JP5898400B2 - 銅微粒子とその製造方法及び銅微粒子分散液 - Google Patents

銅微粒子とその製造方法及び銅微粒子分散液 Download PDF

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Description

本発明は、銅微粒子及びその製造方法、並びにその銅微粒子の分散液に関するものである。更に詳しくは、粒径が微細で、不純物含有量が少なく、低温焼成が可能であり、特に電子材料の配線形成用として有用な銅微粒子に関する。
従来から、金属微粒子は、電子材料用の導電性ペーストのような配線形成材料として、プリント配線、半導体の内部配線、プリント配線板と電子部品との接続等に利用されている。特に粒径が100nm以下の金属微粒子は、通常のサブミクロン以上の粒子と異なり焼成温度を極めて低くできるため、低温焼成ペースト等への応用が考えられている。
特に最近では、インクジェットプリンターを用いて金属微粒子を含有するインクにより配線パターンの印刷を行い、低温焼成して配線を形成する技術が着目され、研究開発が進められている。しかし、インクジェットプリンターの場合、インクに含まれる金属微粒子は、インク中において長期間分散性を保つことが要請されており、そのため現状における金属微粒子よりも更なる微細化が必須となっている。尚、現在実用化されているインクジェットプリンター用の顔料系インクでは、インクに含有される有機顔料やカーボンブラックに求められる粒径は50〜200nmが一般的である。
一方、インクジェットプリンター用インクに用いる金属微粒子の粒径については、分散性の観点から50nm以下であることが望まれている。即ち、金属微粒子として銅を例に挙げると、金属銅の密度は8.96g/cmであり、有機顔料やカーボンブラックの密度1.5〜2.5g/cmに対して約4〜6倍である。そのため、分散液中の微粒子の沈降速度に関する公知のストークス式から、分散媒を水と仮定し、有機顔料の密度を1.5g/cmとし、上記密度差を考慮して有機顔料やカーボンブラックと同程度の沈降速度となる銅微粒子の粒径を算出すると、ほぼ12.5〜50nm程度となるからである。
また、電子部品の配線用材料として用いられる導電性ペーストでは、配線中に残存する不純物の影響が問題となり、特にハロゲン元素が有害であることが知られている。即ち、配線中に多くの不純物元素が存在すると、配線中の金属の腐食が促進され、絶縁部分にも金属元素が移動するマイグレーションが発生する結果、絶縁不良が発生しやすくなる。更に、近年のファインピッチ化が進んだ電子機器においては、その影響が従来よりも大きなものとなっている。特に300℃以下の低温域での焼成では、高温での焼成と比較して焼成時の揮発による除去がほとんど期待できないため、有害な不純物の混入を極力減らす必要がある。
導電性ペーストに用いる金属微粒子の製造方法としては、液相中から金属微粒子を製造する化学的な方法が提案されている。一般的な方法としては、金属化合物を溶液中において還元剤により還元する方法があり、生産性の高い濃厚系で金属微粒子を合成する方法としてポリオール法がよく知られている。例えば、特開昭59−173206号公報に開示されているように、ポリオール法は酸化銅のような銅の酸化物又は塩をポリオール中で加熱還元する方法であり、ポリオールは溶媒、還元剤、保護剤の三つの役割を担っている。
このポリオール法によれば、濃厚系でもサブミクロンないしミクロンオーダーの金属微粒子を得ることができる。特に、金属化合物として酸化物や水酸化物を出発原料とすることにより、産業応用上好ましくない元素を混入させることなく金属微粒子が得られる。また、ポリオールの種類、反応温度、原料などを調整することによって、微細な金属微粒子を得られることが知られている。しかし、通常のポリオール法においては、特に銅微粒子の場合、粒径が100nm以下の分散性の優れた銅微粒子の合成は極めて困難であった。
また、特開2003−166006号公報には、ポリオール法による銅微粒子の製造方法として、200nm未満の粒子径を有する銅化合物をポリオール溶媒中に懸濁した後、温度150℃未満にて加圧水素下で還元処理する方法が提案されている。しかしながら、この方法では、加圧水素下で加熱する必要があるため、装置が複雑になるばかりか危険性を伴う。また、得られる銅微粒子も50nm程度が最小である。
更に、ポリオール法を用いて、酸化銅あるいは水酸化銅を出発原料とし、貴金属イオンを核形成材として投入することにより、平均粒径50nm以下の銅微粒子を得る方法が提案されている。例えば、特開2005−307335号公報には、銅の酸化物、水酸化物又は塩を、エチレングリコール、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコールの溶液中で、核生成のために貴金属イオンを添加すると共に、分散剤としてポリビニルピロリドン、還元反応制御剤としてアミン系有機化合物を添加して加熱還元し、銅微粒子を得る方法が提案されている。また、特開2005−330552号公報には、同様にポリオール溶液中で、核生成のためにパラジウムイオンを添加すると共に、分散剤としてポリエチレンイミンを添加して加熱還元し、銅微粒子を得る方法が提案されている。
しかし、これらの方法では、平均粒径50nm以下の銅微粒子が得られるが、核生成のために塩化パラジウムアンモニウムや塩化パラジウムを用いていることからも分るように、有害なハロゲン元素の混入を避けることができない。また、必要に応じてアルカリ性無機化合物を添加できるが、その場合には有害なアルカリ金属元素が混入する恐れがある。これらの有害元素の中でも特に塩素イオンは、生成した銅微粒子に強固に吸着し、合成後の洗浄工程においても除去できないという問題がある。更には、被覆高分子層が焼結を阻害する要因となるため、被覆高分子層が厚すぎると十分な導電性が得られなくなり、逆に被覆高分子層を薄くしすぎると、液中での分散性を維持できなくなると共に耐酸化性が損なわれる。
また、導電性ペーストに用いて配線を形成する際の焼成雰囲気として、特開2005−097677号公報や特開2000−123634号公報には、水素雰囲気あるいは真空雰囲気にすることが記載されている。しかしながら、水素雰囲気や真空雰囲気での焼成は、装置構成が複雑になることや安全面での問題があることから、より簡便な条件で焼成できる銅微粒子インクやペーストが望まれている。更に、これらの方法では250℃以上の高温で焼成が行われることから、使用できる基板材料が限られてしまうため、より低温での焼成が可能なペーストの提供が望まれている。
