JPH1180865A - 耐久性に優れる水素吸蔵合金とその製造方法 - Google Patents

耐久性に優れる水素吸蔵合金とその製造方法

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JPH1180865A
JPH1180865A JP9241413A JP24141397A JPH1180865A JP H1180865 A JPH1180865 A JP H1180865A JP 9241413 A JP9241413 A JP 9241413A JP 24141397 A JP24141397 A JP 24141397A JP H1180865 A JPH1180865 A JP H1180865A
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hydrogen
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storage alloy
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JP9241413A
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English (en)
Inventor
Tatsuo Nagata
辰夫 永田
Masakatsu Hosomi
政功 細見
Hisashi Maeda
尚志 前田
Hideya Kaminaka
秀哉 上仲
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Nippon Steel Corp
Original Assignee
Sumitomo Metal Industries Ltd
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  • Manufacture Of Metal Powder And Suspensions Thereof (AREA)
  • Powder Metallurgy (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【課題】 水素の貯蔵・輸送用等に適した、高い水素吸
蔵能力と長期繰り返し水素吸収・放出寿命(微粉化しに
くい)とをもち、室温近傍の温度で使用でき、かつ耐酸
化性に優れ、大気中で容易に取扱うことができる水素吸
蔵合金とその製造方法を提供する。 【解決手段】 Tia 1-a-b-c-d Crb c d (式中、
Aは、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Zn、Zr、Mo、Ag、Hf、Ta、
W、Al、Si、C、N、P、Bの1種以上;BはLn (ラン
タノイド系金属) およびYの1種以上;a= 0.2〜0.5
以下、b= 0.1〜0.4 、c=0.01〜0.2 、d= 0.001〜
0.03) で表される組成を持ち、主相の平均結晶粒径が40
μm以下である水素吸蔵合金を急冷凝固法で製造する。
この水素吸蔵合金の表面をNi被覆し、次いで 400〜750
℃の温度で熱処理を行うか、または水素吸蔵合金の表面
をメカニカルアロイング法によりNi被覆して、表面にTi
−Ni化合物を主体とするNi付加層を形成すると、耐酸化
性が著しく向上する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水素吸収量 (水素
吸蔵能力) が高く、同時に繰り返し水素吸収放出による
特性劣化が少なく、室温近傍の温度で利用可能で、比較
的安価といった特徴を持つ、耐久性に優れた水素吸蔵合
金とその製造方法に関する。これらの特徴を持つ本発明
の水素吸蔵合金は、特に水素ガス貯蔵・輸送用、水素ガ
ス分離・精製用、さらには熱輸送システムや冷却システ
ム、静的コンプレッサーなどに最適である。
【0002】
【従来の技術】水素ガスは、燃焼すると水になり、化石
燃料のように炭酸ガスや硫黄酸化物を形成することがな
いため、クリーンなエネルギー源である。
【0003】水素ガスの貯蔵・輸送は、一般に圧縮して
高圧ガスとして行われている。液体水素の貯蔵には−25
3 ℃の低温貯蔵容器が必要で、蒸発損失も大きい上、水
素の液化に多量のエネルギーが必要であるため、窒素の
ように液化して貯蔵するのは困難であるからである。し
かし、高圧水素ガスには重くて嵩張る耐圧容器が必要で
あるにもかかわらず、体積は 200分の1程度にしかなら
ず非効率的である上、安全性にも問題がある。
【0004】そこで、冷却・加熱により水素ガスを可逆
的に吸収・放出できる水素吸蔵合金を水素ガスの貯蔵・
輸送に利用することが検討されてきた。水素吸蔵合金
は、単位体積当たりの水素ガスの貯蔵密度が高圧水素ガ
ス容器より高く、より軽量かつ小体積の水素ガス貯蔵容
器となり、水素ガスの輸送も容易になる。また、低圧で
あることから安全性が高く、輸送中の機械的な衝撃にも
強い。
【0005】水素の貯蔵・輸送を目的とする水素吸蔵合
金は従来より開発されており、小規模な水素の貯蔵には
既に利用されている。また、ガソリンの代替燃料として
水素ガスを利用する低公害水素自動車の研究も進んでお
り、これにもFeTi系をはじめとする各種の水素吸蔵合金
が水素貯蔵デバイスとして検討されている。
【0006】水素吸蔵合金の実用化が期待される用途に
は他に次のようなものがある。水素吸蔵合金の水素の吸
収 (水素化) と放出 (水素化物の分解) は、熱の放出と
吸収を伴う可逆反応であり、熱−化学エネルギー変換機
能を持つ。この機能を利用して、熱エネルギーの貯蔵・
輸送システムや化学的ヒートポンプとして冷却システム
に使用することができる。
【0007】また、低温で水素ガスを吸収させた水素吸
蔵合金を高温に加熱すると、高圧の水素ガスが放出され
る。それにより熱エネルギーを機械エネルギーに変換す
る機能も果たす。この機能は、熱駆動型の静的水素コン
プレッサやアクチュエータとして利用できる。
【0008】水素吸蔵合金の水素ガスの吸収・放出速度
は、他のガス成分の吸収・放出速度より大きく、水素同
位体間でも差がある。従って、水素吸蔵合金を用いて水
素または特定の水素同位体を選択的に吸収または放出さ
せることにより、混合ガスからの高純度水素ガスの分
