JP2016104545A - 抗菌性物品 - Google Patents
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Abstract
Description
従来、各種物品に抗菌性を付与するためには、例えば光触媒材料や銀イオンが用いられている。例えば特許文献1には、室内空間のような微弱光下においても、高い防汚性と高い抗菌性及び抗ウイルス性とを両立させることを目的とした材料として、撥水性樹脂バインダーと、光触媒材料と、亜酸化銅とを含有し、前記光触媒材料と前記亜酸化銅とが複合化している撥水性光触媒組成物及びその塗膜が開示されている。
特許文献2には、バクテリア、ウイルス、細菌などを分解除去することができる材料として、光触媒活性を有するアパタイトを含む光触媒粉体を含有する組成物が開示されており、光触媒粉体は、表面がイガグリ形状であると、光触媒として機能する表面積が拡大し、微生物との接触効率がより向上すると記載されている。
また、特許文献3には、表層に抗菌物質を有する抗菌性ガラスであって、表層において、ガラス表面から深さ30μm以内に銀イオンの拡散層と、ガラス表面から深さ方向に厚み15μm以上の圧縮層とを有する抗菌性ガラスが開示されている。
一方で、特許文献4には、表面粗さ(Ra)0.2μm以上、最大粗さ(Rt)1μm以上、0.5μm以上の粗さ(Pc)5ケ/mm以上の表面粗さをもつプラスチックフィルムの表面の微細凹部に、1μm以下の粒径をもつ、銀を含む無機化合物を定着させることにより、抗菌性を有する無機化合物の剥離、脱落を抑制し、抗菌機能を長期間保持できると記載されている。
特許文献3や特許文献4に記載されるような、銀を含む抗菌性物質を用いた抗菌性物品は、抗菌性が不十分であり、更なる抗菌性の向上が求められている。また、銀を含む抗菌性物質を用いた抗菌性物品においては、金属アレルギーによる人体への影響等が懸念されている。
隣接する前記微小突起間の距離dの平均dAVGが90〜500nmであり、前記微小突起の高さHの平均HAVGと、前記微小突起間の距離dの平均dAVGとの比で規定される前記微小突起の平均アスペクト比(HAVG/dAVG)が1.0以上3.0未満であり、
前記微細凹凸層の表面における水の静的接触角が30°以下であることを特徴とする。
本明細書において「物品」は、「板」、「シート」、「フィルム」等の態様を含む概念である。
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
また、本発明において(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタアクリルの各々を表し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの各々を表し、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル又はメタクリロイルの各々を表す。
また、本発明において樹脂組成物の硬化物とは、化学反応を経て又は経ないで固化したもののことをいう。
隣接する前記微小突起間の距離dの平均dAVGが90〜500nmであり、前記微小突起の高さHの平均HAVGと、前記微小突起間の距離dの平均dAVGとの比で規定される前記微小突起の平均アスペクト比(HAVG/dAVG)が1.0以上3.0未満であり、
前記微細凹凸層の表面における水の静的接触角が30°以下であることを特徴とする。
図2は、本発明に係る抗菌性物品の別の一例を模式的に示す断面図である。図2に例示される抗菌性物品10’は、基材を有しない又は微細凹凸層2が基材と一体となっている。
一方で、本発明者らは、複数の微小突起が集合してなる微小突起群を備えた微小突起構造体を有する親水性の微細凹凸面は、付着した細菌の滅菌率が著しく高いことを知見した。細菌は、微細凹凸面と同様に親水性であることにより、微細凹凸面に濡れ広がって付着すると考えられる。また、細菌の大きさは一般的に約1μmであり、本発明の抗菌性物品の微細凹凸面における微小突起間の距離dの平均dAVGは90〜500nmであるため、前記dAVGに比べて細菌が十分に大きい。そのため、微細凹凸面に濡れ広がって付着した細菌の細胞膜に、複数の微小突起の先端部が食い込み、その結果、細菌の細胞膜が破れ、細菌は死滅すると考えられる。
また、本発明に係る抗菌性物品は、微小突起の高さHの平均HAVGと、微小突起間の距離dの平均dAVGとの比で規定される前記微小突起の平均アスペクト比(HAVG/dAVG)が1.0以上3.0未満である。これにより、微細凹凸面の表面積を十分に増大することができるため、微細凹凸面の親水性が強調され、細菌が微細凹凸面に濡れ広がって付着しやすいと考えられる。また、微小突起の平均アスペクト比が大きすぎないために、微小突起が倒れたり、互いに隣接する微小突起同士が付着するいわゆるスティッキングが生じにくいため、微細凹凸面の変形が抑制され、その結果、抗菌性が長期間維持されやすい。
さらに、本発明に係る抗菌性物品を構成する材料が、ギ酸やホルムアルデヒド等の滅菌ガスを発生するものである場合には、細菌は当該滅菌ガスによっても死滅すると考えられる。また、本発明に係る抗菌性物品に付着した細胞は、微細凹凸面に濡れ広がって付着することにより、滅菌ガスに晒される表面積が大きくなるため、滅菌ガスによる滅菌効果が発揮されやすいと考えられる。さらに、微細凹凸面が親水性であることにより、一般的環境における空気中の水分や、人体等との触接時に表面の水分と反応乃至相互作用し、微細凹凸面から滅菌ガスがより発生しやすくなると推定され、それによっても抗菌性が向上すると考えられる。
本発明に係る抗菌性物品は、複数の微小突起が密接して配置されてなる微小突起群を備えた微小突起構造体を表面に有し、樹脂組成物の硬化物からなる微細凹凸層を備える。
前記微小突起の形状は、優れた抗菌性を発揮し得る点から、前記微小突起の深さ方向と直交する水平面で切断したと仮定したときの水平断面内における当該微小突起を形成する材料部分の断面積占有率が、当該微小突起の頂部から最深部方向に近づくに従い連続的に漸次増加する構造を有していることが、好ましい。このような微小突起の形状の具体例としては、三角形状、半円状、半楕円状、放物線状、釣鐘状等の垂直断面形状を有するものが挙げられる。複数ある微小突起は同一の形状を有していても異なる形状を有していてもよい。
多峰性微小突起は、単峰性微小突起に比して、頂点近傍の寸法に対する裾の部分の太さが相対的に太く、さらに、外力をより多くの頂点で分散して受ける為、各頂点に加わる外力を低減し、微小突起を損傷し難いようにすることができると考えられる。よって、本発明においては、前記微小突起群の中に多峰性の微小突起を含むことにより、機械的強度及び耐擦傷性がさらに向上する。また仮に微小突起が損傷した場合でも、その損傷箇所の面積を低減することができ、これによっても抗菌性等の微細凹凸面により発揮される機能の局所的な劣化を低減し、さらに外観不良の発生を低減することができる。更に、多峰性の微小突起の半分程度は、最高峰高さ(麓が同じ微小突起に属する最も高い峰の高さ)が突起高さの平均値HAVG以上の微小突起に生じる為、外力を先ず各峰部分が受止めて犠牲的に損傷することによって、該微小突起の峰より低い本体部分、及び該多峰性の微小突起よりも高さの低い微小突起の損耗を防ぐ。これによっても抗菌性等の局所的な劣化を低減し、さらに外観不良の発生を低減することができる。
なお、本発明において、多峰性微小突起、単峰性微小突起に係る各頂部を形成する各凸部を、適宜、「峰」と称する。
図19は、多峰性微小突起の一例を示す平面視拡大写真である。
図20は、微小突起の形状の一例を示す斜視図であり、図21は、図20の例に示される微小突起の、平面図(図21(a))、正面図(図21(b))、及び側面図(図21(c))である。これら図20及び図21は、等高線図である。この図20及び図21による微小突起においては、高さの大きく異なる3つの峰が合体して1つの微小突起が形成されており、ほぼ中央より外方に向かって形成された3本の放射状の溝(沢状の極小部)によりこの3つの峰に係る領域に分割されて微小突起が作製されている。なおこの図20及び図21は、AFMによる計測結果によるデータを部分的に選択して詳細に示したものである。またこの図20及び図21における数字の単位はnmである。X座標及びY座標は、所定の基準位置からの座標値である。
