JP6123811B2 - ロックアップクラッチのスリップ制御装置 - Google Patents
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Description
本発明は、エンジンの出力トルクを変速機に伝達する流体式動力伝達装置に設けられたロックアップクラッチのスリップ量を制御することによって、流体式動力伝達装置の入力軸と出力軸の回転数の差を制御するロックアップクラッチのスリップ制御装置に関する。
一般に、エンジンの出力トルクを変速機に伝達するトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式動力伝達装置を備える車両には、流体式動力伝達装置でのトルクの流体損失を低減して燃費を向上させるために、ロックアップクラッチが設けられている。このロックアップクラッチは、流体式動力伝達装置に対して並列に配置され、完全係合時にエンジンと変速機とを直結する。ところが、低車速時にロックアップクラッチによってエンジンと変速機とを直結した場合、エンジンのトルク変動が変速機に直接伝達されるためにドライバビリティが悪化する。このため、通常、低車速時には、必要最小限のスリップ量でスリップさせながらロックアップクラッチを使用するロックアップクラッチのスリップ制御を実施することによって、燃費向上とドライバビリティの悪化抑制との両立を図るようにしている。
流体式動力伝達装置のトルク容量は、エンジン回転数、流体式動力伝達装置の出力軸の回転数(タービン回転数)、及び流体式動力伝達装置の入力軸と出力軸の回転数の差(スリップ回転数)に応じて非線形に変化する。このため、ロックアップクラッチのスリップ量を維持するために必要なロックアップクラッチのトルク容量(ロックアップクラッチの係合によって伝達されるトルクの大きさ)を算出するためには、流体式動力伝達装置の非線形特性を考慮する必要がある。このような背景から、従来までは、流体式動力伝達装置の非線形特性を高次のモデルにより同定し、高次のコントローラを用いて流体式動力伝達装置の非線形特性を考慮していた。しかしながら、高次のモデルを同定する作業や高次のコントローラを設計する作業は、複雑であり、多くの時間及び労力を要する。また、コントローラに含まれる高次のフィルタの係数は、実機の挙動と直接結びつかないために直感的に理解しにくく、結果、実機でチューニングすることは困難であった。
なお、このような問題点を解決するために、特許文献1には、ロックアップクラッチのスリップ量の制御手法を運転領域毎に切り換える技術が提案されている。具体的には、特許文献1記載の技術は、トルクコンバータのトルク容量係数と速度比との関係が非線形になる運転領域では、車両の運転状態に基づいてオープンループ制御によってロックアップクラッチのスリップ量を制御する。一方、トルクコンバータのトルク容量係数と速度比との関係が線形になる運転領域では、特許文献1記載の技術は、目標スリップ量と実スリップ量との差分に基づいてフィードバック制御によってロックアップクラッチのスリップ量を制御する。しかしながら、このような技術によれば、複数の運転領域毎に制御手法を網羅的にチューニングする必要があり、工数が膨大になる。また、運転者の様々な操作や環境バラツキ、固体バラツキまでを考慮すると、網羅的なチューニングは現実的な手法ではない。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、多くのコストを要することなく簡易な構成によりロックアップクラッチのトルク容量を算出してロックアップクラッチのスリップ量を全運転領域にわたって最適に制御可能なロックアップクラッチのスリップ制御装置を提供することにある。
本発明に係るロックアップクラッチのスリップ制御装置は、エンジン、変速機、エンジンと変速機との間に介装された流体式動力伝達装置、及び前記流体式動力伝達装置に設けられたロックアップクラッチを備える車両に搭載され、前記ロックアップクラッチのスリップ量を制御することによって前記流体式動力伝達装置の入力軸と出力軸の回転数の差を制御するロックアップクラッチのスリップ制御装置であって、前記流体式動力伝達装置の入力軸と出力軸の回転数の差の目標値と現在値又は推定値との差分である差分値、又は、前記エンジンの回転数の目標値と現在値又は推定値との差分である差分値を算出し、前記流体式動力伝達装置のトルク容量との間に相関関係がある入力パラメータの現在値における前記入力パラメータに対する前記流体式動力伝達装置のトルク容量の傾きを算出し、前記差分値に前記傾きを乗算することによってロックアップクラッチのトルク容量を算出し、算出されたトルク容量を用いて前記ロックアップクラッチのスリップ量を制御する制御部を備えることを特徴とする。
