本発明は、チップ状電気部品の端子構造に関するものである。
チップ状電気部品の代表的なものとしては、例えばチップ抵抗器、チップインダクター、チップコンデンサ、複数種類の電気素子が組み合わされて構成されているチップ状複合電子部品等がある。チップ状電気部品の中には、絶縁基板の両端にそれぞれ半田付け用の電極を1つずつ有するもののほか、絶縁基板の対向する二つの辺にそれぞれ複数の電極が設けられた多連構造の多連チップ部品と呼ばれるものもある。
これらのチップ状電気部品で採用されている端子構造の中に、銀を含有するメタルグレーズ系の電極を用いるものがある。この種の端子構造の構成の一例を、特開2002−237402号公報[特許文献1]に示された端子構造を参照して説明する。図3はこの特開2002−237402号公報に基づいて実際に製造されて市販されている公知のチップ状抵抗器の端子構造を図面化した縦断面図である。このチップ状抵抗器の端子構造は、絶縁セラミック基板1の基板表面の端部に銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極3が設けられ、また基板裏面の端部に銀を含有するメタルグレーズ系の裏面電極5が設けられている。これら対構造の表面電極3と裏面電極5とは、絶縁セラミック基板1を間にして対向配置されている。これらの銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極3と裏面電極5は、例えばAgや、Ag−Pdの導電性粉末をガラスペーストに混練して形成したメタルグレーズペーストを絶縁セラミック基板上に印刷し、これを焼成することにより形成されている。また絶縁セラミック基板1の表面上には、表面電極3に電気的に接続された電気素子形成層としての抵抗体層7が印刷形成されている。また抵抗体層7の全体を覆うように絶縁材料からなる絶縁保護層9が形成されている。また絶縁保護層9は、表面電極3の一部を覆っている。この公知のチップ抵抗器の絶縁保護層9は、ガラス層9aと絶縁樹脂層9bとからなる2層構造になっている。ガラス層9aは、実際の製品では、図示のように表面電極3の端部に載る抵抗体層7の隆起部7aの頂部の高さまで抵抗体層7の表面を覆って設けられている。絶縁樹脂層9bはガラス層9aの表面をその端部表面と表面電極3の一部を覆って設けられている。表面電極3と裏面電極5とが設けられている絶縁セラミック基板1の端面には、これら表面電極3と裏面電極5とを電気的に接続する側面電極11が設けられている。この側面電極11は、キシレンフェノール樹脂またはエポキシフェノール樹脂に銀を混入したAg−レジン系の導電性塗料を用いて形成されている。そして側面電極11の表面を全体的に覆い、表面電極3の露出部分を覆い、且つ裏面電極5の裏面全体を覆う、二層構造のメッキ層からなる導電性薄膜層13が設けられている。この導電性薄膜層13は、下側導電性薄膜層13aと外側導電性薄膜層13bとで構成されている。この例の下側導電性薄膜層13aはニッケルメッキ層で形成され、外側導電性薄膜層13bは半田メッキ層で形成されている。
このような端子構造をもつチップ状電気部品は、一般的な環境で使用されている限り、特に問題は生じない。しかしながら硫黄成分が多い雰囲気中にこの端子構造を持ったチップ状電気部品を実装した回路基板を含む電気機器を長期間に配置した場合には、硫化の問題が生じることが分かっている。
すなわち、硫黄(S)と水分を含む雰囲気にチップ状電気部品の端子構造が晒されると、この硫黄(S)がチップ状電気部品の表面に結露した水分を媒体として、チップ状電気部品の絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13とが突き合わされた境界面15から侵入する。従来のチップ状電気部品の端子構造では、絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13との境界面15で両者が重なっているものの、物理的または化学的に結合しているわけではない。そのため、硫化発生因子(水分、硫黄)の侵入を100%遮断することは困難であると考えられている。侵入した硫化発生因子が表面電極3中のAgと硫化反応を起こして硫化銀(Ag2S、即ち先端成長型ウィスカ)を生成する。即ち、
Ag→Ag++e−
S+2e−→S2−
2Ag+S2−→Ag2S
この反応が進行するためには、銀のイオン化が必要であるため、水分が必要になる。一度硫化反応が始まり、硫化銀が生成されると、その後は表面電極3中のAgが濃度の薄いウィスカ先端部に供給される。即ち絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13との突き合わせ面から抜け出ていく。その結果、表面電極3中のAgが硫化反応で少なくなることによって表面電極3の抵抗値が高くなり、最終的には表面電極3の抵抗値がオープン(断線)状態に至る問題点が生じる。この特開2002−237402号公報には、絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13との境界面15から表面電極3に硫化発生因子が侵入するのを抑制する対策については全く記載がない。
そこで、絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13との境界面15から表面電極3に硫化発生因子が侵入するのを抑制する技術が提案されている。この技術では、銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極3の表面の一部を、抵抗体層7の表面を覆う絶縁樹脂層9bの端部で覆い、表面電極3の表面の他の部分を導電性薄膜層13で覆った状態で、この導電性薄膜層13の下側で表面電極3の表面と絶縁樹脂層9bの表面との境界に、銀を含まないレジン系の導電層(樹脂に銀以外の導電性粉末を混ぜたペーストを用いて形成した導電層)を設け、この銀を含まないレジン系の導電層により硫化発生因子の侵入を阻止しようとするものである。
例えば、特開2002−184602号公報(特許文献2)に示された技術では、ニッケルを導電性粉末とした銀を含まないレジン系の導電層を用いる。また特開2004−259864号公報(特許文献3)に示された技術では、カーボンを導電性粉末として用いた導電性樹脂ペーストを用いて銀を含まないレジン系の導電層を形成している。表面電極と導電性薄膜との間に、銀を含まないレジン系の導電層を設ければ、硫化の発生を抑制して、しかも導電性薄膜と表面電極との間の電気的な接続を維持することができる。
なお特開平8−236302公報(特許文献4)及び特開2002−25802号公報(特許文献5)には、表面電極の上に銀を含有するレジン系の導電層を設けることが記載されている。前者に示された銀を含有するレジン系の導電層は、チップ抵抗器の表面電極の上に大きな段差が形成されるのを防ぐ目的(チップ抵抗器の表面をなるべく平坦にする目的)、表面電極に上に銀を含有するレジン系の導電層を形成している。また特開2002−25802号公報(特許文献5)に示されたチップ抵抗器では、Au系材料により形成された表面電極を半田の熱から保護する目的で、熱に強いAgを含有するレジン系の導電層を表面電極の上に形成している。これらの公報には、Agを含有するレジン系の導電層の耐硫化性能については何も記載されていない。しかしながらWO2003−046934号公報(特許文献6)には、従来技術の中で特開平8−236302公報(特許文献4)を引用して、特許文献4に記載の構造のように、表面電極の上に形成するレジン系の導電層として銀を含む導電層を設けた場合においても、マイグレーション(硫化)による腐食が発生することが記載されている。そのために、特許文献6に記載の技術では、銀を含むレジン系の導電層と抵抗体の上に形成するガラス製のカバーコートとの境界部を覆うように、カバーコートの上に更にガラス製のオーバーコートを形成する。このオーバーコートにより、境界部を覆うことによって、マイグレーションの発生を防止している。
さらに2002−64003号公報(特許文献7)には、表面電極と抵抗体を覆う保護層との間に、パラジウムを5%以上含有し残部が銀とレジンとからなる銀系厚膜(銀を含む導電層)を設けることが記載されている。そして特許文献7には、パラジウムを5%以上含有した銀系厚膜が耐硫化特性に優れていることが記載されている。しかしながらこの文献7に示された構造では、抵抗体を覆う保護層とメッキ層との間の境界面と、この境界面に続いて形成された、保護層と銀系厚膜との間の短い境界面とが、銀系厚膜によって覆われていない表面電極まで延びている。特に、特許文献7には、表面電極(上面電極)をパラジウムを含む耐硫化特性を有する銀系厚膜で形成する場合と比べて、一部にパラジウムを5%以上含有した銀系厚膜を使用すれば、コストが低減できると記載されている。この記載から判断すると、使用するパラジウムを5%以上含有した銀系厚膜の量をできるだけ、少なくすることになり、前述の保護層と銀系厚膜との間の境界面の長さは、かなり短いものになることが推測される。
特開2002−237402号公報 図2
特開2002−184602号公報 図1
特開2004−259864号公報 図1
特開平8−236302公報 図1
特開2002−25802号公報 図1
WO2003−046934号公報 図2
特開2002−64003号公報 図1
しかしながら、特許文献2及び3に記載の構造のように、導電層を、銀を含まないニッケル系やカーボン系の導電性樹脂ペーストで形成する場合、これらの導電性樹脂ペーストは一般に使用されている銀系樹脂ペーストと比べて、コストがかなり高いものとなる問題がある。
また特許文献4及び5に記載の従来の構造では、硫化が発生することが、特許文献6に記載されている。また特許文献6に記載の構造のように、レジン系のオーバーコートを更に追加すると、オーバーコートを追加する分、製造工程が増えるだけでなく、コストが高くなる問題がある。なお、特許文献4または特許文献6の図1に示された構造でガラス製のトリミング用のカバーコート上に、ガラス製のオーバーコートの代わりに樹脂製のオーバーコートを形成して実験したところ、抵抗体層の隆起部の頂部の樹脂製のオーバーコートの箇所から硫化発生因子が侵入し、その箇所から樹脂製のオーバーコートと抵抗体層の隆起部との境界面に沿って表面電極に至るルートができてマイグレーションの発生防止には効果がないことが確認された。
さらに特許文献7に記載の構造のように、表面電極と抵抗体を覆う保護層との間に、パラジウムを5%以上含有し残部が銀とレジンとからなる銀系厚膜を部分的に設けるだけでは、確実に硫化を阻止することはできない。
本発明の目的は、電気素子形成層の隆起部の頂部付近の絶縁樹脂層からの硫化発生因子の侵入を阻止することができるチップ状電気部品の端子構造を提供することにある。
本発明の他の目的は、硫化発生因子の侵入を阻止する樹脂を用いた導電層の境界面の長さを十分に確保して、絶縁樹脂層と導電性薄膜層との境界面から表面電極に硫化発生因子が侵入するのを阻止できるチップ状電気部品の端子構造を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、絶縁樹脂層の端部傾斜面に沿って配置する硫化発生因子の侵入を阻止する樹脂を用いた導電層の機能が高いチップ状電気部品の端子構造を提供することにある。
本発明の他の目的は、電気素子形成層の隆起部の頂部付近の絶縁樹脂層からの硫化発生因子の侵入を阻止することができ、しかも電気素子形成層の調整を基板への実装後に行えるチップ状電気部品の端子構造を提供することにある。
上記の目的を達成する本発明の構成を説明すると、次のとおりである。
本発明に係るチップ状電気部品の端子構造では、絶縁セラミック基板の基板表面に銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極が設けられている。表面電極に電気的に接続されて基板表面上に電気素子形成層が形成されている。電気素子形成層を覆ってガラス層が設けられ該ガラス層と表面電極の一部を覆って絶縁樹脂層が設けられている。これらガラス層と絶縁樹脂層とで絶縁保護層が形成されている。絶縁樹脂層の表面との間に境界面を形成し且つ表面電極の絶縁樹脂層によって覆われていない部分の上に1層以上の導電性薄膜層が形成されている。絶縁樹脂層の端部隆起部の頂上付近と表面電極の表面とに跨るように、レジン系の導電性塗料により導電層が設けられている。1層以上の導電性薄膜層が導電層を介して表面電極の上に形成されている。
