ところで、上記特許文献1に記載されている車両用操舵制御装置においては、走行路がオフロードである場合にも、スリップ量が増大するほど操舵アシスト力が低減(操舵反力が増加)するように制御される。これにより、オフロード走行時に、例えば車輪がスタックした(ぬかるみや轍にはまった)場合、車輪が路面に対して空転(スリップ)することにより、上記したスリップ量の増大に基づいて操舵反力が増加する。この場合に、運転者は、車輪と路面との接触抵抗が小さいにも拘わらず、上記した操舵反力の増加により車輪と路面との接触抵抗が大きいと推定するおそれがある。したがって、このときには、運転者が、車輪と路面との接触状態を正確に感知し難い。
本発明は、上記した課題に対処すべくなされたものであり、操舵力に応じた操舵アシスト力を得るべく基本的な操舵アシスト特性を設定する操舵アシスト特性設定部と、操舵するときの車速や操舵速度等の操舵状況を検出する操舵状況検出部と、前記操舵状況に応じて前記操舵アシスト特性を変更させる操舵アシスト特性変更部を備えるとともに、車両が走行している走行路を判定する走行路判定部を備えていて、前記走行路判定部にて前記走行路がオフロードであると判定されたときに前記操舵アシスト特性変更部による前記操舵アシスト特性の変更量を抑制する抑制部を備えていることに特徴がある。
本発明による車両用操舵制御装置においては、走行路がオンロードであるとき、操舵アシスト特性設定部にて操舵力に応じた操舵アシスト力を得るべく設定された基本的な操舵アシスト特性が、操舵するときの車速や操舵速度等の操舵状況に応じて操舵アシスト特性変更部にて変更される。これにより、操舵アシスト特性を、例えば、車速が大きくなるにしたがって操舵アシスト力が小さくなるように設定し、操舵速度が大きくなるにしたがって操舵アシスト力が大きくなるように設定することが可能である。
したがって、運転者は、高速時(車速が大きいとき)には、車速に応じた適度な操舵反力を受けた状態(操舵アシスト力が小さい状態)で操舵することが可能であるとともに、据え切り時または緊急回避時(操舵速度が大きいとき)には、操舵反力が小さい状態(操舵アシスト力が大きい状態)で操舵することが可能である。
ところで、走行路判定部にて走行路がオフロードであると判定されると、上記した操舵アシスト特性変更部による操舵アシスト特性の変更量が抑制部にて抑制される。これにより、このときの操舵アシスト特性は、操舵するときの車速や操舵速度等の操舵状況に拘わらず、上記した基本的な操舵アシスト特性に近似したものとなる。
このため、運転者は、オフロード走行時、特に車輪がスタック等した場合にも、操舵するときの車速や操舵速度等の操舵状況に拘わらず、上記した基本的な操舵アシスト特性に近似した特性で操舵することが可能である。したがって、走行路がオフロードであるとき、運転者は、車輪と路面との接触状態を正確に感知することが可能である。
また、本発明の実施に際して、前記操舵アシスト特性設定部は、エンジン等の駆動装置によって駆動されてリザーバから吸入した作動油を吐出する油圧ポンプと、この油圧ポンプから供給される作動油に応じて前記操舵アシスト力を出力するパワーシリンダと、このパワーシリンダと前記油圧ポンプおよび前記リザーバに接続されて前記操舵力に応じて作動し前記油圧ポンプから前記パワーシリンダに供給される前記作動油を制御する油圧制御弁を備え、前記操舵アシスト特性変更部は、前記油圧ポンプの吐出部と前記油圧制御弁間に介装されて前記油圧ポンプから前記油圧制御弁に供給される前記作動油の流量を制御する可変流量制御弁と、前記操舵状況に応じて前記可変流量制御弁の作動を制御する電気制御装置を備えていることも可能である
この場合には、本発明による車両用操舵制御装置を既存の油圧式パワーステアリング装置(油圧ポンプとパワーシリンダと油圧制御弁と可変流量制御弁と可変流量制御弁の作動を制御する電気制御装置を備えたパワーステアリング装置)と、前記走行路判定部および前記抑制部で構成することが可能である。したがって、既存の油圧式パワーステアリング装置をそのまま有効利用しつつ、既存の構成から小さな変更(前記走行路判定部および前記抑制部を用いること)で容易に実施することが可能である。
また、本発明の実施に際して、前記電気制御装置は、前記操舵状況から操舵中であるか操舵中でないかを判定する操舵判定手段を有するとともに、この操舵判定手段にて操舵中でないと判定されたときには、操舵中であると判定されたときに比して、前記油圧ポンプから前記油圧制御弁に供給される作動油の流量を低下させるべく前記可変流量制御弁を制御する非操舵制御モードを備えていることも可能である。
