JP6409497B2 - 撥水撥油性部材 - Google Patents
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Description
従来、基材の表面に、微細な凹凸構造を付与することにより、光の反射防止機能や、液体、特に水の付着を防ぐ撥水機能が得られることが知られており、撥水機能を向上させるため、微細な凹凸構造の上にさらに撥水性化合物としてフッ素系化合物を含有する被覆層を設けることが行われている。例えば、特許文献1には、微細凹凸構造を備えた基材の凹凸表面に、化学結合可能な部位と疎水性官能基とを有する化合物であって、含炭素化合物から成る第1の撥水性化合物Aと、第1の撥水性化合物Aよりも炭素数が少ない含炭素化合物B及び/又は無機化合物Cから成る第2の撥水性化合物を備えることが記載されている。
また、多数の微小突起を密接して配置した微細凹凸構造は、特許文献1、2に記載されるように賦型金型を用いて作製する場合には、多数の微小突起を密接して配置した微細凹凸構造は、製造時に使用される賦型金型を大面積で作製することが容易ではなく、また、複数の微細孔を形成するために陽極酸化やケミカルエッチング、ブラスト等の手法を用いて製造する場合には微細凹凸形状のばらつきを制御する事が難しく、また微細凹凸に賦型樹脂が詰まりやすいため賦型金型の寿命も短いなど、生産性の点からも問題があった。一方で、特許文献3に記載される超撥水性透明膜は、900〜1100℃もの高温による焼結処理が必要であり、製造工程上の負荷が高く、また、表面構造を所望の微細構造に制御することが困難であるという問題があった。
また、フッ素化合物を含む薄膜を形成する方法として、ディップコーティング法は、片面のみに薄膜を成膜することが困難であるために、表示装置、窓、壁などに貼ることのできる部材を生産する方法としては問題がある。さらに、ディップコーティング法に用いられるシランカップリング基を有するフッ素化合物は、塗布後に常温または高温高湿の雰囲気で1時間以上放置することが推奨されており、ロールツーロール方式の生産には向かない。ドライコーティング法を用いる方法は、樹脂材料を下地とする場合に、樹脂材料の耐性から条件が制約されてしまう。一方で、生産工程上の負荷を低減するため、またフレキシブル性を付与するために、樹脂材料を用いながら高い撥水性及び撥油性を発現する部材が求められている。
前記線状微細凹凸形状において、隣接する線状凸部間隔pの平均値pAVGが500nm以下であり、
前記撥水撥油層は、前記線状微細凹凸形状に追従した凹凸形状を表面に有し、炭素数1〜6のパーフルオロアルカン及び下記式(1)により表されるフッ素化合物
F(CF 2 ) n −Y 式(1)
(式(1)中、nは1〜6であり、Yはフッ素原子及び酸素原子を含有しない置換基である。)
から選ばれる少なくとも1種のみを蒸着源とした蒸着膜であることを特徴とする。
バイトを用いた切削加工によって、円柱状母材の外周面に、円周方向に沿って並列した複数の溝を順次形成することにより、賦型用ロール金型を製造する工程と、
前記賦型用ロール金型を使用した賦型処理によって、前記線状微細凹凸形状を形成することにより、前記線状微細凹凸層を形成する工程と、
炭素数1〜6のパーフルオロアルカン及び下記式(1)により表されるフッ素化合物
F(CF 2 ) n −Y 式(1)
(式(1)中、nは1〜6であり、Yはフッ素原子及び酸素原子を含有しない置換基である。)
から選ばれる少なくとも1種のみを蒸着源とする化学蒸着法によって、前記線状微細凹凸層の前記線状微細凹凸形状を有する側の面に、撥水撥油層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「垂直」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
前記線状微細凹凸形状において、隣接する線状凸部間隔pの平均値pAVGが500nm以下であり、
前記撥水撥油層は、前記線状微細凹凸形状に追従した凹凸形状を表面に有し、少なくとも1つの末端に炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有し、酸素原子を含有しない、炭素数10以下のフッ素化合物を蒸着源とした蒸着膜であることを特徴とする。
バイトを用いた切削加工によって、円柱状母材の外周面に、円周方向に沿って並列した複数の溝を順次形成することにより、賦型用ロール金型を製造する工程と、
前記賦型用ロール金型を使用した賦型処理によって、前記線状微細凹凸形状を形成することにより、前記線状微細凹凸層を形成する工程と、
少なくとも1つの末端に炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有し、酸素原子を含有しない、炭素数10以下のフッ素化合物を蒸着源とする化学蒸着法によって、前記線状微細凹凸層の前記線状微細凹凸形状を有する側の面に、撥水撥油層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
本発明に係る撥水撥油性部材は、図1のように線状微細凹凸層1と撥水撥油層3との2層からなるものであっても良いし、図2のように、基材5の一面側に線状微細凹凸層1と撥水撥油層3とを備えた構造であっても良い。
また、本発明に係る撥水撥油性部材は、図示しないが、基材5の両面側に線状微細凹凸層1と撥水撥油層3とを備えた構造であっても良い。その場合の表裏それぞれの線状微細凹凸形状の延在方向がなす角度については特に制限はない。
なお、線状凸部2同士の間隔(ピッチ)は同一であってもそれぞれ異なっていてもよく、あるいは所定の繰り返し周期を持っていてもよいが、平均値pAVGが500nm以下である。
また、本発明の撥水撥油性部材は、上記特定の線状微細凹凸形状に追従した凹凸形状を表面に有することにより、異方性を有する撥水撥油性が得られることが見出された。具体的には、線状凸部の延在方向に比べて、線状凸部の延在方向に対する垂直方向の方が、撥水撥油性に優れ、水滴及び油滴が線状凸部の延在方向に沿って流れやすい。
また、本発明の撥水撥油性部材は、撥水撥油層を形成する材料として、少なくとも1つの末端に炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有し、酸素原子を含有しない、炭素数10以下のフッ素化合物、即ち炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を含有しないフッ素化合物を用いる。これにより、いずれの末端にもパーフルオロアルキル基を含有しないフッ素化合物や、酸素原子を含有するフッ素化合物を用いる場合に比べて、撥水撥油性に優れる。これは、本発明で特定するフッ素化合物を用いることにより、撥水撥油性能を発揮するパーフルオロアルキル基が、撥水撥油層表面により多く存在することになり、且つ、酸素を含有せず、例えば水酸基やシラノール基等の親水性基により撥水撥油性能が阻害されないからと考えられる。
また、本発明に係る撥水撥油性部材は、撥水撥油性が付与されることにより、さらに防汚性も良好になる。
また、本発明の撥水撥油性部材の製造方法においては、炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を含有しないフッ素化合物を用いるため、環境負荷等が懸念されているパーフルオロオクタン酸(PFOA)が副生されず、環境負荷が少ない。
さらに、本発明に係る撥水撥油性部材の製造方法においては、化学蒸着法により、高温環境下にすることなく撥水撥油層を形成することができる。そのため、支持部材の材料は、耐熱性の高い材料に限定されず、材料選択の幅が広い。支持部材の材料選択の幅が広いことにより、樹脂フィルム等のフレキシブル性の高い支持部材を用いることができるため、得られた撥水撥油性部材を後から貼り付けて使用する場合においても、設置場所が限定され難く、且つ容易に設置することができる。また、撥水撥油層の形成を高温環境下で行う必要がないことから、高温加熱による線状微細凹凸形状の変形を抑制することができる。よって、本発明の製造方法においては、撥水撥油層の表面を所望の凹凸形状とすることが容易である。また、化学蒸着法は、真空蒸着法やスパッタリング法のような物理的成膜法に比べて成膜時の圧力が高いため、粒子の回り込みがよく、線状微細凹凸に対するステップカバレッジに優れている。そのため、本発明の製造方法においては、撥水撥油層を線状微細凹凸層の表面に容易に均一に形成することができる。
以下、本発明に係る撥水撥油性部材の必須成分である線状微細凹凸層及び撥水撥油層、並びに含まれていても良い基材、その他構成について、順に説明する。
