JP3594194B1 - 低摩擦摺動機構及びこれに用いる潤滑油組成物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】DLC(ダイヤモンドライクカーボン)部材とマグネシウム合金部材とがなす摺動面に脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物を介在させる低摩擦摺動機構である。上記低摩擦摺動機構に用いられ、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物である。
【選択図】なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、低摩擦摺動機構及びこれに用いる潤滑油組成物に係り、更に詳細には、例えば、内燃機関や駆動系伝達機関などにおける種々の摺動部での使用に適し、極めて優れた低摩擦特性を示す低摩擦摺動機構及びこれに用いる潤滑油組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
地球全体の温暖化、オゾン層の破壊など地球規模での環境問題が大きくクローズアップされ、とりわけ地球全体の温暖化に大きな影響があるといわれているCO2削減については各国でその規制値の決め方をめぐって大きな関心を呼んでいる。
CO2削減については、自動車の燃費の削減を図ることが大きな課題の1つであり、摺動材料と潤滑油が果たす役割は大きい。
摺動材料の役割は、エンジンの摺動部位の中で摩擦摩耗環境が苛酷な部位に対して耐磨耗性に優れ且つ低い摩擦係数を発現することであり、最近では、種々の硬質薄膜材料の適用が進んできている。一般にDLC材料は、空気中、潤滑油非存在下における摩擦係数が、TiNやCrNといった耐磨耗性の硬質被膜材料と比べて低いことから低摩擦摺動材料として期待されている。
【0003】
また、潤滑油における省燃費対策としては、▲1▼低粘度化による、流体潤滑領域における粘性抵抗及びエンジン内の攪拌抵抗の低減、▲2▼最適な摩擦調整剤と各種添加剤の配合による、混合及び境界潤滑領域下での摩擦損失の低減、が提言されており、摩擦調整剤としては、MoDTCやMoDTPといった有機Mo化合物を中心に多くの研究がなされており、従来の鋼材料から成る摺動面においては、使用開始初期に優れた低摩擦係数を示す有機Mo化合物を配合した潤滑油が適用され、効果を上げていた。
【0004】
しかしながら、空気中において低摩擦性に優れる一般のDLC材料は、潤滑油存在下においては、その摩擦低減効果が小さいことが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
また、この摺動材料に有機モリブデン化合物を含有する潤滑油組成物を適用したとしても摩擦低減効果が十分発揮されていないことがわかってきている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
【非特許文献1】
加納 他「日本トライボロジー学会予稿集・東京」、1999年5月、p11〜12
【非特許文献2】
Kano et al.「World Tribology Congress」、2001年9月、Vienna,Proceeding、p342
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、耐摩耗性に優れ安定した低摩擦特性を発揮し、更には従来のマグネシウム合金と鋼材料の摺動部と有機Mo化合物との組合せよりも更に優れた省燃費効果を発揮し得る低摩擦摺動機構及びこれに用いる潤滑油組成物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、DLC部材とマグネシウム合金部材とを、所定の無灰摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物存在下で摺動させることにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の低摩擦摺動機構は、DLC部材と、マグネシウム合金部材と、これらの摺動面に脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物を用いることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の潤滑油組成物は、上記低摩擦摺動機構に用いられ、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有することを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の低摩擦摺動機構について、更に詳細に説明する。なお、本明細書において「%」は、特記しない限り質量百分率を示す。
かかる低摩擦摺動機構は、DLC部材とマグネシウム合金部材とを摺動させる際に、DLC部材とマグネシウム合金部材との摺動面に脂肪酸エステル系及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物を介在させる。これより、DLC部材とマグネシウム合金部材とが従来よりも極めて低摩擦で摺動しうる。
【0011】
