JP2005061441A - チェーン駆動装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】潤滑油の存在下で作動するチェーン駆動装置におけるチェーン5(6)の構成部品同士の間や、チェーン5(6)とスプロケット2〜4の間、チェーンガイド7とチェーン5(6)の間、テンショナ9におけるプランジャ9aなどの摺動部分に、水素含有量の低い、例えばダイヤモンドライクカーボンのような硬質炭素薄膜から成る被覆を施す。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、自動車用内燃機関において、クランクシャフトの回転を動弁機構のカムシャフトに伝達するのに用いられるチェーン駆動装置に係わり、さらに詳しくは、各摺動部分における摩擦抵抗を少なくして内燃機関の燃費・性能を向上させると共に、各摺動部分の摩耗を少なくして性能の経年劣化を防止し、耐久寿命を改善することができるチェーン駆動装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
内燃機関のクランクシャフトの回転力をシリンダヘッド上のカムシャフトに伝達するためのチェーン駆動装置としては、クランクシャフトに連結されたクランクスプロケットと、2本の吸気カムシャフトにそれぞれ連結された吸気カムスプロケットに渡って掛け回されたチェーンを備え、さらに当該チェーンの走行ラインを規制するためのチェーンガイドや、チェーンの張力を油圧によって調整し、ばたつきを抑えるためのチェーンテンショナ装置を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。なお、当該文献記載のチェーン駆動装置は、上記吸気カムシャフトにそれぞれ連結された第2の吸気カムスプロケットと、2本の排気カムシャフトにそれぞれ連結された排気カムスプロケットと、これらの間に掛け渡された第2のチェーンをそれぞれ備えており、クランクシャフトの回転力が各吸排気カムシャフトにそれぞれ伝達されるようになっている。
【0003】
一方、このようなチェーン駆動装置に用いられるチェーンとしては、ローラチェーンとサイレントチェーンとに大別され(例えば、特許文献2参照)、当該特許文献には、ローラチェーン用のアイドラを設けたチェーンレイアウトにおけるサイレントチェーンの使用を可能にするサイレントチェーンのリンクプレートの形状改良について開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特開平6−264993号公報
【特許文献2】
特開平11−190406号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記チェーンテンショナ装置は、テンショナに備えたプランジャがテンショナボティ部(テンショナ本体部)を摺動し、スラックガイドを介してチェーンの挙動を抑制すると共に、油圧とスプリングによってチェーンに初張力を与え、エンジン始動時におけるチェーンのばたつきを防ぐものであるが、エンジン放置時における油漏れを防止し、初張力を与え易くするためには、プランジャとテンショナボティとの間のクリアランスをできるだけ小さくすることが望ましいものの、クリアランスを小さくした場合には、摺動時のフリクションが高くなって摺動部分の摩耗が激しくなって、さらに油漏れが発生し易くなるという不都合がある。
また、プランジャとテンショナボティとの間のフリクションが高くなると、チェーンからの入力に対する追従性が悪化し、チェーンの動きを抑制できず、ばたつき等の不具合が発生する可能性がある。
【0006】
一方、チェーンは、複数のプレートをピンを軸として互いに回転可能に連結して成るものであるが、作動時におけるこれらプレートやピンなどの部材間における摺動フリクションによる損失や、摺動による騒音発生という問題、摺動部の摩耗に基づくチェーンの伸びによる強度低下、さらにはチェーンの伸びによる駆動システム性能の劣化、例えば駆動側と従動側のタイミングの遅れという問題があった。
【0007】
また、当該チェーンとスプロケットの間、チェーンガイドやチェーンテンショナを備えたものにおいてはこれらガイドとチェーンの間における摺動フリクションによるエネルギー損失や、摺動による騒音発生、さらには摩耗による強度低下や部品の早期交換などといった問題があり、これら問題点の解消が従来のチェーン駆動システムにおける課題となっていた。
【0008】
本発明は、従来のチェーン駆動装置における上記課題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、上記のような摺動部分における摩擦抵抗や摩耗量を少なくすることができ、騒音発生を防止し、各種部材の耐用寿命を延ばすことができると共に、搭載機器の性能向上、燃費改善に寄与するチェーン駆動装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成すべく上記チェーン駆動装置に用いられる各部材の材料について表面コーティングをも含めて各種検討すると共に、これら材料と潤滑組成物の組合わせについても銑意検討を重ねた結果、それぞれの摺動部分に硬質炭素薄膜による被覆を施すことによって、潤滑油の存在下において部材間の摩擦特性を大幅に改善することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のチェーン駆動装置は、上記知見に基づくものであって、潤滑油の存在下で作動する駆動側スプロケットと、従動側スプロケットと、これらスプロケットの間に掛け渡されたチェーンを備えたものであって、チェーンを構成する部材同士の摺動部分と共に、チェーンとスプロケットとの摺動部分を水素含有量が10原子%以下、より望ましくは1.0原子%以下の硬質炭素薄膜により被覆したことを特徴としている。
【0011】