離、不純水素ガスの精製、さらには水素同位体の分離が
可能である。
【0009】このように水素吸蔵合金には幅広い用途が
あるが、どの用途に対しても、水素吸蔵量が最も重要な
特性である。また、上記の用途はいずれも比較的多量の
水素吸蔵合金を必要とするので、水素吸蔵合金を繰り返
し使用しても機能低下が少なく、耐久性に優れているこ
とと、合金の価格が比較的安価であることも重要であ
る。用途によっては室温近傍の比較的低い温度 (例、15
0 ℃以下) で水素の吸収・放出が起こることも求められ
る。
【0010】例えば、実用化が先行したLaNi5 またはMm
Ni5 で代表されるAB5 型の水素吸蔵合金は高価である
ので、水素吸蔵合金の使用量が少ないNi−水素電池等の
小型二次電池用には使用できても、水素ガス貯蔵用とい
った大量の水素吸蔵合金が必要な用途には、価格面から
使用が困難である。また、水素吸蔵量もそれほど多くな
い。
【0011】特公昭59−38293 号公報には、比較的安価
で水素吸蔵量の多い水素吸蔵合金としてTi−Cr−V系合
金が記載されている。合金の製造方法としてはアーク法
しか具体的に説明されていない。特開平7−252560号公
報にも同様な成分で構成される水素吸蔵合金が記載され
ている。特開平7−268513号公報と特開平7−268514号
公報には、Ti−V−Ni系の類似の水素吸蔵合金が記載さ
れている。
【0012】また、特開昭60−190570号公報には、水素
吸蔵合金粉末に湿式無電解メッキにより銅および/また
はニッケル金属を被覆することで、雰囲気中の不純物ガ
スによる汚染の影響を小さくでき、初期活性化が不要な
いし軽減できることが説明されている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】水素吸蔵合金の水素ガ
スの吸収と放出は、それぞれ体積の膨張と収縮を伴う化
学反応である。実用的な反応速度を得るには、水素吸蔵
合金を粉末状で使用して表面積を増大させる必要があ
る。しかし、使用中に合金粉末の体積の膨張と収縮が繰
り返されると、内部歪みにより粉末に亀裂が入り、やが
て細かな粒子に割れて粉末が微粉化する。微粉化が進行
すると、閉塞により水素ガスが容易に流れなくなった
り、微粉が水素ガスの流れに混じってガス配管内に移動
する。従って、この微粉化が水素吸蔵合金の長期繰り返
し水素吸収・放出寿命 (即ち、耐久性)低下の大きな原
因となる。
【0014】前述したTi−Cr−V系水素吸蔵合金および
Ti−V−Ni系合金は、水素吸蔵量の多い合金として開発
されたものであるが、実際には所定の水素吸蔵量に達し
ないことが多く、上記の微粉化による耐久性の問題も解
決できていない。
【0015】例えば、特公昭59−38293 号公報に記載の
Ti−Cr−V系水素吸蔵合金は、この公報に記載されてい
るようにアーク法で製造すると、凝固速度が遅いため、
第2相として、水素吸蔵量の低いTiCr2 金属間化合物が
かなりの割合で析出し、水素吸蔵量が低下する。また、
水素吸収・放出の繰り返し中にこの第2相を起点として
合金粉末に亀裂が入り、微粉化が促進されるという問題
点もある。
【0016】特開平7−252560号公報に記載の水素吸蔵
合金は、その実施例では、上記の第2相を減らすため、
1200〜1400℃という高温で保持して立方晶の単相組織と
した後、直ちに水冷により急冷する製法がとられてい
る。しかし、この方法では、高温加熱保持の際に結晶粒
の粗大化が生じるため、第2相の析出量は減少しても、
粗大化により材料自体の強度が弱くなり、微粉化し易く
なる。その上、工業的に大量生産する際には大型インゴ
ットを用いるため、水冷でも十分な冷却速度が得られ
ず、Ti−Cr化合物を主体とする第2相の粗大析出物が形
成され、水素吸蔵量も低下する。
【0017】特開平7−268513号および同7−268514号
の各公報に記載のTi−V−Ni系水素吸蔵合金は、Ti−V
系合金からなる母相の粒界に、第2相のTi−Ni合金相ま
たはAB2 型ラーベス合金相が3次元網目骨格を形成し
た組織を持つ。この粒界相が合金の水素との反応性を向
上させるため、母相に若干の酸化があっても、この粒界
相を介して水素ガスの吸収・放出が可能である。しか
し、水素吸蔵能力の低い第2相を3次元網目構造を形成
するほど多量に析出させるため、合金全体の水素貯蔵量
が低下する。また、第2相を起点とした微粉化の問題も
避けられない。
【0018】水素吸蔵合金の耐酸化性も重要な特性であ
る。水素吸蔵合金は大気中に放置されると表面が酸化さ
れ、酸化膜が形成される。特に、V含有合金は酸化膜が
形成され易い。この酸化膜は水素吸収の障害となり、所
定の水素吸蔵能力を発揮することができない。そのた
め、水素吸蔵合金粉末は、使用前に酸化膜を除去するた
め活性化処理が必要となることが多い。この活性化処理
は、合金粉末を耐圧容器に入れ、数十Kg/cm2の高圧の水
素ガスを高温で1日〜数日間作用させることにより行わ
れ、容器と処理のどちらにも費用がかかる。従って、活
性化処理が不要となるように、空気中に放置しても酸化
されにくい水素吸蔵合金粉末が求められている。
【0019】特開昭60−190570号公報に記載の無電解メ
ッキによる水素吸蔵合金粉末の金属被覆は、この要請に
応えたもので、水素吸蔵合金粉末の耐酸化性の向上には
有効であるが、被覆金属が水素吸蔵能力を全く持たない
CuやNiであるため、被覆金属の分だけ水素吸蔵量が減少
する。
【0020】本発明は、水素ガスの貯蔵・輸送、水素ガ
スの精製・分離、熱輸送・冷却システム、水素コンプレ
ッサーなどの用途に適用可能な、高い水素吸蔵能力を持
ち、微粉化しにくく長期繰り返し水素吸収・放出寿命
(耐久性) に優れ、室温近傍の比較的低い(150℃以下)
の温度で使用でき、かつ大気中に放置しても水素吸蔵特
性の劣化の少ない、比較的安価な水素吸蔵合金を提供す
ることを課題とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、急冷凝固
法により製造された、結晶粒径の小さいTi−Cr−V系水
素吸蔵合金が、高い水素吸蔵能力と優れた繰り返し水素
吸収・放出寿命 (耐久性) をもち、室温近傍の比較的低
温で使用できることを先に見出した。
【0022】この水素吸蔵合金はH/M (合金を構成す
る構成原子数に対する吸蔵された水素原子数の比) が1.
