以下、本発明に係る画像形成方法とその画像形成方法を実行する本発明に係る画像形成装置との実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
●画像形成装置の構成
まず、本発明に係る画像形成装置の構成について説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る画像形成装置を示す中央断面図である。同図には、本発明に係る画像形成装置としてのレーザプリンタ1000の概略構成が示されている。
レーザプリンタ1000は、光走査装置1010と、感光体ドラム1030と、帯電装置1031と、現像装置1032と、転写装置1033と、除電ユニット1034と、クリーニングユニット1035と、トナーカートリッジ1036とを有する。
また、レーザプリンタ1000は、給紙コロ1037と、給紙トレイ1038と、定着装置1041と、排紙ローラ1042と、排紙トレイ1043と、通信制御装置1050と、プリンタ制御装置1060とを有する。
なお、以上のレーザプリンタ1000の構成要素は、プリンタ筐体1044の内部の所定位置に収容されている。
通信制御装置1050は、ネットワークなどを介した上位装置(例えばパソコンなどの情報処理装置)との双方向の通信を制御する。
プリンタ制御装置1060は、不図示のCPU(Central
Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)とを有する。また、プリンタ制御装置1060は、RAM(Random Access Memory)と、A/D(Analog/Digital)変換器とを有する。ここで、プリンタ制御装置1060は、上位装置からの要求に応じて各部を統括的に制御するとともに、上位装置からの画像情報を光走査装置1010に送る。
ROMには、CPUにて解読可能なコードで記述されたプログラム及びこのプログラムを実行する際に用いられる各種データが格納されている。
RAMは、CPUの作業用の一時書き込み可能なメモリである。
A/D変換器は、アナログ信号をデジタル信号に変換する。
感光体ドラム1030は、円柱状の部材の潜像担持体であり、その表面には感光層が形成されている。すなわち、感光体ドラム1030の表面が被走査面である。そして、感光体ドラム1030は、不図示の駆動機構により図1における矢印方向に回転される。
帯電装置1031は、感光体ドラム1030の表面を均一に帯電させる。ここで、帯電装置1031には、例えばオゾン発生の少ない接触式の帯電ローラや、コロナ放電を利用するコロナチャージャを用いることができる。
図2は、画像形成装置のコロトロン型帯電装置を示す模式図である。また、図3は、画像形成装置のスコロトロン型帯電装置を示す模式図である。ここで、帯電装置1031は、図2に示すコロトロン型帯電装置であっても良いし、図3に示すスコロトロン型帯電装置であっても良いし、不図示のローラ型帯電装置であっても良い。
光走査装置1010は、帯電装置1031で帯電された感光体ドラム1030の表面を、プリンタ制御装置1060からの画像情報に基づいて変調された光束により走査して露光し、感光体ドラム1030の表面に画像情報に対応した静電潜像を形成する。
光走査装置1010により形成された静電潜像は、感光体ドラム1030の回転に伴って現像装置1032の方向に移動する。なお、光走査装置1010の詳細については後述する。
トナーカートリッジ1036にはトナー(現像剤)が格納されている。トナーは、トナーカートリッジ1036から現像装置1032に供給される。
現像装置1032は、感光体ドラム1030の表面に形成された潜像にトナーカートリッジ1036から供給されたトナーを付着させて、静電潜像を顕像化させる。ここで、トナーが付着した像(以下「トナー像」ともいう。)は、感光体ドラム1030の回転に伴って転写装置1033の方向に移動する。
給紙トレイ1038には記録紙1040が格納されている。給紙トレイ1038の近傍には給紙コロ1037が配置されている。
給紙コロ1037は、記録紙1040を給紙トレイ1038から1枚ずつ取り出す。記録紙1040は、感光体ドラム1030の回転に合わせて感光体ドラム1030と転写装置1033との間隙に向けて、給紙トレイ1038から送り出される。
転写装置1033には、感光体ドラム1030の表面のトナーを電気的に記録紙1040に引きつけるために、トナーとは逆極性の電圧が印加されている。この電圧により、感光体ドラム1030の表面のトナー像が記録紙1040に転写される。トナー像が転写された記録紙1040は、定着装置1041に送られる。
定着装置1041では、熱と圧力とが記録紙1040に加えられ、これによってトナーが記録紙1040上に定着される。ここでトナーが定着された記録紙1040は、排紙ローラ1042を介して排紙トレイ1043に送られ、排紙トレイ1043上に順次積層される。
除電ユニット1034は、感光体ドラム1030の表面を除電する。
クリーニングユニット1035は、感光体ドラム1030の表面に残ったトナー(残留トナー)を除去する。残留トナーが除去された感光体ドラム1030の表面は、帯電装置1031に対向する位置に戻る。
本発明に係る画像形成装置において、帯電装置と、露光装置としての光走査装置と、感光体と、画像パターンを光出力に変換するための画像処理部とにより、静電潜像が形成される。
複写機やレーザプリンタといった電子写真方式における出力画像を得るためのプロセスは、以下のとおりである。すなわち、電子写真方式では、帯電工程において潜像担持体の一つである感光体を均一に帯電させる。また、電子写真方式では、露光工程において感光体に光を照射して部分的に電荷を逃がす。このようにすることで、電子写真方式では、感光体に静電潜像を形成することができる。
●光走査装置の構成
次に、画像形成装置の光走査装置1010の構成について説明する。
図4は、画像形成装置の光走査装置1010を示す模式図である。同図に示すように、光走査装置1010は、光源11と、コリメートレンズ12と、シリンドリカルレンズ13と、折り返しミラー14と、ポリゴンミラー15と、第1走査レンズ21とを備える。また、光走査装置1010は、第2走査レンズ22と、折り返しミラー24と、同期検知センサ26と、走査制御装置(不図示)とを備える。
ここで、光走査装置1010は、光学ハウジング(不図示)の所定位置に組み付けられている。
なお、以下の説明において、感光体ドラム1030の長手方向(回転軸方向)に沿った方向をXYZ3次元直交座標系のY軸方向とし、ポリゴンミラー15の回転軸に沿った方向をZ軸方向とし、Y軸とZ軸の双方に垂直な方向をX軸方向とする。
また、以下の説明において、各光学部材の主走査方向に対応する方向を「主走査対応方向」とし、副走査方向に対応する方向を「副走査対応方向」とする。
光源11は、例えば2次元配列された複数の発光部(不図示)を有している。ここで、各発光部は、全ての発光部を副走査対応方向に延びる仮想線上に正射影したときに、発光部間隔が等しくなるように配置されている。
ここで、光源11には、半導体レーザ(LD:Laser
Diode)や、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)などを用いることができる。
図5は、光走査装置1010の光源の例を示す模式図である。同図において、光源11Aは、マルチビーム光源として、4個の半導体レーザが配列されて構成される半導体レーザアレイである。また、光源11Aは、コリメートレンズ12の光軸方向に対して垂直に配置されている。
図6は、光走査装置1010の光源の別の例を示す模式図である。同図において、光源11Bは、発光点がY軸方向とZ軸方向とを含む平面上に配置された、例えば波長780nmの垂直共振器型面発光レーザ(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting LASER)である。
光源11Bは、例えば、水平方向(主走査方向、Y軸方向)に3個、垂直方向(副走査方向、Z軸方向)に4個、計12個の発光点を有する。
なお、光源11Bは、光走査装置1010に適用する場合に、一つの走査線上を水平方向に配置した3つの発光点により走査することで、垂直方向の4本の走査線を同時に走査することもできる。
ここで、本実施の形態において、「発光部間隔」とは、2つの発光部の中心間距離をいう。
