本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、ストッパ機構において大形化や部品点数の増大を伴うことなく耐荷重強度が大幅に向上され得る、新規な構造の防振装置を提供することにある。
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
本発明の第一の態様は、防振連結される各一方の部材に取り付けられる第一の取付板部材と第二の取付板部材が対向配置されて本体ゴム弾性体で連結されていると共に、該第一の取付板部材に略矩形のストッパプレートが重ね合わされて取り付けられており、該ストッパプレートにおける一対の対向辺部において、それぞれ該第二の取付板部材に設けられた当接部との当接により該第一の取付板部材と該第二の取付板部材との相対変位量を制限する第一及び第二のストッパ部が設けられた防振装置であって、前記ストッパプレートの前記一対の対向辺部の両側に設けられた前記第一及び第二のストッパ部において、それぞれ前記第二の取付板部材側に向かって延び出す垂板部の先端部分から内方へ向かって傾斜した俯角部を設けると共に、該ストッパプレートにおける他の一対の対向辺部において、それぞれ該第二の取付板部材側に向かって突出して該第一及び第二のストッパ部の間にわたって延びると共に該第一及び第二のストッパ部の各側方への開口を塞ぐ一対の側板部を設けた防振装置を、特徴とする。
本態様に従う構造とされた防振装置では、ストッパプレートにおける一対の対向辺部における第一及び第二のストッパ部が、それぞれ、俯角部を有すると共に両側方への開口が側板部で塞がれることにより相互に対向方向に開口する略袋形態をもって形成されている。しかも、これら第一及び第二のストッパ部における各側板部が、ストッパプレートにおける他の一対の対向辺部において第一及び第二のストッパ部間に亘って連続して延びる構造とされている。
従って、第一及び第二のストッパ部に設けられた各俯角部における、第二の取付板部の各当接部への当接作用に基づいて、例えば自動車用エンジンマウントにおいて車両衝突時に入力されるような第一の取付板部材と第二の取付板部材との相互離隔方向への相対変位等に対しても、ストッパ機能を安定して得ることが可能になる。
しかも、第一及び第二のストッパ部が略袋形態とされると共に両側板部が相互に連結されていることにより、特別な補強部材等を必要とすることなく、第一及び第二のストッパ部を含むストッパプレートの耐荷重強度を確保することができて、例えば自動車用エンジンマウントにおいて車両衝突時に入力されるような過大な荷重に対しても、有効なストッパ機能を得ることが可能になる。
本発明の第二の態様は、第一の態様に係る防振装置であって、前記ストッパプレートにおける前記第二のストッパ部が、前記俯角部を含む一部を後固着された別部品で構成されているものである。
本態様に従う構造とされた防振装置では、一対の対向辺部の両側にそれぞれ俯角部を有する第一及び第二のストッパ部が設けられたストッパプレートを、容易に製作することが可能になる。即ち、対向方向に開口する略袋形状の第一及び第二のストッパ部を、例えばプレス成形等で製造するに際しても、一方のストッパ部の俯角部を別部品で構成することにより、ストッパプレートの成形型を容易に型抜きすることが可能になる。
本発明の第三の態様は、第一又は第二の態様に係る防振装置であって、前記第一の取付板部材には外方に向かって突出する取付ボルトが設けられていると共に、前記ストッパプレートには該取付ボルトが挿通されるボルト挿通孔が設けられている一方、前記第一の取付板部材には、前記ストッパプレートにおける前記第一及び第二のストッパ部の対向方向で該取付ボルトを挟んだ両側に位置して、該ストッパプレートを該第一の取付板部材に対して位置決めする第一の位置決め突起と、該第一の位置決め突起よりも突出高さが大きくされて該第一の取付板部材を前記防振連結される一方の部材に対して位置決めする第二の位置決め突起とが設けられていると共に、該ストッパプレートには、前記ボルト挿通孔の両側で該第一及び第二の位置決め突起の各対応する位置に第一及び第二の挿通孔が形成されており、該第一の挿通孔が該第一の位置決め突起が全周に亘って嵌合されるようになっている一方、該ボルト挿通孔と該第二の挿通孔が何れも該ストッパプレートにおける前記第一及び第二のストッパ部の対向方向に延びる長孔とされて、該第一の取付板部材に対して該ストッパプレートの該第一の挿通孔側を持ち上げる方向の傾動が許容されるようになっており、且つ該ストッパプレートにおける前記一対の側板部の対向方向で該第二の位置決め突起が該第二の挿通孔に対して位置決めされるようになっているものである。