本発明に係るロックアップクラッチのスリップ制御装置は、上記発明において、前記制御部は、前記入力パラメータに対して前記流体式動力伝達装置のトルク容量が非線形に変化する運転領域において制御を実行することを特徴とする。
本発明に係るロックアップクラッチのスリップ制御装置は、上記発明において、前記入力パラメータは、前記エンジンの回転数、前記流体式動力伝達装置の出力軸の回転数、及び前記流体式動力伝達装置の入力軸と出力軸の回転数の差のうちのいずれかであることを特徴とする。
本発明に係るロックアップクラッチのスリップ制御装置によれば、流体式動力伝達装置の非線形特性をチューニングするのではなく、流体式動力伝達装置の非線形特性を線形特性に変換することによってロックアップクラッチのトルク容量を算出するので、多くのコストを要することなく簡易な構成によりロックアップクラッチのトルク容量を算出してロックアップクラッチのスリップ量を全運転領域にわたって最適に制御することができる。
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態であるロックアップクラッチのスリップ制御装置について説明する。
〔車両の構成〕
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態であるロックアップクラッチのスリップ制御装置が適用される車両の構成について説明する。
始めに、図1を参照して、本発明の一実施形態であるロックアップクラッチのスリップ制御装置が適用される車両の構成について説明する。
図1は、本発明の一実施形態であるロックアップクラッチのスリップ制御装置が適用される車両の構成を示す模式図である。図1に示すように、本発明の一実施形態であるロックアップクラッチのスリップ制御装置が適用される車両1は、エンジン2、変速機3、トルクコンバータ4、及びロックアップクラッチ5を主な構成要素として備えている。
エンジン2は、例えば気筒内に噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。なお、図中の符号ne,Teはそれぞれ、エンジン2の回転数(以下、エンジン回転数)及び出力トルクを表している。
変速機3は、トルクコンバータ4の出力トルクTcとロックアップクラッチ5の出力トルクTluとの和である出力トルクTtを変速した後、図示しない駆動輪に伝達する。変速機3としては、自動変速機(Automatic Transmission : AT)や無段変速機(Continuously Variable Transmission : CVT)等を例示できる。なお、図中の符号ntは、変速機3の入力軸(トルクコンバータ4の出力軸)の回転数であるタービン回転数を表している。
トルクコンバータ4は、エンジン2のクランク軸2aに連結された入力回転部材に相当するポンプ翼車4a及びタービン軸3aを介して変速機3に連結された出力回転部材に相当するタービン翼車4bを備え、流体を介して動力伝達を行う流体動力伝達装置である。本実施形態では、エンジン2と変速機3との間にトルクコンバータ4を配置したが、トルクコンバータ4の代わりにフルードカップリング等の流体式動力伝達装置を配置してもよい。なお、図中の符号Te1は、トルクコンバータ4の入力トルクを表している。
ロックアップクラッチ5は、その完全係合によってトルクコンバータ4の入力側と出力側とを機械的に直結し、トルクコンバータ4のポンプ翼車4aとタービン翼車4bとによる流体動力伝達機能を無効化させるものである。ロックアップクラッチ5は、制御装置10による制御によって、その係合状態が解放状態、スリップ係合状態(半係合状態)、及び完全係合状態の間で制御されるように構成されている。なお、図中の符号Te2は、ロックアップクラッチ5の入力トルクを表している。
〔本発明の概念〕
次に、図2から図6を参照して、本発明の概念について説明する。図2は、タービン回転数の変化に伴うエンジン回転数とトルクコンバータ4のトルク容量との関係の変化を示す概念図である。図3は、エンジン回転数の変化に伴うタービン回転数とトルクコンバータ4のトルク容量との関係の変化を示す概念図である。図4は、タービン回転数の変化に伴うスリップ回転数とトルクコンバータ4のトルク容量との関係の変化を示す概念図である。図5は、本発明の概念を説明するための模式図である。図6は、本発明におけるコントローラの構成を示すブロック図である。
