以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更をすることができる。
<ポリイミド系樹脂粉体>
本発明のポリイミド系樹脂粉体は、安息角が37.0°以下であり、ポリイミド系樹脂粉体の画像解析により算出される粒子の平均周長をAμmとし、平均面積をBμm2とすると、Bに対するAの2乗の割合(A2/B)が14.0〜30.0である。ここで、本明細書において、ポリイミド系樹脂とは、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド前駆体樹脂、及び、ポリアミドイミド前駆体樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を表す。ポリイミド樹脂は、イミド基を含む繰返し構造単位を含有する樹脂であり、ポリアミドイミド樹脂は、イミド基及びアミド基の両方を含む繰返し構造単位を含有する樹脂である。また、ポリイミド前駆体樹脂及びポリアミドイミド前駆体樹脂は、それぞれ、イミド化によりポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂を与える、イミド化前の前駆体であり、ポリアミック酸とも称される樹脂である。本明細書において、上記ポリイミド前駆体樹脂及び上記ポリアミドイミド前駆体樹脂を合わせて、「ポリアミック酸樹脂」とも称する。
本発明のポリイミド系樹脂粉体の安息角は、37.0°以下である。ポリイミド系樹脂粉体の安息角が37.0°を越える場合、ワニスを調製する際にポリイミド系樹脂粉体の流動性が低く、塊として存在しやすくなるために、例えばワニス溶媒中にポリイミド系樹脂粉体を投入した時にポリイミド系樹脂粉体の凝集物(ダマ)が発生しやすくなる。ワニス製造時にポリイミド系樹脂粉体の凝集物が発生すると、該凝集物の表面に存在するポリイミド系樹脂粉体はワニス溶媒で膨潤するが、該凝集物の内部に存在するポリイミド系樹脂粉体は粉体のままの状態となる。その結果、凝集物の表面から内部にワニス溶媒がさらに浸透しにくくなり、該凝集物はワニス中に残存することになる。このような凝集物を含むワニスを用いて光学フィルムを製造する場合には、光学フィルム中にも凝集物が残存することにより、光学フィルムの光学特性が損なわれる場合がある。また、ワニスをフィルターに通過させて光学フィルムを製造する場合、フィルターが目詰まりする可能性がある。また、フィルターでポリイミド系樹脂粉体を含む凝集物が除去されることにより、ワニス中の樹脂濃度が意図した濃度よりも低下し、製造ロット毎のワニス中の樹脂濃度が安定しないという問題が生じる可能性がある。
本発明のポリイミド系樹脂粉体の安息角は37.0°以下であり、ワニス調製時の凝集物の発生を抑制しやすい観点から、好ましくは36.0°以下である。本発明のポリイミド系樹脂粉体の安息角の下限は特に限定されないが、通常は25°以上程度であり、掬うといったような作業性の観点から好ましくは27°以上、より好ましくは30°以上である。安息角は、粉体特性評価装置(例えばホソカワミクロン(株)パウダーテスターPT−X)を用いて行うことができ、例えば実施例に記載する方法により測定することができる。
安息角には、ポリイミド系樹脂粉体の粒子形状、粒子の大きさ、粒子の表面物性等が影響していると考えられる。安息角を上記の範囲内とする方法としては、後述する本発明の製造方法によりポリイミド系樹脂粉体を製造する方法が挙げられる。ポリイミド系樹脂を含む樹脂溶液に貧溶媒を添加してポリイミド系樹脂粉体を析出させる際には、ポリイミド系樹脂が微細な一次粒子として析出し、かかる一次粒子が、場合により二次粒子、三次粒子となり凝集して、ポリイミド系樹脂粉体となると考えられる。樹脂溶液を撹拌する撹拌速度が速すぎる場合には、一次粒子の粒子径がより小さくなる傾向がある。そのため、二次粒子、三次粒子の表面が微細な凹凸を有しやすく、その結果、得られるポリイミド系樹脂粉体の安息角が大きくなる傾向があると考えられる。また、ポリイミド系樹脂溶液に貧溶媒を添加してポリイミド系樹脂粉体を析出させる際の、ポリイミド系樹脂粉体の析出速度が速い場合(具体的には、ポリイミド系樹脂溶液に添加する貧溶媒の添加速度が速い場合、ポリイミド系樹脂に対する溶解性が低い貧溶媒を使用した場合、及び/又は、析出温度を下げた場合)にも、ポリイミド系樹脂が微細な一次粒子として析出しやすく、安息角が大きくなる傾向があると考えられる。また、ポリイミド系樹脂粉体の析出速度が速い場合には、ポリイミド系樹脂粉体に不純物が混入しやすくなると考えられ、その場合、ポリイミド系樹脂粉体表面の滑り性が低下し、安息角が大きくなる傾向があると考えられる。したがって、これらの条件を制御することにより、ポリイミド系樹脂粉体の安息角を所望の範囲に調整することができる。
本発明のポリイミド系樹脂粉体について画像解析により算出される粒子の平均周長をAμmとし、平均面積をBμm2とすると、Bに対するAの2乗の割合(A2/B)が14.0〜30.0である。A2/Bにより算出される割合は、画像解析により視認可能な凹凸の量に関係し、該割合の値が大きい場合には、画像解析により視認可能な凹凸が多いことを意味する。割合(A2/B)が14.0未満である場合、ポリイミド系樹脂粉体のワニスへの溶解性が十分とならないと考えられる。また、割合(A2/B)が30.0を越える場合、ポリイミド系樹脂粉体同士が凝集しやすく、例えばワニス溶媒中にポリイミド系樹脂粉体を投入した時にポリイミド系樹脂粉体の凝集物(ダマ)が発生しやすくなる。割合(A2/B)は、ポリイミド系樹脂粉体のワニスへの溶解性を高めやすく、かつ、ポリイミド系樹脂粉体の凝集物を抑制しやすい観点から、好ましくは16〜28、より好ましくは18〜25である。
割合(A2/B)が14.0〜30.0である場合、ポリイミド系樹脂粉体は、画像解析により視認可能な凹凸を適度に有すると考えられる。割合(A2/B)が14.0未満である場合、ポリイミド系樹脂粉体における画像解析により視認可能な凹凸が少なすぎるために、該ポリイミド系樹脂粉体をワニス溶媒に投入後、ポリイミド系樹脂粉体とワニス溶媒との接触面積が小さくなり、溶解性が十分でないと考えられる。一方、割合(A2/B)が30.0を越える場合、ポリイミド系樹脂粉体における画像解析により視認可能な凹凸が多すぎるために、ポリイミド系樹脂粉体の粒子同士の凝集性が高くなり、ワニス溶媒にポリイミド系樹脂粉体を投入する際に粒子同士がほぐれにくく、凝集物が生じると考えられる。割合(A2/B)が14.0〜30.0である場合には、凝集物が生じにくいと共に、ワニス溶媒と樹脂粉体との接触面積も十分に確保でき、溶解性を高めることができる。
割合(A2/B)を上記の範囲に調整する方法としては、後述する本発明の製造方法によりポリイミド系樹脂粉体を製造する方法が挙げられる。割合(A2/B)は、安息角と同様に、樹脂粉体を析出させる際の樹脂溶液を撹拌する撹拌速度が速すぎる場合に大きくなる傾向があると考えられるため、撹拌条件を調整することにより、上記所望の範囲に調整することができる。
本発明のポリイミド系樹脂粉体を光学顕微鏡で観察して得た画像を、後述する方法で画像解析することにより、粒子の平均周長(Aμm)及び平均面積(Bμm2)、並びに、後述する表面粗さ(Raμm)及び平均円相当半径(Zcμm)を測定してよい。粒子の画像解析方法について、図1を参照し説明する。
ポリイミド系樹脂粉体を光学顕微鏡で観察し、画素サイズ3μm/pixel以下で粒子の光学顕微鏡像を得る。観察倍率はポリイミド系樹脂粉体の粒径(円相当半径など)に応じ、粒子の形状、凹凸が把握可能な倍率を適宜選択すればよく、特に限定されないが、少なくとも50倍以上の倍率で観察することが好ましい。次に、得られた光学顕微鏡像をコンピューターに取り込み、画像解析ソフトを用いて処理する。画像解析ソフトを用いて処理する方法としては、まず、光学顕微鏡像を必要に応じてスムージング処理、及び/又は、シェーディング補正する。次いで、光学顕微鏡像をグレースケール化し、所定の閾値(例えば、画像中における最大輝度及び最小輝度の中間値)で二値化して二値化像を得る。このとき、二値化像を目視し、ポリイミド系樹脂粉体の粒子像に相当する領域とそれ以外の領域が分離できていることを確認する。齟齬が見られた場合は、二値化処理を行う閾値の調整を行う。このようにして、粒子の二値化像を得る。例えば図1中に(a)として示すような像が得られる。この像から、画像解析ソフトの粒子解析により、周長及び面積を測定する。周長及び面積の測定を、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上の粒子について行い、その平均値を粒子の平均周長(Aμm)及び平均面積(Bμm2)としてよい。画像解析ソフトとしては、Image JやPhotoshop等を選択することができる。
また、該粒子の二値化像(図1中の(a))について、重心−表面間距離プロファイル(図1中の(c))を得る。重心−表面間距離プロファイルを得る方法としては、具体的には、まず、1つの粒子画像の二値化像について、重心(1点)と粒子の表面の点(複数点)をそれぞれ得る。なお、粒子の表面の点とは、二値化像における粒子画像の輪郭上の点である。次いで、該表面の任意の1点を始点として定め、該始点と重心との距離(重心−表面間距離)を測定する。次に重心から見て始点の右側に隣接する表面の点を次点とし、始点と次点、次点と重心との距離(重心−表面間距離)を算出する。同様にして、重心から見て次点の右側に隣接する表面の点を次々点とし、次点と次々点、次々点と重心との距離(重心−表面間距離)を算出する。この作業を始点に戻るまで繰り返す。このようにして、粒子の表面の複数の点について、該点と隣接する点との距離、及び、該点と重心との距離(重心−表面間距離)を算出する。この場合、始点から表面のある特定の点iまでの経路長は、始点から隣接する表面の点を順に経由していき、該点iに到達するまでに経由した距離の総和として定義される。表面の複数の点について得られた結果を、横軸に始点からの経路長、縦軸に該始点からの経路長を有する表面の点と重心との距離(重心−表面間距離)としてプロットすると、図1中の(c)に示すようなグラフ(重心−表面間距離プロファイル)が得られる。
1つの粒子について、上記のようにして得られた重心−表面間距離プロファイルから、該粒子の表面(輪郭)に対する基準円を設定する。具体的には、重心−表面間距離の平均値をZc’とし、重心を中心としたZc’を半径とする円を基準円とする(図1中の(b))。上記のようにして設定した基準円の半径、つまり重心−表面間距離の平均値(Zc’μm)を、該1つの粒子における円相当半径とする。また、測定を行った表面上の点の数をn個とし、i番目の点における重心との距離(重心−表面間距離)をZ(i)μmとしたとき、次の式(1)により該1つの粒子における表面粗さ(Ra’μm)が算出される。
上記の測定を複数個の粒子(好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上の粒子)について行い、得られた各粒子における円相当半径(Zc’μm)及び各粒子における表面粗さ(Ra’μm)の平均値を、粒子の平均円相当半径(Zcμm)及び粒子の表面粗さ(Raμm)とする。また、粒子の平均円相当半径(Zcμm)及び粒子の表面粗さ(Raμm)から、割合(Ra/Zc)を算出する。
本発明のポリイミド系樹脂粉体は、上記に述べたように、一次粒子が、場合により二次粒子、三次粒子となり凝集して、ポリイミド系樹脂粉体における個々の粒子を形成していると考えられる。例えば一次粒子が凝集して二次粒子を形成する場合、一次粒子の表面にも凹凸が生じ得るし、二次粒子の表面には一次粒子の大きさ及び形状に起因する凹凸が生じ得る。この場合、上記の安息角には、一次粒子表面の凹凸及び二次粒子表面の凹凸の両方が影響すると考えられる。さらに、上記の安息角には、一次粒子表面の官能基の状態や、ポリイミド系樹脂粉体に含まれる不純物の量等の種々の要因が影響すると考えられる。一方で、割合(A2/B)は上記に述べたように画像解析により視認可能な凹凸の量に関係し、一次粒子及び二次粒子等の大きさ又は形状によっては、一次粒子表面の凹凸は割合(A2/B)に影響しないが、二次粒子表面の凹凸は割合(A2/B)に影響するという場合もある。そのため、本発明のポリアミドイミド樹脂粉体においては、安息角が37.0°以下であり、かつ、割合(A2/B)が14.0〜30.0であることが重要である。
本発明のポリイミド系樹脂粉体の画像解析により算出される粒子の平均周長(Aμm)は、好ましくは200〜3,500μm、より好ましくは300〜2,500μm、さらに好ましくは500〜2,000μm、さらにより好ましくは750〜1,500μmである。平均周長が上記の下限以上である場合、粉体が舞いにくく取り扱い性が向上しやすく、上記の上限以下である場合、溶媒への溶解性が向上しやすい。
本発明のポリイミド系樹脂粉体の画像解析により算出される粒子の平均面積(Bμm2)は、好ましくは2,000〜500,000μm2、より好ましくは5,000〜200,000μm2、さらに好ましくは8,000〜100,000μm2である。平均面積が上記の下限以上である場合、粉体が舞いにくく取り扱い性が向上しやすく、上記の上限以下である場合、溶媒への溶解性が向上しやすい。
本発明のポリイミド系樹脂粉体の画像解析により算出される粒子の表面粗さをRaμmとし、平均円相当半径をZcμmとすると、Zcに対するRaの割合(Ra/Zc)は、ポリイミド系樹脂粉体の粒子同士の凝集を抑制しやすい観点から、好ましくは0.19未満、より好ましくは0.18以下である。また、割合(Ra/Zc)の下限は、溶媒への溶解性の観点から、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.12以上、さらに好ましくは0.14以上である。
