明 細 書 ィンクジエツト記録へッド 技術分野
本発明は、 ィンクジエツト記録装置に用いられるィンクジヱヅト記録へッドに 関する。 本発明はインクにエネルギーを与える手段として、 圧電体素子を用いて インク室内を加圧する手段を持つインクジエツト記録へッドに関する。 北
景技術
本発明に関する従来技術としては、 米国特許第 5 , 2 6 5 , 3 1 5号明細書、 特 表平 5— 5 0 4 7 4 0号公報に開示された技術がある。
これらの従来例では、 単結晶シリコン基板上に、 熱酸化法により酸化シリコン 膜を 2 5 0 O Aの厚さで形成後、 アルミニウム、 ニッケル、 クロム、 プラチナな どの下部電極層を 0 . 2 mの厚さで形成し、 次いで、 ゾルゲル法により圧電体 であるチタン酸ジルコン酸鉛 (P Z T ) を 2〜 1 0〃mで形成し、 さらに、 上部 電極膜を積層した後、 シリコン基板の裏面より、 エッチングによってシリコン基 板に貫通孔を形成し、 インク室を形成している。
今日プリン夕に要求される解像度の向上と印刷の高速化とを実現させるために は、 インク室の大きさを小さくすると同時に、 多数のインク室を高密度に配置さ せなければならない。 インク室を小型化しながら、 必要な特性を得るには、 同時 に振動膜と圧電体膜との厚さを薄くしなければならない。
振動膜及び圧電体膜の厚さが数 m以下となると、 その製造方法として前記の 従来技術にある通り、 基板に簿膜を順次積層した後に圧電体膜を焼成し、 しかる 後にィンク室を形成する方法が有効である。
しかし、 上記の製法および構成で振動膜及び圧電体膜を形成する場合、 P Z T 膜の熱処理に伴つて下部電極膜が著しく収縮しようとし、 大きな正の残留応力を もつようになる。
この下部電極膜の残留応力による膜張力は引っ張りの張力であり、 他の膜の残
留応力による膜張力に比べて大きい。 このため、 振動膜は、 丁度強く張られた太 鼓の皮の様に、 膜張力が振動膜の剛性を著しく大きくしてしまう。
この様な振動膜の膜張力の影響は、 振動膜の厚さが 1 0 m以上であるような 従来のインクジェット記録ヘッドでは特に問題とならなかった。 なぜならば、 従 来の厚い振動膜では、 膜の剛性は曲げ剛性が支配しており、 この曲げ剛性は厚さ の三乗に比例する。これに対し、膜張力による膜の剛性は厚さの一乗に比例する。 従って、 振動膜の膜厚が厚くなることにより曲げ剛性が急激に大きくなり、 膜張 力の影響は相対的には急激に小さくなるからである。
P Z Tを駆動したときの圧電変位は、 この膜張力に対して仕事をするため、 ェ ネルギを余分に必要とし、 駆動電圧に対する変位効率を著しく低下させるという 問題点を有している。
更に、 基板上の膜張力は基板を反らせ、 他の基板との接合時に、 接合不良が生 じ歩留まりが著しく低下する問題点を有している。
また、 接合が正常に行われても、 基板内で振動膜の膜張力にばらつきが生じて しまい、 複数のインク室の特性が均一で無くなり、 印刷品質を低下させるという 問題点を有している。
逆に、 振動膜の膜張力が圧縮の張力になると、 振動膜に弛みが生じてしまい、 インク滴の吐出が不安定になる問題点を有している。 更に、 下部電極膜と P Z T 膜の界面の剥離が発生したりするという問題点を有している。
本発明は、 これらの課題を解決するためのものであり、 その目的とするところ は、 高解像度で信頼性の高いインクジヱヅト記録へヅドを提供することにある。 発明の開示
前記目的を達成する本発明は、 基板内に内包され側壁により区画された複数の ィンク室と、 前記基板の表面に形成されて前記ィンク室の一方側を封止すると共 に少なくとも上面が下部電極として作用する振動膜と、 前記インク室に対応して 前記振動膜上に配設された圧電体膜及び当該圧電体膜上に形成された上部電極を 有する圧電体能動部とを具備するインクジエツト記録へッドにおいて、 前記振動 膜を、 正の膜応力を持つ層と、 負の膜応力を持つ層との少なくとも二層を有する