この場合には、操舵判定手段にて操舵中でないと判定されたときに、電気制御装置の非操舵制御モードにて、操舵中であると判定されたときに比して、油圧ポンプから油圧制御弁に供給される作動油の流量が低下する。このため、流路長が長くて圧力損失の大きい作動油の流量(油圧ポンプから油圧制御弁およびリザーバを通って油圧ポンプへ流れる流量)を低下させることが可能である。したがって、油圧ポンプを駆動させるエンジン等の駆動装置の負荷を軽減させることができ、駆動装置の駆動エネルギーロスを低減(例えば、燃費を向上)させることが可能である。
また、本発明の実施に際して、前記走行路判定部は、当該車両に装備したトランスファ装置が低速4輪駆動モードにシフトされたときに走行路がオフロードであると判定するように設定されていることも可能である。この場合には、運転者が車両に装備したトランスファ装置を低速4輪駆動モードにシフトすることにより、走行路がオフロードであると判定される。したがって、運転者のマニュアル操作に基づいてオフロード判定を的確に行うことが可能である。
また、本発明の実施に際して、前記走行路判定部は、当該車両に装備した車輪速センサの検出値に基づいて走行路がオフロードであるか否かを判定するように設定されていることも可能である。この場合には、車両に装備した車輪速センサの検出値に基づいて走行路がオフロードであると判定されるため、運転者のマニュアル操作を要することなく自動でオフロード判定を行うことが可能である。
また、本発明の実施に際して、前記抑制部は、当該車両が設定車速範囲(例えば、20〜60km/h)にて走行しているとき、前記操舵アシスト特性の変更量をゼロとする(可変流量制御弁から油圧制御弁に供給される流量が変化しない)ように設定されていることも可能である。
この場合には、設定車速範囲をオフロード走行時の一般的な車速範囲(例えば、20〜60km/h)とすることにより、走行路がオフロードであって当該車両が設定車速範囲にて走行しているときには、上記した操舵アシスト特性の変更量が抑制部にてゼロにされる。したがって、走行路がオフロードであって当該車両が設定車速範囲にて走行しているときには、運転者は、操舵するときの車速や操舵速度等の操舵状況に拘わらず上記した基本的な操舵アシスト特性にて操舵することができて、車輪と路面との接触状態を的確に感知することが可能である。
また、本発明の実施に際して、前記抑制部は、当該車両が設定車速範囲(例えば、20〜60km/h)の上限値を超えた車速で走行するとき、操舵力に応じた操舵アシスト力(可変流量制御弁から油圧制御弁に供給される流量)が車速の増加に応じて減少するように設定されていることも可能である。
この場合には、設定車速範囲をオフロード走行時の一般的な車速範囲(例えば、20〜60km/h)とすることにより、当該車両が設定車速範囲の上限値を超えた車速で走行しているときには、操舵力に応じた操舵アシスト力が車速の増加に応じて抑制部にて減少される。したがって、当該車両が設定車速範囲の上限値を超えた車速で走行しているときには、車速に応じた適度な操舵反力を受けた状態(操舵アシスト力が小さい状態)で操舵することができて、運転者の操舵による走行安定性を向上させることが可能である。
また、本発明の実施に際して、前記抑制部は、当該車両が設定車速範囲(例えば、20〜60km/h)の下限値より低い車速で走行するとき、操舵力に応じた操舵アシスト力(可変流量制御弁から油圧制御弁に供給される流量)が車速の減少に応じて増大するように設定されていることも可能である。
この場合には、設定車速範囲をオフロード走行時の一般的な車速範囲(例えば、20〜60km/h)とすることにより、当該車両が設定車速範囲の下限値より低い車速で走行しているときには、操舵力に応じた操舵アシスト力が車速の減少に応じて抑制部にて増加される。したがって、当該車両が設定車速範囲より低い車速で走行しているときには、操舵反力が小さい状態(操舵アシスト力が大きい状態)で操舵することできて、運転者による回動操舵性を向上させることが可能である。
以下に、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明による車両用操舵制御装置の全体構成を概略的に示していて、この車両用操舵制御装置は、操舵力Tに応じた操舵アシスト力Fを得るべく基本的な操舵アシスト特性を設定する油圧式パワーステアリング装置10と、操舵するときの操舵状況を検出するための各車輪速センサ21,22,23,24、操舵角検出センサ25およびエンジン回転数検出センサ26と、車両に装備されたトランスファ装置(図示省略)が低速4輪駆動モードにシフトされたか否かを検出するためのL4モード検出センサ30と、油圧式パワーステアリング装置10の基本的な操舵アシスト特性を変更するための可変流量制御弁41と、操舵状況に応じて可変流量制御弁41の作動を制御する電気制御装置42と、車両を駆動させるためのエンジン50を備えている。
