JP4163065B2 - 転造加工方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワークの被加工面、例えば内燃機関用コンロッドの小端孔やクランクシャフトの内隅アール部などの表面を加圧して、被加工表面の近傍部に塑性変形を生じさせることにより、加工面の面粗度や寸法精度を改善し、さらには圧縮残留応力を付与して疲労限応力を向上させるために行うバニッシュ加工やローリング加工などの転造加工方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、内燃機関用クランクシャフトにおいては、そのジャーナル部やクランクピンのフィレット部(内隅アール部)にフィレットローリング加工を施し、当該部分にローリング加工による残留応力を付与して疲労強度を向上させることが行われており、このような加工を行うために、左右1対のフィレットローラーを備えたロールカセット装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開2003−25221号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようなフィレットローリング加工は、潤滑油の微粒オイルミスト中で行われ、ワークの加工部位(被加工面)と上記フィレットローラーの間が潤滑されるようになっているが、当該ローラーと被加工面との間の摩擦係数が高くなるために、ローラーの損耗が激しく、加工面の面粗度が悪くなるという問題があり、このような問題点の解消が上記のような従来の転造加工方法における課題となっていた。
【0005】
本発明は、従来の転造加工方法における上記課題に着目してなされたものであって、その目的とするところは、ワークの被加工面と工具との間の摩擦係数を低くすることができ、もって工具の耐用寿命を向上させることができると共に、加工面の面粗度を向上させることが可能な転造加工方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成すべく、転造加工用工具の素材工具鋼の成分やその表面処理、さらには加工面に介在する潤滑剤成分などについて鋭意検討を重ねた結果、工具のワークとの当接面に、水素含有量の少ない硬質炭素被膜を形成することによって、ワークの被加工面と工具との間の摩擦係数を大幅に低減することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の転造加工方法は、このような知見に基づくものであって、潤滑油の存在下でワークの被加工面に転造加工用工具を圧接することにより加工面の表面近傍部に塑性変形を生じさせる転造加工方法において潤滑油として、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有する潤滑油をミスト状にして供給すると共に、転造加工用工具としては、被加工面との当接面に水素原子含有量が1原子%以下の硬質炭素被膜を備えた工具を用いることを特徴としている。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について、更に詳細に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り質量百分率を示すものとする。
【0009】
本発明の転造加工方法は、上記したようにワークの表面を加圧して、その近傍部に塑性変形を生じさせ、加工面の面粗度や寸法精度を改善したり、圧縮残留応力を付与して疲労強度を向上させたりする加工、すなわちバニッシュ加工やローリング加工などの転造加工方法において、転造加工用工具のワークとの当接面に1原子%以下の水素を含有する硬質炭素被膜を施すと共に、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有する潤滑油をミスト状にして供給するようにしたことから、工具とワークの間の摩擦係数が小さくなって、工具としての耐久性が向上して工具寿命が増すと共に、ワークの加工面における面粗度が向上することになる。
【0010】
本発明に用いる転造加工用工具は、上記のようなバニッシュ加工やローリング加工などに用いられるものであれば、その形状や構造について特に限定されることはなく、ワークとの当接面(接触面)に上記のような硬質炭素被膜を形成することになる。
また、上記したようなフィレットローリング加用ロールカセット装置や、ローラーバニッシュ装置などのように、ワークとの当接面にローラーや、あるいはボールを備えたものの場合には、当該ローラーやボールの表面に硬質炭素被膜を形成すればよい。
【0011】
上記硬質炭素被膜としては、例えば炭素原子を主として構成されるDLC(ダイヤモンドライクカーボン)材料を用いることができる。
このDLC材料は、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP結合)とグラファイト結合(SP結合)の両方から成る。具体的には、炭素元素だけから成るa−C(アモルファスカーボン)、及びチタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCなどを好適に用いることができる。
【0012】
硬質炭素被膜中の水素含有量については、1原子%以下とすることが必要であり、さらには0.5原子%以下であることが望ましい。すなわち、硬質炭素被膜中の水素原子の含有量が増加すると摩擦係数が増加し、水素原子含有量が1原子%を超えると、摺動時の摩擦係数を十分に低下させることが難しくなることによる。
【0013】
そして、このような水素含有量の低い硬質炭素薄膜は、例えばスパッタリング法やイオンプレーティング法など、水素や水素含有化合物を実質的に使用しないPVD法によって成膜することによって得られる。
この場合、成膜時に水素を含まないガスを用いるだけでなく、場合によっては反応容器や基材保持具のベーキングや、基材表面のクリーニングを十分に行ったうえで成膜することが被膜中の水素量を減らすために望ましい。