本態様に従う構造とされた防振装置では、第一及び第二のストッパ部における俯角部の傾斜角度や大きさ等の設計自由度を大きく確保しつつ、第一の取付板部材に突設された取付ボルトや第一及び第二の位置決め突起をストッパプレートに設けられた各挿通孔へ挿通させて、ストッパプレートを第一の取付板部材に対して容易に組み付けることが可能になる。
すなわち、本発明に従って一対の対向辺部の両側にそれぞれ俯角部を有する第一及び第二のストッパ部が設けられたストッパプレートは、かかる俯角部が大形化したり、俯角部に付される俯角が大きくなったりすると、ストッパプレートを第一の取付板部材の外面に重ね合わせて組み付け難くなるおそれがある。蓋し、一般に第一の取付板部材には、防振連結される部材へ固定するための取付ボルトが突設されており、ストッパプレートの組み付けに際しては、ストッパプレートに設けられたボルト挿通孔に対してこの取付ボルトを挿通しなければならないことから、ストッパプレートを第一の取付板部材の上方から重ね合わせて組み付ける必要があり、かかる重ね合わせに際して、俯角部が第二の取付板部材の当接部へ引っ掛かってしまう場合があるからである。
特に、第一の取付板部材には、取付ボルトだけでなく、第一の取付板部材に対してストッパプレートを位置決めするための第一の位置決め突起や、防振連結される部材に対して第一の取付板部材を位置決めするための第二の位置決め突起が設けられていることが多い。そして、ストッパプレートを第一の取付板部材へ組み付ける際には、それら第一及び第二の位置決め突起を、ストッパプレートの各対応位置に設けられた第一及び第二の挿通孔へ嵌め入れなければならない。それ故、ストッパプレートの第一の取付板部材に対する組付方向が、より厳しく限定されることとなり、俯角部の当接部への引っ掛かりを避けるために、俯角部の形状が制限されてしまい、目的とするストッパ機能の実現が困難になる場合もあったのである。
ここにおいて、上述の本発明の第三の態様に従う構造とされた防振装置では、ボルト挿通孔と第二の挿通孔が何れも長孔とされて、ストッパプレートにおいて第一の挿通孔側を持ち上げる傾動が許容されていることから、ストッパプレートのストッパ部における俯角が大きい場合などでも、ストッパ部の当接部への引っ掛かりを避けて、ストッパプレートを第一の取付板部材に対して容易に組み付けることが可能になる。
その際、第一の位置決め突起は、第二の位置決め突起に比して突出高さが小さくされていると共に、取付ボルトや第二の位置決め突起に比してストッパプレートの傾動軸から離れて位置せしめられている。それ故、ストッパプレートを傾動させてストッパ部の当接部への引っ掛かりを避けつつ第一の取付板部材へ組み付ける際にも、第一の位置決め突起が第一の挿通孔に嵌め入れられる段階では、ストッパプレートの傾動角度が既に小さく又は第一の取付板部材と略平行になっており、第一の挿通孔の周囲に対する第一の位置決め突起の引っ掛かりによるストッパプレートの組付阻害が効果的に回避される。
そして、ストッパプレートを第一の取付板部材へ密着状態で重ね合わせる際には、第一の位置決め突起が全周に亘って第一の挿通孔へ嵌合されると共に、第二の位置決め突起が第二の挿通孔に対して一方向で係止位置決めされることにより、第一の取付板部材に対するストッパプレートの位置決めを確実に且つ高精度に行うことが可能になるのである。
本発明の第四の態様は、第三の態様に係る防振装置において、前記ストッパプレートにおける前記一対の側板部の対向方向で、前記取付ボルトが前記ボルト挿通孔に対して位置決めされるようになっているものである。
本態様に従う構造とされた防振装置では、ストッパプレートを第一の取付板部材へ密着状態で重ね合わせる際に、第一及び第二の位置決め突起の第一及び第二の挿通孔に対する嵌合や係止作用に加えて、取付ボルトのボルト挿通孔に対する係止作用も発揮されることにより、第一の取付板部材に対するストッパプレートの位置決めを一層確実に且つ強固に行うことが可能になる。