線状微細凹凸層1は、複数の互いに平行な線状凸部2が一方向又は略一方向に延在する線状微細凹凸形状4を表面に有する。線状凸部2は、典型的には直線状凸部であるが、略一方向に延在する限り、2つの端点を有する開曲線状凸部であっても良い。複数の線状凸部は互いに平行であるが、本発明において、「平行」とは、隣接する線状凸部同士の間隔が一定であることをいい、例えば線状凸部の線が曲線を含む場合には、その曲線上の各点より法線方向へ一定の距離にあることをいう。
また、本発明において、図1のようにXY平面を仮定して「一方向」をY軸に平行な方向とした場合に、「略一方向」とは、端点の(x、y)座標と比べて、x値は増減しても良いが、y値は漸次増加する方向をいう。すなわち、線状凸部は、Y軸方向において元に戻る方向、すなわちy値が減少する方向を有していない限り、蛇行曲線等の曲線であっても良い。
なお、これらの線状微細凹凸形状の延在方向Yに対する垂直断面の模式図においては、線状凸部が延在するY方向は、紙面奥行方向である。
更に、線状凸部2の高さは、それぞれ同一であっても良いし、異なっていても良い。例えば、図5(D)のように、隣接する線状凸部のn個に1個など、周期的に高さが相対的に高い線状凸部を含んでいても良い。更に、図示しないが、線状凸部の延在する方向において、高さが異なっていても良い。このように、線状凸部の高さに高低差がある場合は、他の物体が撥水撥油層の表面に摩擦接触したとしても、高さが相対的に高い部位が先に接触することになり、高さが相対的に低い部位の汚染及び破損を防ぐことができるため、撥水撥油性部材の耐汚染性及び耐擦傷性を向上することができる。特に図5(D)に示すような、互いに平行な方向において周期的に高さが相対的に高い線状凸部を含む場合には、生産性高く耐汚染性及び耐擦傷性を向上した撥水撥油性部材を得ることができる。
また、複数ある線状凸部は同一の形状を有していても異なる形状を有していてもよい。
以下、線状凸部間隔pの平均値pAVGの測定方法を図6に基づいて説明する。以下の説明においては、撥水撥油層3の表面に形成される凸部2’を、線状微細凹凸層1の表面に形成される線状凸部2と区別して、単に凸部と称する。
続いて凸部2’の延在方向Yに対する垂直断面形状において、各凸部2’の付け根位置に相当する端部を検出する。各凸部2’の端部(6a,6b)のうち同じ側の一方の端部(6a)を選択する。凸部2’の端部のうち同じ側の一方の端部6aと、隣接する凸部2’の同じ側の一方の端部6’aの距離を隣接凸部間距離p’を、隣接する線状凸部間隔pとする。
凸部2’の延在方向Yに対する垂直断面形状の拡大写真から、例えば10〜100個程度の隣接する線状凸部間隔pの値を求め、隣接する線状凸部間隔pの度数分布を検出する。隣接する線状凸部間隔pがほぼ一定である場合には、求める隣接する線状凸部間隔pの数は少なくても良いが、周期的に隣接する線状凸部間隔pが変化する場合には少なくとも5周期分、周期なしで隣接する線状凸部間隔pが変化する場合にはより多くの隣接する線状凸部間隔pを求めることが好ましい。
このようにして求めた線状凸部間隔pの度数分布から平均値pAVG及び標準偏差σを求める。また、線状凸部間隔pの最大値を、pmax=pAVG+2σとする。
なお、本発明に係る撥水撥油性部材の製造工程においては、撥水撥油層形成前の線状微細凹凸層を用いて、上記と同様の手法により線状凸部間隔p並びに平均値pAVG及び標準偏差σを測定することもできる。
線状微細凹凸層1が有する線状凸部2の高さHの平均HAVGを求める場合は、凸部2’の高さH’の平均値H’AVGと、麓部に設けられた撥水撥油層の平均厚み(t1)との和から、凸部の頂部に設けられた撥水撥油層の平均厚み(t2)を引いた値として求めることができる。すなわち、線状微細凹凸層が有する線状凸部の高さの平均HAVGは、HAVG=H’AVG+t1−t2の式により求めることができる。
なお、本発明に係る撥水撥油性部材の製造工程においては、撥水撥油層形成前の線状微細凹凸層を用いて、上記の凸部2’の高さH’を求める手法と同様の手法により、線状凸部2の高さHを測定することもできる。
また、基材の表面に線状微細凹凸形状が設けられた線状微細凹凸層の場合には、当該厚みは基材の厚みに依存し、特に限定されない。
前記樹脂組成物は、特に限定されず、少なくとも樹脂を含み、必要に応じて重合開始剤等その他の成分を含有する。樹脂組成物には、1種類の樹脂のみが含まれるものも包含される。なお、本発明において樹脂とは、モノマーやオリゴマーの他、ポリマーを含む概念である。
まず、透明基材上に線状微細凹凸層用の樹脂組成物を塗布して硬化させて、線状微細凹凸形状を有しない平坦な硬化膜を形成する。当該硬化膜は、水の接触角の再現性が取れるように(例えば標準偏差が4°以内となるように)十分に溶媒を乾燥し、必要に応じて十分に反応させて硬化したものである。例えば、電離放射線硬化性樹脂が用いられる場合、透明基材上に厚さ5μmの線状微細凹凸層用の樹脂組成物からなる塗膜を形成し、紫外線を940mJ/cm2以上の積算光量となるように照射することにより十分に反応させて硬化した硬化膜を形成する。
そして、当該硬化膜側を上面にして、粘着層つきの黒アクリル板に水平に貼り付ける。次いで、接触角を測定しようとする溶剤(純水)1.0μLの液滴を滴下し、着滴10秒後の静的接触角をθ/2法に従って計測する。測定装置としては、例えば、協和界面科学社製 接触角計DM 500を用いることができる。
また、損失正接を0.2以下とすることにより、拭取り時に変形した線状凸部が、弾性復元され、元の形状に戻りやすい。これにより、凸部の塑性変形や凸部先端同士の付着が抑制され、線状微細凹凸形状が有する機能を低下することなく、乾拭きで汚れ等を拭取ることが容易になる。中でも、tanδが0.18以下であることが好ましい。
まず、線状微細凹凸層形成用の樹脂組成物を、2000mJ/cm2のエネルギーの紫外線を1分以上照射することにより十分に硬化させて、基材及び線状微細凹凸形状を有しない、厚さ1mm、幅5mm、長さ30mmの単膜とする。
次いで、25℃下、上記樹脂組成物の硬化物の長さ方向に10Hzで25gの周期的外力を加え、動的粘弾性を測定することにより、25℃における、E’、E”が求められる。測定装置としては、例えば、UBM製 Rheogel E4000を用いることができる。
中でも、線状微細凹凸形状の成形性及び機械的強度に優れる点から好適に用いられる、電離放射線硬化性樹脂として好ましく用いられる(メタ)アクリレートを含む樹脂組成物を例にとって、具体的に説明する。
(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基を1分子中に1個有する単官能(メタ)アクリレートであっても、(メタ)アクリロイル基を1分子中に2個以上有する多官能アクリレートであってもよく、単官能(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートとを併用するものであってもよい。
中でも、硬化物が上記貯蔵弾性率(E’)とtanδを満たしやすく、線状凸部が柔軟性と弾性復元性を両立する点からは、単官能(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートとを併用することが好ましい。
一方、硬度を高くする点からは、多官能(メタ)アクリレートのみを用いることが好ましい。
また、硬化物の線状凸部が柔軟性と弾性復元性を両立しやすく、優れた乾拭き取り性と防汚性を得る点からは、本発明の電離放射線硬化性樹脂組成物は、少なくとも、炭素数10以上の長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレートと、アルキレンオキサイドを含む多官能(メタ)アクリレートとを含有することが好ましい。中でも、炭素数10以上の長鎖アルキル基を有する(メタ)アクリレートの含有割合が、アルキレンオキサイドを含む多官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、5〜20質量部であることが好ましく、10〜15質量部であることがより好ましい。
上記(メタ)アクリレートの硬化反応を開始又は促進させるために、必要に応じて光重合開始剤を適宜選択して用いても良い。光重合開始剤の具体例としては、例えば、ビスアシルフォスフィノキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フォスフィンオキサイド、フェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸エチル等が挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明においては、前記樹脂組成物中に帯電防止剤を含有することが好ましい。帯電防止剤を含有することにより、線状微細凹凸層表面に汚れが付着することを抑制することができ、また、拭取り時に汚れが落ちやすい。