また、本発明のチェーン駆動装置は、チェーンガイドやチェーンテンショナをさらに備え、これらのガイドとチェーンとの摺動部分や、テンショナ本体とプランジャとの摺動部分、さらにはチェーンテンショナのスラックガイドの回動軸部における摺動部分に、上記同様の硬質炭素薄膜による被覆を施したことを特徴としている。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り質量百分率を示すものとする。
【0013】
本発明のチェーン駆動装置においては、その摺動部分、例えば、チェーンを構成する隣接するプレート同士の間、プレートとピンの間、ローラーチェーンの場合にはピンとピンに被せたブッシュの間、ブッシュとプレートの間の摺動部分、チェーンとスプロケットとの摺動部分、すなわちローラーチェーンの場合にはブッシュ外周面とスプロケット歯部の間、サイレントチェーンの場合には、プレートの歯部側端面とスプロケット歯部の間の摺動部分、さらにチェーンガイドやチェーンテンショナを設けたチェーン駆動装置においては、チェーンガイドやスラックガイドとチェーンのプレート端面の間の摺動部分、スラックガイドを回動可能に支持する軸部の摺動部分、スラックガイドを押圧するプランジャとこれを保持するテンショナボディの間の摺動部分に、例えばダイヤモンドライクカーボン(以下、「DLC」と略称する)のような低水素含有量の硬質炭素薄膜から成る被覆が施してあるので、潤滑油のもとで、耐摩耗性及び低摩擦特性が発揮され、上記各部材間における摩擦抵抗及び摩耗量が大幅に減少することになり、運転時の騒音や摩擦損失が少なくなって、搭載機器の性能アップ、燃費向上、耐用寿命の延長が可能となる。
【0014】
なお、「摺動部分」とは、当然のことながら相対向して互いに摺動する二つの摺動面から成るものであるが、本発明においては、必ずしもこれら摺動面の双方に硬質炭素薄膜を形成する必要はなく、両摺動面のいずれか一方のみに成膜すればよい。もちろん両摺動面の双方に硬質炭素薄膜を形成しても差し支えない。
【0015】
ここで、上記した硬質炭素薄膜としては、例えば炭素原子を主として構成されるDLC材料を用いることができる。
このDLC材料は、非晶質のものであって、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)の両方から成る。具体的には、炭素元素だけから成るa−C(アモルファスカーボン)、水素を含有するa−C:H(水素アモルファスカーボン)、及びチタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCなどを好適に用いることができる。
【0016】
また、硬質炭素薄膜中の水素含有量が増加すると摩擦係数が増すことから、本発明においては水素含有量の上限を10原子%とする必要があるが、潤滑油中での摺動時の摩擦係数を十分に低下させ、さらに安定した摺動特性を確保するためには、1.0原子%以下とすることが望ましい。
【0017】
そして、このような水素含有量の低い硬質炭素薄膜は、例えばアーク式イオンプレーティング法などのような水素や水素含有化合物を実質的に使用しないPVD法によって成膜することによって得られる。
この場合、成膜時に水素を含まないガスを用いるだけでなく、場合によっては反応容器や基材保持具のベーキングや、基材表面のクリーニングを十分に行ったうえで成膜することが被膜中の水素量を減らすために望ましい。
【0018】
また、上記硬質炭素薄膜を被覆する前の基材の表面粗さについては、硬質炭素薄膜の膜厚が相当に薄いために、成膜後も膜表面の粗さに大きく影響することから、表面粗さRa(中心線平均粗さ)が0.03μm以下であることが望ましい。すなわち、基材の表面粗さRaが0.03μmを超えて粗い場合、膜表面の粗さに起因する突起部が相手材との局部的な接触面圧を増大させ、膜の割れを誘発する可能性が高くなることによる。
【0019】
次に、本発明に用いる潤滑油の組成について詳細に説明する。
本発明に用いる潤滑油としては、潤滑油基油に、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有させたものを用いることが望ましく、このような潤滑油を硬質炭素薄膜が被覆された上記各摺動部分に介在させることによって、これら部材同士が極めて低摩擦で摺動し得るようになる。
【0020】
ここで、上記潤滑油基油としては特に限定されるものではなく、鉱油、合成油、油脂及びこれらの混合物など、潤滑油組成物の基油として通常使用されるものであれば、種類を問わず使用することができる。
鉱油としては、具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系又はナフテン系等の油やノルマルパラフィン等が使用でき、溶剤精製、水素化精製処理したものが一般的であるが、芳香族分をより低減することが可能な高度水素化分解プロセスやGTL Wax(ガス・トウー・リキッド・ワックス)を異性化した手法で製造したものを用いることがより好ましい。
【0021】
合成油としては、具体的には、ポリ−α−オレフィン(例えば、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等)、ポリ−α−オレフィンの水素化物、イソブテンオリゴマー、イソブテンオリゴマーの水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(例えば、ジトリデシルグルタレート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジオクチルセバケート等)、ポリオールエステル(例えば、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、トリメチロールプロパンイソステアリネート等のトリメチロールプロパンエステル;ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のペンタエリスリトールエステル)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。中でも、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフイン又はその水素化物が好ましい例として挙げられる。