本発明のポリイミド系樹脂粉体の画像解析により算出される粒子の表面粗さ(Raμm)は、好ましくは5〜120μm、より好ましくは10〜80μm、さらに好ましくは12〜50μmである。粒子の表面粗さが上記の下限以上である場合、溶媒への溶解性を向上させやすく、上記の上限以下である場合、ポリイミド系樹脂粉体の粒子同士の凝集を抑制しやすい。
本発明のポリイミド系樹脂粉体の画像解析により算出される平均円相当半径(Zcμm)は、好ましくは50〜800μm、より好ましくは80〜500μm、さらに好ましくは100〜350μm、特に好ましくは110〜350μmである。粒子の円相当半径が上記の下限以上である場合、粉体が舞いにくく取り扱い性が向上しやすく、上記の上限以下である場合、溶媒への溶解性が向上しやすい。
本発明のポリイミド系樹脂粉体は、L*a*b*表色系に基づく色差測定(JIS Z 8781−4:2013に準拠)において、L*≧90、−10≦a*≦10、及び−10≦b*≦10を満たすことが好ましい。上記色差測定におけるL*は、最終的に得られる高分子材料の透明性、視認性を高めやすい観点から、好ましくは90以上、より好ましくは93以上、さらに好ましくは95以上である。L*の上限は特に限定されず、100以下であればよい。上記色差測定におけるa*は、赤みの指標を表し、最終的に得られる高分子材料の視認性を高めやすい観点から、好ましくは−10以上10以下、より好ましくは−7以上7以下、さらに好ましくは−5以上5以下である。上記色差測定におけるb*は、青みの指標を表し、最終的に得られる高分子材料の視認性を高めやすい観点から、好ましくは−10以上10以下、より好ましくは−5以上10以下、さらに好ましくは−3以上8以下である。上記色差は、色差計を用いて測定することができ、例えば実施例に記載する方法により測定することができる。
ポリイミド系樹脂の重量平均分子量は、ポリイミド系樹脂粉体からワニスを調製する際の凝集性を低下させやすい観点、及び、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの表面硬度及び耐屈曲性を高めやすい観点から、標準ポリスチレン換算で、好ましくは200,000以上、より好ましくは250,000以上、さらに好ましくは300,000以上、さらにより好ましくは350,000以上、特に好ましくは360,000以上である。ポリイミド系樹脂の重量平均分子量は、ポリイミド系樹脂粉体の溶媒に対する溶解性を向上しやすい観点、及び、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの延伸性及び加工性を向上させやすい観点から、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは800,000以下、さらに好ましくは700,000以下、特に好ましくは500,000以下である。重量平均分子量は、例えばGPC測定を行い、標準ポリスチレン換算によって求めることができ、例えば実施例に記載の方法により算出してよい。
<ポリイミド系樹脂粉体の製造方法>
本発明のポリイミド系樹脂粉体の製造方法は、上記の範囲内の安息角及び割合(A2/B)を有する粉体が得られる限り特に限定されないが、例えば、ポリイミド系樹脂が良溶媒中に溶解した樹脂溶液を、撹拌翼の先端速度が3.40m/秒以下である条件で撹拌しながら、該樹脂溶液に少なくとも1種の貧溶媒を添加してポリイミド系樹脂を析出させる工程を少なくとも含む、ポリイミド系樹脂粉体の製造方法により製造することができる。本発明は、上記のポリイミド系樹脂粉体の製造方法も提供する。
本発明の製造方法は、
(1)ポリイミド系樹脂が良溶媒中に溶解した樹脂溶液を、撹拌翼の先端速度が3.40m/秒以下である条件で撹拌しながら、該樹脂溶液に少なくとも1種の貧溶媒を添加してポリイミド系樹脂を析出させる工程を少なくとも含む。この工程を、以下において「工程(1)」とも称する。
ポリイミド系樹脂が良溶媒中に溶解した樹脂溶液は、ポリイミド系樹脂が良溶媒中に溶解した溶液である限り、その製造方法等は特に限定されない。該樹脂溶液は、モノマーを溶媒(特にポリイミド系樹脂に対する良溶媒)中で重合させて得た反応溶液であってもよいし、単離したポリイミド系樹脂を良溶媒に溶解させて得た溶液であってもよい。ポリイミド系樹脂溶液を製造しやすい観点からは、モノマーの重合反応を後述する良溶媒中で行い、得られた反応溶液をポリイミド系樹脂溶液として用いることが好ましい。
ポリイミド系樹脂溶液に含まれる良溶媒は、ポリイミド系樹脂を溶解させやすい溶媒であり、例えばポリイミド系樹脂に対する室温(20〜30℃)での溶解度が1質量%以上の溶媒をいう。ポリイミド系樹脂溶液に含まれる良溶媒は、1種類の溶媒であってもよいし、2種以上の溶媒の混合物であってもよい。良溶媒としては、例えば、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトン(GBL)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)が挙げられる。良溶媒のポリイミド系樹脂に対する溶解度は、容積効率の観点から、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上である。良溶媒のポリイミド系樹脂に対する溶解度の上限は特に限定されないが、貧溶媒の使用量を削減できる観点からは、好ましくは40質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
ポリイミド系樹脂溶液における良溶媒の含有量は、操作上、扱いやすい粘度に調整しやすい観点から、ポリイミド系樹脂溶液の総量に対して好ましくは60質量%以上、より好ましくは75質量%以上である。また、ポリイミド系樹脂溶液における良溶媒の含有量は、貧溶媒の使用量を削減できる観点から、ポリイミド系樹脂溶液の総量に対して好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
ポリイミド系樹脂溶液におけるポリイミド系樹脂の含有量は、容積効率の観点から、ポリイミド系樹脂溶液の総量に対して好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上である。また、ポリイミド系樹脂溶液におけるポリイミド系樹脂の含有量は、操作上、扱いやすい粘度に調整しやすい観点から、ポリイミド系樹脂溶液の総量に対して好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
本発明の製造方法は、上記の樹脂溶液を撹拌しながら、該樹脂溶液に少なくとも1種の貧溶媒を添加してポリイミド系樹脂を析出させる工程を少なくとも含む。
ポリイミド系樹脂に対する貧溶媒は、ポリイミド系樹脂を溶解させにくい溶媒であり、例えばポリイミド系樹脂に対する室温(20〜30℃)での溶解度が1質量%未満の溶媒をいう。貧溶媒は、1種類の溶媒であってもよいし、2種以上の溶媒の混合物であってもよい。貧溶媒としては、例えば、メタノール、2−プロパノール、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘキサン、水が挙げられる。
使用する溶媒が良溶媒であるか貧溶媒であるかは次の方法で確認することができる。溶媒にポリイミド系樹脂を1質量%となるように加え、必要に応じて加熱及び/又は撹拌等することにより溶媒に樹脂を溶解させ、室温(20〜30℃)状態での溶液が均一に透明になっていれば該溶媒は良溶媒であると判断し、溶け残りが存在した場合や一度溶解した樹脂が析出した場合は、貧溶媒であると判断する。例えば本実施例においては、容器に溶媒を測りとり、攪拌し、そこに、1質量%になるようにポリイミド系樹脂を入れ、室温(24℃)で3時間攪拌を行った。その結果、溶液が均一に透明になっていれば良溶媒であり、溶け残りが存在した場合は貧溶媒であると判断した。
本発明の製造方法においては、ポリイミド系樹脂が良溶媒中に溶解した樹脂溶液に少なくとも1種の貧溶媒を添加し、ポリイミド系樹脂を析出させる。添加する貧溶媒は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。また、添加の回数も1回であってもよいし、2回以上であってもよい。
ポリイミド系樹脂が良溶媒中に溶解した樹脂溶液に貧溶媒を添加すると、溶媒全体としてのポリイミド系樹脂の溶解度が下がることにより、溶解しきれなくなったポリイミド系樹脂が粉体として析出する。貧溶媒を添加直後は、局所的に貧溶媒の濃度が高い部分が生じ、その後、貧溶媒が樹脂溶液全体に広がる。貧溶媒の濃度が局所的に高くなりすぎると、局所的にポリイミド系樹脂粉体が急激に析出し、ポリイミド系樹脂粉体に不純物が混入しやすくなる。また、固体化したポリイミド系樹脂が溶媒を包含することにより粉体を得にくくなる場合がある。貧溶媒の局所的な濃度の上昇を低下するためには、樹脂溶液を撹拌しながら貧溶媒を添加することが好ましいが、撹拌速度が速すぎる場合には、ポリイミド系樹脂粉体の微細な凹凸が多くなりすぎる場合があり、ポリイミド系樹脂粉体の流動性が低下する場合がある。ポリイミド系樹脂粉体のワニスを調製する際の凝集を抑制しやすい観点からは、撹拌翼の先端速度が好ましくは3.40m/秒以下、より好ましくは3.20m/秒以下、さらに好ましくは3.00m/秒以下となる撹拌条件で撹拌しながら、樹脂溶液に貧溶媒を添加することが好ましい。
本発明の製造方法は、上記の撹拌条件(撹拌翼の先端速度)下で、ポリイミド系樹脂が良溶媒中に溶解した樹脂溶液に少なくとも1種の貧溶媒を添加し、ポリイミド系樹脂を析出させる工程を少なくとも含んでいればよく、樹脂溶液に少なくとも1種の貧溶媒を添加してポリイミド系樹脂を析出させる工程全体において、撹拌翼の先端速度を上記の好ましい範囲内としてもよいし、上記工程の少なくとも一部において、撹拌翼の先端速度を上記の好ましい範囲内としてもよい。撹拌翼の先端速度を上記の好ましい範囲内とする時間の長さは、ポリイミド系樹脂粉体の製造スケール等によって適宜調整してよい。撹拌翼の先端速度を上記の好ましい範囲内とする時間は、ワニスを調製する際に凝集しにくく、かつ、ワニスへの溶解性が高いポリイミド系樹脂粉体を製造しやすい観点からは、貧溶媒を添加する工程全体に要する時間を100%としたときに、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上である。
撹拌翼の先端速度(Vm/秒)は、撹拌翼の回転数(Xrpm)及び撹拌翼の直径(Dmm)から、次の式により算出される。
V[m/秒]=(X[rpm]/60)×(D[mm]/1000)×π
先端速度の下限は、貧溶媒の局所的な濃度の上昇を抑制しやすい観点、及び、ポリイミド系樹脂のワニスへの溶解性を高めやすい観点からは、好ましくは1.50m/秒以上、より好ましくは1.70m/秒以上、さらに好ましくは1.90m/秒以上である。
撹拌翼の回転数(Xrpm)は、ポリイミド系樹脂粉体のワニスへの溶解性を維持しつつ、ワニスを調製する際の凝集を抑制しやすい観点から、好ましくは100rpm以下、より好ましくは90rpm以下、さらに好ましくは85rpm以下、さらにより好ましくは80rpm以下、特に好ましくは75rpm以下である。撹拌翼の回転数は、貧溶媒の局所的な濃度の上昇を抑制しやすい観点からは、好ましくは30rpm以上、より好ましくは40rpm以上、さらに好ましくは50rpm以上、特に好ましくは60rpm以上である。
撹拌翼の直径(Dmm)は、特に限定されず、先端速度と回転数が上記の好ましい範囲内となるような範囲で調整することが好ましい。このような観点から、撹拌翼の直径は、好ましくは300〜1,500mm、より好ましくは500〜1,200mm、さらに好ましくは600〜800mmである。
貧溶媒の添加方法は特に限定されないが、貧溶媒の局所的な濃度上昇を抑制しやすく、添加速度を制御しやすい観点から、滴下により添加を行うことが好ましい。また、貧溶媒の局所的な濃度上昇を抑制しやすく、かつ、ポリイミド系樹脂粉体の製造効率を高めやすい観点からは、例えば複数のノズル又は複数の枝分かれを有するノズルを用いて、ライン分割して添加する方法、シャワーノズルを用いて添加する方法、アルコール系溶媒の吐出口がポリイミド系樹脂溶液中に浸漬された状態で添加を行うディップ法、ノズルの先に分散板を取り付ける方法などが挙げられる。
貧溶媒の添加は、1種類の貧溶媒を添加して行ってもよいし、2種類以上の溶媒を添加して行ってもよい。また、第1の貧溶媒を添加した後で、場合により第2、第3等の貧溶媒を添加して行ってもよい。本発明の製造方法において例えば第1の貧溶媒及び第2の貧溶媒を添加する場合、第1の貧溶媒及び第2の貧溶媒は、それぞれ、1種類の溶媒であってもよいし、2種以上の溶媒の混合物であってもよい。第1の貧溶媒と第2の貧溶媒とは、それぞれが互いに異なる1種類の物質であってもよいし、一方が1種類の物質で、他方が2種以上の物質の混合物であってもよいし、両方が2種以上の物質の混合物であってもよい。なお、第1の貧溶媒及び第2の貧溶媒が、互いに混合割合においてのみ異なる2種以上の物質の混合物であってもよい。また、組成が連続的に変化する貧溶媒を用いてもよい。
貧溶媒の添加は、析出するポリイミド系樹脂粉体中に溶媒が包含されることを抑制しやすく、ポリイド系樹脂粉体を効率的に製造しやすい観点からは、2種以上の貧溶媒を2回以上に分けて添加することが好ましい。2回以上に分けて添加を行う場合、ポリイミド系樹脂に対する溶解度が低くなる順序で添加を行うことが好ましい。例えば、炭素数1〜4のアルコールを主成分とする溶媒を第1の貧溶媒として添加し、次いで、水を主成分とする溶媒を第2の貧溶媒として添加して、ポリイミド系樹脂を析出させることがより好ましい。このような方法でポリイミド系樹脂を析出させる場合、貧溶媒の添加による溶解度の変化速度をゆるやかにしやすく、ポリイミド系樹脂が固体化し析出する速度を調整しやすい。なお、本明細書において、「炭素数1〜4のアルコールを主成分とする溶媒」を「アルコール系溶媒」とも称し、「水を主成分とする溶媒」を「水系溶媒」とも称する。また、本明細書において、主成分とするとは、70質量%以上を占めることを意味する。
