JP5073272B2 - ミシン - Google Patents
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Description
かかるミシンでは、縫いが開始されると、第一針目の縫い針から釜の剣先が上糸を捕捉してその縫い開始端部を針板の下側に引き出すと共に、当該縫い開始端部を上糸保持装置の糸保持具が保持し、当該糸保持具は後方(立胴部側)に移動して待機する。そして、数針の針落ちにより縫い目が安定すると、縫い開始端部を解放する。これにより、布地の裏側から上糸の縫い開始端部が抜けることが防止され、第一針目から適正に縫い目を形成することを可能としている。
二つ穴ボタンの縫着の際には、二つの穴に交互に複数回の針落ちを行い、最終針の針落ち完了後、糸切り機構により針板と釜との間に渡っている上糸及び下糸の切断が行われる。また、四つ穴ボタンの場合には、二つの穴ごとに縫いと糸切りを行うか、二つの穴について縫いを行ってから他の二つの穴に縫いを行って、その後に糸切りが行われる。その際、上糸保持装置により保持されていた上糸の縫い開始端部は、縫い開始から数針後には解放されて垂れ下がった状態となることから、二つの穴の間に形成される下糸の縫い目に何度も巻き込まれて細かいループが絡み合ったような状態となる、いわゆる「鳥の巣」状態が発生するか、下糸に絡むことなく糸保持具によって引き出された長さだけ垂れ下がったままの状態で縫いが終わり、いずれの場合も縫い品質の低下を招いていた。
なお、ボタン付けではなく、一定方向にジグザグ縫いを行うボタン穴かがり縫製を行う場合には、ジグザグの縫い目が上糸保持装置から解放された縫い開始端部を縫い込んでしまうため、布地の裏面上に長く垂れ下がったり、鳥の巣を発生することはなかった。つまり、上記問題は、第一針目と第二針目の短い針落ち間隔を何度も繰り返し針落ちを行うボタン付けに固有の問題であった。
そして、最終針の針落ち後に糸保持具を前記待機位置から針下位置側に向かって所定距離だけ移動してから糸切り機構を作動させるので、針穴から糸保持具に向かって延びていた状態の上糸はたるみを生じ、針穴下方で幾分垂れ下がった状態となるため、糸切り機構は、針穴と釜の間を渡る糸を切断する場合と同様に縫い開始端部を切断することが可能となる。また、このとき上糸保持装置では上糸の縫い開始端部を解放していないので、フリーな状態で垂れ下がった糸を切断する場合と異なり、糸切り機構は良好に切断を行うことが可能となる。
これにより、縫製後の被縫製物において残り糸を短くすることができ、縫い品質の向上を図ることが可能となる。また、縫製後の残り糸の後処理を不要とすることができ、生産性を向上させることが可能となる。さらに、残り糸の切断専用の糸切りを不要とし、縫製作業におけるコスト低減を図ることが可能となる。
以下、図1乃至図19に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。本実施形態たるミシン100は、図示しないメモリに記憶されている所定の縫製パターンに従ってボタン及び布地を縫い針に対して相対的に移動して、ボタンの各穴に設定回数分の針落ちを実現するものである。
なお、ミシン100の構成を説明するにあたって、後述する縫い針104の上下動方向をZ軸方向とし、これと直交する方向であってミシンベッド101及びミシンアーム103の長手方向をY軸方向とし、Z軸方向及びY軸方向の双方に直交する方向をX軸方向とする。また、ミシン100を水平面上に設置した場合に、Z軸方向における+側が上,−側が下となり、X軸方向における+側を右,−側を左、Y軸方向における+側を前,−側を後と表現する。
図3に示すように、釜機構120は、往復半回転を行い,回転周方向に沿って突出した剣先121により上糸のループを捕捉する中釜122と、中釜122を回転自在に支持する大釜123と、大釜123の上部に設けられた上糸ガイド板124と、ミシン立胴部側から大釜123に向かってミシンベッド長手方向に平行に延びて図示しないドライバーを介して中釜122に往復半回転駆動力を付与する釜軸125とを有している。
かかる釜機構120の釜軸125はY軸方向に平行に配設されており、中釜121に対してY軸方向−側(後方)に位置すると共にかかる方向から往復半回転駆動力の付与を行う。また、釜軸125は、ミシンモータ105から分岐された駆動力が往復回動に変換されて伝達される構成であり、縫い針104の上下往復動作と中釜122の往復半回動動作とについて所定位相差で同期が図られている。