本発明の第五の態様は、第三又は第四の態様に係る防振装置において、前記第一の位置決め突起と前記第二の位置決め突起の少なくとも一方が、基端部よりも先端部の断面積が小さい先細状とされているものである。
本態様に従う構造とされた防振装置では、第一の位置決め突起や第二の位置決め突起が先細状とされることにより、第一の挿通孔や第二の挿通孔に対する挿入時における引っ掛かりが一層効果的に防止され得て、ストッパプレートの第一の取付板部材に対する組付作業性の更なる向上が図られ得る。
本発明の第六の態様は、第三〜五の何れかの態様に係る防振装置において、前記第一の位置決め突起の突出高さが、前記ストッパプレートの外面に突出しない大きさに設定されているものである。
本態様に従う構造とされた防振装置では、第一の位置決め突起の突出高さが制限されていることにより、前述の如きストッパプレートの第一の取付板部材に対する組付時における両部材の引っ掛かりが一層効果的に回避されると共に、第一の取付板部材が取り付けられて防振連結される部材に対して第一の位置決め突起が干渉する不具合も完全に防止され得る。
本発明の第七の態様は、第一〜六の何れかの態様に係る防振装置において、パワーユニットのエンジンの斜め下方で該エンジンを両側から挟んだ位置にそれぞれ傾斜配置されてエンジンマウントを構成するものである。
本態様に従う構造とされた防振装置では、各エンジンマウントにおいて、ストッパプレートの第一の取付板部材への組付けを阻害することなく、例えばストッパ部に大きな俯角を設定したり、両方のストッパ部に俯角を設定等することが可能になる。それ故、パワーユニットの変位量を制限するストッパ機能が、その方向等の設定に関して大きな自由度をもって実現可能となる。特に、自動車のエンジンマウントにおいて、車両衝突部等に及ぼされる過大で且つパワーユニットが斜め上方に向かう荷重に対しても、第一の取付板部材と第二の取付板部材との離隔方向への相対変位量を制限するストッパ機能に基づいて、有効なストッパ機能が大きな耐荷重性能をもって発揮され得ることとなる。
本発明に従う構造とされた防振装置によれば、俯角部を有すると共に両側方への開口が相互に連設された側板部で塞がれた特定構造の第一及び第二のストッパ部を新たに採用したことにより、第一の取付板部材と第二の取付板部材との相互離隔方向を含む多方向の入力荷重に対して有効なストッパ機能が、優れた耐荷重性能をもって実現可能とされる。
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
先ず、図1〜5には、本発明の一実施形態としての防振装置であるエンジンマウント10が示されている。このエンジンマウント10は、角形マウントであって、図6に示されているマウント本体12に対して、図7〜9に示されているストッパプレート14が組み付けられた構造とされている。
より詳細には、マウント本体12は、図1〜6に示されているように、略矩形ブロック形状の本体ゴム弾性体16を備えており、この本体ゴム弾性体16によって第一の取付板部材18と第二の取付板部材20が弾性的に連結されている。即ち、第一の取付板部材18と第二の取付板部材20は、何れもプレス加工された板金具等で構成されており、互いに所定距離を隔てて対向配置されている。そして、これら第一の取付板部材18と第二の取付板部材20の対向面間に本体ゴム弾性体16が配設されており、本体ゴム弾性体16に対して第一及び第二の取付板部材18,20が加硫接着されている。なお、図2〜5は、車両に装着されてパワーユニットの分担支持荷重の入力により本体ゴム弾性体16が弾性変形した状態を示している。また、図3においては、本体ゴム弾性体16の図示を省略する。
なお、第一の取付板部材18は全体に亘って略平坦な矩形平板形状とされている一方、第二の取付板部材20は、第一の取付板部材18よりも長手方向に大きな寸法を有していると共に、幅方向中央部分を長手方向に延びる補強リブ22が設けられている。また、第二の取付板部材20において、図3,4中の左右方向両側に位置する長手方向両側には、本体ゴム弾性体16からそれぞれ外方に突出する第一の当接部24と第二の当接部26が一体形成されている。
