JP2008127623A - Al基合金スパッタリングターゲットおよびその製造方法 - Google Patents

Al基合金スパッタリングターゲットおよびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】成膜速度を速くしても、アーキング(異常放電)などのスパッタリング不良が発生しないNi含有Al基合金スパッタリングターゲットを提供する。
【解決手段】Niを0.05〜10原子%含有するAl基合金スパッタリングターゲットであり、後方散乱電子回折像法によってNi含有Al基合金スパッタリングターゲットのスパッタリング面法線方向の結晶方位<001>、<011>、<111>、および<311>が下記(1)〜(3)の要件:
(1)<001>±15°と<011>±15°と<111>±15°と<311>±15°との合計面積率をP値としたとき、スパッタリング面全面積に対するP値の比率は70%以上、
(2)P値に対する、<011>±15°の面積率の比率は30%以上、
(3)P値に対する、<111>±15°の面積率は10%以下
の要件を満足するNi含有Al基合金スパッタリングターゲットである。
【選択図】なし

Description

本発明は、Niを含有するAl基合金スパッタリングターゲットおよびその製造方法に関し、詳細には、スパッタリング面法線方向の結晶方位が制御されたNi含有Al基合金スパッタリングターゲットに関するものである。
Al基合金は、電気抵抗率が低く、加工が容易であるなどの理由により、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)、プラズマディスプレイパネル(PDP:Plasma Display Panel)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD:Electro Luminescence Display)、フィールドエミッションディスプレイ(FED:Field Emission Display)などのフラットパネルディスプレイ(FPD:Flat Panel Display)の分野で汎用されており、配線膜、電極膜、反射電極膜などの材料に利用されている。
例えば、アクティブマトリクス型の液晶ディスプレイは、スイッチング素子である薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)、導電性酸化膜から構成される画素電極、および走査線や信号線を含む配線を有するTFT基板を備えており、走査線や信号線は、画素電極に電気的に接続されている。走査線や信号線を構成する配線材料には、一般に、純AlやAl−Nd合金の薄膜が用いられるが、これらの薄膜を画素電極と直接接続すると、絶縁性の酸化アルミニウムなどが界面に形成されて電気抵抗が上昇するため、これまでは、上記Alの配線材料と画素電極の間に、Mo,Cr,Ti,W等の高融点金属からなるバリアメタル層を設けて電気抵抗の低減化を図ってきた。
しかしながら、上記のようにバリアメタル層を介在させる方法は、製造工程が煩雑になって生産コストの上昇を招くなどの問題がある。
そこで、本願出願人は、バリアメタル層を介さずに、画素電極を構成する導電性酸化膜を配線材料と直接接続することが可能な技術(ダイレクトコンタクト技術)として、配線材料に、Al−Ni合金や、NdやYなどの希土類元素を更に含有するAl−Ni合金の薄膜を用いる方法を提案している(特許文献1)。Al−Ni合金を用いれば、界面に導電性のNi含有析出物などが形成され、絶縁性酸化アルミニウム等の生成が抑制されるため、電気抵抗率を低く抑えることができる。また、Al−Ni−希土類元素合金を用いれば、耐熱性が更に高められる。
ところで、Al基合金薄膜の形成には、一般にスパッタリングターゲットを用いたスパッタリング法が採用されている。スパッタリング法とは、基板と、薄膜材料から構成されるスパッタリングターゲット(ターゲット材)との間でプラズマ放電を形成し、プラズマ放電によってイオン化した気体をターゲット材に衝突させることによってターゲット材の原子をたたき出し、基板上に積層させて薄膜を作製する方法である。スパッタリング法は、真空蒸着法やアークイオンプレーティング(AIP:Arc Ion Plating)法と異なり、ターゲット材と同じ組成の薄膜を形成できるというメリットを有している。特に、スパッタリング法で成膜されたAl基合金薄膜は、平衡状態では固溶しないNdなどの合金元素を固溶させることができ、薄膜として優れた性能を発揮することから、工業的に有効な薄膜作製方法であり、その原料となるスパッタリングターゲット材料の開発が進められている。
近年、FPDの生産性拡大などに対応するため、スパッタリング工程時の成膜速度は、従来より高速化する傾向にある。成膜速度を速くするには、スパッタリングパワーを大きくすることが最も簡便であるが、スパッタリングパワーを増加させると、アーキング(異常放電)やスプラッシュ(微細な溶融粒子)などのスパッタリング不良が発生し、配線薄膜などに欠陥が生じるため、FPDの歩留りや動作性能が低下するなどの弊害をもたらす。
そこで、スパッタリング不良の発生を防止する目的で、例えば、特許文献2〜5に記載の方法が提案されている。このうち、特許文献2〜4は、いずれも、スプラッシュの発生原因がターゲット材組織の微細な空隙に起因するという観点に基づいてなされたものであり、Alマトリックス中のAlと希土類元素との化合物粒子の分散状態を制御したり(特許文献2)、Alマトリックス中のAlと遷移元素との化合物の分散状態を制御したり(特許文献3)、ターゲット中の添加元素とAlとの金属間化合物の分散状態を制御したり(特許文献4)することによって、スプラッシュの発生を防止している。また、特許文献5には、スパッタ面の硬度を調整した後、仕上機械加工を行うことにより、機械加工に伴う表面欠陥の発生を抑制し、スパッタリングの際に発生するアーキングを低減する技術が開示されている。