積層膜として構成し、 これらの膜応力により前記振動膜が持つ膜張力は実質的に 零あるいは負であり、 この振動膜の膜張力に前記圧電体膜の膜張力を加えた膜張 力が正であるように構成したことを特徴とするインクジエツト記録へッドにある。 また、 基板内に内包され側壁により区画された複数のインク室と、 前記基板面 に形成され、 前記ィンク室の一方側を封止すると共に上面に上部電極を有する振 動膜と、 前記ィンク室に対応して前記振動膜上に配設され且つ前記下部電極と上 部電極とに狭持された圧電体膜とを有するインクジエツト記録へッドにおいて、 前記振動膜を、 正の膜応力を持つ層と、 負の膜応力を持つ層との少なくとも二層 を有する積層膜として構成し、 これらの膜応力により前記振動膜が持つ膜張力は 実質的に零あるいは負であり、 この振動膜の膜張力に前記圧電体膜及び前記上部 電極の膜張力を加えた膜張力が正であるように構成したことを特徴とするインク ジェヅト記録へッドにある。
ここで、 好適な実施態様では、 前記振動膜は、 単結晶シリコン基板面を酸化し て形成した酸化シリコン層と、 この酸化シリコン層上に積層した前記下部電極と なる金属層とを有し、 前記単結晶シリコン基板内に側壁により区画された複数の ィンク室を形成してもよい。
また、 前記下部電極となる金属層は、 例えば、 前記酸化シリコン層上に直接あ るいは中間層を介して形成された白金層であり、 前記酸化シリコン層と前記白金 層とが、
(下部電極膜の厚み)/ (酸ィ匕シリコン膜の厚み)≤ 0 . 5
の関係にあるのがよい。
さらに、 前記振動膜は、 前記圧電体能動部の周囲で前記インク室の縁部に沿つ た領域の少なくとも一部に、 当該圧電体能動部に対応する部分の前記振動膜の厚 さよりも薄い膜厚を有する薄膜部を有してもよい。
また、 前記振動膜は、 単結晶シリコン基板面を酸ィヒして形成した酸化シリコン 層と、 この酸化シリコン層上に積層された前記下部電極となる金属層とを有し、 前記薄膜部では前記下部電極の厚さ方向の少なくとも一部が除去されていてもよ い。
また、 前記薄膜部は、 例えば、 前記圧電体能動部の幅方向両側に形成されてい
る o
本発明では、 正の膜応力と負の膜応力の組み合わせで、 零あるいは圧縮の膜張 力とし、 P Z Tを駆動したときの変位量を著しく低下させる振動膜の引っ張りの 膜張力を発生させず、 基板の反りも同時に小さくできる。 更に圧電体膜の収縮に よる正の膜応力を組み合わせた時にこれらの積層膜に正の膜張力 (引っ張りの膜 張力) が生じることにより、 振動膜の弛みや P Z T膜の剥離が抑えられる。
かかる本発明によれば、 圧電体素子の駆動による振動膜の変位特性が、 振動膜 を構成する部材の持つ膜張力により低下するのを抑えることができる。 従って、 駆動電圧を低く抑えながら、インク滴の吐出能力を十分に高くすることができる。 また、 基板の反り量を十分に小さく抑える事で、 接合による特性の劣化や、 接合 不良による歩留まり低下を低く抑えることができる。 更に、 振動膜が引っ張りの 膜張力になるのを抑えても、 振動膜に弛みを生じることが無いため、 インク滴の 吐出が不安定になったり、 下部電極膜と P Z T膜の界面の剥離が発生したりする ことが無く、 均一性と信頼性を確保しながら、 可及的に記録ヘッドの性能を向上 することができ、 薄膜技術を用いた高解像度 ·高密度のインクジエツト記録へヅ ドを供給することができる。 図面の簡単な説明
第 1図は、 本発明の実施形態 1に係るインクジェット式記録へッドの分解斜視 図である。
第 2図は、 本発明の実施形態 1に係るインクジヱット式記録へッドの断面図で める。
第 3図は、 本発明の実施形態 1の薄膜製造工程を示す図である。
第 4図は、 本発明の実施形態 1の薄膜製造工程を示す図である。
第 5図は、 本発明の実施形態 1の薄膜製造工程を示す図である。
第 6図は、 本発明の実施形態 2に係るインクジエツト式記録へッドの要部断面 図である。
第 Ί図は、 本発明の実施形態 2の変形例を示す平面図である。
第 8図は、 本発明の実施形態 2の変形例を示す平面図である。
発明を実施するための最良の形態
以下、 本発明を一実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態 1 )
第 1図は、 本発明の一実施形態に係るインクジェット記録へッドを示す組立斜 視図であり、 第 2図は、 その 1つのインク室の長手方向における断面構造を示す 図である。
