JP4768111B2 - 水素吸蔵合金 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、Mg、Niを主成分とするAB2型の水素吸蔵合金であって、従来のAB5型の水素吸蔵合金に比べて水素吸蔵量が多く、室温近傍の温度でも吸蔵・放出可能で、しかも軽量で比較的安価に提供できる点に特徴をもつ水素吸蔵合金に関す
【0002】
【従来の技術】
水素は高圧ガスボンベに詰めると、その体積は約150分の1に縮小され、そして、液化すると約800分の1まで縮小することができる。
一方、水素吸蔵合金は、気体状の水素を合金内に吸蔵(吸収)して固体の形態として蓄えるので、水素の体積は見かけ上約1000分の1にまで縮小することが可能になる。しかも、水素吸蔵合金に貯蔵した水素は、液体水素や高圧水素ガスに比べて取り扱い方法が単純である。このような意味において、水素の分散輸送・貯蔵を水素吸蔵合金を用いて行うことは事実上、大きなメリットがある。また、水素吸蔵合金を利用する場合、液体水素や高圧力の水素ガスを取り扱う必要がなくなるので、水素吸蔵合金を用いた水素貯蔵は安全面においても優れた特性を有している。しかも、水素吸蔵合金中に貯蔵した水素は、温度や水素圧力を調整するだけで繰り返し自由に水素を出し入れすることができる。
【0003】
このような理由から現在では、高性能な水素分散輸送・貯蔵用水素吸蔵合金の開発が、水素エネルギー利用のために不可欠なものになっている。
これまでに発見されている水素吸蔵合金の基本型としては、LaNi5等のAB5型、ZrMn2等のAB2型、TiFe等のAB型、Mg2Ni等のA2B型の金属間化合物やTi-V-Cr系等のBCC固溶体合金が知られている。
これらの中でAB5型やAB2型の水素吸蔵合金は、希土類元素あるいはZr等の比較的重い元素を主体としているため軽量化することが困難である。
また、BCC固溶体合金では2mass%以上の水素吸蔵量を有しているが、V等の高価な元素を多量に使用するため、コスト的に不利である。
【0004】
一方で、軽量で安価な元素であるMgを主体としたMg2Ni型合金は、3.6mass%とたいへん大きい水素吸蔵量を持っていることが知られている。
しかし、このMg2Ni型合金は、実用的な水素圧力を売るための水素解離温度が、250C以上と高いのが欠点である。そこで、最近では、この解離温度の低下を目的に、アモルファス化やMgまたはNiの一部を他の元素で置換して水素吸蔵特性を変える試みがあるが、現実には水素を100C以下で解離させることのできる合金は開発されていないのが実情である。
【0005】
これまでに、Mg2Ni型合金以外で、Mg、Niを主原料に用いた水素吸蔵合金については、Mat.Res.Bull.,vol. 15, pp. 275-283(以下、「論文1」という)に、Mg0.5Ca0.5Ni2組成の合金が開示されている。
この論文1に開示されている上記合金の場合、水素を分散輸送・貯蔵するときに有効な実用温度や水素圧力での吸蔵・放出となると、平衡水素圧力があまりにも低いため、その量は0.7mass%程度以下にしかならない。
しかも、この論文1に開示された合金では、水素の平衡圧力が100゜Cの高温でも0.3気圧以下と低いため、水素を実際に出し入れするときには、減圧するための真空ポンプやヒーター等の熱源装置も必要になる。
【0006】
一方、上記の合金のようにC15型結晶構造を有するAB2型水素吸蔵合金の一部のものでは、水素吸蔵により、アモルファス化や不均化が起こることが指摘されている。(論文2:K.Aoki, X.-G. Li and T.Matsumoto: Acta Metall Mater., 40, (1992)1717) なお、この論文2の記載によると、A元素とB元素の原子半径化(RA/RB)が1.37以上の場合、水素を吸蔵してアモルファス化することが述べられている。
しかし、この論文2の記載では、2元系のAB2型合金の水素吸蔵・放出によって起こる構造変化の規定に留まっており、多元系およびそれ以上の多元系の合金についての規定はなされていない。しかも、この論文2では、水素の平衡圧力に影響を与えているAB2相の格子定数の値についての規定もなされていない。
