JP2000303101A - 耐久性に優れる水素吸蔵合金とその製造方法 - Google Patents

耐久性に優れる水素吸蔵合金とその製造方法

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JP2000303101A JP2000038563A JP2000038563A JP2000303101A JP 2000303101 A JP2000303101 A JP 2000303101A JP 2000038563 A JP2000038563 A JP 2000038563A JP 2000038563 A JP2000038563 A JP 2000038563A JP 2000303101 A JP2000303101 A JP 2000303101A
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Masakatsu Hosomi
政功 細見
Tatsuo Nagata
辰夫 永田
Hideya Kaminaka
秀哉 上仲
Hisashi Maeda
尚志 前田
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Sumitomo Metal Industries Ltd
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  • Manufacture Of Metal Powder And Suspensions Thereof (AREA)
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 水素の貯蔵・輸送用等に適した、高い水素吸
蔵能力と長期繰り返し水素吸収・放出寿命をもち、室温
近傍の温度で使用でき、かつ耐酸化性に優れ、大気中で
容易に取扱うことができる水素吸蔵合金とその製造方
法。 【解決手段】 Tia Crb Moc Nbdef (Aは、Mn、
Fe、Co、Cu、V、Zn、Zr、Ag、Hf、Ta、W、Al、Si、
C、N、P、およびBから選ばれた1種または2種以上
の元素;Bは、1種または2種以上の希土類元素;a+b+
c+d+e+f=1、 0.2≦a≦0.7 、 0.1≦b≦0.7 、0.01≦
c+d≦0.4 、0.01≦e≦0.3 、 0.001≦f≦0.03であ
り、好ましくはAは0.01〜0.15のFeおよび/または 0.0
01〜0.012のCを含む) で示される組成を持ち、主相が
体心立方晶で、その平均結晶粒径が100 μm以下である
水素吸蔵合金を急冷凝固法または溶体化処理法で製造す
る。この水素吸蔵合金の表面をNi被覆し、次いで 400〜
1000℃の温度で熱処理を行うか、または水素吸蔵合金の
表面をメカニカルアロイング法によりNi被覆して、表面
にTi−Ni化合物、特にTiNiを主体とするNi付加層を形成
すると、耐酸化性が著しく向上する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水素吸収量 (水素
吸蔵能力) が高く、しかも繰り返し水素吸収放出による
特性劣化が少なく、室温近傍の温度で利用可能で、比較
的安価といった特徴を持つ、耐久性に優れた水素吸蔵合
金とその製造方法に関する。これらの特徴を持つ本発明
の水素吸蔵合金は、特に水素ガス貯蔵・輸送用、水素ガ
ス分離・精製用、さらには熱輸送システムや冷却システ
ム、静的コンプレッサー、水素ガスを燃料とする燃料電
池などに最適である。
【0002】
【従来の技術】水素ガスは、燃焼すると水になり、化石
燃料のように炭酸ガスや硫黄酸化物を形成することがな
いため、クリーンなエネルギー源である。
【0003】水素ガスの貯蔵・輸送は、一般に圧縮して
高圧ガスとして行われている。液体水素の貯蔵には−25
3 ℃の低温貯蔵容器が必要で、蒸発損失も大きい上、水
素の液化に多量のエネルギーが必要であるため、窒素の
ように液化して貯蔵するのは困難であるからである。し
かし、高圧水素ガスは、重くて嵩張る耐圧容器が必要で
あるにもかかわらず、体積が 200分の1程度にしかなら
ず非効率的である上、安全性にも問題がある。
【0004】そこで、冷却・加熱により水素ガスを可逆
的に吸収・放出できる水素吸蔵合金を水素ガスの貯蔵・
輸送に利用することが検討されてきた。水素吸蔵合金
は、単位体積当たりの水素ガスの貯蔵密度が高圧水素ガ
ス容器より高く、より軽量かつ小体積の水素ガス貯蔵容
器となり、水素ガスの輸送も容易になる。また、低圧で
あることから安全性が高く、輸送中の機械的な衝撃にも
強い。
【0005】水素の貯蔵・輸送を目的とする水素吸蔵合
金は従来より開発されており、小規模な水素の貯蔵には
既に利用されている。また、ガソリンの代替燃料として
水素ガスを利用する低公害水素自動車や燃料電池自動車
の研究も進んでおり、これにもFeTi系をはじめとする各
種の水素吸蔵合金が水素貯蔵デバイスとして検討されて
いる。さらに一部実用化されつつある燃料電池にも、水
素ガスが燃料として利用されている。水素吸蔵合金の実
用化が期待される用途には他に次のようなものがある。
水素吸蔵合金の水素の吸収 (水素化) と放出 (水素化物
の分解) は、熱の放出と吸収を伴う可逆反応であり、熱
−化学エネルギー変換機能を持つ。この機能を利用し
て、熱エネルギーの貯蔵・輸送システムや化学的ヒート
ポンプとして冷却システムに使用することができる。
【0006】また、低温で水素ガスを吸収させた水素吸
蔵合金を高温に加熱すると、高圧の水素ガスが放出され
る。それにより熱エネルギーを機械エネルギーに変換す
る機能も果たす。この機能は、熱駆動型の静的水素コン
プレッサやアクチュエータとして利用できる。
【0007】水素吸蔵合金の水素ガスの吸収・放出速度
は、他のガス成分の吸収・放出速度より大きく、水素同
位体間でも差がある。従って、水素吸蔵合金を用いて水
素または特定の水素同位体を選択的に吸収または放出さ
せることにより、混合ガスからの高純度水素ガスの分
離、不純水素ガスの精製、さらには水素同位体の分離が
可能である。
【0008】このように水素吸蔵合金には幅広い用途が
あるが、どの用途に対しても、水素吸収量が最も重要な
特性である。また、上記の用途はいずれも比較的多量の
水素吸蔵合金を必要とするので、水素吸蔵合金を繰り返
し使用しても機能低下が少なく、耐久性に優れているこ
とと、合金の価格が比較的安価であることも重要であ
る。用途によっては室温近傍の比較的低い温度 (例、15
0 ℃以下) で水素の吸収・放出が起こることも求められ
る。
【0009】例えば、実用化が先行したLaNi5 またはMm
Ni5 で代表されるAB5 型の水素吸蔵合金は高価である
ので、水素吸蔵合金の使用量が少ないNi−水素電池等の
小型二次電池用には使用できても、水素ガス貯蔵用とい
った大量の水素吸蔵合金が必要な用途には、価格面から
使用が困難である。また、水素吸収量もそれほど多くな
い。
【0010】特開平4−210446号公報には、TiCr2 合金
のCrの一部をMoまたはMoとFeで置換したTi−Cr−Mo系お
よびTi−Cr−Mo−Fe系水素吸蔵合金が増大した水素吸収
量を示すことが開示されている。特開昭61−176067号公
報には、Ti−Cr合金にAl、Si、各種遷移金属、アルカリ
土類金属等を添加した水素吸蔵合金が、充放電によるサ
イクル寿命が長く、放電容量の大きい水素吸蔵電極を与
えることが開示されている。
