JP6398638B2 - 撥水撥油性部材及び撥水撥油性部材の製造方法 - Google Patents

撥水撥油性部材及び撥水撥油性部材の製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP6398638B2
JP6398638B2 JP2014232040A JP2014232040A JP6398638B2 JP 6398638 B2 JP6398638 B2 JP 6398638B2 JP 2014232040 A JP2014232040 A JP 2014232040A JP 2014232040 A JP2014232040 A JP 2014232040A JP 6398638 B2 JP6398638 B2 JP 6398638B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
water
oil repellent
fine
layer
oil
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2014232040A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2016093960A (ja
Inventor
祐一 宮崎
祐一 宮崎
椎名 徳之
徳之 椎名
恵範 林田
恵範 林田
洋一郎 大橋
洋一郎 大橋
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Dai Nippon Printing Co Ltd
Original Assignee
Dai Nippon Printing Co Ltd
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Dai Nippon Printing Co Ltd filed Critical Dai Nippon Printing Co Ltd
Priority to JP2014232040A priority Critical patent/JP6398638B2/ja
Publication of JP2016093960A publication Critical patent/JP2016093960A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP6398638B2 publication Critical patent/JP6398638B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Images

Landscapes

  • Chemical Vapour Deposition (AREA)
  • Surface Treatment Of Optical Elements (AREA)
  • Laminated Bodies (AREA)
  • Materials Applied To Surfaces To Minimize Adherence Of Mist Or Water (AREA)