布保持機構140は、ステッピングモータであるX軸モータ83とY軸モータ84とによりミシンベッド101の上面においてにX軸方向とY軸方向とに任意に移動位置決め可能な布送り台141と、布送り台141の前端部において昇降可能に装備された布保持部材142と、ステッピングモータである作動モータ82に設けられたカム143により揺動する第一揺動腕144と、第一揺動腕144の揺動により前後移動を行う伝達桿145と、伝達桿145の前後移動により揺動を行うL字状の第二揺動腕146と、第二揺動腕146により上下動動作を付与される昇降体147と、布送り台141によりその両端部が揺動可能に支持された揺動桿148とを備えている。
つまり、布保持機構140及びX軸モータ83及びY軸モータ84は、被縫製物である布地とボタンを保持して、これらを縫い針に対して任意に移動位置決めし、所定の針落ち位置に針落ちを行われる移動機構として機能する。
かかる布保持部材142は布送り台141に昇降可能に支持されつつ、揺動桿148の一端部に連結されており、当該揺動桿148の一端部が揺動により上下動することで布保持部材142も昇降するようになっている。
揺動桿148は、その他端部が図示しない引っ張りバネにより上方に張力を付与されており、かかる張力により布保持部材142は常時下方に押圧されている。そして、揺動桿148の他端部近傍には昇降体147の下端部により下方に押圧力が付与される当接部148aが設けられている。
第二揺動腕146は、前述したように略L字状であって、その屈曲部にてミシンフレームにより回動可能に支持されている。そして、第二揺動腕46の下端部が伝達桿145に連結されて前後に揺動動作が付与され、上端部側で昇降体146に上下動を付与する。
伝達桿145は、その後端部が第一揺動腕144の一端部に連結され、第一揺動腕144の他端部はカム143に係合している。
カム143は、作動モータ82により回転駆動される外周カムであって、第一揺動腕144の他端部はカム143の外周と当接し、当該外周形状に応じて第一揺動腕144が揺動を行うようになっている。
また、ボタン縫着においては、ボタンの糸通し穴の個数や配置、穴の間隔、糸が渡る順番、途中の糸切りの有無等に応じて一連の縫着動作を実行するための複数種類の縫製データが動作制御手段80に記憶されている。そして、縫製データの一つが選択されてボタン縫着が実行され、その際、布保持機構140は、ボタンの各糸通し穴に所定の順番で所定回数だけ針落ちが行われるように、各針ごとにX軸モータ83とY軸モータ84とが縫製データに定められた駆動量で駆動され、布送り台141及び布保持部材142の移動位置決めが行われる。
図4は糸切り機構130の要部平面図、図5はその動作説明図である。図1,4,5に示すように、糸切り機構130は、作動モータ82に設けられたカム131により揺動する第一揺動腕132と、第一揺動腕132の揺動により前後移動を行う伝達桿133と、伝達桿133の前後移動により揺動を行う第二揺動腕134と、針板108の下面に固定装備された固定メス135と、固定メス135の刃先に摺接しながら往復回動を行う動メス136と、動メス136と第二揺動腕134とを連結するリンク体137とを備えている。
第一揺動腕132は、その中間部でミシンフレームに回動可能に軸支されており、おおむねZ軸方向に沿うように配設されている。そして、その上端部は前述したようにカム131に連結されており、下端部は伝達桿133の後端部に連結されている。これにより、第一揺動腕132の上端部がカム131により揺動せしめられると、伝達桿133に対して前後方向の往復動作の付与が行われる。
ところで、前述したように上糸は中釜122の剣先121に捕捉されて上糸ループを形成し、上糸ガイド板124の糸分け部124bにより、上糸は剣先121を境に縫い針側の糸NFと布側の糸NBとに分けられる。かかる状態において、動メス136は上糸の切断を行うが、その際、上糸の縫い針側の糸NFと布側の糸NBの両方を切断すると上糸が二カ所で切断されることとなるので、これに回避するために、布側の糸NBのみを選り分けて切断を行う。かかる選り分けを行うために、動メス136には、前進縁部側に尖出した分離突起136aが形成されている。
分離突起136aは、動メス136の前進回動の際に、糸分け部124bにより分けられた上糸の縫い針側の糸NFと布側の糸NBとの間を通過するように位置設定されており、動メス136が前進回動を行うと、回動半径外側となる布側の糸NBのみが動メス136の回動半径方向外側に流れて動メス136の後退縁部側に設けられた糸捕捉部136bに回り込む(図5(b)参照)。