5 以上、最高で1.7 台の高い水素吸蔵量を示すが、それ
でもVに代表される体心立方格子金属の理論上の最大水
素吸蔵量 (H/M=2) に比べるとまだ少し低く、水素
吸蔵量をさらに増大させる余地が残っていた。その後の
研究の結果、上記の合金組成に少量の他の元素を添加す
ると、水素吸蔵量がさらに増大することがわかり、本発
明に到達した。
【0023】本発明は、式:Tia 1-a-b-c-d Crb c
d で表される組成を持ち、主相の平均結晶粒径が40μ
m以下であることを特徴とする水素吸蔵合金である。上
の式において、Aは、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Zn、Zr、M
o、Ag、Hf、Ta、W、Al、Si、C、N、P、およびBか
ら選ばれた1種または2種以上の元素を意味し、BはLn
(ランタノイド系金属) およびYから選ばれた1種また
は2種以上の元素を意味し、aの値は0.2 以上、0.5 以
下、bの値は0.1 以上、0.4 以下、cの値は0.01以上、
0.2 以下、dの値は0.001 以上、0.03以下である。
【0024】この結晶粒径の小さい水素吸蔵合金は、急
冷凝固法により製造することができる。本発明の好適態
様においては、水素吸蔵合金が表面にTi−Ni化合物を主
体とするNi付加層を有している。このNi付加層は、急
冷凝固法により製造した水素吸蔵合金の表面をNiで被覆
し、次いで 400〜1000℃の温度で熱処理を行うか、或い
はこの水素吸蔵合金の表面をメカニカルアロイング法
によりNiで被覆することにより形成することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】以下、本発明の水素吸蔵合金とそ
の製造方法について詳しく説明する。本発明の水素吸蔵
合金の特徴は、(1) Tia 1-a-b-c-d Crb c d (
式、式中、A、B、a〜dは上記と同じ) で示される化
学組成と、(2) 主相の平均結晶粒径が40μm以下と微細
である、という2点である。
【0026】この水素吸蔵合金の主相は体心立方晶であ
り、この結晶格子はTi、V、Crの3元素からなり、その
一部がA元素で置換された固溶体である。上記(2) の微
細な主相の平均結晶粒径は、水素吸蔵合金をロール急冷
法やガスアトマイズ法といった急冷凝固法により製造す
ることにより得られる。従って、本発明の水素吸蔵合金
は、「上記式で示される化学組成を持つ急冷凝固され
た合金」であるといえる。例えば、アーク溶解法のよう
に凝固時の冷却速度が遅くなると、凝固中に結晶粒が成
長して粗大になるため、主相の平均結晶粒径は40μmを
超える。
【0027】本発明の水素吸蔵合金が、高い水素吸蔵能
力を持ち、微粉化しにくく耐久性に優れ、かつ室温近傍
の比較的低い(150℃以下) の温度で使用できる理由は次
のように推測される。
【0028】本発明者らが先に見出したように、急冷凝
固した体心立方晶のTi−V−Cr系合金は、大気圧に近い
0.1 MPa の水素平衡圧 (水素吸収・放出反応の平衡ガス
圧)を示す温度が150 ℃以下と低く、150 ℃以下の温度
範囲でも、多量の水素を吸収することができ、かつ微粉
化しにくいため繰り返し水素吸収・放出寿命に優れてい
る。
【0029】しかし、この高い水素吸蔵量や優れた耐久
性は、アーク溶解法のように溶解後の凝固が遅い従来の
方法で製造された合金では得られない。これは、凝固時
の冷却速度が低下すると、水素吸蔵量の少ないTiCr2
主体とする第2相が、凝固中にかなりの割合で析出する
ためである。この第2相の析出物は、水素吸蔵量を低下
させるだけでなく、水素平衡圧を低下させて吸収した水
素の可逆的な放出を不可能にし、さらに粒界破壊の起点
となるため、微粉化を起こり易くする。換言すると、本
発明の水素吸蔵合金では、この第2相の析出量が非常に
少ないため、この相に起因する水素吸蔵量の低下や微粉
化を避けることができる。
【0030】本発明によれば、急冷凝固されたTi−V−
Cr系合金に上記式のAおよびBで示される元素を添加
することにより、元合金とほぼ温度・圧力で水素ガスを
吸収・放出する特性を維持し、かつ上記第2相の形成も
抑えながら、水素吸蔵量をさらに増大させることができ
る。その理由は完全に解明されたわけではないが、次の
ように考えられる。
【0031】A元素 (Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Zn、Zr、M
o、Ag、Hf、Ta、W、Al、Si、C、N、P、B) は、主
相の体心立方晶を構成するTi、V、Crと置換して格子寸
法を拡大することで、合金自体の水素吸蔵量を高めてい
ると予想される。これらの元素も、溶解後の冷却速度が
遅いと、TiまたはCrとの金属間化合物、炭化物、ホウ化
物を形成しやすく、水素吸蔵量が低下する。従って、高
い水素吸蔵量を得るには、このような化合物の晶出また
は析出を抑制するために、急冷凝固する必要がある。そ
れにより、この化合物が起点となる微粉化も抑制され
る。
【0032】B元素 (ランタノイド系金属<Ln>または
Y) は、主相の体心立方晶にはほとんど存在せず、合金
中に含まれる不純物酸素と酸化物を形成して存在すると
考えられる。不純物酸素は主相の体心立方晶の金属原子
間に侵入する状態で存在しているが、これらの元素が侵
入する位置は、水素を吸蔵させた場合に水素原子が侵入
する位置でもある。従って、この不純物酸素は水素侵入
サイトを塞いでしまうため、水素吸蔵量を減少させる原
因となる。酸素と化合しやすいLnやYを添加すると、不
純物酸素が主相の外に追いやられ、水素吸蔵量が増加す
るものと推定される。
【0033】本発明の水素吸蔵合金の各元素の原子比
は、150 ℃以下の低温および大気圧近傍で高い水素吸蔵
量を得るように検討して、上記のように決定された。次
にその理由を説明する。なお、上記式からわかるよう
に、各元素の量はいずれも原子数比であり、合計が1で
ある。
【0034】チタン (Ti) Ti量が増えると、合金主相である体心立方晶の格子寸法
が拡大し、水素吸蔵量が増加する。高い水素吸蔵量を得
るには、0.2 以上のTiが必要であり、Ti量がこれより少
ないと、水素吸蔵量が低くなる。チタンが多いほど水素
吸蔵量は増大するが、それに伴って水素平衡圧が低下
し、室温・大気圧近傍で利用することができなくなる。
【0035】本発明では、水素平衡圧を上昇させる元素
としてCrを添加するが、Ti量が0.5を越えると、Crを添
加しても水素平衡圧を大気圧近傍まで上昇させることが
できなくなる。また、Ti量が多すぎると、微粉化が原因
の繰り返し水素吸収・放出に対する寿命 (耐久性) が低
下する。水素吸蔵量と耐久性のバランスの観点から、Ti
量は 0.2以上、0.5 以下とし、好ましくは0.3 以上、0.
