一般に、車輌が急坂路を走行する際に車輪のグリップが限界を越えて車輪がスリップし、車輌が走行路の傾斜に沿って滑るようになると、運転者は車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対し垂直な状態(走行路の等高線に平行な状態)になるよう運転し、車輌の下降を阻止しようとする。
しかし車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対し垂直な方向に近づくにつれて左右輪の接地荷重の差が大きくなり、特に走行路の傾斜の高い方の車輪の接地荷重が大きく低下する。そのため接地荷重が大きく低下した車輪の横力の余裕度が小さくなり、操舵輪の転舵により車輌の進行方向を変更しようとしても車輌の進行方向を変更することが困難になり、特にオフロード走行時の如く走行路の傾斜が急峻である場合には、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対し垂直な方向に近づくにつれて車輌が走行路の傾斜に沿って横滑りしたり車輌のロール方向の安定性が低下したり易くなる。
本発明は、車輌が傾斜路を走行する際に於ける上述の如き問題に鑑みてなされたものであり、本発明の主要な課題は、車輌のコントロールが困難になるような状況に於いては車輌の前後方向をできるだけ路面の傾斜方向に近づけることにより、傾斜路に於ける車輌の走行性能を従来に比して更に一層向上させることである。
上述の主要な課題は、本発明によれば、請求項1の構成、即ち操舵輪の転舵を制御する制御手段を備えた車輌の操舵制御装置に於いて、路面の傾斜方向の傾斜度合及び車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度を判定する判定手段を有し、前記制御手段は路面の傾斜度合が傾斜基準値以上であり前記角度の大きさが制御開始基準値以上である状況に於いては、車輌が登坂の向きにあるか降坂の向きにあるかに関係なく、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向への操舵輪の転舵を促進し、若しくは車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向への操舵輪の転舵を抑制することを特徴とする車輌の操舵制御装置によって達成される。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1の構成に於いて、前記操舵制御装置は少なくとも操舵反力に応じて操舵アシスト力を発生する操舵アシスト力発生手段を含み、前記制御手段は車輌が登坂の向きにあるか降坂の向きにあるかに関係なく、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときには、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときに比して、操舵アシスト力の大きさが大きくなるよう前記操舵アシスト力発生手段を制御するよう構成される(請求項2の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1又は2の構成に於いて、前記操舵制御装置は操舵入力手段より操舵輪への操舵伝達比を変更する操舵伝達比可変手段を含み、前記制御手段は車輌が登坂の向きにあるか降坂の向きにあるかに関係なく、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときには、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときに比して、操舵伝達比が大きくなるよう前記操舵伝達比可変手段を制御するよう構成される(請求項3の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項1乃至3の何れか一つの構成に於いて、前記操舵制御装置は運転者の操舵に依存せずに操舵輪を転舵可能な操舵輪舵角可変手段を含み、前記制御手段は前記角度の大きさが前記制御開始基準値よりも大きい転舵基準値以上である状況に於いては、車輌が登坂の向きにあるか降坂の向きにあるかに関係なく、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されなくても、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ変化するよう前記操舵輪舵角可変手段により操舵輪を転舵するよう構成される(請求項4の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項4の構成に於いて、前記操舵輪舵角可変手段により操舵輪を転舵する転舵角の大きさは前記角度の大きさが大きいほど大きいよう構成される(請求項5の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項4又は5の構成に於いて、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときには、前記操舵輪舵角可変手段により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵輪を転舵する転舵角の大きさは運転者による操舵量の大きさが大きいほど大きいよう構成される(請求項6の構成)。
また本発明によれば、上述の主要な課題を効果的に達成すべく、上記請求項4乃至6の何れか一つの構成に於いて、車輌は少なくとも操舵反力に応じて操舵アシスト力を発生し前記制御手段により制御される操舵アシスト力発生手段を有し、前記制御手段は前記操舵輪舵角可変手段により操舵輪を転舵するときには、操舵輪の転舵に起因する操舵反力の変化を低減するよう操舵アシスト力を制御するよう構成される(請求項7の構成)。