また、動メス136の上面には当該上面よりも段差を生じた刃部136cが形成されており、動メス136の後退回動により糸捕捉部136bの布側の糸NBは刃部136cと固定メス135の先端部に挟まれて切断が行われる(図5(c)参照)。
上記上糸保持装置10は、上糸の縫い始めの端部(縫い開始端部)が布地から抜脱することを防止するために、縫い始めに縫い針104に挿通されている上糸の縫い開始端部を針板108の針穴108aのすぐ下方で挟持し、挟持した上糸の端部を縫い針104の上下動経路から後方に向かって離れた位置に移動させるものである。
図6は上糸保持装置10の主要な全体構成を示す斜視図、図7はその分解斜視図である。
これらに示されるように、糸保持具20は、保持部21を備える保持部材22と、挟持部31を備える挟持部材32とを有している。これらの各部材22,32は、いずれもその全体形状が長尺板状であり、これらは挟持部材32を上として重ね合わされ、いずれもその長手方向をY軸方向に平行に向けられた状態で当該Y軸方向(前後方向)に沿って双方が滑動可能に関連動作手段60に支持される。以下、糸保持具20の各部の説明において方向を示す言葉が使用される場合には、特にことわりがない限り、糸保持具20が関連動作手段60に支持された状態における方向を示しているものとする。
保持部材22の後側の貫通穴24は、後述する関連動作手段60の引っ張りバネ62が配置され、その伸縮を行う動作領域を形成する。かかる後側の貫通穴24の前端部に引っ張りバネ62の一端部が連結される。
また、保持部材22のY軸方向中間部やや後寄りの位置にはX軸−方向に向かって延設されたブラケット部25が設けられ、その先端部には下方に向かって延出された丸棒状の係合ピン26が固定装備されている。保持部材22は、かかる係合ピン26を介して関連動作手段60による前後方向の移動力が入力される。
従って、保持部材22と挟持部材32との相対的な最接近動作により保持部材22の前側貫通穴23に上方から挿通された上糸を、保持部21と挟持部31の平面部30とにより挟持することが可能である。また、挟持された上糸は、平面部30の下端部から前方に向かって延設された屈曲部36により、前方に向かって折り曲げられ、上糸を前方から下方にしなる状態とすることができる。これにより、上糸端部は、屈曲部36により、より前方に位置した状態で垂れ下がることとなるので、その下方に位置する釜機構120の中釜122よりも前方にずらされて、当該中釜122への接触や巻き込みを防止することができる。
移動手段40について図6〜14に基づいて説明する。
移動手段40は、糸保持具20を針下位置と糸屈曲位置と待機位置と糸弛み位置(中間位置)とに移動位置決めする。
糸保持具20は、後述する関連動作手段60の構造により、移動手段40によって前後方向に移動されると、当該移動方向における各位置に応じて、保持部材22の保持部21と挟持部材32の平面部30の開閉状態が変化する。
ここで、針下位置とは、保持部材22の保持部21と挟持部材32の平面部30とが完全に開口し、糸保持具20の先端が縫い針の上下動経路Nの下方となる位置をいう。
糸屈曲位置とは、針下位置よりも後方であって、保持部材22の保持部21と挟持部材32の平面部30とが完全に閉じる手前の状態とする位置をいう。
待機位置とは、保持部材22の保持部21と挟持部材32の平面部30とが完全に閉じた状態となり、上記四位置の中で最も後方となる位置をいう。
糸弛み位置とは、保持部材22の保持部21と挟持部材32の平面部30とが完全に閉じた状態を維持し、糸屈曲位置と待機位置との間となる位置をいう。
主動リンク体43は、その一端部が糸掴みモータ42の出力軸に固定連結され、その他端部が伝達リンク体45の一端部に回動可能に連結されている。
従動リンク体44は、その一端部が関連動作手段60の後述するガイド板61に軸支され、その他端部が伝達リンク体45の他端部に回動可能に連結されている。また、略くの字形の従動リンク体44には関連動作手段60の相対位置調節リンク63にY軸方向に沿った移動力を付与するための係合突起52が設けられている。
伝達リンク体45は、ほぼY軸方向に沿うように配設され、糸掴みモータ42の駆動による主動リンク体43の揺動と共に従動リンク体44を揺動させる。
これらの構成により、糸掴みモータ42が駆動すると主動リンク体43の揺動と共に従動リンク体44が揺動し、係合突起52を介して関連動作手段60の相対位置調節リンク63がY軸方向に沿って移動を行う。
