JP2006198996A - 液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】圧電素子の破壊を長期間に亘って確実に防止することができる液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室が形成される流路形成基板10と、流路形成基板10の一方面側に振動板を介して設けられる下電極60、圧電体層70及び上電極80からなる圧電素子300と、上電極80から圧力発生室12の周壁上に延設される第1のリード電極90とを少なくとも有すると共に、圧電素子300と第1のリード電極90との間に無機絶縁材料からなる第1の絶縁膜100が設けられ、少なくとも圧電素子300及び第1のリード電極90のパターン領域が第1のリード電極90の他端部に設けられる端子部を除いて無機絶縁材料からなる第2の絶縁膜110によって覆われているようにする。
【選択図】図2

Description

本発明は、液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置に関し、特に、インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電素子を形成して、圧電素子の変位によりインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッド及びその製造方法並びにインクジェット式記録装置に関する。
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成したものがある。そして、このような圧電素子は、例えば、湿気等の外部環境に起因して破壊され易いという問題がある。このような問題を解決するために、圧電素子を絶縁体層で覆いコンタクトホールを介して電極を接続し、さらに、コンタクトホール周辺を保護膜で覆ったものがある(例えば、特許文献1参照)。また、圧力発生室が形成される流路形成基板に、圧電素子保持部を有する封止基板(リザーバ形成基板)を接合し、この圧電素子保持部内に圧電素子を密封するようにしたものがある(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、前者は、構造が複雑なうえ、絶縁体層は上電極にダメージを与えずコンタクトホールを形成可能なポリイミド等を用いているため、耐湿性が不十分であるという問題がある。また、後者のように圧電素子を密封しても、例えば、封止基板と流路形成基板との接着部分から圧電素子保持部内に水分が入り込むこと等により、圧電素子保持部内の湿気が徐々に上昇し、最終的にはこの湿気により圧電素子が破壊されてしまうという問題がある。なお、このような問題は、インク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、勿論、インク以外の液滴を吐出する他の液体噴射ヘッドにおいても、同様に存在する。
特開平11−235818号公報(第6図、第5頁右欄) 特開2003−136734号公報(第1図、第2図、第5頁)
本発明は、このような事情に鑑み、圧電素子の破壊を長期間に亘って確実に防止することができる液体噴射ヘッド及びその製造方法並びに液体噴射装置を提供することを課題とする。
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子と、前記上電極から前記圧力発生室の周壁上に延設される第1のリード電極とを少なくとも有すると共に、前記圧電素子と前記第1のリード電極との間に無機絶縁材料からなる第1の絶縁膜が設けられて前記圧電素子が当該圧電素子と前記第1のリード電極の一端部との接続部を除いて前記第1の絶縁膜によって覆われ、且つ前記第1のリード電極の少なくとも前記圧電素子に対向する部分が他の部分よりも膜厚の薄い薄膜部となっていると共に、少なくとも前記圧電素子及び前記第1のリード電極のパターン領域が前記第1のリード電極の他端部に設けられる端子部を除いて無機絶縁材料からなる第2の絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる第1の態様では、水分透過率の低い無機絶縁材料からなる第1及び第2の絶縁膜によって圧電体層が覆われるため、水分(湿気)に起因する圧電体層(圧電素子)の劣化(破壊)が防止される。そして、第1のリード電極の一部が薄膜部となっていることで、この第2の絶縁膜の被覆性が向上する。
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記第1のリード電極が、密着性金属からなる密着層と、該密着層上に設けられる金属層とからなり、前記第1のリード電極の前記薄膜部が前記密着層によって構成されると共に、前記第1のリード電極の前記薄膜部以外の領域が、前記密着層と前記金属層とで構成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる第2の態様では、薄膜部を有する第1のリード電極を容易且つ良好に形成することができる。
本発明の第3の態様は、第1又は2の態様において、前記第1のリード電極の前記端子部から引き出されて前記第1の絶縁膜上に延設される第2のリード電極をさらに有することを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる第3の態様では、圧電素子を駆動するための電圧が、第1及び第2のリード電極を介して良好に供給される。
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる第4の態様では、耐久性を著しく向上した液体噴射装置を実現することができる。