次に、図2から図6を参照して、本発明の概念について説明する。図2は、タービン回転数の変化に伴うエンジン回転数とトルクコンバータ4のトルク容量との関係の変化を示す概念図である。図3は、エンジン回転数の変化に伴うタービン回転数とトルクコンバータ4のトルク容量との関係の変化を示す概念図である。図4は、タービン回転数の変化に伴うスリップ回転数とトルクコンバータ4のトルク容量との関係の変化を示す概念図である。図5は、本発明の概念を説明するための模式図である。図6は、本発明におけるコントローラの構成を示すブロック図である。
図2に示すように、エンジン回転数とトルクコンバータ4のトルク容量(以下、TCトルク容量と表記)との関係を示す特性線L1はタービン回転数の変化に伴い非線形に変化する。同様に、図3に示すように、タービン回転数とTCトルク容量との関係を示す特性線L2はエンジン回転数の変化に伴い非線形に変化する。同様に、図4に示すように、エンジン回転数とタービン回転数の差分であるスリップ回転数(トルクコンバータ4の入力軸と出力軸の回転数の差)とTCトルク容量との関係を示す特性線L3はタービン回転数の変化に伴い非線形に変化する。
このように、TCトルク容量は、エンジン回転数、タービン回転数、及びスリップ回転数に応じて非線形に変化する。このため、ロックアップクラッチ5のスリップ量を維持するために必要なロックアップクラッチ5のトルク容量を算出するためには、高次のモデルによりTCトルク容量を同定する必要がある。しかしながら、高次のモデルを同定する作業は、複雑であるために多くの時間及び労力を要する。
そこで、本発明では、図5(a)に示すように、ロックアップクラッチ5のスリップ量と相関関係がある入力パラメータ(エンジン回転数、タービン回転数、及びスリップ回転数)とTCトルク容量との関係を示す特性線L(L1〜L3)を複数の微小区間Δに分割し、各微小区間Δにおける特性線Lを直線で近似することによって、特性線Lを傾きが異なる複数の直線の式で表現する。より具体的には、図5(b)に示すように、制御装置10が、特性線Lを入力パラメータで偏微分することによって、入力パラメータの現在値における特性線Lの接線L’の傾きを算出する。
このような考えによれば、エンジン回転数ne及びタービン回転数ntの関数F(ne,nt)としてTCトルク容量を記述すると、TCトルク容量は以下に示す数式(1)のように表される。ここで、数式(1)中のa1,a2はそれぞれ、エンジン回転数neの現在値ne0におけるエンジン回転数とTCトルク容量との関係を示す特性線L1の傾き及びタービン回転数ntの現在値nt0におけるタービン回転数とTCトルク容量との関係を示す特性線L2の傾きを示す。また、b1は、任意の定数を示す。
また、同様に、スリップ回転数nslp及びタービン回転数ntの関数F(nslp,nt)としてTCトルク容量を記述すると、TCトルク容量は以下に示す数式(2)のように表される。ここで、数式(2)中のa3,a4はそれぞれ、スリップ回転数nslpの現在値nslp0におけるスリップ回転数とTCトルク容量との関係を示す特性線L3の傾き及びタービン回転数ntの現在値nt0におけるタービン回転数とTCトルク容量との関係を示す特性線L2の傾きを示す。また、b2は、任意の定数を示す。
そして、制御装置10が、算出された特性線Lの傾きにトルクコンバータ4の制御量(スリップ回転数又はエンジン回転数)の目標値(目標制御量)と現在値又は推定値(実制御量)との差を乗算した値の積分値にエンジン2及びトルクコンバータ4のイナーシャIを加算して制御ゲインを乗算した値をロックアップクラッチ5のトルク容量として算出する。制御装置10は、算出されたトルク容量に基づいてロックアップクラッチ5のスリップ量を制御する。
これにより、トルクコンバータ4の実制御量に内在する特性線Lの傾きの変動成分が相殺されるので、トルクコンバータ4の目標制御量の変化に対する実制御量の応答特性が特性線Lの傾きの変動(非線形特性)の影響を受けなくなる。また、この結果、制御ゲインは全運転領域で実制御量に対して同じ感度を有するようになるので、共通の制御ゲインを用いて全運転領域でロックアップクラッチ5のトルク容量を算出することができる。
図6は、上記の概念に基づき構築された本発明におけるコントローラの構成を示す模式図である。図6に示すように、上記の概念に基づいて構築された本発明におけるコントローラ21は、TCモデル傾き補正部21a及びゲイン乗算部21bを備えている。