図4に、複数の微小突起によって構成される凸状突起群の斜視図(図4(a))及び平面図(図4(b))を示す。図4に示す凸状突起群24は、相対的に高さの高い頂部微小突起3Cと、その周囲に隣接して配置された相対的に高さの低い複数の周辺微小突起3Dからなる。尚、図4(a)及び図4(b)は、理解を容易にするために模式的に示す図であり、xy方向は、微細凹凸層の面内方向であり、z方向は微小突起の高さ方向である。
なお、本発明において、前記頂部微小突起は、前記周辺微小突起よりも相対的に高さが高く、高さの差が10nm以上のものをいい、当該高さの差は、20nm以上であることが好ましい。また、前記高さの差は、微細凹凸層表面のざらつき感を抑える観点から、50nm以下であることが好ましい。
なお、前記凸状突起群には、前記周辺微小突起にのみ隣接し、且つ前記頂部微小突起よりも高さが低い微小突起は含まれない。また、凸状突起群同士が隣接して形成される場合において、周辺微小突起が互いに隣接する凸状突起群に共有される場合がある。
前記凸状突起群を構成する微小突起の個数の比率は、例えば、前記微細凹凸層の表面をSEM等により観察し、画像解析により存在を確認できた微小突起の個数のうち、凸状突起群を構成する微小突起の個数の割合を算出することにより、求めることができる。
図11は、図7の微細凹凸層の例における、微小突起の高さHの度数分布のヒストグラムである。図11の例では、微小突起の付け根位置を基準(高さ0)とする。図11の例では、平均値HAVG=178nm、標準偏差σ=30nmとなる。これによりこの例では、突起の高さは平均値HAVG=178nmとなる。
尚、アスペクト比とは、微小突起の高さHを谷底に於ける径W(幅乃至太さと言う事も出来る)で除した比、H/Wとして定義される。ここで、谷底に於ける径とは、微小突起の谷底近傍の形状が円柱であれば、該円柱の(底面の)直径と一致する。微小突起の谷底近傍形状が円柱では無く、谷底を連ねた仮想的平面と微小突起とが交差して得られる底面の径の大きさが面内方向によって異なる場合は、その最大値を該微小突起の径とする。例えば、微小突起の底面形状が楕円の場合は、径は其の長径となる。又、微小突起の底面形状が多角形の場合は、径はその最大の対角線長となる。本発明においては、前記微小突起構造体が有する複数の微小突起が密接して配置されてなるため、各微小突起のアスペクト比H/Wの平均値(H/W)aveは、平均突起高さHAVG/平均隣接突起間隔dAVGとみなすことができる。
図12は、微小突起高さに関する、低高度領域、中高度領域、高高度領域についての説明の用に供する、微小突起高さの度数分布の模式的なヒストグラムである。図12に示すように、微小突起の高さHの度数分布における高さの平均値をHAVEとし、標準偏差をσHとし、H<HAVE−σHの領域を微小突起の低高度領域とし、HAVE−σH≦H≦HAVE+σHの領域を中高度領域とし、HAVE+σH<Hの領域を高高度領域とした場合に、各領域内の多峰性微小突起の数Nmと、度数分布全体における多峰性微小突起及び単峰性微小突起の総数Ntとの比率が、以下の(a)、(b)の関係を満たすことが好ましい。
(a)中高度領域のNm/Nt>低高度領域のNm/Nt
(b)中高度領域のNm/Nt>高高度領域のNm/Nt
上記関係を満たすことにより、抗菌性物品の微細凹凸面の耐擦傷性を向上することができる。
ここで、微小突起の高さHの度数分布において、低高度領域は、H<HAVE−σH=123.6nmとなり、中高度領域は、HAVE−σH=123.6nm≦H≦HAVE+σH=167.8nmとなり、高高度領域は、H>HAVE+σH=167.8nmとなる。
度数分布全体の微小突起の総数Ntは、263個であり、その中で、中高度領域の多峰性微小突起の数Nmは、23個であるので、中高度領域のNm/Ntは、0.087となる。低高度領域の多峰性微小突起の数Nmは、2個であるので、低高度領域のNm/Ntは、0.008となる。高高度領域の多峰性微小突起の数Nmは、5個であるので、高高度領域のNm/Ntは、0.019となる。
従って、図17に示す例の抗菌性物品は、上述の(a)、(b)の関係、すなわち、
(a)中高度領域のNm/Nt=0.087>低高度領域のNm/Nt=0.008
(b)中高度領域のNm/Nt=0.087>高高度領域のNm/Nt=0.019
を満足する。
H<m1−σ1の領域を低高度領域とし、
m1−σ1≦H≦m1+σ1の領域を中高度領域とし、
m1+σ1<H<hsの領域を高高度領域とした場合に、
hs未満の分布における各領域内の前記多峰性微小突起の数Nm1と、前記度数分布全体における前記微小突起の総数Ntとの比率が、以下の(c)、(d)の関係を満たし、
(c)中高度領域のNm1/Nt>低高度領域のNm1/Nt
(d)中高度領域のNm1/Nt>高高度領域のNm1/Nt
且つ、hs以上の分布における前記微小突起の高さhの平均値をm2とし、標準偏差をσ2とし、
hs<H<m2−σ2の領域を低高度領域とし、
m2−σ2≦H≦m2+σ2の領域を中高度領域とし、
m2+σ2<Hの領域を高高度領域とした場合に、
hs以上の分布における各領域内の前記多峰性微小突起の数Nm2と、前記度数分布全体における前記微小突起の総数Ntとの比率が、以下の(e)、(f)の関係を満たすものであってもよい。
(e)中高度領域のNm2/Nt>低高度領域のNm2/Nt
(f)中高度領域のNm2/Nt>高高度領域のNm2/Nt
上記関係を満たすことにより、抗菌性物品の微細凹凸面の耐擦傷性を向上することができる。
また、図18に示す例においては、微小突起の高さhの度数分布において、低高度領域は、h<m−σ=138.5nmとなり、中高度領域は、m−σ=138.5nm≦h≦m+σ=252.9mとなり、高高度領域は、h>m+σ=252.9nmとなる。
度数分布全体の微小突起の総数Ntは、131個である。また、中高度領域の多峰性微小突起の数Nmは、21個であるので、中高度領域のNm/Ntは、0.160となる。低高度領域の多峰性微小突起の数Nmは、3個であるので、低高度領域のNm/Ntは、0.023となる。高高度領域の多峰性微小突起の数Nmは、0個であるので、高高度領域のNm/Ntは、0となる。
従って、図18に示す例においては、上述の(a)、(b)の関係、すなわち、
(a)中高度領域のNm/Nt=0.160>低高度領域のNm/Nt=0.023
(b)中高度領域のNm/Nt=0.160>高高度領域のNm/Nt=0
を満足する。
そのため、hs未満の分布の低高度領域は、h<m1−σ1=28.1nmとなり、中高度領域は、m1−σ1=28.1nm≦h≦m1+σ1=77.7nmとなり、高高度領域は、m1+σ1=77.7nm<h<hs=100nmとなる。
また、中高度領域の多峰性微小突起の数Nm1は、2個であるので、中高度領域のNm1/Ntは、0.015となる。低高度領域の多峰性微小突起の数Nm1は、0個であるので、低高度領域のNm1/Ntは、0となる。高高度領域の多峰性微小突起の数Nm1は、0個であるので、高高度領域のNm1/Ntは、0となる。
従って、図18に示す例の抗菌性物品は、hs未満の分布において、上記(c)、(d)の関係、すなわち、
(c) 中高度領域のNm1/Nt=0.015>低高度領域のNm1/Nt=0
(d) 中高度領域のNm1/Nt=0.015>高高度領域のNm1/Nt=0
の関係を満たす。
そのため、hs以上の分布の低高度領域は、hs=100nm≦h<m2−σ2=169.9nmとなり、中高度領域は、m2−σ2=169.9nm≦h≦m2+σ2=248.7nmとなり、高高度領域は、m+σ=248.7nm<hとなる。
また、中高度領域の多峰性微小突起の数Nm2は、19個であるので、中高度領域のNm2/Ntは、0.145となる。低高度領域の多峰性微小突起の数Nm2は、3個であるので、低高度領域のNm2/Ntは、0.023となる。高高度領域の多峰性微小突起の数Nm2は、0個であるので、高高度領域のNm2/Ntは、0となる。
