好ましくは0.32μm以下である。短軸の平均長さの下限は特に限定されない。
本発明では結晶粒の長軸と短軸の平均長さを上記範囲内とすると共に、更に結晶粒の平均アスペクト比(短軸/長軸)を適切に制御することによって、強度−曲げ加工性のバランスを一層向上できる。結晶粒の長軸と短軸の平均長さが上記範囲内であっても、平均アスペクト比が0.115未満であると、結晶粒が伸張した形状となって、長軸方向の粒界間隔が相対的に長くなるため長軸方向と短軸方向の夫々の粒界間隔のバランスが悪くなり、十分な強度−曲げ加工性のバランスが得られない。一方、平均アスペクト比が0.300を超えると、一部再結晶が生じており、十分な強度−曲げ加工性のバランスが得られない。したがって結晶粒の平均アスペクト比は0.115以上、好ましくは0.120以上であって、0.300以下、好ましくは0.250以下である。
上記結晶粒の長軸の平均長さと短軸の平均長さ、及び平均アスペクトは、FESEM−EBSP法によって測定・算出する。具体的には、電界放出型走査電子顕微鏡(Field Emission Scanning Electron Microscope:FESEM)に後方散乱電子回折像(EBSP:Electron Backscatter Diffraction Pattern)システムを搭載した結晶方位回折法を用いて測定する。EBSP法では、FESEMの鏡筒内にセットした試料に、電子線を照射してスクリーン上にEBSPを投影する。これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込む。コンピュータでは、この画像を解析して、各結晶粒を楕円と近似し、長軸長さと短軸長さを測定すると共に、全結晶粒の長軸の平均長さと短軸の平均長さを算出する。平均アスペクト比は、各結晶粒の[短軸の長さ/長軸の長さ]から各結晶粒のアスペクト比を算出し、測定視野中の結晶粒におけるアスペクト比の平均値を算出する。
本発明では、銅合金幅方向に垂直な面の表面の金属組織をFESEM−EBSP法により測定している。また測定視野(測定位置、測定サイズ)は測定面の板厚中心付近の厚み方向10μm×圧延方向に30μmの範囲を測定視野とし、測定ステップ間隔を0.05μmとして任意の5箇所を測定し、その平均値を算出する。
次に、本発明の銅合金の成分組成について説明する。本発明の銅合金は、上記所望の効果を得るためには、銅合金の成分組成を適切に制御することも重要である。
Cr:0.10〜0.50%
Crは、単体の金属CrまたはSiとの化合物として析出することにより、銅合金の強度向上に寄与する作用を有する。Cr含有量が0.10%を下回ると、所望の強度を確保することが困難となる。一方、Cr含有量が0.50%を超えると、粗大な晶出物が多量に生成してしまい、曲げ加工性に悪影響を及ぼすことがある。したがってCr含有量は、0.10%以上、好ましくは0.2%以上であって、0.50%以下、好ましくは0.40%以下である。
Ti:0.010〜0.30%
Tiは、Siとの化合物として析出することにより、銅合金の強度向上に寄与する作用を有する。またTiは、CrやSiの固溶限を低下させ、これらの析出を促進させる効果がある。Tiの含有量が0.010%を下回ると、十分な量の析出物を形成できないため、所望の強度を確保することが困難となる。一方、Ti含有量が0.30%を超えると、粗大な晶出物が多量に生成してしまい、曲げ加工性に悪影響を及ぼす。したがってTi含有量は、0.010%以上、好ましくは0.02%以上であって、0.30%以下、好ましくは0.15%以下である。
Si:0.01〜0.10%
Siは、CrやTiとの前記化合物を析出させて銅合金の強度向上に寄与する作用を有する。Si含有量が0.01%を下回ると、析出物の形成が不十分となり、所望の強度を確保することが困難となる。一方、Si含有量が0.10%を超えると、導電性が悪くなったり、曲げ加工性に悪影響を及ぼすことがある。したがってSi含有量は、0.01%以上、好ましくは0.02%以上であって、0.10%以下、好ましくは0.08%以下とする。
本発明においては、強度、導電性、及び曲げ加工性をバランスよく一層向上させるために、添加元素(Cr、Ti、Si)の含有比率を以下範囲内となるように調整する。
Cr/Ti(質量比、以下同じ):1.0〜30