【0022】
本発明に用いる潤滑油における基油は、鉱油系基油又は合成系基油を単独あるいは混合して用いる以外に、2種類以上の鉱油系基油、あるいは2種類以上の合成系基油の混合物であっても差し支えない。また、上記混合物における2種類以上の基油の混合比も特に限定されず任意に選ぶことができる。
【0023】
潤滑油基油中の硫黄分について、特に制限はないが、基油全量基準で、0.2%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以下、さらには0.05%以下であることが好ましい。特に、水素化精製鉱油や合成系基油の硫黄分は、0.005%以下、あるいは実質的に硫黄分を含有していない(5ppm以下)ことから、これらを基油として用いることが好ましい。
【0024】
また、潤滑油基油中の芳香族含有量についても、特に制限はないが、内燃機関用潤滑油組成物として長期間低摩擦特性を維持するためには、全芳香族含有量が15%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらには5%以下であることが好ましい。即ち、潤滑油基油の全芳香族含有量が15%を超える場合には、酸化安定性が劣るため好ましくない。
なお、ここで言う全芳香族含有量とは、ASTM D2549に規定される方法に準拠して測定される芳香族留分(aromatics fraction)含有量を意味している。
【0025】
潤滑油基油の動粘度にも、特に制限はないが、内燃機関用潤滑油として使用する場合には、100℃における動粘度が2mm2/s以上であることが好ましく、より好ましくは3mm2/s以上である。一方、その動粘度は、20mm2/s以下であることが好ましく、10mm2/s以下、特に8mm2/s以下であることが好ましい。潤滑油基油の100℃における動粘度が2mm2/s未満である場合には、十分な耐摩耗性が得られない上に蒸発特性が劣る可能性があるため好ましくない。一方、動粘度が20mm2/sを超える場合には低摩擦性能を発揮しにくく、低温性能が悪くなる可能性があるため好ましくない。本発明においては、上記基油の中から選ばれる2種以上の基油を任意に混合した混合物等が使用でき、100℃における動粘度が上記の好ましい範囲内に入る限りにおいては、基油単独の動粘度が上記以外のものであっても使用可能である。
【0026】
また、潤滑油基油の粘度指数にも、特別な制限はないが、80以上であることが好ましく、100以上であることがさらに好ましく、特に内燃機関用潤滑油として使用する場合には、120以上であることが好ましい。潤滑油基油の粘度指数を高めることでよりオイル消費が少なく、低温粘度特性、省燃費性能に優れた内燃機関用潤滑油を得ることができる。
【0027】
上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤としては、炭素数6〜30、好ましくは炭素数8〜24、特に好ましくは炭素数10〜20の直鎖状又は分枝状炭化水素基を有する脂肪酸エステル、脂肪酸アミン化合物、及びこれらの任意混合物を挙げることができる。炭素数が6〜30の範囲外のときは、摩擦低減効果が十分に得られない可能性がある。
【0028】
炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状炭化水素基としては、具体的には、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等のアルキル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基、トリアコンテニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。
なお、上記アルキル基及びアルケニル基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造が含まれ、また、アルケニル基における二重結合の位置は任意である。
【0029】
また、上記脂肪酸エステルとしては、かかる炭素数6〜30の炭化水素基を有する脂肪酸と脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとのエステルなどを例示でき、具体的には、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレートなどを特に好ましい例として挙げることができる。
上記脂肪族アミン化合物としては、脂肪族モノアミン又はそのアルキレンオキシド付加物、脂肪族ポリアミン、イミダゾリン化合物等、及びこれらの誘導体等を例示できる。具体的には、ラウリルアミン、ラウリルジエチルアミン、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オレイルジエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の脂肪族アミン化合物や、これら脂肪族アミン化合物のN,N−ジポリオキシアルキレン−N−アルキル(又はアルケニル)(炭素数6〜28)等のアミンアルキレンオキシド付加物、これら脂肪族アミン化合物に炭素数2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したりアミド化した、いわゆる酸変性化合物等が挙げられる。好適な例としては、N,N−ジポリオキシエチレン−N−オレイルアミン等が挙げられる。
【0030】