上記請求項1の構成によれば、路面の傾斜方向の傾斜度合及び車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度が判定され、路面の傾斜度合が傾斜基準値以上であり角度の大きさが制御開始基準値以上である状況に於いては、車輌が登坂の向きにあるか降坂の向きにあるかに関係なく、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向への操舵輪の転舵が促進され、若しくは車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向への操舵輪の転舵が抑制される。従って車輌のコントロールが困難になるような状況に於いて車輌の前後方向をできるだけ路面の傾斜方向に近づけることができ、これにより傾斜路に於ける車輌の走行性能を従来に比して更に一層向上させることができる。
また上記請求項2の構成によれば、車輌が登坂の向きにあるか降坂の向きにあるかに関係なく、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときには、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときに比して、操舵アシスト力の大きさが大きくなるよう操舵アシスト力発生手段が制御される。従って運転者は車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ容易に操舵することができると共に、車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵し難くなり、これにより車輌の前後方向をできるだけ路面の傾斜方向に近づけることができる。
また上記請求項3の構成によれば、車輌が登坂の向きにあるか降坂の向きにあるかに関係なく、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときには、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときに比して、操舵伝達比が大きくなるよう操舵伝達比可変手段が制御される。従って車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向への操舵輪の転舵を促進すると共に、車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向への操舵輪の転舵を抑制することができ、これにより車輌の前後方向をできるだけ路面の傾斜方向に近づけることができる。
また上記請求項4の構成によれば、角度の大きさが制御開始基準値よりも大きい転舵基準値以上である状況に於いては、車輌が登坂の向きにあるか降坂の向きにあるかに関係なく、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されなくても、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ変化するよう操舵輪舵角可変手段により操舵輪が転舵される。従って角度の大きさが制御開始基準値よりも大きい転舵基準値以上である状況に於いては、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されない場合にも車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ変化するよう操舵輪を転舵し、これにより車輌の前後方向を確実に路面の傾斜方向に近づけることができる。
また上記請求項5の構成によれば、操舵輪舵角可変手段により操舵輪を転舵する転舵角の大きさは角度の大きさが大きいほど大きい。従って角度の大きさが大きいほど車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向への操舵輪の転舵角を大きくすることができ、これにより角度の大きさが大きい場合にも車輌の前後方向を確実に路面の傾斜方向に近づけることができる。
また上記請求項6の構成によれば、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときには、操舵輪舵角可変手段により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵輪を転舵する転舵角の大きさは運転者による操舵量の大きさが大きいほど大きい。従って運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵される場合にも車輌の前後方向をできるだけ路面の傾斜方向に近づけることができる。
また上記請求項7の構成によれば、操舵輪舵角可変手段により操舵輪を転舵するときには、操舵輪の転舵に起因する操舵反力の変化を低減するよう操舵アシスト力が制御されるので、操舵輪の転舵に伴う操舵反力の変化に起因して運転者が違和感を覚える虞れを確実に低減することができる。
[課題解決手段の好ましい態様]
本発明の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の構成に於いて、判定手段は慣性錘式の前後加速度検出手段及び横加速度検出手段を含み、前後加速度検出手段により検出される車輌の前後加速度及び横加速度検出手段により検出される車輌の横加速度に基づいて路面の傾斜方向の傾斜度合を判定し、車輌の横加速度に基づいて車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度を判定するよう構成される(好ましい態様1)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7又は上記好ましい態様1の構成に於いて、制御手段は車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度及び車輌の進行方向に基づいて車