JPWO2003072621A1 - 耐衝撃改質剤とその製造法、および熱可塑性樹脂組成物 - Google Patents
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Abstract
Description
本発明は、耐候性、発色性等の特性に優れた耐衝撃改質剤とその製造法、および、その改質剤を含む熱可塑性樹脂組成物に関する。
背景技術
ABS樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン、アクリル系樹脂など汎用の熱可塑性樹脂の耐衝撃性、耐候性、顔料着色性、耐熱分解性を改良する方法に関しては、従来より多くの技術が知られている。
例えば、特公平4−325542号公報には、ゴム状重合体ラテックスに特定のアルコールを加えることによって、耐衝撃性を維持しつつ製品外観等を改良する方法が開示されている。また、特開平10−101869号公報には、イソブチレン系重合体セグメントとビニル重合体セグメントが相互に分離できない構造を有する複合ゴムにビニル系単量体をグラフト重合したグラフト共重合体を、汎用の熱可塑性樹脂に配合して、その耐衝撃性を向上させる方法が開示されている。
また、ブタジエン系ゴム状重合体にメチルメタクリレート、スチレン、アクリロニトリルなどをグラフト重合させた樹脂[例えばMBS(メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン)樹脂等]を改質剤として、熱可塑性樹脂に混合し、その耐衝撃性を改良する方法がある。しかし、MBS樹脂を混合すると耐候性が低下し、その成型品を屋外で使用すると、耐衝撃性が経時的に著しく低下するという欠点がある。耐候性が低下する主な原因は、MBS樹脂を構成するブタジエン単位の紫外線劣化に基づくものと考えられている。
そこで、アルキル(メタ)アクリレートと架橋剤とから得た架橋アルキル(メタ)アクリレートゴム重合体に、メチルメタクリレート、スチレン、アクリロニトリルなどをグラフト重合させることにより、耐候性を改良し、かつ耐衝撃性を付与する方法が、特公昭51−28117号公報に提案されている。しかし、このグラフト重合体は、アクリル系樹脂の屈折率等に起因して、MBS樹脂に比べて顔料着色性等の発色性に問題がある。
また、特開2001−31830号公報には、重合体の粒子径等を規制することによって、発色性、耐候性、耐衝撃性等を改良した熱可塑性樹脂組成物が提案されている。特に、耐衝撃改質剤のゴム粒子径を小さくすると色調が改善される傾向があることが示され、耐衝撃性との両立の為に必要に応じてMBS樹脂を添加している。ただし、この重合体は、マトリクス樹脂への添加を意図したものではない。
また、新規なアクリル複合ゴムを用いた耐衝撃改質剤が特開2000−26552号公報に、また特定粒子径分布をもつアクリル複合ゴムを用いた耐衝撃改質剤が特開2000−319482号公報に開示されている。これら改質剤にば確かに耐衝撃性の改善効果は認められる。しかし、外観に影響する発色性、リサイクル性といった特にエンジニアリングプラスチックスに要求される総合的な物性に関する記載は無い。また、これら改質剤よりも、より高いレベルが求められているのが実情である。
従来技術では、耐候性、発色性、耐衝撃性を高いレベルで調和させる方法に関して、さらに改善の余地を残している。例えば、自動車、OA機器等の外板材料の塗装を省略する為には、樹脂の発色性、特に濃色系における漆黒性を高いレベルとし、それと同時に耐衝撃性、さらには耐候性を高いレベルでバランス良く付与する方法は、現在もっとも求められる技術である。
発明の開示
本発明の目的は、少量添加することにより樹脂の耐衝撃性を向上させ、かつ得られた成型品の耐候性、顔料着色性、耐湿熱性を、さらには耐熱変形性をも良好に維持し、しかも、難燃用途において種々の難燃剤を使用しても耐衝撃改質剤に起因する難燃性不良を起こさない、高い物性バランスを有する耐衝撃改質剤を提供することにある。
本発明は、(メタ)アクリル系単量体またはその混合物を主成分として得たガラス転移温度が0℃以下のゴム質重合体であって、質量基準の粒子径分布を基にして、80質量%以上の粒子径が400〜1000nmの範囲内であるゴム質重合体(A)と、1種または2種以上のビニル系単量体から得たグラフト部(B)とから成るグラフト共重合体から構成された耐衝撃改質剤である。
さらに本発明は、上記耐衝撃改質剤を製造する方法であって、ゴム質重合体(A)を2段階以上の重合工程により製造する耐衝撃改質剤の製造方法である。
さらに本発明は、熱可塑性樹脂および上記耐衝撃改質剤を含む熱可塑性樹脂組成物である。
なお、本発明における「(メタ)アクリル」および「(メタ)アクリレート」という表現は、各々、アクリルとメタクリル、および、アクリレートとメタクリレートの総称である。
発明を実施するための最良の形態
本発明に用いるゴム質重合体(A)は、(メタ)アクリル系単量体またはその混合物を主成分として得たアクリル系ゴムである。(メタ)アクリル系単量体は特に制限されないが、一般に、(メタ)アクリレートを使用する。その具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、トリデシルアクリレート、エトキシエトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ラウリルアクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等が挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
ゴム質重合体(A)は、0℃以下のガラス転移温度をもつ重合体であることが耐衝撃発現性の面で好ましく、特にn−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、トリデシルアクリレート、ラウリルメタクリレート、トリデシルメタクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。また、室温付近において結晶性を有する(メタ)アクリレート[ステアリルメタクリレート等]を用いる場合は、これを溶解する単量体と混合して使用するとよい。
ゴム質重合体(A)は、単量体の1種または2種以上を単に重合させて得た(共)重合体であっても良いが、特に、低温衝撃強度においてさらに高い物性を発現させる複合ゴムであることが好ましい。
複合ゴムの好適な例としては、分岐側鎖をもつアルコールまたは炭素数が13以上のアルキル基を有するアルコールの(メタ)アクリル酸エステル、あるいは、ヒドロキシル基、メトキシ基またはエトキシ基を含有する(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも1種を構成成分として含むアクリルゴム(A1)成分と、n−ブチルアクリレートを構成成分として含むアクリルゴム(A2)成分とを主成分とする複合ゴムであり、アクリルゴム(A1)成分由来のガラス転移温度(Tg1)が、アクリルゴム(A2)成分由来のガラス転移温度(Tg2)よりも低いものが挙げられる。このような複合ゴムは、単純な共重合タイプのゴムに比べて、より高い低温耐衝撃性を付与することが可能である。
アクリルゴム(A1)成分の構成成分としては、特に、2−エチルヘキシルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、トリデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、ステアリルメタクリレート、ステアリルアクリレートが好ましい。
また、複合ゴムは、通常はアクリルゴム(A1)成分5〜95質量%とアクリルゴム(A2)成分95〜5質量%を含み、好ましくはアクリルゴム(A1)成分10〜90質量%とアクリルゴム(A2)成分90〜10質量%を含み、さらに好ましくはアクリルゴム(A1)成分10〜80質量%とアクリルゴム(A2)成分90〜20質量%を含む。これら範囲は、共重合タイプのゴムに対する優位性の点で意義がある。
ゴム質重合体(A)を得るために用いる単量体は、通常は、分子中に2個以上の不飽和結合を有する単量体を含み、その含有量は2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。分子中に2個以上の不飽和結合を有する単量体は、架橋剤またはグラフト交叉剤として機能する。架橋剤としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、多官能メタクリル基変性シリコーン等が挙げられる。グラフト交叉剤としては、例えば、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。アリルメタクリレートは、架橋剤として用いることもできる。これら架橋剤およびグラフト交叉剤は、単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
また、複合ゴムをゴム質重合体(A)として用いる場合、アクリルゴム(A1)成分およびアクリルゴム(A2)成分に対する架橋剤またはグラフト交差剤の使用量は、夫々の成分に対する使用量(質量%)を基準として、(A1)成分よりも(A2)成分に対する使用する量の方が多いことが好ましい。