このような背景の下で、水素を100゜C以下で解離・放出でき、アモルファス化や不均化を回避できる、軽量で安価なMg、Niを主原料として用いた多元系AB2型水素吸蔵合金の開発が望まれている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、実際に分散輸送・貯蔵するときに利用しやすい温度である100゜C以下で水素の解離・放出ができ、しかもアモルファス化や不均化を招くことなく繰り返し吸蔵や放出ができると共に、軽量で安価な多元系AB2型水素吸蔵合金を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、従来技術が抱えている上述した課題を解決するために、MgとNiを主原料とする多元系AB2型水素吸蔵合について、金属組織学的および結晶構造学的な考察を加えながら、溶解法を用いて作製した試料について鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の一般式で示される化学組成を有する、MgCuタイプのC15型結晶構造のラーベス相を主相とする多元系AB型水素吸蔵合金であって、
(Mg1−x−aCa)(Ni1−b
(ただし、式中において、Aは、Tiおよび希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、BはAlおよびCoから選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは0.1≦x≦0.5、aは0≦a≦0.3(ただし、0を除く)、bは0≦b≦0.5、zは1.8≦z≦2.2)として規定され、合金の格子定数は7.00Å以下であり、かつA側元素の平均原子半径(R)とB側元素の平均原子半径(R)との比が、次式;
/R≦1.40
の関係を満足することを特徴とする水素吸蔵合金である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の水素吸蔵合金は、下記一般式で表される化学組成を有するラーベス相を主相とする多元系および多元系AB型水素吸蔵合金である
Mg1−x−aCa)(Ni1−b
ただし、上記式中のAは、Tiおよび希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、Bは、AlおよびCoから選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは、0.1≦x≦0.5、aは0<a≦0.3(ただし、0を除く)、bは0<b≦0.5、zは1.8≦z≦2.2として規定される。
【0012】
合金の化学組成が上記の範囲を外れると、水素吸蔵量が著しく減少して、水素吸蔵合金としての機能が十分に得られなくなる。例えば、Caの量については、xの値を前記の範囲に規定することによって、高い水素吸蔵量を維持しつつ、水素を放出し難いという課題を克服することができる。即ち、xが0.1未満ではその効果が得られず、一方、xが0.5を超えると、水素の吸蔵・放出の圧力が著しく低下してしまう。より好ましいxの値は0.15≦x≦0.45であり、さらに好ましい値は0.2≦x≦0.4である。
【0013】
次に、上記Mgに対してA元素の置換量、即ちaの値を前記範囲に規定することによって、高い水素吸蔵量を維持しつつ、水素の吸蔵・放出の繰り返しに対するラーベス相の安定性を向上させることができ、かつ平衡圧力の調整を行うことができる。このaが0.3を超えてしまうと、ラーベス相以外の相が析出してしまい、吸蔵量の減少につながる。より好ましいaの値は0.1≦a≦0.2である。
【0014】
また、Niに対するB元素の置換量、即ちbの値を前記範囲に規定することによって、高い水素吸蔵量を維持しつつ、水素の吸蔵・放出の繰り返しに対するラーベス相の安定性を向上させることができ、かつ平衡圧力の調整を行うことができる。このbが0.5を超えてしまうと、ラーベス相以外が析出してしまい、吸蔵量の減少につながる。より好ましいbの値は0.1≦b≦0.4である。
【0015】
次に、前記A元素(Mg、Ca)とB元素(Ni)の比zの値が、上述した上限の範囲である2.2を超えたり、下限の1.8以下であったりした場合には、ラーベス相以外の異相が析出してしまい、結果として、吸蔵量の減少、平衡圧力の変化およびプラトー性の低下等を招くことになるので、1.8以上2.2までとした。
【0016】
なお、上掲のA元素として規定した希土類元素は、水素吸蔵合金の低コスト化を図る観点から、La、Ce、Pr、およびNdから選ばれる少なくとも1種の元素を用いることが好ましく、特に希土類元素の混合物であるメッシュメタル、例えばCeがリッチなMm、LaがリッチなLmを用いることができる。ただし、本発明にかかる水素吸蔵合金においては、上記希土類成分は必ずしも必須の成分ではない。