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向への操舵輪の転舵であるか否かを判定するよう構成される(好ましい態様2)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7の構成に於いて、制御手段は車輌の前後加速度の大きさが基準値以上であるときに路面の傾斜度合が基準値以上であると判定するよう構成される(好ましい態様3)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様3の構成に於いて、制御手段は各車輪の車輪速度に基づいて車速を演算し、車輌の前後加速度と車速の変化率との偏差の大きさが基準値以上であるときに路面の傾斜度合が基準値以上であると判定するよう構成される(好ましい態様4)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様4の構成に於いて、基準値は車輌の横加速度の大きさが大きいほど小さくなるよう車輌の横加速度に応じて可変設定されるよう構成される(好ましい態様5)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項2乃至7又は上記好ましい態様1乃至5の構成に於いて、制御手段は少なくとも操舵反力に基づいて目標操舵アシスト力を演算し、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときには目標操舵アシスト力の大きさを増大させ、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときには目標操舵アシスト力の大きさを低下させることにより、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときには、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときに比して、操舵アシスト力の大きさを大きくするよう構成される(好ましい態様6)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3乃至7又は上記好ましい態様1乃至6の構成に於いて、制御手段は少なくとも車速に基づいて目標ステアリングギヤ比を演算し、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときには目標ステアリングギヤ比を小さくし、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときには目標ステアリングギヤ比を大きくすることにより、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときには、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときに比して、操舵伝達比を大きくするよう構成される(好ましい態様7)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項3乃至7又は上記好ましい態様1乃至7の構成に於いて、操舵伝達比可変手段は操舵入力手段に対し操舵輪を相対的に転舵駆動する転舵角可変手段を含んでいるよう構成される(好ましい態様8)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4乃至7又は上記好ましい態様1乃至8の構成に於いて、操舵輪転舵角可変手段は操舵入力手段側部材に対し相対的に操舵輪側部材を駆動することにより操舵輪を転舵駆動するよう構成される(好ましい態様9)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項4乃至7又は上記好ましい態様1乃至9の構成に於いて、制御手段は運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときにも、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ変化するよう操舵輪舵角可変手段により操舵輪を転舵するよう構成される(好ましい態様10)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様10の構成に於いて、操舵輪を転舵する転舵角の大きさは路面の傾斜方向が車輌の前後方向に対しなす角度の大きさが大きいほど大きいよう構成される(好ましい態様11)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様10又は11の構成に於いて、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときに操舵輪を転舵する転舵角の大きさは運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときに操舵輪を転舵する転舵角の大きさよりも小さいよう構成される(好ましい態様12)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項7又は上記好ましい態様1乃至12の構成に於いて、制御手段は操舵輪の転舵量に基づいて操舵輪の転舵に起因する操舵反力の変化量を推定し、推定された操舵反力の変化量に基づいて操舵アシスト力を制御するよう構成される(好ましい態様13)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記請求項1乃至7又は上記好ましい態様1乃至13の構成に於いて、制御手段は車輌の横加速度の大きさが第一の基準値以上であるときに前記操舵アシスト力発生手段の制御を行うよう構成される(好ましい態様14)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様14の構成に於いて、制御手段は車輌の横加速度の大きさが第一の基準値よりも大きい第二の基準値以上であるときに前記操舵アシスト力発生手段の制御及び前記操舵伝達比可変手段の制御を行うよう構成される(好ましい態様15)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様15の構成に於いて、制御手段は車輌の横加速度の大きさが第三の基準値以上であるときに前記操舵輪舵角可変手段による操舵輪の転舵の制御を行うよう構成される(好ましい態様16)。