ここで、上記DLC部材を構成するDLC(ダイヤモンドライクカーボン)材は、炭素元素を主として構成された非晶質であり、炭素同士の結合形態がダイヤモンド構造(SP3結合)とグラファイト結合(SP2結合)の両方から成る。具体的には、炭素元素だけから成るa−C(アモルファスカーボン)、水素を含有するa−C:H(水素アモルファスカーボン)、及びチタン(Ti)やモリブデン(Mo)等の金属元素を一部に含むMeCが挙げられるが、本発明においては、上記DLC部材は大幅な摩擦低減効果の発揮の面から、水素を含まないa−C系材料から成ることが好適である。
上記マグネシウム合金部材の構成材料としては、マグネシウム−アルミニウム−亜鉛(Mg−Al−Zn)系、マグネシウム−アルミニウム−希土類金属(Mg−Al−REM)系、マグネシウム−アルミニウム−カルシウム(Mg−Al−Ca)系、マグネシウム−亜鉛−アルミニウム−カルシウム(Mg−Zn−Al−Ca)系、マグネシウム−アルミニウム−カルシウム−希土類金属(Mg−Al−Ca−REM)系、マグネシウム−アルミニウム−ストロンチウム(Mg−Al−Sr)系、マグネシウム−アルミニウム−シリコン(Mg−Al−Si)系、マグネシウム−希土類金属−亜鉛(Mg−REM−Zn)系、マグネシウム−銀−希土類金属(Mg−Ag−REM)系又はマグネシウム−イットリウム−希土類金属(Mg−Y−REM)系、及びこれらの任意の組み合わせに係るものを用いることが好ましい。具体的にはAZ91、AE42、AX51、AXJ、ZAX85、AXE522、AJ52、AS21、QE22及びWE43(ASTM)などを挙げることができる。
【0012】
また、上記DLC部材及びマグネシウム合金部材のそれぞれの表面粗さは、算術平均粗さRaで、0.1μm以下であることが摺動の安定性の面から好適である。0.1μmを超えると局部的にスカッフィングを形成し、摩擦係数の大幅向上となることがある。
更に、上記DLC部材は、表面硬さが、マイクロビッカーズ硬さ(10g荷重)でHv1000〜3500、厚さが0.3〜2.0μmであることが好ましく、上記マグネシウム合金部材は、表面硬さが、ブリネル硬さHB45〜95であることが好ましい。DLC部材の表面硬さ及び厚さが上記範囲から外れるとHv1000未満、厚さ0.3μm未満では摩滅し、逆にHv3500、厚さ2.0μmを超えると剥離し易くなり、マグネシウム合金部材の表面硬さが上記から外れるとHB80未満ではマグネシウム合金が摩耗し易くなることがある。
【0013】
本発明の低摩擦摺動機構は、潤滑油組成物を介在させて2つの金属表面が接触する摺動面であれば何ら限定なく使用できるが、代表的には、内燃機関の摺動部として使用できる。この場合は、従来に比べて極めて優れた低摩擦特性が得られるので有効である。
【0014】
次に、本発明の潤滑油組成物について詳細に説明する。
かかる潤滑油組成物は、潤滑油基油に、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有して成り、上述した低摩擦摺動機構に用いられる。
【0015】
ここで、上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤としては、炭素数6〜30、好ましくは炭素数8〜24、特に好ましくは炭素数10〜20の直鎖状又は分枝状炭化水素基を有する脂肪酸エステル、脂肪族アミン化合物及びこれらの任意混合物を挙げることができる。炭素数が6〜30でないときは、本発明のような摩擦低減効果が十分得られない可能性がある。
ここで、上記潤滑油基油としては特に限定されるものではなく、通常、潤滑油組成物の基油として用いられるものであれば、鉱油系基油、合成系基油を問わず使用することができる。
鉱油系基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製、ワックス異性化等の処理を1つ以上行って精製したもの等が挙げられ、特に水素化分解処理や水素化精製処理あるいはワックス異性化処理が施されたもの等の各種の基油を用いることができる。
【0016】
合成系基油としては、具体的には、アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、及びジオクチルセバケート等のジエステル;トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンぺラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、及びペンタエリスリトールぺラルゴネート等のポリオールエステル及びこれらの混合物等が例示できる。中でも、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物が好ましい例として挙げられる。
【0017】
本発明の潤滑油組成物における基油は、鉱油系基油又は合成系基油を単独あるいは混合して用いる以外に、2種類以上の鉱油系基油、あるいは2種類以上の合成系基油の混合物であっても差し支えない。また、上記混合物における2種類以上の基油の混合比も特に限定されず任意に選ぶことができる。
【0018】