更に、特許文献6には、スパッタリングターゲットのスパッタ面における結晶方位の比率を制御することにより、高い成膜速度でスパッタリングを行なう方法が記載されている。ここには、スパッタ面をX線回折法で測定したときの<111>結晶方位の含有率を20%以上と高くすると、スパッタ面と垂直の方向に飛翔するターゲット物質の比率が増加するため、薄膜形成速度が増加することが記載されている。実施例の欄には、Siを1重量%、Cuを0.5重量%含有するAl基合金ターゲットを用いた結果が記載されている。
また、特許文献7には、成膜速度に関する直接的な記載はないが、配線のエレクトロマイグレーション寿命を延長し、配線の信頼性を高めるには、スパッタ面をX線回折法で測定したときの<200>結晶方位の含有率を20%以上と高くすれば良いことが記載されている。実施例の欄には、Siを1重量%、Cuを0.5重量%含有するAl基合金ターゲットを用いた結果が記載されている。
一方、本願出願人は、主に、大型ターゲット製造時の加熱により生じるターゲットの反りを防止する技術を開示している(特許文献8)。特許文献8は、Al−Ni−希土類元素合金スパッタリングターゲットを対象にしており、ターゲット平面に垂直な断面に、アスペクト比が2.5以上で円相当径直径が0.2μm以上の化合物が所定個数以上存在すると、ターゲットの変形を充分に抑制できることを提案している。
特開2004−214606号公報 特開平10−147860号公報 特開平10−199830号公報 特開平11−293454号公報 特開2001−279433号公報 特開平6−128737号公報 特開平6−81141号公報 特開2005−37937号公報
前述したように、これまでにも、スパッタリング不良改善や成膜速度向上に関する種々の技術が提案されているが、一層の改善が求められている。特に、画素電極を構成する導電性酸化膜と直接接続し得る配線材料として有用なAl−Ni合金やAl−Ni−希土類元素合金の薄膜形成に用いられるNi含有Al基合金スパッタリングターゲットにおいて、上記課題を解決することが可能な技術は、未だ提案されていない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、Niを含むAl基合金スパッタリングターゲットを用いたときの成膜速度が高められ、アーキング(異常放電)などのスパッタリング不良を抑制し得る技術を提供することにある。特に、本発明の目的は、高速成膜したとしても、その成膜速度が速いために低スパッタパワー条件とすることができ、その結果、上記のスパッタリング不良が発生しないNi含有Al基合金スパッタリングターゲット、およびその製造方法を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、Niを0.05〜10原子%含有するAl基合金スパッタリングターゲットであって、後方散乱電子回折像法によって前記Al基合金スパッタリングターゲットのスパッタリング面法線方向の結晶方位<001>、<011>、<111>、および<311>を観察したとき、下記(1)〜(3)の要件を満足するところに要旨が存在する。
(1)<001>±15°と<011>±15°と<111>±15°と<311>±15°との合計面積率をP値としたとき、スパッタリング面全面積に対する前記P値の比率は70%以上であり、
(2)前記P値に対する、<011>±15°の面積率の比率は30%以上であり、
(3)前記P値に対する、<111>±15°の面積率は10%以下である。
好ましい実施形態において、更に、希土類元素を0.1〜2原子%含有する。
また、上記課題を解決し得た本発明に係るAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法は、Al基合金緻密体を用意する第1の工程と、前記Al基合金緻密体を鍛造してスラブを得る第2の工程と、前記スラブに対し、圧延温度400〜500℃、1パス当たりの圧下率5〜15%、および総圧下率60〜90%の条件で圧延を行なう第3の工程と、300〜400℃の温度で1〜2時間加熱を行なう第4の工程と、を包含するところに要旨が存在する。
好ましい実施形態において、前記第1の工程は、スプレイフォーミング法によってAl基合金プリフォームを製造する工程と、前記Al基合金プリフォームを緻密化手段によって緻密化する工程と、を含む。
本発明のAl基合金スパッタリングターゲットは、スパッタリング面法線方向の結晶方位が適切に制御されているため、成膜速度が高められ、スパッタリング不良(アーキング)も効果的に抑制される。このように、本発明によれば、速い成膜速度が得られるため、従来のようにスパッタリングパワーを増加させる必要はなく、生産性が著しく向上するほか、高スパッタリングパワー条件下で顕著に発生するスパッタリング不良が一層抑制されるようになる。
本発明者は、画素電極を構成する導電性酸化膜と直接接続(ダイレクトコンタクト)し得る配線材料として有用なNi含有Al基合金の薄膜形成に用いられるNi含有Al基合金スパッタリングターゲットについて、成膜速度を速くしても、アーキングなどのスパッタリング不良の発生を抑制し得る技術を提供するため、鋭意検討してきた。その結果、Ni含有Al基合金スパッタリングターゲットのスパッタリング面法線方向の結晶方位を適切に制御すれば、所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
本明細書において、「Al基合金」または「Ni含有Al基合金」とは、0.05〜10原子%のNiを含有するAl−Ni合金、およびNd、La、Gd、Dyなどの希土類元素を更に0.1〜2原子%の範囲内で含有するAl−Ni−希土類元素合金の両方を含んでいる。
本明細書において、「スパッタリング不良が抑制されている」とは、後記する実施例の欄に記載の方法に基づき、成膜速度に応じたスパッタリングパワーを設定し、スパッタリングを行なったときに生じるアーキングの発生数を測定したとき、アーキングの発生数が80個未満(好ましくは50個未満)のものを意味する。
まず、図1を参照しながら、本発明のAl基合金を特徴付ける結晶方位について説明する。