帯電防止剤は、従来公知のものの中から適宜選択して用いることができる。帯電防止剤の具体例としては、例えば、4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、1級〜3級アミノ基等のカチオン性基を有する各種のカチオン性化合物、スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基、ホスホン酸塩基等のアニオン性基を有するアニオン性化合物、アミノ酸系、アミノ硫酸エステル系等の両性化合物、アミノアルコール系、グリセリン系、ポリエチレングリコール系等のノニオン性化合物、スズおよびチタンのアルコキシドのような有機金属化合物およびそれらのアセチルアセトナート塩のような金属キレート化合物等が挙げられる。中でも、カチオン性化合物が好ましく、3級アミノ基を有するカチオン性化合物がより好ましく、N,N−ジオクチル−1−オクタンアミン等のトリアルキルアミンであることが更により好ましい。
本発明において樹脂組成物は、塗工性などを付与する点から溶剤を用いてもよい。溶剤を用いる場合、当該溶剤は、組成物中の各成分とは反応せず、当該各成分を溶解乃至分散可能な溶剤の中から適宜選択して用いることができる。このような溶剤の具体例としては、例えば、ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGME)等のエーテル系溶剤、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化アルキル系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、およびジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶剤、シクロヘキサン等のアノン系溶剤、メタノール、エタノール、およびプロパノール等のアルコール系溶剤を例示することができるが、これらに限られるものではない。また、樹脂組成物に用いられる溶剤は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上の溶剤の混合溶剤でもよい。
本発明において用いられる線状微細凹凸層用の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更にその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、濡れ性調整のための界面活性剤、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、安定化剤、消泡剤、ハジキ防止剤、酸化防止剤、凝集防止剤、粘度調整剤、離型剤等が挙げられる。
前記線状微細凹凸層を形成する方法としては、複数の互いに平行な線状凸部が一方向又は略一方向に延在する線状微細凹凸形状を少なくとも一方の面に有し、前記線状微細凹凸形状において、隣接する線状凸部間隔pの平均値pAVGが500nm以下である、樹脂組成物の硬化物からなる線状微細凹凸層を形成することができる方法であれば、特に限定はされないが、例えば、バイトを用いた切削加工によって、円柱状母材の外周面に、円周方向に沿って並列した複数の溝を順次形成することにより、賦型用ロール金型を製造する工程と、前記賦型用ロール金型を使用した賦型処理によって、前記線状微細凹凸形状を形成することにより、前記線状微細凹凸層を形成する工程とを有する方法が、生産性に優れる点から好ましい。
図7は、賦型用ロール金型20を製造する工程の説明に供する図である。この製造工程においては、まず、円柱状母材30を準備する。円柱状母材30としては、繰り返し使用した際に変形および摩耗するものでなければ、特に限定されるものではなく、金属製であっても良く、樹脂製であっても良いが、通常、金属製が好適に用いられる。耐変形性および耐摩耗性に優れているからである。
円柱状母材30を回転させながら、線状凹凸形状作製用のバイト31の刃先を外周面に押圧して切削するが、矢印Aにより示すように回転軸方向に、バイト31の刃先幅のピッチにより間欠送りして移動させることにより、円周方向に沿って並列した複数の溝を順次形成する。
前記バイト31の刃先幅としては、例えば、20〜100μm程度とすることができるが、これに限定されるものではない。
なお、線状凹凸形状作製用のバイト31の作製は、従来公知の方法を適宜選択して、製造する線状微細凹凸形状に対応した形状となるように行えばよい。
本発明においては、このような線状凹凸形状作製用のバイトを用いた切削加工によって、円柱状母材の外周面に、線状微細凹凸形状に対応した形状の溝が形成された賦型用ロール金型20を用いることから、任意の線状微細凹凸形状を形成し易く、更に、生産性が向上する。
前記線状微細凹凸層を形成する工程においては、前記賦型用ロール金型を使用した賦型処理により、前記線状微細凹凸形状を形成することにより、当該線状微細凹凸形状を表面に有した樹脂組成物の硬化物からなる線状微細凹凸層を得る。
前記線状微細凹凸層を形成する工程の一例としては、例えば、まず基材上に、線状微細凹凸層形成用の樹脂組成物を塗布し、線状微細凹凸形状形成用層(受容層)を形成し、当該受容層の表面と所望の線状微細凹凸形状を有する賦型用ロール金型とを接触させて配置し、圧力をかけることによって、当該受容層の金型側表面に前記線状微細凹凸形状を形成した後、適宜該樹脂組成物を硬化させ、前記賦型用ロール金型から剥離することにより、線状微細凹凸層を形成する。前記樹脂組成物を硬化させる方法は、該樹脂組成物の種類等に応じて適宜選択することができる。
図9に示す方法では、樹脂供給工程において、ダイ11により帯状フィルム形態の透明基材7に、未硬化で液状の電離放射線硬化性樹脂組成物を塗布し、線状微細凹凸形状の受容層1’を形成する。なお電離放射線硬化性樹脂組成物の塗布については、ダイ11による場合に限らず、各種の手法を適用することができる。続いて、押圧ローラ12により、線状微細凹凸層形成用原版である賦型用ロール金型20の周側面に透明基材7を加圧押圧し、これにより透明基材7に受容層1’を密着させると共に、賦型用ロール金型20の周側面に作製された線状微細凹凸形状の凹部に、受容層1’を構成する電離放射線硬化性樹脂組成物を充分に充填する。この状態で、紫外線の照射により電離放射線硬化性樹脂組成物を硬化させ、これにより透明基材7の表面に線状微細凹凸層1を作製する。続いて剥離ローラ13を介して賦型用ロール金型20から、硬化した線状微細凹凸層1と一体に透明基材7を剥離する。必要に応じてこの透明基材7に粘着層等を作製した後、所望の大きさに切断して透明基材7上に線状微細凹凸層1が形成された積層体を作製する。このように、ロール材による長尺の透明基材7に、線状微細凹凸層形成用原版である賦型用ロール金型20の周側面に作製された線状微細凹凸形状を順次賦型して、透明基材7上に線状微細凹凸層1が形成された積層体が効率良く大量生産される。
本発明に係る撥水撥油性部材は、前記線状微細凹凸形状を有する側の面に撥水撥油層を備える。なお、線状微細凹凸形状を有する側の面とは、前記線状微細凹凸層の前記線状微細凹凸形状を有する面であってもよいし、前記線状微細凹凸層上に更に別の層が形成されてなる、表面に前記線状微細凹凸形状を有する面であってもよい。
また、撥水撥油層は、前記線状微細凹凸形状に追従した凹凸形状を表面に有し、少なくとも1つの末端に炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有し、酸素原子を含有しない、炭素数10以下のフッ素化合物を蒸着源とした蒸着膜である。
本発明においては、前記撥水撥油層に用いられるフッ素化合物が炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を含有しないため、前記撥水撥油層の形成において、環境負荷等が懸念されているパーフルオロオクタン酸(PFOA)が副生されず、環境負荷が少ない。また、前記フッ素化合物は、酸素原子を含有しないため、撥水撥油層の材料自体の撥水性及び撥油性を向上する。これは、水酸基やシラノール基等の親水性基を有しないことから、撥水性及び撥油性が阻害され難くなるためと推定される。本発明においては、前記撥水撥油層が、さらに、前記線状微細凹凸形状に追従した凹凸形状を表面に有することにより、撥水撥油層の比表面積が大きくなるため、撥水撥油性が強調され、より一層優れた撥水撥油性を発揮することができる。