これら第一の当接部24および第二の当接部26は、第二の取付板部材20における一対の対向辺部から第一の取付板部材18に向かって立ち上がるように突出しており、それらの屈曲部分が補強リブ22で補強されている。また、第一の当接部24と第二の当接部26には、各表面を覆うように第一の緩衝ゴム28と第二の緩衝ゴム30が形成されて各当接部24,26に加硫接着されている。本実施形態では、これら第一及び第二の緩衝ゴム28,30が、本体ゴム弾性体16と一体形成されている。
また、第一の取付板部材18には、略中央部分に位置して外方に向かって略垂直に突出する取付ボルト32が植設されている。更に、この取付ボルト32に対して、第一の取付板部材18の長手方向一方の側(図3,4,6中の右側)には、小突起形状の第一の位置決め突起34が外方に突出形成されている。また一方、取付ボルト32を挟んで、第一の取付板部材18の長手方向で第一の位置決め突起34と反対側には、第一の位置決め突起34よりも大きな突出高さで略垂直に突出する第二の位置決め突起36が外方に突出形成されている。なお、本実施形態では、第一の位置決め突起34の突出高さは、ストッパプレート14の外面に突出しない大きさとされている。
ここにおいて、これら第一及び第二の位置決め突起34,36は、第一の取付板部材18に対して他部材を溶着したり、固定リベット等で形成することも可能であるが、本実施形態ではプレス加工によって第一の取付板部材18に一体形成されている。また、第一及び第二の位置決め突起34,36は、何れも、基端部外径よりも先端部外径が小さい先細形状とされている。特に本実施形態では、第一及び第二の位置決め突起34,36が、円形断面で第一の取付板部材18の上面から垂直に立ち上がっており、その先端部分が凸形球冠形状とされている。
また、本実施形態では、第一の取付板部材18に突設された取付ボルト32と第一及び第二の位置決め突起34,36が、第一の取付板部材18の幅方向略中央に位置して、第一の取付板部材18の長手方向に延びる直線上に略直列的に配置されている。
そして、図2に示されているように、第一の取付板部材18は、エンジンマウント10で防振連結される一方の部材であるパワーユニット38に対して、取付ボルト32によりボルト固定されて取り付けられるようになっている。特に、本実施形態では、パワーユニット38のエンジン40に対して、斜め下方から両側を挟む位置に一対のエンジンマウント10,10が傾斜配置されており、図2ではそのうちの一方が示されている。
また一方、第二の取付板部材20には、その長手方向中間部分において幅方向両側に広がって延び出した一対の取付片42,42が一体形成されている(図1等参照)。そして、図2に示されているように、エンジンマウント10で防振連結される他方の部材である車両ボデー44に対して、これら一対の取付片42,42が重ね合わされた後、各取付片42に設けられた貫通孔46に挿通される固定ボルト(図示せず)によりボルト固定されて取り付けられるようになっている。
一方、このようなマウント本体12に組み付けられるストッパプレート14は、図7〜9に単体構造が示されているように、第一の取付板部材18よりも一回り大きい略矩形平板形状の中央板部48を備えている。そして、図1〜5に示されているように、この中央板部48が第一の取付板部材18に対して略全面にわたる当接状態で重ね合わされて組み付けられるようになっている。なお、中央板部48には、第一の取付板部材18に突設された取付ボルト32,第一及び第二の位置決め突起34,36の各対応位置にボルト挿通孔50、第一及び第二の挿通孔52,54が形成されてそれぞれ挿通されるようになっている。
また、この中央板部48において一対の対向辺部となる長手方向両側には、それぞれ、マウント本体12への組付状態で第二の取付板部材20側となる一方の面側に向かって立ち上がるようにして突出する第一及び第二のストッパ部56,58が一体形成されている。
これら第一のストッパ部56および第二のストッパ部58には、何れも、中央板部48から略30〜60度屈曲して広がる上側傾斜板部56a,58aと、各上側傾斜板部56a,58aの先端から更に屈曲されることで中央板部48に対して略直角に広がる垂板部56b,58bと、各垂板部56b,58bの先端から更に略30〜80度屈曲されることでオーバーハング形状で俯角θ,θ′(それぞれ図7参照)をもって広がる俯角部としての下側傾斜板部56c,58cが設けられている。