45以下、より好ましくは0.3 以上、0.4 以下である。
【0036】クロム (Cr) Cr量が増えると水素吸蔵量は増加するが、その程度はTi
ほど大きくないので、Cr添加の主目的は水素平衡圧の制
御にある。従って、Cr量は、Ti量や目的とする使用温度
および水素平衡圧により変化する。しかし、Cr量が0.1
未満では、Ti量が0.2 の場合に室温での水素平衡圧が大
気圧よりかなり低くなり、室温近傍で可逆的に水素を吸
収・放出できなくなる。
【0037】一方、Crが0.4 を超えると、第2相として
析出するTiCr2 相の量が増加し、水素吸蔵量が低下する
だけでなく、微粉化が起こり易くなり繰り返し水素吸収
・放出に対する寿命も低下する。水素吸蔵量と耐久性の
バランスの観点から、Cr量は 0.1以上、0.4 以下とし、
好ましくは0.2 以上、0.4 以下、より好ましくは0.2 以
上、0.35以下である。
【0038】バナジウム (V) Ti−Crの2元系では、第2相としてTiCr2 が多く形成
し、水素吸蔵量と繰り返し水素吸収・放出に対する寿命
が低下し、水素平衡圧が低すぎて室温近傍での利用も困
難になる。そのため、Vを一緒に添加する。Vの添加に
より、主相の体心立方晶相が多く得られ、水素吸蔵量が
増加する。Vの量は、Ti、Cr、A元素、およびB元素の
量により自動的に決定される。
【0039】A元素 (Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Zn、Zr、M
o、Ag、Hf、Ta、W、Al、Si、C、N、P、B) これらの添加元素は、主相の体心立方晶を構成する金属
である、Ti、Cr、Vのいずれかと置換し、格子寸法を拡
大して水素吸蔵量を増加させるのに効果的な元素であ
る。
【0040】個々の2元系状態図から予想されるよう
に、これらの元素はTiまたはCrと金属間化合物、炭化
物、ホウ化物を形成しやすいため、あまり多量には添加
できない。A元素の量が0.2 より多くなると、水素吸蔵
量が少ないか、水素を吸蔵しない、上記の金属間化合物
等の化合物が多く形成されるため、かえって合金全体の
水素吸蔵量が減少する。一方、A元素の量が0.01より少
ないと、添加による水素吸蔵量の増加が認められない。
【0041】金属間化合物等の形成量と水素吸蔵量との
バランスから、A元素の量は0.01以上、0.2 以下とし、
好ましくは0.03以上、0.15以下、より好ましくは0.05以
上、0.15以下である。
【0042】B元素 [Ln (ランタノイド系金属元素) 、
Y] これらの添加元素は、合金の主相の水素侵入サイトに存
在する不純物酸素と化合物を形成させるために添加す
る。従って、B元素の量は合金中の不純物酸素量に影響
される。合金製造時に安価だが不純物の多い原料を用い
れば多く添加する必要があり、高価だが不純物の少ない
原料を用いれば少ない量で十分である。
【0043】工業的に安価に入手可能な原料を使用して
も、合金の不純物酸素量は通常は1wt%以下であるが、
スクラップ等の利用を考慮すると2wt%以上まで上昇す
ることも考えられる。Ln、Yは、酸素と一般にB23
型の酸化物を形成するため、不純物酸素と原子比で同等
量程度添加すれば十分である。そのため、B元素の量の
上限を0.03とした。これより多量にB元素を添加して
も、水素吸蔵特性に大きな影響を与えない過剰のLn、Y
を増やすだけでコスト増大につながる。
【0044】一方、B元素の量が0.001 以下では、不純
物酸素を除去できず、水素吸蔵量が増加しない。以上よ
り、B元素の量を0.001 以上、0.03以下とするが、上に
説明したように、この量は合金の不純物酸素量、従っ
て、使用する原料の純度により、この範囲内で増減させ
る。
【0045】このように、高価なB元素の添加量は非常
に少ないので、その添加によるコスト増大はわずかであ
る。また、B元素は主相の粒界で酸化物を形成するが、
その量が上記のようにわずかであるので、それによる水
素吸蔵量の悪影響は、この酸化物の添加による水素吸蔵
量の増大に比べて少なくなる。また、これらの酸化物
は、熱処理中の結晶粒度の粗大化を抑える効果を有して
いるため、B元素添加により、微細結晶組織を得ること
ができる熱処理温度の上限を、Ti−V−Cr合金の場合よ
り高くすることができる。従って、熱処理時間が短くな
る。
【0046】ランタノイド系金属は、純金属として精製
されたLa、Ce等の元素を単独添加することも可能である
が、希土類金属の合金であり多くのランタノイド系金属
を含んでいる安価なミッシュメタルと呼ばれる合金を用
いると、本発明の水素吸蔵合金の製造コストはさらに低
下する。
【0047】主相の平均結晶粒径 以上に説明したように、本発明の水素吸蔵合金は、もと
もと水素吸蔵量の多い体心立方晶を主相とするTi−Cr−
V系合金にA、Bの2種類の元素を添加して、さらに水
素吸蔵量を増大させることに成功したものである。
【0048】しかし、このTi−Cr−V−A−B系の化学
組成を持っていても、この合金の水素吸蔵量は、製造方
法や主相の平均結晶粒径により変化し、合金製造時に溶
解した後の凝固速度 (冷却速度) が遅くなって、主相の
平均結晶粒径が40μmを超えると、同じ組成であっても
水素吸蔵量が低下することが判明した。
【0049】これは、凝固速度が低下すると、TiCr
2 や、前述したA元素との金属間化合物、炭化物、ホウ
化物等の析出物の量が増大し、この析出物はそれ自体の
