以下に、本発明に係る流体伝達装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態1]
図1は、本発明の実施形態1に係るトルクコンバータの要部断面図、図2は、本発明の実施形態1に係るトルクコンバータが適用された車両の駆動系の概略構成例を示す図、図3は、本発明の実施形態1に係るトルクコンバータが適用された車両のエンジン性能の一例を説明する図、図4は、本発明の実施形態1に係るトルクコンバータの目標トルク比マップ、図5は、本発明の実施形態1に係るトルクコンバータの性能の一例を説明する線図、図6は、本発明の実施形態1に係るトルクコンバータが適用された車両の発進時動力性能の一例を説明する線図、図7は、本発明の実施形態1に係るトルクコンバータが適用された車両の発進時の駆動トルクの一例を説明する線図、図8は、本発明の実施形態1に係るトルクコンバータのトルク比可変制御を説明するフローチャートである。
以下の説明では、この流体伝達装置としてのトルクコンバータ1は、図1に示す出力軸50の回転軸線Xを中心軸線としてほぼ対称になるように構成されることから、この図1には、回転軸線Xを中心軸線として一方側のみを図示し、特に断りのない限り、回転軸線Xを中心軸線として一方側のみを説明し、他方側の説明はできるだけ省略する。また、以下の説明では、特に断りのない限り、回転軸線Xに沿った方向を軸方向といい、回転軸線Xに直交する方向、すなわち、軸方向に直交する方向を径方向といい、回転軸線X周りの方向を周方向という。また、径方向において回転軸線X側を径方向内側といい、反対側を径方向外側という。また、軸方向において動力源が設けられる側(動力源から動力が入力される側)を入力側といい、反対側、つまり、変速機5が設けられる側(変速機5に動力を出力する側)を出力側という。なお、この出力軸50は、例えばトルクコンバータ1の出力側に配置された変速機5の入力軸などである。
図1に示す流体伝達装置としてのトルクコンバータ1は、走行用の動力源である内燃機関としてのエンジン3や変速機5などを含んで構成される駆動装置を搭載した車両2(図2参照)に適用される。本実施形態のトルクコンバータ1は、車両2の動力伝達経路においてエンジン3と変速機5との間に設けられる。
まず、トルクコンバータ1が適用される車両2は、図2に示すように、走行時の動力を発生する動力源である内燃機関としてのエンジン3を搭載している。エンジン3は、出力軸であるクランクシャフト4に機械的な動力(エンジントルク)を発生させる。トルクコンバータ1は、エンジン3で発生した機械的動力、言い換えれば、トルクがクランクシャフト4から伝達(入力)され、伝達されたトルクを増幅し、あるいは、そのままで出力軸50から変速機5に伝達(出力)する。変速機5は、トルクコンバータ1の出力軸(変速機5の入力軸)50から伝達された回転動力を車両2の運転状態に適した変速段又は変速比で変速し、変速後の動力を出力軸6から差動装置7に伝達(出力)する。差動装置7は、変速機5の出力軸6から伝達(入力)された動力を左右の二方向に分配し、各ドライブシャフト8に伝達(出力)する。各ドライブシャフト8は、差動装置7から伝達(入力)された動力により各駆動輪9を回転駆動させる。車両2は、上記のように構成される動力伝達系統を介して、エンジン3の出力トルクが各駆動輪9に伝達される構成となっている。
ここでは、エンジン3は、例えば、タービンおよびコンプレッサを有すると共に、エンジン3の排気ガスのエネルギーをタービンにて取得してコンプレッサを駆動することで吸入空気の圧力(過給圧)を上昇させ過給を行う過給機が設けられたいわゆる過給エンジンである。また、変速機5は、いわゆる自動変速機であり、入力される入力回転速度と変速機5から出力される出力回転速度との比である変速比を無段階(連続的)に変更可能な無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)であってもよいし、変速比を段階的(不連続)に変更可能な有段変速機(AT:Automatic Transmission)であってもよい。なお、車両2の走行用の動力源は、内燃機関に限らず、モータなどの電動機、あるいは、内燃機関とモータなどの電動機とを併用したものであってもよい。
次に、本実施形態に係る流体伝達装置としてのトルクコンバータ1は、図1に示すように、入力部材としてのフロントカバー10と、流体伝達部としての流体伝達機構20と、ロックアップクラッチ部としてのロックアップクラッチ機構30と、ダンパー部としてのダンパー機構40と、出力部材としての出力軸50と、油圧制御装置60と、制御装置としての電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)70とを備える。このトルクコンバータ1は、軸方向に対して入力側から出力側に向かって、フロントカバー10、ロックアップクラッチ機構30、ダンパー機構40、流体伝達機構20の順番で配置されている。
フロントカバー10は、入力部材であり、動力源であるエンジン3からの動力が伝達され、伝達された動力を流体伝達機構20又はロックアップクラッチ機構30に伝達するものである。フロントカバー10は、フロントカバー本体部11が出力軸50の中心軸線である回転軸線Xと同軸の円板形状に形成され、フロントカバーフランジ部12がこのフロントカバー本体部11の径方向外側端部から出力側に突出して形成されている。フロントカバー10は、ボルト11aなどによりドライブプレート80と締結(固定)される。ここで、ドライブプレート80は、出力軸50の中心軸線である回転軸線Xと同軸の円環板形状に形成され、クランクシャフト4と締結(固定)され、回転軸線Xを中心としてクランクシャフト4と共に一体回転可能である。したがって、エンジン3の回転動力は、クランクシャフト4からドライブプレート80を介してフロントカバー本体部11に伝達される。これにより、フロントカバー10は、回転軸線Xを中心としてクランクシャフト4と共に回転可能である。
流体伝達機構20は、流体伝達部であり、フロントカバー10に伝達された動力を作動流体としての作動油を介して出力軸50に伝達するものである。流体伝達機構20は、ポンプインペラ21と、タービンライナ22と、ステータ23と、ワンウェイクラッチ24と、ポンプインペラ21とタービンライナ22との間に介在する作動流体である作動油とにより構成されている。
ポンプインペラ21は、フロントカバー10に伝達された動力が伝達され、伝達された動力を作動油を介してタービンライナ22に伝達するものである。ポンプインペラ21は、回転軸線Xと同軸のリング形状で出力側に湾曲して形成されるポンプシェル21aの径方向外側端部がフロントカバーフランジ部12に固定される。ポンプインペラ21は、フロントカバー10と一体回転し、フロントカバー10に伝達された動力がポンプシェル21aを介してこのポンプシェル21aの内周面に周方向に沿って等間隔に複数設けられるポンプブレード(翼)21bに伝達される。また、ポンプインペラ21は、ポンプシェル21aの径方向内側端部がスリーブ21cに固定されている。スリーブ21cは、円筒状部分の内側に出力軸50及びハウジング52の一部が挿入される。
タービンライナ22は、ポンプインペラ21から作動油を介して伝達された動力を出力軸50に伝達するものである。タービンライナ22は、軸方向に対してポンプインペラ21に対向するように配置されている。タービンライナ22は、回転軸線Xと同軸のリング形状で入力側に湾曲して形成されるタービンシェル22aの内周面に周方向に沿って等間隔に複数のタービンブレード(翼)22bが設けられている。タービンライナ22は、タービンシェル22aの径方向内側端部がハブ51に固定されている。
ステータ23は、周方向に形成された複数のステータブレード(翼)23aを有し、このステータブレード23aによりポンプインペラ21とタービンライナ22との間を循環する作動油の流れを変化させ、伝達される動力に基づいて所定のトルク特性を得るためのものである。ワンウェイクラッチ24は、トルクコンバータ1を収納するハウジング52に対してステータ23を一方向のみに回転可能に支持するものである。
ここで、ハブ51は、タービンライナ22の基部であり、タービンライナ22の径方向内側に配置されている。ハブ51は、回転軸線Xと同軸の円環状に形成されており、径方向内側に出力軸50が挿入されている。ハブ51は、例えばスプライン嵌合部を介して出力軸50と接続され、これにより、ハブ51と出力軸50とは、相互に動力を伝達可能な構成となる。
したがって、タービンシェル22aは、ハブ51を介して出力軸50と一体回転可能となり、タービンライナ22が出力軸50と一体回転することで、流体伝達機構20を構成するポンプインペラ21、作動油及びタービンライナ22を介して伝達された動力が出力軸50に伝達される。
ロックアップクラッチ機構30は、ロックアップクラッチ部であり、フロントカバー10に伝達された動力を流体伝達機構20の作動流体を介さずに、摩擦係合部32を介して直接的に出力軸50に伝達するものである。ロックアップクラッチ機構30は、係合部材としてのロックアップピストン31と、摩擦係合部32と、作動流体流路33と、ピストン油圧室34とを有する。ロックアップクラッチ機構30は、軸方向に対して入力側から出力側に向かって、摩擦係合部32の一方の摩擦面をなすフロントカバー10のフロントカバー内壁面36、摩擦係合部32の他方の摩擦面をなす摩擦材35、ロックアップピストン31の順番で配置されている。
ロックアップピストン31は、係合部材であり、回転軸線Xと同軸の円環板状に形成され、軸方向に対してフロントカバー10とタービンライナ22との間に配置されている。ロックアップピストン31は、軸方向においてフロントカバー10と対向するようにして配置されている。
ロックアップピストン31は、タービンライナ22側に折れ曲がるようにして形成される径方向外側端部31aが連結部37を介して後述のダンパー機構40の中心保持プレート43の径方向外側端部43aに対して軸方向に相対移動可能で、かつ、この中心保持プレート43と一体回転可能に支持される。したがって、ロックアップピストン31は、このロックアップピストン31に伝達された動力をダンパー機構40の中心保持プレート43に伝達可能に連結されると共に、フロントカバー10に対しても軸方向に相対移動可能な構成となり、すなわち、フロントカバー10に対して軸方向に接近、離間可能な構成となる。
摩擦係合部32は、摩擦材35とフロントカバー内壁面36とが摩擦係合可能な摩擦係合面として構成される。フロントカバー内壁面36は、フロントカバー本体部11においてロックアップピストン31と軸方向に対向する壁面である。摩擦材35は、ロックアップピストン31においてフロントカバー本体部11と軸方向に対向する壁面の径方向外側端部31a近傍に設けられる。摩擦材35は、回転軸線Xと同軸の円環板状に形成される。摩擦係合部32は、この摩擦係合部32の一方の面をなすフロントカバー内壁面36と摩擦係合部32の他方の面をなす摩擦材35とが対向して接触することで摩擦係合可能であり、すなわち、ロックアップピストン31の径方向外側端部31aとフロントカバー10とを摩擦係合可能である。
