以下に、本発明に係る流体伝達装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係るトルクコンバータの要部断面図、図2は、実施形態1に係るトルクコンバータが適用された車両の駆動系の概略構成例を示す図、図3は、比較例に係るトルクコンバータの出力トルク特性について説明する図、図4は、実施形態1に係るトルクコンバータの可変容量制御について説明する図、図5は、実施形態1に係るトルクコンバータの係合制御を説明するフローチャート、図6は、実施形態1に係るトルクコンバータの係合マップ、図7は、実施形態1に係るトルクコンバータの係合油圧マップ、図8は、実施形態1に係るトルクコンバータの出力トルク特性について説明する図、図9は、実施形態1に係るトルクコンバータと比較例に係るトルクコンバータとを比較する図である。
図1に示す流体伝達装置としてのトルクコンバータ1は、図2に示すように、車両2の動力伝達経路において、走行用の動力源である内燃機関としてのエンジン3と変速機4との間に設けられる。車両2は、エンジン3がクランクシャフト5に機械的な動力(エンジントルク)を発生させ、この動力をトルクコンバータ1、変速機4、差動装置6、ドライブシャフト7などの動力伝達系統を介して駆動輪8に伝達される構成となっている。ここでは、エンジン3は、例えば、タービンおよびコンプレッサを有すると共に、エンジン3の排気ガスのエネルギをタービンにて取得してコンプレッサを駆動することで吸入空気の圧力(過給圧)を上昇させ過給を行う過給機が設けられたいわゆる過給エンジンである。
なお、以下の説明では、この流体伝達装置としてのトルクコンバータ1は、図1に示す出力軸50の回転軸線Xを中心軸線としてほぼ対称になるように構成されることから、この図1には、回転軸線Xを中心軸線として一方側のみを図示し、特に断りのない限り、回転軸線Xを中心軸線として一方側のみを説明し、他方側の説明はできるだけ省略する。また、以下の説明では、特に断りのない限り、回転軸線Xに沿った方向を軸方向といい、回転軸線Xに直交する方向、すなわち、軸方向に直交する方向を径方向といい、回転軸線X周りの方向を周方向という。また、径方向において回転軸線X側を径方向内側といい、反対側を径方向外側という。また、軸方向において動力源が設けられる側(動力源から動力が入力される側)を入力側といい、反対側、つまり、変速機4が設けられる側(変速機4に動力を出力する側)を出力側という。なお、この出力軸50は、例えばトルクコンバータ1の出力側に配置された変速機4の入力軸などである(図2も参照)。
トルクコンバータ1は、図1に示すように、入力部材としてのフロントカバー10と、流体伝達部としての流体伝達機構20と、ロックアップクラッチ部としてのロックアップクラッチ機構30と、ダンパー部としてのダンパー機構40と、出力部材としての出力軸50と、油圧制御装置60と、制御装置としてのECU70とを備える。このトルクコンバータ1は、軸方向に対して入力側から出力側に向かって、フロントカバー10、ロックアップクラッチ機構30、ダンパー機構40、流体伝達機構20の順番で配置されている。
フロントカバー10は、エンジン3からの動力が伝達され、伝達された動力を流体伝達機構20又はロックアップクラッチ機構30に伝達する。フロントカバー10は、クランクシャフト5に締結(固定)されたドライブプレート80に対して、セットブロック11にてボルト12などを介して締結(固定)される。フロントカバー10は、回転軸線Xを中心としてクランクシャフト5、ドライブプレート80と共に一体回転可能である。
流体伝達機構20は、フロントカバー10に伝達された動力を作動流体としての作動油を介して出力軸50に伝達する。流体伝達機構20は、ポンプインペラ21と、タービンライナ22と、ステータ23と、ワンウェイクラッチ24と、ポンプインペラ21とタービンライナ22との間に介在する作動油とを含んで構成される。ポンプインペラ21は、ポンプシェル21aの径方向外側端部がフロントカバー10に固定される。ポンプインペラ21は、フロントカバー10に伝達された動力がポンプシェル21aの内周面に複数設けられるポンプブレード(翼)21bに伝達される。上述の出力軸50は、このポンプインペラ21の径方向内側にハウジング51の一部と共に挿入される。タービンライナ22は、タービンシェル22aの径方向内側端部がハブ52に固定されている。タービンライナ22は、タービンシェル22aの内周面に複数のタービンブレード(翼)22bが設けられている。ハブ52は、径方向内側にて例えばスプライン嵌合部を介して出力軸50と接続され、ハブ52と出力軸50とは、相互に動力を伝達可能な構成となる。タービンシェル22aは、ハブ52を介して出力軸50と一体回転可能となる。ステータ23は、周方向に形成された複数のステータブレード(翼)23aを有し、ポンプインペラ21とタービンライナ22との間の径方向内側の部分に設けられる。ワンウェイクラッチ24は、トルクコンバータ1を収納するハウジング51に対してステータ23を一方向のみに回転可能に支持するものである。
ロックアップクラッチ機構30は、フロントカバー10に伝達された動力を流体伝達機構20の作動油を介さずに、摩擦係合部32を介して直接的に出力軸50に伝達する。ロックアップクラッチ機構30は、ロックアップピストン31と、摩擦係合部32と、解放油圧室33と、係合油圧室34とを有する。ロックアップクラッチ機構30は、軸方向に対して入力側から出力側に向かって、摩擦係合部32の一方の摩擦面をなすフロントカバー10のフロントカバー内壁面36、他方の摩擦面をなす摩擦材35、ロックアップピストン31の順番で配置されている。ロックアップピストン31及びこのロックアップピストン31に設けられる摩擦材35は、回転軸線Xと同軸の円環板状に形成される。