Description

本発明は、撥水撥油性部材及び撥水撥油性部材の製造方法に関するものである。
タッチパネルディスプレイ等の表示装置のディスプレイや、建造物や自動車等の乗り物の窓、壁等においては、水滴や汚れの付着を防止するために、撥水性及び撥油性の付与が求められる。
従来、基材の表面に、微細な凹凸構造を付与することにより、光の反射防止機能や、液体、特に水の付着を防ぐ撥水機能が得られることが知られており、撥水機能を向上させるため、微細な凹凸構造の上にさらに撥水性化合物としてフッ素系化合物を含有する被覆層を設けることが行われている。例えば、特許文献1には、微細凹凸構造を備えた基材の凹凸表面に、化学結合可能な部位と疎水性官能基とを有する化合物であって、含炭素化合物から成る第1の撥水性化合物Aと、第1の撥水性化合物Aよりも炭素数が少ない含炭素化合物B及び/又は無機化合物Cから成る第2の撥水性化合物を備えることが記載されている。
また、特許文献2には、基体の表面に設けられた微細な凹凸を有する構造体表面の指紋濡れ広がりを抑制するために、パ−フルオロポリエーテル基またはフルオロアルキル基を持つアルコキシシラン化合物等のフッ素系樹脂を含む表面処理層を、ディップコーティングにより形成する旨が記載されている。
特許文献3には、基板上に作製した金属Al膜の温水処理によるAl化合物ナノシート上に酸化アルミニウム微粒子層膜を作製した二層構造を焼結処理した高強度複合ナノシート膜において、基板が透明基板であり、高強度複合ナノシート膜の表面にあるナノシート微細構造の表面に、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン等の低分極率化合物シラン化合物をコーティングした超撥水性透明膜が開示されており、コーティング法として、具体的に、溶液浸漬法(60℃、24時間)や化学蒸着(CVD)法(180℃、1時間)が記載されている。
特開2010−201799号公報 特開2011−76072号公報 特開2011−213511号公報
しかしながら、特許文献1、2に記載されるように、多数の微小突起を密接して配置した微細凹凸構造を表面に有する部材は、その表面構造のため、耐久性の点で問題があった。すなわち、表面を拭いたり、表面に他の物品等が接触したとき等に、その圧力で、容易に突起が潰れたり、突起の先端同士が付着する等の塑性変形が生じることで、接触箇所に痕が残ってしまう場合があるなど、使用中の耐久性に問題があった。
また、多数の微小突起を密接して配置した微細凹凸構造は、特許文献1、2に記載されるように賦型金型を用いて作製する場合には、多数の微小突起を密接して配置した微細凹凸構造は、製造時に使用される賦型金型を大面積で作製することが容易ではなく、また、複数の微細孔を形成するために陽極酸化やケミカルエッチング、ブラスト等の手法を用いて製造する場合には微細凹凸形状のばらつきを制御する事が難しく、また微細凹凸に賦型樹脂が詰まりやすいため賦型金型の寿命も短いなど、生産性の点からも問題があった。一方で、特許文献3に記載される超撥水性透明膜は、900〜1100℃もの高温による焼結処理が必要であり、製造工程上の負荷が高く、また、表面構造を所望の微細構造に制御することが困難であるという問題があった。
また、従来、撥水性材料として用いられているフッ素化合物には、パーフルオロオクチル基(C17−)が含まれるものが多い。パーフルオロオクチル基を含むフッ素化合物は、その製造過程において生成されるパーフルオロオクタン酸(PFOA)の環境負荷、人体への影響が懸念される物質であるため、より環境負荷等の少ない材料を用いることが求められている。
また、フッ素化合物を含む薄膜を形成する方法として、ディップコーティング法は、片面のみに薄膜を成膜することが困難であるために、表示装置、窓、壁などに貼ることのできる部材を生産する方法としては問題がある。さらに、ディップコーティング法に用いられるシランカップリング基を有するフッ素化合物は、塗布後に常温または高温高湿の雰囲気で1時間以上放置することが推奨されており、ロールツーロール方式の生産には向かない。ドライコーティング法を用いる方法は、樹脂材料を下地とする場合に、樹脂材料の耐性から条件が制約されてしまう。一方で、生産工程上の負荷を低減するため、またフレキシブル性を付与するために、樹脂材料を用いながら高い撥水性及び撥油性を発現する部材が求められている。
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、耐久性及び生産性に優れ、撥水性及び撥油性に優れた撥水撥油性部材、及び当該撥水撥油性部材の製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係る撥水撥油性部材は、複数の微小凹部が互いに離間して配置された微小凹部群、及び、前記各微小凹部の間に各微小凹部を取り囲むように配置され連結している凸部を備えた微細構造体を少なくとも一方の面に有し、且つ樹脂組成物の硬化物からなる微細凹凸層と、前記微細構造体を有する側の面に設けられた撥水撥油層とを備え、
隣接する前記微小凹部間の距離Pが500nm以下であり、
前記撥水撥油層は、前記微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有し、少なくとも1つの末端に炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有し、酸素原子を含有しない、炭素数10以下のフッ素化合物を蒸着源とした蒸着膜であることを特徴とする。
本発明に係る撥水撥油性部材は、前記撥水撥油層の表面における、純水の静的接触角が、150°以上であることが、撥水性に優れる点から好ましく、n−ヘキサデカンの静的接触角が、90°以上であることが、撥油性に優れる点から好ましい。
本発明に係る撥水撥油性部材の製造方法は、複数の微小凹部が互いに離間して配置された微小凹部群、及び、前記各微小凹部の間に各微小凹部を取り囲むように配置され連結している凸部を備えた微細構造体を少なくとも一方の面に有し、且つ樹脂組成物の硬化物からなる微細凹凸層と、前記微細構造体を有する側の面に設けられた撥水撥油層とを備え、隣接する前記微小凹部間の距離Pが500nm以下であり、前記撥水撥油層は、前記微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有する、撥水撥油性部材の製造方法であって、
前記微細構造体の製造用金型を作製する製造用金型の作製工程と、
前記製造用金型を使用した賦型処理によって前記微細構造体を作製することにより前記微細凹凸層を形成する工程と、
前記微細凹凸層の前記微細構造体を有する側の面に、撥水撥油層を形成する工程と、を有し、
前記製造用金型の作製工程では、
前記製造用金型の母材の表面の切削により、前記母材の表面に、一方向に延長する第1の微細溝を作製する第1の切削工程と、
前記第1の微細溝を埋め戻し材により埋め戻す埋め戻し工程と、
前記埋め戻し工程により第1の微細溝を埋め戻した前記表面の切削により、前記第1の微細溝と交差する第2の微細溝を作製する第2の切削工程と、
前記埋め戻し工程による埋め戻しに供した前記埋め戻し材を、前記第1の微細溝より除去する除去工程とを有し、
前記撥水撥油層を形成する工程では、
少なくとも1つの末端に炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有し、酸素原子を含有しない、炭素数10以下のフッ素化合物を蒸着源とする化学蒸着法によって、前記微細凹凸層の前記微細構造体を有する側の面に、撥水撥油層を形成することを特徴とする。
本発明によれば、耐久性及び生産性に優れ、撥水性及び撥油性に優れた撥水撥油性部材、及び当該撥水撥油性部材の製造方法を提供することができる。
本発明に係る撥水撥油性部材の一例を模式的に示す斜視図である。 本発明に係る撥水撥油性部材の他の一例を模式的に示す斜視図である。 微小凹部の垂直断面形状の具体例を示す図である。 互いに隣接する微小凹部の説明に供する図である。 隣接する微小凹部間の距離Pの説明に供する図である。 微小凹部の深さDの説明に供する図である。 微細凹凸層の形成工程の一例を示す図である。 ロール版の構成の一例を示す斜視図である。 ロール版の製造工程を示すフローチャートである。 ロール版の製造工程の説明に供する図である。 第1の切削工程の説明に供する図である。 第2の切削工程の説明に供する図である。 微細溝の説明に供する図である。 切削工程の他の例を示す図である。 図14とは異なる切削工程の他の例を示す図である。 図14、図15とは異なる切削工程の他の例を示す図である。
本発明において(メタ)アクリルとは、アクリル又はメタアクリルの各々を表し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートの各々を表し、(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル又はメタクリロイルの各々を表す。
さらに、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「垂直」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
本発明に係る撥水撥油性部材は、複数の微小凹部が互いに離間して配置された微小凹部群を備えた微細構造体を少なくとも一方の面に有し、且つ樹脂組成物の硬化物からなる微細凹凸層と、前記微細構造体を有する側の面に設けられた撥水撥油層とを備え、
隣接する前記微小凹部間の距離Pが500nm以下であり、
前記撥水撥油層は、前記微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有し、少なくとも1つの末端に炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有し、酸素原子を含有しない、炭素数10以下のフッ素化合物を蒸着源とした蒸着膜であることを特徴とする。
本発明に係る撥水撥油性部材の製造方法は、複数の微小凹部が互いに離間して配置された微小凹部群を備えた微細構造体を少なくとも一方の面に有し、且つ樹脂組成物の硬化物からなる微細凹凸層と、前記微細構造体を有する側の面に設けられた撥水撥油層とを備え、隣接する前記微小凹部間の距離Pが500nm以下であり、前記撥水撥油層は、前記微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有する、撥水撥油性部材の製造方法であって、
前記微細構造体の製造用金型を作製する製造用金型の作製工程と、
前記製造用金型を使用した賦型処理によって前記微細構造体を作製することにより前記微細凹凸層を形成する工程と、
前記微細凹凸層の前記微細構造体を有する側の面に、撥水撥油層を形成する工程と、を有し、
前記製造用金型の作製工程では、
前記製造用金型の母材の表面の切削により、前記母材の表面に、一方向に延長する第1の微細溝を作製する第1の切削工程と、
前記第1の微細溝を埋め戻し材により埋め戻す埋め戻し工程と、
前記埋め戻し工程により第1の微細溝を埋め戻した前記表面の切削により、前記第1の微細溝と交差する第2の微細溝を作製する第2の切削工程と、
前記埋め戻し工程による埋め戻しに供した前記埋め戻し材を、前記第1の微細溝より除去する除去工程とを有し、
前記撥水撥油層を形成する工程では、
少なくとも1つの末端に炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有し、酸素原子を含有しない、炭素数10以下のフッ素化合物を蒸着源とする化学蒸着法によって、前記微細凹凸層の前記微細構造体を有する側の面に、撥水撥油層を形成することを特徴とする。
本発明に係る撥水撥油性部材について図を参照して説明する。図1及び図2はそれぞれ、本発明に係る撥水撥油性部材の一例を模式的に示す斜視図である。図1に示す撥水撥油性部材10は、複数の微小凹部2が互いに離間して配置された微小凹部群を備えた微細構造体を少なくとも一方の面に有する微細凹凸層1と、微細構造体を有する側の面に設けられ、微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有する撥水撥油層4とを備える。また、微小凹部2間には、凸部3が配置され、前記凸部3は、撥水撥油層側の表面に対して垂直方向から投影する平面視において連結している。
本発明に係る撥水撥油性部材は、図1のように微細凹凸層1と撥水撥油層4との2層からなるものであっても良いし、図2のように、基材5の一面側に微細凹凸層1と撥水撥油層4とを備えた構造であっても良い。
また、本発明に係る撥水撥油性部材は、図示しないが、基材5の両面側に微細凹凸層1と撥水撥油層4とを備えた構造であっても良い。
本発明の撥水撥油性部材は、複数の微小凹部2が互いに離間して配置された微小凹部群を備えた微細構造体を少なくとも一方の面に有する微細凹凸層と、当該微細構造体を有する側の面に設けられた撥水撥油層とを備え、撥水撥油層が、前記微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有し、特定のフッ素化合物を蒸着源とした蒸着膜である。本発明においては、撥水撥油層が、特定のフッ素化合物を蒸着源とした蒸着膜であることにより、撥水撥油層の材料自体が撥水及び撥油性能に優れ、さらに特定の微細構造体に追従した凹凸形状を有して表面積が大きくなることにより、撥水及び撥油性能が強調され、より一層優れた撥水及び撥油性能を発揮する。すなわち、本発明においては、撥水撥油層の材料自体が撥水及び撥油性能に優れるため、撥水撥油層表面に置かれた液体と、撥水撥油層とが完全に接触する部分においては、優れた撥水及び撥油性能が発揮される。また、撥水撥油層表面の微小凹部の溝が深い又は狭いために、その上に置かれた液体が撥水撥油性を有する溝に侵入できない部分においては、液体の下に空気(空気と液体との接触角は180°とみなすことができる)が残るため、撥水撥油層表面に対する液体の接触角がより大きくなり、さらに優れた撥水及び撥油性能が発揮される。なお、本発明において、撥水性及び撥油性の両方を兼ね備えた性質のことを「撥水撥油性」という場合がある。
本発明の撥水撥油性部材は、このように、多数の微小突起を密接して配置した微細凹凸構造を表面に有する部材のように、表面積を大きくすることにより撥水撥油性が強調される効果が得られながら、耐久性に優れる。本発明の撥水撥油性部材は、その表面構造が、複数の微小凹部が互いに離間して配置された微小凹部群を備えた微細構造体に追従した凹凸形状であるため、前記微小凹部間に凸部が存在し、各微小凹部が凸部に取り囲まれた凹凸形状を有していることから、微小突起が密接して配置されてなる微細凹凸形状に比べて、微細構造体自体の構造上の耐久性が優れる。よって、撥水撥油層の下地となる微細凹凸層が樹脂組成物の硬化物からなるものであっても微細構造体が変形し難い。このように使用中の変形が抑制されることから、撥水撥油性が劣化し難く、撥水撥油性の持続性に優れたものになる。
また、本発明の撥水撥油性部材は、微細凹凸層が表面に有する微細構造体が、複数の微小凹部が互いに離間して配置された微小凹部群を備えた構造であり、賦型処理により容易に形成できるため、従来の微小突起が密接して配置されてなる微細凹凸形状を有する部材に比して、効率良く大量生産ができる生産性の高い製造方法によって製造することが可能である。
また、本発明の撥水撥油性部材は、撥水撥油層を形成する材料として、少なくとも1つの末端に炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有し、酸素原子を含有しない、炭素数10以下のフッ素化合物、即ち炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を含有しないフッ素化合物を用いる。これにより、いずれの末端にもパーフルオロアルキル基を含有しないフッ素化合物や、酸素原子を含有するフッ素化合物を用いる場合に比べて、撥水撥油性に優れる。これは、本発明で特定するフッ素化合物を用いることにより、撥水撥油性能を発揮するパーフルオロアルキル基が、撥水撥油層表面により多く存在することになり、且つ、酸素を含有せず、例えば水酸基やシラノール基等の親水性基により撥水撥油性能が阻害されないからと考えられる。
また、本発明に係る撥水撥油性部材は、撥水撥油性が付与されることにより、さらに防汚性も良好になる。
本発明の撥水撥油性部材の製造方法においては、賦型用ロール金型を用いた賦型処理によって微細構造体を形成するため、大面積の微細凹凸層を長尺状で製造することが可能であり、小面積の成形構造体を継ぎ合わせる必要がない。また、金型の作製時に前記特定の切削工程を用いることから、陽極酸化やケミカルエッチングを用いた場合と比べて、ロール版による製造用金型を効率良く作製することができる。このロール版を使用して、生産性高く本発明の撥水撥油性部材を製造することができる。
また、本発明の撥水撥油性部材の製造方法においては、微細構造体を有する側の面に、化学蒸着法により、フッ素化合物の蒸着膜である撥水撥油層を形成する。撥水撥油層は、フッ素化合物が微細構造体を有する面上に堆積されていくことにより形成されるため、形成された撥水撥油層の表面は、微細構造体に追従した凹凸形状を有する。このように、本発明に係る製造方法によって得られる撥水撥油性部材は、特定のフッ素化合物を用いて形成された撥水撥油層側表面が特定の凹凸形状を有するため、上述したように、優れた撥水撥油性を発揮する。
また、本発明の撥水撥油性部材の製造方法においては、炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を含有しないフッ素化合物を用いるため、環境負荷等が懸念されているパーフルオロオクタン酸(PFOA)が副生されず、環境負荷が少ない。
さらに、本発明に係る撥水撥油性部材の製造方法においては、化学蒸着法により、高温環境下にすることなく撥水撥油層を形成することができる。そのため、支持部材の材料は、耐熱性の高い材料に限定されず、材料選択の幅が広い。支持部材の材料選択の幅が広いことにより、樹脂フィルム等のフレキシブル性の高い支持部材を用いることができるため、得られた撥水撥油性部材を後から貼り付けて使用する場合においても、設置場所が限定され難く、且つ容易に設置することができる。また、撥水撥油層の形成を高温環境下で行う必要がないことから、高温加熱による微細構造体の変形を抑制することができる。よって、本発明の製造方法においては、撥水撥油層の表面を所望の凹凸形状とすることが容易である。また、化学蒸着法は、真空蒸着法やスパッタリング法のような物理的成膜法に比べて成膜時の圧力が高いため、粒子の回り込みがよく、微小凹部に対するステップカバレッジに優れている。そのため、本発明の製造方法においては、撥水撥油層を微細構造体の表面に容易に均一に形成することができる。
以下、本発明に係る撥水撥油性部材の必須成分である微細凹凸層及び撥水撥油層、並びに含まれていても良い基材、その他構成について、順に説明する。
<微細凹凸層>
微細凹凸層1は、複数の微小凹部2が互いに離間して配置された微小凹部群を備えた微細構造体を少なくとも一方の面に有する。また、前記微小凹部2間には、凸部3が配置され、前記凸部3は、微細構造体側の表面に対して垂直方向から投影する平面視において連結している。このように微小凹部間の当該微小凹部を取り囲んだ凸部が平面視で連結して形成されているため、当該凸部は表面に他の物品等が接触しても、その圧力で、容易に凸部が潰れたり、凸部の先端同士が付着する等の塑性変形が抑制されるため、接触箇所に痕が残りにくく、使用中の耐久性が高い。
前記微小凹部の形状は、特に限定はされず、微細構造体側の表面に対して垂直方向から投影する平面視における形状としては、例えば、図1、2に示すような四角形の他、三角形、五角形及び六角形等の多角形、円形、楕円形、並びに直線と曲線を組み合わせた形状等を挙げることができ、特に限定はされないが、中でも、生産性の高い方法により容易に製造ができる点から、多角形が好ましく、四角形がより好ましい。
前記微小凹部の垂直断面形状としては、特に限定はされないが、例えば、図3(A)に示すような矩形、図3(B)に示すような三角形、図3(C)に示すような両壁面にテーパーを設けた台形、図3(D)に示すような凸部の頂部が丸みを帯び且つ両壁面にテーパーを設けた形状、図3(E)に示すような一方の壁面にテーパーを設けた台形等を挙げることができる。中でも、前記微小凹部の垂直断面形状としては、撥水撥油性に優れ且つ生産性の高い方法により容易に製造ができる点からは、矩形が好ましく、反射防止性能を付与し得る点からは、微小凹部の深さ方向に向かって幅が小さくなっていく形状が好ましい。なお、微小凹部の深さ方向とは、微小凹部を取り囲む凸部の頂部から微小凹部の底部に向かう方向のことをいう。
前記微細構造体が有する複数の微小凹部の形状は、同一の形状を有していても異なる形状を有していてもよい。
また、前記微細構造体においては、隣接する前記微小凹部間の距離Pが500nm以下であることにより、前記微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有する撥水撥油層の撥水撥油性に優れる。前記微小凹部間の距離Pは、さらに撥水撥油性に優れ、反射防止性能が付与される点からは、380nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましい。また、隣接する前記微小凹部間の距離Pは、特に限定はされないが、製造上の点から、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。中でも、撥水撥油性及び反射防止性能の発現が向上する点から、70nm以上であることが更により好ましい。
なお、隣接する前記微小凹部間の距離Pは、各微小凹部間において異なっていてもよく、同じであってもよいし、隣接する前記微小凹部間の距離Pが周期的に異なるように微小凹部が配置されていてもよい。
本発明において、互いに隣接する微小凹部とは、2つの微小凹部の最も離れた端部を結んだ線分が直径となるように描かれた円内に、他の微小凹部の全てが包含されないような微小凹部同士をいう。例えば図4に示すように、微小凹部2a、2bの最も離れた端部A、A’を結んだ線分が直径となるように描かれた円内には、他の微小凹部の全てが包含されないため、微小凹部2a、2bは互いに隣接する。一方で、微小凹部2c、2dの最も離れた端部B、B’を結んだ線分が直径となるように描かれた円内には、他の微小凹部2eの全てが包含されるため、微小凹部2c、2dは互いに隣接しない。
なお、本発明に係る撥水撥油性部材は、撥水撥油層の表面が、微細凹凸層の微細構造体に追従した凹凸形状を有するため、前記微小凹部間の距離Pは、撥水撥油層を含めて複数の微小凹部が互いに離間して配置された微小凹部群を備えた微細構造体を考えた場合における撥水撥油層表面の微小凹部間の距離と実質的に同じであるとすることができる。