ロックアップクラッチ機構30は、ロックアップピストン31の径方向内側端部31bがハブ51の径方向内側端部の外周面(出力軸50と接触する面とは反対側の面)と対向して接触し軸方向に摺動自在に支持されると共に、径方向内側端部31bとハブ51の径方向内側端部の外周面との間に作動流体(作動油)の漏れを抑制するシール部材S1が配置されている。これにより、フロントカバー10とポンプシェル21aとによって区画されるトルクコンバータ1の内部は、ロックアップピストン31により、流体伝達機構空間部Aとクラッチ空間部Bとに区画される。流体伝達機構空間部Aは、軸方向に対してロックアップピストン31とポンプシェル21aとによって区画される空間であり、流体伝達機構20が位置する空間である。クラッチ空間部Bは、軸方向に対してフロントカバー10とロックアップピストン31とによって区画される空間であり、ロックアップクラッチ機構30の摩擦材35が位置する空間である。この流体伝達機構空間部Aとクラッチ空間部Bとは、摩擦係合部32側で径方向外側端部31aとフロントカバーフランジ部12との間の連通部分を介して連通可能となっている。
作動流体流路33は、軸方向に対してロックアップピストン31とフロントカバー10との間に作動流体(作動油)が通過可能な空間部として形成される。ここでは、クラッチ空間部Bが作動流体流路33として機能する。摩擦係合部32は、この作動流体流路33として機能するクラッチ空間部B内の径方向外側の部分に設けられている。
ピストン油圧室34は、ロックアップピストン31を軸方向に移動させるための油圧押圧力を発生させるためのものである。ここでは、流体伝達機構空間部Aがピストン油圧室34として機能する。このピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aは、上述したように、ロックアップピストン31とポンプシェル21aとの間に作動流体(作動油)が通過可能な空間部として形成されている。そして、このピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aは、内部の作動油の油圧をロックアップピストン31の受圧面31cに作用させることによって、ロックアップピストン31にフロントカバー10側への押圧力(推力)を作用させる。
上記のように構成されるロックアップクラッチ機構30は、ピストン油圧室34(流体伝達機構空間部A)に供給される作動流体(作動油)の液圧(油圧)により、ロックアップピストン31が軸方向に沿ってフロントカバー10側に接近移動し、摩擦材35とフロントカバー内壁面36とが接触し摩擦係合することで、ロックアップクラッチ機構30がONとなる。ロックアップクラッチ機構30がONとなると、フロントカバー10とロックアップピストン31とが一体回転することとなるので、このロックアップクラッチ機構30は、フロントカバー10に伝達された動力をフロントカバー内壁面36、摩擦材35、ロックアップピストン31を順番に介して、後述するダンパー機構40の中心保持プレート43に伝達することとなる。
ここで、このトルクコンバータ1は、ピストン油圧室34(流体伝達機構空間部A)又は作動流体流路33(クラッチ空間部B)の一方に油圧制御手段としての油圧制御装置60から作動油が供給される。この油圧制御装置60は、トルクコンバータ1を含むトランスミッションの各部に供給される作動油の流量あるいは油圧を制御するものである。
そして、油圧制御装置60は、ピストン油圧室34として機能する流体伝達機構空間部Aの油圧と、作動流体流路33として機能するクラッチ空間部Bの油圧との圧力差、すなわち、ロックアップクラッチ機構30のロックアップピストン31の出力側の面である受圧面31cに軸方向に作用する押圧力を制御することができる。
油圧制御装置60は、ロックアップクラッチ機構30のON制御時に、例えば、ピストン油圧室34(流体伝達機構空間部A)に作動油を供給し、作動流体流路33(クラッチ空間部B)からトルクコンバータ1の外部に排出することで、作動流体流路33の油圧を相対的に低下させ、ピストン油圧室34の油圧を作動流体流路33の油圧よりも大きくする。これにより、油圧制御装置60は、ロックアップピストン31をフロントカバー10に接近する側(入力側)に移動させ、摩擦材35をフロントカバー内壁面36と接触させ、この摩擦係合部32を介してフロントカバー10とロックアップピストン31とを摩擦係合させて、フロントカバー10とロックアップピストン31とを一体回転させる。
また、油圧制御装置60は、ロックアップクラッチ機構30のOFF制御時に、例えば、作動流体流路33(クラッチ空間部B)に作動油を供給し、ピストン油圧室34(流体伝達機構空間部A)からトルクコンバータ1の外部に作動油を排出することで、作動流体流路33の油圧をピストン油圧室34の油圧よりも大きく、あるいは同等とする。これにより、油圧制御装置60は、ロックアップピストン31をフロントカバー10から離間する側(出力側)に移動させ、フロントカバー内壁面36と摩擦係合していた摩擦材35をフロントカバー内壁面36から離間させ、摩擦係合を解除し非係合状態とし、ロックアップピストン31とフロントカバー10との一体回転を解除する。
ダンパー機構40は、フロントカバー10と出力軸50とを複数の弾性体としての複数のダンパースプリング41を介して相対回転可能に連結するものであり、軸方向に対してタービンシェル22aとロックアップピストン31との間に設けられる。ダンパー機構40は、複数の弾性体としての複数のダンパースプリング41と、保持部材42とを有する。本実施形態の保持部材42は、複数のダンパースプリング41を保持するものであり、中心保持部43bが設けられた中心保持プレート43と、第1サイド保持部44bが設けられた第1サイド保持プレート44と、第2サイド保持部45bが設けられた第2サイド保持プレート45とを含んで構成され、それぞれ、回転軸線Xと同軸の円環板状に形成される。ダンパー機構40は、軸方向に対して入力側から出力側に向かって、第1サイド保持プレート44、中心保持プレート43及び複数のダンパースプリング41、第2サイド保持プレート45の順番で配置されている。複数のダンパースプリング41は、例えば、複数のコイルスプリングであり、中心保持部43b、第1サイド保持部44b、第2サイド保持部45bにより動力伝達可能に保持され、中心保持プレート43と第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45との間で相互に動力を伝達する。第1サイド保持プレート44と第2サイド保持プレート45とは、不図示のリベットにより一体化されており、一体化された状態で中心保持プレート43に対して相対回転可能に設けられる。
ダンパー機構40は、ロックアップピストン31に伝達された動力を連結部37にて中心保持プレート43に伝達し、伝達した動力を中心保持部43bの周方向端部、ダンパースプリング41、第1サイド保持部44b及び第2サイド保持部45bの周方向端部を介して第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45に伝達する。そして、ダンパー機構40は、第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45に伝達された動力を第2サイド保持プレート45の径方向内側端部45aからハブ51を介して出力軸50に伝達する。したがって、ダンパー機構40は、中心保持プレート43に伝達された動力をダンパースプリング41を介して出力軸50に伝達することができる。この間、各ダンパースプリング41は、それぞれ、中心保持プレート43の中心保持部43bの周方向端部と第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45の第1サイド保持部44b、第2サイド保持部45bの周方向端部との間に保持されつつ、伝達される動力の大きさに応じて弾性変形する。
次に、本実施形態に係るトルクコンバータ1の基本的な動作について説明する。トルクコンバータ1は、エンジン3が動力を発生し、クランクシャフト4が回転すると、エンジン3からの動力がドライブプレート80を介してフロントカバー10に伝達される。フロントカバー10に伝達されたエンジン3からの動力は、フロントカバー10に連結されているポンプインペラ21のポンプシェル21aに伝達され、ポンプインペラ21が回転する。流体伝達機構空間部Aの作動油は、ポンプインペラ21が回転すると、ポンプブレード21bとタービンブレード22bとステータ23のステータブレード23aの間を循環し、流体継手として作用する。これにより、フロントカバー10に伝達されたエンジン3からの動力が、ポンプインペラ21及び作動油を介してタービンライナ22に伝達され、タービンライナ22がフロントカバー10と同一方向に回転する。このとき、ステータ23は、ステータブレード23aを介してポンプブレード21bとタービンブレード22bとの間を循環する作動油の流れを変化させ、これにより、このトルクコンバータ1は、所定のトルク特性を得ることができる。
そして、ロックアップクラッチ機構30のOFF時は、摩擦係合部32の摩擦係合が解除されている。したがって、上記のように作動油を介してタービンライナ22に伝達された動力は、ハブ51を介して出力軸50に伝達される。つまり、ロックアップクラッチ機構30のOFF時は、フロントカバー10に伝達された動力が流体伝達機構20を介して出力軸50に伝達される。
一方、ロックアップクラッチ機構30のON時は、摩擦係合部32が摩擦係合することで、フロントカバー10とロックアップピストン31とが一体回転する。したがって、フロントカバー10に伝達された動力は、摩擦係合部32を介してロックアップピストン31に伝達される。ロックアップピストン31に伝達された動力は、ダンパー機構40を介してハブ51に伝達される。つまり、ロックアップクラッチ機構30のON時は、フロントカバー10に伝達された動力がロックアップクラッチ機構30、ダンパー機構40及びハブ51を介して作動油を介さずに直接的に出力軸50に伝達される。
そして、ロックアップクラッチ機構30がOFF時からON時、あるいはON時からOFF時に切り替わる場合や、エンジン3からの動力が変動した場合、出力軸50に伝達される路面からの抵抗力が変動した場合などでは、フロントカバー10と出力軸50との間で伝達される力(エンジン3からの駆動力と路面から伝達される被駆動力)が変動し、ダンパー機構40を挟んで駆動側に位置するフロントカバー10と被駆動側に位置する出力軸50とが相対的に回転しようとする。このとき、ダンパー機構40の各ダンパースプリング41は、駆動側のフロントカバー10と、被駆動側の出力軸50との相対的な回転に伴って、フロントカバー10側と出力軸50側との間で伝達される力の変動に応じて、それぞれ、中心保持プレート43と第1サイド保持プレート44、第2サイド保持プレート45との間で弾性変形する。これにより、例えば、エンジン3の爆発に起因する振動を各ダンパースプリング41が吸収するので、ダンパー機構40を介した動力伝達時におけるこもり音などの振動を低減することができる。
ECU70は、マイクロコンピュータを中心として構成され、トルクコンバータ1やエンジン3、変速機5などが搭載された車両2の各所に取り付けられたセンサから入力された各種入力信号や各種マップなどに基づいて各部を制御する。ECU70は、油圧制御装置60に電気的に接続され、この油圧制御装置60の各種弁などの開閉制御などを実行する。ECU70は、油圧制御装置60を制御しピストン油圧室34(流体伝達機構空間部A)又は作動流体流路33(クラッチ空間部B)に対する作動油の供給、排出を制御することで、ロックアップクラッチ機構30のON・OFF制御やロックアップクラッチ機構30のスリップ制御を実行する。なお、本実施形態に係るトルクコンバータ1は、本発明の制御装置がECU70に組み込まれて構成され、すなわち、制御装置をECU70により兼用して構成するものとして説明するが、これに限らない。トルクコンバータ1は、本発明の制御装置がECU70とは別個に構成され、ECU70に接続するようにして構成されてもよい。