油圧式パワーステアリング装置10は、図1に示したように、運転者によって操舵される操舵ハンドル11と、この操舵ハンドル11を上端にて支持している操舵軸12と、この操舵軸12の下端にトーションバー(図示省略)を介して連結されているピニオンシャフト(図示省略)と、このピニオンシャフトのピニオンに噛合するラック歯を有したラックバー13と、このラックバー13を覆っているハウジング14と、このハウジング14の一部をシリンダとしラックバー13の一部をピストンロッドとするパワーシリンダ15と、このパワーシリンダ15に供給する作動油を制御する油圧制御弁16と、エンジン50によって駆動されて作動油を吐出する油圧ポンプ17と、この油圧ポンプ17および油圧制御弁16に接続されているリザーバ18を備えている。
操舵ハンドル11は、運転者によって入力される操舵力を操舵軸12に伝達するためのものであり、操舵軸12の運転者側端部に一体的に連結されている。操舵軸12は、操舵ハンドル11を介して入力される操舵力Tを左右前輪(図示省略)に伝達するためのものであり、操舵ハンドル11と一体回転可能である。ラックバー13は、ピニオンシャフトの回転により軸方向(図1の左右方向)に変位可能であり、左右両端にてタイロッド(図示省略)およびナックル(図示省略)等を介して左右前輪に連結されている。ハウジング14は、車体に組付けられていて、ラックバー13を軸方向に変位可能に支持している。
パワーシリンダ15は、シリンダ内にてピストンロッドに組付けたピストン15aによって区画された左右の圧力室15b、15cを有していて、各圧力室15b、15cに接続された一対の油路を介して油圧制御弁16に接続されている。また、パワーシリンダ15は、油圧制御弁16から左右の圧力室15b、15cへ供給される作動油に応じて、左右の圧力室15b、15c間にて生じる差圧により操舵アシスト力Fを出力する周知の油圧シリンダである。
油圧制御弁16は、パワーシリンダ15の各圧力室15b、15cと、リザーバ18に接続されるとともに、可変流量制御弁41を介して油圧ポンプ17の吐出部に接続されていて、操舵力T(トーションバーの捩れ量)に応じて作動して油圧ポンプ17からパワーシリンダ15に供給される作動油を制御する周知のロータリバルブである。油圧ポンプ17は、エンジン50によって駆動されてリザーバ18から作動油を吸入して可変流量制御弁41へ吐出する周知のベーン型オイルポンプであり、エンジン50の回転数rpmに応じて吐出量が増大するものである。
各車輪速センサ、すなわち、左前輪車輪速センサ21,右前輪車輪速センサ22,左後輪車輪速センサ23,右後輪車輪速センサ24は、それぞれ左前輪,右前輪,左後輪,右後輪の各回転速度を測定することにより左前輪車輪速VFL,右前輪車輪速VFR,左後輪車輪速VRL,右後輪車輪速VRRを表す検出信号を出力する。操舵角検出センサ25は、操舵ハンドル11の中立位置からの回転角度を測定することにより操舵角θを表す検出信号を出力する。エンジン回転数検出センサ26は、エンジン50のエンジン回転数を測定することにより回転数rpmを表す検出信号を出力する。
L4モード検出センサ30は、トランスファ装置が低速4輪駆動モードにシフトされているときにONを表し、トランスファ装置が低速4輪駆動モードにシフトされていないときにOFFを表す検出信号αを出力する。なお、トランスファ装置は、運転者によって低速4輪駆動モードと高速4輪駆動モードと(高速)2輪駆動モードに切り替え可能であり、エンジン50の動力を左右前輪,左右後輪に分配する周知の装置である。
可変流量制御弁41は、油圧ポンプ17から油圧制御弁16に供給される作動油を制御して、油圧制御弁16に供給する作動油の流量を目標流量QAとなるように制御するためのものであり、油圧ポンプ17の吐出部と油圧制御弁16間の油路に介装されている。また、可変流量制御弁41は、電磁ソレノイド(図示省略)を備えていて、電磁ソレノイドへの通電電流が大きくなるにしたがって、油圧制御弁16に供給される作動油の流量を小さくして、操舵アシスト力Fを小さくする(運転者の操舵ハンドル11に対する操舵反力を大きくする)。この可変流量制御弁41は、油圧ポンプ17から供給された作動油の流量から可変流量制御弁41へ吐出する作動油の流量を引いた余剰の流量をバイパス路を通して油圧ポンプ17に還流させている。
電気制御装置42は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどからなり、図2、図3および図6のフローチャートに対応したプログラムを記憶していると共に、目標流量QAと推定車速Vと操舵速度ωの関係を図4のテーブルXの形で記憶し、目標流量QAと推定車速Vの関係を図7のテーブルYの形で記憶している。推定車速Vは、各車輪における車輪速VFL,VFR,VRL,VRRの平均値を実車速と近似した車速として推定したものであり、操舵速度ωは、運転者による操舵ハンドル11の回転操舵角速度である。