【0011】特開平7−252560号公報には、Ti−Cr合金
に、V、Nb、Mo、Ta、Wの1種以上とZr、Mn、Fe、Co、
Ni、Cuの1種以上を添加した、体心立方構造の結晶構造
を持つ水素吸蔵合金が開示されている。この水素吸蔵合
金は、水素吸収量が多く、常温で可逆的に水素を吸収・
放出できると説明されている。
【0012】特開平7−268513号および同7−268514号
の各公報には、Ti−V系合金からなる母相の粒界に、第
2相のTi−Ni合金相またはAB2 型ラーベス合金相が三
次元網目骨格を形成している組織を持つ水素吸蔵合金が
開示されている。この粒界相が合金の水素との反応性を
向上させるため、母相に若干の酸化があっても、この粒
界相を介して水素ガスの吸収・放出が可能であると説明
されている。
【0013】特開昭60−190570号公報には、水素吸蔵合
金に湿式無電解メッキによりCuおよび/またはNiを被覆
することで、雰囲気中の不純物ガスによる汚染の影響を
小さくでき、初期活性化が不要ないし軽減できることが
記載されている。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】水素吸蔵合金の水素ガ
スの吸収と放出は、それぞれ体積の膨張と収縮を伴う化
学反応である。実用的な反応速度を得るには、水素吸蔵
合金を粉末状で使用して表面積を増大させる必要があ
る。しかし、使用中に合金の体積の膨張と収縮が繰り返
されると、内部歪みにより粉末に亀裂が入り、やがて細
かな粒子に割れて粉末が微粉化する。微粉化が進行する
と、閉塞により水素ガスが容易に流れなくなったり、微
粉が水素ガスの流れに混じってガス配管内に移動する。
従って、この微粉化が水素吸蔵合金の長期繰り返し水素
吸収・放出寿命 (即ち、耐久性) 低下の大きな原因とな
る。
【0015】例えば、特開平4−210446号公報に記載の
Ti−Cr−Mo系およびTi−Cr−Mo−Fe系合金や、特開昭61
−176067号公報に記載のTi−Cr−第3成分系合金は、水
素の吸収・放出に伴う微粉化が起こり易い上、活性化
や、水素吸収量は大きいが放出量が十分ではない、とい
った問題も内包しており、実用化への大きな障害となっ
ている。
【0016】特開平7−252560号公報に記載の水素吸蔵
合金は、1200〜1400℃という高温に保持して体心立方晶
の単相組織とした後、直ちに水冷により急冷することに
より製造されるので、結晶粒が粗大化することがあり、
そうなると材料自体の強度が弱くなり、微粉化し易い。
また、工業的生産で大型インゴットを溶製した場合に
は、水冷でも十分な冷却速度が得られず、TiCr2 を主体
とする第2相の粗大析出物が生成し、水素吸収量も低下
する。
【0017】特開平7−268513号および同7−268514号
の各公報に記載の水素吸蔵合金は、第2相のTi−Ni合金
相またはAB2 型ラーベス合金相を、主相の周囲で三次
元網目構造を形成するほど多量に析出させるため、合金
全体の水素吸収量が低下し、第2相を起点とした微粉化
の問題も避けられない。
【0018】水素吸蔵合金の耐酸化性も重要な特性であ
る。水素吸蔵合金は大気中に放置されると表面が酸化さ
れ、酸化膜が形成される。特に、Ti合金は酸化膜が形成
され易い。この酸化膜は水素吸収の障害となり、所望の
水素吸蔵能力を発揮を妨げる。そのため、水素吸蔵合金
は、使用前に酸化膜を除去するため活性化処理が必要と
なることが多い。この活性化処理は、合金を耐圧容器に
入れ、数十Kg/cm2という高圧の水素ガスを高温で1日〜
数日間作用させることにより行われ、容器と処理のどち
らにも費用がかかる。従って、活性化処理が不要となる
ように、空気中に放置しても酸化されにくい水素吸蔵合
金が求められている。
【0019】特開昭60−190570号公報に記載の無電解メ
ッキによる水素吸蔵合金の金属被覆は、この要請に応え
たもので、水素吸蔵合金の耐酸化性の向上には有効であ
るが、被覆金属が水素吸蔵能力を全く持たないCuやNiで
あるため、被覆金属の分だけ水素吸収量が減少する。
【0020】本発明は、水素ガスの貯蔵・輸送、水素ガ
スの精製・分離、熱輸送・冷却システム、水素コンプレ
ッサーなどの用途に適用可能な、高い水素吸蔵能力を持
ち、微粉化しにくく長期繰り返し水素吸収・放出寿命
(耐久性) に優れ、室温近傍の比較的低い(150℃以下の)
温度で使用でき、かつ大気中に放置しても水素吸蔵特
性の劣化の少ない、比較的安価な水素吸蔵合金を提供す
ることを課題とするものである。
【0021】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、Ti−Cr−
(Mo−Nb) 系に2種以上の添加元素を含有させた組成を
持ち、かつ主相である体心立方晶の結晶粒径の粒度を小
さくした水素吸蔵合金により、上記課題を解決できるこ
とを見出した。本発明に係る水素吸蔵合金は、 式:Tia Crb Moc Nbdef ・・・ (a) で示される組成を持ち、主相が体心立方晶で、その平均
結晶粒径が100 μm以下であることを特徴とする。
【0022】上記式中、Aは、Mn、Fe、Co、Cu、V、Z
n、Zr、Ag、Hf、Ta、W、Al、Si、C、N、P、および
Bから選ばれた1種または2種以上の元素を表し、B
は、1種または2種以上の希土類元素を表し、 a+b+c+d+e+f=1、 0.2≦a≦0.7 、 0.1 ≦b≦0.7 、 0.01≦c+d≦0.4 、 0.01 ≦e≦0.3 、 0.001≦f≦0.03である。
【0023】好適態様にあっては、上記一般式(a) にお
けるA元素は、原子比0.01〜0.15のFeと原子比 0.001〜
0.012 のSiの一方または両方を有する。
【0024】この主晶の結晶粒径の粒度が小さい水素吸
蔵合金は、急冷凝固法と溶体化処理法のいずれでも製造
することができる。急冷凝固法は、上記(a) 式で示され
る組成になるように原料を溶解し、次いで急冷凝固させ
ることを特徴とする。一方、溶体化処理法は、上記(a)
式で示される組成になるように原料を溶解し、次いで凝
固させて得た合金に、1200℃から1400℃の範囲の温度に
加熱し、該加熱温度から400 ℃までの冷却速度が200 ℃
/sec 以上となるように冷却することを特徴とする。
【0025】本発明の別の好適態様にあっては、水素吸
蔵合金が、その表面に Ni3Ti、TiNiおよびTi2Ni の1種
または2種以上からなるTi−Ni化合物を主体とするNi付
加層を有している。それにより、水素吸蔵合金の耐酸化
性が著しく向上し、大気中に放置しても活性化処理をせ
ずに使用できるようになる。好ましくは、このNi付加層
中のTi−Ni化合物の70体積%以上を、主相と同じ体心立
方構造を有するTiNiが占めるか、および/またはNi付加
層中のNi濃度が合金表面から内部に向かって傾斜的に減
少している。
【0026】Ni付加相は、水素吸蔵合金の表面にメッキ
法によりNiを被覆した後、400 ℃以上、1000℃以下の温
度で熱処理を施すことを含む方法、水素吸蔵合金の表面
にメカニカルアロイング法によりNiを被覆することを含
む方法、またはニッケルカルボニル[Ni(CO)4] ガスを用
いた気相反応法によりNiを被覆することを含む方法によ
り形成することができる。メカニカルアロイング法で作
製した被覆粉末は 400〜1000℃の温度を用いて熱処理す
ることが好ましい。
【0027】本発明の水素吸蔵合金の特徴は、(1) 前記
(a) 式で示される化学組成、(2) 主相の平均結晶粒径が
