図1は、本発明の金属ナノ粒子の製造方法の一実施形態を示す工程図である。本発明の金属ナノ粒子の製造方法(単に「本発明の製造方法」と称する場合がある)は、金属化合物と有機保護剤とを反応させて錯体を得る工程と(錯体形成工程S1)、得られた錯体を還元処理して有機保護剤により表面保護された金属ナノ粒子を含む分散液を得る工程(還元処理工程S2)と、前記表面保護された金属ナノ粒子中のF-、Cl-、Br-、I-、NO3 -、SO4 2-、及びCN-の合計のイオンの濃度を100ppm以下とするための処理を含む工程(腐食性イオン濃度低減工程S3)と、を含む。なお、本明細書において、F-、Cl-、Br-、I-、NO3 -、SO4 2-、及びCN-を、総称して「腐食性イオン」と称する場合がある。
本明細書において、「金属ナノ粒子」とは、一次粒子の大きさ(平均一次粒子径)が1000nm未満である金属粒子をいう。また、金属ナノ粒子の表面が保護剤(安定剤)により被覆されている場合、当該平均一次粒子径は、表面を被覆している保護剤を除外した大きさ(即ち、金属粒子自体の大きさ)である。金属ナノ粒子の平均一次粒子径は、例えば100nm以下である。
(錯体形成工程S1)
本発明の製造方法における錯体形成工程S1は、金属化合物と有機保護剤とを反応させて錯体を得る工程である。
上記金属化合物としては、還元処理により金属を生成することができる公知乃至慣用の金属化合物を用いることができる。上記金属化合物における金属としては、例えば、銀、アルミニウム、金、プラチナ、パラジウム、銅、コバルト、クロム、インジウム、ニッケル等が挙げられる。中でも、銀が好ましい。上記金属としては、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
上記金属化合物としては、例えば、上記金属のギ酸塩、酢酸塩、乳酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩、フタル酸塩、クエン酸塩、トリフルオロ酢酸塩等のカルボン酸塩;フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物等のハロゲン化物;硝酸塩、硫酸塩、シアン化物、炭酸塩、酸化物、アセチルアセトナート、塩素酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩、亜硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、硫化物等が挙げられる。本発明の製造方法では腐食性イオン濃度低減工程S3において上記腐食性イオンの濃度を低減させるための処理を行うため、上記腐食性イオンの金属塩であるフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸塩、シアン化物や、炭酸塩、酸化物であっても好ましく使用することができる。なお、炭酸塩及び酸化物は、一般的に硝酸塩を原料として製造されるものであるため、硝酸塩やNO3 -を一部に含む可能性が高く、硝酸塩と同様に腐食性イオンを発生し得る。一方、還元処理等の分解により容易に金属を生成し且つ金属以外の不純物を生じにくいという観点からは、シュウ酸塩が好ましい。シュウ酸塩は、金属含有率が高く、且つ、還元剤を必要とせず熱分解により金属がそのまま得られ、還元剤に由来する不純物が残留しにくい点で有利である。上記金属化合物は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。また、上記金属化合物における金属の価数は特に限定されない。
上記有機保護剤としては、特に限定されず、金属ナノ粒子の保護剤(安定剤)として用いられる公知乃至慣用の有機保護剤が挙げられる。上記有機保護剤としては、例えば、カルボキシ基、ヒドロキシ基、カルボニル基、アミド基、エーテル基、アミノ基、スルホ基、スルホニル基、スルフィン酸基、スルフェン酸基、メルカプト基、リン酸基、亜リン酸基等の官能基を有する有機保護剤が挙げられる。上記官能基としては、中でも、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、スルホ基、メルカプト基が好ましい。上記有機保護剤は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
上記カルボキシ基を有する有機保護剤としては、カルボン酸、アミノ酸等が挙げられる。
上記カルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸等の脂肪族飽和モノカルボン酸;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘサエン酸、エイコサペンタエン酸等の脂肪族不飽和モノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸;安息香酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ヘミメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族カルボン酸;マレイン酸、フマル酸、シクロペンタンカルボン酸等が挙げられる。ヒドロキシ基を有するカルボン酸としては、乳酸、りんご酸、クエン酸、サリチル酸等が挙げられる。カルボン酸化合物としては炭素数2〜20の脂肪族モノカルボン酸が好ましい。
上記アミノ酸としては、例えば、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン等が挙げられる。
上記ヒドロキシ基を有する有機保護剤としては、アルコール、アミノアルコール等が挙げられる。