また、電気制御装置42は、推定流量QBを演算する演算式Fを記憶していると共に、電流値Iと流量制御率Rと推定流量QBの関係を図5のテーブルZの形で記憶している。推定流量QBは、油圧ポンプ17から可変流量制御弁41へ供給される作動油の流量を推定した流量であり、エンジン50の回転数rpmに応じて定まるものである。電流値Iは、可変流量制御弁41の電磁ソレノイドへ通電する電流値であり、流量制御率Rは、推定流量QBに対する目標流量QAの割合である。
次に、上記のように構成した第1実施形態の動作を図2,図3および図6に示したフローチャートに沿って説明する。電気制御装置42は、運転者によってイグニッションスイッチがオン状態とされると、所定の初期化プログラムを実行してから図2のメインプログラムP1を所定の短時間Δtごとに繰り返して実行する。すなわち、電気制御装置42は、図2のステップ60〜65からなる処理を繰り返して実行して、可変流量制御弁41の電磁ソレノイドへの通電を制御する。
電気制御装置42は、ステップ60にて可変流量プログラムP1の実行を開始し、ステップ61にて、各車輪速センサ21,22,23,24からの各車輪速VFL,VFR,VRL,VRRを表す検出信号と、操舵角センサ25からの操舵角θを表す検出信号と、エンジン回転数検出センサ26からの回転数rpmを表す検出信号と、L4モード検出センサ30からの検出信号αをそれぞれ読込み、記憶する。
次に、ステップ62にて、検出信号αがOFFであるか否かを判定する。そして、電気制御装置42は、ステップ62にて、検出信号αがOFFであれば「YES」と判定(走行路がオンロードであると判定)してステップ63に進み、検出信号αがONであれば「NO」と判定(走行路がオフロードであると判定)してステップ64に進む。
ここで、電気制御装置42は、ステップ63に進むと、オンロード制御ルーチンが実行される。具体的には、図3に示すように、ステップ630にて、オンロード制御ルーチンが開始され、ステップ631にて、下記数1の演算の実行により推定車速Vを計算する。
〔数1〕 V=(VFL+VFR+VRL+VRR)/4
次に、ステップ632にて、操舵角θの値を現在操舵角θN(現在(一巡のオンロード制御ルーチンを実行しているとき)の時刻tにおける操舵角θの値)に代入し、ステップ633にて、下記数2の演算の実行により操舵速度ωを計算する。
〔数2〕 ω=|(θN―θO)/Δt|
なお、旧操舵角θOは、時刻tより所定の短時間Δt前の操舵角θの値であり、旧操舵角θOの初期値は0とする。
次に、ステップ634にて、推定車速Vと操舵速度ωに基づいて図4のテーブルXから目標流量QAを読み出し、ステップ635にて、回転数rpmを用いた下記演算式Fの演算の実行により推定流量QBを計算する。
〔演算式F〕 QB=f(rpm)
次に、ステップ636にて、下記数3の演算の実行により流量制御率Rを計算する。
〔数3〕 R=QA/QB
そして、ステップ637にて、流量制御率Rと推定流量QBに基づいて図5のテーブルZから電流値Iを読み出し、電流値Iを表す制御信号を可変流量制御弁41の電磁ソレノイドに出力して、同電磁ソレノイドに電流値Iの電流を通電する。その結果、可変流量制御弁41から油圧制御弁16へ電流値Iに反比例した目標流量QAの作動油が流出するように制御されて、パワーシリンダ15に電流値Iに反比例した操舵アシスト力Fが発生するようになる。
次に、ステップ638にて、操舵角θの値を旧操舵角θOに代入し、ステップ639にて、オンロード制御ルーチンを終了すべく、リターンを実行する。そして、電気制御装置42は、ステップ63の終了後、ステップ65に進み、このメインプログラムP1の実行を一旦終了する。これにより、所定の短時間Δtの経過後に再びステップ60にて、メインプログラムP1の実行を開始する。
一方、電気制御装置42は、ステップ64に進むと、オフロード制御ルーチンが実行される。具体的には、図6に示すように、ステップ640にて、オフロード制御ルーチンが開始され、ステップ641にて、上述したステップ631と同様に、推定車速Vを計算する。
次に、ステップ642にて、推定車速Vに基づいて図7の流量テーブルYから目標流量QAを読み出し、ステップ643にて、上述したステップ635と同様に、推定流量QBを計算する。次に、ステップ644にて、上述したステップ636と同様に、流量制御率Rを計算し、ステップ645にて、上述したステップ637と同様に、電流地Iを読み出し、電流値Iを表す制御信号を可変流量制御弁41の電磁ソレノイドに出力して、同電磁ソレノイドに電流値Iの電流を通電する。
次に、ステップ646にて、操舵角θの値を旧操舵角θOに代入し、ステップ647にて、オフロード制御ルーチンを終了すべく、リターンを実行する。そして、電気制御装置42は、ステップ64の終了後、ステップ65に進み、このメインプログラムP1の実行を一旦終了する。