【0014】
なお、硬質炭素薄膜を成膜するための工具基材としては、この種工具に通常用いられる材料、例えばJIS G4401に炭素工具鋼として規定されるSK1〜7材や、JIS G4404に合金工具鋼として規定されるSKS3〜4材,SKS31材、SKS41〜43材、SKS93〜95材、SKD1材、SKD11,12材などを用いることができる。
【0015】
本発明の転造加工方法に用いる転造加工用工具は、微細なオイル粒子から成るミスト状潤滑油の下で使用されるが、以下に当該潤滑油の組成について詳細に説明する。
本発明に用いる潤滑油としては、潤滑油基油に、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有させたものを用いることが必要であり、このような潤滑油から成る微細なオイルミスト中で転造加工を行うことにより、当該工具とワークの間の摩擦係数が低くなり、加工時の摩擦抵抗も少なくなる。
【0016】
ここで、上記潤滑油基油としては特に限定されるものではなく、鉱油、合成油、油脂及びこれらの混合物など、潤滑油の基油として通常使用されるものであれば、種類を問わず使用することができる。
鉱油としては、具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理等を適宜組み合わせて精製したパラフィン系又はナフテン系等の油やノルマルパラフィン等が使用でき、溶剤精製、水素化精製処理したものが一般的であるが、芳香族分をより低減することが可能な高度水素化分解プロセスやGTL Wax(ガス・トウー・リキッド・ワックス)を異性化した手法で製造したものを用いることがより好ましい。
【0017】
合成油としては、具体的には、ポリ−α−オレフィン(例えば、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等)、ポリ−α−オレフィンの水素化物、イソブテンオリゴマー、イソブテンオリゴマーの水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(例えば、ジトリデシルグルタレート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジオクチルセバケート等)、ポリオールエステル(例えば、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、トリメチロールプロパンイソステアリネート等のトリメチロールプロパンエステル;ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等のペンタエリスリトールエステル)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。中でも、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフイン又はその水素化物が好ましい例として挙げられる。
【0018】
本発明に用いる潤滑油の基油は、鉱油系基油又は合成系基油を単独あるいは混合して用いる以外に、2種類以上の鉱油系基油、あるいは2種類以上の合成系基油の混合物であっても差し支えない。また、上記混合物における2種類以上の基油の混合比も特に限定されず任意に選ぶことができる。
【0019】
潤滑油基油中の硫黄分について、特に制限はないが、基油全量基準で、0.2%以下であることが好ましく、より好ましくは0.1%以下、さらには0.05%以下であることが好ましい。特に、水素化精製鉱油や合成系基油の硫黄分は、0.005%以下、あるいは実質的に硫黄分を含有していない(5ppm以下)ことから、これらを基油として用いることが好ましい。
【0020】
また、潤滑油基油中の芳香族含有量についても、特に制限はないが、内燃機関用潤滑油組成物として長期間低摩擦特性を維持するためには、全芳香族含有量が15%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらには5%以下であることが好ましい。即ち、潤滑油基油の全芳香族含有量が15%を超える場合には、酸化安定性が劣るため好ましくない。
なお、ここで言う全芳香族含有量とは、ASTM D2549に規定される方法に準拠して測定される芳香族留分(aromatics fraction)含有量を意味している。
【0021】
潤滑油基油の動粘度にも、特に制限はないが、内燃機関用潤滑油として使用する場合には、100℃における動粘度が2mm/s以上であることが好ましく、より好ましくは3mm/s以上である。一方、その動粘度は、20mm/s以下であることが好ましく、10mm/s以下、特に8mm/s以下であることが好ましい。潤滑油基油の100℃における動粘度が2mm/s未満である場合には、十分な耐摩耗性が得られない上に蒸発特性が劣る可能性があるため好ましくない。一方、動粘度が20mm/sを超える場合には低摩擦性能を発揮しにくく、低温性能が悪くなる可能性があるため好ましくない。本発明においては、上記基油の中から選ばれる2種以上の基油を任意に混合した混合物等が使用でき、100℃における動粘度が上記の好ましい範囲内に入る限りにおいては、基油単独の動粘度が上記以外のものであっても使用可能である。
【0022】
また、潤滑油基油の粘度指数にも、特別な制限はないが、80以上であることが好ましく、100以上であることがさらに好ましく、特に内燃機関用潤滑油として使用する場合には、120以上であることが好ましい。潤滑油基油の粘度指数を高めることでよりオイル消費が少なく、低温粘度特性、省燃費性能に優れた内燃機関用潤滑油を得ることができる。
【0023】
上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤としては、炭素数6〜30、好ましくは炭素数8〜24、特に好ましくは炭素数10〜20の直鎖状又は分枝状炭化水素基を有する脂肪酸エステル、脂肪酸アミン化合物、及びこれらの任意混合物を挙げることができる。炭素数が6〜30の範囲外のときは、摩擦低減効果が十分に得られない可能性がある。