ところで、上記のよう構成されるトルクコンバータ1が適用される車両2では、例えば、動力源であるエンジン3の過給ダウンサイジング化により燃費の向上を図る場合がある。すなわち、過給ダウンサイジング化されたエンジン(過給ダウンサイジングエンジン)3は、相対的に小さい排気量、より少ない気筒数で構成された上でターボチャージャなどの過給機を適用することで、過給効果により排気量の減少分によるトルク不足を補う。これにより、エンジン3は、相対的に小さな排気量で相対的に大きな排気量の自然吸気(NA:Natural Aspiration)エンジンと同等の出力、トルクを実現する。
ここで、上記のように過給機が適用されたエンジン3は、例えば、アイドル運転状態からの発進時ではエンジン回転数が低く十分な過給圧が作用しにくい傾向にある。
図3は、過給ダウンサイジング化されたエンジン(過給DSエンジン)3と従来のNAエンジン(大型NAエンジン)とのエンジン性能を比較する図であり、横軸をエンジン回転数、縦軸をトルク(エンジントルク)としている。本図からも明らかのように、過給機が適用されたエンジン3は、過給圧が十分に作用している場合ではNAエンジンより大きなトルクを発生させることができるものの、過給圧が作用していない場合では従来のNAエンジンと比較して、発生させることができるトルクが小さい。このため、過給ダウンサイジング化されたエンジン3が適用された車両2では、エンジン回転数が上昇し排気ガス流量が増加し吸気通路に十分な過給圧が作用するまでは駆動トルクが不足し、発進に際しもたつきが生じるなど発進性能が低下するおそれがある。
このため、本実施形態のトルクコンバータ1は、流体伝達機構20のトルク比を従来のNAエンジンに適用されるトルクコンバータのトルク比などと比較して相対的に大きく設定し、これにより、発進時に流体伝達機構20にて増幅されるトルクを増加し、流体伝達機構20から出力軸50に伝達されるトルクを増加している。本実施形態のトルクコンバータ1は、流体伝達機構20のトルク比が相対的に大きくなるように、流体伝達機構20のポンプブレード21b、タービンブレード22b、ステータブレード23aの形状や位置関係が設定される。
またさらに、本実施形態のトルクコンバータ1は、流体伝達機構20のトルク容量を従来のNAエンジンに適用されるトルクコンバータのトルク容量と比較して相対的に小さく設定し、これにより、ポンプインペラ21からタービンライナ22に伝達される動力を少なくしポンプインペラ21を回転させる際の抵抗を少なくしている。そして、トルクコンバータ1は、ポンプインペラ21とタービンライナ22との間で滑りを発生させ、エンジン回転数が速く上昇するようにし早期に吸気通路に過給圧が作用するようにしている。本実施形態のトルクコンバータ1は、流体伝達機構20のトルク容量係数が相対的に小さくなるように、流体伝達機構20のポンプブレード21b、タービンブレード22b、ステータブレード23aの形状や位置関係が設定される。
なお、トルクコンバータ1は、上述のように、流体伝達機構20のトルク比が相対的に大きくなるように、流体伝達機構20のポンプブレード21b、タービンブレード22b、ステータブレード23aの形状や位置関係が設定されることで、結果的に流体伝達機構20のトルク容量係数が相対的に小さく設定されることとなる。また、トルクコンバータ1は、これに限らず、流体伝達機構20の外径(タービンライナ22の外径)φD(図1参照)を相対的に小さく設定することで、流体伝達機構20のトルク容量係数を相対的に小さく設定することもできる。
ここで、本実施例のトルクコンバータ1の代表特性は、一般的に下記の式(1)乃至(3)で定義され、また、後述する図5に示すように速度比eの関数として表すことができる。速度比eは、以下の式(4)で定義される。この式(1)乃至式(4)において、トルクコンバータ1の代表特性として、「η」は(伝達)効率、「t」はトルク比、「C」はトルク容量係数を表している。また、式(1)乃至式(4)において、「e」は速度比、「Tin」は入力軸トルク(例えば、入力部材であるフロントカバー10あるいはポンプインペラ21に生じるトルク)、「Tout」は出力軸トルク(例えば、出力部材である出力軸50あるいはタービンライナ22に生じるトルク)、「Nin」は入力軸回転数(例えば、入力部材であるフロントカバー10あるいはポンプインペラ21の回転数)、「Nout」は出力軸回転数(例えば、出力部材である出力軸50あるいはタービンライナ22の回転数)を表している。
η=e・t ・・・(1)
t=Tout/Tin ・・・(2)
C=Tin/(Nin)2 ・・・(3)
e=Nout/Nin ・・・(4)
そして、本実施形態のトルクコンバータ1は、流体伝達機構20のトルク比が相対的に大きく設定され、また、流体伝達機構20のトルク容量係数が相対的に小さく設定されることで、過給ダウンサイジング化されたエンジン3が適用された車両2であっても、発進時に流体伝達機構20にて増幅されるトルクが相対的に増加され、また、エンジン回転数が素早く上昇し早期に吸気通路に過給圧が作用するので、発進時に発進トルク(駆動トルク)が不足することを抑制することができ、発進に際しもたつきが生じるなど発進性能が低下することを抑制することができる。
一方、トルクコンバータ1は、上記のように流体伝達機構20のトルク比を相対的に大きく設定し、トルク容量係数を相対的に小さく設定すると、例えば急激なエンジントルクの上昇が生じた際に流体伝達機構20にてトルクが増幅されすぎて出力軸50から後段の変速機5に過剰なトルクが出力されるおそれがある。このため、このようなトルクコンバータ1は、例えば、上記のように動力源であるエンジン3の過給ダウンサイジング化を図った場合であっても適正な発進性能が実現されることが望まれている。
そこで、本実施形態のトルクコンバータ1は、流体伝達機構20がフロントカバー10に入力されたトルクを増幅して出力軸50から出力する運転状態である場合に、制御装置としてのECU70がトルク比可変制御を実行することで、適正な発進性能を実現している。
本実施形態のECU70は、流体伝達機構20がトルクを増幅して出力する運転状態である場合に、トルク比可変制御を実行するものである。ECU70は、摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節することでトルク比を可変とするトルク比可変制御を実行する。
ここで、ECU70が可変制御するトルクコンバータ1のトルク比は、出力軸50から出力されるトルクとフロントカバー10に入力されるトルクとの比である。このトルクコンバータ1では、流体伝達機構20のトルク比tbは各速度比において固定値とされているが、摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節することで以下のようにしてトルクコンバータ1全体でのトルク比tが可変制御される。
ここで、流体伝達機構20がトルクを増幅して出力する運転状態は、典型的には、車両2の発進時にトルクコンバータ1の流体伝達機構20がいわゆるコンバータ範囲で運転される状態に相当する。流体伝達機構20のトルク比tbは、後述する図5に示すように、速度比eが0のときに最大となり速度比eの増加に伴って減少し、クラッチ点以上ではほぼ1.0となる。コンバータ範囲とは、この速度比が0からクラッチ点までの速度比範囲であり、流体伝達機構20でトルクの増幅効果が得られる速度比範囲である。なお、速度比がクラッチ点から1までの速度比範囲をカップリング範囲(継手範囲)といい、すなわち、このカップリング範囲は、流体伝達機構20でトルクの増幅効果がない速度比範囲である。
本実施形態のECU70は、車両2の運転状態などに応じてトルク比可変制御の目標のトルク比である目標トルク比ttを設定し、トルクコンバータ1全体での実際のトルク比tが目標トルク比ttに収束するように摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節することでトルク比可変制御を実行し、車両2の運転状態などに応じてトルクコンバータ1全体でのトルク比tを変える。
本実施形態のECU70は、目標トルク比ttに基づいて、ロックアップクラッチ機構30のピストン油圧室34内の作動油の油圧(作動媒体の圧力)を調節することで、摩擦係合部32をなす摩擦材35とフロントカバー内壁面36との間に作用する押圧力を調節する。これにより、ECU70は、摩擦材35とフロントカバー内壁面36とのスリップ量を調節し、摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節してトルクコンバータ1全体での実際のトルク比tを調節する。言い換えれば、ECU70は、目標トルク比ttに基づいて、ロックアップクラッチ機構30のピストン油圧室34内の作動油の油圧を調節することで、フロントカバー10からロックアップクラッチ機構30の摩擦係合部32を介して出力軸50に伝達されるトルクを調節し、トルクコンバータ1全体での実際のトルク比tを任意の値に調節する。
ここで、ECU70は、油圧制御装置60からピストン油圧室34に作動油を供給すると共にこのピストン油圧室34と作動流体流路33との油圧を所定のバランスで維持することで、摩擦係合部32の摩擦材35とフロントカバー内壁面36とが接触しつつ相対回転しスリップする状態とすることができる。ECU70は、摩擦係合部32の摩擦材35とフロントカバー内壁面36とがスリップする状態、すなわち、半係合の状態とすることで、摩擦係合部32において解放と係合の中間の動力伝達状態が形成される。そして、ECU70は、ピストン油圧室34と作動流体流路33との油圧のバランス、すなわち、ピストン油圧室34の油圧を調節して、ピストン油圧室34と作動流体流路33と圧力差を調節することで、摩擦材35とフロントカバー内壁面36とのスリップ量を調節することができる。これにより、ECU70は、摩擦材35とフロントカバー内壁面36とのスリップ量を調節することで、フロントカバー10からロックアップクラッチ機構30の摩擦係合部32を介して出力軸50に伝達されるトルクの大きさを調節することができ、トルクコンバータ1全体での実際のトルク比tを調節することができる。
例えば、流体伝達機構20のトルク比tbを「2」、フロントカバー10に入力されるトルクを「1」と仮定する。この場合に、ロックアップクラッチ機構30をOFFとし摩擦係合部32をなす摩擦材35とフロントカバー内壁面36とを非係合状態とすると、フロントカバー10から摩擦係合部32を介して出力軸50に伝達されるトルクは「0」となる一方、フロントカバー10から流体伝達機構20を介して出力軸50に伝達されるトルクは、流体伝達機構20で「1」から「2」に増幅され出力軸50に伝達される。つまりこの場合、フロントカバー10に入力されたトルクは、トルクコンバータ1で「1」から「2」に増幅されて出力軸50から出力されることから、トルクコンバータ1全体でのトルク比tは流体伝達機構20のトルク比tbと同等の「2」となる。