表面電極は絶縁セラミック基板の表面に一対設けられてもよく、また表面電極が複数対設けられていてもよいのは勿論である。また、絶縁セラミック基板の基板表面と連続する側面と表面電極とに跨って側面電極が形成されていてもよい。さらに、絶縁セラミック基板の裏面側に側面電極とつながる裏面電極が形成されていてもよい。
本発明のチップ状電気部品の端子構造では、ガラス層は電気素子形成層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆って設けられている。絶縁樹脂層はガラス層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆って設けられている。表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さは、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止するように定められている。
このようにガラス層が電気素子形成層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆って設けられ、絶縁樹脂層がガラス層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆って設けられていると、電気素子形成層の端部表面が全体的にガラス層で覆われ、この部分のガラス層の表面全体が絶縁樹脂層で覆われているので、電気素子形成層の端部隆起部の頂部のところの絶縁樹脂層の箇所を硫化発生因子が侵入してもその下にはガラス層が存在して硫化発生因子の侵入を阻止する。従って、本発明によれば電気素子形成層の隆起部の頂部のところの絶縁樹脂層の箇所から表面電極への硫化発生因子の侵入を十分に阻止することができる。また、表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さが、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止するように定められると、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを十分に阻止することができる。
更に本発明は、電気素子形成層に対してレーザートリミングを基板への実装後に行えるようにするために、絶縁樹脂層でガラス層を全体的に覆わずに、絶縁樹脂層がガラス層の端部表面を覆い且つ表面電極の一部を覆うように設けられた、トリミング可能なチップ状電気部品の端子構造にも適用することができる。このようなトリミング可能なチップ状電気部品の端子構造でも、表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さを、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止するように定める。
また本発明では、導電層を構成するレジン系の導電性塗料が、粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とがエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練されたものとなっている。従来の当業者の常識は、前述の特許文献6に記載のように、銀を含有するレジン系の導電層を表面電極の上に形成しても、硫化を防ぐことができないというものであった。そのために特許文献6に記載の発明では、さらに樹脂製の3層目のオーバーコートを形成している。しかしながら発明者は、この当業者の常識に反して、銀を含有するレジン系の導電層で、硫化を防ぐことができるのではないかとの考えに従って種々研究した。すなわち発明者は、粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とがエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練されたレジン系の導電性塗料を用いて導電層を形成すること、絶縁樹脂層と導電層との重なり長さを長くすることにより、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止することを見出した。粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とをエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練したレジン系の導電性塗料を用いることが好ましい理由は、定かではない。発明者としては、この導電性塗料を用いて形成した導電層では、傾斜する絶縁樹脂層の側面に沿って存在する銀粉末の量が少なくなって、境界面における接合強度が高くなっているからではないかと推測している。そして必要な重なり長さは、境界面近傍の銀粉末の存在状況が一定ではないことにより生じる接合強度のバラツキの発生による硫化阻止性能の低下を補償するために必要なものである。
特にガラス層を、電気素子形成層の表面を特にその端部表面も含めて覆い且つ表面電極の一部を覆って設け、絶縁樹脂層を、ガラス層の表面を少なくともその端部表面を含めて覆い且つ表面電極の一部を覆って設け、しかも銀を含有したレジン系の導電性塗料を用いて導電層を形成するだけで、硫化の発生を阻止することができるので、より少ない製造工程で製造することができて、しかもチップ抵抗器等のチップ状電気部品を安価に提供できる。
なお、表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さを、20μm以上とすると、絶縁樹脂層と導電層との境界面に必要十分な接合強度を確実に確保することができて、絶縁樹脂層と導電性薄膜層との境界面から表面電極に硫化発生因子が侵入するのを確実に阻止することができる。重なり長さの上限は、絶縁樹脂層の厚みによって限定されることになる。現状、一回の印刷で得られる厚みの上限は20μm程度である。
また、粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末との割合を、6対4〜9対1の割合にすると、導電層の厚み方向の導電性を確保した上で、導電層と絶縁樹脂層との境界面近傍に位置する導電層中の銀粉末の量を確実に少なくすることができる。この範囲の下限値より鱗片状粉末の割合が小さい場合には導電性が悪くなり、またこの範囲の上限値より鱗片状粉末の割合が多くなると前述の境界面近傍に位置する導電層中の銀粉末の量が多くなり過ぎる。
1層以上の導電性薄膜層は、2層以上の層構造を有するメッキ層で構成することができる。
本発明のチップ状電気部品の端子構造は、絶縁セラミック基板の基板表面に一対の表面電極が設けられている最も単純なタイプのチップ状電気部品の端子構造に適用できるのは勿論のこと、絶縁セラミック基板の基板表面と連続する側面と表面電極とに跨って形成された側面電極を有するタイプのチップ状電気部品の端子構造にも適用することができ、さらに表面電極と、裏面電極と側面電極とを有するタイプのチップ状電気部品の端子構造にも適用することができる。
本発明によれば、ガラス層で電気素子形成層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆うように設け、絶縁樹脂層をガラス層の表面の少なくとも端部表面も含め覆い且つ表面電極の一部を覆うように設け、表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さを、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止するように定めることにより、硫化の発生を従来よりも確実に阻止することができるので、より少ない製造工程でチップ抵抗器等のチップ状電気部品を製造することができて、しかもチップ状電気部品を安価に提供できる。
以下、本発明に係るチップ状電気部品の端子構造の一例を、チップ状抵抗器の端子構造に適用した例を実施の形態として、図1に示す縦断面図を参照して詳細に説明する。なお、前述した図3と対応する部分には、図3で使用した符号に100を加えた符号を付けて示している。
本例のチップ状抵抗器の端子構造では、絶縁セラミック基板101の端部の表面と裏面上には、銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極103及び裏面電極105とが設けられている。これらの銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極103と裏面電極105は、例えばAgや、Ag−Pdの導電性粉末をガラスペーストに混練して形成したメタルグレーズペーストで、絶縁セラミック基板上にスクリーン印刷により電極パターンを形成した後に、電極パターンを焼成して形成する。また、表面電極103には基板101の表面に形成された、抵抗体層107の一端が重なるように隆起させて接続されている。抵抗体層107も抵抗材料をスクリーン印刷により絶縁セラミック基板101の表面上に形成した後焼成を経て形成される。抵抗体層107の表面は、2層構造の絶縁保護層109によって覆われている。これらの絶縁保護層109は、ガラス層109aとレジン層(絶縁樹脂層)109bとの2層構造で構成されており、表面電極103の一部も覆われている。すなわち、ガラス層109aは、抵抗体層107の表面が特にその端部表面も含めて完全に覆われ且つ抵抗体層107の端部に隣接した部分の表面電極103の部分も覆われている。レジン層109bは、ガラス層109aの表面がその端部表面も含めて完全に覆われ且つ抵抗体層107の端部側でガラス層109aの端部に隣接した表面電極103の部分も覆われている。ガラス層109aは、レーザートリミングの目的を含めて設けられており、レジン層109は、レーザートリミングで形成されたトリミング溝を埋める目的と、ガラス層109aを保護する目的で設けられている。また目的に応じて3層構造または4層構造等の絶縁保護層を用いることができる。本実施の形態では、レジン層109bをスクリーン印刷を用いてエポキシ系のレジンによって形成している。
絶縁保護層109のレジン層109bの表面と表面電極103の表面とに跨るように、レジン系の導電性塗料を用いて導電層117が設けられている。レジン系の導電性塗料として、粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とが、キシレンフェノール樹脂やエポキシフェノール樹脂等のエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練されたものを用いている。好ましい導電性塗料として、キシレンフェノール系樹脂に、球径が0.5〜1.2μmの導電性銀粉末と球径が8〜18μmの鱗片状の導電性銀粉末とを混練したものを用いた。球径が0.5〜1.2μmの導電性銀粉末と球径が8〜18μmの鱗片状の導電性銀粉末の配合割合は、例えば6対4〜9対1にするのが好ましい。球状粉と鱗片粉のこれらの範囲の配合割合で、最も好ましい配合割合は実験によると、重量比で90対10、体積比で90対10である。このような配合割合にすると、使用する樹脂の粘度が40〜80Pa・sの範囲内にあれば、導電層117の塗布厚みと塗布面積とを制御可能なものとすることができる。そのためこのような導電性塗料を用いれば、導電層117の厚みと塗布面積を、再現性を持って制御することが可能になる。球状粉の粒径は0.8〜1μm程度、鱗片粉の粒径は長辺径で10〜15μm程度である。これらのサイズの測定は、SEM観察して高い頻度で観察される粒径を表している。球状粉の粒径の制御は、反応の際の条件や、投入する試薬の選択・調整で行う。鱗片粉の粒径の制御は、主に粉砕条件の違いで行う。粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とをエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練したレジン系の導電性塗料を用いることが好ましい理由は、定かではない。発明者としては、この導電性塗料を用いて形成した導電層117では、傾斜するレジン層109bの側面に沿って存在する銀粉末の量が少なくなって、境界面119における接合強度が高くなっているからではないかと推測している。そして必要な重なり長さは、境界面119近傍の銀粉末の存在状況が一定ではないことにより生じる接合強度のバラツキの発生による硫化阻止性能の低下を補償するために必要なものである。