本発明において、隣接する前記微小凹部間の距離Pは、微小凹部が規則的に配置されてなる場合は、図1に示すように、一方の微小凹部の端部から、当該微小凹部と隣接する他方の微小凹部の端部までの間隔をいう。具体的に、図1に示すように、微小凹部が微細構造体の表面を垂直方向から投影する平面視において、その形状が正方形である柱状の凹部であり、この正方形の直交する2辺の延長方向に、微小凹部がそれぞれ繰り返し作成され、マトリックス状に設けられる場合は、この2辺の延長方向に係る繰り返しピッチPx及びPyが、隣接する前記微小凹部間の距離Pに相当する。
微小凹部が不規則的に配置されてなる場合は、互いに隣接する微小凹部間の距離が最も短くなる端部間の距離と、互いに隣接する2つの微小突起の、微細構造体の表面を垂直方向から投影した平面視における微小凹部の形状の長径の平均との和を、隣接する前記微小凹部間の距離Pとする。具体的に、図5に示すような場合において、互いに隣接する微小凹部2f、2gとの微小凹部間の距離Pは、微小凹部2f、2g間の距離が最も短くなる端部間の距離P1と、微小凹部2fの微細構造体の表面を垂直方向から投影した平面視における形状の長径L1と微小凹部2gの微細構造体の表面を垂直方向から投影した平面視における形状の長径L2との平均との和、即ち、P=P1+(L1+L2)/2により求めることができる。
前記微小凹部の深さDは、特に限定はされないが、撥水撥油性及び反射防止性能の発現が向上する点から、500nm以下であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましい。また、前記微小凹部の深さDは、製造上の点から10nm以上であることが好ましく、撥水撥油性及び反射防止性能の発現が向上する点から、50nm以上であることが好ましく、70nm以上であることがより好ましい。
ここで、前記微小凹部の深さDは、微細凹凸層の撥水撥油層側表面における凸部の高さから、微小凹部の最深部までの距離をいう。本発明に係る撥水撥油性部材を用いて微小凹部の深さを測定する場合は、図6に示すように、当該微小凹部の最深部を通る垂直断面を用いて、撥水撥油層表面の凸部の高さから撥水撥油層表面の凹部の最深部までの距離D’、凹部の最深部における撥水撥油層の厚みT1、凸部における撥水撥油層の厚みT2を測定し、D=D’+T1−T2により求めることができる。
また、前記微細構造体の表面を垂直方向から投影した平面視における微小凹部の長径は、隣接する前記微小凹部間の距離Pの1/5以上、4/5以下であることが、撥水撥油性に優れ、前記微細構造体の形成に用いられる賦型用金型の微小溝の作成が容易であり、生産性に優れる点から好ましく、1/3以上、2/3以下であることがより好ましい。
また、図1に示すように、微小凹部の形状が、微細構造体の表面を垂直方向から投影する平面視において、正方形である柱状であり、この正方形の直交する2辺の延長方向に、微小凹部がそれぞれ繰り返し作成され、マトリックス状に設けられる場合は、この2辺の延長方向に係る幅Wx、Wyが、対応する繰り返しピッチPx及びPyの1/5以上、4/5以下であることが、撥水撥油性に優れ、前記微細構造体の形成に用いられる賦型用金型の微小溝の作成が容易であり、生産性に優れる点から好ましく、1/3以上、2/3以下であることがより好ましい。
また、隣接する前記微小凹部間の距離Pに対する微小凹部の深さDの比(D/P)が、0.4〜5.0であることが好ましく、更に、0.5〜2.5であることが好ましく、更に、0.5〜2.1であることがより好ましい。前記D/Pが前記下限値以上であることにより、撥水撥油性の向上効果に優れ、前記上限値以下であることにより、生産性、機械強度及び防汚性に優れる。
前記微細凹凸層の厚みは、適宜調整すればよく、特に限定はされない。例えば基材の一面側に微細凹凸層を備えた態様の場合には、微細凹凸層の厚みは、基材表面に前記微細構造体を形成可能な最低限の厚みにて各種性能を発現可能である。しかしながら後述の賦型プロセスでの生産性を考慮すると、厚みが薄い場合は異物による外観欠陥が発生しやすく、厚みが厚いと賦型速度が低下したりカールの懸念が高くなるため、微細凹凸層の厚みは、3μm〜30μmであることが好ましく、5μm〜20μmであることがより好ましい。この場合の微細凹凸層の厚みは、微細凹凸層の基材との界面から凸部の頂面までの厚みをいう。
また、基材の表面に前記微細構造体が設けられた微細凹凸層の場合には、当該厚みは基材の厚みに依存し、特に限定されない。
本発明において微細凹凸層は、樹脂組成物の硬化物からなる。なお、本発明において硬化物とは、化学反応を経て又は経ないで固化したもののことをいう。
前記樹脂組成物は、特に限定されず、少なくとも樹脂を含み、必要に応じて重合開始剤等その他の成分を含有する。樹脂組成物には、1種類の樹脂のみが含まれるものも包含される。なお、本発明において樹脂とは、モノマーやオリゴマーの他、ポリマーを含む概念である。
前記樹脂組成物としては、中でも、平坦な硬化膜表面における水の接触角が90°未満であるものが、親水性を有する点から好ましく、より好ましくは60°以下であり、更により好ましくは40°以下である。前記樹脂組成物が親水性を有することにより、賦型性に優れ、生産性に優れる。また、後述する撥水撥油層をパターン状に形成した場合に、前記樹脂組成物の硬化物が親水性であると、撥水撥油層が設けられていない部分、すなわち前記樹脂組成物の硬化物からなる微細凹凸層が露出した部分は、平坦な硬化膜表面に比べて親水性が強調される。そのため、撥水撥油層からなる撥水性のパターンを形成することにより、同時に、撥水撥油層が設けられていない部分のパターンとして、前記樹脂組成物の硬化物からなる親水性のパターンを形成することができる。
なお、本発明において、樹脂組成物の平坦な硬化膜表面における接触角は、以下のように測定される。
まず、平坦な基材上に微細凹凸層用の樹脂組成物を塗布して硬化させることにより、平坦な硬化膜を形成する。当該硬化膜は、水の接触角の再現性が取れるように(例えば標準偏差が4°以内となるように)十分に溶媒を乾燥し、必要に応じて十分に反応させて硬化したものである。例えば、電離放射線硬化性樹脂が用いられる場合、透明基材上に厚さ5μmの微細凹凸層用の樹脂組成物からなる塗膜を形成し、紫外線を940mJ/cm以上の積算光量となるように照射することにより十分に反応させて硬化した硬化膜を形成する。
そして、当該硬化膜側を上面にして、粘着層つきの黒アクリル板に水平に貼り付ける。次いで、接触角を測定しようとする溶剤(例えば純水)1.0μLの液滴を滴下し、着滴10秒後の静的接触角をθ/2法に従って計測する。測定装置としては、例えば、協和界面科学社製 接触角計DM 500を用いることができる。
前記樹脂組成物に用いられる樹脂としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリレート系、エポキシ系、ポリエステル系等の電離放射線硬化性樹脂、(メタ)アクリレート系、ウレタン系、エポキシ系、ポリシロキサン系等の熱硬化性樹脂、(メタ)アクリレート系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系等の熱可塑性樹脂等の各種材料及び各種硬化形態の賦型用樹脂等が挙げられる。なお、電離放射線とは、分子を重合させて硬化させ得るエネルギーを有する電磁波または荷電粒子を意味し、例えば、すべての紫外線(UV−A、UV−B、UV−C)、可視光線、ガンマー線、X線、電子線等が挙げられる。
前記樹脂としては、中でも微細構造体の成形性及び機械的強度に優れる点から電離放射線硬化性樹脂が好ましく用いられる。なお、電離放射線硬化性樹脂とは、分子中にラジカル重合性及び/又はカチオン重合性結合を有する単量体、低重合度の重合体、反応性重合体を適宜混合したものであり、重合開始剤によって反応を経て硬化されるものである。なお、非反応性重合体を含有してもよい。
前記微細凹凸層は、耐久性の点からは、中でも、前記樹脂組成物の硬化物の25℃における貯蔵弾性率(E’)が200MPa以上である樹脂組成物からなることが、微細構造体の復元性が高く、撥水撥油層表面の形状の変形がより抑制される点から好ましい。前記樹脂組成物の硬化物の25℃における貯蔵弾性率(E’)の上限は特に限定されないが、微細凹凸層の柔軟性の点から、1200MPa以下であることが好ましく、800MPa以下であることがより好ましい。
汚れ拭き取り性の点からは、中でも、前記樹脂組成物の硬化物の25℃における貯蔵弾性率(E’)が300MPa以下であり、且つ、前記樹脂組成物の硬化物の25℃における貯蔵弾性率(E’)に対する損失弾性率(E”)の比(tanδ(=E”/E’))が0.2以下であることが、微細構造体が拭取る程度の圧力で変形し、且つ、優れた弾性復元性を備える点から好ましい。E’を300MPa以下とすることにより、拭取り時の圧力によって微細構造体が変形し、凹凸間の隙間に入り込んだ汚れ等を、乾拭きで除去することが容易となる。
また、損失正接を0.2以下とすることにより、拭取り時に変形した微細構造体が、弾性復元され、元の形状に戻りやすい。これにより、微細構造体の塑性変形が抑制され、微細構造体が有する機能を低下することなく、乾拭きで汚れ等を拭取ることが容易になる。中でも、tanδが0.18以下であることが好ましい。
本発明において貯蔵弾性率(E’)及び損失弾性率(E”)は、JIS K7244に準拠して、以下の方法により測定される。
まず、微細凹凸層形成用の樹脂組成物を、2000mJ/cmのエネルギーの紫外線を1分以上照射することにより十分に硬化させて、基材及び微細構造体を有しない、厚さ1mm、幅5mm、長さ30mmの単膜とする。
次いで、25℃下、上記樹脂組成物の硬化物の長さ方向に10Hzで25gの周期的外力を加え、動的粘弾性を測定することにより、25℃における、E’、E”が求められる。測定装置としては、例えば、UBM製 Rheogel E4000を用いることができる。
微細凹凸層用の樹脂組成物としては、撥水撥油性部材の用途に合わせて、適宜、好ましい親水性及びその他の物性が得られるように、選択される。
中でも、微細構造体の成形性及び機械的強度に優れる点から好適に用いられる、電離放射線硬化性樹脂として好ましく用いられる(メタ)アクリレートを含む樹脂組成物を例にとって、具体的に説明する。
(1)(メタ)アクリレート
(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基を1分子中に1個有する単官能(メタ)アクリレートであっても、(メタ)アクリロイル基を1分子中に2個以上有する多官能アクリレートであってもよく、単官能(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートとを併用するものであってもよい。
中でも、硬化物が上記貯蔵弾性率(E’)とtanδを満たしやすく、微細凹凸層が柔軟性と弾性復元性を両立する点からは、単官能(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートとを併用することが好ましい。
一方、硬度を高くする点からは、多官能(メタ)アクリレートのみを用いることが好ましい。
単官能(メタ)アクリレートの具体例としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリセロール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、イソデキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ビフェニロキシエチルアクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート、ビフェニリロキシエチル(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビフェニリロキシエチル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、硬化物表面の防汚性が向上し、微細凹凸層が柔軟性に優れる点から、炭素数10以上の長鎖アルキル基を有する単官能(メタ)アクリレートが好ましく、中でも、炭素数12以上であることがより好ましく、トリデシル(メタ)アクリレート、及びドデシル(メタ)アクリレートの少なくとも1種を含むことが更により好ましい。これらの単官能(メタ)アクリル酸エステルは、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
単官能(メタ)アクリレートを用いる場合の単官能(メタ)アクリレートの含有量は、電離放射線硬化性樹脂組成物の全固形分に対して、5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがより好ましい。
また、多官能アクリレートの具体例としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレンジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、フタル酸ジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ウレタントリ(メタ)アクリレート、エステルトリ(メタ)アクリレート、ウレタンヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。中でも、凸部が柔軟性及び復元性に優れ、且つ微細構造体表面の親水性が向上する点から、アルキレンオキサイドを含む多官能(メタ)アクリレートを用いることが好ましく、エチレンオキサイド変性多官能(メタ)アクリレートを用いることがより好ましく、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、及び、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートの少なくとも1種を含むことが更により好ましい。
上記多官能(メタ)アクリレートの含有量は、電離放射線硬化性樹脂組成物の全固形分に対して、10〜99.2質量%であることが好ましく、15〜99.1質量%であることがより好ましい。
親水性を高くするために、本発明において好ましく用いられる電離放射線硬化性樹脂組成物は、アルキレンオキサイドを含む多官能(メタ)アクリレートが含まれる組成物である。中でも、当該アルキレンオキサイドを含む多官能(メタ)アクリレートの含有量は、電離放射線硬化性樹脂組成物の全固形分に対して、70〜99質量%であることが好ましく、80〜99質量%であることがより好ましい。また、当該アルキレンオキサイドを含む多官能(メタ)アクリレートの含有量は、使用される全(メタ)アクリレート化合物中に80〜100質量%であることが好ましく、90〜100質量%であることがより好ましい。
(2)光重合開始剤
上記(メタ)アクリレートの硬化反応を開始又は促進させるために、必要に応じて光重合開始剤を適宜選択して用いても良い。光重合開始剤の具体例としては、例えば、ビスアシルフォスフィノキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、フェニルビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フォスフィンオキサイド、フェニル(2,4,6−トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸エチル等が挙げられる。これらは、単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
光重合開始剤を用いる場合、当該光重合開始剤の含有量は、通常、電離放射線硬化性樹脂組成物の全固形分に対して0.8〜20質量%であり、0.9〜10質量%であることが好ましい。
(3)帯電防止剤
本発明においては、前記樹脂組成物中に帯電防止剤を含有することが好ましい。帯電防止剤を含有することにより、微細凹凸層表面に汚れが付着することを抑制することができ、また、拭取り時に汚れが落ちやすい。
帯電防止剤は、従来公知のものの中から適宜選択して用いることができる。帯電防止剤の具体例としては、例えば、4級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、1級〜3級アミノ基等のカチオン性基を有する各種のカチオン性化合物、スルホン酸塩基、硫酸エステル塩基、リン酸エステル塩基、ホスホン酸塩基等のアニオン性基を有するアニオン性化合物、アミノ酸系、アミノ硫酸エステル系等の両性化合物、アミノアルコール系、グリセリン系、ポリエチレングリコール系等のノニオン性化合物、スズおよびチタンのアルコキシドのような有機金属化合物およびそれらのアセチルアセトナート塩のような金属キレート化合物等が挙げられる。中でも、カチオン性化合物が好ましく、3級アミノ基を有するカチオン性化合物がより好ましく、N,N−ジオクチル−1−オクタンアミン等のトリアルキルアミンであることが更により好ましい。
帯電防止剤を用いる場合、当該帯電防止剤の含有量は、通常、電離放射線硬化性樹脂組成物の全固形分に対して1〜20質量%であり、2〜10質量%であることが好ましい。
(4)溶剤
本発明において樹脂組成物は、塗工性などを付与する点から溶剤を用いてもよい。溶剤を用いる場合、当該溶剤は、組成物中の各成分とは反応せず、当該各成分を溶解乃至分散可能な溶剤の中から適宜選択して用いることができる。このような溶剤の具体例としては、例えば、ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、プロピレングリコールモノエチルエーテル(PGME)等のエーテル系溶剤、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン化アルキル系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、およびジメチルスルホキシド等のスルホキシド系溶剤、シクロヘキサン等のアノン系溶剤、メタノール、エタノール、およびプロパノール等のアルコール系溶剤を例示することができるが、これらに限られるものではない。また、樹脂組成物に用いられる溶剤は、1種類単独で用いてもよく、2種類以上の溶剤の混合溶剤でもよい。
樹脂組成物全量に対する、固形分の割合は20〜70質量%であることが好ましく、30〜60質量%であることがより好ましい。なお本発明において固形分とは、溶剤を除いたすべての成分を表す。
(5)その他の成分
本発明において用いられる微細凹凸層用の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更にその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、例えば、濡れ性調整のための界面活性剤、フッ素系化合物、シリコーン系化合物、安定化剤、消泡剤、ハジキ防止剤、酸化防止剤、凝集防止剤、粘度調整剤、離型剤等が挙げられる。
(微細凹凸層の形成方法)
前記微細凹凸層を形成する方法としては、複数の微小凹部が互いに離間して配置された微小凹部群を備えた微細構造体を少なくとも一方の面に有し、前記微細構造体において、隣接する前記微小凹部間の距離Pが500nm以下であり、樹脂組成物の硬化物からなる微細凹凸層を形成することができる方法であれば、特に限定はされない。例えば、前記微細構造体の製造用金型を作製する製造用金型の作製工程(以下、単に「製造用金型作製工程」と称する場合がある。)と、前記製造用金型を使用した賦型処理によって前記微細構造体を作製することにより前記微細凹凸層を形成する工程(以下、単に「微細凹凸層形成工程」と称する場合がある。)とを有することが好ましい。また、前記製造用金型作製工程では、前記微細構造体を反転した反転構造を有する金型を作製できる方法を適宜選択すればよい。中でも、前記製造用金型作製工程では、前記製造用金型の母材の表面の切削により、前記母材の表面に、一方向に延長する第1の微細溝を作製する第1の切削工程と、前記第1の微細溝を埋め戻し材により埋め戻す埋め戻し工程と、前記埋め戻し工程により第1の微細溝を埋め戻した前記表面の切削により、前記第1の微細溝と交差する第2の微細溝を作製する第2の切削工程と、前記埋め戻し工程による埋め戻しに供した前記埋め戻し材を、前記第1の微細溝より除去する除去工程とを有する方法が、生産性に優れる点から好ましい。
以下において、第1実施形態における微細凹凸層の形成方法について説明する。
図7は、微細凹凸層形成工程の一例を示す図である。図7に示す形成工程では、樹脂供給工程において、ダイ11により帯状フィルム形態の基材5に受容層1’を構成する未硬化で液状の紫外線硬化性樹脂を塗布する。なお紫外線硬化性樹脂の塗布については、ダイ11による場合に限らず、各種の手法を適用することができる。続いて、押圧ローラ13により、微細構造体の製造用金型であるロール版12の周側面に基材5を加圧押圧し、これにより未硬化状態で液状の紫外線硬化性樹脂をロール版12の周側面に密着させると共に、ロール版12の周側面に作製された微細な凹凸形状の凹部に紫外線硬化性樹脂を充分に充填する。この製造工程は、この状態で、紫外線の照射により紫外線硬化性樹脂を硬化させ、これにより基材5の表面に微小凹部群を作製する。この製造工程は、続いて剥離ローラ14を介してロール版12から、硬化した紫外線硬化性樹脂と一体に基材5を剥離する。製造工程は、必要に応じてこの基材5に粘着層等を作製した後、所望の大きさに切断して微細凹凸層1を作製する。これにより微細凹凸層1は、ロール材による長尺の基材5上に、微細構造体の製造用金型であるロール版12の周側面に作製された微細凹凸形状を順次賦型して、効率良く大量生産される。
図8は、図7のロール版12の構成の一例を示す斜視図である。ロール版12は、円筒形状又は円柱形状の金属材料である母材22の周側面に、矢印Aにより部分的に拡大して示すように、微細構造体の表面形状に対応する微細凹凸形状が作製される。ここで母材22は、この種の賦型処理に十分な強度を備え、また切削加工により微細凹凸形状の作製が容易な、円柱形状又は円筒形状の各種金属材料を広く適用できる。この実施形態では、例えば表面に銅めっきを施した鉄製のパイプ材が適用される。ロール版12は、母材22の周側面に、このパイプ材の管軸に沿った方向と円周方向とに、それぞれ微小凹部に対応する微小凸部23が繰り返し作成され、またこの作製周期である繰り返しピッチ(図8に示す例においてはPx及びPy)が、所望の微小凹部間の距離Pと同じになるように作成される。また、母材22には、微細構造体の微小凹部に係る幅、深さに対応する幅、高さにより微小凸部23が作製される。