100 μm以下と微細であること、および(3) 主相が体心
立方晶であることである。この体心立方晶の結晶格子を
構成しているのは、Ti、CrとMoおよび/またはNbであ
り、その一部がA元素、特にFeを含むA元素で置換され
た固溶体である。
【0028】主相を体心立方晶とするには、本発明の水
素吸蔵合金を、ロール急冷法やガスアトマイズ法といっ
た急冷凝固法か、または溶体化処理法により製造すれば
よい。本発明における溶体化処理は、溶製した合金の鋳
塊を体心立方晶の単相となる高温の温度域 (1200〜1400
℃) に、固相変態により単相になるまで保持した後、該
保持温度から400 ℃まで200 ℃/sec 以上の冷却速度で
冷却する処理である。この冷却速度が平均で200 ℃/se
c 以上であると、1200〜1400℃の範囲の温度に保持する
ことにより粗大化したもとの結晶粒の中に、冷却過程で
粒径100 μm以下の微細な結晶粒が晶出する。この結晶
粒晶出のメカニズムは明らかではないが、合金の化学組
成のミクロ的な揺らぎに起因すると推測される。この時
の冷却速度が200 ℃/sec を下回ると、新しく晶出する
結晶粒が粗大化して好ましくない。さらに冷却速度が遅
くなると、TiCrが析出し、溶体化処理ではなくなってし
まう。
【0029】上記(2) の100 μm以下という微細な主相
の平均結晶粒径は、結晶粒の成長が起きにくい急冷凝固
法で合金を製造する場合には容易に達成することができ
る。溶体化処理法でも、すぐ上に説明したように、高温
保持後の急速冷却過程で微細な結晶粒が新たに晶出する
ことで、この条件を満たすことができる。
【0030】急冷凝固または溶体化処理で得られた、主
相が体心立方晶で、その平均結晶粒径が100 μm以下と
微細なTi−Cr− (Mo−Nb) 系の水素吸蔵合金は、大気圧
に近い0.1 MPa の水素平衡圧 (水素吸収・放出反応の平
衡ガス圧) を示す温度が150℃以下と低く、150 ℃以下
の温度範囲で、多量の水素を吸収することができ、かつ
微粉化しにくいため、繰り返し水素吸収・放出寿命に優
れている。
【0031】しかし、この高い水素吸収量や優れた耐久
性は、高周波溶解法やアーク溶解法のように溶解後の凝
固が遅い方法で製造したままの水素吸蔵合金では、化学
組成が同じであっても、確実には得ることができない。
これは、凝固速度が低下すると、水素吸収量の少ないTi
Cr2 を主体とする第2相が、凝固中にかなりの割合で析
出するためである。この第2相の析出物は、水素吸収量
を低下させるだけでなく、水素平衡圧を低下させて吸収
した水素の可逆的な放出を不可能にし、さらに粒界破壊
の起点となるため、微粉化を起こし易くする。本発明の
水素吸蔵合金では、この第2相の析出量が非常に少ない
ため、第2相に起因する水素吸収量の低下や微粉化を避
けることができる。
【0032】
【発明の実施の形態】本発明の水素吸蔵合金は、Ti−Cr
− (Mo−Nb) 系の合金に、A元素、好ましくはFeを含む
A元素と、B元素とを添加した化学組成を持つ。これら
A、B両元素の添加により、Ti−Cr− (Mo−Nb) 系の元
合金とほぼ温度・圧力で水素ガスを吸収・放出する特性
を維持し、かつ上記第2相の形成も抑えながら、水素吸
収量をさらに増大させることができる。その理由は完全
に解明されたわけではないが、次のように考えられる。
【0033】A元素 (Mn、Fe、Co、Cu、V、Zn、Zr、A
g、Hf、Ta、W、Al、Si、C、N、P、B) は、主相の
体心立方晶を構成するTi、Mo、Nb、Crと置換して格子寸
法を拡大することで、合金自体の水素吸収量を高めてい
ると予想される。これらの元素も、溶解後の凝固速度や
溶体化処理時の冷却速度が遅いと、TiまたはCrとの金属
間化合物や、炭化物、ホウ化物を形成しやすく、水素吸
収量が低下する。従って、高い水素吸収量を得るには、
このような化合物の晶出または析出を抑制するために、
急冷凝固あるいは溶体化処理時に急冷を行う。それによ
り、この化合物が起点となる微粉化も抑制される。
【0034】B元素 (希土類元素) は、主相の体心立方
晶にはほとんど存在せず、合金中に含まれる不純物酸素
と酸化物を形成して存在すると考えられる。不純物酸素
は主相の体心立方晶の金属原子間に侵入する状態で存在
しているが、これらの元素が侵入する位置は、水素を吸
蔵させた場合に水素原子が侵入する位置でもある。従っ
て、この不純物酸素は水素侵入サイトを塞いでしまい、
水素吸収量を減少させる原因となる。酸素と化合しやす
い希土類金属を添加すると、不純物酸素が主相の外に追
いやられ、水素吸収量が増加するものと推定される。
【0035】本発明の水素吸蔵合金の化学組成は、150
℃以下の低温および大気圧近傍で高い水素吸収量を得る
ように検討して、上記のように決定された。次にその理
由を説明する。なお、各元素の量はいずれも原子比であ
り、合計が1である。
【0036】チタン (Ti) Ti量が増えると、合金主相である体心立方晶の格子寸法
が拡大し、水素吸収量が増加する。高い水素吸収量を得
るには、0.2 以上のTiが必要であり、Ti量がこれより少
ないと、水素吸収量が低くなる。チタンが多いほど水素
吸収量は増大するが、それに伴って水素平衡圧が低下
し、室温・大気圧近傍で利用することができなくなる。
【0037】本発明では、水素平衡圧を上昇させる元素
としてCrを添加するが、Ti量が0.7を越えると、Crを添
加しても水素平衡圧を大気圧近傍まで上昇させることが
できなくなる。また、Ti量が多すぎると、微粉化が原因
の繰り返し水素吸収・放出に対する寿命 (耐久性) が低
下する。水素吸収量と耐久性のバランスの観点から、Ti
量は 0.2以上、0.7 以下とし、好ましくは0.3 以上、0.
45以下、より好ましくは0.3 以上、0.4 以下である。
【0038】クロム (Cr) Cr量が増えると水素吸収量は増加するが、その程度はTi
ほど大きくないので、Cr添加の主目的は水素平衡圧の制
御にある。従って、Cr量は、Ti量や目的とする使用温度
および水素平衡圧により変化する。しかし、Cr量が0.1
未満では、Ti量が0.2 の場合に室温での水素平衡圧が大
気圧よりかなり低くなり、室温近傍で可逆的に水素を吸
収・放出できなくなる。
【0039】一方、Crが0.7 を超えると、第2相として
析出するTiCr2 相の量が増加し、水素吸収量が低下する
だけでなく、微粉化が起こり易くなり繰り返し水素吸収
・放出に対する寿命も低下する。水素吸収量と耐久性の
バランスの観点から、Cr量は 0.1以上、0.7 以下とし、
好ましくは0.2 以上、0.6 以下である。
【0040】モリブデン (Mo) 、ニオブ (Nb) Ti−Crの2元系では、第2相としてTiCr2 が多く生成す
るので、水素吸収量と繰り返し水素吸収・放出に対する
寿命が低下し、水素平衡圧が低すぎて室温近傍での利用
も困難になる。そのため、Moおよび/またはNbを添加す
る。Mo、Nbの添加により、主相の体心立方晶相が多く得
られ、水素吸収量が増加する。Mo、Nbの量は、その合計
原子比が0.01以上、0.4 以下の範囲で、水素解離平衡圧
が1MPa以下になるように調整することが好ましい。
【0041】Mo、Nbのうち、Moは0.01〜0.15の範囲内の
原子比で本発明の水素吸蔵合金中に存在させることが好
ましい。Moの原子比が0.01未満になると、特に表面にNi
を被覆した後、 400〜1000℃での熱処理時に母材の体心
立方構造の崩壊が進行することがある。Moの原子比が0.