Alは、図1に示すように、面心立方格子(FCC:Face Centered Cubic lattice)の結晶構造を有しており、スパッタリングターゲットのスパッタリング面法線方向[対向する基板に向かう方向(ND)]の結晶方位として、主に、<011>、<001>、<111>、および<311>の4種類の結晶方位を含むことが知られている。原子密度が最も高い方位(最密方位)は<011>であり、次いで、<001>、<111>である。
Al基合金や純Alの中でも、特にAl基合金は合金系によって固溶・析出形態が異なることから、結晶の変形や回転の挙動に差異が生じて、結果的に結晶方位形成過程が異なってくると考えられている。工業的に使用されているJIS 5000系Al合金(Al−Mg系合金)やJIS 6000系Al合金(Al−Mg−Si系合金)等については、結晶方位の傾向や結晶方位制御を可能とする製造方法指針が明らかにされている。しかしながら、FPD用配線膜、電極膜、反射電極膜等に用いられるAl基合金については、結晶方位の傾向も結晶方位制御を可能とする製造方法指針も明らかにされていない状況にある。
そこで、本発明者は、Al基合金のなかでも、特に、Ni含有Al基合金における結晶方位制御技術を提供するため、検討を行なった。
成膜速度を速くするためには、一般に、多結晶組織からなるターゲットを構成する原子の最密方向を、できるだけ、薄膜を形成する基板に向かうように制御することが良いといわれている。スパッタリングの際、ターゲット材を構成する原子は、Arイオンとの衝突によって外に押し出されるが、そのメカニズムは、(a)衝突したArイオンがターゲットの原子間に割り込み、周囲のターゲット原子を激しく振動させる、(b)振動は、特に、互いに接している原子の最密方向に伝播され、表面に伝えられる、(c)その結果、最密方向表面にある原子が外に押し出される、と言われている。従って、ターゲットを構成するひとつひとつの原子の最密方向が、対向する基板に向かっていると、効率の良いスパッタリングが可能となり、成膜速度が高められると考えられる。
本発明者は、上記の観点から、更に検討を重ねてきた。その結果、Ni含有Al基合金スパッタリングターゲットでは、<011>の比率を出来るだけ高くし、<111>の比率をできるだけ低くすれば良いこと、具体的には、<001>±15°と<011>±15°と<111>±15°と<311>±15°との合計面積率をP値としたとき、(1)スパッタリング面全面積に対するP値の比率≧70%、(2)P値に対する、<011>±5°の面積率の比率≧30%、(3)P値に対する、<111>±15°の面積率≦10%とすれば、所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
ところで、前述した特許文献6や特許文献7には、Si含有Al基合金ターゲットを対象とした場合、<111>の結晶方位の比率を高めると薄膜形成速度が速くなること(特許文献6)や、<200>(注:<001>と同義である)の結晶方位の比率を高めると配線の信頼性が向上すること(特許文献7)が記載されている。特許文献6の段落[0026]には、<111>方位面法線を有する結晶は、その方位のために、スパッタリングの際にスパッタ面と垂直方向の速度成分を有するターゲット物質が多く発生することに起因すると考えられる旨記載されている。これは、<111>の比率を出来るだけ低くする本発明の結晶方位制御指針と、全く相違している。
ところが、本発明者の実験によれば、本発明の如くNi含有Al基合金スパッタリングターゲットを対象とする場合、前述した特許文献6や特許文献7に教示された結晶方位制御技術(<111>や<200>の結晶方位の比率を高める技術)を採用しても、所望の効果は得られないことが明らかになった。
特に、Niの添加により、Al−Ni−希土類元素合金スパッタリングターゲットおよびAl−希土類元素合金スパッタリングターゲットの結晶方位は大きく相違することが、本発明者の実験によって初めて明らかになった。詳細には、希土類元素の種類は厳密には相違するが、Niを含有するAl−Ni−希土類元素合金(希土類元素=La)、およびNiを含有せず希土類元素のみを含有するAl−希土類元素合金(希土類元素=Nd)のそれぞれについて、同じ条件でスパッタリングターゲットを製造し、後方散乱電子回折像法(EBSP:Electron Backscatter Diffraction Pattern)によって結晶方位を解析(解析方法の詳細は後述する。)したところ、Al−Ni−La合金スパッタリングターゲットでは、図2に示すように、緑色で表される<101>(注:<011>と等価な結晶方位)の比率が非常に多くなり、青色で表される<111>の比率が非常に少ない結晶方位マップを示すのに対し、Niを含有しないAl−Nd合金スパッタリングターゲットでは、図3に示すように、<101>(緑色)の比率が非常に少なく、<311>(マゼンダ色)の比率が非常に多い結晶方位マップを示すことが分かった。
本発明では、Ni含有Al基合金の結晶方位を、EBSP法を用いて測定している。本発明の構成要件を詳述する前に、まず、EBSP法について説明する。
EBSPは、試料表面に電子線を入射させ、このときに発生する反射電子から得られた菊池パターンを解析することにより、電子線入射位置の結晶方位を決定するものである。電子線を試料表面に2次元で走査させ、所定のピッチごとに結晶方位を測定すれば、試料表面の方位分布を測定することができる。EBSP法によれば、通常の顕微鏡観察では同一と判断される組織であって結晶方位差の異なる板厚方向の組織を、色調差によって識別できるという利点がある。
例えば、前述した図2は、後記する実施例の欄に記載された表1のNo.4(Al−2原子%Ni−0.35原子%La合金)の逆極点図マップ(結晶方位マップ)を示しているが、図2に示すように、各結晶方位は色によって識別され、<001>は赤色、<101>(<011>と等価な結晶方位)は緑色、<111>は青色、<311>はマゼンダ色で表される。
本明細書では、以下のようにしてNi含有Al基合金スパッタリングターゲットの結晶方位を測定した。
まず、直径101.6mm、厚さ5.0mmの円板状のNi含有Al基合金スパッタリングターゲットを用意する。このスパッタリングターゲットを、縦10mm×横10mm×厚さ15mmのサイズにカットしてEBSP測定用試料とし、下記の装置およびソフトウェアを用い、上記スパッタリングターゲットの結晶方位を測定した。