一方、ロックアップクラッチ機構30の摩擦係合部32を半係合状態とし、摩擦材35とフロントカバー内壁面36とがスリップする状態とすると、フロントカバー10から摩擦係合部32を介して出力軸50に伝達されるトルクは摩擦材35とフロントカバー内壁面36とのスリップ量に応じた大きさ、例えば、「0.5」となる一方、フロントカバー10から流体伝達機構20を介して出力軸50に伝達されるトルクは、流体伝達機構20で「0.5」から「1」に増幅され出力軸50に伝達される。つまりこの場合、フロントカバー10に入力されたトルクは、トルクコンバータ1で「1」から「1.5」に増幅されて出力軸50から出力されることから、トルクコンバータ1全体でのトルク比tは「1.5」となる。
また、ロックアップクラッチ機構30をONとし摩擦係合部32をなす摩擦材35とフロントカバー内壁面36とを完全係合状態とすると、フロントカバー10から摩擦係合部32を介して出力軸50に伝達されるトルクは「1」となる一方、フロントカバー10から流体伝達機構20を介して出力軸50に伝達されるトルクは「0」となる。つまりこの場合、フロントカバー10に入力されたトルクは、トルクコンバータ1では増幅されずに「1」のまま出力軸50から出力されることから、トルクコンバータ1全体でのトルク比tは「1」となる。
ECU70は、上記のようにして、流体伝達機構20がトルクを増幅して出力する運転状態において、目標トルク比ttに基づいてピストン油圧室34の作動油の油圧を調節し、摩擦材35とフロントカバー内壁面36との間に作用する押圧力を調節し、摩擦材35とフロントカバー内壁面36とのスリップ量を調節し、摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節し、摩擦係合部32を介して出力軸50に伝達されるトルクを調節することで、トルクコンバータ1全体でのトルク比tを流体伝達機構20のトルク比tbから摩擦係合部32が完全に係合した際のトルク比である「1」との間で可変とする。
ここで、目標トルク比ttは、車両2の運転状態に応じてトルクコンバータ1の目標(理想)性能を満たすように設定され、これにより、トルクコンバータ1全体でのトルク比tは、車両2の運転状態に応じてトルクコンバータ1の目標性能を満たすよう変更される。各速度比において固定値として設定される流体伝達機構20のトルク比tbは、上述したように相対的に大きな値に設定された上で、ここでは、車両2の運転状態に応じて想定されうるトルクコンバータ1の目標性能に応じた目標トルク比tt以上の大きさに設定される。流体伝達機構20のトルク比tbは、車両2の一般的な運転状態で想定されうるトルクコンバータ1の目標性能に応じた目標トルク比ttの最大値と同等、あるいは、想定されうる目標トルク比ttの最大値に対して若干のマージンを持たせて設定され、目標トルク比ttは、この流体伝達機構20のトルク比tb以下でかつ「1」以上の値に設定される。つまり、目標トルク比ttは、tb≧tt≧1の範囲で、トルクコンバータ1が車両2の運転状態に応じた理想的な目標性能を発揮することができるように設定され、これに応じて摩擦係合部32の摩擦係合状態が調節されることでトルクコンバータ1全体でのトルク比tが変更される。
ECU70は、例えば、車両2の坂路発進時等の相対的に大きな駆動トルクが必要な場合には、摩擦係合部32をなす摩擦材35とフロントカバー内壁面36とを非係合状態としトルクコンバータ1全体でのトルク比tを最大のトルク比、すなわち、流体伝達機構20のトルク比tbとすることで、トルクコンバータ1は、車両2の運転状態に応じた理想的な目標性能を発揮することができ、例えば、発進に際しもたつきが生じることを抑制し車両2の発進性能が向上することができる。また、ECU70は、例えば、車両2の運転状態が急激なエンジントルクの上昇を発生させうるような運転状態である場合には摩擦係合部32をなす摩擦材35とフロントカバー内壁面36とを半係合状態あるいは完全係合状態としフロントカバー10に伝達されたトルクの一部を摩擦係合部32を介して伝達することでトルクコンバータ1全体での見かけ上のトルク容量が増加し、ポンプインペラ21に対するタービンライナ22の滑りを少なくすることができ、トルクコンバータ1全体でのトルク比tを適宜、流体伝達機構20のトルク比tbよりも小さな値に設定することができる。これにより、トルクコンバータ1は、車両2の運転状態に応じた理想的な目標性能を発揮することができ、例えば、出力軸50から後段の変速機5に過剰なトルクが出力されることを防止することができる。
具体的には、ECU70は、図1に示すように、目標トルク比設定部71と、目標油圧設定部72と、油圧制御部73と、取得・判定部74とを含んで構成される。
ここで、このECU70は、マイクロコンピュータを中心として構成され、処理部70a、記憶部70b及び入出力部70cを有し、これらは互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。入出力部70cにはトルクコンバータ1を含む車両2の各部を駆動する不図示の駆動回路、上述した各種センサが接続されており、この入出力部70cは、これらのセンサ等との間で信号の入出力を行なう。また、記憶部70bには、各部を制御するコンピュータプログラムが格納されている。この記憶部70bは、ハードディスク装置や光磁気ディスク装置、またはフラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ(CD-ROM等のような読み出しのみが可能な記憶媒体)や、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成することができる。処理部70aは、不図示のメモリ及びCPU(Central Processing Unit)により構成されており、少なくとも上述の目標トルク比設定部71と、目標油圧設定部72と、油圧制御部73と、取得・判定部74とを有している。ECU70による各種制御は、各部に設けられたセンサによる検出結果に基づいて、処理部70aが前記コンピュータプログラムを当該、処理部70aに組み込まれたメモリに読み込んで演算し、演算の結果に応じて制御信号を送ることにより実行される。その際に、処理部70aは、適宜記憶部70bへ演算途中の数値を格納し、また格納した数値を取り出して演算を実行する。なお、このトルクコンバータ1の各部を制御する場合には、前記コンピュータプログラムの代わりに、ECU70とは異なる専用のハードウェアによって制御してもよい。
そして、目標トルク比設定部71は、車両2の運転状態などに応じて目標トルク比ttを設定するものである。本実施形態の目標トルク比設定部71は、エンジン3の過給の遅れに応じて目標トルク比ttを設定する共に、さらに、トルクコンバータ1の出力軸50から出力されるトルクが伝達される動力伝達系での許容トルクTmaxに応じたトルク比となるように当該目標トルク比ttを設定する。
ここでは、目標トルク比設定部71は、例えば、エンジン3が発生させる実際の実エンジントルク(実機関トルク)と、出力軸50から出力されるトルクが伝達される動力伝達系である変速機5の変速段又は変速比と、出力軸50の回転速度とフロントカバー10の回転速度との比である速度比とに基づいて、目標トルク比ttを設定する。これにより、目標トルク比設定部71は、エンジン3の過給の遅れに応じ、かつ、動力伝達系の許容トルクTmaxに応じた目標トルク比ttを設定している。
具体的には、本実施形態の目標トルク比設定部71は、まず、過給の遅れがなく過給が行われた際にこのエンジン3が発生させると想定される目標エンジントルク(目標機関トルク)と、実際にエンジン3が発生させる実エンジントルク(実機関トルク)との偏差に応じて目標トルク比ttを設定する。目標トルク比設定部71は、目標エンジントルクと実エンジントルクとの偏差が相対的に大きい側では目標トルク比ttを相対的に大きなトルク比に設定し、当該偏差が相対的に小さい側では目標トルク比ttを相対的に小さなトルク比に設定する。すなわち、目標トルク比設定部71は、当該偏差が相対的に大きくなるほどトルクコンバータ1で増幅されるトルクが相対的に大きくなるように目標トルク比ttを設定し、当該偏差が相対的に小さくなるほどトルクコンバータ1で増幅されるトルクが相対的に小さくなるように目標トルク比ttを設定する。さらに言い換えれば、目標トルク比設定部71は、過給圧が十分に作用した際に想定される目標エンジントルクと実エンジントルクとの偏差分のトルクをトルクコンバータ1で増幅される分のトルクで補えるように、すなわち、トルクコンバータ1で増幅される分のトルクと偏差分のトルクとが同等になるように目標トルク比ttを設定する。
つまり、目標トルク比設定部71は、エンジン3の過給機の作動開始時点からエンジン回転数が上昇しこのエンジン回転数、あるいは、エンジン回転数に応じた過給圧が目標に達するまでの間、トルクコンバータ1のトルク比tが相対的に大きな値に設定されるように目標トルク比ttを設定し、トルクコンバータ1が生成するトルクを増幅させ、過給圧が十分に作用した際に想定される目標エンジントルクと実際のエンジントルクとの差分を補う。これにより、トルクコンバータ1は、エンジン3の過給遅れに応じた適正な発進性能を確保できる。
ここでは、目標トルク比設定部71は、例えば、図4に示す目標トルク比マップと、変速機5の変速段又は変速比と、速度比とに基づいて、目標エンジントルクと実エンジントルク(実機関トルク)との偏差に応じた目標トルク比ttを設定する。なお本実施形態では、変速機5は、複数のギヤ段(変速段)を有しており、種々の運転状態に応じて複数のギヤ段(変速段)のうちの1つが自動的に選択される有段変速機であるものとして説明する。
図4は、目標トルク比マップの一例を示す図である。目標トルク比設定部71は、例えば、図4の目標トルク比マップに基づいてエンジン3の過給の遅れに応じた目標トルク比ttを求める。この目標トルク比マップは、現在選択されているギヤ段(変速段)と現在の速度比との関係からエンジン3の過給の遅れに応じた目標トルク比ttを設定するためのものである。この目標トルク比マップは、横軸が速度比、縦軸がトルク比を示す。目標トルク比マップは、各ギヤ段における速度比と、流体伝達機構20のトルク比tbとクラッチトルク比tcl(=1)との間で可変とされる目標トルク比ttとの関係を記述したものである。目標トルク比マップは、ギヤ段と速度比と目標トルク比ttとの関係が予め設定され、記憶部70bに格納されている。
図4に例示する目標トルク比マップは、例えば、予め行った実験やシミュレーションの結果に基づいて、所定のギヤ段と所定の速度比との組み合わせに対して、車両2の運転状態に応じたトルクコンバータ1の目標(理想)性能を満たすように目標トルク比ttが設定されている。ここでは、目標トルク比マップは、予め行った実験やシミュレーションの結果に基づいて、ギヤ段と速度比と目標トルク比ttとの関係が、上述したように、エンジン3の過給の遅れに応じた目標トルク比tt、すなわち、過給圧が十分に作用した際に想定される目標エンジントルクと実際のエンジントルクとの偏差に応じた目標トルク比ttとなるような関係に設定される。
目標トルク比設定部71は、この図4に例示する目標トルク比マップに基づいて、現在選択されているギヤ段(変速段)と、現在の速度比とから目標トルク比ttを求める。この場合、目標トルク比設定部71は、例えば、変速機5から現在選択されているギヤ段情報を取得すると共に、車速センサ90(図1参照)が検出する車両2の車速とエンジン回転数センサ91(図1参照)が検出するエンジン3のエンジン回転数(クランクシャフト4の回転数)とを取得し、現在の車速と現在選択されているギヤ段情報とに基づいて、現在のエンジン回転数に応じた速度比を算出する。