また、ストッパプレート14には、中央板部48において他の一対の対向辺部となる幅方向両側縁部からそれぞれ第二の取付板部材20側に向かって略直角に立ち上がる一対の側板部60,60が一体形成されている。これら一対の側板部60,60は、ストッパプレート14の長手方向両側部分において、第一のストッパ部56および第二のストッパ部58の各幅方向両側縁部に一体的に繋がっている。
これにより、中央板部48の周囲において、第一及び第二のストッパ部56,58と一対の側板部60,60とが、全体としてスカート状に延びる周壁状をもって形成されている。また、第一のストッパ部56と第二のストッパ部58は、それぞれ、一対の側板部60,60で幅方向両側の開口を覆蓋されることにより、ストッパプレート14の長手方向で相互に対向して開口した袋形状とされている。そして、このように袋形状とされることで大きな強度が与えられた両ストッパ部56,58には、それぞれの開口部から第一及び第二の当接部24,26が差し入れられるように配されており、かかる第一及び第二の当接部24,26に対して第一及び第二のストッパ部56,58が側方から被せられて周りを囲む状態で配されている。
なお、このようなストッパプレート14は、平板形状の金属素板を深絞り加工や曲げ加工などのプレス加工によって形成したり、複数の部位に分割してプレス形成した部品を相互に溶接等で固着して一体化することにより形成することができる。本実施形態では、第二のストッパ部58において俯角を有する下側傾斜板部58cの部分が別体形成された別部品62で構成されており、その他のストッパプレート本体部分と別部品62とが、各別にプレス形成された後、相互に溶接で一体化されることによってストッパプレート14が構成されている。
このように、一方のストッパ部を別部品とすることで、長手方向両側にそれぞれ俯角を有する袋形状の第一及び第二のストッパ部56,58を備えたストッパプレート14を容易に製造することが可能になる。また、別部品62には、複数の取付用孔64,66が設けられていると共に、一方の取付用孔64には固定ナット68も固着されている。そして、これらの取付用孔64,66と固定ナット68を利用して、エンジンマウント10を覆ってエンジンからの輻射熱を軽減する別パーツのヒートインシュレータカバー等を後から取り付けて位置決め固定することも可能とされている。ストッパプレート14の一部を別部品62で構成することにより、当該小型化された別部品62に対して、このような取付用孔64,66や固定ナット68等を設ける加工も容易に行うことができるのである。
かくの如きストッパプレート14は、マウント本体12に組み付けられてエンジンマウント10を構成することとなり、図2および後述する図14に示されているように、エンジンマウント10がパワーユニット38に対して、エンジンマウント10の長手方向が傾斜方向上下に位置する状態、即ち第一及び第二のストッパ部56,58が傾斜方向上下に位置する状態で配置される。このような一対のエンジンマウント10,10による自動車への装着状態下において、一対のエンジンマウント10,10が協働して、パワーユニット38を防振支持すると共に、パワーユニット38の変位量を緩衝的に制限するようにされる。
特に、ストッパプレート14には、第一及び第二のストッパ部56,58が、それぞれ、上側傾斜板部56a,58aと垂板部56b,58bと下側傾斜板部56c,58cおよび両側の側板部60,60とからなる袋形状をもって形成されており、開口部側で互いに対向せしめられている。そして、かかる第一及び第二のストッパ部56,58が、第二の取付板部材20の一対の対向辺部に設けられた第一及び第二の当接部24,26に対して、それぞれ外方から被せられるようにして配されている。
これにより、車両上下左右A,B,C,D(図2参照)の各方向と図2の紙面に垂直な車両前後方向の何れの方向においても、第一及び第二のストッパ部56,58がそれぞれ第一及び第二の当接部24,26に対して所定距離を隔てて対向位置せしめられている。それ故、このような第一及び第二のストッパ部56,58と第一及び第二の当接部24,26からなる第一及び第二のストッパ機構では、車両上下左右前後の何れの方向においても、両ストッパ部56,58と両当接部24,26とが、第一及び第二の緩衝ゴム28,30を介しての相互の当接に基づいて相対変位量を制限するストッパ機能を発揮し得ることとなり、コンパクトで且つ効果的なストッパ機構が実現され得るのである。