装置:EDAX/TSL社製後方散乱電子回折像装置
「Orientation Imaging MicroscopyTM(OIMTM)」
測定ソフトウェア:OIM Data Collection ver.4
解析ソフトウェア:OIM Analysis ver.4
測定領域:面積100μm×100μm×深さ50nm
解析時の結晶方位差:±15°
ここで、「解析時の結晶方位差:±15℃」とは、例えば、<001>結晶方位の解析に当たり、<001>±15°の範囲内であれば許容範囲とみなし、<001>結晶方位と判断する、という意味である。上記の許容範囲内であれば、結晶学的に見て同一方位とみなしてよいと考えられるからである。以下に示すように、本発明では、すべて、±15°の許容範囲内で各結晶方位を算出している。そして、結晶方位<uvw>±15°のPartition Fractionを面積率として求めた。
以下、本発明の構成要件(1)〜(3)について説明する。
(1)<001>±15°と<011>±15°と<111>±15°と<311>±15°との合計面積率をP値としたとき、スパッタリング面全面積に対するP値の比率≧70%
まず、本発明では、上記のようにして対象となる4つの結晶方位、<001>、<011>、<111>、および<311>を±15°の許容結晶方位差で測定し、これらの合計面積率(P値)を算出する。本発明では、特に、スパッタリングターゲット面法線方位方向に存在する主な結晶方位である、上記4つの方位を対象とし、且つ、これらの合計面積率P値を70%以上とした。P値が70%未満では、結晶粒界などの欠陥が多く(約30%以上)検出され、品質が低下するためである。
本発明では、P値が上記(1)の要件を満足することを前提として、P値に対する<011>および<111>の各結晶方位の比率が、下式(2)および(3)の要件を満足していることが必要である。
(2){<011>±15°の面積率}×100/P値≧30%
本発明では、上式(2)に示すように、Ni含有Al基合金の最密方位である<011>の比率を最も大きくした。後記する実施例に示すように、<011>の比率が30%を下回ると、所望の成膜速度が得られず、スパッタリング不良の発生を効果的に抑えることができない。<011>の比率は大きい程よく、例えば、40%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。なお、その上限は特に限定されず、100%も含み得るが、実操業上、制御し得る最大の比率は、おおむね60%程度である。
(3){<111>±15°の面積率}×100/P値≦10%
更に、本発明では、上式(3)に示すように、Ni含有Al基合金の最疎方位である<111>の比率を最も小さくした。後記する実施例に示すように、<111>の比率が10%を超えると、所望の成膜速度が得られず、スパッタリング不良の発生を効果的に抑えることができない。<111>の比率は小さい程よく、例えば、8%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。なお、その下限は特に限定されず、0%も含み得るが、実操業上、制御し得る最小の比率は、おおむね、1%程度である。
なお、上記以外の、本発明の測定対象である結晶方位(<001>および<311>)の含有比率は、特に限定されない。成膜速度の向上やスパッタリング不良の低減化にあたっては、<011>および<111>の結晶方位を上式(2)および(3)のように規定すれば充分であり、他の結晶方位(<001>および<311>)による影響は、殆ど、考慮しなくても良いことを、実験によって確認している。
以上、本発明を特徴付ける結晶方位について説明した。
次に、本発明で対象とするAl基合金スパッタリングターゲットについて説明する。
前述したように、本発明では、Niを含有するAl基合金スパッタリングターゲット(Al−Ni合金スパッタリングターゲットおよびAl−Ni−希土類元素合金スパッタリングターゲット)を対象にしている。上記の特許文献1に記載したように、Al−Ni合金の薄膜は、画素電極と直接接続することが可能であり、更に希土類元素を含有するAl−Ni−希土類合金元素は、耐熱性も更に高められるため、ダイレクトコンタクト配線材料として極めて有用だからである。
なお、本発明では、Niの含有量を0.05〜10原子%とし、特許文献1に記載のNi含有量の上限(6原子%)よりも広くしているが、これは、本発明の結晶方位制御技術は、Niの上限が最大で10原子%であるAl−Ni合金スパッタリングターゲットにわたって適用できることを実験によって確認していることに基づく。後記する実施例に示すように、Niの含有量が0.05原子%の場合、<011>および<111>の各結晶方位を上式(2)および(3)の範囲に制御することができず、一方、Ni含有量が10原子%を超えると、結晶粒が微細化してランダムな結晶方位を示すようになり、<011>および<111>の各結晶方位を上式(2)および(3)の範囲に制御することができないからである。「結晶方位の制御され易さ」という観点からすれば、Niの含有量は、0.1原子%以上6原子%以下であることが好ましく、0.2原子%以上4原子%以下であることがより好ましい。
また、本発明では、NdやLaなどの希土類元素を更に含有するAl−Ni−希土類元素合金スパッタリングターゲットも対象にしている。本明細書において「希土類元素」とは、周期律表中のY、ランタノイド元素、およびアクチノイド元素を意味しており、特に、LaやNdを含有するAl−Ni合金スパッタリングターゲットを用いたときに好適に用いられる。希土類元素は、単独で含有しても良いし、2種以上を併用してもよい。
希土類元素の含有量(2種以上を含有するときはその合計量)は、0.1原子%以上2原子%以下であることが好ましく、0.15原子%以上1原子%以下であることが好ましい。
次に、本発明のAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法を説明する。