従って、図18に示す例の抗菌性物品は、hs以上の分布においても、上記(e)、(f)の関係、すなわち、
(e) 中高度領域のNm2/Nt=0.145>低高度領域のNm2/Nt=0.023
(f) 中高度領域のNm2/Nt=0.145>高高度領域のNm2/Nt=0
の関係を満たす。
なお、本発明に係る抗菌性物品は、基材を有しないものであってもよく、また、微細凹凸層の材料と基材の材料が同じものであることにより、微細凹凸層と基材とが一体化したものであってもよい。この場合の微細凹凸層は当該基材の厚みに依存するため、特に限定されない。
本発明における微細凹凸層は、樹脂組成物の硬化物からなる。樹脂組成物は、特に限定されず、少なくとも樹脂を含み、必要に応じて重合開始剤等その他の成分を含有する。樹脂組成物には、1種類の樹脂のみが含まれるものも包含される。
前記樹脂としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート系、エポキシ系、ポリエステル系等の電離放射線硬化性樹脂、(メタ)アクリレート系、ウレタン系、エポキシ系、ポリシロキサン系等の熱硬化性樹脂、(メタ)アクリレート系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系等の熱可塑性樹脂等の各種材料及び各種硬化形態の賦型用樹脂等が挙げられる。なお、電離放射線とは、分子を重合させて硬化させ得るエネルギーを有する電磁波または荷電粒子を意味し、例えば、すべての紫外線(UV−A、UV−B、UV−C)、可視光線、ガンマー線、X線、電子線等が挙げられる。
このような親水性の樹脂組成物を用いて微細凹凸層を形成すると、微細凹凸面における純水の静的接触角は、平坦な硬化膜表面に比べて小さくなり、親水性になる又は親水性が強調されるため、微細凹凸面をより親水性にすることができ、抗菌性物品の抗菌性を向上することができる。
まず、微細凹凸層形成用の樹脂組成物を、2000mJ/cm2のエネルギーの紫外線を1分以上照射することにより十分に硬化させて、基材及び微細凹凸形状を有しない、厚さ1mm、幅5mm、長さ30mmの単膜とする。
次いで、25℃下、上記樹脂組成物の硬化物の長さ方向に10Hzで25gの周期的外力を加え、動的粘弾性を測定することにより、25℃における、E’、E”が求められる。測定装置としては、例えば、UBM製 Rheogel E4000を用いることができる。
微細凹凸形状の成形性及び機械的強度に優れる点から好適に用いられる電離放射線硬化性樹脂の中で、特に好ましく用いられる(メタ)アクリレートを含む樹脂組成物を例にとって、以下具体的に説明する。
(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基を1分子中に1個有する単官能(メタ)アクリレートであっても、(メタ)アクリロイル基を1分子中に2個以上有する多官能アクリレートであってもよく、単官能(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートとを併用するものであってもよい。中でも、前記樹脂組成物の硬化物が前記貯蔵弾性率(E’)とtanδを満たしやすく、硬度を高くする点からは、単官能(メタ)アクリレートに比べて多官能(メタ)アクリレートを多く含有することが好ましい。
中でも、微小突起構造体の硬度に優れ、親水性を有し、抗菌性物品の抗菌性が向上する点から、長鎖ポリエチレングリコールを有する多官能(メタ)アクリレート及びポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートから選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。
水酸基を有する多官能(メタ)アクリレート、水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート、長鎖ポリエチレングリコールを有する多官能(メタ)アクリレート及びポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートの合計含有量は、親水性の観点から、前記樹脂組成物の全固形分に対して、70〜99質量%であることが好ましく、75〜90質量%であることがより好ましい。
上記(メタ)アクリレートの硬化反応を開始又は促進させるために、必要に応じて光重合開始剤を適宜選択して用いても良い。光重合開始剤の具体例としては、例えば、ビスアシルフォスフィノキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フォスフィンオキサイド、フェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸エチル等が挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明においては、前記樹脂組成物中に帯電防止剤を含有することが好ましい。帯電防止剤を含有することにより、微細凹凸層表面に汚れが付着することを抑制することができ、また、拭取り時に汚れが落ちやすい。
帯電防止剤は、従来公知のものの中から適宜選択して用いることができる。帯電防止剤の具体例としては、例えば、4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、1級〜3級アミノ基等のカチオン性基を有する各種のカチオン性化合物、スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基、ホスホン酸塩基等のアニオン性基を有するアニオン性化合物、アミノ酸系、アミノ硫酸エステル系等の両性化合物、アミノアルコール系、グリセリン系、ポリエチレングリコール系等のノニオン性化合物、スズおよびチタンのアルコキシドのような有機金属化合物およびそれらのアセチルアセトナート塩のような金属キレート化合物等が挙げられる。中でも、カチオン性化合物が好ましく、3級アミノ基を有するカチオン性化合物がより好ましく、N,N−ジオクチル−1−オクタンアミン等のトリアルキルアミンであることが更により好ましい。
本発明において樹脂組成物は、塗工性などを付与する点から溶剤を用いてもよい。溶剤を用いる場合、当該溶剤は、組成物中の各成分とは反応せず、当該各成分を溶解乃至分散可能な溶剤の中から適宜選択して用いることができる。このような溶剤の具体例としては、例えば、ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGME)等のエーテル系溶剤、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化アルキル系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、およびジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶剤、シクロヘキサン等のアノン系溶剤、メタノール、エタノール、およびプロパノール等のアルコール系溶剤を例示することができるが、これらに限られるものではない。また、樹脂組成物に用いられる溶剤は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上の溶剤の混合溶剤でもよい。
本発明において用いられる微細凹凸層用の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更にその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、濡れ性調整のための界面活性剤、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、安定化剤、消泡剤、ハジキ防止剤、酸化防止剤、凝集防止剤、粘度調整剤、離型剤等が挙げられる。
本発明においては、前記微細凹凸層の表面における純水の静的接触角が30°以下であり、抗菌性が向上する点から、20°以下であることが好ましく、10°以下であることがより好ましい。
また、前記微小突起構造体の表面における純水の静的接触角は、特に限定はされないが、5.0°以上であることが好ましい。