ロックアップピストン31は、径方向外側端部が後述のダンパー機構40の中心保持プレート42の径方向外側端部に対して軸方向に相対移動可能で、かつ、この中心保持プレート42と一体回転可能に支持される。したがって、ロックアップピストン31と中心保持プレート42とは、相互に動力を伝達可能な構成となると共に、ロックアップピストン31は、フロントカバー内壁面36に対して軸方向に接近、離間可能な構成となる。摩擦係合部32は、摩擦材35とフロントカバー内壁面36とが軸方向に対向して接触することで摩擦係合可能な摩擦係合面として構成され、これにより、ロックアップピストン31とフロントカバー10とは、摩擦係合可能である。
また、ロックアップクラッチ機構30は、ロックアップピストン31の径方向内側端部とハブ52の外周面との間に作動油の漏れを抑制するシール部材S1が配置されている。これにより、トルクコンバータ1の内部は、ロックアップピストン31により、解放押圧力(解放推力)を発生させる解放油圧室33と、係合押圧力(係合推力)を発生させる係合油圧室34とに区画される。解放油圧室33は、軸方向に対してロックアップピストン31とフロントカバー10との間に、係合油圧室34は、軸方向に対してロックアップピストン31とポンプシェル21aとの間に、それぞれ作動油が通過可能な空間部として形成される。解放油圧室33と係合油圧室34とは、摩擦係合部32側で連通可能となっている。解放押圧力は、解放油圧室33の内部に供給される作動油の油圧(圧力)によってロックアップピストン31に対して入力側から作用し、ロックアップピストン31を軸方向に沿ってフロントカバー10から離間する側に移動させ摩擦材35とフロントカバー内壁面36との摩擦係合を解放させる力である。係合押圧力は、係合油圧室34の内部に供給される作動油の油圧(圧力)によってロックアップピストン31に対して出力側から作用し、ロックアップピストン31を軸方向に沿ってフロントカバー10に接近する側に移動させ摩擦材35とフロントカバー内壁面36とを摩擦係合させる力である。
ダンパー機構40は、フロントカバー10と出力軸50とをダンパースプリング41を介して相対回転可能に連結する。ダンパー機構40は、複数のダンパースプリング41と、中心保持プレート42と、第1サイド保持プレート43と、第2サイド保持プレート44とを含んで構成される。中心保持プレート42、第1サイド保持プレート43及び第2サイド保持プレート44は、複数のダンパースプリング41を動力伝達可能に保持するものであり、それぞれ、回転軸線Xと同軸の円環板状に形成される。中心保持プレート42は、上述のようにロックアップピストン31と連結される。第1サイド保持プレート43と第2サイド保持プレート44とは、一体化された状態で中心保持プレート42に対して相対回転可能に設けられる。第2サイド保持プレート44は、径方向内側端部がハブ52に固定されている。ダンパー機構40は、ロックアップピストン31に伝達された動力を中心保持プレート42、ダンパースプリング41、第1サイド保持プレート43及び第2サイド保持プレート44を介してハブ52に伝達し、最終的に出力軸50に伝達することができる。
油圧制御装置60は、トルクコンバータ1を含むトランスミッションの各部に供給される作動油の流量あるいは油圧を制御するものであり、ここでは解放油圧室33の油圧と係合油圧室34の油圧との圧力差を制御することができる。
ECU70は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体として構成される。ECU70は、トルクコンバータ1やエンジン3、変速機4などが搭載された車両2の各所に取り付けられたセンサから入力された各種入力信号や各種マップなどに基づいて各部を制御する。ECU70は、例えば、油圧制御装置60を制御し解放油圧室33又は係合油圧室34に対する作動油の供給、排出を制御することで、ロックアップクラッチ機構30のON・OFF制御やロックアップクラッチ機構30のスリップ制御を実行することができる。例えば、ECU70は、油圧制御装置60によって係合油圧室34に作動油を供給し解放油圧室33からトルクコンバータ1の外部に排出して、係合油圧室34の油圧を解放油圧室33の油圧よりも大きくすることで、係合油圧室34の係合押圧力により摩擦材35とフロントカバー内壁面36とを摩擦係合させロックアップクラッチ機構30をONとすることができる。また、例えば、ECU70は、油圧制御装置60によって解放油圧室33に作動油を供給し係合油圧室34からトルクコンバータ1の外部に排出して、解放油圧室33の油圧を係合油圧室34の油圧よりも大きくあるいは同等にすることで、解放油圧室33の解放押圧力により摩擦材35とフロントカバー内壁面36との摩擦係合を解除し非係合状態としロックアップクラッチ機構30をOFFとすることができる。
上記のように構成されるトルクコンバータ1は、エンジン3が動力を発生し、クランクシャフト5が回転すると、フロントカバー10に伝達されたエンジン3からの動力がポンプインペラ21及び作動油を介してタービンライナ22に伝達され、タービンライナ22がフロントカバー10と同一方向に回転する。このとき、ステータ23は、ステータブレード23aを介してポンプブレード21bとタービンブレード22bとの間を循環する作動油の流れを変化させ、これにより、このトルクコンバータ1は、伝達される動力に基づいて所定のトルク特性を得ることができる。そして、トルクコンバータ1は、ロックアップクラッチ機構30のOFF時には、摩擦係合部32の摩擦係合が解除されているので、フロントカバー10に伝達された動力を流体伝達機構20、ハブ52などを順番に介して出力軸50に伝達する。一方、トルクコンバータ1は、ロックアップクラッチ機構30のON時には、摩擦係合部32が摩擦係合しているので、フロントカバー10に伝達された動力を摩擦係合部32、ロックアップピストン31、ダンパー機構40、ハブ52などを順番に介して作動油を介さずに直接的に出力軸50に伝達する。