図4に戻り、コリメートレンズ12は、光源11から射出された光の光路上に配置され、光を平行光または略平行光に制御する。
シリンドリカルレンズ13は、ポリゴンミラー15の偏向反射面近傍に、コリメートレンズ12を通過した光をZ軸方向(副走査方向)にのみ集束する。
シリンドリカルレンズ13は、折り返しミラー14の反射面近傍に、主走査方向(Y軸方向)に長い線像として光源11から出射された光を結像させる。
折り返しミラー14は、シリンドリカルレンズ13を通過して結像した光をポリゴンミラー15に折り返す。
なお、光源11とポリゴンミラー15との間の光路上に配置されている光学系は、偏向器前光学系とも呼ばれている。
ポリゴンミラー15は、感光体ドラム1030の長手方向(回転軸方向)に直交する回転軸まわりに回転する多面鏡である。ここで、ポリゴンミラー15の各鏡面は、偏向反射面である。
ポリゴンミラー15は、不図示の駆動用IC(Integrated
Circuit)によりモータ部に適切なクロックを与えることでモータを所望の速度で等速回転する。
ポリゴンミラー15は、モータ部により矢印方向に等速回転されると、偏向反射面で反射された複数の光ビームが、それぞれ偏向ビームとなって等角速度的に偏向される。
第1走査レンズ21と、第2走査レンズ22と、折り返しミラー24と、同期検知センサ26とは、走査光学系を構成する。走査光学系は、ポリゴンミラー15で偏向された光の光路上に配置される。
第1走査レンズ21は、ポリゴンミラー15で偏向された光の光路上に配置されている。
第2走査レンズ22は、第1走査レンズ21を介した光の光路上に配置されている。
折り返しミラー24は、長尺平面鏡であり、第2走査レンズ22を介した光の光路を、感光体ドラム1030に向かう方向に折り返す。
すなわち、ポリゴンミラー15で偏向された光は、第1走査レンズ21と、第2走査レンズ22とを介して感光体ドラム1030に照射され、感光体ドラム1030表面に光スポットを形成する。
感光体ドラム1030表面の光スポットは、ポリゴンミラー15の回転に伴って感光体ドラム1030の長手方向に沿って移動する。ここで、感光体ドラム1030表面上の光スポットの移動方向(Y軸方向)が「主走査方向」であり、感光体ドラム1030の回転方向(Z軸方向)が「副走査方向」である。
同期検知センサ26は、ポリゴンミラー15からの光を受光し、受光光量に応じた信号(光電変換信号)を走査制御装置に出力する。ここで、同期検知センサ26の出力信号は、「同期検知信号」ともいう。
図4に示すように、光走査装置1010では、ポリゴンミラー15の1つの偏向反射面による走査で感光体ドラム1030の被走査面上の複数のラインを同時に走査する。各発光点の発光信号を制御する画像処理部内のバッファメモリには、各発光点に対応する1ライン分の印字データが蓄えられている。
印字データは、ポリゴンミラー15のそれぞれの偏向反射面ごとに読み出され、潜像担持体上の走査線上で印字データに対応して光ビームが点滅し、走査線にしたがって静電潜像が形成される。
図7は、画像形成装置の画像処理部を示すブロック図である。同図に示すように、画像処理部は、画像処理ユニット(IPU:Image Processing Unit)101と、コントローラ部102と、メモリ部103と、光書込出力部104と、スキャナ部105と、を備える。
コントローラ部102は、回転・リピート・集約・圧縮伸張などの処理を行ったあと再度IPUに出力する。
メモリ部103には、種々のデータを記憶するためのルックアップテーブルを用意しておく。
光書込出力部104は、制御ドライバにより点灯データに応じて、光源11の光変調を行い、感光体ドラム1030に静電潜像を形成する。ここで、光書込出力部104は、後述の階調処理部からの入力信号に基づいて記録紙に画像を形成する。
スキャナ部105は、画像を読み込み、この画像に基づいてRGB(Red
Green Blue)データなどの画像データを生成する。
図8は、画像処理部の画像処理ユニット101を示すブロック図である。同図に示すように、画像処理ユニット101は、濃度変換部101aと、フィルタ部101bと、色補正部101cと、セレクタ部101dと、階調補正部101eと、階調処理部101fと、を備えている。
濃度変換部101aは、ルックアップテーブルを用いてスキャナ部105からのRGBの画像データを濃度データに変換して、フィルタ部101bに出力する。
フィルタ部101bは、濃度変換部101aから入力される濃度データに対して、平滑化処理やエッジ強調処理等の画像補正処理を施して、色補正部101cに出力する。
色補正部101cは、色補正(マスキング)処理を施す。
セレクタ部101dは、画像処理ユニット101の制御下で、色補正部101cから入力される画像データに対して、C、M、Y、Kのいずれかを選択して、階調補正部101eに出力する。
階調補正部101eは、セレクタ部101dから入力されるC、M、Y、Kのデータに対して、予め格納されている。階調補正部101eには、入力データに対してリニアな特性が得られるγカーブを設定する。
階調処理部101fは、階調補正部101eから入力される画像データに対してティザ処理等の階調処理を施して、信号を光書込出力部104に出力する。
●画像形成方法(1)●
次に、本発明に係る画像形成方法の実施の形態における、露光方法について説明する。
図9は、参考例における画像部と光出力波形とを示す模式図である。同図に示すように、参考例の画像形成方法における潜像形成に用いる光出力波形は、ライン画像やベタ画像を含む画像部に対して、目標とする画像濃度を得るのに必要な光出力値で所定時間だけ感光体を露光させる波形である。
なお、画像部とは、複数の画素から構成され、画像パターンにおいてトナーを付着させて画像を形成するための部分である。また、非画像部とは、画像パターンにおいてトナーを付着させず画像を形成しない部分である。
ここで、以下の説明において、目標とする画像濃度を「目標画像濃度」という。また、以下の説明において、目標画像濃度を得るために必要な所定光出力値を「目標露光出力値」という。また、以下の説明において、目標画像濃度を得るために目標露光出力値で画像部の画素全体を露光させる所定時間を、「目標露光時間」という。さらに、以下の説明において、目標露光出力値で目標露光時間だけ露光させる露光方法を、「標準露光」という。
なお、本実施の形態において、ベタ画像(solid image)とは、線画像に比較して大面積の画像部をいう。
図10は、本実施の形態における画像部と光出力波形とを示す模式図である。同図に示すように、本実施の形態において、潜像形成に用いる光出力波形は、ライン画像やベタ画像を含む画像部に対して、目標画像濃度の画像を得るために、目標露光出力値より強い光出力値を目標露光時間より短い露光時間で感光体を露光させる波形である。
ここで、本実施の形態において、潜像形成に用いる光出力波形には、画像部内に断続的な消灯区間を有する。つまり、本実施の形態における光出力波形は、画像部内においてパルス的に出力される。
なお、以下の説明において、目標露光出力値より強い光出力値(第1光出力値)で目標露光時間より短い露光時間だけ感光体を露光させることを、「集中露光」という。
本実施の形態における集中露光の光出力値の具体的な設定値としては、例えばドット密度が1200dpiの場合、1画素の画像部内における光出力値を目標露光出力値の200%とし、露光時間を目標露光時間のDuty比50%とすることが考えられる。ここで、画像部内の残りのDuty比50%の時間は、光源を消灯している。
また、本実施の形態における集中露光の光出力値の別の具体的な設定値としては、例えば2400dpiの場合、隣接する2画素のうち1画素について、画像部内における光出力値を目標露光出力値の200%で目標露光時間と同様の時間だけ露光する。この場合に、残りの画素については露光しない。このようにすることで、1200dpiの場合に光出力値を目標露光出力値の200%で目標露光時間のDuty比50%の時間だけ露光する場合と実質的に等価といえる。
図11は、参考例における露光方法の例を示す模式図である。同図に示すように、参考例の標準露光による露光方法(以下「露光方法1」という。)は、ライン画像やベタ画像を含む1ドットの画像部に対して、上述の通り目標露光出力値で目標露光時間だけ感光体を露光させる波形である。ここで、目標露光出力値を100%の光出力値とし、目標露光時間をDuty比100%とする。