TCモデル傾き補正部21aは、TCモデル22a又はトルクコンバータ4の実機22bから出力された実制御量と目標制御量との差分値に入力パラメータの現在値における特性線Lの傾きを乗算した値の積分値を算出し、積分値にエンジン2及びトルクコンバータ4のイナーシャを加算して出力する。入力パラメータの現在値における特性線Lの傾きは、例えば予め記憶されている入力パラメータの値毎の特性線Lの傾きを示すテーブルから入力パラメータの現在値に対応する傾きを読み出すことによって取得できる。
ゲイン乗算部21bは、TCモデル傾き補正部21aから出力された値に共通の制御ゲインKを乗算した値をロックアップクラッチ5のトルク容量として出力する。以後、制御装置10は、算出されたトルク容量に基づいてロックアップクラッチ5のスリップ量を制御する。
以上の説明から明らかなように、本発明では、高次のモデルを構築することによってトルクコンバータ4の非線形特性を考慮するのではなく、トルクコンバータ4の非線形特性を線形特性に変換することによってロックアップクラッチ5のトルク容量を算出するので、多くのコストを要することなく簡易な構成によりロックアップクラッチ5のトルク容量を算出してロックアップクラッチ5のスリップ量を全運転領域にわたって最適に制御することができる。
なお、上記制御を全ての運転領域で実行するのではなく、タービン回転数が小さい運転領域等、入力パラメータに対してトルクコンバータ4のトルク容量が非線形に変化する運転領域においてのみ制御するようにしてもよい。
〔実施形態〕
次に、図7から図11を参照して、上記本発明の概念に基づき想倒された本発明の一実施形態であるロックアップクラッチのスリップ制御装置について説明する。
次に、図7から図11を参照して、上記本発明の概念に基づき想倒された本発明の一実施形態であるロックアップクラッチのスリップ制御装置について説明する。
図7は、本発明の一実施形態であるロックアップクラッチのスリップ制御装置の構成を示す模式図である。図7に示すように、本発明の一実施形態であるロックアップクラッチのスリップ制御装置は、コントローラ21を備えている。コントローラ21は、TCモデル22aから出力されたトルクコンバータ4のスリップ回転数の推定値(以下、推定スリップ回転数)と目標値(以下、目標スリップ回転数)nslpaimとの差分を用いてロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出する。コントローラ21は、算出されたロックアップクラッチ5のトルク容量TluをTCモデル22aに出力すると共に、算出されたロックアップクラッチ5のトルク容量Tluに基づいてロックアップクラッチ5のスリップ量を制御する。
なお、本実施形態では、推定スリップ回転数と目標スリップ回転数nslpaimとの差分に基づいてロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出することとしたが、実エンジン回転数と目標エンジン回転数neaimとの差分に基づいてロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出してもよい。
ここで、TCモデル22aは、減算器22a1、減算器22a2、乗算器22a3、積分器22a4、演算器22a5、及び減算器22a6を備えている。
減算器22a1は、コントローラ21から出力されたロックアップクラッチ5のトルク容量とエンジン2の出力トルクとの差分値を算出し、算出された差分値を減算器22a2に出力する。
減算器22a2は、減算器22a1から出力された差分値と演算器22a5から出力されたトルクコンバータ4のトルク容量との差分値を算出し、算出された差分値を乗算器22a3に出力する。
乗算器22a3は、減算器22a2から出力された差分値にエンジン2とトルクコンバータ4のイナーシャIの逆数を乗算し、乗算値を積分器22a4に出力する。
積分器22a4は、乗算器22a3から出力された乗算値の積分値を算出し、算出された積分値をエンジン回転数の推定値として演算器22a5及び減算器22a6に出力する。
演算器22a5は、積分器22a4から出力されたエンジン回転数の推定値をトルクコンバータ4のトルク容量を表す関数F(ne,nt)に代入することによって、トルクコンバータ4のトルク容量を算出する。演算器22a5は、算出されたトルク容量を減算器22a2に出力する。