ところで、上記のよう構成されるトルクコンバータ1が適用される車両2では、例えば、動力源であるエンジン3の過給ダウンサイジング化により燃費の向上を図る場合がある。すなわち、過給ダウンサイジング化されたエンジン(過給ダウンサイジングエンジン)3は、相対的に小さい排気量、より少ない気筒数で構成された上でターボチャージャなどの過給機を適用することで、過給効果により排気量の減少分によるトルク不足を補う。これにより、エンジン3は、相対的に小さな排気量で相対的に大きな排気量の自然吸気(NA:Natural Aspiration)エンジンと同等の出力、トルクを実現する。
ここで、上記のように過給機が適用されたエンジン3は、例えば、アイドル運転状態からの発進時ではエンジン回転数が低く十分な過給圧が作用しにくい傾向にある。つまり、過給ダウンサイジング化されたエンジン3は、過給圧が十分に作用している場合ではNAエンジンより大きなトルクを発生させることができるものの、過給圧が作用していない場合では従来のNAエンジンと比較して、発生させることができるトルクが小さい。このため、このエンジン3が適用された車両2では、エンジン回転数が上昇し排気ガス流量が増加し吸気通路に十分な過給圧が作用するまでは駆動トルクが不足するいわゆる過給遅れ(ターボラグ)が発生し、発進に際しもたつきが生じるなど発進性能が低下するおそれがある。
このため、本実施形態のトルクコンバータ1は、従来のNAエンジンに適用されるトルクコンバータなどと比較して、流体伝達機構20のトルク比(出力部材に生じる出力軸トルク/入力部材に生じる入力軸トルク)を相対的に大きく設定し、流体伝達機構20のトルク容量係数を相対的に小さく設定している。トルクコンバータ1は、流体伝達機構20のトルク比が相対的に大きくなり、流体伝達機構20のトルク容量係数が相対的に小さくなるように、流体伝達機構20のポンプブレード21b、タービンブレード22b、ステータブレード23aの形状や位置関係が設定される。なお、トルクコンバータ1は、これに限らず、流体伝達機構20の外径(タービンライナ22の外径)φD(図1参照)を相対的に小さく設定することで、流体伝達機構20のトルク容量係数を相対的に小さく設定することもできる。
これにより、トルクコンバータ1は、発進時に流体伝達機構20にて増幅されるトルクを増加し、流体伝達機構20から出力軸50に伝達されるトルクを増加すると共に、ポンプインペラ21とタービンライナ22との間での滑りを相対的に多く発生させ、エンジン回転数が速く上昇するようにし早期に吸気通路に過給圧が作用するようにしている。この結果、このトルクコンバータ1は、過給ダウンサイジング化されたエンジン3が適用された車両2であっても、発進時に発進トルク(駆動トルク)が不足することを抑制することができ、発進に際しもたつきが生じるなど発進性能が低下することを抑制することができる。
ここで、図3は、比較例に係るトルクコンバータの出力トルク特性について説明する図であり、横軸をエンジン回転数、縦軸をトルクとしている。図3中、実線(細実線)L11は排気量が相対的に大きく設定された従来のNAエンジンのエンジントルク(クランクシャフトに生じるトルク)、実線(細実線)L12は過給ダウンサイジング化されたエンジン3において過給圧が十分に作用していないときのエンジントルク、実線(細実線)L13は過給ダウンサイジング化されたエンジン3において過給圧が十分に作用しているときのエンジントルク、点線(太点線)L14は排気量が相対的に大きく設定された従来のNAエンジンにおいて相対的に低トルク比、高トルク容量係数の従来のトルクコンバータによりトルク増幅される場合の出力トルク(トルクコンバータの出力軸に生じるトルク)特性、二点鎖線(太二点鎖線)L15は過給ダウンサイジング化されたエンジン3において過給圧が十分に作用しておらずトルクコンバータ1と同様に相対的に高トルク比、低トルク容量係数のトルクコンバータによりトルク増幅される場合の出力トルク特性、実線(太実線)L16は過給ダウンサイジング化されたエンジン3において過給圧が十分に作用しトルクコンバータ1と同様に相対的に高トルク比、低トルク容量係数のトルクコンバータによりトルク増幅される場合の出力トルク特性を示している。なお、図3中、実線(細実線)L17、L18はトルクコンバータ1の特性、点線(細点線)L19は車両2の動力伝達系での許容トルクを示している。
図3に示すように、例えば、過給ダウンサイジング化されたエンジン3においてトルクコンバータ1と同様に相対的に高トルク比、低トルク容量係数のトルクコンバータを適用した場合(実線L16参照)、複数個のトルクピークができることで運転者の加速要求操作(例えばアクセルペダルの踏み込み操作)に対してトルクの落ち込み感が生じ加速応答の連続性が損なわれるおそれがあり、これにより、例えば、ドライバビリティが悪化するおそれがある。これは、トルクコンバータにおいてトルク増幅効果が最大となるエンジン回転数(言い換えれば速度比)と、エンジン3において過給効果が最大となるエンジン回転数(高回転側で過給が聞き始めてきた時点)とが相違するためである。一般にトルクコンバータは、速度比が小さく0に近い場合にはトルク比が1より大きく、速度比が大きくなり1に近づくにつれてトルク比が減少し略1に近づくという性質がある。エンジンの低速度領域からの加速の初期段階においては、トルクコンバータの速度比が小さく0に近い。この時点ではトルクコンバータのトルク比が比較的大きいので、加速の初期段階における車両トルクは比較的大きくなる。その後加速要求が継続すると、過給機の応答遅れによって機関トルク自体の増加は鈍る一方、加速によってトルクコンバータの速度比が大きくなるのでトルクコンバータのトルク比が低下し、一旦増加した車両トルクは減少する。そして、さらに加速要求が継続すると、過給機の回転数が上昇するとともに過給圧も上昇し、車両トルクは再び急速に上昇する。このように、トルクコンバータと連結された過給機付きエンジンにおいては、低速度領域から加速要求があった場合に、加速応答の連続性が損なわれ、ドライバビリティが悪化するおそれがある。特に過給ダウンサイジング化されたエンジン3は、従来のNAエンジンと比較してエンジン回転数の影響を受け易く、例えば、図3において高トルク側に凸となるようなトルク特性を有しているため、上記2つのトルクピークができやすくなる傾向にある。