特に、両ストッパ部56,58のそれぞれの俯角部である下側傾斜板部56c,58cは、第一及び第二の当接部24,26に対して背面側から当接するようにされており、第一の取付板部材18と第二の取付板部材20が相互に離隔する方向でも有効なストッパ機能が発揮され得ることとなる。
ところで、ストッパプレート14の長手方向両側部分には、俯角を有する下側傾斜板部56c,58cを備えた第一及び第二のストッパ部56,58が、相互に対向して開口する袋形状をもって形成されている。そして、これら第一及び第二のストッパ部56,58の袋状内に、第一及び第二の当接部24,26が差し入れられた略収容状態で配置されることにより、上述の如き多方向でのストッパ機能が発揮されるようになっている。それ故、図10に示されているように、ストッパプレート14における下方への開口部の長手方向寸法LAが、第一及び第二の当接部24,26を備えたマウント本体12における長手方向寸法LBに比して小さい。
そのために、ストッパプレート14をマウント本体12に組み付ける工程で、マウント本体12の第一の取付板部材18に対してストッパプレート14を重ね合わせようとしても、第一及び第二のストッパ部56,58の少なくとも一方が、第一及び第二の当接部24,26に引っ掛かってしまって組み合わせることができなくなってしまう。
そこで、ストッパプレート14のマウント本体12への組付けに際しては、図11(a)〜(d)に工程が順次に示されているように、ストッパプレート14において長手方向一方の開口端部となる第一のストッパ部56の下側傾斜板部56cの先端を、第二の取付板部材20の第一の当接部24よりも内方にまで差し入れ、その位置を略回転中心αとして、ストッパプレート14の長手方向他方の側を傾斜状態から次第に回転させて、第一の取付板部材18に重ね合わせるようにされる。換言すれば、ストッパプレート14が第一の取付板部材18に重ね合わされた状態を基準とすると、回転中心αを中心として、第一の取付板部材18に対してストッパプレート14の第一の挿通孔52側を持ち上げる方向の傾動が許容されている。
このようなストッパプレート14の傾動回転を伴う第一の取付板部材18への組付工程は、第一の取付板部材18に設けられた取付ボルト32、第一及び第二の位置決め突起34,36と、それらが挿通されるストッパプレート14の中央板部48におけるボルト挿通孔50、第一及び第二の挿通孔52,54との特定構造によって実現されるようになっている。
すなわち、先ず第一の取付板部材18においては、取付ボルト32に対して、ストッパプレート14の傾動回転中心αから遠い側に第一の位置決め突起34が設けられていると共に、ストッパプレート14の傾動回転中心αに近い側に第二の位置決め突起36が設けられている。
一方、ストッパプレート14においては、第一の挿通孔52が第一の位置決め突起34の外周面の全周に亘って嵌合して相互に位置決め作用を発揮し得る大きさで形成されている。また、第二の挿通孔54は、傾動回転方向に直交するストッパプレート14の幅方向(図8中の上下方向)では、第二の位置決め突起36に係合して位置決め作用を発揮し得るが、それに直交する方向(図8中の左右方向)では、第二の位置決め突起36が第二の挿通孔54内で移動を許容される程に大きな遊び寸法をもって形成されている。更にまた、ボルト挿通孔50も、第二の挿通孔54と同様に、ストッパプレート14の幅方向では、取付ボルト32に係合して位置決め作用を発揮し得るが、それに直交するストッパプレート14の長手方向では、取付ボルト32がボルト挿通孔50内で移動を許容される程に大きな遊び寸法をもって形成されている。
本実施形態では、第一の挿通孔52が、第一の位置決め突起34の最大外径寸法よりも僅かに大きな内径寸法の円形状とされている。また、第二の挿通孔54は、第二の位置決め突起36の最大外径寸法よりも僅かに大きな短軸寸法と、かかる最大外径寸法の2倍以上の長軸寸法とを有する長円形状とされている。一方、ボルト挿通孔50は、取付ボルト32の最大外径寸法よりも僅かに大きな短軸寸法と、かかる最大外径寸法の2倍以上の長軸寸法とを有する長円形状とされている。