前記パーフルオロアルキル基としては、撥水性及び撥油性の点から、中でも炭素数が3〜6のパーフルオロアルキル基であることが好ましく、更に、炭素数が4〜6のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
また、フッ素化合物としては、イオンやラジカル等の活性種が発生し易く、前記線状微細凹凸層の表面に、化学蒸着法により前記線状微細凹凸形状に追従した凹凸形状を有する撥水撥油層を形成し易い点から、不飽和炭化水素基及びヨード基から選ばれる少なくとも一種を含有するものが好ましい。
F(CF2)n−Y 式(1)
(式(1)中、nは1〜6であり、Yはフッ素原子及び酸素原子を含有しない置換基である。)
nは好ましくは3〜6であり、更に好ましくは4〜6である。
前記Yとしては、例えば、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、並びに、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子よりなる群から選択されるハロゲン原子等の置換基が挙げられる。前記アルキル基としては、更に炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、前記アルケニル基としては、炭素数2〜4のアルケニル基が好ましい。前記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、各種ブテニル基等を挙げることができる。
中でも好適なフッ素化合物としては、例えば、パーフルオロブチルエチレン、パーフルオロヘキシルエチレン、パーフルオロヘキシルヨージド等が挙げられる。
前記撥水撥油層3の厚さは、例えば、線状微細凹凸形状4側の表面を平坦面にして当該平坦面上に撥水撥油層3を形成したと仮定した場合の厚さが、3〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは4〜80nmの範囲内であり、更により好ましくは4〜50nmの範囲内である。すなわち、撥水撥油層3をなすフッ素化合物の量が、平面視において同面積となる平坦面に成膜した際に、前記厚さとなる量であることが好ましい。さらに言い換えると、撥水撥油層3は、平面視において同面積となる平坦面に成膜した場合に、前記厚さの膜が形成される条件で成膜された前記フッ素化合物からなる膜であることが好ましい。撥水撥油層3の厚さを前記範囲内とすることにより、撥水撥油層3の表面を、線状微細凹凸形状4に追従した凹凸形状4’を容易に形成することができ、また、撥水撥油層3の透過率が向上する。
線状微細凹凸層1の線状微細凹凸形状4表面側の表面を平坦面にして当該平坦面上に撥水撥油層3を形成したと仮定した場合の厚さの測定は、例えば、表面が鏡面加工されたシリコンウエハを一部マスキングした状態で、当該シリコンウエハの表面に、本発明の撥水撥油性部材が備える撥水撥油層3の形成に用いられるフッ素化合物と同じ量のフッ素化合物を用いて、本発明の撥水撥油性部材と同じ方法により撥水撥油層を形成し、その後マスキングを除去することにより、シリコンウエハの表面に撥水撥油層を形成する部分と形成しない部分を設け、撥水撥油層のある部分とない部分の段差を測定することにより、行うことができる。
また、前記撥水撥油層3の厚さを、本発明の撥水撥油性部材を厚み方向に切断した垂直断面のSEM、TEM、STEMなどの電子顕微鏡写真を観察することにより測定することもできる。この場合に測定される撥水撥油層3の厚さは、3〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは4〜80nmの範囲内であり、更により好ましくは4〜50nmの範囲内である。
撥水撥油層3の厚さを前記範囲内とすることにより、撥水撥油層3の表面を、線状微細凹凸層1の線状微細凹凸形状4に追従した凹凸形状4’にすることが容易になり、また、撥水撥油層3の透過率が向上する。なお、撥水撥油層3の厚みは、成膜時における成膜圧力、成膜時間等の成膜条件を適宜変更することにより、調整することができる。
前記撥水撥油層3を線状微細凹凸層1の線状微細凹凸形状表面の凹凸に追従して形成する方法は、特に限定されないが、例えば、平坦面上に撥水撥油層3を形成したと仮定した場合に好ましくは3〜100nm、より好ましくは4〜80nm、更により好ましくは4〜50nmのフッ素化合物の蒸着膜が形成される条件で、前記撥水撥油層3を線状微細凹凸層1の線状微細凹凸形状4表面に形成する方法が挙げられる。撥水撥油層3の厚さを前記範囲内にすることにより、当該撥水撥油層3の表面を、線状微細凹凸層1の線状微細凹凸形状4に追従して形成されてなる凹凸形状4’とすることが容易になる。
また、前記凹凸形状4’を構成する凸部の高さH’の平均H’AVGは、好ましくは50nm以上500nm以下であり、中でも、撥水撥油性及び反射防止性能の発現が向上する点から、より好ましくは70nm以上250nm以下である。
H’AVG/p’AVGが、前記下限値以上であることにより、撥水撥油性の向上効果に優れ、前記上限値以下であることにより、機械強度や生産性に優れる。
本発明に係る撥水撥油性部材は、撥油性の観点から、前記撥水撥油層の表面におけるn−ヘキサデカンの静的接触角が、90°以上であることが好ましく、100°以上であることがより好ましく、105°以上であることが更に好ましい。
また、本発明の撥水撥油性部材は、線状凸部の延在方向に沿って、油滴が流れやすい点から、線状微細凹凸表面において、n−ヘキサデカンを滴下した地点における、線状凸部の延在方向のn−ヘキサデカンの接触角と線状凸部の延在方向に対して垂直方向のn−ヘキサデカンの接触角との差が、3°以上であることが好ましく、5°以上であることがより好ましい。一方、通常当該接触角の差は20°以下の範囲となる。
ここで、線状凸部の延在方向Yの水の接触角は、図11(A)及び(B)に示すように、線状凸部に沿って広がる方向の接触角をいい、線状微細凹凸表面(XY平面に平行な平面)に垂直かつ線状凸部の延在方向Yに平行な面(YZ平面に平行な平面)を仮定し、当該面で水滴を切った断面における、線状微細凹凸表面(XY平面に平行な平面)と水のなす角度をいう。また、線状凸部の延在方向Yに対して垂直方向Xの水の接触角は、図11(C)及び(D)に示すように、線状凸部を垂直に横切って広がる方向の接触角をいい、線状微細凹凸表面(XY平面に平行な平面)に垂直かつ線状凸部の延在方向Yに対して垂直な方向Xに平行な面(XZ平面に平行な平面)を仮定し、当該面で水滴を切った断面における、線状微細凹凸表面(XY平面に平行な平面)と水のなす角度をいう。
撥水撥油層3の表面における接触角は、撥水撥油層3の表面を構成するフッ素化合物の種類、撥水撥油層3表面の凹凸形状4’の形状等を変更することにより、調整することができる。
線状凸部の延在方向が水平方向に対して傾斜を有するように、本発明に係る撥水撥油性部材を傾けることにより、水適及び油滴を線状凸部の延在方向に沿って流すことが特に容易になる。
前記撥水撥油層をパターン状に形成する場合の撥水撥油層のパターン形状は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択することができるが、例えば、ストライプ状、L字状、マトリクス状、開放端を有しない縁どりを持つ任意の図形、開放端を有する縁どりを持つ任意の図形等の形状が挙げられる。中でも、前記パターン形状は、線状凸部の延在方向と平行方向に設けられてなることが好ましい。これにより、撥水撥油層が設けられていない部分に液滴が集まりやすく、また、液滴が当該部分を流路として流れやすい。
或いは、例えば、開放端を有しない縁どりを持つ任意の図形、及び開放端を有する縁どりを持つ任意の図形は、縁部を撥水撥油層とし、縁部の内部に存在する内部図形部を親水性とすることにより、内部図形部に水がたまったときに図形を浮かび上がらせることができる。内部図形部にたまった水は、線状凸部の延在方向に沿って流れやすく、開放端を有する縁どりを持つ任意の図形においては、当該開放端において特に流れやすい。
また、前記撥水撥油層のパターン形状の撥水撥油層部分の幅と撥水撥油層が設けられていない部分の幅との比(撥水撥油層部分の幅/撥水撥油層が設けられていない部分の幅)は、特に限定されるものではない。例えば、本発明に係る撥水撥油性部材を窓のような透明な部分の透明部材として用いる場合には、反対側を見通しやすくするため、防曇効果を有する部分、即ち撥水撥油層が設けられていない部分の幅をむしろ広くすることが好適に用いられる。