図9は、このロール版12の作製工程を示すフローチャートである。また図10は、この図9との対比により各工程の説明に供する図である。この製造工程は、平滑化工程(SP2)において、バイトを使用した母材周側面の切削処理により母材22の周側面を平滑化した後、電解溶出作用と、砥粒による擦過作用の複合による電解複合研磨法により母材22の周側面を超鏡面化する。これによりこの製造工程は、図10(A)に示すように、微細凹凸層の表面形状に対応する平滑度により母材22の周側面を平滑化する。
続いてこの製造工程は、図11に示すように、第1の切削工程(SP3)において、母材22を切削装置に装着し、バイト24の先端を母材22の周側面に押し当て、この状態で矢印Bにより示すように母材22を回転させながら、矢印Cにより示すようにバイト24を母材22の管軸に沿った方向に移動させ、これにより母材22の周側面をらせん状に切削加工し、図10(B)に示すように、円周方向に延長する断面矩形形状による凹溝である第1の微細溝25を母材22の周側面に作製する。なおバイト24は、同時並列的に複数の微細溝25を作製可能に、先端が櫛歯状に形成されており、これによりこの工程では、この母材22の円周方向に延長する複数の微細溝を同時並列的に作成して切削工程に要する時間を短縮する。これによりこの製造工程は、ピッチPxにより第1の微細溝25を作製する。
続いてこの製造工程は、埋め戻し工程(SP4)において、図10(C)に示すように、第1の切削工程で作成した微細溝25を埋め戻し材26により埋め戻し、母材22の周側面をほぼ平坦にし、第1の切削工程の前の状態に母材22の周側面を戻す。より具体的に例えば、この実施形態においては、この埋め戻し材26として紫外線硬化性樹脂を適用することができ、紫外線硬化性樹脂を母材22の周側面に塗工した後、紫外線の照射によりこの紫外線硬化性樹脂を硬化させ、これにより微細溝25を埋め戻すことができる。なお埋め戻し材26にあっては、微細な微細溝25を充分に埋め戻すことが可能なことを条件に、種々の材料を広く適用することができる。
続いてこの製造工程は、図10(D)に示すように、第2の切削工程(SP5)における切削加工により、第1の切削工程により作製した第1の微細溝25と交差する断面矩形形状による第2の微細溝28を作製する。より具体的にこの工程では、図12に示すように、母材22を間欠的に回転させながら、矢印Dにより示すように、バイト24により母材22の中心軸方向に母材22の周側面を切削し、これにより第1の微細溝25と延長方向が直交する第2の微細溝28を作製する。
しかして何ら第1の微細溝25を埋め戻すことなく、第1の微細溝25と交差する第2の微細溝28を切削により作製する場合、バイト24の刃先は、微細溝25を横切る毎に微細溝25の壁面に衝突することになり、この衝突の際に急激かつ大きな応力を受けるおそれがあり、その結果、バイト24にあっては刃先が短い時間で損傷し、第2の切削工程において、安定かつ短時間でロール版を切削加工できなくなる場合がある。また、バイト24の刃先は、極めて微細形状を有するため、安定かつ短時間での切削加工をするためには、バイト24の刃先の損傷を抑制する必要がある。前記第1実施形態のように第1の微細溝25を埋め戻して第2の切削をする場合には、このような微細溝25の壁面への衝突によるバイト刃先の損傷を有効に回避することができ、安定かつ短時間で母材22を切削加工することができる。なお、埋め戻しに供する埋め戻し材としては、母材22を構成する金属材料と硬さ、柔らかさが近いものが好ましい。
またこのようにバイトを使用した切削工程によりロール版を作製する場合にあっては、第1の切削工程による微細溝のピッチと、第2の切削工程による微細溝のピッチとを変えることができ、その結果、微細構造体における微小凹部の繰り返しピッチPx及びPyを直交する方向で異ならせることができる。また切削加工に供するバイトの変更により繰り返しの方向に係る微小凹部の幅Wx及びWy、さらには微細溝の断面形状を異ならせることができる。微細構造体においては、このようなピッチPx及びPy、幅Wx及びWy等を異ならせることにより、撥水撥油層性部材が有する撥水撥油性や光学特性等の機能に異方性を設けることができる。例えば、本発明に係る撥水撥油性部材に、異方性を有する反射防止性能の付与し、撥水撥油性部材の適用分野の拡大を図ることができる。具体的には例えば、本発明に係る撥水撥油性部材をショーウインドウに貼り付けた場合に、ショーウィンドウに撥水撥油性を付与することにより視認性を向上し、さらに、光学特性の異方性を積極的に利用してショーウィンドウの設置環境に応じて視認性を向上することができる。
続いてこの製造工程は、図10(E)に示すように、除去工程(SP6)において、微細溝25に残存する紫外線硬化性樹脂(埋め戻し材)を除去した後、洗浄し、これによりロール版が作製される。ここでこの除去工程においては、埋め戻し材に応じて種々の手法を広く適用することができ、例えば、ロール版の周側面に粘着テープを貼り付けて引き剥がすことにより、残存する埋め戻し材を除去する。なおこれに代えて有機溶剤を使用した溶解により除去してもよく、加熱により埋め戻し材を分解して除去するようにしてもよい。
この実施形態によれば、切削加工により交差するように微細溝を作製して微細構造体の製造用金型を作製することにより、効率良く金型を作製し、さらに当該製造用金型を使用した賦型処理により微細凹凸層を形成することにより、大面積の微細構造体を有する微細凹凸層を効率良く大量生産することができる。またこのとき、一旦作成した微細溝を埋め戻して交差する微細溝を作製することにより、切削処理により使用するバイトの損傷を有効に回避して金型を作製することができ、これにより一段と効率良く形状の大きな金型を作製することができ、一段と効率良く微細凹凸層を大量生産することができる。
またこの金型がロール版であることにより、この金型に係る母材を回転させながらバイトを移動させてらせん状に切削加工することができるため、ロール版の円周方向に延長する微細溝を効率良く作成することができ、また幅の大きなロール版を簡易かつ効率良く作成することができる。従ってこのロール版を使用して効率良く大面積の微細構造体を大量生産することができる。
また直交するように2つの微細溝を作製することにより、微小凹部を賦型するための凸部を効率良く金型に作製することができる。
以下において、第2実施形態における微細凹凸層の形成方法について説明する。
第2実施形態では、ステンレス等の金属材料によるパイプ材の周側面に、直接に、又は中間層を介して、銅の薄膜を作製し、微細構造体の製造用金型の母材を作製する。さらにこの母材の周側面に、第1実施形態について上述したと同様にして微細構造体を反転した形状の微細凹凸形状を作製する。その後、この母材の周側面に、管軸に延長する方向に、レーザーの照射等により表面薄膜の切断線を設け、この切断線により母材の周側面からこの薄膜を剥離する。またこの剥離した薄膜を、平板形状の金属板等によるベース材に貼り付け、これにより平板による微細構造体の製造用金型を作製する。
前記第2実施形態では、このようにして作成した平板による金型を使用した枚葉の処理により、微細構造体を作製する。
前記第2実施形態のように、パイプ材の周側面に微細凹凸形状を作製し、この微細凹凸形状を展開して平板による金型を作製する場合でも、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
以下において、第3実施形態における微細凹凸層の形成方法について説明する。
第3実施形態では、切削に供するバイトの交換により、第1の切削工程による微細溝のピッチと、第2の切削工程による微細溝のピッチを異ならせ、これに代えて、又はこれに加えて、繰り返しの方向に係る微小凹部5の幅(例えば図1ではWx及びWy)を異ならせる。このように、各切削工程による微細溝のピッチ及び/又は繰り返し方向に係る微細凹部の幅を異ならせることにより、撥水撥油性部材が発揮し得る機能に異方性を付与する。
このように異方性を付与する場合にあっても、前記第1実施形態及び前記第2実施形態と同一の効果を得ることができる。
以上、本発明の実施に好適な具体的な方法を詳述したが、本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上述の実施形態を種々に組み合わせ、さらには上述の実施形態を種々に変更することができる。
上述の実施形態では、断面矩形形状により第1の切削工程による微細溝、第2の切削工程による微細溝を作製する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、種々の形状を広く適用することができる。具体的に図13(A)に示すように、断面三角形形状により隣接する微細溝と接するように微細溝を作成してもよく、また図13(B)に示すように、両壁面にテーパーを設けるようにして微細溝を作成しもよく、またさらには図13(C)に示すように、頂点が丸みを帯びた断面三角形形状により微細溝を作製するようにしてもよい。またさらに図13(D)に示すように、断面に係る壁面の形状を微細溝の両側で異ならせるようにし、これにより光学異方性を設けるようにしてもよい。
また上述の実施形態では、直交する2つの方向で微細溝の断面形状を等しくする場合について述べたが、本発明はこれに限らず、切断方向によって断面形状を異ならせるようにしてもよい。
また上述の実施形態においては、直交する2方向に直線的に切削加工する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図14において符号L1、L2により第1の切削加工、第2の切削加工におけるバイト先端の軌跡を示すように、蛇行する軌跡により切削加工するようにしても良く、また図15に示すように、第1の切削加工、第2の切削加工におけるバイト先端の軌跡L1、L2が斜めに交差するように切削加工してもよい。
また上述の実施形態では、第1の切削加工、第2の切削加工による2回の切削加工により金型を作成する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、図16に示すように、第1の切削加工(バイト先端の軌跡を符号L1により示す)、第2の切削加工の後(バイト先端の軌跡を符号L2により示す)、さらにこの2回の切削加工による軌跡L1、L2と交差するように第3の切削加工するようにしてもよい。またこのように3回以上切削加工することにより、例えば四角柱形状の微小凹部と、三角柱形状の微小凹部とを混在させる場合のように、異なる形状の微小凹部を混在させるようにしてもよい。
<撥水撥油層>
本発明に係る撥水撥油性部材は、前記微細構造体を有する側の面に撥水撥油層を備える。なお、微細構造体を有する側の面とは、前記微細凹凸層の前記微細構造体を有する面であってもよいし、前記微細凹凸層上に更に別の層が形成されてなる、表面に前記微細構造体を有する面であってもよい。
また、撥水撥油層は、前記微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有し、少なくとも1つの末端に炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有し、酸素原子を含有しない、炭素数10以下のフッ素化合物を蒸着源とした蒸着膜である。
本発明においては、前記撥水撥油層に用いられるフッ素化合物が炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を含有しないため、前記撥水撥油層の形成において、環境負荷等が懸念されているパーフルオロオクタン酸(PFOA)が副生されず、環境負荷が少ない。また、前記フッ素化合物は、酸素原子を含有しないため、撥水撥油層の材料自体の撥水性及び撥油性を向上する。これは、水酸基やシラノール基等の親水性基を有しないことから、撥水性及び撥油性が阻害され難くなるためと推定される。本発明においては、前記撥水撥油層が、さらに、前記微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有することにより、撥水撥油層の比表面積が大きくなるため、撥水撥油性が強調され、より一層優れた撥水撥油性を発揮することができる。
前記フッ素化合物としては、少なくとも1つの末端に炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有し、酸素原子を含有しない、炭素数10以下のフッ素化合物であれば特に限定されないが、例えば、テトラフルオロメタン、パーフルオロエタン、パーフルオロプロパン、パーフルオロブタン、パーフルオロペンタン、パーフルオロヘキサン等のパーフルオロアルカン類、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(4−メチル−2−ペンテン)、パーフルオロ(2−メチル−2−ペンテン)、パーフルオロ−1−ヘキセン等のパーフルオロアルケン類、及び下記式(1)により表されるフッ素化合物等が挙げられる。
前記パーフルオロアルキル基としては、撥水性及び撥油性の点から、中でも炭素数が3〜6のパーフルオロアルキル基であることが好ましく、更に、炭素数が4〜6のパーフルオロアルキル基であることが好ましい。
また、前記フッ素化合物としては、イオンやラジカル等の活性種が発生し易く、前記微細凹凸層の表面に、化学蒸着法により前記微細構造体に追従した凹凸形状を有する撥水撥油層を形成し易い点から、不飽和炭化水素基及びヨード基から選ばれる少なくとも一種を含有するものが好ましい。
前記フッ素化合物としては、中でも、下記式(1)により表される炭素数10以下のフッ素化合物が好ましい。
F(CF−Y 式(1)
(式(1)中、nは1〜6であり、Yはフッ素原子及び酸素原子を含有しない置換基である。)
nは好ましくは3〜6であり、更に好ましくは4〜6である。
前記Yとしては、例えば、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、並びに、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子よりなる群から選択されるハロゲン原子等の置換基が挙げられる。前記アルキル基としては、更に炭素数1〜4のアルキル基であることが好ましく、前記アルケニル基としては、炭素数2〜4のアルケニル基が好ましい。前記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、各種ブテニル基等を挙げることができる。
前記式(1)により表される炭素数10以下のフッ素化合物としては、具体的には例えば、1H−パーフルオロペンタン、1H−パーフルオロヘキサン等の1H−パーフルオロアルカン類、パーフルオロブチルエチレン、パーフルオロヘキシルエチレン等のパーフルオロアルキルエチレン類、パーフルオロブチルヨージド、パーフルオロヘキシルヨージド、1−クロロトリデカフルオロペンタン、1−クロロトリデカフルオロヘキサン、1−ブロモトリデカフルオロペンタン、1−ブロモトリデカフルオロヘキサン等のハロゲン化パーフルオロアルキル類等が挙げられる。
前記フッ素化合物としては、前記式(1)により表されるフッ素化合物の中でも、Yで表される置換基が、水素原子、炭素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子よりなる群から選択される1種の原子、又は、炭素原子と、水素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子よりなる群から選択される1種以上の原子とからなる化合物であることがより好ましい。炭素原子と、水素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子よりなる群から選択される1種以上の原子とからなる化合物としては、炭化水素基が好ましく、中でも不飽和炭化水素基が好ましく、更にアルケニル基が好ましい。
中でも好適なフッ素化合物としては、例えば、パーフルオロブチルエチレン、パーフルオロヘキシルエチレン、パーフルオロヘキシルヨージド等が挙げられる。
前記撥水撥油層の厚さは、撥水撥油層が表面に微細凹凸層の微細構造体に追従した凹凸形状を有するものとなる厚さであれば特に限定されず、微細構造体によって適宜調整される。
前記撥水撥油層の厚さは、例えば、微細構造体側の表面を平坦面にして当該平坦面上に撥水撥油層を形成したと仮定した場合の厚さが、3〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは4〜80nmの範囲内であり、更により好ましくは4〜50nmの範囲内である。すなわち、撥水撥油層をなすフッ素化合物の量が、平面視において同面積となる平坦面に成膜した際に、前記厚さとなる量であることが好ましい。さらに言い換えると、撥水撥油層は、平面視において同面積となる平坦面に成膜した場合に、前記厚さの膜が形成される条件で成膜された前記フッ素化合物からなる膜であることが好ましい。撥水撥油層の厚さを前記範囲内とすることにより、撥水撥油層の表面を、微細構造体に追従した凹凸形状を容易に形成することができ、また、撥水撥油層の透過率が向上する。
微細凹凸層の微細構造体側の表面を平坦面にして当該平坦面上に撥水撥油層を形成したと仮定した場合の厚さの測定は、例えば、表面が鏡面加工されたシリコンウエハを一部マスキングした状態で、当該シリコンウエハの表面に、本発明の撥水撥油性部材が備える撥水撥油層の形成に用いられるフッ素化合物と同じ量のフッ素化合物を用いて、本発明の撥水撥油性部材と同じ方法により撥水撥油層を形成し、その後マスキングを除去することにより、シリコンウエハの表面に撥水撥油層を形成する部分と形成しない部分を設け、撥水撥油層のある部分とない部分の段差を測定することにより、行うことができる。
また、前記撥水撥油層の厚さを、本発明の撥水撥油性部材を厚み方向に切断した垂直断面のSEM、TEM、STEMなどの電子顕微鏡写真を観察することにより測定することもできる。この場合に測定される撥水撥油層の厚さは、3〜100nmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは4〜80nmの範囲内であり、更により好ましくは4〜50nmの範囲内である。
撥水撥油層の厚さを前記範囲内とすることにより、撥水撥油層の表面を、微細凹凸層の微細構造体に追従した凹凸形状にすることが容易になり、また、撥水撥油層の透過率が向上する。なお、撥水撥油層の厚みは、成膜時における成膜圧力、成膜時間等の成膜条件を適宜変更することにより、調整することができる。
前記撥水撥油層は、表面に微細構造体に追従した凹凸形状を有する。本発明においては、特定のフッ素化合物を蒸着源として微細凹凸層の微細構造体に追従して堆積することにより前記撥水撥油層を形成するため、撥水撥油層は、前記微細凹凸層の微細構造体に追従した凹凸形状を有する。これにより、撥水撥油層を含めて複数の微小凹部が互いに離間して配置された微小凹部群を備えた微細構造体を考えた場合に、当該撥水撥油層を含めた微細構造体における隣接する微小凹部間の距離と、微細凹凸層が有する微細構造体の微小凹部間の距離Pとを実質的に同じであるとすることができる。
また、前記撥水撥油層を含めた微細構造体における微小凹部の深さD’と、微細凹凸層が有する微細構造体の微小凹部の深さDとの差は、50nm以内であることが好ましく、30nm以内であることがより好ましい。中でも、撥水撥油層の凹凸形状は、反射防止機能等の微細凹凸層の微細構造体を有する表面の機能を同様に発現できる程度に、微細構造体と略同一の形状であることが好ましい。
前記撥水撥油層を微細凹凸層の微細構造体表面の凹凸に追従して形成する方法は、特に限定されないが、例えば、平坦面上に撥水撥油層を形成したと仮定した場合に好ましくは3〜100nm、より好ましくは4〜80nm、更により好ましくは4〜50nmのフッ素化合物の蒸着膜が形成される条件で、前記撥水撥油層を微細凹凸層の微細構造体表面に形成する方法が挙げられる。撥水撥油層の厚さを前記範囲内にすることにより、当該撥水撥油層の表面を、微細凹凸層の微細構造体に追従して形成されてなる凹凸形状とすることが容易になる。
本発明に係る撥水撥油性部材においては、前記微細凹凸層として微細構造体表面が反射防止性能を発揮し得る形状を有するものを用い、当該微細凹凸層の微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有する撥水撥油層を形成することにより、撥水撥油性及び反射防止性能に優れた撥水撥油性部材を得ることができる。前記凹凸形状の微小凹部間の距離は、500nm以下であるが、製造上の点から、10nm以上であることが好ましく、中でも50nm以上が好ましい。中でも、撥水撥油性及び反射防止性能の発現が向上する点から、前記凹凸形状の微小凹部間の距離は、好ましくは380nm以下であり、より好ましくは100nm以上であり、250nm以下である。
また、前記凹凸形状を構成する微小凹部の深さD’は、好ましくは50nm以上500nm以下であり、中でも、撥水撥油性及び反射防止性能の発現が向上する点から、より好ましくは70nm以上250nm以下である。
また、撥水撥油層を含めて複数の微小凹部が互いに離間して配置された微小凹部群を備えた微細構造体を考えた場合における、隣接する微小凹部間の距離Pに対する微小凹部の深さD’の比(D’/P)は、特に限定はされないが、0.4〜5.0であることが好ましく、更に、0.5〜2.5であることが好ましく、更に、0.5〜2.1であることがより好ましい。前記D’/Pが前記下限値以上であることにより、撥水撥油性の向上効果に優れ、前記上限値以下であることにより、生産性、機械強度及び防汚性に優れる。
また、本発明に係る撥水撥油性部材は、撥水撥油層の表面形状が、前記特定の微細構造体に追従した凹凸形状であることにより、凸部の塑性変形が抑制され、前記凹凸形状の変形が抑制される。そのため、一般の、フッ素化合物を用いて表面処理をした撥水撥油フィルムに比べると、本発明に係る撥水撥油性部材は、材料自体の劣化等により接触角が低下した場合でも、前記特定の凹凸形状を表面に有することにより、接触角の低下が抑制される。
本発明に係る撥水撥油性部材は、撥水性の観点から、前記撥水撥油層の表面における純水の静的接触角が、150°以上であることが好ましい。
本発明に係る撥水撥油性部材は、撥油性の観点から、前記撥水撥油層の表面におけるn−ヘキサデカンの静的接触角が、90°以上であることが好ましい。
撥水撥油層の表面における接触角は、上述した樹脂組成物の平坦な硬化膜表面における接触角と同様に測定できる。すなわち、撥水撥油層の表面に溶剤(例えば純水又はn−ヘキサデカン)1.0μLの液滴を滴下し、着滴10秒後の静的接触角をθ/2法に従って計測する。
撥水撥油層の表面における接触角は、撥水撥油層の表面を構成するフッ素化合物の種類、撥水撥油層表面の凹凸形状の形状等を変更することにより、調整することができる。