【0024】
炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状炭化水素基としては、具体的には、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基、トリアコンチル基等のアルキル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基、トリアコンテニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。
なお、上記アルキル基及びアルケニル基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造が含まれ、また、アルケニル基における二重結合の位置は任意である。
【0025】
また、上記脂肪酸エステルとしては、かかる炭素数6〜30の炭化水素基を有する脂肪酸と脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとのエステルなどを例示でき、具体的には、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンジオレートなどを特に好ましい例として挙げることができる。
上記脂肪族アミン化合物としては、脂肪族モノアミン又はそのアルキレンオキシド付加物、脂肪族ポリアミン、イミダゾリン化合物等、及びこれらの誘導体等を例示できる。具体的には、ラウリルアミン、ラウリルジエチルアミン、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オレイルジエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の脂肪族アミン化合物や、これら脂肪族アミン化合物のN,N−ジポリオキシアルキレン−N−アルキル(又はアルケニル)(炭素数6〜28)等のアミンアルキレンオキシド付加物、これら脂肪族アミン化合物に炭素数2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したりアミド化した、いわゆる酸変性化合物等が挙げられる。好適な例としては、N,N−ジポリオキシエチレン−N−オレイルアミン等が挙げられる。
【0026】
また、本発明に用いる潤滑油に含まれる脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の含有量は、特に制限はないが、組成物全量基準で、0.05〜3.0%であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜2.0%、特に好ましくは0.5〜1.4%であることがよい。上記含有量が0.05%未満であると摩擦低減効果が小さくなり易く、3.0%を超えると潤滑油組成物への溶解性や貯蔵安定性が著しく悪化し、沈殿物が発生し易いので、好ましくない。
【0027】
一方、本発明に用いる潤滑油は、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含有することが好適である。
上記ポリブテニルコハク酸イミドとしては、次の一般式(1)及び(2)
【0028】
【化1】
Figure 0004163065
【0029】
【化2】
Figure 0004163065
で表される化合物が挙げられる。これら一般式におけるPIBは、ポリブテニル基を示し、高純度イソブテン又は1−ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒又は塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られる数平均分子量が900〜3500、望ましくは1000〜2000のポリブテンから得られる。上記数平均分子量が900未満の場合は清浄性効果が劣り易く、3500を超える場合は低温流動性に劣り易いため、望ましくない。
また、上記一般式におけるnは、清浄性に優れる点から1〜5の整数、より望ましくは2〜4の整数であることがよい。更に、上記ポリブテンは、製造過程の触媒に起因して残留する微量のフッ素分や塩素分を吸着法や十分な水洗等の適切な方法により、50ppm以下、より望ましくは10ppm以下、特に望ましくは1ppm以下まで除去してから用いることもよい。
【0030】
さらに、上記ポリブテニルコハク酸イミドの製造方法としては、特に限定はないが、例えば、上記ポリブテンの塩素化物又は塩素やフッ素が充分除去されたポリブテンと無水マレイン酸とを100〜200℃で反応させて得られるポリブテニルコハク酸を、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンと反応させることにより得ることができる。
【0031】
一方、上記ポリブテニルコハク酸イミドの誘導体としては、上記般式(1)又は(2)で表される化合物に、ホウ素化合物や含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したり、アミド化した、いわゆるホウ素変性又は酸変性化合物を例示できる。その中でもホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミド、特にホウ素含有ビスポリブテニルコハク酸イミドが最も好ましいものとして挙げられる。
【0032】