図12は、本実施の形態における露光方法の例を示す模式図である。同図に示すように、本実施の形態における集中露光による露光方法(以下「露光方法2」という。)は、目標露光出力値の200%の光出力値で目標露光時間に対してDuty比50%で感光体を露光させる。ここで、画像部の幅を1とすると、露光させる区間の幅は4/8画素である。
図13は、本実施の形態における露光方法の別の例を示す模式図である。同図に示すように、本実施の形態における集中露光による露光方法(以下「露光方法3」という。)は、目標露光出力値の400%の光出力値で目標露光時間に対してDuty比25%で感光体を露光させる。ここで、画像部の幅を1とすると、露光させる区間の幅は2/8画素である。
図14は、本実施の形態における露光方法のさらに別の例を示す模式図である。同図に示すように、本実施の形態における集中露光による露光方法(以下「露光方法4」という。)は、目標露光出力値の800%の光出力値で目標露光時間に対してDuty比12.5%で感光体を露光させる。ここで、画像部の幅を1とすると、露光させる区間の幅は1/8画素である。
以上説明した露光方法2〜4では、露光方法1と比較してパルス幅が狭い。つまり、露光方法2〜4では、露光方法1と同じ光量で露光させると形成される潜像が小さくなるため、潜像形成時の積分光量が同等となるようにパルス幅に応じて光量を制御している。
つまり、集中露光による露光方法2〜4では、標準露光による露光方法1と比較して、短いパルス幅で強い光量により露光が行われる。
なお、以上の説明では、露光方法2〜4は、いずれも積分光量が一定となるように光出力値を設定しているが、本発明に係る画像形成方法における光出力値は、これに限定されるものではない。
本実施の形態において、露光に用いるビームスポット径が主走査方向に70μm×副走査方向に90μmである場合に、後述する評価方法により、上述のように1画素より狭いパルス幅で露光を行ったときの潜像形成能力を評価する。このようにすることで、本実施の形態において、露光に用いるビームスポット径を変えずに潜像解像力を向上することができる露光方法を検討する。
図15は、露光方法の相違による空間周波数特性を示すグラフである。同図に示すように、露光方法2〜4は、露光方式1と比較して高周波数帯域まで潜像MTF(Modulation Transfer Function)が高い値を示している。
図15によれば、露光方法2〜4は、露光方法1と比較してより小径の潜像まで安定して形成することができることを示している。特に、露光方法2〜4のうち、パルス幅の最も短い露光方式4は、小径の潜像を安定して形成することに適していることを示している。
また、図15によれば、露光方法2〜4は、露光方式1と比較して短いパルス幅かつ強い光量での露光を行うため、潜像解像力が向上することを示している。つまり、本発明に係る画像形成方法で用いる露光方法2〜4によれば、従来の画像形成方法で用いる露光方法1と比較して、小径の潜像を安定して形成することができることを示している。
図16は、潜像円径とビームスポット径との関係を示すグラフである。同図は、潜像ドット密度を示す潜像MTFが80%となる潜像円相当径と、ビームスポット径との関係とを示す。同図に示すように、潜像解像力とビームスポット径とはほぼ比例して推移することを示している。
本発明に係る画像形成方法における集中露光による露光方法は、高周波領域、すなわち小径での潜像安定性を重要視する場合に、小径のビームスポット径で従来の露光方法により露光した場合に対する優位性がある。ここで、出力画像の相違による最適なビームスポット径は、出力画像として要求される最大空間周波数での潜像MTFによって決定される。
さらに注目すべきは、潜像電界ベクトルの幅が、他の手段に比べて狭いことが特徴であり、潜像電界ベクトルを増加させた上に解像力が向上されていることを意味する。
また、本発明に係る画像形成方法では、PM(Phase Modulation)変調やPWM(Pulse-Width Modulation)変調で光源を制御して露光した場合と異なり、積分光量が目標露光出力値で露光した場合と同等である。このため、本発明に係る画像形成方法では、トナーの付着量や全体の画像濃度が目標露光出力値で露光した場合と実質的に相違ない。
つまり、本発明に係る画像形成方法によれば、黒地の画像濃度を維持したまま、ドット密度を落とさず反転画像の画質を向上させることができる。
また、本発明に係る画像形成方法によれば、深い潜像電界を形成することができる。
また、本発明に係る画像形成方法によれば、幅の狭い潜像を形成できるため、潜像解像力を高めることができる。
また、本発明に係る画像形成方法によれば、積分光量を一定にすることにより、標準露光と同じ画像濃度にすることができる。
また、本発明に係る画像形成方法において、画像部における消灯区間(露光させない区間)の長さは10μm程度である。つまり、画像部における消灯区間は、ビームスポット径に比べて十分小さいため、画像部に対する電荷の広がりを考慮すれば、画像部全体にトナーが付着することができる。
よって、本発明に係る画像形成方法によれば、高品質なベタ画像も形成することができる。
また、本発明に係る画像形成方法によれば、露光時間を1画素以下に設定することができる。つまり、本発明に係る画像形成方法によれば、従来の露光方法における画像によって露光時間が異なることにより光出力が変化する、いわゆるドループの問題を解消することができる。
●画像形成方法(2)●
次に、本発明に係る画像形成方法の別の実施の形態における、別の露光方法について説明する。
従来の露光方法では、画像パターンは画像を形成する画素(以下「画像画素」という。)または画像を形成しない画素(以下「非画像画素」という。)しか存在しない。
一方、先に説明した本発明に係る画像形成方法における露光方法によれば、画像部には画像形成のために露光される画像画素と、露光する必要のない画素(以下「非露光画素」という。)と、が含まれる。
そこで、以下の説明において、非露光画素を、プロセス調整画素として用いる露光方法を説明する。
ここで、プロセス調整画素とは、画像パターンとは直接関係ない画素であり、画像情報を持っていない画素のことをいう。プロセス調整画素は、画像形成プロセスの変動や、感光体などの画像形成に用いる要素の疲労・劣化時に画像形成プロセスを調整するためのものである。
そのため、本実施の形態において、初期(デフォルト)条件において、任意の画像パターンのプロセス調整画素に対して出力しないように設定してもよい。また、本実施の形態において、初期条件から特定の画像パターンに対してのみプロセス調整画素に出力するように設定してもよい。
なお、プロセス調整画素は、単に電気的な信号処理のための画素ではなく、実際の画像パターンと同様に感光体の有効領域内に露光される画素である。
一般的に、ライン画像とベタ画像では、トナー付着量高さ、すなわちパイルハイトが一致しない。この理由は、一般的にライン画像の方がベタ画像より潜像電界が深く形成されるためである。
しかしながら、形成された画像の出来上がりの美しさを求めるユーザーニーズやトナー消費量の低減の要求から、ライン画像とベタ画像のパイルハイトを同等の高さにすることが求められている。
図17は、参考例におけるライン画像とベタ画像それぞれの光出力波形とトナー付着量高さを示す模式図である。同図に示すように、ライン画像とベタ画像とで同じ光出力値にして露光すると、潜像電界強度の大きいライン画像の方がベタ画像よりもパイルハイトが数十%程高くなる。ここで、ライン画像のパイルハイトは、ベタ画像のパイルハイトに対して50%以上高くなる場合もある。
ここで、現像工程の条件を工夫することで、ライン画像のトナー付着量を低減する方法が知られている。
しかしながら、この方法ではライン画像とベタ画像それぞれについて潜像に対する再現の忠実さを意図的に崩すことになるため、現像工程においてライン画像とベタ画像のパイルハイトを合わせることは容易ではない。
そこで、本実施の形態では、プロセス調整画素を利用して、ライン画像のトナー付着量を減らすのではなく、ベタ画像のトナー付着量を増やす方法を用いている。
図18は、本実施の形態におけるプロセス調整画素を含む画像部と光出力波形とを示す模式図である。同図において、プロセス調整画素を含む画像部とこの画像部の光出力波形とを示す。ここで、画像部には、画像画素IPとプロセス調整画素PPとが交互に配置されている。また、ドット密度は2400dpiである。