ゴム質重合体(A)は、10℃以下にガラス転移温度を2つ以上有することが好ましい。さらに、アクリルゴム(A1)成分由来のガラス転移温度(Tg1)が、アクリルゴム(A2)成分由来のガラス転移温度(Tg2)よりも低いことが好ましい。ガラス転移温度がこのような条件を満たす場合、得られる耐衝撃改質剤がより高い耐衝撃性を発現する。このことは、複合ゴムであるとの特徴でもあり、単純な共重合体とは異なる点でもある。
ここで、重合体のガラス転移温度は、動的機械的特性解析装置(以下「DMA」という)によるTanδの転移点として測定される。一般に、単量体から得られた重合体は固有のガラス転移温度を持ち、単独(単一成分または複数成分のランダム共重合体)では一つの転移点が観測されるが、複数成分の混合物、あるいは複合化された重合体では、夫々に固有の転移点が観測される。例えば、2成分からなる場合、測定により2つの転移点が観測される。DMAにより測定されるTanδ曲線では、2つのピークが観測される。組成比に偏りがある場合や転移温度が近い場合には、夫々のピークが接近する場合があり、ショルダー部分を持つピークとして観測される場合があるが、単独成分の場合に見られる単純な1ピークの曲線とは異なるので判別可能である。
(メタ)アクリル系単量体と他の単量体の混合物を使用して共重合させる場合、他の単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、メタクリル酸変性シリコーン、フッ素含有ビニル化合物等の各種のビニル系単量体を共重合成分として含んでいてもよい。他の単量体の使用量は、30質量%以下が好ましい。
ゴム質重合体(A)の粒度分布に関して、本発明においては、ゴム質重合体(A)の80質量%以上がキャピラリー・ハイドロ・ダイナミック・フロー・フラクショネーション(以下「CHDF」という。)により測定する。このCHDFは、粒子径、およびその分布を測定する手法の一つであり、乳化ラテックス、粒子分散懸濁液などに使用される一般的な測定方法のひとつである。本明細書中における粒子径および粒子径分布という表現はCHDFによる測定に基づいた数値である。
本発明に於いては、CHDF方式により測定される粒子径分布を基にして、400〜1000nmの範囲内の粒子径を有する。この範囲の下限が400nmを下回ると、マトリクス樹脂(耐衝撃改質剤を配合する熱可塑性樹脂)、特に2成分以上でアロイ化された場合のマトリクス樹脂中で、耐衝撃改質剤が凝集する傾向にあり、衝撃強度が低下する。また、上限が1000nmを超える場合も、耐衝撃性が低下する。さらに、本発明においては、ゴム質重合体(A)の90質量%以上が400〜1000nmの範囲内の粒子径を有することが好ましく、ゴム質重合体(A)の全てがこの範囲内の粒子径を有することがより好ましい。また、ゴム質重合体(A)の80質量%以上が400〜800nmの範囲内の粒子径を有することが好ましく、400〜700nmの範囲内の粒子径を有することがより好ましい。
また、ゴム質重合体(A)が、CHDF方式により測定される粒子径分布を基にして、400〜1000nmの範囲内に検出される各ピークを中心とする粒子径群の内、最大の質量をもつ粒子径群の質量比率が、400〜1000nmの範囲内にある粒子径群の全質量の70質量%以上であることが好ましい。
工業的な製造時における制約等を考慮すると、ゴム質重合体(A)を、CHDF方式により測定される粒子径分布を基にして、400〜1000nmの範囲内に存在する質量を基準とするピークに代表される粒子群の最も大きい割合を持つ粒子群が90質量%以上となるようにすることが好ましく、これにより全体の物性を高いレベルでバランスさせることができる。
また、CHDF方式により測定される粒子径分布を基にして、質量基準で80%以上の粒子径が400〜1000nmの範囲内であるゴム質重合体(A)において、質量基準における粒子径の小粒子径側からの累積分布の15%に相当する粒子径(d15)と、85%に相当する粒子径(d85)の差をdとする場合に、d=d85−d15が180nm以下であることが好ましい。
さらに、ゴム質重合体(A)において、CHDF方式により測定される粒子径分布を基にして、400〜1000nmの範囲内に検出される各ピークを中心とする粒子径群の内、最大の質量をもつ粒子径群の質量比率が、400〜1000nmの範囲内にある粒子径群の全質量の70質量%以上であることが好ましい。
ゴム質重合体(A)の粒度分布は、従来より知られる方法により測定できる。具体的には、先述のCHDF方式による市販の粒度分布測定装置を用いて、粒度分布のグラフを作成し、このグラフから粒度分布の詳細を知ることができる。
ゴム質重合体(A)の製造方法は、特に制限されない。例えば、(メタ)アクリル系単量体またはその混合物を、乳化重合法、懸濁重合法等で重合させることによって、ゴム質重合体(A)を得ることができる。一般に、乳化重合で得られる重合体の粒子径は大きく、懸濁重合では小さい。上述した粒度分布のゴム質重合体(A)を得るための方法としては、例えば、乳化剤が存在しない状態で、開始剤として過硫酸カリウム等を用いて重合させる方法がある。pHが中性付近、好ましくはpH6以上で、重合開始剤として過硫酸カリウムを用いれば、過硫酸カリウムより硫酸イオンラジカルが発生し、重合体の分子末端は硫酸エステル型となる。
また、上述した粒度分布のゴム質重合体(A)を製造する為には、2段階以上の重合工程を実施することが好ましい。特に、重合時間を短くする為、かつ重合カレット等の生成を抑える為には、重合工程を2段階以上に分け、乳化剤非存在下で、粒子径増大と共に重合速度が遅くなる第1段階目の重合工程と、乳化剤の存在下で乳化重合を行なう第2段階目以降の重合工程とを組み合わせて実施することが好ましい。
また、ゴム質重合体(A)を製造する為に2段階以上の重合工程を実施する場合は、2段階目以降の重合工程において、乳化剤は、2回以上に分割添加することが好ましい。乳化剤を単量体等の混合物に純水と共に混合し、同時に系中に添加して重合を行なう方法も好ましい例である。
別の手法としては、上述のような乳化剤非存在下での重合工程が無い、通常の乳化剤を用いた乳化重合方法がある。ただし、この方法では、1段階で所望の粒子径を得るのは一般的に困難であり、通常は数段に分割して粒子径を成長させる。その際、1段目の重合における乳化剤の使用量は、最終的に仕込まれる全単量体100質量部に対して好ましくは0.5質量部以下が、より好ましくは0.2質量部、特に好ましくは0.1質量部以下、最も好ましくは0.05部以下である。このような少量にすれば、粒子径が小さくなり過ぎず、後段のシード重合の工程を短くでき、余剰の乳化剤が新たな粒子を生成するという問題を防止でき、所望の粒子径を得易くなる。
また、ゴム質重合体(A)は、肥大化剤、凝集剤を意図的に使用して粒子径を成長させるのではなく、シード重合により得ることが好ましい。
最終的に目的とする粒子径を得ようとする場合、1段目に使用するモノマー量をできるだけ少なくする方が良い。具体的には、最終的に仕込まれる全単量体100質量部に対して、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下とする。このような少量にすれば、所望の粒子径を得ることが容易になる。
また、ゴム質重合体(A)が、2−エチルヘキシルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、トリデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、ステアリルメタクリレートおよびステアリルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を構成成分として含むアクリルゴム(A1)成分と、n−ブチルアクリレートを構成成分として含むアクリルゴム(A2)成分とを主成分とする複合ゴムである場合、特に(A1)成分の重合時に、強制乳化処理工程を含むことが好ましい。この工程は、通常の乳化重合だと重合時のスケール付着や重合速度低下等が生じる場合、特に乳化重合しにくい単量体を使用する場合に有効である。具体的には、まず、インラインミキサーのような機器を用いて予備乳化し、さらに5MPa以上の圧力をかけることのできるホモジナイザーのような強制乳化機を用いて本分散を行なう。この際乳化された単量体の粒子径は、平均的に約0.1〜10μm程度となる。
さらに、強制乳化された単量体を含む乳化液を、好ましくは2段階以上の工程に分けて重合することによって、本発明の所望の粒子径を得ることができる。このような方法によれば、重合スケールの付着等も非常に改善され、効率的な工程サイクルを実現することが可能となる。
さらに、(A1)成分の存在下に、(A2)成分を構成する原料を一括で仕込み、その後触媒を添加して重合を行なうことが好ましい。
なお、酸基含有ポリマー粒子またはその塩等を用いる方法は、比較的簡便に粒子径を大きく出来るものの、本発明の粒度分布は得にくく、さらに、それら肥大化剤によってマトリクス樹脂の物性を悪化させる場合があるので好ましくない。
ゴム質重合体(A)を製造する際には、乳化剤または分散安定剤として、アニオン性、非イオン性、カチオン性など、従来より知られる各種の界面活性剤を使用できる。また必要に応じて、2種以上の界面活性剤を混合して用いることもできる。