また、本発明に用いる潤滑油に含まれる脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の含有量は、特に制限はないが、組成物全量基準で、0.05〜3.0%であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜2.0%、特に好ましくは0.5〜1.4%であることがよい。上記含有量が0.05%未満であると摩擦低減効果が小さくなり易く、3.0%を超えると潤滑油への溶解性や貯蔵安定性が著しく悪化し、沈殿物が発生し易いので、好ましくない。
【0031】
一方、本発明に用いる潤滑油は、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含有することが好適である。
上記ポリブテニルコハク酸イミドとしては、次の一般式(1)及び(2)
【0032】
【化1】
【0033】
【化2】
で表される化合物が挙げられる。これら一般式におけるPIBは、ポリブテニル基を示し、高純度イソブテン又は1−ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒又は塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られる数平均分子量が900〜3500、望ましくは1000〜2000のポリブテンから得られる。上記数平均分子量が900未満の場合は清浄性効果が劣り易く、3500を超える場合は低温流動性に劣り易いため、望ましくない。
また、上記一般式におけるnは、清浄性に優れる点から1〜5の整数、より望ましくは2〜4の整数であることがよい。更に、上記ポリブテンは、製造過程の触媒に起因して残留する微量のフッ素分や塩素分を吸着法や十分な水洗等の適切な方法により、50ppm以下、より望ましくは10ppm以下、特に望ましくは1ppm以下まで除去してから用いることもよい。
【0034】
更に、上記ポリブテニルコハク酸イミドの製造方法としては、特に限定はないが、例えば、上記ポリブテンの塩素化物又は塩素やフッ素が充分除去されたポリブテンと無水マレイン酸とを100〜200℃で反応させて得られるポリブテニルコハク酸を、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンと反応させることにより得ることができる。
【0035】
一方、上記ポリブテニルコハク酸イミドの誘導体としては、上記般式(1)又は(2)で表される化合物に、ホウ素化合物や含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性又は酸変性化合物を例示できる。その中でもホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミド、特にホウ素含有ビスポリブテニルコハク酸イミドが最も好ましいものとして挙げられる。
【0036】
上記ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル等が挙げられる。具体的には、上記ホウ酸として、オルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸などが挙げられる。また、上記ホウ酸塩としては、アンモニウム塩等、具体的には、例えばメタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウムが好適例として挙げられる。また、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステル、より具体的には例えば、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリププロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル、ホウ酸トリブチル等が好適例として挙げられる。なお、ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミドにおけるホウ素含有量Bと窒素含有量Nとの質量比「B/N」は、通常0.1〜3であり、好ましくは、0.2〜1である。
また、上記含酸素有機化合物としては、具体的には、例えばぎ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルポン酸並びにこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等が挙げられる
【0037】
なお、本発明に用いる潤滑油において、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の含有量は特に制限されないが、0.1〜15%が望ましく、より望ましくは1.0〜12%であることが好ましい。0.1%未満では清浄性効果に乏しくなることがあり、15%を超えると含有量に見合う清浄性効果が得られにくく、抗乳化性が悪化し易い。
【0038】
更にまた、本発明に用いる潤滑油は、次の一般式(3)
【0039】
【化3】
で表されるジチオリン酸亜鉛を含有することが好適である。
上記式(3)中のR4、R5、R6及びR7は、それぞれ別個に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。これら炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、炭素数7〜19のアリールアルキル基等のいずれかであることが望ましい。また、アルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
【0040】