例えば、前記線状微細凹凸層用の樹脂組成物として、親水性の樹脂組成物を用いた場合は、撥水撥油層が設けられていない部分を親水性にすることができる。これにより、本発明に係る部材表面を傾斜面とすることにより、部材表面に付着した水滴は重力に従って移動し、撥水撥油層が設けられていない部分に集めやすくすることができる。このように、撥水撥油層が設けられていない部分を、水滴の流路とすることができ、撥水撥油層がパターン状に配置されてなる本発明の撥水撥油性部材は、排水部材として用いることも可能である。また、前記線状微細凹凸層用の樹脂組成物として、親油性の樹脂組成物を用いた場合は、撥水撥油層が設けられていない部分を親油性にすることができるため、本発明に係る撥水撥油性部材を排油部材として用いることが可能である。
前記撥水撥油層の形成方法は、前記特定のフッ素化合物を蒸着源として蒸着膜であって、前記線状微細凹凸形状に追従した凹凸形状を表面に有する層を形成することができる方法であれば、特に限定はされない。例えば、物理蒸着法、化学蒸着法が挙げられるが、中でも、撥水撥油層3を線状微細凹凸層1の線状微細凹凸形状を有する表面に容易に均一に形成することができる点から、化学蒸着法(CVD法)が好ましい。
本発明において、化学蒸着法による撥水撥油層3の形成の際には、化学蒸着の対象物又は当該対象物が接する台の温度をコントロールできる状態で行うことが好ましい。前記温度が高すぎると、線状微細凹凸層及び基材等の材料として樹脂等の相対的に耐熱性の低い材料を使用することが困難となる場合がある。本発明においては、前記温度を低温にすることができるため、基材としてPETフィルム等の樹脂フィルムを用いる等、樹脂を使用することができる。そのため、材料の選択の幅が広く、また、線状微細凹凸形状の加熱による変形を抑制することができる。前記温度は、線状微細凹凸層及び基材等の化学蒸着の対象物となり得るものの耐熱性により異なるが、基材として特に好ましく用いられるPETフィルムやTACフィルムの使用可能温度の観点から120℃以下であることが好ましく、PETフィルムなどのガラス転移点(Tg)を考慮すると70℃以下であることがより好ましい。本発明の好ましい態様によっては、前記温度を50℃以下とすることもできる。また、前記温度は、通常、−20℃以上である。
本発明に必要に応じて用いられる基材は、本発明の撥水撥油性部材の用途に合わせて適宜選択して用いられれば良い。基材は、透明基材に限定されるものではなく、用途に合わせて不透明基材であっても良い。
また、基材と線状微細凹凸層との密着性を向上させ、ひいては耐摩耗性(耐傷性)を向上させるためのプライマー層を基材上に形成してもよい。このプライマー層は、基材および線状微細凹凸層との双方に密着性を有し、可視光を透過するものが好ましい。また基材と線状微細凹凸層の屈折率差により干渉ムラが出る場合にはプライマー層の屈折率を基材と線状微細凹凸層の中間の値に調整することでムラ軽減が可能である。
本発明の撥水撥油性部材は、本発明の効果を損なわない範囲において、更にその他の層を有していてもよい。例えば、その他の層としては、低反射層、紫外線吸収層(UVA層)、放熱層(熱伝導層)などが挙げられる。
また、本発明の撥水撥油性部材は、撥水撥油層の表面に、剥離可能な保護フィルムを仮接着した状態で保管、搬送、売買、後加工又は施工を行い、適時、該保護フィルムを剥離除去する形態とすることもできる。これにより、保管、搬送等の間における撥水撥油性部材の表面の損傷、汚染を防止することができる。
本発明に係る撥水撥油性部材は、用途により、透明性の高い部材とすることが好ましい。すなわち、下地の意匠性を損傷しない点から、撥水撥油性部材の全光線透過率は、85%以上であることが好ましく、更に90%以上であることが好ましく、より更に92%以上であることが好ましい。なおここで、撥水撥油性部材の全光線透過率は、JIS K7361−1(プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法)により測定することができる。
撥水撥油性部材が透明部材である場合は、線状微細凹凸形状4を、反射防止機能を発現し得る形状とすることにより、それに追従した撥水撥油層3の凹凸形状4’も反射防止機能を発現し得るため、撥水撥油性部材に反射防止機能を付与することができる。
具体的に、本発明の撥水撥油性部材は、反射Y値が、2.5%以下となることが好ましく、1.0%以下となることがより好ましい。
本発明に係る撥水撥油性部材は、撥水性及び/又は撥油性が必要なあらゆる用途に用いることができる。本発明に係る撥水撥油性部材は、撥水撥油層の表面が前記特定の凹凸形状を有することにより、従来の、多数の微小突起を密接して配置した微細凹凸構造を表面に有する部材に比べて、表面形状が維持され易く、撥水撥油性の劣化が抑制されることから、撥水撥油性の持続性が高い撥水撥油性部材として用いることができる。
本発明に係る撥水撥油性部材の用途としては、例えば、自動車、電車、航空機等の乗り物や建造物等の窓ガラス又は強化ガラス、デパート等店舗のショーウィンドウ、商品や美術品のショーケース、PDA乃至は携帯情報端末、カーナビゲーションシステム、券売機、ATM(現金自動預金支払兼用機)等のタッチパネルディスプレイ及びその他の液晶画面に用いられる液晶保護フィルム、外壁用建材、台所、風呂場、洗面所、トイレ等の水回り空間に使用される建材、野菜の包装フィルム、シャンプー用容器やレトルト食品用容器等の粘性の高い液体を保存する容器の内側に使用される部材等において、撥水撥油効果を発揮して好ましく用いることができる。
本発明に係る撥水撥油性部材は、撥水撥油性を付与したい部分に後から貼り付ける態様において用いても良いし、撥水撥油性が必要な部材そのものとして用いても良い。
さらに、本発明に係る撥水撥油性部材は、上述した方法により、撥水撥油性に加えて反射防止性能を発揮する態様とすることができる。反射防止性能をも発揮し得る本発明に係る撥水撥油性部材は、前記用途の中でも、特に優れた視認性が求められる、窓ガラス、ショーウィンドウ、ショーケース、液晶保護フィルム等として好ましく用いることができる。
これに対し、冷蔵ショーケース内部の天井を構成する部材として、本発明の撥水撥油性部材を用いることにより、商品への水滴の落下を防ぐことができる。具体的には、例えば本発明の撥水撥油性部材を、撥水撥油層側が表面になり、且つ線状凸部の延在方向が水平方向に対して傾斜を有するように、冷蔵ショーケース内部の天井部分に設置する。これにより、結露により当該天井に付着した水滴は、線状凸部の延在方向が流路となって、集められた水滴が重力に従って流路を移動して排出される。これにより、冷蔵ショーケースの天井に付着した水滴が商品に落下することを防止でき、ヒーターの使用を必要としないため、省電力にもなる。同様に、冷蔵ショーケース内部の扉、側板ガラス、棚などに設置することにより、ヒーターを用いずに、結露を商品に付着することなく、適宜排水することができる。
本発明に係る親水性部材は、冷蔵ショーケースの他にも、同様の原理を利用して、例えば浴室の天井、農業用ビニールハウスの天井等に用いることができ、また、結露水を自動で回収可能な集水部材として用いることもできる。
なお、前記の撥水撥油層の表面を水滴等の液滴を流す用途において、撥水撥油層がパターン状に形成された撥水撥油性部材を用いても良い。例えば、撥水撥油層がストライプパターン状に設けられた撥水撥油性部材を、冷蔵冷凍ショーケースに用いる場合は、撥水撥油層側が表面になり、且つストライプパターンが水平方向に対して傾斜を有するように、冷蔵ショーケース内部の天井部分に設置すればよい。
また、撥水撥油層がパターン状に形成され、撥水撥油層が設けられていない部分を親水性部とした本発明に係る撥水撥油性部材を印刷用部材として用いる場合においては、インクを転写する際に、撥水撥油層を有する部分はインクを反発する部分となり、親水性部はインクを受容する部分となる。また、そのような撥水撥油性部材を電気基板として用いる場合は、撥水撥油層を有する部分又は撥水撥油層を有しない親水性部に、導電性を有する配線を形成し、所定位置に半導体素子を自己整合配列させることも可能である。DNAアレイでは、セルの部分には撥水撥油層を設けず、セルの部分にのみ親水性の領域を形成することにより、水滴を残して抗原抗体反応を高感度に検出することができる。
また、本発明に係る撥水撥油性部材は、線状微細凹凸形状を形成するためのモールドとして用いることもできる。
幅1300mm、直径298mmで表面に銅めっきを施した鉄製の円柱状母材を準備した。一方で、刃先幅30μmの表面に、線状凸部の延在方向Yに対する垂直断面形状が図8のような矩形状の線状凹凸部(隣接する線状凸部間隔pの平均値pAVGが150nm、線状凸部幅の平均幅75nm、線状凹部の平均幅75nm、線状凸部の高さHAVGが70nm)を有する切削用バイトを準備した。