本発明の製造方法は、Al基合金緻密体を用意する第1の工程と、Al基合金緻密体を鍛造してスラブを得る第2の工程と、スラブに対し、圧延温度400〜500℃、1パス当たりの圧下率5〜15%、および総圧下率60〜90%の条件で圧延を行なう第3の工程と、300〜400℃の温度で1〜2時間加熱を行なう第4の工程と、を包含しており、これにより、上記のように結晶方位が制御されたスパッタリングターゲットが得られる。
以下、各工程について説明する。
(第1の工程)
まず、Al基合金緻密体を用意する。Al基合金の組成は、前述したとおりであり、Niを0.05〜10原子%含有するAl−Ni合金、または希土類元素を更に0.1〜2原子%含有するAl−Ni−希土類元素合金である。
具体的には、まず、スプレイフォーミング法によってAl基合金プリフォーム(最終的な緻密体を得る前の中間体)を製造した後、プリフォームを緻密化手段によって緻密化することが好ましい。
ここで、スプレイフォーミング法は、各種の溶融金属をガスによってアトマイズし、半溶融状態・半凝固状態・固相状態に急冷させた粒子を堆積させ、所定形状の素形材(プリフォーム)を得る方法である。この方法によれば、溶解鋳造法や粉末焼結法などでは得ることが困難な大型のプリフォームを単一の工程で得られるほか、結晶粒を微細化でき、合金元素を均一に分散することができる、などの利点がある。
スプレイフォーミング法の詳細な方法は、特に限定されず、本願出願人によって開示された技術(例えば、特開平9−248665号公報、特開平11−315373号公報、特開2005−82855号公報など)を採用することができる。また、特願2006−73337号(以下、先願明細書と呼ぶ。)に記載の方法を採用することもできる。
具体的には、先願明細書に記載の方法によってプリフォームを製造することが好ましい。
プリフォームの製造工程は、Al基合金を(液相温度+100℃)〜(液相温度+400℃)の範囲内で溶解し、Al基合金の溶湯を得る工程と、Al基合金の溶湯を、ガス流出量/溶湯流出量の比で表されるガス/メタル比が4Nm/kg以上で、且つ、対抗するガスアトマイズノズル中心軸のなす角度を2αとしたとき、αを1〜10°の条件でガスアトマイズし、微細化する工程と、微細化したAl基合金を、スプレイ距離が700〜1200mm、コレクター角度が20〜45°の条件でコレクターに堆積し、プリフォームを得る工程と、を包含することが好ましい。
以下、図4および図5を参照しながら、プリフォームを得るための各工程を詳細に説明する。
図4は、本発明のプリフォームを製造するのに用いられる装置の一例を部分的に示す断面図である。図5は、図4中、Xの要部拡大図である。
図4に示す装置は、Al基合金を溶解するための誘導溶解炉1と、誘導溶解炉1の下方に設置されたガスアトマイザー3a、3bと、プリフォームを堆積するためのコレクター5とを備えている。誘導溶解炉1は、Al基合金の溶湯2を落下させるノズル6を有している。また、ガスアトマイザー3a、3bは、それぞれ、ガスをアトマイズするためのボビンのガス穴4a、4bを有している。コレクター5は、ステッピングモータなどの駆動手段(不図示)を有している。
まず、前述した組成のAl基合金を用意する。このAl基合金を誘導溶解炉1に投入した後、好ましくは、不活性ガス(例えば、Arガス)雰囲気中で、Al基合金の液相温度に対し、+100℃〜+400℃の範囲内で溶解してAl基合金の溶湯2を得ることが好ましい。
次に、上記のようにして得られた合金の溶湯2を、ノズル6を介して不活性ガス雰囲気のチャンバー内(不図示)を落下させる。チャンバー内では、ガスアトマイザー3a、3bに設置されたボビンのガス穴4a、4bから高圧の不活性ガスジェット流が合金の溶湯2に吹き付けられ、これにより、合金の溶湯は微細化される。
ガスアトマイズは、上記のように不活性ガスあるいは窒素ガスを用いて行なうことが好ましく、これにより、溶湯の酸化が抑えられる。不活性ガスとしては、例えば、アルゴンガスなどが挙げられる。
ここで、ガス/メタル比を4Nm/kg以上とすることが好ましい。ガス/メタル比は、ガス流出量/溶湯流出量の比で表される。本願明細書において、ガス流出量とは、Al基合金の溶湯をガスアトマイズするために、ボビンのガス穴4a、4bから流出されるガスの総量(最終的に使用した量)を意味する。また、本願明細書において、溶湯流出量とは、Al基合の溶湯が入った容器(誘導溶解炉1)の溶湯流出口(ノズル6)から流出される溶湯の総量を意味する。
更に、対抗するガスアトマイズノズル中心軸6a、6bのなす角度を2αとしたとき、αを1〜10°の範囲内に制御することが好ましい。対抗するガスアトマイズノズル中心軸6a、6bのなす角度2αとは、図5に示すように、溶湯2が真下に落下したときの線(スプレイ軸Aに相当)に対するガスアトマイザー4a、4bのそれぞれの傾きαの合計角度を意味する。以下では、このαを「ガスアトマイズ出口角度α」と称する。
次いで、上記のようにして微細化したAl基合金(液滴)をコレクター5に堆積し、プリフォームを得る。
ここでは、スプレイ距離を700〜1200mmの範囲内に制御することが好ましい。スプレイ距離とは液滴の集積位置を規定しており、図4に示すように、ノズル6の先端からコレクター5の中心までの距離Lを意味する。後述するように、コレクター5はコレクター角度βで傾斜しているため、スプレイ距離Lは、厳密には、ノズル6の先端と、コレクター5の中心がスプレイ軸Aと接する点A1との距離を意味している。ここで、スプレイ軸Aとは、説明の便宜のため、Al基合金の液滴が真下に落下する方向を規定したものである。
更に、コレクター角度βを20〜45°の範囲内に制御することが好ましい。コレクター角度βは、図4に示すように、スプレイ軸Aに対するコレクター5の傾きを意味する。
上記のプリフォームを用いて得られる緻密体は、微細な組織を有しており、スプラッシュの発生が著しく抑えられる。
以上、プリフォームを得るための好ましい方法について説明した。
次に、上記のプリフォームに緻密化手段を施すことによってAl基合金緻密体を得る。緻密化手段としては、プリフォームを略等圧方向に加圧する方法、特に熱間で加圧する熱間静水圧加工(HIP:Hot Isostatic Pressing)を行うことが好ましい。具体的には、例えば、80MPa以上の圧力下、400〜600℃の温度でHIP処理を行うことが好ましい。HIP処理の時間は、おおむね、1〜10時間の範囲内とすることが好ましい。