上記のように構成した第1実施形態においては、電気制御装置42による可変流量制御弁41の制御中、運転者が操舵ハンドル11を回動操舵すると、左右前輪は、パワーシリンダ15から出力された操舵アシスト力Fにより助勢されながら操舵ハンドル11の回動操舵に応じて転舵される。
そして、電気制御装置42は、トランスファ装置が低速4輪駆動モードにシフトされていないときには、ステップ62にて、走行路がオンロードである(YES)と判定して、ステップ63にて、オンロード制御ルーチンの実行を開始する。このとき、推定車速Vが大きくなるにしたがって、目標流量QAが小さくなるように(図4参照)設定されて、可変流量制御弁41から流出する作動油の流量は小さくなる。このため、高速走行時においては、操舵アシスト力Fが小さく(操舵反力は大きく)なって、運転者の操舵による走行安定性を良好にすることが可能であり、低速走行時においては、操舵アシスト力Fが大きく(操舵反力は大きく)なって、運転者の回動操舵性を良好にすることが可能である。
また、操舵速度ωが大きくなるにしたがって、目標流量QAが大きくなるように(図4参照)設定されて、可変シリンダ41から流出する作動油の流量は大きくなる。このため、据え切り時または緊急回避時に、操舵速度ωが大きくなるときには、操舵アシスト力Fが大きく(操舵反力は大きく)なって、運転者の回動操舵性を向上させることが可能である。
また、走行路がオンロードであると判定されて操舵速度ωがゼロのときには、推定車速Vに拘わらず、目標流量QAが最も小さくなるように(図4参照)設定されている。これにより、油圧ポンプ17から油圧制御弁16に供給される作動油の流量が低下し、流路長が長くて圧力損失の大きい作動油の流量(油圧ポンプ17から可変流量制御弁41、油圧制御弁16およびリザーバ18を通って油圧ポンプ17へ流れる流量)を低下させることが可能である。したがって、油圧ポンプ17を駆動させるエンジン50の負荷を軽減させることができ、燃費を向上させることが可能である。
ところで、電気制御装置42は、トランスファ装置が低速4輪駆動モードにシフトされているときには、ステップ62にて、走行路がオフロードである(NO)と判定して、ステップ64にて、オフロード制御ルーチンの実行を開始する。
このとき(走行路がオフロードであると判定されたとき)、当該車両がオフロード走行時の一般的な車速範囲20〜60km/hである設定車速範囲にて走行しているときには、目標流量QAが一定(Q1)に設定(図7参照)され、可変流量制御弁41から流出する作動油の流量が一定(Q1)となるように制御される。すなわち、このときには、可変流量制御弁41による操舵アシスト特性の変更量が、ゼロとなるように制御される。
このため、走行路がオフロードであると判定されて当該車両が設定車速範囲にて走行しているときには、操舵するときの推定車速Vや操舵速度ω等の操舵状況に拘わらず、可変流量制御弁41から流出する作動油の流量が一定(Q1)となるように維持されて、運転者は、図8の特性線Q1に示した基本的な操舵アシスト特性にて操舵することが可能である。したがって、運転者は、オフロード走行時、特に車輪がスタックした(車輪がぬかるみや轍にはまって推定車速Vが一時的に設定車速範囲となった)場合であっても、車輪と路面との接触状態を正確に感知することが可能である。なお、目標流量QAがQ1であるときの操舵アシスト力Fと操舵力Tの関係は、図8に示した特性線Q1のように得られる。
また、この第1実施形態においては、走行路がオフロードであると判定されて当該車両が設定車速範囲VOの上限値である60km/hから100km/hの間の推定車速Vで走行しているときには、推定車速Vの増加に応じて、目標流量QAが減少するように設定(図7参照)され、可変流量制御弁41から流出する作動油の流量が減少するように制御される。
このため、走行路がオフロードであると判定されて当該車両が60km/hから100km/hの間の推定車速Vで走行しているときには、推定車速Vの増加に応じて、操舵アシスト力Fが減少(操舵反力が増加)する。したがって、このときには、車速に応じた適度な操舵反力を受けた状態(操舵アシスト力Fが小さい状態)で操舵することができ、運転者の操舵による走行安定性を向上させることが可能である。なお、当該車両が100km/hを超えた推定車速Vで走行しているときには、目標流量QAが一定(Q2)となり、操舵アシスト力Fと操舵力Tの関係は、図8に示した特性線Q2のように得られる。
また、トランスファ装置が低速4輪駆動モードにシフトされていることによって車両がオフロードであると判定されて、当該車両が60km/hを超えた推定車速Vで走行しているとき、走行路が仮にオフロードからオンロードに切換わっても、運転者は、車速に応じた適度な操舵反力を受けた状態(操舵アシスト力Fが小さい状態)で操舵することが可能である。したがって、当該車両が60km/hを超えた推定車速Vで走行し、走行路がオフロードからオンロードに切換わったとき、運転者により低速4輪駆動モードにシフトされなくても、運転者の操舵による走行安定性を確保することが可能である。