特開昭59−173206号公報 特開2003−166006号公報 特開2005−307335号公報 特開2005−330552号公報 特開2005−097677号公報 特開2000−123634号公報
本発明は、上記した従来の事情に鑑みてなされたものであり、有害なハロゲン元素の含有量が極めて少なく、微細で分散性の高い銅微粒子を安定して低コストで製造することを目的とするものである。即ち、大量生産に適した液相法であるポリオール法を用いて、平均粒径が50nm以下であり、ハロゲン元素の含有量が20質量ppm未満であって、低温焼成可能な配線材料用の銅微粒子、及びその製造方法、並びにその銅微粒子を含む分散液を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明者は、ポリオール法を用いた銅微粒子の製造方法について鋭意検討を重ねた結果、ハロゲン元素は原料から混入するものであることから、原料中のハロゲン元素を低減させることで、有害なハロゲン元素含有量が極めて少ない銅微粒子が得られ、更に特定の分散剤を用いることにより溶液中で良好な分散状態を維持でき、微細な粒径の銅微粒子が得られることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
即ち、本発明による銅微粒子の第1の製造方法は、エチレングリコール、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコールの溶液に、分散剤である水溶性高分子と、核生成物質である貴金属化合物又は貴金属コロイドと、銅原料である銅の酸化物、水酸化物又は塩とを添加し、該溶液中で該銅原料を加熱還元することによって、電界放出型電子顕微鏡を用いて観察したときの視野から200個の銅微粒子を無作為に選択して粒径を測定し算出した平均粒径が50nm以下であり、かつ基板に塗布した後に窒素雰囲気中にて220℃で1時間焼成した際の体積抵抗率が100μΩ・cm未満となる銅微粒子を得る方法であって、該溶液並びに該溶液に添加する分散剤、核生成物質、及び銅原料の各々に含まれ得るハロゲン元素の合計含有量を該銅原料中の銅に対して20質量ppm未満に制御し、且つ該銅原料に含まれ得るハロゲン元素の含有量を該銅原料中の銅に対して5質量ppm未満にすることを特徴とする。
上記本発明による銅微粒子の第1の製造方法においては、前記水溶性高分子としてポリエチレンイミンを用い、該ポリエチレンイミンの添加量を銅に対する重量比で0.005〜0.1とすることが好ましい。また、前記水溶性高分子として、前記ポリエチレンイミンと共に、ポリビニルピロリドン及びポリアリルアミンの少なくとも1種を用い、該ポリビニルピロリドンとポリアリルアミンの合計添加量を銅に対する重量比で0.01〜0.8とすることが更に好ましい。
上記本発明による銅微粒子の第1の製造方法においては、前記貴金属化合物又は貴金属コロイドに含有される貴金属の銅に対する質量比が0.0004〜0.01であることが好ましい。
本発明が提供する銅微粒子の第2の製造方法は、上記本発明による銅微粒子の第1の製造方法により得られた銅微粒子を含む溶液にヒドロキシカルボン酸又はその溶液を添加することにより、銅微粒子に吸着している水溶性高分子の一部をヒドロキシカルボン酸で置換して、銅微粒子に吸着している水溶性高分子の量を1.5質量%未満とすることを特徴とする。
本発明によれば、有害なハロゲン元素の含有量が極めて少なく、且つ粒径が微細で分散性が極めて高い銅微粒子を、高圧容器等の特別な装置を必要せず、一般の工業材料を用いて、低コストで製造することができる。
従って、本発明の銅微粒子及びその銅微粒子を含む分散液は、低温焼成可能な配線材料用として好適であり、配線密度のファインピッチ化に対応可能なものであって、特にインクジェットプリンターに使用するインク用として極めて有効である。
実施例1で得られた銅微粒子のSEM写真(倍率10万倍)である。 実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた銅微粒子において、吸着している水溶性高分子量と体積抵抗率の関係を示すグラフである。
本発明における銅微粒子の製造方法は、ポリオール法を応用して、銅原料である銅の酸化物、水酸化物又は塩を、エチレングリコール、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコールの溶液中で加熱還元することにより、液相中で銅微粒子を合成するものである。特に本発明方法においては、原料から混入するハロゲン元素の合計含有量を銅に対して20質量ppm未満に制御することにより、ハロゲン元素の含有量が20質量ppm未満にまで低減された銅微粒子を得ることができる。
ハロゲン元素、特に塩素は、銅微粒子表面に吸着するだけでなく内部にまで含有されることから、電子材料用として許容可能な範囲、即ち銅微粒子の銅に対して20質量ppm未満まで除去することが極めて困難である。従って、本発明方法においては、ハロゲン元素を含有しない原料を用いることが重要であり、具体的には、銅原料である銅の酸化物、水酸化物又は塩の他、エチレングリコール、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコール、分散剤の水溶性高分子、核生成のための貴金属化合物又は貴金属コロイドについて、これらに含まれているハロゲン元素の合計含有量を銅に対して20質量ppm未満とする。
まず、銅原料として用いる銅の酸化物、水酸化物又は塩については、ハロゲン元素含有量が5質量ppm未満であることが好ましい。ハロゲン元素含有量が低ければ、通常のポリオール法で用いられるものでもよく、例えば、酸化銅、亜酸化銅等の銅の酸化物、水酸化銅等の銅の水酸化物、酢酸銅等の銅の塩を用いることができる。また、ハロゲン元素含有量が高い場合でも、洗浄によってハロゲン元素含有量を5質量ppm未満に低減できれば、銅原料として用いることができる。尚、これらの銅原料は、通常の粉末状態で使用することが好ましい。