図示するように、 単結晶シリコン基板からなる流路形成基板 1 0は、 本実施形 態では面方位 ( 1 1 0 ) を有し、 通常、 1 5 0〜3 0 0 /m程度の厚さのものが 用いられ、 望ましくは 1 8 0〜2 8 0〃m程度、 より望ましくは 2 2 0 程度 の厚さのものが好適である。 これは、 隣接するインク室間の隔壁の剛性を保ちつ つ、 配列密度を高くできるからである。
流路形成基板 1 0の一方の面は開口面となり、 他方の面には予め熱酸化により 形成した二酸化シリコンからなる、 厚さ 1〜2 111の酸化シリコン膜 5 0、 及び 下部電極膜 6 0により振動膜が構成されている。 また、 インク室 1 2の部分の振 動膜には、 インク室 1 2の幅より狭い幅で圧電体膜 7 0が積層され、 この圧電体 莫 7 0上には、 上部電極膜 8 0が形成されている。
一方、 流路形成基板 1 0の開口面には、 後述するように、 異方性エッチングす ることにより、 複数の複数の隔壁 1 1により区画されたインク室 1 2が同一ピッ チで列 1 3をなして形成されている。 インク室 1 2の列 1 3は、 2列あり、 2列 のインク室 1 2の回りには、 三方を囲むように略コ字状に配置されたリザ一バ 1 4と、 各インク室 1 2とリザ一バ 1 4とを一定の流体抵抗で連通するインク供給 口 1 5がそれぞれ形成されている。 なお、 各インク室 1 2の一端に連通する各ィ ンク供給口 1 5は、 インク室 1 2より浅く形成されている。 すなわち、 インク供 給口 1 5は、 シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング (ハーフェヅ チング) することにより形成されている。 ここで、 ハーフエッチングは、 エッチ ング時間の調整により行われる。
なお、 流路形成基板 1 0の対角線上の二つの隅部には、 流路形成基板 1 0の位 置合わせのための基準孔 3 0が形成されている。
また、 流路形成基板 1 0の開口面側には、 各インク室 1 2のインク供給口 1 5 とは反対側で連通するノズル開口 1 7が穿設されたノズルプレート 1 8が接着剤 や熱溶着フィルム等を介して固着されている。 なお、 ノズルプレート 1 8は、 厚 さが例えば、 0 . l〜l mmで、 線膨張係数が 3 0 0。C以下で、 例えば 2 . 5〜 4 . 5 [ X 1 0—6/°C] であるガラスセラミックス、 又は不鲭鋼などからなる。 ノズルプレート 1 8は、 一方の面で流路形成基板 1 0の一面を全面的に覆い、 流 路形成基板 1 0を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。 なお、 ノズル プレート 1 8には、 流路形成基板 1 0の基準孔 3 0に対応する位置に基準孔 1 9 が形成されている。
ここで、 インク滴吐出圧力をインクに与えるインク室 1 2の大きさと、 インク 滴を吐出するノズル開口 1 7の大きさとは、 吐出するインク滴の量、 吐出スピー ド、 吐出周波数に応じて最適化される。 例えば、 1インチ当たり 3 6 0個のイン ク滴を記録する場合、 ノズル開口 1 7は数十〃 mの径で精度よく形成する必要が ある。
一方、 上述のように、 流路形成基板 1 0の開口面とは反対側の酸化シリコン膜 5 0の上には、 厚さが例えば、 約 0 . 5 mの下部電極膜 6 0と、 厚さが例えば、 約 l /mの圧電体膜 7 0と、厚さが例えば、約 0 . 1 zmの上部電極膜 8 0とが、 後述するプロセスで積層形成されて、 圧電体素子を構成している。 このように、 酸ィ匕シリコン膜 5 0の各インク室 1 2に対向する領域には、 各インク室 1 2毎に 独立して圧電体素子が設けられているが、 本実施形態では、 下部電極膜 6 0は圧 電体素子の共通電極とし、上部電極膜 8 0を圧電体素子の個別電極としているが、 駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はなく、 各インク室 1 2毎に圧電 体膜 7 0及び上部電極膜 8 0を有する圧電体能動部が形成されていることになる。 本実施形態では、 インク室 1 2の配列方向の長さを 7 5〃m、 その奥行き方向 の長さを 2 mmとし、 圧電体膜 7 0の配列方向の長さは 6 0 mとし、 インク室 1 2上に形成した。 ィンク室 1 2の配列方向のピッチは、 1 4 1〃m ( 1インチ 当たりのノズル配置を 1 8 0本) とし、 6 4本を一列に配置した。 すなわち、 圧 電体膜 7 0及び上部電極膜 8 0からなる圧電体能動部が、 インク室 1 2の上部の みにあり、 配列方向のインク室 1 2の無い部分には圧電体膜 7 0が無いことによ