本発明の他の一つの好ましい態様によれば、上記好ましい態様14乃至16の構成に於いて、車輌の横加速度は検出された車輌の横加速度が車速と車輌のヨーレートとの積にて減算補正された値であるよう構成される(好ましい態様16)。
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を好ましい実施例について詳細に説明する。
図1は自動操舵装置及び電動式パワーステアリング装置を備えた車輌に適用された本発明による車輌の操舵制御装置の一つの実施例を示す概略構成図である。
図1に於いて、10FL及び10FRはそれぞれ車輌12の左右の前輪を示し、10RL及び10RRはそれぞれ車輌の左右の後輪を示している。操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRは運転者によるステアリングホイール14の操作に応答して駆動されるラック・アンド・ピニオン型の電動式パワーステアリング装置16によりラックバー18及びタイロッド20L及び20Rを介して転舵される。
図示の実施例に於いては、電動式パワーステアリング装置16はラック同軸型の電動式パワーステアリング装置であり、電動機22と、電動機22の回転トルクをラックバー18の往復動方向の力に変換する例えばボールねじ式の変換機構24とを有し、ハウジング26に対し相対的にラックバー18を駆動する操舵アシスト力を発生することにより、運転者の操舵負担を軽減する操舵アシスト力発生装置として機能する。尚操舵アシスト力発生装置は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。
ステアリングホイール14はアッパステアリングシャフト28A、転舵角可変装置30、ロアステアリングシャフト28B、ユニバーサルジョイント32を介して電動式パワーステアリング装置16のピニオンシャフト34に駆動接続されている。図示の実施例に於いては、転舵角可変装置30はハウジング36Aの側にてアッパステアリングシャフト28Aの下端に連結され、回転子36Bの側にてロアステアリングシャフト28Bの上端に連結された補助転舵駆動用の電動機36を含んでいる。
かくして転舵角可変装置30はアッパステアリングシャフト28Aに対し相対的にロアステアリングシャフト28Bを回転駆動することにより、ステアリングホイール14の回転角度に対する操舵輪である左右の前輪10FL及び10FRの舵角の比、即ち操舵伝達比(ステアリングギヤ比の逆数)を変化させるステアリングギヤ比可変装置(操舵伝達比可変手段)として機能すると共に、必要に応じて運転者の操舵に関係なく左右の前輪10FL及び10FRをステアリングホイール14に対し相対的に補助転舵駆動する自動転舵装置としても機能する。
図示の実施例に於いては、アッパステアリングシャフト28Aには該アッパステアリングシャフトの回転角度を操舵角θとして検出する操舵角センサ40及び操舵トルクTsを検出する操舵トルクセンサ42が設けられており、転舵角可変装置30にはハウジング36A及び回転子36Bの相対回転角度をアッパステアリングシャフト22Aに対するロアステアリングシャフト22Bの相対回転角度θreとして検出する回転角度センサ44が設けられており、これらのセンサの出力は操舵制御装置46へ供給される。
また操舵制御装置46には車輪速度センサ48i(i=fl、fr、rl、rr)により検出された左右前輪及び左右後輪の車輪速度Vwi(i=fl、fr、rl、rr)を示す信号、前後加速度センサ50により検出された車輌の前後加速度Gxを示す信号、横加速度センサ52により検出された車輌の横加速度Gyを示す信号が入力される。
特に前後加速度センサ50及び横加速度センサ52はそれぞれ慣性錘に作用する車輌前後方向及び車輌横方向の慣性力を検出する慣性錘式の加速度センサであり、車輌が傾斜路を走行する際には車輌の走行に伴う加速度に加えて傾斜路の傾斜に対応する値を含む検出値を出力する。
尚操舵角センサ40、回転角度センサ44、横加速度センサ52はそれぞれ車輌の左旋回方向への操舵、転舵、旋回の場合を正として操舵角θ、相対回転角度θre、車輌の横加速度Gyを検出する。また回転角度センサ44はロアステアリングシャフト28Bの回転角度θaを検出するセンサに置き換えられ、相対回転角度θreは操舵角の差θa−θとして求められてもよい。
後述の如く、操舵制御装置46は転舵角可変装置30の目標相対回転角度θret及び電動式パワーステアリング装置16の目標アシストトルクTaを演算し、目標相対回転角度θret及び目標アシストトルクTaを示す信号をそれぞれ転舵角可変制御装置54及び電動式パワーステアリング(EPS)制御装置56へ出力する。転舵角可変制御装置54は目標相対回転角度θretに基づいて転舵角可変装置30を制御し、電動式パワーステアリング制御装置56は目標アシストトルクTaに基づいて電動式パワーステアリング装置16を制御する。
後述の如く、操舵制御装置46は図2に示されたフローチャートに従って車輪速度Vwiに基づいて車速Vxを演算すると共に、車速Vxの変化率、即ち車輪速度Vwiに基づく車輌の前後加速度Gvxを演算する。そして操舵制御装置46は車輌の前後加速度Gxと車輪速度に基づく車輌の前後加速度Gvxとの偏差ΔGxが基準値Gxo以上であるか否かの判別により、車輌が登坂の向きにあるか否かを判別し、車輌の前後加速度の偏差ΔGxが基準値−Gxo以下であるか否かの判別により、車輌が降坂の向きにあるか否かを判別する。