本発明の第5の態様は、液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室が形成される流路形成基板の一方面側に振動板を介して下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子を形成する圧電素子形成工程と、密着性金属からなる密着層と該密着層上に設けられる金属層とからなり前記上電極から前記圧力発生室の周壁上に延設される第1のリード電極を形成する電極形成工程とを少なくとも具備し、且つ前記電極形成工程が、前記流路形成基板の全面に前記密着層と前記金属層とを順次積層する工程と、同一マスクを介して前記金属層及び前記密着層を順次エッチングすることにより前記密着層を所定形状にパターニングする工程と、少なくとも前記圧電素子に対向する領域の前記金属層をエッチングして、前記圧電素子に対向する領域に他の領域よりも膜厚の薄い薄膜部を形成する工程とを含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる第5の態様では、第1のリード電極の薄膜部を良好に形成することができる。
本発明の第6の態様は、第5の態様において、前記電極形成工程の前に、前記上電極と前記第1のリード電極の一端部との接続部を除く少なくとも前記圧電素子を構成する各層のパターン領域を覆って無機絶縁材料からなる第1の絶縁膜を形成する工程をさらに有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる第6の態様では、圧電素子が第1の絶縁膜によって保護され、水分(湿気)に起因する圧電素子(圧電体層)の劣化(破壊)が防止される。
本発明の第7の態様は、第5又は6の態様において、前記第1のリード電極の他端部に設けられる端子部を除く少なくとも前記圧電素子を構成する各層及び前記第1のリード電極のパターン領域に、無機絶縁材料からなる第2の絶縁膜を形成する工程をさらに具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる第7の態様では、圧電素子が第2の絶縁膜によって保護され、水分(湿気)に起因する圧電素子(圧電体層)の劣化(破壊)が防止される。
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及び断面図である。流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、図示するように、その一方の面には、二酸化シリコンからなり厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。この流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。なお、連通部13は、後述する保護基板のリザーバ部と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
また、流路形成基板10の開口面側には、圧力発生室12を形成する際のエッチングマスクとして用いられたマスク膜51を介して、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.01〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10-6/℃]であるガラスセラミックス、シリコン単結晶基板又はステンレス鋼などからなる。
一方、このような流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、厚さが例えば約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、厚さが例えば、約0.4μmの絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1.0μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。
ここで、圧電素子300の構造について詳細に説明する。圧電素子300を構成する下電極膜60は、例えば、本実施形態では、図2に示すように、圧力発生室12の長手方向では圧力発生室12に対向する領域内に形成され、複数の圧力発生室12に対応する領域に連続的に設けられている。また、下電極膜60は、圧力発生室12の列の外側で流路形成基板10の端部近傍まで延設され、それらの先端部は、後述する保護基板30上に実装された駆動IC130から延設される接続配線135が接続される端子60aとなっている。圧電体層70及び上電極膜80は、基本的には圧力発生室12に対向する領域内に設けられているが、圧力発生室12の長手方向では、下電極膜60の端部よりも外側まで延設されており、下電極膜60の端面は圧電体層70によって覆われている。
また、各圧電素子300の上電極膜80には、無機絶縁材料からなる第1の絶縁膜100を介して第1のリード電極90が接続されている。すなわち、第1のリード電極90は第1の絶縁膜100上に延設され、その一端が第1の絶縁膜100に設けられたコンタクトホール101を介して各圧電素子300の上電極膜80に接続されている。また、第1のリード電極90の他端側の先端部は、後述する第2のリード電極95が接続される端子部となっている。
また、第1のリード電極90は、少なくとも圧電素子300に対向する部分に、他の部分よりも膜厚の薄い薄膜部90aを有する。例えば、本実施形態では、この第1のリード電極90は、厚さが0.1〜0.5μm程度の密着層91と、厚さが0.5〜3μm程度の金属層92とで構成され、薄膜部90aは、上記密着層91のみで構成されている。
密着層91の材料としては、例えば、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、銅(Cu)、チタンタングステン(TiW)等が挙げられる。また、金属層92の材料としては、例えば、金(Au)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。なお、本実施形態では、第1のリード電極90を構成する密着層91がチタンタングステン(TiW)からなり、金属層92がアルミニウム(Al)からなる。また、密着層91は、アルミニウム(Al)からなる金属層92と下電極膜60が接触することで反応して相互拡散するのを防止する役割を果たす。詳細は後述するが、薄膜部90aを密着層91のみで形成すれば、金属層92が圧電素子300に対向する部分まで形成されていることの不都合を招来することなく、また、密着層91が本来備えている密着性によって、第1のリード電極90と圧電素子300とを確実に接続できる。