核形成に用いる貴金属化合物としては、ポリオール溶液中で銅より容易に還元されるものであれば良い。しかし、有害なハロゲン元素を排除する必要から、ハロゲン元素を成分元素としている化合物は用いることができない。また、ハロゲン元素を成分元素としない化合物を用いる場合であっても、不純物として混入する場合があるので注意を要する。貴金属化合物のハロゲン元素含有量は特に限定されるものではないが、上記した溶液中のハロゲン元素含有量が銅に対して20質量ppm未満であれば問題はない。
上記貴金属化合物は、粉末状態で添加することもできるが、水などの極性溶媒に溶解した状態で添加することによって、均一にポリオール溶液中に分散させることができるため、微細な貴金属粒子を均一に形成させることができ、得られる銅微粒子も均一で微細なものになるため好ましい。従って、極性溶媒に可溶な貴金属化合物、即ち水溶性貴金属化合物を用いることが好ましい。特に、ハロゲン元素を含まない硝酸パラジウム、硝酸パラジウムアンモニウムが好ましい。
また、貴金属化合物として、溶解性が低い貴金属水酸化物や貴金属酸化物を用いることもできる。核生成物質として好適な貴金属化合物、例えば、上記した硝酸パラジウムや硝酸パラジウムアンモニウムは強酸化性の硝酸イオンを含んでいるが、水酸化物や酸化物は硝酸イオン等の強酸化性イオンを含まず、有害な元素も成分元素としていない。このため、酸化性イオンによる還元抑制作用がなく、より低い温度で還元が可能になるため工業的には有利である。
更に、銅微粒子の生成のための核の形成には、貴金属コロイドを用いることもできる。貴金属コロイドを用いることで貴金属コロイドの合成を銅微粒子の製造と分離することができるため、貴金属コロイドの合成を最適条件で行うことができ、コロイド中の微細な貴金属微粒子の制御も容易である。即ち、微細な貴金属微粒子は銅微粒子生成の核となることから、貴金属微粒子を制御することで、銅微粒子の粒径制御と粒径の均一性をより向上させることができる。また、貴金属コロイドを限外濾過膜などにより置換洗浄すれば、上記した有害な元素の他、銅微粒子の生成に不要な成分の混入も反応系から極力排除することが可能である。特にハロゲン元素含有量は、貴金属化合物と同様に、銅に対して20質量ppm未満程度に制御することが好ましい。
上記貴金属コロイドとしては、ポリオール溶液中で置換反応を起こさせないため、銅よりもイオン化傾向が低いものが好ましく、銀、パラジウム、白金、金のコロイドが好ましい。また、得られる銅微粒子の粒径は、添加された貴金属核数に反比例すること、また高価な貴金属の使用量は極力少ないことが望ましいことから、核として添加するコロイド中の貴金属微粒子の平均粒径は20nm以下が好ましく、10nm以下が更に好ましい。平均粒径が20nmを越えると、得られる銅微粒子の粒径が大きくなり過ぎるばかりか、貴金属の使用量が増えて高コストとなる。
上記貴金属コロイドとしては、市販のものを用いることもできるが、公知のポリオール法を用いることによって容易に合成できる。例えば、ポリオール溶液中に、水溶性貴金属化合物と水溶性高分子を添加すれば良い。水溶性貴金属化合物としては、例えば硝酸パラジウムや硝酸パラジウムアンモニウムなどの、ハロゲン元素を成分元素としない化合物が好ましい。また、水溶性高分子としては、ポリビニルピロリドンをなどが好ましい。水溶性貴金属化合物及び水溶性高分子の添加量は、必要な粒径が得られるように温度などの合成条件を加味して定める。例えば、水溶性貴金属化合物の添加量をパラジウム濃度で5g/l、水溶性高分子の添加量を10g/lとすれば、粒径10〜15nmの微粒子を含有したパラジウムコロイドが得られる。
上記した核生成用の貴金属化合物あるいは貴金属コロイドの添加量は、その形態にかかわらず、銅に対する貴金属の質量比、即ち貴金属/Cu質量比で0.0004〜0.01の範囲とすることが好ましく、0.0005〜0.005の範囲がより好ましい。貴金属/Cu質量比が0.0004未満では、貴金属微粒子の量が不足するため、銅の還元反応ないし銅微粒子の形成が十分に進まない。銅微粒子形成に至った場合でも、核となる貴金属微粒子数が不足しているため、粒径が50nmを越えてしまう場合がある。また、貴金属/Cu質量比が0.01を超えても銅微粒子は得られるが、高価な貴金属の添加量が増える割には粒径の微細化効果は得られないため好ましくない。
特に好ましくは、核生成用の貴金属化合物あるいは貴金属コロイドの貴金属にパラジウム(Pd)を用い、Pd/Cu質量比を0.0006〜0.005の範囲とする。Pd/Cu質量比は0.0006〜0.003の範囲とすることがより好ましい。これによって、平均粒径が50nm以下であり、粒径の均一性に優れた銅微粒子を得ることができる。
分散剤として添加する高分子は、極性溶媒であるポリオール溶液中に溶解させるために、水溶性高分子を使用する。水溶性高分子は、還元析出した若しくは添加した貴金属微粒子及び銅微粒子の表面を被覆し、立体障害により微粒子同士の接触を防止することによって、凝集がほとんどなく、分散性に優れた銅微粒子の生成を促進する。水溶性高分子としては、極性溶媒であるエチレングリコール、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコールに溶解し、生成した貴金属微粒子及び銅微粒子に吸着して立体障害を形成し得るものであればよく、例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン、ポリアリルアミンが好ましく、その中でもポリエチレンイミンが特に好ましい。
ハロゲン元素を反応系から極力排除した場合、銅微粒子表面の水溶性高分子の吸着が進まず、上記のような立体障害による凝集防止効果が十分得られない場合がある。即ち、ハロゲン元素が多量にポリオール溶液中に含有される場合は、ハロゲン元素が銅微粒子表面に吸着し、更にハロゲン元素に水溶性高分子が吸着することで十分な水溶性高分子の被覆が形成されるが、ハロゲン元素が排除された場合には、銅微粒子表面へのハロゲン元素の吸着が少なくなり、水溶性高分子の被覆が十分に形成されない。このような場合でも、ポリエチレンイミンは銅との親和性が高いイミン基を有することから、銅微粒子への吸着能が高く、銅微粒子表面に水溶性高分子を吸着して、十分な被覆を形成することができる。