【0017】
また、本発明の水素吸蔵合金では、上記AB2相を主成分として形成している限り、他の合金成分が含まれていても差し支えない。即ち、本発明の効果を妨げない範囲内であれば他の合金成分を含有してもよい。
【0018】
また、本発明の水素吸蔵合金においては、C、N、O、F、S等の不純物元素を含むことが許容される。これらの不純物の水素吸蔵合金中での含有量は、1mass%以下にすることが好ましい。
【0019】
上述したように、本発明のAB型水素吸蔵合金のラーベス相は、MgCu型のC15型結晶構造をもち、かつそのAサイトがMg、Ca、Tiおよび希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素により占有され、BサイトがNi、AlおよびCoから選ばれる少なくとも1種の元素により占有されている。
かかるC15型ラーベス相は、合金中において70vol%以上の体積を占めることが望ましい。このC15型ラーベス相が占める割合が70vol%未満の場合、即ち異相が多量に析出した倍、水素吸蔵量の減少やC15型ラーベス相の結晶性が相対的に劣化する等の問題を招き、その結果として水素吸蔵合金としての性能が低下するので好ましくない。なお、上記異相の例(30vol%未満)としてはC14型、C36型の他、金属Mg相、MgNi相、CaNi層、CaNi相、金属Ca相、CaO相、Ca(OH)相などが観察される。
【0020】
合金組織をより均質なC15型ラーベス相にすること、およびC15型ラーベス相の合金中でのvol%を調整(増加)するには熱処理条件を調整することにより行う。
好ましい熱処理条件としては、合金の化学組成によって異なるものの、アルゴンガス雰囲気下または真空中において400゜C〜1000゜Cの温度で5〜100時間保持する処理を、適宜に調整して行うことが望ましい。
上述した化学組成を有する本発明の水素吸蔵合金は、とくにA元素の場合、水素と発熱型の反応をすると共に、原子半径の小さいものがより好ましい。一方、B元素については、水素と吸熱型の反応をする元素であると共に、原子半径の大きいものがより好ましい。
【0021】
以上説明したような条件を満足するAB2型水素吸蔵合金について、本発明ではさらに、A側元素の平均原子半径(RA:各A側元素の原子半径の加重平均)とB側元素の平均原子半径(RB:各B側元素の原子半径の加重平均)との比を、以下のように定める。
RA / RB ≦ 1.40
この原子半径比(RA/RB)が、上記関係を満たしていないときには、合金が水素を吸蔵するとアモルファス化したり、不均化したりする等の構造変化を起こしてしまい、吸蔵・放出の繰り返しが困難になってしまう。
【0022】
また、本発明の金AB2型水素吸蔵合金は、C15型ラーベス相の格子定数を7.00Å以下に定める。
もし、上記格子定数が7.00Åを超えるときは、水素の吸蔵・放出時の平衡圧力が極端に低くなってしまう。
【0023】
【実施例】
以下、実施例を示し、本発明の特徴とするところをより明確にする。なお、実施例における各測定は以下のように行った。
PCT(水素圧力−組成−温度)特性の測定:全自動ジーベルト装置を用い、合金粉末約5gをステンレス製反応容器に封入し、活性化処理の後、100Pa以上4.0Mpa以下の圧力範囲で測定した。初期活性化は80゜Cまで加熱して真空脱気して、水素を放出させる操作を数回繰り返した。
X線解析測定:粉末X線解析法にて測定を行った。この測定結果から、本発明合金がC15型ラーベス構造を有していることを確認した。
【0024】
参考例1および比較例1
歩留まりを考慮してMg、Ca、Niを秤量した後、融解し、合金化して(Mg0.7Ca0.3)Ni参考例1)、(Mg0.1Ca0.9)Ni(比較例1)および(Mg0.9Ca0.1)Ni(比較例2)を作製した。作製したこれらの合金に700℃で50時間の熱処理を行った。これらの試料を用いてX線解析およびPCT特性の測定を行った。これらの結果を表1、図1および図2に示す。また参考例1および比較例1のPCT特性測定後の試料について粉末X線解析測定を行った結果を図3に示す。
【0025】
【表1】
Figure 0004768111
【0026】