上記ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル等が挙げられる。具体的には、上記ホウ酸として、オルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸などが挙げられる。また、上記ホウ酸塩としては、アンモニウム塩等、具体的には、例えばメタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウムが好適例として挙げられる。また、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステル、より具体的には例えば、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリププロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル、ホウ酸トリブチル等が好適例として挙げられる。なお、ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミドにおけるホウ素含有量Bと窒素含有量Nとの質量比「B/N」は、通常0.1〜3であり、好ましくは、0.2〜1である。
また、上記含酸素有機化合物としては、具体的には、例えばぎ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルポン酸並びにこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等が挙げられる
【0033】
なお、本発明に用いる潤滑油において、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の含有量は特に制限されないが、0.1〜15%が望ましく、より望ましくは1.0〜12%であることが好ましい。0.1%未満では清浄性効果に乏しくなることがあり、15%を超えると含有量に見合う清浄性効果が得られにくく、抗乳化性が悪化し易い。
【0034】
更にまた、本発明に用いる潤滑油は、次の一般式(3)
【0035】
【化3】
Figure 0004163065
で表されるジチオリン酸亜鉛を含有することが好適である。
上記式(3)中のR、R、R及びRは、それぞれ別個に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。これら炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、炭素数7〜19のアリールアルキル基等のいずれかであることが望ましい。また、アルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
【0036】
上記R、R、R及びRとしては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等のアルキル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ブタジエニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オレイル基等のオクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等のアルケニル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、プロピルシクロペンチル基、エチルメチルシクロペンチル基、トリメチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、エチルジメチルシクロペンチル基、プロピルメチルシクロペンチル基、プロピルエチルシクロペンチル基、ジ−プロピルシクロペンチル基、プロピルエチルメチルシクロペンチル基、メチルシクロへキシル基、ジメチルシクロへキシル基、エチルシクロへキシル基、プロピルシクロへキシル基、エチルメチルシクロへキシル基、トリメチルシクロへキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、エチルジメチルシクロヘキシル基、プロピルメチルシクロヘキシル基、プロピルエチルシクロヘキシル基、ジ−プロピルシクロへキシル基、プロピルエチルメチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、エチルシクロヘプチル基、プロピルシクロヘプチル基、エチルメチルシクロヘプチル基、トリメチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基、エチルジメチルシクロヘプチル基、プロピルメチルシクロヘプチル基、プロピルエチルシクロヘプチル基、ジ−プロピルシクロヘプチル基、プロピルエチルメチルシクロヘプチル基等のアルキルシクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、エチルメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、ブチルフェニル基、プロピルメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、エチルジメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基等のアルキルアリール基、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基、ジメチルフェネチル基等のアリールアルキル基、等が例示できる。
なお、R、R、R及びRがとり得る上記炭化水素基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造をが含まれ、また、アルケニル基の二重結合の位置、アルキル基のシクロアルキル基への結合位置、アルキル基のアリール基への結合位置、及びアリール基のアルキル基への結合位置は任意である。また、上記炭化水素基の中でも、その炭化水素基が、直鎖状又は分柱状の炭素数1〜18のアルキル基である場合若しくは炭素数6〜18のアリール基、又は直鎖状若しくは分枝状アルキルアリール基である場合が特に好ましい。
【0037】