り、 電圧を印加してインク室 1 2に対応する振動膜を変形させる際に、 小さい電 圧で同じ変位量が得られるようになつている。
そして、 このような流路形成基板 1 0及びノズルプレート 1 8は、 これらを保 持する凹部を有する固定部材 2 0に固定される。 なお、 固定部材 2 0にも、 流路 形成基板 1 0の基準孔 3 0と対応する位置に基準孔 2 0 aが形成されている。 また、 かかる各上部電極膜 8 0の上面の少なくとも周縁、 及び圧電体膜 7 0の 側面を覆うように電気絶縁性を備えた絶縁体層 9 0が形成されている。 絶縁体層 9 0は、 成膜法による形成やまたエッチングによる整形が可能な材料、 例えば酸 化シリコン、 窒化シリコン、 有機材料、 好ましくは剛性が低く、 且つ電気絶縁性 に優れた感光性ポリイミ ドで形成するのが好ましい。
ここで、 シリコン単結晶基板からなる流路形成基板 1 0上に、 圧電体膜 7 0等 を形成するプロセスを第 3図及び第 4図を参照しながら説明する。
第 3図 (a ) に示すように、 まず、 面方位 ( 1 1 0 ) を有する厚さ 2 2 0〃m の流路形成基板 1 0のウェハを約 1 2 0 0。Cで湿式熱酸化し、 流路形成基板 1 0 の両面に酸化シリコン膜 5 0、 5 1を一度に形成する。
次に、 第 3図 (b ) に示すように、 スパッタリングで下部電極膜 6◦を形成す る。 下部電極膜 6 0の材料としては、 P t等が好適である。 これは、 スパヅタリ ングゃゾル—ゲル法で成膜する後述の圧電体膜 7 0は、 成膜後に大気雰囲気下又 は酸素雰囲気下で 6 0 0〜 1 0 0 0 °C程度の温度で焼成して結晶化させる必要が あるからである。 すなわち、 下部電極膜 7 0の材料は、 このような高温、 酸化雰 囲気下で導電性を保持できなければならず、 殊に、 圧電体膜 7 0として P Z Tを 用いた場合には、 P b Oの拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、 こ れらの理由から P tが好適である。
また、 本実施形態では、 酸化シリコン膜 5 1と下部電極膜 6 0の間に、 密着力 を向上させる中間層 (図示せず) として、 チタンと酸化チタンとチタンとを順次 数十 A形成した。 中間層のチタン、 酸化チタン、 チタン及び下部電極膜 6 0は、 直流スパッタリング法により 4層連続形成し、 その中で酸化チタンは 1 0 %酸素 雰囲気によるリアクティブスパッタリング法によって形成した。
したがって、 本実施形態では、 振動膜は、 酸化シリコン膜 5 0、 中間層及び下
部電極膜 60の多層から形成される。なお、中間層は必ずしも設ける必要はなく、 酸化シリコン膜 51および下部電極膜 60のみで振動膜を形成してもよい。
次に、 第 3図 (c) に示すように、 圧電体膜 70を成膜する。 この圧電体膜 7 0の成膜にはスパッタリングを用いることもできるが、 本実施形態では、 金属有 機物を溶媒に溶解 ·分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、 さらに高温 で焼成することで金属酸化物からなる圧電体膜 70を得る、 いわゆるゾル—ゲル 法を用いている。