15を超えると、合金の水素平衡圧が高くなりすぎること
がある。
【0042】A元素 (Mn、Fe、Co、Cu、V、Zn、Zr、A
g、Hf、Ta、W、Al、Si、C、N、P、B) これらの添加元素は、主相の体心立方晶を構成するTi、
Cr、Mo、Nbのいずれかの元素と置換し、格子寸法を拡大
して水素吸収量を増加させるのに効果的な元素である。
【0043】個々の2元系状態図から予想されるよう
に、これらの元素はTiまたはCrとの金属間化合物や、炭
化物、ホウ化物を形成しやすいため、あまり多量には添
加できない。A元素の量が0.3 より多くなると、水素吸
収量が少ないか、水素を吸収しない上記の金属間化合物
等の化合物が多く形成されるため、かえって合金全体の
水素吸収量が減少する。一方、A元素の量が0.01より少
ないと、添加による水素吸収量の増加が認められない。
金属間化合物等の形成量と水素吸収量とのバランスか
ら、A元素の量は0.01以上、0.3 以下とし、好ましくは
0.03以上、0.2 以下である。
【0044】A元素のうち、Feは、母材の体心立方構造
を安定化させるという効果がある。この安定化を得るた
めに、A元素の少なくとも一部としてFeを原子比0.01以
上で含有させることが好ましい。しかし、Feの原子比が
0.15より多くなると、第2相が生成し、水素吸収能が低
下する。従って、Feの原子比は0.01〜0.15の範囲とする
ことが好ましく、より好ましくは0.01〜0.10である。
【0045】また、A元素としてのSiは熱処理時に粒度
成長を抑制する効果がある。この効果を得るにはSiを0.
001 以上の原子比で合金に含有させることが好ましい。
Siの原子比が0.012 より多くなると析出物を形成して水
素吸蔵合金が減少する傾向がある。従って、Siの原子比
は 0.001〜0.012 の範囲とすることが好ましく、より好
ましくは 0.001〜0.010 である。
【0046】A元素がFeを含有する場合、合金の溶解原
料の一部としてFe−Mo合金を使用すると、高融点のMoを
容易に溶解できる上、高価な純Moを使用する必要がなく
なり、合金製造コストを大幅に下げることができる。
【0047】B元素 (希土類元素) 希土類元素 (Sc、Yおよびランタノイド元素を含む)
は、合金の主相の水素侵入サイトに存在する不純物酸素
と化合物を形成させるために添加する。従って、B元素
の量は合金中の不純物酸素量に影響される。合金製造時
に安価だが不純物の多い原料を用いれば多く添加する必
要があり、高価だが不純物の少ない原料を用いれば少な
い量で十分である。
【0048】工業的に安価に入手可能な原料を使用して
も、合金の不純物酸素量は通常は1wt%以下であるが、
スクラップ等の利用を考慮すると2wt%以上まで上昇す
ることも考えられる。希土類元素は一般に酸素にB2
3 型の酸化物を形成するため、不純物酸素と原子比で同
等量程度添加すれば十分である。そのため、B元素の量
の上限を0.03とした。これより多量にB元素を添加して
も、水素吸蔵特性に大きな影響を与えない過剰のB元素
を増やすだけでコスト増大につながる。一方、B元素の
量が0.001 以下では、不純物酸素を除去できず、水素吸
収量が増加しない。
【0049】以上より、B元素の量を0.001 以上、0.03
以下とするが、上に説明したように、この量は合金の不
純物酸素量、従って、使用する原料の純度により、この
範囲内で増減させる。このように、高価なB元素の添加
量は非常に少ないので、その添加によるコスト増大はわ
ずかである。また、B元素は主相の粒界で酸化物を形成
するが、その量が上記のようにわずかであるので、それ
による水素吸収量の悪影響は、この酸化物の添加による
水素吸収量の増大に比べて少なくなる。また、これらの
酸化物は、熱処理中の結晶粒度の粗大化を抑える効果を
有しているため、B元素添加により、微細結晶組織を得
ることができる熱処理温度の上限を、Ti−Cr− (Mo−N
b) 合金の場合より高くすることができる。従って、熱
処理時間が短くなる。
【0050】希土類元素は、純金属として精製されたL
a、Ce等の元素を単独添加することも可能であるが、多
くのランタノイド系金属を含む合金であるミッシュメタ
ルと呼ばれる比較的安価な合金を用いると、本発明の水
素吸蔵合金の製造コストはさらに低下する。
【0051】平均結晶粒径 以上に説明したように、本発明の水素吸蔵合金は、もと
もと水素吸収量の多い体心立方晶を主相とするTi−Cr−
(Mo−Nb) 系合金に、A元素とB元素を添加して水素吸
収量をさらに増大させ、好ましくはA元素としてFeを添
加し、合金を安定化することに成功したものである。
【0052】しかし、このTi−Cr− (Mo−Nb) −A(Fe)
−B系の化学組成を持っていても、この合金の水素吸収
量は、合金の主相の平均結晶粒径により変化し、例え
ば、合金製造時の凝固速度が遅いために主相の平均結晶
粒径が100 μmを超えると、同じ組成であっても水素吸
収量が低下することが判明した。
【0053】これは、凝固速度や溶体化処理時の冷却速
度が低下すると、TiCr2 や、前述したA元素との金属間
化合物、炭化物、ホウ化物等の析出物の量が増大し、こ
の析出物はそれ自体の水素吸収量が少ないか、水素を吸
蔵しないため、その量が増えると合金全体としての水素
吸収量は低下するためである。また、TiCr2 や他の析出
物の量が増えると、主相である体心立方晶の合金相中の
Ti、Cr量が低下するため、主相の水素吸収量が減少する
だけでなく、主としてCr量減少に起因して、水素吸収・
放出反応の平衡ガス圧である水素平衡圧が低下し、可逆
的に吸収した水素を放出できなくなる。
【0054】さらに、合金製造時の凝固速度や溶体化処
理時の冷却速度が遅くなって合金の主相の平均結晶粒径
が100 μmを超えると、繰り返し水素吸収・放出試験を
した時の微粉化が顕著になり、合金寿命 (耐久性) の低
下も著しいことが判明した。この微粉化の主因は、上記
のTiCr2 やA元素との金属間化合物等の析出物を起点と
する粒界破壊であると推定される。従って、このような
析出物の量が増えると微粉化の起点が多くなり、微粉化
が起こり易くなる。
【0055】また、粉末の平均粒径が大きくなると、水
素吸収・放出時の体積変化が大きくなり、クラックが発
生し易くなるため、微粉化傾向が強まるが、この微粉化
傾向は、特に粉末の平均粒径が100 μmを超えると顕著
になる。従って、水素吸蔵合金は、平均粒径が100 μm
以下の粉末状態とすることが好ましい。それにより、水
素の吸収・放出時の合金の割れと微粉化が防止され、ま
た後述するNi付加層の破壊も起こりにくくなり、十分な
耐久性を確保できる。
【0056】このように粉末粒度を制御すると、実際に
水素吸蔵合金を水素タンク内に充填した場合にも、水素
放出能力が改善されるだけでなく、微粉化によって生じ
た、非常に微細な合金が水素ガスと混じって、動力機関
内部に巻き込まれることも、フィルターの目詰まりを起
こすこともなくなり、水素ガスの供給源および輸送シス
テムの長寿命化に結びつく。
【0057】以上の知見に基づいて、本発明の水素吸蔵
合金では、合金の主相の平均結晶粒径を100 μm以下と
し、好ましくは平均粒径100 μm以下の粉末状態とす
る。それにより、TiCr2 やA元素との金属間化合物等の
ような析出物の生成量が著しく低減するため、水素吸収
量が多くなり、体心立方晶金属の理論上の最大水素吸収
量に近づいたH/M=1.80以上の高い水素吸収量を示す
合金が得られる。同時に繰り返し水素吸収・放出時の微
粉化が起こりにくくなり、代表的な希土類系水素吸蔵合
金であるMmNi5 系金属間化合物より著しく優れた繰り返
し水素吸収・放出に対する耐久性を示すようになる。