上記アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−1,3−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2−メチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−ビス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−ブタンジオール、ブテン−2−ジオール−1,4、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセロール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、エリスリトール、D−トレイトール、L−トレイトール、ソルビトール、D−マンニトール、ジグリセロール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、2,2−ビス(ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(β−ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパン、シクロヘキシルジメタノール、ペンタエリトリット等のポリオール化合物;シクロヘキサノール、メチルイソブチルカルビノール、イソアミルアルコール、ベンジルアルコール、フルフリルアルロール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールtert−ブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル等の1価アルコール等が挙げられる。
上記アミノアルコールとしては、例えば、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、アミノエチルエタノールアミン、n−メチルエタノールアミン、3−アミノ−1−プロパノール等が挙げられる。
上記アミノ基を有する有機保護剤としてはアミン、上記アミノ酸、上記アミノアルコール等が挙げられる。
上記アミンとしては、アミノ基の窒素原子上に脂肪族炭化水素基を有するアミン(「脂肪族炭化水素アミン」と称する場合がある)、脂環式炭化水素基を有するアミン(「脂環式炭化水素アミン」と称する場合がある)、芳香族炭化水素基を有するアミン(「芳香族炭化水素アミン」と称する場合がある)、複素環を有するアミン(「複素環式アミン」と称する場合がある)等が挙げられる。なお、アミンにおける炭化水素基及び複素環は、置換基を有していてもよい。
上記脂肪族炭化水素アミンとしては、アミノ基と該アミノ基の窒素原子上に直鎖状脂肪族炭化水素基を有するアミン(「直鎖状脂肪族炭化水素アミン」と称する場合がある)、アミノ基と該アミノ基の窒素原子上に分岐鎖状脂肪族炭化水素基を有するアミン(「分岐鎖状脂肪族炭化水素アミン」と称する場合がある)が挙げられる。
上記直鎖状脂肪族炭化水素アミンとしては、例えば、エチルアミン、n−プロピルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、n−ヘキシルアミン、n−ヘプチルアミン、n−オクチルアミン、n−ノニルアミン、n−デシルアミン、n−ウンデシルアミン、n−ドデシルアミン、n−トリデシルアミン、n−テトラデシルアミン、n−ペンタデシルアミン、n−ヘキサデシルアミン、n−ヘプタデシルアミン、n−オクタデシルアミン等の飽和直鎖状脂肪族炭化水素アミン、オレイルアミン等の不飽和直鎖状脂肪族炭化水素アミン等の第一級モノアミン;N,N−ジエチルアミン、N,N−ジ(n−プロピル)アミン、N,N−ジ(n−ブチル)アミン、N,N−ジ(n−ペンチル)アミン、N,N−ジ(n−ヘキシル)アミン、N,N−ジ(n−ペプチル)アミン、N,N−ジ(n−オクチル)アミン、N,N−ジ(n−ノニル)アミン、N,N−ジ(n−デシル)アミン、N,N−ジ(n−ウンデシル)アミン、N,N−ジ(n−ドデシル)アミン、N−メチル−N−(n−プロピル)アミン、N−エチル−N−(n−プロピル)アミン、N−(n−プロピル)−N−(n−ブチル)アミン等の第二級モノアミン;トリエチルアミン、トリ(n−ブチル)アミン、トリ(n−ヘキシル)アミン等の第三級モノアミン等のような、1つのアミノ基と該アミノ基の窒素原子上に1以上の直鎖状脂肪族炭化水素基を有するモノアミン(「直鎖状脂肪族炭化水素モノアミン」と称する場合がある)が挙げられる。
上記分岐鎖状脂肪族炭化水素アミンとしては、例えば、イソブチルアミン、sec−ブチルアミン、tert−ブチルアミン、イソペンチルアミン、tert−ペンチルアミン、イソヘキシルアミン、2−エチルヘキシルアミン、tert−オクチルアミン等の第一級アミン;N,N−ジイソブチルアミン、N,N−ジイソペンチルアミン、N,N−ジイソヘキシルアミン、N,N−ジ(2−エチルヘキシル)アミン等の第二級アミン;N,N,N−トリイソブチルアミン、N,N,N−トリイソペンチルアミン、N,N,N−トリイソヘキシルアミン、N,N,N−トリ(2−エチルヘキシル)アミン等の第三級アミン等のような、1つのアミノ基と該アミノ基の窒素原子上に1以上の分岐鎖状脂肪族炭化水素基を有するモノアミン(「分岐鎖状脂肪族炭化水素モノアミン」と称する場合がある)が挙げられる。
また、上記アミンとしては、ジアミン等のアミノ基を2以上有するアミンが挙げられる。上記ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N’−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、N,N’−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、N,N−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、N,N’−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、N,N−ジエチル−1,4−ブタンジアミン、N,N’−ジエチル−1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,5−ジアミノ−2−メチルペンタン、1,6−ヘキサンジアミン、N,N−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、N,N’−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン等、2価の脂肪族炭化水素基と該脂肪族炭化水素基を介した2つのアミノ基とを有する化合物(「脂肪族炭化水素ジアミン」と称する場合がある)が挙げられる。
