以下、本発明の磁気メモリセル及び磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM)の実施形態に関して、添付図面を参照して説明する。
本発明の磁気メモリセルは、垂直磁気異方性を有する強磁性層である磁化記録層と、磁化記録層の情報を読み出すための磁気トンネル接合部とを具備している。磁化記録層は、複数の磁壁移動領域を備えている。そして、この複数の磁壁移動領域において移動した複数の磁壁に対応させて情報を記憶することが可能である。また、磁気トンネル接合部は、反転可能な磁化を有し、面内磁気異方性を有する強磁性層であるセンサ層を備えていることが好ましい。更に、磁化記録層は、磁化の向きが固定された、第0磁化固定領域から第N磁化固定領域(Nは2以上の自然数)までのN+1個の磁化固定領域と、反転可能な磁化を有し、磁壁が移動可能である、第1磁壁移動領域から第N磁壁移動領域までのN個の磁壁移動領域とを備えていることが好ましい。そして、第0磁化固定領域と第N磁化固定領域との間にそれぞれ、第N磁壁移動領域が接続されていることが好ましい。このとき、磁化記録層は、N個の磁壁移動領域の磁化の向きの相互関係により情報を記録する。N+1個の磁化固定領域のうちの第0磁化固定領域を除くN個の磁化固定領域の磁化の向きは、実質的に同一であり、第0磁化固定領域の磁化の向きは、N個の磁化固定領域の磁化の向きと反対である。センサ層の磁化記録層への射影は、N個の磁壁移動領域の間の磁化記録層内の領域の少なくとも一部に重なる。そして、本発明のMRAMは、行列状に配置された複数の上記磁気メモリを具備している。以下、本発明の磁気メモリセル及びMRAMについて詳細に説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態では、上記N=2の場合の磁気メモリセル及びMRAMについて説明する。
1.磁気メモリ素子の基本構成
図4Aは、本発明の第1の実施形態に係る磁気メモリ素子のうち磁化記録層の構成の一例を示す平面図である。図4Bは、本発明の第1の実施形態に係る磁気メモリ素子の構成の一例を示す断面図である。ただし、図4A及び図4Bにおいて、白丸と点の記号、白丸とバツの記号、及び白矢印は、一般的に用いられているように、それらが記載された領域の磁化の向きを示している。以下、本明細書及び各図面において同じとする。
磁気メモリ素子1は、磁化記録層10と、磁気トンネル接合部20とを具備する。磁化記録層10は、垂直磁気異方性を有する強磁性層である。磁化記録層10は、複数の磁壁移動領域を備え、第1の実施形態では2つの磁壁移動領域を備える。磁気トンネル接合部20は、磁化記録層10の中央近傍に設けられ、磁化記録層10に記憶されたデータ(情報)を読み出すための構成である。磁化記録層10及び磁気トンネル接合部20の詳細は後述される。なお、磁気メモリ素子1は、磁化記録層10と磁気トンネル接合部20とを電気的に接続するコンタクト層30を更に具備してもよい。
磁気トンネル接合部20は、センサ層23と、リファレンス層21と、バリア層22と備える。
リファレンス層21は、磁化の向きが固定され、面内磁気異方性を有する強磁性層である。ここで、面内磁気異方性とは、この図の例において、xy面内で磁気異方性を有していることである。以下、本明細書において同じである。リファレンス層21の磁化の向きは、磁化記録層10の長手方向であることが好ましい。この図の例では、リファレンス層21の磁化の向きは、磁化記録層10の長手方向である±x方向のうち、−x方向である。この磁化の向きは逆であってもよい。また、リファレンス層21は、積層フェリ結合を有する複数の強磁性層から構成されることが好ましい。及び/又は、リファレンス層21は、Pt−Mnのような反強磁性層が隣接していることが好ましい。リファレンス層21の磁化の向きは書込み、及び、読出し動作によって変化させないため、リファレンス層21の磁化は実質的に一方向に固定されていることが好ましいためであるからである。
センサ層23は、反転可能な磁化を有し、面内磁気異方性を有する強磁性層である。センサ層23は、後述されるように磁化記録層10と磁気的に結合している。そのため、センサ層23の磁化の向きは、磁化記録層10の磁化状態(記憶されたデータ)に応じて面内において変動する。この図の例では、磁化記録層10の磁化状態(記憶されたデータ)に応じてxy面内において回転する。バリア22は、センサ層23とリファレンス層21との間に設けられた非磁性膜又は絶縁膜である。
これらリファレンス層21、バリア層22、及びセンサ層23は、それぞれピン層、トンネル絶縁層、及びフリー層として磁気トンネル接合(MTJ)を構成している。そして、センサ層23の磁化の向きは、磁化記録層10に記憶された状態に応じて回転している。一方、リファレンス層の磁化の向きは固定されている。したがって、センサ層23の磁化の向きと、リファレンス層21の磁化の向きとの相対的関係により、磁気トンネル接合部20(MTJ)の抵抗値は変動する。よって、磁気トンネル接合部20の抵抗値を検出することにより、磁化記録層10に記憶されたデータを読み出すことができる。すなわち、磁気トンネル接合部20を、磁化記録層10に記憶されたデータを読み出す手段として用いることができる。
面内磁気異方性を有するセンサ層23及びリファレンス層21はFe、Co、Niのうちから選択される少なくとも一つの材料を含むことが好ましい。これに加えて、B、C、N、O、Al、Si、P、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Auなどを添加することによって所望の磁気特性が発現されるように調整することができる。具体的には、Ni−Fe、Co−Fe、Fe−Co−Ni、Ni−Fe−Zr、Co−Fe−B、Co−Fe−Zr−Bなどが例示される。また、バリア層22は、絶縁材料から構成されることが好ましい。具体的にはMg−O、Al−O、Al−N、Ni−O、Hf−Oなどが例示される。ただし、この他に、バリア層22として半導体材料や金属材料のような非磁性材料を用いても本発明は実施可能である。具体的には、Cr、Al、Cu、Znなどが例示される。
なお、センサ層23、リファレンス層21、及びバリア層22には、読出し信号のSN比に相当する磁気抵抗効果比が大きくなるような材料が選択されることが好ましい。例えばCo−Fe−B/Mg−O/Co−Fe−B系のMTJにおいては500%級の非常に大きな磁気抵抗効果比が報告されている。この観点では、センサ層23及びリファレンス層21をCo−Fe−B系の材料とし、バリア層22をMg−O系の材料とすることが好ましい。
磁化記録層10は、第1磁化固定領域11b、第0磁化固定領域11a、及び第2磁化固定領域11cと、第1磁壁移動領域13a、及び第2磁壁移動領域13bとを備える。第0磁化固定領域11aの両側に、第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bがそれぞれ接続される。第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bの外側には、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cがそれぞれ接続される。
第1磁化固定領域11b、第0磁化固定領域11a、及び第2磁化固定領域11cは、磁化の向きが固定され、垂直磁気異方性を有する強磁性領域である。ここで、垂直磁気異方性とは、この図の例において、xy面に垂直な磁気異方性を有していることを意味する。以下、本明細書において同じである。第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cの磁化の向きは実質的に同一であり、第0磁化固定領域11aの磁化の向きは、それと反対である。すなわち、第1磁化固定領域11bと第2磁化固定領域11cの磁化は、互いに平行な方向に固定される。第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cと第0磁化固定領域11aとの磁化は、互いに反平行な方向に固定される。なお、ここで第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cの磁化の向き、及び第0磁化固定領域11aの磁化の向きは、磁壁12a、12bを生じさせる機能を果たすことができる向きであればよく、厳密な意味でそれぞれ同一及び反対を意味するものではない。また、「磁化が固定されている」とは、書込み動作の前後で磁化の方向が変わらないことを意味する。書込み動作中に、磁化固定領域の一部の磁化の方向が変化しても、書込み動作終了後には元に戻る。以下、本明細書において同じである。この図の例では、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cの磁化の向きは+z方向であり、第0磁化固定領域11aの磁化の向きは−z方向である。これら磁化の向きは逆であってもよい。
第1磁化固定領域11bと第2磁化固定領域11cとは、実質的に同一に形成されていることが好ましい。その理由は、製造プロセスの観点から同一に形成するのが最も容易であるため、及び、後述される書込み動作やデータを保持する場合、その安定性や信頼性の面で対称性の高いことが好ましいからである。ここで、実質的に同一とは、膜厚を含む形状や材料が、製造プロセス上の誤差の範囲で同一ということである。この場合、磁化の固定方法(後述)も同一である。
第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cは、それらに隣接して、第1のハード層40がそれぞれ形成されていることが好ましい。第1のハード層40は第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cの保磁力を、第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a、及び第2磁壁移動領域13bの保持力と比較して実効的に大きくし、初期化を容易にすることができる。第1のハード層40を設けた場合、第1磁化固定領域11bと第1のハード層40、および第2磁化固定領域11cと第1のハード層40それぞれについて、第1のハード層40をも含めた磁化の固定部分が、上記の意味で実質的に同一であることが好ましい。
第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bは、反転可能な磁化を有し、磁壁が移動可能であり、垂直磁気異方性を有する強磁性領域である。従って、第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領領域13bが取りうる磁化方向の組み合わせは22=4通りである。本発明の実施形態においては、このうち、記憶するデータに応じて(+z、−z)、(−z、+z)の2つの磁化方向を用いる。
上記の磁気トンネル接合部20は、第0磁化固定領域11aの近傍に設けられている。そして、磁気トンネル接合部20のリファレンス層21の磁化の向きは、第1磁壁移動領域13aと第2磁壁移動領域13bとを結ぶ直線の方向に向いている。この図の例では、リファレンス層21の磁化の向きは、第1磁壁移動領域13a(の重心)と第2磁壁移動領域13b(の重心)とを結ぶ直線の方向である±x方向に向いている。センサ層23の磁化の向きについては後述される。
垂直磁気異方性を有する磁化記録層10は、Fe、Co、Niのうちから選択される少なくとも一つの材料を含むことが好ましい。さらにPtやPdを含むことで垂直磁気異方性を安定化することができる。これに加えて、B、C、N、O、Al、Si、P、Ti、V、Cr、Mn、Cu、Zn、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Au、Smなどを添加することによって所望の磁気特性が発現されるように調整することができる。具体的にはCo、Co−Pt、Co−Pd、Co−Cr、Co−Pt−Cr、Co−Cr−Ta、Co−Cr−B、Co−Cr−Pt−B、Co−Cr−Ta−B、Co−V、Co−Mo、Co−W、Co−Ti、Co−Ru、Co−Rh、Fe−Pt、Fe−Pd、Fe−Co−Pt、Fe−Co−Pd、Sm−Co、Gd−Fe−Co、Tb−Fe−Co、Gd−Tb−Fe−Coなどが例示される。この他、Fe、Co、Niのうちから選択されるいずれか一つの材料を含む層と、異なる層とを交互に積層させることにより垂直方向の磁気異方性を発現させることもできる。具体的にはCo/Pd、Co/Pt、Co/Ni、Fe/Auを交互に積層させた積層膜などが例示される。また、第1のハード層40は、上記の強磁性材料や、PtMn、NiMn、FeMnのような反強磁性材料を用いることができる。
ここで、磁気メモリ素子1の典型的な大きさは、設計ルールF=90nmのとき、磁気記録層10:450nm×90nm×5nmt、磁気トンネル接合部20のリファレンス層21:90nm×90nm×25nmt、バリア層22:90nm×90nm×1nmt、センサ層23:90nm×90nm×2nmt、コンタクト層30:90nm×90nm×20nmtである。
2.データのメモリ状態
図5A及び図5Bは、本発明の第1の実施形態に係る磁気メモリ素子の構成の一例を示す断面図である。図5Aは例えばデータ“0”を記憶した場合(0−state)を示し、図5Bは例えば、データ“1”を記憶した場合(1−state)を示している。本実施形態では、磁化記録層10は、各磁壁移動領域での磁化の向きの相互関係により、データを保持している。以下詳細に説明する。
図5Aに示すように、磁化記録層10がデータ“0”を記憶した場合、第1磁壁移動領域13aの磁化は+z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化は−z方向に向いている(+z、−z)。このとき、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aは+z方向の磁化、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bは−z方向の磁化、及び、第2磁化固定領域11cは+z方向の磁化を有している。すなわち、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13b、及び、第2磁化固定領域11cがそれぞれ別の磁区を形成している。つまり、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの間、及び、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定域11cとの間に、それぞれ磁壁(domain wall)12a、12bが形成される。
このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)において、第2磁壁移動領域13bから第1磁壁移動領域13aに向かう磁場Hが発生する。その磁場Hは、センサ層23付近では、−x方向に向かう磁場となる。それにより、センサ層23の磁化は−x方向に向く。すなわち、磁化記録層10に記憶されたデータが、センサ層23に反映される。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化とリファレンス層21の磁化とは平行となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この平行な状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶されたデータ“0”を読み出すことができる。
一方、図5Bに示すように、磁化記録層10がデータ“1”を記憶した場合、第1磁壁移動領域13aの磁化は−z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化は+z方向に向いている(−z、+z)。このとき、第1磁化固定領域11bは+z方向の磁化、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aは−z方向の磁化、及び、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cは+z方向の磁化を有している。すなわち、第1磁化固定領域11b、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11a、及び、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cがそれぞれ別の磁区を形成している。つまり、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、及び、第0磁化固定域11aと第2磁壁移動領域13bとの間に、それぞれ磁壁12a、12bが形成される。
このとき、磁化記録層10の下側(−z側)において、第1磁壁移動領域13aから第2磁壁移動領域13bに向かう磁場Hが発生する。その磁場Hは、センサ層23付近では、+x方向に向かう磁場となる。それにより、センサ層23の磁化は+x方向に向く。すなわち、磁化記録層10に記憶されたデータが、センサ層23に反映される。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化とリファレンス層21の磁化とは反平行となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この反平行な状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶されたデータ“1”を読み出すことができる。
このようなデータを保持している状態では、センサ層23と第2磁壁移動領域13bと第1磁壁移動領域13aとの間の磁気的相互作用により、センサ層23に記録された磁化は、結果として第2磁壁移動領域13b及び第1磁壁移動領域13aの磁化状態(磁化の向き)を安定化させる効果を有する。それにより、図5A及び図5Bの各状態において、磁壁12a、12bを所望の位置でより安定的に固定(保持)することができる。すなわち、磁気メモリ素子のリテンション特性を高めることができる。
なお、磁壁12a、12bを、図5A及び図5Bの各状態で示される位置に停止させる方法については後述される。
3.磁化固定領域の初期化方法
次に、本発明の第1の実施形態に係る磁気メモリ素子の初期化方法について説明する。図6A〜図6Cは、本発明の第1の実施形態に係る磁気メモリ素子の初期化方法の一例を示す断面図である。
まず、図6Aに示すように、磁場中アニール炉等において、磁気メモリ素子1を所定の温度まで加熱し、その磁気メモリ素子1に−x方向の磁場H01を印加しながら冷却する(ステップ1)。このように磁場H01中で磁気メモリ素子1を加熱着磁することで、磁気トンネル接合部20のリファレンス層21が−x方向に磁化される。このとき、磁化記録層10は垂直磁気異方性を有する材料で形成されているので、−x方向に磁化されることは無い。
次に、図6Bに示すように、磁気メモリ素子1に+z方向の磁界H02を印加する(ステップ2)。ただし、磁界H02は、第1のハード層40及び磁化記録層10の保磁力よりも大きくする。それにより、第1のハード層40及び磁化記録層10の全体の磁化が、+z方向に向く。このとき、磁気トンネル接合部20のリファレンス層21は、面内磁気異方性を有する材料で形成され、加熱着磁されているので、+z方向に磁化されることは無い。また、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cは、第1のハード層40との交換結合により実効的な保磁力が、第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a、及び第2磁壁移動領域13bの保磁力よりも大きくなる。
その後、図6Cに示すように、磁気メモリ素子1に−z方向の磁界H03を印加する(ステップ3)。ただし、この磁界H03は、第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a、及び第2磁壁移動領域13bの保磁力より大きく、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cの実効的な保磁力より小さい値とする。それにより、磁化記録層10のうち相対的に保磁力の小さい第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a、及び第2磁壁移動領域13bの磁化が、−z方向に反転する。磁化記録層10のうち相対的に保磁力の大きい第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cは、−z方向に反転磁化されることは無い。また、磁気トンネル接合部20のリファレンス層21は、面内磁気異方性を有する材料で形成され、加熱着磁されているので、−z方向に磁化されることは無い。
以上の初期化方法により、第1磁化固定領域11b、第2磁化固定領域11c、及び、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとが結合した領域の三領域が形成される。第1磁化固定領域11bと結合領域との境界、及び、第2磁化固定領域11cと結合領域との境界には、それぞれ磁壁12a、12bが形成される。この状態は、図5Aや図5Bで示されるデータ“0”やデータ“1”を記憶した状態とは異なっているが、後述される書込みによりデータを記憶可能な状態になっている。すなわち、通常のデータ“0”やデータ“1”を書き込む動作を実行することで、データ“0”やデータ“1”を記憶することができる。
4.書込み動作
次に、磁気メモリ素子に対するデータの書込み原理を説明する。書込みは、+z側に磁化を向かせたい磁壁移動領域の側の磁化固定領域から電流を供給し、−z側に磁化を向かせたい磁壁移動領域の側から電子を引き出す、となるような経路で電流を流す。以下詳細に説明する。
図7は、本発明の第1の実施形態に係る磁気メモリ素子に対するデータの書込み原理を示す断面図である。データ書込みは、スピン注入を利用した磁壁移動方式で行われる。書込み電流Iwは、MTJ(磁気トンネル接合部20)を貫通する方向ではなく、磁化記録層10内を平面的に、磁壁12a、12bを貫通する方向に流れる。その書込み電流Iwは、第1磁化固定領域11bに接続された電流供給端子(図示されず)、及び、第2磁化固定領域11cに接続された電流供給端子(図示されず)のいずれか一方から磁化記録層10に供給される。
図7における(a)に示すように、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きが+z方向で、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きが−z方向である状態が、データ“0”に対応付けられている。これは、図5Aに示したとおりである。ここで、図7における(b)に示すように、データ“1”の書込み動作時、第1書込み電流Iw1(実線矢印)が、第1磁化固定領域11b側の電流供給端子から供給される。そして、第1磁化固定領域11b、第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a、第0磁化固定領域11a、及び第2磁壁移動領域13bを通って、第2磁化固定領域11cに流れる。そして、第2磁化固定領域11c側の電流供給端子から送出される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、第1書込み電流Iw1と逆になる。その結果、第2磁壁移動領域13bには、第2磁化固定領域11cからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第2磁化固定領域11cと第2磁壁移動領域13bとの境界にある磁壁12bを第0磁化固定領域11aの方向に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは、+z方向へスイッチする。そして、磁壁12bは、第2磁壁移動領域13bと第0磁化固定領域11aとの境界に移動する。更に、第1磁壁移動領域13aには、第0磁化固定領域11aからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第0磁化固定領域11aと第1磁壁移動領域13aとの境界にある磁壁12aを第1磁化固定領域11bの方向に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは、−z方向へスイッチする。そして、磁壁12aは、第1磁壁移動領域13aと第1磁化固定領域11bとの境界に移動する。これにより、図7における(c)に示すように、データ“1”が書き込まれる。