減算器22a6は、積分器22a4から出力されたエンジン回転数とタービン回転数との差分値を算出し、算出された差分値を推定スリップ回転数としてコントローラ21側に出力する。
なお、本実施形態では、トルクコンバータ4の実機の応答遅れや応答ばらつきを考慮せずにトルクコンバータ4のトルク容量を算出してフィードフォワード制御が可能なように、TCモデル22aから出力される推定スリップ回転数を制御に用いたが、TCモデル22aをトルクコンバータ4の実機22bに置き換え、実機22bから得られるスリップ回転数の現在値を用いてもよい。
図8は、図7に示すコントローラの構成を示す模式図である。図8に示すように、コントローラ21は、乗算器21a1、乗算器21a2、積分器21a3、及びゲイン乗算部21bを備えている。
乗算器21a1は、推定スリップ回転数と目標スリップ回転数nslpaimとの差分値にエンジン2及びトルクコンバータ4のイナーシャIを乗算する。乗算器21a1は、乗算値をゲイン乗算部21bに出力する。
乗算器21a2は、推定スリップ回転数と目標スリップ回転数nslpaimとの差分値に現在のエンジン回転数におけるエンジン回転数とトルクコンバータ4のトルク容量との関係を示す特性線L1の傾きa1を乗算する。乗算器21a2は、乗算値を積分器21a3に出力する。
積分器21a3は、乗算器21a2の乗算値の積分値を算出し、算出された積分値をゲイン乗算部21bに出力する。
ゲイン乗算部21bは、乗算器21a1から出力された乗算値と積分器21a3から出力された積分値との和にフィードバックゲインkfbを乗算した値をロックアップクラッチ5のトルク容量Tluとして算出する。ゲイン乗算部21bは、算出されたロックアップクラッチ5のトルク容量TluをTCモデル22aに出力すると共に、算出されたロックアップクラッチ5のトルク容量Tluに基づいてロックアップクラッチ5のスリップ量を制御する。
次に、数式を用いて、このような構成を有するコントローラ21において、目標スリップ回転数nslpaimの変化に対するエンジン回転数neの応答特性が特性線L1の傾きの変動の影響を受けなくなる理由について説明する。
いまコントローラ21をK(s)で表すと、コントローラ21から出力されるロックアップクラッチ5のトルク容量Tluは、以下に示す数式(3)のように表される。また、K(s)は以下に示す数式(4)のように表される。なお、数式(3)において、nslpaimは目標スリップ回転数、neはエンジン回転数、ntはタービン回転数を示す。また、数式(4)において、kfbはフィードバックゲイン、Iはエンジン2及びトルクコンバータ4のイナーシャ、a1は現在のエンジン回転数の推定値におけるエンジン回転数とトルクコンバータ4のトルク容量との関係を示す特性線L1の傾きを示す。
一方、TCモデル22aから出力されるエンジン回転数の推定値は以下に示す数式(5)で表される。なお、数式(5)において、Teはエンジン2の出力トルク、F(ne,nt)は数式(1)に示したトルクコンバータ4のトルク容量を示す関数である。
従って、数式(5)のTluに数式(3)を代入することにより以下に示す数式(6)が得られる。
次に、数式(6)の両辺にIsを乗算することにより以下に示す数式(7)が得られ、数式(7)中のK(s)に数式(4)を代入することにより以下に示す数式(8)が得られる。
次に、数式(8)中のF(ne,nt)に数式(1)を代入することにより以下に示す数式(9)が得られ、数式(9)を数式(10),数式(11)の順に整理し、数式(11)をエンジン回転数neの推定値について解くと数式(12)が得られる。
数式(12)の右辺第1項は、目標スリップ回転数nslpaimに対してエンジン回転数neの推定値が一定割合kfb/(s+kfb)で追従することを示している。すなわち、目標スリップ回転数nslpaimの変化に対するエンジン回転数neの応答特性が特性線L1の傾きa1の変動の影響を受けなくなる。これにより、図7,図8に示すコントローラ21によれば、非線形に変化するトルクコンバータ4のトルク容量の影響を受けずに共通のフィードバックゲインkfbによってロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出することができる。結果、多くのコストを要することなく簡易な構成によりロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出してロックアップクラッチ5のスリップ量を全運転領域にわたって最適に制御することができる。
〔変形例1〕
