JP2004130558A - 液体噴射ヘッドの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室12が画成される流路形成基板10と、該流路形成基板10の一方面側に振動板を介して設けられる圧電素子300とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、前記圧電素子300の設けられた前記流路形成基板10の前記圧電素子300側の面に当該圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態でその空間を密封可能な圧電素子保持部32を有する封止基板30を接合する工程と、前記圧電素子保持部32内を減圧状態で加熱することで除湿する工程と、前記圧電素子保持部32内が除湿された状態で、前記封止基板30に設けられて前記圧電素子保持部32と外部とを連通する封止孔33を樹脂材料34で密封する工程とにより、液体噴射ヘッドを形成する。
【選択図】 図7
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板の表面に圧電素子を形成して、圧電素子の変位によりノズル開口から液滴を噴射させる液体噴射ヘッドの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
液体噴射装置としては、例えば、圧電素子や発熱素子によりインク滴吐出のための圧力を発生させる複数の圧力発生室と、各圧力発生室にインクを供給する共通のリザーバと、各圧力発生室に連通するノズル開口とを備えたインクジェット式記録ヘッドを具備するインクジェット式記録装置があり、このインクジェット式記録装置では、印字信号に対応するノズル開口と連通した圧力発生室のインクに吐出エネルギを印加してノズル開口からインク滴を吐出させる。
【0003】
インク滴を吐出するノズル開口と連通する圧力発生室の一部を振動板で構成し、この振動板を圧電素子により変形させて圧力発生室のインクを加圧してノズル開口からインク滴を吐出させるインクジェット式記録ヘッドには、圧電素子の軸方向に伸長、収縮する縦振動モードの圧電アクチュエータを使用したものと、たわみ振動モードの圧電アクチュエータを使用したものの2種類が実用化されている。
【0004】
前者は圧電素子の端面を振動板に当接させることにより圧力発生室の容積を変化させることができて、高密度印刷に適したヘッドの製作が可能である反面、圧電素子をノズル開口の配列ピッチに一致させて櫛歯状に切り分けるという困難な工程や、切り分けられた圧電素子を圧力発生室に位置決めして固定する作業が必要となり、製造工程が複雑であるという問題がある。
【0005】
これに対して後者は、圧電材料のグリーンシートを圧力発生室の形状に合わせて貼付し、これを焼成するという比較的簡単な工程で振動板に圧電素子を作り付けることができるものの、たわみ振動を利用する関係上、ある程度の面積が必要となり、高密度配列が困難であるという問題がある。
【0006】
一方、後者の記録ヘッドの不都合を解消すべく、振動板の表面全体に亙って成膜技術により均一な圧電材料層を形成し、この圧電材料層をリソグラフィ法により圧力発生室に対応する形状に切り分けて各圧力発生室毎に独立するように圧電素子を形成することで高密度配列を実現したものがある。
【0007】
また、圧力発生室が形成される流路形成基板の圧電素子側の一方面には、この圧電素子を封止する圧電素子保持部を有する封止基板が接合されることで、圧電素子の外部環境に起因する破壊が防止されている。この圧電素子保持部を封止する方法としては、封止基板に圧電素子保持部と外部とを連通する封止孔を設け、流路形成基板に封止基板を接合後、封止孔に樹脂等からなる封止部材を充填することで封止孔を密封し圧電素子保持部を密封している。
【0008】
この圧電素子保持部の密封工程では、流路形成基板と封止基板との接合体を減圧状態とした密封空間に載置することで、圧電素子保持部内の空気を封止孔を介して外部に排出させて除湿し、乾燥流体を密封空間に満たすことで圧電素子保持部内に乾燥流体を充填していた(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
【特許文献1】
特開2002−160366号公報(第6−7頁、第1−3図)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、流路形成基板に接合された封止基板の圧電素子保持部内を除湿するには、減圧状態で封止孔を樹脂材料で密封することで行われるが、減圧状態にしただけでは、封止孔から圧電素子保持部内の除湿を確実に行えず、圧電素子耐久性が劣化してしまうという問題がある。
【0011】
