JP4735529B2 - モータの固定子 - Google Patents
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Description
固定子の製造方法は、導体コイルをインシュレータに挿入したものを、固定子コアに装着して、バスパー等を組み込んで、全体をモールドしている。
ここで、インシュレータと導体コイルとの隙間は、熱伝導性を高めるため、狭く設定されている。そのため、インシュレータに導体コイルを装着して、全体のモールドを行うと、その隙間にモールド材が十分に進入せずに空気層が残る問題があった。インシュレータと導体との間に空気層が形成されると、空気層は熱伝達率が悪いため熱伝導性が大きく低下し、モータの放熱が不十分となる問題がある。
例えば、特許文献1に記載された発明では、絶縁が施されていない平角線をスロット絶縁物に挿入した状態で、エポキシ系熱硬化性樹脂を用いて一度モールドし、組み付け後、全体をエポキシ系熱硬化性樹脂で再度モールドする技術が記載されている。すなわち、導体コイルに相当する平角線を、インシュレータに相当するスロット絶縁物内に挿入し、それをスロットに装着した状態で、一度エポキシ系熱硬化性樹脂でモールドする。そして、固定子を構成する部品を組みあげた状態で、再度全体をエポキシ系熱硬化樹脂でモールドして固定子を完成させている。
また、インシュレータの材料としては、生産性を高めるため、熱可塑性樹脂を使用している。しかし、線膨張率をコイルや固定子コア並みに下げ、熱伝導性を高めるために、フィラを高充填すると、熱可塑性樹脂の場合、流動性が低下し、また靭性も低下するため、インシュレータ自体に割れが発生する問題がある。
すなわち、インシュレータと導体コイルとの隙間にモールド材が進入するため、隙間に空気層が残る可能性は低くなったが、図12に示すように、導体コイル102と固定子コア101との間に、一度目のモールドでインシュレータ104と導体コイル102の隙間にモールド材が進入して形成されたエポキシ樹脂モールド層105、インシュレータ104、全体モールドで形成されたエポキシ樹脂モールド層103という3つの層が介在し、5つの層の間に4つの界面が存在する。一般的に、界面における熱伝導率は層内におけるよりも低いことが知られている。また、熱伝導率が各層により変化し、安定した伝熱作用を実現できないため、熱伝導性をより高くすることが困難であった。
また、クラックの発生は界面における層の剥離を起因とすることが多い。そのため、界面数が多いと、耐クラック性も低下する問題がある。
近年、ハイブリッド自動車において、高トルクを出力するために小型で高圧電流を流すモータの開発が進められており、モータの高温化を防ぐために、より熱伝導性が高く、耐クラック性が高い固定子が求められているが、それを実現することが困難であった。
(1)固定子コアに導体コイルが巻かれた固定子コイルを複数備えるモータの固定子であって、固定子コアまたは導体コイルに、熱硬化性樹脂をインサート成形することにより、インシュレータが一体成形されていること、複数のコイルを備える固定子が熱硬化性樹脂でモールドされていることを特徴とする。
(2)(1)に記載するモータの固定子において、前記インシュレータの材料となる熱硬化性樹脂と、前記モールドで使用する熱硬化性樹脂とが、線膨張率の同じ樹脂であることを特徴とする。
(3)(1)に記載するモータの固定子おいて、前記インシュレータの材料となる熱硬化性樹脂の熱伝導率が、前記モールドで使用する熱硬化性樹脂の熱伝導率より大きいことを特徴とする。
固定子コアに熱硬化性樹脂をインサート成形する場合、固定子コアが複数個に分割された分割コアとすると、分割コアに対してインサート成形し易い。金型のキャビティは、分割コアにインシュレータが付加されたものとされており、そのキャビティ内に分割コアをインサートして、例えば、エポキシ系の熱硬化性樹脂を射出成形する。これにより、エポキシ系熱硬化性樹脂が、加圧されながら分割コアの表面に成形される。インサート成形によれば、エポキシ系熱硬化性樹脂を加圧して射出するため、分割コアの表面にエポキシ系熱硬化性樹脂を密着させてインシュレータを分割コアと一体的に形成することができる。そのため、界面の数を1つ減少させることができ、界面に起因する熱伝導性の低下、耐クラック性の低下を防止することができる。さらに、エポキシ系熱硬化性樹脂は、接着機能を備えるため、より熱伝導を高くすることができる。
また、インシュレータの材料となる熱硬化性樹脂の熱伝導率が、モールドで使用する熱硬化性樹脂の熱伝導率より大きくしているので、モールドをできるだけ薄くすることにより、熱伝導率の高い高価な材料の使用量を減少させ、モータの放熱特性を維持しつつ、トータルとしてコストを低減することができる。
金型は、上型1と下型2とで構成されている。上型1と下型2とで形成されるキャビティは、分割コア3にインシュレータ4が付加された空間とされており、そのキャビティ内に分割コア3をキャビティ内に装着して、例えば、エポキシ系の熱硬化性樹脂をキャビティ内に射出成形する。これにより、エポキシ系熱硬化性樹脂が、加圧されながら分割コアの表面にインシュレータ4として成形される。インサート成形によれば、分割コアの表面にエポキシ系熱硬化性樹脂を密着させてインシュレータ4を分割コア3と一体的に形成することができる。特に、エポキシ系熱硬化性樹脂は、接着性が高いので、インシュレータ4が分割コア3の表面に密着接着するので、インシュレータ4と分割コア3の表面との間に隙間が全くできない。