潤滑油基油の全芳香族含有量には特に制限はないが、15%以下であることが好ましく、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%である。潤滑油基油の全芳香族含有量が15%を超える場合には、酸化安定性が劣るため好ましくない。また、高度水素化分解鉱油あるいは1−デセンオリゴマー水素化物等、潤滑油基油の全芳香族含有量が2%以下、あるいは0%であっても摩擦低減効果の高い組成物を得ることができるが、例えば、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の含有量が1%を超える場合には、貯蔵安定性に劣る可能性があるため、必要に応じて溶剤精製鉱油やアルキルベンゼン等を配合することにより潤滑油基油の全芳香族含有量を調整する(例えば2%以上とする)ことが好ましい。ここで、全芳香族含有量とは、ASTM D2549に準拠して測定した芳香族留分(aromatic fraction)含有量を意味し、通常この芳香族留分には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、アントラセン、フェナントレン、及びこれらのアルキル化物、四環以上のベンゼン環が縮合した化合物、又はピリジン類、キノリン類、フェノール類、ナフトール類等のヘテロ芳香族を有する化合物等が含まれる。
【0019】
潤滑油基油の動粘度は、特に制限はないが、内燃機関用潤滑油組成物として使用する場合には、100℃における動粘度は、2mm2/s以上であることが好ましく、より好ましくは3mm2/s以上であり、一方、その動粘度は、20mm2/s以下であることが好ましく、10mm2/s以下、特に8mm2/s以下であることが好ましい。潤滑油基油の100℃における動粘度を2mm2/s以上とすることによって油膜形成が十分であり、潤滑性に優れ、また、高条件下での基油の蒸発損失がより小さい組成物を得ることができる。一方、100℃における動粘度を20mm2/s以下とすることによって、流体抵抗が小さくなるため潤滑個所での摩擦抵抗のより小さい組成物を得ることができる。
【0020】
また、潤滑油基油の粘度指数は、特に制限はないが、80以上であることが好ましく、内燃機関用潤滑油組成物として使用する場合には、100以上であることが好ましく、120以上であることが特に好ましい。潤滑油基油の粘度指数が高いものを選択することにより低温粘度特性に優れるだけでなく、摩擦低減効果に優れた組成物を得ることができる。
【0021】
上記炭素数6〜30の直鎖状又は分枝状炭化水素基としては、具体的には、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基、ペンタコシル基、ヘキサコシル基、ヘプタコシル基、オクタコシル基、ノナコシル基及びトリアコンチル基等のアルキル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基、ペンタコセニル基、ヘキサコセニル基、ヘプタコセニル基、オクタコセニル基、ノナコセニル基及びトリアコンテニル基等のアルケニル基などを挙げることができる。
なお、上記アルキル基及びアルケニル基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造が含まれ、また、アルケニル基における二重結合の位置は任意である。
【0022】
また、上記脂肪酸エステルとしては、かかる炭化水素基を有する脂肪酸と脂肪族1価アルコール又は脂肪族多価アルコールとから成るエステルなどを例示できる。具体的な好適例としては、グリセリンモノオレート、グリセリンジオレート、ソルビタンモノオレート及びソルビタンジオレートなどが挙げられる。
更に、上記脂肪族アミン化合物としては、脂肪族モノアミン又はそのアルキレンオキシド付加物、脂肪族ポリアミン、イミダゾリン化合物等、及びこれらの誘導体等を例示できる。具体的には、ラウリルアミン、ラウリルジエチルアミン、ラウリルジエタノールアミン、ドデシルジプロパノールアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ステアリルテトラエチレンペンタミン、オレイルアミン、オレイルプロピレンジアミン、オレイルジエタノールアミン、及びN−ヒドロキシエチルオレイルイミダゾリン等の脂肪族アミン化合物や、これら脂肪族アミン化合物のN,N−ジポリオキシアルキレン−N−アルキル(又はアルケニル)(炭素数6〜28)等のアミンアルキレンオキシド付加物、これら脂肪族アミン化合物に炭素数2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したりアミド化した、いわゆる酸変性化合物等が挙げられる。好適な例としては、N,N−ジポリオキシエチレン−N−オレイルアミン等が挙げられる。
【0023】
また、本発明の潤滑油組成物に含まれる脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の含有量は、特に制限はないが、組成物全量基準で、0.05〜3.0%であることが好ましく、更に好ましくは0.1〜2.0%、特に好ましくは0.5〜1.4%であることがよい。上記含有量が0.05%未満であると摩擦低減効果が小さくなり易く、3.0%を超えると摩擦低減効果に優れるものの潤滑油基油への溶解性や貯蔵安定性が著しく悪化し、沈殿物が発生し易いので、好ましくない。
【0024】
更に、本発明の潤滑油組成物は、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含有することが好適である。
上記ポリブテニルコハク酸イミドとしては、次の一般式(1)及び(2)
【0025】
【化1】
【0026】
【化2】
【0027】
で表される化合物が挙げられる。これら一般式におけるPIBは、ポリブテニル基を示し、高純度イソブテン又は1−ブテンとイソブテンの混合物をフッ化ホウ素系触媒又は塩化アルミニウム系触媒で重合させて得られる数平均分子量が900〜3500、望ましくは1000〜2000のポリブテンから得られる。上記平均分子量が900未満の場合は清浄性効果が劣り易く、3500を超える場合は低温流動性に劣り易いため、望ましくない。