上記ジチオリン酸亜鉛の好適な具体例としては、例えば、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−オクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルジチオリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0038】
また、上記ジチオリン酸亜鉛の含有量は、特に制限されないが、より高い摩擦低減効果を発揮させる観点から、潤滑油全量基準且つリン元素換算量で、0.1%以下であることが好ましく、また0.06%以下であることがより好ましく、更にはジチオリン酸亜鉛が含有されないことが特に好ましい。ジチオリン酸亜鉛の含有量がリン元素換算量で0.1%を超えると、DLC部材と鉄基部材との摺動面における上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や上記脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の優れた摩擦低減効果が阻害されるおそれがある。
【0039】
上記ジチオリン酸亜鉛の製造方法としては、従来方法を任意に採用することができ、特に制限されないが、具体的には、例えば、上記R、R、R及びRに対応する炭化水素基を持つアルコール又はフェノールを五二硫化りんと反応させてジチオリン酸とし、これを酸化亜鉛で中和させることにより合成することができる。なお、上記ジチオリン酸亜鉛の構造は、使用する原料アルコールによって異なることは言うまでもない。
本発明においては、上記一般式(3)に包含される2種以上のジチオリン酸亜鉛を任意の割合で混合して使用することもできる。
【0040】
上述のように、本発明に用いる潤滑油は、DLCなどの硬質炭素被膜と金属材料との摺動面に用いた場合に、極めて優れた低摩擦特性を示すものであるが、特に内燃機関用潤滑油として必要な性能を高める目的で、金属系清浄剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、他の無灰摩擦調整剤、他の無灰分散剤、磨耗防止剤若しくは極圧剤、防錆剤、非イオン系界面活性剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等を単独で又は複数種を組合せて配合し、必要な性能を高めることができる。
【0041】
上記金属系清浄剤としては、潤滑油用の金属系清浄剤として通常用いられる任意の化合物が使用できる。例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート、ナフテネート等を単独で又は複数種を組合せて使用できる。ここで、上記アルカリ金属としてはナトリウム(Na)やカリウム(K)等、上記アルカリ土類金属としてはカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)等が例示できる。また、具体的な好適例としては、Ca又はMgのスルフォネート、フェネート及びサリシレートが挙げられる。
なお、これら金属系清浄剤の全塩基価及び添加量は、要求される潤滑油の性能に応じて任意に選択できる。通常、全塩基価は、過塩素酸法で0〜500mgKOH/g、望ましくは150〜400mgKOH/gであり、その添加量は潤滑油全量基準で、通常0.1〜10%である。
【0042】
また、上記酸化防止剤としては、潤滑油用の酸化防止剤として通常用いられる任意の化合物を使用できる。例えば、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、アルキルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤、並びにこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。また、かかる酸化防止剤の添加量は、潤滑油全量基準で、通常0.01〜5%である。
【0043】
さらに、上記粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体やその水添物等のいわゆる非分散型粘度指数向上剤、及び更に窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。また、他の粘度指数向上剤の具体例としては、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等)及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、並びにポリアルキルスチレン等も例示できる。
これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートでは5000〜1000000、好ましくは100000〜800000がよく、ポリイソブチレン又はその水素化物では800〜5000、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物では800〜300000、好ましくは10000〜200000がよい。また、かかる粘度指数向上剤は、単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油基準で0.1〜40.0%であることが望ましい。
【0044】
更にまた、他の無灰摩擦調整剤としては、ホウ酸エステル、高級アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデン、二硫化モリブデン等の金属系摩擦調整剤等が挙げられる。
また、他の無灰分散剤としては、数平均分子量が900〜3500のポリブテニル基を有するポリブテニルベンジルアミン、ポリブテニルアミン、数平均分子量が900未満のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸イミド等及びそれらの誘導体等が挙げられる。