まず、本発明に係る抗菌性物品を、微細凹凸面側を上面にして、粘着層つきの黒アクリル板に水平に貼り付ける。次いで、接触角を測定しようとする溶剤(純水)1.0μLの液滴を滴下し、着滴10秒後の静的接触角をθ/2法に従って計測する。測定装置は、例えば、協和界面科学社製 接触角計DM 500を用いて、測定することができる。
本発明に係る抗菌性物品は、支持体として基材を含むものであっても良い。本発明に用いられる基材は、用途に応じて適宜選択することができ、透明基材であっても、不透明基材であってもよく、特に限定されない。前記透明基材の材料としては、例えば、トリアセチルセルロース等のアセチルセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレンやポリメチルペンテン等のオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテルサルホンやポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー等の樹脂、ソーダ硝子、カリ硝子、無アルカリガラス、鉛ガラス等の硝子、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン(PLZT)等のセラミックス、石英、蛍石等の透明無機材料等が挙げられる。前記不透明基材の材料としては、例えば、金属、紙、木、及びこれらの複合材料、並びにこれらと前記透明基材の材料との複合材料等が挙げられる。
また、基材と微小突起構造体が一体となって形成される場合は、基材の材料としては、例えば、熱可塑性樹脂や前述した微細凹凸層形成用の樹脂組成物を用いることができる。
中でも、前記基材の材料としては、滅菌ガスを発生して抗菌性を向上する点から、樹脂が好ましく、中でもアセチルセルロース系樹脂が好ましく、トリアセチルセルロースが特に好ましい。
また、本発明に係る抗菌性物品をガラス部分へ設置する場合は、前記基材としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル系樹脂基材を用いることが、ガラス破損時の耐飛散性を付与する点から好ましい。
微細凹凸層が基材とは別の材料からなる場合は、基材と前記微細凹凸層との密着性を向上させ、ひいては耐摩耗性(耐傷性)を向上させるためのプライマー層を基材上に形成してもよい。このプライマー層は、基材として透明基材を用いる場合には、当該透明基材とプライマー層を介して隣接する微細凹凸層に密着性を有し、可視光を透過するものが好ましい。また透明基材と微細凹凸層の屈折率差により干渉ムラが出る場合にはプライマー層の屈折率を基材と微細凹凸層の中間の値に調整することでムラ軽減が可能である。
本発明に係る抗菌性物品を、例えば保護フィルム等のような透明部材として用いる場合には、前記基材としては透明基材を用いることが好ましい。また、本発明に係る抗菌性物品を、後から貼り付ける態様において用いる場合に、意匠性を妨げないようにするためにも、前記基材としては透明基材を用いることが好ましい。
本発明に係る抗菌性物品を5cm角となるように切り取った試験片を用いて、JIS Z2801(2010年版)に準拠して、各試験片の微細凹凸面に、例えば黄色ブドウ球菌、大腸菌等の細菌を有する所定菌液を0.4ml滴下し、その上をポリエチレンテレフタラートフィルムで密着するように覆い、当該各試験片を、培養器中で温度35℃、相対湿度90%、蛍光灯照射下で、48時間培養し、培養後の生菌数を測定する。また、これとは別に、未加工試料についての48時間培養後の生菌数、及び各試験片についての試験菌液接種直後の試験片の生菌数(試験前生菌数)も同様にして測定する。生菌数は、発光測定法により測定することができ、具体的には、それぞれの洗い出し液にATP抽出試薬を加え、細胞内から抽出したATPと発光試薬(ルシフェラーゼ)を反応させ、発光光度計によりその発光量を測定してATP濃度、さらに生菌数に換算することができる。このようにして測定された生菌数を用い、滅菌率は下記式により算出することができる。
滅菌率(%)=(試験前生菌数−48時間培養後生菌数)×100/試験前生菌数
すなわち、ホルムアルデヒドの濃度は、90volppb以上であることが好ましく、150volppb以上であることがより好ましく、200volppb以上であることが更により好ましい。また、ホルムアルデヒドの濃度は、特に限定はされないが、通常1000volppb以下である。
アセトアルデヒドの濃度は、80volppb以上であることが好ましく、150volppb以上であることがより好ましく、200volppb以上であることが更により好ましい。また、アセトアルデヒドの濃度は、特に限定はされないが、通常1000volppb以下である。
ギ酸の濃度は、150volppb以上であることが好ましく、200volppb以上であることがより好ましく、400volppb以上であることが更により好ましい。また、ギ酸の濃度は、特に限定はされないが、通常1000volppb以下である。
酢酸の濃度は、20volppb以上であることが好ましく、30volppb以上であることがより好ましく、40volppb以上であることが更により好ましい。また、酢酸の濃度は、特に限定はされないが、通常500volppb以下である。
本発明に係る抗菌性物品を0.210m×0.243mの大きさに切断したものを試験体として、温度28℃、相対湿度50%RH、換気回数0.5回/hの条件下において、評価面積1.53m2、試料負荷率76.5m2/m3とし、容積20Lのステンレス製チャンバーを用いて測定する。試料負荷率とは、単位容積内(m3)あたりに単位面積フィルム表面から拡散したガス濃度を求める際の負荷率(m2/m3)をいい、下記式により求めることができる。
試料負荷率(m2/m3)=(0.210m×0.243m)×30/0.020(m3)
ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒド等のアルデヒド類の濃度は、前記試験体を設置した前記チャンバーを、前記条件のもと高純度空気を通気させ、1日後の試験体から発生したアルデヒド類を、DNPH(2,4−ジニトロフェニルヒドラジン)カートリッジに捕集し、アセトニトリルで溶出を行い、高速液体クロマトグラフ(HPLC)で測定した値とする。
ギ酸及び酢酸等の有機酸の濃度は、前記試験体を設置した前記チャンバーを、前記条件のもと高純度空気を通気させ、1日後の試験体から発生したガスを、吸収液を充填したインピンジャーに捕集し、イオンクロマトグラフ(IC)で測定した値とする。
前記試験体から発生したホルムアルデヒド、アセトアルデヒド及びギ酸の気中濃度(volppb)は、以下の式により算出することができる。
気中濃度(volppb)=(気中濃度(g/m3)×((273+サンプリング時温度(℃))/273)×22.4)/分子量
なお、気中濃度(g/m3)は、以下の式により算出することができる。
・アルデヒド類:
気中濃度(g/m3)=液中濃度(g/mL)×溶出量(mL)/捕集量(m3)
・有機酸:
気中濃度(g/m3)=吸収液中の目的成分濃度(g/mL)× 吸収液量(mL)/捕集量(m3)
ガス検知管による有機酸の濃度分析は、前記小形チャンバー法と相関がよく、信頼できることが、例えば、佐野千絵、外2名、「展示ケース内有機酸の低減対策の評価法」、保存科学、東京文化財研究所、平成25年度、第53号、p.33〜43に記載されている。
本発明において、ガス検知管による有機酸の濃度分析は、北川式ガス検知管(光明理化学工業(株)製,美術館博物館用有機酸、No.910)を用いて、デシケータ(37.2L)内に試料負荷率3.3(m2/m3)となるように抗菌性止物品をセットし、吸引流量0.2L/分、60分間吸引として行われる。
本発明に係る抗菌性物品は、抗菌性の付与が求められるあらゆる用途に用いることができ、特に限定されない。本発明に係る抗菌性物品が抗菌性を発揮し得る用途としては、例えば、エアコン、空気清浄機等の空調機器;冷蔵庫、洗濯機、電話機、掃除機等の家電製品;電子レンジ、炊飯器等の調理用機器;医療機器等の医療設備;学校設備の事務用機器及びその他の電子機器等が挙げられ、具体的には例えば、これら各種機器に内蔵される抗菌フィルター、及びこれら各種物品が備える電子表示部やタッチパネル等の表示画面の保護フィルム、並びに窓ガラス用フィルム等を挙げることができる。また、本発明に係る抗菌性物品は、使い捨て用として好適に用いることができる。また、本発明に係る抗菌性物品は、滅菌率が高く、抗菌性に優れるため、中でも医療設備用途として好適に用いることができる。