また、図18では、ライン画像のパイルハイトがベタ画像より25%高くなる場合に、ベタ画像にプロセス調整画素PPを含める例を示している。
本実施の形態の露光方法において、ライン画像が所望の付着量になるように光出力値を設定し、ベタ画像のパイルハイトがライン画像のパイルハイトと同等となるように、プロセス調整画素PPの光出力値(第2光出力値)を設定する。
ここで、画像画素IPの光出力値は目標露光出力値の200%であり、プロセス調整画素PPの光出力値は目標露光出力値の50%とする。
本実施の形態の露光方法により露光した場合に、ドット密度が2400dpiであれば、画素サイズは10.6μmである。この画素サイズは、30〜80μm程度の露光光学系のビームスポット径に比べて小さい。このため、プロセス調整画素PPに光出力がされず非露光画素となった場合であっても、画像画素IPと非露光画素とは、静電潜像形成段階で一体化されてベタ画像を形成する。
本実施の形態の露光方法によりプロセス調整画素PPを含めてベタ画像を露光する場合には、画像部への光出力値が50%加算されるため、画像画素IPの光出力値と合算して目標露光出力値の250%となる。また、本実施の形態の露光方法によりプロセス調整画素PPを露光する場合には、画像部に対する積分光量が25%増加する。
ここで、トナー付着量は積分光量にほぼ比例するため、本実施の形態の露光方法によれば、ベタ画像のパイルハイトを25%増加させることができる。このため、本実施の形態の露光方法によれば、ライン画像のパイルハイトと制御することができる。
つまり、画像部の露光画素の間にプロセス調整画素を含めることで、本実施の形態の露光方法によれば、画像濃度やパイルハイトを制御することができる。
図19は、本実施の形態におけるライン画像及びベタ画像を含む画像部と光出力波形との例を示す模式図である。同図に示すように、本実施の形態の露光方法により、ライン画像はプロセス調整画素を含まずに集中露光を行い、ベタ画像はプロセス調整画素PPを含めて集中露光を行っている。
図19において、1画素あたりのドット密度が2400dpi(画素サイズは10.6μm)の1ビットの画像部を示している。
ここで、ベタ画像は、画像画素IPを目標露光出力値の200%の光出力値で集中露光させ、プロセス調整画素PPを目標露光出力値の50%の光出力値で露光させることで、パイルハイトを25%(=50/200)増加させている。また、プロセス調整画素PPへの光出力は、画像部の複数の画像画素IPそれぞれへの光出力の間に出力させている。
なお、ベタ画像全体の光出力値を増加させたとしても、画像品質に影響することはなく、トナー付着量のみが増加する。
以上説明したように、本実施の形態によれば、プロセス調整画素PPを用いることでライン画像のパイルハイトとベタ画像のパイルハイトとを制御することができる。
また、本実施の形態は、画像形成装置の実際の使用環境下でライン画像のパイルハイトとベタ画像のパイルハイトとの比率が変化した場合にも、プロセス調整画素PPを用いてパイルハイトの比率を調整することができる。
なお、本実施の形態では、画像部への光出力値を3つ以上の値で変化させることにより、コストが上昇するものの高画質の画像形成を実現することができる。
図20は、本実施の形態におけるライン画像及びベタ画像を含む画像部と光出力波形との別の例を示す模式図である。同図に示すように、本実施の形態におけるプロセス調整画素の光出力値は、画像画素の光出力値と同値であってもよい。
つまり、図19に示したプロセス調整画素PPの光出力は、画像部の複数の画像画素IPそれぞれへの光出力の間に目標露光出力値の50%の光出力値で出力させていた。
これに対して、図20に示すプロセス調整画素PPの光出力は、画像部の複数の画像画素IPのうち一部への光出力の間に目標露光出力値の200%の光出力値(画像画素IPへの光出力値と同値)で出力させている。
図19に示したプロセス調整画素PPへの光出力値の積分光量と、図20に示すプロセス調整画素PPへの光出力値の積分光量とは、同値になる。つまり、図20に示すプロセス調整画素PPへの光出力によっても、ライン画像のパイルハイトとベタ画像のパイルハイトとを制御することができる。
なお、図20に示すプロセス調整画素PPへの光出力の場合には、空間周波数の低下が生じているものの、低下量が80μm程度であるため、ベタ画像の濃度ムラは生じない。
また、以上の説明では、主走査方向のみに光出力値を設定しているが、副走査方向も同様に光出力値を設定することができる。このため、主走査方向に4画素で副走査方向に4画素を用いれば、1つの光出力値であっても、16階調の画像を形成することができる。
以上説明したように、本実施の形態の露光方法によれば、プロセス調整画素PPを用いることで、パイルハイトを制御することができる。
なお、プロセス調整画素PPへの光出力値や積分光量は、形成される画質などを考慮して変化させてもよく、例えばプロセス調整画素PPへの光出力がされていない場合があってもよい。
図21は、画像部におけるプロセス調整画素と画像画素との比率を示す模式図である。同図において、主走査方向と副走査方向との2次元配列による画像画素とプロセス調整画素との配置例を示す。ここで、画像/非画像を表す画像画素を黒色で示し、プロセス調整画素を白色で示す。
なお、プロセス調整画素とは、上述の通り画像情報を含んでいない画素であり、図21において便宜的に白色で表示している。
図21(a)は、参考例の標準露光により露光された画像の例であり、画像部は画像画素のみで構成され、プロセス調整画素を含んでいない。
また、図21(b)は、本実施の形態の集中露光により露光された画像の別の例であり、画像部は75%の画像画素と25%のプロセス調整画素により構成される。
また、図21(c)は、本実施の形態の集中露光により露光された画像のさらに別の例であり、画像部は50%の画像画素と50%のプロセス調整画素により構成される。
また、図21(d)は、本実施の形態の集中露光により露光された画像のさらに別の例であり、画像部は25%の画像画素と75%のプロセス調整画素により構成される。
ここで、図21(b)のように、画像部全体に対するプロセス調整画素の比率が25%の場合には、画像画素への光出力値を目標露光出力値の133%に設定すればよい。
なお、図21(d)のように、画像部全体に対するプロセス調整画素の比率が75%と高い場合には、画像画素への光出力値を目標露光出力値の400%と高く設定する必要がある。
ここで、プロセス調整画素により調整する要素がパイルハイト調整など1つの要素である場合には、画像部全体に対するプロセス調整画素の比率は25%で十分である。
一方で、画像部全体に対するプロセス調整画素の比率が高い場合には、パイルハイトの他にもプロセス調整画素を用いてプロセス条件に関わる様々な調整を行うことができる。
よって、画像部全体に対するプロセス調整画素の比率は、必要に応じて使い分けることが望ましい。
図22は、参考例における画素イメージを示す模式図である。同図に示すように、参考例の露光方法により露光された画像は、画像部が画像画素IPと非画像画素NPとで構成され、プロセス調整画素を含んでいない。
図23は、本実施の形態における画素イメージを示す模式図である。同図に示すように、本実施の形態の集中露光により露光された画像は、画像部が画像画素IPと非画像画素NPとプロセス調整画素PPとで構成される。ここで、同図に示す画像の画像部は、25%の画像画素IPと75%のプロセス調整画素PPにより構成される。
図23に示す本実施の形態により露光された画像では、プロセス調整画素PP1とプロセス調整画素PP2とプロセス調整画素PP3とを用いて、3つの画像形成プロセスにおける要素を独立して調整することができる。ここで、パイルハイトの調整に用いるのは、プロセス調整画素PP3である。
図24は、参考例と本実施の形態との露光方法により形成される潜像径を示す模式図である。同図において、標準露光で露光した参考例の露光方法と、集中露光で露光した本実施の形態の露光方法との、ドット密度が1200dpiの2ドットの潜像電荷分布をシミュレーションした結果を示す。ここで、集中露光では、画像画素への光出力値を目標露光出力値の400%で露光した。