さらに、上記磨耗防止剤又は極圧剤としては、ジスルフィド、硫化油脂、硫化オレフィン、炭素数2〜20の炭化水素基を1〜3個含有するリン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、チオ亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩等が挙げられる。
更にまた、上記防錆剤としては、アルキルベンゼンスルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
また、上記非イオン系界面活性剤及び抗乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
さらに、上記金属不活性化剤としては、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等が挙げられる。
更にまた、上記消泡剤としては、シリコーン、フルオロシリコーン、フルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
なお、これら添加剤を本発明に用いる潤滑油に含有させる場合には、その含有量は、潤滑油量基準で、他の摩擦調整剤、他の無灰分散剤、磨耗防止剤又は極圧剤、防錆剤、及び抗乳化剤については0.01〜5%、金属不活性剤については0.005〜1%、消泡剤については0.0005〜1%の範囲から適宜選択できる。
【0045】
【実施例】
以下、本発明を実施例と比較例によって、更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例のみに限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
図1は、本発明の転造加工方法の第1の実施例として、内燃機関用クランクシャフトのジャーナル部やクランクピンのフィレット部にローリング加工を施すための工具及び加工要領を示すものであって、図に示すフィレットローリング装置1は、表面にPVDアーク式イオンプレーティング法により成膜したDLC被膜(硬質炭素被膜)Fcを備えたフィレットローラー2とレストローラー3を備え、フィレットローラー2とレストローラー3によってクランクシャフトSのジャーナルJあるいはクランクピンP(図では、クランクピンPにローリング加工を施す場合を示している)を把持した状態で、潤滑油のミスト中において、ワークすなわちクランクシャフトSを回転させながら、図1(b)に拡大して示すように、フィレットローラー2,2によりクランクピンPのコーナー(フィレット)アール部を押圧して塑性変形を生じさせ、当該加工面に残留圧縮応力を付加して疲労強度を向上させると共に、加工面の面粗度を向上させることができる。
【0047】
本発明のフィレットローリング装置1においては、上記フィレットローラー2の表面に硬質炭素被膜Fcが施してあることから、潤滑油、特に脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤、ポリブテニルコハク酸イミドやその誘導体、ジチオリン酸亜鉛などの添加剤を含む潤滑油のオイルミスト中における摩擦係数が大幅に減少し、フィレットローラー2の耐用寿命を延ばすことができる。
【0048】
図2は、ローリング加工を施した面の面粗度をフィレットローラー2の表面に硬質炭素被膜Fcを施した本発明のフィレットローリング装置1を用いた場合と、硬質炭素被膜のないフィッレットローラーを備えた従来のフィレットローリング装置を用いた場合とで比較したものである。
すなわち、図2は、工具鋼SK材から成るローラー基材(表面粗さRa=0.1〜0.5μm)の表面に、PVDアーク式イオンプレーティング法によって、水素含有量が0.5原子%、表面粗さRaが0.08μm以下のDLC被膜を0.5μmの厚さに成膜したものをフィレットローラー2として用い、ポリ‐α‐オレフィンから成るベースオイル中に、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤としてグリセリンモノオレートを0.05〜3%、ポリブテニルコハク酸イミドを1〜12%、ジチオリン酸亜鉛としてジイソプロピルジチオリン酸亜鉛を01%以下含有する潤滑油のミスト中において7000Nの荷重を掛けてクランクピンPのコーナー部にローリング加工を施した場合の加工面の表面粗さを測定し、上記ローラー基材にDLC被膜を施すことなく、そのままフィレットローラーとして使用して同様のローリング加工を行った場合の表面粗さと比較した。
【0049】
図2の結果から明らかなように、フィレットローラー表面にDLC被膜を備えた工具を用いた本発明方法の場合には、DLC被膜のないフィレットローラーを備えた従来の方法に較べて、表面粗さが大幅に向上していることが確認された。
【0050】
(実施例2)
図3は、本発明の転造加工方法の第2の実施例として、内燃機関用コンロッドの小端孔にローリング加工を施すための工具及び加工要領を示すものであって、図に示すアイザー5は、中心部に位置するアイザーアーバー6の周囲に複数のアイザーローラー7を備えたものであって、当該アイザーローラー7の表面には、PVDアーク式イオンプレーティング法によってDLC被膜Fcが施してある。
このようなアイザー5をコンロッドRの小端孔内に圧入した状態で、アーバー6を回転させると、これに伴って複数本のローラー7がコンロッドRの小端孔内周面を転動することによって当該内周面に塑性変形が生じ、圧縮残留応力が付与されて、同様に疲労強度を向上させると共に、加工面の面粗度を改善することができるものである。
【0051】
本発明のアイザー5においては、上記アイザーローラー7の各表面に硬質炭素被膜Fcが施してあることから、潤滑油、特に上記のような添加剤を含有する潤滑油のオイルミスト中における摩擦係数が格段に減少し、アイザーローラー7の耐用寿命を延ばすことができる。
なお、上記のようなアイザー5は、コンロッド小端孔の他には、コンロッドブッシュや、ピストンにおけるピストンピン孔などにも適用することができる。
【0052】
(実施例3)