ゾル—ゲル法による圧電体膜 70は、 酢酸鉛 0. 105モル、 ジルコニウムァ セチルァセトナート 0. 045モル、 酢酸マグネシウム 0. 005モルと 30ミ リリットルの酢酸を、 100°Cに加熱して溶解させた後、 室温まで冷却し、 チタ ンテトライソプロポキシド 0. 040モル、 ペン夕エトキシニオブ 0. 010モ ルをェチルセ口ソルプ 50ミリリヅトルに溶解させて添加し、 ァセチルァセトン を 30ミリリツトル添加して安定化させた後、 ポリプロピレングリコール (平均 分子量 400) をゾル中の金属酸化物に対し 30重量%添加し、 よく攪拌して得 た均質なゾルを原料とした。 下部電極膜 60上に調製したゾルをスピンコートで 塗布し、 400°Cで仮焼成し、 非晶質の多孔質ゲル薄膜を形成し、 この塗布と仮 焼成とを必要な膜厚となるまで繰り返した。 次に、 RTA (Rapid Thermal Annealing)を用いて酸素雰囲気中、 5秒間で 650 °Cに加熱して 1分間保持する ことによりブレアニールを行った。 更に、 RTAを用いて酸素雰囲気中 900°C に加熱して 1分間保持することによりァニールし、 最終的な P Z T圧電体薄膜を 得た。 このようにして得られる圧電体膜の物性を測定したところ比誘電率 200 0、 圧電ひずみ定数 d 31は— 15 OpC/Nと優れた特性を示した。
次に、 第 3図 (d) に示すように、 直流スパッタリング法により白金 (Pt) を 20 OAの厚さで形成して上部電極膜 80を成膜する。 なお、 上部電極膜 80 は、 導電性の高い材料であればよく、 Ptの他、 Al、 Au、 Ni等の多くの金 属ゃ、 導電性酸化物等を使用できる。
次に、 第 4図に示すように、 下部電極膜 60、 圧電体膜 70及び上部電極膜 8 0をパターニングする。
まず、 第 4図 (a) に示すように、 酸化シリコン膜 51にフォトレジストを形
成し、 開口部を設け、 酸化シリコン膜 5 1を弗酸と弗化アンモニゥムの水溶液で パターニングし、 開口部 5 l aを形成する。 この開口部 5 1 aの奥行き方向、 す なわち紙面に垂直な方向を流路形成基板 1 0の < 1 1 2 >方向としておく。
次いで、 第 4図 (b ) に示すように、 下部電極膜 6 0、 圧電体膜 7 0及び上部 電極膜 8 0を一緒にエッチングして下部電極膜 6 0の全体パターンをパ夕一ニン グする。 次いで、 第 4図 (c ) に示すように、 圧電体膜 7 0及び上部電極膜 8 0 のみをェヅチングして圧電体能動部 3 2 0のパターニングを行う。
以上のように、 下部電極膜 6 0等をパターニングした後には、 好ましくは、 各 上部電極膜 8 0の上面の少なくとも周縁、 及び圧電体膜 7 0および下部電極膜 6 0の側面を覆うように電気絶縁性を備えた絶縁体層 9 0を形成する(第 2図参照) c そして、 絶縁体層 9 0の各圧電体能動部 3 2 0の一端部に対応する部分の上面 を覆う部分の一部には、 コンタクトホール 9 0 aが形成されている。 そして、 こ のコンタクトホール 9 0 aを介して各上部電極膜 8 0に一端が接続し、 また他端 が接続端子部に延びるリード電極 1 0 0が形成されている。
このような絶縁体層及びリ一ド電極の形成プロセスを第 5図に示す。
まず、 第 5図 (a ) に示すように、 上部電極膜 8 0の周縁部、 圧電体膜 7 0お よび下部電極膜 6 0の側面を覆うように絶縁体層 9 0を形成する。 この絶縁体層 9 0は、 本実施形態ではネガ型の感光性ポリイミ ドを用いている。
次に、 第 5図 (b ) に示すように、 絶縁体層 9 0をパターニングすることによ り、 各インク室 1 2のインク供給側の端部近傍に対応する部分にコンタクトホ一 ル 9 0 aを形成する。 なお、 コンタクトホール 9 0 aは、 インク室 1 2の圧電体 能動部 3 2 0に対応する部分に設ければよく、 例えば、 中央部やノズル側端部に 設けてもよい。
次に、 例えば、 C r—A uなどの導電体を全面に成膜した後、 パ夕一ニングす ることにより、 リード電極 1 0 0を形成する。
以上が膜形成プロセスである。 このようにして膜形成を行った後、 第 5図(c ) に示すように、 8 0 °Cの水酸化カリウム水溶液に浸せきすることで、 酸化シリコ ン膜 5 1の開口部 5 1 aから流路形成基板 1 0の異方性エッチングを行い、 酸化 シリコン膜 5 0が露出するまでエッチングを進め、 ィンク室 1 2を形成する。
この異方性エッチングでは、 上述のように、 流路形成基板 1 0の面方位が ( 1 1 0 ) であり、 更に開口部 5 1 aの奥行き方向が < 1 1 2〉方向であるから、 ィ ンク室 1 0 2の奥行き方向の辺を形成する側壁の面を ( 1 1 1 ) 面とすることが できる。