以上説明したゴム質重合体(A)の存在下に、1種または2種以上のビニル系単量体をグラフト重合させることにより、ゴム質重合体(A)とグラフト部(B)から成るアクリルゴム系グラフト共重合体を得ることができる。
グラフト部(B)を製造する為に用いるビニル系単量体は、特に制限されない。その具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族アルケニル化合物;メチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリル酸エステル;メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物等の各種のビニル系単量体が挙げられる。これらビニル系単量体は、1種を単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
ビニル系単量体は、耐衝撃性、耐熱性の点から、分子中に2個以上の不飽和結合を有するビニル系単量体を含むことが好ましい。その具体例としては、エチレングリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、ジビニルベンゼン、多官能メタクリル基変性シリコーン等、架橋剤として機能する単量体;アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等、架橋剤および/またはグラフト交叉剤として機能する単量体などが挙げられる。これら単量体の使用量は20質量%以下であることが好ましい。
なお、グラフト部(B)は、1段、もしくは多段重合により製造することが出来る。耐衝撃改質剤のマトリクス中での分散性、界面強度等をどのように設定したいかにもよるが、これを多段化することにより、耐衝撃性を向上させる効果がある。例えば、グラフト部(B)がグリシジルメタクリレートのような反応性単量体単位を含む場合は、グリシジルメタクリレートの反応性を保持しつつ、分散性等を良好に保つ方法として、多段重合により製造することは有効な手段である。ただし、いたずらに多段化することは製造工程が増加し、生産性が低下するので、必要以上に増加することは好ましくない。しがたって、その重合は5段以下が好ましく、3段以下がより好ましい。
グラフト成分(B)を製造する為の重合方法としては、一般的な滴下重合を用いることもできるが、ゴム質重合体(A)の1段目を乳化剤非存在下で製造した場合には、ゴム質重合体(A)の存在下に、グラフト部(B)を構成する成分を一括で仕込み、その後触媒を添加して重合する方法が良い。この方法によれば、粉体回収時に、凝集粒子が融着しにくくなる。また、多段重合の場合、2段目以降は一括で仕込んでも、滴下で仕込んでも構わない。
グラフト共重合体におけるゴム質重合体(A)とグラフト部(B)の比率は、両者の合計100質量部を基準として、ゴム質重合体(A)の量が80〜99質量部であることが好ましく、80〜95質量部であることがより好ましく、80〜90質量部であることが特に好ましい。グラフト部(B)の量が1質量部以上であれば、得られるグラフト共重合体の樹脂中での分散性が良好となり、樹脂組成物の加工性が向上する。一方、グラフト部(B)の量が20質量部以下であれば、グラフト共重合体の衝撃強度発現性が向上する。
さらに、本発明では、ゴム質重合体(A)および/またはグラフト部(B)に、エポキシ基、ヒドロキシル基およびイソボロニル基からなる群より選ばれる官能基を含有するビニル系モノマーの1種あるいは2種以上の単量体単位を含むことが好ましい。これにより、もとより良好である顔料着色性や耐熱変形性といった物性を、これらを含まない場合に比較してさらに向上させる効果が認められる。したがって、要求物性に応じてこれらの官能基を導入することができる。この官能基を含有するビニル系モノマーの単量体単位の含有量は、対象とするマトリクス樹脂に応じて最適量は異なるが、耐衝撃性の点から、ゴム質重合体(A)またはグラフト部(B)中、50質量%以下が好ましい。また、顔料着色性や耐熱変形性の点から、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。
本発明の耐衝撃改質剤は、さらにスルフォン酸基、スルフォ琥珀酸もしくは硫酸基を含有する化合物(R)またはその塩を含むことができる。さらに、この化合物(R)はフェニル骨格を持つことが好ましい。この化合物(R)またはその塩を含むことで、耐衝撃性がさらに向上する。これらは、グラフト共重合体に対して後から添加することもでき、またグラフト共重合体を製造する際の任意の段階で反応系に加えてもよい。例えば、グラフト共重合体を製造する為の乳化重合時の乳化剤として使用することもできる。
特に、1分子中にフェニル基を2個持つスルフォン酸またはこれを中和して得た塩を含むと、樹脂と共に成型する際の熱安定性が向上する。この1分子中に少なくともフェニル基を1個以上有するスルフォン酸またはそのスルフォン酸塩は、アルキルフェニル型、アルキルフェニルエーテル型等であってもよく、分子中にノニオンであるポリオキシエチレン鎖を含んでいてもよい。これら化合物は単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用できる。特に好ましく用いられるものは、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム等のアルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸塩である。
化合物(R)またはその塩は、樹脂組成物の耐衝撃性の点から、耐衝撃改質剤中に0.1〜100000ppmで存在するように配合されることが好ましい。より好ましい範囲は0.1〜10000ppm、特に好ましい範囲は0.5〜5000ppmである。
化合物(R)またはその塩が乳化能を持つ場合は、上述したようにこれを乳化剤として使用することができる。凝析剤を用いる場合には、化合物(R)またはその塩のカウンターイオンが元来とは異なるイオンとなる場合があるが構わない。なお、噴霧回収法を用いれば、実質的に投入された化合物(R)またはその塩は、仕込んだ量だけ残存することになる。
重合に使用する乳化剤としては、上記条件を満たす化合物であるフェニル骨格を有するものと、さらに必要に応じてカルボン酸系乳化剤を使用すると、重合安定性と、耐湿熱性などの要求物性を向上させることができる。
また本発明の耐衝撃改質剤を構成する成分は、さらに、メルカプト基、硫酸基、アンモニウム基、カルシウム原子の中から選ばれる1種または2種以上を含むことができる。これらの基の由来については特に制限はなく、乳化剤が有していてもよいし、耐衝撃改質剤を構成する分子鎖の一部に組み込まれていてもよい。この場合、耐衝撃発現性がさらに向上する。
カルシウム分を含む場合は、耐衝撃性の向上、耐候性や耐湿熱性の向上に有効である。カルシウムの含有量は、上述の各物性の点から、耐衝撃改質剤100質量部に対して0.0001質量部(1.0ppm)〜10質量部が好ましい。カルシウム源については特に限定はない。
また、得られたグラフト共重合体を粉体として湿式凝析により回収する際に使用する凝析剤として、カルシウム塩を使用することも好ましい。
また、本発明の耐衝撃改質剤は、さらに無機系フィラー(C)を含有することが好ましい。これにより、耐熱変形性をより向上することが可能となる。無機フィラー(C)の種類や量は、耐熱変形性が要求される用途において、必要に応じて決定すればよい。無機フィラー(C)としては、例えば、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウムなどの炭酸塩、酸化チタン、クレー、タルク、マイカ、シリカ、カーボンブラック、グラファイト、ガラスビーズ、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維が挙げられる。また、水溶性もしくは懸濁状態にあるフィラーを使用することもできる。無機フィラー(C)とグラフト共重合体を組み合わせることで、これまでに述べてきた物性と、耐熱変形性とを高度にバランス良く発現できる。
無機フィラー(C)は、グラフト共重合体ラテックスに直接、もしくは粉体回収時、さらにはペレット化する時等、いずれの状況でも添加することもできる。
無機フィラー(C)の量は、グラフト共重合体100質量部に対して0.01〜30質量部が好ましく、0.01〜20質量部がより好ましく、0.01〜10質量部が特に好ましく、0.01〜5質量部が最も好ましい。上記各範囲の下限値は、耐熱性の点で意義が有る。また上限値は、耐衝撃性の意義が有る。
以上説明したグラフト重合を行なうと、ゴム質重合体(A)とグラフト部(B)から成るグラフト共重合体は、通常、ラテックスとして得られる。本発明においては、このラテックスとして得たグラフト共重合体を、噴霧回収または酸、塩による湿式凝固により、粉体または顆粒として回収することが好ましい。ただし、官能基を含む場合には、酸による湿式凝固は好ましくない。酸を用いた場合には、官能基を失活、あるいは悪影響を及ぼす場合があるからである。また、塩類を用いた湿式凝固を行なう場合は、アルカリ土類金属塩、例えば酢酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム等を用いることが好ましい。アルカリ土類金属を用いれば、リサイクル性を考慮した耐湿熱性、すなわち、水分および熱によるマトリクス樹脂の分解等の劣化を極力抑制することができる。