導電層117は、導電性塗料としてレジン銀を使用する場合には、導電性塗料の印刷後約200℃で30分焼き付けを行って焼成する。
この例では、絶縁セラミック基板101の端部には、表面電極103と裏面電極105とを電気的に接続する側面電極111が設けられている。この側面電極111は、表面側では表面電極103及び導電層117に、裏面側では裏面電極105に接続されている。この側面電極111は、表面電極103及び導電層117と裏面電極105に跨るようにして形成されている。側面電極111は、キシレンフェノール樹脂またはエポキシフェノール樹脂に銀を混入したAg−レジン系の導電性塗料を用いて形成されている。
そして側面電極111の表面を全体的に覆い、導電層117の表面を覆い、レジン層109bの露出端部表面を覆い、且つ裏面電極105の裏面全体を覆うように、2層構造の導電性薄膜層113が形成されている。2層構造の導電性薄膜層113は、2層以上の層構造を有するメッキ層から構成されている。本例の導電性薄膜層113は、下側導電性薄膜層113aと外側導電性薄膜層113bとで構成されている。下側導電性薄膜層113aはニッケルメッキ層で形成され、外側導電性薄膜層113bは半田メッキ層で形成されている。
本実施の形態では、表面電極103と抵抗体層107とが並ぶ方向に測ったレジン層109bと導電層117との重なり長さは、硫化を阻止または抑制できるように定められている。すなわちこの重なり長さは、硫化によって表面電極103中の銀がレジン層109bと導電層117との境界面119に沿って導電性薄膜層113とレジン層109bとの境界面115から外部に析出するのを阻止するように定められている。具体的に、本実施の形態では、表面電極103と抵抗体層107とが並ぶ方向に測ったレジン層109bと導電層117との重なり長さは、20μm以上であればよいと考えられている。このレジン層109bと導電層117との重なり長さは、抵抗体層107の隆起部107aの頂部に、ガラス層109aとレジン層109bとが重なり、レジン層109bの頂部から傾斜して存在する該レジン層109bの傾斜面に導電層117が重ねられているので、各層の厚さを制御することにより容易に得ることができる。なお、上限は表面電極103の長さによって、自ずと制限されることになる。表面電極103と電気素子形成層としての抵抗体層107とが並ぶ方向に測ったレジン層109bと導電層117との重なり長さを、20μm以上とすると、レジン層109bと導電層117との境界面119に必要十分な接合強度を確実に確保することができて、レジン層109bと導電性薄膜層113との境界面115から表面電極103に硫化発生因子が侵入するのを確実に抑制することができる。アレニウスの法則に従った加速試験結果から推定すると、レジン層109bと導電層117との重なり長さを20μmとすると硫化を阻止または抑制できる年数は約40年であり、重なり長さを150μmとすると硫化を阻止または抑制できる年数は約100年である。また、このようにして形成さした導電層117の平均厚みは、通常10μm〜30μmの範囲に入る。前述の20μm以上の重なり長さを得るためには、導電層117の好ましい厚みは、10μm〜30μmが必要である。
次に、図3に示した従来のチップ状抵抗器(従来品)と図1に示したように硫化対策を施した本例のチップ状抵抗器(本発明品)について、温度50℃、環境湿度95%、H
2S 3ppmの雰囲気中で通電させて、硫化試験の加速度試験を行った結果を表1に示す。
この結果、従来品は4500時間から硫化が発生しており、8000時間で総て表面電極3が硫化断線に至っている。これに対し本発明品は、従来品に比べ約2倍以上の寿命か得られている。
このように本例のチップ状抵抗器の端子構造では、ガラス層109aを、抵抗体層107の表面を特にその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極103の一部を覆うように設け、レジン層109bを、ガラス層109aの表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極103の一部を覆うように設けられているので、抵抗体層107の隆起部の頂部のところのレジン層109bの箇所を硫化発生因子が侵入してもその下にはガラス層109aが存在して硫化発生因子の侵入を阻止することができる。また、レジン層109bの表面と表面電極103の表面とに跨るようにレジン系の導電性塗料よりなる導電層117を形成し、この導電層117を介して表面電極103の上に1層以上の導電性薄膜層113を設けているので、レジン系の導電性塗料よりなる導電層117によってレジン層109bの表面との間の境界面119の長さが長くなり、レジン層109bと導電性薄膜層113との境界面115から表面電極103に硫化発生因子が侵入するのを阻止することができる。このため硫化発生因子が存在する場所にこのチップ状抵抗器の端子構造が配置されていても、メタルグレーズ系の表面電極103中の銀が硫化発生因子によって硫化され難くなり、この表面電極103の断線を招く事態を回避することができる。
上記例では、絶縁セラミック基板101の端部両面に表面電極103と裏面電極105が設けられ、表面電極103は抵抗体層107に接続され、抵抗体層107の表面を覆い且つ表面電極103の一部を覆って絶縁保護層109が設けられ、絶縁セラミック基板101の端部には表面電極103と裏面電極105とを電気的に接続する側面電極111が設けられているタイプのチップ状電気部品の端子構造に本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、裏面電極105が設けられておらず、側面電極111と導電性薄膜層113とが絶縁セラミック基板101の側面を覆うように設けられているタイプのチップ状電気部品の端子構造や、裏面電極105と側面電極111とが共に設けられていない表面電極だけが設けられているタイプのチップ状電気部品の端子構造にも本発明は同様に適用することができる。後者の場合、導電層117は表面電極103の露出部を覆って設けられ、導電性薄膜層113はレジン層109bの端部から導電層117の表面と表面電極103の端面を覆って設けられることになる。
図2は、本発明を抵抗体層のトリミングが可能チップ状可変抵抗器の端子構造に適用した他の実施の形態の概略断面図を示している。図2において、図1に示した実施の形態の部分と同じ部分には、図1に付した符号と同じ符号を付して説明を省略する。図2の実施の形態では、絶縁樹脂層を構成するレジン層109b´が、ガラス層109aの表面の端部表面を覆い且つ表面電極103の一部を覆うように設けられている。そのためガラス層109aは中央部分が露出した状態になっている。この露出したガラス層109aの部分に対してレーザーを照射することにより、ガラス層109aと抵抗体層107とにトリミング溝を形成すれば、基板への実装後にトリミング調整を行うこともできる。本実施の形態でも抵抗体層107の隆起部の頂部付近にあるレジン層109bの箇所から、硫化発生因子が侵入してもその下にはガラス層109aが存在しているので、硫化発生因子の侵入を阻止することができる。
上記各例では、チップ状抵抗器の端子構造に本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、チップ状のインダクターまたはチップ状のコンデンサ等の他のチップ状電子部品の端子構造や多連構造のチップ状電気部品の端子構造にも同様に本発明を適用することができる。
本発明に係るチップ状電気部品の端子構造の実施の形態の一例を示した縦断面図である。
本発明に係るチップ状電気部品の端子構造の実施の形態の他の例を示す縦断面図である。
従来のチップ状電気部品の端子構造を示した縦断面図である。
符号の説明
1,101 絶縁セラミック
3,103 表面電極
5,105 裏面電極
7,107 抵抗体層
9,109 絶縁保護層
9a,109a ガラス層
9b,109b,109b´ レジン層(絶縁樹脂層)
11,111 側面電極
13,113 導電性薄膜層
15,115 導電性薄膜層と絶縁保護層との境界面
119 絶縁保護層と導電層との境界面
本発明は、チップ状電気部品の端子構造に関するものである。
チップ状電気部品の代表的なものとしては、例えばチップ抵抗器、チップインダクター、チップコンデンサ、複数種類の電気素子が組み合わされて構成されているチップ状複合電子部品等がある。チップ状電気部品の中には、絶縁基板の両端にそれぞれ半田付け用の電極を1つずつ有するもののほか、絶縁基板の対向する二つの辺にそれぞれ複数の電極が設けられた多連構造の多連チップ部品と呼ばれるものもある。
これらのチップ状電気部品で採用されている端子構造の中に、銀を含有するメタルグレーズ系の電極を用いるものがある。この種の端子構造の構成の一例を、特開2002−237402号公報[特許文献1]に示された端子構造を参照して説明する。図3はこの特開2002−237402号公報に基づいて実際に製造されて市販されている公知のチップ状抵抗器の端子構造を図面化した縦断面図である。このチップ状抵抗器の端子構造は、絶縁セラミック基板1の基板表面の端部に銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極3が設けられ、また基板裏面の端部に銀を含有するメタルグレーズ系の裏面電極5が設けられている。これら対構造の表面電極3と裏面電極5とは、絶縁セラミック基板1を間にして対向配置されている。これらの銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極3と裏面電極5は、例えばAgや、Ag−Pdの導電性粉末をガラスペーストに混練して形成したメタルグレーズペーストを絶縁セラミック基板上に印刷し、これを焼成することにより形成されている。また絶縁セラミック基板1の表面上には、表面電極3に電気的に接続された電気素子形成層としての抵抗体層7が印刷形成されている。また抵抗体層7の全体を覆うように絶縁材料からなる絶縁保護層9が形成されている。また絶縁保護層9は、表面電極3の一部を覆っている。この公知のチップ抵抗器の絶縁保護層9は、ガラス層9aと絶縁樹脂層9bとからなる2層構造になっている。ガラス層9aは、実際の製品では、図示のように表面電極3の端部に載る抵抗体層7の隆起部7aの頂部の高さまで抵抗体層7の表面を覆って設けられている。絶縁樹脂層9bはガラス層9aの表面をその端部表面と表面電極3の一部を覆って設けられている。表面電極3と裏面電極5とが設けられている絶縁セラミック基板1の端面には、これら表面電極3と裏面電極5とを電気的に接続する側面電極11が設けられている。この側面電極11は、キシレンフェノール樹脂またはエポキシフェノール樹脂に銀を混入したAg−レジン系の導電性塗料を用いて形成されている。そして側面電極11の表面を全体的に覆い、表面電極3の露出部分を覆い、且つ裏面電極5の裏面全体を覆う、二層構造のメッキ層からなる導電性薄膜層13が設けられている。この導電性薄膜層13は、下側導電性薄膜層13aと外側導電性薄膜層13bとで構成されている。この例の下側導電性薄膜層13aはニッケルメッキ層で形成され、外側導電性薄膜層13bは半田メッキ層で形成されている。
このような端子構造をもつチップ状電気部品は、一般的な環境で使用されている限り、特に問題は生じない。しかしながら硫黄成分が多い雰囲気中にこの端子構造を持ったチップ状電気部品を実装した回路基板を含む電気機器を長期間にわたって配置した場合には、硫化の問題が生じることが分かっている。
すなわち、硫黄(S)と水分を含む雰囲気にチップ状電気部品の端子構造が晒されると、この硫黄(S)がチップ状電気部品の表面に結露した水分を媒体として、チップ状電気部品の絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13とが突き合わされた境界面15から侵入する。従来のチップ状電気部品の端子構造では、絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13との境界面15で両者が重なっているものの、物理的または化学的に結合しているわけではない。そのため、硫化発生因子(水分、硫黄)の侵入を100%遮断することは困難であると考えられている。侵入した硫化発生因子が表面電極3中のAgと硫化反応を起こして硫化銀(Ag2S、即ち先端成長型ウィスカ)を生成する。即ち、