銅合金に含まれるCrとTiの質量比(Cr/Ti)のバランスは強度と導電性に影響する。すなわち、Cr/Tiが小さい方が高い強度が得られる。したがって、Cr/Tiは30以下、好ましくは15以下となるように調整することが望ましい。またCr/Tiが1.0よりも小さいと時効処理後の銅合金中のTi固溶量が多くなりすぎ、導電性が低下する。したがってCr/Tiは1.0以上、好ましくは3.0以上となるように調整することが望ましい。
Cr/Si(質量比、以下同じ):3.0〜30
銅合金に含まれるCrとSiの質量比(Cr/Si)のバランスは曲げ加工性と導電性に影響する。すなわち、Cr/Siが大きくなりすぎると、導電性が低下する。したがってCr/Siは30以下、好ましくは20以下となるように調整することが望ましい。またCr/Siが3.0よりも小さいと、強度−曲げ加工性バランスに悪影響を及ぼす。また他の元素の固溶量が増加して導電性が悪化することがある。したがってCr/Siは3.0以上、好ましくは10以上となるように調整することが望ましい。
本発明は上記成分組成、Cr/Ti、およびCr/Siを満足し、残部は銅、および不可避的不純物である。不可避的不純物としては例えばV、Nb、Mo、Wなどの元素が例示される。不可避的不純物の含有量が多くなると強度、導電性、曲げ加工性などを低下させることがあるため、総量で、好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下とすることが望ましい。
本発明では上記銅合金に更に以下の元素を添加してもよい。
Fe、Ni、およびCoよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下(Fe、Ni、Coを単独で含むときは単独の含有量であり、複数を含む場合は合計量である。)
Fe、Ni、Coは、Siとの化合物を析出させて銅合金の強度及び導電性を向上させる作用を有する。含有量(合計)が多くなりすぎると固溶量が多くなって導電性が悪化するため、好ましくは0.3%以下、より好ましくは0.2%以下である。一方、含有量(合計)が少なすぎると、上記強度及び導電性向上効果が十分に得られないため、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.03%以上である。
Zn:0.5%以下
Znは、電気部品の接合に用いるSnめっきやはんだの耐熱剥離性を改善し、熱剥離を抑制する効果を有する。このような効果を有効に発揮させるためには0.01%以上含有させることが好ましい。しかし、過剰に含有させると、かえって溶融Snやはんだの濡れ広がり性が劣化し、また導電性が悪化することから、好ましくは0.5%以下である。
Sn、Mg、Alよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下(Sn、Mg、Alを単独で含むときは単独の含有量であり、複数含む場合は合計量である。)
Sn、Mg、Alは、固溶することによって銅合金の強度を向上させる効果を有する。このような効果を十分に発揮させるためには、合計量で0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.03%以上である。一方、過剰に含有させると導電性が得られなくなることから、好ましくは0.3%以下である。
次に、上記本発明に係る銅合金の好ましい製造条件について説明する。本発明では結晶粒の長軸と短軸の平均長さ、及び平均アスペクト比を上記特定の範囲内に制御された結晶粒を得るために、特に冷間圧延を複数回行うと共に、冷間圧延と冷間圧延の間で中間焼鈍を施すところに特徴を有する。
まず、成分組成を調整した銅合金を溶解、鋳造して得られた鋳塊を加熱(均質化熱処理を含む)した後、熱間圧延を行い、続いて複数回の冷間圧延と中間焼鈍を行うことにより、本発明の銅合金(最終板)が製造される。
銅合金の溶解、鋳造、その後の加熱処理は通常の方法によって行うことができる。例えば所定の化学成分組成に調整した銅合金を電気炉で溶解した後、連続鋳造などにより銅合金鋳塊を鋳造する。その後、鋳塊をおおむね800〜1000℃程度に加熱し、必要に応じて一定時間保持(例えば10〜120分)する。
本発明では熱間圧延の圧下率を好ましくは70%以上とする必要がある。即ち、70%未満の圧下率で熱間圧延を行うと、その後に行われる冷間圧延の圧下率を高くしても結晶粒の長軸と短軸の平均長さを所定の範囲に制御することが困難となる。より好ましい圧下率は90%以上である。熱間圧延の圧下率の上限は特に限定されず、目的とする板厚、及び後記冷間圧延率との関係で決定すればよい。なお、上記圧下率は、1回の熱間圧延で達成する必要はなく、複数回の熱間圧延を行った場合は、その合計圧下率が70%以上であればよい。