上記実施形態は、目標スリップ回転数nslpaimに対してエンジン回転数neの推定値を追従させる制御であったが、目標スリップ回転数nslpaimに対してスリップ回転数nslpの推定値を追従させる場合であっても、非線形に変化するトルクコンバータ4のトルク容量の影響を受けずに共通のフィードバックゲインkfbによりロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出できる。以下、スリップ回転数nslpの推定値に基づく制御について説明する。
上記実施形態は、目標スリップ回転数nslpaimに対してエンジン回転数neの推定値を追従させる制御であったが、目標スリップ回転数nslpaimに対してスリップ回転数nslpの推定値を追従させる場合であっても、非線形に変化するトルクコンバータ4のトルク容量の影響を受けずに共通のフィードバックゲインkfbによりロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出できる。以下、スリップ回転数nslpの推定値に基づく制御について説明する。
スリップ回転数nslpの推定値は、数式(5)により表されるTCモデル22aから出力されるエンジン回転数neの推定値を用いて以下に示す数式(13)で表される。
数式(13)に数式(3)を代入することにより数式(14)が得られ、数式(14)の両辺にIsを乗算することにより数式(15)が得られる。
ここで、スリップ回転数nslpの現在値nslp0におけるスリップ回転数とTCトルク容量との関係を示す特性線L3の傾きをa3とすると(数式(2)参照)、コントローラ21を表すK(s)は以下に示す数式(16)のように表される。
従って、数式(16)を数式(15)に代入することにより数式(17)が得られ、数式(17)に数式(2)を代入することによって数式(18)が得られる。
そして、数式(18)を数式(19)、数式(20)、数式(21)の順に整理し、数式(21)をスリップ回転数nslpの推定値について解くと数式(22)が得られる。
数式(22)の右辺第1項は、目標スリップ回転数nslpaimに対してスリップ回転数nslpの推定値が一定割合kfb/(s+kfb)で追従することを示している。すなわち、目標スリップ回転数nslpaimの変化に対するスリップ回転数nslpの推定値の応答特性が特性線L3の傾きa3の変動の影響を受けなくなる。これにより、本変形例によれば、非線形に変化するトルクコンバータ4のトルク容量の影響を受けずに共通のフィードバックゲインkfbによりロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出することができる。結果、多くのコストを要することなく簡易な構成によりロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出してロックアップクラッチ5のスリップ量を全運転領域にわたって最適に制御することができる。
〔変形例2〕
本変形例では、図9に示すように、ゲイン乗算部21bの出力側に積分器21cが配置されている。以下、図9に示す構成においても、非線形に変化するトルクコンバータ4のトルク容量の影響を受けずに共通のフィードバックゲインkfbによりロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出可能な理由について説明する。
本変形例では、図9に示すように、ゲイン乗算部21bの出力側に積分器21cが配置されている。以下、図9に示す構成においても、非線形に変化するトルクコンバータ4のトルク容量の影響を受けずに共通のフィードバックゲインkfbによりロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出可能な理由について説明する。
図9に示す構成では、コントローラK(s)は以下に示す数式(23)のように表される。このため、上記実施形態において説明した数式(8)は以下に示す数式(24)のように表される。
数式(24)に数式(1)を代入することにより数式(25)が得られ、数式(25)を数式(26),数式(27)の順に整理してエンジン回転数neの推定値について解くと数式(28)が得られる。