上記芳香族炭化水素アミンとしては、例えば、ベンジルアミン等が挙げられる。上記複素環式アミンとしては、例えば、ピペリジン、モルホリン等が挙げられる。
上記スルホ基を有する有機保護剤としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、1−プロパンスルホン酸、1−ブタンスルホン酸、1−ヘキサンスルホン酸、1−ヘプタンスルホン酸、1−オクタンスルホン酸、1−ノナンスルホン酸、1−デカンスルホン酸、1−ドデカンスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、エタンジスルホン酸、ブタンジスルホン酸、ペンタンジスルホン酸、デカンジスルホン酸、ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、トルエンジスルホン酸、ジメチルベンゼンジスルホン酸、ジエチルベンゼンジスルホン酸、メチルナフタレンジスルホン酸、エチルナフタレンジスルホン酸等が挙げられる。
上記メルカプト基を有する有機保護剤としては、例えば、メタンチオール、メタンジチオール、エタンチオール、1,1−エタンジチオール、1,2−エタンジチオール、2−ヒドロキシエタンチオール、プロパンチオール、2−プロパンチオール、2−プロペンチオール、1,1−プロパンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、ブタンチオール、2−ブタンチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、2−メチルプロパンチオール、2−メチル−2−プロパンチオール、3−ヒドロキシ−2−ブタンチオール、ペンタンチオール、2−ペンタンチオール、3−ペンタンチオール、シクロペンタンチオール、2−メチルブタンチオール、3−メチルブタンチオール、3−メチル−2−ブタンチオール、3−メチル−2−ブテンチオール、3−ヒドロキシ−2−メチルブタンチオール、ヘキサンチオール、1,6−ヘキサンジチオール、シクロヘキサンチオール、3,3−ジメチルブタンチオール、ヘプタンチオール、2−ヘプタンチオール、4−エトキシ−2−メチル−2−ブタンチオール、オクタンチオール、1,8−オクタンジチオール、(S)−1−メトキシ−3−ヘプタンチオール、1,9−ノナンジチオール、1,1−ジメチルヘプタンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール等が挙げられる。
上記アミド基を有する有機保護剤としては、例えば、カルボン酸アミド、スルホンアミド、リン酸アミド等のアミドが挙げられる。また、上記カルボン酸化合物と上記アミン化合物の縮合物等が挙げられる。
上記エーテル基を有する有機保護剤としては、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、エチルメチルエーテル等の直鎖状又は分岐鎖状エーテル;テトラヒドロフラン等の環状エーテル;クラウンエーテル等のエーテルが挙げられる。
上記カルボニル基を有する有機保護剤としては、例えば、上記カルボン酸と上記アルコールの縮合物等のエステルが挙げられる。
上記有機保護剤の総炭素数は、特に限定されないが、4〜24が好ましく、より好ましくは6〜22、さらに好ましくは10〜20である。上記総炭素数が4以上であると、有機保護剤の一分子の長さが長くなる傾向があり、金属ナノ粒子間の距離を一定以上に維持することができ、金属ナノ粒子の分散性が良好となる傾向がある。上記総炭素数が24以下であると、有機保護剤の沸点が低くなる傾向があり、金属ナノ粒子の焼成時に有機保護剤が低温で揮発しやすくなり、金属ナノ粒子の低温焼成が容易となる傾向がある。
上記有機保護剤としては、中でも、アミンが好ましく、これらの内でも、炭素数8以上の飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素モノアミン化合物が好ましく、より好ましくは炭素数8以上の直鎖状脂肪族炭化水素モノアミンである。炭素数8以上とすることにより、アミノ基が金属ナノ粒子表面に吸着した際に他の金属ナノ粒子との間隔を確保できるため、金属ナノ粒子同士の凝集を防ぐ作用が向上する。炭素数の上限は特に定められないが、入手のし易さ、焼成時の除去のし易さ等を考慮して、通常、炭素数18までの飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素モノアミン化合物が好ましい。特に、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン等の炭素数8〜18の直鎖状脂肪族炭化水素モノアミンが好ましく用いられる。上記アミンは、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記有機保護剤として分岐鎖状脂肪族炭化水素モノアミンを用いる場合、さらに、総炭素数6以上の直鎖状脂肪族炭化水素モノアミン、総炭素数5以下の直鎖状脂肪族炭化水素モノアミン、及び総炭素数8以下の脂肪族炭化水素ジアミンのうちの少なくともいずれかの脂肪族炭化水素アミンを併用することが好ましい。
