JP3677220B2 - マグネシウム系水素吸蔵合金 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、水素の分散輸送・貯蔵用素材として有用な水素吸蔵合金に関し、とくに低温・低圧下での水素吸蔵量が大きいマグネシウム系水素吸蔵合金に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、石油代替エネルギーとして水素エネルギーが期待されている。しかし、その実用化にはインフラの整備や安全面など、解決すべき多くの課題が残されている。
水素は、高圧ガスボンベに詰めると、その体積を約150分の1にまで圧縮することができ、また液化することにより約800分の1まで圧縮することができる。一方、水素吸蔵合金は、気体状の水素を合金内に吸蔵(吸収)し、固体として蓄えることができるため、体積を見かけ上約1000分の1程度にまで縮小することができる。しかも、水素吸蔵合金に貯蔵した水素は、液体水素や高圧水素ガスに比べて取り扱い方法が単純である。従って、水素の分散輸送・貯蔵を水素吸蔵合金を用いて行うことは、実用上、大きなメリットがあり、さらに水素を高圧ガスや液体として取り扱う必要もないため、安全面においても有利である。
また、かかる水素吸蔵合金によれば、温度や圧力の調整のみで、水素を吸収したり、または放出することができるため、この水素吸蔵合金を用いて安価な水素貯蔵設備の建設も可能であり、エネルギーコストの低下を図ることができる。
こうした理由から、また、将来のエネルギー政策の観点からも高性能な水素の分散輸送・貯蔵用水素吸蔵合金の開発が焦眉の急務となっている。
【0003】
これまでに発見されている水素吸蔵合金としては、LaNi5等のAB5型、ZrMn2等のAB2型、TiFe等のAB型、Mg2Ni等のA2B型の二元系金属間化合物などが主なものとして知られている。これらのうち、Mg2Niを除く水素吸蔵合金では、水素吸蔵量が合金の重量に対し、LaNi5で約1.4mass%、ZrMn2で約1.7mass%、TiFeで約1.8mass%と小さく、さらに希土類元素あるいはZr等の比較的重い元素を主体としているため、重量あたりの水素吸蔵量を増加させることが困難であり、また例えばV等は、高価であるためコスト的にもメリットが少ない。
【0004】
一方、A2B型合金の代表であるMg2Niは、水素吸蔵量が約3.6mass%と他の合金に比べると著しく大きいが、さらに高容量の水素吸蔵合金の開発が求められている。特に、マグネシウムを主体とした水素吸蔵合金は、非常に大きい水素吸蔵性能をもっていることが知られている。なお、マグネシウム単体金属について見ると、その水素吸蔵量(H2/(H2+Mg))は7.6mass%にも達するものである。
【0005】
しかしながら、このマグネシウム系水素吸蔵合金は、現在までのところ実用化されていないのが実情である。その理由としては、マグネシウム合金の初期活性化が困難であることが考えられる。というのは、マグネシウムは、水素を吸収し易い一方で、安定な水素化物を形成しやすいため、水素を吸蔵・放出させるためには、350〜450℃、10〜20MPaという高温・高圧状態に維持することが必要であるが、このことが水素吸蔵合金としての実用化を困難にしている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、実用条件(低温・低圧)下において、多量の水素を容易に吸蔵・放出することができるマグネシウム系水素吸蔵合金を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
従来のマグネシウム系水素吸蔵合金が抱えている上述した課題を解決し、上記目的を実現するために鋭意研究した結果、発明者らは、初期活性化特性と金属組織との間に一定の関係があることを見出し、金属組織学的な考察を加えて、本発明に想到した。
【0008】
即ち、本発明は、金属マグネシウム(Mg)およびマグネシウム含有金属間化合物(MgxMy:ただし、y=1-x)とからなり、かつマグネシウムを合計で60mass%以上含有する合金であって、その凝固組織中に、初晶析出した前記マグネシウム含有金属間化合物相を有することを特徴とするマグネシウム系水素吸蔵合金である。ただし、全マグネシウム(≧60mass%)中に占める金属マグネシウムの量は、7〜45mass%程度であり、その残部がマグネシウム含有金属間化合物中のマグネシウムとなっていることが好ましい。そして、その金属間化合物中に占めるマグネシウムの量は、16〜63mass%程度を含有していることが好ましい。