さらに、リサイクル性を考慮した回収法としては、凝析剤用の塩類そのものを含まない噴霧回収法が有効である。噴霧回収する際には、グラフト共重合体以外に、フィラー類、あるいはその他の重合体を同時に共噴霧し、両者が合わさった粉体として回収することができる。共噴霧するものの種類を選ぶことにより、粉体性状のより好ましい取り扱い性を実現することもできる。共噴霧する成分としては、本発明中に記述されるカルシウム成分をはじめ、シリカ、硬質ビニル系共重合体等が挙げられる。
本発明の耐衝撃改質剤は、通常、熱可塑性樹脂に配合して使用する。すなわち本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と本発明の耐衝撃改質剤を主成分として含む組成物である。耐衝撃改質剤の配合量は特に制限されないが、一般的には、熱可塑性樹脂100質量部に対して1〜40質量部が好ましく、1〜20質量部がより好ましい。
熱可塑性樹脂の具体例としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のオレフィン系樹脂;ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体(MS)、スチレン・アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン・無水マレイン酸共重合体(SMA)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル・スチレン・アクリレート共重合体(ASA)、アクリロニトリル・EPDM・スチレン共重合体(AES)等のスチレン系樹脂(St系樹脂);ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル系樹脂(Ac系樹脂);ポリカーボネート系樹脂(PC系樹脂);ポリアミド系樹脂(PA系樹脂);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂(PEs系樹脂);(変性)ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE系樹脂)、ポリオキシメチレン系樹脂(POM系樹脂)、ポリスルフォン系樹脂(PSO系樹脂)、ポリアリレート系樹脂(PAr系樹脂)、ポリフェニレン系樹脂(PPS系樹脂)、熱可塑性ポリウレタン系樹脂(PU系樹脂)等のエンジニアリングプラスチックス;スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、フッ素系エラストマー、1,2−ポリブタジエン、トランス1,4−ポリイソプレン等の熱可塑性エラストマー(TPE);PC/ABS等のPC系樹脂/St系樹脂アロイ、PVC/ABS等のPVC系樹脂/St系樹脂アロイ、PA/ABS等のPA系樹脂/St系樹脂アロイ、PA系樹脂/TPEアロイ、PA/PP等のPA系樹脂/ポリオレフィン系樹脂アロイ、PBT系樹脂/TPE、PC/PBT等のPC系樹脂/PEs系樹脂アロイ、ポリオレフィン系樹脂/TPE、PP/PE等のオレフィン系樹脂同士のアロイ、PPE/HIPS、PPE/PBT、PPE/PA等のPPE系樹脂アロイ、PVC/PMMA等のPVC系樹脂/Ac系樹脂アロイ等のポリマーアロイ;硬質、半硬質、軟質塩化ビニル樹脂;などが挙げられる。
上述の各種樹脂のうち、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂が好ましい。さらに、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ABS樹脂が特に好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物に難燃性能が必要な場合は、難燃剤を添加できる。特に、ハロゲン系難燃剤、リン酸系難燃剤、シリコーン系難燃剤は、所期の目的とする耐衝撃性等を損なうことなく、高い難燃性を発現することができるので好ましい。例えば、ハロゲン含有化合物、リン酸系化合物、シリコーン系化合物、ハロゲン含有有機金属塩系化合物等を用いることが好ましい。難燃剤の具体例としては、リン酸エステル化合物、亜リン酸エステル化合物、縮合リン酸エステル化合物等のリン酸系化合物;水酸化アルミニウム;三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸アンチモン系化合物;含ハロゲンリン酸エステル化合物、含ハロゲン縮合リン酸エステル化合物、塩素化パラフィン、臭素化芳香族トリアジン、臭素化フェニルアルキルエーテル等の臭素化芳香族化合物等のハロゲン含有化合物;スルフォンあるいは硫酸塩系化合物;エポキシ系反応型難燃剤;等が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を調製する場合は、その物性を損なわない限りにおいて、熱可塑樹脂のコンパウンド時、混練時、成形時等の所望の段階で、従来より知られる各種の安定剤、充填剤等を添加できる。
安定剤には、金属系安定剤と、非金属系安定剤がある。金属系安定剤の具体例としては、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜硫酸鉛、ケイ酸鉛等の鉛系安定剤;カリウム、マグネシウム、バリウム、亜鉛、カドミウム、鉛等の金属と、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、ベヘン酸等の脂肪酸から誘導される金属石けん系安定剤;アルキル基、エステル基等と、脂肪酸塩、マレイン酸塩、含硫化物等から誘導される有機スズ系安定剤;Ba−Zn系、Ca−Zn系、Ba−Ca−Sn系、Ca−Mg−Sn系、Ca−Zn−Sn系、Pb−Sn系、Pb−Ba−Ca系等の複合金属石けん系安定剤;バリウム、亜鉛等の金属と、2−エチルヘキサン酸、イソデカン酸、トリアルキル酢酸等の分岐脂肪酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸、ナフテン酸等の脂肪環族酸、石炭酸、安息香酸、サリチル酸、それらの置換誘導体などの芳香族酸といった通常二種以上の有機酸から誘導される金属塩系安定剤;これら安定剤を、石油系炭化水素、アルコール、グリセリン誘導体等の有機溶剤に溶解し、さらに亜リン酸エステル、エポキシ化合物、発色防止剤、透明性改良剤、光安定剤、酸化防止剤、プレートアウト防止剤、滑剤等の安定化助剤を配合してなる金属塩液状安定剤;などが挙げられる。非金属系安定剤の具体例としては、エポキシ樹脂、エポキシ化大豆油、エポキシ化植物油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステル等のエポキシ化合物;リンが、アルキル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシル基等で置換され、かつプロピレングリコール等の2価アルコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA等の芳香族化合物を有する有機亜リン酸エステル;2,4−ジ−t−ブチル−3−ヒドロキシトルエン(BHT)や硫黄やメチレン基等で二量体化したビスフェノール等のヒンダードフェノール、サリチル酸エステル、ベンゾフェノン、ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤;ヒンダードアミンまたはニッケル錯塩の光安定剤;カーボンブラック、ルチル型酸化チタン等の紫外線遮蔽剤;トリメロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール等の多価アルコール;β−アミノクロトン酸エステル、2−フェニルインドール、ジフェニルチオ尿素、ジシアンジアミド等の含窒素化合物;ジアルキルチオジプロピオン酸エステル等の含硫黄化合物;アセト酢酸エステル、デヒドロ酢酸、β−ジケトン等のケト化合物;有機珪素化合物;ほう酸エステル;などが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
充填剤の具体例としては、重質炭酸カルシウム、沈降性炭酸カルシウム、膠質炭酸カルシウム等の炭酸塩;酸化チタン、クレー、タルク、マイカ、シリカ、カーボンブラック、グラファイト、ガラスビーズ、ガラス繊維、カーボン繊維、金属繊維等の無機質系の充填剤;ポリアミド等の有機繊維、シリコーン等の有機質系の充填剤;木粉等の天然有機物;などが挙げられる。特に、グラスファイバーやカーボンファイバー等の繊維状補強材を含む繊維強化樹脂組成物は、非常に有用である。