これにより、図11(b)〜(c)に至る工程で、第一の取付板部材18に対して傾斜状態とされたストッパプレート14のボルト挿通孔50に対して、第一の取付板部材18の取付ボルト32を、図12,13に拡大図示されているように、相対的な傾斜状態のままで挿通させて組み付けることが可能になる。また、図11(c)〜(d)に至る工程で、ストッパプレート14の第二の挿通孔54に対して、第一の取付板部材18の第二の位置決め突起36を、同様に、挿通させて組み付けることが可能になる。
そして、図11(d)に示されているように、ストッパプレート14の第二のストッパ部58における下側傾斜板部58cの下端がマウント本体12における第二の当接部26の突出部位を越えるまで、ストッパプレート14が傾動回転すると、ストッパプレート14における第一及び第二のストッパ部56,58間の最小寸法LAの部位が、第二の取付板部材20における第一及び第二の当接部24,26の最大寸法LBの位置を越える。それ故、ストッパプレート14をマウント本体12の第一の取付板部材18の上で略面方向に相対変位させることが可能になる。また、第二の位置決め突起36と取付ボルト32が挿通される第二の挿通孔54とボルト挿通孔50が長孔形状とされていることにより、その長軸方向において第二の位置決め突起36と取付ボルト32は、それぞれの挿通孔54,50内での移動が許容されている。
従って、図11(d)に示されているように、ストッパプレート14の傾動回転操作を終えて、ストッパプレート14を第一の取付板部材18と略平行にした後で、仮に位置ずれがあった場合でも、ストッパプレート14を第一の取付板部材18に対して略平行に相対変位させることにより、第一の位置決め突起34を第一の挿通孔52に対して位置合わせして嵌入させることができる。これにより、図1〜5に示されているように、ストッパプレート14が第一の取付板部材18に対して密接状態で重ね合わされて組み付けられることとなる。
そして、図2等に示されている組付状態では、第一の位置決め突起34が全周に亘って第一の挿通孔52に嵌合されていることにより、かかる嵌合位置において第一の取付板部材18とストッパプレート14とが正確に位置決めされる。同時に、第二の位置決め突起36が、プレート幅方向で嵌合係止されることにより、第一の位置決め突起34と第一の挿通孔52との嵌合中心点回りにおける周方向で、第一の取付板部材18とストッパプレート14とが位置決めされる。これら第一及び第二の位置決め突起34,36と第一及び第二の挿通孔52,54との相乗的な位置決め作用に基づいて、第一の取付板部材18とストッパプレート14とが、重ね合わせ面の全方向で正確に且つ安定して位置決めされて相互にずれが防止されるのである。特に、第二の位置決め突起36はストッパプレート14を貫通する突出高さで形成されており、パワーユニット38の対応位置に形成されたボルト穴に嵌入されることから、第二の位置決め突起36により第一の取付板部材18がパワーユニット38に対しても位置決めされる。
特に、第二の位置決め突起36は、第一の位置決め突起34に対して、取付ボルト32を挟んで反対側に設けられることで、第一の位置決め突起34と第二の位置決め突起36の離隔距離が十分に大きく設定され得る。それ故、第一及び第二の位置決め突起34,36の協働作用に基づく第一の取付板部材18とストッパプレート14との位置決め精度と強度が一層効果的に発揮される。
また、本実施形態では、取付ボルト32および第二の位置決め突起36が直列的に配設されており、それぞれがボルト挿通孔50および第二の挿通孔54に対して嵌合係止作用が発揮されることから、第一の位置決め突起34および第一の挿通孔52の周方向位置が規定される。これにより、第一の位置決め突起34および第一の挿通孔52による位置決め作用の強度と信頼性の更なる向上が図られ得る。
さらに、本実施形態の第一の位置決め突起34は、ストッパプレート14の回転中心αからの離隔距離が第二の位置決め突起36に比して大きくされていると共に、第一の位置決め突起34の突出高さが第二の位置決め突起36に比して小さくされている。このことから、図11に示されているようなストッパプレート14の傾動操作に対して第一の位置決め突起34の干渉が有効に回避され得ると共に、第一の位置決め突起34が第一の挿通孔52に対して全周に亘って嵌合され得て、高精度な位置決め作用が実現され得る。