【0058】本発明の水素吸蔵合金のこれらの特性をさ
らに改善するには、主相の平均結晶粒径が60μm以下で
あり、粉末の平均粒径が50μm以下であることが好まし
い。また、第2相として形成されるTiCr2 やA元素との
金属間化合物等の析出物の平均結晶粒径は、これが5μ
m以下であると微粉化が生じにくくなり、2μm以下で
あるとほとんど微粉化しないことが判明した。
【0059】主相の平均結晶粒径が100 μm以下の本発
明の水素吸蔵合金は、前述したように急冷凝固法または
溶体化処理法により製造できる。
【0060】急冷凝固法は、所定組成を生ずるように原
料を溶解し、次いで急冷凝固させる方法であり、その具
体的な急冷手段は、上記の平均結晶粒径を持つ合金が得
られる限り限定されない。採用可能な急冷凝固法として
は、回転電極法、回転ドラムあるいはロール上に合金溶
湯を注湯する方法 (例、単ロールまたは双ロール急冷
法) 、水冷銅板上へ薄く鋳込む方法、ガスアトマイズ法
等が挙げられる。
【0061】これらの方法のうち、回転電極法とガスア
トマイズ法は、ほぼ球形の水素吸蔵合金を製造すること
ができ、粉砕工程が不要となる上、粉末形状が実質的に
球形で充填密度が高くなる点で有利である。他の方法の
場合には、必要に応じて得られた水素吸蔵合金を粉砕
し、平均粒径が100 μm以下の粉末にすることができ
る。粉砕方法としては、水素化粉砕、機械粉砕のいずれ
も採用可能であり、両者を併用してもよい。
【0062】溶体化処理法による水素吸蔵合金の製造
は、高周波溶解等の適当な溶製法により所定組成の水素
吸蔵合金の鋳塊を作製し、この鋳塊に溶体化処理を施し
た後、必要に応じて、平均粒径100 μm以下に粉砕する
ことにより実施できる。溶体化処理は、その合金が体心
立方晶の単相となる高温の温度域に保持した後、急冷す
る処理である。本発明の水素吸蔵合金の場合、この温度
域は1200〜1400℃である。保持時間は一般に 0.5〜10時
間の範囲内であり、処理雰囲気は通常は真空または不活
性ガス雰囲気である。前述したように、高温保持後の急
冷は、保持温度から400 ℃までの冷却速度が200 ℃/se
c 以上となるように行うことが好ましい。粉砕は上記と
同様に実施すればよい。
【0063】急冷凝固法により製造された水素吸蔵合金
は、微小な急冷歪みを持っていることが多い。この急冷
歪みは本発明の水素吸蔵合金の耐久性著しい悪影響は生
じないが、所望により水素吸蔵合金を熱処理してこの急
冷歪みを除去してもよい。この熱処理は、合金の酸化を
防止するため、真空中または不活性ガス中で行うことが
好ましい。
【0064】熱処理条件は、その水素吸蔵合金の平均結
晶粒径によっても異なるが、通常は温度 400〜1000℃で
1〜20時間の範囲であり、熱処理中に主相の平均結晶粒
径が100 μmを超えないような条件に設定する。Ti−Cr
− (Mo−Nb) 系合金の熱処理温度は一般に750 ℃以下で
あるが、B元素の添加により熱処理温度の上限は高くな
る。
【0065】後述するように、本発明の水素吸蔵合金の
耐酸化性を向上させるため、合金表面にTi−Ni化合物を
主体とするNi付加層を形成する場合には、この層の形成
過程で熱処理を行うことがあり、この熱処理中に急冷歪
みも除去される。従って、その場合には、急冷歪みの除
去の目的だけの熱処理は必要ない。
【0066】本発明の水素吸蔵合金は、大気中に放置し
ておくと、室温近傍の低温 (例、80℃) で測定した水素
吸収量が減少することがある。即ち、この合金を大気中
に放置すると表面が酸化し、この酸化膜が障害となって
低温での水素吸収量が減少するものと考えられる。この
ように大気放置により水素吸収量が低下した水素吸蔵合
金は、高圧水素ガス中 (例、20気圧) で500 ℃まで加熱
して活性化させると水素吸収量が増加し、放置前の吸収
量を回復する。しかし、この活性化処理は費用がかか
る。
【0067】水素吸蔵合金を利用した装置では、製作過
程で大気との接触を完全に避けることはできないので、
上記の活性化処理を避けるには、大気と接触しても酸化
しないように本発明の水素吸蔵合金の耐酸化性を改善す
ることが望ましい。
【0068】この点について検討した結果、特開昭60−
190570号公報に記載のように、本発明の水素吸蔵合金の
表面をNiで被覆すると、合金の耐酸化性が改善されるこ
とが判明した。しかし、この手法は耐酸化性の向上には
有効であるものの、合金表面を被覆したNi自体は水素吸
蔵能力がほとんどないため、合金単位重量当たりの水素
吸収量が低下する。
【0069】そこでさらに検討した結果、合金表面のNi
被覆層を母材となるTi−Cr− (Mo−Nb) −A(Fe)−B系
合金と反応させて、Ni被覆層をTi−Ni化合物を主体とす
るNi付加層に変えると、このNi付加層は純Ni (即ち、Ni
被覆層) より大きな水素吸蔵能力を持つようになり、水
素吸収量をほとんど低下させずに、水素吸蔵合金に耐酸
化性を付与することができることがわかった。
【0070】従って、好適態様においては、本発明の水
素吸蔵合金は、Ti−Ni化合物を主体とするNi付加層、よ
り好ましくはTiNiが70体積%を占めるNi付加層、を合金
表面に有している。それにより、水素吸収量を維持した
まま耐酸化性が向上し、上述した活性化処理が不要とな
るか、あるいは非常に軽減される。Ti−Ni化合物にはTi
2Ni 、TiNi、TiNi3 の3種類があるが、上記効果を示す
のはTiNiである。
【0071】合金表面へのNiの被覆方法は、物理的な方
法 (例えば、Ni微粉末と合金とを混合する方法、ボール
ミル等で混合させるメカニカルアロイングに相当する方
法も含む) 、化学的な方法 (例えば、電解Niめっき、無
電解Niめっき、気相反応法)のいずれでもよく、特に制
限はない。めっき法の場合には、被めっき材が粉末であ
ることから、無電解めっきの方が容易であり、市販の無
電解ニッケルめっき液を利用してNi被覆を行うことがで
きる。
【0072】Niの被覆量は、水素吸蔵合金の粉末平均粒
径によっても異なるが、通常は水素吸蔵合金に対して1
〜20重量%、好ましくは5〜10重量%が適当である。こ
のNi被覆の前に、必要であれば、水素吸蔵合金をフッ
酸、塩化水素酸などの非酸化性の酸で酸洗処理して、合
金表面の酸化層を除去してもよい。
【0073】水素吸蔵合金の表面をNiで被覆した後、熱
処理して表面被覆中のNiを母材合金中のTi成分とを反応
させて、Ni層を水素吸蔵能力の高いTi−Ni化合物、特に
TiNiに変化させることにより、表面にTi−Ni化合物を主
体とするNi付加層を形成する。このNi付加層は母材から
Crを取り込んでいるため、Ti−Niの2元系金属間化合物
より耐酸化性に優れている。
【0074】この熱処理も、合金の酸化を防止するた
め、真空中または不活性ガス中で行うことが好ましい。
熱処理条件は、この熱処理中に母材合金の主相の平均結
晶粒径が100 μmを超えることのないように設定する。
この観点から、熱処理温度は 400〜1000℃の範囲が好ま
しい。熱処理温度が1000℃を越えると、主相の体心立方
晶や第2相の析出物の粗大化が進み、水素吸収量が低下
したり、水素吸収・放出に繰り返しにより微粉化し易く
なる。一方、400 ℃未満ではTi−Ni化合物の生成反応が
進みにくい。好ましい熱処理温度は 450〜900 ℃であ
る。熱処理温度が900 ℃を越えた場合、熱処理時間が長
過ぎると、Ti2Ni の生成が進み、効果が低減することが
ある。熱処理時間は、10時間以上で、かつ上記の粗大化
が起こらないように設定するのがよい。熱処理時間が10
時間より短いと、Ni付加層の内部にNiを含む六方最密構
造(hcp) の相が形成され、水素の拡散を妨げてしまうこ
とが恐れがある。