また、この第1実施形態においては、走行路がオフロードであると判定されて当該車両が5km/hから上記設定車速範囲の下限値であるより20km/hの間の推定車速Vで走行しているときには、推定車速Vの減少に応じて、目標流量QAが増加するように設定(図7参照)され、可変流量制御弁41から流出する作動油の流量が増加するように制御される。
このため、走行路がオフロードであると判定されて当該車両が5km/hから20km/hの間の推定車速Vで走行しているときには、推定車速Vの減少に応じて、操舵アシスト力Fが増加(操舵反力が減少)する。したがって、このときには、推定車速Vの減少に応じて、操舵アシスト力Fが大きい状態(操舵反力が小さい状態)で操舵することできて、運転者による回動操舵性を向上させることが可能である。なお、当該車両が5km/hより低い推定車速Vで走行しているときには、目標流量QAが一定(Q0)となり、操舵アシスト力Fと操舵力Tの関係は、図8に示した特性線Q0のように得られる。
また、走行路がオフロードであると判定されて当該車両が20km/hより低い推定車速Vで走行しているとき、運転者は、車両が設定車速範囲の推定車速Vで走行している場合に比して、操舵アシスト力Fが大きい状態(操舵反力が小さい状態)で操舵することが可能である。したがって、当該車両が20km/hより低い推定車速Vで走行しているときには、運転者の操舵による回動操舵性を優先的に確保することが可能である。
また、この第1実施形態においては、車両用操舵制御装置を既存の油圧式パワーステアリング装置(油圧ポンプ17とパワーシリンダ15と油圧制御弁16と可変流量制御弁41と可変流量制御弁41の作動を制御する電気制御装置42を備えたパワーステアリング装置)と、L4モード検出センサ30およびオフロード制御ルーチン(を実行するためのプログラムを備えた電気制御装置42)で構成することが可能である。したがって、既存の油圧式パワーステアリング装置をそのまま有効利用しつつ、既存の構成から小さな変更(L4モード検出センサ30およびオフロード制御ルーチンを用いること)で容易に実施することが可能である。
また、この第1実施形態においては、運転者が車両に装備したトランスファ装置を低速4駆動モードにシフトすることにより、走行路がオフロードであると判定される。したがって、運転者のマニュアル操作に基づいてオフロード判定を的確に行うことが可能である。
上記のように構成した第1実施形態においては、車両が走行している走行路を判定するために、L4モード検出センサ30の検出信号αに基づいて走行路がオフロードであるか否かを判定するように構成して実施したが、図9に示した第2実施形態のように、左前輪車輪速センサ21,右前輪車輪速センサ22,左後輪車輪速センサ23,右後輪車輪速センサ24の検出信号である左前輪車輪速VFL,右前輪車輪速VFR,左後輪車輪速VRL,右後輪車輪速VRRに基づいて走行路がオフロードであるか否かを判定するように構成して実施することも可能である。
この第2実施形態においては、電気制御装置42は、図2に示したメインプログラムP1に換えて、図9に示したメインプログラムP2を実行する。電気制御装置42は、ステップ160にてメインプログラムP2の実行を開始し、ステップ161にて、各車輪速センサ21,22,23,24からの各車輪速VFL,VFR,VRL,VRRを表す検出信号と、操舵角センサ25からの操舵角θを表す検出信号と、エンジン回転数検出センサ26からの回転数rpmを表す検出信号をそれぞれ読込み、記憶する。
次に、ステップ162にて、下記数4の演算の実行により推定車速(平均車輪速)Vを計算する。
〔数4〕 V=(VFL+VFR+VRL+VRR)/4
次に、ステップ163にて、左前輪車輪速VFLと推定車速Vの差(VFLーV)が所定値Aより小さいか否かを判定する。そして、電気制御装置42は、ステップ163にて、左前輪車輪速VFLと推定車速Vの差(VFLーV)が所定値Aより小さければ「YES」と判定してステップ164に進む。一方、電気制御装置42は、左前輪車輪速VFLと推定車速Vの差(VFLーV)が所定値Aより小さくなければ(左前車輪が空転していれば)、「NO」と判定して、ステップ64に進み、オフロード制御ルーチンを実行する。なお、所定値Aは、各車輪速と推定車速の差が所定値より大きい場合には、当該車輪は空転(スリップ)していると判定するために設定された値である。