熱間圧延後は室温まで急冷することが望ましい。熱間圧延後の冷却速度が小さいと、熱間圧延後の結晶粒が大きくなり、その結果最終板の結晶粒が大きくなって、曲げ加工性が悪くなる。したがって熱間圧延後の平均冷却速度は、空冷を超える速度とし、好ましくは50℃/秒以上とすることが望ましい。冷却速度の上限は特に限定されない。急冷手段としては、例えば水冷が例示される。
熱間圧延後に複数回(2回以上)の冷間圧延と、冷間圧延と冷間圧延の間で中間焼鈍を施す。本発明では冷間圧延を複数回(2回以上)行って結晶粒の微細化を図っているが、結晶粒の平均アスペクト比を所定の範囲内とするためには冷間圧延と冷間圧延の間で中間焼鈍を行う必要がある。冷間圧延と中間焼鈍を繰り返すことで、結晶粒が微細化して短軸および長軸を所定の範囲に制御すると共に、中間焼鈍中の回復現象により結晶粒を所定のアスペクト比に制御できる。
本発明では冷間圧延を複数回行うが、冷間圧延の合計冷延率は95%以上となるようにする。冷間圧延によって結晶粒が分断され、特に長軸方向の結晶粒径が微細化される。合計冷延率が95%未満だと、冷間圧延によって導入されるひずみが不十分であり結晶粒が十分に微細化されず、長軸方向の結晶粒が大きくなりすぎて、長軸方向の粒界間隔が相対的に長くなるため後記する中間焼鈍を施しても、結晶粒の長軸方向と短軸方向の夫々の粒界間隔のバランスが悪くなり、その結果、十分な曲げ加工性が得られない。好ましい合計冷延率は97%以上である。一方、圧延率の上限は特に限定されず、所望の製品板厚となるように適宜調整すればよい。
なお、本発明では冷間圧延を複数回行うが、1回あたりの冷間圧延率は特に限定されず、冷間圧延を複数回行ってその合計圧延率が95%以上となればよい。また冷間圧延の回数も特に限定されず、冷間圧延設備などの製造条件に応じて複数回冷間圧延を行って合計圧延率が95%以上となるように行えばよい。
冷間圧延と冷間圧延の間では中間焼鈍を行うが、上記冷間圧延で結晶粒を微細化した後で中間焼鈍を施すと、焼鈍中の回復現象によって結晶粒のアスペクト比を制御できる。焼鈍温度が低すぎると原子の拡散が起こらないため、アスペクト比を所定の範囲に制御することができない。一方、焼鈍温度が高すぎると部分的に再結晶が生じて強度が著しく低下すると共に、結晶粒のサイズや形状を所定の範囲に制御することが困難となって、強度−曲げ加工性バランスが劣る。したがって好ましい焼鈍温度は300℃以上、より好ましくは350℃以上であって、好ましくは600℃以下、より好ましくは550℃以下である。焼鈍時間は特に限定されないが、例えば30分〜10時間程度である。また焼鈍後は水冷または放冷により冷却してから冷間圧延を行えばよい。
最終冷間圧延後、時効処理を行う。時効処理を適切に行うことによって、上記所定の微細な結晶粒を確保して銅合金の強度、導電性、及び曲げ加工性を向上させることができる。
時効処理は、350℃〜650℃の温度にて30分〜10時間程度行い、時効後は水冷または放冷により冷却することが望ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
銅合金をクリプトル炉において、大気中、木炭被覆下で溶解し、鋳鉄製ブックモールドに鋳造し、表1に記載する化学組成(残部銅及び不可避的不純物)を有する厚さ(=t)200mmt(No.1〜23、27〜33、36)または100mmt(No.24〜26、34、35、37)の鋳塊を得た。
その後、一部の試料では熱間圧延率を変更するため、該鋳塊の表面を面削により、80mmt(No.24)、または50mmt(No.25、26、34、35、37)とした後、加熱して950℃に到達後、1時間保持した後、表1記載(「熱延の圧下率」参照)の所定の圧下率で熱間圧延し20mmtの板(No.1〜24、27〜34、36、37)または5mmtの板(No.25、26、35)とし、圧延終了後、750℃以上の温度から室温まで水冷(平均冷却速度:100℃/s)した。その後、酸化スケールを除去した後、一部の試料は面削を行ってから(No.26は3.3mmt、No.35は2mmt、No.37は2.9mmtとした)、冷間圧延を行った。冷間圧延と冷間圧延の間では所定の温度で2時間中間焼鈍を行った後(表1中、「中間焼鈍温度」参照)、室温まで水冷(平均冷却速度:100℃/秒)してから次の冷間圧延を施した。なお、冷間圧延は所定の圧下率まで複数回行うと共に(表1中、「冷延の圧下率」参照)、冷間圧延の間で必ず中間焼鈍を行った(中間焼鈍条件は同じ)。最終的に冷延後の厚さが0.20mmの銅合金板を得た。その後、バッチ焼鈍炉にて、450℃にて2時間の時効処理を行った。