なお、本実施形態では、目標トルク比設定部71は、目標トルク比マップを用いて目標トルク比ttを求めたが、本実施形態はこれに限定されない。目標トルク比設定部71は、例えば、目標トルク比マップに相当する数式に基づいて目標トルク比ttを求めてもよい。以下で説明するマップを用いた演算についても同様である。
そして、目標トルク比設定部71は、上記のように、エンジン3の過給の遅れに応じた目標トルク比ttを算出した上で、トルクコンバータ1の出力軸50から出力されるトルクが伝達される動力伝達系での許容トルクTmaxに応じて目標トルク比ttを修正し最終的な目標トルク比ttを算出する。
動力伝達系での許容トルクTmaxは、例えば、複数のギヤ段(変速段)を有する変速機5での許容トルクTmaxである。変速機5の許容トルクTmaxは、例えば、予め行った実験やシミュレーションの結果に基づいて、変速機5で許容できるトルクとして、各ギヤ段に応じてそれぞれ設定されている。目標トルク比設定部71は、変速機5から現在選択されているギヤ段情報を取得し、不図示の許容トルクマップに基づいて、現在選択されているギヤ段に応じた許容トルクTmaxを算出する。
そして、目標トルク比設定部71は、エンジン3の過給の遅れに応じて算出された目標トルク比ttと現在の実エンジントルクとを乗算し、乗算して得られたトルクが許容トルクTmax以下であるか否かを判定する。目標トルク比設定部71は、当該得られたトルクが許容トルクTmaxより大きいと判定した場合には、当該得られたトルクを許容トルクTmaxで上限ガードし、得られたトルクが許容トルクTmax以下となるように目標トルク比ttを修正する。
すなわち、目標トルク比設定部71は、例えば、下記の式(5)を満たすように、目標トルク比ttを算出する。この式(5)において、「tt」は目標トルク比、「Tmax」は選択されているギヤ段に応じた許容トルク、「Te」はエンジントルクを表している。
tt≦Tmax/Te ・・・(5)
この場合、目標トルク比設定部71は、種々の公知の手法により現在の実際のエンジントルクTeを算出すればよい。目標トルク比設定部71は、例えば、エンジン回転数センサ91(図1参照)が検出するエンジン3のエンジン回転数(クランクシャフト4の回転数)と、スロットル開度センサ92(図1参照)が検出するエンジン3のスロットル開度とに基づいて、エンジントルクマップ(不図示)から現在の実際のエンジントルクTeを算出する。そして、目標トルク比設定部71は、このエンジントルクTeを式(5)に代入して目標トルク比ttを算出する。これにより、トルクコンバータ1は、動力伝達系の許容トルクTmaxに応じた適正な発進性能を確保できる。
したがって、目標トルク比設定部71は、エンジン3が発生させる実際の実エンジントルク(実機関トルク)と、出力軸50から出力されるトルクが伝達される動力伝達系である変速機5の変速段又は変速比と、出力軸50の回転速度とフロントカバー10の回転速度との比である速度比とに基づいて、エンジン3の過給の遅れに応じ、かつ、動力伝達系の許容トルクTmaxに応じた目標トルク比ttを設定することができる。そして、目標トルク比設定部71は、算出した目標トルク比ttを目標油圧設定部72へ出力する。
目標油圧設定部72は、目標トルク比設定部71が設定した目標トルク比ttに基づいて、目標クラッチ係合油圧ptを設定するものである。目標クラッチ係合油圧ptは、目標トルク比ttを実現するためにロックアップピストン31に作用させる目標の油圧であり、ピストン油圧室34の油圧と作動流体流路33の油圧との目標の差分油圧である。
具体的には、目標油圧設定部72は、目標トルク比設定部71が設定した目標トルク比ttと、現在の実際のエンジントルクTeとに基づいて目標ピストン押圧力Ptを算出し、この目標ピストン押圧力Ptに基づいて目標クラッチ係合油圧ptを算出する。目標ピストン押圧力Ptは、目標トルク比ttを実現するために摩擦材35とフロントカバー内壁面36との間に作用させる目標の押圧力、すなわち、ロックアップピストン31を軸方向に沿ってフロントカバー10側に押す目標のピストン押圧力(目標のピストン推力)である。
ここで、トルクコンバータ1の各部に生じるトルクの基礎式は、下記の式(6)乃至(9)で表すことができる。また、ピストン押圧力Pは、下記の式(10)で表すことができる。この式(6)乃至(10)において、「Tp」はコンバータポンプトルク(ポンプインペラ21に生じるトルク)、「Tt」はコンバータタービントルク(タービンライナ22に生じるトルク)、「Tcl」はクラッチトルク(摩擦係合部32を介して出力軸50に伝達されるトルク)「Te」はエンジントルク(クランクシャフト4に生じるトルク)、「P」はピストン押圧力(ロックアップピストン31を軸方向に沿ってフロントカバー10側に押す力)を表している。また、式(6)乃至(10)において、「C」は流体伝達機構20のトルク容量係数、「N」はエンジン回転数(クランクシャフト4の回転数)、「tb」は流体伝達機構20のトルク比、「μ」はクラッチ摩擦係数(摩擦係合部32の摩擦面の摩擦係数)「R」はクラッチ代表半径(ロックアップピストン31の受圧面31cの半径)、「K」はクラッチ摩擦係数μとクラッチ代表半径Rとを乗算した値、「p」はクラッチ係合油圧(受圧面31cに摩擦係合部32を係合させるピストン押圧力を発生させる油圧、言い換えればピストン油圧室34の油圧と作動流体流路33の油圧との差分油圧)を表している。
Tp=C・N2 ・・・(6)
Tt=tb・C・N2 ・・・(7)
Tcl=μ・R・P=K・P ・・・(8)
Te=Tp+Tcl ・・・(9)
P=π・R2・p ・・・(10)
目標トルク比設定部71が設定した所定の目標トルク比ttを実現するためには、図4のトルクコンバータの各トルク比の一例を示す線図からも明らかなように、下記の式(11)を満たせばよい。なお、図4中、流体伝達機構20のトルク比tbは流体伝達機構20のコンバータ性能に相当し、目標トルク比ttは所定の運転状態におけるトルクコンバータ1の目標(理想)性能に相当し、クラッチトルク比tclはロックアップクラッチ機構30を介して伝達されるトルクのトルク比、すなわち「1」であり、ロックアップクラッチ機構30のクラッチ性能に相当する。
Tcl:Tp=(tb-tt):(tt-1) ・・・(11)
そして、クラッチトルクTcl及びコンバータポンプトルクTpは、下記の式(12)、(13)で表すことができる。
Tcl={(tb-tt)/(tb-1)}・Te ・・・(12)
Tp={(tt-1)/(tb-1)}・Te ・・・(13)
この結果、ピストン押圧力Pは、下記の式(14)で表すことができる。
P=(tb-tt)・{Te/(tb-1)} ・1/K ・・・(14)
目標油圧設定部72は、目標トルク比設定部71が設定した目標トルク比ttと現在の実際のエンジントルクTeとを上記の式(14)に代入することで、目標トルク比ttを実現するための目標ピストン押圧力Ptを算出する。目標油圧設定部72は、例えば、上述したようにスロットル開度とエンジン回転数とに基づいて、エンジントルクマップ(不図示)から現在の実際のエンジントルクTeを算出してもよいし、目標トルク比設定部71が算出した実エンジントルクTeを用いてもよい。
そして、目標油圧設定部72は、算出した目標ピストン押圧力Ptを下記の式(15)に代入することで、目標クラッチ係合油圧ptを算出する。
p=P/(π・R2) ・・・(15)
油圧制御部73は、目標油圧設定部72が設定した目標クラッチ係合油圧ptに基づいてピストン油圧室34の作動油の実際の油圧、ひいては、クラッチ係合油圧pを調節するものである。油圧制御部73は、油圧制御装置60を制御して、実際のクラッチ係合油圧pが目標クラッチ係合油圧ptに収束するようにピストン油圧室34又は作動流体流路33に対する作動油の供給、排出を制御しピストン油圧室34の作動油の油圧を調節する。
取得・判定部74は、トルク比可変制御で用いられる種々の情報を取得したり、種々の判定を行ったりするものである。
ここで、図5は、トルクコンバータ1の性能特性の一例を示す線図であり、横軸を速度比eとし、縦軸を効率η、トルク比t、トルク容量係数Cとしている。図6は、トルクコンバータ1と比較例との発進時動力性能を比較する図であり、横軸をエンジン回転数、縦軸をトルク(出力軸50に生じるトルク)としている。図7は、トルクコンバータ1と比較例との発進時の駆動トルクを比較する図であり、横軸を時間軸、縦軸をトルク(駆動輪9と路面との接点に作用する駆動トルク)としている。
なお、図5中、「ηcl」は、トルクコンバータ1のクラッチ効率を示している。また図5中に示すトルク容量係数Cは、いわゆる比入力トルクTμに応じた値である。また図5中、「η’」はトルク比が流体伝達機構20のトルク比tbより小さなトルク比の比較例に係るトルクコンバータの効率、「t’」は当該比較例に係るトルクコンバータのトルク比を示している。図6中、実線(太実線)L1は過給ダウンサイジング化されたエンジン3に本実施形態のトルクコンバータ1を適用した場合の発進時動力性能、実線(細実線)Lds1-0は過給ダウンサイジング化されたエンジン3において過給圧が十分に作用していないときのエンジントルク、一点鎖線(細一点鎖線)Lds2-0は過給ダウンサイジング化されたエンジン3において過給圧が十分に作用しているときのエンジントルク、点線(太点線)Lna1-0は排気量が相対的に大きく設定された従来のNAエンジンのエンジントルク、点線(細点線)Lds1-1は過給ダウンサイジング化されたエンジン3において過給圧が十分に作用しておらず従来のトルクコンバータによりトルク増幅される場合の発進時動力性能、点線(細点線)Lds1-2は過給ダウンサイジング化されたエンジン3において過給圧が十分に作用しておらずかつトルクコンバータにより相対的に大きなトルク比でトルク増幅される場合の発進時動力性能、二点鎖線Lds2-1は過給ダウンサイジング化されたエンジン3において過給圧が十分に作用しておりかつトルクコンバータにより相対的に大きなトルク比でトルク増幅される場合の発進時動力性能、一点鎖線(太一点鎖線)Lna1-1は排気量が相対的に大きく設定された従来のNAエンジンにおいてトルクコンバータにより相対的に小さなトルク比でトルク増幅される場合の発進時動力性能を示している。また、図6中、実線(細実線)e1は速度比e=0でのトルクコンバータ1の特性、実線(細実線)e2は速度比e=0.5でのトルクコンバータ1の特性、実線(細実線)e3は速度比e=0.7でのトルクコンバータ1の特性、実線(細実線)e4は速度比e=0.9でのトルクコンバータ1の特性、点線(細点線)Tmaxは許容トルクを示している。図7中、実線Aは過給ダウンサイジング化されたエンジン3に本実施形態のトルクコンバータ1を適用した車両2の発進時の駆動トルクを模式的に示し、実線Bは排気量が相対的に大きく設定された従来のNAエンジンに相対的に小さなトルク比に設定されたトルクコンバータを適用した車両の発進時の駆動トルクを模式的に示している。