第1の貧溶媒及び第2の貧溶媒を添加する場合、第1の貧溶媒中の炭素数1〜4のアルコールの割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。第2の貧溶媒中の水の割合は、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
添加する貧溶媒の量は、例えばポリイミド系樹脂溶液中のポリイミド系樹脂の量をM(kg)、良溶媒の量をN(kg)とし、工程(1)においてポリイミド系樹脂溶液と接触させる第1の貧溶媒(好ましくはアルコール系溶媒)の量をZ(kg)とした場合、各成分の質量比が関係式(i)及び(ii):
5 ≦ N/M ≦40 (i)
20≦ Z/M ≦100 (ii)
を満たすことが好ましい。
式(i)中のN/Mは、ポリイミド系樹脂溶液中の良溶媒の量とポリイミド系樹脂の量との関係を表す。なお、良溶媒として2種以上の溶媒の混合物を使用する場合には、その合計質量をNとする。N/Mは、ポリイミド系樹脂溶液中でポリイミド系樹脂を溶解させ、取り扱いやすい粘度に調整しやすい観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上である。N/Mは、第1の貧溶媒を添加してポリイミド系樹脂を析出させる工程において、ポリイミド系樹脂を析出させやすい観点から、好ましくは40以下、より好ましくは35以下、さらに好ましくは30以下である。
式(ii)中のZ/Mは、ポリイミド系樹脂溶液中のポリイミド系樹脂の量と、ポリイミド系樹脂溶液と、該樹脂溶液に添加する第1の貧溶媒の量との関係を表す。なお、第1の貧溶媒として2種以上の溶媒を使用する場合には、その合計質量をZとする。Z/Mは、ポリイミド系樹脂粉体を析出させやすい観点から、好ましくは23以上、より好ましくは25以上、さらに好ましくは30以上である。Z/Mは、廃棄物削減の観点から、好ましくは90以下、より好ましくは85以下、さらに好ましくは80以下である。
第1の貧溶媒を添加後、さらに第2の貧溶媒(好ましくは水系溶媒)を添加することが好ましい。第1の貧溶媒を添加後に第2の貧溶媒を添加することにより、析出するポリイミド系樹脂粉体中に良溶媒及び第1の貧溶媒等の溶媒が包含されることを抑制しやすい。その結果、ポリイミド系樹脂粉体を効率的に製造しやすくなる。添加する第2の貧溶媒の量は、析出するポリイミド系樹脂粉体中に包含される良溶媒及び第1の貧溶媒等の溶媒量を低下させやすい観点から、ポリイミド系樹脂溶液中のポリイミド系樹脂の量をM(kg)、良溶媒の量をN(kg)とし、ポリイミド系樹脂溶液に添加した第1の貧溶媒(好ましくはアルコール系溶媒)の量をZ1(kg)とし、さらに添加する第2の貧溶媒(好ましくは水系溶媒)の量をZ2(kg)とした場合に、各成分の質量比が関係式(i)、(iii)及び(iv):
5 ≦ N/M ≦ 40 (i)
10≦ Z1/M ≦ 50 (iii)
3 ≦ Z2/M ≦ 30 (iv)
を満たすことが好ましい。
式(i)中のN/Mは、第1の貧溶媒の添加に関して上記に述べた通りである。
式(iii)中のZ1/Mは、ポリイミド系樹脂溶液中のポリイミド系樹脂の量と、ポリイミド系樹脂溶液に添加した第1の貧溶媒の量との関係を表す。なお、第1の貧溶媒として2種以上の溶媒の混合物を使用する場合には、その合計質量をZ1とする。Z1/Mは、続く第2の貧溶媒の添加工程において、ポリイミド系樹脂の溶解度の急激な変化を抑制しやすい観点から、好ましくは10以上、より好ましくは15以上、さらに好ましくは20以上である。Z1/Mは、第1の貧溶媒を添加する工程においてポリイミド系樹脂が析出しすぎることを防止し、第2の貧溶媒を添加する際にポリイミド系樹脂を粉体として析出させやすい観点から、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、さらに好ましくは35以下である。
式(iv)中のZ2/Mは、ポリイミド系樹脂溶液中のポリイミド系樹脂の量と、添加する第2の貧溶媒の量の関係を表す。なお、第2の貧溶媒として2種以上の溶媒の混合物を使用する場合には、その合計質量をZ2とする。Z2/Mは、ポリイミド系樹脂を粉体として析出させやすい観点から、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは8以上である。Z2/Mは、粉体を乾燥させる条件を和らげやすく、また廃液量を削減できる観点から、好ましくは30以下、より好ましくは25以下、さらに好ましくは22以下である。
本発明の製造方法は、上記の工程(1)に加えて、(2)得られた混合物を固液分離して、析出したポリイミド系樹脂を含むポリイミド系樹脂組成物(a)を得る工程(以下において「工程(2)」とも称する)、(3)該ポリイミド系樹脂組成物(a)を貧溶媒と接触させる工程(以下において「工程(3)」とも称する)、及び/又は、(4)乾燥工程(以下において「工程(4)」とも称する)をさらに含んでいてもよい。
工程(2)は、得られた混合物を固液分離して、析出したポリイミド系樹脂を含むポリイミド系樹脂組成物(a)を得る工程である。工程(2)において、工程(1)で得た混合物を固液分離すると、該混合物中に含まれていた析出したポリイミド系樹脂と、該混合物中に含まれていた一部の溶媒とを含むポリイミド系樹脂組成物を得ることができる。該ポリイミド系樹脂組成物は、ウェットケーキとも称される組成物であり、ポリイミド系樹脂粉体を得るための中間体である。本明細書において、工程(2)において得られるポリイミド系樹脂組成物を、「ポリイミド系樹脂組成物(a)」とも称する。
固液分離の方法は特に限定されず、例えば、一般的にろ過と称される方法、具体的には、析出物と溶媒の透過性が異なるフィルターを介して、重力により分離する方法、遠心力により分離する方法、圧力差により分離する方法が挙げられる。使用可能なろ過器の例としては、遠心ろ過器、ドリュックフィルターろ過器等が挙げられる。このようにして得たポリイミド系樹脂組成物(a)には、析出したポリイミド系樹脂粉体と、良溶媒、工程(1)で接触させた貧溶媒が含まれている。次いで、ポリイミド系樹脂組成物(a)を乾燥させる工程(4)を行い、ポリイミド系樹脂粉体を得ることも可能であるし、さらに続く工程(3)により、ポリイミド系樹脂組成物(a)を貧溶媒と接触させた後、得られたポリイミド系樹脂組成物を乾燥させる工程(4)を行い、ポリイミド系樹脂粉体を得てもよい。特にポリイミド系樹脂をモノマーから製造する際の反応液をポリイミド系樹脂溶液として用いてポリイミド系樹脂粉体を製造する場合には、ポリイミド系樹脂組成物中に含まれる不純物の量を低下させやすい観点から、工程(3)の貧溶媒との接触工程を行うことが好ましい。ポリイミド系樹脂組成物中に含まれる不純物の量を低下させることにより、該樹脂組成物を乾燥して得られるポリイミド系樹脂粉体中の不純物の量を低下させやすく、その結果、ポリイミド系樹脂粉体の安息角及び割合(A2/B)を所望の範囲に調整しやすく、ワニスを調製する際に凝集しにくく、かつ、ワニスへの溶解性が高いポリイミド系樹脂粉体を製造しやすい。
工程(3)は、ポリイミド系樹脂組成物(a)を、少なくとも1種の貧溶媒と接触させる工程である。工程(3)により、析出したポリイミド系樹脂粉体を洗浄することができる。工程(3)において、1種類の貧溶媒を使用してもよいし、2種以上の貧溶媒を使用してもよい。また、貧溶媒と接触させる回数は、1回であってもよいし、2回以上であってもよい。また、連続的に接触及び固液分離を行ってもよい。具体的には、工程(3)は、ポリイミド系樹脂組成物(a)に貧溶媒を添加しながら、同時にろ過を行ってもよいし、ポリイミド系樹脂組成物(a)に貧溶媒を添加して混合した後、混合物を固液分離して行ってもよい。工程(3)で使用する貧溶媒としては、工程(1)で添加する貧溶媒として記載した溶媒が同様に当てはまる。ポリイミド系樹脂組成物中に含まれる不純物の量を低下させやすい観点からは、工程(3)においてアルコール系溶媒を使用することが好ましい。貧溶媒との接触方法は特に限定されないが、例えば、ポリイミド系樹脂組成物(a)に、貧溶媒を添加してもよいし、ポリイミド系樹脂組成物(a)と貧溶媒を混合してもよい。接触後、一般的にろ過と称される方法、具体的には、析出物と溶媒の透過性が異なるフィルターを介して、重力により分離する方法、遠心力により分離する方法、加圧により分離する方法により、得られる混合物の固液分離を行い、ポリイミド系樹脂組成物が得られる。工程(3)において得られるポリイミド系樹脂組成物を、「ポリイミド系樹脂組成物(a’)」とも称する。
工程(4)は、工程(2)で得たポリイミド系樹脂組成物(a)、又は、工程(3)で得たポリイミド系樹脂組成物(a’)を乾燥する工程である。ポリイミド系樹脂組成物(a)又は(a’)を乾燥させて、該組成物中の溶媒を除去することにより、ポリイミド系樹脂粉体が得られる。該ポリイミド系樹脂組成物は、ウェットケーキとも称される組成物であり、ポリイミド系樹脂粉体を得るための中間体である。乾燥条件は、ポリイミド系樹脂組成物(a)又は(a’)中の溶媒が除去される限り特に限定されず、例えば、減圧又は大気圧条件下、約50〜250℃程度の温度で1〜48時間程度加熱する等の条件であってよい。
<ポリイミド系樹脂>
本発明のポリイミド系樹脂は、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリアミック酸樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂であってよい。ポリイミド系樹脂は、1種類のポリイミド系樹脂であってもよいし、2種以上のポリイミド系樹脂であってもよい。ポリイミド系樹脂は、製膜性の観点から、好ましくはポリアミドイミド樹脂である。ポリイミド系樹脂は、芳香族系のポリイミド系樹脂であることが好ましい。ポリイミド系樹脂が芳香族系であるとは、ポリイミド系樹脂を構成する構成単位の好ましくは60モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上が、芳香族系の構造を含む構成単位であることを表す。
本発明の好ましい一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、式(1)で表される構成単位を有するポリイミド樹脂であるか、又は、式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位を有するポリアミドイミド樹脂であることが好ましい。以下において式(1)及び式(2)について説明するが、式(1)についての説明は、ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂の両方に関し、式(2)についての説明は、ポリアミドイミド樹脂に関する。
式(1)で表される構成単位は、テトラカルボン酸化合物とジアミン化合物とが反応して形成される構成単位であり、式(2)で表される構成単位は、ジカルボン酸化合物とジアミン化合物とが反応して形成される構成単位である。ポリイミド系樹脂が、芳香族系のポリイミド系樹脂である本発明の好ましい一態様において、式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位を構成する、テトラカルボン酸化合物、ジアミン化合物及びジカルボン酸化合物の少なくとも1つが、芳香族化合物(芳香族テトラカルボン酸化合物、芳香族ジアミン化合物及び/又は芳香族ジカルボン酸化合物)であることが好ましい。
式(2)において、Zは、2価の有機基であり、好ましくは炭素数1〜8の炭化水素基又はフッ素置換された炭素数1〜8の炭化水素基で置換されていてもよい、炭素数4〜40の2価の有機基であり、より好ましくは炭素数1〜8の炭化水素基又はフッ素置換された炭素数1〜8の炭化水素基で置換されていてもよい、環状構造を有する炭素数4〜40の2価の有機基である。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。Zの有機基として、後述する式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基及び炭素数6以下の2価の鎖式炭化水素基が例示され、Zのヘテロ環構造としてはチオフェン環骨格を有する基が例示される。光学フィルムの黄色度を抑制(YI値を低減)しやすい観点から、式(20)〜式(27)で表される基、及び、チオフェン環骨格を有する基が好ましい。
本発明の一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂は、複数種のZを含み得、複数種のZは、互いに同一であっても異なっていてもよい。特に、ポリイミド系樹脂粉体から得られるフィルムの表面硬度及び光学特性を向上させやすい観点、及び、ワニス調製時の凝集を防止しやすい観点から、Zの少なくとも一部が、式(3)
[式(3)中、R
1〜R
8は、互いに独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、又は炭素数6〜12のアリール基を表し、R
1〜R
8に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
Aは、互いに独立に、単結合、−O−、−CH
2−、−CH
2−CH
2−、−CH(CH
3)−、−C(CH
3)
2−、−C(CF
3)
2−、−SO
2−、−S−、−CO−又は−N(R
9)−を表し、R
9は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表し、
mは0〜4の整数であり、
*は結合手を表す]
で表されることが好ましい。
式(3)において、Aは、単結合、−O−、−CH2−、−CH2−CH2−、−CH(CH3)−、−C(CH3)2−、−C(CF3)2−、−SO2−、−S−、−CO−又は−N(R9)−を表し、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの耐屈曲性の観点から、好ましくは−O−又は−S−を表し、より好ましくは−O−を表す。