また、本発明において前記撥水撥油層は、微細構造体を有する側の面に形成され、撥水撥油性部材の表面全面に配置されてなるものであっても良いし、用途に応じてパターン状に形成され、撥水撥油性部材の表面にパターン状に配置されてなるものであっても良い。これにより、撥水撥油層が設けられていない部分に液滴が集まりやすく、また、液滴が当該部分を流路として流れやすい。
前記撥水撥油層をパターン状に形成する場合の撥水撥油層のパターン形状は、特に限定されず、用途に応じて適宜選択することができるが、例えば、ストライプ状、L字状、マトリクス状、開放端を有しない縁どりを持つ任意の図形、開放端を有する縁どりを持つ任意の図形等の形状が挙げられる。
或いは、例えば、開放端を有しない縁どりを持つ任意の図形、及び開放端を有する縁どりを持つ任意の図形は、縁部を撥水撥油層とし、縁部の内部に存在する内部図形部を親水性とすることにより、内部図形部に水がたまったときに図形を浮かび上がらせることができる。開放端を有する縁どりを持つ任意の図形においては、当該開放端において特に流れやすい。
前記撥水撥油層のパターンの幅は、用途に応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、撥水撥油層の撥水撥油性能が十分に発現される点から、0.1mm以上であることが好ましい。なお、前記パターンの幅は、ライン状であればライン幅が前記下限値以上であることが好ましく、マトリクス状等ライン状以外の形状の場合は、その形状のうち最も小さい幅を有する部分の当該幅が前記下限値以上であることが好ましい。
また、前記撥水撥油層のパターン形状の撥水撥油層部分の幅と撥水撥油層が設けられていない部分の幅との比(撥水撥油層部分の幅/撥水撥油層が設けられていない部分の幅)は、特に限定されるものではない。例えば、本発明に係る撥水撥油性部材を窓のような透明な部分の透明部材として用いる場合には、反対側を見通しやすくするため、防曇効果を有する部分、即ち撥水撥油層が設けられていない部分の幅をむしろ広くすることが好適に用いられる。
例えば、本発明に係る撥水撥油性部材においては、前記撥水撥油層をパターン状に形成し、撥水撥油層が設けられていない部分を当該部材表面にある液滴を排出するための流路とすることができる。
例えば、前記微細凹凸層用の樹脂組成物として、親水性の樹脂組成物を用いた場合は、撥水撥油層が設けられていない部分を親水性にすることができる。これにより、本発明に係る部材表面を傾斜面とすることにより、部材表面に付着した水滴は重力に従って移動し、撥水撥油層が設けられていない部分に集めやすくすることができる。このように、撥水撥油層が設けられていない部分を、水滴の流路とすることができ、撥水撥油層がパターン状に配置されてなる本発明の撥水撥油性部材は、排水部材として用いることも可能である。また、前記微細凹凸層用の樹脂組成物として、親油性の樹脂組成物を用いた場合は、撥水撥油層が設けられていない部分を親油性にすることができるため、本発明に係る撥水撥油性部材を排油部材として用いることが可能である。
例えば、撥水撥油層が設けられていない部分を液滴の流路として用いる場合、前記撥水撥油層のパターンの幅は、例えば0.1mm〜50mmが好適に用いられ、更に0.1mm〜10mmが好適に用いられる。すなわち、撥水撥油層のパターンがライン状であればライン幅が前記範囲内であることが好ましく、マトリクス状等ライン状以外の形状の場合は、その形状のうち最も小さい幅を有する部分の当該幅が前記下限値以上であり、且つその形状のうち最も大きい幅を有する部分の当該幅が前記上限値以下であることが好ましい。撥水撥油層のパターンの幅が前記下限値以上であることにより、撥水撥油性能並びに液滴の流路の方向を導くガイドとしての機能が十分に発現される。また、視認性の観点から、前記撥水撥油層のパターンの幅は、前記上限値以下であることが好ましい。なお、本発明において視認性とは、撥水撥油性部材を通して反対側を視認することができる性能をいう。
また、撥水撥油層が設けられていない部分を液滴の流路として用いる場合、撥水撥油層が設けられていない部分の幅は、1mm〜100mmの範囲内であることが好ましく、1mm〜20mmの範囲内であることがより好ましい。撥水撥油層が設けられていない部分の幅が、前記下限値以上であることにより、液滴が流れ易くなる。また、撥水撥油層が設けられていない部分の幅が、前記上限値を超えると、液滴が流れにくくなることにより、視認性に劣る場合がある。なお、撥水撥油層が設けられていない部分の幅とは、パターン状に配置された撥水撥油層間の幅をいい、撥水撥油層のパターンがライン状であれば撥水撥油層のライン間の幅が前記範囲内であることが好ましく、マトリクス状等ライン状以外の形状の場合は、その形状のうち撥水撥油層間の距離が最も小さい部分の幅が前記下限値以上であり、且つその形状のうち撥水撥油層間の距離が最も大きい部分の幅が前記上限値以下であることが好ましい。
例えば、撥水撥油層が設けられていない部分を液滴の流路として用い、且つ、本発明に係る撥水撥油性部材を窓のような透明な部分の透明部材として用いたり、透視性が必要な部分に用いる場合には、前記撥水撥油層のパターン形状の撥水撥油層部分の幅と撥水撥油層が設けられていない部分の幅との比(撥水撥油層部分の幅/撥水撥油層が設けられていない部分の幅)は、液滴の流れ易さ並びに視認性の観点から、1/1〜1/100とすることが好ましく、1/1〜1/10とすることがより好ましく、1/1〜1/5とすることが更により好ましい。
また、撥水撥油層が設けられていない部分を液滴の流路として用い、且つ、本発明に係る撥水撥油性部材を窓のような透明な部分の透明部材として用いたり、透視性が必要な部分に用いる場合には、前記撥水撥油層のパターン形状の撥水撥油層部分の面積と撥水撥油層が設けられていない部分の面積との比(撥水撥油層部分の面積/撥水撥油層が設けられていない部分の面積)は、撥水撥油層のパターン形状により適宜選択されればよく、特に限定はされないが、通常1/1〜1/200である。中でも前記比は、液滴の流れ易さ並びに視認性の観点から、1/1〜1/100とすることが好ましく、1/1〜1/10とすることがより好ましく、1/1〜1/5とすることが更により好ましい。
(撥水撥油層の形成方法)
前記撥水撥油層の形成方法は、前記特定のフッ素化合物を蒸着源として蒸着膜であって、前記微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有する層を形成することができる方法であれば、特に限定はされない。例えば、物理蒸着法、化学蒸着法が挙げられるが、中でも、撥水撥油層を微細凹凸層の微細構造体を有する表面に容易に均一に形成することができる点から、化学蒸着法(CVD法)が好ましい。
前記化学蒸着法としては、特に限定されず、例えば、プラズマCVD法、熱CVD法、光CVD法等を挙げることができる。中でも、化学蒸着の対象物、すなわち、微細凹凸層若しくは微細凹凸層と基材等との積層体、又は当該対象物が接する台の温度を比較的低温にして行うことができる点から、プラズマCVD法が好ましい。プラズマCVD法は通常減圧するが、大気圧プラズマCVD法を用いることもできる。
本発明に用いられるフッ素化合物を蒸着源とする化学蒸着法によって撥水撥油層を形成する場合、撥水撥油層は、前記フッ素化合物が微細構造体を有する表面あるいは気相での化学反応を経て、前記表面に薄膜を堆積することにより形成され、撥水撥油層の表面は、微細構造体に追従した凹凸形状となる。
本発明において、化学蒸着法による撥水撥油層の形成の際には、化学蒸着の対象物又は当該対象物が接する台の温度をコントロールできる状態で行うことが好ましい。前記温度が高すぎると、微細凹凸層及び基材等の材料として樹脂等の相対的に耐熱性の低い材料を使用することが困難となる場合がある。本発明においては、前記温度を低温にすることができるため、基材としてPETフィルム等の樹脂フィルムを用いる等、樹脂を使用することができる。そのため、材料の選択の幅が広く、また、微細構造体の加熱による変形を抑制することができる。前記温度は、微細凹凸層及び基材等の化学蒸着の対象物となり得るものの耐熱性により異なるが、基材として特に好ましく用いられるPETフィルムやTACフィルムの使用可能温度の観点から120℃以下であることが好ましく、PETフィルムなどのガラス転移点(Tg)を考慮すると70℃以下であることがより好ましい。本発明の好ましい態様によっては、前記温度を50℃以下とすることもできる。また、前記温度は、通常、−20℃以上である。
また、前記撥水撥油層を形成する際の成膜圧力は、特に限定はされないが、微細構造体に対するステップカバレッジが良好になり、撥水撥油層の表面を、微細構造体に追従した凹凸形状にすることが容易な点から、20〜1000mmTorrであることが好ましく、30〜800mmTorrであることがより好ましい。
また、前記撥水撥油層をパターン状に形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、化学蒸着法による撥水撥油層の形成の際に、当該撥水撥油層の下地となる微細凹凸層表面に、所望のパターン形状のフィルムマスク、メタルマスク等を用いてマスキングをする方法等が挙げられる。また、前記微細凹凸層表面に、親水性のインクを所望のパターン形状に塗布し、当該パターン形状塗膜をマスクとして化学蒸着法によって撥水撥油層を形成した後、表面を水洗することにより、前記親水性のインク及び当該インク上に形成された撥水撥油層を除去することで、所望のパターン状の撥水撥油層を形成することもできる。或いは、感光性樹脂組成物を用いて、前記微細凹凸層表面に所望のパターン形状塗膜を作成し、当該パターン形状塗膜をマスクとして化学蒸着法によって撥水撥油層を形成した後、感光性樹脂組成物を所望の剥離液等で除去することにより、所望のパターン状の撥水撥油層を形成することもできる。
<基材>
本発明に必要に応じて用いられる基材は、本発明の撥水撥油性部材の用途に合わせて適宜選択して用いられれば良い。基材は、透明基材に限定されるものではなく、用途に合わせて不透明基材であっても良い。
透明基材に用いられる材料としては、公知の透明基材に用いられる材料の中から用途に応じて適宜選択することができ、特に限定はされないが、例えば、トリアセチルセルロース等のアセチルセルロース系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレンやポリメチルペンテン等のオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテルサルホンやポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー等の透明樹脂や、ソーダ硝子、カリ硝子、鉛ガラス等の硝子、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン(PLZT)等のセラミックス、石英、蛍石等の透明無機材料等が挙げられる。
前記透明基材は、可視光領域における透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。ここで、透明基材の透過率は、JIS K7361−1(プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法)により測定することができる。
不透明基材に用いられる材料としては、例えば、各種の金属、不透明のガラス、樹脂材料に無機顔料、発泡剤を混合した不透明樹脂等が挙げられ、その他、樹脂基材に無機スパッタ膜、特に金属スパッタ膜を形成した基材等が挙げられる。
前記基材の形状は、通常フィルム状、シート状、板状、ロッド状、所定形状に成形された成形体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。また、大面積の撥水撥油性部材とする場合には、製造上、長尺状乃至ロール状の基材を用いることが好ましい。
前記基材の厚みは、本発明の撥水撥油性部材の用途や形状に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、通常20〜5000μmである。前記基材は、ロールの形で供給されるもの、巻き取れるほどには曲がらないが負荷をかけることによって湾曲するもの、完全に曲がらないもののいずれであってもよい。
前記基材の構成は、単一の層からなる構成に限られるものではなく、複数の層が積層された構成を有してもよい。複数の層が積層された構成を有する場合は、同一組成の層が積層されてもよく、また、異なった組成を有する複数の層が積層されてもよい。
また、基材と微細凹凸層との密着性を向上させ、ひいては耐摩耗性(耐傷性)を向上させるためのプライマー層を基材上に形成してもよい。このプライマー層は、基材および微細凹凸層との双方に密着性を有し、可視光を透過するものが好ましい。また基材と微細凹凸層の屈折率差により干渉ムラが出る場合にはプライマー層の屈折率を基材と微細凹凸層の中間の値に調整することでムラ軽減が可能である。
<その他の構成>
本発明の撥水撥油性部材は、本発明の効果を損なわない範囲において、更にその他の層を有していてもよい。例えば、その他の層としては、低反射層、紫外線吸収層(UVA層)、放熱層(熱伝導層)などが挙げられる。
また、本発明の撥水撥油性部材は、撥水撥油層の表面に、剥離可能な保護フィルムを仮接着した状態で保管、搬送、売買、後加工又は施工を行い、適時、該保護フィルムを剥離除去する形態とすることもできる。これにより、保管、搬送等の間における撥水撥油性部材の表面の損傷、汚染を防止することができる。
また、本発明の撥水撥油性部材は、撥水撥油層を有しない面に接着剤層を形成し、更に当該接着剤層の表面に離型フィルムを剥離可能に積層してなる接着加工品とすることもできる。接着剤としては、粘着剤(感圧接着剤)、2液硬化型接着剤、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤、熱溶融型接着剤等の公知の接着形態のものが各種使用できる。基材、接着剤層、及びその他任意の層はそれぞれ1層に限定されることなく、使用用途、条件により、適宜2層以上を選定可能である。
<撥水撥油性部材の物性>
本発明に係る撥水撥油性部材は、用途により、透明性の高い部材とすることが好ましい。すなわち、下地の意匠性を損傷しない点から、撥水撥油性部材の全光線透過率は、85%以上であることが好ましく、更に90%以上であることが好ましく、より更に92%以上であることが好ましい。なおここで、撥水撥油性部材の全光線透過率は、JIS K7361−1(プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法)により測定することができる。
撥水撥油性部材が透明部材である場合は、微細構造体を、反射防止機能を発現し得る形状とすることにより、それに追従した撥水撥油層の凹凸形状も反射防止機能を発現し得るため、撥水撥油性部材に反射防止機能を付与することができる。
本発明の撥水撥油性部材は、用途により、透明性の高い部材とすることが好ましい。すなわち、下地の意匠性を損傷しない点から、撥水撥油性部材のヘイズ値は、3%以下であることが好ましく、更に1%以下であることが好ましい。なおここで、撥水撥油性部材のヘイズ値は、JIS K−7136により測定することができる。
また、本発明の撥水撥油性部材は、用途により、反射Y値が4%以下である部材とすることが好ましく、2.5%以下となることがより好ましく、1.0%以下となることが更により好ましい。い。ここで、反射Y値とは、分光光度計(島津製作所製 MPC3100)にて、5°正反射率を380〜780nmまでの波長範囲で測定し、その後、人間が目で感じる明度として換算するソフト(MPC3100内蔵)で算出される、視感反射率を示す。
<撥水撥油性部材の用途>
本発明に係る撥水撥油性部材は、撥水性及び/又は撥油性が必要なあらゆる用途に用いることができる。本発明に係る撥水撥油性部材は、撥水撥油層の表面が前記特定の凹凸形状を有することにより、従来の、多数の微小突起を密接して配置した微細凹凸構造を表面に有する部材に比べて、表面形状が維持され易く、撥水撥油性の劣化が抑制されることから、撥水撥油性の持続性が高い撥水撥油性部材として用いることができる。
本発明に係る撥水撥油性部材の用途としては、例えば、自動車、電車、航空機等の乗り物や建造物等の窓ガラス又は強化ガラス、デパート等店舗のショーウィンドウ、商品や美術品のショーケース、PDA乃至は携帯情報端末、カーナビゲーションシステム、券売機、ATM(現金自動預金支払兼用機)等のタッチパネルディスプレイ及びその他の液晶画面に用いられる液晶保護フィルム、外壁用建材、台所、風呂場、洗面所、トイレ等の水回り空間に使用される建材、野菜の包装フィルム、シャンプー用容器やレトルト食品用容器等の粘性の高い液体を保存する容器の内側に使用される部材等において、撥水撥油効果を発揮して好ましく用いることができる。
本発明に係る撥水撥油性部材は、撥水撥油性を付与したい部分に後から貼り付ける態様において用いても良いし、撥水撥油性が必要な部材そのものとして用いても良い。
さらに、本発明に係る撥水撥油性部材は、上述した方法により、撥水撥油性に加えて反射防止性能を発揮する態様とすることができる。反射防止性能をも発揮し得る本発明に係る撥水撥油性部材は、前記用途の中でも、特に優れた視認性が求められる、窓ガラス、ショーウィンドウ、ショーケース、液晶保護フィルム等として好ましく用いることができる。
また、本発明に係る撥水撥油性部材は、撥水撥油層表面において着雪及び着氷を抑制することができるため、着雪着氷防止部材としても用いることができる。
また、本発明に係る撥水撥油性部材は、微細凹凸形状を形成するためのモールドとして用いることもできる。
また、本発明に係る撥水撥油性部材には、粉体付着抑制効果も期待できる。適宜、無機系粉体、各種ポリマー等の有機系粉体の付着を抑制することができる。中でも、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛等の金属酸化物を含む粉体の付着を好適に抑制することができる。金属酸化物を含む粉体の具体例としては、パウダーファンデーション、フェイスパウダー、頬紅、アイシャドウ等の化粧品や、パウダーブラスト剤、チョークなどが挙げられる。
前記撥水撥油層をパターン状とした本発明に係る撥水撥油性部材の用途としては、例えば、冷蔵ショーケースが挙げられる。冷蔵ショーケースは、内外の温度差により部材の表面に結露が生じ易く、結露により天井に生じた水滴が、冷蔵ショーケース内に置かれた商品に落下するおそれがある。特に、オープンタイプのエアーカーテン吹出し部は、表面温度が露点温度以下となり結露する。そのため、従来は、エアーカーテン吹出し部の他、吸い込み部、扉及び側板ガラス等の十分な断熱効果が得られない箇所にも防露ヒーターを配置して結露を防止し、水滴の落下を防いでいる。よって、電力の消費等の問題があった。
これに対し、冷蔵ショーケース内部の天井を構成する部材として、撥水撥油層がパターン状に形成された本発明に係る撥水撥油性部材を用いることにより、商品への水滴の落下を防ぐことができる。具体的には、例えばストライプパターン状の撥水撥油層を有する本発明に係る撥水撥油性部材を、撥水撥油層側が表面になり、且つストライプパターンが水平方向に対して傾斜を有するように、冷蔵ショーケース内部の天井部分に設置する。これにより、結露により当該天井に付着した水滴は、撥水撥油層が設けられていない部分に集められ、当該部分が流路となって、集められた水滴が重力に従って流路を移動して排出される。これにより、冷蔵ショーケースの天井に付着した水滴が商品に落下することを防止でき、ヒーターの使用を必要としないため、省電力にもなる。同様に、冷蔵ショーケース内部の扉、側板ガラス、棚などに設置することにより、ヒーターを用いずに、結露を商品に付着することなく、適宜排水することができる。
パターン状の撥水撥油層を有する本発明に係る撥水撥油性部材は、冷蔵ショーケースの他にも、同様の原理を利用して、例えば浴室の天井、農業用ビニールハウスの天井等に用いることができる。本発明に係る撥水撥油性部材を浴室又は農業用ビニールハウスの天井に使用した場合は、当該天井に付着した水滴を所望の流路を通って排出させることができるため、天井からの水滴の落下を防ぐことができる。
パターン状の撥水撥油層を有する本発明に係る撥水撥油性部材は、特定の濡れ性を利用して、印刷版、カラーフィルター等の印刷用部材、表示用部材、レンズ、輸送用部材、建築装飾用部材等の用途にも幅広く用いることができる。例えば、本発明に係る撥水撥油性部材を印刷用部材として用いる場合においては、インクを転写する際に、撥水撥油層を有する部分はインクを反発する部分となり、親水性の部分はインクを受容する部分となる。また、本発明に係る撥水撥油性部材を電気基板として用いる場合は、撥水撥油層を有する部分又は撥水撥油層を有しない親水性部分に、導電性を有する配線を形成し、所定位置に半導体素子を自己整合配列させることも可能である。
また、本発明に係る撥水撥油性部材を用いることにより、DNAアレイによる抗原抗体反応の高感度化や、流体セル等の低圧損化を実現し得る。即ち、DNAアレイでは、セルの部分には撥水撥油層を設けず、セルの部分にのみ親水性の領域を形成することにより、液体を残して抗原抗体反応を高感度に検出することができる。また、マイクロTAS(Micro Total Analysis System)等、ミクロンオーダーの流体セルでは、流体を流したくない部分に撥水撥油層を形成し、流体を流したい流路部分を親水性の領域とすることにより、所望の部分のみに流体が流れやすくなるため、より低圧で流体を流すことが可能である。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
(製造例1 賦型用ロール金型1の作製)
幅1300mm、直径298mmで表面に銅めっきを施した鉄製の円柱状母材を準備した。
一方で、刃先幅30μmの表面に、延在方向Yに対する垂直断面形状が矩形状の微小凸部(隣接する微小凸部間隔が150nm、微小凸部幅が75nm、微小凸部間の幅が75nm、微小凸部の高さが70nm)を有する切削用バイトを準備した。
円柱状母材を回転させながら、前記切削用バイトの刃先を外周面に押圧して切削し、前記切削用バイトの刃先幅30μmのピッチで間欠送りして回転軸方向に移動させることにより、円周方向に沿って並列した複数の第1の溝を順次形成することにより、第1の切削工程を行った。
次に、前記第1の溝を形成した母材に、埋め戻し材としてUV硬化性のアクリル樹脂を塗布し、スキージングにより第1の溝にアクリル樹脂を充填し、UV照射により前記アクリル樹脂を硬化処理することにより、埋め戻し工程を行った。