上記のように構成されるトルクコンバータ1は、コンバータ範囲において、目標トルク比ttに基づいてクラッチ係合油圧pを調節し、ピストン押圧力Pを調節し、摩擦材35とフロントカバー内壁面36とのスリップ量を調節し、摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節し、クラッチトルクTclを調節する。これにより、トルクコンバータ1は、図5に示すように、トルクコンバータ1全体でのトルク比tを種々の運転状態に応じて流体伝達機構20のトルク比tbから摩擦係合部32が完全に係合した際のクラッチトルク比tclである「1」との間で可変とすることができる。
そして、図6からも明らかのように、本実施形態のトルクコンバータ1が適用された車両2においては出力軸50に生じるトルクが相対的に大きくなっている。トルクコンバータ1が適用された車両2においては、低回転域にて出力軸50に生じるトルクが従来のNAエンジンに相対的に小さなトルク比に設定されたトルクコンバータを適用した車両などと比較して相対的に小さくなっているが、上述のように流体伝達機構20のトルク容量係数Cが相対的に小さく設定されることでエンジン回転数が素早く上昇し早期に吸気通路に過給圧が作用するので、実際には図7に示すように、発進からの時間経過に伴った駆動トルクの上昇は本実施形態のトルクコンバータ1が適用された車両2の方が相対的に大きくなり、すなわち、発進性能が向上する。
そして、本実施形態のトルクコンバータ1は、流体伝達機構20がフロントカバー10に入力されたトルクを増幅して出力軸50から出力する運転状態である場合に、ECU70が車両2の運転状態に応じてトルク比可変制御を実行し、例えば、エンジン3の過給の遅れが発生する場合や大きな駆動トルクが必要な場合には、トルクコンバータ1全体でのトルク比tを相対的に大きな値に設定することで、トルクコンバータ1が車両2の運転状態に応じた理想的な目標性能を発揮することができ、例えば、発進時のトルク不足を解消し、発進に際しもたつきが生じることを抑制し車両2の発進性能が向上することができ、運転状態に応じた適正な発進性能を実現することができる。また、トルクコンバータ1は、例えば、車両2の運転状態が急激なエンジントルクの上昇を発生させうるような運転状態である場合にはトルクコンバータ1全体でのトルク比tを相対的に小さな値に設定することで、トルクコンバータ1が車両2の運転状態に応じた理想的な目標性能を発揮することができ、例えば、出力軸50から後段の変速機5に過剰なトルクが出力されることを防止することができ、運転状態に応じた適正な発進性能を実現することができる。
次に、図8のフローチャートを参照して、本実施形態に係るトルクコンバータ1のトルク比可変制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。
まず、ECU70の取得・判定部74は、アイドルスイッチがON状態であるか否かを判定する(S100)。アイドルスイッチは、例えばスロットル開度センサ92と兼用されており、取得・判定部74は、アイドルスイッチとして兼用されるスロットル開度センサ92からアイドル制御ONのアイドル信号が出力されている場合(例えばスロットル開度が全閉状態である場合)にアイドルスイッチがON状態であると判定する。
取得・判定部74は、S100にてアイドルスイッチがON状態でないと判定した場合(S100:No)、エンジン回転数センサ91、スロットル開度センサ92が計測したエンジン3のエンジン回転数、スロットル開度を取得する(S102)。
次に、ECU70の目標トルク比設定部71は、S102で取得・判定部74が取得したエンジン回転数とスロットル開度とに基づいてエンジントルクマップ(不図示)から現在の実際のエンジントルクTeを算出する(S104)。
次に、取得・判定部74は、車速センサ90が計測した車両2の車速、変速機5で現在選択されているギヤ段情報を取得する(S106)。
次に、目標トルク比設定部71は、S106で取得・判定部74が取得した車速と現在選択されているギヤ段情報とに基づいて、S102で取得・判定部74が取得したエンジン回転数に応じた速度比eを算出する(S108)。
次に、目標トルク比設定部71は、図4に例示する目標トルク比マップに基づいて、S106で取得・判定部74が取得した現在選択されているギヤ段情報と、S108で算出した速度比eとから目標トルク比ttを算出する。そして、目標トルク比設定部71は、不図示の許容トルクマップに基づいて、S106で取得・判定部74が取得した現在選択されているギヤ段情報に応じた許容トルクTmaxを算出すると共に、この許容トルクTmaxとS104で算出したエンジントルクTeとを上述した式(5)に代入した上で、上記で算出した目標トルク比ttがこの式(5)を満たすように修正し、最終的に目標トルク比ttを設定する(S110)。
次に、目標油圧設定部72は、S110で目標トルク比設定部71が設定した目標トルク比ttと、S104で目標トルク比設定部71が算出したエンジントルクTeとを上述した式(14)に代入し、目標ピストン押圧力Ptを算出する(S112)。
そして、目標油圧設定部72は、S112で算出した目標ピストン押圧力Ptを上述した式(15)に代入し目標クラッチ係合油圧ptを算出し、油圧制御部73は、クラッチ制御として油圧制御装置60を制御し、実際のクラッチ係合油圧pがこの目標クラッチ係合油圧ptに収束するようにピストン油圧室34又は作動流体流路33に対する作動油の供給又は排出の指示を出力し(S114)、これにより、トルク比tを変更して、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
目標油圧設定部72は、S100にて取得・判定部74によりアイドルスイッチがON状態であると判定された場合(S100:Yes)、目標クラッチ係合油圧ptを摩擦材35とフロントカバー内壁面36とを非係合状態とするクラッチOFF油圧poffに設定し、油圧制御部73は、クラッチ制御として油圧制御装置60を制御し、実際のクラッチ係合油圧pをクラッチOFF油圧poffで保持する指示を出力し(S116)、これにより、摩擦係合部32をなす摩擦材35とフロントカバー内壁面36とを非係合状態として、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1によれば、フロントカバー10に伝達された動力を作動油を介して出力軸50に伝達可能な流体伝達機構20と、フロントカバー10に伝達された動力を摩擦係合部32を介して出力軸50に伝達可能なロックアップクラッチ機構30と、流体伝達機構20がフロントカバー10に入力されたトルクを増幅して出力軸50から出力する運転状態である場合に、摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節することで出力軸50から出力されるトルクとフロントカバー10に入力されるトルクとの比であるトルク比を可変とするトルク比可変制御を実行可能なECU70とを備える。
したがって、トルクコンバータ1は、ECU70が車両2の運転状態などに応じて摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節しトルクコンバータ1全体でのトルク比tを可変とするトルク比可変制御を実行することで、車両2の運転状態に応じた理想的な目標性能を発揮することができ、適正な発進性能を実現することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1によれば、ECU70は、流体伝達機構20及びロックアップクラッチ機構30を搭載する車両2の運転状態に応じて設定されるトルク比可変制御の目標値に基づいて摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節する。したがって、トルクコンバータ1は、トルク比可変制御の目標値、ここでは、目標トルク比に基づいて、実際のトルク比がこの目標トルク比に収束するように摩擦係合部32の摩擦係合状態が調節されることで、車両2の運転状態に応じた目標のトルク比に設定することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1によれば、ECU70は、出力軸50から出力されるトルクが伝達される動力伝達系での許容トルクに応じてトルク比を変える。したがって、トルクコンバータ1は、動力伝達系、ここでは、変速機5の許容トルクTmaxに応じてトルク比が設定されることで、出力軸50から過剰なトルクが出力されることを防止することができる。また、トルクコンバータ1は、過剰トルクが出力されることを防止することができることから、過剰トルクにそなえて駆動系を必要以上に補強する必要がないので、トルクコンバータ1の製造コストを低減することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1によれば、フロントカバー10に伝達される動力を発生させる動力源は、過給機が排気ガスを利用して吸気通路の吸入空気の圧力を上昇させ過給を行うエンジン3であり、ECU70は、エンジン3の過給の遅れに応じてトルク比を変える。したがって、トルクコンバータ1は、エンジン3の過給の遅れに応じてトルク比が設定されることで、エンジン3の過給遅れにかかわらず発進トルクが不足することを抑制することができ、発進に際しもたつきが生じることを抑制することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1によれば、ECU70は、過給の遅れがなく過給が行われた際にエンジン3が発生させると想定される目標エンジントルク(目標機関トルク)と実際にエンジン3が発生させる実エンジントルク(実機関トルク)との偏差に応じてトルク比を変える。したがって、トルクコンバータ1は、エンジン3の過給機の作動開始時点から過給圧が適正な大きさに達するまでの間、過給圧が十分に作用した際に想定される目標エンジントルクと実際のエンジントルクとの偏差分のトルクをトルクコンバータ1で増幅される分のトルクで補うことができることから、エンジン3の過給の状態にかかわらず過不足なく発進トルクを確保することができ、常に良好な発進性能を確保することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1によれば、ECU70は、エンジン3が発生させる実際の実エンジントルクと、出力軸50から出力されるトルクが伝達される変速機5の変速段又は変速比、ここではギヤ段(変速段)と、出力軸50の回転速度とフロントカバー10の回転速度との比である速度比とに応じてトルク比を変える。したがって、トルクコンバータ1は、実エンジントルクと選択されているギヤ段と速度比とに基づいて車両2の運転状態や運転者の操作に応じた適正なトルク比とすることができ、例えば、エンジン3の過給の遅れに応じ、かつ、動力伝達系の許容トルクTmaxに応じたトルク比に設定することができることから、過剰トルクの抑制とトルク不足の抑制とを両立することができ、良好な発進性能を確保しつつ、過剰なトルクの発生を抑制することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1によれば、実エンジントルクは、エンジン3のスロットル開度とエンジン3のエンジン回転数(機関回転数)とに基づいて算出され、速度比は、変速機5の変速段又は変速比、ここではギヤ段(変速段)と、車両2の車速とに基づいて算出される。したがって、トルクコンバータ1は、スロットル開度、エンジン回転数、ギヤ段(変速段)、車速などに応じて適正なトルク比とすることができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1によれば、ECU70は、ロックアップクラッチ機構30のピストン油圧室34内の作動油の圧力、ひいては、クラッチ係合油圧pを調節することで、摩擦係合部32をなす一方の摩擦面である摩擦材35と他方の摩擦面であるフロントカバー内壁面36との間に作用する押圧力であるピストン押圧力Pを調節し、摩擦材35とフロントカバー内壁面36とのスリップ量を調節しトルク比を調節する。したがって、トルクコンバータ1は、クラッチ係合油圧pを調節する簡単な制御で摩擦係合部32を介して出力軸50に伝達されるトルクの大きさを調節することができ、トルクコンバータ1全体でのトルク比tを変更することができる。