そこで、本実施形態のトルクコンバータ1は、流体伝達機構20がフロントカバー10に入力されたトルクを増幅して出力軸50から出力する運転状態である場合に、ECU70がロックアップクラッチ機構30の摩擦係合部32を完全に摩擦係合させる時期を適正に制御することで、適正な加速応答性を確保している。
ここで、流体伝達機構20がトルクを増幅して出力する運転状態は、典型的には、車両2の発進時にトルクコンバータ1の流体伝達機構20がいわゆるコンバータ範囲で運転される状態に相当する。流体伝達機構20のトルク比は、速度比(出力部材である出力軸50の回転速度/入力部材であるフロントカバー10の回転速度)が0のときに最大となり速度比eの増加に伴って減少し、クラッチ点以上ではほぼ1.0となる。コンバータ範囲とは、この速度比が0からクラッチ点までの速度比範囲であり、流体伝達機構20でトルクの増幅効果が得られる速度比範囲である。なお、速度比がクラッチ点から1までの速度比範囲をカップリング範囲(継手範囲)といい、すなわち、このカップリング範囲は、流体伝達機構20でトルクの増幅効果がない速度比範囲である。このトルクコンバータ1は、流体伝達機構20がトルクを増幅して出力する運転状態では、基本的にはロックアップクラッチ機構30の油圧制御がOFF制御状態となっている。
本実施形態のECU70は、流体伝達機構20がトルクを増幅して出力する運転状態である場合に、摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節することでトルク比、言い換えればトルク容量係数を可変とする制御(可変容量制御)を実行することができる。ECU70は、油圧制御装置60から解放油圧室33又は係合油圧室34に作動油を供給すると共にこの係合油圧室34と解放油圧室33との油圧を所定のバランスで維持することで、摩擦係合部32の摩擦材35とフロントカバー内壁面36とが接触しつつ相対回転しスリップする半係合状態とすることができる。そして、ECU70は、流体伝達機構20がトルクを増幅して出力する運転状態である場合に、例えば、エンジン3における過給の遅れなどの車両2の運転状態や出力軸50から出力されるトルクが伝達される車両2の動力伝達系での許容トルク(図3の点線L19参照)などに応じてこの制御を実行する。これにより、ECU70は、流体伝達機構20を介して増幅されて出力軸50に伝達されるトルク(コンバータ伝達トルク)とロックアップクラッチ機構30を介して増幅されずに出力軸50に伝達されるトルク(クラッチ伝達トルク)との割合を調節し、トルクコンバータ1全体での実際のトルク比、言い換えれば、トルクコンバータ1全体での実際のトルク容量係数を所定の範囲内で任意の値に調節することができる。
図4は、実施形態1に係るトルクコンバータの可変容量制御の一例について説明する図であり、横軸をエンジン回転数、縦軸をトルクとしている。図4中、点線(太点線)L21はエンジン3のエンジントルク特性、点線(細点線)L22は従来のNAエンジンに適用されている従来のトルクコンバータの特性、点線(細点線)L23はトルクコンバータ1において可変容量制御を実行しない場合のベースとなる特性、点線(細点線)L24はトルクコンバータ1において可変容量制御を実行した場合の特性(一例)、実線(細実線)L25はエンジン3に従来のトルクコンバータを適用した場合の出力トルク特性、実線(細実線)L26はエンジン3にトルクコンバータ1を適用しかつ可変容量制御を実行しない場合の出力トルク特性、実線(太実線)L27はエンジン3にトルクコンバータ1を適用しかつ可変容量制御を実行した場合の出力トルク特性を示している。
図4に示すように実線L25では2つのトルクピークが生じてしまう。一方、実線L26では2つのトルクピークは生じていないが、トルク容量係数が相対的に小さくポンプインペラ21とタービンライナ22との間での滑りが相対的に多く発生するため、燃費が悪くエンジン回転数が十分に上昇しなければ出力トルクも上昇しにくい傾向にある。これに対して、本実施形態のトルクコンバータ1は、ECU70が運転状態に応じて最適に摩擦係合部32のスリップ量を調節し実質的なトルク容量係数を調節し、ここでは可変容量制御を実行しない場合のベースとなるトルク容量係数より増加させる。そして、ECU70は、トルクコンバータ1の実質的な特性を点線L22と点線L23との間の最適な特性に調節した上で摩擦係合部32を適切な時期に完全係合することで、複数のトルクピークが生じることを防止しつつ燃費の悪化をも抑制し、適正な発進性能を実現することができる。
具体的には、ECU70は、流体伝達機構20がフロントカバー10に入力されたトルクを増幅して出力軸50から出力する運転状態である場合において、エンジン3のエンジン回転数がこのエンジン3の最大トルク発生時の最大トルク発生回転数以上であるときにロックアップクラッチ機構30の摩擦係合部32を完全に摩擦係合させる制御を実行する。つまり、このトルクコンバータ1では、摩擦係合部32の完全係合時点でのエンジン回転数である完全係合時エンジン回転数は、最大トルク発生回転数以上となり、これにより、摩擦係合部32の完全係合時期がエンジン3の最大トルク発生時期とのほぼ同時期、あるいはこれより相対的に遅い時期になる。ここでは、トルクコンバータ1とエンジン3とは、エンジンの最大トルク発生回転数がコンバータのクラッチ点における速度比に応じたエンジン回転数より低い回転数となるようにその特性が設定される。