Ag→Ag++e−
S+2e−→S2−
2Ag+S2−→Ag2S
この反応が進行するためには、銀のイオン化が必要であるため、水分が必要になる。一度硫化反応が始まり、硫化銀が生成されると、その後は表面電極3中のAgが濃度の薄いウィスカ先端部に供給される。即ち絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13との突き合わせ面から抜け出ていく。その結果、表面電極3中のAgが硫化反応で少なくなることによって表面電極3の抵抗値が高くなり、最終的には表面電極3の抵抗値がオープン(断線)状態に至る問題点が生じる。この特開2002−237402号公報には、絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13との境界面15から表面電極3に硫化発生因子が侵入するのを抑制する対策については全く記載がない。
そこで、絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13との境界面15から表面電極3に硫化発生因子が侵入するのを抑制する技術が提案されている。この技術では、銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極3の表面の一部を、抵抗体層7の表面を覆う絶縁樹脂層9bの端部で覆い、表面電極3の表面の他の部分を導電性薄膜層13で覆った状態で、この導電性薄膜層13の下側で表面電極3の表面と絶縁樹脂層9bの表面との境界に、銀を含まないレジン系の導電層(樹脂に銀以外の導電性粉末を混ぜたペーストを用いて形成した導電層)を設け、この銀を含まないレジン系の導電層により硫化発生因子の侵入を阻止しようとするものである。
例えば、特開2002−184602号公報(特許文献2)に示された技術では、ニッケルを導電性粉末とした銀を含まないレジン系の導電層を用いる。また特開2004−259864号公報(特許文献3)に示された技術では、カーボンを導電性粉末として用いた導電性樹脂ペーストを用いて銀を含まないレジン系の導電層を形成している。表面電極と導電性薄膜との間に、銀を含まないレジン系の導電層を設ければ、硫化の発生を抑制して、しかも導電性薄膜と表面電極との間の電気的な接続を維持することができる。
なお特開平8−236302公報(特許文献4)及び特開2002−25802号公報(特許文献5)には、表面電極の上に銀を含有するレジン系の導電層を設けることが記載されている。前者に示された銀を含有するレジン系の導電層は、チップ抵抗器の表面電極の上に大きな段差が形成されるのを防ぐ目的(チップ抵抗器の表面をなるべく平坦にする目的)で、表面電極上に銀を含有するレジン系の導電層を形成している。また特開2002−25802号公報(特許文献5)に示されたチップ抵抗器では、Au系材料により形成された表面電極を半田の熱から保護する目的で、熱に強いAgを含有するレジン系の導電層を表面電極の上に形成している。これらの公報には、Agを含有するレジン系の導電層の耐硫化性能については何も記載されていない。しかしながらWO2003−046934号公報(特許文献6)には、従来技術の中で特開平8−236302公報(特許文献4)を引用して、特許文献4に記載の構造のように、表面電極の上に形成するレジン系の導電層として銀を含む導電層を設けた場合においても、マイグレーション(硫化)による腐食が発生することが記載されている。そのために、特許文献6に記載の技術では、銀を含むレジン系の導電層と抵抗体の上に形成するガラス製のカバーコートとの境界部を覆うように、カバーコートの上に更にガラス製のオーバーコートを形成する。このオーバーコートにより、境界部を覆うことによって、マイグレーションの発生を防止している。
さらに2002−64003号公報(特許文献7)には、表面電極と抵抗体を覆う保護層との間に、パラジウムを5%以上含有し残部が銀とレジンとからなる銀系厚膜(銀を含む導電層)を設けることが記載されている。そして特許文献7には、パラジウムを5%以上含有した銀系厚膜が耐硫化特性に優れていることが記載されている。しかしながらこの文献7に示された構造では、抵抗体を覆う保護層とメッキ層との間の境界面と、この境界面に続いて形成された、保護層と銀系厚膜との間の短い境界面とが、銀系厚膜によって覆われていない表面電極まで延びている。特に、特許文献7には、表面電極(上面電極)をパラジウムを含む耐硫化特性を有する銀系厚膜で形成する場合と比べて、一部にパラジウムを5%以上含有した銀系厚膜を使用すれば、コストが低減できると記載されている。この記載から判断すると、使用するパラジウムを5%以上含有した銀系厚膜の量をできるだけ、少なくすることになり、前述の保護層と銀系厚膜との間の境界面の長さは、かなり短いものになることが推測される。
特開2002−237402号公報 図2
特開2002−184602号公報 図1
特開2004−259864号公報 図1
特開平8−236302公報 図1
特開2002−25802号公報 図1
WO2003−046934号公報 図2
特開2002−64003号公報 図1
しかしながら、特許文献2及び3に記載の構造のように、導電層を、銀を含まないニッケル系やカーボン系の導電性樹脂ペーストで形成する場合、これらの導電性樹脂ペーストは一般に使用されている銀系樹脂ペーストと比べて、コストがかなり高いものとなる問題がある。
また特許文献4及び5に記載の従来の構造では、硫化が発生することが、特許文献6に記載されている。また特許文献6に記載の構造のように、レジン系のオーバーコートを更に追加すると、オーバーコートを追加する分、製造工程が増えるだけでなく、コストが高くなる問題がある。なお、特許文献4または特許文献6の図1に示された構造でガラス製のトリミング用のカバーコート上に、ガラス製のオーバーコートの代わりに樹脂製のオーバーコートを形成して実験したところ、抵抗体層の隆起部の頂部の樹脂製のオーバーコートの箇所から硫化発生因子が侵入し、その箇所から樹脂製のオーバーコートと抵抗体層の隆起部との境界面に沿って表面電極に至るルートができてマイグレーションの発生防止には効果がないことが確認された。
さらに特許文献7に記載の構造のように、表面電極と抵抗体を覆う保護層との間に、パラジウムを5%以上含有し残部が銀とレジンとからなる銀系厚膜を部分的に設けるだけでは、確実に硫化を阻止することはできない。
本発明の目的は、電気素子形成層の隆起部の頂部付近の絶縁樹脂層からの硫化発生因子の侵入を阻止することができるチップ状電気部品の端子構造を提供することにある。
本発明の他の目的は、硫化発生因子の侵入を阻止する樹脂を用いた導電層の境界面の長さを十分に確保して、絶縁樹脂層と導電性薄膜層との境界面から表面電極に硫化発生因子が侵入するのを阻止できるチップ状電気部品の端子構造を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、絶縁樹脂層の端部傾斜面に沿って配置する硫化発生因子の侵入を阻止する樹脂を用いた導電層の機能が高いチップ状電気部品の端子構造を提供することにある。
本発明の他の目的は、電気素子形成層の隆起部の頂部付近の絶縁樹脂層からの硫化発生因子の侵入を阻止することができ、しかも電気素子形成層の調整を基板への実装後に行えるチップ状電気部品の端子構造を提供することにある。
上記の目的を達成する本発明の構成を説明すると、次のとおりである。
本発明に係るチップ状電気部品の端子構造では、絶縁セラミック基板の基板表面に銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極が設けられている。表面電極に電気的に接続されて基板表面上に電気素子形成層が形成されている。電気素子形成層を覆ってガラス層が設けられ該ガラス層と表面電極の一部を覆って絶縁樹脂層が設けられている。これらガラス層と絶縁樹脂層とで絶縁保護層が形成されている。絶縁樹脂層の表面との間に境界面を形成し且つ表面電極の絶縁樹脂層によって覆われていない部分の上に1層以上の導電性薄膜層が形成されている。絶縁樹脂層の端部隆起部の頂上付近と表面電極の表面とに跨るように、レジン系の導電性塗料により導電層が設けられている。1層以上の導電性薄膜層が導電層を介して表面電極の上に形成されている。
表面電極は絶縁セラミック基板の表面に一対設けられてもよく、また表面電極が複数対設けられていてもよいのは勿論である。また、絶縁セラミック基板の基板表面と連続する側面と表面電極とに跨って側面電極が形成されていてもよい。さらに、絶縁セラミック基板の裏面側に側面電極とつながる裏面電極が形成されていてもよい。
本発明のチップ状電気部品の端子構造では、ガラス層は電気素子形成層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆って設けられている。絶縁樹脂層はガラス層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆って設けられている。表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さは、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止するように定められている。
このようにガラス層が電気素子形成層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆って設けられ、絶縁樹脂層がガラス層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆って設けられていると、電気素子形成層の端部表面が全体的にガラス層で覆われ、この部分のガラス層の表面全体が絶縁樹脂層で覆われているので、電気素子形成層の端部隆起部の頂部のところの絶縁樹脂層の箇所を硫化発生因子が侵入してもその下にはガラス層が存在して硫化発生因子の侵入を阻止する。従って、本発明によれば電気素子形成層の隆起部の頂部のところの絶縁樹脂層の箇所から表面電極への硫化発生因子の侵入を十分に阻止することができる。また、表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さが、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止するように定められると、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを十分に阻止することができる。
更に本発明は、電気素子形成層に対してレーザートリミングを基板への実装後に行えるようにするために、絶縁樹脂層でガラス層を全体的に覆わずに、絶縁樹脂層がガラス層の端部表面を覆い且つ表面電極の一部を覆うように設けられた、トリミング可能なチップ状電気部品の端子構造にも適用することができる。このようなトリミング可能なチップ状電気部品の端子構造でも、表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さを、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止するように定める。