できあがったインシュレータ4が一体的に形成されたインシュレータ付分割コア6を、図2に示す。(a)がカセットコイル5を組み込む前であり、(b)がカセットコイル5を組み込んだ後である。インシュレータ4の厚さは、数百ミクロンであるが、図では強調して厚く記載している。
(a)に示すように、分割コア3のカセットコイル5と接触する部分、すなわち、カセットコイル5の中空部が装着される凸部、凸部の周辺の内周面については、かなりの部分がインシュレータ4により覆われている。
(b)に示すように、カセットコイル5と分割コア3との全ての間に、インシュレータ4が存在して、導体コイルの絶縁性を高めている。
ここで、モールド8に使用する樹脂は、エポキシ系熱硬化性樹脂であり、インシュレータをインサート成形で製造するときと、同じ線膨張率を有するものを使用している。
インシュレータ4の材料と、モールド8で使用する材料とを、同じエポキシ系熱硬化樹脂として、フィラ充填後の線膨張係数が同じとなるように調整しているので、インシュレータ4とモールド8とが、モータの温度上昇に伴ない同じ量だけ膨張するため、インシュレータ4とモールド8の界面で、剥離が発生する可能性を低くして、耐クラック性を向上させることができる。
さらに、インシュレータ4の材料となる熱硬化性樹脂の熱伝導率を、モールド8で使用する熱硬化性樹脂の熱伝導率より大きくすれば、インシュレータ4の放熱性をより高めることができる。
薄板鋼板が積層された分割コア3の表面に、インシュレータ4が一体的に密着して接着接合されている。すなわち、積層された薄板鋼板の重ねあわせにより生じる隙間まで、インシュレータ4が進入して、インシュレータ4が形成されている。インシュレータ4が、分割コア3に密着して接着結合しているので、モールド8がインシュレータ4と分割コア3との間に進入することがない。そのため、分割コア3、インシュレータ4、モールド8、カセットコイル5の4つの層ができており、界面は3つとなる。図12の従来の構造と比較して、界面を1つ減少させることができている。
界面を1つ減少させることにより、界面で発生する剥離を起因とするクラックの発生を減少させることができる。また、界面が少なく、インシュレータ4が分割コア3に密着しているため、図12の場合と比較して、熱伝導性を高めることができる。
また、インシュレータ4の材料となる熱硬化性樹脂と、モールド8で使用する熱硬化性樹脂とが、高熱伝導性の同じ樹脂であるので、線膨張率が同じで、界面においてモータの温度上昇に伴ない、インシュレータ4とモールド8とが一緒に伸び縮みするため、界面での剥離を減少させ、耐クラック性を高めることができる。
一方、熱伝導性を高めるためには、マトリックスの熱伝導率やフィラの熱伝導率を高めなければならないが、いずれの対策も高価であり、コストアップする問題がある。モールド8は、コイルエンドで多量に使用されているに対し、インシュレータは、数百ミクロンの厚みであり、使用量は圧倒的に少量である。従って、インシュレータ4の熱伝導性を高めても、ほとんどコストを上げることがない。
図5に、カセットコイル5にインシュレータ4をインサート成形するための金型の平面断面図を(a)に示す。(a)のAA断面図を(b)に示し、BB断面図を(c)に示す。(b)、(c)は、断面図であるが、斜線を省略している。金型は、上型11と下型12とで構成されている。上型11と下型12とで形成されるキャビティは、カセットコイル5の巻線部の内側表面にインシュレータ4が付加された空間とされており、そのキャビティ内にカセットコイル5の巻線部をインサートして、例えば、エポキシ系の熱硬化性樹脂を射出成形する。
カセットコイル5の導体コイルは平角状のものをエッヂワイズでらせん状に巻いたものである。インシュレータ4は、カセットコイル5の内側の角部の4箇所に形成される。すなわち、インシュレータ4はカセットコイル5の内面全周にわたって連続的に形成されていない。インシュレータ4を連続的に形成できないのは、カセットコイル5を外側で位置決めすることが難しく、カセットコイル5の内側で位置決めするため、インシュレータ5を分断して、その分断した位置でカセットコイル5を位置決めしているからである。
すなわち、(c)に示すように、BB断面の位置でカセットコイル5の重ねられた導体コイルが4面全てで金型により位置決めされている。これにより、AA断面におけるインシュレータ4を形成すべき空間が位置決めされ、その部分にエポキシ系熱硬化性樹脂を射出成形することにより、インシュレータ4がカセットコイル5の内周面に、密着して接着結合される。
図7に、インシュレータ付カセットコイル9が固定子コア13に組み込まれた状態を示す。(a)が平面図であり、(b)が側面図である。