上記金属化合物と上記有機保護剤とが反応した錯体は、例えば、溶剤の存在下又は無溶剤で、有機保護剤に金属化合物を混合して撹拌することにより得ることができる。上記有機保護剤を2種以上使用する場合、金属化合物を混合する前に2種以上の有機保護剤を予め混合しておいてもよいし、金属化合物を混合した後に別の有機保護剤を添加してもよい。
有機保護剤と金属化合物の混合・撹拌は、室温で行ってもよいし、発熱を伴う場合は適宜冷却して行ってもよい。なお、有機保護剤としてアミン等の室温で液状のもの使用する場合、有機保護剤の過剰分が反応媒体の役割を果たす。また、生成する錯体は一般にその構成成分に応じた色を呈するため、反応混合物の色の変化の終了を適宜の分光法等により検出することにより、錯体の生成反応の終点を検知することができる。色の変化により検知することが困難な場合、反応混合物の粘性の変化等の形態変化に基づいて、錯体の生成状態を検知することができる。
上記混合・撹拌を溶剤の存在下で行う場合の溶剤としては、水又は化学反応に用いられる公知乃至慣用の有機溶剤が挙げられる。中でも、炭素数3〜10のアルコールが好ましい。具体的には、1−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−オクタノール、2−エチルヘキサノール、2−オクタノール等が挙げられる。溶剤を用いると、金属化合物と有機保護剤との混合・撹拌が容易となり、また、発熱反応を伴う場合は温和に安全に反応を進行させることができる傾向がある。
上記金属化合物と上記有機保護剤とが反応した錯体は、他に、金属化合物と上記アルコールとを混合して金属化合物−アルコールスラリーを得、次いで得られた金属化合物−アルコールスラリーに有機保護剤を混合して撹拌することによっても得ることができる。金属化合物−アルコールスラリーを準備する場合、金属化合物の取り扱い性が向上すると共に、金属化合物−アルコールスラリーと有機保護剤との混合・撹拌が容易となり、また、発熱反応を伴う場合は温和に安全に反応を進行させることができる傾向がある。上記有機保護剤を2種以上使用する場合、金属化合物−アルコールスラリーに混合する前に2種以上の有機保護剤を予め混合しておいてもよいし、各種の有機保護剤を逐次に添加してもよい。上記のようにして、金属化合物と有機保護剤の錯体を分散液の状態で得ることができる。
(還元処理工程S2)
本発明の製造方法における還元処理工程S2は、錯体形成工程S1で得られた錯体(より具体的には、錯体中の金属化合物)を還元処理して有機保護剤により表面保護された金属ナノ粒子を含む分散液を得る工程である。
上記還元処理は、還元剤を用いて行ってもよいし、還元剤を用いずに、例えば加熱による熱分解により行ってもよい。
上記還元剤としては、上記金属化合物に対して還元剤として機能する適切な還元剤を用いることができる。上記還元剤としては、例えば、ホウ素化合物、ヒドラジン化合物等が挙げられる。上記還元剤は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
上記ヒドラジン化合物としては、例えば、ヒドラジン;ベンジルヒドラジン、フェニルヒドラジン等のN−アルキル置換ヒドラジン;アセトヒドラジド、スルホノヒドラジド、トシルヒドラジド等のヒドラジド;メチルヒドラジノカルボキシレート等のカルバゼート;これらの塩又は水和物等が挙げられる。上記還元剤としては、ヒドラジドを好ましく用いることができる。
上記ヒドラジドとしては、中でも、下記式(1)
RCO−NHNH2 (1)
で表されるモノヒドラジド化合物が好ましい。上記式(1)中、Rは、水素原子又は炭化水素基を示す。上記炭化水素基としては、例えば、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等が挙げられる。上記モノヒドラジド化合物は、対応するカルボン酸のエステルとヒドラジン水和物(ヒドラジンヒドラート)との反応により、あるいは、対応するカルボン酸塩化物又はカルボン酸無水物とヒドラジンとの反応により合成される。
上記脂肪族炭化水素基としては、飽和又は不飽和の脂肪族炭化水素基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等の炭素数1〜10の炭化水素基(好ましくは炭素数1〜4の炭化水素基)が挙げられる。上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。なお、上記炭化水素基は置換基を有していてもよい。
上記モノヒドラジド化合物としては、ギ酸ヒドラジド、アセトヒドラジド、プロパノヒドラジド、ブタノヒドラジド、2−メチルプロパノヒドラジド、ペンタノヒドラジド、3−メチルブタノヒドラジド、2,2−ジメチルプロパノヒドラジドが好ましい。
上記還元剤としてヒドラジド(特に、モノヒドラジド化合物)を用いた場合、金属化合物が還元され金属ナノ粒子が生成するが、同時に、生じたモノヒドラジド化合物の酸化体(例えば、RCON=NHで表される化合物)は還元により生成した金属ナノ粒子の表面に吸着あるいは表面近傍に存在し、用いられた有機保護剤と共に金属ナノ粒子の保護剤(安定剤)としての機能を果たすと考えられる。金属ナノ粒子の焼成時において、200℃以下の低温(例えば100〜200℃)においても上記モノヒドラジド化合物の酸化体が熱分解し、上記モノヒドラジド化合物に対応するカルボン酸(RCOOH)と窒素分子(N2)とが生じる。この際に、200℃以下の低温においても上記モノヒドラジド化合物の酸化体の熱分解が容易に起こるように、上記モノヒドラジド化合物(特に、Rが炭素数1〜4の炭化水素基である上記式(1)で表されるモノヒドラジド化合物)を用いることが有効である。すなわち、対応するカルボン酸の沸点が200℃以下であるような上記モノヒドラジド化合物が有効であると考えられる。このことから、より低温(例えば100〜180℃、好ましくは150〜180℃)での焼成によっても酸化体の熱分解が容易に起こる観点から、上記モノヒドラジド化合物としては、ギ酸ヒドラジド、アセトヒドラジド、プロパノヒドラジドが特に好ましい。