なお、このような問題は、インクを吐出するインクジェット式記録ヘッドの製造方法だけではなく、勿論、インク以外を吐出する他の液体噴射ヘッドの製造方法においても、同様に存在する。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑み、圧電素子保持部内を確実に除湿して密封すると共に、耐久性を向上した液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、前記圧電素子の設けられた前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に当該圧電素子の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態でその空間を密封可能な圧電素子保持部を有する封止基板を接合する工程と、前記圧電素子保持部内を減圧状態で加熱することで除湿する工程と、前記圧電素子保持部内が除湿された状態で、前記封止基板に設けられて前記圧電素子保持部と外部とを連通する封止孔を樹脂材料で密封する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0014】
かかる第1の態様では、減圧状態で加熱することで、圧電素子保持部内の除湿を確実に行って圧電素子の耐久性を向上することができる。
【0015】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記封止孔を樹脂材料で密封する工程の後、前記封止基板の接合面とは反対側の面に保護膜を接着する工程と、前記流路形成基板をエッチングすることにより前記圧力発生室を形成する工程とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0016】
かかる第2の態様では、保護膜を形成する前に封止孔を密封することで、圧力発生室を形成する際にガス等が保護膜を透過しても、圧電素子保持部内に封止孔を介してガスが充填されることがなく、圧電素子の破壊を確実に防止することができる。
【0017】
本発明の第3の態様は、第2の態様において、前記保護膜がポリフェニレンサルファイドからなることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0018】
かかる第3の態様では、ポリフェニレンサルファイドからなる保護膜によって、流路形成基板に圧力発生室を形成する際に封止基板を確実に保護することができる。
【0019】
本発明の第4の態様は、第1〜3の何れかの態様において、前記圧電素子保持部内には、吸湿材料からなる膜が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0020】
かかる第4の態様では、圧電素子保持部内に吸湿材料からなる膜が設けられていても、減圧状態で加熱することで吸湿材料の除湿を確実に行うことができる。
【0021】
本発明の第5の態様は、第4の態様において、前記吸湿材料が、ポリイミドであることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
【0022】
かかる第5の態様では、ポリイミドからなる吸湿材料の除湿を確実に行うことができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドを示す分解斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの平面図であり、図3は、図2の断面図であり、図4は、インクジェット式記録ヘッドの配線構造を示す平面図である。
【0024】
図示するように、流路形成基板10は、本実施形態では面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、その一方の面には、異方性エッチングにより形成された複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、圧力発生室12の長手方向外側には、後述する封止基板30のリザーバ部31と連通して各圧力発生室12の共通液体室となるリザーバの一部を構成する連通部13が形成され、各圧力発生室12の長手方向一端部とそれぞれインク供給路14を介して連通されている。
また、この流路形成基板10の一方の面は開口面となり、他方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ1〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0025】
ここで、異方性エッチングは、シリコン単結晶基板のエッチングレートの違いを利用して行われる。例えば、本実施形態では、シリコン単結晶基板をKOH等のアルカリ溶液に浸漬すると、徐々に侵食されて(110)面に垂直な第1の(111)面と、この第1の(111)面と約70度の角度をなし且つ上記(110)面と約35度の角度をなす第2の(111)面とが出現し、(110)面のエッチングレートと比較して(111)面のエッチングレートが約1/180であるという性質を利用して行われる。かかる異方性エッチングにより、二つの第1の(111)面と斜めの二つの第2の(111)面とで形成される平行四辺形状の深さ加工を基本として精密加工を行うことができ、圧力発生室12を高密度に配列することができる。
【0026】