本発明に係る抗菌性物品の製造方法は、前記微細凹凸層を形成できる方法であれば特に限定されない。例えば、透明基材上に微細凹凸層用樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し、前記樹脂組成物の塗膜に、所望の微小突起構造体の形状を反転した凹凸形状を有する微小突起構造体形成用原版の該凹凸形状を賦型した後、前記樹脂組成物を硬化させ、前記微小突起構造体形成用原版を剥離することにより、微小突起構造体を表面に有する微細凹凸層を形成する方法等が挙げられる。
なお、微小突起構造体形成用原版の凹凸形状とは、多数の微小孔が密に形成されたものであり、微小突起構造体が備える微小突起群の形状に対応する形状である。
また、微小突起構造体形成用原版の凹凸形状を微細凹凸層用樹脂組成物に賦型し、該樹脂組成物を硬化させる方法は、樹脂組成物の種類等に応じて適宜選択することができる。
前記微小突起構造体形成用原版の微細凹凸形状を有する面は、特に限定されないが、酸化されやすく、陽極酸化による加工が容易である点から、アルミニウムからなることが好ましい。
前記微小突起構造体形成用原版は、具体的には、例えば、ステンレス鋼、銅、アルミニウム等の金属製の母材の表面に、直接に又は他の層を介して、スパッタリング等により純度の高いアルミニウム層が設けられ、当該アルミニウム層に微細凹凸形状を形成したものが挙げられる。前記母材は、前記アルミニウム層を設ける前に、電解溶出作用と、砥粒による擦過作用の複合による電解複合研磨法によって母材の表面を超鏡面化しても良い。アルミニウム純度は、通常、99重量%以上の物が用いられる。
また、前記微小突起構造体形成用原版の形状としては、所望の形状を賦型することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、平板状であっても良く、ロール(中空円筒又は中実円柱)状であっても良いが、前記微小突起構造体形成用原版は、生産性向上の観点からは、ロール状の金型(以下、「ロール金型」と称する場合がある。)を用いることが好ましい。
本発明において用いられるロール金型としては、例えば、母材として、円筒形状の金属材料を用い、当該母材の周側面に、直接に又は各種の中間層を介して設けられたアルミニウム層に、上述したように、陽極酸化処理、エッチング処理の繰り返しにより、微細な凹凸形状が作製されたものが挙げられる。
前記微小突起構造体形成用原版に微細凹凸形状を形成する方法としては、例えば、陽極酸化法によって前記アルミニウム層の表面に複数の微細穴を形成する陽極酸化工程と、前記アルミニウム層をエッチングすることにより前記微細穴の開口部にテーパー形状を形成する第1エッチング工程と、前記アルミニウム層を前記第1エッチング工程のエッチングレートよりも高いエッチングレートでエッチングすることにより前記微細穴の穴径を拡大する第2エッチング工程とを順次繰り返し実施することによって形成することができる。即ち、図13に示すように、陽極酸化工程A1、…、AN、エッチング工程E1、…、ENを交互に繰り返して母材を処理し、ロール金型を作製する。
微細凹凸形状を形成する際には、アルミニウム層の純度(不純物量)や結晶粒径、陽極酸化処理及び/又はエッチング処理の諸条件を適宜調整することによって、所望の形状とすることができる。前記陽極酸化処理において、より具体的には、液温、印加する電圧、陽極酸化に供する時間等の管理により、微細な穴をそれぞれ目的とする深さ及び微小突起形状に対応する形状に作製することができる。
このようにして、前記微小突起構造体形成用原版は、深さ方向に徐々に穴径が小さくなる多数の微細穴が密に作製される。当該微小突起構造体形成用原版を用いて製造される微細凹凸層には、前記微細穴に対応して、頂部に近付くに従って徐々に径が小さくなる微小突起群を備えた微細凹凸が形成され、すなわち、当該微細凹凸の深さ方向と直交する水平面で切断したと仮定したときの水平断面内における当該微細凹凸を形成する材料部分の断面積占有率が、当該微細凹凸の頂部から最深部方向に近づくに従い連続的に漸次増加する微細凹凸形状が形成される。
次に、多峰性微小突起を形成し、また、微小突起の高さの分布が制御された微細な穴が形成される方法について説明する。上述したように、賦型用金型(ロール版)に形成される微細穴は、陽極酸化処理及びエッチング処理の交互の繰り返しによって形成されるが、この繰り返しの陽極酸化処理における印加電圧を可変することによって、微細穴の深さ(微小突起の高さ分布)を制御することができる。ここで、陽極酸化処理における印加電圧と、形成される微細穴の間隔(ピッチ)とは、比例する関係にあるため、陽極酸化処理、エッチング処理の繰り返しにおいて、陽極酸化処理の印加電圧を可変すれば、深さ方向に掘り進める時間が相違する微細穴を混在させてその比率を制御することができる。
上述したように、陽極酸化処理における印加電圧と、微細穴のピッチとの関係は比例関係であるが、実際上、処理に供するアルミニウムの粒界等により微細穴のピッチにはばらつきが生じる。しかし、図14においては、このばらつきが存在しないものとして、微細穴が規則正しい配列により作製されるものとして説明する。なお、図14(a)〜図14(e)において、左側の図は、ロール金型の表面の拡大図を示し、右側の図は、左側の図におけるa−a断面図を示す。
図14(a)に示すように、まず、賦型用金型の表面のアルミニウム層に、電圧V1を印加して陽極酸化工程A1を実行した後に、エッチング工程E1を実行し、微細穴f1を形成する。ここで、陽極酸化工程A1は、アルミニウムのフラット面に後続する陽極酸化処理のきっかけを作製するものである。なお、この場合、エッチング工程を適宜省略してもよい。
次に、電圧V1よりも高い電圧V2(V2>V1)を印加して陽極酸化工程A2を実行した後に、エッチング工程E2を実行する。これにより、陽極酸化工程A2では、図14(b)に示すように、先の陽極酸化工程A1により形成された微細穴f1のうち、陽極酸化工程A2に対応する間隔の微細穴f1を更に掘り下げる。
本実施形態では、陽極酸化工程A2によって、先の陽極酸化工程A1で形成された微細穴f1を二つ置きに掘り進める処理が行われる。従って、賦型用金型の表面には、二つ置きに広くかつ深く掘り下げられた微細穴f2が形成され、ロール版の表面には、微細穴f1と微細穴f2とが混在する状態となる。
続いて、電圧V2よりも高い電圧V3(V3>V2)を印加して陽極酸化工程A3を実行した後に、エッチング工程E3を実行する。この工程では、ピッチの異なる微細穴を作製する。具体的には、印加する電圧を、電圧V2から電圧V3へ徐々に上昇させ、この印加電圧の上昇を離散的(段階的)に実行すると、微小突起の高さ分布(微細穴の深さ分布)を離散的に作製することができ、この印加電圧の上昇を連続的に実行すると、微小突起の高さ分布を正規分布に設定することができる。そのため、本実施形態では、陽極酸化工程A3における印加電圧の印加時間、エッチング工程の処理時間を上述の第1の工程、第2の工程よりも長く設定することにより、図14(c)に示すように、最初の陽極酸化工程A1において形成された微細穴f1が二つ、一つに纏まるように広くかつ深く掘り進められ、また、その一つに纏められた微細穴f3の底面が略平坦に形成される(平坦微細穴形成工程)。ここで、略平坦とは、微細穴の底面が平坦な状態だけでなく、その底面が大きい曲率半径で湾曲している状態をも含む状態をいう。
続いて、電圧V3よりも高い電圧V4(V4>V3)を印加して陽極酸化工程A4を実行した後に、エッチング工程E4を実行する。この工程では、目的とする突起間間隔によるピッチにより微細穴を作成する。この陽極酸化工程A4においても、印加電圧は、電圧V3から電圧V4へ徐々に上昇させる。これにより、上記第3の工程により掘り進められた微細穴f3の一部が更に掘り進められ、その結果、図14(d)に示すように、微細穴f4となり、この微細穴f4が高さの高い単峰性微小突起を形成する。