さらに必要に応じて、上述した以外の各種の添加剤を使用することもできる。その具体例としては、MBS、ABS、AES、NBR(アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム)、EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合体)、塩素化ポリエチレン、アクリルゴム、ポリアルキル(メタ)アクリレートゴム系グラフト共重合体、熱可塑性エラストマー等の本発明のもの以外の耐衝撃改質剤;(メタ)アクリル酸エステル系共重合体等の加工助剤;ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジウンデシルフタレート、トリオクチルトリメリテート、トリイソオクチルトリメリテート等の芳香族多塩基酸のアルキルエステル;ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジシオノニルアジペート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレート、ジイソノニルアゼレート等の脂肪酸多塩基酸のアルキルエステル;トリクレジルフォスフェート等のリン酸エステル、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸等の多価カルボン酸と、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール等の多価アルコールとの分子量600〜8,000程度の重縮合体の末端を一価アルコールまたは一価カルボン酸で封止した化合物等のポリエステル系可塑剤;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化トール油脂肪酸−2−エチルヘキシル等のエポキシ系可塑剤;塩素化パラフィン等の可塑剤;流動パラフィン、低分子量ポリエチレン等の純炭化水素、ハロゲン化炭化水素、高級脂肪酸、オキシ脂肪酸等の脂肪酸、脂肪酸アミド、グリセリド等の脂肪酸の多価アルコールエステル、脂肪酸の脂肪アルコールエステル(エステルワックス)、金属石けん、脂肪アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、脂肪酸と多価アルコールの部分エステル、脂肪酸とポリグリコール、ポリグリセロールの部分エステル等のエステル、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体等の滑剤;(メタ)アクリル酸エステル系共重合体、イミド系共重合体、スチレン・アクリロニトリル系共重合体等の耐熱向上剤;離型剤、結晶核剤、流動性改良剤、着色剤、帯電防止剤、導電性付与剤、界面活性剤、防曇剤、発泡剤、抗菌剤;などが挙げられる。
本発明の樹脂組成物、すなわち熱可塑性樹脂および本発明の耐衝撃改質剤を含む熱可塑性樹脂組成物を製造する方法は、特に制限されない。従来より知られる各種の混合方法を使用できるが、通常は、溶融混合法が好ましい。また、必要に応じて少量の溶剤を使用してもよい。混合に使用する装置としては、押出機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダー等が挙げられる。これら装置は、回分的または連続的に運転すればよい。成分の混合順は特に限定されない。
本発明の樹脂組成物の用途は、特に制限されない。例えば、建材、自動車、玩具、文房具などの雑貨、さらには自動車部品、OA機器、家電機器などの耐衝撃性が必要とされる成型品に広く利用できる。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。文中の「部」は「質量部」を示す。
[製造例1−1:耐衝撃改質剤(1−1)の製造]
コンデンサーおよび撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに、ホウ酸0.3部および炭酸ナトリウム0.03部を水200部に溶解したものを仕込み、80℃まで昇温し、窒素気流200ml/minで容器内を50分間置換し、その後、過硫酸カリウム0.7部を仕込み、5分間保持した。次いで、n−ブチルアクリレート10部、n−ブチルアクリレート量に対して0.5質量%に相当する量のアリルメタクリレート、および、n−ブチルアクリレート量に対して0.5質量%に相当する量のn−オクチルメルカプタンを混合したものを、10分間かけて容器内に仕込み、内温80℃のまま100分保持して、ゴム質重合体(A)製造の為の1段目の重合工程を完了した。
その後、硫酸第1鉄0.002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.006部、ロンガリット0.1部および蒸留水5部の混合液を投入し、5分間保持した。次いで、系内にラウリル硫酸ナトリウム0.05部を加え、さらに、n−ブチルアクリレート75部、n−ブチルアクリレート量に対して0.5質量%に相当する量のアリルメタクリレート、および、n−ブチルアクリレート量に対して0.1質量%に相当する量のターシャリブチルパーオキサイドを混合したものを、200分かけて滴下した。この重合の際には、滴下開始後45分、90分、125分の3度に渡って、ラウリル硫酸ナトリウム0.05部を投入した。滴下終了後、80℃で150分間保持して、2段目の重合工程を完了し、ゴム質重合体(A)[ポリアルキル(メタ)アクリレート系複合ゴム]のラテックスを得た。このゴム質重合体(A)の重合率は99.9%であった。また、ラテックスのゲル含量は92.7%であった。このゲル含量は、ラテックスをエタノールで凝固乾燥し、その固形物をトルエンで90℃、12時間抽出して測定した値である。
このゴム質重合体(A)のラテックスの温度を65℃に下げ、メチルメタクリレート13部およびブチルアクリレート2部、ならびに、この2つの単量体の合計量に対して1質量%に相当する量のアリルメタクリレートを混合したものを系中に仕込み、その後さらに、ラウリル硫酸ナトリウム0.05部、ロンガリット0.05部を水10部に溶解したものを系中に投入して、グラフト重合を行った。その後、150分間保持して重合を完了し、ゴム質重合体(A)とグラフト部(B)から成るアクリルゴム系グラフト共重合体のラテックスを得た。このグラフト共重合体のラテックスを、酢酸カルシウム5.0質量%を溶解した熱水200部中に滴下し、凝固、分離し、洗浄し、75℃で16時間乾燥し、粉末状のアクリルゴム系グラフト共重合体[耐衝撃改質剤(1−1)]を得た。
以上の製造工程における単量体の仕込み組成を、下記表1にまとめて示す。また、ゴム質重合体(A)の粒度分布と、アクリルゴム系グラフト共重合体のガラス転移温度を測定した結果を、下記表5に示す。
[製造例2−1:耐衝撃改質剤(2−1)の製造]
コンデンサーおよび撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに、ラウリル硫酸ナトリウム0.0008部を水200部に溶解したものを仕込み、次いでn−ブチルアクリレート1部、n−ブチルアクリレート量に対して0.2質量%に相当する量のアリルメタクリレート、および、n−ブチルアクリレート量に対して0.5質量%に相当する量のターシャリブチルハイドロパーオキサイドを容器内に仕込み、窒素気流200ml/minで容器内を50分間置換した。その後、65℃まで昇温して硫酸第1鉄0.002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.006部、ロンガリット0.02部および蒸留水5部の混合液を投入し、100分間保持して、1段目の重合工程を完了した。
次いで、系内を60℃に調温し、ラウリル硫酸ナトリウム0.1部を加え、さらに、n−ブチルアクリレート5部、n−ブチルアクリレート量に対して0.2質量%に相当する量のアリルメタクリレート、および、n−ブチルアクリレート量に対して0.5質量%に相当する量のターシャリブチルパーオキサイドを混合したものを、25分かけて滴下し、滴下終了後、150分間保持して、2段目の重合工程を完了した。
さらに系内の温度を55℃に調温し、n−ブチルアクリレート14部、n−ブチルアクリレート量に対して0.2質量%に相当する量のアリルメタクリレート、および、n−ブチルアクリレート量に対して0.2質量%に相当する量のターシャリブチルパーオキサイドを混合したものを系内に一括して仕込み、5分間保持し、次いでロンガリット0.05部および蒸留水10部の混合液を投入して、3段目の重合を開始した。その後65℃で100分間保持して、3段目の重合工程を完了した。
さらに系内の温度を55℃に調温し、n−ブチルアクリレート65部、n−ブチルアクリレート量に対して0.5質量%に相当する量のアリルメタクリレート、および、n−ブチルアクリレート量に対して0.5質量%に相当する量のターシャリブチルパーオキサイドを混合したものを系内に一括して仕込み、5分間保持し、次いでロンガリット0.15部および蒸留水10部の混合液を投入して、4段目の重合を開始した。その後65℃で100分間保持して、4段目の重合工程を完了し、ゴム質重合体(A)のラテックスを得た。このゴム質重合体(A)の重合率は99.8%であった。また、ラテックスのゲル含量は95.7%であった。
このゴム質重合体(A)のラテックスの温度が65℃の状態で、メチルメタクリレート14.5部およびブチルアクリレート0.5部、ならびに、この2つの単量体の合計量に対して0.5質量%に相当する量のターシャリブチルパーオキサイドを混合したものを、25分間に渡り系中に滴下した。その後150分間保持してグラフト重合を完了し、ゴム質重合体(A)とグラフト部(B)から成るアクリルゴム系グラフト共重合体のラテックスを得た。このグラフト共重合体のラテックスを、酢酸カルシウム5.0質量%を溶解した熱水200部中に滴下し、凝固、分離し、洗浄し、75℃で16時間乾燥し、粉末状のアクリルゴム系グラフト共重合体[耐衝撃改質剤(2−1)]を得た。