R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7及びR8は、互いに独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、又は炭素数6〜12のアリール基を表す。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2−メチル−ブチル基、3−メチルブチル基、2−エチル−プロピル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。炭素数1〜6のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。炭素数6〜12のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等が挙げられる。ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの表面硬度及び柔軟性の観点から、R1〜R8は、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、さらに好ましくは水素原子を表す。ここで、R1〜R8に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。
R9は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。炭素数1〜12の1価の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、2−メチル−ブチル基、3−メチルブチル基、2−エチル−プロピル基、n−ヘキシル、n−ヘプチル基、n−オクチル基、tert−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられ、これらはハロゲン原子で置換されていてもよい。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。ポリイミド系樹脂は、複数種のAを含み得、複数種のAは、互いに同一でよく、異なっていてもよい。
式(3)において、mは、0〜4の範囲の整数であり、mがこの範囲内であると、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの耐屈曲性や弾性率が良好になりやすい。また、式(3)において、mは、好ましくは0〜3の範囲の整数、より好ましくは0〜2、さらに好ましくは0又は1、特に好ましくは0である。mがこの範囲内であると、フィルムの耐屈曲性や弾性率を向上させやすい。また、Zは、式(3)で表される構成単位を1種又は2種類以上含んでいてもよく、光学フィルムの弾性率及び耐屈曲性の向上、黄色度(YI値)低減の観点から、特にmの値が異なる2種類以上の構成単位、好ましくはmの値の異なる2種類の構成単位を含んでいてもよい。その場合、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの高い弾性率、耐屈曲性及び低い黄色度(YI値)を発現しやすい観点から、樹脂がZにおいて、mが0である式(3)で表される構成単位を含有することが好ましく、該構成単位に加えてmが1である式(3)で表される構成単位をさらに含有することがより好ましい。
本発明の好ましい一実施形態において、樹脂は、式(3)で表される構成単位として、m=0であり、かつR
5〜R
8が水素原子である構成単位を有する。より好ましい本発明の一実施形態において、樹脂は、式(3)で表される構成単位として、m=0であり、かつR
5〜R
8が水素原子である構成単位と、式(3’):
で表される構成単位を有する。この場合、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの表面硬度及び耐屈曲性を向上させやすく、黄色度を低減しやすい。
本発明の好ましい一実施形態において、ポリアミドイミド樹脂の式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位の合計を100モル%としたときに、式(3)で表される構成単位の割合は、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上、特に好ましくは50モル%以上、最も好ましくは60モル%以上であり、好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下である。式(3)で表される構成単位の割合が上記の下限以上であると、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの表面硬度を高めやすく、かつ耐屈曲性や弾性率を高めやすい。式(3)で表される構成単位の割合が上記の上限以下であると、式(3)由来のアミド結合間水素結合による樹脂含有ワニスの粘度上昇を抑制し、フィルムの加工性を向上しやすい。
また、ポリアミドイミド樹脂がm=1〜4である式(3)の構成単位を有する場合、ポリアミドイミド樹脂の式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位の合計を100モル%としたときに、mが1〜4である式(3)の構成単位の割合は、好ましくは2モル%以上、より好ましくは4モル%以上、さらに好ましくは6モル%以上、特に好ましくは8モル%以上であり、好ましくは70モル%以下、より好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは30モル%以下、さらにより好ましくは15モル%以下、特に好ましくは12モル%以下である。mが1〜4である式(3)の構成単位の割合が上記の下限以上であると、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの表面硬度及び耐屈曲性を高めやすい。mが1〜4である式(3)の構成単位の割合が上記の上限以下であると、式(3)由来のアミド結合間水素結合による樹脂含有ワニスの粘度上昇を抑制し、フィルムの加工性を向上しやすい。なお、式(1)、式(2)又は式(3)で表される構成単位の含有量は、例えば1H−NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
本発明の好ましい一実施形態において、上記ポリアミドイミド樹脂中のZの、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、さらに好ましくは45モル%以上、さらに好ましくは50モル%以上、特に好ましくは70モル%以上が、mが0〜4である式(3)で表される構成単位である。Zの上記の下限以上が、mが0〜4である式(3)で表される構成単位であると、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの表面硬度を高めやすいと共に、耐屈曲性及び弾性率も高めやすい。また、ポリアミドイミド樹脂中のZの100モル%以下が、mが0〜4である式(3)で表される構成単位であればよい。なお、樹脂中の、mが0〜4である式(3)で表される構成単位の割合は、例えば1H−NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
本発明の好ましい一実施形態において、上記ポリアミドイミド樹脂中のZの、好ましくは5モル%以上、より好ましくは8モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上、特に好ましくは12モル%以上が、mが1〜4である式(3)で表される。ポリアミドイミド樹脂のZの上記の下限以上が、mが1〜4である式(3)で表されると、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの表面硬度を高めやすく、かつ耐屈曲性及び弾性率を高めやすい。また、Zの、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは50モル%以下、特に好ましくは30モル%以下が、mが1〜4である式(3)で表されることが好ましい。Zの上記の上限以下が、mが1〜4である式(3)で表されると、mが1〜4である式(3)由来のアミド結合間水素結合による樹脂含有ワニスの粘度上昇を抑制し、フィルムの加工性を向上しやすい。なお樹脂中のmが1〜4である式(3)で表される構成単位の割合は、例えば1H−NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
式(1)及び式(2)において、Xは、互いに独立に、2価の有機基を表し、好ましくは炭素数4〜40の2価の有機基、より好ましくは環状構造を有する炭素数4〜40の2価の有機基を表す。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。前記有機基は、有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1〜8である。本発明の一実施形態において、ポリイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂は、複数種のXを含み得、複数種のXは、互いに同一でよく、異なっていてもよい。Xとしては、式(10)、式(11)、式(12)、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)、式(17)及び式(18)で表される基;それらの式(10)〜式(18)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;並びに炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
式(10)〜式(18)中、*は結合手を表し、
V1、V2及びV3は、互いに独立に、単結合、−O−、−S−、−CH2−、−CH2−CH2−、−CH(CH3)−、−C(CH3)2−、−C(CF3)2−、−SO2−、−CO−又は−N(Q)−を表す。ここで、Qはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表す。炭素数1〜12の1価の炭化水素基としては、R9について上記に述べた基が挙げられる。
1つの例は、V1及びV3が単結合、−O−又は−S−であり、かつ、V2が−CH2−、−C(CH3)2−、−C(CF3)2−又は−SO2−である。V1とV2との各環に対する結合位置、及び、V2とV3との各環に対する結合位置は、互いに独立に、好ましくは各環に対してメタ位又はパラ位であり、より好ましくはパラ位である。
式(10)〜式(18)で表される基の中でも、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの表面硬度及び耐屈曲性を高めやすい観点から、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)及び式(17)で表される基が好ましく、式(14)、式(15)及び式(16)で表される基がより好ましい。また、V1、V2及びV3は、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの表面硬度及び柔軟性を高めやすい観点から、互いに独立に、好ましくは単結合、−O−又は−S−、より好ましくは単結合又は−O−である。
本発明の好ましい一実施形態において、式(1)及び式(2)中の複数のXの少なくとも一部は、式(4):
[式(4)中、R
10〜R
17は、互いに独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又は炭素数6〜12のアリール基を表し、R
10〜R
17に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、*は結合手を表す]
で表される構成単位である。式(1)及び式(2)中の複数のXの少なくとも一部が式(4)で表される基であると、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの表面硬度及び透明性を高めやすい。
式(4)において、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16及びR17は、互いに独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又は炭素数6〜12のアリール基を表す。炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又は炭素数6〜12のアリール基としては、式(3)における炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又は炭素数6〜12のアリール基として例示のものが挙げられる。R10〜R17は、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、ここで、R10〜R17に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R10〜R17は、互いに独立に、光学フィルムの表面硬度、透明性及び耐屈曲性の観点から、さらに好ましくは水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基であり、とりわけ好ましくはR10、R12、R13、R14、R15及びR16が水素原子、R11及びR17が水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基であり、特に好ましくはR11及びR17がメチル基又はトリフルオロメチル基である。
本発明の好ましい一実施形態において、式(4)で表される構成単位は式(4’):