水溶性高分子であるポリエチレンイミン(PEI)の添加量は、銅に対する質量比、即ちPEI/Cu質量比で、0.005〜0.1の範囲が好ましく、0.01〜0.03の範囲が更に好ましい。PEI/Cu質量比が0.005未満では、微粒子の被覆率が低下して、核となる貴金属微粒子あるいは生成した銅微粒子が反応中に凝集し、結果的に得られる銅微粒子が粗大化する。また、PEI/Cu質量比が0.1を越えると、溶液の粘性が高くなり過ぎ、後の極性溶媒との溶媒置換や濃縮に時間がかかるうえ、濃縮後に水溶性高分子の残存量が多くなるため好ましくない。
一般に、高分子分散剤は、吸着基によって対象となる微粒子の吸着能が異なるため、反応初期に生成し若しくは添加される貴金属微粒子用と、貴金属微粒子に還元析出して生成する銅微粒子用として、異なる複数の高分子分散剤を混合して用いることが効果的である。具体的には、上記したポリエチレンイミンに加えて、ポリビニルピロリドンとポリアリルアミンの少なくとも1種を用いることが特に好ましい。
この場合、ポリビニルピロリドン(PVP)及び/又はポリアリルアミン(PAA)の添加量は、銅に対する合計の質量比、即ち(PVP+PAA)/Cuの質量比で、0.01〜0.8とすることが好ましく、0.01〜0.5の範囲が更に好ましい。ポリビニルピロリドンあるいはポリアリルアミンの添加により、核となる貴金属微粒子を更に微細にすることができるが、これらの合計添加量が0.01未満では添加の効果がなく、0.8を超えるとポリエチレンイミンと同様に溶液の粘性が高くなり過ぎ、後の極性溶媒との溶媒置換や濃縮に時間がかかるうえ、濃縮後に水溶性高分子の残存量が多くなるため好ましくない。
上記水溶性高分子からハロゲン元素が混入した場合も、最終的に作製した銅微粒子あるいは分散液にハロゲン元素が残留するため、ハロゲン含有量の低い水溶性高分子を使用する必要がある。具体的には、水溶性高分子中のハロゲン元素の合計含有量は、上記した溶液中のハロゲン元素含有量が銅に対して20質量ppm未満となるように制御することが好ましい。
特にポリエチレンイミンは製造過程においてハロゲン元素が混入しやすいが、混入している場合には、陰イオン交換樹脂を用いてハロゲン元素の多くを除去することができる。陰イオン交換樹脂としては、OH形、NO 形等のハロゲンイオン形以外の樹脂を用いることができるが、還元反応に悪影響が出ないOH形の樹脂を用いることが好ましい。除去方法としては、水溶性高分子溶液を陰イオン交換樹脂と接触させ、ハロゲンイオンを交換吸着して除去する。樹脂との接触方法としては、バッチ式あるいはカラム式等の公知の方法を用いることができる。水溶性高分子中のハロゲン元素含有量を1000質量ppm未満、好ましくは400質量ppm未満に低減することにより、最終的に作製される銅微粒子中のハロゲン含有量を20質量ppm未満にすることができる。
次に、本発明による銅微粒子の製造方法を更に具体的に説明する。使用するポリオールとしては、エチレングリコール(EG)、ジエチレングリコール(DEG)、トリエチレングリコール(TEG)のいずれか1種か、又は2種以上の混合物である。使用する装置は、通常のポリオール法で用いられる装置を用いることができるが、装置内に銅微粒子が付着し難いものが好ましく、ガラス容器、フッ素樹脂等で被覆処理された金属容器などが用いられる。また、均一に還元反応を行わせるためには、撹拌装置を備えているものが好ましい。
まず、ポリオール溶液に、銅原料と貴金属化合物又は貴金属コロイドを添加すると共に、分散剤として水溶性高分子を添加する。これらの原料を添加したポリオール溶液を撹拌しながら、所定の温度に昇温して保持することによって、銅微粒子が生成する。昇温及び保持中は、反応を均一化させるため撹拌することが好ましい。ポリオール溶液は、酸化防止作用も持っているが、還元反応を促進させると共に銅微粒子の再酸化を防止するため、昇温及び保持中は窒素ガスを吹き込むことが好ましい。
通常は、ポリオール溶液に、銅原料、貴金属化合物又は貴金属コロイド、水溶性高分子を添加した後に加熱を開始する。ただし、銅微粒子形成の核を微細且つ均一に生成させるため、貴金属化合物あるいは貴金属コロイドについては、それ以外の原料を添加して昇温中のポリオール溶液に、後から添加してもよい。また、水溶性高分子の一部あるいは全部についても、上記と同様に、昇温中のポリオール溶液に、後から添加することができる。
均一な銅微粒子を合成するためには、ポリオール溶液の最高到達温度として120〜200℃の範囲が可能である。この最高到達温度が120℃未満では、銅の還元反応速度が遅くなり、反応完了まで長時間を要するだけでなく、得られる銅微粒子の粗大化を招く。温度が200℃を超えると、高分子分散剤による保護効果が薄れて、凝集性の粗大な粒子に成長するため好ましくない。
上記した本発明の銅微粒子の製造方法により、貴金属を含有し、ハロゲン元素の含有量が20質量ppm未満であり、表面が水溶性高分子で被覆され、平均粒径が50nm以下の銅微粒子を得ることができる。銅微粒子の平均粒径が50nmを超えると、微細な配線パターンを形成した場合、十分な低温焼成効果が得られないばかりか、インクジェットプリンター用のインクとして用いる場合には銅微粒子が沈降することがあるため好ましくない。
得られた銅微粒子中のハロゲン元素含有量が20質量ppm以上であると、電子材料用、特に配線材料用として用いた場合に、マイグレーションや腐食が発生するため好ましくない。ハロゲン元素の含有量は、焼成後の体積抵抗率にも影響し、同じ水溶性高分子吸着量であれば、ハロゲン元素の含有量の少ない方が低い体積抵抗率を示す。即ち、分散性を維持するために水溶性高分子吸着量を増加させても、体積抵抗率を低く維持することができる。
また、得られた銅微粒子の表面は水溶性高分子で被覆されているが、水溶性高分子は焼成の阻害要因になると同時に、水溶性高分子の量が多いほど焼成後の導電性を低下させやすい。低温焼成後の良好な体積抵抗率を得るためには、銅微粒子表面に吸着している水溶性高分子の量を1.5質量%未満とすることが好ましい。水溶性高分子の量が1.5質量%を超えると、低温焼成後の体積抵抗率が上昇するため配線材料として好ましくない。
そこで、本発明においては、銅微粒子表面に吸着している水溶性高分子の量を低減させるため、ヒドロキシカルボン酸によって水溶性高分子を置換することができる。即ち、得られた銅微粒子を含む溶液に、ヒドロキシカルボン酸あるいはヒドロキシカルボン酸溶液を添加して撹拌することにより、銅微粒子の分散性を維持しながら、銅微粒子表面に吸着被覆している水溶性高分子の一部をヒドロキシカルボン酸で置換することができる。遊離した水溶性高分子は、限外濾過により排出する。尚、水溶性高分子の量を低減させると、導電性は向上する一方で耐酸化性が低下するが、ヒドロキシカルボン酸による被覆により酸化を抑制することが可能である。