第1の絶縁膜100は、少なくとも圧電素子300を構成する各層を覆って設けられ、各圧電素子300の上電極膜80に対向する領域に、上電極膜80と第1のリード電極90の一端部との接続部となるコンタクトホール101を有する。例えば、本実施形態では、第1の絶縁膜100は、圧電素子300及び第1のリード電極90並びに後述する第2のリード電極95のパターン領域に亘って設けられている。そして、圧電素子300を構成する圧電体層70及び上電極膜80は、コンタクトホール101を除いて第1の絶縁膜100で覆われており、下電極膜60は端子60aに対向する領域を除いて第1の絶縁膜100で覆われている。
さらに、本実施形態では、このような圧電素子300を構成する各層及び第1のリード電極90並びに後述する第2のリード電極95のパターン領域が、下電極膜60の端子60a及び第1のリード電極90の他端部の端子部に対向する領域を除いて、無機絶縁材料からなる第2の絶縁膜110によって覆われている。すなわち、上記パターン領域の下電極膜60、圧電体層70、上電極膜80及び第1のリード電極90の表面(上面及び端面)が、無機絶縁材料からなる第2の絶縁膜110によって覆われており、第1のリード電極90の他端部に対応する位置には、第1のリード電極90の第2のリード電極95が接続される端子部となるコンタクトホール111が形成されている。
また、第1のリード電極90には、第2の絶縁膜110に設けられたコンタクトホール111を介して第2のリード電極95の一端部がそれぞれ接続され、この第2のリード電極95は、第2の絶縁膜110上を流路形成基板10の端部近傍まで延設されている。そして、第2のリード電極95の先端部(他端部)近傍は、下電極膜60の端子60aと同様に、接続配線135が接続される端子95aとなっている。なお、第2のリード電極95は、第1のリード電極90と同様に、密着層96と金属層97とで構成されている。例えば、本実施形態では、第2のリード電極95を構成する密着層96はニッケルクロム(NiCr)からなり、金属層97は金(Au)からなる。
以上説明したように、本実施形態では、第1及び第2の絶縁膜100,110が、圧電素子300を構成する各層及び第1,第2のリード電極90,95のパターン領域に設けられている。すなわち、圧電素子300を構成する下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80の表面(上面及び端面)が、無機絶縁材料からなる第1及び第2の絶縁膜100,110によって覆われている。
そして、無機絶縁材料からなる第1及び第2の絶縁膜100,110は、水分の透過性が極めて低いため、これら第1及び第2の絶縁膜100,110によって少なくとも圧電素子300の表面を被覆することにより、圧電素子300の破壊、具体的には、圧電体層70の水分(湿気)に起因する破壊を防止することができる。また、第1及び第2の絶縁膜100,110が、圧電素子300を構成する各層及び第1,第2のリード電極90,95のパターン領域に亘って設けられているため、第1及び第2の絶縁膜100,110の端部から水分が侵入した場合でも、圧電体層70まで水分が達するのを防ぐことができる。
なお、これら第1及び第2の絶縁膜100,110の材料は、無機絶縁材料であればよく、例えば、酸化シリコン(SiO)、酸化タンタル(TaO)、酸化アルミニウム(AlO)等が挙げられるが、特に、無機アモルファス材料、例えば酸化アルミニウム(AlO)、特に、酸化アルミニウム(Al)を用いるのが好ましい。無機アモルファス材料を用いる場合、第1の絶縁膜100と第2の絶縁膜110との厚さの合計が100nm程度であっても、高湿度環境下での水分透過を十分に防ぐことができる。なお、第1及び第2の絶縁膜100,110の材料として、例えば、樹脂等の有機絶縁材料を用いるとなると、上記無機絶縁材料を用いたのと同程度の薄さでは、水分透過を十分に防ぐことができない。また、水分透過を防ぐために膜厚を厚くすると、圧電素子の運動を妨げるという事態を招く虞がある。
また、本発明では、第1のリード電極90の少なくとも圧電素子300に対向する部分が薄膜部90aとなっているため、少なくとも圧電素子300に対向する領域は、第2の絶縁膜110によって良好に被覆される。すなわち、第1のリード電極90の圧電素子300に対応する一端部の端面の膜厚が厚いと、第2の絶縁膜110は、第1のリード電極90の一端部(端面)に対応する領域には形成され難く、この部分で第2の絶縁膜110の剥離が発生しやすい。しかしながら、第1のリード電極90の圧電素子300に対応する領域の膜厚を薄くすることで、第1のリード電極90の端部に対応する領域にも第2の絶縁膜110が良好に形成される。したがって、第2の絶縁膜110の剥離の発生を防止することができ、圧電体層70の水分に起因する破壊をより確実に防止することができる。
なお、第1のリード電極90の薄膜部90aは、少なくとも圧電素子300に対向する領域に設けられていればよく、その長さは特に限定されないが、例えば、図3に示すように、上電極膜80の端部から薄膜部90aの基端部(密着層91の端部)までの距離Lが、少なくとも圧電素子300の厚さの2倍以上であることが好ましく、より好ましくは10〜200μm程度である。金属層92が形成されている領域では、その端部(端面)に対応する部分に第2の絶縁膜110が形成され難く、薄膜部90aに対応する領域と比較すると第2の絶縁膜110の剥離等が発生し易い。このため、距離Lが短いと、第2の絶縁膜110の剥離が発生した場合に、剥離した部分から侵入した水分によって圧電体層70が破壊される虞がある。また、距離Lが長過ぎると、すなわち、薄膜部90aの長さが長すぎると、リード電極90の抵抗値が高くなり過ぎて圧電素子300に良好に電圧を印加できなくなる虞がある。