かかる移動位置検出手段46は、発光素子と受光素子とを有しこれらの間の遮蔽物の存在の有無を検出する第一及び第二の状態センサ47,48と、前述したY軸移動機構41の伝達リンク体45に設けられ、第一〜三の遮蔽領域51a,51b,51cを有する遮蔽板51とを備えている。これら第一〜三の遮蔽領域51a,51b,51cは遮蔽板51の前端部から後方に向かって順番に形成されている。
そして、図8に示すように、糸保持具20が針下位置にあるときには、第一〜第三の遮蔽領域51a,51b,51cはいずれのセンサ47,48も遮蔽しない配置となっている。つまり、伝達リンク体45及び係合突起52を前進させたときに、第一の状態センサ47がOFF状態(非遮蔽状態)、第二の状態センサ48もOFF状態となった時に針下位置であることを検出することができる。
また、図10に示すように、糸保持具20が糸屈曲位置にあるときには、第一の遮蔽領域51aはいずれのセンサ47,48も遮蔽せず、第二の遮蔽領域51bが第一の状態センサ48を遮蔽し、第三の遮蔽領域51cが第一のセンサ47を遮蔽する配置となっている。つまり、針下位置から伝達リンク体45及び係合突起52を後退させたときに、第一の状態センサ47がON状態(遮蔽状態)、第二の状態センサ48もON状態となった時に糸屈曲位置であることを検出することができる。
また、図12に示すように、糸保持具20が待機位置にあるときには、第一の遮蔽領域51aは第二のセンサ48を遮蔽し、第二の遮蔽領域51bはいずれのセンサ47,48も遮蔽せず、第三の遮蔽領域51cもいずれのセンサ47,48も遮蔽しない配置となっている。つまり、糸屈曲位置から伝達リンク体45及び係合突起52を後退させたときに、第一の状態センサ47がOFF状態、第二の状態センサ48がON状態となった時に待機位置であることを検出することができる。
また、図14に示すように、糸保持具20が糸弛み位置にあるときには、第一の遮蔽領域51aはいずれのセンサ47,48も遮蔽せず、、第二の遮蔽領域51bもいずれのセンサ47,48も遮蔽せず、第三の遮蔽領域51cは第一のセンサ47を遮蔽する配置となっている。つまり、待機位置から伝達リンク体45及び係合突起52を前進させたときに、第一の状態センサ47がON状態、第二の状態センサ48がOFF状態となった時に糸弛み位置であることを検出することができる。
なお、針下位置については、動作制御手段80が、ミシン100の主電源投入時に移動位置検出手段46を利用して初期位置制御部としての制御を行い、糸掴みモータ42を駆動して針下位置を検索し、その位置で待機する。
また、縫製開始後の第一針目においてミシンモータ105のエンコーダ109により、縫い針104が布地から上方に抜けたことを認識して糸保持具20を糸屈曲位置に位置決めする上糸保持制御部としての制御を行う。かかる糸屈曲位置では、保持部材22の保持部21と挟持部材32の平面部30と間に若干の隙間を生じた状態なので、天秤107の引き上げ力により上糸の縫い開始端部は保持部材22の保持部21と挟持部材32の平面部30との間で摺動抵抗を生じつつ縫い針14側に摺動し、上糸の縫い開始端部の保持長さを低減することができる。
そして、第二針目においてミシンモータ105のエンコーダ109により縫い針104が布地から上方に抜けたことを検出すると、糸保持具20を待機位置に位置決めする制御を行う。これにより、保持部材22の保持部21と挟持部材32の平面部30とが閉じられた状態となり、これ以降天秤107の張力を受けても上糸の縫い開始端部は摺動することなく挟持される。
そして、最終針の針落ち後、針穴108aから中釜122に渡る上糸と下糸とが切断され、糸払いが行われると、糸保持具20を糸弛み位置に位置決めする制御を行う。待機位置に対して糸弛み位置は針穴108aに近い位置にあるので、かかる移動により上糸の縫い開始端部は糸保持具20と針穴108aの間で弛みを生じ、上糸の縫い開始端部を糸切り機構130の動メス136の回動範囲内に侵入させることができ、動メス136の回動により上糸の縫い開始端部の切断を行うことが可能となる。なお、糸弛み位置における上糸の縫い開始端部と動メス136の配置に関する詳細な説明は後述することとする。
関連動作手段60について図6乃至図16に基づいて説明する。