で表される構成単位であり、すなわち、複数のXの少なくとも一部は、式(4’)で表される構成単位である。この場合、フッ素元素を含有する骨格によりポリイミド系樹脂粉体の溶媒への溶解性を高めやすい。また、ワニスの粘度を低減しやすく、光学フィルムの加工性を向上しやすい。また、フッ素元素を含有する骨格により、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの光学特性を向上しやすい。
本発明の好ましい一実施形態において、上記ポリイミド系樹脂中のXの、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上が式(4)、特に式(4’)で表される。ポリイミド系樹脂における上記範囲内のXが式(4)、特に式(4’)で表されると、フッ素元素を含有する骨格によりポリイミド系樹脂粉体の溶媒への溶解性を向上させやすい。また、ワニスの粘度を低減しやすく、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの加工性を向上しやすい。さらに、フッ素元素を含有する骨格により、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの光学特性も向上しやすい。なお、好ましくは、上記ポリイミド系樹脂中のXの100モル%以下が式(4)、特に式(4’)で表される。上記ポリアミドイミド樹脂中のXは式(4)、特に式(4’)であってもよい。上記樹脂中のXの式(4)で表される構成単位の割合は、例えば1H−NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
式(1)において、Yは4価の有機基を表し、好ましくは炭素数4〜40の4価の有機基を表し、より好ましくは環状構造を有する炭素数4〜40の4価の有機基を表す。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。前記有機基は、有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基であり、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1〜8である。本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、複数種のYを含み得、複数種のYは、互いに同一でよく、異なっていてもよい。Yとしては、以下の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基;それらの式(20)〜式(29)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;並びに4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
式(20)〜式(29)中、
*は結合手を表し、
W1は、単結合、−O−、−CH2−、−CH2−CH2−、−CH(CH3)−、−C(CH3)2−、−C(CF3)2−、−Ar−、−SO2−、−CO−、−O−Ar−O−、−Ar−O−Ar−、−Ar−CH2−Ar−、−Ar−C(CH3)2−Ar−又は−Ar−SO2−Ar−を表す。Arは、水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数6〜20のアリーレン基を表し、具体例としてはフェニレン基が挙げられる。
式(20)〜式(29)で表される基の中でも、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの表面硬度及び耐屈曲性の観点から、式(26)、式(28)又は式(29)で表される基が好ましく、式(26)で表される基がより好ましい。また、W1は、光学フィルムの表面硬度及び耐屈曲性を高めやすく、黄色度を低減しやすい観点から、互いに独立に、単結合、−O−、−CH2−、−CH2−CH2−、−CH(CH3)−、−C(CH3)2−又は−C(CF3)2−であることが好ましく、単結合、−O−、−CH2−、−CH(CH3)−、−C(CH3)2−又は−C(CF3)2−であることがより好ましく、単結合、−C(CH3)2−又は−C(CF3)2−であることがさらに好ましい。
本発明の好ましい一実施形態において、式(1)中の複数のYの少なくとも一部は、式(5):
[式(5)中、R
18〜R
25は、互いに独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又は炭素数6〜12のアリール基を表し、R
18〜R
25に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
*は結合手を表す]
で表される構成単位である。式(1)中の複数のYの少なくとも一部が式(5)で表される基であると、ポリイミド系樹脂粉体の溶媒への溶解性を高めやすい。また、ワニスの粘度を低減しやすく、フィルムの加工性を向上しやすい。また、光学フィルムの光学特性を向上しやすい。
式(5)において、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24及びR25は、互いに独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又は炭素数6〜12のアリール基を表す。炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基及び炭素数6〜12のアリール基としては、式(3)における炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基又は炭素数6〜12のアリール基として上記に例示のものが挙げられる。R18〜R25は、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基を表し、ここで、R18〜R25に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。該ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。R18〜R25は、互いに独立に、光学フィルムの表面硬度、耐屈曲性及び透明性を向上しやすい観点から、さらに好ましくは水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基であり、よりさらに好ましくはR18、R19、R20、R23、R24及びR25が水素原子、R21及びR22が水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基であり、とりわけ好ましくはR21及びR22がメチル基又はトリフルオロメチル基である。
本発明の好ましい一実施形態においては、式(5)で表される構成単位は、式(5’):
で表される基であり、すなわち、複数のYの少なくとも一部は、式(5’)で表される構成単位である。この場合、フッ素元素を含有する骨格により、ポリイミド系樹脂粉体の溶媒への溶解性を高めやすい。また、ワニスの粘度を低減しやすく、フィルムの加工性を向上しやすい。また、フッ素元素を含有する骨格により、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの光学特性を向上しやすい。
本発明の好ましい一実施形態において、ポリイミド系樹脂中のYの、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上が、式(5)、特に式(5’)で表される。ポリイミド系樹脂における上記範囲内のYが式(5)、特に式(5’)で表されると、フッ素元素を含有する骨格によりポリイミド系樹脂粉体の溶媒への溶解性を高めやすい。また、ワニスの粘度を低減しやすく、フィルムの加工性を向上しやすい。さらに、フッ素元素を含有する骨格により、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの光学特性を向上させやすい。なお、好ましくは、上記ポリイミド系樹脂中のYの100モル%以下が式(5)、特に式(5’)で表される。ポリイミド系樹脂中のYは式(5)、特に式(5’)であってもよい。ポリイミド系樹脂中のYの式(5)で表される構成単位の割合は、例えば1H−NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
ポリイミド系樹脂は、式(30)で表される構成単位及び/又は式(31)で表される構成単位を含むことができ、式(1)及び式(2)で表される構成単位に、式(30)で表される構成単位及び/又は式(31)で表される構成単位を含むものであってもよい。
式(30)において、Y1は4価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。Y1としては、式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基、それらの式(20)〜式(29)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基、並びに4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、複数種のY1を含み得、複数種のY1は、互いに同一でよく、異なっていてもよい。
式(31)において、Y2は3価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。Y2としては、上記の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基の結合手のいずれか1つが水素原子に置き換わった基、及び3価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、複数種のY2を含み得、複数種のY2は、互いに同一でよく、異なっていてもよい。
式(30)及び式(31)において、X1及びX2は、互いに独立に、2価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。X1及びX2としては、上記の式(10)、式(11)、式(12)、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)、式(17)及び式(18)で表される基;それら式(10)〜式(18)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;並びに炭素数6以下の鎖式炭化水素基が例示される。
本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、式(1)及び/又は式(2)で表される構成単位、並びに場合により式(30)及び/又は式(31)で表される構成単位からなる。また、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの光学特性、表面硬度及び耐屈曲性の観点から、上記ポリイミド系樹脂において、式(1)及び式(2)で表される構成単位は、式(1)及び式(2)、並びに場合により式(30)及び式(31)で表される全構成単位に基づいて、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。なお、ポリイミド系樹脂において、式(1)及び式(2)で表される構成単位は、式(1)及び式(2)、並びに場合により式(30)及び/又は式(31)で表される全構成単位に基づいて、通常100%以下である。なお、上記割合は、例えば、1H−NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルム中におけるポリイミド系樹脂の含有量は、該フィルム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上であり、好ましくは99.5質量部以下、より好ましくは95質量部以下である。ポリイミド系樹脂の含有量が上記範囲内であると、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの光学特性及び弾性率を向上させやすい。
ポリアミドイミド樹脂において、式(2)で表される構成単位の含有量は、式(1)で表される構成単位1モルに対して、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは0.5モル以上、さらに好ましくは1.0モル以上、特に好ましくは1.5モル以上であり、好ましくは6.0モル以下、より好ましくは5.0モル以下、さらに好ましくは4.5モル以下である。式(2)で表される構成単位の含有量が上記の下限以上であると、ポリイミド系樹脂粉体を用いて得られるフィルムの表面硬度を高めやすい。また、式(2)で表される構成単位の含有量が上記の上限以下であると、式(2)中のアミド結合間の水素結合による増粘を抑制し、光学フィルムの加工性を向上させやすい。
本発明の好ましい一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、例えば上記の含フッ素置換基等によって導入することができる、フッ素原子等のハロゲン原子を含んでよい。ポリイミド系樹脂がハロゲン原子を含む場合、該ポリイミド系樹脂を含むフィルムの弾性率を向上させ、かつ黄色度(YI値)を低減させやすい。フィルムの弾性率が高いと、該フィルムを例えばフレキシブル表示装置において使用する際に、該フィルムにおける傷及びシワ等の発生を抑制しやすい。また、フィルムの黄色度が低いと、該フィルムの透明性及び視認性を向上させやすくなる。ハロゲン原子は、好ましくはフッ素原子である。ポリイミド系樹脂にフッ素原子を含有させるために好ましい含フッ素置換基としては、例えばフルオロ基及びトリフルオロメチル基が挙げられる。