また、このような圧電素子300が形成された流路形成基板10には、圧電素子300に対向する領域にその運動を阻害しない程度の空間を確保可能な圧電素子保持部31を有する保護基板30が、例えば、接着剤35を介して接合されている。圧電素子300は、この圧電素子保持部31内に形成されているため、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。なお、圧電素子保持部31は、密封されていてもよいが、勿論、密封されていなくてもよい。
ここで、第1のリード電極90の端子部、すなわち、コンタクトホール111は、圧電素子保持部31の外に配置されていることが望ましい。すなわち、保護基板30を第2の絶縁膜110上に接着することで、保護基板30と流路形成基板10との接着強度を向上することができるからである。
また、保護基板30には、流路形成基板10の連通部13に対応する領域にリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の並設方向に沿って設けられており、上述したように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ120を構成している。
保護基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
また、保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ120に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ120の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドでは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ120からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、保護基板30上に実装された駆動IC130からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、絶縁体膜55、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図4〜図7を参照して説明する。なお、図4〜図7は、圧力発生室12の長手方向の断面図である。まず、図4(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ140を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜52を形成する。なお、本実施形態では、流路形成基板用ウェハ140(流路形成基板10)として、膜厚が約625μmと比較的厚く剛性の高いシリコンウェハを用いている。次いで、図4(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜52)上に、ジルコニウム(Zr)層を形成後、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化して酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体膜55を形成する。次いで、図4(c)に示すように、例えば、白金とイリジウムとを絶縁体膜55上に積層することにより下電極膜60を形成後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。
次に、図4(d)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、イリジウム(Ir)等からなる上電極膜80とを流路形成基板用ウェハ140の全面に形成した後、これら圧電体層70及び上電極膜80を各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。
なお、圧電体層70の材料としては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の強誘電性圧電性材料に、ニオブ、ニッケル、マグネシウム、ビスマス又はイットリウム等の金属を添加したリラクサ強誘電体等を用いてもよい。その組成は、圧電素子の特性、用途等を考慮して適宜選択すればよいが、例えば、PbTiO(PT)、PbZrO(PZ)、Pb(ZrTi1−x)O(PZT)、Pb(Mg1/3Nb2/3)O−PbTiO(PMN−PT)、Pb(Zn1/3Nb2/3)O−PbTiO(PZN−PT)、Pb(Ni1/3Nb2/3)O−PbTiO(PNN−PT)、Pb(In1/2Nb1/2)O−PbTiO(PIN−PT)、Pb(Sc1/3Ta2/3)O−PbTiO(PST−PT)、Pb(Sc1/3Nb2/3)O−PbTiO(PSN−PT)、BiScO−PbTiO(BS−PT)、BiYbO−PbTiO(BY−PT)等が挙げられる。また、圧電体層70の製造方法は、ゾル−ゲル法に限定されず、例えば、MOD(Metal-Organic Decomposition)法等を用いてもよい。
次に、図5(a)に示すように、酸化アルミニウムからなる第1の絶縁膜100を形成する。すなわち、流路形成基板用ウェハ140の全面に第1の絶縁膜100を形成し、その後、上電極膜80と第1のリード電極90との接続部となるコンタクトホール101及び下電極膜60の端子60aとなる部分の第1の絶縁膜100を除去する。なお、本実施形態では、圧電素子300を構成する各層及び第1,第2のリード電極90,95のパターン領域以外も除去するようにしている。勿論、第1の絶縁膜100は、上記パターン領域以外にも設けられていてもよい。また、第1の絶縁膜100の除去方法は、特に限定されないが、例えば、イオンミリング等のドライエッチングを用いることが好ましい。これにより、第1の絶縁膜100を選択的に良好に除去することができる。