本実施形態のECU70は、エンジン回転数、スロットル開度、過給圧などに応じたエンジン3の現在の動作状態や速度比などに応じたトルクコンバータ1の現在の動作状態に基づいて摩擦係合部32を完全に摩擦係合させる。ECU70は、完全係合時エンジン回転数が最大トルク発生回転数以上となるように、すなわち、エンジン回転数がこのエンジン3の最大トルク発生時の最大トルク発生回転数以上であるときに摩擦係合部32が完全に摩擦係合するように、予め設定された速度比e=1.0の完全係合制御線を記憶部に記憶している。ECU70は、この完全係合制御線を用いて摩擦係合部32を完全に摩擦係合させる制御を実行する。
次に、図5のフローチャートを参照して、本実施形態に係るトルクコンバータ1の係合制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数msないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される。
まず、ECU70は、エンジン回転数、スロットル開度、過給圧などのエンジン3の現在の状況を把握する(S100)。ECU70は、例えば、エンジン回転数センサ90(図1参照)、スロットル開度センサ91(図1参照)、吸気圧(過給圧)センサ92(図1参照)が計測したエンジン3の現在のエンジン回転数、スロットル開度、過給圧を取得する。
次に、ECU70は、速度比、トルク比などのトルクコンバータ1の現在の状況を把握する(S102)。ECU70は、例えば、出力回転数センサ93(図1参照)が計測したトルクコンバータ1の現在の出力軸回転数を取得し、この出力軸回転数とS100で取得したエンジン回転数とに応じて現在の速度比を算出し、現在のトルク比を算出する。なお、ECU70は、車速センサ(不図示)が計測した車両2の車速を取得し、これに基づいて速度比、トルク比を算出してもよい。
次に、ECU70は、例えば、図6に例示する係合マップを記憶部から読み取る(S104)。ここで、図6に例示する係合マップは、エンジン3の運転状況と上述の完全係合制御線との関係を記述したものである。図6中、実線(細実線)L31は図3の実線L12に相当し、実線(細実線)L32は図3の実線L13に相当する。係合マップは、本図には図示していないが実線L31と実線L32との間にも各過給圧におけるエンジン3のエンジン回転数とエンジントルクとの関係を表すエンジン3の動作線が記述されている。また、図6中、点線(細点線)L33は速度比e=0でのトルクコンバータ1の特性、点線(細点線)L34は速度比e=0.7でのトルクコンバータ1の特性、点線(細点線)L35は速度比e=0.8でのトルクコンバータ1の特性、点線(細点線)L36は速度比e=0.9でのトルクコンバータ1の特性を例示している。そして、実線(太実線)L37は速度比e=1.0の完全係合制御線を例示している。完全係合制御線L37は、エンジン3の各運転状況において摩擦係合部32の完全係合時エンジン回転数が最大トルク発生回転数以上となるように設定され、ECU70は、エンジン3の各運転状況においてこの完全係合制御線L37に基づいて摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節することで、エンジン回転数が最大トルク発生回転数以上であるときに摩擦係合部32を完全に摩擦係合させる。
具体的には、ECU70は、係合マップに基づいて、S100で取得した現在のエンジン回転数、スロットル開度、過給圧などから定まる現在のエンジン3の動作点を含む現在のエンジン3の動作線(例えば、実線L31、L32)を読み取ると共にS102で取得したトルクコンバータ1の現在の速度比(あるいはトルク比)から定まるトルクコンバータ1の現在の速度比線(例えば、点線L33、L34、L35、L36)を読み取る。そして、ECU70は、エンジン3の現在の動作線より低トルク側の領域において係合マップから読み取った完全係合制御線L37と現在の速度比線との交差があるか否かを判定する(S106)。
ECU70は、完全係合制御線L37と現在の速度比線との交差がないと判定した場合(S106:No)、S100に戻って以降の処理を繰り返し実行する。ECU70は、完全係合制御線L37と現在の速度比線との交差があると判定した場合(S106:Yes)、例えば、図7に例示する係合油圧マップを記憶部から読み取り、S100で取得した現在のスロットル開度、エンジン回転数、過給圧などに応じた現在のエンジントルクと、S102で取得した現在の速度比とに基づいてこの係合油圧マップから係合油圧Ptを設定する(S108)。この係合油圧Ptは、摩擦係合部32を完全係合させるためにロックアップピストン31に作用させる目標の油圧であり、係合油圧室34の油圧と解放油圧室33の油圧との目標の差分油圧である。ここでは、摩擦係合部32を係合させるための制御であるから、係合油圧Ptは、基本的には係合油圧室34側の油圧が大きくなるように設定される。
ここで、図7に例示する係合油圧マップは、エンジントルク、速度比と係合油圧Ptとの関係を記述したものである。この係合油圧マップでは、係合油圧Ptは、速度比eの増加にともなって減少し、エンジントルクの増加にともなって増加する。ECU70は、この係合油圧マップに基づいて、現在のエンジントルクと現在の速度比とから係合油圧Ptを算出する。これにより、ECU70は、摩擦係合部32の係合を開始してから係合完了までの時間、言い換えれば、係合速度を調節することができる。ECU70は、この係合油圧マップに基づいて係合油圧Ptを設定することで、エンジントルクが相対的に小さい場合の摩擦係合部32の係合速度をエンジントルクが相対的に大きい場合の摩擦係合部32の係合速度より遅くすることができ、また、速度比が相対的に大きい場合の摩擦係合部32の係合速度を速度比が相対的に小さい場合の摩擦係合部32の係合速度より遅くすることができる。これにより、ECU70は、例えば、速度比が流体伝達機構20によるトルク増幅効果が最大となる変速比(=0)より大きく、かつ、エンジン回転数が最大トルク発生回転数より低いときに、速度比が流体伝達機構20によるトルク増幅効果が最大となる変速比以下であるときに比べて摩擦係合部32の係合速度を遅くすることができる。この結果、このトルクコンバータ1は、速度比が小さいとき、エンジントルクが大きいときには迅速に摩擦係合部32を完全係合することができると共に速度比が1.0に近いとき、エンジントルクが小さいときには、摩擦係合部32が完全係合する際のショックを低減することができ、ドライバビリティの向上と共に加速性能を向上することができる。