本実施形態では、各圧力発生室12の長辺を第1の(111)面で、短辺を第2の(111)面で形成している。この圧力発生室12は、流路形成基板10をほぼ貫通して弾性膜50に達するまでエッチングすることにより形成されている。ここで、弾性膜50は、シリコン単結晶基板をエッチングするアルカリ溶液に侵される量がきわめて小さい。また各圧力発生室12の一端に連通する各インク供給路14は、圧力発生室12より浅く形成されており、圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。すなわち、インク供給路14は、シリコン単結晶基板を厚さ方向に途中までエッチング(ハーフエッチング)することにより形成されている。なお、ハーフエッチングは、エッチング時間の調整により行われる。
【0027】
なお、このような圧力発生室12等が形成される流路形成基板10の厚さは、圧力発生室12を配設する密度に合わせて最適な厚さを選択することが好ましい。例えば、1インチ当たり180個(180dpi)程度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、180〜280μm程度、より望ましくは、220μm程度とするのが好適である。また、例えば、360dpi程度と比較的高密度に圧力発生室12を配置する場合には、流路形成基板10の厚さは、100μm以下とするのが好ましい。これは、隣接する圧力発生室12間の隔壁の剛性を保ちつつ、配列密度を高くできるからである。
【0028】
また、流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側で連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が接着剤や熱溶着フィルム等を介して固着されている。なお、ノズルプレート20は、厚さが例えば、0.1〜1mmで、線膨張係数が300℃以下で、例えば2.5〜4.5[×10−6/℃]であるガラスセラミックス、又は不錆鋼などからなる。ノズルプレート20は、一方の面で流路形成基板10の一面を全面的に覆い、シリコン単結晶基板を衝撃や外力から保護する補強板の役目も果たす。また、ノズルプレート20は、流路形成基板10と熱膨張係数が略同一の材料で形成するようにしてもよい。この場合には、流路形成基板10とノズルプレート20との熱による変形が略同一となるため、熱硬化性の接着剤等を用いて容易に接合することができる。
【0029】
ここで、インク滴吐出圧力をインクに与える圧力発生室12の大きさと、インク滴を吐出するノズル開口21の大きさとは、吐出するインク滴の量、吐出スピード、吐出周波数に応じて最適化される。例えば、1インチ当たり360個のインク滴を記録する場合、ノズル開口21は数十μmの直径で精度よく形成する必要がある。
【0030】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側の弾性膜50の上には、厚さが例えば、約0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約1μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.1μmの上電極膜80とが、後述するプロセスで積層形成されて、圧電素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、下電極膜60、圧電体層70、及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、圧電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、下電極膜60は圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。何れの場合においても、各圧力発生室毎に圧電体能動部が形成されていることになる。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせて圧電アクチュエータと称する。なお、上述した例では、弾性膜50と下電極膜60とが振動板として作用するが、下電極膜が弾性膜を兼ねるようにしてもよい。
【0031】
また、このような各圧電素子300の上電極膜80には、例えば、金(Au)等からなる引き出し電極90がそれぞれ接続されている。この引き出し電極90は、各圧電素子300の長手方向端部近傍から引き出され、インク供給路14に対応する領域の弾性膜50上までそれぞれ延設されている。
また、圧電素子300の共通電極である下電極膜60は、圧力発生室12の並設方向に亘って連続的に延設され、且つ圧力発生室12のインク供給路14側でパターニングされている。すなわち、本実施形態では、下電極膜60は、流路形成基板10の引き出し電極90が延設される領域が除去され、その他の領域に全面に亘って設けられている。
【0032】
また、本実施形態では、圧力発生室12の列の外側に対応する領域の下電極膜60上に、引き出し電極90と同一の層からなり且つ引き出し電極90とは電気的に独立した積層電極層95が設けられている。