次に、第1のリード電極90を形成する。具体的には、まず、図5(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ140の全面に亘って、例えば、チタンタングステン(TiW)からなる密着層91を形成し、さらに、この密着層91上の全面に、例えば、アルミニウム(Al)からなる金属層92を形成する。その後、図5(c)に示すように、例えば、レジスト等からなるマスク(図示なし)を介して金属層92及び密着層91をエッチングすることにより、密着層91を所定形状にパターニングする。次に、レジスト等からなるマスクを再度パターニングした後、図5(d)に示すように、圧電素子300に対向する領域の金属層92をエッチングにより除去して薄膜部90aを形成する。このような手順で第1のリード電極90を形成することで、第1のリード電極90を比較的容易且つ良好に形成することができる。
次に、図6(a)に示すように、例えば、酸化アルミニウムからなる第2の絶縁膜110を形成する。すなわち、第2の絶縁膜110を流路形成基板用ウェハ140の全面に形成し、その後、第1のリード電極90の端子部に対向する領域にコンタクトホール111を形成すると共に、下電極膜60の端子60aに対向する領域の第2の絶縁膜110を除去する。なお、本実施形態では、第1の絶縁膜100と同様に、圧電素子300を構成する各層及び第1,第2のリード電極90,95のパターン領域以外の第2の絶縁膜110を除去するようにしている。
そして、このように第2の絶縁膜110を形成する際には、上電極膜80の剥離が生じ易いが、本発明では、第1のリード電極90の少なくとも圧電素子300に対向する部分が薄膜部90aとなっているため、第2の絶縁膜110を形成する際に発生する上電極膜80の剥離を防止することができる。特に、金属層92の材料としてアルミニウム(Al)を用いている場合には効果的である。
具体的には、第1のリード電極90の金属層92の材料であるアルミニウム(Al)は熱膨張係数が大きい。例えば、上電極膜80であるイリジウム(Ir)の絶対温度500(K)での熱膨張係数は、7.2(10−6/K)であるのに対し、アルミニウム(Al)の線膨張係数は26.4(10−6/K)と極めて大きい。
このような特性を有する材料からなる金属層92が圧電素子300上に設けられた状態で酸化アルミニウムからなる第2の絶縁膜110を形成すると、金属層92はそのときの熱(350℃程度)によって膨張し、金属層92には伸びようとする力が生じる。そして、密着力の比較的弱い上電極膜80は、この金属層92に生じる力によって剥離されてしまう虞がある。しかしながら、上述したように第1のリード電極90に、薄膜部90aを設けておくことで、このような上電極膜80の剥離の発生を防止することができる。
次に、第2のリード電極95を形成する。例えば、本実施形態では、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ140の全面に亘って、例えば、ニッケルクロム(NiCr)からなる密着層96を形成し、この密着層96上の全面に、例えば、金(Au)等からなる金属層97を形成する。その後、マスクパターン(図示なし)を介して金属層97を各圧電素子300毎にパターニングし、さらに密着層96をエッチングによりパターニングすることによって第2のリード電極95が形成される。
次いで、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ140の圧電素子300側に、シリコンウェハであり複数の保護基板30となる保護基板用ウェハ150を接合する。なお、この保護基板用ウェハ150は、例えば、625μm程度の厚さを有するため、流路形成基板用ウェハ140の剛性は、保護基板用ウェハ150を接合することによって著しく向上することになる。
次いで、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ140をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ140を所定の厚みにする。例えば、本実施形態では、約70μm厚になるように流路形成基板用ウェハ140を加工した。次いで、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ140上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなるマスク膜51を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、このマスク膜51を介して流路形成基板用ウェハ140を異方性エッチングすることにより、流路形成基板用ウェハ140に圧力発生室12、連通部13及びインク供給路14等を形成する(図7(c))。
なお、その後は、流路形成基板用ウェハ140及び保護基板用ウェハ150の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去する。そして、流路形成基板用ウェハ140の保護基板用ウェハ150とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板用ウェハ150にコンプライアンス基板40を接合し、流路形成基板用ウェハ140等を図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10等に分割することによって、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドとなる。
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、上述した実施形態では、第1のリード電極が、密着層と金属層との2層で構成されたものを例示したが、これに限定されず、例えば、3層以上で構成されていてもよい。何れにしても第1のリード電極が複数層で構成される場合には、薄膜部の層数が1層以上であり、薄膜部以外の領域に、薄膜部の層数よりも多い層数で構成される領域が存在すればよい。また、第1のリード電極は、勿論、1層で構成されていてもよく、この場合には、第1のリード電極の一部をハーフエッチングすることにより薄膜部を形成すればよい。