上記ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グルコン酸、リンゴ酸、クエン酸が好ましく、溶媒への溶解性や粘度調整等を考慮して、これらの1種又は2種以上を適宜選択して用いることができる。ヒドロキシカルボン酸の添加量に関しては、溶液に対して20質量%未満とすることが好ましく、1〜10質量%とすることが更に好ましい。ヒドロキシカルボン酸の添加量が20質量%以上になると、銅微粒子の溶解が進行して、酸化や凝集の原因となるため好ましくない。
上記したヒドロキシカルボン酸での置換によって、得られる銅微粒子は、貴金属を含有し、ハロゲン含有量が20質量ppm未満であり、表面が水溶性高分子及びヒドロキシカルボン酸で被覆され、吸着している水溶性高分子量が1.5質量%未満であり、且つ平均粒径50nm以下である。この銅微粒子は、最近研究開発が進んでいるインクジェットプリンターやスクリーン印刷を用いた微細な配線パターンの印刷形成技術において、専用のインクあるいはペーストを構成する金属微粒子として優れており、インクあるいはペースト中で良好な分散性を保つことができる。
本発明の銅微粒子は、エチレングリコール、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコール中に分散した状態で得られる。この溶液中には、銅微粒子以外に、余剰の水溶性高分子が含まれている。しかし、この水溶性高分子は、最終的に使用される配線材料用導電性ペースト製品中に過剰に存在すると、電気抵抗の上昇や構造欠陥などの不具合をもたらす原因となる。
そこで、本発明方法により得られた銅微粒子を含むポリオール溶液は、水やアルコール、エステル等の極性溶媒で溶媒置換し濃縮することによって、水溶性高分子をできるだけ除去し、銅微粒子が極性溶媒中に分散した分散液とすることが好ましい。尚、使用する極性溶媒としては、水、アルコール、エステルのいずれか1種、若しくはこれらの2種以上の混合物が好ましい。
このような銅微粒子分散液を調整する一般的な方法としては、本発明で得られた銅微粒子を含むポリオール溶液を、水、アルコール、エステル等の極性溶媒で希釈した後、限外濾過等により溶媒置換及び濃縮を行う方法が用いられる。その後、必要に応じて、更に極性溶媒による希釈と、溶媒置換及び濃縮を繰り返し、所望の銅濃度と不純物含有量に調整した銅微粒子分散液を得る。更に、成膜性の向上のために、ヒドロキシカルボン酸等の添加剤を加えても良い。ヒドロキシカルボン酸の添加量は、上記した水溶性高分子の置換のため銅微粒子を含む溶液に添加する場合と同様に、分散液に対して20質量%未満が好ましく、1〜10質量%が更に好ましい。
かくして得られる本発明の銅微粒子分散液は、銅微粒子が極性溶媒に分散した銅微粒子の分散液であって、ガラス基板や、ポリイミド等の樹脂基板に塗布し、窒素雰囲気において220℃で1時間焼成した場合、体積抵抗率が100μΩ・cm未満となる。体積抵抗率に影響を与える因子としては、水溶性高分子含有量の他にハロゲン元素含有量も関係しており、ハロゲン元素含有量が低いほど体積抵抗率は低下する。この銅微粒子分散液は、微細な配線パターンの印刷形成技術に用いられるインクあるいはペースト用の銅微粒子分散液として好適なものである。
以下に示す原材料を用いて、下記の各実施例のごとく銅微粒子を製造した。
銅原料:亜酸化銅(CuO)(Chemet社製)
貴金属化合物:硝酸パラジウムアンモニウム(エヌ・イー ケムキャット社製)
ポリオール溶媒:エチレングリコール(EG)(日本触媒(株)製)、
分散剤:分子量10,000のポリビニルピロリドン(PVP)(アイエスピー・ジャパン(株)製)、分子量1,800のポリエチレンイミン(PEI)(日本触媒(株)製)
添加剤:クエン酸(和光純薬(株)製、特級)
[実施例1]
塩素含有量40質量ppmの亜酸化銅(CuO)粉600gを、3リットルの0.1mol/l水酸化ナトリウム水溶液に添加してサスペンションとし、80℃で1時間撹拌した後、濾過した。得られた亜酸化銅を3リットルの純水に添加し、30分間撹拌した後濾過し、80℃で真空乾燥を行うことにより、洗浄済みCuO粉を得た。洗浄済みCuO粉の塩素含有量は、Cuに対して2質量ppmであった。
一方、塩素含有量が3000質量ppmのポリエチレンイミン(PEI)10gを、10質量%となるように水で希釈し、水酸化ナトリウム水溶液を用いてOH形に変換した陰イオン交換樹脂(三菱化学(株)製、SA−10A)10gを添加して、8時間撹拌した。その後、樹脂を濾別し、80℃で真空乾燥させることにより、洗浄済みPEIを得た。洗浄済みPEIの塩素含有量は、200質量ppmとなった。
溶媒である1リットルのエチレングリコール(EG)に、110gの洗浄済みCuO粉、1.5gの洗浄済みPEI、及び塩素含有量が3質量ppmである40gのポリビニルピロリドン(PVP)を加え、窒素ガスを吹き込みながら撹拌して加熱した。この溶液に、硝酸パラジウムアンモニウムをアンモニア水で溶解したパラジウム溶液をパラジウム量で0.1g加え、160℃に30分保持して銅微粒子を還元析出させた。銅に対する原料中の塩素の合計含有量は6質量ppm、PEIのCuに対する質量比は0.015、同じくパラジウムの質量比(Pd/Cu)は0.001であった。
得られた銅微粒子を濾過し、SEMで観察したところ、凝集のない微粒子であった。この銅微粒子は、平均粒径dが40nmで、相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)が53%であった。この銅微粒子のSEM写真を図1に示す。尚、SEM観察による粒径測定は、日立製作所(株)製の電界放出型電子顕微鏡(FE−SEM、型式S−4700)を用いて観察し、視野から200個の銅微粒子を無作為に選択して粒径を測定し、平均粒径と相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)を算出した。平均粒径と相対標準偏差の測定は、以下の実施例及び比較例についても同様に行った。