続いて、印加電圧を上記第1の工程における電圧V1に変更して陽極酸化工程A5を実行した後に、エッチング工程E5を実行する。この工程では、陽極酸化工程A3において形成された微細穴f3であって、第4の工程の陽極酸化工程A4の影響を受けていない微細穴f3の底面に、図14(e)に示すように、微細穴を複数個形成し、多峰性微小突起に対応する微細穴f5を形成する(多峰突起用微細穴形成工程)。ここで、印加する電圧V1の大きさを調整することによって、微細穴f5の底面に形成される微細穴の数を増減したり、その微細穴の間隔を調整したりすることができる。
ここで、この一連の工程では、第1の工程及び第2の工程により作製された深さの異なる微細穴f1、f2を、第3の工程で掘り進めて底面の略平坦な微細穴f3を作製し、第4の工程において、この微細穴f3を掘り進めて単峰性微小突起に係る微細穴f4を作製し、また、第5の工程において、この微細穴f3の底面を加工して多峰性微小突起に係る微細穴f5を作製している。ここで、第1の工程から第4の工程に係る陽極酸化工程の印加時間、処理時間、エッチング工程の処理時間等を制御して、各工程で作製される微細穴の深さを制御することにより、微小突起の高さの分布や、多峰性微小突起の高さの分布を制御することができる。なお、上述の第1の工程〜第5の工程は、必要に応じて回数を省略したり、繰り返したり、工程を一体化したりすることができる。
ここで図15(a)に示すように、第1の工程において、先ず、賦型用金型の表面のアルミニウム層に、電圧V1を印加して陽極酸化工程A1を実行した後に、エッチング工程E1を実行し、微細な穴f1を形成する。ここで、陽極酸化工程A1は、アルミニウムのフラット面に後続する陽極酸化処理のきっかけを作製するものである。なお、この場合、エッチング工程を適宜省略してもよい。
次に、電圧V1よりも高い電圧V2(V2>V1)を印加して陽極酸化工程A2を実行した後に、エッチング工程E2を実行する。これにより、陽極酸化工程A2では、図15(b)に示すように、先の陽極酸化工程A1により形成された微細な穴f1のうち、陽極酸化工程A2に対応する間隔の微細な穴f1を更に掘り下げる。
続いて、電圧V1と電圧V2の間の電圧V3(V2>V3>V1)を印加して陽極酸化工程A3を実行した後に、エッチング工程E3を実行する。この工程では、ピッチの異なる微細な穴を作製する。具体的には、印加する電圧を、電圧V3として、縦横に面内に配列した微細な穴f2の間に存在する図示の如くの特定の微細な穴f1を一つ置きに広く且つ深く掘り下げる。ここで印加電圧V3をV3=(V1)1/2に設定すると、陽極酸化工程A3における印加電圧の印加時間、エッチング工程の処理時間を上述の第1の工程よりも長く設定することにより、図15(c)に示すように、最初の陽極酸化工程A1において形成された微細な穴f1のうち、4個の微細な穴f2で囲まれる最小の四角形の中心に位置する微細な穴f1が選択的に深く掘り下げられる。且つ同時に、第2の陽極酸化工程A2形成された微細な穴f2のうちで図15(c)で図示される位置関係に有る一部のものが更に掘り下げられ、微細な穴f3となる。
図6に示す方法では、樹脂供給工程において、帯状フィルム形態の透明基材45に、ダイ41により微細凹凸層形成用の樹脂組成物を塗布し、微小突起形状を受容する受容層46を形成する。樹脂組成物の塗布方法については、ダイ41による場合に限らず、各種の手法を適用することができる。続いて、押圧ローラ43により、微小突起構造体形成用原版であるロール金型42の周側面に透明基材を加圧押圧し、これにより透明基材に受容層46を密着させると共に、ロール金型42の周側面に作製された微細な凹凸形状の凹部に、受容層46を構成する樹脂組成物を充分に充填する。この状態で、紫外線の照射により樹脂組成物を硬化させ、これにより透明基材表面に微細凹凸層を作製する。続いて剥離ローラ44を介してロール金型42から、硬化した微細凹凸層と一体に透明基材を剥離する。必要に応じてこの透明基材に粘着層等を作製した後、所望の大きさに切断して抗菌性物品10が得られる。このように、ロール材による長尺の透明基材45上の樹脂組成物の硬化物に、微小突起構造体形成用原版であるロール金型42の周側面に作製された微細凹凸形状を順次賦型することにより、本発明に係る抗菌性物品を効率良く大量生産することができる。
(微小突起構造体形成用原版Aの作製)
純度99.50%の圧延されたアルミニウム板を、その表面が、十点平均粗さRz30nm、且つ周期1μmの凹凸形状となるように研磨後、0.02Mシュウ酸水溶液の電解液中で、印加電圧30V、20℃の条件にて160秒間、陽極酸化工程A1を実施した。次に、濃度1.8mol/L(18質量%)のリン酸水溶液で35℃の条件で600秒間エッチング工程E1を行い、第1の工程とした。次に、第2の工程として、印加電圧40V、20℃の条件にて120秒間、陽極酸化工程A2を実施した後、濃度1.8mol/L(18質量%)のリン酸水溶液で35℃の条件で500秒間エッチング工程E2を行った。続いて、第3の工程として、印加電圧30V、20℃の条件にて90秒間、陽極酸化工程A3を実施した後、濃度1.8mol/L(18質量%)のリン酸水溶液で35℃の条件で600秒間エッチング工程E3を行った。最後に、フッ素系離型剤を塗布し、余分な離型剤を洗浄することで、微小突起構造体形成用原版Aを得た。得られた微小突起構造体形成用原版Aのアルミニウム層に形成された微細な凹凸形状は、平均間隔が90nmで、深さ方向に徐々に孔径が小さくなる多数の微細孔が密に形成された形状であった。
前記微小突起構造体形成用原版Aの作製において、第1の工程での陽極酸化工程A1における印加電圧を40V、エッチング工程E1におけるエッチング時間を700秒とし、第2の工程での陽極酸化工程A2における印加電圧を45V、エッチング工程E2におけるエッチング時間を600秒とし、第3の工程での陽極酸化工程A3における印加電圧を50V、エッチング工程E3におけるエッチング時間を600秒とし、続いて、第4の工程として、印加電圧53V、20℃の条件にて60秒間、陽極酸化工程A4を実施した後、濃度1.8mol/L(18質量%)のリン酸水溶液で35℃の条件で300秒間エッチング工程E4を行った。続いて、第5の工程として、印加電圧40V、20℃の条件にて60秒間、陽極酸化工程A5を実施した後、濃度1.8mol/L(18質量%)のリン酸水溶液で35℃の条件で600秒間エッチング工程E5を行ったこと以外は、前記微小突起構造体形成用原版Aと同様にして、微小突起構造体形成用原版Bを得た。得られた微小突起構造体形成用原版Aのアルミニウム層に形成された微細な凹凸形状は、平均間隔が150nmで、深さ方向に徐々に孔径が小さくなる多数の微細孔が密に形成された形状であった。
前記微小突起構造体形成用原版Bの作製において、第1の工程での陽極酸化工程A1における印加電圧を40V、エッチング工程E1におけるエッチング時間を900秒とし、第2の工程での陽極酸化工程A2における印加電圧を50V、エッチング工程E2おけるエッチング時間を800秒とし、第3の工程での陽極酸化工程A3における印加電圧を60V、エッチング工程E3おけるエッチング時間を700秒とし、第4の工程での陽極酸化工程A4における印加電圧を65V、エッチング工程E4おけるエッチング時間を400秒とし、第5の工程での陽極酸化工程A5における印加電圧を40V、エッチング工程E5おけるエッチング時間を600秒としたこと以外は、前記微小突起構造体形成用原版Bと同様にして、微小突起構造体形成用原版Cを得た。得られた微小突起構造体形成用原版Aのアルミニウム層に形成された微細な凹凸形状は、平均間隔が200nmで、深さ方向に徐々に孔径が小さくなる多数の微細孔が密に形成された形状であった。