図24に示す潜像電荷分布によれば、ビームスポット径70x90μmの集中露光の潜像径とビームスポット径55x55μmの標準露光の潜像径が同等であることがわかる。つまり、本実施の形態によれば、集中露光を用いることで、標準露光のビームスポット径を小径化することと同等の効果を得ることができる。
以上説明したように、本実施の形態の露光方法によれば、画像部の一部の画素を画像形成のための画像画素として用いて画像パターンを形成し、画像画素を集中露光する。これにより、本実施の形態の露光方法によれば、画像濃度を維持しつつ解像力を上げることができる。
また、本実施の形態によれば、画像部内で画像画素として用いられなかった画素をプロセス調整画素として用いることで、パイルハイト等の画像形成プロセスの調整や制御を行うことができる。
●画像形成方法(3)●
次に、本発明に係る画像形成方法の別の実施の形態として、微細文字再現性を向上させる処理を説明する。
ドット密度が1200dpiの文字画像(2p,3p,反転)は、ルビや間取り図等で利用され、画像の可読性が求められる。このような微細文字の画像が劣化する要因は、現像プロセス以降ではなく、潜像段階にあることが明らかになった。
また、上述の通り、本発明に係る画像形成方法では、PM変調+PWM変調を用いて光出力波形を制御し、短いパルス幅、かつ目標露光出力値より強い光出力値での露光(集中露光)を行う。このようにすることで、本発明に係る画像形成方法によれば、ビームスポット径を変えることなく潜像解像力を向上することができる。
そこで、本実施の形態では、本発明の画像形成方法における集中露光の技術を利用して、潜像の改良により微小文字の反転画像の画質を向上させる処理について説明する。
ここで、本実施形態では、白ドット毎に、白ドットに隣接する黒ドットの数に着目して、処理を行った。
なお、白ドットに隣接する黒ドットとは、+a側、−a側、+b側、及び−b側のいずれかに関して、該白ドットに接している黒ドットをいう。
図25は、白ドットに隣接する黒ドットを含む画像の例を示す模式図である。
本実施の形態において、例えば、図25に示すように白ドットに隣接する黒ドットの数が4の場合には、白ドットに隣接する黒ドットにフラグAを立てる。
図26は、白ドットに隣接する黒ドットを含む画像の別の例を示す模式図である。
本実施の形態において、例えば、図26に示すように白ドットに隣接する黒ドットの数が3の場合には、白ドットに隣接する黒ドットにフラグBを立てる。
図27は、白ドットに隣接する黒ドットを含む画像のさらに別の例を示す模式図である。
本実施の形態において、例えば、図27に示すように、白ドットに隣接する黒ドットの数が2の場合、白ドットに隣接する黒ドットにフラグCを立てる。
なお、図27において、端部の白ドットについては、隣接する黒ドットの数が確定しないので、ここでは無視する。
図28は、白ドットに隣接する黒ドットを含む画像のさらに別の例を示す模式図である。
本実施の形態において、例えば、図28に示すように、白ドットに隣接する黒ドットの数が1の場合、白ドットに隣接する黒ドットにフラグDを立てる。
図29は、白ドットに隣接する黒ドットを含む画像のさらに別の例を示す模式図である。
また、本実施の形態において、図29に示すように、1つの黒ドットが2つの白ドットに隣接する場合、一方の白ドットに着目すると黒ドットのフラグはDであり、他方の白ドットに着目すると黒ドットのフラグはAである。
図29の*のドットに示すように、互いに異なる複数のフラグが考えられる場合は、隣接する黒ドットの数が多い方の白ドットを優先させ、隣接する黒ドットのフラグをAとする。
図30は、白ドットに隣接する黒ドットを含む画像のさらに別の例を示す模式図である。
図30に示すように、1つの黒ドットが3つの白ドットに隣接する場合がある。この場合には、隣接する黒ドットのフラグとしてCとDが考えられるが、隣接する黒ドットの数が多い方の白ドットを優先させ、隣接する黒ドットのフラグをCとする。
以上説明したように、本実施の形態における微細文字再現性向上処理では、白ドットに隣接する黒ドットに着目し、黒ドットに隣接する白ドットに隣接する黒ドットの数をカウントし、その最大値(以下「BM値」という。)を算出する。
図31は、反転画像の画像データの例を示す模式図である。同図において、反転画像データの例として、「画」の文字の反転画像を示す。
図32は、反転画像の画像データの例についての演算処理後の結果を示す模式図である。また、図33は、図32に示す演算処理後の結果の部分拡大図である。
図32,33は、図31に示した反転画像の画像データについて、上述の微細文字再現性向上処理を行い、白ドットに隣接する黒ドットのフラグを付したものである。
ここで、図31に示した反転画像の画像データについて、BM値が1となる画素はDのフラグを、BM値が2となる画素はCのフラグを、BM値が3となる画素はBのフラグを、それぞれ付した。
なお、図31に示した反転画像の画像データについて、白ドットに隣接する黒ドットの数が4の画素がないため、Aのフラグを付すBM値が4となる画素は含まれていない。
つまり、本実施の形態によれば、白ドットに隣接する黒ドットの数に基づいて黒ドットにフラグを立てることで、エッジ処理などの文字認識などを用いることなく、微細文字の再現性を向上させることができる。
図34は、2ドット反転画像の例を示す模式図である。同図に示す2ドット反転画像は、潜像形成条件が、帯電電位が−500V、OPC(Organic Photoconductor)がアゾ系で膜厚30μm、レーザ波長が655nm、ドット密度が1200dpiである。
また、図34において、黒部で示す2ドット反転出力部の光量が100%、Duty比が100%であり、白部は非露光である。
図35は、2ドット反転画像における光出力設定パターン画素を示す模式図である。同図に示す2ドット反転画像では、白ドットに隣接するハッチングで示す8画素が、光出力パターンを設定する画素となる。
ここで、上述のBM値に基づくフラグの立て方によれば、ハッチングを付した画素のBM値は2であり、フラグはCとなるため、これらの8つの画素にフラグに基づいて光出力値を設定する。
図36は、2ドット通常画像と2ドット反転画像との試料垂直方向の潜像電界ベクトルを示す模式図である。同図において、2ドット通常画像と2ドット反転画像とを、標準露光により画像パターン信号にしたがって光出力した場合の試料垂直方向への潜像電界ベクトルである。
図36に示すように、2ドット反転画像の試料垂直方向への潜像電界ベクトルは、2ドット通常画像に比べて著しく小さい。つまり、2ドット反転画像の試料垂直方向の潜像電界ベクトルは、2ドット通常画像の試料垂直方向の潜像電界ベクトルを反転したようなものとはならない。
このことは、標準露光により2ドット反転画像を画像パターン信号にしたがって光出力した場合には、所望の出力画像を得ることはできないことを示している。
そこで、本実施の形態における微細文字再現性向上処理では、BM値の大きさにしたがって大きな潜像電界ベクトルを形成させるように光出力パターンを設定するのが望ましい。
つまり、本実施の形態における微細文字再現性向上処理では、標準露光による画像パターン信号にしたがった場合の電界ベクトルをE0とする。
また、本実施の形態における微細文字再現性向上処理では、BM値が1である場合の電界ベクトルをED、BM値が2である場合の電界ベクトルをEC、BM値が3である場合の電界ベクトルをEB、BM値が4である場合の電界ベクトルをEAとする。
そして、本実施の形態における微細文字再現性向上処理では、以下の式(1)の関係となるように、試料垂直方向の潜像電界ベクトルを形成するのが望ましい。
EA≧EB≧EC≧ED≧E0 ・・・・・・(1)
なお、式(1)において、潜像電界ベクトルが大きい方が、トナーが付着しにくい方向を指す。
図37は、PWM変調による光出力値の相違による試料垂直方向の潜像電界ベクトルの相違を示す模式図である。
図37において、白ドットに隣接する黒ドットの露光条件のうち、Duty比のみを、標準露光による画像パターン信号にしたがった場合の電界ベクトルに対して75%、50%、25%と変化させて2ドット反転画像の静電潜像を形成する。そして、同図において、このように2ドット反転画像の静電潜像を形成したときの、c軸電界強度と静電潜像の中心からの距離との関係を示す。
なお、Duty比が100%よりも小さい露光条件では、黒ドットへの露光は、白ドットから離れたタイミングで行われるように設定されている。