また本発明では、導電層を構成するレジン系の導電性塗料が、粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とがエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練されたものとなっている。従来の当業者の常識は、前述の特許文献6に記載のように、銀を含有するレジン系の導電層を表面電極の上に形成しても、硫化を防ぐことができないというものであった。そのために特許文献6に記載の発明では、さらに樹脂製の3層目のオーバーコートを形成している。しかしながら発明者は、この当業者の常識に反して、銀を含有するレジン系の導電層で、硫化を防ぐことができるのではないかとの考えに従って種々研究した。すなわち発明者は、粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とがエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練されたレジン系の導電性塗料を用いて導電層を形成すること、絶縁樹脂層と導電層との重なり長さを長くすることにより、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止することを見出した。粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とをエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練したレジン系の導電性塗料を用いることが好ましい理由は、定かではない。発明者としては、この導電性塗料を用いて形成した導電層では、傾斜する絶縁樹脂層の側面に沿って存在する銀粉末の量が少なくなって、境界面における接合強度が高くなっているからではないかと推測している。そして必要な重なり長さは、境界面近傍の銀粉末の存在状況が一定ではないことにより生じる接合強度のバラツキの発生による硫化阻止性能の低下を補償するために必要なものである。
特にガラス層を、電気素子形成層の表面を特にその端部表面も含めて覆い且つ表面電極の一部を覆って設け、絶縁樹脂層を、ガラス層の表面を少なくともその端部表面を含めて覆い且つ表面電極の一部を覆って設け、しかも銀を含有したレジン系の導電性塗料を用いて導電層を形成するだけで、硫化の発生を阻止することができるので、より少ない製造工程で製造することができて、しかもチップ抵抗器等のチップ状電気部品を安価に提供できる。
なお、表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さを、20μm以上とすると、絶縁樹脂層と導電層との境界面に必要十分な接合強度を確実に確保することができて、絶縁樹脂層と導電性薄膜層との境界面から表面電極に硫化発生因子が侵入するのを確実に阻止することができる。重なり長さの上限は、絶縁樹脂層の厚みによって限定されることになる。現状、一回の印刷で得られる厚みの上限は20μm程度である。
また、粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末との割合を、6対4〜9対1の割合にすると、導電層の厚み方向の導電性を確保した上で、導電層と絶縁樹脂層との境界面近傍に位置する導電層中の銀粉末の量を確実に少なくすることができる。この範囲の下限値より鱗片状粉末の割合が小さい場合には導電性が悪くなり、またこの範囲の上限値より鱗片状粉末の割合が多くなると前述の境界面近傍に位置する導電層中の銀粉末の量が多くなり過ぎる。
1層以上の導電性薄膜層は、2層以上の層構造を有するメッキ層で構成することができる。
本発明のチップ状電気部品の端子構造は、絶縁セラミック基板の基板表面に一対の表面電極が設けられている最も単純なタイプのチップ状電気部品の端子構造に適用できるのは勿論のこと、絶縁セラミック基板の基板表面と連続する側面と表面電極とに跨って形成された側面電極を有するタイプのチップ状電気部品の端子構造にも適用することができ、さらに表面電極と、裏面電極と側面電極とを有するタイプのチップ状電気部品の端子構造にも適用することができる。
本発明によれば、ガラス層で電気素子形成層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆うように設け、絶縁樹脂層をガラス層の表面の少なくとも端部表面も含め覆い且つ表面電極の一部を覆うように設け、表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さを、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止するように定めることにより、硫化の発生を従来よりも確実に阻止することができるので、より少ない製造工程でチップ抵抗器等のチップ状電気部品を製造することができて、しかもチップ状電気部品を安価に提供できる。
以下、本発明に係るチップ状電気部品の端子構造の一例を、チップ状抵抗器の端子構造に適用した例を実施の形態として、図1に示す縦断面図を参照して詳細に説明する。なお、前述した図3と対応する部分には、図3で使用した符号に100を加えた符号を付けて示している。
本例のチップ状抵抗器の端子構造では、絶縁セラミック基板101の端部の表面と裏面上には、銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極103及び裏面電極105とが設けられている。これらの銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極103と裏面電極105は、例えばAgや、Ag−Pdの導電性粉末をガラスペーストに混練して形成したメタルグレーズペーストで、絶縁セラミック基板上にスクリーン印刷により電極パターンを形成した後に、電極パターンを焼成して形成する。また、表面電極103には基板101の表面に形成された、抵抗体層107の一端が重なるように隆起させて接続されている。抵抗体層107も抵抗材料をスクリーン印刷により絶縁セラミック基板101の表面上に形成した後焼成を経て形成される。抵抗体層107の表面は、2層構造の絶縁保護層109によって覆われている。これらの絶縁保護層109は、ガラス層109aとレジン層(絶縁樹脂層)109bとの2層構造で構成されており、表面電極103の一部も覆われている。すなわち、ガラス層109aは、抵抗体層107の表面が特にその端部表面も含めて完全に覆われ且つ抵抗体層107の端部に隣接した部分の表面電極103の部分も覆われている。レジン層109bは、ガラス層109aの表面がその端部表面も含めて完全に覆われ且つ抵抗体層107の端部側でガラス層109aの端部に隣接した表面電極103の部分も覆われている。ガラス層109aは、レーザートリミングの目的を含めて設けられており、レジン層109bは、レーザートリミングで形成されたトリミング溝を埋める目的と、ガラス層109aを保護する目的で設けられている。また目的に応じて3層構造または4層構造等の絶縁保護層を用いることができる。本実施の形態では、レジン層109bをスクリーン印刷を用いてエポキシ系のレジンによって形成している。
絶縁保護層109のレジン層109bの表面と表面電極103の表面とに跨るように、レジン系の導電性塗料を用いて導電層117が設けられている。レジン系の導電性塗料として、粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とが、キシレンフェノール樹脂やエポキシフェノール樹脂等のエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練されたものを用いている。好ましい導電性塗料として、キシレンフェノール系樹脂に、球径が0.5〜1.2μmの粒状の導電性銀粉末と球径が8〜18μmの鱗片状の導電性銀粉末とを混練したものを用いた。球径が0.5〜1.2μmの粒状の導電性銀粉末と球径が8〜18μmの鱗片状の導電性銀粉末の配合割合は、例えば6対4〜9対1にするのが好ましい。粒状粉と鱗片粉のこれらの範囲の配合割合で、最も好ましい配合割合は実験によると、重量比で90対10、体積比で90対10である。このような配合割合にすると、使用する樹脂の粘度が40〜80Pa・sの範囲内にあれば、導電層117の塗布厚みと塗布面積とを制御可能なものとすることができる。そのためこのような導電性塗料を用いれば、導電層117の厚みと塗布面積を、再現性を持って制御することが可能になる。粒状粉の粒径は0.8〜1μm程度、鱗片粉の粒径は長辺径で10〜15μm程度である。これらのサイズの測定は、SEM観察して高い頻度で観察される粒径を表している。粒状粉の粒径の制御は、反応の際の条件や、投入する試薬の選択・調整で行う。鱗片粉の粒径の制御は、主に粉砕条件の違いで行う。粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とをエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練したレジン系の導電性塗料を用いることが好ましい理由は、定かではない。発明者としては、この導電性塗料を用いて形成した導電層117では、傾斜するレジン層109bの側面に沿って存在する銀粉末の量が少なくなって、境界面119における接合強度が高くなっているからではないかと推測している。そして必要な重なり長さは、境界面119近傍の銀粉末の存在状況が一定ではないことにより生じる接合強度のバラツキの発生による硫化阻止性能の低下を補償するために必要なものである。
導電層117は、導電性塗料としてレジン銀を使用する場合には、導電性塗料の印刷後約200℃で30分焼き付けを行って焼成する。
この例では、絶縁セラミック基板101の端部には、表面電極103と裏面電極105とを電気的に接続する側面電極111が設けられている。この側面電極111は、表面側では表面電極103及び導電層117に、裏面側では裏面電極105に接続されている。この側面電極111は、表面電極103及び導電層117と裏面電極105に跨るようにして形成されている。側面電極111は、キシレンフェノール樹脂またはエポキシフェノール樹脂に銀を混入したAg−レジン系の導電性塗料を用いて形成されている。
そして側面電極111の表面を全体的に覆い、導電層117の表面を覆い、レジン層109bの露出端部表面を覆い、且つ裏面電極105の裏面全体を覆うように、2層構造の導電性薄膜層113が形成されている。2層構造の導電性薄膜層113は、2層以上の層構造を有するメッキ層から構成されている。本例の導電性薄膜層113は、下側導電性薄膜層113aと外側導電性薄膜層113bとで構成されている。下側導電性薄膜層113aはニッケルメッキ層で形成され、外側導電性薄膜層113bは半田メッキ層で形成されている。
本実施の形態では、表面電極103と抵抗体層107とが並ぶ方向に測ったレジン層109bと導電層117との重なり長さは、硫化を阻止または抑制できるように定められている。すなわちこの重なり長さは、硫化によって表面電極103中の銀がレジン層109bと導電層117との境界面119に沿って導電性薄膜層113とレジン層109bとの境界面115から外部に析出するのを阻止するように定められている。具体的に、本実施の形態では、表面電極103と抵抗体層107とが並ぶ方向に測ったレジン層109bと導電層117との重なり長さは、20μm以上であればよいと考えられている。このレジン層109bと導電層117との重なり長さは、抵抗体層107の隆起部107aの頂部に、ガラス層109aとレジン層109bとが重なり、レジン層109bの頂部から傾斜して存在する該レジン層109bの傾斜面に導電層117が重ねられているので、各層の厚さを制御することにより容易に得ることができる。なお、上限は表面電極103の長さによって、自ずと制限されることになる。表面電極103と電気素子形成層としての抵抗体層107とが並ぶ方向に測ったレジン層109bと導電層117との重なり長さを、20μm以上とすると、レジン層109bと導電層117との境界面119に必要十分な接合強度を確実に確保することができて、レジン層109bと導電性薄膜層113との境界面115から表面電極103に硫化発生因子が侵入するのを確実に抑制することができる。アレニウスの法則に従った加速試験結果から推定すると、レジン層109bと導電層117との重なり長さを20μmとすると硫化を阻止または抑制できる年数は約40年であり、重なり長さを150μmとすると硫化を阻止または抑制できる年数は約100年である。また、このようにして形成さした導電層117の平均厚みは、通常10μm〜30μmの範囲に入る。前述の20μm以上の重なり長さを得るためには、導電層117の好ましい厚みは、10μm〜30μmが必要である。
次に、図3に示した従来のチップ状抵抗器(従来品)と図1に示したように硫化対策を施した本例のチップ状抵抗器(本発明品)について、温度50℃、環境湿度95%、H
2S 3ppmの雰囲気中で通電させて、硫化試験の加速度試験を行った結果を表1に示す。
この結果、従来品は4500時間から硫化が発生しており、8000時間で総て表面電極3が硫化断線に至っている。これに対し本発明品は、従来品に比べ約2倍以上の寿命か得られている。