関連動作手段60は、挟持部材32と保持部材22とをそれぞれY軸方向に沿って往復可能に支持するガイド手段としてのガイド板61と、挟持部31と保持部21とが互いに接近する方向に挟持部材32と保持部材22との間に常時張力を付与する張力付勢手段としての引っ張りバネ62と、自らの揺動による姿勢変化に応じて挟持部31と保持部21とを接離させることを可能として挟持部材32と保持部材22のそれぞれに係合すると共に,移動手段40による糸保持具20の各移動位置への移動力が入力される相対位置調節リンク体63と、糸保持具20を糸弛み位置から針下位置に移動させると,相対位置調節リンク体63に当接して挟持部31と保持部21とを離間させる方向に揺動せしめる第一の当接部材64と、糸保持具20を糸弛み位置から待機位置に移動させると,相対位置調節リンク体63に摺接して挟持部31と保持部21とが密接した状態を維持するように相対位置調節リンク体63の傾きを一定に維持したまま後方へ移動可能とする第二の当接部材65と、を有している。
ガイド板61の上面にはそのX軸方向における中間位置にY軸方向に沿ったガイド溝66が設けられている。かかるガイド溝66には、糸保持具20の保持部材22及び挟持部材32が長手方向を揃えて重ね合わされた状態で格納され、さらにその上からは押さえ板67が保持部材22及び挟持部材32がガイド溝66から外れ落ちないように蓋をする。これにより、保持部材22及び挟持部材32はガイド溝66に案内されて各々Y軸方向に沿って滑動することが可能となる。但し、前述したように、保持部材22と挟持部材32とは引っ張りバネ62を介して連結されているので、外力が加わらない限り、各部材22,32は保持部21と挟持部31とを当接させた状態を維持することとなる。なお、図9,11,13,15では、保持部材22と挟持部材32のX軸方向幅が異なるように図示されているが、これは各部材22,32の相対的な位置関係を明瞭に図示するために便宜上異なるように表現しているのであって、実際には保持部材22及び挟持部材32はいずれも滑動可能な範囲でガイド溝66のX軸方向幅とほぼ等しく設定されている。
即ち、保持部材22との回動係合部70は、相対位置調節リンク体63の長手方向に沿った長穴状の貫通穴であり、係合ピン26が挿通される。挟持部材32との回動係合部71は、円形貫通穴であり、係合ピン39が挿通される。移動手段40との回動係合部72は、相対位置調節リンク体63の長手方向に沿った長穴状の貫通穴であり、係合突起52が挿通される。
図16を参照すると、保持部材22及び挟持部材32は、前述したように、外力を受けない限り引っ張りバネ62により保持部21と挟持部31との当接状態が維持される。かかる状態が上糸の挟持状態となる。そして、各係合ピン26,39は、保持部21と挟持部31とが当接状態にあるときにY軸方向についてほぼ同じ位置に並ぶように位置設定が図られている。従って、これら各係合ピン26,39と各回動係合部70,71を介して連結された相対位置調節リンク体63も、引っ張りバネ62の張力により通常状態にあってはほぼX軸方向に沿った状態が維持される(図16の実線で示した状態)。
かかる状態において、相対位置調節リンク体63に対して係合突起52を中心として反時計方向の回転力が加わると、当該相対位置調節リンク体63は揺動し、その姿勢に変化を生じる。このとき、各回動係合部70,71にはY軸方向に変位を生じることにより、保持部材22と挟持部材32との間に保持部21と挟持部31とが互いに離間する方向の外力が付与されることになる。従って、引っ張りバネ62の張力に抗して保持部21及び挟持部31が離間し、上糸の挟持状態から解放状態に切り替えられる。
なお、本実施形態では、係合突起52を後方に移動させると、ある地点で保持部21と挟持部31との間が閉じられて、それより後方へ移動させると保持部21と挟持部31の閉じた状態が維持される。そして、ミシン100では、係合突起52の後方移動において、保持部21と挟持部31との間が初めて閉じる位置を糸弛み位置に設定している。さらに、糸屈曲位置は、保持部21と挟持部31の間が閉じきってしまう手前の位置とする必要があるので、上記糸弛み位置よりも幾分前方に設定されている。
第二の当接部材65は、その摺接面がY軸方向に沿って平滑に形成されている。そして、相対位置調節リンク体63のX軸方向−側の端部に設けられた摺接部63aも平滑であって、保持部21と挟持部31とが当接状態のときにY軸方向に並行となるように形成されている。
このため、相対位置調節リンク体63がほぼX軸方向を向いた状態で針下位置から糸弛み位置に到達すると、摺接部63aに対して第二の当接部材65が摺接し、糸弛み位置から待機位置までの行程は、摺接部63aがY軸方向に平行な状態が維持されて、保持部21と挟持部31との当接状態が維持される。