また、上記一般式におけるnは、清浄性に優れる点から1〜5の整数、より望ましくは2〜4の整数であることがよい。更に、上記ポリブテンは、製造過程の触媒に起因して残留する微量のフッ素分や塩素分を吸着法や十分な水洗等の適切な方法により、50ppm以下、より望ましくは10ppm以下、特に望ましくは1ppm以下まで除去してから用いることもよい。
【0028】
更に、上記ポリブテニルコハク酸イミドの製造方法としては、特に限定はないが、例えば、上記ポリブテンの塩素化物又は塩素やフッ素が充分除去されたポリブテンと無水マレイン酸とを100〜200℃で反応させて得られるブテニルコハク酸を、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンと反応させることにより得ることができる。
【0029】
一方、上記ポリブテニルコハク酸イミドの誘導体としては、上記一般式(1)及び(2)に示す化合物に、ホウ素化合物や含酸素有機化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和したりアミド化した、いわゆるホウ素変性化合物又は酸変性化合物を例示できる。代表的には、ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミド、特にホウ素含有ビスポリブテニルコハク酸イミドを用いることがより望ましい。
【0030】
上記ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸塩及びホウ酸エステル等が挙げられる。具体的には、上記ホウ酸としては、例えばオルトホウ酸、メタホウ酸及びパラホウ酸等が挙げられる。また、上記ホウ酸塩としては、アンモニウム塩等、例えばメタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム及び八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウム等が好適例として挙げられる。更に、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸とアルキルアルコール(望ましくは炭素数1〜6)とのエステル、例えばホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル及びホウ酸トリブチル等が好適例として挙げられる。なお、ホウ素含有ポリブテニルコハク酸イミドにおけるホウ素含有量Bと窒素含有量Nとの質量比「B/N」は、通常0.1〜3であり、望ましくは0.2〜1である。
また、上記含酸素有機化合物としては、具体的には、例えばギ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸及びエイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸及びピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸並びにこれらの無水物、又はエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド及びヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等が挙げられる。
【0031】
なお、本発明の潤滑油組成物において、ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体の含有量は特に制限されないが、0.1〜15%が望ましく、より望ましくは1.0〜12%であることがよい。0.1%未満では清浄性効果に乏しくなることがあり、15%を超えると含有量に見合う清浄性効果が得られにくく、抗乳化性が悪化し易い。
【0032】
更にまた、本発明の潤滑油組成物は、次の一般式(3)
【0033】
【化3】
【0034】
で表されるジチオリン酸亜鉛を含有することが好適である。
上記式(3)中のR4、R5、R6及びR7は、それぞれ別個に炭素数1〜24の炭化水素基を示す。これら炭化水素基としては、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状のアルキルアリール基、及び炭素数7〜19のアリールアルキル基等のいずれかであることが望ましい。また、アルキル基やアルケニル基は、第1級、第2級及び第3級のいずれであってもよい。
【0035】
上記R4、R5、R6及びR7としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、へキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、トリコシル基及びテトラコシル基等のアルキル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ブタジエニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基及びオレイル基等のオクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基及びテトラコセニル基等のアルケニル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