以上の製造工程における単量体の仕込み組成を、下記表2にまとめて示す。また、ゴム質重合体(A)の粒度分布と、アクリルゴム系グラフト共重合体のガラス転移温度を測定した結果を、下記表5に示す。
[製造例3−1:耐衝撃改質剤(3−1)の製造]
2−エチルヘキシルアクリレート15部、2−エチルヘキシルアクリレート量に対して0.2質量%に相当する量のアリルメタクリレートと、ラウリル硫酸ナトリウム0.2部、水40部を、特殊機化工業社製のTKホモミキサーで12000rpm、5分間予備分散し、その後、ゴウリン社製ホモジナイザーLB−40型を用いて圧力20MPaで強制乳化し、プレエマルジョンを得た。
コンデンサーおよび撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに、上記プレエマルジョンと水120部を仕込み、次いでプレエマルジョン中の2−エチルヘキシルアクリレート量に対して0.5質量%に相当する量のターシャリブチルハイドロパーオキサイドを容器内に仕込み、窒素気流200ml/minで容器内を50分間置換した。その後、50℃まで昇温して硫酸第1鉄0.002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.006部、ロンガリット0.02部および蒸留水5部の混合液を投入し、100分間保持して、1段目の重合工程を完了した。
次いで、系内を60℃に調温し、先ほど調製したものと同じ配合のプレエマルジョンを系内に一括投入し、さらにラウリル硫酸ナトリウム0.1部、および今投入したプレエマルジョン中の2−エチルヘキシルアクリレート量に対して0.5質量%に相当する量のターシャリブチルパーオキサイドを混合し、攪拌しながら系内を60℃に調温した。次いで、ロンガリット0.02部および蒸留水5部の混合液を投入し、100分間保持して、2段目の重合工程を完了し、ゴム質重合体(A1)成分を得た。
さらに系内の温度を55℃に調温し、ゴム質重合体(A2)成分としてn−ブチルアクリレート55部、n−ブチルアクリレート量に対して0.5質量%に相当する量のアリルメタクリレート、および、n−ブチルアクリレート量に対して0.5質量%に相当する量のターシャリブチルパーオキサイドを混合したものを系内に一括して仕込み、5分間保持し、次いでロンガリット0.1部および蒸留水10部の混合液を投入して、3段目の重合を開始した。その後65℃で100分間保持して、3段目の重合工程を完了し、前記(A1)(A2)成分を含むゴム質重合体(A)のラテックスを得た。このゴム質重合体(A)の重合率は99.9%であった。また、ラテックスのゲル含量は96.7%であった。
このゴム質重合体(A)のラテックスの温度が65℃の状態で、メチルメタクリレート14.5部およびブチルアクリレート0.5部、ならびに、この2つの単量体の合計量に対して0.5質量%に相当する量のターシャリブチルパーオキサイドを混合したものを、25分間に渡り系中に滴下した。その後150分間保持してグラフト重合を完了し、ゴム質重合体(A)とグラフト部(B)から成るアクリルゴム系グラフト共重合体のラテックスを得た。このグラフト共重合体のラテックスを、酢酸カルシウム5.0質量%を溶解した熱水200部中に滴下し、凝固、分離し、洗浄し、75℃で16時間乾燥し、粉末状のアクリルゴム系グラフト共重合体[耐衝撃改質剤(3−1)]を得た。
以上の製造工程における単量体の仕込み組成を、下記表6にまとめて示す。また、ゴム質重合体(A)の粒度分布と、アクリルゴム系グラフト共重合体のガラス転移温度を測定した結果を、下記表5に示す。
[製造例1−2〜1−12、製造例2−2〜2−6、および、製造例3−2〜3−11]
製造例1−2〜1−12においては、下記表1に示す組成で各成分を用いたこと以外は製造例1−1と同様にして耐衝撃改質剤1−2〜1−12を製造した。製造例2−2〜2−6においては、下記表2に示す組成で各成分を用いたこと以外は製造例2−1と同様にして耐衝撃改質剤2−2〜2−6を製造した。製造例3−2〜3−11においては、下記表3に示す組成で各成分を用いたこと以外は製造例3−1と同様にして耐衝撃改質剤3−2〜3−11を製造した。また、それらのゴム質重合体(A)の粒度分布と、アクリルゴム系グラフト共重合体のガラス転移温度を測定した結果、さらに成分(R)[化合物(R)またはその塩]を添加したものについてはその含有量を、下記表5および表6に示す。
成分(R)の定量は次の方法で行なった。秤量した試料をクロロホルムで溶解分散させ、その後約10倍量のメタノールで抽出し、メタノール層を濃縮した。これを再度メタノールで洗浄し、その後濃縮した。この濃縮した試料に100mlの純水を添加し、70℃、24時間加温抽出し、室温まで冷却し、濾過し、ろ液を乾固し、秤量した。得られた水抽出物を、HPLC及びFT−IRを用いて測定し、成分の同定と定量を行った。HPLCの測定条件は以下とおりである。
カラム:ODS系(Zorbax−ODS 4.6mm径−150mm長)
測定温度:40℃
溶離液:アセトニトリル/DIW=10/90→20分後に100/0へ(1.0ml/min)
検出器:DAD(250nm)
[製造例C1:耐衝撃改質剤(C1)の製造]
製造例1−1における1段目の重合工程の仕込み段階において、ホウ酸0.3部および炭酸ナトリウム0.03部を水200部に溶解したものに、更に牛脂肪酸カリウム0.45部を添加し、さらに製造例1−1において、系内に数度に渡り分割添加したラウリル硫酸ナトリウムを、牛脂肪酸カリウムとし、その量を各々0.05部から0.3部に変更した以外は製造例1−1と同様にして耐衝撃改質剤(C1)を製造し、粒度分布とグラフト共重合体のガラス転移温度の測定を行った。結果を下記表4および表6に示す。
[製造例C2:耐衝撃改質剤(C2)の製造]
製造例1−1における1段目の重合工程の仕込み段階において、ホウ酸0.3部および炭酸ナトリウム0.03部を水200部に溶解したものに、更に牛脂肪酸カリウム0.7部を添加し、さらに製造例1−1において系内に数度に渡り分割添加したラウリル硫酸ナトリウムを牛脂肪酸カリウムとし、その量を各々0.05部から0.4部に変更したこと以外は製造例1−1と同様にして、アクリルゴム系グラフト共重合体(C2A)のラテックスを得た。さらに、このラテックスを固形分で80部採取したものと、製造例1−1で得たアクリルゴム系グラフト共重合体(1−1)のラテックスを固形で20部採取したものとを混合し、次いでこれを製造例1−1と同様の方法で凝固、乾燥して耐衝撃改質剤(C2)を製造し、粒度分布とグラフト共重合体のガラス転移温度の測定を行った。結果を下記表4および表6に示す。
[製造例C3:耐衝撃改質剤(C3)の製造]
2−エチルヘキシルアクリレート10部と、2−エチルヘキシルアクリレート量に対して1.0質量%に相当する量のアリルメタクリレートとからなる混合物を、アルケニル琥珀酸ジカリウム塩を0.08部溶解した蒸留水19.5部に加え、ホモミキサーにて10,000rpmで予備撹拌し、さらにホモジナイザーにより30MPaの圧力で乳化、分散させ、(メタ)アクリレートエマルジョンを得た。
このエマルジョンを、コンデンサーおよび撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに移し、窒素置換および混合撹拌しながら加熱し、50℃になった時にターシャリブチルハイドロパーオキサイド0.5部を添加した。その後、50℃に昇温し、硫酸第1鉄0.002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.006部、ロンガリット0.26部および蒸留水5部の混合液を投入し、5時間保持して、1段目の重合工程を完了して、アクリルゴム(C3−1)のラテックスを得た。
このアクリルゴム(C3−1)のラテックスを撹拌機を備えたセパラブルフラスコに入れ、系内の蒸留水量が195部となるように追加した。さらに、n−ブチルアクリレート75部、n−ブチルアクリレート量に対して2.0質量%に相当する量のアリルメタクリレート、およびターシャリブチルハイドロパーオキサイド0.32部の混合液を仕込み、10分間撹拌し、この混合液をアクリルゴムラテックスの粒子に浸透させた。次いで、硫酸ポリオキシエチレンエーテルを0.5部追加し、10分間攪拌し、その後窒素置換を行い、系内を50℃に昇温し、硫酸第1鉄0.002部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.006部、ロンガリット0.26部および蒸留水5部の混合液を仕込み、2段目の重合を開始した。その後内温70℃で2時間保持し、2段目の重合工程を完了して、ゴム質重合体(A)のラテックスを得た。そのゲル含量は、98.3質量%であった。