上記モノヒドラジド化合物の酸化体の熱分解により遊離した対応するカルボン酸は、金属ナノ粒子の表面における有機保護剤の存在状態を不安定化させ、金属ナノ粒子表面からの有機保護剤の脱離を促進させる。例えば、還元剤としてアセトヒドラジドを用いると、150〜180℃程度の低温焼成工程において、金属ナノ粒子の表面の保護剤被覆層中において、アセトヒドラジド酸化体の熱分解によって酢酸(bp.118℃)及び窒素分子が発生する。発生した酢酸は焼成温度において蒸気状態であり、金属ナノ粒子の被覆層を形成している有機保護剤の存在状態を不安定化させ、金属ナノ粒子表面からの有機保護剤の脱離を促進させると考えられる。その結果、200℃以下の低温での焼成の場合にも、被覆層が除去されて、金属粒子の焼成が十分に進行すると考えられる。このようにして、還元剤として、上記モノヒドラジド化合物を用いると、本発明の製造方法により得られる金属ナノ粒子は、安定性に優れると共に、200℃以下の低温焼成によって優れた導電性が発現する。
還元剤を用いて還元処理を行う場合、錯体形成工程S1で得られた錯体の分散液に、溶媒を用いることなく、還元剤を添加することが好ましい。フェニルヒドラジンは常温にて液体であるが、上記モノヒドラジド化合物(特に、Rが炭素数1〜4の炭化水素基である上記式(1)で表されるモノヒドラジド化合物)は常温にて固体である。この際、上記モノヒドラジド化合物を粉体状態で添加する。粉体状態のまま添加すると、還元反応が温和に進行して金属ナノ粒子の過度の凝集を極力防ぐことができる利点がある。この理由は、還元剤として上記モノヒドラジド化合物を粉体状態で添加して還元反応を無溶媒系にて行うと、粉体の溶解と共に金属化合物の還元反応が徐々に進行するためと推測される。また、上記モノヒドラジド化合物を粉体状態で添加し、還元反応を無溶媒系にて行うと、有機溶剤を用いる場合に比べ、反応系全体の容量を低減できる利点もある。そのため、反応容積当たりの高い金属ナノ粒子収量が得られる。
還元剤を用いて還元処理を行う場合、上記還元剤は、上記金属化合物の金属原子に対するモル比[還元剤/金属原子]が、例えば0.4〜2程度となるように用いることがよく、好ましくは0.5〜1.5、より好ましくは0.55〜1.1である。上記モル比が0.4以上であると、金属イオンの還元が十分に進行し、金属ナノ粒子の収率が向上する傾向がある。一方、上記モル比が2以下であると、還元剤が過剰とならず経済的であり、また、副反応の進行を抑制できる傾向がある。
還元剤の添加後、分散液を撹拌することによって、場合によっては25〜60℃程度の加熱下で撹拌することによって、金属化合物を還元剤と反応させて、有機保護剤により表面が被覆された金属ナノ粒子(「保護剤被覆金属ナノ粒子」と称する場合がある)を形成する。金属ナノ粒子は粒子の凝集体として得られる。
還元剤を用いずに上記還元処理を行う場合、錯体形成工程S1で得られた錯体を加熱して熱分解させて、保護剤被覆金属ナノ粒子を形成することができる。上記熱分解において、一般に、有機保護剤は金属化合物の分解により生じる原子状の金属が凝集して微粒子を形成する際の様式をコントロールすると共に、形成された金属ナノ粒子の表面に被膜を形成することで金属ナノ粒子相互間の再凝集を防止する役割を果たしている。すなわち、金属化合物と有機保護剤の錯体を加熱することにより、金属化合物に対する有機保護剤の配位結合を維持したままで金属化合物が熱分解して原子状の金属を生成し、次に、有機保護剤が配位した金属原子が凝集して有機保護剤の保護膜で被覆された金属ナノ粒子が形成されると考えられる。
上記熱分解は、錯体形成工程S1で得られる錯体の分散液中で撹拌しながら行うことが好ましい。熱分解は、保護剤被覆金属ナノ粒子が生成する温度範囲内において行うとよいが、金属粒子表面からの有機保護剤の脱離を防止する観点から上記温度範囲内のなるべく低温で行うことが好ましい。シュウ酸塩の錯体の場合には、例えば80〜120℃程度、好ましくは95〜115℃程度、より好ましくは100〜110℃程度とすることができる。シュウ酸塩の錯体の場合には、概ね100℃程度の加熱により分解が起こると共に金属イオンが還元され、保護剤被覆金属ナノ粒子を得ることができる。なお、一般に、シュウ酸塩自体の熱分解は200℃程度で生じるのに対して、シュウ酸塩とアミンの錯体は熱分解温度が100℃程度も低下する理由は明らかではないが、シュウ酸塩とアミンとの錯体を生成する際に、純粋なシュウ酸塩が形成している配位高分子構造が切断されているためと推察される。また、上記熱分解は、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気内において行うことが好ましいが、大気中においても行うことができる。上記の還元処理により、保護剤被覆金属ナノ粒子を分散液の状態で得ることができる。
(腐食性イオン濃度低減工程S3)
本発明の製造方法における腐食性イオン濃度低減工程S3は、還元処理工程S2で得られた保護剤被覆金属ナノ粒子における、上記腐食性イオン(F-、Cl-、Br-、I-、NO3 -、SO4 2-、及びCN-の合計のイオン)の濃度を100ppm以下とするための処理を含む工程である。これにより、本発明の製造方法により得られる金属ナノ粒子中の腐食性イオンの含有量を極めて少量とすることができる。
上記腐食性イオンの濃度を100ppm以下とするための処理(「腐食性イオン濃度低減処理」と称する場合がある)としては、公知乃至慣用のイオンの除去手段を用いることができるが、中でも、金属ナノ粒子中の腐食性イオンの濃度をより低くしやすい観点から、イオン交換、吸着処理、膜分離が好ましい。なお、上記腐食性イオン濃度低減処理は、1つの処理を1回のみ行ってもよいし、同一又は異なる処理を複数回行ってもよい。
上記イオン交換としては、イオン交換樹脂によるものが挙げられる。上記イオン交換樹脂によるイオン交換によれば、還元処理工程S2で得られた保護剤被覆金属ナノ粒子中に存在する腐食性イオンがイオン交換樹脂に取り込まれ、得られる金属ナノ粒子中の腐食性イオンの濃度を低減させることができる。上記イオン交換樹脂の種類は、還元処理工程S2で得られた保護剤被覆金属ナノ粒子中に存在する腐食性イオンの種類に応じて適宜選択することができるが、強塩基性陰イオン交換樹脂が好ましい。上記イオン交換樹脂は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