円柱状母材を回転させながら、前記切削用バイトの刃先を外周面に押圧して切削し、バイト31の刃先幅30μmのピッチで間欠送りして回転軸方向に移動させることにより、円周方向に沿って並列した複数の溝を順次形成し、賦型用ロール金型1を作製した。
切削用バイトとして、刃先幅30μmの表面に、線状凸部の延在方向Yに対する垂直断面形状が図8のような矩形状の線状凹凸部(隣接する線状凸部間隔pの平均値pAVGが200nm、線状凸部幅の平均幅100nm、線状凹部の平均幅100nm、線状凸部の高さHAVGが100nm)を有する切削用バイトを準備した以外は、製造例1と同様にして、賦型用ロール金型2を作製した。
以下の各成分を混合し、希釈溶剤として、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンを用いて、固形分45質量%の線状微細凹凸層形成用樹脂組成物Aを調製した。
<樹脂組成物Aの組成>
・エチレンオキサイド変性(EO変性)ビスフェノールAジアクリレート 65質量部
・EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート 35質量部
・ジフェニル(2,4,6−トリメトキシベンゾイル)ホスフィンオキシド(ルシリンTPO) 1質量部
1.線状微細凹凸層の形成
図9に示す方法により、線状微細凹凸層を形成した。
賦型用ロール金型20として、製造例1の賦型用ロール金型1を用い、透明基材7として、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)(東洋紡社製)を用いた。また、ダイ11により帯状フィルム形態の透明基材7に、硬化後の線状微細凹凸層の厚さが20μmとなるように、製造例3で得られた線状微細凹凸層形成用樹脂組成物Aを塗布した。透明基材側から2000mJ/cm2のエネルギーで紫外線を照射して線状微細凹凸層形成用樹脂組成物Aを硬化させた。その後、賦型用ロール金型より剥離し、線状微細凹凸層を形成した。線状凸部の延在方向Yに対する垂直断面形状が矩形状の線状微細凹凸表面(隣接する線状凸部間隔pの平均値pAVGが150nm、線状凸部幅の平均幅75nm、線状凹部の平均幅75nm、線状凸部の高さHAVGが70nm)が得られた。
実施例1で形成した線状微細凹凸層の断面のSEM写真を図10に示す。
撥水撥油層の形成のため、平行平板型の電極構造を有するプラズマCVD装置(アネルバ製、型番:PED−401)を使用した。当該プラズマCVD装置直径325mmの下部電極に40kHzの高周波電力が投入されるように改造してある。下部電極はチラーにより温度設定が可能であり、上部電極はガスを導入するためシャワーヘッドになっている。フッ素化合物を導入するためのバブラーを設置し、ウォーターバスにより温度を設定できるようにした。バブラーからニードルバルブを介して、プラズマCVD装置内にガスが導入される。ニードルバルブの調整によりバブラーの圧力を変更できる。
得られた支持部材、すなわち基材上に線状微細凹凸層を形成したものをプラズマCVD装置の真空チャンバーに入れ、下部電極上に設置した。また、膜厚を測定するため、表面が鏡面加工されたシリコンウエハを一部マスキングした状態で下部電極上に設置した。下部電極の温度は18℃とした。チャンバーを閉めて5mTorrまで減圧したあと、Arガスをキャリアガスとし、バブリングして、フッ素化合物(モノマー材料)として(パーフルオロヘキシル)エチレン(ダイキン工業(株)製、品番:F−1620)をプラズマCVD装置の真空チャンバー内に供給した。このとき、Arガスの流量を50sccm、バブラーの温度を25℃、バブラーの圧力を150Torrとした。排気量を調整して真空チャンバー内の圧力(成膜圧力)を400mTorrに調整したのち、放電電力を52Wとし、成膜を行った。成膜時間は5分間とした。成膜時間経過後放電を止めて、大気圧に戻してから、蒸着膜が成膜された支持部材をCVD装置のチャンバーから取り出すことにより、支持部材の線状微細凹凸層側の面にフッ素化合物を蒸着源とした蒸着膜である撥水撥油層が形成された実施例1の撥水撥油性部材を得た。
得られた撥水撥油性部材は、撥水撥油層の膜厚が37nmであり、撥水撥油層側の表面は、線状微細凹凸形状に追従した凹凸面を有するものであった。なお、撥水撥油層の膜厚は、シリコンウエハ上の撥水撥油層のある部分とない部分の段差を小阪研究所製サーフコーダET4000Lにて測定することで確認し、10点で測定された膜厚の測定値の平均値を撥水撥油層の膜厚とした。以下の各実施例及び比較例においても同様である。
各実施例及び各比較例の成膜条件を表1に示す。
実施例1において、成膜時間を5分から1分に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の撥水撥油性部材を得た。
得られた撥水撥油性部材は、撥水撥油層の膜厚が7nmであり、撥水撥油層側の表面に凹凸面を有するものであった。
実施例1において、成膜圧力を400mTorrから30mTorrに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の撥水撥油性部材を得た。
得られた撥水撥油性部材は、撥水撥油層の膜厚が4nmであり、撥水撥油層側の表面は、線状微細凹凸形状に追従した凹凸面を有するものであった。
実施例1において、金型1の代わりに金型2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の撥水撥油性部材を得た。
実施例4で形成した線状微細凹凸層の断面をSEMにより観察したところ、線状凸部の延在方向Yに対する垂直断面形状が矩形状の線状微細凹凸表面(隣接する線状凸部間隔pの平均値pAVGが200nm、線状凸部幅の平均幅100nm、線状凹部の平均幅100nm、線状凸部の高さHAVGが100nm)が得られた。
得られた撥水撥油性部材は、撥水撥油層の膜厚が37nmであり、撥水撥油層側の表面は、線状微細凹凸形状に追従した凹凸面を有するものであった。
実施例1において、フッ素化合物としてF−1620の代わりに、(パーフルオロブチル)エチレン(ダイキン工業(株)製、品番:F−1420)を用い、成膜圧力を400mTorrから200mTorrに変え、放電電力を52Wから105Wに変え、キャリアガスを用いず、バブラーの圧力を150Torrから210Torrに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5の撥水撥油性部材を得た。
得られた撥水撥油性部材は、撥水撥油層の膜厚が47nmであり、撥水撥油層側の表面は、線状微細凹凸形状に追従した凹凸面を有するものであった。
実施例1において、フッ素化合物としてF−1620の代わりに、パーフルオロヘキシルヨージド(ダイキン工業(株)製、品番:I−1600)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6の撥水撥油性部材を得た。
得られた撥水撥油性部材は、撥水撥油層の膜厚が4nmであり、撥水撥油層側の表面は、線状微細凹凸形状に追従した凹凸面を有するものであった。
実施例1において、フッ素化合物としてF−1620の代わりにCF4を用い、バブラーを用いずにガスボンベを使用した。CF4の流量は200sccmとし、キャリアガスは用いなかった。成膜圧力、成膜時間、放電電力は表1に示す値とした。その他は、実施例1と同様にして、実施例7の撥水撥油性部材を得た。
得られた撥水撥油性部材は、撥水撥油層側の表面は、線状微細凹凸形状に追従した凹凸面を有するものであった。
実施例1において、表面が平坦なPETフィルム(東洋紡績(株)製、A4100、厚さ:100μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の部材を得た。
得られた部材は、蒸着膜の膜厚が37nmであり、蒸着膜側の表面は平坦面であった。
実施例1において、フッ素化合物として、F−1620の代わりに、1H,1H−ペンタフルオロプロパノール(ダイキン工業(株)製、品番:A−1210)を用い、バブラーの圧力を150Torrから180Torrに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の部材を得た。
得られた部材は、蒸着膜の膜厚が60nmであり、蒸着膜側の表面は、線状微細凹凸形状に追従した凹凸面を有するものであった。