基及びシクロヘプチル基等のシクロアルキル基、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基、エチルシクロペンチル基、プロピルシクロペンチル基、エチルメチルシクロペンチル基、トリメチルシクロペンチル基、ジエチルシクロペンチル基、エチルジメチルシクロペンチル基、プロピルメチルシクロペンチル基、プロピルエチルシクロペンチル基、ジ−プロピルシクロペンチル基、プロピルエチルメチルシクロペンチル基、メチルシクロへキシル基、ジメチルシクロへキシル基、エチルシクロへキシル基、プロピルシクロへキシル基、エチルメチルシクロへキシル基、トリメチルシクロへキシル基、ジエチルシクロヘキシル基、エチルジメチルシクロヘキシル基、プロピルメチルシクロヘキシル基、プロピルエチルシクロヘキシル基、ジ−プロピルシクロへキシル基、プロピルエチルメチルシクロヘキシル基、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基、エチルシクロヘプチル基、プロピルシクロヘプチル基、エチルメチルシクロヘプチル基、トリメチルシクロヘプチル基、ジエチルシクロヘプチル基、エチルジメチルシクロヘプチル基、プロピルメチルシクロヘプチル基、プロピルエチルシクロヘプチル基、ジ−プロピルシクロヘプチル基及びプロピルエチルメチルシクロヘプチル基等のアルキルシクロアルキル基、フェニル基及びナフチル基等のアリール基、トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、エチルメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、ブチルフェニル基、プロピルメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、エチルジメチルフェニル基、テトラメチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基及びドデシルフェニル基等のアルキルアリール基、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、フェネチル基、メチルフェネチル基及びジメチルフェネチル基等のアリールアルキル基等が例示できる。
などを挙げることができる。
なお、上記炭化水素基には、考えられる全ての直鎖状構造及び分枝状構造をが含まれ、また、アルケニル基の二重結合の位置、アルキル基のシクロアルキル基への結合位置、アルキル基のアリール基への結合位置、及びアリール基のアルキル基への結合位置は任意である。
【0036】
上記ジチオリン酸亜鉛の好適な具体例としては、例えば、ジイソプロピルジチオリン酸亜鉛、ジイソブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ブチルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ペンチルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−sec−ヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−オクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−デシルジチオリン酸亜鉛、ジ−n−ドデシルジチオリン酸亜鉛、ジイソトリデシルジチオリン酸亜鉛、及びこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。
【0037】
また、上記ジチオリン酸亜鉛の含有量は、特に制限されないが、より高い摩擦低減効果を発揮させる観点から、組成物全量基準且つリン元素換算量で、0.1%以下であることが好ましく、また0.06%以下であることがより好ましく、更にはジチオリン酸亜鉛が含有されないことが特に好ましい。ジチオリン酸亜鉛の含有量がリン元素換算量で0.1%を超えると、DLC部材とマグネシウム合金部材との摺動面における上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤や上記脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤の優れた摩擦低減効果が阻害されるおそれがある。
【0038】
更に、上記ジチオリン酸亜鉛は、特に限定されることなく、任意の従来方法を採用して製造することができる。具体的には、例えば、上記式(3)中のR4、R5、R6及びR7に対応する炭化水素基を有するアルコール又はフェノールを五硫化ニリンと反応させてジチオリン酸とし、これを酸化亜鉛で中和させることにより合成できる。なお、上記ジチオリン酸亜鉛の構造が異なるのは、使用する原料アルコール等によることは言うまでもない。
【0039】
上述のように、本発明の潤滑油組成物は、DLC部材とマグネシウム合金部材との摺動面に用いる場合に、極めて優れた低摩擦特性を示すが、特に内燃機関の摺動部に用いるときは、金属系清浄剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、他の無灰摩擦調整剤、他の無灰分散剤、磨耗防止剤若しくは極圧剤、防錆剤、非イオン系界面活性剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、及び消泡剤等を単独で又は複数種を組合せて配合し、必要な性能を高めることができる。