ポリイミド系樹脂におけるハロゲン原子の含有量は、ポリイミド系樹脂の質量を基準として、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは5〜40質量%、さらに好ましくは5〜30質量%である。ハロゲン原子の含有量が上記の下限以上であると、該ポリイミド系樹脂を含むフィルムの弾性率をより向上させ、吸水率を下げ、黄色度をより低減し、透明性及び視認性をより向上させやすい。ハロゲン原子の含有量が上記の上限以下であると、樹脂の合成がしやすくなる。
ポリイミド系樹脂のイミド化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは96%以上である。該ポリイミド系樹脂を含むフィルムの光学的均質性を高めやすい観点から、イミド化率が上記の下限以上であることが好ましい。また、イミド化率の上限は100%以下である。イミド化率は、ポリイミド系樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値に対する、ポリイミド系樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。なお、ポリイミド系樹脂がトリカルボン酸化合物を含む場合には、ポリイミド系樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値と、トリカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量との合計に対する、ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。また、イミド化率は、IR法、NMR法などにより求めることができ、例えば、NMR法においては、実施例に記載の方法により測定できる。
ポリイミド系樹脂は、市販品を使用してもよい。ポリイミド樹脂の市販品としては、例えば三菱瓦斯化学(株)製ネオプリム(登録商標)、河村産業(株)製KPI−MX300F等が挙げられる。
<ポリイミド系樹脂の製造方法>
ポリイミド樹脂は、例えば、テトラカルボン酸化合物及びジアミン化合物を主な原料として製造でき、ポリアミドイミド樹脂は、例えば、テトラカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物及びジアミン化合物を主な原料として製造できる。ここで、ジカルボン酸化合物は少なくとも式(3”)で表される化合物を含むことが好ましい。
[式(3”)中、R
1〜R
8は、互いに独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、又は炭素数6〜12のアリール基を表し、R
1〜R
8に含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、
Aは、単結合、−O−、−CH
2−、−CH
2−CH
2−、−CH(CH
3)−、−C(CH
3)
2−、−C(CF
3)
2−、−SO
2−、−S−、−CO−又は−N(R
9)−を表し、
R
9は水素原子、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1〜12の1価の炭化水素基を表し、
mは0〜4の整数であり、
R
31及びR
32は、互いに独立に、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基又は塩素原子を表す。]
本発明の好ましい一実施形態において、ジカルボン酸化合物は、mが0である、式(3”)で表される化合物である。ジカルボン酸化合物として、mが0である式(3”)で表される化合物に加えて、Aが酸素原子である式(3”)で表される化合物を使用することがより好ましい。また、別の好ましい一実施形態においては、ジカルボン酸化合物は、R31及びR32が塩素原子である、式(3”)で表される化合物である。また、ジアミン化合物に代えて、ジイソシアネート化合物を用いてもよい。
樹脂の製造に使用されるジアミン化合物としては、例えば、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及びこれらの混合物が挙げられる。なお、本実施形態において「芳香族ジアミン」とは、アミノ基が芳香環に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。この芳香環は単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環及びフルオレン環等が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環である。また「脂肪族ジアミン」とは、アミノ基が脂肪族基に直接結合しているジアミンを表し、その構造の一部に芳香環やその他の置換基を含んでいてもよい。
脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン等の非環式脂肪族ジアミン、並びに1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン及び4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン等の環式脂肪族ジアミン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
芳香族ジアミンとしては、例えばp−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−トルエンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン等の、芳香環を1つ有する芳香族ジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ジメチルベンジジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニル(TFMBと記載することがある)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−クロロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−フルオロフェニル)フルオレン等の、芳香環を2つ以上有する芳香族ジアミンが挙げられる。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
芳香族ジアミンは、好ましくは4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ジメチルベンジジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニル(TFMB)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニルであり、より好ましくは4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ジメチルベンジジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニル(TFMB)、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニルである。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
上記ジアミン化合物の中でも、光学フィルムの高表面硬度、高透明性、高柔軟性、高屈曲耐性及び低着色性の観点からは、ビフェニル構造を有する芳香族ジアミンからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。2,2’−ジメチルベンジジン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル及び4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる1種以上を用いることがより好ましく、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノジフェニル(TFMB)を用いることがよりさらに好ましい。
樹脂の製造に用いられるテトラカルボン酸化合物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物;及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸化合物等が挙げられる。テトラカルボン酸化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。テトラカルボン酸化合物は、二無水物の他、酸クロリド化合物等のテトラカルボン酸化合物類縁体であってもよい。
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物及び縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDAと記載することがある)、1,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。また、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物が挙げられ、縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
これらの中でも、好ましくは4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、1,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物及び4,4’−(m−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられ、より好ましくは4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物及び4,4’−(p−フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、環式又は非環式の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは、脂環式炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物であり、その具体例としては、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等のシクロアルカンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル3,3’−4,4’−テトラカルボン酸二無水物及びこれらの位置異性体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、及び1,2,3,4−ペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。また、環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物を組合せて用いてもよい。
上記テトラカルボン酸二無水物の中でも、光学フィルムの高表面硬度、高透明性、高柔軟性、高屈曲耐性、及び低着色性の観点から、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、並びにこれらの混合物が好ましく、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及び4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、並びにこれらの混合物がより好ましく、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)がさらに好ましい。
樹脂の製造に用いられるジカルボン酸化合物としては、好ましくはテレフタル酸、4,4’−オキシビス安息香酸又はそれらの酸クロリド化合物が用いられる。テレフタル酸や4,4’−オキシビス安息香酸又はそれらの酸クロリド化合物に加えて、他のジカルボン酸化合物が用いられてもよい。他のジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、イソフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’−ビフェニルジカルボン酸;3,3’−ビフェニルジカルボン酸;炭素数8以下である鎖式炭化水素、のジカルボン酸化合物及び2つの安息香酸が単結合、−CH2−、−C(CH3)2−、−C(CF3)2−、−SO2−若しくはフェニレン基で連結された化合物並びに、それらの酸クロリド化合物が挙げられる。具体例としては、4,4’−オキシビス(ベンゾイルクロリド)、テレフタロイルクロリドが好ましく、4,4’−オキシビス(ベンゾイルクロリド)とテレフタロイルクロリドとを組合せて用いることがさらに好ましい。
なお、上記ポリイミド系樹脂は、光学部材の各種物性を損なわない範囲で、上記テトラカルボン酸化合物に加えて、テトラカルボン酸及びトリカルボン酸並びにそれらの無水物及び誘導体をさらに反応させたものであってもよい。
テトラカルボン酸としては、上記テトラカルボン酸化合物の無水物の水付加体が挙げられる。
トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸の無水物;2,3,6−ナフタレントリカルボン酸−2,3−無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、−O−、−CH2−、−C(CH3)2−、−C(CF3)2−、−SO2−若しくはフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