なお、No.26は、冷間圧延を1回(圧下率94%)とし、中間焼鈍も行っていない例である。またNo.37は、特許文献4を模擬した例であり、No.37では1回目の冷間圧延で板厚を1.27mmとした後、中間焼鈍を施し、2回目の冷間圧延で板厚0.20mmとした。
得られた銅合金板(最終板)から試料(試験片)を切り出し、結晶粒の測定、及び引張強度、0.2%耐力、導電性、曲げ加工性を下記要領で行った。これらの結果を表2に示す。
(結晶粒のサイズ、アスペクト比)
以下の要領で幅方向に垂直な面の表面の結晶粒の長軸および短軸の長さ、及び平均アスペクト比を求めた。試料の幅方向に垂直な面の組織を観察するため、試料を樹脂埋めし、試料幅方向に垂直な面を機械研磨した後、更に、バフ研磨に次いで電解研磨を行い、試料を調製した。その後、電界放出型走査電子顕微鏡(日本電子社製FESEM:JEOL JSM 5410)を用いてEBSPによる結晶粒の測定を行った。測定領域は板厚方向に10μm×圧延方向に30μm(測定サイズ)とした。測定箇所は任意の5箇所について行い、その平均を求めた。
EBSP測定・解析システムは、EBSP:TSL社製(OIM)を用いた。EBSP法では、FESEMの鏡筒内にセットした上記各試料に、電子線を照射してスクリーン上にEBSPを投影し、これを高感度カメラで撮影して、コンピュータに画像として取り込んだ。コンピュータでは、この画像を解析して、結晶粒の最大長さ(長軸)と最小長さ(短軸)を測定し、撮影視野中の全結晶粒における長軸の平均長さ(表2中、「平均長軸」)と短軸の平均長さ(表2中、「平均短軸」)を求めた。
またアスペクト比は結晶粒の長軸と短軸から各結晶粒のアスペクト比(短軸/長軸)を算出し、その平均を求めて平均アスペクト比とした(表2中、「平均アスペクト比」)。
(引張強度・耐力)
圧延方向に平行に切り出した試験片(サイズ:JIS5号)を作製し、5882型インストロン社製万能試験機により、室温、試験速度10.0mm/min、GL=50mmの条件で、引張強度、0.2%耐力を測定した。本発明では引張強度470MPa以上、且つ0.2%耐力450MPa以上を高強度と評価した。
(導電性)
導電性は、ミーリングにより、幅10mm×長さ300mmの短冊状の試験片を加工し、ダブルブリッジ式抵抗測定装置により電気抵抗を測定して、平均断面積法により算出した。本発明では導電性70%(IACS)以上を良好と評価した。
(曲げ加工性)
銅合金板試料の曲げ試験は、日本伸銅協会技術標準に従って行った。板材を幅10mm×長さ30mmに切り出した試料を用いてW曲げ試験を行った。曲げ半径Rと、銅合金板の板厚tとの比(R/t)が、0.5となるように曲げ加工を実施した。W曲げ加工を行いながら、曲げ部における割れの有無を10倍の光学顕微鏡で観察した。割れの評価は日本伸銅協会技術標準(JBMA−T307:2007年)に準拠して評価した。具体的には伸銅協会技術標準では評価が5段階であるが、本発明では詳細に曲げ加工性を評価するために、「しわ」「われ」の最大幅(μm)をA(10以下)、A〜B(10超〜15以下)、B(15超〜20以下)、B〜C(20超〜25以下)、C(25超〜30以下)、C〜D(30超〜35以下)、D(35超〜40以下)、D〜E(40超〜45以下)、E(45超)の9段階で評価し、本発明ではD評価より優れているもの(すなわち、C〜D評価以上)を曲げ加工性が優れていると評価した。結果を表2に記載する。
Figure 0005867861
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No.1〜25は、本発明の上記規定を満足する化学組成、及び製造条件の例であり、いずれも十分な導電率を有すると共に、強度(引張強度、0.2%耐力)と曲げ加工性のバランスにも優れていた。
No.27〜33は、本発明で規定する成分組成を満足せず、所望の特性が得られなかった例である。