(第2の工程)
次に、Al基合金緻密体を鍛造してスラブ(おおむね、厚さ60mm、幅540mm)を得る。
鍛造条件は、スパッタリングターゲットの製造に通常用いられる方法であれば特に限定されないが、例えば、鍛造前のAl基合金緻密体の加熱温度:約500℃、加熱時間:1〜3時間、鍛造時の1回当たりの据え込み率:10%以下の条件で鍛造を行なうことが好ましい。
(第3の工程)
上記のようにして得られたスラブに対し、圧延温度400〜500℃、1パス当たりの圧下率5〜15%、および総圧下率60〜90%の条件で圧延を行なう。圧延温度は、一般に300〜550℃であるが、本発明では400〜500℃に制御する。また、1パス当たりの圧下率は一般に数%であるが、本発明では、それよりも高めの5〜15%に制御する。そして、総圧下率は一般に40〜90%であるが、本発明では、それよりも高めの60〜90%に制御する。後記する実施例に示すように、本発明では、圧延条件を上記のように緻密に制御することが必要であり、いずれか一つでも上記範囲を外れた条件で圧延を行なうと、所望とする結晶方位が得られない。
圧延は、おおむね、圧延温度:420℃以上480℃以下、1パス当たりの圧下率:7%以上13%以下、および総圧下率65%以上85%以下の条件で行なうことが好ましく、圧延温度:440℃以上460℃以下、1パス当たりの圧下率:9%以上11%以下、および総圧下率70%以上80%以下の条件で行なうことがより好ましい。
ここで、1パス当たりの圧下率および総圧下率は、それぞれ、下式で表される。
1パス当たりの圧下率(%)
={(圧延1パス前の厚さ)−(圧延1パス後の厚さ)}/(圧延1パス前の厚さ)
×100
総圧下率(%)
={(圧延開始前の厚さ)−(圧延終了後の厚さ)}/(圧延開始前の厚さ)
×100
なお、スプレイフォーミング法で製造したAl基合金は、加工時に組織が変化し難いことから、冷間圧延および熱間圧延のどちらでも製造することができるが、上記の通り1パス当たりの加工率を高くするには、Al合金材を加熱して変形抵抗の低い温度域で加工することが効果的であるので、熱間圧延を採用することが好ましい。
(第4の工程)
次に、300〜400℃の温度で1〜2時間加熱(熱処理)を行なう。後記する実施例に示すように、本発明では、前述した圧延条件に加え、圧延後の加熱条件を上記のように緻密に制御することが必要であり、いずれか一つでも上記範囲を外れた条件で加熱を行なうと、所望とする結晶方位が得られない。
加熱温度は、おおむね、320℃以上380℃以下であることが好ましく、340℃以上360℃以下であることがより好ましい。また、加熱時間は、おおむね、1.2時間以上1.8時間以下であることが好ましく、1.4時間以上1.6時間以下であることがより好ましい。
なお、加熱処理時の雰囲気は、特に限定されず、大気中、不活性ガス中、および真空中のいずれの雰囲気下でも行なうことができるが、生産性やコストなどを考慮すれば、大気中で加熱することが好ましい。
上記の加熱処理を行った後、所定の形状に機械加工を行うと、スパッタリングターゲットが得られる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例に限定されず、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適切に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
実施例1
表1および表2に示す組成のAl基合金を用い、下記のスプレイフォーミング法によってAl基合金プリフォーム(密度:約50〜60%)を得た。
(スプレイフォーミング条件)
溶解温度 :1000℃
ガス/メタル比:6Nm/kg
スプレイ距離 :1050mm
ガスアトマイズ出口角度:7°
コレクター角度:35°
次に、得られたプリフォームをカプセルに封入してから脱気し、HIP装置で緻密化した。HIP処理は、HIP温度:550℃、HIP圧力:85MPa、HIP時間:2時間で行なった。
このようにして得られたAl基合金緻密体を、鍛造前の加熱温度:500℃、加熱時間:2時間、1回当たりの据え込み率:10%以下の条件で鍛造し、スラブを得た(サイズ:厚さ60mm、幅540mm、長さ540mm)。
次に、表1および表2に示す種々の条件で圧延(圧延前の加熱時間:2時間)および熱処理を行なった後、機械加工を施して、Al基合金板(厚さ8mm、幅150mm、長さ150mm)を製造した。
次に、上記のAl基合金板に対し、丸抜き加工と旋盤加工を施すことによって円板状のスパッタリングターゲット(直径101.6mm×厚さ5.0mm)を得た。
上記のスパッタリングターゲットを用い、前述したEBPS法に基づき、スパッタリング面法線方向の結晶方位を測定し、解析した。
更に、上記のスパッタリングターゲットを用い、以下のようにして薄膜成膜時の成膜速度測定およびスパッタリング不良の発生率を測定した。
(成膜速度の測定)
スパッタリング装置:島津製作所製HSM−552
スパッタリング条件:
背圧:0.27×10-3Pa以下、Arガス圧:0.27Pa、
Arガス流量:30sccm、スパッタリングパワー:DC260W、
極間距離:52mm、基板温度:室温、スパッタリング時間:120秒
測定方法:
ガラス基板(CORNING社製♯1737、直径50.8mm、厚さ0.7mm)上に、上記の条件でスパッタリングを行い、薄膜を成膜した。得られた薄膜の厚さを触針式膜厚計(TENCOR INSTRUMENTS製「alpha−step 250」によって測定した。
成膜速度は、下式に基づいて算出した。
成膜速度(nm/s)
=薄膜の厚さ(nm)/スパッタリング時間(s)
(スパッタリング不良の発生率の測定)
本実施例では、高スパッタリングパワーの条件下で発生しやすいアーキングの発生数を測定し、スパッタリング不良の発生を評価した。
まず、Al−0.35原子%La合金(Ni=0原子%)スパッタリングターゲットについて、表1に示すように、2.65nm/sの成膜速度で薄膜を成膜した。ここで、成膜速度とスパッタパワーDCとの積Q値は、以下のとおりである。