また、 水酸化カリウム水溶液を用いた場合、 単結晶シリコンの ( 1 1 0 ) 面と ( 1 1 1 ) 面のエッチング速度の比は 3 0 0 : 1程度となり、 流路形成基板 1 0 1の厚み 2 2 0〃mの深さの溝をサイ ドエッチング 1 / m程度に抑えることがで きるので、 インク室 1 2を精度よく形成できる。
このようなインクジェット式記録へッドでは、 上述の一連の膜形成及び異方性 エッチングで、一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、 プロセス終了後、 第 1図に示すような一つのチップサイズの各流路形成基板 1 0に分割する。また、 分割した流路形成基板 1 0を、 ノズルプレート 1 8および固定部材 2 0と順次接 着して一体化し、 インクジェット式記録ヘッドとする。
このように構成したインクジエツトへッドは、 図示しない外部インク供給手段 と接続したインク導入口 1 6からインクを取り込み、 リザーバ 1 4からノズル開 口 1 7に至るまで内部をインクで満たした後、 図示しない外部の駆動回路からの 記録信号に従い、 導電パターン 1 0 0を介して下部電極膜 6 0と上部電極膜 8 0 との間に電圧を印加し、 酸化シリコン膜 5 0と圧電体膜 7 0とをたわみ変形させ ることにより、 インク室 1 2内の圧力が高まりノズル開口 1 7からインク滴が吐 出する。
ここで、上述のようなインクジエツト記録へヅドの酸化シリコン膜 5 0 , 5 1、 下部電極膜 6 0、 圧電体膜 7 0の各膜の膜張力について説明する。
酸化シリコン膜は、 熱酸化により形成したため、 シリコン基板上で膨張し、 負 の膜応力を持っている。即ち、酸化シリコン膜はシリコン基板から圧縮力を受け、 逆にシリコン基板は酸化シリコン膜から引っ張り力を受けている。 この酸化シリ コン膜の圧縮の膜張力がシリコン基板の両面に等しく作用するため、 シリコン基 板は反ることはない。
これに対し、 下部電極膜と圧電体膜は、 高温での熱処理により、 その降温過程 で収縮し、 常温ではシリコン基板上で正の膜応力を持っている。 即ち、 下部電極
膜と圧電体膜はシリコン基板から引っ張り力を受け、 逆にシリコン基板は下部電 極膜と圧電体膜から圧縮力を受けている。 ここで、 シリコン基板は他の膜と比較 し十分に厚いため、 膜張力の作用対象をシリコン基板と表現した。 下部電極膜と 圧電体膜に働いている引っ張りの膜張力により、 膜を積層したシリコン基板は、 下部電極 (あるいは圧電体膜) の面を凹にして反ることになる。
各膜の膜張力あるいは膜応力は、 以下の様にして測定した。
膜張力により、 シリコン基板は反るが、 この時の反りの曲率半径を Rとすると、 曲率半径 Rと薄膜の膜張力 T、あるいは応力びとの間は、以下の関係式で表せる。
1 6d (1 -v 6 (1 -v
R E,D2 ° D2 1 ここで、 dは薄莫の厚さ、 Dはシリコン基板の厚さ、 i sはシリコン基板のポ ァソン比、 E sはシリコン基板のャング率である。
反り量の測定では、 シリコンの弾性定数が異方性を持っため、 特定の結晶方位 に沿った短冊状のサンプルを用い、 計算では、 その方向でのヤング率とポアソン 比を用いて行った。
酸化シリコン膜 5 0の膜張力は、 シリコン基板 1 0の一方の面の酸化シリコン 膜 5 1をエッチングで除去した後の反り量から求めた。
圧電体膜 7 0の膜張力は、 圧電体膜 7 0をエッチングで除去し、 その前後での 反り量の変化分を圧電体膜 7 0による反り量として求めた。
下部電極膜 6 0の膜張力は、 圧電体膜 7 0を除去した後の反り量から求めた。 この時、酸化シリコン膜はシリコン基板の両面に形成した状態とする必要がある。 以上のようにして求めた膜張力から莫応力を求めるには、 膜のヤング率が必要 である。 膜のヤング率の測定は、 膜応力が影響しないよう注意深く行う必要があ る。 両持ち梁を使った測定や周辺固定の膜を使った測定では、 膜張力のため全く 異なった値となるため、 片持ち梁のサンプルを用いて、 その加重一橈み特性から ヤング率を求めた。
(第 1の膜構成)
本発明の第 1の膜構成を表 1に示す。
【表 1】