一方、図7における(c)に示すように、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きが−z方向で、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きが+z方向である状態が、データ“1”に対応付けられている。これは、図5Bに示したとおりである。ここで、図7における(d)に示すように、データ“0”の書込み動作時、第2書込み電流Iw2(実線矢印)が、第2磁化固定領域11c側の電流供給端子から供給される。そして、第2磁化固定領域11c、第2磁壁移動領域13b、第0磁化固定領域11a、及び第1磁壁移動領域13aを通って、第1磁化固定領域11bに流れる。そして、第1磁化固定領域11b側の電流供給端子から送出される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、第2書込み電流Iw2と逆になる。その結果、第1磁壁移動領域13aには、第1磁化固定領域11bからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの境界にある磁壁12aを第0磁化固定領域11aの方向に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは、+z方向へスイッチする。そして、磁壁12aは、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの境界に移動する。更に、第2磁壁移動領域13bには、第0磁化固定領域11aからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの境界にある磁壁12bを第2磁化固定領域11cの方向に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは、−z方向へスイッチする。そして、磁壁12bは、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの境界に移動する。これにより、図7における(a)に示すように、データ“0”が書き込まれる。
このように、磁化記録層10内を平面的に流れる書込み電流Iw1、Iw2によって、第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bの磁化の方向がそれぞれスイッチする。そして、その磁化方向の組み合わせとしてデータ“0”及び“1”を書き分け、記憶することができる。このとき、各磁壁移動領域の両側にある磁化固定領域は、互いに反平行な磁化の向きを有し、その磁壁移動領域に対して異なるスピン電子の供給源の役割を果たしている。なお、各磁壁12は、初めから書き込み終了後の位置にある場合、スピン電子e−の注入に関わらずその状態が維持される。したがって、オーバーライトも可能である。
この場合、磁化記録層10は、垂直磁気異方性材料により形成されている。そのため、書込み電流Iw1、Iw2に対して磁化記録層10の各領域の磁化方向は垂直である。従って、書込み電流Iw1、Iw2の大きさを著しく低減することができる。このとき、書込み電流Iw1、Iw2は磁壁12a、12bを貫通すれば、後はどこを通ってもよい。
5.読出し動作
次に、磁気メモリ素子に対するデータの読出し原理を説明する。図8A及び図8Bは、本発明の第1の実施形態に係る磁気メモリ素子に対するデータの読出し原理を示す断面図である。データ読出し動作時、読出し電流IRは、磁気トンネル接合部20(リファレンス層21、バリア層22、及びセンサ層23)のMTJを貫通して流れるように供給される。そのように供給されれば、読出し電流IRは磁化記録層10を流れても流れなくてもよい。図8A及び図8Bの例では、読出し電流IRは、リファレンス層21側の電流供給端子、及び、第2磁化固定領域11c側の電流供給端子のいずれか一方から供給され、他方から送出される。それにより、読出し電流IRは、磁気トンネル接合部20のMTJを貫通すると共に、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとを流れる。
磁化記録層10にデータとして“0”が記憶されている場合(図8A参照)、センサ層23の磁化は−x方向に向いている。一方、リファレンス層21の磁化は−x方向に固定されている。すなわち、両磁化の方向は平行である。したがって、上記読出し電流IRを流すことにより、磁気メモリ素子に記憶されたデータとして、低抵抗値すなわち“0”が読み出される。一方、磁化記録層10にデータとして“1”が記憶されている場合(図8B参照)、センサ層23の磁化は+x方向に向いている。一方、リファレンス層21の磁化は−x方向に固定されている。すなわち、両磁化の方向は反平行である。したがって、上記読出し電流IRを流すことにより、磁気メモリ素子に記憶されたデータとして、高抵抗値すなわちデータ“1”が読み出される。
以上のようにして、本磁気メモリ素子1の磁化記録層10に記憶されたデータを読み出すことができる。また、書き込みに必要な比較的大きな電流がMTJを流れることはなく、データを読み出す際に比較的小さな電流をMTJに流すだけでよいので、MTJの劣化を抑制することが可能である。
6.磁気メモリセル及びMRAMの構成と動作
図9は、本発明の第1の実施形態に係る磁気抵抗効果素子が集積化されたメモリセルの構成例を示す回路図である。図9に示すように、磁気抵抗効果素子1において、磁気トンネル接合部20のリファレンス層21に接続される端子は、読み出しのためのグラウンド線GLに接続される。磁化記録層10の第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cに接続される二つの端子は、一方がMOSトランジスタTRaのソース/ドレインの一方に接続され、他方がMOSトランジスタTRbのソース/ドレインの一方に接続される。また、MOSトランジスタTRa、TRbのソース/ドレインの他方は、それぞれ書き込みのためのビット線BLa、BLbに接続される。更に、MOSトランジスタTRa、TRbのゲートはワード線WLに接続される。ただし、磁気メモリセルの構成はこの例に限定されるものではない。
図10は、本発明の第1の実施形態に係るメモリセルが集積化されたMRAMの構成例を示すブロック図である。図10において、MRAM90は、複数のメモリセル80が行列状に配置されたメモリアレイ91を具備している。このメモリアレイ91は、図9で説明されたデータの記録に用いられるメモリセル80と共に、データ読み出しの際に参照されるリファレンスセル80rを含んでいる。図10の例では、1列分がリファレンスセル80rである。リファレンスセル80rの構造は、メモリセル80と同じである。この場合、リファレンスセル80rのMTJは、データ“0”を記憶した場合の抵抗値R0とデータ“1”を記憶した場合の抵抗値R1との中間の抵抗値R0.5を有する。ただし、2列分をリファレンスセル80rとし、そのうち一方の1列を抵抗値R0のリファレンスセル80rとし、他の1列を抵抗値R1のリファレンスセル80rとすることもできる。その場合、抵抗値R0のリファレンスセル80rと抵抗値R1のリファレンスセル80rとから、抵抗値0.5を作り出し、読出しに用いる。
ワード線WL及びグランド線GLは、それぞれX方向に延在している。ワード線Wは、一端をX側制御回路92に接続されている。X側制御回路92は、データの書込み動作時、及び読出し動作時において、対象のメモリセル80につながるワード線WLを選択ワード線WLとして選択する。ビット線BLa、BLbは、それぞれ、Y方向に延在し、一端をY側制御回路93に接続されている。Y側制御回路93は、データの書込み動作時、及び読出し動作時において、対象のメモリセル80につながるビット線BLa、BLbを選択ビット線BLa、BLbとして選択する。制御回路94は、データの書込み動作時、及び読出し動作時において、X側制御回路92及びY側制御回路93を制御する。
次に、図10に示されるMRAMにおける書き込み方法、読み出し方法について説明する。
まず、書き込みを行う場合について説明する。X側制御回路92は、選択ワード線WLを選択する。それにより、選択ワード線WLが“high”レベルにプルアップされ、MOSトランジスタTRa、TRbが“ON”になる。また、Y側制御回路93は、選択ビット線BLa、BLbを選択する。それにより、選択ビット線BLa、BLbのいずれか一方が“high”レベルにプルアップされ、他方が“Low”レベルにプルダウンされる。選択ビット線BLa、BLbのどちらを“high”レベルにプルアップし、どちらを“Low”レベルにプルダウンするかは、当該磁気抵抗効果素子1に書き込まれるべきデータにより決定される。すなわち、磁化記録層10に流す書込み電流Iwの方向に応じて決定される。以上により、データ“0”とデータ“1”とを書き分けることができる。X側制御回路92とY側制御回路93及びそれらを制御する制御回路94は、メモリセル80に書き込み電流Iwを供給するための「書き込み電流供給回路」を構成している。
次に、読み出しを行う場合について説明する。X側制御回路92は、選択ワード線WLを選択する。それにより、選択ワード線WLが“high”レベルにプルアップされ、MOSトランジスタTRa、TRbが“ON”になる。また、Y側制御回路93は、選択ビット線BLa、BLbを選択する。それにより、選択ビット線BLa、BLbのいずれか一方が“high”レベルにプルアップされ、他方が“open”(フローティング)に設定される。このとき選択ビット線BLa、BLbの一方から、読み出し電流IRが、例えば、第2磁化固定領域11c、第2磁壁移動領域13b、第0磁化固定領域11a、コンタクト層30、及び磁気トンネル接合部20(センス層23、バリア層22、及びリファレンス層21で構成されるMTJ)を経由してグラウンド線GLへと流れる。読み出し電流IRが流されるビット線BLの電位、又は、読み出し電流の大きさは、磁気抵抗効果による磁気抵抗効果素子1(磁気トンネル接合部20)の抵抗値の変化に依存する。したがって、同様に読み出し電流IRが流されるリファレンスセル80rのリファレンスビット線BLrの出力と比較して、この抵抗値の変化を電圧信号、又は電流信号として検知することにより高速での読み出しが可能となる。X側制御回路92とY側制御回路93及びそれらを制御する制御回路94は、メモリセル80に読み出し電流IRを供給し読み出すための「読み出し電流供給及びセンス回路」を構成している。
7.センサ層の位置
図4A〜図8Bに示すように、センサ層23は磁化記録層10の下側(−z方向の側)にコンタクト層30を介して設けられている。ただし、第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bによる磁界がセンサ層23の磁化方向を反転可能であれば、磁気トンネル接合部20は上下逆、すなわち、リファレンス層21がコンタクト層30と接触していてもよい(図示されず)。
また、センサ層23は、磁化記録層10の上側(+z方向の側)にコンタクト層30を介して設けられていてもよい(図示されず)。更に、第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bによる磁界がセンサ層23の磁化方向を反転可能であれば、磁気トンネル接合部20は上下逆、すなわち、リファレンス層21がコンタクト層30と接触していてもよい(図示されず)。
更に、第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bによる磁界がセンサ層23の磁化方向を反転可能であれば、磁気メモリ素子1にコンタクト層30を設けず、センサ層23が磁化記録層10と電気的に接続していなくてもよい(図示されず)。この場合、磁化記録層10の両端に書き込み電流用に電流供給端子が設けられる一方、磁気トンネル接合部20の両端にも読み出し電流用に電流供給端子が別途設けられる。
更に、図4A〜図8Bや上述のように、センサ層23は磁化記録層10の第0磁化固定領域11aの直下(−z方向の側)又は直上(+z方向の側)に設けることができる。すなわち、センサ層23の磁化記録層10への射影は、第0磁化固定領域11aに重なる。この構成は、第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bによる磁界がセンサ層23の磁化をより安定的に反転することができ好ましい。
また、第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bによる磁界がセンサ層23の磁化方向を反転可能であれば、センサ層23は、磁化記録層10の第0磁化固定領域11aの奥側(+y方向の側)又は手前側(−y方向の側)に設けられていてもよい(図示されず)。そのとき、センサ層23の磁化記録層10への射影は、第1磁壁移動領域13aと第2磁壁移動領域13bとの間における磁化記録層10内の領域の少なくとも一部に重なっていることが好ましい。そのような領域は、第0磁化固定領域11aの一部を含む領域であり、更に、第1磁壁移動領域13aの一部及び第2磁壁移動領域13bの一部の少なくとも一方を含んでもよい。
また、第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bによる磁界がセンサ層23の磁化方向を反転可能であれば、センサ層23は、磁化記録層10の第0磁化固定領域11aの奥側(+y方向の側)又は手前側(−y方向の側)、且つ、左側(−x方向の側)又は右側(+xの側)側に設けられていてもよい(図示されず)。そのとき、センサ層23の磁化記録層10への射影は、第1磁壁移動領域13aと第2磁壁移動領域13bとの間における磁化記録層10内の領域の少なくとも一部に重なっていることが好ましい。そのような領域は、第0磁化固定領域11aの一部を含み、更に、第1磁壁移動領域13aの一部及び第2磁壁移動領域13bの一部のいずれか一方を含む。
このように、本実施形態では、センサ層23と磁化記録層10との位置関係は、第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bによる磁界がセンサ層23の磁化方向を反転可能な位置関係であればよい。そのため、センサ層23の自由度が高くなっている。
8.センサ層とハード層の位置関係
図11は、本発明の実施形態に係る磁気メモリ素子のセンサ層とハード層の位置関係に関するバリエーションを示す構成図である。ただし、図11は断面図である。
本実施形態においては、センサ層23とハード層40の磁化記録層10に対する位置関係には任意性がある。例えば図4Bに示されるようにセンサ層23は磁化記録層10に対して下側(−z側)に設けられ、ハード層40は磁化記録層10に対して上側(+z側)に設けられてもよい。また図示はされていないがセンサ層23は磁化記録層10に対して上側(+z側)に設けられ、ハード層40は磁化記録層10に対して下側(−z側)に設けられてもよい。あるいは図11に示されるように、センサ層23は磁化記録層10に対して上側(+z側)に設けられ、ハード層40も磁化記録層10に対して上側(+z側)に設けられてもよい。このように、本実施形態においては、ハード層40は磁化記録層10の所定の磁化構造を実現でき、またセンサ層23は第1磁壁移動領域13aと第2磁壁移動領域13bの磁化方向を読み出すことができさえすれば、これらの位置関係には何の制約もない。
ここで、磁化記録層10に磁壁を導入し、所定の磁化構造を容易に実現するためには、ハード層40は磁化記録層10の上面に隣接して設けられることが好ましい。これは、ハード層40が磁化記録層10の上面に隣接して設けられる構造の場合、磁化記録層10とハード層40は連続して膜を堆積させられるので、これらの間で強い交換結合を得ることができるためである。
一方、素子のレイアウトの観点からは、読み出し用の磁気トンネル接合部20は磁化記録層10に対して上側(+z側)に設けられることが好ましい。これは、磁化記録層10にはトランジスタを介して書き込み電流を導入する必要があり、このとき書き込み電流は磁気メモリ素子1の下側(−z側)から供給されるため、読み出し用の配線は磁気メモリ素子1の上側(+z側)に設けられることが好ましいためである。読み出し用の配線が磁気メモリ素子1の上側(+z側)に設けられるとき、セル面積が最も小さくなるようにレイアウトすることが可能となる。
従って、上記の観点からすると、図11に示された、ハード層40、センサ層23の両方ともが磁化記録層10の上側(+z側)に配置される実施の形態が、当該磁気メモリ素子1の初期化やレイアウトの容易性からは最も好ましいと言うことができる。
なお、より容易に当該磁気メモリ素子1のメモリ状態の初期化を行うためには、ハード層40が以下のように形成されることが好ましい。前述の通り、本実施形態においては、第1磁化固定領域11bと第2磁化固定領域11cの磁化方向は互いに平行方向に固定され、これらに対して第0磁化固定領域11aは反平行方向に固定される。従って、第1磁化固定領域11b、第2磁化固定領域11cに隣接するハード層40と、第0磁化固定領域11aに隣接するハード層40の間では磁気特性に差異が設けられることが望ましい。この磁気特性の差異は例えば膜厚差などによって設けることができる。具体的な例としては、図11に示されるように、第1磁化固定領域11bと第2磁化固定領域11cに隣接するハード層40が、第0磁化固定領域11aに隣接するハード層40に比べて膜厚が薄く形成されたとき、磁化記録層10が所定の磁化構造になるように容易に初期化することが可能となる。
なおこれ以降において、Nが2以上の場合についての実施の形態が述べられるが、上述のセンサ層23とハード層40の磁化記録層10に対する位置関係は、いずれの場合も任意であるが、説明が重複するので省略する。
9.磁壁の停止方法
図12〜図17は、本発明の第1の実施形態に係る磁気メモリ素子の第0磁化固定領域11aの両端での磁壁の停止方法のバリエーションを示す構成図である。ただし、各図において磁気トンネル接合部10は省略されている。また、図12、図13A〜図13C、図15、図16は断面図であり、図14、図17は平面図である。
図12は、上記磁壁の停止方法の一例を示している。ただし、二つの方法が考えられる。
第1の方法では、コンタクト層30の材料として、第0磁化固定領域11aの材料と比較して低抵抗の材料を用いる。そのような材料としては、例えば、Au、Ag、Cu、Al、Ru、Pt、Pdなどが例示される。その場合、第1磁壁移動領域13a(又は第2磁壁移動領域13b)を流れた書き込み電流Iwは、第0磁化固定領域11aを流れるだけでなく、コンタクト層30により多く流れ込む。すなわち、書込み電流Iwは、第0磁化固定領域11aとコンタクト層30とに分流する。このとき、書き込み電流Iwの総量は変わらないことから、第0磁化固定領域11a内の電流密度は低下することになる。ところが、磁壁移動を起こすには、ある閾値以上の電流密度が必要である。この図の例では、書き込み電流Iwの電流密度は、第1磁壁移動領域13a(又は第2磁壁移動領域13b)において上記閾値以上になり、第0磁化固定領域11aにおいて分流により低下して上記閾値未満になるように設定される。そのため、磁壁は、閾値以上の電流密度の第1磁壁移動領域13a(又は第2磁壁移動領域13b)において移動し、閾値未満の第0磁化固定領域11aの端部付近で停止することになる。
また、第2の方法では、コンタクト層30の材料として、スピン散乱が起こり易い材料を用いる。そのような材料としては、例えば、Pt、Pdなどが例示される。その場合、第1磁壁移動領域13a(又は第2磁壁移動領域13b)を流れた書き込み電流Iw(電子)は、第0磁化固定領域11aを流れるだけでなく、コンタクト層30にも流れ込む。すなわち、書込み電流Iw(電子)は、第0磁化固定領域11aとコンタクト層30とに分流する。このとき、コンタクト層30に流れ込んだ電子はコンタクト層30でスピン散乱されて、その一部が第0磁化固定領域11aに戻る。その結果、第0磁化固定領域11aの電子はスピン散乱された電子の影響でスピンが乱されて不揃いとなり、磁壁を移動させることができなくなる。この図の例では、電子のスピンは、第2磁壁移動領域13b(又は第1磁壁移動領域13a)において揃っているが、第0磁化固定領域11aにおいて乱されて不揃いとなる。そのため、磁壁は、電子のスピンの揃っている第1磁壁移動領域13a(又は第2磁壁移動領域13b)において移動し、電子のスピンの乱れる第0磁化固定領域11aの端部付近で停止することになる。
なお、図12では低抵抗な材料やスピン散乱の起こり易い材料を、第0磁化固定領域11aの下側(−z方向側)のコンタクト層30に用いて本停止方法を実現させているが、本発明はその例に限定されるものではない。すなわち、上記の低抵抗な材料やスピン散乱の起こり易い材料を用いた補助層14を、第0磁化固定領域11aの周辺に隣接して設けていれば、コンタクト層30を用いなくても良く、また、その位置は問わない。図12では、第0磁化固定領域11aの上側(+z方向側)に補助層14(破線で表示)を設ける例を示している。この場合にも、上記2つの方法で示したコンタクト層30と同様の効果を得ることが出来る。以上示した図12の方法は、製造上特別なプロセスが不要であり、コンタクト層30の材料の選択だけで実施できプロセスが容易である。
図13A〜図13Cは、上記磁壁の停止方法の他の一例を示している。
図13Aに示される方法では、磁化記録層10の第0磁化固定領域11aの両端に、意図的に段差Qを設ける。そのため、第0磁化固定領域11aの上側(+z方向の側)の平面は、第1磁化固定領域11b、第1磁壁移動領域13a、第2磁壁移動領域13b、及び第2磁化固定領域11cの上側の平面よりも突き出ている。その結果、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの境界、及び、第0磁化固定領域11aと第1磁壁移動領域13aとの境界に段差Qが形成される。このような段差Qは磁壁に対するピンポテンシャルとして機能し磁壁をその位置で停止させることができる。
なお、図13Aの例では上側(+z方向の側)に凸な段差を示しているが、凹(下側(−z方向の側)に凸)な段差であってもよい。また、図13Aはコンタクト層30の一部が、磁気記録層10の下側の底面から突き出ている態様であるが、コンタクト層30の一部が磁気記録層10の下側の底面から突き出ていなくてもよい。
図13Bに示すように、コンタクト層30は、製造プロセスにおいて、ビアホール等の穴が設けられた層間絶縁層49に金属等の膜を成膜し、CMP法で研磨して形成される。そのCPM法の研磨のとき、層間絶縁層49の表面とコンタクト層30の表面との間に段差Pが形成されることはプロセスの性質上避けることが難しい。そこで、図13Aの例では、この段差Pを積極的に利用する。すなわち、図13Cに示すように、この段差Pを残したまま層間絶縁層49及びコンタクト層30を覆うように磁化記録層10用の膜を成膜する。そのようにすると、この膜にもコンタクト層30の段差Pに影響されて段差Qが形成される。したがって、この膜を磁化記録層10の形状に成形することで、図13Aの形状を得ることが出来る。なお、このような段差は、磁壁固定のために、磁化記録層10の両端の第1磁化固定領域11bや第2磁化固定領域11cに設けられていてもよい。この方法は、製造上特別なプロセスが不要であり、実施が容易である。
図14は、上記磁壁の停止方法の更に他の一例を示している。