操舵制御装置46は車輌が急峻な路面での登坂状態及び降坂状態にない通常走行時には、電動式パワーステアリング装置16及び転舵角可変装置30について通常走行時の制御を行うべき指令信号をそれぞれ電動式パワーステアリング制御装置56及び転舵角可変制御装置54へ出力する。
特に操舵制御装置46は、操舵トルクTsに基づき図3に示されたグラフに対応するマップより目標基本アシストトルクTabを演算し、車速Vxに基づき図4に示されたグラフに対応するマップより車速係数Kvを演算し、車速係数Kvと目標基本アシストトルクTabとの積として目標アシストトルクTaを演算し、目標アシストトルクTaを示す信号を電動式パワーステアリング制御装置56へ出力する。
また操舵制御装置46は、車速Vxに基づき図5に示されたグラフに対応するマップより目標ステアリングギヤ比Rsgtを演算し、目標ステアリングギヤ比Rsgtに基づいて転舵角可変装置30の目標相対回転角度θretを演算し、目標相対回転角度θretを示す信号を転舵角可変制御装置54へ出力する。尚電動式パワーステアリング制御装置56は目標アシストトルクTaに基づいて電動式パワーステアリング装置16を制御し、転舵角可変制御装置54は目標相対回転角度θretに基づいて転舵角可変装置30を制御する。
これに対し車輌が急峻な路面での登坂状態又は降坂状態にある状況に於いて、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度の大きさが比較的小さい場合には、操舵制御装置46は、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときには目標操舵アシストトルクTaの大きさを増大させ、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときには目標操舵アシストトルクTaの大きさを低下させることにより、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときには、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときに比して、操舵アシストトルクTaの大きさを大きくする。
また車輌が急峻な路面での登坂状態又は降坂状態にある状況に於いて、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度の大きさが中程度である場合には、操舵制御装置46は、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度の大きさが比較的小さい場合と同様に操舵アシストトルクTaの大きさを制御する。また操舵制御装置46は、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときには目標ステアリングギヤ比Rsgtを小さくし、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときには目標ステアリングギヤ比Rsgtを大きくすることにより、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときには、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときに比して、操舵伝達比を大きくする。
更に車輌が急峻な路面での登坂状態又は降坂状態にある状況に於いて、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度の大きさが比較的大きい場合には、操舵制御装置46は、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ変化するよう転舵角可変装置30により左右の前輪10FL及び10FRを転舵する。
次に図2に示されたフローチャートを参照して実施例に於ける操舵制御ルーチンについて説明する。尚図2に示されたフローチャートによる制御は図には示されていないイグニッションスイッチの閉成により開始され、所定の時間毎に繰返し実行される。
まずステップ10に於いては操舵角θを示す信号等の読み込みが行われ、ステップ20に於いては車輪速度Vwiに基づき当技術分野に於いて公知の要領にて車速Vxが演算されると共に、車速Vxの変化率、即ち車輪速度Vwiに基づく車輌の前後加速度Gvxが演算される。
ステップ30に於いては例えば車輌の横加速度Gyの絶対値が大きいほど小さくなるよう傾斜判定の正の基準値Gxoが演算されると共に、車輌の前後加速度Gxと車輪速度に基づく車輌の前後加速度Gvxとの偏差ΔGxが基準値Gxo以上であるか否かの判別により、車輌が登坂の向きにあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ130へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ40へ進む。
ステップ40に於いては車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度を示す指標値としての車輌の横加速度Gyの絶対値が操舵輪転舵基準値としての第三の基準値Gy3(正の定数)以上であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ60へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ50へ進む。