【0075】Ni被覆を、例えばボールミル中で長時間
(例、 100〜1000時間) 行うといったメカニカルアロイ
ング法により行った場合には、生成したNi被覆は既に母
材合金中のTiと反応してTi−Ni化合物を主体とするNi付
加層になっているので、反応のために熱処理を行う必要
はない。ただし、所望により、さらに反応を進めるため
に、上記と同様に熱処理を行ってもよい。
【0076】前述したように、Ni被覆は、ニッケルカル
ボニル[Ni(CO)4] ガスを用いた気相反応法により行うこ
ともできる。この場合、合金の表面温度をNi(CO)4 の分
解温度以上に保ち、この分解温度より低温のNi(CO)4
スを粉末表面と接触させる。粉末表面に接触したNi(CO)
4 ガスは分解してNiとCOガスになり、Niが粉末表面に付
着し、粉末表面がNiで被覆される。Ni(CO)4 ガスの温度
が前記分解温度以上であると、当然ながら粉末表面と接
触する前に分解してしまい、目的とするNi被覆を達成す
ることができない。こうしてNiを被覆した後、前記のよ
うに熱処理してNiと合金成分とを反応させ、Ti−Ni化合
物を主体とするNi付加層を形成する。
【0077】Ni(CO)4 ガスの分解温度は文献により約50
〜200 ℃の範囲のまちまちの温度が報告されている。本
発明者らが行った実験では、合金の表面温度が 100〜20
0 ℃程度の温度であると、上記の気相反応法によるNi被
覆が達成されることを示した。Ni(CO)4 ガスの温度は50
℃より低温とすることが好ましい。
【0078】Ni(CO)4 ガスは、好ましくはCOガスとの混
合ガスとして使用する。この混合ガス中のNi(CO)4 ガス
の割合は20〜90体積%とすることが好ましい。Ni(CO)4
ガスの割合が90%より多いと、粉末表面と接触する前に
熱分解が起こってしまうことがあり、20%未満ではNi被
覆層の形成に長時間を要し、実用的ではなくなる。
【0079】さらに、Ni(CO)4 ガスに加えて、Fe(CO)
4 、Mo(CO)4 、Cr(CO)4 、W(CO)4 等の他の金属カルボ
ニルガスを少量混合して用いると、熱処理後に形成され
るNi付加層の耐酸化性を改善することができる。この場
合の、ニッケルカルボニル以外の金属カルボニル化合物
の割合は、ニッケルカルボニルを含めた金属カルボニル
化合物の合計量に対して5〜50体積%の範囲内とするこ
とが好ましい。5%以下では少量すぎて混合の意味がな
い。50%を越えると、Ni付加層中のNi量が少なくなり、
Ni付加層の形成による効果が不十分となる。
【0080】他の金属カルボニルガスをNi(CO)4 ガスに
混合するのではなく、最初に他の金属カルボニルガスを
用いて合金の表面に他の金属を付着させた後、Ni(CO)4
ガスを用いてNi被覆を行うこともできる。こうして多層
の金属付加層を形成すると、粉末が水素を吸蔵・放出す
る毎に発生する体積変化に起因する応力を緩和し、電極
の寿命が一層長くなることが期待できる。この場合、他
の金属の被覆量をNi被覆量以下にすることが好ましい。
【0081】上述した各種方法により水素吸蔵合金の表
面に形成できるNi付加層は、その70体積%以上をTiNiが
占めることが好ましい。これは、3種類のTi−Ni化合物
(Ti 2Ni 、TiNi、TiNi3)のうち、TiNiのみが水素吸蔵合
金の主相と同じ体心立方晶の結晶構造をとるためであ
る。粉末を被覆するNi付加層が、粉末の主相と同じ結晶
構造の化合物を多く含有していると、水素透過性が良好
となり、また粉末主相との整合性が良く、水素の吸蔵・
放出時に粉末主相と同様に体積変化 (変形) が起こるた
め、Ni付加層が剥離しにくくなる。この効果は、TiNiが
Ni付加層の70体積%以上を占めると特に顕著となる。Ni
付加層中のTiNiの体積割合は、熱処理条件(温度、時間)
により調整することができる。
【0082】また、Ni付加層中のNi濃度が合金表面から
内部に向かって傾斜的に減少していることが好ましい。
このように傾斜したNi濃度は、上記のように水素吸蔵合
金にNiを被覆し、熱処理またはメカニカルアロイングに
よってNiを合金中のTiと反応させる場合には、一般に自
然に得られる。Ni濃度がステップ状に変化すると、水素
の吸収・放出時の体積変化の際にその部分が起点となっ
てNi付加層が破壊され易くなるが、Ni濃度を傾斜変化さ
せることで、Ni付加層の破壊が起こりにくくなり、Ni付
加層による耐酸化性向上効果が持続するようになる。
【0083】
【実施例】試験合金の作製には、高周波溶解法 (鋳型内
径100 mm) 、溶体化処理法 [高周波溶解法で得た鋳塊を
溶体化処理 (温度保持後に水冷して急冷)]、銅ロールを
用いた単ロール急冷法 (20 g/ch)、Arガスアトマイズ法
(10 kg/ch) 、または回転電極法 (500 g/ch) を用い
た。
【0084】合金溶湯の調製に用いた原料は、純度99wt
%のスポンジチタン、純度98%のモリブデン、純度98wt
%のニオブ、純度99wt%のクロム、ランタノイド系希土
類金属の合金であるミッシュメタル (Lnと略記)(La=46
wt%、Ce=5wt%、Nd=37wt%、Pr=10wt%、総希土類
含有量99.5wt%) 、純度99wt%のFe、Mn、Co、Nb、Y、
Zn、Zr、純度99.9wt%のAl、Ag、Hf、Ta、W、Mo、Cuで
あった。軽元素 (Si、C、N、P、B) は、TiまたはCr
との化合物(TiC、TiB2等) で添加した。
【0085】粉末が直接得られるガスアトマイズ法と回
転電極法以外の方法では、得られた合金を300 ℃、2.5
MPa の水素ガス中で5時間水素化した後に機械的に粉砕
し、粉末にした。いずれの合金も、100 μm以下の粉末
をふるいで選別して用いた。ガスアトマイズ材の一部に
ついては、平均結晶粒径を大きくするために、アルゴン
雰囲気中で熱処理を施した。試験合金の特性評価方法を
次にまとめて説明する。
【0086】水素ガス吸収・放出特性 水素ガス吸収・放出特性は、ジーベルツ型装置を用いて
活性化原点法により測定した。測定は、試験合金を容器
に入れ、真空排気して原点を決定した後、3.0MPa の水
素圧下 300〜500 ℃に加熱して活性化処理してから行っ
た。機械的粉砕における合金表面の酸化の影響を除くた
め、活性化処理の前に試験合金を5vol%弗化水素酸 (フ
ッ酸) 水溶液で酸洗した。
【0087】測定に用いた水素放出−吸収サイクルは、
温度80℃で、水素圧を3.0 MPa から0.01 MPaまで下げる
水素ガス放出と、水素圧を0.01 MPaから3.0 MPa まで加
圧する水素ガス吸収とからなる。
【0088】水素吸収量は、1サイクル目の水素ガス放
出時に水素放出曲線を作製して、圧力1MPa での水素吸
収量の値を求め、この水素量を合金を構成する金属原子
数に対する吸収された水素原子数の比であるH/Mに換
算することにより評価した。H/Mが1.80以上を合格と
した。
【0089】繰り返し水素吸収・放出による微粉化 繰り返し水素吸収・放出による微粉化の影響は、前記の
水素放出−吸収サイクルを300 サイクル行った後、粒径
100 μm以下の粉末がどれだけ増加したかを測定し、評
価した。粒度測定には、レーザー回折式の粒度分布測定
装置を用いた。製造方法により粉末の粒度分布に差があ
ったため、評価は試験前の100 μm以下の粒子量を基準
にして、その量に対して比較した微粉増加率を次式によ
り算出して評価した。微粉増加率が15%以下であれば合
格である。
【0090】微粉増加率(%) =[(A−B)/B]×100 A=300 サイクル試験後の100 μm以下の粉末量、 B=試験前の100 μm以下の粉末量。