次に、得られた銅微粒子を含む溶液から、溶媒のエチレングリコール(EG)の大部分を水で置換した銅微粒子分散液を調製した。具体的には、得られた銅微粒子を含む溶液(Cu:10重量%)1リットルに、純水とエチレングリコールの混合溶媒(純水:エチレングリコール:=8:1)1リットルにクエン酸10gを添加した洗浄液を追加し、限外濾過により約1/10になるまで濃縮した。その後、2リットルになるまで上記と同じ洗浄液を追加し、限外濾過により純水とエタノールの混合濾液を系外へ排出して、銅微粒子を含む溶液を100ccまで濃縮した。
更に、この濃縮液に、再び上記と同じ洗浄液を1リットルになるまで追加し、限外濾過により濾液を系外へ排出して、元液を1/10に希釈した。この工程を更に1度繰り返すことによって、反応溶媒を元の1/20000の濃度にした。その後、この溶媒置換・濃縮後の液を回収して、50ccの銅微粒子分散液を得た。得られた銅微粒子分散液は、分析結果から、Cu:57質量%、Cl:6質量ppm、Pd:0.05質量%、Na:10質量ppm未満、Mg:10質量ppm未満であり、残部が純水とエチレングリコールであって、銅に対する塩素含有量は11質量ppmであった。
上記銅微粒子分散液を、真空中において80℃で3時間乾燥させた後、窒素雰囲気中にて600℃までの熱重量分析を行ったところ、180℃〜300℃にかけて4.6質量%の重量減少と、300℃〜600℃にかけて1.2質量%の重量減少が検出された。別途実施したクエン酸、PEI、PVPの各熱重量分析結果から、クエン酸に関しては180℃付近から分解し始めて300℃でほぼ完全に分解蒸発し、PEI及びPVPに関しては300℃付近から分解し始めて600℃でほぼ完全に分解蒸発し、カーボンが固体として残留しないことが確認されている。よって、300℃〜600℃の重量減少は銅に吸着したPEI及びPVPの分解に由来する重量減少であると考えられる。従って、銅微粒子に吸着している水溶性高分子量は1.2質量%となる。
また、動的光散乱法により粒度分布を測定したところ、累積頻度50%に相当する粒径が24nmであって、SEM観察像から算出した平均粒径よりも小さく、分散性の良い銅微粒子分散液が得られたことが分った。この銅微粒子分散液は、作製後1ヶ月間静置したが、沈降は認められなかった。また、この銅微粒子分散液を作製1ヶ月後にガラス基板上に塗布し、乾燥後にX線回折分析を行ったところ、酸化銅のピークは検出されなかった。この結果から、平均粒径が50nm以下という微粒子であるにもかかわらず、耐酸化性に優れた銅微粒子であることが確認された。
この銅微粒子分散液に、焼成膜の膜質向上を目的としてヒドロキシカルボン酸の1種であるクエン酸を分散液に対して5質量%添加し、バーコーターにより基板上にパターン印刷を行った。得られたパターンを窒素雰囲気中において220℃×1時間の焼成を行った結果、体積抵抗率が70μΩ・cmの銅の導電膜が形成されていることが確認できた。尚、体積抵抗率は、日立製作所(株)製の電界放出型電子顕微鏡(FE−SEM、型式S−4700)での基板断面観察により測定した膜厚と、(株)ダイアインスツルメンツ製の抵抗率計(ロレスターGP)により測定した表面抵抗率とから求めた。
[実施例2]
洗浄済みPEI量を1.13gに低減した以外は上記実施例1と同様にして、銅微粒子を還元析出させた。原料中の銅に対する塩素の合計含有量は5質量ppm、PEIの質量比は0.0113であった。得られた銅微粒子を濾過してSEMで観察したところ、凝集のない微粒子であった。この銅微粒子は、平均粒径dが31nm、相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)が51%であった。
得られた銅微粒子を含む溶液から、上記実施例1と同様にして、溶媒のエチレングリコール(EG)の大部分を水で置換した銅微粒子分散液を調製した。得られた銅微粒子分散液は、その分析結果から、Cu:54質量%、Pd:0.05質量%、Na:10質量ppm未満、Mg:10質量ppm未満、Cl:4質量ppmであり、残部が純水とエチレングリコールであって、銅に対する塩素含有量は7質量ppmであった。
また、実施例1と同様に熱重量分析により、銅微粒子に吸着している水溶性高分子量を求めたところ、0.9質量%であった。また、動的光散乱法により粒度分布を測定したところ、累積頻度50%に相当する粒径が44nmであって、実施例1には劣るものの、分散性の良い銅微粒子分散液が得られたことが分った。この銅微粒子分散液は、作製後1ヶ月間静置したが、沈降は認められなかった。
上記実施例1と同様に、この銅微粒子分散液を作製1ヶ月後にガラス板上に塗布し、乾燥後にX線回折分析を行った結果、酸化銅のピークは検出されなかった。この銅微粒子分散液を、実施例1と同様にパターン印刷し、窒素雰囲気中において220℃×1時間の焼成を行った結果、体積抵抗率が81μΩ・cmである銅の導電膜を形成することができた。
[実施例3]
洗浄済みPEI量を0.75gに低減した以外は上記実施例1と同様にして、銅微粒子を還元析出させた。原料中の銅に対する塩素の合計含有量は5質量ppm、PEIの質量比は0.0075であった。得られた銅微粒子を濾過してSEMで観察したところ、凝集のない微粒子であった。この銅微粒子は、平均粒径dが45nm、相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)が47%であった。
得られた銅微粒子を含む溶液から、上記実施例1と同様にして、溶媒のエチレングリコール(EG)の大部分を水で置換した銅微粒子分散液を調製した。得られた銅微粒子分散液は、その分析結果から、Cu:56質量%、Pd:0.05質量%、Na:10質量ppm未満、Mg:10質量ppm未満、Cl:4質量ppmであり、残部が純水とエチレングリコールであって、銅に対する塩素含有量は7質量ppmであった。
また、上記実施例1と同様に熱重量分析により、この銅微粒子に吸着している水溶性高分子量を求めたところ、0.8質量%であった。また、動的光散乱法により粒度分布を測定したところ、累積頻度50%に相当する粒径が54nmであって、実施例1及び実施例2には劣るものの、分散性の良い銅微粒子分散液が得られたことが分った。この銅微粒子分散液は、作製後1ヶ月間静置したが、沈降は認められなかった。