【0009】
本発明において、上記マグネシウム含有金属間化合物を構成する合金化元素は、Al、Si、Ca、Co、Ni、Cu、Sr、Y、Pd、Sn、BaおよびLnから選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましく、また、温度300℃以下、3MPa以下の水素圧条件下において、初期活性化するものであることが好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
上述したように、マグネシウムを主成分とする合金は、水素吸蔵量が大きいことが特徴であるが、水素を吸蔵・放出できるようにするための初期活性化特性が悪いという欠点がある。
【0011】
この欠点は、金属マグネシウム相自体が水素ガス分子の解離の触媒作用に乏しいことと、水素化時に表面に生じたマグネシウム水素化物中での水素の拡散速度が遅いため、水素化が内部に進行していかないためであると考えられる。
【0012】
そこで、本発明では上述した知見に基づき、マグネシウムおよびマグネシウム含有金属間化合物の凝固組織を制御することにより、マグネシウムが具えている大きな水素吸蔵特性は生かしたまま、初期活性化特性を改善することにした。このようにして開発した本発明に係るマグネシウム系水素吸蔵合金は、主成分であるマグネシウム(以下、Mgと略記する)の他に、このMgを含む水素を吸蔵することができる金属間化合物を含むものからなるものである。
ここで、Mgと結合して金属間化合物を形造る合金化元素(以下、単にMと略記する)としては、Ln(ランタノイド元素)、Ni、Ca、Al、Ba、Cu、Pd、Si、Sr、YおよびSnから選ばれる少なくとも1種の元素を用いられる。これらの元素は、Mg相と平衡する一般式:MgxMyからなる金属間化合物を形成する。
【0013】
本発明において、上記Mg金属間化合物は、これを水素吸蔵合金として利用するために、このMgxMy金属間化合物と共に金属Mgとを所定の組成となるように混合し、溶解、鋳造して合金化させる。このとき、凝固に際し、液相から共晶反応を伴なってMg相とMgxMy金属間化合物相の2相を生成して水素吸蔵合金となるが、重要なことは、凝固に際してMgを初晶析出させず、Mg含有金属間化合物の方を初晶として析出させるような組成にすることである。
【0014】
一般に、Mg含有量が共晶点よりも多い合金では、凝固時にMg相が初晶として析出し、一方、Mg含有量が共晶点よりも少ない合金では、凝固時にMgxMy金属間化合物相が初晶として析出する。
例えば、図1は、Mg-Ni2元合金の状態図を示すものであるが、マトリックス部分の金属Mgを含め、Mgの合計含有量が共晶点(Mg:76.5mass%)未満、例えば60〜76.4mass%の範囲内であれば、凝固時に、図2示す金属組織写真(×100倍)の如き組織、すなわちMgxNiy金属間化合物が初晶析出した組織となる。これに対し、Mgの合計含有量が77mass%を超える場合には、図3に示す金属組織写真(×100倍)の如き組織、すなわちマトリックス(MgとMg2Niの混相)部分に点状に分散した金属Mgが初晶析出することになる。
【0015】
前者(図2)の場合、M元素(ただし、Niを除く)、MgxMy相が最初の水素化の際に容易に活性化し、M元素の水素化物あるいはM元素とMg水素化物相の2相に分解し、不均化反応を起こす。そして、この不均化反応により生じたM元素の水素化物あるいはM元素は、Mg相中において、水素の拡散(導入)経路を提供することになると共に、水素ガス分子を単原子に解離させる触媒としても作用する。このため、このMg系水素吸蔵合金は、容易に初期活性化し、多量の水素を容易に吸蔵することができるようになる。
【0016】
なお、上記M元素がNiの場合については、生成する金属間化合物相Mg2Ni自体の触媒性能が高く、また水素と反応して直接Mg2NiH4を生成し、これがMg相中において水素の拡散経路を形造るため、上記M元素と同様にこの合金もまた容易に初期活性化する。
【0017】
一方、後者(図3)では、初晶凝固したMg相自体が水素化の際、表面上に安定な水素化物を生成する。このため、Mg水素化物中の水素拡散速度が遅くなり、水素化が内部へ進行せず、また、Mg相自体が水素ガス分子の解離の触媒作用にも乏しく、合金内の水素拡散経路を形成しないことから、活性化が著しく困難となる。そのため、理論吸蔵量まで水素を吸蔵することができないのである。