上記R4、R5、R6及びR7としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等のアルキル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ブタジエニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オレイル基等のオクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等のアルケニル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、プロピルシクロペンチル基、エチルメチルシクロペンチル基、トリメチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、エチルジメチルシクロペンチル基、プロピルメチルシクロペンチル基、プロピルエチルシクロペンチル基、ジ−プロピルシクロペンチル基、プロピルエチルメチルシクロペンチル基、メチルシクロへキシル基、ジメチルシクロへキシル基、エチルシクロへキシル基、プロピルシクロへキシル基、エチルメチルシクロへキシル基、トリメチルシクロへキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、エチルジメチルシクロヘキシル基、プロピルメチルシクロヘキシル基、プロピルエチルシクロヘキシル基、ジ−プロピルシクロへキシル基、プロピルエチルメチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、エチルシクロヘプチル基、プロピルシクロヘプチル基、エチルメチルシクロヘプチル基、トリメチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基、エチルジメチルシクロヘプチル基、プロピルメチルシクロヘプチル基、プロピルエチルシクロヘプチル基、ジ−プロピルシクロヘプチル基、プロピルエチルメチルシクロヘプチル基等のアルキルシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、エチルメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、ブチルフェニル基、プロピルメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、エチルジメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等のアルキルアリール基、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、ジメチルフェネチル基等のアリールアルキル基、等が例示できる。
なお、R4、R5、R6及びR7がとり得る上記炭化水素基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造をが含まれ、また、アルケニル基の二重結合の位置、アルキル基のシクロアルキル基への結合位置、アルキル基のアリール基への結合位置、及びアリール基のアルキル基への結合位置は任意である。また、上記炭化水素基の中でも、その炭化水素基が、直鎖状又は分柱状の炭素数1〜18のアルキル基である場合若しくは炭素数6〜18のアリール基、又は直鎖状若しくは分枝状アルキルアリール基である場合が特に好ましい。
【0041】
上記ジチオリン酸亜鉛の好適な具体例としては、例えば、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−オクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルジチオリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0042】
また、上記ジチオリン酸亜鉛の含有量は、特に制限されないが、より高い摩擦低減効果を発揮させる観点から、潤滑油全量基準且つリン元素換算量で、0.1%以下であることが好ましく、また0.06%以下であることがより好ましく、更にはジチオリン酸亜鉛が含有されないことが特に好ましい。ジチオリン酸亜鉛の含有量がリン元素換算量で0.1%を超えると、DLC部材と鉄基部材との摺動面における上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や上記脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の優れた摩擦低減効果が阻害されるおそれがある。
【0043】
上記ジチオリン酸亜鉛の製造方法としては、従来方法を任意に採用することができ、特に制限されないが、具体的には、例えば、上記R4、R5、R6及びR7に対応する炭化水素基を持つアルコール又はフェノールを五二硫化りんと反応させてジチオリン酸とし、これを酸化亜鉛で中和させることにより合成することができる。なお、上記ジチオリン酸亜鉛の構造は、使用する原料アルコールによって異なることは言うまでもない。
本発明においては、上記一般式(3)に包含される2種以上のジチオリン酸亜鉛を任意の割合で混合して使用することもできる。
【0044】
上述のように、本発明に用いる潤滑油は、DLCなどの硬質炭素薄膜と相手部材との摺動面、あるいは硬質炭素薄膜同士の摺動面に介在させた場合に、極めて優れた低摩擦特性を示すものであるが、特に内燃機関用潤滑油として必要な性能を高める目的で、金属系清浄剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、他の無灰摩擦調整剤、他の無灰分散剤、磨耗防止剤若しくは極圧剤、防錆剤、非イオン系界面活性剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等を単独で又は複数種を組合せて配合し、必要な性能を高めることができる。
【0045】
上記金属系清浄剤としては、潤滑油用の金属系清浄剤として通常用いられる任意の化合物が使用できる。例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート、ナフテネート等を単独で又は複数種を組合せて使用できる。ここで、上記アルカリ金属としてはナトリウム(Na)やカリウム(K)等、上記アルカリ土類金属としてはカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)等が例示できる。また、具体的な好適例としては、Ca又はMgのスルフォネート、フェネート及びサリシレートが挙げられる。