このように本例のチップ状抵抗器の端子構造では、ガラス層109aを、抵抗体層107の表面を特にその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極103の一部を覆うように設け、レジン層109bを、ガラス層109aの表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極103の一部を覆うように設けられているので、抵抗体層107の隆起部の頂部のところのレジン層109bの箇所を硫化発生因子が侵入してもその下にはガラス層109aが存在して硫化発生因子の侵入を阻止することができる。また、レジン層109bの表面と表面電極103の表面とに跨るようにレジン系の導電性塗料よりなる導電層117を形成し、この導電層117を介して表面電極103の上に1層以上の導電性薄膜層113を設けているので、レジン系の導電性塗料よりなる導電層117によってレジン層109bの表面との間の境界面119の長さが長くなり、レジン層109bと導電性薄膜層113との境界面115から表面電極103に硫化発生因子が侵入するのを阻止することができる。このため硫化発生因子が存在する場所にこのチップ状抵抗器の端子構造が配置されていても、メタルグレーズ系の表面電極103中の銀が硫化発生因子によって硫化され難くなり、この表面電極103の断線を招く事態を回避することができる。
上記例では、絶縁セラミック基板101の端部両面に表面電極103と裏面電極105が設けられ、表面電極103は抵抗体層107に接続され、抵抗体層107の表面を覆い且つ表面電極103の一部を覆って絶縁保護層109が設けられ、絶縁セラミック基板101の端部には表面電極103と裏面電極105とを電気的に接続する側面電極111が設けられているタイプのチップ状電気部品の端子構造に本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、裏面電極105が設けられておらず、側面電極111と導電性薄膜層113とが絶縁セラミック基板101の側面を覆うように設けられているタイプのチップ状電気部品の端子構造や、裏面電極105と側面電極111とが共に設けられていない表面電極だけが設けられているタイプのチップ状電気部品の端子構造にも本発明は同様に適用することができる。後者の場合、導電層117は表面電極103の露出部を覆って設けられ、導電性薄膜層113はレジン層109bの端部から導電層117の表面と表面電極103の端面を覆って設けられることになる。
図2は、本発明を抵抗体層のトリミングが可能チップ状可変抵抗器の端子構造に適用した他の実施の形態の概略断面図を示している。図2において、図1に示した実施の形態の部分と同じ部分には、図1に付した符号と同じ符号を付して説明を省略する。図2の実施の形態では、絶縁樹脂層を構成するレジン層109b´が、ガラス層109aの表面の端部表面を覆い且つ表面電極103の一部を覆うように設けられている。そのためガラス層109aは中央部分が露出した状態になっている。この露出したガラス層109aの部分に対してレーザーを照射することにより、ガラス層109aと抵抗体層107とにトリミング溝を形成すれば、基板への実装後にトリミング調整を行うこともできる。本実施の形態でも抵抗体層107の隆起部の頂部付近にあるレジン層109bの箇所から、硫化発生因子が侵入してもその下にはガラス層109aが存在しているので、硫化発生因子の侵入を阻止することができる。
上記各例では、チップ状抵抗器の端子構造に本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、チップ状のインダクターまたはチップ状のコンデンサ等の他のチップ状電子部品の端子構造や多連構造のチップ状電気部品の端子構造にも同様に本発明を適用することができる。
本発明に係るチップ状電気部品の端子構造の実施の形態の一例を示した縦断面図である。
本発明に係るチップ状電気部品の端子構造の実施の形態の他の例を示す縦断面図である。
従来のチップ状電気部品の端子構造を示した縦断面図である。
符号の説明
1,101 絶縁セラミック
3,103 表面電極
5,105 裏面電極
7,107 抵抗体層
9,109 絶縁保護層
9a,109a ガラス層
9b,109b,109b´ レジン層(絶縁樹脂層)
11,111 側面電極
13,113 導電性薄膜層
15,115 導電性薄膜層と絶縁保護層との境界面
119 絶縁保護層と導電層との境界面
本発明は、チップ状電気部品の端子構造に関するものである。
チップ状電気部品の代表的なものとしては、例えばチップ抵抗器、チップインダクター、チップコンデンサ、複数種類の電気素子が組み合わされて構成されているチップ状複合電子部品等がある。チップ状電気部品の中には、絶縁基板の両端にそれぞれ半田付け用の電極を1つずつ有するもののほか、絶縁基板の対向する二つの辺にそれぞれ複数の電極が設けられた多連構造の多連チップ部品と呼ばれるものもある。
これらのチップ状電気部品で採用されている端子構造の中に、銀を含有するメタルグレーズ系の電極を用いるものがある。この種の端子構造の構成の一例を、特開2002−237402号公報[特許文献1]に示された端子構造を参照して説明する。図3はこの特開2002−237402号公報に基づいて実際に製造されて市販されている公知のチップ状抵抗器の端子構造を図面化した縦断面図である。このチップ状抵抗器の端子構造は、絶縁セラミック基板1の基板表面の端部に銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極3が設けられ、また基板裏面の端部に銀を含有するメタルグレーズ系の裏面電極5が設けられている。これら対構造の表面電極3と裏面電極5とは、絶縁セラミック基板1を間にして対向配置されている。これらの銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極3と裏面電極5は、例えばAgや、Ag−Pdの導電性粉末をガラスペーストに混練して形成したメタルグレーズペーストを絶縁セラミック基板上に印刷し、これを焼成することにより形成されている。また絶縁セラミック基板1の表面上には、表面電極3に電気的に接続された電気素子形成層としての抵抗体層7が印刷形成されている。また抵抗体層7の全体を覆うように絶縁材料からなる絶縁保護層9が形成されている。また絶縁保護層9は、表面電極3の一部を覆っている。この公知のチップ抵抗器の絶縁保護層9は、ガラス層9aと絶縁樹脂層9bとからなる2層構造になっている。ガラス層9aは、実際の製品では、図示のように表面電極3の端部に載る抵抗体層7の隆起部7aの頂部の高さまで抵抗体層7の表面を覆って設けられている。絶縁樹脂層9bはガラス層9aの表面をその端部表面と表面電極3の一部を覆って設けられている。表面電極3と裏面電極5とが設けられている絶縁セラミック基板1の端面には、これら表面電極3と裏面電極5とを電気的に接続する側面電極11が設けられている。この側面電極11は、キシレンフェノール樹脂またはエポキシフェノール樹脂に銀を混入したAg−レジン系の導電性塗料を用いて形成されている。そして側面電極11の表面を全体的に覆い、表面電極3の露出部分を覆い、且つ裏面電極5の裏面全体を覆う、二層構造のメッキ層からなる導電性薄膜層13が設けられている。この導電性薄膜層13は、下側導電性薄膜層13aと外側導電性薄膜層13bとで構成されている。この例の下側導電性薄膜層13aはニッケルメッキ層で形成され、外側導電性薄膜層13bは半田メッキ層で形成されている。
このような端子構造をもつチップ状電気部品は、一般的な環境で使用されている限り、特に問題は生じない。しかしながら硫黄成分が多い雰囲気中にこの端子構造を持ったチップ状電気部品を実装した回路基板を含む電気機器を長期間にわたって配置した場合には、硫化の問題が生じることが分かっている。
すなわち、硫黄(S)と水分を含む雰囲気にチップ状電気部品の端子構造が晒されると、この硫黄(S)がチップ状電気部品の表面に結露した水分を媒体として、チップ状電気部品の絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13とが突き合わされた境界面15から侵入する。従来のチップ状電気部品の端子構造では、絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13との境界面15で両者が重なっているものの、物理的または化学的に結合しているわけではない。そのため、硫化発生因子(水分、硫黄)の侵入を100%遮断することは困難であると考えられている。侵入した硫化発生因子が表面電極3中のAgと硫化反応を起こして硫化銀(Ag2S、即ち先端成長型ウィスカ)を生成する。即ち、
Ag→Ag++e−
S+2e−→S2−
2Ag+S2−→Ag2S
この反応が進行するためには、銀のイオン化が必要であるため、水分が必要になる。一度硫化反応が始まり、硫化銀が生成されると、その後は表面電極3中のAgが濃度の薄いウィスカ先端部に供給される。即ち絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13との突き合わせ面から抜け出ていく。その結果、表面電極3中のAgが硫化反応で少なくなることによって表面電極3の抵抗値が高くなり、最終的には表面電極3の抵抗値がオープン(断線)状態に至る問題点が生じる。この特開2002−237402号公報には、絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13との境界面15から表面電極3に硫化発生因子が侵入するのを抑制する対策については全く記載がない。
そこで、絶縁樹脂層9bと導電性薄膜層13との境界面15から表面電極3に硫化発生因子が侵入するのを抑制する技術が提案されている。この技術では、銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極3の表面の一部を、抵抗体層7の表面を覆う絶縁樹脂層9bの端部で覆い、表面電極3の表面の他の部分を導電性薄膜層13で覆った状態で、この導電性薄膜層13の下側で表面電極3の表面と絶縁樹脂層9bの表面との境界に、銀を含まないレジン系の導電層(樹脂に銀以外の導電性粉末を混ぜたペーストを用いて形成した導電層)を設け、この銀を含まないレジン系の導電層により硫化発生因子の侵入を阻止しようとするものである。
例えば、特開2002−184602号公報(特許文献2)に示された技術では、ニッケルを導電性粉末とした銀を含まないレジン系の導電層を用いる。また特開2004−259864号公報(特許文献3)に示された技術では、カーボンを導電性粉末として用いた導電性樹脂ペーストを用いて銀を含まないレジン系の導電層を形成している。表面電極と導電性薄膜との間に、銀を含まないレジン系の導電層を設ければ、硫化の発生を抑制して、しかも導電性薄膜と表面電極との間の電気的な接続を維持することができる。
なお特開平8−236302公報(特許文献4)及び特開2002−25802号公報(特許文献5)には、表面電極の上に銀を含有するレジン系の導電層を設けることが記載されている。前者に示された銀を含有するレジン系の導電層は、チップ抵抗器の表面電極の上に大きな段差が形成されるのを防ぐ目的(チップ抵抗器の表面をなるべく平坦にする目的)で、表面電極上に銀を含有するレジン系の導電層を形成している。また特開2002−25802号公報(特許文献5)に示されたチップ抵抗器では、Au系材料により形成された表面電極を半田の熱から保護する目的で、熱に強いAgを含有するレジン系の導電層を表面電極の上に形成している。これらの公報には、Agを含有するレジン系の導電層の耐硫化性能については何も記載されていない。しかしながらWO2003−046934号公報(特許文献6)には、従来技術の中で特開平8−236302公報(特許文献4)を引用して、特許文献4に記載の構造のように、表面電極の上に形成するレジン系の導電層として銀を含む導電層を設けた場合においても、マイグレーション(硫化)による腐食が発生することが記載されている。そのために、特許文献6に記載の技術では、銀を含むレジン系の導電層と抵抗体の上に形成するガラス製のカバーコートとの境界部を覆うように、カバーコートの上に更にガラス製のオーバーコートを形成する。このオーバーコートにより、境界部を覆うことによって、マイグレーションの発生を防止している。