樹脂の製造において、ジアミン化合物、テトラカルボン酸化合物及び/又はジカルボン酸化合物の使用量は、所望とするポリイミド系樹脂の各構成単位の比率に応じて適宜選択できる。
樹脂の製造において、ジアミン化合物、テトラカルボン酸化合物及びジカルボン酸化合物の反応温度は、特に限定されないが、例えば5〜350℃、好ましくは20〜200℃、より好ましくは25〜100℃である。反応時間も特に限定されないが、例えば30分〜10時間程度である。必要に応じて、不活性雰囲気又は減圧の条件下において反応を行ってよい。好ましい態様では、反応は、常圧及び/又は不活性ガス雰囲気下、撹拌しながら行う。また、反応は、反応に不活性な溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、反応に影響を与えない限り特に限定されないが、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−ブトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2−ヘプタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;クロロホルム及びクロロベンゼン等の塩素含有溶媒;N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;及びそれらの組合せ(混合溶媒)などが挙げられる。これらの中でも、溶解性の観点から、アミド系溶媒を好適に使用できる。
ポリイミド系樹脂の製造におけるイミド化工程では、イミド化触媒の存在下で、イミド化することができる。イミド化触媒としては、例えばトリプロピルアミン、ジブチルプロピルアミン、エチルジブチルアミン等の脂肪族アミン;N−エチルピペリジン、N−プロピルピペリジン、N−ブチルピロリジン、N−ブチルピペリジン、及びN−プロピルヘキサヒドロアゼピン等の脂環式アミン(単環式);アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン、アザビシクロ[3.2.1]オクタン、アザビシクロ[2.2.2]オクタン、及びアザビシクロ[3.2.2]ノナン等の脂環式アミン(多環式);並びにピリジン、2−メチルピリジン(2−ピコリン)、3−メチルピリジン(3−ピコリン)、4−メチルピリジン(4−ピコリン)、2−エチルピリジン、3−エチルピリジン、4−エチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、2,4,6−トリメチルピリジン、3,4−シクロペンテノピリジン、5,6,7,8−テトラヒドロイソキノリン、及びイソキノリン等の芳香族アミンが挙げられる。また、イミド化反応を促進しやすい観点から、イミド化触媒とともに、酸無水物を用いることが好ましい。酸無水物は、イミド化反応に用いられる慣用の酸無水物等が挙げられ、その具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等の脂肪族酸無水物、フタル酸等の芳香族酸無水物などが挙げられる。
ポリイミド系樹脂は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組合せた分離手段により単離(分離精製)してもよく、好ましい態様では、透明ポリアミドイミド樹脂を含む反応液に、多量のメタノール等のアルコールを加え、樹脂を析出させ、濃縮、濾過、乾燥等を行うことにより単離することができる。
本発明の製造方法により製造したポリイミド系樹脂粉体は、例えば光学部材として使用することができる。光学部材としては、例えば光学フィルムが挙げられる。該光学部材は、柔軟性、屈曲耐性及び表面硬度に優れるため、画像表示装置の前面板、特にフレキシブルディスプレイの前面板(ウィンドウフィルム)として適当である。光学部材は単層であってもよく、複層であってもよい。光学部材が複層である場合、各層は同一の組成であってよく、異なる組成であってもよい。
本発明の製造方法により製造したポリイミド系樹脂粉体を使用して光学部材を得る場合、光学部材中におけるポリイミド系樹脂の含有率は、光学部材の全質量に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、非常に好ましくは90質量%以上である。ポリイミド系樹脂の含有率が上記の下限以上であると、光学部材の屈曲耐性が良好である。なお、光学部材中におけるポリイミド系樹脂の含有率は、光学部材の全質量に対して、通常100質量%以下である。
(無機材料)
光学部材には、ポリイミド系樹脂の他に無機粒子等の無機材料を更に含有してもよい。無機材料として、例えば、チタニア粒子、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、シリカ粒子等の無機粒子、及びオルトケイ酸テトラエチル等の4級アルコキシシラン等のケイ素化合物等が挙げられる。光学部材を製造するためのポリイミド系樹脂を含むワニスの安定性の観点から、無機材料は無機粒子、特にシリカ粒子であることが好ましい。無機粒子同士は、シロキサン結合を有する分子により結合されていてもよい。
無機粒子の平均一次粒子径は、光学部材の透明性、機械物性、及び無機粒子の凝集抑制の観点から、1〜100nm以上、好ましくは5〜80nm、より好ましくは7〜50nm、特に好ましくは10〜30nmである。本発明において、平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡による定方向径の10点平均値を測定することにより決定することができる。
光学部材中の無機材料の含有率は、光学部材の全質量を基準として、好ましくは0質量%以上90質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは5質量%以上40質量%以下である。無機材料の含有率が上記範囲内であると、光学部材の透明性及び機械物性を両立させやすい傾向がある。
(紫外線吸収剤)
光学部材は、1種又は2種以上の紫外線吸収剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤は、樹脂材料の分野で紫外線吸収剤として通常用いられているものから、適宜選択することができる。紫外線吸収剤は、400nm以下の波長の光を吸収する化合物を含んでいてもよい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、及びトリアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。光学部材が紫外線吸収剤を含有することにより、ポリイミド系樹脂の劣化が抑制されるため、光学部材の視認性を高めることができる。
なお、本明細書において、「系化合物」とは、当該「系化合物」が付される化合物の誘導体を指す。例えば、「ベンゾフェノン系化合物」とは、母体骨格としてのベンゾフェノンと、ベンゾフェノンに結合している置換基とを有する化合物を指す。
光学部材が紫外線吸収剤を含有する場合、紫外線吸収剤の含有率は、光学部材の全質量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下である。好適な含有率は用いる紫外線吸収剤により異なるが、400nmの光線透過率が20〜60%程度になるように紫外線吸収剤の含有率を調節すると、光学部材の耐光性が高められるとともに、透明性の高い光学部材を得ることができる。
(他の添加剤)
光学部材は、更に他の添加剤を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、離型剤、安定剤、ブルーイング剤、難燃剤、pH調整剤、シリカ分散剤、滑剤、増粘剤、及びレベリング剤等が挙げられる。
他の添加剤の含有率は、光学部材の質量に対して、好ましくは0質量%以上20質量%以下、より好ましくは0質量%以上10質量%以下である。
光学部材、特に光学フィルムの厚さは、用途に応じて適宜調整されるが、通常10〜1,000μm、好ましくは15〜500μm、より好ましくは20〜400μm、さらに好ましくは25〜300μmである。なお、本発明において、厚さは接触式のデジマチックインジケーターによって測定することができる。
光学部材の全光線透過率Ttは、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上である。光学部材の全光線透過率Ttが上記の下限以上であると、光学部材を画像表示装置に組み込んだ際に、十分な視認性を確保しやすい。なお、光学部材の全光線透過率Ttの上限値は通常100%以下である。全光線透過率は、例えばJIS K 7361−1:1997に準拠してヘーズコンピュータを用いて測定できる。光学部材のヘーズ(Haze)は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、さらにより好ましくは0.8%以下、とりわけ好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.3%以下である。光学部材のヘーズが上記の上限以下であると、光学部材を画像表示装置等のフレキシブル電子デバイスに組み込んだ際に、十分な視認性を確保しやすい。なお、上記ヘーズの下限値は特に限定されず、0%以上であればよい。なお、ヘーズは、JIS K 7105:1981に準拠してヘーズコンピュータを用いて測定できる。本発明の製造方法において使用するポリイミド系樹脂溶液(a)に溶解させたポリイミド系樹脂、及び/又は、本発明の製造方法により得られるポリイミド系樹脂の粉体は、上記全光線透過率Tt及び/又はヘーズを有することが好ましい。ポリイミド系樹脂及びポリイミド系樹脂粉体の全光線透過率Tt及び/又はヘーズは、成形体(例えばフィルム)の形状で測定される。
(光学部材の製造方法)
本発明の製造方法により製造したポリイミド系樹脂粉体を用いて、上記のような光学部材、例えば光学フィルムを製造することができる。製造方法は特に限定されない。例えば以下の工程:
(a)ポリイミド系樹脂粉体を溶媒に溶解させて得たポリイミド系樹脂を含む液(ポリイミド系樹脂のワニス)を基材に塗布して塗膜を形成する工程(塗布工程)、及び
(b)塗布された液(ポリイミド系樹脂のワニス)を乾燥させて光学部材、特に光学フィルム(ポリイミド系樹脂フィルム)を形成する工程(形成工程)
を含む製造方法によって光学部材を製造することができる。工程(a)及び(b)は、通常この順で行うことができる。
塗布工程においては、ポリイミド系樹脂粉体を溶媒に溶解させ、必要に応じて上記紫外線吸収剤及び他の添加剤を添加し、撹拌することにより、ポリイミド系樹脂を含む液(ポリイミド系樹脂のワニス)を調製する。
ワニスの調製に用いられる溶媒は、ポリイミド系樹脂を溶解可能であれば特に限定されない。かかる溶媒としては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;及びそれらの組み合わせ(混合溶媒)が挙げられる。これらの溶媒の中でも、アミド系溶媒又はラクトン系溶媒が好ましい。また、ワニスには水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、非環状エステル系溶媒、エーテル系溶媒などが含まれてもよい。
次に、例えば公知のロール・ツー・ロールやバッチ方式により、樹脂基材、SUSベルト、又はガラス基材等の基材上に、ポリイミド系樹脂のワニスを用いて、流涎成形等によって塗膜を形成することができる。
形成工程において、塗膜を乾燥し、基材から剥離することによって、光学部材を形成することができる。剥離後に更に光学部材を乾燥する乾燥工程を行ってもよい。塗膜の乾燥は、通常50〜350℃の温度にて行うことができる。必要に応じて、不活性雰囲気又は減圧の条件下において塗膜の乾燥を行ってよい。
光学部材の少なくとも一方の表面に、表面処理を施す表面処理工程を行ってもよい。表面処理としては、例えばUVオゾン処理、プラズマ処理、及びコロナ放電処理が挙げられる。
樹脂基材の例としては、PETフィルム、PENフィルム、ポリイミドフィルム、及びポリアミドイミドフィルム等が挙げられる。中でも、耐熱性に優れる観点から、PETフィルム、PENフィルム、ポリイミドフィルム、及び他のポリアミドイミドフィルムが好ましい。さらに、光学部材との密着性及びコストの観点から、PETフィルムがより好ましい。
本発明の製造方法により得たポリイミド系樹脂粉体を用いて、光学部材を製造することができる。このような光学部材は、高い弾性率と柔軟性を有する。本発明の好適な実施態様において、上記光学部材の弾性率は、好ましくは3.0GPa以上、より好ましくは4.0GPa以上、さらに好ましくは5.0GPa以上、特に好ましくは6.0GPa以上、好ましくは10.0GPa以上、より好ましくは8.0GPa以上、さらに好ましくは7.0GPa以下である。光学部材の弾性率が上記の上限以下であると、フレキシブルディスプレイが屈曲する際に、上記光学部材による他の部材の損傷を抑制することができる。弾性率は、例えば(株)島津製作所製オートグラフAG−ISを用いて、10mm幅の試験片をチャック間距離50mm、引張速度20mm/分の条件でS−S曲線を測定し、その傾きから測定することができる。本発明の製造方法において使用するポリイミド系樹脂溶液(a)に溶解させたポリイミド系樹脂、及び/又は、本発明の製造方法により得られるポリイミド系樹脂の粉体は、上記弾性率を有することが好ましい。ポリイミド系樹脂及びポリイミド系樹脂粉体の弾性率は、成形体(例えばフィルム)の形状で測定される。測定試料の作成方法及び測定方法の詳細は、実施例に記載するとおりである。
上記光学部材、特に光学フィルムは、優れた屈曲耐性を有する。本発明の好適な実施態様において、光学部材は、R=1mmで135°を加重0.75kgfで速度175cpmにて測定した際に破断するまでの往復折り曲げ回数が、好ましくは10,000回以上、より好ましくは20,000回以上、さらに好ましくは30,000回以上、特に好ましくは40,000回以上、非常に好ましくは50,000回以上である。