なお、図2に示されている如き自動車への装着状態では、取付ボルト32と取付ナット70の締付力で第一の取付板部材18に対してストッパプレート14が強固に位置決め固定される。そして、かかる締付力に基づいてストッパプレート14は第一の取付板部材18と実質的に一体構造とされて、ストッパ機能を安定して発揮し得ることとなる。
因みに、図14に示されているように、本実施形態に従う構造とされたエンジンマウント10の一対を用いてFR型自動車のパワーユニット38の車両前方側を左右両側から防振支持せしめると共に、パワーユニット38の車両後方側のトランスミッション部分72を一つのリヤ側エンジンマウント74で防振支持せしめた三点支持によるパワーユニット38の車両ボデー(図示せず)に対する防振支持構造において、車両衝突時の入力荷重に対するエンジンマウント10のストッパ機能をシミュレーションした試験結果を、図15に示す。なお、かかる試験に際しては、図16,17に示された参考例としてのエンジンマウントの一対を採用した場合についても同様に試験を行い、その結果を参考例として、図15中に併せ示す。また、車両衝突時の荷重入力方向は、図14に示すように、車両前後方向に延びるクランクシャフトを備えた縦置タイプのエンジン40の先端中央部分が車両幅方向で左側に僅かに傾斜しつつ後方で且つ上方へ持ち上げられる方向を想定した。更に、本試験においては、エンジンマウント10を採用した場合と参考例のエンジンマウントを採用した場合とで同一の、従来公知なリヤ側エンジンマウントを採用している。
図15に示す試験結果から明らかなように、本実施形態のエンジンマウント10では、参考例のエンジンマウントに比して、略2倍の耐荷重性能差Aを発揮し得ることを確認し得た。特に、本実施形態のエンジンマウント10と参考例のエンジンマウントは、何れも、変位量が0.7〜0.8Xの位置でストッパ機構が当接しており、入力荷重Pに至るまでの当接初期段階では略同じ荷重−変位量特性により有効なストッパ機能を発揮しているが、Pを超えた荷重領域では、参考例のエンジンマウントではストッパ機能が殆ど作用していないのに対して、本実施形態のエンジンマウント10では、更に2.5倍以上の荷重領域に亘って有効なストッパ機能を発揮し得ることが認められる。
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明は上述の具体的な記載によって限定されない。例えば、第一及び第二の位置決め突起34,36は、先細形状とされることで第一及び第二の挿通孔52,54への嵌め入れ操作が容易とされるが、突出方向の全長に亘って一定の断面形状とされていても良い。
また、第一及び第二のストッパ部や第一及び第二の当接部の具体的形状や構造は、荷重の入力方向や入力荷重の大きさなど要求されるストッパ特性に応じて適宜に変更することが可能である。そして、第一及び第二のストッパ部や第一及び第二の当接部の形状や大きさなどを考慮して、第一及び第二のストッパ部における俯角部を別部品で後固着する他、第一及び第二のストッパ部を含むストッパプレートの全体を一体成形品で構成することも可能である。
なお、第二の挿通孔における長軸方向の長さは限定されるものでなく、例えばボルト挿通孔に向かって長くして、ボルト挿通孔と連通する一体的な挿通孔として形成することも可能である。
また、例えば、第一の取付板部材18とストッパプレート14との位置決め作用を、第一及び第二の挿通孔52,54に対する第一及び第二の位置決め突起34,36の係止作用で発揮させることも可能である。即ち、取付ボルトはボルト挿通孔内において位置決め作用を発揮する必要はなく、ボルト挿通孔は、取付ボルトがボルト挿通孔内を全方向において移動可能とされ得るような形状とされても良い。これにより、パワーユニット38に対するエンジンマウント10の取付位置が容易に調節可能とされ得る。
さらに、取付片42における貫通孔46の形状も、例えば長孔形状とされることにより車両ボデー44に対するエンジンマウント10の取付位置が容易に調節可能とされ得る。特に、ボルト挿通孔50および貫通孔46のそれぞれが長孔形状とされて、両孔の長軸方向が相互に直交する方向で形成されることが好適であり、これにより、パワーユニット38および車両ボデー44に対するエンジンマウント10の位置合わせ方向の自由度が向上され得る。
更にまた、マウント本体の具体的構造は限定されるものではなく、例えば、内部に非圧縮性流体を封入した流体封入式防振装置をマウント本体として採用することも可能である。