上記イオン交換は、還元処理工程S2で得られた保護剤被覆金属ナノ粒子の分散液にイオン交換樹脂を投入し、撹拌して行うことができる。撹拌の際の温度は、例えば0〜50℃、好ましくは15〜35℃、より好ましくは常温(20〜30℃程度)である。撹拌時間は、例えば1〜10時間、好ましくは3〜7時間である。上記の温度範囲であれば、金属ナノ粒子を被覆する有機保護剤がその状態を維持しつつ効果的に腐食性イオンのイオン交換を行うことができる傾向がある。また、上記の撹拌時間であれば、十分に腐食性イオンのイオン交換を行うことができる。撹拌後は、デカンテーション等の公知乃至慣用の方法によりイオン交換樹脂を除去することができる。
イオン交換樹脂を用いる場合のイオン交換樹脂の使用量は、特に限定されないが、イオン交換を行う保護剤被覆金属ナノ粒子の分散液の重量(100重量部)に対して、例えば1〜50重量部、好ましくは3〜20重量部である。
上記吸着処理では、公知乃至慣用の吸着剤を用いることができる。上記吸着処理によれば、還元処理工程S2で得られた保護剤被覆金属ナノ粒子中に存在する腐食性イオンが、吸着剤の細孔への物理吸着や、吸着剤が有する官能基と結合することによる化学吸着により吸着され、得られる金属ナノ粒子中の腐食性イオンの濃度を低減させることができる。
上記吸着剤としては、還元処理工程S2で得られた保護剤被覆金属ナノ粒子中に存在する腐食性イオンの種類に応じて適宜選択することができる。例えば、活性炭、シリカ系多孔質材料(例えば、ゼオライト、シリカゲル、シリカアルミナ、ケイ酸アルミニウム、多孔質ガラス、珪藻土、含水ケイ酸マグネシウム質粘土鉱物、酸性白土、活性白土、活性ベントナイト、メソポーラスシリカ、アルミノケイ酸塩、ヒュームドシリカ等)、粘土鉱物、活性炭、アルミナ、ガラス等が挙げられる。上記の中でも、細孔への物理吸着により腐食性イオンを効率的に除去しやすい観点から、活性炭が好ましい。上記吸着剤は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
活性炭は、還元処理工程S2で得られた保護剤被覆金属ナノ粒子中に存在する腐食性イオンのサイズや性質に応じて、適切な比表面積、全細孔容積、平均細孔径を有するものを適宜選択することができる。また、活性炭は、酸性成分や塩基性成分等の添着剤が添着されていてもよい。
上記吸着処理は、還元処理工程S2で得られた保護剤被覆金属ナノ粒子の分散液に吸着剤を投入し、撹拌して行うことができる。撹拌の際の温度や撹拌時間は、腐食性イオンの種類に応じて適宜選択することができる。例えば、上述のイオン交換における条件と同様の範囲から適宜選択することができる。撹拌後は、デカンテーション等の公知乃至慣用の方法により吸着剤を除去することができる。
吸着剤の使用量は、特に限定されないが、イオン交換を行う保護剤被覆金属ナノ粒子の分散液の重量(100重量部)に対して、例えば0.1〜200重量部、好ましくは1〜100重量部である。
上記膜分離では、公知乃至慣用の濾過膜を用いて行うことができる。上記膜分離によれば、還元処理工程S2で得られた保護剤被覆金属ナノ粒子中に存在する腐食性イオンと保護剤被覆金属ナノ粒子とを分離することができるため、得られる金属ナノ粒子中の腐食性イオンの濃度を低減させることができる。
上記濾過膜の種類としては、保護剤被覆金属ナノ粒子を通過させず腐食性イオンを通過させることができる膜であれば特に限定されないが、限外濾過膜(UF膜)、ナノ濾過膜(NF)が好ましい。濾過膜の形状としては、中空糸膜、平膜、管状膜、袋状膜等が挙げられる。濾過膜の材質としては、有機材料(セルロース、ポリオレフィン、ポリスルフォン、ポリビニルアルコール、ポリメチルメタクリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等)、金属(ステンレス等)、無機材料(セラミック等)が挙げられる。濾過膜の孔径は、1〜10nmが好ましく、より好ましくは1〜5nmである。孔径が1nm以上であると、腐食性イオンがより通過しやすくなる。孔径が10nm以下(特に、5nm以下)であると、保護剤被覆金属ナノ粒子がより通過しにくくなる。
上記膜分離は、還元処理工程S2で得られた保護剤被覆金属ナノ粒子の分散液を、濾過膜を用いて濾過することにより行うことができる。濾過後は、適宜の溶剤(特に、メタノール)で洗浄することが好ましい。
腐食性イオン濃度低減工程S3では、還元処理工程S2で得られた保護剤被覆金属ナノ粒子における上記腐食性イオンの濃度を、100ppm(重量ppm)以下とするが、80ppm以下とすることが好ましく、50ppm以下とすることがより好ましく、20ppm以下とすることがさらに好ましい。上記腐食性イオンの濃度は、公知乃至慣用のイオンクロマトグラフィーにより測定することができる。
上記錯体形成工程S1、還元処理工程S2、及び腐食性イオン濃度低減工程S3により、腐食性イオンの濃度が100ppm以下である金属ナノ粒子(保護剤被覆金属ナノ粒子)を得ることができる。
(その他の工程)
本発明の製造方法は、上記錯体形成工程S1、還元処理工程S2、及び腐食性イオン濃度低減工程S3以外の他の工程(「その他の工程」と称する場合がある)を含んでいてもよい。上記その他の工程は、錯体形成工程S1の前、錯体形成工程S1の後且つ還元処理工程S2の前、還元処理工程S2の後且つ腐食性イオン濃度低減工程S3の前、腐食性イオン濃度低減工程S3の後のいずれの箇所で行ってもよい。