この銅微粒子分散液を、上記実施例1と同様に、作製1ヶ月後にガラス板上に塗布し、乾燥してX線回折分析を行った結果、酸化銅のピークは検出されなかった。この銅微粒子分散液を、実施例1と同様にパターン印刷し、窒素雰囲気中において220℃×1時間の焼成を行った結果、体積抵抗率が67μΩ・cmである銅の導電膜を形成することができた。
[実施例4]
PEIを未添加にした以外は上記実施例1と同様にして、銅微粒子を還元析出させた。原料中の銅に対する塩素の合計含有量は2質量ppmであった。得られた銅微粒子を濾過してSEMで観察したところ、やや凝集の認められる微粒子であった。この銅微粒子は、平均粒径dが42nm、相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)が77%であった。
得られた銅微粒子を含む溶液から、上記実施例1と同様にして、溶媒のエチレングリコール(EG)の大部分を水で置換した銅微粒子分散液を調製した。得られた銅微粒子分散液は、その分析結果から、Cu:55質量%、Pd:0.05質量%、Na:10質量ppm未満、Mg:10質量ppm未満、Cl:2質量ppmであり、残部が純水とエチレングリコールであって、銅に対する塩素含有量は4質量ppmであった。
また、上記実施例1と同様に熱重量分析により、この銅微粒子に吸着している水溶性高分子量を求めたところ、0.7質量%であった。この銅微粒子分散液は、作製後1ヶ月間静置したところ若干の沈降が認められた。
この銅微粒子分散液を実施例1と同様にパターン印刷し、窒素雰囲気中において220℃×1時間の焼成を行った結果、体積抵抗率が68μΩ・cmである銅の導電膜が形成された。
[実施例5]
パラジウム溶液をパラジウム量で0.2gに増加させた以外は上記実施例1と同様にして、銅微粒子を還元析出させた。原料中の銅に対する塩素の合計含有量は6質量ppm、パラジウムの質量比(Pd/Cu)は0.002であった。得られた銅微粒子を濾過してSEMで観察したところ、凝集のない微粒子であった。この銅微粒子は、平均粒径dが35nm、相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)が49%であった。
得られた銅微粒子を含む溶液から、上記実施例1と同様にして、溶媒のエチレングリコール(EG)の大部分を水で置換した銅微粒子分散液を調製した。得られた銅微粒子分散液は、その分析結果から、Cu:57質量%、Pd:0.08質量%、Na:10質量ppm未満、Mg:10質量ppm未満、Cl:7質量ppmであり、残部が純水とエチレングリコールであって、銅に対する塩素含有量は12質量ppmであった。
また、実施例1と同様に熱重量分析により、銅微粒子に吸着している水溶性高分子量を求めたところ、1.1質量%であった。また、動的光散乱法により粒度分布を測定したところ、累積頻度50%に相当する粒径が30nmであって、SEM観察像から算出した平均粒径よりも小さく、分散性の良い銅微粒子分散液が得られたことが分った。この銅微粒子分散液は、作製後1ヶ月間静置したが、沈降は認められなかった。
この銅微粒子分散液を、上記実施例1と同様に、作製1ヶ月後にガラス板上に塗布し、乾燥後にX線回折分析を行った結果、酸化銅のピークは検出されなかった。この銅微粒子分散液を、実施例1と同様にパターン印刷し、窒素雰囲気中において220℃×1時間の焼成を行った結果、体積抵抗率が72μΩ・cmである銅の導電膜が形成された。
[比較例1]
未洗浄のPEIを用いた以外は上記実施例1と同様にして、銅微粒子を還元析出させた。この場合、原料中の銅に対する塩素の合計含有量は63質量ppmであった。得られた銅微粒子を濾過してSEMで観察したところ、凝集の無い微粒子であった。この銅微粒子は、平均粒径dが29nm、相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)が75%であった。
得られた銅微粒子を含む溶液から、上記実施例1と同様にして、溶媒のエチレングリコール(EG)の大部分を水で置換した銅微粒子分散液を調製した。得られた銅微粒子分散液は、その分析結果から、Cu:67質量%、Pd:0.06質量%、Na:10質量ppm未満、Mg:10質量ppm未満、Cl:51質量ppmであり、残部が純水とエチレングリコールであって、銅に対する塩素含有量は76質量ppmであった。原料中のハロゲン元素の含有量を低減しない場合は、ハロゲン元素が銅微粒子に強固に付着あるいは粒子内に取り込まれており、洗浄しても除去できないことが分る。
上記実施例1と同様に熱重量分析により、この銅微粒子に吸着する水溶性高分子量を求めたところ、1.2質量%であった。この銅微粒子分散液を、実施例1と同様にパターン印刷し、窒素雰囲気中において220℃×1時間の焼成を行った結果、体積抵抗率が117μΩ・cmである銅の導電膜が形成された。
[比較例2]
パラジウム溶液をパラジウム量で0.2g加えた以外は上記比較例1と同様にして、銅微粒子を還元析出させた。原料中の銅に対する塩素の合計含有量は63質量ppm、パラジウムの質量比(Pd/Cu)は0.002であった。得られた銅微粒子を濾過し、SEMで観察したところ、凝集の無い微粒子であった。この銅微粒子は、平均粒径dが27nm、相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)が64%であった。
得られた銅微粒子を含む溶液から、上記実施例1と同様にして、溶媒のエチレングリコール(EG)の大部分を水で置換した銅微粒子分散液を調製した。得られた銅微粒子分散液は、その分析結果から、Cu:68質量%、Pd:0.09質量%、Na:10質量ppm未満、Mg:10質量ppm未満、Cl:44質量ppmであり、残部が純水とエチレングリコールであって、銅に対する塩素含有量は64質量ppmであった。比較例1と同様に、ハロゲン元素が最終的に銅微粒子中に残留した。
上記実施例1と同様に熱重量分析により、この銅微粒子に吸着している水溶性高分子量を求めたところ、1.0質量%であった。この銅微粒子分散液を実施例1と同様にパターン印刷し、窒素雰囲気中において220℃×1時間の焼成を行った結果、体積抵抗率が91μΩ・cmである銅の導電膜が形成された。
[比較例3]
塩素含有量が54質量ppmであるポリビニルピロリドン(PVP)を使用した以外は上記実施例3と同様にして、銅微粒子を還元析出させた。原料中の銅に対する塩素の合計含有量は25質量ppmであった。得られた銅微粒子を濾過してSEMで観察したところ、凝集の無い微粒子であった。この銅微粒子は、平均粒径dが37nm、相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)が55%であった。