図14に示される方法では、第0磁化固定領域11aの領域での電流密度が、磁壁移動を起こすのに必要な閾値未満に低下するように、第0磁化固定領域11aの断面積を増大(例示:形状を太く、幅を広く等)させる。その場合、第1磁壁移動領域13a(又は第2磁壁移動領域13b)を流れた書き込み電流Iwは、断面積の増大した第0磁化固定領域11aを流れる。このとき、書き込み電流Iwの総量は変わらないことから、第0磁化固定領域11aの電流密度は低下することになる。この図の例では、第0磁化固定領域11aの幅は±y方向に突出部15、16の分だけ広くなっている。そして、書き込み電流Iwの電流密度は、第1磁壁移動領域13a(又は第2磁壁移動領域13b)において上記閾値以上になり、第0磁化固定領域11aにおいて低下して上記閾値未満になるように設定される。そのため、磁壁は、閾値以上の電流密度の第1磁壁移動領域13a(又は第2磁壁移動領域13b)において移動し、閾値未満の第0磁化固定領域11aの端部付近で停止することになる。
なお、図14では第0磁化固定領域11aの幅が±y方向に広くなっているが、本発明はその例に限定されるものではない。すなわち、第0磁化固定領域11aの断面積を増大することができれば、幅が+y方向及び−y方向のいずれか一方に広がっていても、+z方向や−z方向に広がっていてもよい。その場合にも、図14の場合と同様の効果を得ることが出来る。この方法は、磁化記録層10のパターンを一部変更するだけで、製造上特別なプロセスが不要であり、実施が容易である。
図15は、上記磁壁の停止方法の更に他の一例を示している。
図15に示される方法では、コンタクト層30を、第0磁化固定領域11aと同じ垂直磁気異方性材料で形成し、第0磁化固定領域11aと同じ磁化の向きとする。このようにすることで、第0磁化固定領域11aの磁化が多くなるので、磁壁移動を起こり難くすることができる。その結果、相対的に磁化の少ない第1磁壁移動領域13a(又は第2磁壁移動領域13b)を移動してきた磁壁は、磁化の多い第0磁化固定領域11aの端部付近で停止することになる。この方法は、製造上特別なプロセスが不要であり、コンタクト層30の材料の選択だけで実施できプロセスが容易である。
図16は、上記磁壁の停止方法の別の一例を示している。
図16に示される方法では、第0磁化固定領域11aにも、第1磁化固定領域11bや第2磁化固定領域11cと同様に、ハード層(第2のハード層18)を設ける。ただし、第1のハード層40よりもハードでなく(保持力を小さく)する。上述の初期化方法を利用できるようにするためである。このようにすることで、第0磁化固定領域11aの磁化が多くなるので、磁壁移動を起こり難くすることができる。その結果、相対的に磁化の少ない第1磁壁移動領域13a(又は第2磁壁移動領域13b)を移動してきた磁壁は、磁化の多い第0磁化固定領域11aの端部付近で停止することになる。
図17は、上記磁壁の停止方法の更に別の一例を示している。
図17に示される方法では、第0磁化固定領域11aと第1磁壁移動領域13aとの境界部分、及び、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの境界部分に、磁壁に対するピンポテンシャルとして機能するノッチ17のようなピンサイトを設ける。このようなピンサイトは、磁化記録層10の微細化により製造困難となるが、磁化記録層10の大きさがある程度大きければ用いることは可能である。このようにすることで、ノッチ17がピンポテンシャルとして機能し、その位置で磁壁を停止することができる。
以上で述べてきた停止方法は、第0磁化固定領域と第1、第2磁壁移動領域との境界での磁壁の停止だけでなく、第1磁化固定領域と第1磁化固定領域との境界や、第2磁化固定領域と第2磁壁移動領域との境界のような他の境界にも同様に適用することが可能である。
10.磁化の固定方法
図18〜図22は、本発明の第1の実施形態に係る磁気メモリ素子の第1磁化固定領域及び第2磁化固定領域での磁化の固定方法のバリエーションを示す構成図である。ただし、各図において磁気トンネル接合部10は省略されている。また、図18〜図20、図21B、図22は断面図であり、図21Aは平面図である。
図18は、上記磁化の固定方法の一例を示している。
図4A〜図8Bに示した例では、第1のハード層40は、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cの上側(+z方向の側)に設けられている。しかし、図18に示すように、第1のハード層40は、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cの下側(−z方向の側)に設けられていてもよい。この方法は、製造プロセスの都合等により、下側に設けたい場合などに好ましい。
図19は、上記磁化の固定方法の他の一例を示している。
図19に示すように、第1のハード層40は、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cの上側(+z方向の側)及び下側(−z方向の側)の両方に設けられていてもよい。この方法は、製造プロセスの都合等により、上側又は下側の一方に厚く形成できないときに上側及び下側の両方に薄く設ける場合や、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cの磁化をより強固に固定したい場合などに好ましい。
図20は、上記磁化の固定方法の更に他の一例を示している。
図20に示すように、第1のハード層40は、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cに磁気的に結合していれば、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cに直接接触している必要は無い。すなわち、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cの上側及び下側の少なくとも一方に、磁気的に結合可能な程度に近傍に、第1のハード層40が形成されていればよい。この図の例では、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cの下側に、他の中間層43を介して第1のハード層40が設けられている。この方法は、製造プロセスの都合等により、磁化記録層10に直接接触して第1のハード層40を設けられない場合などに好ましい。
図21A(平面図)及び図21B(断面図)は、上記磁化の固定方法の別の一例を示している。
図21A及び図21Bに示すように、第1のハード層を用いなくても、形状を工夫することにより、所望の磁化状態を作り出すことができる。この図の例では、第1磁化固定領域11bにおける第1磁壁移動領域13aとの境界付近の幅、及び、第2磁化固定領域11cにおける第2磁壁移動領域13bとの境界付近の幅は、いずれも第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bの幅よりも大きくなっている。これにより、磁壁は第1磁化固定領域11bや第2磁化固定領域11c内に侵入しにくくなり、それぞれの境界は磁壁に対するピンポテンシャルとして機能する。すなわち、第1磁化固定領域11bや第2磁化固定領域11cの磁化は固定化される。この方法は、第1のハード層を形成する必要がなく、磁化記録層10の形状変更だけで済むので、製造プロセスを簡略化でき、製造コストを削減することができる。
図22は、上記磁化の固定方法の更に別の一例を示している。
図22に示すように、第1のハード層を用いなくても、材料を工夫することにより、所望の磁化状態を作り出すことができる。この図の例では、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cの材料として、第1磁壁移動領域13aや第2磁壁移動領域13bと異なる材料を用いている。そのような材料としては、相対的に保磁力の大きい材料が例示される。また、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cにイオン注入を行い、その部分の磁気特性を変えることで実現することも可能である。
11.センサ層の異方性
センサ層23は、面内磁気異方性を有する材料で形成されている。ただし、センサ層23の磁気異方性の方向は、図4A〜図8Bに示したように面内の±x方向に向いていても、±y方向(図示されず)に向いていてもよい。センサ層23の磁気異方性は形状によって付与(形状磁気異方性)してもよいし、結晶構造によって付与(結晶磁気異方性)してもよいし、磁歪を適切に調整することで応力によって付与(応力誘起磁気異方性)してもよい。
センサ層23の磁気異方性の方向が±x方向の場合、センサ層23の磁化を反転させる動作は、容易軸動作となる。最大のMR比を得ることができる。ただし、磁化記録層10(第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13b)からの漏洩磁界が小さい場合、反転し難くなる可能性がある。一方、センサ層23の磁気異方性の方向が±y方向の場合、センサ層23の磁化を反転させる動作は、困難軸動作となる。磁化記録層10(第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13b)からの漏洩磁界が、容易軸動作で磁化反転を起こさないような小さい場合でも読み出す(磁化反転させる)ことができる。ただし、MR比は、相対的に小さくなり、ばらつき易くなる。
12.変形例
図23は、本発明の第1の実施形態に係る磁気メモリ素子のうち磁化記録層の構成の変形例を示す平面図である。図4Aの磁化記録層の構成では、第1磁壁移動領域13aと第2磁壁移動領域13bとは、第0磁化固定領域11aを挟んで対称な位置(正反対の位置)に配置されている。しかし、本発明はその例に限定されるものではなく、図23に示すように、第1磁壁移動領域13aと第2磁壁移動領域13bとは、第0磁化固定領域に関して直角方向の位置に配置されていてもよい。すなわち、第1磁壁移動領域13aが延伸する方向と、第2磁壁移動領域13bが延伸する方向とは互いに直角に交わっている。
この場合、磁気記録層10に対する磁気トンネル接合部20の位置は、第0磁化固定領域11aの直上(+z方向の側)でもよいし、図中に破線で示すように当該位置から+y方向かつ−x方向にずれた位置であってもよい。また、コンタクト層30を介していてもよい。そして、磁気トンネル接合部20のリファレンス層21の磁化の向きは、第1磁壁移動領域13aと第2磁壁移動領域13bとを結ぶ直線の方向に向くことが好ましい。この図の例では、リファレンス層21の磁化の向きは、第1磁壁移動領域13a(の重心Ga)と第2磁壁移動領域13b(の重心Gb)とを結ぶ直線の方向に向くことが好ましい。その場合、センサ層23の磁化の向きは、格納されるデータ(0、1)に応じて、リファレンス層21の磁化の向きと平行又は反平行な成分を取り得る。
その他の構成や動作等は、既述のとおりであるので、その説明を省略する。
この図23の構成を用いた場合にも、上記実施形態と同様の効果を得ることが出来る。
以上説明したように、本実施形態では、磁化記録層の磁気異方性が垂直方向である電流駆動磁壁移動型のMRAMにおいて、磁壁移動領域を2つにすることで、磁化固定領域が3つになるので、両側の磁化固定領域を含め磁化固定を容易に行うことが可能となる。すなわち、磁化固定領域を容易に形成することが可能となる。また、それにより、2つの磁壁移動領域と3つの磁化固定領域との境界を、磁壁のピンニングサイトとすることができる。すなわち、磁壁のピンニングサイトを容易に形成することが可能となる。また、垂直磁気異方性を有する磁化記録層とは別に、磁化記録層の情報を読み出すための磁気トンネル接合部を設けているので、読出しの信頼性が高めることが可能となる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、上記N=2の場合の磁気メモリセル及びMRAMについて説明する。
1.磁気メモリ素子の基本構成
図24は、本発明の第2の実施形態に係る磁気メモリ素子のうち磁化記録層の構成の一例を示す平面図である。本実施形態における磁気メモリ素子1は、磁化記録層10及び磁気トンネル接合部20を具備し、基本的に第1の実施形態の磁気メモリ素子1と同じである。ただし、第0磁化固定領域11aに補助磁化固定領域11a2が接続されている点で第1の実施形態と異なる。補助磁化固定領域11a2は、第0磁化固定領域11aと同じ材料で形成され、同じ垂直磁化異方性を有し、同じ向きに磁化されている。第0磁化固定領域11aは、補助磁化固定領域11a2と一体として第0磁化固定領域11aと見ることもできる。この図の例では、補助磁化固定領域11a2は、第0磁化固定領域11aの奥側(+y方向の側)に接続され、−z方向に磁化されている。ただし、補助磁化固定領域11a2の第0磁化固定領域11aへの接続位置はこの例に限定されない。
磁気メモリ素子1は、第1の実施形態の磁気メモリ素子1と同様に第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cの各々に電流を供給する電流供給端子51、52が接続されている。磁気メモリ素子1bは、更に、補助磁化固定領域11a2に電流を供給する電流供給端子53が接続されている。これらは、後述されるように、書込み電流や読出し電流の供給等に用いることができる。
その他の磁気メモリ素子1の構成は、第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
2.データのメモリ状態
図25A〜図25Cは、本発明の第2の実施形態に係る磁気メモリ素子の構成の一例を示す平面図である。本実施形態では、磁化記録層10は、各磁壁移動領域での磁化の向きの相互関係により、データを保持している。本実施形態における磁気メモリ素子1は、3つの状態を取ることができ、3種類のデータを記憶することができる。図25Aは例えば第1データを記憶した場合(α1−state)を示し、図25Bは例えば第2データを記憶した場合(α2−state)を示し、図25Cは例えば第3データを記憶した場合(α3−state)を示している。3種類のデータは、任意のデータを対応させることができる。例えば、“00”、“01”、“10”である。
図25Aに示すように、磁化記録層10が第1データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13aの磁化は+z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化は−z方向に向いている(+z、−z)。それにより、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの間、及び、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定域11cとの間に、それぞれ磁壁12a、12bが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、第2磁壁移動領域13bから第1磁壁移動領域13a(−x方向)に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは−x方向な成分を取り得る。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは平行な成分を取り得る。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値R0を検出することで、この平行な状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第1データ(α1−state)を読み出すことができる。
一方、図25Bに示すように、磁化記録層10が第2データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13aの磁化は−z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化は+z方向に向いている(−z、+z)。それにより、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、及び、第0磁化固定域11aと第2磁壁移動領域13bとの間に、それぞれ磁壁12a、12bが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、第1磁壁移動領域13aから第2磁壁移動領域13b(+x方向)に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは+x方向な成分を取り得る。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは反平行な成分を取り得る。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値R1を検出することで、この反平行な状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第2データ(α2−state)を読み出すことができる。
図25Cに示すように、磁化記録層10が第3データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13aの磁化は+z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化は+z方向に向いている(+z、+z)。それにより、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの間、及び、第0磁化固定域11aと第2磁壁移動領域13bとの間に、それぞれ磁壁12a、12bが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、第0磁化固定領域11aと補助磁化固定領域11a2とを結ぶ方向(±y方向)に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは−y方向(又は+y方向)に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは略直角となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値R0.5を検出することで、この垂直な状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第3データ(α3−state)を読み出すことができる。
なお、図示していないが、磁化記録層10が第3データを記憶したとき、第1磁壁移動領域13aの磁化が−z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化が−z方向に向く(−z、−z)ようにしてもよい。
図26は、センサ層の磁化とリファレンス層の磁化との間の相対角度と磁気トンネル接合部の抵抗値との関係を示すグラフである。横軸はセンサ層23の磁化とリファレンス層30の磁化との間の相対角度(0度〜180度)、縦軸は磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値をそれぞれ示す。図に示されるように、磁気トンネル接合部20の抵抗値は、センサ層23の磁化とリファレンス層30の磁化との間の相対角度に対して単調に増加する。したがって、相対角度と抵抗値とは一対一に対応する。それにより、複数の相対角度を設定し、設定された複数の相対角度に対応付けて複数のデータを設定すれば、設定された複数のデータを複数の抵抗値により読み出すことができる。すなわち、一つの磁気記憶素子で複数のデータを記憶することができ、磁気記憶素子を多値化することができる。
本実施形態では、上記図25Aのα1−stateが抵抗値R0に対応し、図25Bのα2−stateが抵抗値R1に対応し、図25Cのα3−stateが抵抗値R0.5に対応している。このように、本実施形態の磁気メモリ素子1は、3値化され、3種類のデータを記憶することができる。なお、リファレンス層21の向きは、図25A〜図25Cの場合(−x方向)に限定されるものではなく、センサ層23の磁化とリファレンス層30の磁化との相対角度が3種類になれば、他の向きであってもよい。
3.磁化固定領域の初期化方法
本発明の第2の実施形態に係る磁気メモリ素子の初期化方法については、例えば、第1の実施形態(図6A〜図6C)と同様に行うことができる。したがって、その説明を省略する。
4.書込み動作
次に、磁気メモリ素子に対するデータの書込み原理を説明する。書込みは、+z側に磁化を向かせたい磁壁移動領域の側の磁化固定領域から電子を供給し、それ以外の磁化固定領域、例えば−z側に磁化を向かせたい磁壁移動領域の側から電子を引き出す、となるような経路で電流を流す。必要に応じて、複数の経路を用いてもよい。以下詳細に説明する。
図27A〜図27Cは、本発明の第2の実施形態に係る磁気メモリ素子に対するデータの書込み原理を示す平面図である。データ書込みは、スピン注入を利用した磁壁移動方式で行われる。書込み電流Iwは、MTJ(磁気トンネル接合部20)を貫通する方向ではなく、磁化記録層10内を平面的に、磁壁12a、12bを貫通する方向に流れる。その書込み電流Iwは、第1磁化固定領域11bに接続された電流供給端子(図示されず)、第2磁化固定領域11cに接続された電流供給端子(図示されず)、及び、補助磁化固定領域11a2に接続された電流供給端子(図示されず)のいずれかから磁化記録層10に供給される。
図27Aの左側の図に示すように、第1データ(α1−state)の書込み動作時、書込み電流Iw1(実線矢印)が、第2磁化固定領域11cから、第2磁壁移動領域13b、第0磁化固定領域11a及び第1磁壁移動領域13aをこの順に通り、第1磁化固定領域11bへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1と逆になる。その結果、第1磁壁移動領域13aには、第1磁化固定領域11bからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの境界にある磁壁12aを第0磁化固定領域11aとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは+z方向へ反転する。そして、磁壁12aは、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの境界に移動する。更に、第2磁壁移動領域13bには、第0磁化固定領域11aからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの境界にある磁壁12bを第2磁化固定領域11cとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは−z方向へ反転する。そして、磁壁12bは、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの境界に移動する。これにより、図27Aの右側の図に示すように、第1データ(α1−state)が書き込まれる。
図27Bの左側の図に示すように、第2データ(α2−state)の書込み動作時、書込み電流Iw2(実線矢印)が、第1磁化固定領域11bから、第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a及び第2磁壁移動領域13bをこの順に通り、第2磁化固定領域11cへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw2と逆になる。その結果、第2磁壁移動領域13bには、第2磁化固定領域11cからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第2磁化固定領域11cと第2磁壁移動領域13bとの境界にある磁壁12bを第0磁化固定領域11aとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは+z方向へ反転する。そして、磁壁12bは、第2磁壁移動領域13bと第0磁化固定領域11aとの境界に移動する。更に、第1磁壁移動領域13aには、第0磁化固定領域11aからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第0磁化固定領域11aと第1磁壁移動領域13aとの境界にある磁壁12aを第1磁化固定領域11bとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは−z方向へ反転する。そして、磁壁12aは、第1磁壁移動領域13aと第1磁化固定領域11bとの境界に移動する。これにより、図27Bの右側の図に示すように、第2データ(α2−state)が書き込まれる。