なお、以上で説明したトルクコンバータ1では、制御装置としてのECU70は、トルク比可変制御における目標のトルク比である目標トルク比ttと実際のトルク比tとの偏差に応じて作動油の圧力であるクラッチ係合油圧pの変化速度を設定するように構成してもよい。例えば、ECU70は、目標トルク比ttと実際のトルク比tとの偏差が相対的に大きい場合、例えば、過給の遅れがなく過給が行われた際にエンジン3が発生させると想定される目標エンジントルクと実際にエンジン3が発生させる実エンジントルクとの偏差が相対的に大きい場合に、クラッチ係合油圧pの変化速度を相対的に大きく設定する。一方、ECU70は、目標トルク比ttと実際のトルク比tとの偏差が相対的に小さい場合、例えば、目標エンジントルクと実エンジントルクとの偏差が相対的に小さい場合に、クラッチ係合油圧pの変化速度を相対的に小さく設定する。これにより、トルクコンバータ1は、例えば、目標トルク比ttと実際のトルク比tとの偏差が大きい場合に実際のトルク比tを追従性よく早期に目標トルク比ttに収束させることができると共に、目標トルク比ttと実際のトルク比tとの偏差が小さい場合に実際のトルク比tが目標トルク比ttに対してオーバーシュートすることを防止することができ、過剰トルクの抑制とトルク不足の抑制とをより確実に両立することができる。
[実施形態2]
図9は、本発明の実施形態2に係るトルクコンバータのトルク比可変制御を説明するフローチャートである。実施形態2に係る流体伝達装置は、実施形態1に係る流体伝達装置と略同様の構成であるが予測に基づいてトルク比を変える点で実施形態1に係る流体伝達装置とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。また、実施形態2に係る流体伝達装置の各構成については、図1等を参照する。
本実施形態に係る流体伝達装置としてのトルクコンバータ201は、制御装置としてのECU70が油圧制御装置60や各種油路を含む油圧制御系における作動油の油圧(作動媒体の圧力)の応答遅れに応じてピストン油圧室34内の作動油の油圧、ひいてはクラッチ係合油圧pを設定する。ここでは、ECU70は、油圧制御系における作動油の油圧の応答遅れ時間に応じてエンジン3の状態を予測し、トルク比可変制御における制御値を先読みして設定し、エンジン3の状態に応じてタイミングを合わせて当該トルク比可変制御を実行する。
具体的には、ECU70は、エンジン3のスロットル開度とエンジン回転数とに基づいて所定時間後のエンジン3の状態を予測し、当該予測されたエンジン3の状態に応じて、油圧制御系における作動油の油圧の応答遅れを反映させたクラッチ係合油圧pを設定し、トルク比tを変える。つまり、ECU70は、発進過渡運転時にエンジン回転数、スロットル開度やこれらの単位時間当たりの変化量などに基づいてフィードフォワード制御的にトルク比可変制御の目標値を設定する。ここで、所定時間は、作動油の油温やトルクコンバータ201、エンジン3を含む車両2の運転状態に応じて変化する油圧制御系の応答遅れ時間に応じた時間であり、例えば、作動油の油温や車両2の運転状態を表す種々のパラメータに応じて、不図示の油圧応答遅れマップから算出される。
次に、図9のフローチャートを参照して、本実施形態に係るトルクコンバータ201のトルク比可変制御の一例を説明する。なお、ここでも実施形態1のトルクコンバータ1と同様なステップについてはその説明をできるだけ省略する。
目標トルク比設定部71は、取得・判定部74がエンジン回転数、スロットル開度を取得した後(S102)、作動油の油温やトルクコンバータ201、エンジン3を含む車両2の運転状態を表す種々のパラメータに応じて、不図示の油圧応答遅れマップから油圧の応答遅れ時間に応じた所定時間Δtを算出する。そして、目標トルク比設定部71は、取得・判定部74が取得したエンジン回転数、スロットル開度やこれらの単位時間当たりの変化量などに基づいて、所定時間Δt秒後のエンジン回転数を予測的に算出し、エンジントルクマップ(不図示)からΔt秒後の実際のエンジントルクTeを予測的に算出する(S204)。
また、目標トルク比設定部71は、取得・判定部74が車速、現在選択されているギヤ段情報を取得した後(S106)、取得・判定部74が取得した車速と現在選択されているギヤ段情報とに基づいて、所定時間Δt秒後のエンジン回転数に応じた所定時間Δt秒後の速度比eを予測的に算出する(S208)。
そして、目標トルク比設定部71は、現在選択されているギヤ段情報、所定時間Δt秒後の速度比e、Δt秒後の実際のエンジントルクTeなどに基づいてΔt秒後の目標トルク比ttを設定する(S210)。
次に、目標油圧設定部72は、S210で目標トルク比設定部71が設定したΔt秒後の目標トルク比ttと、S204で目標トルク比設定部71が算出したΔt秒後のエンジントルクTeとを上述した式(14)に代入し、Δt秒後の目標ピストン押圧力Ptを算出する(S212)。
そして、目標油圧設定部72は、S212で算出したΔt秒後の目標ピストン押圧力Ptを上述した式(15)に代入し、油圧制御系における作動油の油圧の応答遅れに応じたΔt秒後の目標クラッチ係合油圧ptを算出し、油圧制御部73は、クラッチ制御として油圧制御装置60を制御し、所定時間Δt秒後の実際のクラッチ係合油圧pがこのΔt秒後の目標クラッチ係合油圧ptに収束するようにピストン油圧室34又は作動流体流路33に対する作動油の供給又は排出の指示を出力し(S214)、これにより、トルク比tを変更して、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ201によれば、トルクコンバータ201は、ECU70が車両2の運転状態などに応じて摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節しトルクコンバータ201全体でのトルク比tを可変とするトルク比可変制御を実行することで、車両2の運転状態に応じた理想的な目標性能を発揮することができ、適正な発進性能を実現することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ201によれば、ECU70は、エンジン3のスロットル開度とエンジン回転数とに基づいて所定時間後のエンジン3の状態を予測し、当該予測されたエンジン3の状態に応じてトルク比を変える。したがって、トルクコンバータ201は、エンジン3の状態変化に対応した適切なトルク比可変制御を実行することができ、適正な発進性能が得られると共に、例えば、運転者による急激な操作によってエンジン3の状態が急激に変化した場合であってもトルクコンバータ201から過剰トルクが出力されることを確実に防止することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ201によれば、ECU70は、作動油の油圧の応答遅れに応じてピストン油圧室34の作動油の圧力ひいてはクラッチ係合油圧を設定する。したがって、トルクコンバータ201は、油圧制御系における作動油の油圧の応答遅れを踏まえた適切なトルク比可変制御を実行することができ、適正な発進性能が得られると共に、例えば、運転者による急激な操作によってエンジン3の状態が急激に変化した場合であってもトルクコンバータ201から過剰トルクが出力されることを確実に防止することができる。
なお、以上で説明したトルクコンバータ201では、制御装置としてのECU70は、作動油の油温やトルクコンバータ201、エンジン3を含む車両2の運転状態を表す種々のパラメータに応じて、不図示の油圧遅れ係数マップから油圧遅れ係数を算出し、この油圧遅れ係数を目標トルク比tt、目標クラッチ係合油圧ptあるいは目標ピストン押圧力Ptに乗算することで、作動油の油圧の応答遅れに応じてピストン油圧室34の作動油の圧力、クラッチ係合油圧を設定し、ひいてはトルク比を設定するようにしてもよい。この場合であっても、トルクコンバータ201は、油圧制御系における作動油の油圧の応答遅れを踏まえた適切なトルク比可変制御を実行することができ、適正な発進性能が得られると共に、トルクコンバータ201から過剰トルクが出力されることを確実に防止することができる。
[実施形態3]
図10は、本発明の実施形態3に係るトルクコンバータのトルク比可変制御を説明するフローチャートである。実施形態3に係る流体伝達装置は、実施形態2に係る流体伝達装置と略同様の構成であるが傾斜角度又は舵角に基づいてトルク比を変える点で実施形態2に係る流体伝達装置とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。また、実施形態3に係る流体伝達装置の各構成については、図1等を参照する。
本実施形態に係る流体伝達装置としてのトルクコンバータ301は、制御装置としてのECU70によって、車両2が位置する路面の傾斜角度又は車両2の舵角に応じてトルク比を変える。
ECU70は、傾斜角度センサ93(図1参照)が検出する車両2が位置する路面の傾斜角度、すなわち、路面勾配を取得する。また、ECU70は、舵角センサ94(図1参照)が検出する車両2の舵角を取得する。舵角センサ94は、例えば、ステアリング装置のステアリングホイールの操舵角や車両2の操舵輪の転舵角に基づいて車両2の舵角を検出する。なお、ECU70は、傾斜角度センサ93に代えて、例えば、ナビゲーションシステムやGPS(Global Positioning System)受信機を用いて路面勾配を示す情報である路面勾配情報(地図情報)を取得し、この路面勾配情報に基づいて車両2が位置する路面の路面勾配を検出するようにしてもよい。
具体的には、ECU70は、車両2が位置する路面の傾斜角度が相対的に大きい側ではトルク比tを相対的に大きな値に設定し、傾斜角度が相対的に小さい側ではトルク比tを相対的に小さな値に設定する。また、ECU70は、現在の車両2の舵角が相対的に大きい側ではトルク比tを相対的に大きな値に設定し、舵角が相対的に小さい側ではトルク比tを相対的に小さな値に設定する。これにより、トルクコンバータ301は、急な坂路や曲がり角での発進時など比較的に大きな発進トルクが要求される場合に発進トルクが不足することを抑制することができると共に、平坦路や直線での発進時など比較的に小さな発進トルクでも良好に発進できる場合に、余分な発進トルクが生じることを抑制することができる。
次に、図10のフローチャートを参照して、本実施形態に係るトルクコンバータ301のトルク比可変制御の一例を説明する。なお、ここでも実施形態1、2のトルクコンバータ1、201と同様なステップについてはその説明をできるだけ省略する。
取得・判定部74は、目標油圧設定部72がΔt秒後の目標ピストン押圧力Ptを算出した後(S212)、傾斜角度センサ93、舵角センサ94が計測した車両2が位置する路面の傾斜角度、車両2の舵角を取得する(S313a)。