水素吸蔵量が少ないか、水素を吸蔵しないため、その量
が増えると合金全体としての水素吸蔵量は低下するため
である。
【0050】また、TiCr2 や他の析出物の量が増える
と、主相である体心立方晶の合金相中のTi、Cr量が低下
するため、主相の水素吸蔵量が減少するだけでなく、主
としてCr量減少に起因して、水素吸収・放出反応の平衡
ガス圧である水素平衡圧が低下し、可逆的に吸収した水
素を放出できなくなる。
【0051】さらに、合金製造時の凝固速度が遅くなっ
て主相の平均結晶粒径が40μmを超えると、繰り返し水
素吸収・放出試験をした時の微粉化 (粉末平均粒径の低
下により判定できる) が顕著になり、合金寿命 (耐久
性) の低下も著しいことが判明した。この微粉化の主因
は、上記のTiCr2 やA元素との金属間化合物等の析出物
を起点とする粒界破壊であると推定される。従って、凝
固速度が遅くなって、このような析出物の量が増える
と、微粉化の起点が多くなり、微粉化が起こり易くなる
のである。
【0052】以上の知見から、本発明の水素吸蔵合金で
は、主相 (体心立方晶) の平均結晶粒径を40μm以下に
限定する。それにより、TiCr2 やA元素との金属間化合
物等のような析出物の生成量が著しく低減するため、水
素吸蔵量が多くなり、体心立方晶金属の理論上の最大水
素吸蔵量に近づいたH/M=1.80以上の高い水素吸蔵量
を示す合金が得られる。同時に繰り返し水素吸収・放出
時の微粉化が起こりにくくなり、代表的な希土類系水素
吸蔵合金であるMmNi5 系金属間化合物より著しく優れた
繰り返し水素吸収・放出に対する耐久性を示すようにな
る。
【0053】本発明の水素吸蔵合金のこれらの特性をさ
らに改善するには、主相の平均結晶粒径が20μm以下、
特に15μm以下であることが好ましい。また、第2相と
して形成されるTiCr2 やA元素との金属間化合物等の析
出物の平均結晶粒径が5μm以下であると微粉化が生じ
にくくなり、2μm以下であるとほとんど微粉化しない
ことが判明した。
【0054】主相の平均結晶粒径が40μm以下の本発明
の水素吸蔵合金は、前述したように急冷凝固法により製
造できる。具体的な急冷凝固の方法は、上記の平均結晶
粒径を持つ合金が得られる限り限定されない。採用可能
な急冷凝固法としては、回転電極法、回転ドラムあるい
はロール上に合金溶湯を注湯する方法 (例、単ロールま
たは双ロール急冷法) 、水冷銅板上へ薄く鋳込む方法、
ガスアトマイズ法等が挙げられる。
【0055】これらのうち、回転電極法とアトマイズ法
は、水素吸蔵合金の球形粉末を製造することができ、粉
末化するための粉砕工程が不要となる上、粉末形状が実
質的に球形で充填密度が高くなる点で有利である。他の
方法の場合には、必要に応じて得られた水素吸蔵合金を
粉砕して粉末にする。粉砕方法としては、水素化粉砕、
機械粉砕のいずれも採用可能であり、両者を併用しても
よい。
【0056】本発明の水素吸蔵合金は、平均粒径が10〜
50μm程度の粉末形態とすることが適当である。それに
より、表面積が増大し、水素の吸収・放出反応が促進さ
れる。必要であれば、分級により平均粒径を調整する。
【0057】急冷凝固法により製造された本発明の水素
吸蔵合金は、微小な急冷歪みを持っている。この急冷歪
みは本発明の水素吸蔵合金の耐久性 (微粉化) に特に著
しい悪影響は生じないが、所望により水素吸蔵合金を熱
処理してこの急冷歪みを除去してもよい。この熱処理
は、合金の酸化を防止するため、真空中または不活性ガ
ス中で行うことが好ましい。
【0058】熱処理条件は、熱処理中に合金主相の平均
結晶粒径が40μmより大きくなることがないように設定
する必要がある。この条件は、急冷凝固法により製造さ
れた水素吸蔵合金の主相の平均結晶粒径によっても異な
るが、通常は温度 400〜1000℃×1〜20時間の範囲内で
あろう。但し、熱処理温度が例えば900 ℃以上と高い場
合には、熱処理時間を短くして、熱処理後の合金主相の
平均結晶粒径が40μmを超えないようにする。Ti−V−
Cr合金の熱処理温度は一般に750 ℃以下であるので、B
元素の添加により熱処理温度の上限を高くできる。
【0059】後述するように、本発明の水素吸蔵合金の
耐酸化性を向上させるため、合金表面にTi−Ni化合物を
主体とするNi付加層を形成する場合には、この層の形成
過程で熱処理を行うことがあり、この熱処理中に急冷歪
みも除去される。従って、その場合には、急冷歪みの除
去の目的だけの熱処理は必要ない。
【0060】本発明の水素吸蔵合金は、大気中に放置し
ておくと、室温近傍の低温 (例、80℃) で測定した水素
吸収量が減少することがある。即ち、この合金を大気中
に放置すると表面が酸化し、この酸化膜が障害となって
低温での水素吸蔵量が減少するものと考えられる。この
ように大気放置により水素吸蔵量が低下した水素吸蔵合
金は、高圧水素ガス中 (例、20気圧) で500 ℃まで加熱
して活性化させると水素吸収量が増加し、放置前の吸収
量を回復する。しかし、前述したように、この活性化処
理は費用がかかる。
【0061】水素吸蔵合金を利用した装置では、製作過
程で大気との接触を完全に避けることはできないので、
上記の活性化処理を避けるには、大気と接触しても酸化
しないように本発明の水素吸蔵合金の耐酸化性を改善す
ることが望ましい。
【0062】この点について検討した結果、特開昭60−
190570号公報に記載のように、本発明の水素吸蔵合金の
表面をNiで被覆すると、合金の耐酸化性が改善されるこ