そして、ECU70は、油圧制御装置60を制御し、実際の係合油圧がS108で設定した目標の係合油圧Ptに収束するように解放油圧室33又は係合油圧室34に対する作動油の供給又は排出の指示を出力し、実際に係合油圧Ptを作用させ(S110)、この制御を終了する。
この結果、トルクコンバータ1は、エンジン回転数がこのエンジン3の最大トルク発生時の最大トルク発生回転数以上であるときに摩擦係合部32を完全に摩擦係合させることができる。したがって、このトルクコンバータ1は、図8の実線(太実線)L45、L46に示すように、過給ダウンサイジング化されたエンジン3に適用された場合であっても複数のトルクピークが生じることを抑制することができ、運転者の加速要求操作に対してトルクの落ち込み感が生じることを抑制することができる。このとき、このトルクコンバータ1では、上記のようにして設定された係合油圧Ptを一定に保持し、これにより、ロックアップクラッチ機構30を介して出力軸50に伝達されるクラッチ伝達トルクをほぼ一定に保持しながら、エンジン回転数の上昇に伴ったエンジントルクの低下を待ち受けることで、摩擦係合部32の完全係合直前の係合速度を比較的に遅くすることができる。この結果、トルクコンバータ1は、完全係合時にエンジン3の慣性項(イナーシャトルク)の影響を受けてショックが起きることを抑制することができる。
また、このトルクコンバータ1は、図9に示すように、例えば、点火時期遅角制御などによりエンジン性能を押さえることで複数のトルクピークが生じることを抑制するトルクコンバータなどと比較して、車両加速度が向上し、エンジントルクやターボ回転数の落ち込みもない(図9中、太実線がトルクコンバータ1を表す。)。つまり、トルクコンバータ1は、エンジン性能を一時的に抑制することで実質的に加速性能を低下させることなく加速応答の連続性を確保することができ、すなわち、加速応答の連続性と加速性能とを両立することができる。なお、本図中、ターボ回転数を表す実線Aは本実施形態のトルクコンバータ1を適用した上で遅角制御をありとした場合、実線Bは本実施形態のトルクコンバータ1を適用した上で遅角制御をなしとした場合を示している。
以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ1によれば、過給機により過給可能なエンジン3からフロントカバー10に伝達された動力を作動油を介して出力軸50に伝達可能な流体伝達機構20と、フロントカバー10に伝達された動力を摩擦係合部32を介して出力軸50に伝達可能なロックアップクラッチ機構30と、流体伝達機構20がフロントカバー10に入力されたトルクを増幅して出力軸50から出力する運転状態である場合に、エンジン3の回転数がこのエンジン3の最大トルク発生時の回転数以上であるときにロックアップクラッチ機構30の摩擦係合部32を完全に摩擦係合させるECU70とを備える。
したがって、トルクコンバータ1は、流体伝達機構20がトルクを増幅して出力する運転状態である場合にエンジン3のエンジン回転数が最大トルク発生回転数以上であるときにロックアップクラッチ機構30の摩擦係合部32を完全に摩擦係合させる制御を実行することから、運転者の加速要求操作に対して加速応答の連続性を確保し適正な加速応答性を確保することができ、これにより、例えばドライバビリティを向上することができる。
[実施形態2]
図10は、実施形態2に係るトルクコンバータの係合油圧について説明する図、図11は、実施形態2に係るトルクコンバータの係合制御を説明するフローチャート、図12は、実施形態2に係るトルクコンバータの出力トルク特性について説明する図である。実施形態2に係る流体伝達装置は、内燃機関が発生させるトルクの低下に応じて摩擦係合部の摩擦係合状態を調節する点で実施形態1に係る流体伝達装置とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す。また、実施形態2に係る流体伝達装置の各構成については図1等を参照する(以下の実施形態でも同様である。)。
本実施形態の流体伝達装置としてのトルクコンバータ201は、ECU70がエンジントルクの低下に応じて摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節する。図10は、横軸をエンジン回転数、縦軸を係合油圧、トルクとしている。図10中、点線L51はエンジン3のエンジントルク特性の一例、一点鎖線L52は実施形態1に係るトルクコンバータ1(図1参照)の係合油圧、実線L53は実施形態2に係るトルクコンバータ201の係合油圧を示す。なお、一点鎖線L52、実線L53は、それぞれロックアップクラッチ機構30を介して出力軸50に伝達されるクラッチ伝達トルクにも相当する。