図27Cの左側の図に示すように、第3データ(α3−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、補助磁化固定領域11a2から、第0磁化固定領域11a及び第1磁壁移動領域13aをこの順に通り、第1磁化固定領域11bへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1と逆になる。その結果、第1磁壁移動領域13aには、第1磁化固定領域11bからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの境界にある磁壁12aを第0磁化固定領域11aとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは+z方向へ反転する。そして、磁壁12aは、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの境界に移動する。更に、第2の書込み電流Iw2(実線矢印)が、補助磁化固定領域11a2から、第0磁化固定領域11a及び第2磁壁移動領域13bをこの順に通り、第2磁化固定領域11cへ流される。その結果、第2磁壁移動領域13bには、第2磁化固定領域11cからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第2磁化固定領域11cと第2磁壁移動領域13bとの境界にある磁壁12bを第0磁化固定領域11aとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは+z方向へ反転する。そして、磁壁12bは、第2磁壁移動領域13bと第0磁化固定領域11aとの境界に移動する。これにより、図27Cの右側の図に示すように、第3データ(α3−state)が書き込まれる。
このように、磁化記録層10内を平面的に流れる書込み電流Iw1、Iw2によって、第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bの磁化の方向がそれぞれ反転する。そして、その磁化方向の組み合わせとして第1データ〜第3データを書き分け、記憶することができる。このとき、各磁壁移動領域の両側にある磁化固定領域は、互いに反平行な磁化の向きを有し、その磁壁移動領域に対して異なるスピン電子の供給源の役割を果たしている。なお、各磁壁12は、初めから書き込み終了後の位置にある場合、スピン電子e−の注入に関わらずその状態が維持される。したがって、オーバーライトも可能である。また、図27A〜図27Cのいずれの場合でも、第1の書込み電流Iw1及び第2の書込み電流Iw2は、同時に流してもよいし、タイミングをずらして流してもよいし、順序が逆でもよい。また、書込み電流Iw1、Iw2は磁壁12a、12bを貫通すれば、後はどこを通ってもよい。
5.読出し動作
本発明の第2の実施形態に係る磁気メモリ素子に対するデータの読出し原理については、図26に示されるように相対角度が0度と180度だけでなく任意の第3の相対角度を用いる他は、第1の実施形態と同様である。したがって、その説明を省略する。
この場合にも、書き込みに必要な比較的大きな電流がMTJを流れることはなく、データを読み出す際に比較的小さな電流をMTJに流すだけでよいので、MTJの劣化を抑制することが可能である。
6.磁気メモリセル及びMRAMの構成と動作
図28は、本発明の第2の実施形態に係る磁気抵抗効果素子が集積化されたメモリセルの構成例を示す回路図である。図28に示すように、磁気抵抗効果素子1において、磁気トンネル接合部20のリファレンス層21に接続される端子は、読み出しのためのグラウンド線GLに接続される。磁化記録層10の補助磁化固定領域11a2、第1磁化固定領域11b、及び第2磁化固定領域11cに接続される三つの端子は、MOSトランジスタTRaのソース/ドレインの一方、MOSトランジスタTRbのソース/ドレインの一方、及びMOSトランジスタTRcのソース/ドレインの一方にそれぞれ接続される。また、MOSトランジスタTRa、TRb、及びTRcのソース/ドレインの他方は、書き込みのためのビット線BLa、BLb、及びBLcにそれぞれ接続される。更に、MOSトランジスタTRa、TRb、及びTRcのゲートはワード線WLに接続される。ただし、磁気メモリセルの構成はこの例に限定されるものではない。
図29は、本発明の第2の実施形態に係るメモリセルが集積化されたMRAMの構成例を示すブロック図である。図29において、MRAM90は、複数のメモリセル80が行列状に配置されたメモリアレイ91を具備している。このメモリアレイ91は、図28で説明されたデータの記録に用いられるメモリセル80と共に、データ読み出しの際に参照されるリファレンスセル80rを含んでいる。図29の例では、1列分がリファレンスセル80rである。リファレンスセル80rの構造は、メモリセル80と同じである。この場合、リファレンスセル80rのMTJは、例えば、抵抗値R0.5を有する。
ワード線WL及びグランド線GLは、それぞれX方向に延在している。ワード線Wは、一端をX側制御回路92に接続されている。X側制御回路92は、データの書込み動作時、及び読出し動作時において、対象のメモリセル80につながるワード線WLを選択ワード線WLとして選択する。ビット線BLa、BLb、BLcは、それぞれ、Y方向に延在し、一端をY側制御回路93に接続されている。Y側制御回路93は、データの書込み動作時、及び読出し動作時において、対象のメモリセル80につながるビット線BLa、BLb、BLcを選択ビット線BLa、BLb、BLcとして選択する。制御回路94は、データの書込み動作時、及び読出し動作時において、X側制御回路92及びY側制御回路93を制御する。
次に、図29に示されるMRAMにおける書き込み方法、読み出し方法について説明する。
まず、書き込みを行う場合について説明する。X側制御回路92は、選択ワード線WLを選択する。それにより、選択ワード線WLが“high”レベルにプルアップされ、MOSトランジスタTRa、TRb、TRcが“ON”になる。また、Y側制御回路93は、選択ビット線BLa、BLb、BLcを選択する。それにより、選択ビット線BLa、BLb、BLcのいずれかが“high”レベルにプルアップされ、いずれかが“Low”レベルにプルダウンされ、いずれかが“Open”(フローティング)にされる。選択ビット線BLa、BLb、BLcのいずれを“high”、“Low”、“Open”にするかは、当該磁気抵抗効果素子1に書き込まれるべきデータにより決定される。すなわち、磁化記録層10に流す書込み電流Iwの方向に応じて決定される。以上により、第1データ〜第3データを書き分けることができる。
次に、読み出しを行う場合について説明する。X側制御回路92は、選択ワード線WLを選択する。それにより、選択ワード線WLが“high”レベルにプルアップされ、MOSトランジスタTRa、TRb、TRcが“ON”になる。また、Y側制御回路93は、選択ビット線BLa、BLb、BLcを選択する。それにより、選択ビット線BLa、BLb、BLcのいずれか一つが“high”レベルにプルアップされ、残り二つが“open”(フローティング)に設定される。このとき選択ビット線BLa、BLb、BLcの一つから、読み出し電流IRが、例えば、第2磁化固定領域11c、第2磁壁移動領域13b、第0磁化固定領域11a、コンタクト層30、及び磁気トンネル接合部20(センス層23、バリア層22、及びリファレンス層21で構成されるMTJ)を経由してグラウンド線GLへと流れる。読み出し電流IRが流されるビット線BLの電位、又は、読み出し電流の大きさは、磁気抵抗効果による磁気抵抗効果素子1(磁気トンネル接合部20)の抵抗値の変化に依存する。したがって、同様に読み出し電流IRが流されるリファレンスセル80rのリファレンスビット線BLrの出力と比較して、この抵抗値の変化を電圧信号、又は電流信号として検知することにより高速での読み出しが可能となる。
7.センサ層の位置、8.磁壁の停止方法、9.磁化の固定方法、10.センサ層の異方性
本発明の第2の実施形態に係る磁気メモリ素子におけるセンサ層の位置、磁壁の停止方法、磁化の固定方法、及びセンサ層の異方性については、第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
11.変形例
図30は、本発明の第2の実施形態に係る磁気メモリ素子のうち磁化記録層の構成の変形例を示す平面図である。図24の磁化記録層の構成では、第0磁化固定領域11aに補助磁化固定領域11a2が接続され、その補助磁化固定領域11a2に電流供給端子53が接続されている。しかし、本発明はその例に限定されるものではなく、図30に示すように、補助磁化固定領域11a2を有さず、第0磁化固定領域11aに直接に電流供給端子53が接続されていてもよい。この場合、センサ層23の磁気異方性は±y方向に向いている必要がある。
その他の構成や動作等は、既述のとおりであるので、その説明を省略する。
この図30の構成を用いた場合にも、上記実施形態と同様の効果を得ることが出来る。
以上説明したように、本実施形態においても、第1の実施形態における効果と同様の効果を得ることが出来る。すなわち、磁化記録層の磁気異方性が垂直方向である電流駆動磁壁移動型のMRAMにおいて、磁化固定領域を容易に形成でき、読出しの信頼性が高く、磁壁のピンニングサイトを容易にとなる。また、それに加えて、第0磁化固定領域から電流を供給又は取り出しできるので、磁壁移動領域の磁化の方向の相互関係(組み合わせ)を3種類にすることができる。それにより、磁化記録層に3種類のデータを記憶することができる。すなわち、磁気メモリ素子を多値化することが可能となる。そして、その多値化により、半導体チップにおける単位面積当たりの情報量(データ量)を増加させることが可能となる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、上記N=3の場合の磁気メモリセル及びMRAMについて説明する。
1.磁気メモリ素子の基本構成
図31Aは、本発明の第3の実施形態に係る磁気メモリ素子のうち磁化記録層の構成の一例を示す平面図である。図31Bは、本発明の第3の実施形態に係る磁気メモリ素子の構成の一例を示す断面図である。ただし、図31Bは図31AのAA’断面である。
本実施形態における磁気メモリ素子1は、磁化記録層10及び磁気トンネル接合部20を具備している。ただし、第0磁化固定領域11aから延伸する磁壁移動領域及びその先の磁化固定領域の数が3つ(N=3)である点で第1の実施形態と異なる。
磁気トンネル接合部20は、第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
磁化記録層10は、第0磁化固定領域11a、第1磁化固定領域11b、第2磁化固定領域11c、及び第3磁化固定領域11dと、第1磁壁移動領域13a、第2磁壁移動領域13b、及び第3磁壁移動領域13cとを備える。第0磁化固定領域11aの側面に、第1磁壁移動領域13a〜第3磁壁移動領域13cがそれぞれ接続されている。第1磁壁移動領域13a〜第3磁壁移動領域13cの外側には、更に、第1磁化固定領域11b〜第3磁化固定領域11dがそれぞれ接続される。第0磁化固定領域11aのxy断面の形状が略正三角形の場合、磁気記録層10は第0磁化固定領域11aに対して回転対称性を有している。
第0磁化固定領域11a〜第3磁化固定領域11dは、磁化の向きが固定され、垂直磁気異方性を有する強磁性領域である。第1磁化固定領域11b〜第3磁化固定領域11dの磁化の向きは実質的に同一であり、第0磁化固定領域11aの磁化の向きは、それと反対である。すなわち、第1磁化固定領域11b〜第3磁化固定領域11dの磁化は、互いに平行な方向に固定される。第1磁化固定領域11b〜第3磁化固定領域11dと第0磁化固定領域11aとの磁化は、互いに反平行な方向に固定される。なお、ここで第1磁化固定領域11b〜第3磁化固定領域11dの磁化の向き、及び第0磁化固定領域11aの磁化の向きは、磁壁12a、12b、12cを生じさせる機能を果たすことができる向きであればよく、厳密な意味でそれぞれ同一及び反対を意味するものではない。また、この図の例では、第1磁化固定領域11b〜第3磁化固定領域11dの磁化の向きは+z方向であり、第0磁化固定領域11aの磁化の向きは−z方向である。これら磁化の向きは逆であってもよい。
第1磁化固定領域11b〜第3磁化固定領域11dは、実質的に同一に形成されていることが好ましい。その理由は、製造プロセスの観点から同一に形成するのが最も容易であるため、及び、後述される書込み動作やデータを保持する場合、その安定性や信頼性の面で対称性の高いことが好ましいからである。ここで、実質的に同一とは、膜厚を含む形状や材料が、製造プロセス上の誤差の範囲で同一ということである。この場合、磁化の固定方法(後述)も同一である。
第1磁化固定領域11b〜第3磁化固定領域11dは、それらに隣接して、第1のハード層40がそれぞれ形成されていることが好ましい。第1のハード層40は第1磁化固定領域11b〜第3磁化固定領域11dの保磁力を、第0磁化固定領域11a、及び第1磁壁移動領域13a〜第3磁壁移動領域13cの保持力と比較して実効的に大きくし、初期化を容易にすることができる。第1のハード層40を設けた場合、第1磁化固定領域11bと第1のハード層40、第2磁化固定領域11cと第1のハード層40、及び第3磁化固定領域11dと第1のハード層40それぞれについて、第1のハード層40をも含めた磁化の固定部分が、上記の意味で実質的に同一であることが好ましい。
第1磁壁移動領域13a〜第3磁壁移動領域13cは、反転可能な磁化を有し、磁壁が移動可能であり、垂直磁気異方性を有する強磁性領域である。従って、第1磁壁移動領域13a〜第3磁壁移動領域13cが取りうる磁化方向の組み合わせは23=8通りである。本発明の実施形態においては、このうち、記憶するデータに応じて(−z、+z、−z)、(+z、−z、−z)、(−z、−z、+z)の3つの磁化方向の組み合わせを用いる。
上記の磁気トンネル接合部20は、第0磁化固定領域11aの近傍に設けられている。そして、磁気トンネル接合部20のリファレンス層21の磁化の向きは、第1磁壁移動領域13a〜第3磁壁移動領域13cの各々が第0磁化固定領域11aから延伸する延伸方向とは異なる方向を向いている。この図の例では、リファレンス層21の磁化の向きは、−x方向を向いている。この向きは、第1磁壁移動領域13a〜第3磁壁移動領域13cの各々の延伸方向からずれている。センサ層23の磁化の向きについては後述される。
磁気トンネル接合部20のxy断面形状は、センサ層23の磁化の向きが第1磁壁移動領域13a、第2磁壁移動領域13b、及び第3磁壁移動領域13cによる磁化状態を適切に反映可能であれば、特に制限されるものではなく、例えば、正三角形であってもよいし、矩形であってもよい。
その他の磁気メモリ素子1の構成は、第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
2.データのメモリ状態
図32A〜図32Cは、本発明の第3の実施形態に係る磁気メモリ素子の構成の一例を示す平面図である。本実施形態では、磁化記録層10は、各磁壁移動領域での磁化の向きの相互関係により、データを保持している。本実施形態における磁気メモリ素子1は、3つの状態を取ることができ、3種類のデータを記憶することができる。ただし、ここでは第0磁化固定領域11aの形状を正三角形とする。図32Aは例えば第1データを記憶した場合(β1−state)を示し、図32Bは例えば第2データを記憶した場合(β2−state)を示し、図32Cは例えば第3データを記憶した場合(β3−state)を示している。3種類のデータは、任意のデータを対応させることができる。
図32Aに示すように、磁化記録層10が第1データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13aの磁化は−z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化は+z方向に向き、第3磁壁移動領域13cの磁化は−z方向に向いている(−z、+z、−z)。それにより、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの間、及び、第3磁壁移動領域13cと第3磁化固定域11dとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12cが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、第1磁壁移動領域13a及び第3次壁移動領域13cから第2磁壁移動領域13bに向かう磁場Hが発生する。この磁場Hの向きは、第0磁化固定領域11aが正三角形であるので、+x方向から−y方向へ約30度ずれた第1方向となる。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第1方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約120度となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約120度の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第1データ(β1−state)を読み出すことができる。
一方、図32Bに示すように、磁化記録層10が第2データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13aの磁化は+z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化は−z方向に向き、第3磁壁移動領域13cの磁化は−z方向に向いている(+z、−z、−z)。それにより、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの間、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの間、及び、第3磁壁移動領域13cと第3磁化固定域11dとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12cが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、第2磁壁移動領域13b及び第3次壁移動領域13cから第1磁壁移動領域13aに向かう磁場Hが発生する。この磁場Hの向きは、−x方向から−y方向へ約30度ずれた第2方向となる。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第2方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約30度となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約30度の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第2データ(β2−state)を読み出すことができる。
更に、図32Cに示すように、磁化記録層10が第3データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13aの磁化は−z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化は−z方向に向き、第3磁壁移動領域13cの磁化は+z方向に向いている(−z、−z、+z)。それにより、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの間、及び、第0磁化固定域11aと第3磁壁移動領域13cとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12cが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、第1磁壁移動領域13a及び第2次壁移動領域13bから第3磁壁移動領域13cに向かう磁場Hが発生する。この磁場Hの向きは、概ね+y方向である第3方向である。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第2方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が直角に近い角度となる。この図の場合、相対角度は約90度となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度は約90度の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第3データ(β3−state)を読み出すことができる。
なお、センサ層23の磁化とリファレンス層21の磁化との間の相対角度と磁気トンネル接合部20の抵抗値との関係は、β1−state〜β3−stateでの相対角度がそれぞれ120度、30度、90度である他は図26に示したとおりであるので、その説明を省略する。
本実施形態の磁気メモリ素子1は、3値化され、3種類のデータを記憶することができる。なお、リファレンス層21の向きは、図32A〜図32Cの場合に限定されるものではなく、センサ層23の磁化とリファレンス層30の磁化との相対角度が3種類になれば、他の向きであってもよい。
3.磁化固定領域の初期化方法
本発明の第3の実施形態に係る磁気メモリ素子の初期化方法については、例えば、第1の実施形態(図6A〜図6C)と同様に行うことができる。したがって、その説明を省略する。
4.書込み動作
次に、磁気メモリ素子に対するデータの書込み原理を説明する。書込みは、+z側に磁化を向かせたい磁壁移動領域の側の磁化固定領域から電子を供給し、それ以外の磁化固定領域、例えば−z側に磁化を向かせたい磁壁移動領域の側から電子を引き出す、となるような経路で電流を流す。必要に応じて、複数の経路を用いてもよい。以下詳細に説明する。
図33A〜図33Cは、本発明の第3の実施形態に係る磁気メモリ素子に対するデータの書込み原理を示す平面図である。データ書込みは、スピン注入を利用した磁壁移動方式で行われる。書込み電流Iwは、MTJ(磁気トンネル接合部20)を貫通する方向ではなく、磁化記録層10内を平面的に、磁壁12a、12b、12cを貫通する方向に流れる。その書込み電流Iwは、第1磁化固定領域11bに接続された電流供給端子(図示されず)、第2磁化固定領域11cに接続された電流供給端子(図示されず)、及び、第3磁化固定領域11dに接続された電流供給端子(図示されず)のいずれかから磁化記録層10に供給される。