ステップ50に於いてはGy>0且つVx≧0である場合又はGy<0且つVx<0である場合には、左右の前輪10FL及び10FRが左切り方向へ転舵されるよう、車輌の横加速度Gyの絶対値に基づいて転舵角可変装置30の目標相対回転角度θretが演算される。これに対しGy<0且つVx≧0である場合又はGy>0且つVx<0である場合には、左右の前輪10FL及び10FRが右切り方向へ転舵されるよう、車輌の横加速度Gyの絶対値に基づいて転舵角可変装置30の目標相対回転角度θretが演算される。そして目標相対回転角度θretを示す信号が転舵角可変制御装置54へ出力され、転舵角可変装置30が目標相対回転角度θretに基づいて転舵角可変制御装置54により制御され、これにより車輌12の前後方向が路面の傾斜方向に近づくよう左右の前輪10FL及び10FRがアクティブ操舵される。
ステップ60に於いては車輌の横加速度Gyの絶対値が操舵伝達比制御基準値としての第二の基準値Gy2(Gy3よりも小さい正の定数)以上であるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ80へ進み、肯定判別が行われたときにはステップ70へ進む。
ステップ70に於いてはGy>0且つVx≧0である場合又はGy<0且つVx<0である場合には、左切り操舵時の操舵反力が小さくなると共に右切り操舵時の操舵反力が大きくなるよう、車輌の横加速度Gyの絶対値に基づいてアシストトルクの補正量ΔTaが演算され、補正量ΔTaにて補正された目標アシストトルクTaを示す信号が電動式パワーステアリング制御装置56へ出力される。
また左切り操舵時の操舵伝達比が大きくなると共に右切り操舵時の操舵伝達比が小さくなるよう、車輌の横加速度Gyの絶対値に基づいて転舵角可変装置30の目標相対回転角度θretの補正量Δθretが演算され、補正量Δθretにて補正された目標相対回転角度θretを示す信号が転舵角可変制御装置54へ出力される。
これに対しGy<0且つVx≧0である場合又はGy>0且つVx<0である場合には、左切り操舵時の操舵反力が大きくなると共に右切り操舵時の操舵反力が小さくなるよう、車輌の横加速度Gyの絶対値に基づいてアシストトルクの補正量ΔTaが演算され、補正量ΔTaにて補正された目標アシストトルクTaを示す信号が電動式パワーステアリング制御装置56へ出力される。
また左切り操舵時の操舵伝達比が小さくなると共に右切り操舵時の操舵伝達比が大きくなるよう、車輌の横加速度Gyの絶対値に基づいて転舵角可変装置30の目標相対回転角度θretの補正量Δθretが演算され、補正量Δθretにて補正された目標相対回転角度θretを示す信号が転舵角可変制御装置54へ出力される。
そして電動式パワーステアリング装置16が電動式パワーステアリング制御装置56により補正後の目標アシストトルクTaに基づいて制御されると共に、転舵角可変装置30が転舵角可変制御装置54により補正後の目標相対回転角度θretに基づいて制御される。
ステップ80に於いては車輌の横加速度Gyの絶対値が操舵アシスト力制御基準値としての第一の基準値Gy1(Gy2以下の正の定数)以上であるか否かの判別が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ90に於いて上述のステップ70の場合と同様の要領にて電動式パワーステアリング装置16の制御が行われ、否定判別が行われたときにはステップ100に於いて上記転舵角可変装置30の制御若しくは電動式パワーステアリング装置16の制御が停止され、転舵角可変装置30及び電動式パワーステアリング装置16について車輌の通常走行時(非傾斜路走行時)の制御が行われる。
ステップ130に於いては例えば車輌の前後加速度Gxと車輪速度に基づく車輌の前後加速度Gvxとの偏差ΔGxが基準値−Gxo以下であるか否かの判別により、車輌が降坂の向きにあるか否かの判別が行われ、否定判別が行われたときにはステップ135に於いて転舵角可変装置30及び電動式パワーステアリング装置16について車輌の通常走行時の制御が行われ、肯定判別が行われたときにはステップ140へ進む。
ステップ140〜200に於いては、それぞれ上述のステップ40〜100の場合と同一の要領にて転舵角可変装置30若しくは電動式パワーステアリング装置16が制御されることにより、車輌の降坂時に於ける操舵制御が実行される。
尚ステップ50及び150に於いては、左右の前輪10FL及び10FRを転舵する転舵角の大きさは車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度の大きさが大きいほど大きい。また運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向へ操舵されるときには、左右の前輪10FL及び10FRを転舵する転舵角の大きさは運転者による操舵量が大きいほど大きいが、運転者により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ操舵されるときには、左右の前輪10FL及び10FRを転舵する転舵角の大きさは運転者による操舵量が大きいほど小さい。
また車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ左右の前輪10FL及び10FRを転舵する方向が右切り方向であるか左切り方向であるかは、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度及び車輌の進行方向に基づいて判定される。更に左右の前輪10FL及び10FRのアクティブ操舵に起因する不自然な操舵反力の変化が生じないよう、目標相対回転角度θretの補正量Δθret又は左右の前輪10FL及び10FRの転舵角に基づいて目標アシストトルクTaが補正される。
かくして図示の実施例によれば、ステップ30に於いて車輌が登坂の向きにあるか否かの判別が行われ、ステップ130に於いて車輌が降坂の向きにあるか否かの判別が行われ、車輌が登坂の向きにあると判別されたときにはステップ40〜100に於いて、車輌が降坂の向きにあると判別されたときにはステップ140〜2100に於いて、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ変化するよう、操舵アシストトルク若しくはステアリングギヤ比若しくは左右の前輪10FL及び10FRの舵角が制御される。