次に、目標油圧設定部72は、S313aで取得・判定部74が取得した車両2が位置する路面の傾斜角度、車両2の舵角に基づいて、修正係数K1を算出する(S313b)。目標油圧設定部72は、例えば、不図示の修正係数マップから車両2が位置する路面の傾斜角度と車両2の舵角とに応じた修正係数K1を算出する。
次に、目標油圧設定部72は、S212で算出したΔt秒後の目標ピストン押圧力PtとS313bで算出した修正係数K1とを下記の式(16)に代入し、車両2が位置する路面の傾斜角度、車両2の舵角に応じて修正したΔt秒後の目標クラッチ係合油圧ptを算出する。油圧制御部73は、クラッチ制御として油圧制御装置60を制御し、所定時間Δt秒後の実際のクラッチ係合油圧pがこの車両2が位置する路面の傾斜角度、車両2の舵角に応じて修正したΔt秒後の目標クラッチ係合油圧ptに収束するようにピストン油圧室34又は作動流体流路33に対する作動油の供給又は排出の指示を出力し(S314)、これにより、トルク比tを変更して、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
p=K1・P/(π・R2) ・・・(16)
以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ301によれば、トルクコンバータ301は、ECU70が車両2の運転状態などに応じて摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節しトルクコンバータ301全体でのトルク比tを可変とするトルク比可変制御を実行することで、車両2の運転状態に応じた理想的な目標性能を発揮することができ、適正な発進性能を実現することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ301によれば、ECU70は、流体伝達機構20及びロックアップクラッチ機構30を搭載する車両2が位置する路面の傾斜角度又は車両2の舵角に応じてトルク比tを変える。したがって、トルクコンバータ301は、比較的に大きな発進トルクが要求される場合に発進トルクが不足することを抑制することができると共に、比較的に小さな発進トルクでも良好に発進できる場合に、余分な発進トルクが生じることを抑制することができ、これにより、燃費の向上と操縦安定性の向上とを両立することができる。
なお、以上で説明したトルクコンバータ301では、制御装置としてのECU70は、例えば、車両2が位置する路面の傾斜角度と車両2の舵角とに応じた修正係数K1を目標トルク比ttに乗算することで、トルク比tを傾斜角度、舵角に応じて変えるように構成してもよい。
[実施形態4]
図11は、本発明の実施形態4に係るトルクコンバータのトルク比可変制御を説明するフローチャートである。実施形態4に係る流体伝達装置は、実施形態3に係る流体伝達装置と略同様の構成であるが運転状態に応じてアイドル制御を切り替える点で実施形態3に係る流体伝達装置とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。また、実施形態4に係る流体伝達装置の各構成については、図1等を参照する。
本実施形態に係る流体伝達装置としてのトルクコンバータ401は、制御装置としてのECU70が車両2の運転状態に応じて複数種類のアイドル制御を切り替えて実行している。ECU70は、エンジン3の負荷を相対的に低く設定する低負荷アイドル制御と、エンジン3の負荷を相対的に高く設定する高負荷アイドル制御とを状況に応じて使い分けている。
具体的には、ECU70は、車両2の停止状態が継続すると予測される場合に、摩擦係合部32を非係合状態とした後、エンジン3の負荷を車両2の発進が予測される場合と比較して相対的に低下させる。すなわち、ECU70は、車両2の停止状態が継続すると予測される場合、例えば、アイドルスイッチがON状態であり、かつ、運転者により不図示のブレーキ操作部材が操作されブレーキスイッチ95(図1参照)がON状態であると判定された場合に、摩擦係合部32を非係合状態とし、エンジン3の負荷を相対的に低く設定する低負荷アイドル制御を実行する。一方、ECU70は、エンジン3の負荷を車両2の発進が予測される場合、例えば、ブレーキスイッチ95がOFF状態であると判定された場合に、エンジン3の負荷を相対的に高く設定する高負荷アイドル制御を実行する。
トルクコンバータ401は、車両2の停止状態が継続すると予測される場合に、摩擦係合部32が非係合状態とされることでトルクコンバータ401全体での見かけ上のトルク容量が減少することから、エンジン3の燃料噴射量を低減しエンジン3の負荷を相対的に低く設定しても失火等は発生しない。したがって、トルクコンバータ401は、車両2の停止状態が継続すると予測される場合に摩擦係合部32を非係合状態とし低負荷アイドル制御を実行することで、アイドル運転時の燃費を向上することができる。なお、トルクコンバータ401は、車両2の発進が予測される場合に、高負荷アイドル制御を実行し必要に応じて摩擦係合部32を半係合状態とすることで、適正なクリープトルクを発生させることもできる。
次に、図11のフローチャートを参照して、本実施形態に係るトルクコンバータ401のトルク比可変制御の一例を説明する。なお、ここでも実施形態1、2、3のトルクコンバータ1、201、301と同様なステップについてはその説明をできるだけ省略する。
取得・判定部74は、S100にてアイドルスイッチがON状態であると判定した場合(S100:Yes)、ブレーキスイッチ95がON状態であるか否かを判定する(S415)。
目標油圧設定部72は、取得・判定部74によりブレーキスイッチ95がON状態であると判定された場合(S415:Yes)、目標クラッチ係合油圧ptを摩擦材35とフロントカバー内壁面36とを非係合状態とするクラッチOFF油圧poffに設定し、油圧制御部73は、クラッチ制御として油圧制御装置60を制御し、実際のクラッチ係合油圧pをクラッチOFF油圧poffで保持する指示を出力し(S116)、これにより、摩擦係合部32をなす摩擦材35とフロントカバー内壁面36とを非係合状態とする。
そして、アイドル制御部としても機能する取得・判定部74は、エンジン3の負荷を相対的に低く設定する低負荷アイドル制御を実行(あるいは継続)し(S418)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
アイドル制御部としても機能する取得・判定部74は、S415にてブレーキスイッチ95がOFF状態であると判定した場合(S415:No)、エンジン3の負荷を相対的に高く設定する高負荷アイドル制御を実行(あるいは継続)し(S420)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
なおここでは、取得・判定部74がアイドル制御部としても機能するものとして説明したが取得・判定部74とは別個にアイドル制御部を設けてもよい。
以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ401によれば、トルクコンバータ401は、ECU70が車両2の運転状態などに応じて摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節しトルクコンバータ401全体でのトルク比tを可変とするトルク比可変制御を実行することで、車両2の運転状態に応じた理想的な目標性能を発揮することができ、適正な発進性能を実現することができる。
さらに、以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ401によれば、ECU70は、流体伝達機構20及びロックアップクラッチ機構30を搭載する車両2の停止状態が継続すると予測される場合に、摩擦係合部32を非係合状態とし、フロントカバー10に伝達される動力を発生させる動力源であるエンジン3の負荷を車両2の発進が予測される場合と比較して相対的に低下させる。したがって、トルクコンバータ401は、エンジン3の失火等を防止しつつアイドル運転時の燃費を向上することができる。
なお、上述した本発明の実施形態に係る流体伝達装置は、上述した実施形態に限定されず、請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。本発明の実施形態に係る流体伝達装置は、以上で説明した実施形態を複数組み合わせることで構成してもよい。
以上の説明では、ロックアップクラッチ部は、摩擦係合部32が係合部材としてのロックアップピストン31に設けられる摩擦材35と入力部材としてのフロントカバー10のフロントカバー内壁面36とにより構成されるものとして説明したが、摩擦材35をフロントカバー内壁面36に設け、ロックアップピストン31において摩擦材35と軸方向に対向する壁面とこの摩擦材35により摩擦係合部32を構成するようにしてもよい。
以上の説明では、ロックアップクラッチ部は、係合部材としてのロックアップピストン31がダンパー機構40に対して軸方向に沿って相対移動可能に支持されることで、フロントカバー10に対して接近、離間し摩擦係合部32を介して摩擦係合可能であるものとして説明したがこれに限らない。例えば、ロックアップクラッチ部のロックアップピストン31は、ダンパー機構40全体がハブ51に対して軸方向に沿って相対移動可能に支持されることで、このダンパー機構40全体で一体となってフロントカバー10に対して接近、離間し摩擦係合部32を介して摩擦係合可能な構成であってもよい。また、ロックアップクラッチ部は、軸方向に対してフロントカバー10とダンパー機構40との間に設けられるものとして説明したが、これに限らない。
また、以上で説明した流体伝達装置は、摩擦係合部32をなす摩擦面の面積を相対的に大きくしたり多板化したりするなどして、この摩擦係合部32の熱耐久性を向上させる構成を備えているとよい。
以上の説明では、制御装置は、ロックアップクラッチ部の油圧室内の作動流体の圧力を調節することで、摩擦係合部をなす一方の摩擦面と他方の摩擦面との間に作用する押圧力を調節するものとして説明したが、これに限らず、例えば、電動のアクチュエータで押圧力を調節するようにしてもよい。この場合は、制御装置は、トルク比可変制御における目標値に基づいて、電動のアクチュエータへの供給電流量を調節することで最終的にトルク比を調節するようにすればよい。
以上で説明した目標トルク比ttの設定手法は上記の手法に限らない。制御装置は、例えば、図4に例示したようなマップを用いるのではなく、種々のセンサの検出信号に基づいて、過給の遅れがなく過給が行われた際にエンジン3が発生させると想定される目標エンジントルク(目標機関トルク)と、実際にエンジン3が発生させる実エンジントルク(実機関トルク)との偏差を実際に算出し、この偏差と許容トルクとに応じて目標トルク比ttを設定することで、動力伝達系での許容トルクに応じ、かつ、エンジン3の過給の遅れに応じた目標トルク比ttを設定し、これに基づいてトルク比tを変えるようにしてもよい。
以上の説明では、トルク比可変制御の目標値は、目標のトルク比である目標トルク比ttであるものとして説明したが、これに限らず、目標のクラッチ係合油圧である目標クラッチ係合油圧ptや目標のピストン押圧力である目標ピストン押圧力Ptであってもよい。なお、車両2の運転状態などに応じて目標クラッチ係合油圧ptや目標ピストン押圧力Ptを変えることは、車両2の運転状態などに応じて目標トルク比ttを変えることと実質的に同等である。