そして、このような圧電素子300の長手方向端部近傍に対向する領域には、ポリイミド等の絶縁材料からなり圧電素子300の並設方向に沿って延設される絶縁層110を有する。例えば、本実施形態では、絶縁層110は、圧力発生室12の列の周囲に亘って連続的に設けられており、圧力発生室12の列に対応する領域は開口部111となっている。
【0033】
また、この絶縁層110上には、導電材料からなる接続配線層120が連続的に設けられており、この接続配線層120と下電極膜60とは、絶縁層110に設けられた複数の貫通部112を介して電気的に接続されている。ここで、絶縁層110に設けられる貫通部112は、比較的等間隔で配置されていることが好ましく、例えば、本実施形態では、各圧電素子300の引き出し電極90側の端部近傍に延設されている絶縁層110の各隔壁11に対向する領域に、それぞれ貫通部112を設けるようにした。なお、この貫通部112の大きさも、特に限定されないが、20μm以下であることが好ましい。
また、本実施形態では、圧力発生室12の列の外側に対向する領域、すなわち、下電極膜60上に設けられた積層電極層95に対向する領域にも貫通部113が設けられており、この貫通部113を介しても積層電極層95(下電極膜60)と接続配線層120とが電気的に接続されている。
【0034】
このように、圧電素子300の共通電極である下電極膜60に接続配線層120を電気的に接続することにより、下電極膜60の抵抗値を実質的に低下する。また、同様に、下電極膜60上に積層電極層95を設けることによっても、下電極膜60の抵抗値が実質的に低下する。したがって、多数の圧電素子を同時に駆動しても電圧降下が発生することがなく、常に良好で且つ安定したインク吐出特性を得ることができる。
【0035】
また、封止基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態で、その空間を密封可能な圧電素子保持部32が設けられ、圧電素子300はこの圧電素子保持部32内に密封されている。
この封止基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
また、流路形成基板10と封止基板30とを接合する接着剤130は、特に限定されず、例えば、エポキシ系接着剤等を挙げることができる。
【0036】
さらに、封止基板30の引き出し電極90に対向する領域には、圧電素子保持部32と外部とを連通する封止孔33が設けられている。この封止孔33の一部は、図2に示すように、封止基板30と流路形成基板10との接合面側に、複数回屈曲して形成することで狭い領域で路長を長くした溝部33aで構成されている。
【0037】
このような封止孔33には、樹脂材料からなる封止部材34が形成され、この封止部材34によって封止孔33及び圧電素子保持部32が密封されている。
なお、封止孔33を封止部材34で密封するには、未硬化状態の樹脂材料を封止孔33内に充填し、硬化させることで封止部材34を形成すると共に密封するが、本実施形態では、未硬化状態の樹脂材料が圧電素子保持部32内まで達しないように封止孔33に複数回屈曲した溝部33aを設けた。
【0038】
また、流路形成基板10の圧電素子300側には、各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ105の少なくとも一部を構成するリザーバ部31を有する封止基板30が接着剤130を介して接合されている。このリザーバ部31は、本実施形態では、封止基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、弾性膜50を貫通して設けられた貫通孔51を介して流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ105を構成している。
【0039】
さらに、封止基板30の圧電素子保持部32とリザーバ部31との間、すなわちインク供給路14に対応する領域には、この封止基板30を厚さ方向に貫通する接続孔35が設けられている。そして各圧電素子300から引き出された引き出し電極90は、この接続孔35まで延設されており、ワイヤボンディング等により図示しない外部配線と接続されている。
【0040】
また、封止基板30には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ105に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ105の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0041】
なお、このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドは、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ105からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号に従い、外部配線を介して圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60及び圧電体層70をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。