次に車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度及び車輌の進行方向が異なる様々な状況について、図示の実施例の作動を説明する。
(A)車輌が登坂の向きにある場合
(A−1)車輌の前後方向が路面の傾斜方向である場合
図6(A)に示されている如く車輌12が路面の傾斜方向に沿って前進登坂している場合、及び図6(B)に示されている如く車輌12が路面の傾斜方向に沿って後進降坂している場合には、ステップ30に於いて肯定判別が行われ、ステップ40、60,80に於いて否定判別が行われ、ステップ100に於いて転舵角可変装置30及び電動式パワーステアリング装置16について車輌の通常走行時の制御が行われる。
尚車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ変化するよう、操舵アシストトルクが制御されている状態より車輌12が図6(A)又は図6(B)に示された状態になる場合には、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ変化させるための操舵アシストトルクの制御量が漸減される。
(A−2)車輌の前方向が路面の傾斜登り方向に対し右向きで前進状態である場合
これは車輌12が図7(A)に示された状態にある場合である。車輌の横加速度Gyの絶対値が第三の基準値Gy3以上である場合には、左右の前輪10FL及び10FRが左切りされるようアクティブ操舵され、車輌12は左旋回する。車輌の横加速度Gyの絶対値が第二の基準値Gy2以上で第三の基準値Gy3未満である場合には、運転者の左操舵時には操舵アシストトルクが増大されると共に、ステアリングギヤ比が小さくされ、運転者の右操舵時には操舵アシストトルクが低下されると共に、ステアリングギヤ比が大きくされる。車輌の横加速度Gyの絶対値が第一の基準値Gy1以上で第二の基準値Gy2未満である場合には、運転者の左操舵時には操舵アシストトルクが増大され、運転者の右操舵時には操舵アシストトルクが低下される。
(A−3)車輌の前方向が路面の傾斜登り方向に対し右向きで後進状態である場合
これは車輌12が図7(B)に示された状態にある場合である。車輌の横加速度Gyの絶対値が第三の基準値Gy3以上である場合には、左右の前輪10FL及び10FRが右切りされるようアクティブ操舵され、車輌12は右旋回する。車輌の横加速度Gyの絶対値が第二の基準値Gy2以上で第三の基準値Gy3未満である場合には、運転者の右操舵時には操舵アシストトルクが増大されると共に、ステアリングギヤ比が小さくされ、運転者の左操舵時には操舵アシストトルクが低下されると共に、ステアリングギヤ比が大きくされる。車輌の横加速度Gyの絶対値が第一の基準値Gy1以上で第二の基準値Gy2未満である場合には、運転者の右操舵時には操舵アシストトルクが増大され、運転者の左操舵時には操舵アシストトルクが低下される。
(B)車輌が降坂の向きにある場合
(B−1)車輌の前後方向が路面の傾斜方向である場合
図8(A)に示されている如く車輌12が路面の傾斜方向に沿って前進降坂している場合、及び図8(B)に示されている如く車輌12が路面の傾斜方向に沿って後進登坂している場合には、ステップ30に於いて否定判別が行われると共に、ステップ130に於いて肯定判別が行われ、ステップ140、160、180に於いて否定判別が行われ、ステップ120に於いて転舵角可変装置30及び電動式パワーステアリング装置16について車輌の通常走行時の制御が行われる。
尚車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ変化するよう、操舵アシストトルクが制御されている状態より車輌12が図8(A)又は図8(B)に示された状態になる場合には、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向へ変化させるための操舵アシストトルクの制御量が漸減される。
(B−2)車輌の前方向が路面の傾斜下り方向に対し右向きで前進状態である場合
これは車輌12が図9(A)に示された状態にある場合である。車輌の横加速度Gyの絶対値が第三の基準値Gy3以上である場合には、左右の前輪10FL及び10FRが左切りされるようアクティブ操舵され、車輌12は左旋回する。車輌の横加速度Gyの絶対値が第二の基準値Gy2以上で第三の基準値Gy3未満である場合には、運転者の左操舵時には操舵アシストトルクが増大されると共に、ステアリングギヤ比が小さくされ、運転者の右操舵時には操舵アシストトルクが低下されると共に、ステアリングギヤ比が大きくされる。車輌の横加速度Gyの絶対値が第一の基準値Gy1以上で第二の基準値Gy2未満である場合には、運転者の左操舵時には操舵アシストトルクが増大され、運転者の右操舵時には操舵アシストトルクが低下される。
(B−3)車輌の前方向が路面の傾斜下り方向に対し右向きで後進状態である場合
これは車輌12が図9(B)に示された状態にある場合である。車輌の横加速度Gyの絶対値が第三の基準値Gy3以上である場合には、左右の前輪10FL及び10FRが右切りされるようアクティブ操舵され、車輌12は右旋回する。車輌の横加速度Gyの絶対値が第二の基準値Gy2以上で第三の基準値Gy3未満である場合には、運転者の右操舵時には操舵アシストトルクが増大されると共に、ステアリングギヤ比が小さくされ、運転者の左操舵時には操舵アシストトルクが低下されると共に、ステアリングギヤ比が大きくされる。車輌の横加速度Gyの絶対値が第一の基準値Gy1以上で第二の基準値Gy2未満である場合には、運転者の右操舵時には操舵アシストトルクが増大され、運転者の左操舵時には操舵アシストトルクが低下される。