とが判明した。しかし、この手法は耐酸化性の向上には
有効であるものの、合金表面を被覆したNi自体は水素吸
蔵能力がほとんどないため、合金単位重量当たりの水素
吸収量が低下する。
【0063】そこでさらに検討した結果、合金表面のNi
被覆層を母材となるTi−V−Cr−A−B系合金と反応さ
せてTi−Ni化合物を主体とするNi付加層に変えると、こ
のNi付加層は純Niより大きな水素吸蔵能力を持つため、
水素吸収量をほとんど低下させずに、水素吸蔵合金に耐
酸化性を付与することができることがわかった。従っ
て、好適態様においては、本発明の水素吸蔵合金はTi−
Ni化合物を主体とするNi付加層を合金表面に有してい
る。それにより、水素吸蔵量を実質的に低下させずに耐
酸化性が向上し、上述した活性化処理が不要となるか、
あるいは非常に軽減される。
【0064】合金表面へのNiの被覆方法は、物理的な方
法 (例、Ni微粉末と合金粉末とを混合する方法、ボール
ミル等で混合させるメカニカルアロイングに相当する方
法も含む) 、化学的な方法 (例、電解Niめっき、無電解
Niめっき) のいずれでもよく、特に制限はない。Niの被
覆量は、水素吸蔵合金の粉末平均粒径によっても異なる
が、通常は水素吸蔵合金に対して1〜20重量%、好まし
くは5〜10重量%が適当である。このNi被覆の前に、必
要であれば、水素吸蔵合金をフッ酸、塩化水素酸などの
非酸化性の酸で酸洗処理して、合金表面の酸化層を除去
してもよい。
【0065】水素吸蔵合金の表面をNiで被覆した後、熱
処理して表面被覆中のNiを母材合金中のTi成分とを反応
させて、Ni層を水素吸蔵能力の高いTi−Ni化合物に変化
させることにより、表面にTi−Ni化合物を主体とするNi
付加層を形成する。このNi付加層は母材からCrを取り込
んでいるため、Ti−Niの2元系金属間化合物より耐酸化
性に優れている。
【0066】この熱処理も、合金の酸化を防止するた
め、真空中または不活性ガス中で行うことが好ましい。
熱処理条件は、この熱処理中に母材合金の主相の平均結
晶粒径が40μmを超えるまでに粗大化しないように設定
する。この観点から、熱処理温度は 400〜1000℃の範囲
とし、熱処理時間は上記の粗大化が起こらないように設
定する。熱処理温度が1000℃を越えると、平均結晶粒径
が第2相の析出物の粗大化が進み、水素吸収量が低下し
たり、水素吸収・放出に繰り返しにより微粉化し易くな
る。一方、400 ℃未満ではTi−Ni化合物の生成反応が進
みにくい。好ましい熱処理温度は 450〜900 ℃である。
【0067】但し、Ni被覆を、例えばボールミル中で長
時間 (例、 100〜1000時間) 行うといったメカニカルア
ロイング法により行った場合には、生成したNi被覆は既
に母材合金中のTiと反応してTi−Ni化合物を主体とする
Ni付加層になっているので、反応のために熱処理を行う
必要はない。
【0068】
【実施例】試験合金の作製には、高周波溶解法 (5 kg/c
h)、ボタンアーク溶解法 (ボタンサイズ:250 g/chと50
g/ch)、銅ロールを用いた単ロール急冷法 (20 g/ch)、
Arガスアトマイズ法 (10 g/ch)、または回転電極法 (50
0 g/ch) を用いた。合金溶湯の調製に用いた原料は、純
度99wt%のスポンジチタン、純度98wt%のバナジウム、
純度99wt%のクロム、ランタノイド系希土類金属の合金
であるミッシュメタル (Lnと略記する)(La=46wt%、Ce
=5wt%、Nd=37wt%、Pr=10wt%、総希土類含有量9
9.5wt%) 、純度99wt%のFe、Mn、Co、Nb、Y、Zn、Z
r、純度99.9wt%のAl、Ag、Hf、Ta、W、Mo、Cuであっ
た。軽元素 (Si、C、N、P、B) は、TiまたはCrとの
化合物(TiC、TiB2等) で添加した。
【0069】粉末が直接得られるガスアトマイズ法と回
転電極法以外の方法では、得られた合金を300 ℃、2.5
MPa の水素ガス中で5時間水素化した後に機械的に粉砕
し、粉末にした。いずれの合金粉末も、100 μm以下の
粉末をふるいで選別して用いた。ガスアトマイズ材の一
部については、平均結晶粒径を大きくするために、アル
ゴン雰囲気中で熱処理を施した。試験合金の特性評価方
法を次にまとめて説明する。
【0070】水素ガス吸収・放出特性 水素ガス吸収・放出特性は、ジーベルツ型装置を用いて
活性化原点法により測定した。測定は、試験合金を容器
に入れ、真空排気して原点を決定した後、3.0MPa の水
素圧下 300〜500 ℃に加熱して活性化処理してから行っ
た。機械的粉砕における合金粉末表面の酸化の影響を除
くため、活性化処理の前に試験合金を5vol%弗化水素酸
(フッ酸) 水溶液で酸洗した。
【0071】測定に用いた水素放出−吸収サイクルは、
温度80℃で、水素圧を3.0 MPa から0.01 MPaまで下げる
水素ガス放出と、水素圧を0.01 MPaから3.0 MPa まで加
圧する水素ガス吸収とからなる。
【0072】水素吸蔵量は、1サイクル目の水素ガス放
出時に水素放出曲線を作製して、圧力1MPa での水素吸
蔵量の値を求め、この水素量を合金を構成する金属原子
数に対する吸収された水素原子数の比であるH/Mに換
算することにより評価した。H/Mが1.80以上を合格と
した。
【0073】繰り返し水素吸収・放出による微粉化 繰り返し水素吸収・放出による微粉化の影響は、前記の
水素放出−吸収サイクルを300 サイクル行った後、粒径