Q値=成膜速度(2.65nm/s)×スパッタリングパワーDC(260W)
=689
次に、表1に示す種々のNi量を含むAl−Ni−0.35原子%La合金スパッタリングターゲットについて、前述したQ値(一定)に基づき、表1に併記する成膜速度に応じたスパッタリングパワーDCを設定してスパッタリングを行なった。
例えば、Al−0.01原子%Ni−0.35原子%La合金スパッタリングターゲットのスパッタリング条件は以下のとおりである。
成膜速度:2.77nm/s
下式に基づき、スパッタリングパワーDCを249Wと設定
スパッタリングパワーDC=Q値(689)/成膜速度(2.77)
≒249W
スパッタリング時間:1時間
スパッタリング不良の発生の有無を、アークモニター(ランドマークテクノロジー製マイクロアークモニター「MAM Genesis」計測器)によって測定した。この方法によれば、アーキング発生の有無を定量的に測定することができる。本発明では、下記基準によって、スパッタリング不良の発生を評価した。
スパッタリング不良の発生無し:アーキングの発生数が80個未満
スパッタリング不良の発生有り:アーキングの発生数が80個以上
これらの結果を表1および表2に併記する。なお、これらの表には、それぞれ、「合否判定」の欄を設け、スパッタリング不良の発生が無いものを○(合格)とし、スパッタリング不良の発生が有るものを×(不合格)とした。また、表1および表2には、No.4の結果を複数回掲載しているが、これは、各プロセスごと(例えば、表中、A欄では圧延温度ごと、B欄では1パスあたりの圧下率ごと)の影響が一層明確に分かるように、説明の便宜のために掲載したものである。
表1および表2より、以下のように考察することができる。
まず、表1について考察する。表1は、Al−Ni−0.35原子%La合金(Niの含有量=0〜12原子%)スパッタリングターゲットの結果をまとめて記載している。
表1のA欄は、スパッタリングターゲット中に含まれるNiの含有量を種々変化させたときの成膜速度やスパッタリング不良の発生に及ぼす影響について調べたものである。
表1に示すように、Ni含有量が本発明の範囲を満足するNo.3〜5は、いずれも、本発明で規定する条件でスパッタリングターゲットを製造しているため、所定の結晶方位が得られており、高速成膜したとしても、その成膜速度が速いために低スパッタパワー条件とすることができ、高スパッタリングパワー条件下で発生しやすいアーキングの発生数を低減することができた。
これに対し、Niを含有しない(No.1)例と、Niの含有量が少ない(No.2)か多い(No.6)例は、いずれも、本発明で規定する条件でスパッタリングターゲットを製造したにもかかわらず、所定の結晶方位を得ることができず、成膜速度が遅く、スパッタリング不良の発生が見られた。
表1のB欄は、Niの含有量を2原子%と一定とし、圧延温度を種々変化させたときの成膜速度やスパッタリング不良の発生に及ぼす影響について調べたものである。
表1に示すように、圧延温度を含めた製造条件が本発明の範囲を満足するNo.8、4、9は、いずれも、所定の結晶方位が得られており、所望の特性が得られた。
これに対し、圧延温度が低い(No.7)か高い(No.10)例は、いずれも、所定の結晶方位を得ることができず、成膜速度が遅く、スパッタリング不良の発生が見られた。
表1のC欄は、Niの含有量を2原子%と一定とし、1パス当たりの圧下率を種々変化させたときの成膜速度やスパッタリング不良の発生に及ぼす影響について調べたものである。
表1に示すように、1パス当たりの圧下率を含めた製造条件が本発明の範囲を満足するNo.12、4、13は、いずれも、所定の結晶方位が得られており、所望の特性が得られた。
これに対し、1パス当たりの圧下率が低い(No.11)か高い(No.14)例は、いずれも、所定の結晶方位を得ることができず、成膜速度が遅く、スパッタリング不良の発生が見られた。
表1のD欄は、Niの含有量を2原子%と一定とし、総圧下率を種々変化させたときの成膜速度やスパッタリング不良の発生に及ぼす影響について調べたものである。
表1に示すように、総圧下率を含めた製造条件が本発明の範囲を満足するNo.16、4、17は、いずれも、所定の結晶方位が得られており、所望の特性が得られた。
これに対し、総圧下率が低い(No.15)か高い(No.18)例は、いずれも、所定の結晶方位を得ることができず、成膜速度が遅く、スパッタリング不良の発生が見られた。
表1のE欄は、Niの含有量を2原子%と一定とし、加熱温度(熱処理温度)を種々変化させたときの成膜速度やスパッタリング不良の発生に及ぼす影響について調べたものである。
表1に示すように、加熱温度を含めた製造条件が本発明の範囲を満足するNo.20、4、21は、いずれも、所定の結晶方位が得られており、所望の特性が得られた。
これに対し、加熱温度が低い(No.19)か高い(No.22)例は、いずれも、所定の結晶方位を得ることができず、成膜速度が遅く、スパッタリング不良の発生が見られた。
表1のF欄は、Niの含有量を2原子%と一定とし、加熱時間(熱処理時間)を種々変化させたときの成膜速度やスパッタリング不良の発生に及ぼす影響について調べたものである。
表1に示すように、加熱時間を含めた製造条件が本発明の範囲を満足するNo.24、4、25は、いずれも、所定の結晶方位が得られており、所望の特性が得られた。
これに対し、加熱時間が短い(No.23)か長い(No.26)例は、いずれも、所定の結晶方位を得ることができず、成膜速度が遅く、スパッタリング不良の発生が見られた。
表2は、Al−Ni−0.6原子%Nd合金(Niの含有量=0〜12原子%)スパッタリングターゲットの結果をまとめて記載したものである。以下に詳述するように、表1と同様の傾向は、La以外の希土類元素(Nd)を用いたときにも見られた。
表2のA欄は、スパッタリングターゲット中に含まれるNiの含有量を種々変化させたときの成膜速度やスパッタリング不良の発生に及ぼす影響について調べたものである。