本構成では、 (下部電極膜の厚み) / (酸化シリコン膜の厚み) を 0 . 5とした
c 下部電極膜と酸化シリコン膜は、 その膜厚や熱処理方法によっては多少の膜応力 の変動が見られるが、 この莫厚比を 0 . 5とすることで、 ほぼ下部電極膜 6 0と 酸化シリコン膜 5 0の膜張力を釣り合わせることが出来る。 従って、 振動膜の膜 張力が実質的に零となるような構成となる。 インク室 1 2の並び方向での基板の 反り量は、 インク室 1 2が配置されている範囲で 3〃m振動膜側が凹となった。 本実施形態ではシリコン基板 1 0とノズルプレート 1 8等とを接着剤で接合した が、 この反り量では接合の不良は全く生じなかった。 また、 接合後の振動膜の変 位特性も変化は見られなかった。
本構成の圧電体素子に電圧 1 0 Vを印加したときの変位量は 1 1 O n mであつ た。 これに対し、 本構成でインク室 1 2に面した酸化シリコン膜 5 0の部分を、 エッチングで除去したものを作成し、 電圧 1 0 Vを印加したときの変位量は 8 0 nmであった。 また、 振動膜の剛性 (コンプライアンス) を測定した結果、 酸化 シリコン膜 5 0の除去前後で、 剛性の変化は僅かであった。 一般には、 酸化シリ コン膜を除去することで、 振動膜の曲げ剛性が小さくなり、 その分、 電圧印加に よる変位量が大きくなるはずである。 本実施形態では、 膜張力が大きく膜厚が薄 いため、 負の膜張力を持つ酸ィ匕シリコン膜が無いと下部電極膜 6 0の正の膜張力 で、 振動膜に強い引っ張り張力が作用してしまい、 この膜張力が曲げ剛性の低下 分を相殺するように働く。本構成の様に、振動膜の膜張力が実質的に零となる(あ るいは負となる) ように構成することによって、 圧電体素子による振動膜の変位 効率を著しく向上させることができる。
(第 2の膜構成)
本発明の第 2の膜構成を表 2に示す。
【表 2】
本構成では、 (下部電極膜の厚み) / (酸化シリコン膜の厚み) を 0 . 2 7とし た。 酸化シリコン膜の膜張力が下部電極膜の膜張力より、 その絶対値が大きいた め、 振動膜としては負の膜張力が働いている。 この振動膜の膜張力に P Z T圧電 体膜の膜張力を合わせると膜全体としては正の膜張力となり、 振動膜に弛みを生 じることは無く、 インク滴の吐出が正常かつ安定して実現できた。 また、 シリコ ン基板 1 0のエッチングプロセスを経ても、 膜の剥離は見られなかった。
インク室 1 2の並び方向での基板の反り量は、 インク室が配置されている範囲 で l ^m振動膜側が僅かに凹となったが、 実質的には零であり、 接合で問題が生 じることは無かった。
本構成の圧電体素子に電圧 1 0 Vを印加したときの変位量は 1 2 O nmで、 第 1の構成よりおよそ 1割向上した。 また、 振動膜の剛性 (コンプライアンス) は 第 1の構成より 1割大きく (コンプライアンスでは 1割小さく)なった。従って、 低い駆動電圧で高いィンク室圧力を発生することができ、 総合すると第 1の構成 より 2割の特性向上が見られた。
(第 3の膜構成)
本発明の第 3の膜構成を表 3に示す。
【表 3】
本構成では、 第 2の膜構成に対して P Z T圧電体膜の厚さを薄くした。 この構 成では、 下部電極膜と P Z T圧電体膜の正の膜張力より酸化シリコン膜の負の膜
張力が強く、 振動膜に弛みが生じてしまう。 この弛みは顕微鏡等では確認が難し い場合が有ったが、 インク滴の吐出が不安定になり、 インク室 1 2間での特性の 差が非常に大きくなる。 また、 シリコン基板 1 0のエッチングプロセスで膜の剥 離が生じることが有り、 歩留まりが低下してしまった。
(第 4の膜構成)
本発明の第 4の膜構成を表 4に示す。
【表 4】
本構成では、第 1の膜構成に対して酸化シリコン膜の厚さを薄くし、(下部電極 膜の厚み) / (酸化シリコン膜の厚み) を 1とした。 酸化シリコン膜の膜張力は 下部電極膜の膜張力より、 その絶対値が小さいため、 振動膜としては正の膜張力 が働いている。 この振動膜の膜張力により、 インク室 1 2の並び方向での基板の 反り量は、 インク室が配置されている範囲で 9 / m振動膜側が凹となった。 この 反りのため、 部分的な接合不良が生じ、 歩留まりが低下した。 また、 接合によつ て反りが変化するため、 振動膜の膜張力がインク室毎にばらついてしまい、 変位 量のばらつき、 膜剛性のばらつきが大きくなつた。 そのため、 インク滴の吐出が インクジヱット記録へッド内で異なってしまい、 印刷品質の低下を起こした。 以上で述べた実施例は、 酸化シリコン膜と白金膜の組み合わせであるが、 他の 組み合わせも可能である。