【0042】
図5〜図8は、流路形成基板の圧力発生室12の長手方向の一部を示す断面図である。以下、このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドの製造方法について、図5〜図8を参照して説明する。
まず、図5(a)に示すように、流路形成基板10を約1100℃の拡散炉で熱酸化して二酸化シリコンからなる弾性膜50と、二酸化シリコン膜55とを両側の面にそれぞれ形成する。この二酸化シリコン膜55は、詳しくは後述するが、流路形成基板10をエッチングする際のマスクとして用いられるものである。
【0043】
次に、図5(b)に示すように、スパッタリングで下電極膜60を形成すると共に所定形状にパターニングする。この下電極膜60の材料としては、白金(Pt)等が好適である。これは、スパッタリング法やゾル−ゲル法で成膜する後述の圧電体層70は、成膜後に大気雰囲気下又は酸素雰囲気下で600〜1000℃程度の温度で焼成して結晶化させる必要があるからである。すなわち、下電極膜60の材料は、このような高温、酸化雰囲気下で導電性を保持できなければならず、殊に、圧電体層70としてチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を用いた場合には、酸化鉛の拡散による導電性の変化が少ないことが望ましく、これらの理由から白金が好適である。
【0044】
次に、図5(c)に示すように、圧電体層70を成膜する。この圧電体層70は、結晶が配向していることが好ましい。例えば、本実施形態では、金属有機物を触媒に溶解・分散したいわゆるゾルを塗布乾燥してゲル化し、さらに高温で焼成することで金属酸化物からなる圧電体層70を得る、いわゆるゾル−ゲル法を用いて形成することにより、結晶が配向している圧電体層70とした。圧電体層70の材料としては、チタン酸ジルコン酸鉛系の材料がインクジェット式記録ヘッドに使用する場合には好適である。なお、この圧電体層70の成膜方法は、特に限定されず、例えば、スパッタリング法で形成してもよい。
さらに、ゾル−ゲル法又はスパッタリング法等によりチタン酸ジルコン酸鉛の前駆体膜を形成後、アルカリ水溶液中での高圧処理法にて低温で結晶成長させる方法を用いてもよい。
【0045】
何れにしても、このように成膜された圧電体層70は、バルクの圧電体とは異なり結晶が優先配向しており、且つ本実施形態では、圧電体層70は、結晶が柱状に形成されている。なお、優先配向とは、結晶の配向方向が無秩序ではなく、特定の結晶面がほぼ一定の方向に向いている状態をいう。また、結晶が柱状の薄膜とは、略円柱体の結晶が中心軸を厚さ方向に略一致させた状態で面方向に亘って集合して薄膜を形成している状態をいう。勿論、優先配向した粒状の結晶で形成された薄膜であってもよい。なお、このように薄膜工程で製造された圧電体層の厚さは、一般的に0.2〜5μmである。
【0046】
次に、図5(d)に示すように、上電極膜80を成膜する。上電極膜80は、導電性の高い材料であればよく、アルミニウム、金、ニッケル、白金等の多くの金属や、導電性酸化物等を使用できる。本実施形態では、白金をスパッタリングにより成膜している。
次に、図5(e)に示すように、圧電体層70及び上電極膜80のみをエッチングして圧電素子300のパターニングを行う。
【0047】
次に、図6(a)に示すように、引き出し電極90及び積層電極層95(図示なし)を形成する。例えば、本実施形態では、金(Au)等からなる第1導電層290を流路形成基板10の全面に亘って形成し、その後、この第1導電層290を圧電素子300毎にパターニングすることによって各引き出し電極90とする。また、このとき、圧力発生室12の列の外側に対向する領域の第1導電層290を残すことにより積層電極層95とする。
【0048】
次に、図6(b)に示すように、圧力発生室12の列の周囲に絶縁層110を形成すると共に所定位置に貫通部112、113(図示なし)を形成する。すなわち、流路形成基板10の全面に絶縁層形成膜210を形成後、エッチングすることによって開口部111(図示なし)及び貫通部112、113を形成して絶縁層110とする。
【0049】
この絶縁層形成膜210の材質としては、例えば、ポリイミド等の感光性樹脂を用いることが好ましい。これにより、絶縁層形成膜210からなる絶縁層110を比較的容易且つ高精度に形成することができる。また、絶縁層形成膜210の材質としては、比較的絶縁性の優れたものであれば特に限定されず、例えば、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、酸化珪素、窒化珪素又は酸化タンタル等を用いてもよい。
【0050】