前記微小突起構造体形成用原版Bの作製において、第1の工程での陽極酸化工程A1における印加電圧を50V、エッチング工程E1におけるエッチング時間を1100秒とし、第2の工程での陽極酸化工程A2における印加電圧を70V、エッチング工程E2におけるエッチング時間を950秒とし、第3の工程での陽極酸化工程A3における印加電圧を80V、エッチング工程E3におけるエッチング時間を800秒とし、第4の工程での陽極酸化工程A4における印加電圧を90V、エッチング工程E4におけるエッチング時間を600秒とし、第5の工程での陽極酸化工程A5における印加電圧を50V、エッチング工程E5におけるエッチング時間を600秒としたこと以外は、前記微小突起構造体形成用原版Bと同様にして、微小突起構造体形成用原版Dを得た。得られた微小突起構造体形成用原版Aのアルミニウム層に形成された微細な凹凸形状は、平均間隔が300nmで、深さ方向に徐々に孔径が小さくなる多数の微細孔が密に形成された形状であった。
前記微小突起構造体形成用原版Bの作製において、第1の工程での陽極酸化工程A1における印加電圧を55V、エッチング工程E1におけるエッチング時間を1000秒とし、第2の工程での陽極酸化工程A2における印加電圧を75V、エッチング工程E2におけるエッチング時間を900秒とし、第3の工程での陽極酸化工程A3における印加電圧を100V、エッチング工程E3におけるエッチング時間を750秒とし、第4の工程での陽極酸化工程A4における印加電圧を120V、エッチング工程E4におけるエッチング時間を4:500秒とし、第5の工程での陽極酸化工程A5における印加電圧を60V、エッチング工程E5におけるエッチング時間を600秒としたこと以外は、前記微小突起構造体形成用原版Bと同様にして、微小突起構造体形成用原版Eを得た。得られた微小突起構造体形成用原版Aのアルミニウム層に形成された微細な凹凸形状は、平均間隔が500nmで、深さ方向に徐々に孔径が小さくなる多数の微細孔が密に形成された形状であった。
下記成分を酢酸エチル200質量部に溶解し、微細凹凸層用樹脂組成物Aを調製した。
<微細凹凸層形成用樹脂組成物Aの組成>
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)23質量部
アロニックスM−260(東亜合成社製、ポリエチレングリコールジアクリレート)72質量部
ヒドロキシエチルアクリレート5質量部
光開始剤(ルシリンTPO、BASF社製)3質量部
下記成分を酢酸エチル200質量部に溶解し、微細凹凸層用樹脂組成物Bを調製した。
<微細凹凸層層形成用樹脂組成物Bの組成>
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)23質量部
アロニックスM−260(東亜合成社製、ポリエチレングリコールジアクリレート)72質量部
ヒドロキシエチルアクリレート5質量部
光開始剤(ルシリンTPO、BASF社製)3質量部
ナノ銀分散液(型番634−20921、京都ナノケミカル(株)製)1質量部
微細凹凸層形成用樹脂組成物Aを、上記微小突起構造体形成用原版Aの表面を覆うようにして、厚さ20μmとなるように塗布、充填し、その上に透明基材として厚さ50μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士フィルム社製、型番:TD80ULN)を斜めから貼り合わせた後、貼り合わせられた貼合体をゴムローラーで10N/cm2の加重で圧着した。微小突起構造体形成用原版A全体に均一な組成物が塗布されたことを確認し、透明基材側から2000mJ/cm2のエネルギーで紫外線を照射して微細凹凸層形成用樹脂組成物Aを硬化させて微小突起構造体を有する微細凹凸層を透明基材上に作製した。その後、微細凹凸層形成用樹脂組成物Aの硬化物としての微細凹凸層を透明基材とともに、微小突起構造体形成用原版Aより剥離することにより、実施例1の抗菌性物品を得た。得られた抗菌性物品が有する微小突起構造体は、微小突起間の距離の平均dAVGが90nmであり、微小突起の平均高さHAVGが90nmであり、全微小突起中における多峰性微小突起の個数の比率は80%であった。
実施例1において、微小突起構造体形成用原版Aに代えて、微小突起構造体形成用原版Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の抗菌性物品を得た。得られた抗菌性物品が有する微小突起構造体は、微小突起間の距離の平均dAVGが150nmであり、微小突起の平均高さHAVGが180nmであり、全微小突起中における多峰性微小突起の個数の比率は82%であった。
実施例1において、微小突起構造体形成用原版Aに代えて、微小突起構造体形成用原版Cを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の抗菌性物品を得た。得られた抗菌性物品が有する微小突起構造体は、微小突起間の距離の平均dAVGが200nmであり、微小突起の平均高さHAVGが585nmであり、全微小突起中における多峰性微小突起の個数の比率は85%であった。
実施例1において、微小突起構造体形成用原版Aに代えて、微小突起構造体形成用原版Dを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の抗菌性物品を得た。得られた抗菌性物品が有する微小突起構造体は、微小突起間の距離の平均dAVGが300nmであり、微小突起の平均高さHAVGが6600nmであり、全微小突起中における多峰性微小突起の個数の比率は83%であった。
実施例1において、微小突起構造体形成用原版Aに代えて、微小突起構造体形成用原版Eを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5の抗菌性物品を得た。得られた抗菌性物品が有する微小突起構造体は、微小突起間の距離の平均dAVGが500nmであり、微小突起の平均高さHAVGが600nmであり、全微小突起中における多峰性微小突起の個数の比率は82%であった。
PETフィルム(東洋紡(株)製、型番:A4100)を比較例1の比較物品とした。
実施例1において、微小突起構造体形成用原版Aに代えて平版を用い、微細凹凸層形成用樹脂組成物Aに代えて微細凹凸層形成用樹脂組成物Bを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の比較物品を得た。得られた比較物品の表面は、微小突起構造体を有さず、平坦面であった。
<接触角の測定>
(微細凹凸層形成用樹脂組成物の平坦な硬化膜表面における純水の静的接触角)
PETフィルム上に微細凹凸層形成用樹脂組成物A、Bをそれぞれ塗布して硬化させて、微小突起構造体を有しない平坦な塗膜を形成した。当該塗膜側表面を上面にして、粘着層つきの黒アクリル板に貼り付けたものの上に、純水1.0μLの液滴を滴下し、着滴10秒後の純水の静的接触角を計測した。また、比較例1で用いた平坦なPETフィルムの一方の面における純水の接触角を測定した。なお、測定装置は協和界面科学社製 接触角計DM 500を用いて、θ/2法に従って静的接触角を測定した。測定結果を表1に示す。
各実施例で得られた抗菌性物品は微細凹凸面を、比較例1の比較物品は一方の面、比較例2の比較物品は樹脂組成物を塗布、硬化させた面を上面にして黒アクリル板に貼り付け、上記の微細凹凸層形成用樹脂組成物の平坦な硬化膜表面と同様にして、純水の静的接触角を測定した。測定結果を表1に示す。
微細凹凸層形成用樹脂組成物A、Bをそれぞれ2000mJ/cm2のエネルギーの紫外線を1分以上照射することにより十分に硬化させて、微小突起構造体を有しない、厚さ1mm、幅5mm、長さ30mmの試験用単膜A、Bをそれぞれ得た。
次いで、JIS K7244に準拠し、25℃下、上記樹脂組成物の硬化物の長さ方向に10Hzで25gの周期的外力を加え、動的粘弾性を測定することにより、25℃における、貯蔵弾性率E’、及び損失弾性率E”を求めた。また、当該E’及びE”の結果からtanδを算出した。測定装置はUBM製 Rheogel E4000を用いた。測定結果を表1に示す。
実施例2で得られた抗菌性物品を0.210m×0.243mの大きさに切断したものを試験体として、小形チャンバー法(JISA1901)により、以下の方法で、アルデヒド類並びに有機酸及びアンモニアの気中濃度を測定した。
測定は、温度28℃、相対湿度50%RH、換気回数0.5回/hの条件下において行い、評価面積1.53m2、試料負荷率76.5m2/m3とし、容積20Lのステンレス製チャンバーを用いて、試験体30枚について測定した。本実施例における試料負荷率は、下記式により求めた。