図33Aの左側の図に示すように、第1データ(β1−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第1磁化固定領域11bから、第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a及び第2磁壁移動領域13bをこの順に通り、第2磁化固定領域11cへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1と逆になる。その結果、第2磁壁移動領域13bには、第2磁化固定領域11cからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第2磁化固定領域11cと第2磁壁移動領域13bとの境界にある磁壁12bを第0磁化固定領域11aとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは+z方向へ反転する。そして、磁壁12bは、第2磁壁移動領域13bと第0磁化固定領域11aとの境界に移動する。更に、第1磁壁移動領域13aには、第0磁化固定領域11aからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第0磁化固定領域11aと第1磁壁移動領域13aとの境界にある磁壁12aを第1磁化固定領域11bとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは−z方向へ反転する。そして、磁壁12aは、第1磁壁移動領域13aと第1磁化固定領域11bとの境界に移動する。
加えて、第2の書込み電流Iw2(実線矢印)が、第3磁化固定領域11dから、第3磁壁移動領域13c、第0磁化固定領域11a及び第2磁壁移動領域13bをこの順に通り、第2磁化固定領域11cへ流される。その結果、第3磁壁移動領域13cには、第0磁化固定領域11aからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第0磁化固定領域11aと第3磁壁移動領域13cとの境界にある磁壁12cを第3磁化固定領域11dとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは−z方向へ反転する。そして、磁壁12cは、第3磁壁移動領域13cと第3磁化固定領域11dとの境界に移動する。これにより、図33Aの右側の図に示すように、第1データ(β1−state)が書き込まれる。
図33Bの左側の図に示すように、第2データ(β2−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第2磁化固定領域11cから、第2磁壁移動領域13b、第0磁化固定領域11a及び第1磁壁移動領域13aをこの順に通り、第1磁化固定領域11bへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1と逆になる。その結果、第1磁壁移動領域13aには、第1磁化固定領域11bからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの境界にある磁壁12aを第0磁化固定領域11aとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは+z方向へ反転する。そして、磁壁12aは、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの境界に移動する。更に、第2磁壁移動領域13bには、第0磁化固定領域11aからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの境界にある磁壁12bを第2磁化固定領域11cとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは−z方向へ反転する。そして、磁壁12bは、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの境界に移動する。
更に、第2の書込み電流Iw2(実線矢印)が、第3磁化固定領域11dから、第3磁壁移動領域13c、第0磁化固定領域11a及び第1磁壁移動領域13aをこの順に通り、第1磁化固定領域11bへ流される。その結果、第3磁壁移動領域13cには、第0磁化固定領域11aからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第0磁化固定領域11aと第3磁壁移動領域13cとの境界にある磁壁12cを第3磁化固定領域11dとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは−z方向へ反転する。そして、磁壁12cは、第3磁壁移動領域13cと第3磁化固定領域11dとの境界に移動する。これにより、図33Bの右側の図に示すように、第2データ(β2−state)が書き込まれる。
図33Cの左側の図に示すように、第3データ(β3−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第2磁化固定領域11cから、第2磁壁移動領域13b、第0磁化固定領域11a及び第3磁壁移動領域13cをこの順に通り、第3磁化固定領域11dへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1と逆になる。その結果、第3磁壁移動領域13cには、第3磁化固定領域11dからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第3磁化固定領域11dと第3磁壁移動領域13cとの境界にある磁壁12cを第0磁化固定領域11aとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは+z方向へ反転する。そして、磁壁12cは、第3磁壁移動領域13cと第0磁化固定領域11aとの境界に移動する。更に、第2磁壁移動領域13bには、第0磁化固定領域11aからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの境界にある磁壁12bを第2磁化固定領域11cとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは−z方向へ反転する。そして、磁壁12bは、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの境界に移動する。
更に、第2の書込み電流Iw2(実線矢印)が、第1磁化固定領域11bから、第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a及び第3磁壁移動領域13cをこの順に通り、第3磁化固定領域11dへ流される。その結果、第1磁壁移動領域13aには、第0磁化固定領域11aからスピン電子e−が注入される。注入された電子e−のスピンは、第0磁化固定領域11aと第1磁壁移動領域13aとの境界にある磁壁12aを第1磁化固定領域11bとの境界に駆動する。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは−z方向へ反転する。そして、磁壁12aは、第1磁壁移動領域13aと第1磁化固定領域11bとの境界に移動する。これにより、図33Cの右側の図に示すように、第3データ(β3−state)が書き込まれる。
このように、磁化記録層10内を平面的に流れる書込み電流Iw1、Iw2によって、第1磁壁移動領域13a〜第3磁壁移動領域13cの磁化の方向がそれぞれ反転する。そして、その磁化方向の組み合わせとして第1データから第3データを書き分け、記憶している。このとき、各磁壁移動領域の両側にある磁化固定領域は、互いに反平行な磁化の向きを有し、その磁壁移動領域に対して異なるスピン電子の供給源の役割を果たしている。なお、各磁壁12は、初めから書き込み終了後の位置にある場合、スピン電子e−の注入に関わらずその状態が維持される。したがって、オーバーライトも可能である。また、図33A〜図33Cのいずれの場合でも、第1の書込み電流Iw1及び第2の書込み電流Iw2は、同時に流してもよいし、タイミングをずらして流してもよいし、順序が逆でもよい。また、書込み電流Iw1、Iw2は磁壁12a、12bを貫通すれば、後はどこを通ってもよい。
5.読出し動作
本発明の第3の実施形態に係る磁気メモリ素子に対するデータの読出し原理については、図26に示される範囲内の相対角度のうち30度、90度、及び120度を用いる他は、第1の実施形態と同様である。したがって、その説明を省略する。
この場合にも、書き込みに必要な比較的大きな電流がMTJを流れることはなく、データを読み出す際に比較的小さな電流をMTJに流すだけでよいので、MTJの劣化を抑制することが可能である。
6.磁気メモリセル及びMRAMの構成と動作
本発明の第3の実施形態に係る磁気メモリセル及びMRAMの構成と動作については、第2の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
7.センサ層の位置、8.磁壁の停止方法、9.磁化の固定方法、10.センサ層の異方性
本発明の第3の実施形態に係る磁気メモリ素子におけるセンサ層の位置、磁壁の停止方法、磁化の固定方法、及びセンサ層の異方性については、第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
以上説明したように、本実施形態においても、第2の実施形態における効果と同様の効果を得ることが出来る。すなわち、磁化記録層の磁気異方性が垂直方向である電流駆動磁壁移動型のMRAMにおいて、磁化固定領域を容易に形成でき、読出しの信頼性が高く、磁壁のピンニングサイトを容易にとなる。そして、それに加えて、磁化記録層に3種類のデータを記憶する多値化が実現でき、半導体チップにおける単位面積当たりの情報量(データ量)を増加させることが可能となる。
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、上記N=3の場合の磁気メモリセル及びMRAMについて説明する。
1.磁気メモリ素子の基本構成
図34Aは、本発明の第4の実施形態に係る磁気メモリ素子のうち磁化記録層の構成の一例を示す平面図である。図34Bは、本発明の第4の実施形態に係る磁気メモリ素子の構成の一例を示す断面図である。ただし、図34Bは図34AのBB’断面である。
本実施形態における磁気メモリ素子1は、磁化記録層10及び磁気トンネル接合部20を具備している。ただし、第3の実施形態と同様に、第0磁化固定領域11aから延伸する磁壁移動領域及びその先の磁化固定領域の数が3つ(N=3)である、という点で第1の実施形態と異なる。
本実施の形態では、磁化固定領域の数が3つ(N=3)のT字型の磁気メモリ素子1を用いた場合について説明する。ただし、磁化固定領域の数が3つ(N=3)であって、リファレンス層21の磁化方向が後述の条件を満たすものであれば、例えば第3の実施の形態に記載のY型三叉路構造のような他の三叉路構造を用いても実施することが可能である。
本実施形態では、更に多値化の機能を高めるために、磁気トンネル接合部20のリファレンス層21の磁化方向が+y方向から少しずれた方向となっている。図35は、本発明の第4の実施形態に係るリファレンス層の磁化の向きと磁壁移動領域による合成磁界の向きとの関係を示す概念図である。後述されるように、磁気記録層10はγ1−state〜γ6−stateの6種類の状態を取り得る。そのときの、第1磁壁移動領域13a〜第3磁壁移動領域13cによる合成磁界の向きは、図示される6種類の向き(図中、γ1〜γ6の実線矢印で表示)となる。したがって、磁気トンネル接合部20のセンサ層23の磁化の向きは、この6種類の向きとなる。ここで、リファレンス層21の磁化の向き21m(図中、破線矢印で表示)を、+y方向から少し(約θ1)ずれた向きに設定しておく。そうすると、リファレンス層21の磁化の向21mとセンサ層23の磁化の向き(γ1〜γ6)とは、その相対角度がθ1〜θ6(θ1<θ2<θ3<θ4<θ5<θ6)の6種類とすることができる。したがって、この6種類の相対角度に6種類のデータを対応付ければ、上記の図26で示すように、本実施形態における磁気メモリ素子を6値に多値化することができる。
その他の磁気メモリ素子1の構成については、第3の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
2.データのメモリ状態
図36A〜図36Fは、本発明の第4の実施形態に係る磁気メモリ素子の構成の一例を示す平面図である。本実施形態では、磁化記録層10は、各磁壁移動領域での磁化の向きの相互関係により、データを保持している。本実施形態における磁気メモリ素子1は、6つの状態を取ることができ、6種類のデータを記憶することができる。ただし、ここでは第0磁化固定領域11aの形状を正方形とする。図36A〜図36Fは、例えば第1データを記憶した場合(γ1−state)〜第6データを記憶した状態(γ6−state)をそれぞれ示している。6種類のデータは、任意のデータを対応させることができる。
図36Aに示すように、磁化記録層10が第1データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13aの磁化は−z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化は−z方向に向き、第3磁壁移動領域13cの磁化は+z方向に向いている(−z、−z、+z)。それにより、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの間、及び、第0磁化固定域11aと第3磁壁移動領域13cとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12cが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、+y方向としての第1方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第1方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約θ1(図35)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約θ1の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第1データ(γ1−state)を読み出すことができる。
図36Bに示すように、磁化記録層10が第2データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13aの磁化は−z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化は+z方向に向き、第3磁壁移動領域13cの磁化は+z方向に向いている(−z、+z、+z)。それにより、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの間、及び、第0磁化固定域11aと第3磁壁移動領域13cとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12cが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、+x方向から+y方向に約30度だけずれた第2方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第2方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約θ2(図35)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約θ2の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第2データ(γ2−state)を読み出すことができる。
図36Cに示すように、磁化記録層10が第3データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13aの磁化は+z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化は−z方向に向き、第3磁壁移動領域13cの磁化は+z方向に向いている(+z、−z、+z)。それにより、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの間、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの間、及び、第0磁化固定域11aと第3磁壁移動領域13cとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12cが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、−x方向から+y方向に約30度だけずれた第3方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第3方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約θ3(図35)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約θ3の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第3データ(γ3−state)を読み出すことができる。
図36Dに示すように、磁化記録層10が第4データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13aの磁化は−z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化は+z方向に向き、第3磁壁移動領域13cの磁化は−z方向に向いている(−z、+z、−z)。それにより、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの間、及び、第3磁壁移動領域13cと第3磁化固定域11dとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12cが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、+x方向から−y方向に約30度だけずれた第4方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第4方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約θ4(図35)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約θ4の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第4データ(γ4−state)を読み出すことができる。
図36Eに示すように、磁化記録層10が第5データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13aの磁化は+z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化は−z方向に向き、第3磁壁移動領域13cの磁化は−z方向に向いている(+z、−z、−z)。それにより、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの間、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの間、及び、第3磁壁移動領域13cと第3磁化固定域11dとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12cが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、−x方向から−y方向に約30度だけずれた第5方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第5方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約θ5(図35)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約θ5の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第5データ(γ5−state)を読み出すことができる。
図36Fに示すように、磁化記録層10が第6データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13aの磁化は+z方向に向き、第2磁壁移動領域13bの磁化は+z方向に向き、第3磁壁移動領域13cの磁化は−z方向に向いている(+z、+z、−z)。それにより、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの間、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの間、及び、第3磁壁移動領域13cと第3磁化固定域11dとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12cが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、−y方向としての第6方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第6方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約θ6(図35)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約θ6の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第6データ(γ6−state)を読み出すことができる。
なお、センサ層23の磁化とリファレンス層21の磁化との間の相対角度と磁気トンネル接合部20の抵抗値との関係は、γ1−state〜γ6−stateでの相対角度がそれぞれθ1〜θ6である他は図26に示したとおりであるので、その説明を省略する。
本実施形態の磁気メモリ素子1は、6値化され、6種類のデータを記憶することができる。なお、リファレンス層21の向きは、図36A〜図36Fの場合に限定されるものではなく、センサ層23の磁化とリファレンス層30の磁化との相対角度が6種類になれば、他の向きであってもよい。
3.磁化固定領域の初期化方法
本発明の第4の実施形態に係る磁気メモリ素子の初期化方法については、例えば、第1の実施形態(図6A〜図6C)と同様に行うことができる。したがって、その説明を省略する。
4.書込み動作
次に、磁気メモリ素子に対するデータの書込み原理を説明する。本実施形態におけるデータの書込み原理、基本的には、第3の実施形態と同様である。すなわち、+z側に磁化を向かせたい磁壁移動領域の側から電子を供給し、−z側に磁化を向かせたい磁壁移動領域の側から電子を引き出す、となるような経路で電流を流す。必要に応じて、複数の経路を用いる。ただし、γ1−state〜γ6−stateにおける第1、第2、第3磁壁移動領域13a、13b、13の磁化の向きの組み合わせに対応して、書込み電流の供給先及び引き出し先の組み合わせが異なっている。以下、詳細に説明する。
図37A〜図37Fは、本発明の第4の実施形態に係る磁気メモリ素子に対するデータの書込み原理を示す平面図である。データ書込みは、スピン注入を利用した磁壁移動方式で行われる。書込み電流Iwは、MTJ(磁気トンネル接合部20)を貫通する方向ではなく、磁化記録層10内を平面的に、磁壁12a、12b、12cを貫通する方向に流れる。その書込み電流Iwは、第1磁化固定領域11bに接続された電流供給端子(図示されず)、第2磁化固定領域11cに接続された電流供給端子(図示されず)、及び、第3磁化固定領域11dに接続された電流供給端子(図示されず)のいずれかから磁化記録層10に供給される。