さらに2002−64003号公報(特許文献7)には、表面電極と抵抗体を覆う保護層との間に、パラジウムを5%以上含有し残部が銀とレジンとからなる銀系厚膜(銀を含む導電層)を設けることが記載されている。そして特許文献7には、パラジウムを5%以上含有した銀系厚膜が耐硫化特性に優れていることが記載されている。しかしながらこの文献7に示された構造では、抵抗体を覆う保護層とメッキ層との間の境界面と、この境界面に続いて形成された、保護層と銀系厚膜との間の短い境界面とが、銀系厚膜によって覆われていない表面電極まで延びている。特に、特許文献7には、表面電極(上面電極)をパラジウムを含む耐硫化特性を有する銀系厚膜で形成する場合と比べて、一部にパラジウムを5%以上含有した銀系厚膜を使用すれば、コストが低減できると記載されている。この記載から判断すると、使用するパラジウムを5%以上含有した銀系厚膜の量をできるだけ、少なくすることになり、前述の保護層と銀系厚膜との間の境界面の長さは、かなり短いものになることが推測される。
特開2002−237402号公報 図2
特開2002−184602号公報 図1
特開2004−259864号公報 図1
特開平8−236302公報 図1
特開2002−25802号公報 図1
WO2003−046934号公報 図2
特開2002−64003号公報 図1
しかしながら、特許文献2及び3に記載の構造のように、導電層を、銀を含まないニッケル系やカーボン系の導電性樹脂ペーストで形成する場合、これらの導電性樹脂ペーストは一般に使用されている銀系樹脂ペーストと比べて、コストがかなり高いものとなる問題がある。
また特許文献4及び5に記載の従来の構造では、硫化が発生することが、特許文献6に記載されている。また特許文献6に記載の構造のように、レジン系のオーバーコートを更に追加すると、オーバーコートを追加する分、製造工程が増えるだけでなく、コストが高くなる問題がある。なお、特許文献4または特許文献6の図1に示された構造でガラス製のトリミング用のカバーコート上に、ガラス製のオーバーコートの代わりに樹脂製のオーバーコートを形成して実験したところ、抵抗体層の隆起部の頂部の樹脂製のオーバーコートの箇所から硫化発生因子が侵入し、その箇所から樹脂製のオーバーコートと抵抗体層の隆起部との境界面に沿って表面電極に至るルートができてマイグレーションの発生防止には効果がないことが確認された。
さらに特許文献7に記載の構造のように、表面電極と抵抗体を覆う保護層との間に、パラジウムを5%以上含有し残部が銀とレジンとからなる銀系厚膜を部分的に設けるだけでは、確実に硫化を阻止することはできない。
本発明の目的は、電気素子形成層の隆起部の頂部付近の絶縁樹脂層からの硫化発生因子の侵入を阻止することができるチップ状電気部品の端子構造を提供することにある。
本発明の他の目的は、硫化発生因子の侵入を阻止する樹脂を用いた導電層の境界面の長さを十分に確保して、絶縁樹脂層と導電性薄膜層との境界面から表面電極に硫化発生因子が侵入するのを阻止できるチップ状電気部品の端子構造を提供することにある。
本発明の更に他の目的は、絶縁樹脂層の端部傾斜面に沿って配置する硫化発生因子の侵入を阻止する樹脂を用いた導電層の機能が高いチップ状電気部品の端子構造を提供することにある。
本発明の他の目的は、電気素子形成層の隆起部の頂部付近の絶縁樹脂層からの硫化発生因子の侵入を阻止することができ、しかも電気素子形成層の調整を基板への実装後に行えるチップ状電気部品の端子構造を提供することにある。
上記の目的を達成する本発明の構成を説明すると、次のとおりである。
本発明に係るチップ状電気部品の端子構造では、絶縁セラミック基板の基板表面に銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極が設けられている。表面電極に電気的に接続されて基板表面上に電気素子形成層が形成されている。電気素子形成層を覆ってガラス層が設けられ該ガラス層と表面電極の一部を覆って絶縁樹脂層が設けられている。これらガラス層と絶縁樹脂層とで絶縁保護層が形成されている。絶縁樹脂層の表面との間に境界面を形成し且つ表面電極の絶縁樹脂層によって覆われていない部分の上に1層以上の導電性薄膜層が形成されている。絶縁樹脂層の端部隆起部の頂上付近と表面電極の表面とに跨るように、レジン系の導電性塗料により導電層が設けられている。1層以上の導電性薄膜層が導電層を介して表面電極の上に形成されている。
表面電極は絶縁セラミック基板の表面に一対設けられてもよく、また表面電極が複数対設けられていてもよいのは勿論である。また、絶縁セラミック基板の基板表面と連続する側面と表面電極とに跨って側面電極が形成されていてもよい。さらに、絶縁セラミック基板の裏面側に側面電極とつながる裏面電極が形成されていてもよい。
本発明のチップ状電気部品の端子構造では、ガラス層は電気素子形成層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆って設けられている。絶縁樹脂層はガラス層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆って設けられている。表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さは、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止するように定められている。
このようにガラス層が電気素子形成層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆って設けられ、絶縁樹脂層がガラス層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆って設けられていると、電気素子形成層の端部表面が全体的にガラス層で覆われ、この部分のガラス層の表面全体が絶縁樹脂層で覆われているので、電気素子形成層の端部隆起部の頂部のところの絶縁樹脂層の箇所を硫化発生因子が侵入してもその下にはガラス層が存在して硫化発生因子の侵入を阻止する。従って、本発明によれば電気素子形成層の隆起部の頂部のところの絶縁樹脂層の箇所から表面電極への硫化発生因子の侵入を十分に阻止することができる。また、表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さが、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止するように定められると、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを十分に阻止することができる。
更に本発明は、電気素子形成層に対してレーザートリミングを基板への実装後に行えるようにするために、絶縁樹脂層でガラス層を全体的に覆わずに、絶縁樹脂層がガラス層の端部表面を覆い且つ表面電極の一部を覆うように設けられた、トリミング可能なチップ状電気部品の端子構造にも適用することができる。このようなトリミング可能なチップ状電気部品の端子構造でも、表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さを、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止するように定める。
また本発明では、導電層を構成するレジン系の導電性塗料が、粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とがエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練されたものとなっている。従来の当業者の常識は、前述の特許文献6に記載のように、銀を含有するレジン系の導電層を表面電極の上に形成しても、硫化を防ぐことができないというものであった。そのために特許文献6に記載の発明では、さらに樹脂製の3層目のオーバーコートを形成している。しかしながら発明者は、この当業者の常識に反して、銀を含有するレジン系の導電層で、硫化を防ぐことができるのではないかとの考えに従って種々研究した。すなわち発明者は、粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とがエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練されたレジン系の導電性塗料を用いて導電層を形成すること、絶縁樹脂層と導電層との重なり長さを長くすることにより、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止することを見出した。粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とをエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練したレジン系の導電性塗料を用いることが好ましい理由は、定かではない。発明者としては、この導電性塗料を用いて形成した導電層では、傾斜する絶縁樹脂層の側面に沿って存在する銀粉末の量が少なくなって、境界面における接合強度が高くなっているからではないかと推測している。そして必要な重なり長さは、境界面近傍の銀粉末の存在状況が一定ではないことにより生じる接合強度のバラツキの発生による硫化阻止性能の低下を補償するために必要なものである。
特にガラス層を、電気素子形成層の表面を特にその端部表面も含めて覆い且つ表面電極の一部を覆って設け、絶縁樹脂層を、ガラス層の表面を少なくともその端部表面を含めて覆い且つ表面電極の一部を覆って設け、しかも銀を含有したレジン系の導電性塗料を用いて導電層を形成するだけで、硫化の発生を阻止することができるので、より少ない製造工程で製造することができて、しかもチップ抵抗器等のチップ状電気部品を安価に提供できる。
なお、表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さを、20μm以上とすると、絶縁樹脂層と導電層との境界面に必要十分な接合強度を確実に確保することができて、絶縁樹脂層と導電性薄膜層との境界面から表面電極に硫化発生因子が侵入するのを確実に阻止することができる。重なり長さの上限は、絶縁樹脂層の厚みによって限定されることになる。現状、一回の印刷で得られる厚みの上限は20μm程度である。
また、粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末との割合を、6対4〜9対1の割合にすると、導電層の厚み方向の導電性を確保した上で、導電層と絶縁樹脂層との境界面近傍に位置する導電層中の銀粉末の量を確実に少なくすることができる。この範囲の下限値より鱗片状粉末の割合が小さい場合には導電性が悪くなり、またこの範囲の上限値より鱗片状粉末の割合が多くなると前述の境界面近傍に位置する導電層中の銀粉末の量が多くなり過ぎる。
1層以上の導電性薄膜層は、2層以上の層構造を有するメッキ層で構成することができる。
本発明のチップ状電気部品の端子構造は、絶縁セラミック基板の基板表面に一対の表面電極が設けられている最も単純なタイプのチップ状電気部品の端子構造に適用できるのは勿論のこと、絶縁セラミック基板の基板表面と連続する側面と表面電極とに跨って形成された側面電極を有するタイプのチップ状電気部品の端子構造にも適用することができ、さらに表面電極と、裏面電極と側面電極とを有するタイプのチップ状電気部品の端子構造にも適用することができる。
本発明によれば、ガラス層で電気素子形成層の表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極の一部を覆うように設け、絶縁樹脂層をガラス層の表面の少なくとも端部表面も含め覆い且つ表面電極の一部を覆うように設け、表面電極と電気素子形成層とが並ぶ方向に測った絶縁樹脂層と導電層との重なり長さを、硫化によって表面電極中の銀が絶縁樹脂層と導電層との境界面に沿って移動して導電性薄膜層と絶縁樹脂層との境界部から外部に析出するのを阻止するように定めることにより、硫化の発生を従来よりも確実に阻止することができるので、より少ない製造工程でチップ抵抗器等のチップ状電気部品を製造することができて、しかもチップ状電気部品を安価に提供できる。