静電潜像の中心でのc軸電界強度は、標準露光のとき2.88×106V/mである。また、静電潜像の中心でのc軸電界強度は、集中露光のときDuty比が75%のとき4.73×106V/m、Duty比が50%のとき5.47×106V/m、Duty比が25%のとき5.65×106V/mであった。
ここで、露光条件を変えたのは白ドットに隣接する黒ドットのみである。つまり、図37によれば、白ドットに対しては露光条件を全く変更していないにも関わらず、白ドットのc軸電界強度は変化していることがわかる。そして、Duty比が小さくなるにつれて、白ドットのc軸電界強度は大きくなるため、トナーが付着しにくくなっている。
以上のように、本実施の形態における微細文字再現性向上処理では、白ドットに隣接する黒ドットに付したフラグに基づいてDuty比を変化させることにより、白ドットが明確に表現されている反転画像を出力することができる。
なお、本実施の形態における微細文字再現性向上処理では、フラグがAの黒ドットではDuty比を0%(非点灯)としてもよい。この場合に、フラグがBの黒ドットではDuty比を25%とし、フラグがCの黒ドットではDuty比を50%とし、フラグがDの黒ドットではDuty比を75%とする。この場合であっても、EA≧EB≧EC≧EDの関係があるため、白ドットが明確に表現されている反転画像を出力することができる。
なお、Duty比の設定値は固定値でも良いが、Duty比の最適な設定値は装置毎に異なるため、予め実験等により、実機にあわせた適切な値を求めるのが好ましい。
図38は、PW+PWM変調による光出力値の相違による試料垂直方向の潜像電界ベクトルの相違を示す模式図である。また、図39は、PW+PWM変調による光出力値の相違による光出力分散量の相違を示す模式図である。
図38,39では、白ドットに隣接する黒ドットの露光条件のうち、点灯時間を短くして、積分光量を一定とし、光出力を変化させて2ドット反転画像の静電潜像を形成したときの、c軸電界強度と静電潜像の中心からの距離との関係を示す。
ここで、図38,39において、最大の光出力を、標準露光に対して、P400では400%、P200では200%、P133では133%として、通常の黒ベタ画像で用いる光出力よりも大きい光出力で露光(集中露光)している。
本実施の形態における集中露光を行うことにより、短い点灯時間及び強い光出力で、すなわち、時間的に集中して露光されることとなる。このため、本実施の形態によれば、白抜け画像部の潜像電界を立たせる(大きく)することができ、潜像解像力が良く、かつ、黒画素の濃度を維持することができる。
また、集中露光を行う場合には、積分光量が同じため、実質的に全体の画像濃度は変わらないという大きな特徴がある。
また、集中露光を行う場合には、BM値に基づいてDuty比を変える方法や変調電流を変える方法に比べて、c軸電界強度の幅が狭いため、c軸電界強度を増加させた上に解像力が維持されている。
さらに、集中露光を行う場合には、画像劣化がおきにくく、現像γが保存され、ハーフトーン画像にも対応できる可能性が高いなど、格別の効果が期待できる。すなわち、本発明に係る画像形成方法の微細文字再現性向上処理では、PM変調とPWM変調を組み合わせて露光条件を調整するのがより効果的である。
●光源駆動部
次に、本発明に係る画像形成方法を実行する本発明に係る画像形成装置の光源駆動部について説明する。
図40は、画像形成装置の光源駆動部を示す回路図である。同図に示すように、光源駆動部410は、電流源201〜204とスイッチSW1〜SW4とメモリ205を有する。また、光源駆動部410は、画像処理回路407と接続している。
本発明に係る画像形成方法を実行する本発明に係る画像形成装置では、画像部における主走査方向の位置に対応して(画像部の露光開始からの時間に対応して)光出力値を変化させながら露光を行う。図40に示す構成により、光源駆動部410は、パルス幅変調と光量変調(PWM+PW変調)とを同時に変調して光源駆動電流を生成することができる。
一般的に、電流波形は、バイアス電流(Ibi)と基本パターン電流(Iop)とオーバーシュート電流(Iov1、Iov2)とを加算することで生成される。
電流源201は、オーバーシュート電流Iov1を生成する。また、電流源202は、オーバーシュート電流Iov2を生成する。また、電流源203は、基本パターン電流Iopを生成する。さらに、電流204は、バイアス電流Ibiを生成する。
ここで、光源駆動部410が生成する電流値は、画像処理回路407からの電流値制御信号により、電流源201〜204が制御されて決定される。
スイッチSW1〜SW4は、電流源201〜204に対応して設けられる。スイッチSW1〜SW4は、画像処理回路407からの光源変調信号により制御される。スイッチSW1〜SW4は、電流源201〜204の流れを制御して、光源駆動部410が生成するパルスのパターンを生成する。
メモリ205は、記憶部に相当し、光源駆動電流生成時に必要な情報が格納される。画像処理回路407は、メモリ205の情報を参照する。
光源駆動部410によれば、光源変調データから得られた光源変調信号を電流に変換することができるため、本発明に係る画像形成装置では、光出力と点灯時間を同時に制御可能なPM+PWM変調を生成することができる。
図41は、光源駆動制御部を示すブロック図である。同図に示すように、光源駆動制御部1019は、基準クロック生成回路422と、画素クロック生成回路425とを備える。また、光源駆動制御部1019は、画像処理回路407と、光源選択回路414と、書込みタイミング信号生成回路415と、同期タイミング信号発生回路417とを備える。
なお、図41における矢印は、代表的な信号や情報の流れを示すものであり、各ブロックの接続関係の全てを表すものではない。
基準クロック生成回路422は、光源駆動制御部1019全体の基準となる高周波クロック信号を生成する。
画素クロック生成回路425は、主にPLL(Phase
Locked Loop)回路からなる。画素クロック生成回路425は、同期信号s19と基準クロック生成回路422からの高周波クロック信号とに基づいて、画素クロック信号を生成する。
ここで、画素クロック信号は、周波数が高周波クロック信号と同一であり、位相が同期信号s19と一致している。
したがって、画素クロック生成回路425は、画素クロック信号に画像データを同期させることで、走査ごとの書込み位置を制御することができる。
ここで、生成された画素クロック信号は、駆動情報の1つとして光源駆動部410に供給されるとともに、画像処理回路407にも供給される。画像処理回路407に供給された画素クロック信号は、書込みデータs16のクロック信号として使われる。
光源選択回路414は、光源が複数の場合に用いる回路であり、選択された発光部を指定する信号を出力する。この光源選択回路414の出力信号s14は、駆動情報の1つとして光源駆動部410に供給される。
図42は、画像形成装置の各部の動作時期を示すタイミングチャートである。同図において、s19は同期検知センサ26からの出力信号(同期信号)を示す。また、s15は書込みタイミング信号生成回路415の出力信号(LGATE信号)を示す。また、s14は光源選択回路414の出力信号を示す。さらに、s16は画像処理回路407の出力である書込みデータを示す。
画像処理回路407は、画像処理ユニット(IPU)などからの画像情報に基づいて、発光部毎の書込みデータs16を作成する。書込みデータs16は、駆動情報の1つとして、画素クロック信号のタイミングにより光源駆動部410に供給される。
●静電潜像計測装置の構成
次に、静電潜像計測装置の構成について説明する。
図43は、静電潜像計測装置を示す中央断面図である。
静電潜像計測装置300は、荷電粒子照射系400と、光走査装置1010と、試料台401と、検出器402と、LED403と、不図示の制御系と排出系と駆動用電源などを備えている。
荷電粒子照射系400は、真空チャンバ340内に配置されている。ここで、荷電粒子照射系400は、電子銃311と、引き出し電極312と、加速電極313と、コンデンサレンズ314と、ビームブランカ315と、仕切り板316とを有している。また、荷電粒子照射系400は、可動絞り317と、スティグメータ318と、走査レンズ319と、対物レンズ320とを有している。
なお、以下の説明において、各レンズの光軸方向をc軸方向とし、c軸方向に直交する面内における互いに直交する2つの方向をa軸方向及びb軸方向として説明する。