刃先幅10μmの切削用バイトであって、刃先幅以外は前記で用いた切削用バイトと寸法が同一の切削用バイトを用いて、埋め戻し工程後の母材に、前記と同様にして、回転軸と垂直な方向に切削用バイトを順次移動させる事により、直径方向に沿って並列した複数の第2の溝を順次作成することにより、第2の切削工程を行った。
次いで、第2の切削工程後の母材を溶剤に浸漬し、当該母材を溶剤中で回転させる工程を、その都度溶剤を交換しながら、3回繰り返し行うことにより、前記埋め戻し工程による埋め戻しに供した前記アクリル樹脂を、前記第1の微細溝より除去する除去工程を行った。これにより、賦型用ロール金型1を作製した。
(製造例2 賦型用ロール金型2の作製)
前記製造例1の賦型用ロール金型1の作製において、切削用バイトが有する微小凸部を、隣接する微小凸部間隔を200nm、微小凸部幅を100nm、微小凸部間の幅を100nm、微小凸部の高さを100nmとしたこと以外は、前記製造例1と同様にして、賦型用ロール金型2を作製した。
(製造例3 微細凹凸層形成用樹脂組成物Aの調製)
以下の各成分を混合し、希釈溶剤として、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトンを用いて、固形分45質量%の微細凹凸層形成用樹脂組成物Aを調製した。
<微細凹凸層形成用樹脂組成物Aの組成>
・エチレンオキサイド変性(EO変性)ビスフェノールAジアクリレート 65質量部
・EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート 35質量部
・ジフェニル(2,4,6−トリメトキシベンゾイル)ホスフィンオキシド(ルシリンTPO) 1質量部
(実施例1)
1.微細凹凸層の形成
図7に示す方法により、微細凹凸層を形成した。
ロール版12として、製造例1の賦型用ロール金型1を用い、透明基材5として、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)(東洋紡社製)を用いた。また、ダイ11により帯状フィルム形態の透明基材5に、硬化後の微細凹凸層の厚さが20μmとなるように、製造例3で得られた微細凹凸層形成用樹脂組成物Aを塗布した。透明基材側から2000mJ/cmのエネルギーで紫外線を照射して微細凹凸層形成用樹脂組成物Aを硬化させた。その後、賦型用ロール金型より剥離し、図1に示すように、微細構造体の表面を垂直方向から投影する平面視において微小凹部の形状が正方形である柱状の微小凹部が、この正方形の直交する2辺の延長方向にそれぞれ繰り返し作成され、マトリックス状に設けられた微細凹凸層を形成した。微小凹部の延在方向Xに係る繰り返しピッチPxは、150nm±5.0nmであり、微小凹部の延在方向Yに係る繰り返しピッチPyは、150nm±5.0nmであり、正方形の微小凹部の各辺の長さは75nm±2.5nmであった。また、微小凹部の深さDは70nm±4nmであった。
2.撥水撥油層の形成
撥水撥油層の形成には、平行平板型の電極構造を有するプラズマCVD装置(アネルバ製、型番:PED−401)を使用した。当該プラズマCVD装置直径325mmの下部電極に40kHzの高周波電力が投入されるように改造してある。下部電極はチラーにより温度設定が可能であり、上部電極はガスを導入するためシャワーヘッドになっている。フッ素化合物を導入するためのバブラーを設置し、ウォーターバスにより温度を設定できるようにした。バブラーからニードルバルブを介して、プラズマCVD装置内にガスが導入される。ニードルバルブの調整によりバブラーの圧力を変更できる。
得られた支持部材、すなわち基材上に微細凹凸層を形成したものをプラズマCVD装置の真空チャンバーに入れ、下部電極上に設置した。また、膜厚を測定するため、表面が鏡面加工されたシリコンウエハを一部マスキングした状態で下部電極上に設置した。下部電極の温度は18℃とした。チャンバーを閉めて5mTorrまで減圧したあと、Arガスをキャリアガスとし、バブリングして、フッ素化合物(モノマー材料)として(パーフルオロヘキシル)エチレン(ダイキン工業(株)製、品番:F−1620)をプラズマCVD装置の真空チャンバー内に供給した。このとき、Arガスの流量を50sccm、バブラーの温度を25℃、バブラーの圧力を150Torrとした。排気量を調整して真空チャンバー内の圧力(成膜圧力)を400mTorrに調整したのち、放電電力を52Wとし、成膜を行った。成膜時間は5分間とした。成膜時間経過後放電を止めて、大気圧に戻してから、蒸着膜が成膜された支持部材をCVD装置のチャンバーから取り出すことにより、支持部材の微細凹凸層側の面にフッ素化合物を蒸着源とした蒸着膜である撥水撥油層が形成された実施例1の撥水撥油性部材を得た。
得られた撥水撥油性部材は、撥水撥油層の膜厚が37nmであり、撥水撥油層側の表面は、微細構造体に追従した凹凸形状を有するものであった。なお、撥水撥油層の膜厚は、シリコンウエハ上の撥水撥油層のある部分とない部分の段差を小阪研究所製サーフコーダET4000Lにて測定することで確認し、10点で測定された膜厚の測定値の平均値を撥水撥油層の膜厚とした。以下の各実施例及び比較例においても同様である。
各実施例及び各比較例の成膜条件を表1に示す。
(実施例2)
実施例1において、成膜時間を5分から1分に変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の撥水撥油性部材を得た。
得られた撥水撥油性部材は、撥水撥油層の膜厚が7nmであり、撥水撥油層側の表面に凹凸形状を有するものであった。
(実施例3)
実施例1において、成膜圧力を400mTorrから30mTorrに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の撥水撥油性部材を得た。
得られた撥水撥油性部材は、撥水撥油層の膜厚が4nmであり、撥水撥油層側の表面は、微細構造体に追従した凹凸形状を有するものであった。
(実施例4)
実施例1において、賦型用ロール金型1の代わりに賦型用ロール金型2を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4の撥水撥油性部材を得た。
実施例4で形成した微細凹凸層の微細構造体の形状は、図1に示すように、微細構造体の表面を垂直方向から投影する平面視において微小凹部の形状が正方形である柱状の微小凹部が、この正方形の直交する2辺の延長方向にそれぞれ繰り返し作成され、マトリックス状に設けられており、微小凹部の延在方向Xに係る繰り返しピッチPxは、200nm±5.0nmであり、微小凹部の延在方向Yに係る繰り返しピッチPyは、200nm±5.0nmであり、正方形の微小凹部の各辺の長さは100nm±2.5nmであった。また、微小凹部の深さDは100nm±4nmであった。
得られた撥水撥油性部材は、撥水撥油層の膜厚が37nmであり、撥水撥油層側の表面は、微細構造体に追従した凹凸形状を有するものであった。
(実施例5)
実施例1において、フッ素化合物としてF−1620の代わりに、(パーフルオロブチル)エチレン(ダイキン工業(株)製、品番:F−1420)を用い、成膜圧力を400mTorrから200mTorrに変え、放電電力を52Wから105Wに変え、キャリアガスを用いず、バブラーの圧力を150Torrから210Torrに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5の撥水撥油性部材を得た。
得られた撥水撥油性部材は、撥水撥油層の膜厚が47nmであり、撥水撥油層側の表面は、微細構造体に追従した凹凸形状を有するものであった。
(実施例6)
実施例1において、フッ素化合物としてF−1620の代わりに、パーフルオロヘキシルヨージド(ダイキン工業(株)製、品番:I−1600)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6の撥水撥油性部材を得た。
得られた撥水撥油性部材は、撥水撥油層の膜厚が4nmであり、撥水撥油層側の表面は、微細構造体に追従した凹凸形状を有するものであった。
(実施例7)
実施例1において、フッ素化合物としてF−1620の代わりにCFを用い、バブラーを用いずにガスボンベを使用した。CFの流量は200sccmとし、キャリアガスは用いなかった。成膜圧力、成膜時間、放電電力は表1に示す値とした。その他は、実施例1と同様にして、実施例7の撥水撥油性部材を得た。
得られた撥水撥油性部材は、撥水撥油層側の表面は、微細構造体に追従した凹凸形状を有するものであった。
(比較例1)
実施例1において、基材上に微細凹凸層を形成した支持部材に代えて、表面が平坦なPETフィルム(東洋紡績(株)製、A4100、厚さ:100μm)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の部材を得た。
得られた部材は、蒸着膜の膜厚が37nmであり、蒸着膜側の表面は平坦面であった。
(比較例2)
実施例1において、フッ素化合物として、F−1620の代わりに、1H,1H−ペンタフルオロプロパノール(ダイキン工業(株)製、品番:A−1210)を用い、バブラーの圧力を150Torrから180Torrに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2の部材を得た。
得られた部材は、蒸着膜の膜厚が60nmであり、蒸着膜側の表面は、微細構造体に追従した凹凸形状を有するものであった。
(比較例3)
実施例1において、フッ素化合物として、F−1620の代わりに、3−パーフルオロヘキシル−1,2−エポキシプロパン(ダイキン工業(株)製、品番:E−1630)を用い、バブラーの圧力を150Torrから140Torrに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3の部材を得た。
得られた部材は、蒸着膜の膜厚が81nmであり、蒸着膜側の表面は、微細構造体に追従した凹凸形状を有するものであった。
(比較例4)
実施例1において、フッ素化合物として、F−1620の代わりに、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製、品番:ビスコート8F)を用い、成膜時間を5分から2分に変え、バブラーの圧力を150Torrから140Torrに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4の部材を得た。
得られた部材は、蒸着膜の膜厚が23nmであり、蒸着膜側の表面は、微細構造体に追従した凹凸形状を有するものであった。
(比較例5)
実施例1において、フッ素化合物として、F−1620の代わりに、1,4−ジビニルパーフルオロブタン(東ソー・エフテック(株)製、品番:C4−DV)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5の部材を得た。
得られた部材は、蒸着膜の膜厚が152nmであり、蒸着膜側の表面は、微細構造体に追従した凹凸形状を有するものであった。
(比較例6)
実施例1において、フッ素化合物として、F−1620の代わりに、1,6−ジビニルパーフルオロヘキサン(東ソー・エフテック(株)製、品番:C6−DV)を用い、バブラーの圧力を150Torrから140Torrに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、比較例6の部材を得た。
得られた部材は、蒸着膜の膜厚が98nmであり、蒸着膜側の表面は、微細構造体に追従した凹凸形状を有するものであった。
(比較例7)
実施例1において、撥水撥油層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、比較例7の部材を得た。
(評価)
<接触角の測定>
ポリエチレンテレフタレート(PET)に微細凹凸層形成用樹脂組成物Aを乾燥後の膜厚が厚さ5μmとなるように塗膜を形成し、紫外線を940mJ/cmの積算光量となるように照射して硬化させて、微細構造体を有しない硬化膜を形成した。当該硬化膜側表面を上面にして、粘着層つきの黒アクリル板に貼り付けたものの上に、純水1.0μLの液滴を滴下し、着滴10秒後、協和界面科学(株)製 接触角計DM 500を用いて、θ/2法に従って静的接触角を測定した。
上記微細凹凸層形成用樹脂組成物Aの平坦な硬化膜表面における純水の接触角は54.9°であった。
また、純水の代わりにn−ヘキサデカン(n−HD)を用いて、同様にして静的接触角を測定したところ、上記微細凹凸層形成用樹脂組成物Aの平坦な硬化膜表面におけるn−HDの接触角は3°であった。
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材及び比較例1〜6で得られた部材においては蒸着面側表面を上面にして、比較例7で得られた部材においては微細構造体を有する面を上にして、粘着層つきの黒アクリル板に貼り付けたものの上に、純水1.0μLの液滴を滴下し、着滴10秒後、協和界面科学(株)製 接触角計DM 500を用いて、θ/2法に従って静的接触角を測定した。
また、純水の代わりにn−ヘキサデカン(n−HD)を用いて、同様にして静的接触角を測定した。
測定結果を表1に示す。
<全光線透過率の測定>
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材及び比較例1〜6で得られた部材においては蒸着膜側の面を、比較例7で得られた部材においては微細構造体を有する面を、光源に向けるように粘着層つきの黒アクリル板に貼り付けて、JIS K−7361−1に従って全光線透過率を測定した。測定機器としては、反射・透過率計HR−100(村上色彩技術研究所)を使用した。測定結果を表1に示す。
<反射Y値の測定>
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材及び比較例1〜6で得られた部材においては蒸着膜側の面を、比較例7で得られた部材においては微細構造体を有する面を上面にして、粘着層つきの黒アクリル板に貼り付けたものを用い、分光光度計(島津製作所製 MPC3100)にて、反射Y値(5°正反射率)を測定した。測定結果を表1に示す。
<指紋拭き取り試験>
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材の撥水撥油層側の面を上面にして、粘着層つきの黒アクリル板に貼り付けた後、指を押し付けて指紋を付着させた。その後、ザヴィーナミニマックス(富士ケミカル製)にて指紋を乾拭きした。乾拭きは3kg/cm程度の力で10往復行い、拭取り後の外観を評価した。
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材は柔軟性及び復元性に優れており、撥水撥油層表面の拭き取り性に優れ、指紋汚れが視認できなかった。また、拭き取りに際し、撥水撥油層表面において、塑性変形が抑制されていた。
Figure 0006398638
Figure 0006398638
(結果のまとめ)
実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材は、特定の微細構造体を有し、樹脂組成物の硬化物からなる微細凹凸層と、前記微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有し、特定のフッ素化合物を蒸着源とした蒸着膜である撥水撥油層を備えた本発明に係る撥水撥油性部材であったため、水及びn−HDの接触角が大きく、撥水撥油性に優れていた。また、比較例1と同種のフッ素化合物を用いた実施例1〜4においては、比較例1との対比により、いずれも、平坦な硬化膜表面における接触角よりも更に撥水撥油性が強調されていることが確認できた。なお、実施例7において、撥水撥油層の膜厚は未測定であるが、実施例7は、撥水撥油層が形成されていない比較例7に比べて水及びn−HDの接触角が大きく、撥水撥油性に優れていたため、撥水撥油層が形成されていることがわかる。また、実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材は、特に、特定の微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有するものであったため、生産性に優れ、表面形状が変形することなく、耐久性にも優れていながら、反射率が低く、光学特性にも優れていた。実施例1〜7で得られた撥水撥油性部材の反射率が低いのは、微小凹部群を有することで空気界面との屈折率が連続的に変化し、その結果、界面反射が低減しているものと考察する。
また、実施例1〜7における撥水撥油性部材の製造工程においては、炭素数7以上のパーフルオロアルキル基を含有しないフッ素化合物を用いたため、前記撥水撥油層の形成において、環境負荷等が懸念されているパーフルオロオクタン酸(PFOA)が副生されず、環境負荷が少なく、化学蒸着法により、高温環境下にすることなく撥水撥油層を形成することができたため、製造工程上の負担が小さかった。
一方で、比較例1で得られた部材は、部材の表面が平坦面であったため、撥水性及び撥油性に劣り、反射防止性能も劣っていた。
比較例2〜6は、使用したフッ素化合物が、本発明で特定するものでなく、酸素原子を含有する及び/又はいずれの末端にもパーフルオロアルキル基を含有しないフッ素化合物であったため、撥水性及び撥油性に劣っていた。
比較例7は、撥水撥油層が形成されなかったため、撥水性及び撥油性に劣っていた。
[実施例8]
実施例1において、撥水撥油層の形成の際に、微細凹凸層上にメタルマスクを設置し、蒸着膜を成膜後、メタルマスクを取り除いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例8の撥水撥油性部材を得た。メタルマスクとしては、ストライプ状にライン/スペース=5.0mm/5.0mmのパターンが形成されているものを用い、ストライプ状となるように、メタルマスクを設置した。
メタルマスクのライン部分が、親水性且つ親油性の微細凹凸層表面のまま残り、スペース部分のみに撥水撥油層が形成された。
[実施例9]
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=10.0mm/2.0mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例9の撥水撥油性部材を得た。
[実施例10]
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=5.0mm/1.0mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例10の撥水撥油性部材を得た。
[実施例11]
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=2.5mm/0.5mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例11の撥水撥油性部材を得た。
[実施例12]
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=0.5mm/0.1mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例12の撥水撥油性部材を得た。
[実施例13]
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=1.0mm/0.1mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例13の撥水撥油性部材を得た。
[実施例14]
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=10.0mm/0.1mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例14の撥水撥油性部材を得た。
[実施例15]
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=5.0mm/5.0mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例15の撥水撥油性部材を得た。
[実施例16]
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=1.0mm/1.0mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例16の撥水撥油性部材を得た。
[実施例17]
実施例8において、メタルマスクのパターンをライン/スペース=0.5mm/0.5mmに変更したこと以外は、実施例8と同様にして実施例17の撥水撥油性部材を得た。
(評価)
実施例8〜17で得られた撥水撥油性部材及び比較例7で得られた部材の基材側を、各々粘着層を介してアルミ板に貼り付け、撥水撥油性部材表面が水平面に対して10°または60°の角度になるように大気中で設置した。なお、実施例8〜17で得られた撥水撥油性部材においては、撥水撥油層のストライプパターンの直線と水平面とが、上記所定の角度をなすように設置した。次いで、アルミ板を冷却し、撥水撥油性部材表面に結露を生じさせ、各部材表面の水滴の動き及び視認性を目視により観察した。
実施例8〜17で得られた撥水撥油性部材は、各設置角度において、撥水撥油層が設けられていない部分を伝わって水が流れる様子を観察することができた。また、実施例9〜17で得られた撥水撥油性部材については、前記設置角度を90°として、同様にして評価を行った。実施例9〜17の中では、実施例9〜11及び実施例13〜16で得られた撥水撥油性部材が、特に短時間で水が流れ始め、流水性に優れ、撥水撥油層が形成されていない部分の視認性に優れることにより、撥水撥油性部材全体も視認性に優れていた。これは、実施例9〜11及び実施例13〜16では、親水性を有する撥水撥油層が形成されていない部分の幅がある程度大きく、当該部分において水滴が大きく成長しやすいためであると考えられる。また、これらの中でも、実施例9〜11及び実施例13、14で得られた撥水撥油性部材は、流水性に優れていたことに加えて、撥水撥油層部分よりも撥水撥油層が形成されていない部分の方が撥水撥油性部材全体を占める割合が大きかったため、特に撥水撥油性部材全体の視認性に優れていた。
比較例7で得られた部材においては、撥水撥油層を有しないため、特定方向に水滴が流れる様子を確認することができず、排水の流路を制御することができなかった。
1 微細凹凸層
2 微小凹部
3 凸部
4 撥水撥油層
5 基材
10 撥水撥油性部材
11 ダイ
12 ロール版
13 押圧ローラ
14 剥離ローラ
22 母材
23 微小凸部
24 バイト
25、28 微細溝