なお、糸弛み位置から待機位置の区間では、引っ張りバネ62の張力により、第二の当接部材65がなくとも保持部21と挟持部31とが閉じた状態を維持することは可能だが、係合突起52の急峻な動作により慣性力などの影響により保持部21と挟持部31が開くことを防止することが可能となる。
糸保持具20が針下位置に位置決めされる場合、保持部21と挟持部31とは互いに離間し合う方向に移動することは、前述の通りである。そして、針下位置に到達すると、図8に示すように、保持部21は縫い針の上下動経路Nより前方に位置することになる。
また、挟持部31はその屈曲部36の先端部が、直線Mよりも少なくとも後方に位置することになる。この直線Mは、針穴108aの下端部における後方側縁部(下方から見た円形の針穴108aのY軸方向に沿った直径のY軸方向−側の端部となる位置)から縫い針の上下動経路Nの後方側に近接して配置された中釜122の後ろ側となる一方のレース面128における上端部とを連結することで決定される直線である。挟持部31の先端部の配置をこのように設定することで縫製における第一針目による上糸ループが中釜122の剣先121に補足され上糸ガイド板124の糸分け部124bによって広げられる(拡張される)場合に、挟持部31の先端部が上糸に接触して糸分け部124bがループを広げることが妨げられず、従って、上糸がレース面128に接触することを効果的に抑制することが可能である。
なお、上記保持部21の位置や挟持部31の先端位置は、保持部材21及び挟持部材32のY軸方向長さや相対位置調節リンク体63に対する第一の当接部材64の当接位置により決定される。例えば、第一の当接部材64の当接位置が移動手段40の回動係合部72寄りであれば保持部材21の位置はより前方となり、挟持部31の先端位置はより後方となる。また、当接位置が挟持部材32の回動係合部71寄りであれば保持部21の位置はより後方となり、挟持部31の先端位置はより前方となる。
図10及び図11は糸屈曲位置、図12及び図13は待機位置、図14及び図15は糸弛み位置に糸保持具20が位置する状態を示している。
図17(A)は糸保持具20が待機位置にあり、糸切り機構130の動メス136が前進回動から後退回動に切り替わる瞬間の配置を示している。このとき、上糸の縫い開始端部は針穴108aから糸保持具20の先端まで真っ直ぐに張られており、糸保持具20は動メス136よりもずっと後方に位置している。つまり、糸保持具20の待機位置は、少なくとも、動メス136が後退回動を行っても上糸の縫い開始端部が動メス136に捕捉されない程度に動メス136から離間した位置に設定される。
つまり、糸弛み位置は、挟持されていた上糸端部の切断を可能とする位置、具体的には、待機位置からの移動による上糸の弛みにより、上糸の縫い開始端部を動メス136の移動軌跡を示す平面上の領域内に侵入させることが可能な位置とすることが要求される。
なお、かかる条件を満たすためには、(1)動メス136が固定メス135に向けて上糸の縫い開始端部を運ぶ方向と糸保持具20の針下位置から待機位置までの移動方向とが互いに逆方向となる移動方向成分を含むこと(より望ましくは互いに逆方向であること)、(2)糸保持具の挟持により上糸の縫い開始端部に生じる引き抜きの際の摩擦力が少なくとも上糸の耐久張力以下であることも、要求される。
動作制御手段80について図18に基づいて説明する。図18はミシン100の制御系を示すブロック図である。かかる制御手段80は、詳細には図示しないが、各種演算処理を行うCPUと、制御、判断等各種処理用の各種プログラムが記憶、格納されたROMと、各種処理におけるワークメモリとして使用されるRAMと、各種の縫製データを格納したEEPROMとで概略構成されている。そして、制御手段80には、システムバス及び駆動回路等を介してミシンモータ105,そのエンコーダ109,糸掴みモータ42,移動位置検出手段46の第1の状態センサ47,第2の状態センサ48,ミシン100のS/S(スタートストップ)スイッチ81,縫製の設定条件入力や縫製データ選択を行う操作パネル85,糸切り等の駆動源である作動モータ82,被縫製物の移動を行うX軸モータ83,Y軸モータ84等が接続されている。
また、制御手段80は、移動位置検出手段46の第1の状態センサ47、第2の状態センサ48から入力される検出信号に基づき、糸保持具20の各移動位置を確認することができる。