図37Aの左側の図に示すように、第1データ(γ1−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第1磁化固定領域11bから、第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a及び第3磁壁移動領域13cをこの順に通り、第3磁化固定領域11dへ流される。加えて、第2の書込み電流Iw2(実線矢印)が、第2磁化固定領域11cから、第2磁壁移動領域13b、第0磁化固定領域11a及び第3磁壁移動領域13cをこの順に通り、第3磁化固定領域11dへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1、Iw2と逆になる。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは−z方向へ、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは−z方向へ、及び第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは+z方向へそれぞれ反転する。そして、磁壁12aは第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの境界に、磁壁12bは第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの境界に、磁壁12cは第3磁壁移動領域13cと第0磁化固定領域11aとの境界にそれぞれ移動する。これにより、図37Aの右側の図に示すように、第1データ(γ1−state)が書き込まれる。
図37Bの左側の図に示すように、第2データ(γ2−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第1磁化固定領域11bから、第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a及び第2磁壁移動領域13bをこの順に通り、第2磁化固定領域11cへ流される。加えて、第2の書込み電流Iw2(実線矢印)が、第1磁化固定領域11bから、第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a及び第3磁壁移動領域13cをこの順に通り、第3磁化固定領域11dへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1、Iw2と逆になる。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは−z方向へ、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは+z方向へ、及び第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは+z方向へそれぞれ反転する。そして、磁壁12aは第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの境界に、磁壁12bは第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの境界に、磁壁12cは第3磁壁移動領域13cと第0磁化固定領域11aとの境界にそれぞれ移動する。これにより、図37Bの右側の図に示すように、第2データ(γ2−state)が書き込まれる。
図37Cの左側の図に示すように、第3データ(γ3−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第2磁化固定領域11cから、第2磁壁移動領域13b、第0磁化固定領域11a及び第1磁壁移動領域13aをこの順に通り、第1磁化固定領域11bへ流される。加えて、第2の書込み電流Iw2(実線矢印)が、第2磁化固定領域11cから、第2磁壁移動領域13b、第0磁化固定領域11a及び第3磁壁移動領域13cをこの順に通り、第3磁化固定領域11dへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1、Iw2と逆になる。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは+z方向へ、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは−z方向へ、及び第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは+z方向へそれぞれ反転する。そして、磁壁12aは第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12bは第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの境界に、磁壁12cは第3磁壁移動領域13cと第0磁化固定領域11aとの境界にそれぞれ移動する。これにより、図37Cの右側の図に示すように、第3データ(γ3−state)が書き込まれる。
図37Dの左側の図に示すように、第4データ(γ4−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第1磁化固定領域11bから、第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a及び第2磁壁移動領域13bをこの順に通り、第2磁化固定領域11cへ流される。加えて、第2の書込み電流Iw2(実線矢印)が、第3磁化固定領域11dから、第3磁壁移動領域13c、第0磁化固定領域11a及び第2磁壁移動領域13bをこの順に通り、第2磁化固定領域11cへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1、Iw2と逆になる。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは−z方向へ、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは+z方向へ、及び第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは−z方向へそれぞれ反転する。そして、磁壁12aは第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの境界に、磁壁12bは第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの境界に、磁壁12cは第3磁化固定領域11dと第3磁壁移動領域13cとの境界にそれぞれ移動する。これにより、図37Dの右側の図に示すように、第4データ(γ4−state)が書き込まれる。
図37Eの左側の図に示すように、第5データ(γ5−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第2磁化固定領域11cから、第2磁壁移動領域13b、第0磁化固定領域11a及び第1磁壁移動領域13aをこの順に通り、第1磁化固定領域11bへ流される。加えて、第2の書込み電流Iw2(実線矢印)が、第3磁化固定領域11dから、第3磁壁移動領域13c、第0磁化固定領域11a及び第1磁壁移動領域13aをこの順に通り、第1磁化固定領域11bへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1、Iw2と逆になる。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは+z方向へ、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは−z方向へ、及び第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは−z方向へそれぞれ反転する。そして、磁壁12aは第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12bは第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの境界に、磁壁12cは第3磁化固定領域11dと第3磁壁移動領域13cとの境界にそれぞれ移動する。これにより、図37Eの右側の図に示すように、第5データ(γ5−state)が書き込まれる。
図37Fの左側の図に示すように、第6データ(γ6−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第3磁化固定領域11dから、第3磁壁移動領域13c、第0磁化固定領域11a及び第1磁壁移動領域13aをこの順に通り、第1磁化固定領域11bへ流される。加えて、第2の書込み電流Iw2(実線矢印)が、第3磁化固定領域11dから、第3磁壁移動領域13c、第0磁化固定領域11a及び第2磁壁移動領域13bをこの順に通り、第2磁化固定領域11cへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1、Iw2と逆になる。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは+z方向へ、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは+z方向へ、及び第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは−z方向へそれぞれ反転する。そして、磁壁12aは第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12bは第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの境界に、磁壁12cは第3磁化固定領域11dと第3磁壁移動領域13cとの境界にそれぞれ移動する。これにより、図37Fの右側の図に示すように、第6データ(γ6−state)が書き込まれる。
このように、磁化記録層10内を平面的に流れる書込み電流Iw1、Iw2によって、第1磁壁移動領域13a〜第3磁壁移動領域13cの磁化の方向がそれぞれ反転する。そして、その磁化方向の組み合わせとして第1データ〜第6データを書き分け、記憶している。このとき、各磁壁移動領域の両側にある磁化固定領域は、互いに反平行な磁化の向きを有し、その磁壁移動領域に対して異なるスピン電子の供給源の役割を果たしている。なお、各磁壁12は、初めから書き込み終了後の位置にある場合、スピン電子e−の注入に関わらずその状態が維持される。したがって、オーバーライトも可能である。また、図37A〜図37Fのいずれの場合でも、第1の書込み電流Iw1及び第2の書込み電流Iw2は、同時に流してもよいし、タイミングをずらして流してもよいし、順序が逆でもよい。また、書込み電流Iw1、Iw2は磁壁12a、12bを貫通すれば、後はどこを通ってもよい。
5.読出し動作
本発明の第4の実施形態に係る磁気メモリ素子に対するデータの読出し原理については、図26に示される範囲内の相対角度のうちθ1〜θ6を用いる他は、第1の実施形態と同様である。したがって、その説明を省略する。
6.磁気メモリセル及びMRAMの構成と動作
本発明の第4の実施形態に係る磁気メモリセル及びMRAMの構成と動作については、第3の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
7.センサ層の位置、8.磁壁の停止方法、9.磁化の固定方法、10.センサ層の異方性
本発明の第4の実施形態に係る磁気メモリ素子におけるセンサ層の位置、磁壁の停止方法、磁化の固定方法、及びセンサ層の異方性については、第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
以上説明したように、本実施の形態においても、第3の実施形態における効果と同様の効果を得ることが出来る。すなわち、磁化記録層の磁気異方性が垂直方向である電流駆動磁壁移動型のMRAMにおいて、磁化固定領域を容易に形成でき、読出しの信頼性が高く、磁壁のピンニングサイトを容易にとなる。そして、それに加えて、磁化記録層に6種類のデータを記憶する多値化が実現でき、半導体チップにおける単位面積当たりの情報量(データ量)を増加させることが可能となる。
(第5の実施形態)
第5の実施形態では、上記N=4の場合の磁気メモリセル及びMRAMについて説明する。
1.磁気メモリ素子の基本構成
図38Aは、本発明の第5の実施形態に係る磁気メモリ素子のうち磁化記録層の構成の一例を示す平面図である。図38Bは、本発明の第5の実施形態に係る磁気メモリ素子の構成の一例を示す断面図である。ただし、図38Bは図38AのCC’断面である。
本実施形態における磁気メモリ素子1は、磁化記録層10及び磁気トンネル接合部20を具備している。ただし、第0磁化固定領域11aから延伸する磁壁移動領域及びその先の磁化固定領域の数が4つ(N=4)である点で第1の実施形態と異なる。
磁気トンネル接合部20は、第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
磁化記録層10は、第0磁化固定領域11a、第1磁化固定領域11b、第2磁化固定領域11c、第3磁化固定領域11d、及び第4磁化固定領域11eと、第1磁壁移動領域13a、第2磁壁移動領域13b、第3磁壁移動領域13c、及び第4磁壁移動領域13dとを備える。第0磁化固定領域11aの側面には、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dがそれぞれ接続されている。更に、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの外側には、第1磁化固定領域11b〜第4磁化固定領域11eがそれぞれ接続される。第0磁化固定領域11aのxy断面の形状が略正方形の場合、磁気記録層10は第0磁化固定領域11aに対して回転対称性を有している。
第0磁化固定領域11a〜第4磁化固定領域11eは、磁化の向きが固定され、垂直磁気異方性を有する強磁性領域である。第1磁化固定領域11b〜第4磁化固定領域11eの磁化の向きは実質的に同一であり、第0磁化固定領域11aの磁化の向きは、それと反対である。すなわち、第1磁化固定領域11b〜第4磁化固定領域11eの磁化は、互いに平行な方向に固定される。第1磁化固定領域11b〜第4磁化固定領域11eと第0磁化固定領域11aとの磁化は、互いに反平行な方向に固定される。なお、ここで第1磁化固定領域11b〜第4磁化固定領域11eの磁化の向き、及び第0磁化固定領域11aの磁化の向きは、磁壁12a、12b、12c、12dを生じさせる機能を果たすことができる向きであればよく、厳密な意味でそれぞれ同一及び反対を意味するものではない。また、この図の例では、第1磁化固定領域11b〜第4磁化固定領域11eの磁化の向きは+z方向であり、第0磁化固定領域11aの磁化の向きは−z方向である。これら磁化の向きは逆であってもよい。
第1磁化固定領域11b〜第4磁化固定領域11eとは、実質的に同一に形成されていることが好ましい。その理由は、製造プロセスの観点から同一に形成するのが最も容易であるため、及び、後述される書込み動作やデータを保持する場合、その安定性や信頼性の面で対称性の高いことが好ましいからである。ここで、実質的に同一とは、膜厚を含む形状や材料が、製造プロセス上の誤差の範囲で同一ということである。この場合、磁化の固定方法(後述)も同一である。
第1磁化固定領域11b〜第4磁化固定領域11eは、それらに隣接して、第1のハード層40がそれぞれ形成されている。第1のハード層40は第1磁化固定領域11b〜第4磁化固定領域11eの保磁力を、第0磁化固定領域11a、及び第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの保持力と比較して実効的に大きくし、初期化を容易にすることができる。第1のハード層40を設けた場合、第1磁化固定領域11bと第1のハード層40、第2磁化固定領域11cと第1のハード層40、第3磁化固定領域11dと第1のハード層40、及び第4磁化固定領域11eと第1のハード層40のそれぞれについて、第1のハード層40をも含めた磁化の固定部分が、上記の意味で実質的に同一であることが好ましい。
第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dは、反転可能な磁化を有し、磁壁が移動可能であり、垂直磁気異方性を有する強磁性領域である。従って、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dが取りうる磁化方向の組み合わせは24=16通りである。本発明の実施形態においては、このうち、記憶するデータに応じて(+z、−z、*、*)、(+z、−z、+z、−z)、(+z、−z、−z、+z)、(*、*、+z、−z)、(*、*、−z、+z)、(−z、+z、+z、−z)、(−z、+z、−z、+z)、(−z、+z、*、*)の8つの磁化方向の組み合わせを用いる。ただし、“*(方向)”は+z(方向)及び−z(方向)のいずれでもよいが同じ方向を示す。以下、本明細書に置いて同じである。
上記の磁気トンネル接合部20は、第0磁化固定領域11aの近傍に設けられている。ただし、本実施形態では、多値化の機能を高めるために、磁気トンネル接合部20のリファレンス層21の磁化方向が−x方向から少しずれた方向となっている。図39は、本発明の第5の実施形態に係るリファレンス層の磁化の向きと磁壁移動領域による合成磁界の向きとの関係を示す概念図である。後述されるように、磁気記録層10はδ1−state〜δ8−stateの8種類の状態を取り得る。そのとき、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dによる合成磁界の向きは、図示される8種類の向き(図中、δ1〜δ8の実線矢印で表示)となる。したがって、磁気トンネル接合部20のセンサ層23の磁化の向きは、この8種類の向きとなる。ここで、リファレンス層21の磁化の向き21m(図中、破線矢印で表示)を、−x方向から少し(約φ1)ずれた向きに設定しておく。そうすると、リファレンス層21の磁化の向21mとセンサ層23の磁化の向き(δ1〜δ8)とは、その相対角度がφ1〜φ8(φ1<φ2<φ3<φ4<φ5<φ6<φ7<φ8)の8種類とすることができる。したがって、この8種類の相対角度に8種類のデータを対応付ければ、上記の図26で示すように、本実施形態における磁気メモリ素子を8値に多値化することができる。
その他の磁気メモリ素子1の構成については、第4の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
2.データのメモリ状態
図40A〜図40Hは、本発明の第5の実施形態に係る磁気メモリ素子の構成の一例を示す平面図である。本実施形態では、磁化記録層10は、各磁壁移動領域での磁化の向きの相互関係により、データを保持している。本実施形態における磁気メモリ素子1は、8つの状態を取ることができ、8種類のデータを記憶することができる。ただし、ここでは第0磁化固定領域11aの形状を正方形とする。図40A〜図40Hは、例えば第1データを記憶した場合(δ1−state)〜第8データを記憶した状態(δ8−state)をそれぞれ示している。8種類のデータは、任意のデータを対応させることができる。
図40Aに示すように、磁化記録層10が第1データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの磁化は、それぞれ+z方向、−z方向、*方向、*方向に向いている(+z、−z、*、*)。それにより、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの間、及び、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの間に、それぞれ磁壁12a、12bが形成される。ここで、例えば、*方向を−z方向とすれば、第3磁化固定域11dと第3磁壁移動領域13cとの間、及び、第4磁化固定域11eと第4磁壁移動領域13dとの間に、それぞれ磁壁12c、12d(図示されず)が形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、−x方向としての第1方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第1方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約φ1(図39)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約φ1の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第1データ(δ1−state)を読み出すことができる。
図40Bに示すように、磁化記録層10が第2データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの磁化は、それぞれ+z方向、−z方向、+z方向、−z方向に向いている(+z、−z、+z、−z)。それにより、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの間、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの間、第0磁化固定域11aと第3磁壁移動領域13cとの間、及び、第4磁壁移動領域13dと第4磁化固定域11eとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12c、12dが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、−x方向から+y方向に約45度ずれた第2方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第2方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約φ2(図39)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約φ2の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第2データ(δ2−state)を読み出すことができる。
図40Cに示すように、磁化記録層10が第3データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの磁化は、それぞれ+z方向、−z方向、−z方向、+z方向に向いている(+z、−z、−z、+z)。それにより、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの間、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの間、第3磁化固定域11dと第3磁壁移動領域13cとの間、及び、第4磁壁移動領域13dと第0磁化固定域11aとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12c、12dが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、−x方向から−y方向に約45度ずれた第3方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第3方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約φ3(図39)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約φ3の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第3データ(δ3−state)を読み出すことができる。