Claims (3)

  1. 複数の微小凹部が互いに離間して配置された微小凹部群、及び、前記各微小凹部の間に各微小凹部を取り囲むように配置され連結している凸部を備えた微細構造体を少なくとも一方の面に有し、且つ樹脂組成物の硬化物からなる微細凹凸層と、前記微細構造体を有する側の面に設けられた撥水撥油層とを備え、
    隣接する前記微小凹部間の距離Pが500nm以下であり、
    前記撥水撥油層は、前記微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有し、少なくとも1つの末端に炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有し、酸素原子を含有しない、炭素数10以下のフッ素化合物を蒸着源とした蒸着膜であることを特徴とする、撥水撥油性部材。
  2. 前記撥水撥油層の表面における、純水の静的接触角が、150°以上であり、n−ヘキサデカンの静的接触角が、90°以上である、請求項1に記載の撥水撥油性部材。
  3. 複数の微小凹部が互いに離間して配置された微小凹部群、及び、前記各微小凹部の間に各微小凹部を取り囲むように配置され連結している凸部を備えた微細構造体を少なくとも一方の面に有し、且つ樹脂組成物の硬化物からなる微細凹凸層と、前記微細構造体を有する側の面に設けられた撥水撥油層とを備え、隣接する前記微小凹部間の距離Pが500nm以下であり、前記撥水撥油層は、前記微細構造体に追従した凹凸形状を表面に有する、撥水撥油性部材の製造方法であって、
    前記微細構造体の製造用金型を作製する製造用金型の作製工程と、
    前記製造用金型を使用した賦型処理によって前記微細構造体を作製することにより前記微細凹凸層を形成する工程と、
    前記微細凹凸層の前記微細構造体を有する側の面に、撥水撥油層を形成する工程と、を有し、
    前記製造用金型の作製工程では、
    前記製造用金型の母材の表面の切削により、前記母材の表面に、一方向に延長する第1の微細溝を作製する第1の切削工程と、
    前記第1の微細溝を埋め戻し材により埋め戻す埋め戻し工程と、
    前記埋め戻し工程により第1の微細溝を埋め戻した前記表面の切削により、前記第1の微細溝と交差する第2の微細溝を作製する第2の切削工程と、
    前記埋め戻し工程による埋め戻しに供した前記埋め戻し材を、前記第1の微細溝より除去する除去工程とを有し、
    前記撥水撥油層を形成する工程では、
    少なくとも1つの末端に炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基を含有し、酸素原子を含有しない、炭素数10以下のフッ素化合物を蒸着源とする化学蒸着法によって、前記微細凹凸層の前記微細構造体を有する側の面に、撥水撥油層を形成する、撥水撥油性部材の製造方法。
JP2014232040A 2014-11-14 2014-11-14 撥水撥油性部材及び撥水撥油性部材の製造方法 Active JP6398638B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014232040A JP6398638B2 (ja) 2014-11-14 2014-11-14 撥水撥油性部材及び撥水撥油性部材の製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2014232040A JP6398638B2 (ja) 2014-11-14 2014-11-14 撥水撥油性部材及び撥水撥油性部材の製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2016093960A JP2016093960A (ja) 2016-05-26
JP6398638B2 true JP6398638B2 (ja) 2018-10-03