また、上述した実施形態では、上電極膜から周壁上に引き出される第1のリード電極について説明したが、例えば、下電極膜から下電極用リード電極が引き出される構造の場合には、勿論、この下電極用リード電極にも本発明を採用することができる。
また、上述した実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図8は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。図8に示すように、インクジェット式記録ヘッドを有する記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モータ6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8上を搬送されるようになっている。
また、上述した実施形態においては、本発明の液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを説明したが、液体噴射ヘッドの基本的構成は上述したものに限定されるものではない。本発明は、広く液体噴射ヘッドの全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射するものにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの平面図及び断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの要部を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。 実施形態1に係る記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。 一実施形態に係る記録装置の概略図である。
符号の説明
10 流路形成基板、 12 圧力発生室、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 30 保護基板、 31 圧電素子保持部、 32 リザーバ部、 40 コンプライアンス基板、 50 弾性膜、 55 絶縁体膜、 60 下電極膜、 70 圧電体膜、 80 上電極膜、 90 第1のリード電極、 95 第2のリード電極、 100 第1の絶縁膜、 110 第2の絶縁膜、 120 リザーバ、 130 駆動IC、 135 接続配線、 300 圧電素子

Claims (7)

  1. 液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子と、前記上電極から前記圧力発生室の周壁上に延設される第1のリード電極とを少なくとも有すると共に、前記圧電素子と前記第1のリード電極との間に無機絶縁材料からなる第1の絶縁膜が設けられて前記圧電素子が当該圧電素子と前記第1のリード電極の一端部との接続部を除いて前記第1の絶縁膜によって覆われ、且つ前記第1のリード電極の少なくとも前記圧電素子に対向する部分が他の部分よりも膜厚の薄い薄膜部となっていると共に、少なくとも前記圧電素子及び前記第1のリード電極のパターン領域が前記第1のリード電極の他端部に設けられる端子部を除いて無機絶縁材料からなる第2の絶縁膜によって覆われていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
  2. 請求項1において、前記第1のリード電極が、密着性金属からなる密着層と、該密着層上に設けられる金属層とからなり、前記第1のリード電極の前記薄膜部が前記密着層によって構成されると共に、前記第1のリード電極の前記薄膜部以外の領域が、前記密着層と前記金属層とで構成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
  3. 請求項1又は2において、前記第1のリード電極の前記端子部から引き出されて前記第1の絶縁膜上に延設される第2のリード電極をさらに有することを特徴とする液体噴射ヘッド。
  4. 請求項1〜3の何れかの液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。
  5. 液滴を吐出するノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室が形成される流路形成基板の一方面側に振動板を介して下電極、圧電体層及び上電極からなる圧電素子を形成する圧電素子形成工程と、密着性金属からなる密着層と該密着層上に設けられる金属層とからなり前記上電極から前記圧力発生室の周壁上に延設される第1のリード電極を形成する電極形成工程とを少なくとも具備し、
    且つ前記電極形成工程が、前記流路形成基板の全面に前記密着層と前記金属層とを順次積層する工程と、同一マスクを介して前記金属層及び前記密着層を順次エッチングすることにより前記密着層を所定形状にパターニングする工程と、少なくとも前記圧電素子に対向する領域の前記金属層をエッチングして、前記圧電素子に対向する領域に他の領域よりも膜厚の薄い薄膜部を形成する工程とを含むことを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
  6. 請求項5において、前記電極形成工程の前に、前記上電極と前記第1のリード電極の一端部との接続部を除く少なくとも前記圧電素子を構成する各層のパターン領域を覆って無機絶縁材料からなる第1の絶縁膜を形成する工程をさらに有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
  7. 請求項5又は6において、前記第1のリード電極の他端部に設けられる端子部を除く少なくとも前記圧電素子を構成する各層及び前記第1のリード電極のパターン領域に、無機絶縁材料からなる第2の絶縁膜を形成する工程をさらに具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。

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