【0040】
上記金属系清浄剤としては、潤滑油用の金属系清浄剤として通常用いられる任意の化合物が使用できる。例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート、サリシレート及びナフテネート等を単独で又は複数種を組合せて使用できる。ここで、上記アルカリ金属としてはナトリウム(Na)やカリウム(K)等、上記アルカリ土類金属としてはカルシウム(Ca)やマグネシウム(Mg)等が例示できる。また、具体的な好適例としては、Ca又はMgのスルフォネート、フェネート及びサリシレートが挙げられる。
なお、これら金属系清浄剤の全塩基価及び添加量は、要求される潤滑油組成物の性能に応じて任意に選択できる。通常は、過塩素酸法で0〜500mgKOH/g、望ましくは150〜400mgKOH/gであり、その添加量は組成物全量基準で、通常0.1〜10%である。
【0041】
また、上記酸化防止剤としては、潤滑油用の酸化防止剤として通常用いられる任意の化合物を使用できる。例えば、4,4−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)及びオクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン及びアルキルジフェニルアミン等のアミン系酸化防止剤、並びにこれらの任意の組合せに係る混合物等が挙げられる。また、かかる酸化防止剤の添加量は、組成物全量基準で、通常0.01〜5%である。
【0042】
更に、上記粘度指数向上剤としては、具体的には、各種メタクリル酸又はこれらの任意の組合せに係る共重合体やその水添物等のいわゆる非分散型粘度指数向上剤、及び更に窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。また、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしては、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等)及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体、並びにポリアルキルスチレン等も例示できる。
これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートでは5000〜1000000、好ましくは100000〜800000がよく、ポリイソブチレン又はその水素化物では800〜5000、エチレン−α−オレフィン共重合体及びその水素化物では800〜300000、好ましくは10000〜200000がよい。また、かかる粘度指数向上剤は、単独で又は複数種を任意に組合せて含有させることができるが、通常その含有量は、潤滑油組成物基準で0.1〜40.0%であることが望ましい。
【0043】
更にまた、他の無灰摩擦調整剤としては、ホウ酸エステル、高級アルコール及び脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデン及び二硫化モリブデン等の金属系摩擦調整剤等が挙げられる。
また、他の無灰分散剤としては、数平均分子量が900〜3500のポリブテニル基を有するポリブテニルベンジルアミン、ポリブテニルアミン、数平均分子量が900未満のポリブテニル基を有するポリブテニルコハク酸イミド等及びそれらの誘導体等が挙げられる。
更に、上記磨耗防止剤又は極圧剤としては、ジスルフィド、硫化油脂、硫化オレフィン、炭素数2〜20の炭化水素基を1〜3個含有するリン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、チオ亜リン酸エステル及びこれらのアミン塩等が挙げられる。
更にまた、上記防錆剤としては、アルキルベンゼンスルフォネート、ジノニルナフタレンスルフォネート、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
また、上記非イオン系界面活性剤及び抗乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル及びポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
更に、上記金属不活性化剤としては、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、チアジアゾール、ベンゾトリアゾール及びチアジアゾール等が挙げられる。
更にまた、上記消泡剤としては、シリコーン、フルオロシリコーン及びフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
なお、これら添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有する場合は、その含有量は、組成物全量基準で、他の摩擦調整剤、他の無灰分散剤、磨耗防止剤又は極圧剤、防錆剤、及び抗乳化剤は0.01〜5%、並びに金属不活性剤は0.0005〜1%の範囲から適宜選択できる。
【0044】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(摺動材料)
摺動材料の一例として、図1に示すようなピンオンディスク単体摩擦用の試験片を作製した。この単体試験片は、3つのピンと、円板からなり、以下の方法により得られた摺動材料を用いて作製したものである。