実施例1において、フッ素化合物として、F−1620の代わりに、3−パーフルオロヘキシル−1,2−エポキシプロパン(ダイキン工業(株)製、品番:E−1630)を用い、バブラーの圧力を150Torrから140Torrに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3の部材を得た。
得られた部材は、蒸着膜の膜厚が81nmであり、蒸着膜側の表面は、線状微細凹凸形状に追従した凹凸面を有するものであった。
実施例1において、フッ素化合物として、F−1620の代わりに、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製、品番:ビスコート8F)を用い、成膜時間を5分から2分に変え、バブラーの圧力を150Torrから140Torrに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4の部材を得た。
得られた部材は、蒸着膜の膜厚が23nmであり、蒸着膜側の表面は、線状微細凹凸形状に追従した凹凸面を有するものであった。
実施例1において、フッ素化合物として、F−1620の代わりに、1,4−ジビニルパーフルオロブタン(東ソー・エフテック(株)製、品番:C4−DV)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5の部材を得た。
得られた部材は、蒸着膜の膜厚が152nmであり、蒸着膜側の表面は、線状微細凹凸形状に追従した凹凸面を有するものであった。
実施例1において、フッ素化合物として、F−1620の代わりに、1,6−ジビニルパーフルオロヘキサン(東ソー・エフテック(株)製、品番:C6−DV)を用い、バブラーの圧力を150Torrから140Torrに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例6の部材を得た。
得られた部材は、蒸着膜の膜厚が98nmであり、蒸着膜側の表面は、線状微細凹凸形状に追従した凹凸面を有するものであった。
実施例1において、撥水撥油層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例7の部材を得た。
<接触角の測定>
ポリエチレンテレフタレート(PET)に線状微細凹凸層形成用樹脂組成物Aを乾燥後の膜厚が厚さ5μmとなるように塗膜を形成し、紫外線を940mJ/cm2の積算光量となるように照射して硬化させて、線状微細凹凸形状を有しない硬化膜を形成した。当該硬化膜側表面を上面にして、粘着層つきの黒アクリル板に貼り付けたものの上に、純水1.0μLの液滴を滴下し、着滴10秒後、協和界面科学(株)製 接触角計DM 500を用いて、θ/2法に従って静的接触角を測定した。
上記樹脂組成物Aの平坦な硬化膜表面における純水の接触角は54.9°であった。
また、純水の代わりにn−ヘキサデカン(n−HD)を用いて、同様にして静的接触角を測定したところ、上記樹脂組成物Aの平坦な硬化膜表面におけるn−HDの接触角は3°であった。
また、純水の代わりにn−ヘキサデカン(n−HD)を用いて、同様にして静的接触角を測定した。
測定結果を表1に示す。
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材、比較例1で得られた部材、及びガラス板の基材側面を、粘着層を介して透明なガラス板に貼り付け、部材表面が水平面に対して90°の角度になるように大気中で設置した。なお、実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材は、線状凸部の延在方向が、水平面に対して前記角度になるように設置した。次いで、各部材の表面にシャワーで水をかけ、水をかけている間、水をかけている面とは反対側の面から各部材を目視にて観察した。
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材は、撥水性が高く、表面にかけた水を弾く性能が高いため、シャワーで水をかけている間において、シャワーで水をかけている背景を、当該撥水撥油性部材を通して容易に視認することができた。また、撥水撥油層表面の線状凸部の延在方向に沿って、水滴が流れやすかった。
一方、比較例1で得られた部材は、実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材に比べて表面にかけた水を弾く性能に劣っており、かけた水が部材表面に濡れ広がったため、シャワーで水をかけている間において、シャワーで水をかけている背景を、当該部材を通して視認することが困難であった。
ガラス板は、表面にかけた水を弾かず、かけた水がガラス板表面に濡れ広がったため、シャワーで水をかけている間において、シャワーで水をかけている背景を、当該ガラス板を通して視認することが非常に困難であった。
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材と、比較例7で得られた撥水撥油層を有しない部材の基材側を、各々粘着層を介してアルミ板に貼り付け、線状凸部の延在方向が、水平面に対して10°または60°の角度になるように大気中で設置した。
次いで、アルミ板を冷却し、撥水撥油性部材表面に結露を生じさせ、各部材表面の水滴の動き及び視認性を目視により観察した。
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材においては、各設置角度において、線状凸部の延在方向に沿って水が流れる様子を観察することができた。
比較例7で得られた部材においては、撥水撥油層を有しないため、特定方向に水滴が流れる様子を確認することができず、排水の流路を制御することができなかった。
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材及び比較例1〜6で得られた部材においては蒸着膜側の面を、比較例7で得られた部材においては線状微細凹凸形状を有する面を、光源に向けるように粘着層つきの黒アクリル板に貼り付けて、JIS K−7361−1に従って全光線透過率を測定した。測定機器としては、反射・透過率計HR−100(村上色彩技術研究所)を使用した。測定結果を表1に示す。
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材及び比較例1〜6で得られた部材においては蒸着膜側の面を、比較例7で得られた部材においては線状微細凹凸形状を有する面を、上面にして、粘着層つきの黒アクリル板に貼り付けたものを用い、分光光度計(島津製作所製 MPC3100)にて、反射Y値を測定した。測定結果を表1に示す。
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材の撥水撥油層側の面を上面にして、粘着層つきの黒アクリル板に貼り付けた後、指を押し付けて指紋を付着させた。その後、ザヴィーナミニマックス(富士ケミカル製)にて指紋を乾拭きした。乾拭きは3kg/cm2程度の力で10往復行い、拭取り後の外観を評価した。
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材は、線状凸部が柔軟性及び復元性に優れており、線状凹凸方向に拭き取り性に優れ、指紋汚れが視認できなかった。また、拭き取りに際し、撥水撥油層表面において、線状凸部が潰れたり、倒れたりの現象は生じなかった。
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材は、特定の線状微細凹凸形状を有し、樹脂組成物の硬化物からなる線状微細凹凸層と、前記線状微細凹凸形状に追従した凹凸形状を表面に有し、特定のフッ素化合物を蒸着源とした蒸着膜である撥水撥油層を備えた本発明に係る撥水撥油性部材であったため、水及びn−HDの接触角が大きく、撥水撥油性に優れ、比較例1との対比により、いずれも、平坦な硬化膜表面における接触角よりも更に撥水撥油性が強調されていることが確認できた。なお、実施例7において、撥水撥油層の膜厚は未測定であるが、実施例6は、撥水撥油層が形成されていない比較例7に比べて水及びn−HDの接触角が大きく、撥水撥油性に優れていたため、撥水撥油層が形成されていることがわかる。実施例4で得られた撥水撥油性部材が、実施例1で得られた撥水撥油性部材より、水及びn−HDの接触角が大きくなったのは、線状凸部の高さがより高い(線状凹部の深さがより深い)ことに起因すると推定された。また、実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材は、特に、特定の線状微細凹凸形状に追従した凹凸形状を表面に有するものであったため、生産性に優れ、凸部が潰れたり、倒れたりすることがなく、耐久性にも優れていながら、反射率が低く、光学特性にも優れていた。実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材の反射率が低いのは、線状凸部を有することで空気界面との屈折率が連続的に変化し、その結果、界面反射が低減しているものと考察する。