参考例1による(Mg0.7Ca0.3)Niは、格子定数6.94ÅのC15型ラーベス相構造であった。これに対し、比較例1による(Mg0.1Ca0.9)Niは、格子定数7.21ÅのC15型ラーベス相構造であった。また、比較例2による(Mg0.9Ca0.1)Niは、C36型ラーベス相構造であった。
【0027】
図2に明らかなように、参考例1合金では、水素吸蔵量がH/Mで約0.71(約1.5mass%)であった。また、比較例1合金および比較例2合金ではほとんど水素を吸蔵しなかった。
図3に明らかなように、参考例1合金では、水素の吸蔵・放出後でもC15型ラーベス相構造を維持していた。また、その格子定数は6.94Åであった。しかし比較例1合金では、X線解析ピークが消滅しており、C15型ラーベス相構造を確認できなくなった。
【0028】
実施例2および実施例3
MgおよびCaの置換物質してTi、Laを用い、さらに歩留まりを考慮し、Mg、Ca、Ni、TiまたはLaを秤量した後、融解し、合金化して(Mg0.5Ca0.4Ti0.1)Ni2(実施例3)を作製した。作製したこれらの合金は、700゜Cで50時間の熱処理の後、X線解析およびPCT特性の測定を行った。これらの結果を表1、図4に示す。
図4に示すように、実施例2による(Mg0.5Ca0.4Ti0.1)Ni2は、格子定数6.97ÅのC15型ラーベス相構造であった。
【0029】
参考例2および参考例3
Niの置換物質としてAl、Coを用いて、さらに歩留まりを考慮し、Mg、Ca、Ni、AlまたはCoを秤量した後、融解し、合金化して(Mg0.6Ca0.4)Ni1.9Al0.1参考例2)および(Mg0.6Ca0.4)Ni1.8Co0.2参考例3)を作製した。これらの試料に対し700℃で50時間の熱処理を行いその後X線解析およびPCT特性の測定を行った。これらの結果を表1、図5に示す。
図5に示すように、参考例2による(Mg0.6Ca0.4)Ni1.9Al0.1は、主相が格子定数7.00ÅのC15型ラーベス相構造であった。また、参考例3による(Mg0.6Ca0.4)Ni1.8Co0.2は、主相が格子定数6.98Åのラーベス相構造であった。
【0030】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、従来のAB2型の水素吸蔵合金に比べて水素吸蔵量が多く、室温近傍の温度でも吸蔵・放出することができ、しかも軽量で比較的安価といった特徴をもつAB2型の水素吸蔵合金を提供することが可能となった。したがって、本発明合金を使用することで、高効率な水素エネルギーを利用した各種技術の実用化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】参考例合金(Mg0.7Ca0.3)Ni、比較例1合金(Mg0.1Ca0.9)Niおよび比較例2合金(Mg0.9Ca0.1)Niの粉末X線解析測定結果を示す図である。
【図2】参考例合金(Mg0.7Ca0.3)Ni、比較例1合金(Mg0.1Ca0.9)Niおよび比較例2合金(Mg0.9Ca0.1)Niの40℃におけるPCT曲線を示す図である。
【図3】参考例合金(Mg0.7Ca0.3)Ni、比較例1合金(Mg0.1Ca0.9)Niの水素・放出後の粉末X線解析測定結果を示す図である。
【図4】本発明合金(Mg−Ca−A)Ni系合金の粉末X線解析測定結果を示す図である。
【図5】参考例合金(Mg−Ca)Ni−B系合金の粉末X線解析測定結果を示す図である。

Claims (1)

  1. 下記の一般式で示される化学組成を有する、MgCuタイプのC15型結晶構造のラーベス相を主相とする多元系AB型水素吸蔵合金であって、
    (Mg1−x−aCa)(Ni1−b
    (ただし、式中において、Aは、Tiおよび希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素であり、BはAlおよびCoから選ばれる少なくとも1種の元素であり、xは0.1≦x≦0.5、aは0≦a≦0.3(ただし、0を除く)、bは0≦b≦0.5、zは1.8≦z≦2.2)として規定され、合金の格子定数は7.00Å以下であり、かつA側元素の平均原子半径(R)とB側元素の平均原子半径(R)との比が、次式;
    /R≦1.40
    の関係を満足することを特徴とする水素吸蔵合金。
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