数式(28)の右辺第1項は、目標スリップ回転数nslpaimに対してエンジン回転数neの推定値が一定割合kfb/(s+kfb)で追従することを示している。すなわち、目標スリップ回転数nslpaimの変化に対するエンジン回転数neの応答特性が特性線L1の傾きa1の変動の影響を受けなくなる。これにより、本変形例においても、非線形に変化するトルク容量の影響を受けずに共通のゲインkfbによりロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出することができる。結果、多くのコストを要することなく簡易な構成によりロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出してロックアップクラッチ5のスリップ量を全運転領域にわたって最適に制御することができる。
〔変形例3〕
本変形例では、図10に示すように、図7に示すスリップ制御装置と図9に示すコントローラを備えるスリップ制御装置においてTCモデル22aをトルクコンバータ4の実機22bに置き換えたものとの組み合わせによって構成されている。本変形例では、図7に示すスリップ制御装置から出力されたロックアップクラッチ5のトルク容量Tluは、図9に示すコントローラが備える積分器21cの出力に加算されてトルクコンバータ4の実機22bに入力される。
本変形例では、図10に示すように、図7に示すスリップ制御装置と図9に示すコントローラを備えるスリップ制御装置においてTCモデル22aをトルクコンバータ4の実機22bに置き換えたものとの組み合わせによって構成されている。本変形例では、図7に示すスリップ制御装置から出力されたロックアップクラッチ5のトルク容量Tluは、図9に示すコントローラが備える積分器21cの出力に加算されてトルクコンバータ4の実機22bに入力される。
〔変形例4〕
本変形例では、図11に示すように、ゲイン乗算部21bはPID制御によってロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出する。すなわち、ゲイン乗算部21bは、乗算器21b1、乗算器21b2、積分器21b3、乗算器21b4、及び微分器21b5を備えている。
本変形例では、図11に示すように、ゲイン乗算部21bはPID制御によってロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出する。すなわち、ゲイン乗算部21bは、乗算器21b1、乗算器21b2、積分器21b3、乗算器21b4、及び微分器21b5を備えている。
乗算器21b1は、乗算器21a1の出力値と積分器21a3の出力値との和に比例制御(P制御)のゲインkpを乗算して比例演算を行う。乗算器21b2は、乗算器21a1の出力値と積分器21a3の出力値との和に積分制御(I)のゲインkiを乗算する。積分器21b3は、乗算器21b2の乗算値の積分値を算出する。乗算器21b4は、乗算器21a1の出力値と積分器21a3の出力値との和に微分制御(D制御)のゲインkdを乗算する。微分器21b5は、乗算器21b4の乗算値の時間微分値を算出する。
なお、本変形例では、PID制御によってロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出することとしたが、P制御、I制御、PI制御、PD制御のうちのいずれかの制御であってもよい。
以下、数式を用いて、本変形例においても、非線形に変化するトルクコンバータ4のトルク容量の影響を受けずに共通のゲインkp,ki,kdによりロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを制御可能な理由について説明する。
本変形例では、コントローラK(s)は以下に示す数式(29)のように表される。このため、上記実施形態において説明した数式(8)は以下に示す数式(30)のように表される。
数式(30)に数式(1)を代入することにより数式(31)が得られ、数式(31)を数式(32),数式(33)の順に整理してエンジン回転数neの推定値について解くと、数式(34)が得られる。
数式(34)の右辺第1項は、目標スリップ回転数nslpaimに対してエンジン回転数neの推定値が一定割合(kp*s+ki+kd*s2)/(kd*s2+(kp+1)*s+ki)で追従することを示している。すなわち、目標スリップ回転数nslpaimの変化に対するエンジン回転数neの応答特性が特性線L1の傾きa1の変動の影響を受けなくなる。これにより、本変形例においても、非線形に変化するトルク容量の影響を受けずに共通のゲインkp,ki,kdによりロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出することができる。結果、多くのコストを要することなく簡易な構成によりロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出してロックアップクラッチ5のスリップ量を全運転領域にわたって最適に制御することができる。