なお、これら金属系清浄剤の全塩基価及び添加量は、要求される潤滑油の性能に応じて任意に選択できる。通常、全塩基価は、過塩素酸法で0〜500mgKOH/g、望ましくは150〜400mgKOH/gであり、その添加量は潤滑油全量基準で、通常0.1〜10%である。
【0046】
また、上記酸化防止剤としては、潤滑油用の酸化防止剤として通常用いられる任意の化合物を使用できる。例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤、並びにこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。また、かかる酸化防止剤の添加量は、潤滑油全量基準で、通常0.01〜5%である。
【0047】
更に、上記粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体やその水添物等のいわゆる非分散型粘度指数向上剤、及び更に窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。また、他の粘度指数向上剤の具体例としては、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等)及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、並びにポリアルキルスチレン等も例示できる。
これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートでは5000〜1000000、好ましくは100000〜800000がよく、ポリイソブチレン又はその水素化物では800〜5000、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物では800〜300000、好ましくは10000〜200000がよい。また、かかる粘度指数向上剤は、単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油基準で0.1〜40.0%であることが望ましい。
【0048】
更にまた、他の無灰摩擦調整剤としては、ホウ酸エステル、高級アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデン、二硫化モリブデン等の金属系摩擦調整剤等が挙げられる。
また、他の無灰分散剤としては、数平均分子量が900〜3500のポリブテニル基を有するポリブテニルベンジルアミン、ポリブテニルアミン、数平均分子量が900未満のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸イミド等及びそれらの誘導体等が挙げられる。
更に、上記磨耗防止剤又は極圧剤としては、ジスルフィド、硫化油脂、硫化オレフィン、炭素数2〜20の炭化水素基を1〜3個含有するリン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、チオ亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩等が挙げられる。
更にまた、上記防錆剤としては、アルキルベンゼンスルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
また、上記非イオン系界面活性剤及び抗乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
更に、上記金属不活性化剤としては、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等が挙げられる。
更にまた、上記消泡剤としては、シリコーン、フルオロシリコーン、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
なお、これら添加剤を本発明に用いる潤滑油に含有させる場合には、その含有量は、潤滑油全量基準で、他の摩擦調整剤、他の無灰分散剤、磨耗防止剤又は極圧剤、防錆剤、及び抗乳化剤については0.01〜5%、金属不活性剤については0.005〜1%、消泡剤については0.0005〜1%の範囲から適宜選択できる。
【0049】
なお、本発明のチェーン駆動装置において摺動部分に形成したDLCのような硬質炭素薄膜は、このような装置のみならず、種々の機械装置における摺動部位に適用することができ、例えば内燃機関におけるコンロッドの大端部とクランクシャフトのクランクピンの間や、クランク軸受とクランクシャフトのメインジャーナルの間に組み付けられる半割形状のメタルの内周面に上記のような低水素の硬質炭素薄膜による被覆を施すことによって、耐焼付き性を損なうことなく、上記部材間の摺動抵抗が約70%低減し、車両の燃費を約2.2%改善できることが確認されている。
【0050】
【実施例】
以下、本発明を実施例と比較例によって、更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例のみに限定されるものではない。
【0051】
図1は、本発明のチェーン駆動装置の一実施例を示す概略図であって、図に示すチェーン駆動装置1は、駆動側である第1のスプロケット2と、従動側である第2及び第3のスプロケット3及び4を備え、これら3個のスプロケット2,3及び4にチェーン5又は6が掛け回してあって、当該チェーン5(又は6)が図中の矢印方向(右回り)に走行するようになっている。
【0052】
さらに、チェーン駆動装置1は、図中右側にチェーンガイド7を備えると共に、図中左側に軸(回動部)8aによって回動可能に支持され、テンショナ9のプランジャ9aの突出作動によってチェーン5(又は6)に押圧されるスラックガイド8を備えており、スラックガイド8及びテンショナ9によってチェーン5(又は6)の張力を調整するチェーンテンショナが構成されている。