図40Dに示すように、磁化記録層10が第4データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの磁化は、それぞれ*方向、*方向、+z方向、−z方向に向いている(*、*、+z、−z)。それにより、第3磁壁移動領域13cと第0磁化固定領域11aとの間、第4磁壁移動領域13dと第4磁化固定領域11eとの間に、それぞれ磁壁12c、12dが形成される。ここで、例えば、*方向を−z方向とすれば、第1磁化固定域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、及び、第2磁化固定域11cと第2磁壁移動領域13bとの間に、それぞれ磁壁12a、12b(図示されず)が形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、+y方向としての第4方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第4方向に向く。すなわち、磁化記録層10に記憶されたデータが、センサ層23に反映される。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約φ4(図39)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約φ4の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第4データ(δ4−state)を読み出すことができる。
図40Eに示すように、磁化記録層10が第5データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの磁化は、それぞれ*方向、*方向、−z方向、+z方向に向いている(*、*、−z、+z)。それにより、第3磁化固定領域11dと第3磁壁移動領域13cとの間、第0磁化固定領域11aと第4磁壁移動領域13dとの間に、それぞれ磁壁12c、12dが形成される。ここで、例えば、*方向を−z方向とすれば、第1磁化固定域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、及び、第2磁化固定域11cと第2磁壁移動領域13bとの間に、それぞれ磁壁12a、12b(図示されず)が形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、−y方向としての第5方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第5方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約φ5(図39)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約φ5の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第5データ(δ5−state)を読み出すことができる。
図40Fに示すように、磁化記録層10が第6データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13a〜4磁壁移動領域13dの磁化は、それぞれ−z方向、+z方向、+z方向、−z方向に向いている(−z、+z、+z、−z)。それにより、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの間、第0磁化固定域11aと第3磁壁移動領域13cとの間、及び、第4磁壁移動領域13dと第4磁化固定域11eとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12c、12dが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、+x方向から+y方向に約45度ずれた第6方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第6方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約φ6(図39)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約φ6の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第6データ(δ6−state)を読み出すことができる。
図40Gに示すように、磁化記録層10が第7データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13a〜4磁壁移動領域13dの磁化は、それぞれ−z方向、+z方向、−z方向、+z方向に向いている(−z、+z、−z、+z)。それにより、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの間、第3磁化固定域11dと第3磁壁移動領域13cとの間、及び、第0磁化固定域11aと第4磁壁移動領域13dとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12c、12dが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、+x方向から−y方向に約45度ずれた第7方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第7方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約φ7(図39)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約φ7の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第7データ(δ7−state)を読み出すことができる。
図40Hに示すように、磁化記録層10が第8データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの磁化は、それぞれ−z方向、+z方向、*方向、*方向に向いている(−z、+z、*、*)。それにより、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、及び、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの間に、それぞれ磁壁12a、12bが形成される。ここで、例えば、*方向を−z方向とすれば、第3磁化固定域11dと第3磁壁移動領域13cとの間、及び、第4磁化固定域11eと第4磁壁移動領域13dとの間に、それぞれ磁壁12c、12d(図示されず)が形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、+x方向としての第8方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第8方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約φ8(図39)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約φ8の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第8データ(δ8−state)を読み出すことができる。
なお、センサ層23の磁化とリファレンス層21の磁化との間の相対角度と磁気トンネル接合部20の抵抗値との関係は、δ1−state〜δ8−stateでの相対角度がそれぞれφ1〜φ8である他は図26に示したとおりであるので、その説明を省略する。
本実施形態の磁気メモリ素子1は、8値化され、8種類のデータを記憶することができる。なお、リファレンス層21の向きは、図40A〜図40Hの場合に限定されるものではなく、センサ層23の磁化とリファレンス層30の磁化との相対角度が8種類になれば、他の向きであってもよい。
3.磁化固定領域の初期化方法
本発明の第5の実施形態に係る磁気メモリ素子の初期化方法については、例えば、第1の実施形態(図6A〜図6C)と同様に行うことができる。したがって、その説明を省略する。
4.書込み動作
次に、磁気メモリ素子に対するデータの書込み原理を説明する。本実施形態におけるデータの書込み原理、基本的には、第4の実施形態と同様である。すなわち、+z側に磁化を向かせたい磁壁移動領域の側から電子を供給し、−z側に磁化を向かせたい磁壁移動領域の側から電子を引き出す、となるような経路で電流を流す。必要に応じて、複数の経路を用いる。ただし、δ1−state〜δ8−stateにおける第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの磁化の向きの組み合わせに対応して、書込み電流の供給先及び引き出し先の組み合わせが異なっている。なお、以下の説明では、*方向を−z方向とする。
図41A〜図41Hは、本発明の第5の実施形態に係る磁気メモリ素子に対するデータ書込み原理を示す平面図である。データ書込みは、スピン注入を利用した磁壁移動方式で行われる。書込み電流Iwは、MTJ(磁気トンネル接合部20)を貫通する方向ではなく、磁化記録層10内を平面的に、磁壁を貫通する方向に流れる。その書込み電流Iwは、第1磁化固定領域11b〜第4磁化固定領域に接続された電流供給端子(図示されず)のいずれかから磁化記録層10に供給される。
図41Aの左側の図に示すように、第1データ(δ1−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第2磁化固定領域11cから、第2磁壁移動領域13b、第0磁化固定領域11a及び第1磁壁移動領域13aをこの順に通り、第1磁化固定領域11bへ流される。加えて、例えば、第2の書込み電流Iw2(図示されず)が、第3磁化固定領域11d及び第4磁化固定領域11eから、第0磁化固定領域11aを介して、第1磁化固定領域11bへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1、Iw2と逆になる。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは+z方向へ、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは−z方向へそれぞれ反転する。加えて、第3磁壁移動領域13c及び第4磁壁移動領域13dの磁化の向きは−z方向へそれぞれ反転する。そして、磁壁12aは第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12bは第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの境界に、磁壁12cは第3磁壁移動領域13cと第3磁化固定領域11dとの境界に、磁壁12dは第4磁壁移動領域13dと第4磁化固定領域11eとの境界に、それぞれ移動する。これにより、図41Aの右側の図に示すように、第1データ(δ1−state)が書き込まれる。
図41Bの左側の図に示すように、第2データ(δ2−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第2磁化固定領域11cから、第2磁壁移動領域13b、第0磁化固定領域11a及び第1磁壁移動領域13aをこの順に通り、第1磁化固定領域11bへ流される。加えて、第2の書込み電流Iw2(実線矢印)が、第4磁化固定領域11eから、第4磁壁移動領域13d、第0磁化固定領域11a、及び第3磁壁移動領域13cを介して、第3磁化固定領域11dへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1、Iw2と逆になる。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは+z方向へ、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは−z方向へ、第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは+z方向へ、第4磁壁移動領域13dの磁化の向きは−z方向へそれぞれ反転する。そして、磁壁12aは第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12bは第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの境界に、磁壁12cは第3磁壁移動領域13cと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12dは第4磁壁移動領域13dと第4磁化固定領域11eとの境界に、それぞれ移動する。これにより、図41Bの右側の図に示すように、第2データ(δ2−state)が書き込まれる。
図41Cの左側の図に示すように、第3データ(δ3−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第2磁化固定領域11cから、第2磁壁移動領域13b、第0磁化固定領域11a及び第1磁壁移動領域13aをこの順に通り、第1磁化固定領域11bへ流される。加えて、第2の書込み電流Iw2(実線矢印)が、第3磁化固定領域11dから、第3磁壁移動領域13c、第0磁化固定領域11a、及び第4磁壁移動領域13dを介して、第4磁化固定領域11eへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1、Iw2と逆になる。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは+z方向へ、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは−z方向へ、第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは−z方向へ、第4磁壁移動領域13dの磁化の向きは+z方向へそれぞれ反転する。そして、磁壁12aは第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12bは第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの境界に、磁壁12cは第3磁壁移動領域13cと第3磁化固定領域11dとの境界に、磁壁12dは第4磁壁移動領域13dと第0磁化固定領域11aとの境界に、それぞれ移動する。これにより、図41Cの右側の図に示すように、第3データ(δ3−state)が書き込まれる。
図41Dの左側の図に示すように、第4データ(δ4−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第4磁化固定領域11eから、第4磁壁移動領域13d、第0磁化固定領域11a及び第3磁壁移動領域13cをこの順に通り、第3磁化固定領域11dへ流される。加えて、例えば、第2の書込み電流Iw2(図示されず)が、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cから、第0磁化固定領域11aを介して、第3磁化固定領域11dへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1、Iw2と逆になる。その結果、スピントランスファー効果により、第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは+z方向へ、第4磁壁移動領域13dの磁化の向きは−z方向へそれぞれ反転する。加えて、第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは−z方向へそれぞれ反転する。そして、磁壁12aは第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12bは第2磁壁移動領域13bと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12cは第3磁壁移動領域13cと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12dは第4磁壁移動領域13dと第4磁化固定領域11eとの境界に、それぞれ移動する。これにより、図41Dの右側の図に示すように、第4データ(δ4−state)が書き込まれる。
図41Eの左側の図に示すように、第5データ(δ5−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第3磁化固定領域11dから、第3磁壁移動領域13c、第0磁化固定領域11a及び第4磁壁移動領域13dをこの順に通り、第4磁化固定領域11eへ流される。加えて、例えば、第2の書込み電流Iw2(図示されず)が、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cから、第0磁化固定領域11aを介して、第4磁化固定領域11eへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1、Iw2と逆になる。その結果、スピントランスファー効果により、第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは−z方向へ、第4磁壁移動領域13dの磁化の向きは+z方向へそれぞれ反転する。加えて、第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは−z方向へそれぞれ反転する。そして、磁壁12aは第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12bは第2磁壁移動領域13bと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12cは第3磁壁移動領域13cと第3磁化固定領域11cとの境界に、磁壁12dは第4磁壁移動領域13dと第0磁化固定領域11aとの境界に、それぞれ移動する。これにより、図41Eの右側の図に示すように、第5データ(δ5−state)が書き込まれる。
図41Fの左側の図に示すように、第6データ(δ6−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第1磁化固定領域11bから、第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a及び第2磁壁移動領域13bをこの順に通り、第2磁化固定領域11cへ流される。加えて、第2の書込み電流Iw2(実線矢印)が、第4磁化固定領域11eから、第4磁壁移動領域13d、第0磁化固定領域11a、及び第3磁壁移動領域13cを介して、第3磁化固定領域11dへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1、Iw2と逆になる。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは−z方向へ、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは+z方向へ、第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは+z方向へ、第4磁壁移動領域13dの磁化の向きは−z方向へそれぞれ反転する。そして、磁壁12aは第1磁壁移動領域13aと第1磁化固定領域11bとの境界に、磁壁12bは第2磁壁移動領域13bと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12cは第3磁壁移動領域13cと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12dは第4磁壁移動領域13dと第4磁化固定領域11eとの境界に、それぞれ移動する。これにより、図41Fの右側の図に示すように、第6データ(δ6−state)が書き込まれる。
図41Gの左側の図に示すように、第7データ(δ7−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第1磁化固定領域11bから、第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a及び第2磁壁移動領域13bをこの順に通り、第2磁化固定領域11cへ流される。加えて、第2の書込み電流Iw2(実線矢印)が、第3磁化固定領域11dから、第3磁壁移動領域13c、第0磁化固定領域11a、及び第4磁壁移動領域13dを介して、第4磁化固定領域11eへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1、Iw2と逆になる。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは−z方向へ、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは+z方向へ、第3磁壁移動領域13cの磁化の向きは−z方向へ、第4磁壁移動領域13dの磁化の向きは+z方向へそれぞれ反転する。そして、磁壁12aは第1磁壁移動領域13aと第1磁化固定領域11bとの境界に、磁壁12bは第2磁壁移動領域13bと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12cは第3磁壁移動領域13cと第3磁化固定領域11dとの境界に、磁壁12dは第4磁壁移動領域13dと第0磁化固定領域11aとの境界に、それぞれ移動する。これにより、図41Gの右側の図に示すように、第7データ(δ7−state)が書き込まれる。
図41Hの左側の図に示すように、第8データ(δ8−state)の書込み動作時、第1の書込み電流Iw1(実線矢印)が、第1磁化固定領域11bから、第1磁壁移動領域13a、第0磁化固定領域11a及び第2磁壁移動領域13bをこの順に通り、第2磁化固定領域11cへ流される。加えて、例えば、第2の書込み電流Iw2(図示されず)が、第3磁化固定領域11d及び第4磁化固定領域11eから、第0磁化固定領域11aを介して、第2磁化固定領域11cへ流される。この場合、電子e−の動き(破線矢印)は、書込み電流Iw1、Iw2と逆になる。その結果、スピントランスファー効果により、第1磁壁移動領域13aの磁化の向きは−z方向へ、第2磁壁移動領域13bの磁化の向きは+z方向へそれぞれ反転する。加えて、第3磁壁移動領域13c及び第4磁壁移動領域13dの磁化の向きは−z方向へそれぞれ反転する。そして、磁壁12aは第1磁壁移動領域13aと第1磁化固定領域11bとの境界に、磁壁12bは第2磁壁移動領域13bと第0磁化固定領域11aとの境界に、磁壁12cは第3磁壁移動領域13cと第3磁化固定領域11dとの境界に、磁壁12dは第4磁壁移動領域13dと第4磁化固定領域11eとの境界に、それぞれ移動する。これにより、図41Hの右側の図に示すように、第8データ(δ8−state)が書き込まれる。
このように、磁化記録層10内を平面的に流れる書込み電流Iw1、Iw2によって、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの磁化の方向がそれぞれ反転する。そして、その磁化方向の組み合わせとして第1データ〜第8データを書き分け、記憶している。このとき、各磁壁移動領域の両側にある磁化固定領域は、互いに反平行な磁化の向きを有し、その磁壁移動領域に対して異なるスピン電子の供給源の役割を果たしている。なお、各磁壁12は、初めから書き込み終了後の位置にある場合、スピン電子e−の注入に関わらずその状態が維持される。したがって、オーバーライトも可能である。また、図41A〜図41Hのいずれの場合でも、第1の書込み電流Iw1及び第2の書込み電流Iw2は、同時に流してもよいし、タイミングをずらして流してもよいし、順序が逆でもよい。また、書込み電流Iw1、Iw2は磁壁12a、12bを貫通すれば、後はどこを通ってもよい。
5.読出し動作
本発明の第5の実施形態に係る磁気メモリ素子に対するデータの読出し原理については、図26に示される範囲内の相対角度のうちφ1〜φ8を用いる他は、第1の実施形態と同様である。したがって、その説明を省略する。