上記その他の工程としては、例えば、過剰な有機保護剤を除去する工程が挙げられる。例えば、還元処理工程S2における錯体の還元処理により、有色又は無色の懸濁液が得られる。このため、腐食性イオン濃度低減工程S3を行う前に、上記懸濁液から、過剰の有機保護剤(例えばアミン)等の除去操作、具体的には、保護剤被覆金属ナノ粒子の沈降、適切な溶剤(水又は有機溶剤)によるデカンテーション・洗浄操作を行ってもよい。これにより、安定な保護剤被覆金属ナノ粒子が得られる。なお、上記デカンテーションや洗浄操作のみによっては金属粒子内の腐食性イオンを除去することは困難である。また、当該工程は、腐食性イオン濃度低減工程S3の前には行わず腐食性イオン濃度低減工程S3の後に行ってもよいし、腐食性イオン濃度低減工程S3の前後で行ってもよい。腐食性イオン濃度低減工程S3の後に行う場合、上記洗浄操作の後、乾燥すれば、目的とする安定な金属ナノ粒子の粉体が得られる。
デカンテーション・洗浄操作には、水又は有機溶剤を用いる。有機溶剤としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール;アセトニトリル等が挙げられる。上記有機溶剤は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
(金属ナノ粒子)
本発明の製造方法で得られる金属ナノ粒子(保護剤被覆金属ナノ粒子)は、上記腐食性イオンの濃度が100ppm以下(好ましくは80ppm以下、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下)である。なお、本発明の製造方法で得られる金属ナノ粒子を、「本発明の金属ナノ粒子」と称する場合がある。上記金属ナノ粒子は、銀ナノ粒子であることが好ましい。
本発明の金属ナノ粒子の平均一次粒子径は、特に限定されないが、100nm以下(例えば、0.05〜100nm)が好ましく、より好ましくは0.1〜50nm、さらに好ましくは0.5〜25nm、特に好ましくは1〜20nmである。上記平均一次粒子径が上記範囲内であると、より容易に低温焼成しやすい傾向がある。上記平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡を用いて観察される任意の複数(例えば10個以上、好ましくは100個以上)の金属ナノ粒子の粒子径を測定し、その平均値として求めることができる。
本発明の金属ナノ粒子の結晶粒子径は、特に限定されないが、30nm以下(例えば、1〜30nm)が好ましく、より好ましくは2〜25nmである。上記結晶粒子径は、X線回折測定により測定される。
本発明の金属ナノ粒子が銀ナノ粒子を含む場合、本発明の金属ナノ粒子中の金属銀の含有量は、全金属の総重量(100重量%)に対して50重量%以上であることが好ましい。
(金属塗料組成物)
本発明の金属ナノ粒子を用いて金属塗料組成物を作製することができる。なお、本発明の金属ナノ粒子を含有する金属塗料組成物を、「本発明の金属塗料組成物」と称する場合がある。本発明の金属塗料組成物は、特に制限されることなく、種々の形態をとり得る。例えば、本発明の金属ナノ粒子を適切な有機溶剤(分散媒体)中に懸濁状態で分散させることにより、金属インク(銀ナノ粒子の場合はいわゆる銀インク)と呼ばれる金属塗料組成物を作製することができる。あるいは、本発明の金属ナノ粒子を有機溶剤中に混練された状態で分散させることにより、金属ペースト(銀ナノ粒子の場合はいわゆる銀ペースト)と呼ばれる金属塗料組成物を作製することができる。
上記金属塗料組成物を得るための有機溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール等のアルコール等が挙げられる。また、上記有機溶剤としては、金属ペーストを得るためのものとして、ターピネオール、ジヒドロターピネオール等のテルペン系溶剤等が挙げられる。所望の金属塗料組成物(金属インク、金属ペースト)の濃度や粘性に応じて、有機溶剤の種類や量を適宜定めることができる。なお、上記有機溶剤は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。
本発明の金属塗料組成物は、本発明の金属ナノ粒子以外の金属ナノ粒子(他の金属ナノ粒子)を含んでいてもよい。上記他の金属ナノ粒子としては、本発明の製造方法により得られる金属ナノ粒子以外の金属ナノ粒子が挙げられる。この場合の本発明の金属塗料組成物に含まれる全金属ナノ粒子の総重量(100重量%)に対する本発明の金属ナノ粒子の含有量は、50重量%以上であることが好ましい。
本発明の金属ナノ粒子の粉体及び本発明の金属塗料組成物は、安定性に優れている。例えば、金属ナノ粒子の粉体は、1か月間以上の期間において室温保管で安定である。金属塗料組成物は、例えば、50wt%の銀濃度において、1か月間以上の期間において室温で、または3か月間以上の期間において冷蔵で、凝集・融着を起こすことなく安定である。
本発明の金属ナノ粒子及び本発明の金属塗料組成物は、配線形成用材料、車の塗装等の色材、生化学物質等を吸着させるキャリヤー等に用いることができる。中でも、本発明の金属ナノ粒子は、腐食性イオンの濃度が100ppm以下と極めて小さく、金属等の材料を腐食させにくく、また、毒性が低いため、LSI等の半導体の基板の配線形成用材料;フラットパネルディスプレイ(FPD)の電極や配線形成用材料等;半導体における微細なトレンチ、ビアホール、コンタクトホールの埋め込み等の配線形成材料等、半導体分野における電極や配線形成用材料に好ましく使用することができる。
本発明の金属塗料組成物を基板上に塗布し、その後、焼成することにより、金属配線等の金属層が得られる。
上記塗布は、公知乃至慣用の塗布方法を使用することができ、例えば、スピンコート、インクジェット印刷、スクリーン印刷、ディスペンサ印刷、凸版印刷(フレキソ印刷)、昇華型印刷、オフセット印刷、レーザープリンタ印刷(トナー印刷)、凹版印刷(グラビア印刷)、コンタクト印刷、マイクロコンタクト印刷等が挙げられる。印刷技術を用いると、パターン化された金属塗料組成物の層が得られ、焼成により、パターン化された金属層(金属導電層)が得られやすい。