20μm以下の粉末がどれだけ増加したかを測定し、評価
した。粒度測定には、レーザー回折式の粒度分布測定装
置を用いた。製造方法により粉末の粒度分布に差があっ
たため、評価は試験前の20μm以下の粒子量を基準にし
て、その量に対して比較した微粉増加率を次式により算
出して評価した。微粉増加率が15%以下であれば合格で
ある。
【0074】
【数1】
【0075】結晶粒径 試験合金の主相の結晶粒径の測定は、粉砕前の合金をエ
ポキシ樹脂に埋め込み、研磨した後に、0.4 vol%フッ酸
と1vol%硝酸との混酸でエッチングし、光学顕微鏡で観
察して行い、ランダムに選択した結晶粒20個の測定結果
の平均値を平均結晶粒径とした。第2相の析出物の粒径
は微細であったため、SEM (二次電子顕微鏡) を用い
て測定し、上と同様に平均値を求めた。
【0076】耐酸化性 表面をNi被覆してNi付加層を形成した水素吸蔵合金の耐
酸化性の評価は、温度25℃、湿度65%の恒温恒湿の空気
雰囲気に1週間放置した後、ジーベルツ型の水素吸収・
放出試験装置を用いて、活性化処理なしに80℃で3.0 MP
a の水素ガスの吸収試験を行い、Ni付加層を形成する前
の合金の水素吸蔵量と比較した水素吸蔵量の低下率を、
次式により算出した。水素吸蔵量の低下率が10%以下で
あれば合格である。
【0077】
【数2】
【0078】(実施例1)本実施例は、合金組成を変化さ
せて水素吸蔵合金の性能を検討した実施例である。水素
吸蔵合金の作製法としては、急冷凝固法のみを採用した
ので、主相の平均結晶粒径はいずれも40μm以下であ
り、多くは20μm以下であった。各合金の水素吸蔵量と
微粉増加率の測定結果を、合金組成および作製法ととも
に表1に示す。
【0079】
【表1−1】
【0080】
【表1−2】
【0081】表1からわかるように、合金組成が本発明
の範囲内である水素吸蔵合金はいずれも、80℃という室
温近傍の比較的低い温度で、H/Mが1.80以上という高
い水素吸蔵量を示し、また繰り返し水素吸収・放出試験
による微粉化率が15%以下と低く、室温近傍でも水素吸
蔵量が多く、かつ繰り返し水素吸収・放出による劣化が
少ないことがわかる。
【0082】これに対して、A、B両元素を添加しなか
ったNo.46 の合金では水素吸蔵量が低かった。A、Bの
一方の元素だけを添加したNo.59, 60 でも、水素吸蔵量
の増大は不十分であった。A元素の添加量が多すぎたN
o. 47〜53の合金では、水素吸蔵量の低下と同時に、微
粉化率も増大した。B元素の添加量が多すぎたNo.54 の
合金では、水素吸蔵量が低下した。A、B両元素の添加
量が適切でも、Ti、Cr、Vの含有量が本発明の範囲外で
あるNo. 55〜58の合金は、いずれも水素吸蔵量が低く、
またTiやCrの量が多すぎると、微粉化率が大きくなっ
た。
【0083】(実施例2)本実施例は、各種製造方法で作
製した主相の平均結晶粒径が異なる水素吸蔵合金につい
て、主相の平均結晶粒径が水素吸蔵合金の性能に及ぼす
影響を検討した実施例である。水素吸蔵合金の化学組成
は、Ti=0.30、V=0.24、Cr=0.30、A=0.15 (Mn=0.
04、Fe=0.03、Cu=0.03、Al=0.03、B=0.05) 、B=
0.01 (Ln=0.01) の同一組成とした。結晶粒径の影響を
みるため、ガスアトマイズ後に熱処理した試験合金も作
製した。試験結果を表2に示す
【0084】
【表2】
【0085】表2からわかるように、急冷凝固法で水素
吸蔵合金を作製すると、主相の平均結晶粒径が20μm以
下の微細な組織の合金が得られる。この微細組織の水素
吸蔵合金を熱処理すると、結晶粒径は粗大になるが、主
相の平均結晶粒径が40μm以下であれば、水素吸収量と
微粉増加率のいずれも合格であった。本発明の合金で
は、950 ℃という高温の熱処理でも、短時間で平均結晶
粒径を40μm以下であれば、熱処理による水素吸蔵量や
微粉増加率への悪影響はない。ただし、急冷凝固後に熱
処理していない、平均結晶粒径が20μm以下の合金の方
が成績がよく、水素吸蔵量も高い上、微粉増加率が10%
以下となった。
【0086】また、表2から、主相の平均結晶粒径が40
μm以下であると、第2相の析出物の平均結晶粒径も5
μm以下、特に2μm以下という、微粉化の抑制の望ま
しい範囲になることもわかる。
【0087】一方、凝固速度の遅いボタンアーク溶解材
や高周波溶解材は、主相の平均結晶粒径が40μmを超
え、水素吸蔵量と微粉増加率のいずれも不合格となった
(No.6〜8)。ガスアトマイズ材を熱処理した場
合も、平均結晶粒径が40μmを超えるように熱処理条件
を設定すると、やはり水素吸蔵量と微粉増加率のどちら
も大きく低下した(No.9, 10)。
【0088】(実施例3)本実施例は、合金表面にTi−Ni
化合物を主体とするNi付加層を形成した場合の水素吸蔵
合金の耐酸化性の向上を例示する。試験した水素吸蔵合
金はいずれも、Arガスアトマイズ法で作製した粉末であ
る。合金の化学組成は、Ti=0.30、V=0.25、Cr=0.3
0、A=0.14、B=0.01の同一組成とした (但し、A、
Bの元素種類は変動) 。
【0089】Ni付加層を形成するための水素吸蔵合金粉
末のNi被覆は、物理的な方法と化学的な方法の両方を採
用した。物理的な方法では、粒径1μm程度のNi微粉末
を用い、これを合金粉末に対して10重量%配合した後、
乳鉢で均一に混合するか、またはボールミルで長時間混