次に、図6(c)に示すように、絶縁層110上に接続配線層120を形成する。すなわち、流路形成基板10の全面に第2導電層220を成膜後、エッチングすることによって所定パターンの接続配線層120とする。
この接続配線層120は、上述したように下電極膜60の抵抗値を低下させるためのものであるため、第2導電層220として少なくとも下電極膜60よりも固有抵抗の小さい金属を用いることが望ましく、例えば、金(Au)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等が挙げられる。例えば、本実施形態では、金(Au)をスパッタリングによって形成している。
以上が膜形成プロセスである。このようにして膜形成を行った後、図7(a)に示すように、流路形成基板10上に封止基板30を接合する。本実施形態では、流路形成基板10と封止基板30とを接着剤130を介して接合した。
【0051】
次に、図7(b)に示すように、圧電素子保持部32内の除湿を行う。
詳しくは、流路形成基板10と封止基板30とを接合した接合体を密封空間150内に配置し、その密封空間150を減圧して減圧状態とすると共に、減圧状態で加熱装置200により接合体を加熱する。この際、加熱により圧電素子保持部32内のポリイミド等の吸湿材料からなる絶縁層110の除湿を行い、密封空間150を減圧することで、湿気を含む気体151の充填された圧電素子保持部32の内部も減圧され、圧電素子保持部32内の湿気を含む気体151は外部に排出される。
【0052】
このように、圧電素子保持部32内にポリイミド等の吸湿材料が設けられていても、減圧状態で加熱することで圧電素子保持部32の内部の除湿を確実に行うことができる。なお、このような減圧状態での加熱による除湿は、密封空間150の圧力を1.0Pa〜0.1Paの範囲とするのが好ましく、また、密封空間の温度を120℃〜140℃の範囲とするのが好ましい。
【0053】
この圧電素子保持部32が除湿された状態で、図7(c)に示すように、封止基板30の封止孔33を樹脂材料からなる封止部材34で封止する。
詳しくは、未硬化状態の樹脂材料を封止孔33に充填し、硬化させることで封止部材34を形成して封止する。
このとき、本実施形態では、封止孔33に複数回屈曲した溝部33aを設けたため、圧電素子保持部32が減圧状態であっても、未硬化状態の樹脂材料が圧電素子保持部32内まで充填されず、封止部材34による圧電素子300の運動の阻害を防止することができる。
【0054】
次に、図8(a)に示すように、封止基板30の流路形成基板10とは反対側の面に保護膜140を接着する。
この保護膜140は、後の工程で流路形成基板10をアルカリ溶液によるシリコン単結晶基板の異方性エッチングをする際に、封止基板30の流路形成基板10との接合面とは反対側の面を保護するためのものであり、保護膜140としては、耐アルカリ性を有する高分子材料を用いることが好ましく、例えば、本実施形態では、ポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いた。
【0055】
次に、図8(b)に示すように、二酸化シリコン膜55をパターニングすると共に、パターニングされた二酸化シリコン膜55をマスクとして流路形成基板10の他方面をエッチングすることにより、圧力発生室12、インク供給路14及び連通部13を形成する。本実施形態では、流路形成基板10の他方面をKOH等のアルカリ溶液によって異方性エッチングすることにより、圧力発生室12、インク供給路14及び連通部13を形成した。
【0056】
その後、流路形成基板10の封止基板30とは反対側の面にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に封止基板30上の保護膜140を除去すると共にコンプライアンス基板40を接合することで、インクジェット式記録ヘッドを製造することができる。
なお、実際には、上述した一連の膜形成及び異方性エッチングによって一枚のウェハ上に多数のチップを同時に形成し、プロセス終了後、図1に示すような一つのチップサイズの流路形成基板10毎に分割することでインクジェット式記録ヘッドとすることができる。また、このようなウェハの分割は、圧電素子保持部32内の除湿前又は除湿後の何れのタイミングで行ってもよい。
【0057】
このように、圧電素子保持部32内に吸湿材料が設けられていても、減圧状態で加熱することで圧電素子保持部32内の除湿を確実に行うことができ、圧電素子300の耐久性を向上することができる。
また、封止基板30の封止孔33を除湿状態で密封した後に保護膜140を形成し、流路形成基板10を異方性エッチングするようにしたため、KOH等のアルカリ溶液によるエッチングの際に水素などのガス等が保護膜140を透過しても、封止孔33が封止部材34により密封されているため、ガス等が圧電素子保持部32内に透過することがなく、圧電素子保持部32内の圧電体層70と上電極膜80との密着強度が低下することがない。これにより、圧電素子300の破壊を確実に防止することができる。