光学部材の往復折り曲げ回数が上記の下限以上であると、光学部材を屈曲した際に生じ得る織り皺をさらに抑制することができる。なお、光学部材の往復折り曲げ回数は制限されないが、通常1,000,000回の折り曲げが可能であれば十分実用的である。往復折り曲げ回数は、例えば(株)東洋精機製作所製MIT耐折疲労試験機(型式0530)で厚さ50μm、幅10mmの試験片(光学部材)を用いて求めることができる。本発明の製造方法において使用するポリイミド系樹脂溶液(a)に溶解させたポリイミド系樹脂、及び/又は、本発明の製造方法により得られるポリイミド系樹脂の粉体は、上記屈曲耐性を有することが好ましい。ポリイミド系樹脂及びポリイミド系樹脂粉体の屈曲耐性は、成形体(例えばフィルム)の形状で測定される。
上記光学部材は、優れた透明性を発現することができる。そのため、上記光学部材は、画像表示装置、特にフレキシブルディスプレイの前面板(ウィンドウフィルム)として非常に有用である。本発明の好適な実施態様において、光学部材は、JIS K 7373:2006に準拠した黄色度YIが、好ましくは5以下、より好ましくは3以下、さらに好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下である。黄色度YIが上記の上限以下である光学部材は、表示装置等の高い視認性に寄与することができる。なお、上記光学部材の黄色度は好ましくは0以上である。本発明の製造方法において使用するポリイミド系樹脂溶液(a)に溶解させたポリイミド系樹脂、及び/又は、本発明の製造方法により得られるポリイミド系樹脂の粉体は、上記黄色度YIを有することが好ましい。ポリイミド系樹脂及びポリイミド系樹脂粉体の黄色度YIは、成形体(例えばフィルム)の形状で測定される。測定試料の作成方法及び測定方法の詳細は、実施例に記載するとおりである。
上記の光学部材は、紫外線吸収層、粘着層、色相調整層、屈折率調整層等の機能層、ハードコート層を備えてもよい。
本発明のポリイミド系樹脂粉体を用いて製造した光学部材(例えば光学フィルム)は、画像表示装置の前面板、中でもフレキシブルディスプレイの前面板、特にローラブルディスプレイやフォルダブルディスプレイの前面板(ウィンドウフィルム)として有用である。上記光学部材は、画像表示装置、特にフレキシブルディスプレイの視認側表面に前面板として配置することができる。この前面板は、フレキシブルディスプレイ内の画像表示素子を保護する機能を有する。上記光学部材を備える画像表示装置は、高い柔軟性及び屈曲耐性を有すると同時に、高い表面硬度を有するため、屈曲した際に他の部材を損傷することがなく、また光学部材自体にも折り皺が生じ難く、さらに表面の傷つきを有利に抑制できる。
画像表示装置としては、テレビ、スマートフォン、携帯電話、カーナビゲーション、タブレットPC、携帯ゲーム機、電子ペーパー、インジケーター、掲示板、時計、及びスマートウォッチ等のウェアラブルデバイス等が挙げられる。フレキシブルディスプレイとしては、フレキシブル特性を有する画像表示装置、例えばテレビ、スマートフォン、携帯電話、カーナビゲーション、タブレットPC、携帯ゲーム機、電子ペーパー、インジケーター、掲示板、時計、及びウェアラブルデバイス等が挙げられる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記しない限り、質量%及び質量部を意味する。まず評価方法について説明する。
(重量平均分子量(Mw)の測定)
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定を行った。測定試料の調製方法及び測定条件は下記の通りである。
(1)試料調整方法
樹脂を20mg秤りとり、10mLのDMF(10mM臭化リチウム)を加え、完全に溶解させた。この溶液をクロマトディスク(孔径0.45μm)にてろ過し、試料溶液とした。
(2)測定条件
装置:HLC−8020GPC
カラム:ガードカラム+TSKgelα−M(300mm×7.8mm径)×2本+α−2500(300mm×7.8mm径)×1本
溶離液:DMF(10mMの臭化リチウム添加)
流量:1.0mL/分
検出器:RI検出器
カラム温度:40℃
注入量:100μL
分子量標準:標準ポリスチレン
(色度の測定)
ポリイミド系樹脂粉体をシャーレに入れたものを測定試料とし、コニカミノルタ(株)製の色彩色差計「CR−5」を用いて、次の測定条件で色度(JIS Z 8781−4:2013に準拠)を測定した。
<測定条件>
観察条件:2°視野(CIE1931)
観察光源:C
表色系:L*a*b*色空間
色差式:ΔE*ab(CIE1976)色差式
インデックス:なし
測定タイプ:シャーレ測定
測定径Φ:30mm
(樹脂の溶媒への溶解性の確認)
下記合成例1に記載する樹脂粉体について、下記の方法で溶媒への溶解性を確認した。
30mLのガラス製スクリュー管に溶媒を9.9g量りとり、さらにマグネチックスターラーを入れて撹拌した。そこに樹脂粉体を0.1g加え、室温(24℃)で3時間撹拌し、溶解性を確認した。その結果、該樹脂粉体は、DMAcには溶解したが、メタノールとイオン交換水には溶解しなかった。したがって、DMAcは良溶媒であり、メタノールとイオン交換水は貧溶媒である。
(安息角の測定)
水平な基板の上に、一定の高さの漏斗からポリアミドイミド系樹脂粉体を、710μmの篩を通して落下させ、該基板上に円錐状に堆積したポリイミド系樹脂粉体の母線と基板表面とのなす角を安息角として測定した。
測定装置:パウダーテスターPT−X(ホソカワミクロン(株)製)
(ポリイミド系樹脂粉体の画像解析)
ポリイミド系樹脂粉体について、(株)キーエンス製のデジタルマイクロスコープ(VHX−2000)を用いて、100倍の倍率で光学顕微鏡像を取得した。画像サイズは1,600pixel×1,200pixel、画素サイズは2.2μm/pixelとした。得られた光学顕微鏡像をコンピューターに取り込み、画像解析ソフトImage Jを用いて画像処理を実施した。画像中における最大輝度及び最小輝度の中間値で二値化処理を行い、ポリイミド系樹脂粉体の粒子像に相当する領域とそれ以外の領域が分離できていることを目視で確認した。正確に解析ができるよう、二値化像にFill Holesを実施した。その後、画像の端部で切れているポリイミド系樹脂粉体の粒子を粒子解析から除外するために、Exclude on edgesの条件下でAnalyze Particlesを実行し、100個以上のポリイミド系樹脂粉体の粒子の周長、面積、及び重心の座標を算出した。得られた周長及び面積の平均値を算出し、それぞれポリイミド系樹脂粉体の粒子の平均周長(Aμm)及び平均面積(Bμm2)とした。
続いて、上記の処理を実施した画像をデータ解析ソフトIgor Proで読み込み、Image Analyze Particlesを実行し、ポリイミド系樹脂粉体の各粒子の表面の点(輪郭上の点)の座標を得た。重心の座標と表面の各点の座標から、各粒子の重心−表面間距離プロファイルを得た。重心−表面間距離プロファイルから、重心−表面間距離の平均値、つまり1つの粒子における円相当半径(Zc’μm)と1つの粒子における表面粗さ(Ra’μm)を算出した。その後、100個以上の粒子について得られた円相当半径(Zc’μm)及び表面粗さ(Ra’μm)の平均値を算出し、ポリイミド系樹脂粉体の粒子の平均円相当半径(Zcμm)及び粒子の表面粗さ(Raμm)とした。また、得られた結果から、粒子の表面粗さRaと平均円相当半径Zcの比(Ra/Zc)を算出した。
(ワニス作製時の凝集物の発生の評価(凝集性の評価))
[γ−ブチロラクトン(GBL)分散シリカゾルの作製]
反応容器内にメタノール分散シリカゾル(一次粒子径25nm、シリカ固形分30.5質量%)327.9部と、γ−ブチロラクトン(GBL)223.4部とを投入した。容器内温度を45℃とし、反応容器内の圧力を400hPaにして1時間維持し、次いで、反応容器内の圧力を250hPaにして1時間維持し、メタノールを蒸発させた。更に反応容器内の圧力を250hPaとし、容器内温度を70℃まで昇温して30分間加熱した。その結果、GBL分散シリカゾルを得た。得られたGBL分散シリカゾルの固形分は28.9質量%であった。
[ワニス溶液の作製]
反応容器中のγ−ブチロラクトンに、GBL分散シリカゾルと、紫外線吸収剤としてのSumisorb(登録商標) 340と、増白剤としてのSumiplast(登録商標) Violet Bとを加えて均一溶液としたのち、実施例1、2及び比較例で製造したポリアミドイミド樹脂粉体を流し入れ、それぞれ固形分が10.2%となるようにワニス溶液を調製した。
ポリアミドイミド樹脂とシリカの質量比は60:40であり、Sumisorb 340はポリアミドイミド樹脂とシリカの合計量を100部に対して、5.5部であった。Sumiplast Violet Bはポリアミドイミド樹脂とシリカの合計量に対して35ppmであった。
[凝集性の評価]
反応容器中のワニス溶液を別容器に移し替えた後、反応容器中の残存物の様子を目視で観察した。凝集性の評価を次の基準で評価した。
〇:ワニス溶液を反応容器から取り出した後、容器内に固形物が残存していなかった。
×:ワニス溶液を反応容器から取り出した後、容器内に固形物が残存していた。
(ポリイミド系樹脂粉体の溶解性の評価)
50mLの容積のガラス製スクリュー管に19.4gのDMAcを秤りとった。次に、DMAcをマグネチックスターラーで撹拌しながら、DMAc中にポリイミド系樹脂粉体0.6gを流し入れた。粉体混合後、1時間後の溶液の様子を次の評価基準で観察し、溶解性を評価した。
[溶解性の評価]
〇:溶液が透明であり、溶解性が良い。
×:溶液が透明でなく、溶解性が悪い。
[実施例1]
十分に乾燥させた撹拌機と温度計を備える反応容器に、窒素を導通させ、容器内を窒素で置換した。ジメチルアセトアミド(DMAc)1907.2部を容器に入れ、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)111.94部と4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDA)46.84部を加えて反応させた。
次いで、4,4’−オキシビス(ベンゾイルクロリド)(OBBC)10.37部とテレフタロイルクロリド(TPC)42.79部を加えて反応させた。
次いで、無水酢酸37.66部を加え、15分間撹拌した後、4−ピコリン11.45部を加え、反応容器を70℃に昇温し、さらに3時間撹拌し、反応液を得た。
反応液を冷却し40℃以下に下がったところで、回転数74.4rpm、先端速度2.92m/秒で撹拌翼(直径750mm)を回転させて反応液を撹拌しながら、該反応液に、メタノール3794.5部を滴下し、次いでイオン交換水を1419.4部滴下し、白色固体を析出させた。析出した白色固体を遠心ろ過により捕集し、メタノールで洗浄することにより、ポリアミドイミド樹脂を含むウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを減圧下、78℃で乾燥させることによりポリアミドイミド樹脂粉体(1)を得た。
[実施例2]
反応液にメタノール及びイオン交換水を滴下する際の撹拌翼の回転数を74.6rpm、先端速度2.93m/秒に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリアミドイミド樹脂粉体(2)を得た。
[比較例1]
十分に乾燥させた撹拌機と温度計を備える反応容器に、窒素を導通させ、容器内を窒素で置換した。DMAc1907.2部を容器に入れ、TFMB111.94部と6FDA46.82部を加え、撹拌した。
次いで、OBBC10.37部とTPC38.54部を加え、撹拌した。生成した反応液にDMAcを1907.2部、TPC4.3部を加え、更に撹拌した。
次いで、ジイソプロピルエチルアミン31.80部、及び無水酢酸75.32部を加え、30分間撹拌した後、4−ピコリン22.90部を加え、反応容器を75℃に昇温し、さらに3時間撹拌し、反応液を得た。
反応液を冷却し、40℃以下に下がったところで、回転数85rpm、先端速度3.78m/秒で撹拌翼(直径850mm)を回転させて反応液を撹拌しながら、該反応液に、メタノール5722.2部を滴下し、次いでイオン交換水を2861.7部滴下し、白色固体を析出させた。析出した白色固体を遠心ろ過により捕集し、メタノールで洗浄することにより、ポリアミドイミド樹脂を含むウェットケーキを得た。得られたウェットケーキを減圧下、78℃で乾燥させることによりポリアミドイミド樹脂粉体(3)を得た。
ポリアミドイミド樹脂粉体(1)〜(3)について、重量平均分子量、色度、安息角、樹脂粉体の画像解析による粒子の平均周長(Aμm)、平均面積(Bμm2)、Bに対するAの2乗の割合(A2/B)、表面粗さ(Raμm)、平均円相当半径(Zcμm)、Zcに対するRaの割合(Ra/Zc)を測定した。また、凝集性及び溶解性を上記の評価基準で評価した。得られた結果を表1及び表2に示す。
表1及び表2に示すように、先端速度3.40m/秒以下の条件で撹拌翼を回転させて反応液を撹拌しながらポリイミド系樹脂粉体を析出させて得た実施例1及び2のポリイミド系樹脂粉体では、安息角が37.0°以下、かつ、割合(A2/B)が14.0〜30.0となり、ワニスを調製する際に凝集しにくく、かつ、ワニスへの溶解性が高いポリイミド系樹脂粉体であることが確認された。一方、先端速度が3.40m/秒を越える3.78m/秒という条件で撹拌翼を回転させて反応液を撹拌しながらポリイミド系樹脂粉体を析出させて得た比較例1のポリイミド系樹脂粉体では、安息角が37.0°を越え、かつ、割合(A2/B)が30.0を越える結果となった。該ポリイミド系樹脂粉体は、ワニスへの溶解性は良好であったものの、ワニスを調製する際に凝集しやすい粉体であった。