・ピン材料
以下のSUJ2材料から所定のピン形状に研磨加工後、ラッピングテープを用いた研磨によってピンを様々な表面粗さ(Ra0.2μm以下)に仕上げた。
・円板材料
種々のマグネシウム合金から成る円板形状素材に、所定の時効硬化処理後、ピンとの摺動表面を研磨によって、種々の表面粗さに仕上げた。
・表面処理
上記により仕上げられたピン材料の表面に、黒鉛をターゲットとしたPVD処理又はCVD処理によって以下の材料を様々な膜厚となるようにコーティングした。コーティングされた表面は更にラッピングテープを用いた研磨によって様々な表面粗さ(Ra0.11μm以下)に仕上げた。
▲1▼a−C …(PVD処理)
▲2▼TiN
▲3▼CrN
▲4▼DLC(a−C:H) …(CVD処理)
これら摺動材料について表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
(潤滑油組成物の調製)
・オイル1
潤滑油基油として水素化分解鉱油(100℃動粘度:5.0mm2/s、粘度指数:120、全芳香族含有量:5.5%)を用い、それにエステル系摩擦調整剤(グリセリンモノオレート)を1%、無灰系分散剤(ポリブテニルコハク酸イミド(窒素含有量:1.2%))を5.0%、金属系清浄剤としてカルシウムスルホネート(全塩基価:300mgKOH/g、カルシウム含有量:12.0%)を0.5%及びカルシウムフェネート(全塩基価:255mgKOH/g、カルシウム含有量:9.2%)を0.9%、その他添加剤として粘度指数向上剤、酸化防止剤、防錆剤、抗乳化剤、非イオン系界面活性剤、金属不活性化剤、消泡剤等を合計量で7.0%配合し調製した。
・オイル2
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(亜鉛含有量:9.3%、リン含有量:8.5%、アルキル基:第2級ブチル基又は第2級へキシル基)をリン元素換算量で0.047%添加した以外は、オイル1と同様の操作を繰り返して調製した。
・オイル3
潤滑油基油として1−デセンオリゴマー水素化物(100℃動粘度:3.9mm2/s、粘度指数:124、全芳香族含有量:0.0%)を用いた以外は、オイル2と同様の操作を繰り返して調製した。
・オイル4
エステル系摩擦調整剤を添加せず、アミン系摩擦調整剤(N,N−ジポリオキシエチレン−N−オレイルアミン)を1.0%添加した以外は、オイル1と同様の操作を繰り返して調製した。
・オイル5
ジアルキルジチオリン酸亜鉛(亜鉛含有量:9.3%、リン含有量:8.5%、アルキル基:第2級ブチル基又は第2へキシル基)をリン元素換算量で0.094%とした以外は、オイル2と同様の操作を繰り返して調製した。
・オイル6
アミン系摩擦調整剤(N,N−ジポリオキシエチレン−N−オレイルアミン)を0.5%添加した以外は、オイル5と同様の操作を繰り返して調製した。
・オイル7
エステル系摩擦調整剤(グリセリンモノオレート)を0.2%とした以外は、オイル2と同様の操作を繰り返して調製した。
・オイル8
エステル系摩擦調整剤を添加しない以外は、オイル5と同様の操作を繰り返して調製した。
・オイル9
エステル系摩擦調整剤を添加せず、モリブデンジチオカーバメイト(モリブデン含有率:4.1%)を1.1%添加した以外は、オイル5と同様の操作を繰り返して調製した。
これら潤滑油組成物の組成とそのオイル性状を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
(実施例1〜9)
表1の実施例1〜9に示すピン及び円板を組合わせた単体試験片を作製し、表1の各実施例に併記した各潤滑油組成物(上記オイル1〜7)を用いて、以下の単体摩擦試験を実施した。この結果を合わせて表1に示す。
(単体摩擦試験条件)
最大ヘルツ圧力 :80MPa
円板回転速度 :30rpm
オイル供給方法 :油浴
供給オイル温度 :80℃
試験時間 :60min
【0050】
(比較例1〜5)
上記と同様に、表1の比較例1〜5に示すピン及び円板を組合わせた単体試験片を作製し、表1の各実施例に併記した各潤滑油組成物(上記オイル5、8又は9)を用いて、以下の単体摩擦試験を実施した。この結果を合わせて表1に示す。
表1より、実施例1〜9で得られた単体試験片は、いずれも優れた低摩擦係数を示すことがわかる。例えば、これらは、従来の鉄系材料とマグネシウム合金材料の組合せを用いた比較例1の単体試験片に比べて、約40〜60%の摩擦低減効果が得られた。
更に、実施例1、2及び6の結果から、ジチオリン酸亜鉛の含有量が少ないほど摩擦低減効果に優れることがわかる。
尚、実施例1〜9で得られた単体試験片の材料組合せは、試験後の表面形状に何ら問題はなく、耐磨耗性にも非常に優れ、安定した低摩擦特性を示す。
【0051】
尚、本発明の好適範囲外である実施例5で得られた単体試験片は、表1から明らかなように摩擦低減効果認められるものの、水素を含まないa−C材を用いた他の実施例ほどの効果は見られない。
【0052】
一方、比較例1の単体試験片材料組合せは、SU2材のピンとAZ91材の円板をラッピングテープで研磨仕上げしたものの組合せであり、当該ピンに表面コーティングをしていない組合せである。また、この単体試験では、本発明で用いる摩擦調整剤を含まない潤滑油組成物(オイル8)を用いている。従って、摩擦係数が0.1を超えてしまい摩擦特性に劣る。これは、摺動面にZnDTPを主体とする反応皮膜が形成されたためと推定できる。