試料負荷率(m2/m3)=(0.210m×0.243m)×30/0.020(m3)
試験体30枚を容積20Lのステンレス製チャンバーに設置し、上記条件のもと高純度空気を通気させ、1日後の試料から発生したアルデヒド類をDNPH(2,4−ジニトロフェニルヒドラジン)カートリッジに捕集した。DNPHカートリッジはアセトニトリルで溶出を行い、アルデヒド類の濃度を高速液体クロマトグラフ(HPLC)で測定した。サンプリング方法の概略図を図16に示す。
試験体30枚を容積20Lのステンレス製チャンバーに設置し、上記条件のもと高純度空気を通気させ、1日後の試料から発生したガスを、吸収液を充填したインピンジャーに捕集した。サンプリング後の吸収液に捕集された有機酸及びアンモニアの濃度はイオンクロマトグラフ(IC)で測定した。サンプリング方法の概略図を図16に示す。
前記で測定したホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ギ酸、酢酸及びアンモニアについて、気中濃度(volppb)を以下の式により算出した。
気中濃度(volppb)=(気中濃度(g/m3)×((273+サンプリング時温度(℃))/273)×22.4)/分子量
なお、気中濃度(g/m3)は、以下の式により算出した。
・アルデヒド類:
気中濃度(g/m3)=液中濃度(g/mL)×溶出量(mL)/捕集量(m3)
・有機酸、アンモニア:
気中濃度(g/m3)=吸収液中の目的成分濃度(g/mL)× 吸収液量(mL)/捕集量(m3)
各成分の気中濃度の定量には標品を用いた。なお、定量下限値はホルムアルデヒド1.1volppb、アセトアルデヒド0.71volppb、ギ酸6volppb、酢酸5volppb、アンモニア14volppbとした。
また、IC測定で検出されたギ酸イオン(HCOO−)をギ酸、酢酸イオン(CH3COO−)を酢酸、アンモニウムイオン(NH4+)をアンモニアに換算し、算出した。
実施例2で得られた抗菌性物品を試験体としたときの各ガスの気中濃度は、ホルムアルデヒドが285volppbであり、アセトアルデヒドが240volppbであり、ギ酸が450volppbであり、酢酸が50volppbであり、アンモニアが<14(定量下限値未満)volppbであった。
各実施例及び各比較例で得られた抗菌性物品について、前記小形チャンバー法よりも簡易に測定可能な以下の方法により有機酸濃度を測定した。なお、当該方法は、前記小形チャンバー法と相関がよく、信頼できることが、例えば、佐野千絵、外2名、「展示ケース内有機酸の低減対策の評価法」、保存科学、東京文化財研究所、平成25年度、第53号、p.33〜43に記載されている。
ガス検知管による有機酸の濃度分析では、北川式ガス検知管(光明理化学工業(株)製、美術館博物館用有機酸、No.910)を用いて、デシケータ(37.2L)内に試料負荷率3.3(m2/m3)となるように抗菌性物品をセットし、有機酸濃度を測定した。吸引流量0.2L/分、60分間吸引とし、10ppb以上を計測値とした。測定結果を表1に示す。
各実施例で得られた抗菌性物品及び各比較例で得られた比較物品を、5cm角となるように切り取り試験片を得た。JIS Z2801(2010年版)に準拠して、各実施例の各試験片の微細凹凸面、比較例1においては一方の面、比較例2においては樹脂組成物を塗布、硬化させた面にそれぞれ黄色ブドウ球菌を有する所定菌液を0.4ml滴下し、その上をポリエチレンテレフタラートフィルムで密着するように覆った。当該各試験片を、培養器中で温度35℃、相対湿度90%、蛍光灯照射下で、48時間培養し、培養後の生菌数を測定した。さらに、各物品について、試験菌液接種直後の試験片の生菌数(試験前生菌数)も測定した。なお、生菌数は、発光測定法により測定した。具体的には、それぞれの洗い出し液にATP抽出試薬を加え、細胞内から抽出したATPと発光試薬(ルシフェラーゼ)を反応させ、発光光度計によりその発光量を測定してATP濃度、さらに生菌数に換算した。各測定値から、下記式により算出した抗菌活性値を表1に示す。
抗菌活性値=log(未加工試料の培養後生菌数)−log(抗菌性物品又は比較物品の培養後生菌数)
なお、未加工試料の生菌数は、比較例1の比較物品(東洋紡(株)製、A4100のPETフィルム)における培養後の生菌数とした。
抗菌活性値の対数値が2.0以上であれば、抗菌効果があるものとして判断される。
また、黄色ブドウ球菌の滅菌率を下記式により算出した。算出結果を表1に示す。
滅菌率(%)=(試験前生菌数−48時間培養後生菌数)×100/試験前生菌数
さらに、上記と同様にして、黄色ブドウ球菌に代えて大腸菌を用い、抗菌活性値及び滅菌率を求めた。結果を表1に示す。
各実施例で得られた抗菌性物品及び各比較例で得られた比較物品に対して、耐スチールウール性評価を行うことにより、各物品の耐擦傷性について評価を行った。
すなわち、まず、先端径がφ11.3mmである耐スチールウール性評価用治具に、スチールウール#0000(ボンスターポンド製)を取り付け、次に、各実施例の抗菌性物品においては微細凹凸面、比較例1の比較物品においては一方の面、比較例2の比較物品においては樹脂組成物を塗布、硬化させた面が上側を向くようにガラス板にサンプルを置き、エアーが入らないよう注意しながら、その四辺のテープ留めを行った。上記先端径にかかる重量が100gとなるように調整した上記耐スチールウール性治具を用いて、走査速度が20〜30mm/secで、同一箇所を10往復するよう横方向にスライドさせながら、サンプル表面を擦った。評価したサンプル面とは反対側に黒テープを貼り付け、三波長管を用いて、サンプル表面の擦られたキズ本数を観察し、カウントし、下記評価基準により物品の耐擦傷性を評価した。
(評価基準)
A:キズなし
B:キズ1〜2本
C:キズ3〜9本
D:キズ10本以上
実施例1〜5で得られた抗菌性物品は、微小突起間の距離dの平均dAVGが90〜500nmであり、平均アスペクト比(HAVG/dAVG)が1.0以上3.0未満であり、微細凹凸層の表面における水の静的接触角が30°以下である本発明に係る抗菌性物品であったため、滅菌率が99.9%超過であり、抗菌活性値も高く、抗菌性に優れていた。また、実施例1〜5で得られた抗菌性物品は、耐擦傷性にも優れ、表示画面の保護フィルム等の手指等が接触し得る用途において好ましく用いることができるものであった。中でも実施例1、2で得られた抗菌性物品が耐擦傷性に優れていたのは、微小突起構造体の形状に起因するものと考えられ、微小突起間の距離の平均dAVG、微小突起の高さの平均HAVG及び平均アスペクト比(HAVG/dAVG)の全てが、実施例1、2で得られた抗菌性物品は比較的小さかったためと推定される。
一方、比較例1、2で得られた比較物品は、微小突起構造体を有さず、表面が平坦な物品であったため、抗菌性に劣っていた。なお、比較例1で得られた比較物品は、抗菌性評価において、48時間培養後には菌が増殖し、試験片全面に菌からなる多数のコロニーが容易に目視で観察された。
2 微細凹凸層
2a 微細凹凸面
3 微小突起
3C 頂部微小突起
3D 周辺微小突起
5、5A、5B 微小突起
10、10’ 抗菌性物品
24 凸状突起群
30 微細凹凸層
31 微細凹凸面
32 微小突起
33 うねりによる凹凸面
41 ダイ
42 ロール金型(原版)
43 押圧ローラ
44 剥離ローラ
45 透明基材
46 受容層
g 溝
Claims (1)
- 複数の微小突起が密接して配置されてなる微小突起群を備えた微小突起構造体を表面に有し、樹脂組成物の硬化物からなる微細凹凸層を備え、
隣接する前記微小突起間の距離dの平均dAVGが90〜500nmであり、前記微小突起の高さHの平均HAVGと、前記微小突起間の距離dの平均dAVGとの比で規定される前記微小突起の平均アスペクト比(HAVG/dAVG)が1.0以上3.0未満であり、
前記微細凹凸層の表面における水の静的接触角が30°以下であることを特徴とする、抗菌性物品。
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