表2に示すように、Ni含有量が本発明の範囲を満足するNo.3〜5は、いずれも、本発明で規定する条件でスパッタリングターゲットを製造しているため、所定の結晶方位が得られており、高速成膜したとしても、その成膜速度が速いために低スパッタパワー条件とすることができ、高スパッタリングパワー条件下で発生しやすいアーキングの発生数を低減することができた。
これに対し、Niを含有しない(No.1)例と、Niの含有量が少ない(No.2)か多い(No.6)例は、いずれも、本発明で規定する条件でスパッタリングターゲットを製造したにもかかわらず、所定の結晶方位を得ることができず、成膜速度が遅く、スパッタリング不良の発生が見られた。
表2のB欄は、Niの含有量を2原子%と一定とし、圧延温度を種々変化させたときの成膜速度やスパッタリング不良の発生に及ぼす影響について調べたものである。
表2に示すように、圧延温度を含めた製造条件が本発明の範囲を満足するNo.8、4、9は、いずれも、所定の結晶方位が得られており、所望の特性が得られた。
これに対し、圧延温度が低い(No.7)か高い(No.10)例は、いずれも、所定の結晶方位を得ることができず、成膜速度が遅く、スパッタリング不良の発生が見られた。
表2のC欄は、Niの含有量を2原子%と一定とし、1パス当たりの圧下率を種々変化させたときの成膜速度やスパッタリング不良の発生に及ぼす影響について調べたものである。
表2に示すように、1パス当たりの圧下率を含めた製造条件が本発明の範囲を満足するNo.12、4、13は、いずれも、所定の結晶方位が得られており、所望の特性が得られた。
これに対し、1パス当たりの圧下率が低い(No.11)か高い(No.14)例は、いずれも、所定の結晶方位を得ることができず、成膜速度が遅く、スパッタリング不良の発生が見られた。
表2のD欄は、Niの含有量を2原子%と一定とし、総圧下率を種々変化させたときの成膜速度やスパッタリング不良の発生に及ぼす影響について調べたものである。
表2に示すように、総圧下率を含めた製造条件が本発明の範囲を満足するNo.16、4、17は、いずれも、所定の結晶方位が得られており、所望の特性が得られた。
これに対し、総圧下率が低い(No.15)か高い(No.18)例は、いずれも、所定の結晶方位を得ることができず、成膜速度が遅く、スパッタリング不良の発生が見られた。
表2のE欄は、Niの含有量を2原子%と一定とし、加熱温度(熱処理温度)を種々変化させたときの成膜速度やスパッタリング不良の発生に及ぼす影響について調べたものである。
表2に示すように、加熱温度を含めた製造条件が本発明の範囲を満足するNo.20、4、21は、いずれも、所定の結晶方位が得られており、所望の特性が得られた。
これに対し、加熱温度が低い(No.19)か高い(No.22)例は、いずれも、所定の結晶方位を得ることができず、成膜速度が遅く、スパッタリング不良の発生が見られた。
表2のF欄は、Niの含有量を2原子%と一定とし、加熱時間を種々変化させたときの成膜速度やスパッタリング不良の発生に及ぼす影響について調べたものである。
表2に示すように、加熱時間を含めた製造条件が本発明の範囲を満足するNo.24、4、25は、いずれも、所定の結晶方位が得られており、所望の特性が得られた。
これに対し、加熱時間が短い(No.23)か長い(No.26)例は、いずれも、所定の結晶方位を得ることができず、成膜速度が遅く、スパッタリング不良の発生が見られた。
図1は、Alに代表されるFCC結晶構造を有する金属の原子の配置と最密方向を示す図である。 図2は、Al-Ni-La合金スパッタリングターゲットのスパッタリング面法線方向の結晶方位をEBSP法で解析したときの逆極点図マップ(結晶方位マップ)を示す図である。 図3は、Al−Nd合金スパッタリングターゲットのスパッタリング面法線方向の結晶方位をEBSP法で解析したときの逆極点図マップ(結晶方位マップ)を示す図である。 図4は、プリフォームを製造するのに用いられる装置の一例を部分的に示す断面図である。 図5は、図4中、Xの要部拡大図である。
符号の説明
1 誘導溶解炉
2 Al基合金の溶湯
3a、3b ガスアトマイザー
4a、4b ボビンのガス穴
5 コレクター
6 ノズル
6a、6b ガスアトマイズノズル中心軸
A スプレイ軸
L スプレイ距離
α ガスアトマイズ出口角度
β コレクター角度
L スプレイ距離

Claims (4)

  1. Niを0.05〜10原子%含有するAl基合金スパッタリングターゲットであって、
    後方散乱電子回折像法によって前記Al基合金スパッタリングターゲットのスパッタリング面法線方向の結晶方位<001>、<011>、<111>、および<311>を観察したとき、下記(1)〜(3)の要件を満足することを特徴とするAl基合金スパッタリングターゲット。
    (1)<001>±15°と<011>±15°と<111>±15°と<311>±15°との合計面積率をP値としたとき、スパッタリング面全面積に対する前記P値の比率は70%以上であり、
    (2)前記P値に対する、<011>±15°の面積率の比率は30%以上であり、
    (3)前記P値に対する、<111>±15°の面積率は10%以下である。
  2. 更に、希土類元素を0.1〜2原子%含有する請求項1に記載のAl基合金スパッタリングターゲット。
  3. 請求項1または2に記載のAl基合金スパッタリングターゲットを製造する方法であって、
    Al基合金緻密体を用意する第1の工程と、
    前記Al基合金緻密体を鍛造してスラブを得る第2の工程と、
    前記スラブに対し、圧延温度400〜500℃、1パス当たりの圧下率5〜15%、および総圧下率60〜90%の条件で圧延を行なう第3の工程と、
    300〜400℃の温度で1〜2時間加熱を行なう第4の工程と、
    を包含することを特徴とするAl基合金スパッタリングターゲットの製造方法。
  4. 前記第1の工程は、スプレイフォーミング法によってAl基合金プリフォームを製造する工程と、前記Al基合金プリフォームを緻密化手段によって緻密化する工程と、を含む請求項3に記載の製造方法。
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