また、実施例1〜7における撥水撥油性部材の製造工程においては、炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を含有しないフッ素化合物を用いたため、前記撥水撥油層の形成において、環境負荷等が懸念されているパーフルオロオクタン酸(PFOA)が副生されず、環境負荷が少なく、化学蒸着法により、高温環境下にすることなく撥水撥油層を形成することができたため、製造工程上の負担が小さかった。
一方で、比較例1で得られた部材は、部材の表面が平坦面であったため、撥水性及び撥油性に劣り、反射防止性能も劣っていた。
比較例2〜6は、使用したフッ素化合物が、本発明で特定するものでなく、酸素原子を含有する及び/又はいずれの末端にもパーフルオロアルキル基を含有しないフッ素化合物であったため、撥水性及び撥油性に劣っていた。
比較例7は、撥水撥油層が形成されなかったため、撥水性及び撥油性に劣っていた。
実施例1において、撥水撥油層の形成の際に、線状微細凹凸層上にメタルマスクを設置し、蒸着膜を成膜後、メタルマスクを取り除いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例8の撥水撥油性部材を得た。メタルマスクとしては、ストライプ状にライン/スペース=5.0mm/5.0mmのパターンが形成されているものを用い、線状凸部の延在方向と平行方向のストライプ状となるように、メタルマスクを設置した。
メタルマスクのライン部分が、親水性且つ親油性の線状微細凹凸層表面のまま残り、スペース部分のみに撥水撥油層が形成された。
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=10.0mm/2.0mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例9の撥水撥油性部材を得た。
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=5.0mm/1.0mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例10の撥水撥油性部材を得た。
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=2.5mm/0.5mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例11の撥水撥油性部材を得た。
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=0.5mm/0.1mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例12の撥水撥油性部材を得た。
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=1.0mm/0.1mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例13の撥水撥油性部材を得た。
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=10.0mm/0.1mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例14の撥水撥油性部材を得た。
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=5.0mm/5.0mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例15の撥水撥油性部材を得た。
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=1.0mm/1.0mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例16の撥水撥油性部材を得た。
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=0.5mm/0.5mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例17の撥水撥油性部材を得た。
実施例8〜17で得られた撥水撥油性部材について、前記撥水性評価IIと同様の評価を行った。実施例8〜17で得られた撥水撥油性部材は、各設置角度において、撥水撥油層が設けられていない部分を伝わって水が流れる様子を観察することができた。また、実施例9〜17で得られた撥水撥油性部材については、前記設置角度を90°として、同様にして評価を行った。実施例9〜17の中では、実施例9〜11及び実施例13〜16で得られた撥水撥油性部材が、特に短時間で水が流れ始め、流水性に優れ、撥水撥油層が形成されていない部分の視認性に優れることにより、撥水撥油性部材全体も視認性に優れていた。これは、実施例9〜11及び実施例13〜16では、親水性を有する撥水撥油層が形成されていない部分の幅がある程度大きく、当該部分において水滴が大きく成長しやすいためであると考えられる。また、これらの中でも、実施例9〜11及び実施例13、14で得られた撥水撥油性部材は、流水性に優れていたことに加えて、撥水撥油層部分よりも撥水撥油層が形成されていない部分の方が撥水撥油性部材全体を占める割合が大きかったため、特に撥水撥油性部材全体の視認性に優れていた。
1’ 受容層
2 線状凸部
3 撥水撥油層
4 線状微細凹凸形状
4’ 線状微細凹凸形状に追従した凹凸形状
5 基材
6、6’(6a、6’a、6b) 凸部の端部
7 透明基材
10 撥水撥油性部材
11 ダイ
12 押圧ローラ
13 剥離ローラ
20 賦型用ロール金型
30 円柱状母材
31 バイト
X,Y,Z 線状凸部の延在方向をYとした場合のXYZ座標軸
Claims (4)
- 複数の互いに平行な線状凸部が一方向又は略一方向に延在する線状微細凹凸形状を少なくとも一方の面に有し、且つ樹脂組成物の硬化物からなる線状微細凹凸層と、前記線状微細凹凸形状を有する側の面に設けられた撥水撥油層とを備え、
前記線状微細凹凸形状において、隣接する線状凸部間隔pの平均値pAVGが500nm以下であり、
前記撥水撥油層は、前記線状微細凹凸形状に追従した凹凸形状を表面に有し、炭素数1〜6のパーフルオロアルカン及び下記式(1)により表されるフッ素化合物
F(CF 2 ) n −Y 式(1)
(式(1)中、nは1〜6であり、Yはフッ素原子及び酸素原子を含有しない置換基である。)
から選ばれる少なくとも1種のみを蒸着源とした蒸着膜であることを特徴とする、撥水撥油性部材。 - 前記撥水撥油層の表面における、純水の静的接触角が、150°以上であり、n−ヘキサデカンの静的接触角が、90°以上である、請求項1に記載の撥水撥油性部材。
- 前記撥水撥油層がパターン状に配置されてなり、前記撥水撥油層のパターンの幅が0.1mm以上である、請求項1又は2に記載の撥水撥油性部材。
- 複数の互いに平行な線状凸部が一方向又は略一方向に延在する線状微細凹凸形状を少なくとも一方の面に有し、且つ樹脂組成物の硬化物からなる線状微細凹凸層と、前記線状微細凹凸形状を有する側の面に設けられた撥水撥油層とを備え、前記線状微細凹凸形状において、隣接する線状凸部間隔pの平均値pAVGが500nm以下であり、前記撥水撥油層は、前記線状微細凹凸形状に追従した凹凸形状を表面に有する、撥水撥油性部材の製造方法であって、
バイトを用いた切削加工によって、円柱状母材の外周面に、円周方向に沿って並列した複数の溝を順次形成することにより、賦型用ロール金型を製造する工程と、
前記賦型用ロール金型を使用した賦型処理によって、前記線状微細凹凸形状を形成することにより、前記線状微細凹凸層を形成する工程と、
炭素数1〜6のパーフルオロアルカン及び下記式(1)により表されるフッ素化合物
F(CF 2 ) n −Y 式(1)
(式(1)中、nは1〜6であり、Yはフッ素原子及び酸素原子を含有しない置換基である。)
から選ばれる少なくとも1種のみを蒸着源とする化学蒸着法によって、前記線状微細凹凸層の前記線状微細凹凸形状を有する側の面に、撥水撥油層を形成する工程と、を有することを特徴とする、撥水撥油性部材の製造方法。
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