【0091】結晶粒径 試験合金の結晶粒径の測定は、粉砕前の合金をエポキシ
樹脂に埋め込み、研磨した後に、0.4 vol%フッ酸と1vo
l%硝酸との混酸でエッチングし、光学顕微鏡で立方晶構
造の結晶粒を観察して行い、ランダムに選択した結晶粒
20個の測定結果の平均値を主相の平均結晶粒径とした。
第2相の析出物の粒径は微細であったため、SEM (二
次電子顕微鏡) を用いて測定し、上と同様に平均値を求
めた。
【0092】耐酸化性 表面をNi被覆してNi付加層を形成した水素吸蔵合金の耐
酸化性の評価は、温度25℃、湿度65%の恒温恒湿の空気
雰囲気に1週間放置した後、ジーベルツ型の水素吸収・
放出試験装置を用いて、活性化処理なしに80℃で3.0 MP
a の水素ガスの吸収試験を行い、Ni付加層を形成する前
の合金の水素吸収量と比較した水素吸収量の低下率を、
次式により算出した。水素吸収量の低下率が10%以下で
あれば合格である。
【0093】水素吸収量低下率(%) =[(C−D)/C]×
100 C=Ni被覆前に活性化処理して測定した水素吸収量、 D=1週間放置後に70℃で測定した水素吸収量。
【0094】
【実施例1】本実施例は、合金組成を変化させて水素吸
蔵合金の性能を検討した実施例である。水素吸蔵合金の
作製法としては、急冷凝固法 (ガスアトマイズ法、ロー
ル急冷法、回転電極法) と溶体化処理法を採用した。溶
体化処理法は、高周波溶解法で得た鋳塊を1350℃に8時
間保持した後、水冷することにより行った。この水冷中
の合金温度を熱電対を用いて測定した結果、1350℃から
400 ℃までの平均冷却速度は220 ℃/sec であった。得
られた水素吸蔵合金の平均結晶粒径は、急冷凝固法では
20μm以下であった。各合金の水素吸収量と微粉増加率
の測定結果を、合金組成および作製法とともに表1に示
す。
【0095】
【表1−1】
【0096】
【表1−2】
【0097】表1からわかるように、合金組成が本発明
の範囲内である水素吸蔵合金はいずれも、80℃という室
温近傍の比較的低い温度で、H/Mが1.80以上という高
い水素吸収量を示し、また繰り返し水素吸収・放出試験
による微粉増加率が15%以下と低く、室温近傍でも水素
吸収量が多く、かつ繰り返し水素吸収・放出による劣化
が少ないことがわかる。
【0098】これに対して、A、B両元素を添加しなか
ったNo.46 の合金では水素吸収量が低かった。A、Bの
一方の元素だけを添加したNo. 59, 60でも、水素吸収量
の増大は不十分であった。MoとNbを添加しなかったNo.
47〜50、およびA元素の添加量が多過ぎたNo. 51〜52の
合金では、水素吸収量の低下と同時に、微粉増加率も増
大した。B元素の添加量がやや多すぎたNo. 54の合金で
は水素吸収量が低下し、B元素の添加量が非常に多いN
o. 53の合金では微粉増加率も増大した。A、B両元素
の添加量が適切でも、Ti、Cr、Mo+Nbのいずれの含有量
が本発明の範囲外であるNo. 55〜58の合金は、いずれも
水素吸収量が低く、またTiやCrの量が多すぎると、微粉
増加率が大きくなった。
【0099】
【実施例2】本実施例は、各種製造方法で作製した主相
の平均結晶粒径が異なる水素吸蔵合金について、平均結
晶粒径が水素吸蔵合金の性能に及ぼす影響を検討した実
施例である。水素吸蔵合金の化学組成は、Ti=0.35、Mo
=0.09、Nb=0.05、Cr=0.40、A=0.10 (Mn=0.04、Fe
=0.03、Cu=0.03) 、B=0.10 (Ln=0.01) の同一組成
とした。溶解原料の一部としてFe−Mo合金を使用した。
結晶粒径の影響を調べるため、ガスアトマイズ後に熱処
理した試験合金も作製した。また、溶体化処理における
冷却速度の影響を調べるため、水冷に代えて油冷したも
のを比較例として作製した。この油冷時の400 ℃までの
平均冷却速度は120 ℃/sec であった。試験結果を表2
に示す
【0100】
【表2】
【0101】表2からわかるように、急冷凝固法で水素
吸蔵合金を作製すると、平均結晶粒径が20μm以下の微
細な組織の合金が得られる。この微細な組織を有する水
素吸蔵合金を熱処理すると、体心立方晶の結晶粒径は粗
大化するが、平均結晶粒径が100 μm以下であれば、水
素吸収量と微粉増加率のいずれも合格であった。但し、
急冷凝固法の場合は、No. 1とNo. 4、5とを比べると
わかるように、熱処理により水素吸収量はやや低下し、
微粉増加率はやや増加した。一方、高周波溶解で得た鋳
塊は、No. 7に示すように結晶粒が粗大であり、水素吸
収量が少なく、微粉増加率が大きい。これに対し、本発
明に従って溶体化処理を施すと、No. 6に示すように、
平均結晶粒径が100 μm以下となり、水尾吸収量と微粉
増加率のいずれも改善された。しかし、溶体化処理を施
しても、その時の冷却速度が200 ℃/sec より遅いと、
No. 8のように、結晶粒が十分に微細化されず、水素吸
収量と微粉増加率のいずれも改善は不十分であった。
【0102】また、表2から、平均結晶粒径が100 μm
以下であると、第2相の析出物が存在した場合でも、そ
の平均結晶粒径も5μm以下という、微粉化の抑制の望
ましい範囲になることもわかる。これに対し、平均結晶
粒径が100 μmを越えると、第2相析出物も粗大化す
る。
【0103】
【実施例3】本実施例は、合金表面にTi−Ni化合物を主
体とするNi付加層を形成した場合の水素吸蔵合金の耐酸
化性の向上を例示する。試験した水素吸蔵合金は、どれ
もArガスアトマイズ法で作製した。合金の化学組成は、
Ti=0.35、Mo=0.10、Nb=0.05、Cr=0.40、A=0.09、
B=0.01の同一組成とした (但し、A、Bの元素種類は
変動) 。
【0104】Ni付加層を形成するための水素吸蔵合金の
Ni被覆は、物理的な方法と化学的な方法の両方を採用し
た。物理的な方法では、粒径1μm程度のNi微粉末を用
い、これを合金に対して10重量%配合した後、乳鉢で均
一に混合するか、またはボールミルで長時間混合した。
化学的な方法では、市販の無電解Niめっき液を用いた無
電解Niめっき法か、Ni(CO)4 ガスを用いた気相反応法、
のいずれかによって合金表面に約10重量%のNiを被覆し
た。
【0105】気相反応法は、それぞれチューブに接続さ
れたガス注入孔と排気孔を設けた直径150 mm×長さ300
mmの石英円筒形容器に、幅150 mm×長さ150 mmの石英ボ
ートを入れ、このボートに水素吸蔵合金を収容した。こ
の円筒形容器ごと約150 ℃に温度を制御した電気抵抗炉
に装入し、粉末全体の温度が約150 ℃になった時点で、
約35℃のNi(CO)4 ガス80体積%、COガス20体積%の混合
ガスを、前記ガス注入孔に接続されたチューブから円筒
形容器内に約10分間連続的に注入した。注入したガスは
前記排気孔から外部に引き出して、外部の再利用装置で
Niとして貯蔵できるようにした。Ni(CO)4 の分解温度よ
り低温の前記混合ガスが約150 ℃の合金と接触すると、
Ni(CO)4 が分解して粉末表面にNiが付着する。
【0106】上述した各種の方法でNi被覆を施した後、
アルゴン雰囲気中で熱処理を行って、Ni被覆層を合金と
反応させて合金化することにより、合金表面にTiNiを主
体とするNi付加層を形成した。但し、ボールミルにより
Ni粉末を機械的に被覆する方法では、このボールミル混
合を100 時間と長時間行うことにより、メカニカルアロ
イングによってNi被覆の合金化が起こっているので、熱
処理は行わなかった。また、比較例として、この熱処理
を行わず、単にNi被覆 (無電解Niメッキまたは乳鉢混
合) しただけの試験材も作製した。
【0107】こうして表面にNi含有層を形成したガスア