Family

ID=56069971

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2014232040A Active JP6398638B2 (ja) 2014-11-14 2014-11-14 撥水撥油性部材及び撥水撥油性部材の製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP6398638B2 (ja)

Families Citing this family (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
US11191636B2 (en) * 2017-08-22 2021-12-07 Verily Life Sciences Llc Electrowetting lenses having oleophobic surfaces
JPWO2019187512A1 (ja) * 2018-03-27 2020-12-03 富士フイルム株式会社 透光部材、画像表示装置および時計
CN115151490A (zh) * 2020-03-05 2022-10-04 J-制油株式会社 流出件以及容器

Family Cites Families (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2002200519A (ja) * 2000-12-27 2002-07-16 Nikon Corp 交差溝加工方法,金型および光学素子
US20070141114A1 (en) * 2005-12-15 2007-06-21 Essilor International Compagnie Generale D'optique Article coated with an ultra high hydrophobic film and process for obtaining same

Also Published As

Publication number Publication date
JP2016093960A (ja) 2016-05-26

Similar Documents

Publication Publication Date Title
JP6409497B2 (ja) 撥水撥油性部材
TWI649358B (zh) 光學膜之製造方法及光學膜
JP2016093939A (ja) 抗菌性物品
JP2016071237A (ja) 構造体及び表示装置
JP6398638B2 (ja) 撥水撥油性部材及び撥水撥油性部材の製造方法
JP6347132B2 (ja) 線状微細凹凸構造体、及びその製造方法
JP6361339B2 (ja) 結露抑制部材
JPWO2017115694A1 (ja) 光学部材、及び、光学部材の製造方法
JP5626395B2 (ja) 水滴保持シート
JP5626441B1 (ja) 撥水撥油性部材の製造方法及び撥水撥油性部材
JP2015068944A (ja) 反射防止物品
JP6379641B2 (ja) 親水性部材、及びその製造方法
JP2015022108A (ja) 反射防止物品、及び画像表示装置
JP6402503B2 (ja) 積層材、タッチパネルセンサ、電磁波遮蔽材、及び、画像表示装置
JP5652507B2 (ja) 冷蔵冷凍庫用結露抑制部材及び冷蔵冷凍庫
JP2016068477A (ja)
JP6427874B2 (ja) 室内内装用結露抑制部材
JP2016112804A (ja) 反射防止物品及び美術品展示体
JP2016080945A (ja) 反射部材
JP2016068469A (ja) セルフクリーニング部材
JP2015087762A (ja) 反射部材
JP2016043030A (ja) 粉体化粧料容器、及び粉体化粧料用テスター陳列台
JP6229401B2 (ja) 反射防止物品
JP5652514B1 (ja) 冷蔵冷凍ショーケース
JP2016070827A (ja) 蛋白質吸着抑制用表面構造体、マイクロ流路、及びマイクロチップ

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20170927

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20180516

A131 Notification of reasons for refusal

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131

Effective date: 20180522

A521 Written amendment

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523

Effective date: 20180723

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20180807

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20180820

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 6398638

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150