図7の(a)及び(b)に示すように、カセットコイル5の固定子コア13と接触する部分、すなわち、固定子コアの凸部が装着されるカセットコア5の内周面、カセットコイル5の固定子コア13と接触する側の端面については、かなりの部分がインシュレータ4により覆われている。このように、カセットコイル5と固定子コア13との全ての間に、インシュレータ4が存在して、導体コイルの絶縁性を高めている。
ここで、モールドに使用する樹脂は、エポキシ系熱硬化性樹脂であり、インシュレータをインサート成形で製造するときと、同じ線膨張率を有するものを使用している。
インシュレータ4の材料と、モールド8で使用する材料とを、同じエポキシ系熱硬化樹脂として、フィラ充填後の線膨張係数が同じとなるように調整しているので、インシュレータ4とモールド8とが、モータの温度上昇に伴ない、同じ量だけ膨張するため、インシュレータ4とモールド8の界面で、剥離が発生する可能性を低くして、耐クラック性を向上させることができる。
さらに、インシュレータ4の材料となる熱硬化性樹脂の熱伝導率を、モールドで使用する熱硬化性樹脂の熱伝導率より大きくすれば、インシュレータ4の放熱性をより高めることができる。すなわち、熱発生源であるカセットコイル5とインシュレータ4とが、密着し接着して一体化しているので、熱伝導性が高いため、カセットコイル5で発生した熱をより効率的にモールド8に伝導することができる。
薄板鋼板が積層されたカセットコイル5の表面に、インシュレータ4が一体的に密着して接着接合されている。すなわち、導体コイルの重ねあわせにより生じる隙間まで、エポキシ系熱硬化性樹脂が進入して、インシュレータ4が形成されている。インシュレータ4が、カセットコイル5に密着して接着結合しているので、モールド8がインシュレータ4とカセットコイル5との間に進入することがない。そのため、カセットコイル5、インシュレータ4、モールド8、固定子コア13の4つの層ができており、界面は3つとなる。図12の従来の構造と比較して、界面を1つ減少させることができている。
界面を1つ減少させることにより、界面で発生する剥離を起因とするクラックの発生を減少させることができる。また、界面が少なく、インシュレータ4がカセットコイル5に密着しているため、図12の場合と比較して、熱伝導性を高めることができる。
また、インシュレータ4の材料となる熱硬化性樹脂と、モールドで使用する熱硬化性樹脂とが、線膨張率の同じ樹脂であるので、界面において一緒に伸び縮みするため、界面での剥離を減少させ、耐クラック性を高めることができる。
一方、熱伝導性を高めるためには、マトリックスの熱伝導率やフィラの熱伝導率を高めなければならないが、いずれの対策も高価であり、コストアップする問題がある。モールド8は、コイルエンドで多量に使用されているに対し、インシュレータは、数百ミクロンの厚みであり、使用量は圧倒的に少量である。従って、インシュレータ4の熱伝導性を高めても、ほとんどコストを上げることがない。
例えば、本実施例では、分割コア3を焼きばめリング7を用いて、分割コア3を一体化しているが、ボルト等による機械的な締結により分割コア3の外周を締めて固定しても良い。
2 12 下型
3 分割コア
4 インシュレータ
5 カセットコイル
6 インシュレータ付分割コア
7 焼きばめリング
8 モールド
9 インシュレータ付カセットコイル
13 固定子コア
Claims (4)
- 固定子コアに導体コイルが巻かれた固定子コイルを複数備えるモータの固定子において、
前記固定子コアに、熱硬化性樹脂をインサート成形することにより、インシュレータが一体成形されていること、
前記複数のコイルを備える固定子が熱硬化性樹脂でモールドされていること、
前記固定子コアと前記固定子コイルとの間には、前記固定子コアの、固定子軸心方向の両端面をつなぐ面形状の面状界面として、前記固定子コアと前記インシュレータとの面状界面、前記インシュレータと前記モールドとの面状界面、及び前記モールドと前記固定子コイルとの面状界面のみが、面状界面として存在すること、
を特徴とするモータの固定子。 - 固定子コアに導体コイルが巻かれた固定子コイルを複数備えるモータの固定子において、
前記導体コイルに、熱硬化性樹脂をインサート成形することにより、インシュレータが一体成形されていること、
前記複数のコイルを備える固定子が熱硬化性樹脂でモールドされていること、
前記固定子コアと前記固定子コイルとの間には、前記固定子コアの、固定子軸心方向の両端面をつなぐ面形状の面状界面として、前記固定子コアと前記モールドとの面状界面、前記モールドと前記インシュレータとの面状界面、及び前記インシュレータと前記固定子コイルとの面状界面のみが、面状界面として存在すること、
を特徴とするモータの固定子。 - 請求項1または請求項2に記載するモータの固定子において、
前記インシュレータの材料となる熱硬化性樹脂と、前記モールドで使用する熱硬化性樹脂とが、線膨張率の同じ樹脂であることを特徴とするモータの固定子。 - 請求項1または請求項2に記載するモータの固定子おいて、
前記インシュレータの材料となる熱硬化性樹脂の熱伝導率が、前記モールドで使用する熱硬化性樹脂の熱伝導率より大きいことを特徴とするモータの固定子。
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