尚車輌12の前方向が路面の傾斜登り又は下り方向に対し図7及び図9の場合とは左右逆向きである場合には、左右の前輪10FL及び10FRのアクティブ操舵の方向、操舵アシストトルクの増減、ステアリングギヤ比の増減が逆になり、従って車輌の旋回方向も逆になる。
以上の説明より解る如く、図示の実施例によれば、車輌が登坂状態又は降坂状態にあり、車輌のコントロールが困難になる虞れがあるときには、車輌の前後方向をできるだけ路面の傾斜方向に近づけることができ、これにより車輌が走行路の傾斜に沿って横滑りしたり車輌のロール方向の安定性が低下したりする虞れを低減し、傾斜路に於ける車輌の走行性能を従来に比して向上させることができる。
特に図示の実施例によれば、車輌の横加速度Gyの絶対値に基づいて車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度の大きさが判定され、角度の大きさが小さいときには操舵アシストトルクの増減により、角度の大きさが中程度であるときには操舵アシストトルクの増減及びステアリングギヤ比の増減により、角度の大きさが大きいときには左右前輪10FL及び10FRのアクティブ操舵により、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向への操舵輪の転舵が促進され、車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向への操舵輪の転舵が抑制されるので、操舵アシストトルクの増減、ステアリングギヤ比の増減、左右前輪のアクティブ操舵の何れかのみにより車輌の前後方向の制御が行われる場合に比して、運転者が覚える違和感を低減しつつ車輌の前後方向をできるだけ効果的に路面の傾斜方向に近づけることができる。
また図示の実施例によれば、傾斜判定の正の基準値Gxoはステップ30に於いて車輌の横加速度Gyの絶対値が大きいほど小さくなるよう演算されるので、傾斜判定の正の基準値Gxoが一定の値である場合に比して、車輌が登坂の向きにあるか否かの判別及び路面の傾斜度合が車輌の前後方向の制御を要する傾斜度合であるか否かの判別を適正に行うことができる。
また図示の実施例によれば、車輌の前後加速度Gxと車輪速度に基づく車輌の前後加速度Gvxとの偏差ΔGxが基準値Gxo以上であるか否かの判別により、車輌が登坂の向きにあるか否かの判別が行われるので、車輪速度に基づく車輌の前後加速度Gvxが考慮されない場合に比して、車輌が登坂の向きにあるか否かの判別及び路面の傾斜度合が車輌の前後方向の制御を要する傾斜度合であるか否かの判別を適正に行うことができる。
また図示の実施例によれば、左右前輪がアクティブ操舵される場合には、アクティブ操舵に起因する操舵反力の変動が低減されるよう操舵アシストトルクが制御されるので、アクティブ操舵に伴う操舵反力の変動に起因して運転者が違和感を覚える虞れを確実に低減することができる。
以上に於いては本発明を特定の実施例について詳細に説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施例が可能であることは当業者にとって明らかであろう。
例えば上述の実施例に於いては、慣性錘式の前後加速度センサ50及び横加速度センサ52によりそれぞれ検出される車輌の前後加速度Gx及び車輌の横加速度Gyに基づいて路面の傾斜度合が判定され、車輌の横加速度Gyに基づいて車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度が判定されるようになっているが、路面の傾斜度合及び車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度は例えばナビゲーション装置よりの情報の如く当技術分野に於いて公知の情報及び手段により求められてよい。
また上述の実施例に於いては、ステップ40、60、80に於いて車輌の横加速度Gyの絶対値がそれぞれ基準値Gy1〜Gy3以上であるか否かの判別により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度の大きさが判定されるようになっているが、車輌の旋回走行に伴う横力の影響ができるだけ排除されるよう、車輌のヨーレートγと車速Vxとの積を車輌の推定横加速度Gyhとして、Gy−Gyhの絶対値がそれぞれ基準値Gy1〜Gy3以上であるか否かの判別により車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度の大きさが判定されるよう修正されてもよい。
また上述の実施例に於いては、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に対しなす角度の大きさが小さいときには操舵アシストトルクの増減により、角度の大きさが中程度であるときには操舵アシストトルクの増減及びステアリングギヤ比の増減により、角度の大きさが大きいときには左右前輪10FL及び10FRのアクティブ操舵により、車輌の前後方向が路面の傾斜方向に近づく方向への操舵輪の転舵が促進され、車輌の前後方向が路面の傾斜方向より離れる方向への操舵輪の転舵が抑制されるようになっているが、操舵アシストトルクの増減、ステアリングギヤ比の増減、左右前輪のアクティブ操舵の何れかが省略されてもよい。
更に上述の実施例に於いては、操舵伝達比可変手段(ステアリングギヤ比可変装置)はアッパステアリングシャフト28Aに対し相対的にロアステアリングシャフト28Bを回転駆動する転舵角可変装置30であるが、操舵伝達比可変手段は当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよく、また少なくとも操舵反力に応じて操舵アシスト力を発生する手段は電動式パワーステアリング装置16であるが、例えば油圧式のパワーステアリング装置の如く当技術分野に於いて公知の任意の構成のものであってよい。