得られた銅微粒子を含む溶液から、上記実施例1と同様にして、溶媒のエチレングリコール(EG)の大部分を水で置換した銅微粒子分散液を調製した。得られた銅微粒子分散液は、その分析結果から、Cu:45質量%、Pd:0.05質量%、Na:10質量ppm未満、Mg:10質量ppm未満、Cl:13質量ppmであり、残部が純水とエチレングリコールであって、銅に対する塩素含有量は29質量ppmであった。PVP中に塩素が混入していた場合も、比較例1及び比較例2と同様に、ハロゲン元素が最終的に銅微粒子中に残留した。
上記実施例1と同様に熱重量分析により、この銅微粒子に吸着している水溶性高分子量を求めたところ、1.2質量%であった。この銅微粒子分散液を、実施例1と同様にパターン印刷し、窒素雰囲気中において220℃×1時間の焼成を行った結果、体積抵抗率が76μΩ・cmである銅の導電膜が形成された。
[比較例4]
洗浄済みPEI量を15.0gにした以外は上記実施例1と同様にして、銅微粒子を還元析出させた。原料中の銅に対する塩素の合計含有量は32質量ppmであった。得られた銅微粒子を濾過してSEMで観察したところ、やや凝集の認められる微粒子であった。この銅微粒子は、平均粒径dが25nm、相対標準偏差(標準偏差σ/平均粒径d)が81%であった。
得られた銅微粒子を含む溶液から、上記実施例1と同様にして、溶媒のエチレングリコール(EG)の大部分を水で置換した銅微粒子分散液を調製した。得られた銅微粒子分散液は、その分析結果から、Cu:54質量%、Pd:0.05質量%、Na:10質量ppm未満、Mg:10質量ppm未満、Cl:質量29ppmであり、残部が純水とエチレングリコールであって、銅に対する塩素含有量は54質量ppmであった。
上記実施例1と同様に熱重量分析により、この銅微粒子に吸着している水溶性高分子量を求めたところ、3.8質量%であった。この銅微粒子分散液を実施例1と同様にパターン印刷し、窒素雰囲気中において220℃×1時間の焼成を行った結果、体積抵抗率が数2000μΩ・cmである銅の導電膜が形成された。
上記した実施例1〜5及び比較例1〜4に関して、銅に対する塩素含有量、吸着している水溶性高分子量、及び体積抵抗率の各値を下記表1に示す。また、実施例1〜3及び比較例1〜3に関して、吸着している水溶性高分子量と体積抵抗率の関係を図2に示す。尚、図2において、実1、実2及び実3はそれぞれ実施例1、実施例2及び実施例3を表し、比1、比2及び比3はそれぞれ比較例1、比較例2及び比較例3を表す。
Figure 0005898400
これらの結果から分るように、本発明の実施例1〜5では、銅微粒子の銅に対する塩素含有量が20質量ppm未満と低く電子材料用として好適であり、窒素雰囲気中における220℃×1時間の焼成後の体積抵抗率も100μΩ・cm未満と低い。ただし、実施4においては、PEIによる銅微粒子の被覆がないため、分散に必要な立体障害が十分に得られていないため、分散安定性が実施例1と比べてやや低下している結果となった。一方、原料中の塩素の合計含有量が20質量ppm以上である比較例1〜4では、銅微粒子の銅に対する塩素含有量が20質量ppm以上になっており、電子材料用として好適でないことが分る。
また、実施例1と、比較例1及び比較例3を対比すると、水溶性高分子量はほぼ等しいにもかかわらず、体積抵抗率に差が生じている。これら実施例1、比較例1及び3の各塩素含有量に注目すると、塩素含有量が低いほど体積抵抗率が低下していることが分る。更に、図2から明らかなように、水溶性高分子量の低下に伴って、体積抵抗率が低下することが確認できる。また、ハロゲン含有量及び水溶性高分子量がともに本発明の範囲より多い比較例4は、220℃×1時間の焼成後の体積抵抗率が大幅に高いことがわかる。
従って、本発明の銅微粒子の低温焼結性は、銅微粒子に吸着している水溶性高分子量とハロゲン含有量の低減に起因するものと考えられ、水溶性高分子量が低いもの、あるいはハロゲン含有量が低いほど良好な体積抵抗率が得られる。

Claims (5)

  1. エチレングリコール、ジエチレングリコール又はトリエチレングリコールの溶液に、分散剤である水溶性高分子と、核生成物質である貴金属化合物又は貴金属コロイドと、銅原料である銅の酸化物、水酸化物又は塩とを添加し、該溶液中で該銅原料を加熱還元することによって、電界放出型電子顕微鏡を用いて観察したときの視野から200個の銅微粒子を無作為に選択して粒径を測定し算出した平均粒径が50nm以下であり、且つ基板に塗布した後に窒素雰囲気中にて220℃で1時間焼成した際の体積抵抗率が100μΩ・cm未満となる銅微粒子を得る方法であって、該溶液並びに該溶液に添加する分散剤、核生成物質、及び銅原料の各々に含まれ得るハロゲン元素の合計含有量を該銅原料中の銅に対して20質量ppm未満に制御し、且つ該銅原料に含まれ得るハロゲン元素の含有量を該銅原料中の銅に対して5質量ppm未満にすることを特徴とする銅微粒子の製造方法。
  2. 前記水溶性高分子としてポリエチレンイミンを用い、該ポリエチレンイミンの添加量を銅に対する重量比で0.005〜0.1とすることを特徴とする、請求項1に記載の銅微粒子の製造方法。
  3. 前記水溶性高分子として、前記ポリエチレンイミンと共に、ポリビニルピロリドン及びポリアリルアミンの少なくとも1種を用い、該ポリビニルピロリドンとポリアリルアミンの合計添加量を銅に対する重量比で0.01〜0.8とすることを特徴とする、請求項1又は2に記載の銅微粒子の製造方法。
  4. 前記貴金属化合物又は貴金属コロイドに含有される貴金属の銅に対する質量比が0.0004〜0.01であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の銅微粒子の製造方法により得られた銅微粒子を含む溶液にヒドロキシカルボン酸又はその溶液を添加することにより、銅微粒子に吸着している水溶性高分子の一部をヒドロキシカルボン酸で置換して、銅微粒子に吸着している水溶性高分子の量を1.5質量%未満とすることを特徴とする銅微粒子の製造方法。
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