次に、ステップ164にて、右前輪車輪速VFRと推定車速Vの差(VFRーV)が所定値Aより小さいか否かを判定する。このステップ164においては、ステップ163における左前輪車輪速VFLに換えて右前輪車輪速VFRを用いること以外はステップ163と同様であり、「YES」と判定すればステップ165に進む。
次に、ステップ165にて、左後輪車輪速VRLと推定車速Vの差(VRLーV)が所定値Aより小さいか否かを判定する。このステップ165においては、ステップ163における左前輪車輪速VFLに換えて左後輪車輪速VRLを用いていること以外はステップ163と同様であり、「YES」と判定すればステップ166に進む。
次に、ステップ166にて、右後輪車輪速VRRと推定車速Vの差(VRRーV)が所定値Aより小さいか否かを判定する。このステップ166においては、ステップ163における左前輪車輪速VFLに換えて右後輪車輪速VRRを用いていること以外はステップ163と同様であり、「YES」と判定すればステップ63に進み、オンロード制御ルーチンを実行する。
そして、電気制御装置42は、ステップ63、またはステップ64の終了後、ステップ167に進み、このメインプログラムP2の実行を一旦終了する。なお、この第2実施形態においては、L4モード検出センサ30を設ける必要はなく、上記した構成以外の構成は、上記した第1実施形態の構成と同様である。
上記のように構成した第2実施形態においては、各車輪速センサ21,22,23,24の検出信号である各車輪速VFL,VFR,VRL,VRRに基づいて、左前輪車輪、右前輪車輪、左後輪車輪および右後輪車輪のうちいずれかひとつ空転(スリップ)していると判定されると、走行路がオフロードであると判定される。したがって、運転者のマニュアル操作を要することなく自動でオフロード判定を行うことが可能である。
上記のように構成した第2実施形態においては、各車輪速センサ21,22,23,24の検出信号である各車輪速VFL,VFR,VRL,VRRに基づいて走行路がオフロードであるか否かを判定するように構成して実施したが、図10および図11に示した第3実施形態のように、各車輪速センサ21,22,23,24の検出信号である各車輪速VFL,VFR,VRL,VRRに加えて、対地車速センサ230の検出信号である対地車速VGに基づいて走行路がオフロードであるか否かを判定するように構成して実施することも可能である。
対地車速センサ230は、図10に示したように、音波(超音波を含む)や電磁波を用いて対地反射波を測定して、ドップラー効果を用いて車両の路面に対する速度である対地車速VG表す検出信号を電気制御装置42に出力する。
この第3実施形態においては、電気制御装置42は、図9に示したメインプログラムP2に換えて、図11に示したメインプログラムP3を実行する。電気制御装置42は、ステップ260にてメインプログラムP3の実行を開始し、ステップ261にて、各車輪速センサ21,22,23,24からの各車輪速VFL,VFR,VRL,VRRを表す検出信号と、操舵角センサ25からの操舵角θを表す検出信号と、エンジン回転数検出センサ26からの回転数rpmを表す検出信号と、対地車速センサ230からの対地車速VGを表す検出信号をそれぞれ入力する。
次に、ステップ262〜ステップ267においては、上記した第2実施形態のステップ162〜ステップ167と同様であるため、その説明は省略するものとし、ステップ266にて「YES」と判定すればステップ267に進む。
次に、ステップ267にて、推定車速Vと対地車速VGの差(VーVG)が所定値Bより小さいか否かを判定する。そして、電気制御装置42は、ステップ267にて、推定車速Vと対地車速VGの差(VーVG)が所定値Bより小さければ「YES」と判定してステップ63に進み、オンロード制御ルーチンを実行する。一方、電気制御装置42は、推定車速Vと対地車速VGの差(VーVG)が所定値Bより小さくなければ「NO」と判定してステップ64に進み、オフロード制御ルーチンを実行する。なお、所定値Bは、推定車速Vと対地車速VGの差が所定値より大きい場合には、左右前輪および左右後輪の全ての車輪が空転(スリップ)していると判定するために設定された値である。
そして、電気制御装置42は、ステップ63、またはステップ64の終了後、ステップ267に進み、このメインプログラムP3の実行を一旦終了する。なお、この第3実施形態においては、上記した構成以外の構成は、上記した第2実施形態の構成と同様である。
上記のように構成した第3実施形態においては、各車輪速センサ21,22,23,24の検出信号である各車輪速VFL,VFR,VRL,VRR、および対地車速センサ230の検出信号である対地車速VGに基づいて、走行路がオフロードであるか否かが判定される。したがって、左右前輪および左右後輪の全ての車輪が空転(スリップ)している場合においても、対地車速センサ230を用いることによって、走行路がオフロードであると判定することができて、上記した第2実施形態に比して、オフロード判定を的確に行うことが可能である。なお、図11に示したメインプログラムP3において、ステップ233〜266を無くして、ステップ267のみで実施した場合には、左右前輪および左右後輪のいづれか一つの車輪が空転しているときに、ステップ267にてYESと判定される場合があり得て、オフロード判定を的確に行うことができないおそれがある。