また、制御手段80は、スタートスイッチ81から縫製開始信号が入力されると、確認、認識したミシンモータ105の回転角度や移動位置糸保持具46の動作位置検出に応じて、移動手段40の糸掴みモータ42の駆動を制御する。
上記構成からなるミシン100の動作を図8乃至図19に説明する。図19はミシン100の動作制御を示すフローチャートである。なお、ボタン縫着を行うために各針の針落ち位置を定めた縫製データ及び必要な各種のパラメータは予め設定されていることを前提して説明する。
以下の処理は、制御手段80のROMに格納された制御プログラムをCPUが実行することにより実現するものである。
そして、移動位置検出手段46により針下位置検出(初期位置検出)が行われる(ステップS3)。針下位置は、伝達リンク体45及び係合突起52が前進移動する方向に糸掴みモータ42を駆動した時に、第一の状態センサ47がOFF状態、第二の状態センサ48もOFF状態である否かにより判断される。これにより、糸保持具20を、縫い針の上下動経路N上に配置することができる(図8,9の状態)。
ミシンモータ108の駆動により、第一針目の針落ちが行われ、縫い針104は針板108の針穴108aに挿入され、保持部21と挟持部31との間を上糸が通過する。さらに、その下方において、縫い針104の脇の上糸ループが釜機構120の剣先に捕捉される。そして、中釜122の回転と上糸ガイド板124とにより上糸ループは広げられるが、その際、挟持部31の先端部が充分に後方に位置するため、上糸ガイド板124による上糸ループの拡大を遮らない。従って後方レース面128への上糸の接触は防止される。
糸屈曲位置は、伝達リンク体45及び係合突起52が針下位置から後退移動する方向に糸掴みモータ42を駆動した時に、第一の状態センサ47がON状態、第二の状態センサ48もON状態である否かにより判断される。これにより、糸保持具20を糸屈曲位置に配置することができる(図10,11の状態)。
待機位置は、伝達リンク体45及び係合突起52が糸屈曲位置から後退移動する方向に糸掴みモータ42を駆動した時に、第一の状態センサ47がOFF状態、第二の状態センサ48がON状態である否かにより判断される。これにより、糸保持具20を待機位置に配置することができる(図12,13の状態)。
また、糸保持具20の待機位置への移動の間だけ、糸調子装置106の糸張力を通常の縫いの張力よりも低減するように糸張力ソレノイド86の制御が行われる(ステップS8)。
かかる糸保持具20の待機位置への移動により、上糸の縫い開始端部は針穴108aから真っ直ぐに後方に引っ張られた状態となる。
また、最終針の場合には、エンコーダ109の出力からミシンモータ105二より観点駆動される上軸が所定の糸切り角度か判定される(ステップS11)。糸切り角度とは、下降した縫い針104から上糸のループが捕捉され、糸分け部124bにより縫い針側の糸NFと布側の糸NBとに十分に分離される角度である。
次いで、ミシンモータ105を停止させた後に(ステップS13)、動作制御手段80は、作動モータ82を「一回目の動メス後退」を実行する角度に回転駆動し、動メス136を固定メス135側に戻る方向に回動させ、上糸の布側の糸NB糸のみと下糸とを切断する(ステップS14)。このとき、図17(A)に示すように、上糸の縫い開始端部は針穴108aから真っ直ぐに後方に引っ張られた状態なので、前進と後退を行う動メス136により捕捉されたり切断されることはない。
さらに、糸切断後、動作制御手段80は、作動モータ82を「糸払い部材の往復回動」を実行する角度に回転駆動し、縫い針104の下方で糸払い部材を往復回動させて、上糸の縫い針側の糸NFを布地から抜き払う(ステップS15)。
もし、第一針目の針落ち位置と最終針の針落ち位置とが同じである場合には、処理をステップS18に進め、異なる場合には第一針目の針落ち位置に針落ちが行われる位置に布地及びボタンを移動するようにX軸モータ83及びY軸モータ84の駆動制御が行われてから(ステップS17)、ステップS18に処理が進められる。
糸弛み位置は、伝達リンク体45及び係合突起52が待機位置から前進移動する方向に糸掴みモータ42を駆動した時に、第一の状態センサ47がON状態、第二の状態センサ48がOFF状態である否かにより判断される。これにより、糸保持具20を糸弛み位置に配置することができる(図14,15の状態)。
糸保持具20が待機位置から糸弛み位置に移動すると、図17(B)に示すように、上糸の縫い開始端部は針板108の針穴108aから糸保持部20の間で大きく弛みを生じた状態となる。