上述したトルクコンバータ1(図1参照)は、摩擦係合部32を完全係合する際に係合油圧Ptを一定に保持し、ロックアップクラッチ機構30を介して出力軸50に伝達されるクラッチ伝達トルクをほぼ一定に保持しながら、エンジン回転数の上昇に伴ったエンジントルクの低下を待ち受けるものとして説明した。これに対し、本実施形態のECU70は、エンジン回転数の上昇に伴ったエンジントルクの低下に応じて摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節し、この摩擦係合部32を介して伝達されるクラッチ伝達トルクを低下させる。すなわちこの場合、ECU70は、エンジン回転数の上昇に伴ったエンジントルクの低下に応じて係合油圧Ptを減少させる。ここでは、ECU70は、エンジン回転数の上昇に伴ったエンジントルクの低下速度より小さな(緩やかな)低下速度でクラッチ伝達トルクを低下させる。
次に、図11のフローチャートを参照して、本実施形態に係るトルクコンバータ201の係合制御の一例を説明する。ここでも、図5で説明した係合制御と異なる点を重点的に説明する。
ECU70は、完全係合制御線と現在の速度比線との交差があると判定した場合(S106:Yes)、カウンタ設定として、カウンタKに0を代入しこのカウンタKをクリアする(S208)。
次に、ECU70は、例えば、図7に例示する係合油圧マップから係合油圧Ptを設定する。このとき、ECU70は、不図示の待ち時間マップも記憶部から読み取り、この待ち時間マップに基づいて現在のエンジン3の状況に応じた待ち時間Twを設定する(S210)。
次に、ECU70は、油圧制御装置60を制御し実際に係合油圧Ptを作用させる(S212)。
次に、ECU70は、S210で設定した待ち時間Twだけ待機する(S214)。
次に、ECU70は、スロットル開度センサ91が計測したエンジン3の現在のスロットル開度を取得しスロットル開度に変化がないか否かを判定する(S216)。
ECU70は、スロットル開度に変化があると判定した場合(S216:No)、S100に戻って以降の処理を繰り返し実行する。ECU70は、スロットル開度に変化がないと判定した場合(S216:Yes)、カウンタKをインクリメントし、すなわち、カウンタKに1を加算しカウンタK+1をカウンタKに代入する(S218)。
次に、ECU70は、S218でインクリメントしたカウンタKが予め設定された所定値Keより小さいか否かを判定する(S220)。この所定値Keは、摩擦係合部32を完全係合させるのに必要な最低限の係合油圧Ptを確保するための値である。
ECU70は、カウンタKが所定値Keより小さいと判定した場合(S220:Yes)、係合油圧PtをPt−K・ΔPtに変更し、すなわち、係合油圧Ptを所定量だけ低減して設定し(S222)、S212に戻って以降の処理を繰り返し実行する。ここでは、ΔPtは予め任意に設定される所定の減少量である。これにより、ECU70は、エンジン回転数の上昇に伴ったエンジントルクの低下に応じて係合油圧Ptを徐々に減少させることができ、クラッチ伝達トルクを徐々に低下させることができる。
ECU70は、カウンタKが所定値Ke以上であると判定した場合(S220:No)、この制御を終了する。これにより、トルクコンバータ201は、摩擦係合部32を完全係合させるのに必要な最低限の係合油圧Ptを確保することができる。
図12は、横軸をエンジン回転数、縦軸をトルクとしている。図12中、点線(太点線)L61はエンジン3のエンジントルク特性の一例、点線(細点線)L62はトルクコンバータ1の特性の一例(例えば、速度比e=0.8)、実線L63はトルクコンバータ1(図1参照)においてロックアップクラッチ機構30を介して出力軸50に伝達されるクラッチ伝達トルク、一点鎖線L64はトルクコンバータ201においてロックアップクラッチ機構30を介して出力軸50に伝達されるクラッチ伝達トルクを示している。上記のように構成されるトルクコンバータ201は、この図12の一点鎖線で囲った領域Cの部分に示すように、摩擦係合部32を完全に摩擦係合させるとき、トルクコンバータ1の場合と比較して、滑らかで素早い完全係合を実現することができ、よって、完全係合時にエンジン3の慣性項(イナーシャトルク)の影響を受けてショックが起きることをより確実に抑制することができる。
以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ201によれば、ECU70は、エンジン3のエンジン回転数の上昇に伴ったエンジントルク(内燃機関3が発生させるトルク)の低下に応じて摩擦係合部32の摩擦係合状態を調節し、この摩擦係合部32を介して伝達されるクラッチ伝達トルクを低下させる。したがって、このトルクコンバータ201は、摩擦係合部32の完全係合時にショックが起きることを確実に抑制することができる。
[実施形態3]
図13は、実施形態3に係るトルクコンバータの概略構成について説明する図、図14は、実施形態3に係るトルクコンバータの係合制御を説明するフローチャート、図15は、実施形態3に係るトルクコンバータの係合油圧について説明する図、図16は、実施形態3に係るトルクコンバータの出力トルク特性について説明する図である。実施形態3に係る流体伝達装置は、内燃機関の回転慣性力に応じて係合制御を実行する点で実施形態1に係る流体伝達装置とは異なる。
本実施形態の流体伝達装置としてのトルクコンバータ301は、ECU70がエンジン3における回転慣性力(言い換えればイナーシャエネルギ)に応じて摩擦係合部32を完全に摩擦係合させる制御を実行する。言い換えれば、上述のトルクコンバータ1、201は、速度比e=1.0の完全係合制御線を予め任意に設定しこれに基づいて摩擦係合部32を完全係合させていたのに対して、このトルクコンバータ301は、エンジン3の回転慣性力に基づいて速度比e=1.0とする時期を設定し、摩擦係合部32を完全係合させる。このECU70は、摩擦係合部32の完全係合時に生じうるエンジン3の回転慣性力を利用して、図13に例示するように、トルクピークが2つ生じると仮定したときに生じうるトルクの落ち込み部分に相当する不足エネルギQgを補うように、摩擦係合部32を完全係合させる。これにより、トルクコンバータ301は、完全係合時エンジン回転数を最大トルク発生回転数とほぼ一致させることができる。ここでの不足エネルギQgは、トルクピークが2つ生じると仮定したときに生じうるトルクの落ち込み部分を埋めるのに必要なエネルギに相当する。