【0018】
本発明に係る水素吸蔵合金は、5mass%以上の理論水素吸蔵量を得るという観点から、上記金属間化合物のMgを含むMgの合計含有量は60mass%以上とする。その理由を以下に説明する。上記Mg金属間化合物がMgxNiyで表わされる場合について考えると、この合金に水素を吸蔵させ、Mg2Niを水素化させると、下記▲1▼、▲2▼のように反応する。
▲1▼ Mg2Ni+2H2 → Mg2NiH4 (4H/Mg2Ni=3.7mass%)
▲2▼ Mg+H2 → MgH2 (2H/Mg=8.2mass%)
上記▲1▼、▲2▼式からわかるように、Mg2NiとMgは水素化した場合、形態の違いは関係なく、Mg/モルに対して水素原子2モルと結合することになる。即ち、Mgが100mass%の場合の水素吸蔵量は8.2mass%であることから、水素吸蔵量:5.0mass%を確保するためには、Mg含有量を(5.0mass%÷8.2mass%×100≒60%)60mass%以上とすることが必要になる。
【0019】
一方、このMgの合計含有量の上限は、上述したように共晶点組成である。各合金化元素(M)のMg mass%の上限を化合物形態と共に表1に示す。
【0020】
【表1】
Figure 0003677220
【0021】
【実施例】
この実施例で使用した試料は、表2に示すように成分調整してから高周波誘導装置にて溶解し、水冷鉄製鋳型に鋳造して作製した。そして、試験のために作製した水素吸蔵合金を数メッシュ程度の大きさに粉砕し、2g秤量したものを提供した。この試料を300℃で十分に排気した後、同温度にて3MPaの水素圧下に24時間および120時間保持し、その間の圧力変化から水素吸蔵量を算出して初期活性化特性の評価を行った。実施例合金および比較例合金の合金組成と共にその測定結果を表2に示す。
【0022】
【表2】
Figure 0003677220
【0023】
試験の結果、実施例1〜13までの実施例合金は、すべてMg金属間化合物が初晶析出したことが確かめられた。
【0024】
なお、比較例1のMg単体やMgが初晶凝固する組成である上記比較例2合金では、水素吸蔵量はMg含有量で決定されるので理論的な水素吸蔵量は大きいが、300℃、3MPaという低温・低圧条件下では活性化することができず、120時間経過時の水素吸蔵量が小さいことがわかる。一方、実施例1〜13の合金では、この試験条件(300℃、3MPa)下において、120時間経過時には、ほぼ平衡状態まで水素を吸蔵することが可能である。このように、本発明合金はMg系合金の高水素吸蔵性能を維持したまま、実用条件下でも十分に活性化し得ることが分かった。
【0025】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、水素の分散輸送・貯蔵用として好適な高水素吸蔵特性をもつMg系水素吸蔵合金を提供することができる。しかも、実用環境での水素吸蔵・放出が容易になることから、この合金を応用する機器の小型化やコストの低下に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Mg-Ni元金属の状態図である。
【図2】 本発明に適合するMg-Ni水素吸蔵合金の金属組成写真である。
【図3】 比較例を示すMg-Ni水素吸蔵合金の金属組成写真である。

Claims (3)

  1. 金属マグネシウム(Mg)およびマグネシウム含有金属間化合物(MgxMy)とからなり、かつマグネシウムを合計で60mass%以上含有する合金であって、その凝固組織中に、初晶析出した前記マグネシウム含有金属間化合物相を有することを特徴とするマグネシウム系水素吸蔵合金。
  2. 上記マグネシウム含有金属間化合物を構成する合金化元素は、Al、Si、Ca、Co、Ni、Cu、Sr、Y、Pd、Sn、BaおよびLnから選ばれる少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項1記載の水素吸蔵合金。
  3. 温度300℃以下、3MPa以下の水素圧条件下において、初期活性化することを特徴とする請求項1または2記載の水素吸蔵合金。
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