本実施例では、トルクコンバータ4のトルク容量の非線形特性を考慮しない場合と本発明を用いた場合とにおける、ロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを変化させることによって目標スリップ回転数nslpaimをα[rpm]から0[rpm]に変化させた際のタービン回転数の応答性及び収束性を評価した。
図12は、トルクコンバータ4のトルク容量の非線形特性を考慮しない場合におけるタービン回転数の応答性及び収束性の評価結果を示す図である。トルクコンバータ4のトルク容量の非線形特性を考慮しない場合、図12(b)に示すようにロックアップクラッチ5のトルク容量Tluをステップ状に変化させても、図12(a)に示すようにタービン回転数の応答性及び収束性はロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを変化させた時点におけるタービン回転数の大きさに応じて変化する。
これに対して、図13は、本発明を用いた場合におけるタービン回転数の応答性及び収束性の評価結果を示す図である。本発明を用いた場合には、図13(b)に示すようにロックアップクラッチ5のトルク容量Tluはタービン回転数に応じて変化する。このため、図13(a)に示すようにタービン回転数の応答性及び収束性はロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを変化させた時点におけるタービン回転数の大きさに関係なく同じになる。
以上のことから、本発明によれば、多くのコストを要することなく簡易な構成によりロックアップクラッチ5のトルク容量Tluを算出してロックアップクラッチ5のスリップ量を全運転領域にわたって最適に制御できること及びロックアップクラッチ5のスリップ量の制御の応答性及び収束性を向上できることが確認された。
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
1 車両
2 エンジン
3 変速機
4 トルクコンバータ
5 ロックアップクラッチ
10 制御装置
21 コントローラ
21a TCモデル傾き補正部
21b ゲイン乗算部
22a TCモデル
22b 実機
2 エンジン
3 変速機
4 トルクコンバータ
5 ロックアップクラッチ
10 制御装置
21 コントローラ
21a TCモデル傾き補正部
21b ゲイン乗算部
22a TCモデル
22b 実機
Claims (3)
- エンジン、変速機、エンジンと変速機との間に介装された流体式動力伝達装置、及び前記流体式動力伝達装置に設けられたロックアップクラッチを備える車両に搭載され、前記ロックアップクラッチのスリップ量を制御することによって前記流体式動力伝達装置の入力軸と出力軸の回転数の差を制御するロックアップクラッチのスリップ制御装置であって、
前記流体式動力伝達装置の入力軸と出力軸の回転数の差の目標値と現在値又は推定値との差分である差分値、又は、前記エンジンの回転数の目標値と現在値又は推定値との差分である差分値を算出し、前記流体式動力伝達装置のトルク容量との間に相関関係がある入力パラメータの現在値における前記入力パラメータに対する前記流体式動力伝達装置のトルク容量の傾きを算出し、前記差分値に前記傾きを乗算することによってロックアップクラッチのトルク容量を算出し、算出されたトルク容量を用いて前記ロックアップクラッチのスリップ量を制御する制御部を備える
ことを特徴とするロックアップクラッチのスリップ制御装置。 - 前記制御部は、前記入力パラメータに対して前記流体式動力伝達装置のトルク容量が非線形に変化する運転領域において制御を実行することを特徴とする請求項1に記載のロックアップクラッチのスリップ制御装置。
- 前記入力パラメータは、前記エンジンの回転数、前記流体式動力伝達装置の出力軸の回転数、及び前記流体式動力伝達装置の入力軸と出力軸の回転数の差のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載のロックアップクラッチのスリップ制御装置。
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