図4は、本発明の転造加工方法の第3の実施例として、内燃機関用コンロッドの小端孔にバニッシュ加工を施すための工具及び加工要領を示すものであって、図に示すバーライザー10は、コンロッドRの小端孔の内径よりも僅かに大きい外径寸法を有する棒状のものであって、その先端の棒状部の表面には、PVDアーク式イオンプレーティング法によってDLC被膜Fcが施してある。
このようなバーライザー10を、図中に仮想線で示すように、コンロッドRに圧入して小端孔内を通過させることによって、小端孔内周面近傍に塑性変形を生じさせ、圧縮残留応力を付与して疲労強度を向上させると共に、内周面の面粗度を改善することができる。
【0053】
上記バーライザー10においても、表面に硬質炭素被膜Fcが施してあるため、潤滑油、特に上記のような添加剤を含有する潤滑油のオイルミスト中における摩擦係数が格段に減少し、同様に長期の使用に耐えるものとなる。
【0054】
(実施例4)
図5は、本発明の転造加工方法の第4の実施例として、内燃機関用クランクシャフトのクランクウェブにバニッシュ加工を施すための工具及び加工要領を示すものであって、図に示すローラーバニッシュ装置12は、回転可能なローラーホルダー13の両端部に2個のバニッシュローラー14を備えたものであって、当該バニッシュローラー14の表面には、PVDアーク式イオンプレーティング法を適用することによってDLC被膜Fcがそれぞれ施してある。
このようなローラーバニッシュ装置12をクランクシャフトSのクランクウェブWの間に配置し、ホルダー13を回転させて、相対向するウェブ面をローラー14によって押圧することによって、ウェブ面に塑性変形が生じ、圧縮残留応力が付与されて疲労強度が向上すると共に、内周面の面粗度を改善することができる。
【0055】
上記装置12においても、バニッシュローラー14の表面にそれぞれ硬質炭素被膜Fcが施してあるため、潤滑油、特に上記のような添加剤を含有する潤滑油のオイルミスト中において、摩擦係数が格段に減少し、同様に耐用寿命が向上するものとなる。
【0056】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、ワークとの当接面に水素原子量が1原子%以下の硬質炭素被膜を備えた転造加工用工具を用い、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有するミスト状潤滑油の存在下で、工具をワークの被加工面に圧接するようにしていることから、ワークとの摩擦係数を大幅に減少させることができ、ワークの加工面に圧縮残留応力を付与して疲労強度を向上させることができると共に、ワーク加工面の面粗度が向上し、さらに工具の寿命を延ばすことができるという優れた効果がもたらされる。
【0057】
また、上記転造加工用工具における硬質炭素被膜を形成するに際しては、PVD法を適用して成膜することが望ましく、これによって上記硬質炭素被膜の水素含有量を1原子%以下とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a) 本発明の転造加工方法の第1の実施例としてフィレットローリング装置の構造と加工要領を示す概略図である。
(b) 図1(a)の要部拡大図である。
【図2】 フィレットローラーの表面にDLC被膜を施した工具を用いた加工面の面粗度をDLC被膜のない従来の工具による場合と較べて示すグラフである。
【図3】 (a) 本発明の転造加工方法の第2の実施例としてアイザーの構造と加工要領を示す平面図である。
(b) 図3(a)の縦断面図である。
【図4】 本発明の転造加工方法の第3の実施例としてバーライザーの構造と加工要領を示す概略図である。
【図5】 本発明の転造加工方法の第4の実施例としてローラーバニッシュ装置の構造と加工要領を示す概略図である。
【符号の説明】
1 フィレットローリング装置(転造加工用工具
2 フィレットローラー(ローラー)
5 アイザー(転造加工用工具
7 アイザーローラー(ローラー)
10 バーライザー(転造加工用工具
12 ローラーバニッシュ装置(転造加工用工具
14 バニッシュローラー(ローラー)
Fc DLC被膜(硬質炭素被膜)

Claims (6)

  1. 潤滑油の存在下でワークの被加工面に転造加工用工具を圧接し、当該加工面の表面近傍部に塑性変形を生じさせる転造加工方法において
    上記潤滑油として、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有する潤滑油をミスト状にして供給すると共に、
    上記転造加工用工具として、被加工面との当接面に水素原子量が1原子%以下の硬質炭素被膜を備えた工具を用いることを特徴とする転造加工方法
  2. 上記転造加工用工具は、被加工面との当接面にローラーを有し、当該ローラーの表面に硬質炭素被膜を備えていることを特徴とする請求項1に記載の転造加工方法
  3. 上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤が炭素数6〜30の炭化水素基を有し、潤滑油組成物中に潤滑油全量基準で0.05〜3.0%含まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の転造加工方法
  4. 上記潤滑油がポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の転造加工方法
  5. 上記ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の含有量が潤滑油全量基準で0.1〜15%であることを特徴とする請求項4に記載の転造加工方法
  6. 上記潤滑油がジチオリン酸亜鉛を含有し、その含有量が潤滑油全量基準且つリン元素換算量で、0.1%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の転造加工方法
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