次に、図14のフローチャートを参照して、本実施形態に係るトルクコンバータ301の係合制御の一例を説明する。
ECU70は、トルクコンバータ301の現在の状況を把握した後(S102)、不足エネルギQgと、この不足エネルギQgと比較するための比較エネルギQeを計算する(S304)。ECU70は、例えば、下記に示す式(1)を用いて不足エネルギQgを計算することができ、また、例えば、下記に示す式(2)を用いて比較エネルギQeを計算することができる。式(1)、(2)において、「It」は「トランスミッション入力軸(出力軸50)換算の車両側慣性質量」、「Ie」は「エンジン3の回転慣性質量」、「Ne」は「エンジン回転数」、「Nt」は「トランスミッション入力軸(出力軸50)回転数」、「N2」は「2つ目のトルクピークで想定されるエンジン回転数」を表す。「N2」は、現在のエンジン3、トルクコンバータ1の状況から種々の公知の方法で算出できる。ECU70は、S100やS102で取得した各数値を式(1)、(2)に代入することで不足エネルギQg、比較エネルギQeを算出することができる。ここでの比較エネルギQeは、エンジン3が変速機4等からなるトランスミッションに対して有している余剰の回転慣性エネルギに相当する。なお、この比較エネルギQeは、Qe=0.5・Ie・(Ne2−Nt2)によって計算することも可能である。
Qg=0.5・It・(N22−Nt2) ・・・(1)
Qe=0.5・Ie・(Ne2−N22) ・・・(2)
次に、ECU70は、S304で計算した比較エネルギQeと不足エネルギQgとを比較し、比較エネルギQeが不足エネルギQg以上であるか否かを判定する(S306)。
ECU70は、比較エネルギQeが不足エネルギQgより小さいと判定した場合(S306:No)、S100に戻って以降の処理を繰り返し実行する。ECU70は、比較エネルギQeが不足エネルギQg以上であると判定した場合(S306:Yes)、不図示の係合油圧マップから係合油圧Ptを設定する(S308)。このとき、ECU70は、係合油圧Ptを、例えば、通常の使用状態において最大と考えられるエンジントルク相当の油圧に設定するとよい。
次に、ECU70は、S308で設定した係合油圧Ptに応じて油圧制御装置60を制御し、実際に係合油圧Ptを作用させ(S310)、この制御を終了する。
この結果、このトルクコンバータ301は、図15の実線L74に示すように、エンジン回転数が最大トルク発生回転数に至る前の段階から摩擦係合部32を係合させるための係合油圧(言い換えればクラッチ伝達トルク)が作用し始める。そして、トルクコンバータ301は、完全係合時エンジン回転数を最大トルク発生回転数とほぼ一致させて固定することができ、すなわち、エンジン回転数がほぼ最大トルク発生回転数であるときに摩擦係合部32を完全に摩擦係合することができる。そしてこの結果、トルクコンバータ301は、図16の一点鎖線で囲った領域Dの部分に示すように、エンジン回転慣性力(イナーシャエネルギ)の適切な放出により、すなわち、摩擦係合部32の完全係合時に生じるエンジン3の回転慣性力によりトルクピークが2つ生じると仮定したときに生じうるトルクの落ち込み部分に相当する不足エネルギQgを補うことができるので、トルクピークが2つ生じることを抑制することができ、運転者の加速要求操作に対して加速応答の連続性を確保し適正な加速応答性を確保することができる(実線L85参照)。よって、トルクコンバータ301は、走行感覚を向上することができ、ドライバビリティの向上と共に加速性能をさらに向上することができ、さらに燃費も向上することができる。
以上で説明した本発明の実施形態に係るトルクコンバータ301によれば、ECU70は、エンジン3における回転慣性力に応じて摩擦係合部32を完全に摩擦係合させる。したがって、このトルクコンバータ301は、完全係合時エンジン回転数を最大トルク発生回転数とほぼ一致させて固定することができ、ドライバビリティの向上と共に加速性能をさらに向上することができる。
なお、上述した実施形態に係る流体伝達装置は、上述した実施形態に限定されず、請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。本実施形態に係る流体伝達装置は、以上で説明した実施形態を複数組み合わせることで構成してもよい。
以上の説明では、ロックアップクラッチ部は、ロックアップピストン31がダンパー機構40に対して軸方向に沿って相対移動可能に支持されることで、フロントカバー10に対して接近、離間し摩擦係合部32を介して摩擦係合可能であるものとして説明したがこれに限らない。例えば、ロックアップクラッチ部のロックアップピストン31は、ダンパー機構40全体がハブ52に対して軸方向に沿って相対移動可能に支持されることで、このダンパー機構40全体で一体となってフロントカバー10に対して接近、離間し摩擦係合部32を介して摩擦係合可能な構成であってもよい。また、ロックアップクラッチ部は、軸方向に対してフロントカバー10とダンパー機構40との間に設けられるものとして説明したが、これに限らない。
また、以上で説明した流体伝達装置は、摩擦係合部をなす摩擦面の面積を相対的に大きくしたり多板化したりするなどして、この摩擦係合部の熱耐久性を向上させる構成を備えているとよい。
以上の説明では、制御装置は、ロックアップクラッチ部の油圧室内の作動流体の圧力を調節することで、摩擦係合部をなす一方の摩擦面と他方の摩擦面との間に作用する押圧力を調節するものとして説明したが、これに限らず、例えば、電動のアクチュエータで押圧力を調節するようにしてもよい。