電子銃311は、荷電粒子ビームとしての電子ビームを発生させる。
引き出し電極312は、電子銃311の−c側に配置され、電子銃311で発生された電子ビームを制御する。
加速電極313は、引き出し電極312の−c側に配置され、電子ビームのエネルギーを制御する。
コンデンサレンズ314は、加速電極313の−c側に配置され、電子ビームを集束させる。
ビームブランカ315は、コンデンサレンズ314の−c側に配置され、電子ビームの照射をオン(ON)/オフ(OFF)させる。
仕切り板316は、ビームブランカ315の−c側に配置され、中央に開口を有している。
可動絞り317は、仕切り板316の−c側に配置され、仕切り板316の開口を通過した電子ビームのビーム径を調整する。
スティグメータ318は、可動絞り317の−c側に配置され、非点収差を補正する。
走査レンズ319は、スティグメータ318の−c側に配置され、スティグメータ318を介した電子ビームをab面内で偏向する。
対物レンズ320は、走査レンズ319の−c側に配置され、走査レンズ319を介した電子ビームを収束させる。対物レンズ320を介した電子ビームは、ビーム射出開口部321を通過して試料323の表面に照射される。
各レンズ等には、不図示の駆動用電源が接続されている。
なお、荷電粒子とは、電界や磁界の影響を受ける粒子をいう。ここで、荷電粒子を照射するビームは、電子ビームに代えて、例えばイオンビームを用いても良い。この場合は、電子銃に代えて、液体金属イオン銃などが用いられる。
試料323は、感光体であり、導電性支持体、電荷発生層(CGL:Charge
Generation Layer)、及び電荷輸送層(CTL:Charge Transport Layer)を有している。
電荷発生層は、電荷発生材料(CGM:Charge
Generation Material)を含み、導電性支持体の+c側の面上に形成されている。電荷輸送層は、電荷発生層の+c側の面上に形成されている。
試料323は、表面(+c側の面)に電荷が帯電している状態で露光されると、電荷発生層の電荷発生材料によって光が吸収され、正負両極性のチャージキャリアがそれぞれ発生する。このキャリアは、電界によって、一方は電荷輸送層に、他方は導電性支持体に注入される。
電荷輸送層に注入されたキャリアは、電界によって電荷輸送層の表面にまで移動し、表面の電荷と結合して消滅する。これにより、試料323の表面(+c側の面)には、電荷分布、すなわち、静電潜像が形成される。
光走査装置1010は、光源、カップリングレンズ、開口板、シリンドリカルレンズ、ポリゴンミラー、走査光学系などを有している。また、光走査装置1010は、ポリゴンミラーの回転軸に平行な方向に関して光を走査させるための走査機構(不図示)も有している。
光走査装置1010から出射された光は、反射ミラー372及び窓ガラス368を介して試料323の表面を照射する。
試料323の表面における光走査装置1010から射出される光の照射位置は、ポリゴンミラーでの偏向及び走査機構での偏向によって、c軸方向に直交する平面上の互いに直交する2つの方向に沿って変化する。このとき、ポリゴンミラーでの偏向による照射位置の変化方向は主走査方向であり、走査機構での偏向による照射位置の変化方向は副走査方向である。ここでは、a軸方向が主走査方向、b軸方向が副走査方向となるように設定されている。
このように、静電潜像計測装置300は、光走査装置1010から射出される光によって試料323の表面を2次元的に走査することができる。すなわち、静電潜像計測装置300は、試料323の表面に2次元的な静電潜像を形成することが可能である。
ところで、光走査装置1010は、ポリゴンミラーの駆動モータにより生じる振動や電磁波が電子ビームの軌道に影響を与えないように、真空チャンバ340の外に設けられている。これにより、測定結果に及ぼす外乱の影響を抑制することができる。
検出器402は、試料323の近傍に配置され、試料323からの2次電子を検出する。
LED403は、試料323の近傍に配置され、試料323を照明する光を射出する。LED403は、測定後に試料323の表面に残留している電荷を消去するのに用いられる。
なお、走査光学系を保持する光学ハウジングは、走査光学系全体をカバーで覆い、真空チャンバ内部へ入射する外光(有害光)を遮光するようにしても良い。
走査光学系において、走査レンズは、fθ特性を有しており、光偏光器が一定速度で回転しているときに、光ビームが像面に対して略等速に移動する構成となっている。また、走査光学系において、ビームスポット径も略一定に走査することができるように構成されている。
静電潜像計測装置300では、走査光学系が真空チャンバに対して離れて配置されるので、ポリゴンスキャナ等の光偏向器を駆動する際に発生する振動が直接真空チャンバ340に伝播されることによる影響は少ない。
なお、走査光学系を保持する不図示の構造体にダンパなどの防振手段を設けることで、さらに高い防振効果を得ることができる。
走査光学系を設けることにより、静電潜像計測装置300では、感光体の母線方向に対して、ラインパターンを含めた任意の潜像パターンを形成することができる。
なお、所定の位置に潜像パターンを形成するために、光偏向手段からの走査ビームを検知する同期検知センサ26を有しても良い。
また、試料の形状は、平面であっても曲面であっても良い。
●静電潜像計測の方法
次に、静電潜像計測の方法について説明する。
図44は、加速電圧と帯電との関係を示す模式図である。まず、静電潜像計測にあたり、静電潜像計測装置300では、感光体の試料323に電子ビームを照射させる。
ここで、図44に示すように、加速電極313に印加される電圧である加速電圧|Vacc|として、試料323での2次電子放出比が1となる電圧よりも高い電圧が設定される。このように加速電圧を設定することにより、試料323では、入射電子の量が放出電子の量よりも上回るため電子が試料323に蓄積され、チャージアップを起こす。この結果、静電潜像計測装置300では、試料323の表面をマイナス電荷で一様に帯電させることができる。
図45は、加速電圧と帯電電位との関係を示すグラフである。同図に示すように、加速電圧と帯電電位との間には、一定の関係がある。このため、静電潜像計測装置300では、加速電圧と照射時間を適切に設定することにより、試料323の表面に、画像形成装置1000における感光体ドラム1030と同様な帯電電位を形成することができる。
なお、照射電流の大きいほうが、短時間で目的の帯電電位に到達することができるため、ここでは照射電流を数nAとしている。
その後、静電潜像計測装置300では、静電潜像が観察できるように、試料323における入射電子量を1/100倍〜1/1000倍にする。
静電潜像計測装置300では、光走査装置500を制御して、試料323の表面を2次元的に光走査し、試料323に静電潜像を形成する。なお、光走査装置500は、試料323の表面に所望のビーム径及びビームプロファイルの光スポットが形成されるように調整されている。
ところで、静電潜像の形成に必要な露光エネルギーは、試料の感度特性によって決まるが、通常、2〜10mJ/m2程度である。なお、感度が低い試料では、必要な露光エネルギーは10mJ/m2以上になる場合がある。つまり、帯電電位や必要な露光エネルギーは、試料の感光特性やプロセス条件に合わせて設定される。ここで、静電潜像計測装置300の露光条件は、画像形成装置1000に合わせた露光条件と同様に設定されている。
図46は、試料面上の2次電子による電位分布を示す模式図である。同図において、荷電粒子を捕獲する検出器402と、試料323との間の空間における電位分布とを、等高線で説明図的に示す。
ここで、試料323の表面は、光減衰により電位が減衰した部分を除いては負極性に一様に帯電した状態であり、検出器402には正極性の電位が与えられている。そのため、実線で示される電位等高線群においては、試料323の表面から検出器402に近づくにしたがい電位が高くなる。
したがって、図46において、負極性に均一帯電している部分であるQ1点やQ2点で発生した2次電子el1、el2は、検出器402の正電位に引かれ、矢印G1や矢印G2で示されるように変位し、検出器402に捕獲される。
一方、図46において、Q3点は光照射されて負電位が減衰した部分であり、Q3点近傍では電位等高線の配列は破線で示されるように、Q3点を中心とした半円形の波紋状に広がる。この波紋状の電位分布では、Q3点に近いほど電位が高くなっている。