トマイズ法で作製された水素吸蔵合金の耐酸化性を、上
記のように所定条件の大気中で1週間の放置後に活性化
処理せずに水素吸収量を測定することにより調査した。
試験結果を、Ni付加層の形成方法 (上段はNi被覆方法、
下段は熱処理条件) 、主相の平均結晶粒径、Ni付加層中
のTiNiの体積割合 (X線回折図のピーク比から算出) 、
およびNi付加層中のNi濃度の変化 (表面から内面に向か
って漸減する傾斜変化か、または突然変化か、電子顕微
鏡を用いたEDX 分析により測定) と共に表3に示す。
【0108】
【表3】
【0109】表3からわかるように、本発明に従ってNi
被覆を施し、かつこのNi被覆を合金成分と反応させるこ
とによりTiNi化合物を主体とするNi付加層を合金表面に
形成すると、本発明の水素吸蔵合金の大気中での酸化が
抑制され、1週間放置後に活性化処理せずに水素吸収量
を測定しても、水素吸収量の低下が10%以下に抑えられ
た。即ち、大気中で水素吸蔵合金の粉末を取り扱っても
表面がほとんど酸化されないので、取扱いが非常に容易
になり、また費用のかかる活性化処理が不要ないし軽減
される。
【0110】一方、比較例において、Ni被覆を全く施さ
ないと、1週間放置後の合金の水素吸収量は35%も低下
した(No.9)。しかし、Ni被覆を施しても、熱処理または
メカニカルアロイングによりNi被覆を合金成分と反応さ
せないと、1週間放置後の合金の水素吸収量は19〜24%
も低下した (No.10, 11)。即ち、Ni被覆だけでは、未被
覆の場合に比べて耐酸化性の向上は著しく少ないことが
わかる。
【0111】
【発明の効果】本発明の水素吸蔵合金は、水素吸収量が
H/M=1.80以上と非常に高く、室温近傍の比較的低い
温度 (例、150 ℃以下) で水素の吸収・放出が起こるの
で、各種用途に使い易く、水素吸収・放出を長期間にわ
たって繰り返しても微粉化しにくいので、高い水素吸収
量が長期間保持され (耐久性に優れ) 、かつ比較的安価
である。
【0112】また、合金表面にTi−Ni化合物を主体とす
るNi付加層を形成すると、合金の耐酸化性が著しく向上
し、大気中に放置した時の水素吸収量の低下が非常に小
さくなるので、大気中で容易に取り扱うことが可能とな
り、費用のかかる活性化処理が不要となるか、軽減され
る。従って、本発明の水素吸蔵合金は、水素ガス貯蔵・
輸送用、水素ガス分離・精製用、熱輸送システムや冷却
システム、静的コンプレッサー、水素ガスを燃料とする
燃料電池といった用途に最適である。
フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) B22F 9/08 B22F 9/08 Z C01B 3/00 C01B 3/00 B C22C 1/04 C22C 1/04 B C F17C 11/00 F17C 11/00 C (72)発明者 上仲 秀哉 兵庫県尼崎市扶桑町1番8号 住友金属工 業株式会社エレクトロニクス技術研究所内 (72)発明者 前田 尚志 兵庫県尼崎市扶桑町1番8号 住友金属工 業株式会社エレクトロニクス技術研究所内

Claims (11)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 下記一般式(a) : Tia Crb Moc Nbdef ・・・(a) で示される組成を持ち、主相が体心立方晶で、その平均
    結晶粒径が100 μm以下であることを特徴とする水素吸
    蔵合金。上記式中、 Aは、Mn、Fe、Co、Cu、V、Zn、Zr、Ag、Hf、Ta、W、
    Al、Si、C、N、P、およびBから選ばれた1種または
    2種以上の元素を表し、 Bは、1種または2種以上の希土類元素を表し、 a+b+c+d+e+f=1、 0.2≦a≦0.7 、 0.1 ≦b≦0.7 、 0.01≦c+d≦0.4 、0.01 ≦e≦
    0.3 、 0.001≦f≦0.03。
  2. 【請求項2】 一般式(a) で、Aが原子比0.01〜0.15の
    Feと原子比 0.001〜0.012 のSiの一方または両方を含
    む、請求項1記載の水素吸蔵合金。
  3. 【請求項3】 Ni3Ti、TiNiおよびTi2Ni の1種または
    2種以上からなるTi−Ni化合物を主体とするNi付加層を
    表面に有する、請求項1または2記載の水素吸蔵合金。
  4. 【請求項4】 Ni付加層中の70体積%以上をTiNiが占め
    る、請求項3記載の水素吸蔵合金。
  5. 【請求項5】 Ni付加層中のNi濃度が合金表面から内部
    に向かって傾斜的に減少している、請求項3または4記
    載の水素吸蔵合金。
  6. 【請求項6】 一般式(a) で示される組成になるように
    調製した原料を溶解し、溶解原料を急冷凝固させること
    を含む、請求項1または2記載の水素吸蔵合金の製造方
    法。
  7. 【請求項7】 一般式(a) で示される組成になるように
    調製した原料を溶解し、次いで凝固させて得た合金に、
    1200℃から1400℃の範囲の温度に加熱した後、該加熱温
    度から400 ℃までの平均冷却速度が200 ℃/sec 以上と
    なるように冷却する溶体化処理を施すことを含む、請求
    項1または2記載の水素吸蔵合金の製造方法。
  8. 【請求項8】 溶解する原料がFe−Mo合金を含む、請求
    項6または7記載の方法。
  9. 【請求項9】 水素吸蔵合金の表面にNiを被覆し、400
    ℃以上、1000℃以下の温度で熱処理を施すことを含む方
    法でNi付加層を形成することを特徴とする、請求項3な
    いし5のいずれか1項に記載の水素吸蔵合金の製造方
    法。
  10. 【請求項10】 合金表面のNi被覆をめっき法またはニ
    ッケルカルボニルガスを用いた気相反応法により行う請
    求項9記載の水素吸蔵合金の製造方法。
  11. 【請求項11】 水素吸蔵合金の表面にメカニカルアロ
    イング法によりNiを被覆することを含む方法でNi付加層
    を形成することを特徴とする、請求項3ないし5のいず
    れか1項に記載の水素吸蔵合金の製造方法。
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Cited By (5)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2011162374A (ja) * 2010-02-08 2011-08-25 Kobe Steel Ltd 水素分離精製用容器
RU2505739C2 (ru) * 2012-03-06 2014-01-27 Александр Иванович Голодяев Зарядное устройство для водородных аккумуляторов из гидрида металлов с высокой степенью пассивирования (алюминий, титан, магний)
JP2015049938A (ja) * 2013-08-29 2015-03-16 パナソニックIpマネジメント株式会社 接点装置
US10102991B2 (en) 2013-08-29 2018-10-16 Panasonic Intellectual Property Management Co., Ltd. Contact apparatus
CN116162836A (zh) * 2023-03-08 2023-05-26 中国科学院江西稀土研究院 一种储氢合金及其制备方法

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