一般に基板面に第 2の元素を進入させて膜を形成する場合 (前記実施形態では 酸素が相当する) に、 膜に負の応力が発生する。 従って、 酸化シリコン膜の他に シリコン基板面にボロンド一プゃ窒化を行った膜でも同様の効果が得られる。 また、 白金の他にはパラジウム膜や両者を合わせた膜でも良い。
また、 上記実施形態では上部電極膜 8 0の膜張力は他の膜張力に比較して十分 小さいために、 その影響を考慮しなかったが、 上部電極膜 8 0の材料、 膜厚、 あ
るいは形成方法を選ぶことで上部電極膜 8 0の引っ張りの膜張力を大きくして、 この上部電極膜 8 0と圧電体膜 7 0とを合わせた膜張力と振動膜の膜張力とを加 えて、 正の莫張力としても、 同様の効果が得られる。
(実施形態 2 )
第 6図には、 本発明の実施形態 2に係るインクジエツト式記録へッドの圧電体 能動部および圧力発生室の形状を示す。
本実施形態は、 圧電体膜 7 0および上部電極膜 8 0からなる圧電体能動部 3 2 0の幅方向両側に隣接して、 下部電極膜 6 0を除去した下部電極膜除去部 3 5 0 を設けた以外は実施形態 1と同様である。
下電極除去部 3 5 0は、 上部電極 8 0及び圧電体膜 7 0がパターニングされた 後、 エッチングにより所定パターンに形成される。 第 6図 (a ) に示すように本 実施形態では、 下電極除去部 3 5 0が設けられた部分は、 振動膜のいわゆる腕部 と呼ばれている部分であり、 インク室 1 2の幅方向両側に沿った縁部近傍に対向 する部分であり、 第 6図 (b ) の A— A '断面に示すように、 圧電体能動部 3 2 0の両側の下部電極膜 6 0が除去されている。
このように下部電極膜除去部 3 5 0を設けることにより、 圧電体能動部 3 2 0 への電圧印加による変位量の向上を図ることができる。
なお、 本実施形態では、 下電極除去部 3 5 0は、 下部電極膜 6 0を完全に除去 することにより形成したが、 第 6図 (c ) に示すように、 ハーフエッチング等に より、 下部電極膜 6 0の一部を除去して薄膜とした下部電極膜除去部 3 5 O Aと してもよい。
この下電極除去部のパターンは、 上述の例に限定されず、 例えば、 第 7図に示 すように、 下電極除去部 3 5 0 Bを圧電体能動部 3 2 0の両端部よりも長手方向 外側まで形成してもよい。
また、 例えば、 第 8図に示すように、 下電極除去部 3 5 0 Cを圧力発生室 1 2 の一端部を除いて 3方の縁部に沿ってコ字状に設けてもよい。
(他の実施形態)
以上、 本発明の各実施形態を説明したが、 インクジェット式記録ヘッドの基本 的構成は上述したものに限定されるものではない。
例えば、 上述した実施形態では、 ノズル開口 1 7を流路形成基板 1 0の面に垂 直な方向に設けているが、ノズル開口 1 7を流路形成基板 1 0の端面に形成して、 ィンクが面に平行な方向に吐出するように形成してもよい。
また、 圧電体素子とリード電極との間に絶縁体層を設けた例を説明したが、 これに限定されず、 例えば、 絶縁体層を設けないで、 各上部電極膜に異方性導電 膜を熱溶着し、 この異方性導電膜をリード電極と接続したり、 その他、 ワイヤボ ンディング等の各種ボンディング技術を用いて接続したりする構成としてもよい。 このように、 本発明は、 その趣旨に反しない限り、 種々の構造のインクジエツ ト式記録へッドに応用することができる。 産業上の利用可能性
以上説明したように、 本発明に係るインクジェット記録ヘッドは、 紙、 金属、 樹脂、 布地等の記録媒体にインクを用いて、 文字 ·画像情報を記録するインクジ エツト記録装置に用いて好適である。
さらに、 小型、 高密度、 改善された特性を生かし、 小型且つ高性能のインクジ ェヅト記録装置に用いられるインクジヱット記録へッドとして最適である。