【0053】
上記チェーンとしては、図2に示すようなサイレントチェーン5、又は図3に示すようなローラチェーン6を使用することができる。
【0054】
サイレントチェーン5は、図2(a)及び(b)に示すように、内周側、すなわちスプロケット側に2個の歯部51aを備えた複数のプレート51をピン52によって互い違いに連結した構造をなすものであって、本発明に用いるチェーン5においては、これらプレート51及びピン52における摺動部分をRaで0.03μm以下となるように仕上加工した上で、アーク式イオンプレーティング法によって、水素含有量が1.0%以下のDLCから成る硬質炭素薄膜Fcが成膜されている。
【0055】
すなわち、図4(a)〜(d)は、上記サイレントチェーン5における摺動部分、すなわち硬質炭素薄膜Fcの成膜部位を示すものであって、図4(a)に示すように、プレート51とピン52との摺動部分、すなわちプレート51におけるピン孔51bの内周面及びピン52の外周面が硬質炭素薄膜Fcにより被覆されている。なお、硬質炭素薄膜Fcによる被覆は、摺動面のいずれか一方だけでも良い。
また、図4(b)に示すように、チェーンガイド7及びスラックガイド8との摺動面であるプレート51の反歯部側端面にも硬質炭素薄膜Fcの被覆が施されている。このとき、上記反歯部側端面の代わりにチェーンガイド7及びスラックガイド8の側の摺動面に硬質炭素薄膜Fcの被覆を行ってもよく、双方の摺動面に被覆してもよい。
【0056】
そして、図4(c)に示すように、プレート51同士の摺動部分であるプレート表裏両面、あるいはこれら摺動面のいずれか一方の面、さらに図4(d)に示すように、スプロケット2〜4との摺動面であるプレート51の歯部側端面にも硬質炭素薄膜Fcの被覆を施す。このとき、同様に、上記歯部側端面の代わりにスプロケット2〜4の歯部に硬質炭素薄膜Fcの被覆を行うことも、プレート端面とスプロケット2〜4の双方に被覆することも可能である。
【0057】
一方、ローラチェーン6は、図3(a)及び(b)に示すように、小判型をなす複数のプレート61をブッシュ62を装着したピン63によって交互連結した構造をなすものであって、当該ローラチェーン6においても、これらプレート61、ブッシュ62、ピン63の間の摺動部分に同様の硬質炭素薄膜Fcによる被覆が施されている。
【0058】
すなわち、図5(a)に示すように、プレート61とピン63とブッシュ62との摺動部分、すなわちプレート61におけるピン孔61aの内周面及びピン63の外周面、さらにブッシュ62の内周面に硬質炭素薄膜Fcによる被覆がなされている。また、図5(b)に示すように、チェーンガイド7及びスラックガイド8との摺動面であるプレート61の外周部端面にも硬質炭素薄膜Fcの被覆が施されている。
そして、図5(c)に示すように、プレート61同士、さらにはブッシュ62の端面との摺動部分であるプレート61の表裏両面、さらには図5(d)に示すようにスプロケット2〜4との摺動面であるブッシュ62の外周面にも硬質炭素薄膜Fcの被覆が施されている。
【0059】
なお、硬質炭素薄膜Fcによる被覆は、摺動面のいずれか一方だけでもよく、プレート61の端面に代えてガイド7、8の側に硬質炭素薄膜Fcの被覆を行うことや、ブッシュ62の外周面に代えてスプロケット2〜4の歯部を被覆することも可能であり、これらの双方に硬質炭素薄膜Fcを被覆するようにしてもよい。
【0060】
上記チェーン5又は6においては、チェーンを構成するプレート51又は61、ピン52又は63、ブッシュ62などの部材間における摺動部分に低水素含有量の硬質炭素薄膜Fcによる被覆を施したことによって、潤滑油の存在下において、これら部材間の摩擦が低減し、摺動部分の摩耗が減少することから、チェーン駆動力の低減、騒音の低減が可能になると共に、摩耗によるチェーンの伸びが低減して、チェーンの耐用寿命が向上し、特にエンジンの動弁駆動用チェーンのように、従動側と駆動側のタイミングを取るために使用されているチェーンにおいては、伸びによるタイミングの遅れに基づくエンジン性能の悪化を防止することができる。
【0061】
また、摩耗に基づくチェーン伸びの許容値を一定とした場合、硬質炭素薄膜の被覆によって摺動部の受圧部面積を小さくすることができるため、チェーンの幅寸法を小さくすることができ、システムのコンパクト化が可能になる。また、連結用ピンの径を小さくすることができるため、チェーンの小ピッチ化によって、同様にシステムのコンパクト化がが可能となる。
さらに、従来のチェーンにおいて伸び対策として行われているプレート側摺動部のファインブランキング等による面粗度低減を廃止することができるようになり、コスト低減が可能になる。
【0062】
そして、チェーンガイド7やスラックガイド8との間の摩擦が低減することから、チェーン駆動力の低減、騒音の低減が図れると共に、これらガイドの摩耗が減少することから、その材質の耐摩耗性グレードを下げることができ、コスト低減に繋がる。さらに、スプロケット2〜4との噛合い時の摩擦が低減するので、同様に騒音の低減効果が得られると共に、これらスプロケットの摩耗量も減少するため、材質的な低グレード化可能になり、コスト削減が可能になる。
【0063】
本発明のチェーン駆動装置1においては、さらにスラックガイド8の基端側を回動可能に支持する軸8aとスラックガイド8との摺動部分に、上記同様の硬質炭素薄膜Fcが被覆してあると共に、当該スラックガイド8の先端側をチェーンに対して押圧するテンショナ9のプランジャ9aとテンショナボディ(テンショナ本体)の間の摺動部分にも同様の硬質炭素薄膜Fcが被覆してある。
したがって、スラックガイド8の回動時の摩擦が低減され、チェーンからの入力、テンショナ9の作動に対する応答性が改善され、当該チェーンシステムの性能が向上することになる。
【0064】