合した。化学的な方法は、市販の無電解Niめっき液を用
いて、合金粉末表面に約10重量%のNiめっき層を形成し
た。なお、当然ながら、電解めっきを行っても同様のNi
めっき層を形成することができる。
【0090】これらの方法でNi被覆を施した後、アルゴ
ン雰囲気中で熱処理を行って、Ni被覆層を合金粉末と反
応させて合金化することにより、合金表面にTi−Ni化合
物を主体とするNi付加層を形成した。但し、ボールミル
によりNi粉末を機械的に被覆する方法では、このボール
ミル混合を100 時間と長時間行うことにより、メカニカ
ルアロイングによってNi被覆の合金化が起こっているの
で、熱処理は行わなかった。また、比較例として、この
熱処理を行わず、単にNi被覆 (無電解Niメッキまたは乳
鉢混合) しただけの試験材も作製した。
【0091】こうして表面にNi含有層を形成したガスア
トマイズ法で作製された水素吸蔵合金粉末の耐酸化性
を、上記のように所定条件の大気中で1週間の放置後に
活性化処理せずに水素吸蔵量を測定することにより調査
した。試験結果を、Ni付加層の形成方法 (上段はNi被覆
方法、下段は熱処理条件) 、主相の平均結晶粒径、Ti−
Ni化合物相の形成の有無 (X線回折で確認) と共に表3
に示す。
【0092】
【表3】
【0093】表3からわかるように、本発明に従ってNi
被覆を施し、かつこのNi被覆を合金成分と反応させるこ
とによりTi−Ni化合物を主体とするNi付加層を合金表面
に形成すると、本発明の水素吸蔵合金の大気中での酸化
が抑制され、1週間放置後に活性化処理せずに水素吸蔵
量を測定しても、水素吸蔵量の低下が10%以下に抑えら
れた。即ち、大気中で水素吸蔵合金の粉末を取り扱って
も表面がほとんど酸化されないので、取扱いが非常に容
易になり、また費用のかかる活性化処理が不要ないし軽
減される。
【0094】一方、比較例において、Ni被覆を全く施さ
ないと、1週間放置後の合金粉末の水素吸収量は35%も
低下した(No.9)。しかし、Ni被覆を施しても、熱処理ま
たはメカニカルアロイングによりNi被覆を合金成分と反
応させないと、1週間放置後の合金粉末の水素吸収量は
19〜24%も低下した (No.10, 11)。即ち、Ni被覆だけで
は、未被覆の場合に比べて耐酸化性の向上は著しく少な
いことがわかる。また、Ni被覆後の反応のための熱処理
条件が不適切で、主相の平均結晶粒径が40μmを超える
と、粗大化の影響で水素吸蔵量はやはり大きく低下し
た。
【0095】
【発明の効果】本発明の水素吸蔵合金は、水素吸蔵量が
H/M=1.80以上と非常に高く、室温近傍の比較的低い
温度 (例、150 ℃以下) で水素の吸収・放出が起こるの
で、各種用途に使い易く、水素吸収・放出を長期間にわ
たって繰り返しても微粉化しにくいので、高い水素吸収
量が長期間保持され (耐久性に優れ) 、かつ比較的安価
である。
【0096】また、合金表面にTi−Ni化合物を主体とす
るNi付加層を形成すると、合金の耐酸化性が著しく向上
し、大気中に放置した時の水素吸収量の低下が非常に小
さくなるので、大気中で容易に取り扱うことが可能とな
り、費用のかかる活性化処理が不要となるか、軽減され
る。従って、本発明の水素吸蔵合金は、水素ガス貯蔵・
輸送用、水素ガス分離・精製用、熱輸送システムや冷却
システム、静的コンプレッサーといった用途に最適であ
る。
フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI B22F 9/10 B22F 9/10 C22C 1/00 C22C 1/00 N (72)発明者 上仲 秀哉 大阪市中央区北浜4丁目5番33号 住友金 属工業株式会社内

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 式:Tia 1-a-b-c-d Crb c d ・・・ で示される組成を持ち、主相の平均結晶粒径が40μm以
    下であることを特徴とする水素吸蔵合金。上記式中、 Aは、Mn、Fe、Co、Cu、Nb、Zn、Zr、Mo、Ag、Hf、Ta、
    W、Al、Si、C、N、P、およびBから選ばれた1種ま
    たは2種以上の元素を意味し、 BはLn (ランタノイド系金属) およびYから選ばれた1
    種または2種以上の元素を意味し、 aの値は0.2 以上、0.5 以下、 bの値は0.1 以上、0.4 以下、 cの値は0.01以上、0.2 以下、 dの値は0.001 以上、0.03以下。
  2. 【請求項2】 表面にTi−Ni化合物を主体とするNi付加
    層を有する、請求項1記載の水素吸蔵合金。
  3. 【請求項3】 式で示される組成を持つ合金を急冷凝
    固法により製造することを特徴とする、請求項1記載の
    水素吸蔵合金の製造方法。
  4. 【請求項4】 式で示される組成を持つ合金を急冷凝
    固法により製造し、この水素吸蔵合金の表面をNiで被覆
    し、次いで 400〜1000℃の温度で熱処理を行うことを特
    徴とする、請求項2記載の水素吸蔵合金の製造方法。
  5. 【請求項5】 式で示される組成を持つ合金を急冷凝
    固法により製造し、この水素吸蔵合金の表面をメカニカ
    ルアロイング法によりNiで被覆することからなる、請求
    項2記載の水素吸蔵合金の製造方法。
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