さらに、上糸の縫い開始端部は動メス136の刃部136cと固定メス135の先端の刃部とに挟まれて切断される(図17(D))。切断された上糸の縫い開始端部は、ミシンのカバー内に落下して回収される。また、取り出し可能な専用の受け皿をミシン内の底部に設けても良い。
以上のように、ミシン100では、最終針まで縫い開始端部が糸保持具20に挟持されるため、途中で解放される場合のように下糸の縫い目に巻き込まれて鳥の巣状態が発生する事態を効果的に回避することが可能となる。
そして、最終針の針落ち後に糸保持具20を待機位置から糸弛み位置まで移動してから糸切り機構130を作動させるので、針穴108aから糸保持具20に向かって延びていた状態の上糸の縫い開始端部はたるみを生じ、針穴108aの下方で幾分垂れ下がった状態となるため、糸切り機構130の動メス136は縫い開始端部を切断することが可能となる。また、このとき糸保持具20では上糸の縫い開始端部を解放していないので、フリーな状態で垂れ下がった糸を切断する場合と異なり、糸切り機構130は良好に切断を行うことが可能となる。
なお、上記ミシン100の動作制御手段80は、針穴108aから中釜122に渡る上糸及び下糸の切断を行ってから、それとは別駆動で上糸の縫い開始端部の切断を行っているが、針穴108aから中釜122に渡る上糸及び下糸と上糸の縫い開始端部とは動メス136の一回の往復回動でまとめて切断しても良い。その場合、作動モータ82の所定方向の回転により、「布保持部材下降」、「動メス前進」、「動メス後退」、「糸払い部材の往復回動」、「布保持部材上昇」がこの順番で実行されるようにカム143及びカム131のカム形状が設定される必要がある。また、その場合、前述した縫製処理のステップS1〜S20までの処理の内、ステップS16とS17の処理をステップS11の次に行い、ステップS18の処理をステップS12又はS13の次に行い、ステップS20の処理をステップS15の次に行い、ステップS19の処理は行わないことで実現可能である。
20 糸保持具
40 移動手段
60 関連動作手段
80 動作制御手段
83 X軸モータ
84 Y軸モータ
100 ミシン
104 縫い針
108 針板
108a 針穴
130 糸切り機構
140 布保持機構(移動機構)
M 針穴の釜軸側側縁と中釜の釜軸側レース面の上端縁とを結ぶ直線
N 縫い針の上下動経路
Claims (4)
- 針板の下側において上糸の縫い開始端部の挟持と解放とを切り替え可能な上糸保持装置と、
前記針板の針穴の下方で上糸を捕捉して下糸を絡める釜機構と、
前記針板の針穴と前記釜機構との間を渡る上糸及び下糸を切断する糸切り機構とを備え、
前記上糸保持装置は、縫い針の通過線上となる針下位置と当該針下位置から離間した待機位置との間を前記針板の下面に沿って移動可能であって、前記針下位置では前記上糸を解放状態とし、前記針下位置と前記待機位置との間に位置する中間位置から前記待機位置までの間では前記上糸を挟んで挟持した状態となる糸保持具を備え、
縫い開始の一針目の針落ち時には前記糸保持具を針下位置とし、二針目の針落ち以降は、前記糸保持具は待機位置に位置し、最終針の針落ち後に前記糸保持具を前記待機位置から前記中間位置に移動してから糸切り機構を作動させて前記上糸の縫い開始端部の切断を行う動作制御手段を備えることを特徴とするミシン。 - 前記動作制御手段は、前記最終針の針落ち完了後、前記糸保持具を待機位置に維持したまま前記糸切り機構を作動させて前記針板の針穴と前記釜機構との間を渡る上糸及び下糸を切断し、その後、前記糸保持具を前記中間位置に移動させて前記上糸の縫い開始端部の切断を行うことを特徴とする請求項1記載のミシン。
- 前記動作制御手段は、前記最終針の針落ち完了後、前記糸切り機構の一回の作動により前記針板の針穴と前記釜機構との間を渡る上糸及び下糸と前記上糸の縫い開始端部の切断を行うことを特徴とする請求項1記載のミシン。
- ボタン縫着が行われる被縫製物を移動して前記縫い針を所定位置に針落ちさせる被縫製物の移動機構を備え、
前記動作制御手段は、第一針の針落ち位置と最終針の針落ち位置とが一致しない場合には、前記最終針の針落ち後、前記糸保持具を前記中間位置に移動させる前に、前記被縫製物を前記縫い針に対して前記第一針の針落ち位置に位置合わせするように前記移動機構を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のミシン。
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