このゴム質重合体(A)のラテックスに、ターシャリブチルハイドロパーオキサイド0.06部と、メチルメタクリレート13部およびブチルアクリレート2.0部との混合液を70℃にて15分間にわたり滴下し、その後70℃で4時間保持し、グラフト重合を完了し、ゴム質重合体(A)とグラフト部(B)から成るアクリルゴム系グラフト共重合体のラテックスを得た。このグラフト共重合体のラテックスを、塩化カルシウム1.5質量%を溶解した熱水200部中に滴下し、凝固、分離し、洗浄し、75℃で16時間乾燥し、粉末状のアクリルゴム系グラフト共重合体[耐衝撃改質剤(C3)](C3)を得た。
・ゴム質重合体(A)の粒度分布測定:
得られたゴム質重合体(A)のラテックスを蒸留水で希釈し、これを試料として、CHDF方式による粒度分布計である米国MATEC社製CHDF2000型粒度分布計を用いて、その粒度分布を測定した。測定条件は、MATEC社が推奨する標準条件で行った。具体的には、専用の粒子分離用キャピラリー式カートリッジおよびキャリア液を用い、液性はほぼ中性、流速1.4ml/min、圧力約4000psi、温度35℃に保った状態で、濃度約3%の希釈ラテックス試料0.1mlを用いて測定した。また、標準粒子径物質として、米国DUKE社製の粒子径既知の単分散ポリスチレンの粒子径0.02μmから0.8μmの範囲内のものを、合計12点用いた。なお、図1〜図3は、各々、そのようにして測定した製造例1−1、2−1、3−1のゴム質重合体(A)の質量基準粒度分布を示すグラフである。
・グラフト共重合体のガラス転移温度の測定:
グラフト共重合体70部とポリメタクリル酸メチル(PMMA)30部を共に25φ単軸押し出し機を用いて250℃でペレット化し、200℃設定のプレス機を用いて3mm厚の板に調製し、およそ幅10mm長さ12mmに切り出し、TA Instruments社のDMA983型測定器を用いて昇温速度2℃/minの条件で測定し、得られたTanδ曲線の転移点に対応した温度をガラス転移温度として求めた。なお本実施例において、このガラス転移温度の値はポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴム由来の値である。
表1〜4中の各成分の略号は以下の化合物を示す。
「BA」:n−ブチルアクリレート
「2EHA」:2−エチルヘキシルアクリレート
「TDMA」:トリデシルメタクリレート
「AMA」:アリルメタクリレート
「1,3−BD」:1,3−ブチレングリコールジメタクリレート
「n−OM」:n−オクチルメルカプタン
「MMA」:メチルメタクリレート
「St」:スチレン
「GMA」:グリシジルメタクリレート
*表1〜4中、「%」で示される数値は各段中の仕込み単量体を合計したものに対する質量割合を示す。
[実施例1〜28および比較例1〜4]
各実施例においては各製造例で得た耐衝撃改質剤を使用し、比較例においては製造例C1〜C3で得た耐衝撃改質剤(C1〜C3)またはMBS樹脂(三菱レイヨン(株)社製、商品名メタブレンC223A)を使用し、これら耐衝撃改質剤を各種の熱可塑性樹脂(マトリクス樹脂)に配合して、ペレットを製造した。具体的には、下記表7に示す7種類の割合(配合1〜7)で、ヘンシェルミキサーにより4分間混合し、30mmΦ二軸押し出し機を用いてシリンダー温度280℃で溶融混練し、ペレット状に賦型した。なお、マトリクスとなる各熱可塑性樹脂は、各製品の推奨する乾燥条件によって乾燥し、残存水分等に起因する加水分解等の影響を排した上で使用した。
このようにして得た熱可塑性樹脂組成物から成るペレットを用いて、以下の方法に従い、耐衝撃、耐熱変形、耐湿熱、熱着色および発色性について評価した。その結果を下記表8および表9に示す。
・耐衝撃性試験、耐候性試験:
得られたペレットを用い、射出成形により1/8インチアイゾット試験片を製造した。この成型直後の試験片に対して、ASTM D256に準じて23℃でのアイゾット衝撃強度(J/m)を測定した。また、この試験片を、60℃に調温した大日本プラスチックス(株)製アイスーパーUVテスターに8時間かけて、その後60℃、95%に調温、調湿した恒温恒湿器に16時間入れるという操作を5回繰り返し、ASTM D256に準拠して23℃でのアイゾット衝撃強度(J/m)を測定することにより、耐候試験後の耐衝撃性を評価した。
また、表中の延性脆性転移温度は、各温度での耐衝撃試験における延性本数が50%となる温度を試験結果から計算により求めた値である。この温度が低いほど低温衝撃性に優れると判断される。
・耐熱変形試験:
得られたペレットを用い、射出成形により厚み1/4インチの燃焼棒を製造し、東洋精機製作所製自動HDT測定装置を用いて、ASTM D648に準拠して測定した。この変形温度が高いほど、耐熱変形性良好であることを示す。
・耐湿熱試験:
得られたペレットのメルトフローレート、およびそのペレットを平山製作所製プレッシャークッカーにて、温度120℃、湿度100%、60時間曝露した後のメルトフローレートを測定し、その差を計算した。この値が小さいほどいわゆる樹脂の加水分解の程度が小さく、耐湿熱性が良好であることを示す。
・熱着色:
得られたペレットを射出成形により10cm角の平板を製造した。この平板について、村上色彩技術研究所製の測定機CMS−1500型を用いて、黄色味、すなわちYI値を測定し、その後140℃、空気雰囲気下で20時間加熱し、再度YI値を測定し、その差を計算した。この差の値が小さい方が、熱による着色が小さく熱着色性良好であることを示す。
・発色性試験:
得られたペレットに対して、三菱化学製カーボンブラックを0.5部追加添加し、射出成形により10cm角の平板を製造した。この平板について、村上色彩技術研究所製の測定機CMS−1500型を用いて、発色性の基準となるL*値の測定を行った。この値は、小さい方が発色性良好であることを示す。
表7中の熱可塑性樹脂の略号は以下の樹脂を示す。
「PC」:ポリカーボネート系樹脂(粘度平均分子量約22000のビスフェノールAタイプポリカーボネート)
「PBT」:ポリエステル系樹脂(極限粘度[η]が1.05のポリテトラブチレンテレフタレート)
「ABS」:ABS樹脂(三菱レイヨン(株)製、商品名ダイヤペット3001)
「SAN」:スチレン・アクリロニトリル共重合体(旭化成(株)製、商品名AP789)
「HIPS」:ハイインパクトポリスチレン(三井化学(株)製、商品名トーボレックス876−HF)
「PA」:ポリアミド系樹脂(PA66;東レ(株)製、商品名CM3001N)
「PE」:ポリエチレン樹脂(高密度ポリエチレン;日本ポリケム(株)製、商品名ノバテックHJ580)
表9中の改質剤の略号は以下の樹脂を示す。
「MBS」:MBS樹脂(三菱レイヨン(株)社製、商品名メタブレンC223A)
[実施例29〜34および比較例5〜7]
・難燃性評価
米国アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)規格のUL94に規定されている垂直燃焼試験(UL94V)に準拠し、厚み1.6mmの射出成形試験片を用いた燃焼試験時の燃焼時間および燃焼時のドリップ性にて評価した。使用した配合および結果については表10に示す。成型条件等については先に述べてきた方法に準拠した。
表10中の難燃(助)剤の記号は、以下のものを示す。
「CR741」:大八化学(株)製、複合リン酸エステル(CR741)
「FG7500」:帝人化成(株)製、テトラブロモビスフェノールAカーボネートオリゴマー(FG7500)
「パトックスM」:日本精鉱(株)製、三酸化アンチモン(パトックスM)
「Bayowet C4」:バイエル社製、含フッ素有機金属塩(Bayowet)
「XC99−B5664」:GE東芝シリコーン(株)製、Mw=61000のシリコーンオイル(XC−99)
「F201L」:ダイキン(株)製:ポリテトラフルオロエチレン(F201L)
[実施例35〜38および比較例8〜10]
次に、以下に示すグラスファイバー(GF)を配合した繊維強化樹脂の例を示す。使用した耐衝撃改質剤等は表11に示す。性能試験としてはアイゾット耐衝撃試験をおこなった。本試験における結果は表11に示す。
表11中の繊維強化樹脂の記号は、以下のものを示す。
「RFPET」:GF強化ポリエチレンテレフタレート系樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名ノバデュラン5010G15
「RFPBT」:GF強化ポリブチレンテレフタレート系樹脂、三菱レイヨン(株)製、商品名タフペット1030
「RFPA」:GF強化ポリアミド系樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、商品名ノバミット1015G33
[実施例39〜40および比較例11]
塩化ビニル樹脂に配合した例を表12に示す。物性評価は、以下に示す配合を用い、100cm角、厚み3mmの平板のロールシートを得た後、プレス成型した後切り出した。評価項目はアイゾット衝撃強度、面衝撃強度、色調である。アイゾット衝撃強度は、上記平板より、ASTM D256に準拠したサンプルを切り出し測定した。面衝撃強度の測定方法は、装置として、島津製作所製の高速計装化面衝撃装置ハイドロショットを用い、条件は落錘速度3.3m/sec、ポンチ先端径1/2inch、サンプル受部口径3inch、サンプル100cm角射出成型板、サンプル数n=5、温度23℃で行った。評価としては、板が割れてしまった場合を脆性、ポンチの抜けた穴が開くのみで、全体として割れを生じなかったものを延性とした。延性の方が性能が高い。また色調については、目視判断で相対評価し、黒く見えるものから、白っぽく見えるものに対して、○、△、×で評価した。ここで、○が最も黒く見える、色調が良好と判断されたものである。用いた配合は以下のとおりである。