上記した各実施形態においては、走行路がオフロードであると判定されて当該車両が設定車速範囲にて走行しているときには、目標流量QAを一定(Q1)に設定(図7参照)して実施したが、このときには、目標流量QAを推定車速Vが増加するにしたがって減少するように設定して実施することも可能である。この場合には、走行路がオフロードであると判定されて当該車両が設定車速範囲にて走行しているときの目標流量QAの減少量を、走行路がオンロードであると判定され、運転者の一般的な操舵速度ωである操舵速度60deg/sから300deg/sの間の操舵速度ωであって、当該車両が設定車速範囲にて走行しているときの目標流量QAの減少量ΔQX(図4参照)より小さくなるように設定する。
また、上記した各実施形態においては、走行路がオフロードであると判定されて当該車両が60km/hから100km/hの間の推定車速Vで走行しているときには、推定車速Vの増加に応じて、目標流量QAを減少する(図7参照)ようにして設定して実施したが、このときには、推定車速Vの増加に拘わらず、目標流量QAが一定となるようにして設定して実施することも可能である。
また、上記した各実施形態においては、走行路がオフロードであると判定されて当該車両が5km/hから20km/hの間の推定車速Vで走行しているときには、推定車速Vの減少に応じて、目標流量QAを増加する(図7参照)ようにして設定して実施したが、このときには、推定車速Vの減少に拘わらず、目標流量QAが一定となるようにして設定して実施することも可能である。
また、上記した各実施形態においては、走行路がオフロードであると判定されて推定車速Vに応じて、目標流量QAが変化する(図7参照)ようにして設定して実施したが、推定車速Vに拘わらず、目標流量QAが一定、例えばQA=Q0となるようにして設定して実施することも可能である。
また、上記した各実施形態においては、推定車速Vを各車輪速VFL,VFR,VRL,VRRの平均値(V=(VFL+VFR+VRL+VRR)/4)として演算して、この推定車速Vを用いて実施したが、車両がフロントエンジン・リアドライブ式(FR)の車両である場合には、推定車速Vを従動輪である左右前輪の車輪速VFL,VFRの平均値(V=(VFL+VFR)/2)として演算して、この推定車速Vを用いて実施することも可能であり、車両がフロントエンジン・フロントドライブ式(FF)の車両である場合には、推定車速Vを従動輪である左右後輪の車輪速VRL,VRRの平均値(V=(VRL+VRR)/2)として演算して、この推定車速Vを用いて実施することも可能である。
また、上記した各実施形態においては、走行路がオンロードと判定された場合に、操舵中でない(操舵速度ωがゼロ)と判定されたときには、操舵中である(操舵速度ωがゼロでない)場合に比して、目標流量QAが小さくなるように設定して、油圧ポンプ17から油圧制御弁16に供給される作動油の流量が低下するようにして実施したが、走行路がオフロードと判定された場合にも、操舵中でないと判定されたときには、操舵中である場合に比して、目標流量QAが小さくなるように設定して、油圧ポンプ17から油圧制御弁16に供給される作動油の流量が低下するようにして実施することも可能である。この場合には、走行路がオフロードと判定されたときにおいても、油圧ポンプ17を駆動させるエンジン50の負荷を軽減させることができ、燃費を向上させることが可能である。
また、上記した各実施形態においては、操舵力Tに応じた操舵アシスト力Fを得るべく基本的な操舵アシスト特性を設定する操舵アシスト特性設定部として、油圧式パワーステアリング装置10を用いて実施したが、上記した操舵アシスト特性設定部として、電動式パワーステアリング装置を用いて実施することも可能である。
10…油圧式パワーステアリング装置、11…操舵ハンドル、12…操舵軸、13…ラックバー、14…ハウジング、15…パワーシリンダ、16…油圧制御弁、17…油圧ポンプ、18…リザーバ、21…左前輪車輪速検出センサ、22…右前輪車輪速検出センサ、23…左後輪車輪速検出センサ、24…右後輪車輪速検出センサ、25…操舵角検出センサ、26…エンジン回転数検出センサ、30…L4モード検出センサ、41…可変流量制御弁、42…電気制御装置、50…エンジン、V…推定車速、ω…操舵速度、QA…目標流量、QB…推定流量、260…対地車速センサ、P1,P2,P3…メインプログラム