また、比較例2の単体試験片材料組合せは、比較例1と同様の構成である。この単体試験では、本発明で用いる摩擦調整剤を含む潤滑油組成物(オイル5)を用いており、多少の摩擦低減効果があるものの、摩擦係数が0.12と高く摩擦特性に劣る。これは、摺動面にZnDTPを主体とする反応皮膜が形成されたためと推定できる。
更に、比較例3の単体試験片材料組合せは、実施例4と同様の構成であるが、潤滑油組成物として従来の鋼材料間の摺動面に最も有効であった有機モリブデンを配合した省燃費エンジン油(オイル9)を用いても、摩擦係数が0.1に近い高い摩擦係数を示す。これは、摺動面に二硫化モリブデン被膜が形成されないためと推定できる。
更にまた、比較例4の単体試験片材料組合せでは、TiNコーティングしたピンと本発明で用いる摩擦調整剤を含む潤滑油組成物(オイル5)を用いており、摩擦係数は低減したものの、その絶対値は0.1程度のままであった。また、比較例5の単体試験片材料組合せでは、ピンをCrNコーティングにしてみたが、TiNピンと摩擦低減効果に大差は認められなかった。
【0053】
実施例1〜9より、本発明のようにDLC材、特に好適範囲で作製された水素を含まないa−C系DLC材を用いたピンを、好適なマグネシウム合金材料と特定の摩擦調整剤を所定量添加した潤滑油組成物潤滑下で摺動させるときは、世界トップレベルの低摩擦係数が得られ、且つ耐磨耗性に優れている。また、このような顕著な摩擦低減効果は、工業的に極めて有益であり、エンジン摺動部品等の摩擦損失の大幅な低減、即ちエンジンの燃費改善に有効である。
【0054】
以上、本発明の実施例及び比較例により詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨内であれば種々の変形が可能である。
例えば、産業機械に使われている歯車摺動部材等に用いることもできる。
【0055】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、DLC部材とマグネシウム合金部材とを、所定の無灰摩擦調整剤を含有する潤滑油組成物存在下で摺動させることとしたため、極めて優れた低摩擦特性を示し、更には従来のマグネシウム合金と鋼材料の摺動部と有機Mo化合物との組合せよりも更に優れた省燃費効果を発揮し得る低摩擦摺動機構及びこれに用いる潤滑油組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ピンオン摩擦試験機の概略を示す図である。
Claims (10)
- DLC部材とマグネシウム合金部材とがなす摺動面に、脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤を含有して成る潤滑油組成物を介在させることを特徴とする低摩擦摺動機構。
- 上記DLC部材が、水素を含まないa−C系材料から成ることを特徴とする請求項1に記載の低摩擦摺動機構。
- 上記DLC部材及び/又はマグネシウム合金部材の表面粗さが、Raで0.1μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低摩擦摺動機構。
- 上記DLC部材は、表面硬さがマイクロビッカース硬さ(10g荷重)でHv1000〜3500、DLC材の厚さが0.3〜2.0μmであり、上記マグネシウム合金部材は、表面硬さがブリネル硬さHB45〜95であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
- 内燃機関の摺動部位に使用されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
- 上記マグネシウム合金部材が、マグネシウム−アルミニウム−亜鉛系、マグネシウム−アルミニウム−希土類金属系、マグネシウム−アルミニウム−カルシウム系、マグネシウム−亜鉛−アルミニウム−カルシウム系、マグネシウム−アルミニウム−カルシウム−希土類金属系、マグネシウム−アルミニウム−ストロンチウム系、マグネシウム−アルミニウム−シリコン系、マグネシウム−希土類金属−亜鉛系、マグネシウム−銀−希土類金属系及びマグネシウム−イットリウム−希土類金属系から成る群より選ばれた少なくとも1種の材料より成ることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。
- 請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構に使用する潤滑油組成物であって、
上記脂肪酸エステル系無灰摩擦調整剤及び/又は脂肪族アミン系無灰摩擦調整剤が、炭素数6〜30の炭化水素基を有して成り、組成物全量基準で0.05〜3.0%含有されて成ることを特徴とする潤滑油組成物。 - ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体を含有して成ることを特徴とする請求項7に記載の潤滑油組成物。
- 上記ポリブテニルコハク酸イミド及び/又はその誘導体が、組成物全量基準で0.1〜15%含まれることを特徴とする請求項8に記載の潤滑油組成物。
- 組成物全量基準且つリン元素換算量で0.1%以下のジチオリン酸亜鉛を含有して成ることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1つの項に記載の潤滑油組成物。
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