塩化ビニル樹脂(重合度1100) 100部
二塩基性亜リン酸鉛 2.5部
二塩基性ステアリン酸鉛 0.7部
ステアリン酸鉛 0.5部
ステアリン酸カルシウム 0.9部
ポリエチレンワックス(分子量2200) 0.1部
炭酸カルシウム 5.0部
加工助剤(メタブレンP−501) 1.0部
カーボンブラック 0.5部
改質剤 7.5部
各表に示すように、本発明に基づく耐衝撃改質剤を樹脂に配合した実施例の熱可塑性樹脂組成物は、いずれも耐衝撃性が優れており、発色性を指標とする外観も良好であった。また、耐候試験後の衝撃強度もほとんど低下せず、耐候性にも優れていた。同様に繊維強系樹脂に関しても、良好な機械物性を発現した。
一方、比較例では、質量基準で80%以上の粒子径が400〜1000nmの範囲内にはない耐衝撃改質剤(C1、C2、C3)は発色性が劣り、さらにC1とC2は衝撃強度も若干劣るものであった。
さらに、耐衝撃改質剤を構成するゴムが、分岐側鎖をもつアルコールまたは炭素数が13以上のアルキル基を有するアルコールの(メタ)アクリル酸エステルを構成成分として含むアクリルゴム(A1)成分と、n−ブチルアクリレートを構成成分として含むアクリルゴム(A2)成分とを主成分とする複合ゴムであり、アクリルゴム(A1)成分由来のガラス転移温度(Tg1)が、アクリルゴム(A2)成分由来のガラス転移温度(Tg2)よりも低いことを特徴とするものである場合には、さらに高い耐衝撃性を発現することがわかる。また、耐衝撃改質剤としてMBS樹脂を用いた場合には、耐候性試験後の衝撃強度が低下していた。また表5に示すとおり、難燃性を損なうことなく高い耐衝撃性を示し、難燃用途においても本発明の耐衝撃改質剤が有効であることがわかる。
また表10に示すように、本発明の耐衝撃改質剤は、強化系配合においても高い耐衝撃性を示すことがわかる。
以上説明したように、本発明の耐衝撃改質剤は、少量添加することにより樹脂の耐衝撃性を向上させ、かつ得られた成型品の耐候性、顔料着色性、耐湿熱性を、さらには耐熱変形性をも良好に維持し、更には難燃用途において、種々の難燃剤を使用しても、耐衝撃改質剤に起因する難燃性不良を起こさない。さらに難燃剤を使用してもその性能を損なうことはない。また、本発明の耐衝撃改質剤の製造方法によれば、そのような優れた耐衝撃改質剤を簡易且つ良好に製造できる。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上述した各種特性に優れた組成物であり、各種分野において非常に有用な樹脂材料である。
【図面の簡単な説明】
図1〜図3は、各々、製造例1−1、2−1、3−1のゴム質重合体(A)の質量基準粒度分布を示すグラフである。
Claims (31)
- (メタ)アクリル系単量体またはその混合物を主成分として得たガラス転移温度が0℃以下のゴム質重合体であって、質量基準の粒子径分布を基にして、80質量%以上の粒子径が400〜1000nmの範囲内であるゴム質重合体(A)と、1種または2種以上のビニル系単量体から得たグラフト部(B)とから成るグラフト共重合体から構成された耐衝撃改質剤。
- ゴム質重合体(A)および/またはグラフト部(B)に、エポキシ基、ヒドロキシル基およびイソボロニル基からなる群より選ばれる官能基を含有するビニル系モノマーの1種あるいは2種以上の単量体単位を含む請求項1記載の耐衝撃改質剤。
- さらに無機フィラー(C)を含む請求項1記載の耐衝撃改質剤。
- ゴム質重合体(A)が、分岐側鎖をもつアルコールまたは炭素数が13以上のアルキル基を有するアルコールの(メタ)アクリル酸エステル、あるいは、ヒドロキシル基、メトキシ基またはエトキシ基を含有する(メタ)アクリル酸エステルの少なくとも1種を構成成分として含むアクリルゴム(A1)成分と、n−ブチルアクリレートを構成成分として含むアクリルゴム(A2)成分とを主成分とする複合ゴムであり、アクリルゴム(A1)成分由来のガラス転移温度(Tg1)が、アクリルゴム(A2)成分由来のガラス転移温度(Tg2)よりも低い請求項1記載の耐衝撃改質剤。
- アクリルゴム(A1)成分が、2−エチルヘキシルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシトリプロピレングリコールアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、トリデシルメタクリレート、トリデシルアクリレート、ステアリルメタクリレートおよびステアリルアクリレートからなる群より選ばれる少なくとも1種を構成成分として含む請求項4記載の耐衝撃改質剤。
- キャピラリー・ハイドロ・ダイナミック・フロー・フラクショネーションにより測定される粒子径分布を基にして、質量基準で80%以上の粒子径が400〜1000nmの範囲内であるゴム質重合体(A)において、質量基準における粒子径の小粒子径側からの累積分布の15%に相当する粒子径(d15)と、85%に相当する粒子径(d85)の差をdとする場合に、d=d85−d15が180nm以下である請求項1記載の耐衝撃改質剤。
- ゴム質重合体(A)において、キャピラリー・ハイドロ・ダイナミック・フロー・フラクショネーションにより測定される粒子径分布を基にして、400〜1000nmの範囲内に検出される各ピークを中心とする粒子径群の内、最大の質量をもつ粒子径群の質量比率が、400〜1000nmの範囲内にある粒子径群の全質量の70質量%以上である請求項1記載の耐衝撃改質剤。
- 複合ゴムが、アクリルゴム(A1)成分5〜95質量%とアクリルゴム(A2)成分95〜5質量%を含む請求項4記載の耐衝撃改質剤。
- ゴム質重合体(A)において、キャピラリー・ハイドロ・ダイナミック・フロー・フラクショネーションにより測定される粒子径分布を基にして、400〜1000nmの範囲内に存在する質量を基準とするピークに代表される粒子群の最も大きい割合を持つ粒子群が、90質量%以上である請求項1記載の耐衝撃改質剤。
- ゴム質重合体(A)が、分子中に2個以上の不飽和結合を有する単量体からなる構成単位を2質量%以下含む請求項1記載の耐衝撃改質剤。
- グラフト部(B)が、多段重合により得られたものである請求項1記載の耐衝撃改質剤。
- グラフト部(B)が、架橋剤および/またはグラフト交叉剤として機能する単量体からなる構成単位を含む請求項1記載の耐衝撃改質剤。
- さらにスルフォン酸基、スルフォ琥珀酸もしくは硫酸基を含有する化合物(R)またはその塩を含む請求項1記載の耐衝撃改質剤。
- 化合物(R)またはその塩が、フェニル骨格を持つ請求項13記載の耐衝撃改質剤。
- 化合物(R)またはその塩は、グラフト共重合体を製造する為の乳化重合時の乳化剤として使用されたものである請求項13記載の耐衝撃改質剤。
- グラフト共重合体を製造する為の乳化重合時の乳化剤として、さらにカルボン酸系乳化剤を併用した請求項15記載の耐衝撃改質剤。
- 耐衝撃改質剤を構成する成分が、メルカプト基、硫酸基、アンモニウム基、カルシウム原子の中から選ばれる1種または2種以上を含む請求項1記載の耐衝撃改質剤。
- ゴム質重合体(A)が、シード重合により得られたものである請求項1記載の耐衝撃改質剤。
- 請求項1記載の耐衝撃改質剤を製造する方法であって、ゴム質重合体(A)を2段階以上の重合工程により製造する耐衝撃改質剤の製造方法。
- 請求項4記載の耐衝撃改質剤を製造する方法であって、(A1)成分を、強制乳化処理工程を経てから重合する工程により製造する耐衝撃改質剤の製造方法。
- (A1)成分を、2段階以上の重合工程により製造する請求項20記載の耐衝撃改質剤の製造方法。
- (A1)成分の存在下に、(A2)成分を構成する原料を一括で仕込み、その後触媒を添加して重合を行なう20記載の耐衝撃改質剤の製造方法。
- 得られたグラフト共重合体を粉体として湿式凝析により回収する際に使用する凝析剤として、カルシウム塩を使用する請求項19記載の耐衝撃改質剤の製造方法。
- 噴霧回収法により粉体として回収する請求項19記載の耐衝撃改質剤の製造方法。
- 熱可塑性樹脂および請求項1記載の耐衝撃改質剤を含む熱可塑性樹脂組成物。
- 熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂および塩化ビニル系樹脂から成る群より選ばれる1種以上の樹脂である請求項25記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂およびABS樹脂から成る群より選ばれる1種以上の樹脂である請求項25記載の熱可塑性樹脂組成物。
- さらに繊維状補強材を含む請求項25記載の熱可塑性樹脂組成物。
- さらに難燃剤を含む請求項25記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 難燃剤が、ハロゲン系難燃剤、リン酸系難燃剤またはシリコーン系難燃剤である請求項30記載の熱可塑性樹脂組成物。
- 難燃剤が、ハロゲン含有有機金属塩系化合物である請求項30記載の熱可塑性樹脂組成物。
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