No.27は、Cr含有量が本発明の規定よりも多く、またCr/Si比が本発明の規定を上回る例である。No.27ではCr含有量が多いため、粗大な晶出物が生成してしまい、十分な曲げ加工性が得られなかった。Cr/Si比が所定の条件を満たしていないため導電性が悪かった。
No.28は、Cr含有量が本発明の規定よりも少なく、またCr/Ti比が本発明の規定を下回る例である。No.28ではCr含有量が少ないため、析出せずに固溶しているTi量が多くなって導電性が悪化すると共に、強度が低いため曲げ加工性はよかったが、所定の強度を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。
No.29は、Ti含有量が本発明の規定よりも少なく、またCr/Ti比が本発明の規定を上回る例である。No.29では強度が低いため曲げ加工性はよかったが、所定の強度を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。
No.30は、Ti含有量が本発明の規定よりも多く、またCr/Ti比が本発明の規定を下回る例である。No.30では、Ti固溶量も多くなって、強度−曲げ加工性のバランス、及び導電性が悪かった。
No.31は、Si含有量が本発明の規定よりも多く、またCr/Si比が本発明の規定を下回る例である。No.31では導電性が悪く、また所定の曲げ加工性を有しておらず、強度−曲げ加工性バランスが悪かった。
No.32は、Fe含有量が本発明の規定を上回る例である。No.32ではFe固溶量が多くなりすぎて導電性がわるかった。
No.33は、Sn含有量が本発明の規定よりも多い例である。No.33では導電性が悪かった。
No.26、34〜37は、本発明で規定する製造条件を満たさず、所望の結晶粒が得られなかった例である。
No.26は、低い圧延率での冷間圧延が1回であり、中間焼鈍を行っていない例である。No.26では冷間圧延率が低く、また中間焼鈍も行わなかったため、結晶粒のアスペクト比を所定の範囲とすることができず、結晶粒の長軸と短軸のバランスが悪くなってしまい、十分な曲げ加工性を確保できなかった。
No.34は、熱間圧延の圧下率が低い例である。圧下率が低かったため、結晶粒の長軸と短軸を所定のサイズに調整することができず、曲げ加工性が悪かった。
No.35は、冷間圧延の合計圧下率が低い例である。No.35では圧下率が低かったため、結晶粒のアスペクト比を所定の範囲とすることができず、結晶粒の長軸と短軸のバランスが悪くなってしまい、十分な曲げ加工性を確保できなかった。
No.36は、中間焼鈍温度が高い例である。No.36では再結晶が生じてしまい強度が著しく低下したため、十分な曲げ加工性が得られたが、強度−曲げ加工性のバランスが悪かった。
No.37は、熱間圧延の圧下率と冷間圧延の合計圧下率が低い例である。No.37では圧下率が低かったため、結晶粒の長軸と短軸が粗大化すると共にアスペクト比を所定の範囲に調整することができず、十分な曲げ加工性を確保できなかった。

Claims (4)

  1. Cr:0.10〜0.50%(質量%の意味、以下同じ)、
    Ti:0.010〜0.30%、
    Si:0.01〜0.10%、
    前記Crと前記Tiの質量比:1.0≦(Cr/Ti)≦30、
    前記Crと前記Siの質量比:3.0≦(Cr/Si)≦30、
    となるように含有し、残部が銅及び不可避的不純物からなる銅合金であって、
    前記銅合金の圧延方向と板厚方向に平行な切断面の表面の金属組織をFESEM−EBSP法により測定したとき、結晶粒の長軸の平均長さが5.0μm以下、短軸の平均長さが0.40μm以下であり、且つ結晶粒の平均アスペクト比(短軸/長軸)が0.115〜0.300であることを特徴とする銅合金。
  2. 更に、他の元素として、
    Fe、Ni、およびCoよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下含有するものである請求項1に記載の銅合金。
  3. 更に、他の元素として、
    Zn:0.5%以下を含有するものである請求項1または2に記載の銅合金。
  4. 更に、他の元素として、
    Sn、Mg、およびAlよりなる群から選択される少なくとも一種以上:合計で0.3%以下を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の銅合金。
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