換言すると、Q3点の近傍で発生した2次電子el3には、矢印G3で示すように、試料323側に拘束する電気力が作用する。このため、2次電子el3は、破線の電位等高線で示されるポテンシャルの穴に捕獲され、検出器402に向かって移動することができない。
図47は、試料面上の2次電子による電荷分布を示す模式図である。同図において、ポテンシャルの穴が模式的に示されている。
すなわち、検出器402により検出される2次電子の強度(2次電子数)の大きい部分は、「静電潜像の地の部分(均一に負帯電している部分、図46における点Q1やQ2に代表される部分)」に対応する。検出器402により検出される2次電子の強度(2次電子数)の小さい部分は、「静電潜像の画像部(光照射された部分、図46における点Q3に代表される部分)」に対応する。
したがって、検出器402の出力から得られる電気信号を適当なサンプリング時間でサンプリングすれば、サンプリング時刻Tをパラメータとして、表面電位分布(電位コントラスト像)V(a,b)は、「サンプリングに対応した微小領域」ごとに特定できる。
そして、表面電位分布V(a,b)を2次元的な画像データとして構成し、これを不図示の表示装置で表示する、あるいは不図示のプリンタで印刷すれば、静電潜像は、可視的な画像として得ることができる。
静電潜像について、例えば、捕獲される2次電子の強度を「明るさの強弱で表現」すれば、静電潜像の画像部分は暗く、地の部分は明るくコントラストがつき、表面電荷分布に応じた明暗像として表現(出力)することができる。また、静電潜像について、表面電位分布を知ることができれば、表面電荷分布も知ることができる。
なお、静電潜像について、表面電荷分布や表面電位分布のプロファイルを求めることにより、静電潜像をさらに高精度に測定することが可能である。
図48は、走査光学系による潜像画像パターンの例を示す模式図である。同図に示すように、走査光学系による潜像画像パターンとしては、いわゆる1ドット孤立パターンや1ドット格子パターンと称されるものが挙げられる。
図49は、走査光学系による潜像画像パターンの別の例を示す模式図である。同図に示すように、走査光学系による潜像画像パターンとしては、いわゆる2ドット孤立パターンと称されるものが挙げられる。
図50は、走査光学系による潜像画像パターンのさらに別の例を示す模式図である。同図に示すように、走査光学系による潜像画像パターンとしては、いわゆる2by2パターンと称されるものが挙げられる。
図51は、走査光学系による潜像画像パターンのさらに別の例を示す模式図である。同図に示すように、走査光学系による潜像画像パターンとしては、いわゆる2ドットラインパターンと称されるものが挙げられる。
なお、走査光学系による潜像画像パターンは、上述のものに限定されず、様々なパターンを形成することができる。
ところで、検出器402での検出対象は、試料323からの2次電子に限定されるものではない。例えば、入射電子ビームが試料323の表面に到達する前に、試料323の表面近傍で反発された電子(以下「1次反発電子」ともいう。)を検出器402が検出しても良い。
図52は、グリッドメッシュ配置による測定例を示す中央断面図である。同図に示すように、グリッドメッシュ配置による測定例では、試料台401と試料323との間に絶縁部材404と導電部材405を設け、導電部材405に±Vsubの電圧が印加されるようになっている。
以上のように構成することで、検出器402では、1次反発電子が検出される。
なお、検出器402には、検出器402に対向して導電板が設けられても良い。
ところで、一般的に加速電圧は正で表現することが一般的であるが、Vaccは負であるため、加速電圧を負(Vacc<0)で表現する。
また、試料323の電位ポテンシャルをVp(<0)とする。
ここで、電位とは単位電荷が持つ電気的な位置エネルギーであるため、入射電子は、電位0(V)では加速電圧Vaccに相当する速度で移動する。
すなわち、電子の電荷量をeとし電子の質量をmとすると、電子の初速度v0は、mv02/2=e×|Vacc|で表される。ここで、真空中ではエネルギー保存の法則により、加速電圧の働かない領域では電子は等速で運動する。
試料323に接近するにしたがい、電位が高くなり、電子は、試料323の電荷によりクーロン反発の影響を受けて速度が遅くなる。したがって、一般的に以下のような現象が起こる。
図53は、|Vacc|≧|Vp|のときの入射電子の挙動を示す模式図である。同図に示すように、|Vacc|≧|Vp|のときは、入射電子の速度は減速されるものの、試料323に到達する。
図54は、|Vacc|<|Vp|のときの入射電子の挙動を示す模式図である。同図に示すように、|Vacc|<|Vp|のときは、入射電子の速度は試料323の電位ポテンシャルの影響を受けて徐々に減速し、試料323に到達する前に速度が0となって、反対方向に進む。
空気抵抗の無い真空中では、エネルギー保存の法則がほぼ成立する。したがって、入射電子のエネルギーを変えたときの試料323表面上でのエネルギー、すなわちランディングエネルギがほぼ0となる条件を計測することで、試料323表面の電位を計測することができる。
ここで、入射電子が試料323に到達したとき発生する2次電子と1次反発電子とでは、検出器402に到達する量が大きく異なるので、明暗のコントラストの境界より識別することができる。
なお、走査電子顕微鏡などには、反射電子の検出器があるが、この場合の反射電子とは、一般的に試料の物質との相互作用により、入射電子が後方背面に反射(散乱)され、試料表面から飛び出す電子のことを指す。
ここで、反射電子のエネルギーは入射電子のエネルギーに匹敵する。反射電子の速度ベクトルは試料の原子番号が大きいほど大きいとされる。また、反射電子は、試料の組成の違い、及び表面の凹凸などを検出するのに利用される。
これに対して、1次反発電子は、試料表面の電位分布の影響を受けて試料表面に到達する前に反転する電子のことであり、反射電子とは全く異なる。
図55は、潜像深さの計測結果の例を示す模式図である。同図において、静電潜像を計測した結果の一例が示されている。ここで、Vthは、VaccとVsubとの差(=Vacc−Vsub)である。
また、電位分布V(a,b)は、各走査位置(a,b)でランディングエネルギーがほぼ0となるときのVth(a,b)から求めることができる。ここで、Vth(a,b)は、電位分布V(a,b)と一意的な対応関係があり、電荷分布がなだらかであれば、Vth(a,b)は近似的に電位分布V(a,b)と等価となる。
図55(A)におけるVthと静電潜像の中心からの距離との関係を示す曲線は、試料表面の電荷分布によって生じた表面電位分布の一例である。
ここで、Vaccは−1800Vとしている。静電潜像の中心では、電位が約−600Vであり、静電潜像の中心から離れるにつれて、電位がマイナス側に大きくなる。静電潜像の中心から75μmを超える周辺領域の電位は、約−850Vになっている。
図55(B)は、Vsub=−1150Vに設定したときの検出器402の出力を画像化した図である。このとき、Vth=−650Vである。
また、図55(C)は、Vsub=−1100Vに設定したときの検出器402の出力を画像化した図である。このとき、Vth=−700Vである。
そこで、1次反発電子を検出して静電潜像のプロファイルを求める方法では、VaccまたはVsubを変えながら、試料表面を電子ビームで走査させ、Vth(a,b)を計測することにより、試料の表面電位情報を得ることができる。1次反発電子を検出して静電潜像のプロファイルを求める方法を用いることにより、従来困難であった、静電潜像のプロファイルをミクロンオーダーで可視化することができる。
なお、1次反発電子を検出して静電潜像のプロファイルを求める方法では、入射電子のエネルギーが極端に変化するため、入射電子の軌道がずれて、走査倍率が変化する、あるいは歪曲収差を生じる場合がある。
そこで、このような場合には、静電場の環境や電子軌道をあらかじめ計算しておき、その計算結果に基づいて検出結果を補正することにより、静電潜像のプロファイルを高精度に求めることができる。
以上説明したように、静電潜像計測装置300を用いることにより、静電潜像における電荷分布、表面電位分布、電界強度分布、及び試料表面に直交する方向に関する電界強度を、それぞれ高精度に求めることができる。