また、プランジャ9aの摺動時の摩擦低減によって、プランジャ−テンショナボディ間のクリアランスを詰めることができ、エンジン放置時の油漏れを低減することができると共に、放置時のボディ内における油保持性の向上によって、エンジン始動時の追従性がよくなり、チェーンの「暴れ」などによる異音の発生を防止することができるようになる。
【0065】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、チェーン駆動装置におけるチェーンとスプロケット、チェーンとチェーンガイド、チェーンとスラックガイドの間の摺動部分、チェーンテンショナのプランジャ摺動部分、さらにはチェーン自体の構成部材同士の摺動部分がDLCなどの硬質炭素薄膜によって被覆されているので、潤滑油、とりわけ特定の添加剤を含有する潤滑油のもとで、上記部材間の摩擦抵抗及び摩耗を低減することができ、摩擦損失や運転時の騒音を防止すると共に、上記部材の耐用寿命を向上させることができ、例えば自動車用の内燃機関に搭載した場合には、当該機関の性能及び燃費改善に大きく寄与するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のチェーン駆動装置の一実施例を示す概略図である。
【図2】(a) 本発明のチェーン駆動装置に用いるサイレントチェーンの形状及び構造を示す平面図である。
(b) 図2(a)に示したサイレントチェーンの構成部材を示す拡大斜視図である。
【図3】(a) 本発明のチェーン駆動装置に用いるローラチェーンの形状及び構造を示す平面図である。
(b) 図3(a)に示したローラチェーンの構成部材を示す拡大斜視図である。
【図4】(a)〜(d)は図2に示したサイレントチェーンにおける硬質炭素薄膜の成膜部位を示すそれぞれ斜視図である。
【図5】(a)〜(d)は図3に示したローラチェーンにおける硬質炭素薄膜の成膜部位を示すそれぞれ斜視図である。
【符号の説明】
1 チェーン駆動装置
2 第1スプロケット(駆動側スプロケット)
3 第2スプロケット(従動側スプロケット)
4 第3スプロケット(従動側スプロケット)
5 チェーン(サイレントチェーン)
6 チェーン(ローラチェーン)
7 チェーンガイド
8 スラックガイド
8a 軸(回動部)
9 テンショナ
Claims (13)
- 駆動側スプロケットと、従動側スプロケットと、これらスプロケットの間に掛け回されたチェーンを備え、潤滑油の存在下で作動するチェーン駆動装置において、
上記チェーンを構成する部材同士の摺動部分及びチェーンとスプロケットとの摺動部分が硬質炭素薄膜により被覆されており、当該硬質炭素薄膜に含まれる水素原子の量が10原子%以下であることを特徴とするチェーン駆動装置。 - 上記チェーン駆動装置がチェーンガイドを備え、当該チェーンガイドとチェーンとの摺動部分が硬質炭素薄膜により被覆されており、当該硬質炭素薄膜に含まれる水素原子の量が10原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載のチェーン駆動装置。
- 上記チェーン駆動装置が、回動可能に支持されたスラックガイドと、該スラックガイドをチェーンに対して押圧するプランジャを備えたテンショナを有し、上記スラックガイドとチェーンとの摺動部分が硬質炭素薄膜により被覆されており、当該硬質炭素薄膜に含まれる水素原子の量が10原子%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のチェーン駆動装置。
- 上記スラックガイドの回動部における摺動部分が硬質炭素薄膜により被覆されており、当該硬質炭素薄膜に含まれる水素原子の量が10原子%以下であることを特徴とする請求項3に記載のチェーン駆動装置。
- 上記テンショナにおけるテンショナボディとプランジャとの摺動部分が硬質炭素薄膜により被覆されており、当該硬質炭素薄膜に含まれる水素原子の量が10原子%以下であることを特徴とする請求項3又は4に記載のチェーン駆動装置。
- 上記硬質炭素薄膜に含まれる水素原子の量が1.0原子%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載のチェーン駆動装置。
- 上記潤滑油が脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載のチェーン駆動装置。
- 上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤が炭素数6〜30の炭化水素基を有し、潤滑油中に潤滑油全量基準で0.05〜3.0%含まれていることを特徴とする請求項7に記載のチェーン駆動装置。
- 上記潤滑油がポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含有していることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載のチェーン駆動装置。
- 上記ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の含有量が潤滑油全量基準で0.1〜15%であることを特徴とする請求項9に記載のチェーン駆動装置。
- 上記潤滑油がジチオリン酸亜鉛を含有し、その含有量が潤滑油全量基準且つリン元素換算量で、0.1%以下であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つの項に記載のチェーン駆動装置。
- 上記硬質炭素薄膜がアーク式イオンプレーティング法により成膜されたダイヤモンドライクカーボンであることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1つの項に記載のチェーン駆動装置。
- 上記硬質炭素薄膜の被覆前における基材の表面粗さがRaで0.03μm以下であることを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つの項に記載のチェーン駆動装置。
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