6.磁気メモリセル及びMRAMの構成と動作
図42は、本発明の第5の実施形態に係る磁気抵抗効果素子が集積化されたメモリセルの構成例を示す回路図である。図42に示すように、磁気抵抗効果素子1において、磁気トンネル接合部20のリファレンス層21に接続される端子は、読み出しのためのグラウンド線GLに接続される。磁化記録層10の第1磁化固定領域11b〜第4磁化固定領域11eに接続される四つの端子は、それぞれMOSトランジスタTRa、TRb、TRc、TRdのソース/ドレインの一方に接続される。また、MOSトランジスタTRa、TRb、TRc、TRdのソース/ドレインの他方は、書き込みのためのビット線BLa、BLb、BLc、BLdにそれぞれ接続される。更に、MOSトランジスタTRa、TRb、TRc、TRdのゲートはワード線WLに接続される。ただし、磁気メモリセルの構成はこの例に限定されるものではない。
図43は、本発明の第2の実施形態に係るメモリセルが集積化されたMRAMの構成例を示すブロック図である。図43において、MRAM90は、複数のメモリセル80が行列状に配置されたメモリアレイ91を具備している。このメモリアレイ91は、図42で説明されたデータの記録に用いられるメモリセル80と共に、データ読み出しの際に参照されるリファレンスセル80rを含んでいる。図43の例では、1列分がリファレンスセル80rである。リファレンスセル80rの構造は、メモリセル80と同じである。この場合、リファレンスセル80rのMTJは、例えば、抵抗値R0.5を有する。
ワード線WL及びグランド線GLは、それぞれx方向に延在している。ワード線Wは、一端をX側制御回路92に接続されている。X側制御回路92は、データの書込み動作時、及び読出し動作時において、対象のメモリセル80につながるワード線WLを選択ワード線WLとして選択する。ビット線BLa、BLb、BLc、BLdは、それぞれ、y方向に延在し、一端をY側制御回路93に接続されている。Y側制御回路93は、データの書込み動作時、及び読出し動作時において、対象のメモリセル80につながるビット線BLa、BLb、BLc、BLdを選択ビット線BLa、BLb、BLc、BLdとして選択する。制御回路94は、データの書込み動作時、及び読出し動作時において、X側制御回路92及びY側制御回路93を制御する。
次に、図43に示されるMRAMにおける書き込み方法、読み出し方法について説明する。
まず、書き込みを行う場合について説明する。X側制御回路92は、選択ワード線WLを選択する。それにより、選択ワード線WLが“high”レベルにプルアップされ、MOSトランジスタTRa、TRb、TRc、TRdが“ON”になる。また、Y側制御回路93は、選択ビット線BLa、BLb、BLc、BLdを選択する。それにより、選択ビット線BLa、BLb、BLc、BLdのいずれかが“high”レベルにプルアップされ、いずれかが“Low”レベルにプルダウンされ、いずれかが“Open”(フローティング)にされる。選択ビット線BLa、BLb、BLc、BLdのいずれを“high”、“Low”、“Open”にするかは、当該磁気抵抗効果素子1に書き込まれるべきデータにより決定される。すなわち、磁化記録層10に流す書込み電流Iwの経路や方向に応じて決定される。必要に応じて複数の経路に電流が流れる。以上により、第1データ〜第8データを書き分けることができる。
次に、読み出しを行う場合について説明する。X側制御回路92は、選択ワード線WLを選択する。それにより、選択ワード線WLが“high”レベルにプルアップされ、MOSトランジスタTRa、TRb、TRc、TRdが“ON”になる。また、Y側制御回路93は、選択ビット線BLa、BLb、BLc、BLdを選択する。それにより、選択ビット線BLa、BLb、BLc、BLdのいずれか一つが“high”レベルにプルアップされ、残り三つが“open”(フローティング)に設定される。このとき選択ビット線BLa、BLb、BLc、BLdの一つから、読み出し電流IRが、例えば、第2磁化固定領域11c、第2磁壁移動領域13b、第0磁化固定領域11a、コンタクト層30、及び磁気トンネル接合部20(センス層23、バリア層22、及びリファレンス層21で構成されるMTJ)を経由してグラウンド線GLへと流れる。読み出し電流IRが流されるビット線BLの電位、又は、読み出し電流の大きさは、磁気抵抗効果による磁気抵抗効果素子1(磁気トンネル接合部20)の抵抗値の変化に依存する。したがって、同様に読み出し電流IRが流されるリファレンスセル80rのリファレンスビット線BLrの出力と比較して、この抵抗値の変化を電圧信号、又は電流信号として検知することにより高速での読み出しが可能となる。
7.センサ層の位置、8.磁壁の停止方法、9.磁化の固定方法、10.センサ層の異方性
本発明の第5の実施形態に係る磁気メモリ素子におけるセンサ層の位置、磁壁の停止方法、磁化の固定方法、及びセンサ層の異方性については、第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
以上説明したように、本実施の形態においても、第4の実施形態における効果と同様の効果を得ることが出来る。すなわち、磁化記録層の磁気異方性が垂直方向である電流駆動磁壁移動型のMRAMにおいて、磁化固定領域を容易に形成でき、読出しの信頼性が高く、磁壁のピンニングサイトを容易にとなる。そして、それに加えて、磁化記録層に8種類のデータを記憶する多値化が実現でき、半導体チップにおける単位面積当たりの情報量(データ量)を増加させることが可能となる。
(第6の実施形態)
第6の実施形態では、上記N=4の場合の磁気メモリセル及びMRAMについて説明する。
1.磁気メモリ素子の基本構成
図38Aは、本発明の第6の実施形態に係る磁気メモリ素子のうち磁化記録層の構成の一例を示す平面図である。図38Bは、本発明の第6の実施形態に係る磁気メモリ素子の構成の一例を示す断面図である。ただし、図38Bは図38AのCC’断面である。
本実施形態における磁気メモリ素子1は、磁化記録層10及び磁気トンネル接合部20を具備し、基本的に第5の実施形態の磁気メモリ素子1と同様である。ただし、磁気トンネル接合部20のリファレンス層の磁化の向きが−x方向であり、±y方向にずれていない点で、第5の実施形態と異なる。
すなわち、磁気トンネル接合部20のリファレンス層21の磁化方向が−x方向となっている。図44は、本発明の第6の実施形態に係るリファレンス層の磁化の向きと磁壁移動領域による合成磁界の向きとの関係を示す概念図である。後述されるように、磁気記録層10はε1−state〜ε5−stateの5種類の状態を取り得る。そのとき、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dによる合成磁界の向きは、図示される5種類の向き(図中、ε1〜ε5の実線矢印で表示)となる。したがって、磁気トンネル接合部20のセンサ層23の磁化の向きは、この5種類の向きとなる。ここで、リファレンス層21の磁化の向き21m(図中、破線矢印で表示)を、−x方向に設定しておく。そうすると、リファレンス層21の磁化の向21mとセンサ層23の磁化の向き(ε1〜ε5)とは、その相対角度がψ1〜ψ5(ψ1<ψ2<ψ3<ψ4<ψ5)の5種類とすることができる。したがって、この5種類の相対角度に5種類のデータを対応付ければ、上記の図26で示すように、本実施形態における磁気メモリ素子を5値に多値化することができる。
その他の磁気メモリ素子1の構成については、第5の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
2.データのメモリ状態
図45A〜図45Eは、本発明の第6の実施形態に係る磁気メモリ素子の構成の一例を示す平面図である。本実施形態では、磁化記録層10は、各磁壁移動領域での磁化の向きの相互関係により、データを保持している。本実施形態における磁気メモリ素子1は、5つの状態を取ることができ、5種類のデータを記憶することができる。ただし、ここでは第0磁化固定領域11aの形状を正方形とする。図45A〜図45Eは、例えば第1データを記憶した場合(ε1−state)〜第5データを記憶した状態(ε5−state)をそれぞれ示している。8種類のデータは、任意のデータを対応させることができる。
図45Aに示すように、磁化記録層10が第1データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの磁化は、それぞれ+z方向、−z方向、*方向、*方向に向いている(+z、−z、*、*)。それにより、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの間、及び、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの間に、それぞれ磁壁12a、12bが形成される。ここで、例えば、*方向を−z方向とすれば、第3磁化固定域11dと第3磁壁移動領域13cとの間、及び、第4磁化固定域11eと第4磁壁移動領域13dとの間に、それぞれ磁壁12c、12d(図示されず)が形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、−x方向としての第1方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第1方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約0度の平行な状態となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この平行な状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第1データ(ε1−state)を読み出すことができる。
図45Bに示すように、磁化記録層10が第2データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの磁化は、それぞれ+z方向、−z方向、+z方向、−z方向に向いている(+z、−z、+z、−z)。それにより、第1磁壁移動領域13aと第0磁化固定領域11aとの間、第2磁壁移動領域13bと第2磁化固定領域11cとの間、第0磁化固定域11aと第3磁壁移動領域13cとの間、及び、第4磁壁移動領域13dと第4磁化固定域11eとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12c、12dが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、−x方向から+y方向に約45度ずれた第2方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第2方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約ψ2(図44)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約ψ2の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第2データ(ε2−state)を読み出すことができる。
図45Cに示すように、磁化記録層10が第3データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの磁化は、それぞれ*方向、*方向、+z方向、−z方向に向いている(*、*、+z、−z)。それにより、第3磁壁移動領域13cと第0磁化固定領域11aとの間、第4磁壁移動領域13dと第4磁化固定領域11eとの間に、それぞれ磁壁12c、12dが形成される。ここで、例えば、*方向を−z方向とすれば、第1磁化固定域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、及び、第2磁化固定域11cと第2磁壁移動領域13bとの間に、それぞれ磁壁12a、12b(図示されず)が形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、+y方向としての第3方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第3方向に向く。すなわち、磁化記録層10に記憶されたデータが、センサ層23に反映される。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約ψ3(図44)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約ψ3の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第3データ(ε3−state)を読み出すことができる。
図45Dに示すように、磁化記録層10が第4データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13a〜4磁壁移動領域13dの磁化は、それぞれ−z方向、+z方向、+z方向、−z方向に向いている(−z、+z、+z、−z)。それにより、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの間、第0磁化固定域11aと第3磁壁移動領域13cとの間、及び、第4磁壁移動領域13dと第4磁化固定域11eとの間に、それぞれ磁壁12a、12b、12c、12dが形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、+x方向から+y方向に約45度ずれた第4方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第4方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約ψ4(図44)となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約ψ4の状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第4データ(ε4−state)を読み出すことができる。
図45Eに示すように、磁化記録層10が第5データを記憶した場合、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの磁化は、それぞれ−z方向、+z方向、*方向、*方向に向いている(−z、+z、*、*)。それにより、第1磁化固定領域11bと第1磁壁移動領域13aとの間、及び、第0磁化固定領域11aと第2磁壁移動領域13bとの間に、それぞれ磁壁12a、12bが形成される。ここで、例えば、*方向を−z方向とすれば、第3磁化固定域11dと第3磁壁移動領域13cとの間、及び、第4磁化固定域11eと第4磁壁移動領域13dとの間に、それぞれ磁壁12c、12d(図示されず)が形成される。このとき、磁化記録層10の下側(−z方向の側)のセンサ層23付近では、+x方向としての第5方向に向かう磁場Hが発生する。それにより、センサ層23の磁化23mは、同様に第5方向に向く。その結果、磁気トンネル接合部20において、センサ層23の磁化23mとリファレンス層21の磁化とは相対角度が約ψ5=180度(図44)の反平行な状態となる。従って、磁気トンネル接合部20の±z方向の抵抗値を検出することで、この相対角度が約ψ5の反平行な状態を検出することができる。すなわち、磁化記録層10に記憶された第5データ(ε5−state)を読み出すことができる。
なお、センサ層23の磁化とリファレンス層21の磁化との間の相対角度と磁気トンネル接合部20の抵抗値との関係は、ε1−state〜ε5−stateでの相対角度がそれぞれψ1〜ψ5である他は図26に示したとおりであるので、その説明を省略する。
本実施形態の磁気メモリ素子1は、5値化され、5種類のデータを記憶することができる。なお、リファレンス層21の向きは、図45A〜図45Eの場合に限定されるものではなく、センサ層23の磁化とリファレンス層30の磁化との相対角度が5種類になれば、他の向きであってもよい。
3.磁化固定領域の初期化方法
本発明の第6の実施形態に係る磁気メモリ素子の初期化方法については、例えば、第1の実施形態(図6A〜図6C)と同様に行うことができる。したがって、その説明を省略する。
4.書込み動作
次に、磁気メモリ素子に対するデータの書込み原理を説明する。本実施形態におけるデータの書込み原理、基本的には、第5の実施形態と同様である。すなわち、+z側に磁化を向かせたい磁壁移動領域の側から電子を供給し、−z側に磁化を向かせたい磁壁移動領域の側から電子を引き出す、となるような経路で電流を流す。必要に応じて、複数の経路を用いる。そして、ε1−state〜ε5−stateにおける第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの磁化の向きの組み合わせに対応して、書込み電流の供給先及び引き出し先の組み合わせが異なっている。なお、以下の説明では、*方向を−z方向とする。
図46A〜図46Eは、本発明の第6の実施形態に係る磁気メモリ素子に対するデータの書込み原理を示す平面図である。図46Aの第1データ(ε1−state)の書き込み動作は、図41Aの第1データ(δ1−state)の書込み動作と同様である。図46Bの第2データ(ε2−state)の書き込み動作は、図41Bの第2データ(δ2−state)の書込み動作と同様である。図46Cの第3データ(ε3−state)の書き込み動作は、図41Dの第4データ(δ4−state)の書込み動作と同様である。図46Dの第4データ(ε4−state)の書き込み動作は、図41Fの第6データ(δ6−state)の書込み動作と同様である。図46Eの第5データ(ε5−state)の書き込み動作は、図41Hの第8データ(δ8−state)の書込み動作と同様である。
このように、磁化記録層10内を平面的に流れる書込み電流Iw1、Iw2によって、第1磁壁移動領域13a〜第4磁壁移動領域13dの磁化の方向がそれぞれ反転する。そして、その磁化方向の組み合わせとして第1データ〜第5データを書き分け、記憶している。このとき、各磁壁移動領域の両側にある磁化固定領域は、互いに反平行な磁化の向きを有し、その磁壁移動領域に対して異なるスピン電子の供給源の役割を果たしている。なお、各磁壁12は、初めから書き込み終了後の位置にある場合、スピン電子e−の注入に関わらずその状態が維持される。したがって、オーバーライトも可能である。また、図46A〜図46Eのいずれの場合でも、第1の書込み電流Iw1及び第2の書込み電流Iw2は、同時に流してもよいし、タイミングをずらして流してもよいし、順序が逆でもよい。また、書込み電流Iw1、Iw2は磁壁12a、12bを貫通すれば、後はどこを通ってもよい。
5.読出し動作
本発明の第6の実施形態に係る磁気メモリ素子に対するデータの読出し原理については、図26に示される範囲内の相対角度のうちψ1〜ψ5を用いる他は、第1の実施形態と同様である。したがって、その説明を省略する。
6.磁気メモリセル及びMRAMの構成と動作
本発明の第6の実施形態に係る磁気メモリ素子における磁気メモリセル及びMRAMの構成と動作については、第5の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
7.センサ層の位置、8.磁壁の停止方法、9.磁化の固定方法、10.センサ層の異方性
本発明の第6の実施形態に係る磁気メモリ素子におけるセンサ層の位置、磁壁の停止方法、磁化の固定方法、及びセンサ層の異方性については、第1の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
以上説明したように、本実施の形態においても、第5の実施形態における効果と同様の効果を得ることが出来る。すなわち、磁化記録層の磁気異方性が垂直方向である電流駆動磁壁移動型のMRAMにおいて、磁化固定領域を容易に形成でき、読出しの信頼性が高く、磁壁のピンニングサイトを容易にとなる。そして、それに加えて、磁化記録層に5種類のデータを記憶する多値化が実現でき、半導体チップにおける単位面積当たりの情報量(データ量)を増加させることが可能となる。
(第7の実施形態)
第7の実施形態では、上記N=4の場合の磁気メモリセル及びMRAMについて説明する。
1.磁気メモリ素子の基本構成
図47Aは、本発明の第7の実施形態に係る磁気メモリ素子のうち磁化記録層の構成の一例を示す平面図である。図47Bは、本発明の第7の実施形態に係る磁気メモリ素子の構成の一例を示す斜視図である。図47Cは、本発明の第7の実施形態に係るMRAMでのレイアウトの一例を示す平面図である。
本実施形態における磁気メモリ素子1は、磁化記録層10及び磁気トンネル接合部20を具備し、基本的に第5の実施形態又は第6の実施形態の磁気メモリ素子1と同様である。ただし、磁化記録層10が2層に分離し、その2層が磁気トンネル接合部20を介して接続されている点で、第5の実施形態及び第6の実施形態の磁気メモリ素子1と異なる。
具体的には、磁化記録層10は、第1の磁壁移動層10−1及び第2の磁壁移動層10−2を備えている。第1の磁壁移動層10−1は、x方向に延伸し、第0磁化固定領域11a−1、第1磁化固定領域11b及び第2磁化固定領域11cと、第1磁壁移動領域13a及び第2磁壁移動領域13bとを備える。一方、第2の磁壁移動層10−2は、y方向に延伸し、第0磁化固定領域11a−2、第3磁化固定領域11d及び第4磁化固定領域11dと、第3磁壁移動領域13c及び第4磁壁移動領域13dとを備える。磁気トンネル接合部20は、第0磁化固定領域11a−1と第0磁化固定領域11a−2との間に、z方向に積層されて設けられている。
このような磁気メモリ素子の構成を取ると、図47Cに示されるように、磁気メモリ素子1を密に充填して配置することができる。それにより、面積当たりの情報記憶量を増加させることができる。なお、本実施形態では、2層の磁壁移動層を設けて積層させているが、更に多くの磁壁移動層を積層させることも可能である。その場合、第0磁化固定領域同士の接続は、磁気トンネル接合部20以外に、導電層を用いることができる。それにより、面積当たりの情報記憶量を更に増加させることができる。
2.データのメモリ状態、3.磁化固定領域の初期化方法、4.書込み動作、5.読出し動作、6.磁気メモリセル及びMRAMの構成と動作、7.センサ層の位置、8.磁壁の停止方法、9.磁化の固定方法、10.センサ層の異方性
本発明の第7の実施形態に係る磁気メモリ素子におけるデータのメモリ状態、磁化固定領域の初期化方法、書込み動作、読出し動作、磁気メモリセル及びMRAMの構成と動作センサ層の位置、磁壁の停止方法、磁化の固定方法、及びセンサ層の異方性については、第5の実施形態又は第6の実施形態と同様であるのでその説明を省略する。
以上説明したように、本実施の形態においても、第5の実施形態又は第5の実施形態における効果と同様の効果を得ることが出来る。すなわち、磁化記録層の磁気異方性が垂直方向である電流駆動磁壁移動型のMRAMにおいて、磁化固定領域を容易に形成でき、読出しの信頼性が高く、磁壁のピンニングサイトを容易にとなる。そして、それに加えて、磁化記録層に5種類又は8種類のデータを記憶する多値化が実現でき、半導体チップにおける単位面積当たりの情報量(データ量)を増加させることが可能となる。更に、磁化記録層を磁壁移動層で多層化することにより、更に多くのデータを記憶する多値化が実現でき、半導体チップにおける単位面積当たりの情報量(データ量)を更に増加させることが可能となる。
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、本発明の各実施形態の技術は、技術的な矛盾の発生しない限り、他の実施形態に適用可能である。
この出願は、2008年12月25日に出願された特許出願番号2008−330508号及び2009年10月1日に出願された特許出願番号2009−229597号の日本特許出願に基づいており、その出願による優先権の利益を主張し、その出願の開示は、引用することにより、そっくりそのままここに組み込まれている。