【0058】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態1を説明したが、勿論、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、上述した実施形態1では、圧電素子保持部32内にポリイミド等の吸湿材料からなる絶縁層110を設けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、圧電素子保持部32内に吸湿材料からなる絶縁層110が形成されていなくてもよい。このように吸湿材料からなる絶縁層が形成されていなくても、減圧状態で加熱することで圧電素子保持部32内の除湿を確実に行うことができる。また、例えば、上述した実施形態1では、保護膜140としてPPSを用いたが、特にこれに限定されず、例えば、封止基板30をレジストで覆うようにしてもよい。
【0059】
さらに、上述した実施形態1では、圧電素子保持部32内を減圧状態として封止孔33を封止部材34で封止することで密封するようにしたが、特にこれに限定されず、圧電素子保持部32内を減圧状態とした後、圧電素子保持部32内に不活性ガス等の乾燥流体を充填するようにしてもよい。このように、乾燥流体を充填する場合にも、本発明では、確実な除湿を行った後に充填を行うため、圧電素子300の破壊を確実に防止することができる。
【0060】
また、例えば、上述の実施形態1では、成膜及びリソグラフィプロセスを応用して製造される薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のインクジェット式記録ヘッドにも本発明を採用することができる。
【0061】
さらに、上述の実施形態1では、液体噴射ヘッドとして、印刷媒体に所定の画像や文字を印刷するインクジェット式記録ヘッドの製造方法を一例として説明したが、勿論、本発明は、これに限定されるものではなく、例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等、他の液体噴射ヘッドの製造方法にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図。
【図2】実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの平面図。
【図3】実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの断面図。
【図4】実施形態1の配線構造を示す平面図。
【図5】実施形態1に係る製造工程を示す断面図。
【図6】実施形態1に係る製造工程を示す断面図。
【図7】実施形態1に係る製造工程を示す断面図。
【図8】実施形態1に係る製造工程を示す断面図。
【符号の説明】
10 流路形成基板、12 圧力発生室、20 ノズルプレート、21 ノズル開口、30 封止基板、33 封止孔、33a 溝部、34 封止部材、35接続孔、40 コンプライアンス基板、60 下電極膜、70 圧電体層、80 上電極膜、90 引き出し電極、95 積層電極層、105 リザーバ、110 絶縁層、111 開口部、120 接続配線層、130 接着剤、140保護膜、150 密封空間、151 気体、200 加熱装置、300 圧電素子
Claims (5)
- 液体を吐出するノズル開口に連通する圧力発生室が画成される流路形成基板と、該流路形成基板の一方面側に振動板を介して設けられる圧電素子とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記圧電素子の設けられた前記流路形成基板の前記圧電素子側の面に当該圧電素子の運動を阻害しない程度の空間を確保した状態でその空間を密封可能な圧電素子保持部を有する封止基板を接合する工程と、前記圧電素子保持部内を減圧状態で加熱することで除湿する工程と、前記圧電素子保持部内が除湿された状態で、前記封止基板に設けられて前記圧電素子保持部と外部とを連通する封止孔を樹脂材料で密封する工程とを具備することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。 - 請求項1において、前記封止孔を樹脂材料で密封する工程の後、前記封止基板の接合面とは反対側の面に保護膜を接着する工程と、前記流路形成基板をエッチングすることにより前記圧力発生室を形成する工程とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項2において、前記保護膜がポリフェニレンサルファイドからなることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項1〜3の何れかにおいて、前記圧電素子保持部内には、吸湿材料からなる膜が設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
- 請求項4において、前記吸湿材料が、ポリイミドであることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
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