上記焼成の際の温度(焼成温度)は、例えば200℃以下、好ましくは室温(25℃)〜150℃、より好ましくは室温(25℃)〜120℃で行うことができる。中でも、短時間の焼成によって金属の焼成を完了させたい場合は、例えば60〜200℃、好ましくは80〜150℃、より好ましくは90〜120℃で行うことがよい。焼成時間は、金属塗料組成物の種類、塗布量、焼成温度等を考慮して適宜定めるとよく、例えば数時間以内(例えば2〜33時間以内)、好ましくは1時間以内、より好ましくは30分間以内、さらに好ましくは10〜20分間、特に好ましくは10〜15分間である。
本発明の金属ナノ粒子は、有機保護剤の選択によってはこのような低温短時間での焼成工程によっても金属粒子の焼成が十分に進行する。その結果、優れた導電性(低い抵抗値)が発現する。低い抵抗値(例えば7〜15μΩcm)を有する金属層が形成される。バルク銀の抵抗値は1.6μΩcm程度である。
本発明の金属ナノ粒子は、低温での焼成が可能である場合、基板として、ガラス製基板、ポリイミド系フィルムのような耐熱性プラスチック基板の他に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム等のポリエステル系フィルム;ポリプロピレン等のポリオレフィン系フィルムのような耐熱性の低い汎用プラスチック基板をも好適に用いることができる。また、短時間での焼成は、これら耐熱性の低い汎用プラスチック基板に対する負荷を軽減し、生産効率を向上させることができる。
上記で得られた金属層(金属導電層)は、電磁波制御材、回路基板、アンテナ、放熱板、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、ICカード、ICタグ、太陽電池、LED素子、有機トランジスタ、コンデンサー(キャパシタ)、電子ペーパー、フレキシブル電池、フレキシブルセンサ、メンブレンスイッチ、タッチパネル、EMIシールド等に適用することができる。従って、本発明の金属ナノ粒子及び本発明の金属塗料組成物も上記の用途に使用することができる。
金属層の厚みは、目的とする用途に応じて適宜定めるとよく、特に本発明の金属ナノ粒子を使用することで比較的膜厚の大きい金属層を形成した場合でも高い導電性を示すことができる。金属層の厚みは、例えば5nm〜30μm、好ましくは100nm〜25μm、より好ましくは500nm〜20μmである。
本発明の製造方法によれば、腐食性イオンの濃度が100ppm以下と極めて小さい金属ナノ粒子を提供することができる。このため、本発明の金属ナノ粒子を配線形成用材料等の導体を形成するために用いた場合、導体が腐食しにくいため導電性不良(抵抗値の上昇)や断線が起こりにくい。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例及び比較例で得られた銀粒子粉末分散液について、下記の方法で測定を行った。
[腐食性イオンの濃度]
腐食性イオンであるF-、Cl-、Br-、I-、NO3 -、SO4 2-、及びCN-の濃度測定は、イオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス(株)製「ISC−3000」)を用いて行った。
[銀ナノ粒子の平均一次粒子径]
銀粒子粉末分散液をトルエンに銀濃度0.5重量%となるように分散させ、この分散液を銅メッシュに滴下し、定法により透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、「JEM−1200EXII」)を用いて観察した。得られた画像中の粒子を任意に300点選択し、それぞれの粒子径を測定し、これらの平均値を平均一次粒子径として算出した。
[結晶粒子径]
銀粒子粉末分散液をスライドグラス上に塗布し、X線回折装置(リガク(株)製、「SmartLab」)を用いて回折線を測定した。CuのKα線を線源とし、面指数(111)面ピークの半値幅を求め、下記(1)式に示すScherrerの式により結晶粒子径DXを計算した。
DX=K・λ/(β・cosθ) ・・・(1)
但し、KはScherrer定数で、0.94を採用した。λはCu−Kα線のX線波長、βは上記回折ピークの半値幅、θは回折線のブラッグ角である。
以下の試薬を実施例及び比較例で用いた。
硝酸銀:和光純薬工業(株)製試薬
トルエン:和光純薬工業(株)製試薬特級
メタノール:和光純薬工業(株)製試薬特級
オレイルアミン:和光純薬工業(株)製試薬
アセトヒドラジド:東京化成工業(株)製試薬
比較例1
硝酸銀5.1g(0.03mol)をトルエン75mlに加え、次いでオレイルアミン48.1g(0.18mol)を添加し、25℃で撹拌して無色均一の混合液を調製した。この混合液にアセトヒドラジド2.4g(0.03mol)を粉末で添加し反応させたところ、反応液は徐々に茶色へと変色すると共に30分ほどでアセトヒドラジドの粉末が消失した。引き続き撹拌を継続し、アセトヒドラジドの添加から2時間後に撹拌を停止して、反応液中に銀粒子粉末が分散した反応混合液を得た。
次いで、上記の反応混合物を大過剰のメタノールに撹拌しながら添加した後、静置すると、銀粒子粉末が沈殿した。上澄み液を除去し、再度大過剰のメタノールを加え、デカンテーションを行い、反応液が除去され且つメタノールで湿った精製銀粒子粉末分散液を得た。
得られた精製銀粒子粉末分散液中の銀粒子粉末の、腐食性イオンの濃度(NO3 -の濃度)は150ppm、平均一次粒子径は7.6nm、結晶粒子径は6.0nmであった。
実施例1
上記比較例1で得られた精製銀粒子粉末分散液100重量部に、強塩基性陰イオン交換樹脂(オルガノ(株)製、「アンバーライト IRA400J」)10重量部を添加し、25℃で5時間撹拌した。撹拌停止後、デカンテーションによりイオン交換樹脂を除去し、腐食性イオンを取り除いた銀粒子粉末分散液を得た。
得られた銀粒子粉末分散液中の銀粒子粉末の、腐食性イオンの濃度(NO3 -の濃度)は11ppm、平均一次粒子径は7.6nm、結晶粒子径は6.0nmであった。