以下、本発明に係るチップ状電気部品の端子構造の一例を、チップ状抵抗器の端子構造に適用した例を実施の形態として、図1に示す縦断面図を参照して詳細に説明する。なお、前述した図3と対応する部分には、図3で使用した符号に100を加えた符号を付けて示している。
本例のチップ状抵抗器の端子構造では、絶縁セラミック基板101の端部の表面と裏面上には、銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極103及び裏面電極105とが設けられている。これらの銀を含有するメタルグレーズ系の表面電極103と裏面電極105は、例えばAgや、Ag−Pdの導電性粉末をガラスペーストに混練して形成したメタルグレーズペーストで、絶縁セラミック基板上にスクリーン印刷により電極パターンを形成した後に、電極パターンを焼成して形成する。また、表面電極103には基板101の表面に形成された、抵抗体層107の一端が重なるように隆起させて接続されている。抵抗体層107も抵抗材料をスクリーン印刷により絶縁セラミック基板101の表面上に形成した後焼成を経て形成される。抵抗体層107の表面は、2層構造の絶縁保護層109によって覆われている。これらの絶縁保護層109は、ガラス層109aとレジン層(絶縁樹脂層)109bとの2層構造で構成されており、表面電極103の一部も覆われている。すなわち、ガラス層109aは、抵抗体層107の表面が特にその端部表面も含めて完全に覆われ且つ抵抗体層107の端部に隣接した部分の表面電極103の部分も覆われている。レジン層109bは、ガラス層109aの表面がその端部表面も含めて完全に覆われ且つ抵抗体層107の端部側でガラス層109aの端部に隣接した表面電極103の部分も覆われている。ガラス層109aは、レーザートリミングの目的を含めて設けられており、レジン層109bは、レーザートリミングで形成されたトリミング溝を埋める目的と、ガラス層109aを保護する目的で設けられている。また目的に応じて3層構造または4層構造等の絶縁保護層を用いることができる。本実施の形態では、レジン層109bをスクリーン印刷を用いてエポキシ系のレジンによって形成している。
絶縁保護層109のレジン層109bの表面と表面電極103の表面とに跨るように、レジン系の導電性塗料を用いて導電層117が設けられている。レジン系の導電性塗料として、粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とが、キシレンフェノール樹脂やエポキシフェノール樹脂等のエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練されたものを用いている。好ましい導電性塗料として、キシレンフェノール系樹脂に、球径が0.5〜1.2μmの粒状の導電性銀粉末と長辺径が8〜18μmの鱗片状の導電性銀粉末とを混練したものを用いた。球径が0.5〜1.2μmの粒状の導電性銀粉末と長辺径が8〜18μmの鱗片状の導電性銀粉末の配合割合は、例えば6対4〜9対1にするのが好ましい。粒状粉と鱗片粉のこれらの範囲の配合割合で、最も好ましい配合割合は実験によると、重量比で90対10、体積比で90対10である。このような配合割合にすると、使用する樹脂の粘度が40〜80Pa・sの範囲内にあれば、導電層117の塗布厚みと塗布面積とを制御可能なものとすることができる。そのためこのような導電性塗料を用いれば、導電層117の厚みと塗布面積を、再現性を持って制御することが可能になる。粒状粉の粒径は0.8〜1μm程度、鱗片粉の長辺径は10〜15μm程度である。これらのサイズの測定は、SEM観察して高い頻度で観察される粒径を表している。粒状粉の粒径の制御は、反応の際の条件や、投入する試薬の選択・調整で行う。鱗片粉の長辺径の制御は、主に粉砕条件の違いで行う。粒状の導電性銀粉末と鱗片状の導電性銀粉末とをエポキシ系の絶縁樹脂塗料中に混練したレジン系の導電性塗料を用いることが好ましい理由は、定かではない。発明者としては、この導電性塗料を用いて形成した導電層117では、傾斜するレジン層109bの側面に沿って存在する銀粉末の量が少なくなって、境界面119における接合強度が高くなっているからではないかと推測している。そして必要な重なり長さは、境界面119近傍の銀粉末の存在状況が一定ではないことにより生じる接合強度のバラツキの発生による硫化阻止性能の低下を補償するために必要なものである。
導電層117は、導電性塗料としてレジン銀を使用する場合には、導電性塗料の印刷後約200℃で30分焼き付けを行って焼成する。
この例では、絶縁セラミック基板101の端部には、表面電極103と裏面電極105とを電気的に接続する側面電極111が設けられている。この側面電極111は、表面側では表面電極103及び導電層117に、裏面側では裏面電極105に接続されている。この側面電極111は、表面電極103及び導電層117と裏面電極105に跨るようにして形成されている。側面電極111は、キシレンフェノール樹脂またはエポキシフェノール樹脂に銀を混入したAg−レジン系の導電性塗料を用いて形成されている。
そして側面電極111の表面を全体的に覆い、導電層117の表面を覆い、レジン層109bの露出端部表面を覆い、且つ裏面電極105の裏面全体を覆うように、2層構造の導電性薄膜層113が形成されている。2層構造の導電性薄膜層113は、2層以上の層構造を有するメッキ層から構成されている。本例の導電性薄膜層113は、下側導電性薄膜層113aと外側導電性薄膜層113bとで構成されている。下側導電性薄膜層113aはニッケルメッキ層で形成され、外側導電性薄膜層113bは半田メッキ層で形成されている。
本実施の形態では、表面電極103と抵抗体層107とが並ぶ方向に測ったレジン層109bと導電層117との重なり長さは、硫化を阻止または抑制できるように定められている。すなわちこの重なり長さは、硫化によって表面電極103中の銀がレジン層109bと導電層117との境界面119に沿って導電性薄膜層113とレジン層109bとの境界面115から外部に析出するのを阻止するように定められている。具体的に、本実施の形態では、表面電極103と抵抗体層107とが並ぶ方向に測ったレジン層109bと導電層117との重なり長さは、20μm以上であればよいと考えられている。このレジン層109bと導電層117との重なり長さは、抵抗体層107の隆起部107aの頂部に、ガラス層109aとレジン層109bとが重なり、レジン層109bの頂部から傾斜して存在する該レジン層109bの傾斜面に導電層117が重ねられているので、各層の厚さを制御することにより容易に得ることができる。なお、上限は表面電極103の長さによって、自ずと制限されることになる。表面電極103と電気素子形成層としての抵抗体層107とが並ぶ方向に測ったレジン層109bと導電層117との重なり長さを、20μm以上とすると、レジン層109bと導電層117との境界面119に必要十分な接合強度を確実に確保することができて、レジン層109bと導電性薄膜層113との境界面115から表面電極103に硫化発生因子が侵入するのを確実に抑制することができる。アレニウスの法則に従った加速試験結果から推定すると、レジン層109bと導電層117との重なり長さを20μmとすると硫化を阻止または抑制できる年数は約40年であり、重なり長さを150μmとすると硫化を阻止または抑制できる年数は約100年である。また、このようにして形成さした導電層117の平均厚みは、通常10μm〜30μmの範囲に入る。前述の20μm以上の重なり長さを得るためには、導電層117の好ましい厚みは、10μm〜30μmが必要である。
次に、図3に示した従来のチップ状抵抗器(従来品)と図1に示したように硫化対策を施した本例のチップ状抵抗器(本発明品)について、温度50℃、環境湿度95%、H
2S 3ppmの雰囲気中で通電させて、硫化試験の加速度試験を行った結果を表1に示す。
この結果、従来品は4500時間から硫化が発生しており、8000時間で総て表面電極3が硫化断線に至っている。これに対し本発明品は、従来品に比べ約2倍以上の寿命か得られている。
このように本例のチップ状抵抗器の端子構造では、ガラス層109aを、抵抗体層107の表面を特にその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極103の一部を覆うように設け、レジン層109bを、ガラス層109aの表面をその端部表面も含めて完全に覆い且つ表面電極103の一部を覆うように設けられているので、抵抗体層107の隆起部の頂部のところのレジン層109bの箇所を硫化発生因子が侵入してもその下にはガラス層109aが存在して硫化発生因子の侵入を阻止することができる。また、レジン層109bの表面と表面電極103の表面とに跨るようにレジン系の導電性塗料よりなる導電層117を形成し、この導電層117を介して表面電極103の上に1層以上の導電性薄膜層113を設けているので、レジン系の導電性塗料よりなる導電層117によってレジン層109bの表面との間の境界面119の長さが長くなり、レジン層109bと導電性薄膜層113との境界面115から表面電極103に硫化発生因子が侵入するのを阻止することができる。このため硫化発生因子が存在する場所にこのチップ状抵抗器の端子構造が配置されていても、メタルグレーズ系の表面電極103中の銀が硫化発生因子によって硫化され難くなり、この表面電極103の断線を招く事態を回避することができる。
上記例では、絶縁セラミック基板101の端部両面に表面電極103と裏面電極105が設けられ、表面電極103は抵抗体層107に接続され、抵抗体層107の表面を覆い且つ表面電極103の一部を覆って絶縁保護層109が設けられ、絶縁セラミック基板101の端部には表面電極103と裏面電極105とを電気的に接続する側面電極111が設けられているタイプのチップ状電気部品の端子構造に本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、裏面電極105が設けられておらず、側面電極111と導電性薄膜層113とが絶縁セラミック基板101の側面を覆うように設けられているタイプのチップ状電気部品の端子構造や、裏面電極105と側面電極111とが共に設けられていない表面電極だけが設けられているタイプのチップ状電気部品の端子構造にも本発明は同様に適用することができる。後者の場合、導電層117は表面電極103の露出部を覆って設けられ、導電性薄膜層113はレジン層109bの端部から導電層117の表面と表面電極103の端面を覆って設けられることになる。
図2は、本発明を抵抗体層のトリミングが可能チップ状可変抵抗器の端子構造に適用した他の実施の形態の概略断面図を示している。図2において、図1に示した実施の形態の部分と同じ部分には、図1に付した符号と同じ符号を付して説明を省略する。図2の実施の形態では、絶縁樹脂層を構成するレジン層109b´が、ガラス層109aの表面の端部表面を覆い且つ表面電極103の一部を覆うように設けられている。そのためガラス層109aは中央部分が露出した状態になっている。この露出したガラス層109aの部分に対してレーザーを照射することにより、ガラス層109aと抵抗体層107とにトリミング溝を形成すれば、基板への実装後にトリミング調整を行うこともできる。本実施の形態でも抵抗体層107の隆起部の頂部付近にあるレジン層109bの箇所から、硫化発生因子が侵入してもその下にはガラス層109aが存在しているので、硫化発生因子の侵入を阻止することができる。
上記各例では、チップ状抵抗器の端子構造に本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、チップ状のインダクターまたはチップ状のコンデンサ等の他のチップ状電子部品の端子構造や多連構造のチップ状電気部品の端子構造にも同様に本発明を適用することができる。
本発明に係るチップ状電気部品の端子構造の実施の形態の一例を示した縦断面図である。
本発明に係るチップ状電気部品の端子構造の実施の形態の他の例を示す縦断面図である。
従来のチップ状電気部品の端子構造を示した縦断面図である。
符号の説明
1,101 絶縁セラミック
3,103 表面電極
5,105 裏面電極
7,107 抵抗体層
9,109 絶縁保護層
9a,109a ガラス層
9b,109b,109b´ レジン層(絶縁樹脂層)
11,111 側面電極
13,113 導電性薄膜層
15,115 導電性薄膜層と絶縁保護層との境界面
119 絶縁保護層と導電層との境界面